女店主「好きだよ、女ちゃん」女「私もです」 (43)

百合です。苦手な方はお控えください。

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好きであっても叶わない。

好きであっても許されない。

叶わない恋と許されない恋。

より意地悪なのはどっちだろう?



カランコロン。

ベルの良い音が鳴る。

たまに行くお気に入りの古書店だ。


女店主「いらっしゃーい」


見慣れない女性。

若くて美人…。

誰だろう?


女「あの…先月までの店主さんって…」

女店主「ああ、おじいさん?」

女「はい…どうしたのかなって…」

女店主「もう歳だからって店を私に譲って隠居したよ?」

女「そうだったんですね…」

女店主「おじいさんに用事?」

女「あ、いえ、そういうわけではなくて…たまにここに来てオススメの本なんかを教えてもらったり雑談をしてたので…」

女店主「もしかして女さん?」

女「そうですけど…」

女店主「ああ良かった、おじいさんから預かりものがあってね、はい」


一冊の本だ。

なんだろう…?



女「あの、これ…」

女店主「渡してって言われたの」

女「そうなんですか、ありがとうございます。さっきからおじいさんって言ってますけど…」

女店主「あ、私あの人の孫なの。女店主って言うんだ。よろしくね」

女「そうなんですか…よろしくお願いします」


受け取った本をカバンにしまってから店内の本を眺める。

古書店の雰囲気って独特で好きだ。

眺めながら気になった本を何冊か選ぶ。

女店主さんはオススメの本とかあるんだろうか。



女「これ…お願いします」

女店主「はい……1200円になります…ちょうどお預かりいたします」

女「あの…」

女店主「ん?」

女「レジの時は敬語になるんですね?」

女店主「そりゃまあ…一応接客業…ですから」

女「あはは、面白いです」

女店主「そうかな」

女「そうですよ。あ、女店主さんって本読みますか?」

女店主「私はそんなに読まないかな。話題になったので気になったのをちょこっと、それと有名なやつぐらいかな」

女「有名なやつって?」

女店主「走れメロスとか蜘蛛の糸辺りかなぁ」

女「国語の教科書に載ってるやつじゃないですか…」

女店主「あ、バレた?女ちゃんのおすすめの本とかある?」

女「そうですね…この前読んだ……」


何冊かおすすめの本を紹介して

軽く世間話をした。



女「それじゃ…」

女店主「ありがとうございました。また来てね?」

女「ぜひ」


ドアのベルが気持ち良い音を奏でた。

女店主さんのオススメの本はなかったけど

楽しかったなぁ…。

なぜか最後に言われた

「また来てね」

という台詞が心になんとなく残っていた。



家に帰ってさっき受け取った本を確認する。


女「あ…私が読んでみたいって言ってたやつだ…お金払いに行かないと」

女「ん、手紙…?」


それは前の店主さんからだった。

要約すると

・読みたがってた本が見つかったからプレゼントするよ

・今まで話し相手になってくれてありがとう

・女店主をよろしく

といったものだった。


女「はぁ…良い人だったなぁ…」

女「明日お礼言いに行こう…」


店に行く口実ができたこと、

また女店主さんに会えること、

そんなことを考えたら何だか嬉しくなってきて

軽い気分でベッドに入った。



女「よし…!」

なぜか店の前で気合いを入れてドアを引く。

カランコロン、といつものベル。


女店主「おーいらっしゃい」

女「どうも…」


なんて素敵な笑顔なんだろう。

まて、これじゃ恋をしてるみたいじゃないか、私。

女同士なんて…。



女「昨日、本を頂いたじゃないですか」

女店主「うん、なんかあったの?」

女「あれの代金払わないとなって思って…」

女店主「おじいさんからの個人的なプレゼントらしいけど?」

女「そうみたいですけど…やっぱりモヤってするなあって」

女店主「まあ良いんじゃない?ありがたく貰ってくれた方がきっとおじいさんも喜ぶと思うよ」

女「そうですか…うん、ありがとうございます。あとおじいさんに伝言お願いできますか?」

女店主「なんて?」

女「お手紙ありがとうございました、本もとても面白かったです、って」

女店主「うん分かった」

女「よろしくお願いします」


伝言をお願いできた、良かった。

でもこのまま帰るのもな…

そう思って店内を見ようとした私に最高の声がかかった。



女店主「あ、女ちゃんさ」

女「はい?」

女店主「良かったらお茶しない?お客さん来なくてさ」

女「私は客じゃないんですか?」

女店主「ごめんごめん、なんていうかお客さんってより友だちって感じがしちゃって」

女「あはは、その方が嬉しいです。いただきます」

女店主「良かった。紅茶でいい?」

女「私、紅茶大好きなんです」

女店主「わあ嬉しい。淹れるから少し待ってて」

女「手伝いますか?」

女店主「大丈夫、ありがとね」


なぜそんなに嬉しそうにするのだろう。

そんなに喜ばれたら

私まで辛くなってしまう。

私まで…?

まで…?

一体どこからそんな接続詞が飛んできたのだろう?

