ガヴリール「悪魔的所業?」(百合) (36)

ガヴリールとヴィーネがいちゃいちゃするだけ



「っくしゅ」

寒い。
あー、また、寝落ちしたのか。
寝転がってマウスを操作すると、すぐにパソコンが起動するも、

「しまった……ボス戦終わってる」

やってしまった。
高確率でレアアイテム入手できる所だったのに。
次はまた1ヶ月後。
やる気無くした。
別のゲームしよう。
なんか、朝日が差し込んで来てるけど気のせい気のせい。
まだ午前4時くらいじゃね?

「喉か湧いたな」

何か飲み物あったっけ。
あれ、最近買い物行ったのいつだ?
先月か? 昨日までは何飲んでたっけ。
うーん、あ、そうだ。
ヴィーネがお茶淹れてくれたんだ。
マジ、天使。

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「まだ、あったっけかな」

のそのそ、ゴミをかき分けて足を踏み出す。
あんた掃除した方がいいとかって言い出す奴がいそうだけど、まあどうでもいいや。
冷蔵庫を開けてみるけど、何も無い。
食器も全部片付いてる。
これは――、

「もお、水道水でいいや。死ぬもんじゃないし」

コップを汚して、また洗うのも面倒だし、そのまま飲もう。
ああ、ついでに顔も洗っておこっかな。
金髪をまとめながら、顔を近づける。
ジャバジャバと出した所で、パソコンから聞きなれない音声。

「ごくごく……んあ?」

見ると、いつもと違う画面。
広告かな。
タオルで顔を拭き終えて、再度確認すると、
よくあるエロゲの広告だった。
ネトゲをしてるとたまに出てくる。
見慣れたものだが、今日は引っかかるキーワードが。
『悪魔的所業』。
ヴィーネが食いつきそうな言葉だ。
何々、媚薬で相手を思うがままに快楽落ちさせることができる?
ふーん。
人間の欲を一身に背負ったようなゲームだわ。
そう言えば、エロゲはやったことないなあ。
相手の欲を満足させるのは、ある意味で『天使的所業』?
スタートボタンと書かれている所をワンクリック。
ゲームの画面が出て来た。
ふんふん、エロ過ぎるだろ。
ここの、これが、こうなるのか。マジやばい。

ピンポーン!

「……」

ピンポーン!

「……」

ピンポーン!

「……誰だよ」

ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!

