許嫁「……聞いていない?」 2 (628)
これまでのほとんどだいたいよく分かるあらすじ:許嫁を名乗る高飛車なお嬢様が突然家に来ました
前スレ
許嫁「……聞いていない?」
許嫁「……聞いていない?」 - SSまとめ速報
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許嫁(メイド服)「……」
男(やけに時間かかってると思ったら、メイド服着てたのか)
男(そりゃ文化祭だから、特別な格好する人も多いが)
許嫁(メイド服)「……」
男(袖余ってるし、ロングスカートみたくなっているし。大きなリボンで締めてはいるものの)
男(サイズぶかぶか……逆に妙な魅力になってるのは否定できないが)
男(というか俺の仕事服だよな? コレ)
許嫁(メイド服)「……」
男(髪型もいつもとちょこっとだけだが違う)
男(そして何だこの表情は。無言でアサッテの方向見よって)
男(……少し頬赤いし)
男(そういえば。メイド服お披露目会のとき、興味があるような素振りを見せていたなコイツ)
男(あのとき何か言ってたような……)
許嫁(メイド服)「……ん」クル
男(あ、無意味に一回転しおった。スカートがふぁさーっとなったぞふぁさーっと)
『例えば。頑張って、いつもと違う格好していたら。誰でも感想を言ってほしいものだと思わないかな?』
男(……委員長。このことを言ってたのか)
許嫁(メイド服)「……何? そんな顔して。その、何か私に言いたいことでも、あるのかしら?」
男(こにゃろう。すっとぼけたことをおっしゃる)
許嫁(メイド服)「……」
男(言わされた感があってとても癪である)
男(が……)
男(……)
男「……まあ。その格好。悪く……ないんじゃないか?」
許嫁「えっ?」
男「うん。馬子にも衣装ってところだな」
許嫁「……あ」
許嫁「……馬子にも衣装、ですって……? そう言ったの……?」
男「え? あ、ああ」
許嫁「……、馬子にも衣装……」
男「? どうした?」
許嫁「……」
男「決して悪い意味で言ったつもりはないんだが――」
許嫁「……っ」
許嫁「ふっ……ふふふっ」
男「?」
許嫁「ふふっ。ふふ、……ふふふふふ」
男「な、何だよ。急に笑い出して」
許嫁「い、いえ。ごめんなさい。そんなつもりじゃ、なかったんだけど……ふふふ」
男「そこまで、おかしいこと言ったかな、俺?」
許嫁「いいえ? その……そのね? ふふ、あはは!」
許嫁「あのね。私、私ね? ふふ……何て言うかなって、色々たくさん予想してたの」
許嫁「でも、あなただったらね?」
許嫁「そういう言い方すると思ったの……回りくどい褒め方、すると思ってたの!」
男「……なっ」
許嫁「そしたら本当に。あなたそう言ったから。そんな言い方したから。だから……その、おかしくて。ふふふっ」
男「……ぐ」
許嫁「素直じゃないんだから。あなたって。ふふふ」
男「ど、どっちが素直じゃないんだよっ」
男(ぐ。ぐぬぬぬぬ。……恥をかかされた気分だぜ)
男(委員長も協力してるとはな……どっちの企みだ?)
男(にしても……)
許嫁「馬子にも衣装だって! あなた……ふふふ!」ファサー
男(コイツ、今までにないくらい……)
男(……)
男「ま、いいけどさ。それ汚すなよな? まだ俺も最後のシフト残ってるんだから」
許嫁「……あら?」
許嫁「もしかして、このメイド服。あなたのだったの? そうなの。私、知らなかったわ」ブン
男「さきほどから白々しいことをなさいますね、お嬢様。……っと」ペチ
許嫁「文化祭だし、せっかくだから私も何かしようかなって。そうしたら委員長が偶然コレ要らないって」ブンブン
男「要らないってのはちょっとヒドいぞ、委員長……っとと」ペチペチ
許嫁「コレ、あなたのだったなんてね。へー知らなかったわへー」ブンブン
男「……ええい! ぶんぶん腕を回すな! さっきから袖の先がぺちぺち俺に当たってる!」ペチペチ
男(テンションたっかいなあ!!)
男(こ、これがお祭りテンションというものか? そんなに文化祭楽しみだったのか?)
許嫁「フフフ。だけど、そうね。言われてみると確かに、あなたのものね?」
男「?」
許嫁「だって、この服。ほんの少しだけど確かに。あなたの優しい匂いがするもの」
男「え……? え……」
男(な、何言い出したのこのコ?!)
男(なんか、すごく……。いや、ものすごく。恥ずかしいことおっしゃっていません?)
男「い、いや。ち、違うんじゃないか? ハハ、何かの間違いだろ――」
許嫁「? そんなことないわ?」
許嫁「掃除が大好きな、あなたの優しい匂い」
許嫁「私たち、どれだけ一緒に暮らしてきたと思ってるのよ?」
許嫁「あなたが否定しても、私はよく覚えてるもの。この――……」
許嫁「この……」
許嫁「……?」
男「あ、ああっと……」
許嫁「……」
許嫁「……ぁ」
男(ようやく気がついたかな……お祭りテンションってこわい)
許嫁「……い、いえ……わ私……その……」
許嫁「今のはべ、別に、ヘンな意味じゃなくて……その……えっと」
許嫁「い、今のは……ちょ、ちょっと。その、言い過ぎだった、かしら……」
男「あ、ああ。俺も、そう思うな。言い過ぎだったな」
許嫁「……今のは。無しってことに、しましょう?」
男「……分かった。……そうしよう」
許嫁「……お願い」
男「……その。文化祭が楽しみなのは、分かるが」
許嫁「え?」
男「少し。少しだけ、テンション抑えたほうがいいんじゃないか?」
許嫁「あ……。あ! じ、時間! 時間、もったいないから、もう行くわよ!」ツカツカ
許嫁(メイド服)「……」ツカツカ
許嫁「……」
許嫁「浮かれすぎ」
許嫁「……」
許嫁「……でも」
許嫁「抑えられないもの、こんな」
許嫁「……」
許嫁「なのに、文化祭?」
許嫁「……」
許嫁「……もー」ツカツカ
……
文化祭
占い屋
『お・も・て・だ・け』
男「なんだ、このしょーもない店の名前は」
許嫁(メイド服)「? ……うらない。占いなんて興味あったの、あなた?」
男「いいや、俺は全くと言っていいほどないな。だからといって否定するほどでもないが」
許嫁「あら? 珍しく意見が合ったわね? 占いなんて、自分の選択に責任が持てない人がするものだわ」
男「そこまでは言わないぞ……ん?」
「おや旦那ァ? 何か、助けることができますかい」
「へへへ。旦那。いいコ……揃ってますぜ。この店」
男「いいコって何だ。ここは占い屋じゃないのか」
「もちろん占い師たちのことでさあ」
男「妙な言い方をするな」
「どうです? 世界数々の占いを取りそろえておりますぜ?」
「花占い・星占い・動物占い。手相・人相・二十面相。タロット・カバラ・点取り占い!」
「占星術から朝の情報番組的占いまで! どうです? 旦那ァ。興味、沸いてきましたね?」
男「へー↓」
「……う。な、何なら占いだけでなく、その他相談・カウンセリングまで受け付けておりますぜ!」
男「相談?」
「ええ。健康の悩みから、人間関係の相談。育児や近所づき合いの話! 保険やローン、資産運用の相談まで、なんでもござれ!」
男「文化祭のこんなところでそんなものを相談するヤツがいたら是非見てみたい」
「もちろん恋愛相談も絶賛受付中ですぜ……いひひひひっ」
許嫁「……」
男(にしても妙な喋り方をする女の子だ)
男「悪いが他を当たってくれ。興味ない」
「そんなあ。 RPGのクール系主人公みたいなこと言わないでくだせえよ、ゴムタイな」
「どうです、お連れさんは? 占いなんて?」
許嫁「私も興味ないわね。占いに責任を預けて、自分の行動を決めたくはないわ」
「さ、参考までに、って話でさあ……何も責任とかそういう話じゃなくて……」
許嫁「ごめんなさいね」
「ど、どうでしょう、そうだ! 例えば、お二人の相性占いなんて。特に我々が得意とするところでさ」
許嫁「……」
「古今東西異世界仮想世界。あらゆる占いを収集・研究した我々が独自に開発した、オリジナルな占いなんですがね。信頼度が随分高いと評判でして!」
「この学校の多くのカップルが、この占いを受けて泣いたり笑ったりしております。どうです、お二人さんも?」
男「いや、カップルじゃないからな。俺たちは」
許嫁「……」
男「ん?」
「より親密になるためのアドバイスも完備!! お客様満足度豪快ナンバー1! さ! どうです? そんなにお時間はとらせませんから!」
男「ふふ、悪いな。君の言い回しは面白かった。けど、やっぱり占い興味ないからな。……じゃあ、行くか?」
許嫁「……」
『お・も・て・だ・け』
「お待たせいたしました。では、準備が整ったようですので、こちらにお通りください」
男「……。ってあれ!? 何で俺たち入店してるの?」
許嫁「何言ってるのよ。相談してそうすることに決めたじゃない」
男「え、そ、そうだっけ? 占いなんて2人とも当てにしない、って言ってたのに?」
許嫁「そうね、けど。そんなにオススメされるなら、少しくらいなら良いか、ってことに決まったじゃない?」
男「え、本当に?」
許嫁「……いいから行くわよ。もう入っちゃったんだから」ツカツカ
男(あれー?)
占いルーム
「……ようこそ、いらっしゃいましたね、悩める子羊たち……」
男「……? あ。君、さっきの妙な言葉遣いの客引きだろ?」
「……何をおっしゃる、うさぎさん……私はしがないいち占い師……」
「……客引きなどでは……ございません……では……こちらにどうぞ……」
男「今度はやたらとタメを作って話すな」
「……ではまずこちらに、参考のために……。……お名前と誕生日、血液型をご記入ください……」
男「ええと、名前と誕生日、それから……」カリカリ
許嫁「……」カリカリ
男(俺の誕生日は、とうにすぎてるが。そういや、コイツ誕生日いつなんだろう)チラッ
男(ん!? ち、近いな。もうすぐじゃねえか)
「あ、書いた紙ですけど、……決して私に見せないでくださいね……」
男「え?」
「……こちらは係りのものに渡します……。……私は、見てませんよ……?」
「……見ての通り……係りのものと、私に………連絡手段のようなものはありません……」
男「……」
「……では、今から始めますが……、その前に、まずは……」
男「『……力を見せるために……誕生日を当てます……』なんて言ったら今すぐ出て行くからな」
「えっ! な、なんでそれを……っ。へ、へへへ。旦那ァ、そんなことはしませんぜ?」
男「キャラブレてるぞ」
「……では、……本日は相性占いということですが……よろしい……ですね……?」
男「え。相性占い?」
「ええ……そういう……お話でしたが……旦那ァ……違うのでェ……?」
男「そうなの?」
許嫁「いえその……。そうよ」
男「なんでそんなのを」
許嫁「それは……そう。例えばだけど、ここで相性が悪いって結果が出るじゃない?」
許嫁「いえ。私とあなたの相性なんて、悪いって出るのもちろん分かってるわ?」
許嫁「そうしたら、その結果を。家に突きつけたら、あなたとの……この関係を。解消できるかもしれないじゃない?」
男「占い結果一つで解消できたら苦労しておまへんがな」
許嫁「確かに、それは難しいかもしれないけれど、交渉の材料の一つとしてね?」
許嫁「私とあなたが、その……ケッコン……相手には向いてない、ってことで」
男(……最近、より無茶苦茶なこと言うようになってない?)