願望かな。

そんなことを考えていると紅茶のいい香りがしてきた。



女店主「はいったよー」

女「ありがとうございます。いい香りですね」


店のカウンターの中に招かれる。


女店主「はい、アールグレイだよ」

女「普段から飲むんですか?」

女店主「よく飲むのはこれかな」

女「私もなんです」

女店主「趣味が合うね、なんか嬉しいよ」


あれ、やっぱり恋をしてるんじゃないか。

そんな気がしてきた。

私は良くても女店主さんはどう思うだろう。

そう考えるとこの気持ちは心の奥底にしまうしかなかった。



女「はぁ…落ち着きますね」

女店主「ねー。あ、そういえばお菓子買ってあるんだった。食べる?」

女「良いんですか?」

女店主「女ちゃんと食べようと思って」

女「えへへ、嬉しいです」


この人は天然なんだろうか。

それとも…いや、都合のいい妄想は止めよう。

期待したって傷つくだけだし

だったら期待なんてしないで

このまま仲良しでいた方がよっぽど幸せだ。



女「わぁ…美味しいですねこれ」

女店主「ほんと?お口に合ってよかったよ」

女「これどこのですか?」

女店主「ウチの裏のやつ。そこの」

女「へぇ…気になってたんですよ、今度行ってみよ」

女店主「一緒に行く?」

女「いいんですか?」

女店主「お休みの日ならいつでも」

女「じゃあ明後日の日曜日とかどうですか?」

女店主「良いよ、11時にここに集合しよっか」


驚くほど自然な流れだった。

なんという幸運だろう。

これはもはやデートではないか。

舞い上がる気持ちを抑えて平静を装うのに

全力を尽くさなくてはならなかった。



女「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」

女店主「あはは、大げさだなぁ。下げてきちゃうね?」

女「あ、手伝います」

女店主「いいよいいよ、それにお店に誰もいないのも良くなさそうだから少し見ててくれない?」

女「そうですね…わかりました」



女店主「はぁ……女ちゃん…」

女店主「あはは…まさかこんなに仲良くなれるなんてなぁ…どうしよう……つらいや…」


女店主「お待たせー。遅くなっちゃってごめんね?」

女「そうでもないですよ?気にしないでください」

女店主「そっか、ありがと」


沈黙。

なんだろう、女店主さんの雰囲気が重い。


女「どうかしましたか?」

女店主「えっ?なんか変だった?」

女「なんとなく、普段より暗いなぁって気がして…」

女店主「そうかなぁ…疲れが出たのかも」

女「大丈夫ですか?」

女店主「うん、大丈夫だよ」

女「そう…ですか……」


言ってくれても良いのに。

まだそんな関係じゃないってことかな。



女「今日は帰りますね、ごちそうさまでした。ちゃんと休んでくださいよ?」

女店主「嬉しいこと言ってくれるねぇ!」

女「なんかオヤジくさいですよ、それ」

女店主「え、そうかな?」

女「少しですけど…あはは」

女店主「あはは。またおいで」

女「また明日、来ますから。絶対」

女店主「…そんなに意気込まなくて良いよ?」

女「えへへ…それじゃ」

女店主「うん、またね」



店のドアを閉めてカウンターへ向かう。

さっきまで女ちゃんが座っていた椅子に座る。


女店主「はは…まだあったかいや…」

女店主「言えるわけないじゃん…あなたが好きだ、なんて…」


そうだ。女ちゃんにだって彼女自身の人生がある。

私一人のエゴでそれを壊すわけにはいかない。

じゃあどうしてだろう…。

お菓子を買っておいたのは。

一緒に行こうって誘ったのは。

私が気持ちを隠そうとするなら

せいぜい「良い店員さん」ぐらいの関係でいるべきではなかったか。

きっと自分はどこかで彼女に気づかれたい、

その結果がどうであれ気づかれることを求めようとしている。

そうしないと生きていけないぐらいに自身が弱っている。

その事実に気づいてしまった。


女店主「あはは…私って弱いなぁ……」

女店主「女ちゃん、少しだけ許してね?次の日曜日で最後にするから、それまでは……」


溢れそうになった涙を袖で拭った。



女「結局、言ってくれなかったなぁ…。なんだったんだろう」


