古書店の香り (64)

私は書店の2階にある窓からの彼女から目が離せなくなっていた


※初SS&2ch初心者です
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彼女に出会った経緯を話す前に、まずは私の生い立ちについて少し話しておこう
私は生まれたときからとても貧しかった
貧しいと言っては語弊があるかも知れない
正確に言うならば私が両親の顔を知らない、それどころか生まれてすぐに河原に捨てられていたそうだ
そんな私を偶然見つけた河原の住人が私を育ててくれた
彼は長く真っ黒でふさふさな髭がトレードマークの細身な男で
私と仲間たちは彼を「クロ」と呼んでいた 
実に安直なあだ名である

クロは私を育て、生きる術を教えてくれた
周りの者が温かい家でゆっくりと食事にありつき娯楽に興じる中、私はごみ箱から残飯を漁り、雨風を凌げる場所を探して毎日を過ごす
そんな生活を今の今まで送っていた
周りの者は私たちを蔑みの眼で見て、宿無しや野良などと馬鹿にしてくるが私はそんなもの気にしない
私は自分の生活を一切恥じていないし
何より私を立派に育ててくれたクロと同じ自由な生活に誇りすら持っている

そんな生活を送っているためか普段することと言えば
散歩や日課のゴミ漁りくらいであり
娯楽と言えば河原で魚でも捕まえることしかない
自由気ままな生活で気が楽だといえばそうだが
人並にうまいものを食べたいなどといった欲求はあるものだし
死ぬまでこんな生活を続けて行けるのかという不安もある

もちろん学なんてものは一切ないし
さらに言うと読み書きはひらがなをどうにか読むこと以外なにもできない
しかし古本の匂いというものがどうも好きらしく
たまに古書店に寄っては内容なんてわからないくせして
店内を歩きまわってみたりしていた
それが私の数少ない楽しみである

そんな私をクロは
「学もないくせ一丁前に古本屋に行き、金もないから何もせず出てくるなんて滑稽極まりない」
と笑うのであったが
そんな彼の趣味も高い建物を見つけてはとりあえず登ってみて景色を楽しむというものだったので
私はお前にだけは言われたくない、煙となんとやらは高いところを好むからなといつも言い返すのであった


ある日私はいつもどおりすることもないので散歩をしていたところ
ずいぶんと雰囲気のある古書店を見つけた
外から見ると民家の1階部分を改造して作ったようで
木造の一軒家にガラス障子張りの入り口、その上にボロい木の看板がひっかけてあるだけで
そこには何か文字が墨で書いてあった
おそらく店の名前であろうと思ったが如何せん漢字が読めないので気にせずガラス障子を横に押した

店内に入ると外観通りであった
そころじゅうに所狭しと本棚が置いてあり中には数えきれないほどの古本が詰め込まれていた
本棚に収まりきらなかったであろう古本たちが本来在庫を収納するであろう棚の下部分に詰め込まれ
さらには通路にまで零れ落ちてしまっていた
店の奥にはこれまたこの店にぴったりの、こぎれいな服装をし真っ白な髭を生やした店主であろう老人が
珈琲を飲みながら本を読んでいた

なんて素晴らしい店を見つけてしまったのだと感極まっていると
私のことに気づいた店主が
「おっ、お客か珍しい」
と声をあげ
「ゆっくりしていくといい、他に客なんてどうせ来ないのだから」
と私に小さく微笑みかけてきた

これだけ古本があるのだからやはり店内は古書の匂いに満たされていた
古びた紙とインクが醸しだす独特の匂いに加え
店主の飲んでいる珈琲の匂いがブレンドされ実に私好みの匂いであった
私はこんないい店があるのに何故今まで気づかなかったのか
と少し後悔しながらも新しい発見に胸をときめかせその日は店を後にした

それからというもの
たびたびその店を訪れては店内をうろついて匂いを満喫し
帰るという日々を過ごした
店主の老人は何も買わず店内を散策して帰るだけの私を
嫌がるどころか菓子などを出してもてなしてくれたりもした
店主が以前客が来ないと言っていたが
それは本当らしく私がたびたび訪れる中で一度も他の客に出会うことはなかった

