【ミリマスSS】田中琴葉「君たちとの明日を願うから」 (43)


少し気温も暖かくなって、窓の外には少しづつ花が咲く様子がみえます。

自室のベッドの上で、少し遠い場所を思います。今頃、きっと36人の大事な仲間たちがたくさんのファンの前に並んでいることでしょう。

たくさんの歓声と、笑顔と、涙と。でもそこに私はいない。無力感と罪悪感と何より悔しさが頭の中でぐちゃぐちゃとこんがらがります。

ただ私にできることは、無事に公演が終わったことを祈ること。

37個目の花の中心に綴った言葉だけが、私が届けられる精一杯の思いでした。


 

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翌日、夕方に一人親友がお見舞いに来てくれました。

親友はベッドのそばに椅子を持って来て、へにゃへにゃーっと上半身をベッドに投げ出してリラックスしています。

恵美「うへー、まだ身体がバキバキだよー」

琴葉「お疲れ様。公演うまくいったようでよかった」

私がそう言うと、恵美は顔だけこっちに向けていつものように少し力の抜けた笑顔を返してくれます。

正直を言うと、公演が終わった後お見舞いに来てくれるであろうメンバーのみんなときちんと向き合えるか心配でした。36人が私をおいてどこか遠くに行ってしまうのではないかと。

でも、いつもの恵美の笑顔を見て少しだけ安心しました。

 


恵美「そういやさー、琴葉にお土産があるんだ」

琴葉「お土産?」

恵美「うん。私からじゃなくて、プロデューサーからなんだけどねー。事務所行って、琴葉のお見舞い行ってくるねーって言ったらこれ持って行けって」

琴葉「プププププロデューサーさんからお土産っ///」

どうしよう顔が熱くなります。

たまにメッセージは貰うけれども、武道館の準備で忙しかったらしくこのところ直接プロデューサーさんとお話をする機会はなくて。

恵美がガサゴソとカバンを探って、取り出したのはタブレット端末でした。これは確か事務所の備品のものです。


 


恵美「えーっと、ちょっと待ってねー。確かファイルはここに」

タブレット端末を操作しながら、恵美は私にくっつきます。

琴葉「ちょっと、恵美どうしたのくっついて?」

恵美「いやー、こんなすぐに見られるのってなかなかないからさー。一緒にみようよ」

そう言って恵美は動画ファイルを開きました。

 


タブレットに映し出されたのは、私の知らないステージに灼熱少女の4人が立っている姿でした。

琴葉「恵美...これって...」

恵美「うん。昨日のジレハの映像だよ」

武道館での「ジレるハートに火をつけて」。赤いライトの中、歌って踊る4人の迫力は画面越しでも身体中にメラメラと伝わります。プラチナスターライブのときよりも、みんな何段も上のパフォーマンスです。

すごいすごいと興奮する一方で、ズキズキと胸が痛みます。そっか、私がいなくてもみんなこんなに凄いんだって。



溢れる想いは抑えきれずに、口をついてポツリと言葉が出てきてしまいました。



琴葉「...わたしがいなくても、みんな大丈夫だったんだね...」



 


恵美「...なんでそんなこと言うの?」



その瞬間、パキッと空気が凍るのを感じました。私に問いかける恵美の声は、さっきまでと打って変わって強い怒気を含んでいます。

私が弁解するより先に、恵美が言葉を続けます。

恵美「もう一度、動画見て」

そう冷たく言って、恵美は動画をもう一度再生しました。


 


私は言われるがままに動画を見ます。灼熱少女の4人は熱く激しく歌って踊っています。お客さんのコールも最高潮。広々とステージを使って、どの席のお客さんにも熱気を伝えています。

あれ?ステージを広く使っているのですが、何か違和感が...。

演者用の定点映像なので、その違和感の理由にすぐ思い当たりました。

フォーメーションが少し不思議なんです。

中央の空のスペースが、両サイドに2人を配置するには狭すぎて、4人を一列に並べて配置するには広すぎるのです。

中途半端にあいた空のスペース、不思議に思いそこに注意するとそのスペースにスポットライトが当たっているのに気がつきました。

 