「あ、あのー、……そろそろ、お決まりになりました……かね?」
男「まあ、別にそれでいいか。他にあるわけでもないし。相性占いで頼みます」
「……はい。分かりました……」
男「相性が悪い、って結果が出ればいいんだよな?」
許嫁「ええ。そうね、もちろんよ。それが私達にとっては良い結果だわ」
許嫁「というか、その結果が当たり前よ。あなたと私が良い相性なワケがないものね?」
男「だな。そうだよな。出会ったころなんて、衝突してばかりだったし。良いハズがない」
許嫁「ええ、そうね。その通りよ」
男「あれから色々あったとはいえ、未だにこんな感じだ。俺たちの相性が良いなんて、ありえない話だ」
許嫁「……ええ、そうね」
男「おそらく心底悪い相性って出るだろう。水と油以上の悪い関係性」
許嫁「……」
男「史上最悪の相性と出るかも」
許嫁「……」ムス
男「何かムッとしてない?」
許嫁「してない……早く、お願いしますっ」
「は、はい」
「……こほん……」
「……では……相性占い……」
「……入ります……」
男(入ります?)
「……」
男「?」
「ハアァ~~~~~~ァァァァ!!!!! 」
男「!?」
「どこいっしょっどこいっしょおおおおっ!!!!!」
男「!? ?? ……?」
「かもっかもっかもっかもっ」
男「????」
「ぐるーぜもなはいもなぴっぽ? もなぴっぽ……もなぴっぽ! へいっ!」
男(……なんだこれ……なんだこれ……)
「はいるがゆおーるなーむねなむがーはいるがゆーるなむよねがー!」
男(……どうしよう……)
……
「……終わり……ました……」ゼェゼェ
男(や、やっとか。良かった……どうしていいか分からなかった)
「……それでは最後に……」
男「ま、まだあるの?」
「最後に……この相性占いコンピュータ『2番じゃイヤなんです』に情報を入力して……エンター……」カタカタッターンッ
男「おい。何だったんだよ今のくだりは」
ジージジジジジジジジー
「結果の用紙が出ましたよ。どれどれ……。あ! こ、これは……」
許嫁「ど、どうだったのかしら?」
「その。……良くない……結果でして……」
男「ほーん。やっぱり良くなかったか」
許嫁「……っ」
「その……ここまでの結果なんて、私も。今まで見たことがなくて……」
男「そこまで?」
「これをお見せするのは……さすがにちょっと……何というか」
許嫁「ちょ、ちょっと見せてください……」バッ
「あっ……」
許嫁「……」
許嫁「……」
許嫁「…………………………え…………」
許嫁「……」
男「どうした? 何て書いてあった?」
許嫁「え? そうね……良くない、結果だったわね……」
男「ほう。なんて?」
許嫁「良くない、結果だったわ」
男「いや、だから何て書いてあったんだ?」
許嫁「……こんなの……誰にも、見せられないわ……」
男「え? おいおい、俺にも見せてくれないの?!」
許嫁「こんなの……こんなの。誰にも……見せられないもの」ゴソゴソ
男「いや、当事者の俺には見せてくれたって」
許嫁「……何よ。あなた占いなんて興味ないって言ってたじゃない? ……っ」
男「それはそう言ったけどさ」
男(? 何かコイツとても……)
許嫁「じゃ、いいじゃない? 見なくても。でしょう……? ちがうの?」
許嫁「……ふふふ?」
男(嬉しそうなんだが)
許嫁「こんな、結果なんて……。……あはっ」
男「……良くない結果だったんだよな?」
許嫁「え? う、うん。そう言ってるじゃない……そう言ったわよ?」
男「あーなるほど。そっか。だから、そんなに笑顔……なんだ?」
許嫁「……ん、そ、そうかしら? そんなこと、ないけど? ……ふふ」
男「おい、抑えきれてないぞ」
許嫁「? 何も抑えていることなんてないわよ? ふふふ?」
男(な、何が書いてあったんだあ?)
男「あの、良くない……結果だったんですよね?」
「ええ、もちろんでさあ。『良くない結果』ですよ?」
「さきほど、お二人がそうおっしゃってたじゃないですか」
男「?」
「お二人がおっしゃっていた『良い結果』に対する『良くない結果』だとそう申し上げました」
「まあ。『良くない相性』とまではあっしは一言も、言ってませんぜ?」
男「……」
「旦那ァ! またいつでもこちらに。どの道からでも、来れるようお待ちしてますぜ」ノシ
男「最後まで怪しい女の子だったな……あんな子学校で初めて見たぜ。ところでさ」
許嫁「? なあに?」
男「結局見せてくれないの? 結果」
許嫁「あら、ゴメンなさい。もうどこかへ行っちゃったわ、紙。どこへ行ったのかしらね?」
男(大事そうにしまったの知ってるわい)
男(……ま、この先いつか見る機会もあるかもな)
男「そうか。なら、いいや。俺は占いなんて当てにしてないし」
許嫁「そう?」
男「?」
許嫁「悪く、ないのかもしれないわね? 占いも。信頼が置ける、とまでは言えないけれど。何かの参考になるかもしれないわ?」
男「……さっきと言ってることが違いません? お嬢様?」
今日は以上です。
次のスレになりました…が
もし読んでいただいてるならば嬉しいです。
お化け屋敷
『あくのじゅうじか』
許嫁「? このクラスは何かしら? ふふ。妙な絵なんてあるけれど……」
男「ああ。文化祭の定番、お化け屋敷だな」
許嫁「……え?」
男「ちょっと聞いただけなんだが、随分と評判らしいぞココ」
男「現国の先生呼んで体験してもらったら、割りと本当に泣きだしそうになったって」
許嫁「あの……勇ましくて気高いと自ら誇る先生が?」
男「ああ。だから、途中で止めざるを得なかったとかなんとか、そういう話聞いたぜ」
許嫁「……」
男「どうだ? そういう話聞いたら面白そうじゃないか?」
許嫁「……どう、かしらね」
許嫁「まあ、分からないでもないけど? でも、お化け屋敷なんて、ねえ?」
許嫁「確かに。外装だけでも凄く力入ってるのは分かるけれど……」
男「プロの人にまで意見を伺ったらしい。相当出来が良いって聞いたが」
許嫁「っ。なおさら……」
男「……ん?」
許嫁「……。そもそもがオバケなんて、いないじゃない?」
許嫁「オバケなんて信じるほうが、よっぽど。どうかしてるのじゃないかしら?」
許嫁「まあ、あなたみたいな子供の思考している人は、オバケに興味があるのかもしれないけれど」
許嫁「私はそんなものに興味を抱く精神年齢ではないから」
許嫁「悪いけれど、このクラスの出し物にも興味なんてないわね」
許嫁「まあその……このクラスの努力は伝わった。伝わったわ! ……凄かったわね?」
男「……」
許嫁「じゃあ、次は? どのクラスに行こうかしら?」
男(思い出したが、そういやコイツ)
男(映画に一緒に行ったときも、夏祭りのときも。あからさまにこういうの避けてたな)
男「はっはーん」
許嫁「な、何よ。その薄ら笑い」
男「怖いんだ?」
許嫁「……っ、この私が?」
男「だから、そんなに必死で否定するんだろ?」
許嫁「必死? ……そんなわけないじゃない。あなた、何を言ってるのかしら?」
男「ま、それならそれでいいよ。怖いのに無理してつき合わせるのも悪いしな?」
許嫁「な、何よ。その上から目線の発言」
許嫁「何を言ってるのかしら、あなたは。そんなはずないでしょう」
許嫁「この私が? こんなもの? 怖がるとでも?」
許嫁「私はただ、私には合わないと思ったから、そう言っただけよ。まったく……勘違いしないでほしいわね?」
男「気にすんなよ。誰にだって一つや二つ、苦手なものはあるんだから」
許嫁「だ、だから私は別に、オバケなんてっ」
男「分かった、分かった。そうだな、怖くないよな。…………ふっ」
許嫁「っ……」
男「じゃ、ほかのところに――」
許嫁「……良いでしょう」
男「え?」
許嫁「あなたがそこまで言うのだったら付き合ってあげるわ。ココにね」
男「え」
許嫁「こんなの。こんなの、まるで怖くないって私知ってるし。オバケなんていないし……いないし!」
許嫁「……ええ、良いわ。良いでしょう。付き合ってあげるわよ」
男「あ……」
男(ま、負けず嫌いが発動しよった)
許嫁「ただ、そうね。そこまで言ったのだから。私を満足させられないつまらないものだったら、そのときは責任を取ってもらうわよ」
男「なんだ、責任って」
許嫁「えっと……そうね。だったら……謝罪。そう、無礼を謝罪してもらうわよ?」
男「謝罪? まあ、それくらいだったら別に――」
許嫁「あ、謝罪って言っても、このお化け屋敷のことだけじゃないから」
許嫁「あなたが、今までに私に働いた無礼をすべて。謝ることね」
男「へ?」
許嫁「例えば……そうね」
許嫁「まだ来たばかりで何も分からない私に、親切そうな顔をして昼食代を押し付けたりとか」
許嫁「お風呂場で、私にその……見せ付けようとしたこととか」
許嫁「嫌がってる私を、ムリヤリ強引に看病したこととか」
男「おい、全て言い方がおかしいぞ」
許嫁「それから、それからね」
男「……まだあるの?」
