未来人「少し先の未来で、待ってるから」 (55)
未来人と出会ったのは、転校した次の日だった。
小6で転校なんてして、修学旅行が不安だな、馴染めるかな、と可愛げのある悩みを抱えながら教室のドアを開けた私の目に、
教卓の上に体育座りをしていた女の子が映った。
深く透き通った青の香り。
「初めて見る顔だ」
彼女は整った顔だけをこちらに向けて、独り言のように言った。
長い髪がさらりと揺れる。青く見えてしまうほどに深く黒い髪。綺麗だった。
「転校してきた」
「ふぅん」
わたしが昨日教えられたばかりの自分の席に着くと、彼女はぶらんと、細くて白い両足を教卓からぶら下げた。
「宇宙人っていると思う?」
透き通った声だった。
「いないと思う」
そう答えると、彼女は可愛げのない顔でそっぽを向いた。
「なら、未来人は?」
「それは、いると思う」
「ふぅん」
そっぽを向いたまま、彼女はどうでもよさそうに喉を鳴らした。
面白い子だな、と思った。
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「わたしは未来から来た」
自称未来人の彼女は、私によくそう話していた。
なんでも、数百年後の未来から、何か使命があってやってきたらしい。なんの使命があるのかは教えてくれない。
でも普通に両親はいるようだった。
この未来から来たという設定(?)は、小学生の頃だとふわふわとしていて、聞くたびに変わっていたような気もするけど、中学生になったあたりから、彼女の中で設定が固まるようになる。
未来の道具や、今はまだ使われていない言語なんかについても聞いたことがあった。
一度だけ、未来の言葉を聞かせてもらったことがあったけど、私には残念ながら聞き取れなかった。
未来人ともなると、耳や舌の構造は変わってくるらしい。
何度か舌を見せてもらったことがあるけど、特別変わったところは見受けられなかった。
ただ、あっかんべをしても綺麗な顔だったことはよく覚えている。
……話を戻す。
当時小学生だった私たちは、そんな話ばかりしていたせいか、周りに人が多い方ではなかった。
少なくとも、私はそう思っている。
未来人は、話を続けたくないと思うと、すぐに「ふぅん」と言って空を見る。
私が転校してくる前から、彼女と根気よく話そうとする人は多くはなかったようだった。
未来人は、頭が良かった。
と言うよりは、見たこと聞いたことをすぐに覚えていたようだった。
彼女はサボり癖がある。
高校に入ると私もちょくちょく授業を抜けるようになるので、あまり人のことは言えないが、それでも、彼女は普通の人生の3倍は授業をサボっていた。
当時は、恐怖の代名詞であった先生にばれることを全く顧みない未来人に、畏怖の念を覚えたりもしていた。
小6の夏休みに入るひと月前、未来人は、直前の4日くらいしか学校に来なかった。……にも関わらず、テストはほぼ全て満点だった(国語は平均だった)。
「あの紙の本読んだから、書いてあるし」
物珍しさで読んでいたら、自然と覚えたそうだ。
彼女の設定では、未来には紙の本などは存在しないらしい。これは初めから固まっていた設定の一つだった。
そういえば、私はまともに授業を受けている未来人を知らない。
授業中に彼女の方を見ると、たいてい、頬杖をついて、窓から空を見上げている。
「雲の形って、200年周期で同じものが流れてくるんだよ。人間が生まれる前に、プレアデス星人がプログラミングしたの」
彼女の中で、プレアデス星人というのは後になっても活躍する、進んだ文明の持ち主だった。
少し私の話を挟む。
言っておかなければ、後から紛らわしいことになってしまうので、先に言葉として伝えておく。
私は人を、匂いの色で覚えていた。
と言うより、全ての匂いを色で感じていた。
これがあまり多くはない特技だと知ったのは、中2になってからになる。
特に、人の匂いははっきりと感じやすくて(例えるなら、人混みの中でも自分の名前が聞こえるように、雑多な匂いの中でも人の匂いだけはしっかりと確認できる)、
朝早くに教室に来ると、扉を開ける前に、ほぼ必ず群青色の香りがした。
未来人は、群青色の香りだった。
でも当時は「群青色」なんて言葉は知らなかったので、私は「黒っぽい青」と呼んでいた。
未来人と私は、休み時間に、次に誰が教室に入ってくるか当てる、という遊びをよくしていた。
未来人は「少し先の未来も見える」と言っていたが、当たった回数は私の方が多かった記憶がある。
「未来は不規則に分岐しつつある」
負けるたび、未来人は青いほど黒い髪を指に巻いて、そっぽを向いてそう呟いていた。
……一度だけ、確実に私が予想できず、彼女には当てられたことがあった。
カブトムシが入ってきた時だ。
どうやったらそんなことまで予想できたのかは、私にはわからない。
未来人は、物を移動させるマジックが得意だった。
彼女は「ザヒョウヘンコウ」と呼んでいたけど、初めてそれを聞いた私たちには、それは難しすぎたので、単に「ザヒョウ」と呼んでいた。
一度、「ザヒョウ」を目の前で見たことがある。
中村が学校に来る前にたまたま捕まえたカブトムシで、それは行われた。
見ていたのは、中村と、川田と、岡西と、私だった。
私は、川田のお気に入りのヘアピンの話を聞いていたら、珍しく未来人が放課後に活動を始めたので、少し驚いていた。
川田はよく飼育小屋のにわとりに餌をあげてる、おとなしい女の子だった。
岡西は小学生のくせに高そうなカメラを持っていて、その日は偶然カメラを持ってきていたので、
「決定的シュンカンを撮る!」
と鼻息を荒くしていた。
私たち3人が机を囲むと、彼女はカブトムシを白い両手で包んだ。
「つぶすなよ、おれのカブトムシ」
中村は涙目になっていた。
未来人がなかなか手を開こうとしないので、四人でうずうずとしていると、彼女は突然窓の方を見た。
「あ、UFO」
私たちはつい窓を見てしまい、慌てて目線を戻すと、既に彼女は両手をパーにしていた。
そして、そこにカブトムシはいなかった。
「おれのカブトムシ」
中村は悲しそうに言った。
岡西は、カメラで撮れなかったことを悔しがっていて、川田は、お気に入りのヘアピンを手の中で弄りながら「すごー」と言っていたけど、
私は、どうせマジックか何かだろうな、と思った。
カブトムシは2、3分もするとどこからか帰ってきて、中村を元気付けていた。
本題に入ろう。
10月ごろ、あるウワサが小学校で流行った。
「帰り道に、小学生みたいな顔したおじさんがいて、見つかると肉団子にされる」
未来人はこのウワサを聞くと、すぐにこう言った。
「それは、プレアデス星人が人間を改造して生まれたミュータントだよ。人間の進化系」
みんなは、そんな話より、見つかるとすごい速さで走ってくる、だとか、声は女の人、だとか、顔は毎回違う、だとか、そんな話で盛り上がっていた。