そんな充実した生活のある日
今日も匂いを十分に堪能したし、帰ろうかと店を出たところで
「あら」
と鈴を転がすような声が頭上から降り注いだ
何者だと声の方に顔を向けてみると
一人の少女がこちらに向けひらひらと手を振っていた

そして冒頭である

うわ、冒頭間違えてるじゃん

私は書店の2階にある窓からのぞく彼女から目が離せなくなっていた

こっちです

彼女は学のない私には言い表せないほどの美しさを持っていた
齢は17、8であろうか
日の光を受けてほんのりと青く透けてみえる黒髪を肩甲骨あたりまで伸ばしており
少し釣り目の大きな瞳そして色素の抜けたような真っ白い肌をしていた
深窓の令嬢という言葉をそのまんま体現したかのような彼女は続けて
「おじいちゃんからいつもあなたの事は聞いているわよ」
と優しく微笑んで見せた
私は彼女が声をかけてくれたことに驚いたとともに
なんと言葉を返せばいいのか私のような下賤の者が話しかけてもいいものかと考えていると
ふと自らの身なりの汚さに気づいてしまった

いつも河原暮らしをしている私は
一言で表すならボロ雑巾という言葉がぴったりであった
それを自覚してしまうと途端にやはり私には彼女と話す資格すらない気がしてきて
逃げるようにしてその場を去った

家と呼んでもいいか分からないが
家につきなぜ彼女は声をかけてきたのか
彼女と話がしてみたい
また会えるであろうかなどと考え悶々としていると
クロが帰ってくるなり、私を見て
「女っ気なんてなかったお前もついに発情期か?」
などと私を馬鹿にした

私はむっとして彼に
万年発情期のお前にそんなこと言われたくはない
と言い返すと彼は
「発情期どころか女と付き合ったこともないお前に俺を馬鹿にする資格はねぇ」
と言い、鼻で笑うとその辺にゴロンと寝転がった

こんな煽りあいをしたが河原暮らしのくせしてクロは異様なほど女にもてるのである
いつも女をとっかえひっかえしてそれどころかたまに貢物だといって御馳走を持って帰ってくるのである
彼は私に生き方と女の落とし方を教えてくれたが
私にはジゴロの素質がなかったらしくいまだその成果は0である

以前クロにヒモにでもなって生きて行けばいいではないかと言ったところ彼は
「ヒモになって女の貢物で生きていくのも悪くはないが、今の生活も悪くねぇ
つまるところ俺はどっちの生活でもいいんだよ
でもな、女に縛られて生活してるとビルに登るだろ
そうすると女が危ないから家にいろって言うんだ
そんな生活するくらいならって俺は今の生活を続けているんだ」
そういって彼は笑っていた

ふとそんなクロに相談したらいい案が返ってくるのではと思い
私は思い切って彼に声をかけた
気になる女がいたらクロはどうするかと聞いたところ
クロはこちらに顔を向けるとにやりと笑い
「やっぱ発情期じゃねぇか」
と言った
私は言い返そうと思ったがクロは続けて
「俺がお前ならとりあえずはその身なりをどうにかするな」

私は自分の姿を見た
クロは河原暮らしの癖に頻繁に川で水浴びをしていつも小綺麗にしていた
対する私は川の水は冷たいしなにより河原暮らしに清潔さなど必要ないと思っている
「お前愛想がねぇんだから、せめて身ぎれいにするこった
それからプレゼントだな
まぁ俺たちの場合は貢物なんて買う金もねぇからせめてと花でも持ってってやると
女は金はないけどプレゼントを贈ろうとするなんて、本気で私を愛してくれているのね
ってな具合で勝手に解釈してくれるからよ」


「それから一番大事なことはちゃんと何度も会いに行くことだな
女ってのはみんな寂しがりだからよ
それとたくさん顔を合わせることで女のガードも結構簡単に崩れるってもんよ」
クロの言葉に私は思わずなるほどと思ってしまった
彼はいつも所謂いいとこのお嬢さんみたいなのをひっかけてくる
どこで出会いどうやって仲を深めたのかと疑問に思っていたが単純なことであった
そこいらでみつけたお嬢さんに声をかけストーカーまがいのことをしていただけか
私は彼の助言に関心するとともにクロ自身に呆れを感じた