許嫁「たくさんあるわよ。テストのときなんて――」
……
許嫁「そう言えば。射的で一緒にぬいぐるみを取った、なんてこともあったわね? あなた覚えてる? あのコだけど――」
男「何か話逸れてない?」
許嫁「あ……。ま、まあそういうわけだから。そういったこと、すべて謝罪してもらうわよ……皆の前で」
男「……皆の前?」
許嫁「証人としてよ。クラスの皆の前で謝ってもらうわ」
男「おいおい。そんなことしたら俺たちの同棲、ひいては許婚であるということが皆にバレてしまうではないか」
許嫁「あら、そう? でも、特に問題はないわね」
男「え。問題ない……か?」
許嫁「別に誰に知られても、私には特に困ることなんてないけど。……なのに、あなたにはあるって言うのね」
男「い、いや、ないことはないんじゃないか? 色々と、やっぱり、その」
許嫁「……ふん。あなたの器の小ささが露呈したわね」
男(み、皆に知れ渡っても構わないっていうのか? コイツ)
許嫁「まあ良いわ。そこまで嫌がるなら、皆の前で、っていうのは考えてあげなくもないけど。謝罪はしてもらうから」
男(なぜたかがお化け屋敷でこんな話に)
許嫁「じゃあ、そういう訳だから。は、入るわよ」ゴクリ
男「……無理してない?」
許嫁「し、してないわよ。……オバケなんていないのに、無理する必要なんてないわ」
男「……」
許嫁「いないから。いないもの、いない。いないわ……そう、いない。……大丈夫、大丈夫よ」
男「……やっぱり、止めにしない? 謝罪は、まあ……ある程度だが、ちゃんとしよう」
許嫁「何よ、今さら怖気づいたわけ? 私はもう覚悟を決めたわ……い、行くわよ! イザ!!」ダッ
男「あ、お、おい!」
『あくのじゅうじか』
許嫁「……」ソロソロソロソロ
男「お、進路は……っと」
許嫁「……」キョロキョロキョロキョロ
男「こっちか」ツカツカ
許嫁「あ、ちょ、ちょちょ。早い、待っ」
男「おお? この右のヤツ。よく出来てるなあ、コレ?」
許嫁「? みぎ……? っ!? ひぃぃっ」ガッ
男「がっ!?」
許嫁「っ……、……ぅ」
男「……、おい」
許嫁「な、なに? ……今度はど、どっち?」
男「違う。……そんなに腕を力強く掴まれては歩きにくいのだが」
許嫁「あ……」バッ
許嫁「その……これは……その……ちが……」
ドーン
男「うおっ!?」
許嫁「……っはああああぁぁぁぁ」ギュウウウウ
男「くび! くびはやめて! くび締まってるぅ!」
男(怖がってるのは承知してたが……こ、ここまでとは)
男(動転しすぎだろう)
男「……悪いが、首は、止めてくれ」
許嫁「……え? あ……あ! 私……あなたに……」
許嫁「ご、ごめんなさい」パッ
男「いや。じゃあ、先に進むか」
許嫁「え、ええ……」
男「……」スタスタ
許嫁「…………ぅぅ」トボトボ
男(そんな顔するなよ。……ったく)
男「……暗闇ではぐれるのも、困るし」
許嫁「……え?」
男「腕なら別に掴んでいても構わない、かな……まあ……」
許嫁「あ……。う、うん。そうね」
許嫁「はぐれると、悪いものね。暗いし入り組んでるし……。う、うん、分かった。じゃあ」
許嫁「……あ、これって」
許嫁「……」
男「ん? どした?」
許嫁「いえ……で、では……し、失礼します」
男(失礼します?)
許嫁「……ん」ギュ
男「よし、次に進むぞ?」
許嫁「え、あ……、は、はい」ギュウ
男(はい?)
男「……」テクテク
許嫁「……」ソロソロ
男「……」テクテク
許嫁「……ぁ」スルッ
男「……」テ
許嫁「……、ん」ギュ
男(……)
男(……この感じ)
男(気がつかなかったな)
男(こんな風に誰かと歩くのって、いつが最後だっただろうか)
男(……)
男(何かと理由つけて、まとわりついてくるの好きだったものな)
男(小さい頃からずっと……)
男(……)
男「……」テクテク
許嫁「……」ギュウ
男(にしても、コイツ怖がりすぎだろう。耐性全くないのか?)
男(まあ、このお化け屋敷も本当に良く出来てるからな。正直俺も、ここまでの出来とは思わなかったぜ)
許嫁「……思ってたより、ずっと凄い……」ボソ
男「え?」
許嫁「あっ。ち、ちが……! い、今のは――」
男「……ああ。そうだな。俺もそう思う。正直に言えば、思ってたより凄く良かった」
許嫁「え……え?!」
許嫁「そ、そう思うの……? あなたも……?」
男「ああ」
許嫁「へ、へー。い、意外ね?」
男「意外? そうか?」
許嫁「その……。あなたって、こういうのあんまり、……好きじゃないのかなって」
許嫁「だから、そんなこと言うなんて思ってなかったわ。私」
男「? そんな興味なさそうに見えたか?」
許嫁「きょ、興味って。その……うん」ギュ
許嫁「……あなたって、分からないところも、まだまだあるから」
男「ん、そうか。でも、人並みには興味あるぞ?」
許嫁「……そうなの。……だ、だったら」
許嫁「あ、あなたさえ、良ければ。その、たまには……ど、どうかしら?」
男「たまに?」
許嫁「あ、いや。別に、私はどっちでも良いんだけど? その、あなたが、そうしたい、なら、だけど……」
男(何だ、実際体験してみたら、案外楽しかったってことかな。こういうホラー関係)
男「ああ、まあ……。じゃあ機会があればな」
許嫁「き、機会なんて、いつだってあるじゃない。別に……いつだって」
男「つっても、お化け屋敷なんて遊園地くらいしかないだろうしなあ」
許嫁「……。……へっ?」
男「そんなに行く機会なんてないしなあ……あ、ホラー映画とかそういうこともか?」
許嫁「……え」
許嫁「……い、今の。お化け屋敷の話だったの?」
男「? 違ったの?」
許嫁「あ……い、いえ! ち、違わないけど!?」
男「何でそんなに動揺して」
許嫁「ど、動揺なんてしてないわよ?」
男(? お化け屋敷の話じゃなかった? だとすれば、いったい何の――)
許嫁「お、お化け屋敷の話をしてたの! 私も!」
許嫁「たまにはこういうのもいいかなって思ってたわね! 私も! あなた! もー!」ギュウウ
男「っ。おい、強い、掴む力強いって――あ」
ホロロロロロロロロロロロ
許嫁「あわわわわわ!?」ギュウウウ
男「痛あーい!」
……
許嫁「ああああああああああ」ギュウ
許嫁「わああああああああああああ」ギュウウ
許嫁「きゃああああああああああああああ」ギュウウウ
許嫁「いやあああああああああああああああああ」ギュウウウウ
男「いたあああああああああああああああああああああ」
……
許嫁「……う、うぅぅぅぅ」
男(け、結構キテますね。まだ半ばくらいみたいだが、大丈夫か……ん?)
男「お、これは」
許嫁「っ? こ、今度は何……?」ギュウ
男「看板だ。なになに……『ここで、こっちの扉からリタイヤできます』とある」
許嫁「あ……」
男(……ちなみに現国の先生も、ここで『くっ殺せ』と捨て台詞を残して去ったと書いてある)
男(ついで、この先はもっと恐ろしいものが待ち受けている、とも)
男(……)
男「あー、結構。面白かったな?」
男「まだ少しだけ残ってるみたいだが、ほぼほぼ終わったようなものと考えて良いだろう、うん」
許嫁「え……」
男「この先は蛇足みたいなものだろうし、それに文化祭の時間も限りあるからな?」
許嫁「あ……」
男「確かに面白かった! いやあ堪能したぜ! 思ったより、ずっと凄かったな? ハハハ」
許嫁「……う、うん。そうね。まあ、認めてあげないこともない……かしら」
男「よし。じゃあ、次のクラスに向かうってことで……良いか?」
許嫁「え、ええ。あなたがそうしたいって言うなら、そこまで否定するものでもないから」
男「よっしゃ。じゃあ出るか……っとちょっと狭いな。この途中出口」
スルッ
許嫁「あ……」
許嫁「……」
男「うし。この扉か」グッ
許嫁「ま、待ちなさい」
男「?」
許嫁「あなたね……逃げる気?」
男「へ?」
許嫁「まだ終わってないわね、このお化け屋敷。それなのに途中で立ち去るなんて、良いのかしら?」
男「え?」
許嫁「私、見たわよ。『この先はもっと恐ろしいものが待ち受けている』って書いてあったわね」
許嫁「なのにあなたは。途中で逃げ出すのね?」
男「え、えぇ!?」
許嫁「怖いんだ? あなた、怖いんでしょう?」
男「そ、それは俺じゃなくて――」
許嫁「だから、そうやって逃げようとするのね」
男「逃げ……? 違う。逃げようなんてしてないぞ」
許嫁「あらそう? じゃあ、続けるべきだわ。そうじゃないかしら?」
男「いや……えぇ……?」
男(きゅ、急にどうしたんだ、コイツ? 情緒不安定か?)
男(あまりにもコイツが怖がりすぎてるから、配慮したつもりだったんだが……)
許嫁「ここで尻尾を巻いて逃げるのね、あなた。負け犬のように」
男「む……、そこまで言うか。なら続けるぞ? 本当に良いのか?」
許嫁「ええ。さっきから、そう言ってるのよ私」
男(分からんヤツだ。負けず嫌い……か?)