私は肉団子スープが好きだったので、このウワサは嫌いだった。
そしてその日に限って、晩ごはんは肉団子スープだった。
玄関を開けると、美味しそうなにおいがする。嬉しさ半分、複雑な気持ち半分だった。
おかわりをしなかったので、お母さんは「何かあったの?」と尋ねてきたけど、私は「なんでもない」と答えて、リビングでテレビを見ることにした。
つまらないお笑い番組を見ていると、夜だというのに、家に電話がかかってきた。
お母さんが受話器を取って、しばらく話を聞いた後、マイクの部分を抑えて私に聞いてきた。
「川田さえちゃんって子、今日一緒に帰らなかった?」
私は、帰りは知らない、と答えた。
その夜、川田は行方不明になっていた。
次の日、川田はあっけなく発見された。
学校の近くにある、誰も住んでないアパートの真下にいたらしい。
でも、見つかったのは、首と胴と足だけで、両腕はどこにもなかった。
またたくまにその話は広がった。
私は、怖いなぁ、と感じた。
「あのおじさんに食べられたんだ」
肉団子にされるのでは? と思ったけど、みんなはそんなこととっくに忘れていて、今度は手足をもいで自分のものにする妖怪、という設定になっていた。
さわがしい中、ひときわ大きな声が教室に響いた。
「知ってるか? 人って、飛び降りたら手と足がふっとぶんだぜ!」
それを聞くと、男子はすげーと呟き女子は怖がり、中には泣き出す子もいた。
学級委員長で女子のリーダーでもある山田が彼を責めると、彼は一気に勢いを失った。
私は黙って立ち上がると、そのまま静かにトイレに向かい、個室に駆け込み、胃の中のものを吐き出した。肉団子。
のどが異様に広がって、胃液でピリピリと痛かったことを覚えている。
激しい嘔吐感とめまいに耐えていると、いつのまにか、後ろに未来人がいた。
「あれは、人間の進化系だから、見ちゃうと、本能的に死ななきゃ、って思うんだろうね。早く生まれ変わるために」
私は、その綺麗な声に、フキンシンだな、と思った。
次の日、学校に行く途中、水の通っていない乾いた排水路で、犬か何かの骨を見つけた。
普段ならなんともないのに、その時は血の気が引いた。
その場でしゃがみこんでいると、山田が「大丈夫?」と声をかけてきた。
通学路が同じだったことを、その時初めて知った。
「ううん、なんでもない」
私は答えた。
そしてその日、朝の会に、先生が少し遅れてきた。
顔色が悪かったので、具合でも悪いのかな、と思っていると、先生は突然泣きながら、廊下に出て行ってしまった。
山田や何人かが先生を追いかけていって、教室がざわついた。
未来人の方を見ると、彼女はポツリと、
「昨日騒いでたあの男子、死んじゃったんだ」
あの男子は、そういえば今日は来ていなかった。
「ミュータントも、お腹すくんだ」
その後に来た校長の話によると、どうやら男子が死んでしまったのは、本当らしかった。
その日の放課後、未来人は教卓の上で体育座りをして、ぼーっと空を見上げていた。
私は、窓際の席に座って、窓の真下にある、農具倉庫の屋根を眺めていた。
……後から考えると、あの時座っていた席、川田の席だった。
トタン屋根って、どれくらい薄いんだろう、なんて考えていると、急に廊下から薄はい色の匂いがした。岡西だった。
「あの化け物、撮った!」
岡西はまっすぐ私に歩いてきて、カメラを突きつけてきた。
私はそれを受け取った。
ムービーが流れる。学校の近所だ。
「カメラの画面だけ見て歩くの、好きなんだ」
岡西も友達が少なかった。
カメラは岡西の通学路を進む。特に変哲もない映像が続いた後、画面の端、塀ブロックの角から、何か影が見える。
そこでカメラはUターンし、映像は終わった。
「ほら! 見たか!」
岡西はもうカメラを操作すると、さっきの動画の最後のシーンで一時停止をした。
確かに、塀ブロックの角から見える影は人影に見えなくもなしい、身長の割に頭が小さい気がしないでもない。
でも、岡西のテンションがなんだかうっとおしく感じた私は、
「別に、普通」
と答えた。声は震えていた。
昨日の、未来人のフキンシンな話を思い出して、そこで初めて群青色が香らなくなっていることに気づいた。
「私、帰る」
教室には、私と岡西しかいない。
黒いランドセルを背負うと、私は早歩きで教室を出た。
翌日は、たしか、朝早く起きたか何かで、早い時間に家を出た。
一昨日と昨日のこともあり、あまり明るい気分ではなかった私は、いつの間にか、早足になっていた。
私は、嫌なことがあると早足になる癖がある。
学校に着くと、正門の隣にある体育用具倉庫が開いていた。
中を覗くと、高飛び用か何かのクッションの山が崩されていた。
倉庫の土埃とカビの匂いが、あまり気持ちよくはない色で私の頭を染めるので、私はすぐに倉庫から顔を背けた。
少しだけ群青の香りがした気がした。
そのまま下駄箱に向かう。
途中、さっきよりもはっきりと群青が香って、ふいと振り返った。
「なにしてるの?」
目に映ったのは、農具倉庫から出てくる未来人だった。
私が声をかけると、まるで私が声をかけることを知っていたかのように、自然に、彼女はこちらを向いた。
「ちょっと、今日の準備」
なんの準備かは教えてくれそうになかったので、私は「へぇ」と答えた。
「私は、目が覚めたから早く来た」
「ふぅん」
未来人は興味なさそうに自分の髪を撫でると、下駄箱とは反対方向へと歩いて行った。
放課後、私は日直だったので、花に水をやるために一人で教室に残っていた。
珍しく、未来人はいなかった。
百均で売ってあるような安っぽいジョウロに水を入れて、ピンク色の花に水を注ぐ。
花びらから水があふれる。
「誰かいますんかー」
廊下から川田の声がしたので、「はーい」と返事をしてから、
ジョウロを握る手から力が抜けた。
川田?
川田はたしか、おととい。
頭が混乱する、ジョウロからあふれた水で、青色の上靴が水に濡れる。
靴下に染み込んでくる気持ちの悪い水道水に気を配ることもできず、
ただ、廊下へつながる扉を睨むように見つめる。
匂いが見える。
焦げた紫色。川田の匂いは緑だったはず。こんな気持ちの悪い色ではない。川田じゃない。でも川田の声。けど違う色がはっきりと見える。
近づいてきている。返事をしてしまっているから。
居場所はバレている。逃げないと。
でも出口は廊下しかない。足音が扉の前で止まった。
「だれかあ、けてー」
扉に何かをぶつける音がする。
建てつけの悪い教室の扉が、音を立てて揺れる。まるで怒られているようだった。
喉から、ヒュッ、と、聞いたことのない息が漏れる。
「あけてあ、けてあぇー」
聞き覚えのある声で、でも聞き覚えのないイントネーションで、焦げ紫のそれは扉を揺らし続ける。
次第にそれは強くなって行って、振動するたびに、ミシミシと音を立て始めた。
ふと、思い出す。
川田は、腕が見つからなかったらしい。
私たちは、腕で扉を開ける。なら、もし腕がなかったら?
