師匠がお山に登りまくる話です
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「うう……寒い……もう自分がどこにいるのかすら分かんないよ……」
グリーンランドの最高峰、ギュンビョルン山の中腹で
愛海は山影に隠れて吹雪く中、辛うじて生きていた。
彼女は不注意な言動で叶えられてしまったギュンビョルン山の登頂を
イヴ・サンタクロースたちと一緒に目指していた。
しかし途中で天候は大荒れとなり、彼女は
イヴや木場真奈美とはぐれてしまったのだ。
愛海は恐怖と孤独で弱弱しく呟く。
彼女が遭難した事は既に仲間や登山隊へ伝わっているだろうが
その前に愛海の小さな命の火が消えかけようとしていた。
「あー……眠たくなってきた……
死ぬ前に菜帆さんの柔らかいお山をまた登りたかったなぁ……
いや、里美さんの立派なお山を登りたかったな……
あっ、やっぱり雫さんの絶景エベレストを……
あー……考えているとみりあちゃんや光ちゃんの
成長期のお山も捨てがたい……」
「フンッ!! ハッ!! フンッ!! ハッ!!」
「ああ……何か幻覚まで見えてきた……
こんな所で乾布摩擦しているパーマ頭のおばさんがいるわけないのに……」
「フンッ!! ハッ!! フンッ!! ハッ!!」
「……って、ええええええ――! こっちに近づいてくる――!」
愛海が見たパーマ姿の中年女性はピンク色の全身タイツに裸足の状態で
腰を抜かしていた愛海に手を差し出した。
「おや、なんだいお嬢ちゃん。こんな所で何をしてるんだい?」
「それはこっちのセリフだよ! おばちゃんこそ、な、何してるの……?」
「ワタシかい? ほら、見たら判るだろう。ただの乾布摩擦だよ」
「こんな極寒の地で乾布摩擦する人なんていないよ!」
「ワタシくらいワールドクラスになると
このくらいの刺激が丁度肌に心地良くなるもんなのさ」
相手の非常識さに思わず突っ込んだ愛海は
とにかく生きている人間を見つけた安堵からか
体力が残り僅かだったからか、急に疲れと眠気がどっと湧いてきた。
愛海「ああ……もうだめ……!」
「ん……ここは……」
愛海がふと目を覚ましてみるとそこは真っ白な雪山の坂ではなく洞窟の中だった。
床には厚い絨毯が敷かれていて、愛海の体には
少し加齢臭のする毛布がかけられていた。
風かないからかどこか暖かい。
ゆっくり立ってしばらく歩くと、生臭い匂いがする。
恐る恐る奥を覗いてみると、あのパーマ姿の女性が何やら獣を捌いていた。
「気がついたかい?」
謎の女性は腕を獣血だらけにしながら、怯える愛海に尋ねた。
「アンタがいきなり倒れるもんだから、慌てて別荘まで運んだわ」
「あの……ありがとう、ございます」
「お安い御用だわ」
「それにしても……洞窟の中なのに
体がさっきからポカポカしているんだけど……」
「ああ。そりゃああんたの体に流れる六脈に、ワタシが気を送り込んだからさ。
あとはワタシの言う通りに気の鍛錬をすれば
凍傷にもならずに一年中裸で過ごせるようになるわ。はっはっはっ!」
獣の解体だけでなく気功まで体得しているこの女性に
愛海は計り知れないものを感じた。
北極圏に近いこの雪山で薄布一枚で過ごしている所からも只者ではない。
そんな事を考えていると、愛海の腹がぐぅっと鳴った。
「はっはっは! お腹が空いているようだね。ほら、ちょっと待ってなさい。
今からあったまるスープ作ってあげるからね……ハァッッ!!!」
――シュボッッッ!
