【モバマスSS】これが最後のマウンド (13)
こんばんわ。
ガールズパワーは今週で完結させます!
今回は、すでに完成している作品を公開いたします。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1488454588
「ほーん。これは凄いなぁ」
三月の晴れた日の午後、プロデューサーがパソコンを見ながら唸っていた。
「なになに?キャッツの仕上がりが良いってこと?そりゃそうだよ。スギウチやウツミのベテラン勢は明日開幕でも完封勝利できるよ!」
まるで自分のことのように胸を張って話す私――姫川友紀に対し、プロデューサーは鼻で笑う。
「んなわけねーだろ。これだよこれ」
そう言ってプロデューサーは手招きをして私を呼んだ。呼ばれた私はその画面を見る。
そこに表示されていたのは、中学野球で女子が男子に交じって、しかもピッチャーとして完封勝利を挙げたという記事だった。
「すごいよな。そろそろ体格や運動能力に差が出始める時期って言うのに、一試合投げて無失点で勝つなんて相当だよな……」
腕を組んで感心するプロデューサー。
「ねえ。プロデューサー――」
「ストライク!バッターアウッ!」
「さぁー!ツーアウト!ツーアウト!あと一人だよ!」
八人目の打者を三振で打ち取った。勝利まであとアウト一つ。取れれば完封リレーの達成だ。
のわりには、バックの野手の反応はイマイチ。私の声に応えたのは、キャッチャーとセンターの子だけだった。
それもそのはず。この試合は公式な試合ではない。練習試合。しかも、ここに出ている選手は皆、これが最後の試合となってしまうからだ。私も含めてこの試合に出てしまった選手は最後の大会はスタンドで応援することが決まっている。
ベンチに下がってしまった選手の中には、上ずった声で応援してくれる人もいる。これで三年間頑張ってきた野球と一旦お別れしなければいけないのだ。
私もその一人。背番号はない。次の打者を抑えてしまえば、私の中学野球は終わりを告げるし、ここに立っているメンバーも同じ道をたどる。
私は、この部の中で最も良いピッチャーだと思っている。練習でも試合でも投げた試合では結果を残している。補欠はもちろん、エースよりもいい成績を残したと今でも自分は思っている。
でも、私は選ばれなかった。最後の大会のメンバーに残れなかった。理由は一つ。これはもう三年前から言われ続けてきたことだった。
「姫川。一つだけ言っておく。お前は試合に出れない可能性が非常に高い」
「どうしてですか?私は誰よりも努力して上手くなって――」
「違う。そうじゃない」
私の言葉を遮るように顧問は声を出す。
「試合出れないのは、お前の野球がヘタとか、技術が伴わないということじゃない。お前が女子だからだ」
私はこの顧問の言葉の意味が解らなかった。
私が住んでいる県では、女子が公式戦に出ていいという文章が存在しないのだ。だから背番号を付けて試合に出ることが出来ないというのだ。
「それでもお前はこの道に進むのか?」
私は静かに、でも誰にでも分かるように首を縦に振った。
結局、事態は変わらなかった。顧問の先生は再三意見を出したが、それでも変わらなかった。私はいくら優れた野球をしても、女だからという理由だけで背番号を貰えず、ひっそりとユニホームを脱ぐことになった。
「トモ!ぼさっとするな!」
キャッチャーから喝を受けて我に返る。すぐにボールが渡されて次のバッターが今か今かと待っていた。
「プレイ!」
球審が試合再開を告げる。恐らくこれが最後の相手だろう。相手も同じ背番号がない選手。自分の最後に華を添えるべく必死に表情で私を見ていた。
初球。まずはあいさつ代わりのストレート。少し制球を欠いた高めのストレートだったが、相手はフルスイングして空振り。バットはボールからかなり離れてスイングされた。これでストライクが一つ。
キャッチャーがボールを渡しに返す前に、右手で胸の部分を二度叩いた。
――どしっと構えろ。
その仕草で私は肩の荷が下りた気がする。
サインを確認して第二球。今度はスライダー。インコースから外に入ってくるボールを相手は打ちに行ったが、ボールは三塁線の外側を力なく転がっていった。
「オッケーオッケー!」
キャッチャーから新しいボールを受け取って、サインの交換を行う。私は一球外して次を勝負と思っていたが、キャッチャーは三球勝負をしろと送ってきたのだ。
私はそのサインを拒否しようか少し迷ったが、真っ向勝負を選んだ。
そして、第三球――
「うーん!やっぱり車で二時間は遠いね!」
私はとある学校に来ていた。その学校は、プロデューサーと見た中学球児の学校だ。
「こんにちわー!」
突然のアイドルの乱入に教室はすぐにパニック状態になった。特に女子には大人気で、嬉しさのあまり泣きだしてしまう生徒もいるほどだった。
「ここに、○○ちゃんっている?」
私は女子ピッチャーの名前を挙げた。すると、他の女子たちが次々と一人の少女を渡しに近づけてくれる。ネットの写真で見たその子だ。
「あ、あの……」
恥ずかしそうに眼をそらす彼女。私は彼女の両手を掴んだ。
「頑張ってね!応援しているからね!」
彼女も力強く私の手を握り返してくれた。
「はい!がんばります!」
あっという間の時間を終えて、私はとんぼ返りで中央に戻る。
「いやー。楽しかった!」
「全く、お前のワガママに付き合う身にもなってくれよな」
プロデューサーは口調では呆れていたが、表情は笑っていた。
「だってさ、自分が出来なかった夢をかなえてくれた人だよ?嬉しいじゃん」
「…まあ、そうだよな」
「それにさ、あたしはプロデューサーにも感謝してるんだよ?」
「んー?――わっ!」
私があすなろ抱きをすると、プロデューサーは急ブレーキをする。
「お前!運転中!」
さすがのプロデューサーも怒鳴っていたが、
「良いじゃん。あたしに新しい夢を見せてかなえてくれた人なんだし、ね?」
「…これっきりにしてくれよな」
プロデューサーは顔を赤くして再び車を運転させた。
あの時は、身内しか見に来ない練習試合のマウンドで終わったけどさ。
今は満員のドームのステージで歌って踊ってにぎわせることが出来るのは、プロデューサーのおかげなんだよ。
劇終!
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