そこまで考えたところで突然、焦げ紫の何かは、扉を叩くのをやめた。
足音が遠ざかる。
物音が急にしなくなって、扉はしんと大人しくなった。
安心して膝から崩れ落ちそうになって、力を入れようとすると、
次の瞬間、大きな物音と共に教室の扉がこちらへ倒れこんできた。その背中に大きな塊を載せている。
私はそこで初めて、人間の舌は驚くと喉に詰まるのだ、ということを知った。
塊が起き上がる。
焦げ紫。顔を見る。川田だ。でも顔だけだ。体格は成人男性の一回りは大きい。
腕はあった。
でも、私はそれを見てすぐ、急がないと、と感じた。
それから、死ななきゃ、と思った。
逃げないと、と考えたのはその後だった。
私は転がるように焦げ紫の川田に背を向けて、走り出そうとして、その場に転んだ。
プラスチックの割れた音がする。
すぐに起き上がって、そのまま廊下側ではなく、窓側(……今となっては、どうしてそう判断したのか理解はできないけど)へ全力で走り、そして、気がつくと、
2日が過ぎていた。
それからしばらくは、かなり慌ただしかった覚えがある。
まず、目覚めた瞬間から、左手首と右脚の痛みに震えた。
関節の内側から炙ったまち針を突き刺しているような鋭い痛みに、厚い板で押しつぶされているような鈍痛。
次に、ギブスで固められていることにパニックになり、暴れようにも体が動かせず、一人で泣きそうな声を漏らしていた。
看護師に気づかれると、慌てて医者を呼びに行かれ、それからまるで面接のような雰囲気で質問(検査といったほうが正しいかもしれない)を受けた。
やつれたお母さんが泣きそうな顔で病室に入ってきたときは、申し訳ないことをしたな、と反省した(なにを反省したのかは覚えていない)。
結局私は、あのあと、3階の窓から農具倉庫に飛び降りたらしく、右脚を骨折、左手首を捻挫していた。
本来ならば、トタン屋根を突き破って、そのまま農具か何かに突き刺さって命に関わる怪我をしてしまっていてもおかしくなかったそうなのだけど、
その日に限っては、たまたま誰かがイタズラで、高跳び用のクッションを農具倉庫に隠していたらしい。
農具は農具倉庫のそばに重ねて置いてあった。
私はそれで一命を取り留めていた。
その後、私は2日入院して、外傷以外は特に異常はないとのことだったので、普通に学校に通うことを許可された。
正直なところ、許可されなくても別に良かったのだけれど、お母さんをこれ以上心配させるわけにはいかなかった。
ちなみに、私が眠っていた間、中村があの化け物を見てしまったらしい。
が、たまたま近くにいた警察官のお兄さんに、様子がおかしかったところを見つかり、我に帰ったそうだ。
特に襲われたりはしなかったようなので、化け物の方は気づいていなかったのかもしれない。
朝早くに教室に入ると、その日も未来人は教卓の上に体育座りをしていた。
青いほどの黒髪が綺麗だった。
ジョウロを踏み壊してしまった覚えがあるので、新しいのに変えておかないとな、と思っていたけど、棚を見ると、既に新品のものに変えてあった。
「ありがとう」
松葉杖をついて、未来人の方を見る。
「未来のギジュツで直しておいた」
ジョウロを持ち上げる。
裏側に、百均の値札が貼ってあった。
放課後、最後まで教室に残っていたのは、未来人と私だった。
私は少し迷ってから、教卓に座る未来人に質問を投げた。
「ねぇ、ウワサの化け物って」
私は自然にアレのことを「化け物」と呼んでいることに少し驚いたけど、そのまま続けた。
「何か知ってる?」
未来人は私の方は見ずに、空を眺めたまま、「はぁ、まぁ」ゆっくりと頷いた。
少し間をおいて、彼女は教卓から飛び降りた。音がしなかった気がする。
「たぶんね、私を連れ戻そうとしてるんだよ。あのミュータ……化け物は。見た目も、がんばって人間っぽくしてるみたいだし」
ミュータントより、化け物の方がしっくりときたらしい。私は少し嬉しかった。
「でも、私は帰る気はないし」
「なら、どうするの?」
「やっつける」
未来人はそう言うと、くるりと体を廊下側に向け、そのまま歩き出した。
「私も、何か手伝える?」
松葉杖をついて椅子から立ち上がると、彼女はゆっくりと振り返りながら、
「変わってるね」
と私の目を見た。
「そうでもないよ」
「ふぅん」
彼女はそのまま歩き出した。
私は慣れない松葉杖で階段まで向かって、どうやって降りよう、と考えていると、階段のところに未来人がいた。
降りるのを手伝ってくれた。
その日の夕方、家で昨日の晩ご飯の手羽先をおやつ代わりに食べていると、山田から電話がかかってきた。4時過ぎだった。
「木の公園に来れる?」
お母さんに、木の公園で遊んできてもいいか、と聞くと、にやにやと頷いたので、私は手羽先の骨をゴミ箱に捨ててから、車で近くまで送ってもらった。
木の公園には、山田と、それから中村と、岡西がいた。
「なんか、キンモクセイの写真撮ってたら、二人が来たから」
高そうなカメラを首から下げていた。
せっかくなら、と岡西も参加することにしたらしい。……何に?
「作戦会議よ!」
山田は張り切っていた。
中村は燃えていた。
「ウワサのあのおじさんは、本当にいたのよ!」
例の岡西が撮影した動画を、山田も見せてもらったらしい。私がちらりと岡西を見ると、岡西は得意顔で頷いていた。
「警察は動かないし、先生も捕まえようとしないし、だったら!」
大人ではなく、私たち子供でおじさんをタイホする、という作戦らしい。
「おれも、なんか危ないことになってたし」
中村は山田の作戦に乗り気のようだっだ。
「タイホする前に写真とってもいい?」
岡西も参加するようだった。
「なら、私も」
私は平均的な日本人だった。
山田が立てた作戦はこうだ。
まずはクジで2人組に別れて、おじさん、もとい化け物を探す。小学校のあたりでしか見つかっていないので、校区内から出てはいけない。
もし化け物と出会って、様子がおかしくなってしまったら、お互いの頬をビンタして、意識を保つ。
その後は山田が用意した道具でおじさんをタイホする、という作戦だった。
山田が用意した道具は、手袋、タコ紐、針金、スコップ、それから手錠だった。
手錠は百均で売っているおもちゃだったけど、鍵がないとなかなか外れなくて、馬鹿にはできないものだった。
「スコップは何に使うの?」
「武器」
化け物との戦闘も作戦に組み込まれていた。
クジを引くと、岡西と中村、山田と私のペアになった。
ひとまず今日は、5時になるまで辺りを捜索して、何もなければそのまま家に帰る、ということになった。3人ともそれで頷く。
「なら、もし捕まえたら、私の家に電話して!」
今思うと、本当に危ないことをしていたな、と思う。
といっても、私は早く歩けないので、山田に手伝ってもらいながら、家の近所を散歩するだけの形になった。
「おじさんって、どんな見た目だった?」
山田はあのぼんやりとした映像しか見てなかったので、詳しい見た目は知らなかったそうだ。
「えーと」
正直に話すのは気が引けたので、よく覚えてない、と答えた。
でも、私のまぶたの裏には、はっきりと川田の顔と、焦げ紫の匂いがこびりついていた。
つい早く歩きそうになる。
「ごめん、気持ち悪いなら、無理して思い出さなくてもいいよ」
山田は少し申し訳なさそうに、私から荷物を受け取った。
いつの間にか、怖い顔をしてしまっていたようだ。
頭から、焦げ紫が離れない。
隣にいる山田は、いつも女の子らしい桜色の匂いがするのだけど、なかなか焦げ紫が離れようとしない。
少しよろけたふりをして山田に顔を近づけてみたけど、山田が少し驚いただけで、桜色の匂いは焦げ紫に負けてしまった。
私はなんとなく、山田に、
「なんか、変な匂いしない?」
と聞いてみたけど、山田は、
「えっ、毎日お風呂はいってるよ?」
と答えただけだった。
そう言う意味ではなかったのだけど。
人の匂いの色はそれぞれ違うけど、日によって少しづつ変わったりはする。
汗をかいた日は、もちろん違うし、具合が悪かったりしても違ってくる。
でも、山田の言うように、風呂に入れば、たいてい余計なものは流れるので、匂いの色は元に戻る。
匂いを受け取る私自身もそうで、匂いが強烈な食べ物(納豆とか)を匂ってしまうと、その日1日は鼻の調子が悪いけど、風呂に入るか、寝さえすれば、たいてい元に戻る。
次の日に同じものを匂ったりしない限りは、なかなかその色を思い出せるものではない……
「……あ」
……そこまで考えて、私は血の気が引いた。
足元には、排水路があって、そういえば何日か前、ここに骨が落ちていた。
川田は腕がなかった。なんで?