「ひいっ!? 指パッチンで薪に火がついた!?」
「さぁさ、スープが出来るまで鍛練しておくんだよ。
いいかい、方法を教えるとだね、まずは丹田に意識を集中させてから呼吸を……」
愛海は暇なので教えられた通りに、気の鍛練に励んだ。
修行していると体が確かに暖かくなり、活気に満ちていく。
女性によると、これはかの達磨大師が伝えた易筋経の内功らしい。
達磨大師が武術の奥義を仏教の教えとリンクさせて修めたこの書は
南北少林寺拳法の武功の基礎となるもので
非常に奥が深く、完全な体得は容易ではないようだ。
そんな気功を何で知っているのか、ますます女性の謎が深まりつつあるが
命を助けてもらった愛海は感謝しつつも、真面目に気を練っていく。
しばらくして女性の様子を見ると、まだあの肉を煮込んでいる途中だ。
待っている間に彼女は洞窟内をキョロキョロと見て回った。
キッチンと寝室の他にこの洞窟にはあと一部屋あった。
そこは壁一面に世界中の様々な書籍が並べられていた。
武芸書だけではなく、歌劇、歌曲等のものも散見できる。
その中で、愛海は隠されるようにして置かれた、ある書物と出会った。
「……これは!」
上から落ちてきて開いた状態になったその書物に愛海は目を奪われた。
そこには相手の胸に手を当てて立っている男の姿が描かれていた。
最初は大昔の猥褻図書かなと思っていたが、それにしては
様々な角度で相手の胸や尻に飛び込んで掴みにかかる図柄ばかりでおかしい。
ひょっとしてこれは何らかの奥義書では、そう思った愛海は手に取った本の表紙を見た。
「『竜爪襄山功擒拿術指南』……?」
「おばちゃん! この中国語の本に何が書いてあるか読める!?」
「ああ、勿論だとも。ここにある本はワタシのコレクション。
読めもしない本なんか一冊もないわよ」
「じゃあ、あたしこれを習いたい!」
愛海は件の女性に『龍爪擒拿術』と表紙に書かれた本を見せて尋ねた。
とりあえず件の本と似た内容の本を差し出したのは
いきなりあんな図が載っている武芸書について話しても
まともに教えてくれないと思ったからである。
「ふむふむ……龍爪功かい、擒拿術(掴み技)の一種だね。
不殺の武芸を身に付けたいなんて洒落てるじゃないか。
お安い御用だわ。……それ、アザラシのスープが出来たわ。
なあに食べてからでも充分に間に合う。みっちり教えてやるからね」
それから愛海は嵐が止むまで昼に女性から竜爪功を学び続けた。
そして夜、女性が寝た事を確認すると、こっそりと起きて
例の竜爪襄山功を独学で読み解いて鍛錬した。
こっそりと学ぼうとしたのは、あの女性が釘を刺したからである。
「いいかい、これと名前が似ている
竜爪襄山功って武芸書だけは学んではいけないよ」
しかし愛海はあえてそれに逆らった。
あのお山を掴む技ばかり載っているあの武芸書は
まるで天が自分に与えるために存在させたのではないか
と思うほどに魅力に満ちていた。
昼に習った竜爪功の鍛錬が基礎になっているからか
この竜爪襄山功の修行は驚く程すんなりと身についてくる。
愛海は寝るのも忘れてそれらの武芸を研鑽した。
読み慣れない中国語は昼間に女性から学び
分からない所は熱意と挿絵でカバーして勉強していく。
女性によって注がれた易筋経に由来する優れた内力のお陰で
思いの外早く経典の武芸が着実に血肉となっていった。
そして僅か半月という恐ろしいスピードで幾らかの武芸を会得してしまったのである。
勿論そうなるまでには稀代のアルピニスト棟方愛海の
並々ならぬ登頂に対する情熱があった。
「さて……嵐も去ったし、そろそろこの山にもお別れをしようかい」
「今までありがとうございました」
「いいともいいとも。ところで、『武芸』は身に付いたかい?」
女性は鋭い目を向けて愛海に尋ねた。
恐らく龍爪功の事だろうと愛海は動揺を隠しつつ答えた。
「はい、師匠。いくつかは完璧に武芸を身に付けられました」
「……。……そうかい。あれだけの研鑽を積んだんだ。