しかしそこで私は一つの疑問を抱いた
それはクロの顔があってこそじゃないのと問うと
「お前の顔も悪くはねぇよ
でもなお前にはマメさがねぇんだよマメさが
いつもそうだろ前も女をひっかけようとしたとき食いついて来た女にそのあと会ったか?」
それは以前クロにナンパの指南を受けたときのことであろう
あれは食いついてたのかと私がつぶやくと
クロはプッと吹き出し一通り笑うと
「お前は鈍感だってのもいえけぇのかもな」
そう言った後に
「まぁ本当で気になる女がいるなら攻めあるのみだ
当たって砕けろ」
と付け加えまた寝る姿勢に入った
その晩私は明日、朝から水浴びをして乾いたら彼女に会おう
それから花を摘んで彼女にプレゼントしよう
そう思って目を閉じたのであった

読んでる人いますか・・・?
煙草吸ってくりゅので少し休憩

いなくても続けるもんね!!

次の日、朝目が覚めると私はすぐさま川に入った
もうすぐそこまで春が来ているとはいえ川の水はやはり冷たかった
凍える思いで水浴びをし、川を上がると
拭くものなんてないから頭と体をぶるぶると振り回してとりあえず水を飛ばした
クロが1枚のタオルをニヤニヤ顔で持ってきた
「さっそく実践か」
私はそろそろ汚れすぎたから入らなくてはと思ったと強がって見せたが
クロはニヤニヤ顔のままこちらを見ていた

体を乾かしながら河原を見渡してみたが彼女に似合いそうな花は見つからなかった
それどころか彼女に似合う花などあるのだろうかとも思ったが
とりあえずは途中花屋にでも寄ってみるかと考えた
古書店への道すがら一軒の民家の庭に綺麗な花を咲かせていた
庭にこっそり忍び込むと私はその華を一輪だけ拝借した

古本屋につくと私はひどく緊張していることに気が付いた
今まで店主しかいなかったのに昨日会えたのは奇跡ではないのだろうか
今日も会えるだろうかといろいろと考え込んでしまった
しかしクロの言葉に背を押され思い切ってガラス障子を開けた
店に入るといつもの白髭の似合う老人はいなく
代わりにレジの奥には昨日の彼女が座っていた

老人がいないどころか彼女が店番をしていたことに
私は嬉しさと突然の再開にひどく動揺した
そんな私の気持ちなどつゆ知らずのように彼女は
「あら、昨日ぶり
今日もうちにきてくれたのね」
と私が昨日聞いた美しい声で嬉しそうに話かけてきたのである
「うちってお客さん来ないから暇だったのよ
私とお話ししましょうよ」
そう続けた
私は彼女からの突然のお誘いにまたさらに動揺してしまった
しかし今日は攻めの姿勢を貫くことを思い出し
持ってきた花を彼女に差し出した

私は差し出したつもりであったが実際には緊張のせいもあり花を彼女の前に
ポイッと落とすような形になった
不味い態度であったかと一瞬思ったが
彼女は花をみるとぱぁとかわいらしい笑顔を咲かせ
「昨日はすぐに帰っちゃったから嫌われたのかと思ったわ
なのにプレゼントなんて貴方なかなかの紳士なのね
それにこの花アネモネね
私の好きな花何で知っているの」
そういいながら彼女は花を色々な方向から眺めたり匂いを嗅いだりした
花の名など私は知らなかったが彼女が喜んでくれたようで何よりであった

一通り花を堪能した後彼女は私をみて
「それに今日は私のためにおしゃれでもしてきてくれたのかしら」
そういいながら少し意地の悪い笑顔で私をみた
花を見た時の笑顔も今のような顔も絵になるなと見蕩れていたのと
気恥ずかしさによる緊張で言葉を返せずにいると
「せっかく花をいただいたんだし何かお礼しなきゃね、ついてきて」
そういい立ち上がるとカウンター裏の扉に手をかけた

カウンター裏へと消えた彼女を私はどうすればいいのか
それにそんな簡単に私を家に上げてもいいのかなどと戸惑っていると
彼女はひょこっと扉から顔をだして
「いらっしゃいな」
と言った