飛び降りたから? それなら近くで見つかるはず。
ならどうして。
誰かが持って行ったのだとしたら?
どうして川田は飛び降りた? 自殺するような子ではなかった。化け物を見てしまったからかもしれない。
化け物はそれを見ていた? なら、腕を持って行ったのは。
『ミュータントも、お腹すくんだ』
私はさっき手羽先を食べて、それから骨を捨てた。
骨を捨てた。
恐る恐る足元を見る。
排水路。今日はフタが閉まっていた。でも何日か前、ここには。
骨が捨てられていた。
この道を、化け物は通ったことがある。
つまり。
「……焦げ紫の匂いがする」
「え?」
山田はきょとんと首を傾げたが、私は全身から嫌な汗が噴き出していた。
こんな季節なのに、シャツが肌に張り付くのを感じる。
「反対側に行こう」
今、会ってはいけないと思った。
焦げ紫は強くなっている。
私は山田の腕を無理やり掴んで、転がりそうになりながら、その二の腕をひっぱった。
少し強い力で回れ右をする。
「え、ちょ、どうしたの?」
「こっちにはいないよ」
焦げ紫は濃くなっている。
山田は少し戸惑っていたけど、私の尋常じゃないこめかみの汗を見て、少し怯えたようで、黙って付いてきた。
なるべく自然に歩いているつもりだったけど、後から聞くと、その時の私は松葉杖の割には異常に早歩きだったらしい。
その後、サイレンが鳴るのを今か今かと待って、山田の家の前で別れた。
山田は「また明日」と言って玄関に消えていった。
その日は風呂に入るまで、気が気ではなかった。
次の日、未来人に尋ねた。
「なんで、うちのクラスの人ばっかりが、あの化け物に出会うの?」
未来人は、跳び箱の上に体育座りをして、木でできた格子小窓から空を見上げながら答えた。
「私とよく出会うからじゃない?」
「どういうこと?」
「化け物は私を連れて帰りたい。私の粒子が付いている人間を探す。同じクラスだと粒子がつきやすい」
私は、また粒子とかなんだとか始まった、と思ったけど、匂いみたいなものか、と思って、そのまま話を聞いていた。
「だから私は授業を休むの」
「それ、サボるって言うんだよ」
「ふぅん」
私は、埃っぽい体育倉庫の中でも、はっきりと群青色を感じていた。
「なんで今日は体育倉庫なの?」
放課後、未来人に話を聞こうと思っていたら、終わりの会が終わってすぐ、彼女はどこかに消えていた。
まだ新品の教室の扉も、帰りの会を終えてから、開いていなかったのに。そもそも帰りの会をサボっていたのかもしれない。
「この倉庫を使って、化け物をやっつける」
未来人は独り言のように呟いた。
ちょうど呟いたのと同時に、体育倉庫のシャッターが開けられた。
「誰かいんの?」
岡西だった。後ろに山田や中村もいる。
山田が不思議そうに尋ねてきた。
「こんなところで、何してるの?」
「作戦会議」
私が未来人の方を見ると、彼女はいなくなっていた。
「1人で?」
「ううん、さっきまで未来人がいた」
まだ群青の色がする。
私が右手で跳び箱の蓋をめくると、中には小さく体育座りをしている未来人がいた。
「やあ」
3人は未来人を見て、首を傾げた。
「私たちも協力したい!」
私が未来人と話していたことを伝えると、山田が目を輝かせて跳び箱の上に立った。
隣の跳び箱では未来人が体育座りをしている。
「でも、やっつけるって、どうやるんだ?」
中村がバスケットボールをその場でドリブルしながら、普通に尋ねた。
未来人は独り言のように答える。
「この倉庫を使うの」
岡西は小窓から差し込む光をカメラで撮影していた。
「倉庫を使うって言っても、さすがに燃やすとかは無理でしょ?」
「そりゃ、閉じ込めて誰か呼ぶ、とかじゃないの」
こういうとき、中村は誰よりも冷静に物事を考えられる人間だった。
未来人は中村を一瞥して、それから小窓に目を移した。
「この体育倉庫に化け物を閉じ込めて、この倉庫ごと、ザヒョウヘンコウする」
何言ってるんだ、と私は思った。
そこで初めて、私は会話に口を挟んだ。
「でも、マジックはタネがあるからできるんでしょ?」
未来人は、珍しくすぐに返事をよこした。
「未来に送りつけるから、大丈夫だよ」
彼女の目があまりにも綺麗な目だったので、私は、何故か「なら大丈夫か」と納得してしまった。
まあ、冷静に考えても、閉じ込めさせすれば、なんとかする手段を考えていたのだろう。
「なら、どうやってここに閉じ込めるか、ね」
山田が跳び箱の上で、腕を組んで「うーん」と悩ましげな声を出す。
「誰か囮になればいいんじゃね」
中村はさらりと言ったが、私は少し反対だった。
「死んじゃったらどうするの?」
「死ぬ前に、誰かが起こせばいい」
「でも」
私が反論しようとすると、岡西がこちらを振り返った。
「直接見なければ、平気なんでしょ?」
未来人はこくりと頷く。
「たぶん平気。付いてこさせればいいんだから、囮作戦もできると思うよ」
そうか、ならいいか、と、私は納得した。
未来人の言葉には、不思議な説得力がある。
「ところで、その化け物はどうやったら見つかるんだろう?」
山田は、またしても腕を組んで悩んでいた。
「それについては」
未来人が足を伸ばした。
白い脚が小窓からの光に照らされる。
「この中なら、ツインテールのキミが囮になればいい」
ツインテールの山田は、「わたし?」と首を傾げた。
未来人は足を伸ばしたまま続ける。
「他のみんなは、もう出逢っちゃってるから、化け物は、ハズレだ、せいぜいご飯にしかならない、って知ってる。
でも、ツインテールはまだ出逢ってないでしょ?」
山田はこくんと頷いた。
「でも、おれも見つかってはないよ。カメラで見ただけ」
岡西がカメラを掲げる。
「それだけ近づいても見つからないってことは、たぶん、たまたま私の粒子がちょっとしか付いてなかったんだよ」
だから、この中だと、山田しか囮に使えない、ということだった。
「なら、作戦は、わたしが囮になって、化け物を引きつけて、体育倉庫に閉じ込めて、ザヒョウする、って流れね?」
未来人は頷いた。
こんな場所でも、長い髪が綺麗だ。
「でも、山田はどうすんだよ」
中村がバスケットボールをカゴに投げた。
「囮をするにしても、見ない限りは付いてきてるかどうかわかんないだろ?」
それを聞いた未来人が、静かに私を見た。私は頷く。
「それは、大丈夫。近くにいるのがわかったら、私が合図する」
近くに来たらわかるんだ、と、3人に伝える。
「なら、わたしと一緒に来てくれれば、近くに化け物がいるのがすぐにわかるのね」
山田が少しホッとしたような顔をしたのが、印象に残っている。
「なら、おれも行く。2人だけだと不安だし」