ベッドに寝っ転がって天井に話しかける。

最近の密かなマイブームだ。


女「私、女店主さんのこと好きなのかな…」

女「うーん…やっぱり好きだなぁ…どうしよ…」

女「女店主さんは言われても困るよねきっと…」


こんな気持ち、伝えられるわけがない。

伝えたって引かれて終わり。

そうなるぐらいなら

いっそ自分の気持ちだって押し殺して

仲良しでいた方が何倍も良い。

この先2度と関われないよりは何倍も。

でも、そんなこと私にできるだろうか。

自分の気持ちを押し殺す。

それはある意味では自分に嘘をつくのと同じだ。

嘘をつきながら仲良くしても

その中身はどれだけ詰まったものになるだろう。



女「嘘、か…」


天井を見つめたまま思考の結果の一部を出力する。


女「やっぱダメだ、うん」


時としてこのプロセスが人生を大きく変える。


女「決めた、日曜日に告白しよう」


そう、今みたいに。



女「こんにちはー」


店のドアを開けながら言う。

今日はベルはお休みなのだろうか、鳴らなかった。

返事が聞こえない。

店に入ってカウンターのところへ。

奥に向かって言う。


女「女店主さーん?」


ちょっとすると女店主さんが出てきた。

フラフラしてて見るからに具合が悪そうだった。


女店主「ああ女ちゃん…来てくれたんだ…ありがとね…へへ」

女「女店主さん…すごく具合悪そうですけど大丈夫ですか?」

女店主「うん…なんとか…あっ…」


熱のせいだろうか。

歩くだけで転びそうになっている。



女「…大丈夫じゃなさそうですね」

女店主「あはは…ごめんね、今日は臨時休業だ…明日には元気になってると思うから……今日は帰ってもらえないかな……ごめんね…」

女「帰りません」

女店主「移しちゃったら悪いしさ…」

女「こんなに具合が悪そうな人を放っておけません。奥に戻りましょう?」

女店主「良いってば……ね…」

女「女店主さんが良くても私が放っておけないんです。ほら…肩貸しますから…」


なんでこの人はこんなになっているのに意地を張るんだろう。

私はやっぱり信用されてないんだろうか。



女「体温計ってありますか?」


布団に寝かせた彼女に聞く。


女店主「そこの戸棚の…確か上から2番目か3番目…」

女「えーっと……あ、あったあった。はい」

女店主「ありがとう…」


沈黙。

なぜか、この前とは違って何となく心地がいい。


女店主「測れたみたい…何度?」

女「わ…39°Cなんて久しぶりに見ましたよ…」

女店主「やば…やっぱり移しちゃったら悪いから…」

女「言ったじゃないですか。放っておけないって」

女店主「どうして…?」


ああ、綺麗な目だ。

弱々しくって、それでいて芯のしっかりした強い目。



女「それは……」


女「女店主さんのことが……」


言葉がつまる。

出てこない。

なんでよ。

出てきてよ。

お願いだから。

そんな時だった。


客「すいませーん」


さっき、店の扉に閉店の看板をかけ忘れたらしい。


女「女店主さん、少し待っててください。すぐ戻ってきますから」

女「はーい。今行きまーす」



女「えと…お会計2000円になります」

客「……はい」

女「ちょうどお預かりいたします。ありがとうございました」


客が少し離れたのを確認してからドアに看板をかける。

これでよし。


女「すみません…看板をかけてなかったみたいで……ってどうしたんですか?」


戻ると女店主さんが泣いていた。


女店主「女ちゃんが戻ってこないから…不安になって…」

女「ごめんなさい。もう大丈夫ですよ…ほら」


枕の横に出ていた彼女の手を握る。

普段ならとても勇気のいる行動だろうけど、

今の場面では当たり前のように、

そうすることが当然であるかのように。



女店主「お、女ちゃん…?」

女「気持ち良いですか?」

女店主「うん、ひんやりしてて気持ち良いよ」

女「嬉しいです。何か作ってきますか?お粥とか」

女店主「うん…気持ちは嬉しいんだけど……」


女店主「そばにいてほしい…だから……」


涙目でそれを訴える彼女は

素晴らしく綺麗だった。

その表情は、何かを深刻に求めているようにも見えて、