おとなしくついていくと店の裏には廊下が続いており彼女はその奥の階段を軽やかに上がっていた
私は店を空けてもいいものかと扉をもう一度見やると彼女は
「どうせ誰も来ないしいいのよ」
と言って階段をまた登って行った

2階に上がるとまた廊下が続き彼女はその突き当りの部屋で扉を開けて手招きをしていた
おずおずと彼女の部屋にあがるとそこは年頃の娘らしくない内装で
ベッドに机、そして店内と同じように沢山の本の詰まった本棚と小さな箪笥があるだけであった
人形の一つもない室内をみて、ここが彼女の部屋かという感慨と少しの驚きを感じていると
そんな私の様子に気づいたのか彼女は
「私体が弱くて、それに下があんなのでしょ
だから本ばっかり読んでたらこんななっちゃったの
女の子らしくなくてごめんね」
私はそんなこと気にしないでいい、部屋などどうでもいいのだというと
彼女は優しく微笑むのであった

ちょっと待っててくれと言うと彼女は扉から出ていった
年頃の男子をこれまた年頃の娘の部屋に招き
あげく一人にするなどとんだ拷問である
私は自らの悪魔と葛藤していると彼女は飲み物とクッキーを持ってきて再び現れた

「これ私が焼いてみたの、どう」
どこまで男子の理想を絵に描いたような女性なのだと思いながらも
クッキーの一つを口に入れた
正直味音痴で何を食べてもうまいと思える私であったが
彼女の手作りクッキーだと思うと何十倍も美味しく感じた
貧困な語彙力を振り絞って一生懸命に味の感想を伝えると
彼女はまたニコリと優しく微笑んだ

「あなたはどうしてウチのお店にいつも来てくれているの」
私は金がないことそのため本が買えないこと、古本の匂いが好きなことを話すと彼女は
「ほぇー」や「ふむふむ」とかわいらしい声を上げていた
部屋に上げてくれ、さらにクッキーをごちそうしてもらったことで
気の大きくなった私はその後いろいろなことを彼女に話した
クロの女たらし具合それにまつわる失敗談、私が水浴びが苦手なこと
私はクロから教わった女性との話方を思い出しながら様々な話を彼女に聞かせた
彼女は私が話している最中も楽しそうにニコニコと笑顔を私に向けてくれた

気が付くと日も傾いておりそろそろ帰らねばと立ち上がろうとすると彼女は
「あら、帰っちゃうの」
そう言った
私はそこで帰る場所が河原であり、彼女とは決して釣り合うことはないということを思い出した
意を決して私には家がなく親もいない先ほど話したクロが育ての親である
もう私のような下賤なものと会わない方がいい私もここを訪れるのは最後にする
一息にそう伝えた
クロは何度も会えばいいと言ったがやはり私のようなものが彼女のような女性には釣り合わなすぎる
私のようなものには高翌嶺の花であったのである、彼女も店主もこの店も素晴らしい場所と人たちであったが仕方のないことである
そう思い少しうつむいていると
彼女は私をじっと見つめた後に
「また、いらっっしゃい」
そう言って私の頬をそっと撫でた

なんという慈愛であろう
慈愛と母性そして美貌、すべてを兼ね備えた彼女はまさに女神の生き写しではないかと思った
私は涙がこぼれ落ちそうになるのを堪えながらまた来てもいいのかと恐る恐る聞くと
彼女はもう一度私の頬を撫で
「またね」
優しくそう言った

家に戻るとクロがすでにおり私をみるなり
「何ニヤニヤしてんだ気持ちわりぃ」
と言った私は表情を作り直し否定すると
しばらくして合点がいったのか彼はニヤニヤ顔を作りながら
「俺のアドバイスは役に立ったか」
と言った

それからというもの私は毎日古本屋を訪れた
店を訪れるとカウンターに座る店主が奥の扉を開けて私を奥へと招き入れてくれた
家にあがるとまっすぐ彼女の部屋へと向かう
彼女の部屋にあがるといつも何か飲み物と手作りのお菓子をごちそうしてくれた
そうしていつも私は彼女に河原で水浴びをしていたら目の前で魚が跳ねたが取り逃がしたこと
クロが何股もかけた結果その全員にばれて追っかけまわされたことなど他愛のない笑い話を聞かせた
そうすると彼女は時たま相槌を打ちながら私の話をあの柔らかな笑顔とともに聞いてくれるのであった