半月であれだけ身に付いた人間はお嬢ちゃんで二人目だわ」
愛海は謎の女性と一緒に下山した。
女性とはふもと近くで別れたが、最高の内功を身につけた今の愛海にとって
ギュンビョルン山の厳しい環境など屁でもなかった。
彼女は鼻歌を歌いながら何食わぬ顔で斜面を降りていく。
「ブリッツェン、愛海ちゃんは見つかりましたか」
ブリッツェンに橇を引かせて空から見ていたイヴは
半月ほど前から嵐の中で空を駆けて愛海を探し続けていた。
もっとも、ずっと洞窟内に引きこもっていたから見つかるはずもなかった。
せっかく彼女たっての願い事を叶えたのに
それで遭難させて、万が一に死なせては悔やみきれない。
そんな彼女は晴れ間の見えた真白の雪山の斜面を歩いていく人影を発見した。
すぐに橇を下ろして件の人影――愛海に声をかけた。
「愛海ちゃん!? 無事でしたか!?」
「イヴさん?」
「はい、そうです! ごめんなさい、貴女の夢を
叶えるはずが、こんなことになって……」
「……。フフフフフ……」
「愛海ちゃん? ……」
「随分と捕獲(たべ)てなかったからね……まずは腹ごなしと行こうか」
顔を上げた愛海は猛禽類に似た、鋭い視線を向け、垂れていた両腕をさっと構えた。
「えっ、愛海ちゃ……キャアアアアアアア!」
数日後の日本では、棟方愛海が奇跡の下山を果たした
というニュースが事務所を沸かせていた。
「遭難したって聞いた時には血の気が引いたわ。
プロデューサーさん有休中なのにもしもの事があったらと思うと……」
沢田麻理菜は、愛野渚を相手に愛海についていろいろと話していた。
「もう真奈美さんたちと再会して帰国を始めたらしいですよ。
捜索隊まで出したのにまだ登山の特番を続けるなんて出来ませんし」
その時だった。事務所のドアが開いたかと思うと
いきなり二人の人影が倒れ伏した。
「えっ、真奈美さん!?」
「どうしたの!? それに、愛結奈まで……何があったの!」
二人はぐったりと床に倒れ伏したまま、ようやくわずかに愛結奈口を開いて一言囁いた。
「……逃げ……て……」
「愛結奈さん!? 逃げるって、どういう事!?」
まだ二人に尋ねている中、部屋には小柄の美少女が入ってきた。
言うまでもなく棟方愛海である。
いや、そんなはずがない――彼女を一瞥した麻理菜と渚は否定した。
眼前に立って微笑む愛海からは、身の程を知らぬいつもの蛮勇さは微塵もなかった。
血肉の味を知り、貪欲に獲物を求め喰らう
猛禽類のような好戦的な瞳が光っていた。
「愛海ちゃん……これは……?」
渚を庇いながら麻理菜は一歩進んで尋ねた。
しかし今の二人は、蛇に睨まれた蛙も同然だった。
逃げる力のない哀れな生き物は、ただただ捕食者を前にして
食されるのを待つだけだ。
「……ふふふ、麻理菜さんに渚さんか……帰国してから
愛結奈さんたちしか登ってないし、丁度いい……
二人まとめて、いただこう!」
愛海は言うが早いか、電光石火の早業で手を伸ばし、麻理菜と渚の乳房を一度に掴んだ。
「龍爪襄山功――『叔宝在井』!」
「「ああああああ――っ!」」
哀れ、麻理菜と渚は踵を返して逃げる間も与えられないまま愛海の餌食になった。
すると愛海は、両手から不可思議な気を発し
掴んだ彼女らの乳房へと注ぎ込んでいく。
それは彼女たちの乳房を熱くさせ、堪えられない痺れをもたらした。
「フフフ、麻理菜さん? お山が痺れているんじゃないですか?」
「……っはぁっ……!」
愛海はみるみるうちに抵抗が弱くなっていく麻理菜の乳房を揉み遊んだ。
不思議と乳房を揉まれているその時だけ、麻理菜の体に刻まれた
あの抗い難い痺れが心地好い感触になるのだ。
「渚さんも、ほら、お山をこうされるの、好きでしょう?」
「いやぁっ、あっ、ああ……!」
乳房を乱暴に揉みしだかれたにもかかわらず
渚はこの上ない快楽に夢中になり悶え狂った。
「ふふふ……素晴らしい……!
この竜爪襄山功さえあれば、今まで成し得なかったお山を登頂出来る!