...そうだったんだ...だから恵美は怒ったんだ...。

恵美の方をそっと見ると、恵美はまっすぐ私の目を見た後、優しくふっと微笑みました。




恵美「最初にセトリもらった時はさ、迷ったんだよね。琴葉がいないのにジレハをやっていいのかって」

恵美「そしたらプロデューサーが言ってくれたんだ。4人のジレハは琴葉との約束だって」

恵美「ファンのみんなに『琴葉は帰ってくる』って約束と、琴葉に『私達は待ってる』って約束」

恵美「だから、センターは空けておいた。琴葉がきちんと戻って来てくれるようにね」


 


ゆっくりと優しく話す恵美。このひとつひとつの言葉にたくさんの思いが詰まっているんだってわかります。

恵美「あとね、4人がジレハきちんとできたのは『琴葉のため』って目標があったからだよ」

恵美「結局私達は琴葉頼りで、琴葉がいないとダメなんだ」

恵美「だから、『自分がいなくても大丈夫』なんて、絶対に言って欲しくないな」


 


ずっと不安でした。シアターは私がいなくてもきちんと回っていて、それはイコール私なんて必要ないってことなんじゃないかって。

でもそんな不安、恵美の言葉が全部拭い去ってくれた気がします。



琴葉「うん、恵美ごめんね。そしてありg」 エレナ「コトハアアアアアアアアアア」

恵美に感謝を伝えようとした瞬間、部屋のドアが勢いよく開いて、もう一人の親友が私に飛びかかって来ました。

エレナ「コトハダメだヨ!ワタシもみんなもコトハがいないとダメだヨ!!」

思いっきり私を抱きしめて、大きな声で叫ぶエレナ。すっごく驚いたけど、すっごく暖かい。うん、でも、少し耳が痛いかな?

 


志保「エレナさん!琴葉さんはまだ体調が戻っていないんですから、乱暴にしちゃダメって言ったじゃないですか!!」

そう言って次に部屋に入って来たのは志保ちゃん。私と目が合うと「すみません、お邪魔します」と律儀に挨拶をしてくれました。

エレナ「ごめんネ、コトハ。でも、メグミとコトハの話を外で聞いてたらガマンできなくなったんだヨ」

そう言って私から体を離すエレナ。目も鼻も真っ赤。あぁ、ごめんなさい。すごく心配させちゃったよね。




志保「私もエレナさんと同じ気持ちです。琴葉さんがいないと、劇場公演のミーティングでみんな好きなことを言って収拾がつかないですし、その他にもまだまだいろいろと大変なことが...」

志保「とにかく、私達には、絶対に琴葉さんが必要です」

柔らかく私を見つめる志保ちゃん。志保ちゃんのまっすぐな言葉は、私の胸にズシンと響きました。


 


そうこうしていると、また三つの声が入り口から響きます。

環「もーいいー?環も琴葉とおしゃべりしたい!」

海美「あー、部屋がパンパンだねー。ごめんね琴葉!でも、少しだけだから許して」

美也「失礼します〜。ぎゅうぎゅうで、おしくらまんじゅうみたいで楽しいですね〜」

エレナと志保ちゃんがそっと部屋の手前に行き、3人が私のベッドのところまで来てくれました。

環「恵美から昨日の見せてもらった?環上手にできてたでしょ!?次は絶対に琴葉も一緒だよ!」

海美「リハビリ用のメニューは作ってあるからさ!いつ戻って来ても大丈夫だよ!」

美也「琴葉ちゃんが戻って来たら、みんなでピクニックに行きましょう♪」

ワイワイと私のベッドを賑やかすメンバーたち。さっきまで落ち込んでたのが嘘みたいに、楽しくてあったかくて、絶対に私はここに戻ってきたいって思います。

 


恵美「他のみんなもお見舞いに行きたいって言ってたんだけどね、さすがに家に入りきらないから選抜メンバーで来たんだ」

恵美「それでもパンパンになっちゃったね、ごめんごめん。あとで琴葉ママに謝っとかないとねー」

琴葉「ううん。とっても嬉しかった。私、また戻って来られるように頑張るね」

エレナ「うん!でも、頑張りすぎはダメだヨ!」

恵美「焦ってもダメだから、ほどほどにしときなー」

気合を入れた私ですが、エレナと恵美に先手を取られてしまいました。

どうやら私の『頑張ります』はなかなかに心配を呼び起こしてしまうようです。

 