そんな幸せな日々が続く中
その日は4月も終盤に入り春の陽気が暖かく空気の澄んだ気持ちのいい日であった
ふと彼女が膝をポンポンと叩くと
「私眠くなっちゃったわ
少しお昼寝しましょ
いらっしゃいな」
そう言った

確かに昼寝にはもってこいの日であるし私も少し眠気を感じていたところである
しかし年頃の娘がそう簡単に膝枕を許してもいいのであろうか
それに今朝も水浴びをしてきたが臭くはないであろうか
彼女は少し近くにいるだけでなんていい匂いのするのであろう
などと自らの煩悩や苦悩と葛藤していると
彼女は膝をもう一度叩きやさしくいつもの鈴を転がすような声で
「いらっしゃい」
といった

私はあっさりと誘惑に負け彼女の膝にそっと頭を乗せた
すると彼女は私の頭を撫でだした
驚いて一瞬ビクリと体が跳ねてしまった
彼女も驚いて一度手を離したが少ししてまた私を優しく撫でだした
その手から伝わる暖かさと柔らかさに包まれた私はうつらうつらと瞼が重くなっていくのを感じていると
何事かを彼女は語り掛けてきた
しかしまどろみの中にいた私に、その言葉は理解できなかった
そして私は彼女の声を子守歌として眠りに落ちた

目が覚めると日は傾き部屋の中まで茜色に染め上げていた
ふと上に目を向けると彼女は瞳を閉じて静かに深い呼吸を繰り返していた
春の陽気と私の体温で暑かったのか彼女は少し汗をかいており
鬢の毛を少し顔に張り付けていたが却って彼女に何とも言えぬ艶やかさを付け加えていた
起こしてしまってはまずいと私はそっと起き上がると静かに部屋を後にした

次の日は早朝目が覚めてしまった
外はあいにくの土砂降りであった
普段は傘など持たぬので雨の日は外を出歩かないことにしていたが
あのようなことのあった次の日であったのこともあり私は彼女に無性に会いたいと思った
どうせドブネズミのように濡れたところで奴らと何ら変わりのない生活を送っているから今更である
と私は小走りで店へと向かった

古書店につくと、いつも客はおらずとも健気に店を開けるのであったが
今日に限ってシャッターが下りていた
どうせ店主が寝坊でもしてまだ開店していないだけであろうと
シャッターを少し叩いてみたが鉄を叩く音と雨音がむなしくあたりに響くだけで
なんの返事も帰ってこなかった

読んでくれてる人がいたんですね!!
よかったぁ


仕方ないと少しの間軒下で待っていることにした
軒下と言っても土砂降りに重ね強風であったため全身はずぶぬれになってしまったが
彼女のことだ、いつもの笑顔で迎えてタオルを差し出してくれるだろう
などと彼女の姿を妄想しながら頬が緩みそうになっていると
一人のなんとも陰気な恰好をした女が通った
私は家族かなにかだろうと軽く会釈をするとその女は私を一瞥すると
裏口へ通じる細道へと消えて行った
どうせなら今の女に声でもかけて彼女に合わせてもらえばよかったなどと後悔した

どれほど待っただろうかいい加減寒さと空腹がきつくなってきたころ細道から店主が出てきた
彼は私に気づくと驚いた顔をすると
「今日明日は店はお休みだよ
また来るといい」
そういいどこか彼女と似た柔らかい笑みを私に向けてきた
私は一言挨拶をすると帰路へとついた

家に着くと雨で体が冷えたせいか体が鉛のように重くなるのを感じた
ここのところ彼女に会いに行くことが主となって食事の調達も少しさぼっていたために
体力でも落ちてしまったのであろう
私は仕方がないので少し休むことにした

目が覚めると外は昨日と打って変わって春の日差しが降り注いでいたが
私は依然体が重くまともに動くことすらできないことに気が付いた
直観的に死が近づいていることを私は気取った
体力が落ちたところに雨で体を冷やしてさらに風邪か何かにでもかかったのであろう
医者に行く金もそれどころか私を連れて行ってくれる人間もいない
これも野良の宿命かと諦め身を任せようとしたところでふと彼女の顔が浮かんだ
この際だせめて最後に彼女を一目だけでも見たいと思った