これまで散々飲まされてきた煮え湯の分まで
可愛い女の子たちのお山を存分に屠ってみせようぞ!」
「そうはさせないわ、愛海ちゃん!」
愛海がドア側に目をやると、そこには純白のナース服に
身を包んだ戦乙女――柳清良が立っていた。
その右手には歴戦のゴム手袋が嵌められている。
「……やっと現れたね、清良さん。我が永遠のライバル!
今日こそは、あなたを倒してその未開の山を蹂躙するよ!」
突進してくる愛海に対して、清良は静かに構えた。
彼女は数年前に、病院で看取った中国人の老人からある武術を伝授された。
その老人は武術の大家で、江湖の擒拿術、虎爪穿華功の名手だった。
それは愛海の繰り出す竜爪擒拿術に比肩する唯一の武術である。
「虎爪穿華功、『柳暗花明』!」
中国を代表する詩人・陸游の詩『遊山西村』にちなんだこの技は
絶命の窮地において活路を開く技である。
間髪で愛海の猛攻を交わした清良は、すかさず愛海の背後へと回り込む。
「やぁっっ!! 『花鳥月露』!」
清良のしなやかな手が下から掬うようにして愛海の尻を狙う。
花を冠した技を持つ虎爪穿華功は、人体の急所を花になぞらえて
それ自体を攻撃する事を旨とする。
美しい名とは裏腹に、一撃決殺の武術なのだ。
「そう何度も食らわないよ! 竜爪襄山功、『孫皓喝酒』!」
三国時代呉の皇帝、孫皓の名を冠したこの技は
酩酊した暴君の如く掴み手を相手に対して乱れ繰り出す。
「くっ……『桃李成蹊』!」
清良は愛海の放つ連撃を右に左にいなしていく。
桃や李の木の下には自然と道が出来て行くのが道理。
それにちなんだこの技も、対竜爪襄山功としてその猛攻撃
をかいくぐり、反撃の機をうかがう技だった。
「くっ……!」
「もらった! 『百花斉放』!」
清良は体勢をやや崩した瞬間を見逃さず
目、耳、口などの急所へと両手を嵐のように繰り出し、反撃にかかる。
「ふふ、甘いよ! 『楊広励征』!」
愛海は力強い一撃をもってその掴み技の急所を突いた。
その目くらましの数手さえ看破すれば、そこにはもう清良の胸しか残らない。
「――!?」
しかし――伸ばした右手の先に、清良の胸はなかった。
清良は彼女の後方に回っている。
彼女は一撃必殺のこの大技を囮にして
愛海から隙の大きい乱舞技を引き出させた。
今、清良の眼前には無防備な愛海の尻がある。
「喰らいなさいっ!! 『国色天香』!」
清良の黒き腕(かいな)が吸い込まれるように
人体の急所である肛門に肘まで潜り込んだ。
ここまで抉られては、たとえ大男といえども一たまりもなく崩れ伏すだろう。
「よし! 捉えた!」
「……ふっ。どこに挿している……?」
愛海の声が響いた途端、清良の腕にあったはずの感覚は
肛門の襞まで一瞬にして霞と化した。
「なっ……!」
清良が驚いたのも無理はない、愛海は清良がこう来る事までも見越して
質量を持った残像を伴い、反撃に出ていたのだ。
清良がその幻の尻に気を取られたのは一瞬。
――だが、勝負ではその一瞬こそが命取りとなる。
「覇ッッッッ!!!」
愛海は掲げるように下から両手を突き出して清良の形良い双丘を捉えた。
麻理菜と渚を屠った技『叔宝在井』である。
「んっ……! あああっ、や、止めなさい……!」
愛海に乳を掴まれた清良は、全身の支配を奪い去るほどの快感と苦悶が
己が胸に渦を巻いて暴れるのを感じていた。
理性すらも強引に掴み取るようなその力はまさに
麻薬に等しい悪魔の誘惑と言って良かった。
「フフフ、夢にまでみた強敵手の登山は格別だね!
さぁ、清良さん? 段々と気持ち良くなってきたでしょう?
思いっきり楽しんでいいんだよ?」
「いやぁっ……! んう……!
た、例え体を自由にしても……こ、心までは……っ
……ああんっ……! っはぁ……!」
頬を赤らめ、涙を流してまで愛撫に悶え狂う
好敵手の葛藤を眺めながら愛海は高らかに笑った。
「……フフフフフ! いいよぉ! ならもっと抵抗して!