男「分かった。じゃあ行くぞ、後半」
許嫁「ええ。行きましょう。じゃあ……ん」
ギュッ
男「……」
男(さも当然のように腕を組んできたのです)
許嫁「…………………………………………えへへ」ギュウ
男(しかし、このときの私には想像もできませんでした)
男(まさか、私の腕があんなことになるなんて)
許嫁「っ。っああああ、き、きゃああああああああああ」ギュウウウウ
許嫁「あ、ああ!? こ、こっちも何かいるわよ、あなた!!」ギュウウウウウ
許嫁「あなた、こっちも、いて、ど、どどどどどどうしよう!?」ギュウウウウウウ
許嫁「あ!? こっち! こっちだったら大丈夫みたい! ……あ、あなただけでも……」ギュウウウウウウウ
許嫁「あ、ああ!? だめ! そっちだめ! あなただめ!! 行っちゃだめ!!!」ギュウウウウウウウウ
男(くれてやる……腕、一本……くれてやる……っ)
……
男(うでいたい)
男(ものすごくうでいたい)
男(だがしかし、それと同じくらい……怖い。正直に言って、怖い)
許嫁「……ぅぅ、ぅぅ、ぅ」ギュウウウウウウウ
男「や、やー。もうそろそろ終わりみたいだな! 良かった、正直に言って、怖かったなー?」
許嫁「ぅぅぅぅぅぅぅ」ギュウウウウウウウ
男(コイツの感情、臨界点突破しそうなのが怖い)
男「ん……お! 良かった、やっと出口だ! ほら、もう終わりだ! 終わりだぞ!」
許嫁「ぅ……ぇ……終わ……り? ぁ……。…………あ、あら……案外――」
男「あ」
くくくケケケケケケケケケケけけけけけけっけけっけ
許嫁「…………」
男(最後安心したところにね、ズバッとね。さすがですね、心得てらっしゃる)
男(ただ。今は止めてほしかったぜ……)
許嫁「………………う……」
男(あ)
許嫁「ぅ…………ぅう……………」
男「大丈夫、大丈夫だ」
許嫁「っっっっ。ぅぅぅうぅうっうっうっうっうっうっ……ひっ」
男「もう本当に終わりだから。ほら、安心して大丈夫だぞ?」
許嫁「ひっ……ひっ……ひっ……ひっ……ひっ……ひっ……」
男(あ。これ、もう無理な感じだ)
許嫁「ぅっぅっうっうっうっ、……ぇぇぇぇぇぇぇぇん」
許嫁「うえええぇぇぇぇ……えぐっえぐっひっひっひっくひっく」
男(……しまった……)
……
屋敷外
許嫁「うぅ……うぅ……」スンスン
男「……ほい」チリ紙
許嫁「……」チーン
男「ほい」チリ紙
許嫁「……」チーン
男「ほい」チリ紙
許嫁「……」チーン
許嫁「……う、……ぅ」
男(こんなことになるとは)
許嫁「……すん……すん」
男(調子に乗りすぎた、俺)
許嫁「すんすんすん」
男(これからは、もう泣かせないように)
許嫁「……すん……すん……」チーン
男「ごめん、謝る。悪かったよ」
許嫁「……? 何を……?」スンスン
男「いや、お化け屋敷。元を辿れば、俺が無理に――」
許嫁「ああ、あれのこと……?」スンスン
男「え?」
許嫁「……まあ、多少は見られるところも……あったけど……。……すん」
男(すん)
許嫁「……言うほど。大したこと、……なかったわね……?」スンスン
男「……すごいねお前……」
男(腕はまだギュッとしたままであった)
今日は以上です。では
……
許嫁(メイド服)「……。…………すん」
男(時間がたって。少しは落ち着いてきたかな)
許嫁「………………………………はー」ギュウ
男「そういや、もう昼時だけど」
許嫁「……?」
男「お腹、空いてこないか? 何か食べようか?」
許嫁「え、ええ。そうね……スン」コクン
男「うーん、何がいいかな。色々あるから悩むぜ……何か食べたいって希望ある?」
許嫁「……あ」
男「?」
許嫁「ちょ、ちょっと顔……いえ。その……少しだけ、席を外す……わね」スッ
男「ああ」
男(……泣いた顔、あまり見られたくないのか)
男(今更だけどな。もうバッチリ見てるし)
男(別に変じゃないと思うけどな)
許嫁「……待たせた、かしら」
男「うんにゃ。じゃあ適当に歩いてみて、良さそうなものあったら食べてみようか」
許嫁「え、ええ。そう……しよう、かしら」
男「よし。じゃあ、こっちから周ってみようぞ」スタスタ
許嫁「……」
男「? どうした?」
許嫁「いえ、その……ぅで……を……」ボソ
男「?」
許嫁「あ……い、いえ。な、何でもないわ。何でも……」
男「そか、じゃあ行くぞ?」
許嫁「え、ええ……」
許嫁「……」
許嫁「……」ブンブン
男(なんとも読み取れない表情で、腕をふり回した……どうした?)
男「ほー。結構色んなもの出てるんだ」テクテク
許嫁「……そう、ね」テクテク
男「好き嫌いや苦手な食べ物はなかったよな?」
許嫁「……知ってるでしょ?」
男「確か――俺の作った料理くらいって言ってたな、嫌いなのは」
許嫁「え? あ……よく覚えてるわね。そんな、随分前に言ったことなんて」
男「今までの無礼がどうこう、とお前はよく言うが。俺だってお前の暴言をよく覚えているぞ。フフン?」
許嫁「え……あ、そう……そうなの。そうなんだ、あなた」
男(アレ? 何か少し嬉しそうじゃない?)
男「そういや前から思ってたんだけど。お前ってさ」テクテク
許嫁「……何?」テクテク
男「今まで食べたことなかったってもの、結構多いよな。ジャンクフードとか」
許嫁「……まあ、そうね。口にする機会がなくて。……それが?」
男「なのに『初めて食べましたわ! これウッマイですわ!』なんて聞かなかったな」
許嫁「? 何それ? そんなこと言わないわよ。……聞きたかったの?」
男「いや、お嬢様ってそういうものなのかな、って思っててさ」
許嫁「……前から思ってたのだけど。あなたの『お嬢様』のイメージ、ちょっと変じゃないかしら?」
男(いや、それはお前も十分――)
許嫁「悪かったわね、私も十分変なお嬢様で」
男「ゲッ。心読みやがった!? こいつ……さてはエスパー!?」
許嫁「認めるな、ばか」ポコ
男(調子、それなりに戻ってきたかな?)
男「さて。そしたら、どこか決めて入るか――」
先輩「あ……あーっ!? 良かった、来てくれたんだね!」
許嫁「?」
男「う……先輩」
先輩「ずっと待ってたんだよ、キミのこと!」
男「そ、そうですか。それは、どうも」
男(正直に言って、今はあまり会いたくなかったような)
許嫁「……」
先輩「なかなか来ないから、不安になったんだぞい? 先輩を焦らしプレイとはキミもお好きですなあ!」ウリウリ
男「わ、脇腹グリグリするのやめてくださいよ」
先輩「キミが来てくれたというコトに対する嬉しさの表現さ! キミの御褒美をも兼ねておるのじゃ!」ウリウリ
男「そ、そんな趣味持ってないですよ!」
許嫁「……」
先輩「もちろん、キミは食べていってくれるん……だよね? 約束、守る人だよね?」
男(一方的な約束だったような覚えがあるが)
男「ああっと、どうする? 良いか?」
許嫁「……。私は、構わないけれど」
先輩「ムム!? んーと。確かキミのクラスメイトさん、だったかな?」
許嫁「ええ。……ドウモ」ペコリ
先輩「あ、これはこれはご丁寧に……ドウモ」ペコリ
許嫁「……」
先輩「……」
男(なんだこの沈黙)
先輩「……何だか随分と。仲よさそうじゃない? キミと」
許嫁「っ」
先輩「もしかして、二人は特別な関係だったり?」
男「いえ。そんなことは――……?」
許嫁「……」ジー
男(うおっ。ぜ、全力でこっち見てきますね)
男「あー……どう見えます? 先輩から見て」
先輩「なっ。なかなかズルいねキミ。質問を質問で返すとはな!」
焼きさば屋
『異端審問』
先輩「では二名様。こちらのお席へごあんなーい♪♪」
男(先輩の冗談じゃないかと疑ってたが……本当にサバとは)
男(まあ、サバが奇妙だとか何とか言ってた話は、さすがに信じるわけもない……ん?)
ガサガサガサ
男(今調理場らしきところで何かが……)
『あ! 逃げたぞ!』
『馬鹿、早く捕まえろ! バイオハザードを学校で起こす気か!』
『絶対……絶対に噛まれるなよ!! もう血清は底をついてるんだ……っ』
男「……」
男(見なかった、聞かなかったことにしよう)
先輩「どうぞ。こちらが当店のメニューになります!」
許嫁「はい……え?」
先輩「フフフ。一見ただのじゆうちょうですが! こうやって念をこめて擦ると――」
先輩「むにゃむにゃむにゃ……はいっ。当店のメニューになりましたあ!」パチパチ
許嫁「……あ、はい。どうも、ありがとうございます」
先輩「……。あ、いえ……」
男(この二人、お互いやりにくそうな感じがするぞ)
男(……)
男(むしろ先輩のほうがいつも見る姿より、ぎこちない気もするが)
男「メニュー多いですね……多すぎじゃないですか?」パラパラ
先輩「本来は焼き鯖だけ出す予定だったんだけどね。白飯だよ! って頑なに主張する人もいて」
先輩「では定食を試すか、とか何とかやってるうちに。どんどんメニュー増えていっちゃったんだよ」
許嫁「……」パラパラ
男(ここはできるだけ無難そうなものを選ぼう)パラパラ
先輩「ねね。ところでだけど。私ね、あと少しだけ働いたら、フリーの時間なんだよ」
男「? ああ、そうなんですか?」
許嫁「……」パラパラ
先輩「そそ、そうなんです。だから、このあとさ。キミが良ければ。私と一緒に文化祭周ってみない?」
許嫁「……!?」
男(こ、この状況でこれを切り出してくるってスゲーなこの人)
男「今日は一日中先約があるので。すいませんけど」
許嫁「……」
許嫁「……」パラパラ
先輩「そっか。じゃ、それならさ。その先約の人と三人でっていうのはどうじゃろ、どうじゃろ?」
許嫁「……」パ
男「いや、さすがにそれもちょっと。悪いですが」
先輩「ナハハ。そりゃそうだよね。ちっ。もうちっと早くに気がついてキミを誘っておくべきだったか」
許嫁「……」
先輩「……キミは知ってるかな? この学校には、文化祭にまつわる言い伝えのようなものがあるんだってさ!」
男「あー……つい最近、聞いた覚えがありますね」
先輩「そう? あのね、後夜祭ってあるじゃない? 実はそのときね、イルミネーションが――」
許嫁「あ、あの! 質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
先輩「あ……はい、どうぞ?」
許嫁「こちらの料理って、細かい注文には応えてくださるのかしら?」
先輩「え、ええ。出来る限りであれば対応いたしますよ」
許嫁「そうですか、ありがとうございます。私は注文決めたわ……あなたは、どうかしら?」
男「そうか。じゃあ俺は――」
先輩「キミはコレだね? 私のイチ押し『〆さば納豆チョコグリーンピースミックスサンド』!!」
男「……。……正気ですか? 字面に戦慄すら覚えるんですが」