私のリミッターを一瞬で壊した。


女店主「んんっ!?」


驚くのも無理はない。

突然、何とも思っていない相手にキスをされたら誰だって驚くだろう。


女「ごめんなさい…」


手を離して謝る。


女店主「どうして…」

女「ごめんなさい…今のは忘れてください…もう帰ります」


自分のしたことを後悔して帰ろうとする私を呼び止めたのは

予想だにしなかった、嘘ではないかと疑うような言葉だった。



女店主「なんで…忘れろなんて言うの…?」

女「………え?」

女店主「なんで?」

女「それは…私がいきなりキスをしたから…」

女店主「なんで……その…キスなんかしたの…?」

女「ごめんなさい…女店主さんがあまりに…綺麗…だったので…」


沈黙が場を支配する。

こんなに気まずい場面は人生で何度もないだろう。


女店主「ねぇ…こっち来て…」


促されるまま近づく。


女店主「もっと」


先ほどの位置まで戻った。

気まずくて横を向くと

首筋にひんやりした何かが巻きついてきて

その次の瞬間には私の頬に温かく柔らかい感触があった」



女「あの…これは…」

女店主「えへへ、仕返し。移しちゃうと悪いからほっぺにね」


状況がよく分からなくなってきた。

恐る恐る女店主さんに質問をする。


女「怒って…ないんですか?」

女店主「どうして私が怒るの?」

女「だって…なんとも思ってない相手にいきなりキスされたら怒りません?しかも女に」

女店主「あー……そっか……」

女「だから……その……」


言葉に詰まる。

でもそれは、氷を落としたように打ち砕かれた。


女店主「私は……女ちゃんのこと…好き…、だよ?」


なんてことだろう。

本当に今日はスペシャルだ。

いやもうそれどころではない。

エクストラと言ってもいいだろう。



女店主「女ちゃんは…?」

女「私も…女店主さんのこと……好きです」


言ってしまった。

いや、これは言えた、だろうか。

そんなことはどうだっていい。

そう気づいたのはほんの少し後だった。


女店主「あはは…嬉しいや……なんでだろう…涙が止まらないの」

女「泣いてる女店主さんも素敵ですよ」

女店主「そう言って泣いてる女ちゃんもね」

女「あは…あはは……」

女店主「えへへ……」


泣き声の協奏曲が部屋に響いた。



女「はあ…久しぶりにこんな大泣きしましたよ」

女店主「私も…」

女「台所借りても良いですか?」

女店主「どうするの?」

女「お粥、作ってきます」

女店主「良いってそんな…悪いよ」

女「こんな時ぐらい私に頼ってくださいよ…。つ……」

女店主「つ?」

女「つ、付き合うんですから、私たち…」


顔から火が出そうだ。ああ恥ずかしい。

だいたい、分かっているのに言わせるなんて…。


女店主「そっか……あはは…なんかまだ実感がないね」

女「実感させてあげましょうか?」

女店主「どうやって…?」

女「それはもちろん…」

女店主「ん……恥ずかしいよ…」

女「付き合うって言うのだって恥ずかしかったんです、これぐらい我慢してください…」


キスだけでこんなに照れられては

こっちまで恥ずかしくなってしまう。



女店主「早く戻ってきてね…?」

女「保障はできませんけど」

女店主「うう…女ちゃんのいじわる…」

女「ごめんなさい、ついいじめたくなっちゃって」

女店主「元気になったら仕返ししてやる…」

女「なんか、さっきより元気ですよね?」

女店主「女ちゃんが元気をくれたんだよ、きっと」

女「……恥ずかしいこと言わないでください」

女店主「えへへ、仕返し成功」

女「そういうこと言うんだったらお粥作りませんよ?」

女店主「ごめんごめん…女ちゃんのお粥食べたいな…お願い…」

女「そんな頼み方、反則です…待っててください」


まったくこの人は…。

でも、こういうところが魅力なんだろう。

大好きだ。



しばらくすると台所からいい匂いがしてきた。

包丁で何かを刻んでいるような音もした。


女店主「はぁ……まさか女ちゃんが私のことを好きだったなんて……」


誰にも聞こえない音量でつぶやく。

まさに願ったり叶ったりといった感じだ。

こんなに上手くいって良いんだろうか?

