桐生一馬「Re:ゼロから始める異世界生活」 (234)

注意
・リゼロと龍が如くのクロスSS
・時系列は『龍が如く6終了後』のため、重要なネタバレあり

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1485560180

桐生「遥や遥勇…それと俺の周りにいた多くの仲間たち。アイツらを守れるなら…喜んで死んでやるさ」

伊達「桐生…お前…」

世間的に『死亡』したことになった桐生一馬
沖縄で幸せそうに暮らすアサガオの皆を見守った後、桐生は何処かへ消えてしまう

それからしばらく経った後、桐生はある街へ流れ着く

【現在・とある町のコンビニ】

店員「いらっしゃいませー」

桐生「……」

桐生「ん?この週刊誌に東城会の事が書かれているな」ペラッ

桐生「東城会と陽銘連合会が五分の杯を交わす…か。大吾は俺の遺言通りに動いたんだな」

桐生「戦争にならなくて良かった…」

桐生「……」

桐生(俺はこれからどうしようか…)

桐生(伊達さんから温情としてもらった生活費も無限にある訳じゃない)

桐生(今日まで行く宛てもなくフラフラしてしまったが…)

桐生(またゆるキャラの役でもやってみるか。いや、広島ではだいぶ顔が割れている。それならまた長洲タクシーで雇ってもらうか?)

桐生「……」

桐生「……ひとまず弁当を買うか」

桐生「ん?」

ふとコンビニのガラス越しに、ある家族が楽しそうに道を歩いて行くのを目撃する

桐生「……」

店員「ありがとうございました」

桐生「……」

不良1「おいテメェ、金出せよゴラァ!」ドゴォ

桐生(ん?あそこで誰か絡まれてるな)

スバル「い、痛ぇ…!」

不良2「素直に差し出せば痛い目に合わずにすむぞ…聞いてんのかおい!」バキ

スバル「もうすでに痛い目に合ってるんですけど、言葉の順番間違ってませんか?」

不良3「良いから黙って出せよ!!」ボゴォ

スバル「ギャッ!ちょ、やめ」

桐生「その辺にしておけ」

不良達「あぁ?」

スバル「…??」

桐生「これ以上そいつに手を出すんなら…この俺が許さねぇ」

不良1「なんだおっさん。ヒーロー気取りってか?」

不良2「おい、このおっさんもやっちまうぞ!」

桐生「ふん…全くどこの町にもバカってのはいるもんだな」

スバル「ま、待て…その人は関係ない…」フラフラ

桐生「ん?」

スバル「おらぁぁ!」ボゴォ

不良1「ぐっ!!」ガクッ

桐生「ほう、意外とやるじゃないか」

桐生「よし…覚悟しろチンピラァ!」

桐生「口ほどにもねぇな」

不良達「」

桐生「それにしてもお前…結構戦えるじゃないか。俺が出る幕でもなかったか?」

スバル「へへ、まあ筋トレだけは無駄にやってましたから」

桐生「そうか。だがあまり夜遅く出かけるなよ。変なのに絡まれるからな」

桐生「それに家族も心配するだろ…人との別れってのはいつ訪れるか分からない。家族を大事にしろ」

スバル「…?はい」

桐生「それじゃあな」

スバル「あ、お名前は」

桐生「桐生だ」

スバル「桐生さん…俺はナツキスバルです。今回は助けてくれてありがとうございます!」

桐生「ああ、気をつけろよ」

桐生「……」

桐生(あ、つい弾みで本名を名乗っちまった…偽名で答えるべきだったな)

桐生(まあ大事にはなるまい)