先輩「私はいつも正気だよ、フフフ。じゃあキミはこれね?」
男「いや、ちょっと」
先輩「遠慮しなさんなって。これ私の考案したメニューだし、ぜひキミに食べて貰いたいのだよ!」
男「いや。その……えぇ……」
許嫁「私は、フィッシュ・アンド・チップスの……フィッシュ抜きで」
男「……それじゃただのフライドポテトじゃない?」
先輩「かしこまりました、あいあいさー!」
男(いいのかよ。俺もそっちにしたい)
先輩「ではでは少々お待ちください。ちょっぱやでお持ちいたしますよ、マジで」シュンッ
許嫁「……仲が、良いみたいね。随分と」
男「先輩と? どうかな。まあ、ああいう人だから。さっきのも半分冗談だと思うけど」
許嫁「ふーん。そうなの。……あなたは、一緒じゃなくて、良かったのかしら? センパイと」
男「お前はそれでも良かったの?」
許嫁「え? あ、私は……。今はあなたの話をしてるのよ、あなたはどうなのかって話をしてるの」
男「まあ、俺だって。文化祭、このまま楽しく周りたいと思ってるからな」
許嫁「そう。そうなのね。あなたも……」
許嫁「……?」
許嫁「え? 今のって。あなた――」
男「お、もう来たぞ。本当に凄まじく早いな」
許嫁「え、あ」
先輩「お待ちィ!」シュンッ
先輩「こちらフィッシュ・アンド・チップスのフィッシュ抜きにすでになっていまーす!」
男(これは、ただのフライドポテトだが……しかし)
男「いくらなんでも量、多くないですか? 二人でも食べきれるかどうか……」
先輩「ふふ。サービスサービスぅ!」
男(山盛りじゃねえかコレ)
先輩「そして、お待たせしました。こちらが……」
先輩「れでぃーすえんじぇんとるめーん!」
先輩「『〆さば納豆チョコグリーンピースミックスサンド』の登場だあああああ!」
〆さば納豆チョコグリーンピースミックスサンド「……」
男「……」
許嫁「……」
先輩「……」
男(ぜったい正気じゃない)
〆さば納豆チョコグリーンピースミックスサンド「……」
男「……口にしても大丈夫なんですか、コレ?」
先輩「もっちろんよ! シミュレーションでは完璧だったからね!」
男「じ、実地試験は? してないんですか!?」
先輩「……、さ、どうぞどうぞ。おあがりよ!」
男「せ、先輩?」
許嫁「……」
男(早く食べなさいよね、とでも言いたいような目でこちらを見てくる)
男(……ま、まあ食べられないようなモノは入ってないみたいだし、大変なことにはならんだろう……)
男(と思いたい)
男「……よ、よし。それでは」
男「い、いただきます――」パク
男「……」
男「……うっ」
男「……? あれ、今いったい俺は」
先輩「ワオ! よっぽど美味しかったのね! 嬉しいわ!」
男「え……?」
許嫁「……それ、そんなに美味しかったの?」
男「え。いや、俺……食べたの?」
許嫁「何言ってるのよ。凄い勢いで、一度に食べてしまったじゃない」
男「え……えええ?!」
男(ば、馬鹿な。全く記憶がないぞ)
先輩「嬉しいな。心を込めて作った料理。そうやって食べてもらえると、嬉しいな!」
許嫁「……」
男「い、いや……えぇ……?」
男(まるで時間が飛び去ったような感覚だ)
男(虚無感だけが残っている……)
許嫁「……ん」モグモグ
男「そ、そっちは大丈夫か? 変な感じとか、しないか?」
許嫁「? うん。思ってた通りの味よ。量は多いけど……」モグモグ
男「そ、そうか。ならいいんだが……」
先輩「……えへへーへっへ」
男「?」
先輩「やっぱりさ。料理できる女の子のほうが高ポインツだよね? キミも!」
男「え? ええ。そう……ですかね」
許嫁「……」モグモグ
先輩「ど、どうかな? こんなに料理を美味しく作れる、ちょっと年上女子なんて素敵じゃないかな?」
男(正直、今のが旨かったかどうかも分からないんだが)
許嫁「……」モグモグモグモグ
先輩「……やっぱりキミだ」
先輩「ちょっと臆病だったけどね、キミに決めた!」
男「何の話です?」
先輩「……えへへ。あの、あのですね。実は、ですね……その。ちょとだけキミに頼みたいことが……あるんだけど」
先輩「あ、そのー。あは……ココじゃ、ちょっとアレなんですけどなー」チラ
許嫁「……?」
先輩「あの。彼、借りていいかな?」
許嫁「え……」
男「ここじゃ駄目って話なんですか?」
先輩「う、うん。その、個人的に、内密に。キミにお話をしたいことが、ございまして……」
先輩「あ、そんなに、難しく考えなくて良いことなんだけどね。スケジュール的に無理だったらそれで良いですしおすし!」
先輩「どうですかね? 彼を……」
許嫁「え、あ……」
許嫁「……」
許嫁「……。別に、私のものではありませんから。お好きにお持ちになって結構ですわ」ニコリ
男(あ、他所様向けの飾った振る舞いだ)
先輩「なんだ、そうだったんだー。良かった、安心したぜ。じゃあ遠慮なくいかせていただきますよ!」グイッ
男「あ、ちょ。強引に腕掴まないでくださいよ。ちゃんと行きますから!」ワタワタ
許嫁「……。どうぞ、ごゆっくり。そんな人でよければ」
許嫁「……」
許嫁「……もー。私……」
今日は以上です。では
先輩「この隅っこだったら、誰にも聞かれないかな? へへへ」
許嫁『……』
男(すぐ見える位置にいるが……険しい表情で山盛りのポテトを見つめてるぞアイツ)
男「で、何ですか頼みたいことって」
先輩「あ、う、うん。実はね。その……うん。え、えへへ」
男「……何ですか?」
先輩「カ、カップルコンテストって、キミは知ってるかな?」
男「カップルコンテスト? ……ああ、確か。後夜祭の特設ステージでやる予定でしたっけ」
先輩「そ、そう! それです、それなんです!」
男「それがどうしたんです?」
先輩「……じ、実はその」
先輩「その、私。出場することになってましてー」
男「へー。そうなんですか。先輩だったら、人気もあるし。賞とかも狙えるんじゃないですか?」
先輩「……むん」
男「?」
先輩「先輩全然嬉しくない、それ」
男「え?」
先輩「分かってないの? 分からないふり? それとも私は攻略不可キャラだと思ってる?」
男「……はい?」
男(時々ぶっ飛んだこと言うよな、この人)
先輩「カップルコンテストには、おひとりさまでは出場できないんですよ? 相手が誰、とかキミは気にならないのかなーって」
男「ああ……。一体誰と出場する予定なんですか?」
先輩「……」
男「センパイ?」
先輩「……カップルコンテストには、おひとりさまでは出場できないんですよ」
男「……まさか。相手、決まってないんですか?」
先輩「え、えへへ……」
男「どうしてそんなことに?」
先輩「細かく説明するとアレなんだけど、つまり。友達が勝手に応募した、とか付き添いのハズが、とかそういうことなの」
男「全然伝わってないんですけど」
先輩「ま、まあ、いーじゃない。今は原因究明より目前の問題に対処すべきときなんよ!」
男「……あー、つまり。俺にお願いしたいことってのは――」
先輩「あ……う、うん。その……お分かりいただけただろうか……?」
男「その相手に心当たりがいれば紹介して欲しいということですか」
先輩「違うわ! 黙れ! コワッパ! こわっぱ!」
先輩「……もう、キミ。もしかして分かってて言ってる? ならば……私はストレートに言おうぞ!」
男「いえ。俺は――」
先輩「……あれ?」
男「?」
先輩「あ、改めて、ってなると。ヤッパリ少しハズかしいものなのだなっ。なははは」
男「……」
先輩「はは……じつは私結構臆病なのだよ……け、けど言うぞ! 言っちゃうぞ!」
先輩「……そ、それでは」コホン
先輩「私のお願いっていうのは、ただ――」
先輩「キミと……キミと一緒にカップルコンテストに出たい……のですよ。先輩は」
先輩「キミだけ。一緒に出たいのは、キミだけなんだ。キミじゃ、なきゃ」
先輩「……あ、あはは。その、そんな重く考えずにさ。困っている人を助ける、って思ってさ」
先輩「あ、そうだ!」
先輩「もしも、その。一緒に出てくれたら。キミのお願いも、何でも聞いてあげよう!」
先輩「何でも……何でもだよ?」
男「……」
先輩「ど、どうでせうか!? いかがか!?」
男「……先輩」
先輩「は、はいっ! 答えをドウゾ!」
男「先輩は、どうして俺を誘いたいんですか?」
先輩「……え? ええ!?」
先輩「こ、ここで!? ここでそれ言わせちゃいますか? まだちょっと早いんじゃないかな? 早いかな?」
先輩「だ、段階ってものもあるし。その。急いてはコトを仕損じるって昔のことわざにも――」アタフタ
先輩「あ。こ、コトってそういうコトじゃないからね? ……全くないってワケでもないけど、その……」
男「……」
男「以前から、気になってたことがあるんです。先輩のことで」
先輩「なな何でしょうか! あ、さてはスリーサイズかなあ!? 上からね――」アタフタ
男「……先輩。何か、無理してませんか?」
先輩「……えっ?」
男「特に最近。先輩と向かいあってるときに思うんです」
先輩「……」
男「先輩と話してるのはその、楽しくはあるんですが……少し、無理してるんじゃないかなって」
男「単に俺の勘違いかもしれません……だったら、すいません。とても失礼なことを言ってますね」
先輩「……」
男「今の話でも、本当に先輩は俺と――」
先輩「……何か聞いたの?」
男「? 何をです?」
先輩「……。無理なんて、してないよ――あ、ちょっとはしてるかな?」
先輩「だって、ねえ? こうやって誘うのってちょと恥ずかしいじゃない?」
先輩「だから、そういう意味ではちょっと無理はしてます、ねへへ」
先輩「だけど。普段キミと接するときに無理なんてしてないよ?」
男「……。そうですか、すいません。変な話をしましたね」
先輩「ううん。全然! それってキミが私を気にかけてくれてるってことでしょ?」
先輩「だったら。私には嬉しいことだ! ウムウム!」
男「すいません、先輩。そう言うのでしたら、今のは忘れていただけると助かります」
先輩「はい、分かりました。1、2のポカン! あれ、忘れてしまったぞ!?」
男「ハハ、ありがとうございます」
先輩「フフ。で、どうでしょう。返事は? ハイかな、イエスかな!?」
先輩「困ってる先輩を助けると思ってさ! どうか、どうかこの通りじゃよ!」フカブカ
男「……」
男(本当に困ってるっていうなら、助けたいとは思う)
男(けど――)チラッ
許嫁『……』
男(ん? アイツ……)
許嫁『……』バクバク
許嫁『……』バクバクバクバク
許嫁『……』バクバクバクバクバク
男(い、一心不乱に目前の山盛りポテトを召し上がっておられる)
男(ポテトをそんなに睨んで……親のカタキか何かか?)