中村も来ることになった。
「ならおれも……」
岡西がそう言いかけたところで、未来人が遮った。
「ちょっとまって」
視線が未来人に集まる。
彼女は跳び箱の上で再び体育座りをして、独り言のように言った。
「作戦は人に見られたらいけないから、夜になる。だから、どこの門も閉まることになる」
言われて初めて気づいた。うっかりしていた。
夜になると、東、西、南方面にある門は、すべて人が入れないように閉まってしまう。北に至っては、ブロック塀で覆われていて、入り口になる隙間すらない。
「どうするんだ?」
小学生5人くらいなら、門を乗り越えるのは簡単だ。
でも、化け物を敷地内に入れなければ意味はないので、どこかの門は開けなければならない。
「でも、門を開けてる間に追いつかれたら」
3人とも食べられてしまうかもしれない。
誰も携帯なんか持っていないので、事前に連絡もできない。
「だから、カメラマンに屋上から見張っててもらって、どの方向から来るか、合図をもらう。
そうすれば、来る前に門を開けられる」
山田が尋ねる。
「でも、顔を見たら、そこから飛び降りてしまうんじゃ」
岡西はそこで頷いて、
「それなら大丈夫」
カメラを構えて、自信ありげに頷いた。
その夜、私はこっそりと家を抜け出した。
……といっても、右脚と左手がうまく使えないので、物音はガタンガタンと鳴っていた。
外に出て、玄関から家をしばらく見守る。
親が起きてきた気配はしない。
「みんなの親のことなら、私に任せて」
未来人は、さっにの帰り際にそう言っていた。
まあ、またマジックか何かだろう。
私は特に深く考えず、学校に向かった。
「こんばんわ」
「こんばんわ」
途中、山田と中村に出会って、歩くのを手伝ってもらった。
中村は動きやすそうなジャージだったけど、山田は私服だった。
学校に着くと、正門の隙間からギリギリ入れたので、私たちは思ったよりも簡単に夜の学校に侵入できた。
普段から見慣れてるはずなのに、月明かりに照らされている校舎は、まるで魔王の城のようだった。
午前2時。
「丑三つ時だ」
中村が少し震えた声で呟いた。
不思議なことが起こってもおかしくない時間。
私は少し怖かったけど、岡西は何故か楽しそうだった。
岡西は満月と校舎をカメラに閉じ込めている。
「なら、準備をしておくから、キミたちは化け物を連れてきて」
未来人は、いつも通りの制服姿で、体育倉庫のカギをくるくると回していた。
どうやって持ってきたんだろう。
「岡西はどうやって屋上に登るの?」
山田が尋ねると、未来人は夜空を見上げながら答えた。
「ザヒョウヘンコウする」
私は、どこかのカギを、昼間のうちに開けておいたんだろうな、と思った。
「じゃあ、すぐ連れてくるから」
5人で顔を見合わせて、頷いた。
未来人がこちらを振り返る。
「待ってるから」
つづく
誤字脱字があったらごめんなさい。
明日また続き書きにきます。
まずは、中村が化け物と出会った、という場所に向かってみた。
「そこの駄菓子屋の前なんだけど」
昼間は子供が集まって騒がしい駄菓子屋も、夜はまるでテレビの音量を0にしたように静かになっていた。
まるで時間が止まってしまっているよう。
「どう? 近くにいる?」
私は深呼吸した。
夜の冷たい空気が鼻の奥を冷やす。無駄なものが混じっていない空気。
焦げ紫は見えない。
「近くにはいないみたい」
3人は駄菓子屋を後にした。
次に近かったのは、川田が見つかったアパートだった。
「やめとく?」
中村が山田と私に尋ねる。
「いや。行ってみよう」
少し怖いけど、居そうな場所は片っ端から探してみないと。
私たちはアパートに向かった。
アパートの近くまで来ると、少し車の音が聞こえてくるようになった。
近くに大きい道路なんてないはず。どこかの家族が外出していたのかもしれない。
「この奥だね」
山田は少し震えているようだった。
私は黙って山田の手を握った。山田も握り返してきた。
……実は私も、少し怖い。
自然と忍足になってしまって、初めとは比べ物にならないほどゆっくりと進みながら、そこの角を曲がればアパート、と言うところまで来た。
どこからか虫の鳴き声が聞こえる。
耳をすませると、少し、何かの足音がした気がして、心臓が大きく跳ねた。
3人で顔を見合わせる。
焦げ紫は見えない。でも、もしかしたら。
「……行くよ」
中村も声が震えていた。
3人で息を飲み、角からそぅっと顔を覗かせた。
その時だった。
「何してるんだ?」
私たちの真後ろから、突然低い声がした。
腰が抜けそうなほど驚いて、3人でほぼ同時に振り返ると、
急に眩しい光が当てられて、目を細めた。
「……小学生か? こんな夜中に何してる?」
私は固まってしまった。頭が真っ白になって、突然ふわふわとした気分になる。
山田と私の手を、何かが思いっきり引っ張った。
中村だった。
「警察だ、逃げるぞ! 小野、松田!」
はっと我に返った山田と私は、弾き出されたようにそこから走り出した。
「走れ、走れ!」
くねくねと折れ曲がった細い道を、3人で全力疾走で駆け抜ける。
私は右肩を中村に支えてもらっていた。
「こら、待て!」
後ろから追いかけてくる警察官を見て、まさかここまで警察を恐ろしく思う日が来るとは思わなかった。
思うように前に進まない。
捕まったらまずい。
また広い道に出て、走り出そうとすると、山田がつまづいて転んでしまった。
「大丈夫??」
中村と一緒に駆け寄ると、山田は膝を手で覆っていた。
「いたっ……」
膝を擦りむいている。
中村も私も、もう息が上がって限界だった。
「止まれー!」
もうすぐ、そこの角まで、警察官は近づいてきていた。
まずい。捕まる。どうしよう。
私の頭は混線して、考えがまとまらなくなってしまっていた。
もうむりか。
私が大人しく捕まろう、と、口を開こうとすると、中村が叫んだ。
「こっち!」
私の心臓は、胸を突き破って出てきそうだった。
隣では山田が必死で息を整えている。
中村も、走った疲れか、焦りか、目には涙がたまっている。
かくいう私も、視界は涙で滲んでいた。
無理をして何度か地面についてしまった右脚が、恐ろしいほど熱を持って痛みを伝えてくる。
私は人差し指を思いっきり噛んだ。
「どこに行った!」
警察官の声は近い。もうすぐそこだ。
山田が口に手を当てて息を潜めている。
中村はぎゅっと目を閉じている。
私は必死で自分の心臓を大人しくさせようとした。
鼓動が聞こえてしまわないか不安だった。
「隠れてないで出てこーい!」
警察官の声が数メートル後ろから聞こえてきた。
足音は近づいてくる。
