唐突な当たり前の全裸(デレマスSS) (31)
※百合注意
※not台本形式
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前置きもなく唐突ではあるが、本田未央はピンチだった。どれくらいピンチなのかと言えば、渋谷凛が島村卯月の据え膳をいただかない結果大地震が事務所直下で起きたときよりもピンチだった。
魔界天使チエリールこと緒方智絵里と魔界天使ミホリールこと小日向美穂によりその大地震はこの世界において起きたという事実すら無くなり世界は無事平穏なものへと書き換え(リライト)されたのだがそれはともかくとして。
本田未央の心境はそんな大災害にも勝るとも劣らない激しい窮地であった。
「なぜ、あーちゃんが、一糸纏わぬ姿で、私の横に、寝ているんだ──!?」
あまりの同様に句読点が大量である。
未央は特に理由もなく暇潰しに事務所へとやってきたのだが誰もいないので昼寝をしようと事務所の仮眠室で眠りについた。それがおおよそ午後三時頃のことだ。ちなみにそれから時間にして三時間ほど、つまり現在は午後六時である。
そして眠りから目覚めた未央の横には高森藍子が一糸纏わぬ姿、つまり裸で眠っていたのである。
もちろん──未央は藍子を食べたわけではない。今の今までぐっすりと事務所の仮眠室でどうどうと暇を持て余した昼寝をしていたのは間違いないのだ。
ならば何故なのか。未央は少し考えてから神の悪戯ならぬ鬼悪魔ちひろの所業である可能性を疑ってみたが、あのカネゴンが金の絡まないことにわざわざ労力を割くとは思えないので否定した。
限定あーちゃんを引こうとして大爆死して給料三ヶ月分が飛んでいったことを未央は忘れていなかった。なぜ、なぜよりにもよって。温泉だよ。タオル一枚だよ、タオル一枚。なのに引けないなんて、もういい私デレステやめる!
プロデューサーが限定みほちーを引けなくて屋上からぼうっと地面を眺めながら渇いた叫びを歌っていた気持ちがわかったよ、とは未央の談。
閑話休題。
というわけでなぜ藍子が裸で未央の横で眠っていたのかは不明である。
綺麗に折り畳まれた藍子の洋服がベッドの傍にあり、どうやら眠っている間に未央の中に眠る野獣が目を覚まして強引に藍子に迫ったわけではない、ということは察することができる。
「と、とにかく落ち着こう。そうだ素数を数えるんだ、素数は孤独な数字、私に勇気をくれる……」
1、3、5、7、9──あれこれ奇数だ。
掛け布団を必死で藍子に掛けて布団から目を離す未央ではあるが、しかしチラチラと布団を……藍子を見てしまうのはその思春期特有のおさまりつかない激しい劣情がゆえに仕方がないものだろう。
渋谷凛が見ていれば『こいつこの状況で手を出さないとかマジか。人間やめてるのか!?』と驚愕の表情で訴えているだろう。卯月の苦労がうかがえる。
「まず、状況を整理しよう。私の衣服は変わったところはない。乱れていない。つまり問題は何も起きていない」
ほっと一息つく。
「だからあーちゃんがなぜ裸で私の横で寝ていたのか、そこが問題だ」
頭をひねって考えてみる。未央ちゃんの頭脳明晰な思考回路を持ってすれば自ずと答えは見えてくるに違いない、と明後日の方向にポジティブに考えてみるけれども、テストの成績で測れるような状況ではないので当然わからなかった。
依田芳乃や遊佐こずえ、はたまた白菊ほたるや鷹富士茄子のような超常的な存在の関与を疑うのがセオリーなのだろうか、はたして何の意味があるのか。
或いはプロデューサーが噛んでいて協力を要請したのか──いや、あのみほちー至上主義の享楽主義者(ガチャガチャマシン)がこんなことをするとは考えにくい。有り得ないとまでは断言はできないが可能性は限りなく低いだろう。
…………わからない。
まさか、あーちゃん自身でこんなことをするとも思わないし──と、ぐるぐる思考がめぐりだしたところで、未央が視界から逸らしていた布団のほうでは。
「!!??」
渦中の人物である高森藍子が目を覚まし、声にならない悲鳴をあげていた。
──あれなんで私裸になってるの!?
──というかここどこですか!?
──ところで未央ちゃんはどうして奇数を唱え続けているんですか!?
布団の中でパニクっていた。
とりあえず服を着なければいけない、服を着なければ──とベッド傍に置いてある服を必死に手を伸ばして引き寄せようとする。絶妙に掛け布団に丸まった状況では手が届かない場所にあるのがなんとも歯がゆくもどかしい。
なんとしても未央がこちらを向く前に着替えなければ──と思い、あれと藍子の中でひとつの疑問が浮かんだ。
そもそもどうして未央の目を気にしなければならない。思い返してみるも、よくよく考えてみれば未央ならば別に見られようと構わないではないか。
いや、確かに裸を見られるということは性別関係なしに少し恥ずかしく思わなくもないけれど──相手は未央ちゃん。
同性であるということはもちろんとしても、普段から仲良しだし、もっと言えば一緒に温泉にも入ったことがある。何を今さら、というやつである。
慌てた結果なんとなくこうしなければならない気がしたが、それは気がしただけであり、さらに言えば裸のままで立ち尽くしても特に問題はないのだ。
──いや、それはさすがに倫理的に考えて問題がありますけど。
倫理的というか、精神的におかしな人だ。
さてしかしそう気付いたからには布団なんて制約はさっさと脱ぎ捨ててしまい服を取ってしまおう。裸なので布団から出ると肌寒くはあるけれども、服を着ないことには始まらないし終わらない。
──と、布団から出たところで、未央が、タイミングよく、いやタイミング悪くだろうか?