許嫁『……』バクバクバクバクバクバク
許嫁『……』チラッ
男(む、こっちを見た)
許嫁『……』ムゥ
男(なんだ、物言いたげな目をして)
先輩「あ、よそ見してるんだ。もー! 私のことだけ、ちゃんと見てなさいよね!」グイッ
男「何ですか、そのキャラ?」
許嫁『……っ』バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク
男「……残念ですが、後夜祭ももう先約がありまして。一緒に出場することはできません」
先輩「ん……そか。やぱ、駄目でしたか……」
男「すいません、困ってるところを力になれずに」
先輩「ううん。無茶なお願いなのは分かってたことだし仕方ないのである」
男「……相手のことなんですが。よければ、俺の知り合いにでも当たって――」
先輩「おっと。その先は言わせねーぜ? 言ったろ? 私にはずっとキミだけだって」
男「……そうですか」
「すいませーん、店員さーん。注文いいですかー?」
先輩「おあっ! ちょっち公私混同しすぎちったかな。仕事に戻らねば、私は」
先輩「はーい! お客様。今行きまーす! ……帰りには声かけてね? 無視しないでよ?」
男「あ、はい。分かりました。では」
男(……)
男(……どうも、この人。どこまで本気なのか分からないんだよな)
男(俺の考えすぎだろうか)
……
許嫁「あら? もう終わったの?」
男「ああ。悪い、待たせたな」
男(あれ? ポテト山盛りだったのに。一人で食べきったのか、コイツ?)
許嫁「全然待ってないわよ? もう、いいのかしら。あなた、満足されました?」ニコ
男(あ。この表情……)
男(お嬢様はご機嫌ナナメでいらっしゃるようですね)
許嫁「別に何の話だったかなんて、知らないけれど。私興味ないから、言わなくていいわよ」
男(何も言ってねーけど)
男「そうか、分かったよ」
許嫁「……。例えば、大雑把でもどういう話だったのか、なんてことも。その……言う必要ないわね」
許嫁「気になんて、してないから……全然」
男「……。まあ、後夜祭のカップルコンテストに一緒に出場しないかって誘われただけだ」
許嫁「え? あ、そうなのね。後夜祭の――」
許嫁「……」
許嫁「……?」
許嫁「カッ……。 カッ……? ……かっ……?」
男「カップルコンテスト。あ、もしかしてお前知らなかったか?」
許嫁「……かっぷる? なにそれ? わたしかっぷるしらないかもしれない」
男「後夜祭、特設ステージでコンテストあるって言ったろ? そのうちの一つであるんだ、カップルコンテスト」
許嫁「……」
男「それに誘われたんだよ。先輩から。パートナーがいなくて、困ってるから一緒に出てくれないかって」
許嫁「……ぇ」
男「まさか、そんな話だとは俺も思わなかったよ。……ん?」
許嫁「…………ぇ……」
男(な、なんつー顔をしてるんだコイツは!? 世界の終わりでも見たのか?)
今日は以上です、では
許嫁「かっぷる……?」
許嫁「あなた……あのひとと……かっぷる……。……かっぷるって……?」
男「も、もちろん断ったんだがな! 勘違いしていないよな?」
許嫁「かんちがい……。え……?」
男「そんなのに出る気なんてさらさらねーって」
許嫁「……かっぷるちがう……?」
男「あ、ああ。違う。カップル違うぞ」
許嫁「かっぷるちがう」
許嫁「……」
許嫁「な、なんだ。そうなの。あなた断ったんだ」
許嫁「…………はー」ボソ
男「……」
許嫁「……あ」
許嫁「……」
許嫁「そ、そうなのね。そうなの。ふーん。そうなの。ふーん」
許嫁「別に、私勘違いなんてしてなかったけど? そうなのね。ふーん。へー」
許嫁「へー。カップルコンテストにねー。あなた誘われたのねー。ふーん」
男「ああ。ま、そういう話だったよ。光栄っちゃ光栄な話なんだが」
許嫁「……へー」
男「驚いたぜ。先輩は突飛なことを言うとは知ってたつもりだがな。俺がカップルの相手役とは」
許嫁「……」
許嫁「それは、よっぽどの事情があったみたいね?」
男「え?」
許嫁「あんな美人な人が、相手にあなたなんかを選ぼうとするなんて」
男「ん、ああ。そうみたいだな」
男(……『キミじゃ、なきゃ』か。先輩どこまで本気だったんだろ?)
許嫁「つりあってない、とまでは言わないけど。その……あの人とあなたとじゃ、違う気がするものね?」
男「違う? 何が?」
許嫁「えっ? あ……私……。あ、で、でも、あなたは良かったのかしら? それで?」
許嫁「あなたは。その……出なくてもよかったの?」
男「後夜祭は一緒に屋上だったろ? そんなのに出てる暇ないように思うが。……まさか、忘れたのか?」
許嫁「わ、忘れるわけないでしょう! あんなに色々考えたのに……」
男(色々考えた?)
許嫁「でも。もしも、私に遠慮してるのだったら。そんなの必要ない、わよ?」
許嫁「……」
許嫁「あなたが、そっちに行きたいのだったら」
許嫁「そんなのだったら必要ないから。必要ないから、お気になさらず、あなたは――」
男「遠慮なんてしてねーよ。俺が自分で選んだんだ」
許嫁「……あ」
男「さっきも言ったろ。俺も文化祭楽しみたいって」
許嫁「……うん」
許嫁「そ、それってね? その、つまり。あなたは、私と一緒で――」ボソボソ
男「けど、そうだな。そこまでお前が言うんだったら」
許嫁「え?」
男「先輩と出てみるのもアリかな? 何事も経験だしな?」
許嫁「…………ぇ……」
男「な、なーんてね! モチロン冗談ですYO!」
男(自分から言っておいてその顔やめい)
……
会計
先輩「では、こちらがおつり三百万円だよ! ご利用ありがとうございました」チャリン
男「ご馳走さまでした、先輩」
先輩「ううん。来てくれてアリガトね……二人とも」
許嫁「いえ……」
男「一応、約束のはずでしたし」
先輩「一方的だったけどね?」
男「自覚あったんですか、先輩」
先輩「へっへへ」
男「では、これで――」
先輩「……よいしょっと」グイッ
男「っと。な、何ですか? 腕掴んで」
許嫁「……ぇ」
先輩「……」グイグイッ
男「センパイ?」
先輩「……」ウリウリ
男「あ、ちょ!? だ、だから。脇腹グリグリするのやめてくださいよ」
先輩「……。私。いっつも、キミにお願い断られてるような気がするなー」ウリウリ
男「え」
許嫁「……」
先輩「大事なお願いほど特に。……本当は、キミと出たくて。申し込んだのだよ? カップルコンテスト」ウリウリ
男「え?」
許嫁「ぇ……」
先輩「何が、足りないんだろ。私」ウリウリ
先輩「もしかして私のこと、嫌いなのかなーって」ウリウリ
先輩「私みたいな性格はにがてかな? だったら変わってみることもやぶさかではない……」ウリウリ
先輩「私、キミに。嫌われたくないのだよ」
男「……。先輩、俺は――」
先輩「っと。どうかな? 先輩センチメンタルばーじょん。HR(はいぱあれあ)だよ!?」
先輩「フフフ~。グっとくるっしょ? っしょ? ……あれれ? 来てない?」
男「俺は嫌いじゃないですよ、先輩のこと」
先輩「……っ」
許嫁「……」
先輩「へ、へーいいのかな? キミ。お嬢様の前でそんな――……」
男(……?)
先輩「あ……。な、何を言ってるのじゃ、キミは?」
男「……出会ったばかりのころは、戸惑うことも多かったですが」
男「先輩のこと、少し分かってきた気がします」
先輩「……何が、分かったのかな?」
男「先輩の振舞いは面白いですし。決して悪い人ではないと思いますよ」
先輩「……。そうかな?」
男「ええ、そう思います……本当に」
先輩「……むう。まだまだ満足できる回答ではないが……」ウーン
先輩「今後の可能性も視野に入れつつ、今はまだ。良しとしておこう!」
先輩「では、嫌いじゃないという先輩を! 今後ともよろしく~」
男「ええ、こちらこそ」
先輩「じゃ。またね~」バイバイ
男「ええ。では」
許嫁「……」ペコリ
……
先輩「……」
先輩「……少し分かってきた気がします、だってさ」
先輩「……」
先輩「……アタシのこと?」
先輩「……フフフ。キミったら」
先輩「……」
先輩「……」
先輩「……知ったような口を」
……
許嫁(メイド服)「……」テクテク
男「いやー。不思議な人だな、ずっとそうだけど」テクテク
許嫁「……。そうね」テクテク
男(何か、多少表情が重いような)
許嫁「……」テクテク
男「……」テクテク
許嫁「……冗談で、あそこまで言うのかしらね?」ボソリ
男「何だ?」
許嫁「別に。何でもないわよ」
男「左様でいらっしゃいますか」
許嫁「左様ですわね」
許嫁「……」テクテク
男(何でもありませんわ、とでも言わんばかりの平然とした顔をしておるが)
男(それゆえ。何でもない、わけではないことは分かる)
許嫁「……」テクテク
男(まあ、これはつまりその……やっぱり)
男(以前の、委員長のときと近いようなアレで……)
『私だって良い気分にはならないと思うな』
『自分の気になる人が、自分では入っていけない話を楽しそうに誰かとしてるんだもの』
男(みたいな感じ……ですかね?)
男(……)
男(あのときは色々あったが。そんなことには、もうならないだろう)
男(……別に俺が謝ることでもない、よな?)
許嫁「次はどこ。行くのかしら?」
男(それを分かってるからコイツも何も言わないんだろうし)
男(平然としているような顔を作っているのだろう。……隠すのヘタだが)
男「ええっと。そうだな……どうすっかな?」
男(まあ不機嫌、というよりかは何か考えてるような感じだが)
男(にしても、よく顔に出るヤツだ。普段見てるから、分かるぜ)
男(……)
男(……さっきから俺はコイツの研究家か?)