扉がけたたましく開いた。

「ひゃ!?」

「ガヴリール、学校遅れるわよ」

「もう、その台詞は聞き飽きた」

「あ、ん、た、が何回も言わせてるんですけど? って、ガブ……ッ、な、何見て」

ヴィーネが盛大に鞄を落とし、扉の影に隠れるように退く。

「え、あ……」

しまった。悪魔界の天然記念物に見せていいような代物じゃない。
案の定、ヴィーネは顔を明後日の方へ向けつつ指先だけはこちらに向けて、変態変態と連呼する。

「これ、広告! 常駐してるゲームじゃないから!」

急いで、画面を切り替える。

「ほら、消したって」

彼女は恐る恐る顔を戻し、

「全く、あんたって子は……」

ぶつぶつ文句を言いながら鞄をかけ直す。

「ごめんごめん。お子ちゃまには刺激が強かったよねー」

「強いも何も、平日の朝っぱらから不健全過ぎるわ」

「私だって健康な若い肉体を持ってるんだから、持て余すことだって、ん?」

ヴィーネが真面目に引いていたので、そこで言葉を切った。

「でもさ、ヴィーネそんなに良い人してたら、お小遣い減るくね? 私なんて日に日に底をつきかけてるから、嫌々ながら善行しなきゃいけないし」

「う……」

「図星か。この間は、結局残高増えてたわけ?」

「これっぽっちもよ。むしろ減ってましたけど何か?」

「あんだけ苦労したのに? お可哀そうなこと」

「そういうあんたは、どんな善行積んでるって?」

「節水のため、コップを洗わなくていいように、蛇口で水を飲んだり?」

「バカじゃない」

「今のは、自分でもそう思った」

ヴィーネが呆れて溜息を吐く。

「昨日お茶パック買ってきてたけど、あ、場所分からなかった?」

あー、そう言えば。何か言ってたっけ。
すっかり忘れてた。

「ごめん、どこだっけ」

「もお、私がいつも買ってくるわけじゃないにしろ、自分でちゃんと淹れれるようになりなさいよ」

「努力する」

「あんたのその言葉ほど、信頼できないものもないわね」

「なにおう?」

ヴィーネが真面目過ぎるんだよ、と胸中で一応突っ込んでおいた。

結局、ヴィーネと喋っている間にゲームしたい欲が少し下がって、学校に行く羽目に。
あー、やだやだ先生を殲滅したらしばらく休校になるかな。
教室について、ヴィーネに宿題を見せてもらいつつ、ぼんやりそんなことを考える。

「あ、ガブちゃん、今酷い事考えた?」

ラフィ、怖いよ。
心読むなよ。
サターニャで遊んでてくれ。

「ガブ、集中して。時間ないよ」

ほら、怒られた。

「はいはい」

まあ、殲滅なんてしたら、堕天使所の話ではない。
課金用の小遣いももらえなくなるし。
でも、逆に複数人を助けるような行いをしたら、もっとがっぽり稼げるんだろうけど。
ネトゲと違ってキーやマウス操作で、はい、完了ってわけにもいかんし。
体力削って、善行?
金もらえるんじゃなかったら、どっかの誰かがしてくれって感じ。
何が楽しくて人様のために、へこへこして、時間を浪費しなくちゃいけないんだ。

「よし、ぎりセーフ」

「ほんとよ、もお」

ヴィーネもほっとした顔で言った。

「でもさ、ヴィーネがケチらずにさっさと見せてくれたら良かったくね?」

「私が宿題してた夜8時くらいに、あんた何してた?」

「ネトゲ」

鼻をつままれた。

その日の夜。
なんとなく気になって通帳を開いた。

「……あれ」

めちゃくちゃ減ってる。
むしろ、0に近い。
これは、ただ事ではない。

「というか、明日の食費もまずいぞ?」

天界に連絡してみる。
プー、プー。
繋がらない。
何かの間違いじゃないか?

「……お、落ち着いてネトゲを」

寝転がって、チャットルームを立ち上げ、今日の攻略情報を一通り閲覧。

「って、こんなことしてる場合じゃないしっ」

原因はなんだ。
課金のし過ぎ?
今月はイベントも多かったし、しょうがない部分しかない。
しかし、これは由々しき事態だ。
うっかり経理担当がミスしたに違いない。

「よし、ヴィーネの所に行くしかないな」

数十分後。

「うっす」

「……うっす」

ヴィーネが半眼で、私を見下ろした。
風呂上がりのようで、髪が少し湿っていた。

「あの」

「待って、今、ガブの面倒を見てあげれるような余裕がないの」

「どういうこと?」

「さっき、私の通帳見たら、残高がほとんど0になってて……私が何したって言うのかしら」

私は今日一日だけでも、何かとやらかしてるけどと思いつつも、

「ヴィーネも? 実は私もなんだよ。私が何したって言うんだ、全く」

「あんたは自業自得よ!」

「というか、そうするとヴィーネも生活費がヤバいってこと?」

「……う、うん。もしかしたら、絶望的な状況に追い込んで悪魔的所業をさせようとしてるのかも」

「さすが悪魔、やることが汚い」

「あんたの所もね」

どうしたものか。
バイト代入るのもまだまだ先だし。

「ヴィーネさ、バイトしない?」

「校則で禁止されてるから」

「そんなこと言ってたら、私のこと養えないじゃん」

「私、そんなつもりで人間界に来たわけじゃないんですけど……って、私に稼がせようとするな! どうせ、ネトゲの課金で消えていくんでしょ!」

「ちゃんと生活費に回すって」

笑いながら誤魔化す。

「嘘つけ!」

ヴィーネに肩を揺さぶられた。
やめろ、首がもげる!