苦悶と快楽の狭間で、狂おしい喘ぎをもっと聞かせて!
その快感に抗う表情こそがっ! あたしにとって至高の愉悦となるの!」
その時だった。
「……はあっ……!!」
二人の間に影が入り、清良を魔手から救出した。
その人影は窓際に着地して清良を抱きながらすっと立ち上がる。
姿は西日で良く見れなかった。
「悪しき星が天に満ちる時、大いなる流れ星が現れる。
その真実の前に悪しき星は光を失いやがて落ちる……!
人それを……『裁き』という!」
「くっ……一体、何者っ!」
「――ヘレンよ!」
間髪入れずに名乗った人物は、いつもプロダクションビルの屋上で
乾布摩擦をしている美女――ヘレンだった。
「ふ、ヘレンさん。あたしは今、事務所という山脈制覇の途上なの。
無粋な真似はしないでほしいな」
「竜爪功は江湖の絶技、それも非道の技として封印された龍爪襄山功を体得し
こんなよこしまな事に使っていいと思っているの?」
「よこしま? どこが? あたしはむしろ彼女たちに喜びを与えているんだよ?」
愛海の前には、真奈美、愛結奈、麻理菜、渚……
彼女が揉み愛でた何人ものアイドルが、胸の疼きに耐えられなくなり
その美しい大小さまざまな乳を晒して、彼女たちの支配者に差し出していた。
愛海はそれを優しく揉んでやる。
すると、彼女たちは今生の歓びとばかりに艶かしい吐息を漏らしていく。
「見てよ。みんな幸せそうでしょう?
みんなあたしにお山を登ってほしいから
あたしの言う事を何でも聞いてくれるだけだよ」
「そのからくり、とっくにお見通しよ。
胸を揉む時に腋下に近い三ヶ所の秘孔
『天泉』『神封』『玄機』に内力を注いだようね」
「……!?」
「刺激された三穴から注がれた気は体脈においてぶつかり合い
胸中に双子の渦を形成する……その渦は放置すると全身の気を大いに損なう。
それを避けるためには、同じように定期的に気を注がないといけない。
技を受けた者が自発的に胸を差し出すのは、その渦が快楽神経をも刺激するから」
愛海は唸った。
ヘレンは一体どこでこのような知識を得たのか。
何故龍爪襄山功のからくりをこうもたやすく看破したのか。
「竜爪襄山功の使い手はそうして中国明代において
技を相手にかけて中毒にし、門弟を増やしていった。
だけど、最後には皆、臓腑を損ない体を壊して
廃人と化したと伝わってるわ。だから危険な技として封印してたのよ」
「……。それで?」
「愛海、悪い事は言わない。武芸を捨てて、皆を元に戻しなさい」
「……フッ」
愛海は狂ったように嗤った。
「アハハハハハ!
ヘレンさんっ、こんな素晴らしい力を捨てる馬鹿がどこにいるの?
止めさせたかったら……」
「止めさせたかったら……?」
「――あたしを倒せッッッッ!」
愛海は声を発するやいなや、ヘレンに飛びかかった。
今までの彼女は何度となくこうしてお山に飛びかかってきた。
だが今は違う。竜爪襄山功の型、『成帝迎燕』を繰り出していたのだ。
「覇ッッッッ!」
ヘレンは咄嗟に後方に倒れて直撃を回避し、愛海の両肩に両脚を当てて追撃を防いだ。
しかし愛海は怯む事なく、『宝巻聚蓮』の型をもって
再度体勢を崩したヘレンに飛びかかる。
「ヘェイッッッッ!」
空中で愛海とヘレンの両手が呼応したかのようにがっちりと重なった。
愛海は冷や汗を一筋見せつつ、空中で体をねじりヘレンの背中側へと着地した。
「……その動き……まさに『叔宝在井』ッッ! まさか……ヘレンさん!」
「竜爪擒拿術龍爪功・九九八拾一式、拾三之型『柴栄廃仏(チェンジ・ザ・ワールド)』
……竜爪襄山功では、そう呼ぶようね」
ここに来て、二人は共に龍爪擒拿術を会得した同門の士であると理解した。
だがほぼ同じ武功と言えども、その性質は全く異なる。
ヘレンの技は紛う事なき正統派の龍爪功に対して
愛海の技は文字通り相手を「山に襄(のぼ)る」が如き恍惚へと誘う龍爪襄山功である。
「……先代ヘレンから継いだ物は名前だけではないわ。
その知略、その武功――そして、その思想よ」
江湖に絶えて久しい絶技、竜爪擒拿術――ここにその継承者が二人、激突する!