転校生『え、ええ!? こ、困ったな。いえ、僕はそんなつもりは――』
男「ん?」
許嫁「?」
『良いじゃないですかー。私たち、あそこの女子高で。この学校、案内してくださいませんか?』
『お兄さんとだったら、楽しいかなーってぇ……ね? ダメェ?』
転校生『あ、いえ。僕も、そんなに自由な時間があるわけではないですし』
男(転校生だ。あいつ他校の女子に声かけられてるのか? ほー。そんなこともあるんだな)
『では。その少ない時間で良いですから。どうでしょう?』
『何だったら、文化祭抜け出して違うトコロ……いっちゃう?』
男(うーん。ハデめなコたちだ。にしても、あいつえらい困ってるな)
転校生『え? ええ!? 僕はそんな……あ、そうだ!』
転校生『す、すみませんが! 急用入りましたので! では! た、楽しんでいってくださーい!!』タタタッ
『あ……駄目だった……』
『や、やっぱ無理あったよー……』
男(逃げた)
男「さすが。女子からもちゃんとモテてるんだな、あいつ」
許嫁「? ああ、転校生のこと? そうみたいね」
男「メイド姿のときは男子にもモテるし、あいつも大変だな」
許嫁「そうね。まあ確かに、彼って――……」ハッ
許嫁「……」
男「? どうかした?」
許嫁「いえ。その、彼……カッコいいわね?」
男「ん?」
許嫁「あんな風に女の子から誘われるのも、私、分かるわね」
男「ああ、そうだな。本人は割と迷惑そうにしてるみたいだが」
許嫁「何か、その……カッコいいものね?」
男「? いや、ああ、俺もそう思うよ」
許嫁「その。外見がとても良いわよね。その……誰かと違って」
男(……?)
許嫁「それに性格も。素直で礼儀正しいわ」
男「ああ、育ちが良いって感じだ。だからかな。ついつい、からかってしまいたくなる……性格悪いな俺」
許嫁「そうよね、あなたは意地悪なところがあるもの。彼なんかに比べると、特にね?」
男「ハハ、そりゃスマン」
許嫁「……。……それに」
男「うん?」
許嫁「それに。あなたよりも勉強ができそうに見えるわ……知らないけど」
許嫁「それにちょっとミステリアスなところもあるわよね」
許嫁「休憩時間にどこかに消えたりするし、体育よく休んでたりするし。病弱なのかしら?」
許嫁「そういうところも、魅力になってるって言うコも少なくないみたいよ?」
許嫁「その。モテるわよね、だから」
男「……?」
許嫁「だから、その、私もまあ……その、……そういう感情まで、なんては。本当に。それだけはあなたに勘違いしてほしくないんだけど」
許嫁「その、転校生は悪い人ではないかなって思うかしらね」
男(……??)
許嫁「……えーと」
許嫁「比べてあなたは、その。いやな人、だと思うけど……私にとっては」
許嫁「……あ、本質的なことでなくて、部分部分的なこと……の意味だけど」
許嫁「今まで一緒に暮らしてきて、そう思うわ。私」
男「????」
男(なぜ急に転校生の話をペラペラと……?)
許嫁「声も……いいわよね。聞きやすいって感じで」
男(今まで、コイツとはそれなりに一緒の時間を過ごしてきた)
許嫁「そうだ。料理も上手らしいって聞いた――……あ。それは、全然気にしてないけど」
許嫁「……私の料理の腕がどうとかじゃなくて」ボソ
男(一見ワケが分からないようだが、コイツなりに色々と考えてる)
許嫁「制服の着こなしなんて凄いわ。キチッとしてるもの」
男(妙に口数が増えるときは、他に本音があるときだな。だいたい)
許嫁「あと、名前の響きがいいわよね。口にしてもいいかなって思うくらいよ」
男(そして、この状況に至ったまでを考えると――)
男(……)
許嫁「えーと。それから。何か、いい感じよね……何かが」
男「……まだ、続けるのか? それ」
許嫁「え?」
男「そんな話――……っ。いや。転校生の話は、もう……いいんじゃないか?」
男(……抑えろ、俺)
許嫁「あ……」
男「そんな話を。転校生を……っ。俺と、比べられるような話を、されても――……」
男(だ、駄目だ。もう……)
許嫁「あ……な、何かしら? あなた何か、その。思って……くれたのかしら?」
男「……っ」
許嫁「……?」
男「……く。くくっ、ははははっ」
許嫁「!?」
男「いや、ご、ごめん。本当に。笑う、つもりはなかったんだが……くっ」
男「く、くく……くくく、あははははははっ」
許嫁「え……? な、何で笑って――」
許嫁「……」
許嫁「……あっ!? もしかしてあなた――」
許嫁「ち、違うから! そんなんじゃないから! ぜったいに違う!」
許嫁「いまあなたが考えてるような、そんなことじゃないわ!?」
男「くくく……っ」
男(自分がそうなったからって)
男(……負けず嫌いなのか、それは?)
許嫁「け、決してあなたが今考えてるようなことのために言ったわけじゃないわ!」
男「そ、そうだな。決してちがうよな」
許嫁「え、ええ。違うわ!? 違うもの」
男「……ヤキモチ」
男「焼かせようとしたワケじゃ――」
許嫁「くあっ……、……ちが……。……ぅぁー」
許嫁「あ、あなた! 私! そ、そんなこと考えて言ったわけじゃないわ!」
許嫁「なんとなく。自然に、そう思った! だけだからっ」
許嫁「ち、ちがうもん! そうじゃないから! 変な勘違いしないでよね!?」
男「そうか。なら、俺の勘違いのようだ、スマン……くっくく……」
許嫁「も、もう! 笑わないでよ。わ、笑うなぁ……!」
男「す、スマン……スマン……くくく……」
許嫁「謝罪するか、笑うかどっちかにしなさいよ!」
許嫁「もう……もー!」
男(……本当に)
男(本当にコイツといると)
男(俺は)
許嫁「…………いじわるあなた」
男「悪いな」
男(楽しい)
男(性格悪いかな、俺)
……
許嫁「……」
許嫁「何よ、よくも笑ってくれたわね」ボソ
許嫁「本当に、ちがうのに」
許嫁「私は妬かせたかったんじゃない」
許嫁「……」
許嫁「ただ……」
許嫁「もしも、あなたも妬いてくれたならいいな、って思っただけなんだから」
許嫁「……」
許嫁「……同じかしら?」
許嫁「……もういいわよ」
許嫁「伝わったみたいだから、だから、もういい」
許嫁「……」
許嫁「それだけでも嬉しいなんて」
許嫁「ばか、私」
許嫁「……」
許嫁「……あなたのばか」
許嫁「……」
許嫁「ふふふ」
許嫁「あなたのばかー」
……
パイ投げ屋
『産医師異国に向かう、産後』
許嫁「くっ、この。ちょこまかと!」シュッシュッ
男「ふ、このくらい……一度に複数の料理皿を持つコツの応用で……ほいほいっと。全てキャッチだ」パシッパシッ
許嫁「なっ!? き、器用ね。あなた」
男「ふん。ファミレス道(みち)に入門した俺には、このくらい朝飯前。ひよっ子とは話にもならんわ!」
許嫁「まさか、あなたにこんな特技があったなんて」
男「フっ。敬ってへつらえ。さて、今度はこちらの番だな。覚悟はいいか? 俺はできてる」
許嫁「ぐっ」
男「……。……あ」
許嫁「?」
男「決して料理を落としてはならないというウェイターのsagaが! 俺にパイを投げることを躊躇させるっ……!」
男「できないっ……俺には、料理を投げるなんて恐れ多いことっ……!」
許嫁「っふふ。ふふふ。ほうら。これも落としちゃ駄目よ、店員さん?」ポイッポイッ
男「あ、ちょ、も、もう! 限界! ムリィ! や、やめ」
パシャ
美術部展覧会
『パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・シプリアノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード』
※お静かに
許嫁「? あら。これ、あなたに似てない?」ヒソヒソ
男「どこがだよ。目と鼻と口があることしか共通点が無いぞ」ヒソヒソ
許嫁「そう? 私から見ると、そっくりよ」ヒソヒソ
男「いったいお前には俺がどう見えてるんだ?」ヒソヒソ
許嫁「聞きたいの?」ヒソヒソ
男「やっぱいいわ。好き好んで誹謗中傷を聞きたくはないからな」ヒソヒソ
許嫁「あなたはね。私から見ると、まあ割と――」ヒソヒソ
男「断ったよな、今?」
お好み焼き屋
『うっちゃん』
許嫁「『初めて食べましたわ! これウッマイですわ!』」モグモグ
男「あ! こ、こいつ! 一口だけっつったのに、最後まで!」
許嫁「? 何のことかしら?」モグモグ
男「俺が頼んだヤツだろ、コレ? 一口だけ食べてみたいっていうから」
許嫁「あら、あなたったら。たかが料理一つで、わーわー騒いじゃって。みっともないわね、フフフ」
男「っ。……お前……」
許嫁「な、何よ? そんな顔して」
男「……いや……」
許嫁「言いたいことでも、あるのかしら? ……確かに、私ちょっと言いすぎたかもしれない――」
男「青のりついてるぞ」
許嫁「!? んにゃあ! だめ! 見ちゃだめ!!」シュババッ
……
許嫁(メイド服)「じゃあ次! 次は? 次はどこに行こうかしらね、あなた?」ファサー
男「いや、そろそろシフトの時間だぞ。俺たち」
許嫁「えっ!? あ、もう……そんな時間?」
男「『もう』だと? おいおい、文化祭はまだまだ終わってないぜ? さては、これからの仕事なあなあで過ごす気かあ?」
許嫁「そ、そんなつもりで言ったんじゃないわよ」
男「後夜祭もあるだろ? まだまだ一日は終わらないぜ」
許嫁「そ、そうね。まだ、これからよ」
許嫁「……まだ、これから」
今日は以上です。では。
諸事情により更新できませんでした、大変申し訳ありません。
また少しずつ書いていきます。
今週末までには何とか…(願望)
彡(゚)(゚)ほな、遠慮せずに
彡(゚)(゚)あああああああああああああああああああああああああああああ(ブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!
彡(^)(^)おやすみやでー
『メイドインヘヴン』
女子更衣室前
許嫁(執事服)「……お待たせ。はい、コレあなたの服」ポン
男「うぃ。さてと、それじゃ俺も素敵なメイドさんに変身しますかね」
許嫁「あ……」
男「? どうした?」
許嫁「あ、その……あんまり、それ……」
男「ん? このメイド服がどうかしたか?」
許嫁「いえ、何でも……ないわ。何でもない。余計なことなんて考えずに、さっさと着替えなさいよね」
男「?」
男子更衣室
男「……」モゾモゾ
男「……」
男(メイド服)「……なるほどね。あ、そういうこと?」
男(アイツ。何を言いよどんでるんだ、と思ったが)
男(これ、このメイド服……)
男(今までアイツが着てたワケで……)
許嫁『だって、この服。ほんの少しだけど確かに。あなたの優しい匂いがするもの』
許嫁『私たち、どれだけ一緒に暮らしてきたと思ってるのよ?』
許嫁『あなたが否定しても、私はよく覚えてるもの。この――……』
男(……ニコニコと嬉しそうに)
男(あのときは、何言ってるんだコイツは、と思ったものだが)
男(……)
男(アイツがコレを着てたのは。一緒に文化祭周っていた間だけ)
男(でも、この服から少しだけだが、確かに。やわらかくてあまいような)
男(……そして、俺にも覚えがある)
男(これは、この感じは間違いなく)
男(俺の許婚だという高飛車で素直でない女の子だ)
男(……)
男(……まさか、俺のほうも)
男(アイツをこんなに覚えていたなんて)
男(メイド服)(……)
男(しかし、香水つけてるところなんて見たことないけど)
男(どうしてこんなに良い匂いがするんだろうな)
男「……」
男(……な、何か俺、かなりヘンタイちっくではないか?)