もう、すぐそばまで。
そして、そのまま、足音は、私たちのすぐそばまで来て、それから、
頭の上を通り過ぎて行った。
警察官は気づく様子もなく、そのまま歩いて行って、足音は聞こえなくなった。
しばらく息を潜めて、それから、3人で世界で一番長い息を吐き出した。
乱れた息を整える。
「ば、ばれなくてよかった……」
山田が涙声で安心していた。
「よ、よかった……」
中村も声が震えていた。
私は上を見上げる。
蓋の隙間から、わずかに光が漏れていた。
『こっち!』
諦めかけた私の腕を、中村がひっぱった。
その目線の先には、乾いた排水路。
雨が降った日にしか水が流れない排水路の蓋が、その部分だけ空いていた。
昼間のうちに、近所の人がゴミ取りでもしたのかもしれない。
中村が山田を押し込んで、それからすぐ私を中に降ろしてくれた。
ほぼ同時に中村も飛び込む。
少し奥に移動して、私たちは外からは見えない場所に隠れた。
それから私たちは、警察官が通り過ぎるまで、たぶん日本で一番必死で息を止めた小学生になった。
肩を揺らして息を整えながら、山田は中村に尋ねた。
「さっき、なんで小野と松田だったの?」
額をぬぐいながら、中村は途切れ途切れに答えた。
「いや、もし、逃げ切れても、学校に言われたら、おしまいだと思って」
だから、咄嗟に関係のない名前を呼んだらしい。
こうしておけば、次の日に先生に何か言われても心配ない、と。
「なるほど、すごいね」
山田に褒められて、中村は少し照れているようだった。
息を整えた3人は、ひとまず、これからどうするかを話し合った。
「松葉杖を取りに行かないとな」
中村が、私の方を見ながら言った。
さっき、警察官に見つかった時、焦って走り出してしまったせいで、松葉杖を放り出してしまっていた。
中村が肩を貸してくれたので忘れていたけど、あれがなければまともに歩けない。
「なら、まずは松葉杖を取りに行こうよ」
山田も勧めてくれたので、まずは松葉杖の回収を急ぐことにした。
一番出口に近かった中村が顔だけを道路に出して辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、ひょいと道路に出た。
次に、脚がうまく使えない私が出ることになった。
上から中村に引き上げてもらい、下から山田に押してもらう。
なんとかそれで排水路から出ようとした、その時、
「……焦げ紫」
焦げ紫の匂いがした。
2人は首を傾げている。
「化け物が、近くにいる」
2人の顔が青ざめるのが、月明かりだけでもわかった。
私は排水路から飛び出ると、2人から少し離れて、大きく息を吸った。
……焦げ紫。間違いない。
今、走ってきた方から、間違いなく、焦げ紫の匂いがする。
その時の焦りというか、緊張感というか、ジトッとした手汗の感覚は、今でも忘れない。
山田が排水路から出てきて、中村と山田が肩を貸してくれた。
「いるって……どこに?」
「わからない。けど、今来た方向から」
焦げ紫が濃くなる。
「こっちにきてる」
2人は足元が覚束ないようにそわそわしていた。たぶん私もしていた。
「が、学校に向かわないと」
中村が震えた声でそう言ったが、私はそれを引き止めた。
「い……今動いたら、化け物が私たちを見失っちゃう。もし、化け物が私と同じで匂いで付いてきてるなら、暫くここに隠れてたから、匂いが残ってて、それでここに向かってるんだ」
……だから、私たちは、化け物に姿が見つかるまで、この道にいないといけない。
2人が息を飲んだのが聞こえた。
ここから小学校まで、距離はだいたい500メートル。
小学校からここは見えなくて、少なくとも二回曲がった、200メートル先の駄菓子屋の前まで行かないと、屋上にいる岡西に見つけてもらうことはできない。
「まずは、曲がり角ギリギリまで行こう」
私は右脚を庇いながら、2人に肩を借りて歩いた。
「後ろを振り返ったらお終い。私が匂いで化け物とのだいたいの距離を測るから、私が合図するまでは曲がらないようにして。
少しづつ後ろ姿を見せて、それで小学校まで連れて行こう」
だいたいこんなことを2人に言った記憶があるが、正直、このときは3人ともほとんど極限状態で、誰もその時の詳しい会話を覚えていない。
たぶんもっとシドロモドロに喋っていた。
3人で曲がり角の直前まで行って、その場で立ち止まる。
お互いの顔が見たくても、万が一視界の端に化け物が映ってしまえば大変なことになるので、ただ目線を動かすことしかできなかった。
「……近い」
と言うか、ここまでくると、ほとんど足音が聞こえていた気がする。
ただ、山田には聞こえていなかったらしいので、動揺から起きた幻聴かもしれない。
3人とも、ただそこに立っているだけなのに、まるでマラソンの後のように、息を不安定に荒くして、鼓動を早めていた。
少し湿った、気持ちの悪い足音が近づく。
一歩。
また一歩。
まだだ。
山田は少し泣き声を漏らしていた。中村が隣で歯をくいしばる気配がした。
私も涙で視界がぼやけていた。
一歩。
また一歩、と足音がしたところで、明らかに匂いが少し濃くなった。
つまり、化け物との間に、隔たりがなくなった証拠。
「走って!」
と言い終わるより早く、私たちは駆け出した。ほんの100メートルもないような道が、そのときはどの道よりも長く感じた。
とにかく走る。走る。
山田が擦りむいた足で、必死に私の肩を支えてくれている。
中村も私たちに合わせながら、1人で逃げたい気持ちを抑えてくれている。
私も痛む身体に鞭を打って、全力で走った。
曲がり角の直前、駄菓子屋が見える位置で、私たちは走るのをやめた。
少しよろけながら、ぜえぜえと息を吐く。
「ばけ、化け物は、付いてきてる?」
隣の中村が振り返ろうとしたのを、私は頭突きで止めた。
中村は「いてっ」と小さく悲鳴をあげたあと、すぐに顔を前に向けて、「ごめん」と息を漏らした。
私も「ごめん」と謝った。何も頭突きすることはなかった。
「でも、近いよね……」
山田が涙で掠れた声で、前を向いたまま呟く。
私は息を整えながら「うん」と頷く。さっきより匂いが濃くなるのが格段に早い。
足音も、わずかに聞こえる気がする。
「次、駄菓子屋の前まで行けば、あとは、全力で逃げよう」
あとは直線だ。立ち止まる必要はない。
けど、逆に言えば、化け物から、私たちをはっきりと確認できてしまう。
もう、3人とも涙でぐしゃぐしゃだった。
山田も私も、普通に嗚咽を漏らして泣いていた。
中村も、「くそぉ……」と声を漏らしながら、歯を食いしばって泣いている。
標的は私たち。
相手は得体の知れない化け物。