「虎爪穿華功は既に破った……ヘレンさん
貴方さえ倒せば、あたしに敵はなくなる!」
愛海は再度攻勢に出た。
竜爪襄山功『衷食肉麻』をもって掴みにかかる。
対してヘレンは、一度掴まれる事は敗北を意味するその猛手を
油を塗った鰌の如く交わしていく。
「竜爪擒拿術――『世民治唐(ヘレンズワールド)』!」
「くっ……!」
守勢に甘んじている訳ではない。
ヘレンは隙を看破するや、右手で愛海に掴みかかる。
愛海は乱撃も恐れず急所を掴みに来る電光のような手に手を止めて後方へと飛ぶ。
「逃がさない! 『匡胤刻碑(ワールドプロミス)』!」
すかさずヘレンは床を蹴って前方に進んだ。
攻められると守勢に回りがちな愛海は必死に回避する。
「『石虎擒児』!」
「『馬殷植茶(グリーンワールド)』!」
二人の実力は拮抗していて中々勝負はつかない。
清良、真奈美、麻理菜たちは息まで燃えているかのような
二人の激闘を見守る事しか出来なかった。
(……フフフフフ……)
戦いの最中で愛海はふっと笑った。
戦って、戦って、戦い抜いた彼女は、既に体力が限界に近づいている。
そのような状況なのに笑うのはなぜか?
「楽しい、楽しいよヘレンさん!」
愛海は言った。
(こんな気分は生まれて初めてだよ。
今まで幾度もお山に飛びつき、拒まれ、支配したけれど
これほどまでに興奮し、充実した事はなかった!
迷いのない、どこまでも真っ直ぐなヘレンさんと拳を交えていると
こっちまで快晴の朝を迎えたかのような爽やかな気分すら覚える!)
「まるであたしは、この日のために!
……ヘレンさん、あなたと対決するために生まれてきたかのようだよ!」
ヘレンも辛うじて両足で立ちながら不敵に微笑んだ。
眼で、互いを好敵手と認め合った二人は
体力が残りわずかであると悟り、魂の込めた一撃をもって
勝負を決しようとぶつかり合う!
「天に竹林、地に少林寺ッ! 目にもの見せるは最終秘伝ッッ!!」
愛海は床を蹴り、天井すれすれまで跳んで構える。
「ならばこちらもっ! 流派! 龍爪功が最終奥義――!」
ヘレンは全身の気を解放し、その長く美しい黒髪を金色に逆立てて構えた。
「『 夏 桀 殷 紂 』!」
「『 尭 舜 為 道 』!」
「私のこの手がッ! 光って唸るッッッ!!」
「お山を掴めとォッ!! 轟き叫ぶッッッッ!!!」
両手に光り輝く気を発している二人――
全身から黒いオーラを放ち、両手を突き出して降下する天の棟方愛海と
両脚に力を籠め金色の気を放ちながら待ち構える地のヘレンが
叫んだのは、ほぼ同時だった。
「……!」
両雄相打つ一瞬に起こった光に
思わず目が眩んだ真奈美たちは、ようやく閉じていた目を開いた。
「ヘレン……さん……?」
ヘレンの美しい乳に、愛海の魔手は
――届かず! 僅か三ミリを残して止まっている。
対してヘレンの手は、愛海の乳首を捉えていた。
僅か数ミリしかない頼りない突起。
だが、掴む者と掴めない者、その差は万里の長城程の隔たりがある。
「……っ……! アアアアアアアアア!」
ヘレンは残された内力を込めて、愛海の乳首を絞った。
螺旋を描いた内功が乳首から乳房全体に広がり
彼女の全身へと、苦痛とも快感ともつかない痺れを瞬く間にもたらしていく。
「……っ」
力尽きた愛海は痺れの追撃が薄れるのを感じながら、倒れた。
そんな彼女をヘレンは膝をついてすかさず支えた。
「……どうして……?」
「何が?」
「あのまま続けていればあたしを再起不能に落とすことすら出来た
……どうして、助けたの?」
ヘレンはいつものように笑って応えた。
「擒拿術は、生け捕りを目的にした武術。
そこにあるのは、いわば悪人に改心の機会を与える慈悲の精神
……私は武術の理に則っただけよ」
「……ふふ。ヘレンさえ倒せば事務所じゃ無敵だったのに……」
「事務所だけで満足なの?」
「えっ……?」
「私の目標は世界、いえ、世界そのものになる事よ」
「……! やっぱり、大きいな。ヘレンさん」
「愛海、どう? 貴女も私についてきてくれる?