「もー、とにかく家に入りなさい。電気とか水道とかは止められてないのが不幸中の幸いね」

招き入れてもらい、トタトタとリビングへ。

「あ」

私は持ってきた鞄の中から、ノートパソコンを机の上に置いて、起動させる。

「ガウ? あんた何して……まさかゲームするなんて言わないわよね?」

「ち、違う、思い出したんだよ」

「?」

「ヴィーネって、サキュバスみたいに相手を洗脳したりできないの?」

「え、でき、ないこともないけど」

「じゃあさ、これ、見て」

カパっ。

「きゃあ?! 変態、なんてもの見せるのよ! バカバカ!」

「違うって、これ、悪魔的所業の粋を尽くしたゲームなわけ。だから、これに則って色々したら絶対残高増えるって」

「へ、へえちゃんと考えてるのね」

「もちろん。だから、これとかこれとかをその辺のお金持ってそうなおっさんにしたら……現金支給も+αされてぶへ!?」

思いっきり殴られました。

「ばかやろー! ばかやろー! もお、信じられない!」

「良い案だと思うんだけど」

「あのね、そういうのを日本では犯罪って言うの。知ってる? 知ってたわよね?」

「ああ、援助こうぐぐ?!」

「もうその口開くな」

私は、負けじとヴィーネの腕を掴む。

「ふぬぬっ」

「なによやる気?」

「これくらい、しないと悪魔って言えないんじゃんか。分かってるでしょ?」

「そ、そうだけど」

「私だって、憎くて言ってるわけじゃない。むしろ、ヴィーネのためを思って言ってるんだよ? 私、ヴィーネが強制送還されるような事になったら……うっ、ひっく……生きていける気がしない」

「私もそう思うけど、何も泣くことないじゃない……もう」

ヴィーネが私の肩に手を回す。
やはり、ちょろい。

あとちょっと。
あとちょっと粘れば、私が働かずに済む。
頑張れ私。
負けるな私。

「うッ……」

「で、でも……私、あの」

頭上から、口ごもった声。
お、迷ってるぞ。いける。

「ヴィーネは悪魔なんだから、もはや義務に近いというか……当然の権利とも言えるし」

「ガブ、私……」

おお。

「うん!?」

「やっぱり、無理! だって、私、好きな人いるから、他の人となんてできないよ」

「え? えっと、あ、へえー、そうなんだ」

「ガヴリールは、そういうのは別に気にしないかもしれないけど……」

「あ、え、私も、まあ分からなくもないというか」

「ほんと?」

ええ!? 
びっくりしたんですけど。
こいつ、まさか人間にでも恋したのか。
だから、こんな悪魔らしくなくなったのか。
いっちょ前に? はっ。

「まあ、ヴィーネも色々あるんだね」

「でも、そうも言ってられないってことも分かってる」

「どうする?」

「そもそも、私とあんたの問題に他の誰かを巻き込むのはおかしい話よね」

げ、正論スイッチ入った。

「そして、私だけ動くのも変よね? ガブも道連れよ」

悪魔っぽい事言ってるぞ、こいつ。

「ちょっと待ってね。むむむ、とう!」

ポンっ。

「何か出た!」

「媚薬よ」

紫色の液体が、ガラスの細長い小瓶の中で揺れていた。

「え、ヴィーネが飲むの? 意味なくね?」

「あんたって人間はどこまでも自分がするって考えが浮かばないのね」

「わたし!? ちょっと、待って! それ、媚薬だろ? 飲んだらどうなるの?」

「大丈夫1時間くらいで効果は無くなるから」

「や、だからどうなるうぐ!?」

ゴク、ゴク、ゴク――。
わー、プリンみたいな味がするぞー。

「ごほっ、ごほっ!? ヴィーネ!? おま、ちょ!?」

「飲むとね、誰かに奉仕したくなるの」

「ほーしぃ!? ごほっ……」

口の周りについた液体を急いでふき取る。
何と言うことでしょう。
小瓶が空っぽだ。

「全部飲んじゃったじゃん!」

「今の私、かなり悪魔っぽくなかった?!」

嬉しそうな顔しやがって。

「この悪魔!」

「やった!」

ヴィーネはクッションを抱きしめて、リビングでウサギのように飛び跳ねる。

「身体が……熱いような」

なになになに。
何か変。

「即効性だから、すぐに効いてくるの」

顔が、熱い。
くらくらしてきたぞ。
ちゃんと、用法容量守ったのか?
と、小瓶の裏のラベルを見やる。
1日3回に分けて処方してください――。

「な、なんだと……」

ソファにどさりともたれかかるようにして、私は崩れ落ちた。


「ガヴ?!」

すぐにヴィーネが私の体を抱き起す。

「大丈夫、ごめんなさい。ヴィーネ」

ん?