3人でひきつける、姿を見たら終わり。
でも追いつかれたら食べられる。
レーダーは私の嗅覚のみ。
私も怖かったけど、この2人の恐怖は、私の倍はあったと思う。
今思い返せば、私を置いていかなかったこの時の2人に感謝しなければならない。
私は泣きながら、鼻をすすって、空気を吸った。
焦げ紫が、近い、近い、近い。
でもまだだ。あと少し。
三人の足が自然と前に進んでしまう。でもまだだ。
「……さん」
私は数を数えた。
2人の腕に力が入る。
「……にぃ」
焦げ紫が濃くなるのを待つ。
3人の息は荒いし、汗はすごいし、まるでサウナの中にいるようだった。
私は空気を吸い込む。
「……いち」
色が濃くなった。
「走れ!」
ほとんど言い始めるのと同時に、私たちは駆け出した。
と言うよりは、私は2人に引っ張られて、必死に左脚を動かしているだけだった。
もう無我夢中で、ひたすら前に進むことだけを考えた。
とにかく駄菓子屋まで、走る、走る。
文字どおり死にそうになりながら駄菓子屋の前まで来たところで、山田が転んでしまった。つられて私も転ぶ。
「あっ……づ!」
ギブスを巻いている右脚に激痛。油を敷いたフライパンで焼かれているように熱くなり、そのままナイフを突き立てられるような痛みが襲う。
立ち上がろうと両手を地面に着くと、駄菓子屋の屋根からギリギリ見えた小学校の屋上から、何かの光が見えた。
「カメラのフラッシュだ!」
フラッシュを使って岡西が未来人に合図をしたのが、ここからでも確認できた。
「あと少し!」
山田がなんとか立ち上がって、私を起こそうとしてくれる。
「山田、1人で走れる??」
中村が私の前にしゃがみ込んで、山田に向かって叫んだ。
「うん、走れる!」
「よし、背中に乗れ!」
中村は私の腕を引っ張ると、半分引きずるようにして私を背中に乗せて、そのままの勢いで立ち上がった。
少しふらついてから、山田の背中に全力で付いて走る。
中村に必死でしがみつく。中村は人を背負っているとは思えない速さで山田の背中に付いて行った。
一番近い入り口まで、あと少し。
山田が痛めた足を庇いながら走り、中村がそれについていく。
私は焦げ紫が濃くなるのを少しづつ感じていた。
「ま、まつっ、まってーぇ」
突然後ろから聞こえてきた呻き声に、私たちは跳ねる勢いで驚いた。
山田がつまづいて転びかける。
釣られて中村が立ち止まってしまったので、私は額を後頭部にぶつけた。
「ふっ、ふーり? まっ%¥=°~て!」
後ろから聞こえてくる奇声に、山田と中村は完全に脚が竦んでしまっていた。
まずい。
私が足を引っ張っているのはわかるけど、動かないことにはどうしようもない。
でも、3人とも、既に限界だった。
もうかなり長い時間緊張しっぱなしで、体力も底を尽きていた。
「だッ#○*け、す?ご~っ%!」
中村も山田も完全に脚が震えてしまって、まだ数10メートルはある校門へ走る用意はもうない。
焦げ紫が信じられないほど濃くなって、私が思わず振り返りそうになったとき、
「走れっ!」
どこからからか聞こえてきた男の人の声で、山田と中村は弾けるように飛び出した。
私は必死でしがみつく。
そのときは、その声は警官のモノかなぁ、と思っていたけど、その間違いに気づくのは随分とあとになる。
ふらつきながらも走って、未来人が校門を開けているのがやっと見えてきた。
「体育倉庫の中、おびき寄せて」
酸素がなくなったように息を荒げる私たちとは正反対に、落ち着き払った未来人の横を、3人は走り抜けた。
「あと少し!」
全開になっているシャッターをくぐり、私たちは体育倉庫に駆け込んだ。
突っ込むようにして、私は高跳び用のマットの上に投げ出される。
中村はバスケットボールの山にそのまま転がり込んだ。
「こ、こっち!」
山田が声を荒げた方を見てみると、昼間は散乱していた跳び箱が、小窓に通じるように階段になっていた。
木でできた格子も、雑に壊されていた。
小学生1人くらいなら通れそうだ。
「登れ!」
中村がバスケットボールを地面にばらまきながら、山田を急かした。
山田は這うように跳び箱を登り、小窓からなんとか転がり落ちる。
外からぼふっ、という布の音が聞こえて、高跳び用のクッションが置いてあることが匂えて取れた。
「手伝う!」
跳び箱に必死でしがみついていると、中村が勢いよく押し上げてくれた。
私は階段を滑るように跳び箱を登り上がって、小窓から手を突き出した。
山田がそれを掴んで、そのまま引っ張り出してくれる。
私はギブスを格子の破片に引っ掛けながらも、なんとかクッションの上に落ちた。
「早く!」
シャッターに何かがぶつかる音がした。
涙で顔をぐちゃぐちゃにした中村が手を伸ばしたのを、私と山田で思いっきり引っ張る。
倉庫の中で何かが転ぶ音がして、それと同時に私と山田の上に中村が転がり込んできた。
突然、群青色の香りがする。
と思った次の瞬間、勢いよくシャッターが閉まる音がした。
「3人とも、少し離れてて」
体育倉庫の表側から、未来人の少し張った声が聞こえる。
3人はよろけながらもクッションから降りて、ほとんど這うようにして表側に回り込んだ。
未来人が倉庫の角の部分に抱きついて、目を閉じている。
私はそれを見たのを最後に、意識を失っていた。
次の日。
お母さんの声で目が覚めた私は、なんだ、昨日のことは夢か、と思ったけど、
服が寝まきでなく、ギブスが茶焦げに汚れていたことから、「あぁ、本当だったんだ」と震えた。
枕元に、松葉杖が置いてあった。
明らかにおかしな格好で自室から出てきた私を見て、お母さんが悲鳴を上げてしまったことから、お父さんまで起きてきてしまったので、弁明に少々時間を要した。
少し家を出るのは遅れたけど、車で送ってもらえたので、学校に着いたのはいつも通りの時間だった。
校門の前で車から降ろしてもらって、お母さんは手伝ってくれると言ったけど、そこからは1人で歩いた。
体育倉庫の前を通る。シャッターは昨日までと特に変わった様子はなくて、適度に汚れた、でも特に目立った傷はないシャッターだった。裏側の格子窓がどうなっていたかは、たしか確認しなかったと思う。
農具倉庫の横を通って、教室に向かう。
真新しい扉の前に立つと、群青色の匂いがしないことに驚いた。
驚きつつも、私は松葉杖に体重を載せて、苦労しながら扉を開けた。
誰もいない教室は、昨日の校舎と同じ建物とは思えないほど、清々しい空気だった。
放課後、いつもより少し短く感じた授業の後、私たちは教室に残っていた。
私は3人に、昨日の後のことを尋ねた。
「あのあと、誰か運んでくれたの?」
中村と山田は、揃って首を傾げた。