重い体を無理やり引きずりながら古書店へと向かった
以前の民家でまた同じ花を一輪拝借した
どうせ最後の悪事である彼女の笑顔と私の魂に免じて神様も許してくれよう
店につくと相変わらずシャッターは降りていたが私は構わないと裏口へと向かった
裏口は開けっ放しで何か飾り付けがしてあったが気にせずそのまま家へと上がった

2階へとあがり彼女の部屋へと向かうと彼女はベッドの上で静かに寝ていた
起こしてしまうのももったいないほどに、いつみても美しいとしか言えない顔をじっくりと堪能した
私は先ほどの花を彼女の枕元へとそっと置いた
しばらくそうしていると昨日と同じようまた店主が来た
こいつは私のことがすべて見えているのかなど思っていると
「なんだい、お別れにきてくれたのかい」
なんだこいつは、本当に私のすべてを知っているようである
まあ女神の親族なのだから神様であっても仕方がないかもしれないなどと阿呆なことを考えながら
彼に今までの礼などを述べ、最後に彼女によろしくつたえるよう頼んだ
彼はそれを聞くと少し寂しさを含んだ笑みを浮かべ
「またね」
と一言だけ発した

私はそのまま山へと向かった
生まれ育ったのが川だったからどうせなら最後は山で迎えてみようといった考えである
山というよりも小高い丘程度の場所であったがあたりには草花が咲き乱れなんともきれいな場所である
彼女にも会えたしもう思い残すことはないと思っていると
そこで私は私自信をここまで育ててくれたクロを思い出した
彼は悲しむだろうかそれとも宿命だと受け入れてくれるだろうか
など彼と彼女、二人の思い出を思い起こしているとふとクロが以前言った言葉を思い出した
「知っているか、俺達には7つの魂があってな
何番目の魂かによってその知性や備わった才能、それに毎回姿かたちが違うこともあるんだぜ
まぁ俺はもう7番目だから全知全能の神様みてぇなもんよ」
そんな話を聞かせてくれたことを思い出した

私は何番目だろうか、しかし7番になるといろいろな力が備わると言っていたし
こんなしょうもない私が7番目ということはなかろう
それならば次の魂もあるということではなかろうか
ならば次の魂ではもう少しまともな生活と能力をもっていれるようになろう
そして次はもっと美男子に生まれ変わろう
そしてたくさん金を稼いでたくさん本を買って読もう
そして彼女に会いに行こう
そして一言目に彼女のクッキーが食べたいと言おう
そしてもう一度膝枕をしてくれないかと頼んでみよう
そしてそしてそして………

重くなる体と裏腹に心はどんどんと軽くなっていくのを感じた
考え出したら止まらないが私は次の魂になっても彼女を見つけ出しきっと会いに行くことを
心の中で強く誓いながらそっと瞼を閉じた


彼より先にそっと息を引き取った少女の枕元には赤いアネモネの花が一輪揺れていた


一応おわりですが少しだけ蛇足があるのでまたあとで書きます
質問感想などあったら聞かせてください

ご意見ありがとうございます
もう少しいろいろ勉強したいと思います!

ほんの少しだけ蛇足書きます

私の生まれは人並の家であった
両親の仲はそれなりに円満であり
高校での成績はまぁ中の上から上の下程度をうろうろとしていた
女子にはもてるほうであったがどれもピンと来ずすべて丁重にお断りさせてもらっていた
そんな私の趣味と言えば古書店巡りくらいである
あのインクと紙の古びた匂いが好きであったのと本を読むことが大変好きであったためである
ある日ずいぶんと雰囲気のある古書店を見かけた
気になり入ってみると中はもまたいい雰囲気を醸し出していた
奥のカウンターで船を漕ぐ店主に既視感を覚えながらも店内を散策して店を去った
その日の帰り道とあるペットショップの前でふと気になるものが目に入り足をとめた
そこには雪のように真っ白な体毛に覆われ腰のあたりに黒い筋の入り目の釣りあがった猫がいた

おわり

読んでいただきありがとうございます
HTML化依頼出してきます

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