「うん?」

ヴィーネが首を傾げた。

「気にしなくて大丈夫よ。今日は、色々我がまま言ってごめんなさいね」

いやいや、そんなこと思ってもいないんですけど。

「ど、どうしたのガヴリール?」

「ううん、いつも本当に感謝しているの。あなたは程素敵な人もいないわ」

「まさか、脳までやられた?!」

「お礼に、あなたの言うことなんでも聞くわね……って、待てこら!! ううん、気にしないで、なんでも言って、いやいや!?」

「なるほど、ガヴリール……が出たり引っ込んだりしてるわけね」

「そうだ。お茶、淹れるわね」

私は手をパンと叩いて、台所に駆け寄った。
誰か止めて!!

「あのガヴが……」

私がこんな天使みたいなことしたら気持ち悪いって!

「変でしょ? いつもだらしないのに」

「ううん、むしろ、出会った頃の純真無垢なあなたが戻ってきてくれて嬉しいわ」

何言ってんの、ヴィーネ!?

「ガヴ、1時間くらい大人しくしておきなさい」

「ざけんっ……あ、紅茶で良かった?」

「ええ、お願い」

にっこり微笑み、私を見つめる。
くらくらする。
ヴィーネに逆らえないというか。
逆らわずに従いたいという欲求の方が勝ってる。

「んっ……」

ふと、腕にかゆみが。

「どうしたの?」

「なんでもないわ」

「あ、パソコンもそんな所にあったら邪魔よね。すぐに片づけるから」

「ガヴリールじゃないみたい……ううん、私がしておくから」

と、私は手を止めて、ヴィーネの方へ。
彼女の腕を掴む。

「いいの。そんなことしたら、また悪魔としての自分を貶めてしまうわよ? 気をつけて。今日はあなたを悪魔として導くのが私の役目だから。どうしたらいいか、一緒に考えましょう?」

「ガブ……あ、あの」

「なに?」

「ううん……その、いつもと違いすぎて照れるというか、私が昔好きだったガブが帰ってきたみたいで」

何、赤くなってんの?
気持ち悪いよ?
これ、私じゃないからね?

「ちょっと、ううん、かなり嬉しい」

「ありがとう」

ヴィーネを慈しむように、私は抱きしめた。
まるで久しぶりの旧友との再会だ。
んんん?!

ヴィーネさん?
いつものツッコミは?
まるで、天使ね!
とか、茶化さないの!?

「ガヴリール……」

「ヴィーネ……」

この空気なんなの。
痒い痒い痒い。
がりがりっ。

「ガブ? 腕、そんなに引っ掻いたら」

「え? 私掻いてた? 知らなかった」

「じんましんみたいなのができてる」

「うッ、頭が……」

「え、大丈夫?!」

「ふふ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。ヴィーネにはいつも苦労をかけるわね。ああ、そうだ、お茶淹れないと」

「やっぱり、綺麗な心が受け入れられなくて、体が拒絶反応を示しているんだわ。やっぱり、根っこから堕天しちゃったのね、ガブリール……」

失礼な奴め。
否定はできんけども。

しばらくすると、すぐに、紅茶の良い香りが部屋に広がった。

「ねえ、ここ座って」

紅茶を飲み終えて、私はヴィーネを床に座らせる。
なんと、肩を揉みだした。

「そ、そこまでしなくていいよっ」

「いいから」

「なんだか、凄く申し訳ないわ」

ホントだよ、この畜生め。

「さっき、好きな人がいるって言ってたわよね」

「う、うん」

やめろ。
私の体でラブコメに持っていくな!