「あ」
奇数を唱え続ける奇行から戻ってきてふと布団があったほうへと──つまりは藍子がいるほうへと視線を向けていた。
「……………………芸術かな?」
ぽつりと漏らした言葉は藍子には届かないほどに小さいものだった。
ビーナス像やダビデ像などから言えるように、古来から裸というのは性的なイヤらしさ以上に芸術であるというのは知っていて然るべきではあるが、未央は齢十五にして思春期という性的フィルターを通り越した芸術を感じ取っていた。
イヤらしさよりも美しさこそを未央は藍子の裸体に感じていたのだ。
つまり一歩飛び越えた変態である。
「あ、未央ちゃん。ごめんなさい、ちょっと後ろ向いていてもらえますか……さすがに着替えているところをまじまじ見られるのは、ちょっと恥ずかしいです」
「あーちゃんの身体に恥ずかしいところなんて何一つないよ!?」
「ちがうそうじゃないです。……あ、いや恥ずかしいところはありますけど」
Age16にして未だに薄いとある部位のとあるものだったり。
「と、とにかく、未央ちゃん、今はこっちを見ないで!」
「あ──ご、ごめんっ!」
めっちゃ見てしまった。あーちゃんの一糸纏わぬ生まれたままの姿、至高にして至宝、ひとつとして他にはない無二の芸術を、目に焼きつけてしまった。
今宵は目をつむるたびに瞼の裏に焼きついた藍子の姿が未央を悶々とさせることが確定してしまったことだろう。
未央の脳内おさんぽカメラがおはだかしている藍子をパシャリ煩悩が嘲笑っている。
「あ、あのさ、ところであーちゃん……少し聞きたいことがあるんだけど」
背後で聞こえる衣擦れの音にドギマギして振り返りたい気持ちをぐっと堪えて未央は聞かなければならないことを口にすることにした。
何か喋っていなければ何をしでかすかわかりないからである。
ちなみにどうせ何もできない。
「あの、あーちゃん、その……な、なんで裸で私と寝ていたのかなー、って」
「た、確かに事実としては間違いないことなのかもしれないけれど、他に言い方もう少しなかったの!?」
「ごめんなさいデリカシーありませんでしたっ!」
言葉選びを悉く地雷を踏み抜くように選んだのは最早さすがとしか言いようがない。
「それであの、どうしてなの……?」
「わ、わかりません……何を言っているんだ、って未央ちゃんも思うかもしれないけれど、本当にわからないんです」
藍子の声色に嘘は感じ取れない──いや、声だけで感情を読み取れるほどに自分は優れた聴覚や直感を持っているわけではないけれども、こと藍子の言葉であれば少しは理解できる、はず、たぶん。
それに、だ。わざわざそんな嘘をつく理由が藍子にあるはずもない。嘘をついてまで裸で自分が眠る布団に潜り込んでくるような理由が、あるはずがない。
はっきり断言できる。
居眠りしているところを襲いにきたなんてことはただの妄想でしかない。そんなものはプロデューサーの妄想と同程度の、有りもしない遥かに遠い幻想郷。
「今日はお仕事で早く起きたから、だから家に帰ってからお昼寝をしていたはずなんです……その、それで、今、ある健康法を試していて、だから服を脱いでいたんだけど」
「あ、あー、聞いたことあるよ。試したことはないけれど、お肌によかったり、痩せやすくなるってやつだよね」
「そ、そうなの、だから──普段からこういうわけじゃなくてですね!?」
「わ、わかってるから大丈夫!」
普段からだったらと想像しようと試みるも物凄い妄想が過りそうになりストップをかけた。二人で裸でベッドで横に並んでいて、朝を迎える──そんな妄想はプロデューサーの脳内に送っておこう。
ただし画面全部モザイクつきで。
未央ちゃんの裸は安くないし、あーちゃんの裸など絶対に見せない。
そもそも送れない。
「……でも、何だかよくわからないけれど、起きたときにいる人が未央ちゃんでよかった。未央ちゃんだから、必要以上に戸惑わないで、安心できました」
「そ、そっか……」
「はい……こんな状況、普通ならもっとパニックになるはずなのに、そこに未央ちゃんがいるって思うと、なんだか心が和らいで、落ち着くことができて、だから未央ちゃんでよかったなって」
「へ、へぇー……どういたしまして」
「ふふふ」
──なんだこれ、ものすっごい嬉し恥ずかしいぞ!? ニヤニヤ止まらない!
やばいやばいやばい、次にあーちゃんを見ることができる気がしない。いや今は見ちゃいけないんだけれどそうじゃなくて、服を着たあとだとしてもあーちゃんの顔を見られない。
このだらしなくにやけきった顔を見せられないというのもあるし、そもそも自分の顔が林檎のように真っ赤になっているだろうことも容易くわかっていて、こんな顔を見せて変に思われたくない。
何よりもあーちゃんが愛おしすぎて顔を見たらすぐに抱き締めてしまいそうで──ああ、なんなんだこれは!?
「あーちゃんが可愛すぎてヤバい……!」
──この謎の現象がもたらした窮地によって得た答えは、そんな今さらすぎるものだった。
後日談。或いはオチ。
「昨日はサイキックテレポートが不発に終わってしまいましたが、サイキック千里の道も一歩から! 今日もサイキックトレーニングを欠かさずやりますよ! 見ていてください芳乃ちゃん!」
「(先日は何やら特異な力が働いたようにも感じましたがー……はてさてー、どこでどのようなことが起こったのでしょうかー?)」
おわり
小日向ちゃんの限定ガチャが来月復刻するはずなので貯石を心掛けつつもみりあちゃんが欲しくて仕方ない。
ガチャガチャしたい、物凄くしたい。
そんな気持ちを込めて書きました。
それでは
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