悪魔がいたずらをしているのではないか、

そんな風にも思ってしまう。


女「お待たせしました。はい」


そんなネガティブな思考を彼女の笑顔が打ち消した。


女「たまご粥です」

女店主「わぁ…私、お粥の中でたまご粥が一番好きなんだ」

女「ほんとですか?よかったです」

女店主「ね、食べさせてよ」


身体を起こしながらねだる。



女「え…はぁ……口開けてください」


照れてる。可愛い。


女店主「んー…おいひい…」

女「口に物を入れたまま喋らないでくださいよ…」

女店主「ごめん、ほんとに美味しくてさ」


結局、こうして全部食べさせてもらった。



女店主「ごちそうさまでした」

女「お口に合ったみたいで」

女店主「そりゃもう。なんか元気になってきたよ」

女「早すぎます…しっかり寝てください」

女店主「あ、そういえばお店は?」

女「とりあえず看板をかけておきました。だから…」


女「誰も来ませんよ?」


我ながら小悪魔みたいだなぁ、なんて思った。


女店主「えっ…あう……それは……その………」

女「冗談ですよ…」

女店主「別に…女ちゃんなら…嫌じゃないよ…?」

女「ごめんなさい…私が悪かったです」

女店主「え?私なんかした?」

女「いえ、そういうわけじゃ…びょ、病人なんですから休んでください!」

女店主「ちぇー…」


慌てる女店主さんが可愛くて

逆に私までやられてしまいそうだった。危ない。



女「女店主さん…少し良いですか?」


横になっている女店主さんに聞く。


女店主「良いよ。なに?」

女「さっきのキス…ごめんなさい」

女店主「さっき謝ってたじゃない。それに私は嬉しかったよ?」

女「でもそれは…結果論であって女店主さんが私のことを嫌いだった可能性だってあった。そう考えたらやっぱり…って思ったんです」

女店主「律儀なんだね」

女「そうですかね」

女店主「私から見たらね。まあ、結果論って言っちゃったらそれまでだからさ、お互いに好きで良かったなって思おうよ?」

女「ありがとうございます。あ、熱もう一回測ってみます?」

女店主「うん、さっきより楽になったし測ってみる」


女店主「あ…37°Cだってさ…」

女「ほんとだ…」

女店主「やっぱりキスが効いたのかも?なんちゃって」

女「あはは…あながち違うとも言えない気がしますね」

女店主「だね…」



女店主「あのさ、私も少し聞いて良い?」

女「なんですか?」

女店主「女ちゃんはさ、なんで私のこと好きなの?」

女「あー…それ恥ずかしい質問ですね」

女店主「私も言うからさ、ね?」

女「うう…そうですね、たぶん一目惚れ…かなぁ」

女店主「一目惚れ?」

女「はい。初めてお店で会った時から素敵な人だなぁって。好きだって自覚したのはちょっと後なんですけどね」

女店主「なんか照れるね、これ」

女「女店主さんの番ですよ?」

女店主「えー…」

女「私だって恥ずかしかったんですから」

女店主「私も一目惚れかな…まあ女ちゃんより前だけど」

女「えっ?どういうことですか?」

女店主「なんか用事があってここに来たときにさ、女ちゃんのこと見かけてその時に…」

女「そうだったんですか…似てますね、私たち」