「どんな人なの? 良ければ恋の応援もさせて頂くわ」

「……えっと、どんな人って言われると説明が凄く難しいんだけど」

「嫌なら、言わなくてもいいのよ」

「ううん、相談とかしたことなかった……今しかこういう話できないと思うし……ガヴリールじゃないと思えば言える」

おい、どういう意味かな。
普段の私には言えないってか。
まあ、いつもネトゲばかりやってる人間がろくな相談できるとも思えんけど。

「うーんとね、第一印象はすごく優しそうで頼りがいのある人だったの」

「うん」

「でも、久しぶりに会ったら、180度変わってて幻滅したの。優しくないし、見てて危なっかしいし。それにいつも私を怒らせる。同じ人物なのかなって思うくらい」

もう、それ見込みないじゃん。

「そっか」

「でも、もともと立場も違うし仲良くしちゃダメな人だったから、逆に良かったなって思ったの……思ってたんだけど」

ヴィーネは振り返って、私をじっと見た。

「やっぱり、私にはダメなくらいがちょうどいいみたい……えへへ」

照れながら笑う。

「でも、こんなガブリール見る機会、たぶん一生こないだろうからもう少しだけ」

今まで見せたことない表情。
照れてることには変わりないんだけど。
なんだろ。
気に食わない。

「あなたは、もっと我がままに生きていいのですよ」

「うん、考えておく。ただ、今は誰かさんが困っちゃうから止めておくわ」

がり、がり。
痒い。心なしか、熱も上がって――。

「ガヴ?」

「あ……」

天井が回る。
やばい。
私は、痒みに襲われながら意識を消失した。

目を覚ましたら、心配そうに見つめるヴィーネがいた。

「はろー……」

ゆっくり起き上がる。

「戻ったんだ」

「お陰様で」

「ごめんね」

「あの……一つ質問」

「なに?」

「媚薬の用法容量の所は見られてましたか?」

「見てないわね」

「ちゃんと確認しような?」

「ごめんってば」

「まあでも、この媚薬はダメだね。私の体が全力で拒否した。というか、悪魔の媚薬のくせに効果が天使過ぎるから!」

「どーして、それで体が拒否するのか、そっちの方が疑問よ」

「次はヴィーネ飲んでよ」

「え、いや、それだと意味ないでしょーが」

「だから、ちゃんとした媚薬をってこと!」

「い、いやよっ」

後ろに仰け反る、ヴィーネの身体を押さえつける。

「あ、それか、悪魔が天使にいたずらすればいいじゃんか。ほら、ほら」

「や、やめてよばか!」

「うぶっ」

脇腹に右フック。
どさりとソファに突っ伏した。

「でも、一つ思いついた」

「なにさ」

「あんたのパソコンを破壊する」

ブン――と禍々しい槍を取り出す。

「それだけはご勘弁を」

「絶対高くつくと思うのよね」

「そりゃそうだろうね。でも、私を更生させたら悪魔としてはダメだと思うけど」

「そんなに言うなら、ガブも何かやってみてよ。そうだ、じゃあ人としてだダメなこととか教えてよ」

こいつ、とことん私をバカにしてる。

「言ったね?」

私は嬉々として、パソコンを机の上に置いてスイッチをつける。

「ネトゲは嫌よ」

「なんで? 一番てっとりばやくダメになるのに」

しょうがないのでしぶしぶパソコンを仕舞う。

「うっ」

「どうしたのガヴ」

「ネトゲしたい……」

「依存症よ……」

しっかし、私はやっぱり天使としてもう終わってるみたい。
こうなったら、ヴィーネに酷い事をしてもらうしかない。

「ヴィーネ、私、良い行いとか奉仕とか神を敬うとかもはや無理」

「それ、一番自覚しちゃいけないやつね」

眉間にしわ寄せて、盛大に息を吐く。

「だから、ヴィーネを洗脳します」

「はい?」

「うんたら、かんたら、ほい!」

「なにその限りなく適当な詠唱はっ……きゃ?!」

「さあ、ヴィーネ、非道の限りを尽くしてもらおうか」

「そんなこと、できるわけ……」

「そう言ってられるかな?」

「うそ、手が勝手に」

震えつつも、ヴィーネの手が私の腕を握りしめた。

「覚悟はできている。これもネトゲのため!」

「そんな覚悟いらん!」

ヴィーネに組み敷かれ、こちとら身動きが取れなくなっていた。

「だめよ、だめったら。やだ、抵抗しなさいって」