2人もあの後のことはあまり覚えていないらしく、気がつくと家にいたらしい。
山田は親が起きる前に着替えて、見つからずに済んだそうだが、中村は夜に出歩くな、と親に怒られてしまったそうだ。
岡西は、少し離れたところでカメラの写真をチェックしていた。
「岡西は?」
中村が尋ねると、「うーん」と曖昧な返事をしてから「夜の屋上、すごかった」と、聞いてもいない感想を述べていた。
こちらにカメラの画面を向ける。3人で揃って、心臓が止まりそうになる。
屋上から撮影した、夜の街。
今思えば綺麗だったけど、その時の私たちからしたら、恐怖の対象でしかなかった。
今でもその画面が思い出せるのだから、その時思い出した恐怖は並々ではなかったはず。
私は立ち上がろうとして、ふと違和感がないことに気づいた。
そういえば、朝起きた時、枕元に松葉杖が置いてあった。
昨日、放り投げてしまったはずなのに。
「誰か取りに行ってくれたの?」
山田と中村は当然首を振ったし、岡西もそれは本当に知らないようだった。
まあ、あとで未来人に聞けばいいや。
私はそう思った。
そのあと、3人が帰ってからも私は少し教室に残っていたけど、未来人はいつものように教卓の上にはいなかったし、群青色もどこにも見えなかったので、私は母の迎えを待って、そのまま帰った。
車の窓を開けて、外の空気をにおう。
あの骨が捨ててあった排水路の近くを通ったところで、小さく息を吸ってみたけど、もう何もなかった。
雑草とアスファルトの匂い。
夜、風呂に入って、匂いをリセットする。
水、というかお湯の匂いは、今でも不思議に思うのだけど、なぜかどんな色も浮かんでこない。
水が透明なように、匂いも透明。
だからなのかどうかは知らないけど、あとから私はかなりの温泉好きになる。
小学生の頃は温泉なんてあまり興味なかったけど。
風呂の湯気を思いっきり吸って、頭の中をリセットする。
そこでふと、今日は未来人に出会っていないことに気がついた。
あの群青を思い出そうとする。
透き通った、シャンプーともなんとも言えない香り。
蒼く見えるほど深く黒い髪。
言葉にすれば思い出せる気がするけど、まぶたの裏にあの黒っぽい青は浮かんでこなかった。
少し不安を感じて、私は両眼をつぶって、頭からお湯に沈み込んだ。
次の日、若干緊張しながら階段を上りきった私は、少し躊躇うように、ゆっくりと廊下を歩いて、教室に向かった。
扉の前に立つ。
そういえば、なんで化け物は川田の見た目をしていたんだろう。
そして、どうして学校まで来たんだろう。
川田は死んでしまったはずなのに、それでも川田を学校で見た、というのは、
うまく表現できないようなショックを私に残していた。
まあ、偶然、未来人の粒子とやらを辿っていたら、ここに来たんだろうな。
自分にそう言い聞かせることにした。
松葉杖に体重を傾けて、右手で扉を開こうとすると、教室から、いい香りがした。
私は少し急いで扉を開けて、それから教室の中を覗き見る。
教卓の上には、未来人がいた。
体育座りをしたまま、彼女は窓際の席を見ていた。
それから、私に気づいて、すぐに目線を空に移した。
「プレアデス星人は、季節ごとに雲の色を変えるようにしたんだよ」
私は「へぇ」と頷きながら、自分の席に荷物を降ろした。
それから、未来人がさっきまで見ていたのであろう席に座った。川田の席だった。
未来人に聞きたいことがいろいろあったけど、私は、それより先に、座った机の引き出しを開けた。
ヘアピンが、中に入っていた。川田のお気に入りだったヘアピン。
これを川田に返さないと、と思った。
「なに、それ」
未来人が呟いた。
「忘れ物」
私は答えた。
私が自分の席に戻ると、いつの間にか、未来人が隣に立っていた。
未来人は足音がほとんどしない。
「質問があるんだけど」
私が未来人の方を見ると、彼女は長い髪を揺らして、「いいよ」と応えた。
一息に尋ねる。
「体育倉庫のシャッター、どうして直ってたの?」
「倉庫が未来に移動してた間に、向こうのギジュツで直してくれたんだと思う」
「あの化け物、どうなったの?」
「未来に送り返したよ。300年くらい先に」
「死んだの?」
「死んでないよ」
私は、「へぇ」と頷きながら、マジックってどこまでできるんだろう、と思った。
家に送ってくれたりとか、松葉杖について聞いてみると、彼女は「それはわたしの手柄じゃないよ」とそっぽを向いた。
「他は自分の手柄なんだ?」
私が少しからかうように聞いてみると、
「そうだよ」
未来人は両手の指先を合わせて、その隙間から細い指の間を通すようにして、私の目を見た。
それは、未来人が、初めて私に見せた、人間らしい(というか、女の子らしい)仕草だった。
少し首を傾けて、真っ暗な澄んだ瞳で、私の目を見つめる。
顔は笑ってなかったけど、未来人が笑ったのがわかった。
綺麗な顔だな、と思った。
透き通った香りがして、頭の中が群青色でいっぱいになった。
宇宙みたいだった。
小学校の頃の思い出は、だいたいこれくらい。
他にもいろいろあった1年な気もしたけど、言ってしまえば、この数日があまりにも濃くて、他の日が薄くなってしまっている印象はある。
私にとって、自分を未来から来たと本気で信じている女の子は、この頃から少し特別な存在だった。
決して人々の中心にいたわけではないのに、私の記憶の中心にいるのは群青色の彼女だ。
彼女との付き合いが、これから先、もっと長く深くなることは、まだこの時の私には想像できなかったけど、
でも、まだ一緒にいたいな、という気はしていた。
私は、彼女にこう尋ねたことがある。
「大人になったら、なにがしたいの?」
彼女は、空を見上げたまま答えた。
「どうして、そんなこと聞くの?」
「気になったから」
未来人は、会話を続けたくないと思った時、こう答える。
「ふぅん」
私はそのことを知っていたので、それ以上なにも聞かなかった。
放課後の教室、オレンジ色の夕陽がカーテンを揺らす中、私は、群青色の未来人から、こう声をかけられる。
「宇宙人っていると思う?」
透き通った声だった。
「いないと思う」
そう答えると、彼女は可愛げのない顔でそっぽを向いた。
「なら、未来人は?」
「それは、いると思う」
「ふぅん」
そっぽを向いたまま、彼女は少し嬉しそうに喉を鳴らした。
面白い子だな、と思った。
ひとまずおしまい。
続けるつもりですが、時間空けるので、また来週頃にスレ立てる予定です。
あとでHTML化の依頼しておきます。
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