女店主「だからかもね」

女「確かにそうかもしれませんね」


それから日が暮れるまで

2人でずっとお喋りをした。

他愛もないことから

ちょっと恥ずかしい話まで。



女「じゃあ私帰りますね?女店主さんを1人にするのは不安ですけど」

女店主「もう熱も下がったし大丈夫だよ」

女「なんかあったら電話くださいね?すぐに飛んできますから」

女店主「電話番号って交換したっけ?」

女「あっ…しましょう」

女店主「はいはい……よし…!」

女「これで大丈夫ですね」

女店主「うん。今日は本当にありがとね」

女「いえいえ。私の方こそ…」


墓穴を掘ったな、と自覚した。


女店主「んー?」

女「な、なんでもないですっ…!ニヤニヤしないでください」

女店主「ごめんごめん、女ちゃんほんと可愛いね。からかい甲斐があるよ」

女「ひどいです…」

女店主「これはお詫びね」


頬に柔らかく温かい例の感触。



女「ずるいですよ…」

女店主「明日、楽しみにしてるよ?」

女「病み上がりなのに大丈夫ですか?」

女店主「もうバッチリ。ちゃんと来てね?」

女「空から槍が降ってきても来ますよ」

女店主「日本刀だったら?」

女「すこし怖いかもしれないですけど…やっぱり来ます」

女店主「あはは、安心した。じゃ、また明日」

女「はい。また明日」


そう言って微笑む彼女の頬は、

夕日の赤とも分からない赤に染まっていた。

重なっていた影が別れて離れていく。

私たちとは真逆だな、と思って店のドアを閉めた。


「また明日、ね」


夕空に溶け込んでいく彼女の背中にそう呟いて。



おわり




女店主「ふぅ…」

女「どうでした…?」


私のスマートフォンに表示されている文字を全て見終わったらしい彼女に問いかける。


女店主「これ、まんま私たちじゃん」

女「そういう話ですから」

女店主「なんか恥ずかしいな…。でも、私こんなに意地悪じゃなくない?」

女「そこはご愛嬌というか…まあ良いじゃないですか」

女店主「納得いかないなぁ…」

女「それで、評価の方は…」

女店主「ごめんごめん、面白かったよ?そんなに本を読まないから参考になるかは分からないけど」

女「ああ嬉しい…よかったです」

女店主「それに、女ちゃんが一目惚れだったなんてねー」

女「ほら、そういうとこですよ!ニヤニヤしないでください!」

女店主「あはは、ごめんね。なんだっけ…『女ちゃんほんと可愛いね。からかい甲斐があるよ』か」

女「なんですかそれ?」

女店主「引用だよ。知らない?」

女「もう良いです…」



まったくこの人はタチが悪い。

そんなとこも憎めないから余計に。


女店主「悪かったよ、これはお詫びね?」


頬に『例の感触』とやらを感じる。


女「これだけ…ですか?」

女店主「分かってるくせに」


ベッドに押し倒される。


女店主「好きだよ、女ちゃん」

女「私もです」


私たちのエピローグはこれからずっと続いていく。




ほんとのおしまい

以上です。お付き合いありがとうございました。

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