「そんなこと言っても、太ももでがっちり腰挟まれてて、抜けようにも抜けれないんだけど」

「……顔、顔近い!」

ヴィーネが叫ぶ。
近づいてるのは、ヴィーネだけど。
ふいに、私の耳もとに生暖かい風。

「ふああ?!」

びくんびくんと体が跳ねた。

「ガヴ! 変な声出さないでよ!」

「そっちが耳に息吹きかけたりするからっ」

背中をぞくぞくと這いずる刺激に息が漏れた。
一回で終わるわけもなく、数分身悶える。

「はあ……ッ……はあ……ッ」

「ガヴ……もう、やだっ、私やりたくないよぉ」

「これくらいで、何をほざいて……はあっ」

そんなことを言っても、ヴィーネは今度は私のお腹や脇腹を探って、

「んっ……ふふっあははははっ……ひっ……うくくくっ!!」

「誰か止めてえええっ……えーん!」

「やばっ……あはははっ!? いいいひひひっ!? これ以上はっああ!? 死ぬっ、死んじゃうっ!!」

「だから、止めてって言ってるのにいいいい!」

体中がある意味快感に包まれ、汗だくでべとべとになっていた。
脈が波打ち過ぎて、胸の奥が張り裂けそうだ。
くすぎり攻めが終わると、今度は、泣きながら、

「うッ、ひっく……ばかっ」

「泣かなくても」

「あほ、チビ、引きこもり、ゲームオタク、部屋汚い」

「うん?」

「お風呂ちゃんと入って、髪ぼさぼさ、自分勝手、悪魔より悪魔」

「なるほど、次は言葉攻めってわけね」

「こんなこと、ひっく……うう、言いたい訳じゃないのに……うわああん」

やべ、ガチ泣きしてるし。

「だ、大丈夫大丈夫。全然、痛くもかゆくもないからね」

「それはそれでダメでしょ……ひっく」

どうすりゃいいのよ。

「私……やだ、ガヴリールを傷つけることしたくない……したくないもん」

「だから、良いんだってば」

「だって……」

「だって?」

「ガヴに嫌われたくない……から」

ポロポロポロポロ、涙を流して、ヴィーネは私の額に自分の額をくっつける。
泣いてるせいで、また顔を赤らめて。
額には熱が集まっていた。

「ダメ天使、宿題自分でやれ……、起こされる前に起きて、ご飯ちゃんと食べて、外に出て、人に優しくしろ」

「あ、まだ続くんだ」

どんどん、個人的な恨みというか要求に変わってきてるような。

「あと……私にも優しくして」

「え」

吐息のかかるこの距離で、なんかすっごい背中の痒くなる事を言われた。
それから、沈黙。
お、終わったのか。
ゆっくり体が離れていく。

「私にも……優しくしてよ」

ねだるような上目遣い。

「……は、はい」

これは、やばい。
この表情はずるい。
女同士なのに、腰にくる。

「ヴィーネ、どこでそんな技を……」

「ガヴの……ばか、ばか、ばか!」

絞り出すような罵倒。
と、ふいにガス欠。
馬乗りになっていた体を起こし、ふらふらと立ち上がる。

「それで、打ち止め?」

「そう、みたい」

ふー。
助かった。
ヴィーネ、恐ろしい女。

「あの、ヴィーネさん」

「うん……」

「私、ネトゲのためなら悪魔にでもなれるんで、本当に気にしてないから、マジで」

胸を張って言ってやった。
まあ、彼女こちらを向いちゃいないのだけどね。
私は後頭部をガシガシとひっかく。
こっちもこっちで疲れたのだけど、まあしょうがない。
ご機嫌斜めのようなので、後ろから抱き締めてやった。

「よしよし」

ヴィーネは居心地悪そうに小さく唸ってはいたけど。
抱き着いてる間は、大人しくしていた。
これはこれで、小悪魔的所業と言えなくもない。

「もっと」

「うん?」

「もっと、強く」

「え、サバ折り的な?」

違う!
と突っ込むヴィーネの肘が鳩尾に綺麗に突き刺さったのだった。





終わり

脳みそ疲れてしまったので、見たいネタとかシチュがあればそれを参考にもう一つ書いてみます


ただ純粋に入浴手伝わせたいガブと色々抑えるのに理性がイッパイイッパイなヴィーネみたい

結局お金問題がどうなったのかが気になる

>>33
オッケー、このスレはHTML申請しちゃったので、また改めて。

>>34
普段の行いがどちらも悪いので、対して変わりませんでした。というオチです。

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