すると恵美のスマホの着信がなりました。

恵美「おっとごめんよ、メッセージ来たみたい」

スマホを器用にササっと操作した後、恵美は苦い顔をして固まってしまいました。挙動がおかしいので、尋ねてみることにします。

琴葉「恵美?どうしたの?」

すると、恵美はかなり申し訳なさそうにおそるおそる答えました。

恵美「あのさあのさ、今日ライブの後だからみんな休みなのね。んで、さっきみんなお見舞いに来たいって言ってたって言ったでしょ?アタシはダメだって言ったんだよ、アタシは悪くないからね」

恵美が何を言いたいかよくわからないです。少し視線を恵美から離すと、みんな恵美と同じような苦い顔をして窓の外を見ていました。

どうやら窓の外に何かあると思い、私もそっちを見てると、




マンションの駐車場にミリオンスターズみんなが揃っていました...。




 


恵美がアチャーっと顔をしかめたのち、窓を開けて駐車場に話しかけます。

恵美「ちょっと!?きちゃダメって言ったじゃん!?よりによって全員で来る!?」

その恵美の声に反応して、駐車場からたくさんの「ズルイ!」とか「私も話したい!」とかいう声が聞こえます。



恵美「あーあー!もうわかったわかった!うるさいなぁ!もぅ!」

恵美「みんな一斉に喋るとわけわかんないから、一人ずつね!はい!未来から!」

 


未来「琴葉ちゃーん!!次は琴葉ちゃんも一緒だよー!!」

翼「絶対に戻ってきてくださいねー!!約束ですよ!!」

可奈「わたしたちは~♪いつでも~そばにいますよ~♪」

星梨花「私、お見舞いに果物を持ってきました!食べてください!」

ひなた「おばあちゃんが送ってくれたリンゴもあるよぉ」

千鶴「回復したあかつきには、豪華なお肉料理をご馳走しますわ!」

育「わたしもお母さんにお料理習って、琴葉さんに食べさせてあげるね!」

美奈子「私もたくさん腕をふるっちゃいますよー!」

百合子「療養中は退屈でしょうから!オススメの本を持ってきました!」

まつり「少女漫画もあるのですよー!是非読むといいのです!」

のり子「プロレス雑誌もあるよー!わかんないとこは教えてあげるからさ!」

昴「野球のルールブック持ってきたから、一緒に日本応援しようぜ!」

紗代子「あの!学習範囲とか違うかもしれませんが、参考書持ってきました!」

ジュリア「オススメのパンクロックのCDもあるぜー!」

 


歩「ダンス大会のDVD持ってきたからさ、イメージトレーニングに使ってよ!」

杏奈「オススメのゲームもある…よ…楽しいから遊んでみて…ほしいな」

奈緒「療養には温泉が効きます!都内のオススメ温泉リストありますよ~!」

エミリー「心落ち着くおいしいお茶もご用意しております!」

可憐「あの…お邪魔じゃなければ、快眠できるアロマを持ってきました…」

麗花「葱を腰に巻いたら身体にいいって聞いたことがあるよ!買ってきたからベルト代わりに使って!」

ロコ「同じ部屋ばかりにいると飽きるのです!ロコのハイパークリエイティブなオブジェクトを差し上げます!」

莉緒「療養中だからってオシャレを忘れちゃだめよ!可愛いカーディガン買ってきたから使って!」

茜「茜ちゃんをナデナデすると元気になるからいつでもなでていいんだよ!」

瑞樹「琴葉さんの回復を祈って、手品をします...シュババババ」

風花「何かお医者さんに言いにくい悩みとかあったら教えてね、相談にのるから!」

朋花「なにかあったら騎士団のみなさんにお願いするので遠慮はいりませんよ!」

亜利沙「部屋に一人たたずむ可憐で儚い琴葉ちゃんも美しいでしょうけど,やっぱり亜利沙は笑顔で元気な琴葉ちゃんが一番素晴らしいと思うのです!帰ってきたらまたバシバシ写真を撮らせてくださいね!ムフフ~」

桃子「はぁ・・・こんな感じで毎日大変だから、琴葉さん早く帰ってきてね。お願い。」

このみ「深刻なツッコミ不足なのよ~助けて琴葉ちゃん~」

 