険しい道のりだけど、貴女のその情熱さえあれば、きっと辿り着ける」
「ヘレンさん……」
ヘレンは愛海を立たせた後、その形良い立派な豊胸を突き出した。
愛海には最早一滴の内功すら残ってはいない。
否、残っていたとしても無防備なヘレンの乳に
不意討ちを仕掛ける気など、彼女の中にはもうなかった。
「負けたよ、ヘレンさん……」
「いいファイトだったわ、愛海」
互いの胸に、互いの掌をそっと当てて
二人は落ちゆく夕日の見守る中、見つめ合った。
後日、事務所――。
「それにしても……すごい技だったわ。
まだ胸が疼いて仕方がないもの。
まるで自分のものじゃないみたいに」
清良はあの戦いを事務所のアイドルたちにこう語った。
「ふむ……確かに少し違和感があるかもしれませんね。
清良さん、痛みはありませんか?」モミモミ
「ええプロデューサーさん、もう平気です。
ヘレンさんが気功で治してくれましたから……」
すると事務所のドアを開けて真奈美とイヴが入って来た。
「全く、恐ろしい技だったよ。
情けないが、私も取り押さえる間もなくやられてしまった。
一度やられたらまるで鎖で縛られたように
あの愛撫の虜になってしまうんだからな……
一体どこであんな技を覚えたのか」
「真奈美さん、貴女は病み上がりなんですから
あまり無理なさらないで下さい。
もう回復しているように見えますが……もう少し休まれては?」モミモミ
「いや、私はすっかり良くなったよ。心配は無用。
早くレッスンを再開しないと感覚を忘れてしまうしね」
「それで、謹慎処分を食らった愛海本人は……?」
「彼女ならヘレンさんが直々に更正させるって張り切ってましたよー」
「ヘレンさんが、更正……?」
その時、プロダクションの屋上では寒空の下で
薄着の女性二人が激しく乾布摩擦を繰り返していた。
「さぁ、世界レベルを目指して私についてきてっ!
はいっ、ワンツー! ワンツー!」
「はいっ、師匠!」
そんな熱い二人を、物陰からこっそりと飛鳥が覗いていた。
いつものように屋上に来て黄昏ようと思っていたら
今日は乾布摩擦のメンバーまで増えているのだからやりづらい。
「……ふぅ。全く、最近ずっと居るな……。
まぁ、後継者だのなんだの言われなくなったのは助かるけれど……」
「フフフ、どうやらワタシの贈り物は受け取ってくれたようねヘレン」
飛鳥はハッとして後ろを向いた。
そこには今まで気配すらなかった、あのパーマ姿の女性が
雄々しく風を受けて仁王立ちしていた。
「世界レベルを維持するのは容易な事ではない。
時には進んで壁にぶつかり、向かい風をもおのが力に変えていく。
そうして初めて成し得る覇道――
代々、我々がヘレンの名の下に紡いできた覇業なんだよ」
「あの、貴女は……一体……」
飛鳥が尋ねると、先代ヘレンは彼女に対してにこりと微笑みを返した。
そして、さっと身を翻し、一蹴りで一番近くの電柱に飛び移ると
そこからビルからビルへと屋上づたいに移って姿を消した。
「……!」
「ヘレンさん、どうしたの?」
愛海は尋ねた。
ヘレンは、先代ヘレンの去った方向を見つめ、風に黒髪をなびかせている。
「……。ふふ。いえ、風を感じていたの。人を導く、厳しくも暖かな風を、ね」
以上です
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