男(ハタから見れば、まるで。女子の着ていた服をタンノウしているような――)
男「い……いやいやいや!!」
男「勝手に借りていったのは向こうのほうだしな!」
男「た、大したことでもないし! ちょっと着まわしたくらいのことだしな! うんうん
!」
男「そもそもアイツが言い出さなかったら、俺だって意識しなかったし――」
男「……」
男(あ……そうか)
男(メイド服)(つまりそれは。アイツは、とても意識してたってことだ)
男(だから、一度それを言いかけて、でも)
男(……。ぐっ)
男(アイツ。どれだけ)
男(どれだけ、俺のこと――)
転校生(メイド服)「……さっきから、何を一人で百面相をしてるんだ?」
男「の、のわっ!? い、いたのかよ!」
転校生「む。僕がキミの側にいちゃ悪いのか?」ムスッ
男「な、何だよ、ひとが着替えるところでも見てたのか?」
転校生「な、なあ!? そ、そんなわけないだろう!? ぼ、僕だってしょうがなく……大変なんだぞ……もう……。先、行くからな!」
男「あ、ああ。待っててくれ。……悪い」
男(……落ち着け俺。何か変に動揺してるぞ?)
男(……)
男(ったく。アイツ、わざとじゃないだろうなー?)
『メイドインヘヴン』
委員長(執事服)「やあやあ! これから店の終わりまで一緒の時間だね。頑張ろう!」
男(メイド服)「ああ、委員長。よろしくな!」
委員長「……ふふふー」ジー
男「?」
委員長「とっても楽しかったみたい」
男「え?」
委員長「さっきね。執事服に着替えてるとき、彼女と一緒だったから」
男「……あー」
委員長「ふふ。君のメイド服借りるときさ、ウソついちゃってゴメンね?」ペロ
男「……まあ、いいけどさ」
許嫁『……と、とても。その……。……とても悪く……、なかったわね』
委員長「文化祭、一緒に周ったのどうだった、って聞いたら」
委員長「すっごく、小さな声でね。でも、ハッキリ言ったの」
男「……そういうことって俺に伝えちゃダメじゃないか?」
委員長「へへへ。敗北者からの嫌がらせなのじゃ」
男「え?」
委員長「ふふふ? でねでね。特に、可愛かったのがね?」
委員長「更衣室で、みんなからいっぱい来る質問に。ぽつぽつと彼女。答えてたんだけど――」
男(……え? みんな……。みんな???)
男「あの委員長。みんなって――」
委員長「ギューーって」
委員長「思いっきり抱きしめてたの。君の、そのメイド服。とっても大事そうにね」
委員長「本人は気がついてなかったのかな? それ言ったら、彼女。すっごい真っ赤になって」
男「い、委員長。あの。そ、そろそろ仕事が始まる時間じゃないか?」
委員長「……だから思ったんだ。ああ、このコ。君のこと。本当に、心から――」
男「さ、さあてと! よし! 俺の担当は今からキッチンだな! 委員長、頑張っていこうぜ!」シュタタッ
委員長「あ!? 行っちゃった」
委員長「……フフフ。照れるんだ。知らなかったな」
……
『メイドインヘヴン』
キッチン
男(メイド服)「……」
男「……」
男「……」
男「……ありがとう……」
男「……ありがとう……ありがとう……」
男「ありがとう……ありがとう……美味しく、美味しくなってくれよ……」
男「美味しくなれよ……ありがとう……ありがとう……美味しく
「お、おいちょっと!」
男「何だ、今コーヒーを入れてるとこなんだ、邪魔すんなって」
「いや、本物が来たんだって、本物のメイドさんが!」
男「……本物?」
「な、あそこに座ってるお客さん。どう見てもマジもんだろ。マジもんのメイドさん」
「わーすごいキレイ……」
「……本物。分かる。間違いない。わたしたちとは異なる」
男「何だよ本物偽物って。メイドは骨董品か何かかよ。どれどれ……」
メイド『……』
男「……。あの人は」
遅筆に弁解の余地もございません
エタることだけはないよう
物語の終わりまで書きたいと思ってます
今度こそ更新期間を短く……(希望)
生存報告
停滞中ですん。。。
今週末辺りから書きまする
ほしゅ(すいません・・・)
……
男(メイド服)「……お帰りなさいませ、お嬢様」フカブカ
メイド「おやおや? これはこれは――」ホホゥ
男「?」
メイド「ふふ。よく似合っていらっしゃいます。これはなかなか才能があるみたいですねー?」
男「……。何の才能です?」
メイド「もちろんメイドの才能ですよー。いかがです? 一度、真剣にその道を考えてみるのは?」
男「……その道?」
メイド「? もちろんメイド道(みち)のことですよー?」
男(そんな当たり前のことのように言われても)
メイド「あなたさまなら、メイド道(みち)を極めることができるかもしれませんよ!? どうですどうです?」グイグ゙イ
男「あ、いや、その……興味ないです。すいません」
メイド「そうですかあ、それは残念です。でも、気が変わるようなことがございましたら、いつでもお声かけくださいね?」
男「は、はあ」
男(……何て言うか、相変わらずだな。この人の、この感じ)
男(メイド服)「それで……。今日は、どうされたんですか? 何か用事でも?」
メイド「いえ、特別な理由はございません。そうですね、強いて言うならば遊びにきた、ですかね?」
男「そう、ですか」
メイド「ふふふ。学校生活、楽しんでいらっしゃるようでなによりです」
男「おかげさまです」
メイド「イエイエ。私は大して何も――」
男「そんなことは口が裂けても言えませんよ。 ……そうだ、ご注文は何になさいますか?」
メイド「うーむ、そうですねえ……それでは。紅茶とフルーツのケーキをお願いしましょう!」
男「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」フカブカ
メイド「ふふふ。いつもとは逆に、持て成しを受ける立場になるのは、ちょっとくすぐったいきもちですねえ」シミジミ
キッチン
男「――それから飲み物は紅茶を。受けた注文は以上です。……ん?」
「「「……」」」
男「っ。な、何だよ? 皆でそんな顔してこっち見て」
「……どういう関係なんだ?」
男「え?」
「あのメイドさんと親しげに話していたのですよ?」
男「う。あー……。その。俺が世話になっている人、だな」
「……あんなホンモノのメイドさんにお世話になっている……?」
「せ、世話って、どういうお世話だよ?!」
「……あなた、そのスジの人……?」
男「そのスジって何だよ。いや、俺は別に――」
友「ほい。出来たぜ注文。紅茶とフルーツのケーキだ……これで合ってたよな?」カチャカチャ
男「あ、ああ。ありがとう」
友「まだあの人と話すことあるんだろ? ほら、行った行った」シッシ
「あ、ちょっ」
友「お前らも仕事中だろー? 油売ってないで、さあ働け働け!!」
……
男「お待たせしました。ご注文の品です」
メイド「あらあら? これは、とても美味しそうですねえ。期待に胸が高鳴ります」
男「どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください」フカブカ
男(……)
男(この人と話すことか……いや、この人とは、話すことってより)
メイド「はい、では。喜んでいただきます」ニコニコ
男(話さなければいけないことがあるんだよな――)
メイド「大変美味しゅうございました」ニコニコ
男「!?」
メイド「? どうかされました?」
男(め、目の前にあったはずのケーキが一瞬で消えた!?)
男「いや、今――」
メイド「ふふふ。メイド道(みち)を嗜むと、これくらいお茶の子なのですよ」
男(お、恐るべし)
男(……何ていうか、つかみどころが無いんだよな、この人)
男(年齢も不詳だし……俺より年上なのは間違いないだろうが)
男(この落ち着きや振舞い方を見るに、実は結構上なのだろうか?)
メイド「? どうかしました?」
男「いえ、別に……」
メイド「年齢は、禁則事項ですよ?」ニコ
男(……こわいひとだというのは分かる)
男「こうやって、直接お会いするのはお久しぶりですね」
メイド「申し訳ありません。私たちのほうから、もっと伺うべきですのに」
男「まさか。それを言うなら、僕の方でしょう? そのくらいは分かっているつもりです」
メイド「……ふふふ」
男「?」
メイド「でも、お元気そうで良かった。以前よりも、ずいぶんと」
男「……以前は、失礼をしていました」
メイド「そんなつもりで、申し上げた訳ではありませんよ」
男「分かっています。伝えたかったのは、今のことです」
男「皆のおかげです。僕を気にかけてくれる人がいる。あなたみたいに」
男「だから、僕は――」
メイド「嬉しいことをおっしゃっていただけますね」
流れる景色を必ず毎晩みている
家に帰ったらひたすら眠るだけだから
全然かけてなくてすいません、ちょくちょく刻んでいきます
ほ
蘭子「混沌電波第171幕!(ちゃおラジ171回)」
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このSSまとめへのコメント
いいキャラしてるよ 面白い
可愛過ぎてヤバイ
めっちゃ面白い
期待
はよう、はよう続きをくれい
お祭りテンションええ仕事しとる
超期待
許嫁ちゃん超絶可愛いです(*´`)
イイっすね〜
応援してます!
期待タグつけたはずなのにマジキチタグになった… ごめんよー
許嫁可愛すぎる!期待してます!!
転校生女性説はよ
え、続きは?
続きどこいったんだよ。おい…
期待がマジキチになっただと!?
スマソ...更新楽しみだぜ!
更新楽しみだ。こんなに良いssは久し振りだ
許嫁可愛すぎやろ…
おもしろい!更新待ってるぞ!
これは素晴らしい
最高
更新をぉぉぉ
更新を。。。
チンポ長くして待ってます
待ってました!
楽しみにまってます!
続き頑張れよ!!まっとるで!!
ゆっくりでもいいんで!待っとるから!
ああああああああ続きじゃ!!続きを持って来るんじゃああああ!!!!!!!
おい...マジかよ
つづきをくださいぃぃぃ!!!!
エタだちゃったのか残念
許嫁が可愛い
完結してほしい。とても素晴らしいss
頑張ってーー!
良作乙!いつまでも俺は待ってるぜ!
ゆっくりでいいから、頑張って!
頑張って完結まで書くる
もしかして落ちた?
SM作家!頑張って!!