いつもどおりバラバラの個性だけど、みんながキラキラ輝いていて。一人一人の言葉が私に勇気をくれます。

恵美「あれ?静香がまだだよね?しずかー!?早くしないとみんな帰っちゃうよー!」

恵美が窓の外に問いかけると、部屋の入り口から返事がかえってきました。

静香「お邪魔します。申し訳ありませんが、直接言葉を伝えてもよいでしょうか?」

恵美「うおっ!?びっくりした!!静香だけ特別扱いなんてダm…」

そう言いかけて、恵美はいったん言葉を止めて、別の言葉を続けます。

恵美「そっか,そうだね。静香は特別だ。まぁ、アタシが許可することでもないけどさ。どうぞ、言葉をかけてあげて」

 


恵美に促されて、静香ちゃんはそっと部屋に入ってきました。私の手をとって,まっすぐ私をみつめて言葉を紡ぎます。

静香「諦めなければ、走り続けていれば、絶対にリベンジの機会はおとずれます。その時を信じて、どうか焦らないでください」

口下手な静香ちゃんだから、きっと私の手を握ってくれたんだと思います。貰った言葉とその手の温かさが、たくさんの気持ちを伝えてくれました。

 


恵美「まったく。765プロはみんなそろいもそろってお節介やきなんだから・・・困ったもんだね」

恵美がそうぼやくと,一斉に部屋の中のみんなも私も笑ってしまいました。

エレナ「ソレ、メグミだけには言われたくないヨ」

志保「恵美さん以上のお節介やきは、さすがにいませんよ」

琴葉「同感。でも、いつも感謝してる、ありがとう」

みんなで恵美に感謝を伝えると、みるみるうちに恵美の頬も鼻も目も真っ赤になってしまいました。

恵美「うわああああああああああああああんんんやめてよもう泣いちゃうじゃん」

環「もう完全に泣いちゃってると思うぞ・・・」

海美「あー、はいめぐみーティッシュ使って」

美也「あらら~。ほらほら恵美ちゃん、飴ですよ~」

静香「はぁ・・・毎度毎度このパターンね・・・」


 


#############

みんなが帰ってしまった後,シーンという音が耳に響くような静かな時間がおとずれました。

少し寂しいですが,部屋にはみんなのお見舞いが沢山です。一人だけど孤独じゃないって思えます。



部屋の電気を消して目をつむって、いつかの未来を思い浮かべます。

目の前にはたくさんの声援とペンライトの光、まわりには765プロのみんな。

そんな光景がいつか見られることを願っています。みんながそう願ってくださると嬉しいです。




E N D


終わりだよ~(●・▽・●)

4thに感動しすぎてむしゃくしゃしてやってしまいました・・・。反省はするけど、後悔はしてません。



時間がかかってもいいので、種田さんが万全の状態で戻ってきてくださることを心から願っております。

 

http://i.imgur.com/3TTzbcf.jpg
種さんのメッセージがあったり位置が開けられてたりすごかったらしいね
乙です

>>2
田中琴葉(18) Vo
http://i.imgur.com/nWx3NuB.jpg
http://i.imgur.com/BwZOzJW.jpg
http://i.imgur.com/5BGhhuY.jpg
http://i.imgur.com/0M8XK2b.jpg
http://i.imgur.com/517V6iR.jpg

所恵美(16) Vi
http://i.imgur.com/RN3cTiy.jpg
http://i.imgur.com/BiJOgbP.jpg

>>10
島原エレナ(17) Da
http://i.imgur.com/AgS4nqE.jpg
http://i.imgur.com/KgKpLDJ.jpg

>>11
北沢志保(14) Vi
http://i.imgur.com/artGmvD.jpg
http://i.imgur.com/ZNFva6G.jpg

>>12
大神環(12) Da
http://i.imgur.com/QQR3qaT.jpg
http://i.imgur.com/re2hwFM.jpg

高坂海美(16) Da
http://i.imgur.com/nLNli25.jpg
http://i.imgur.com/5GKxxEw.jpg

宮尾美也(17) Vi
http://i.imgur.com/m0zMV6t.jpg
http://i.imgur.com/HOfcEOh.jpg


>>7
『ジレるハートに火をつけて』
http://youtu.be/ZdgBjjN99zw?t=113

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