スバル「桐生さん、かっこよかったなぁ…」

スバル「俺もあんな風になりたいぜ!もっと筋トレ頑張るしかない!…いやその前に引きこもり辞めないと」

桐生「家族…か」

桐生「あのガキに偉そうに言っちまったが…俺にはもう家族すらいない」

桐生「…………」

桐生「俺のあの決断に後悔は一切ない。最善の策が取れたと思っている」

桐生「……だが寂しさが無いかと問われれば嘘になる」

桐生「心にポッカリ穴が開いたままフラフラしてきちまった…情けねぇぜ…」

桐生「俺を支えてくれる物は…もう何もない」

桐生「……」

桐生「俺はもう」

桐生「いっそ、本当に消えてしまいたい」

ブゥゥゥン…

桐生「うっ……」クラッ

桐生「……」

桐生「……」

桐生「ん!?」

突如、視界がぼやけ目をこすると、そこにはあきらかに日本とは思えない街の風景が広がっていた

桐生「な、なんだ…ここは」

桐生「町並みからして…海外か?それもヨーロッパとか」

桐生「二足歩行する人モドキもいるな…どうなってやがるんだこの街は」

桐生「俺は夢でも見てるのか…?」

桐生「ん、なにか突進してくるぞ…」

┣¨┣¨┣¨┣¨ドドド!

大きなトカゲが暴走をしていた。商人らしき人物がのっていたがトカゲをコントロールできずにいた

桐生「ガキが道路で腰を抜かしてやがる…危ないじゃないか。間に合え!」ダッ

ドゴォォ!!

桐生「ぐっ!」

道路で倒れている子供を両手で抱えると同時に、巨大なトカゲに轢かれてしまう
桐生の体は勢いよく吹き飛ばされる

住民達「!?」

桐生「……」

住民1「おい!あんた大丈夫か!」

住民2「こりゃ長期入院は免れないな…」

住民3「いや、そもそも生きてるのか?」

桐生「あぁぁ…今のは結構利いたぜ…」ムクッ

住民全員「!?」

桐生は多少のダメージを背負いながらも、何事も無かったように立ち上がる

桐生「おい、大丈夫かお前」

子供「う…うん!ありがとうおじさん!」

住民1「な、なんだあの変な格好したおっさん…メチャクチャ頑丈じゃないか」

桐生「しかし参ったな。何なんだここは。本当に悪い夢でも見てるのか」

桐生「リンゴを買おうとしたら追い出されてしまうし…ここでは日本の金が通用しないって事だよな」

桐生「金以外の持ち物は…スマホとコンビニ弁当。それとアサガオでの写真一枚」

桐生「……武器は懐に仕舞ってあるドスくらいか」

カン「おいオッサン!なーに独り言ブツブツ言ってんだよ!」

桐生「ん?」

チン「痛ぇ思いしたくなかったら出すもん出しな!」ガシッ

桐生の目の前に、見た目がバラバラの三人組の不良が現れる
そしてやせ細った男が、桐生の胸ぐらを掴む

桐生「……お前達に出す金などない。諦めて帰るんだな」

チン「あぁ!?舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!」

そういうと、やせ細った不良は懐から二つのナイフを取り出す

チン「ヒャーッ!!覚悟しろオッサン!」

桐生「仕方ねぇな」

桐生「終わらせてやるよ!」ドォォン

桐生は片手で地面を思いっきり叩く

三人組「っ!?」

トン(な、なんだあのオッサン…全身から青白いオーラが…!?)

桐生「ふん、ふん、ふん!オラァァ!!」

チン「ぐあぁぁ…!」

右に左にと力強く、桐生のデンプシーロールが不良の顔面を叩きのめしていく

ドサッ

チン「」

桐生「口ほどにもねぇな…次はそこのデカイのだ」

トン「いっ!?」

桐生「まだまだいくぞ!!ポールダンスの極みだ!!」



フェルト「」

フェルト(うわぁぁ…何かやばそうなオッサンが暴れてるよ)

フェルト(私は関わらないように違うルートから行こっと)

トン「グハァ!」ドサッ

桐生「さて、残るはそこのチビだけか」

カン「ひぃぃ!?や、やめてー!見逃してくれ!!」ジョワァァ

桐生「ふん…びびってションベン漏らすほど肝っ玉小せぇなら、初めからカツアゲなんてやるな」

エミリア「そこまでよ!」

桐生「ん?」

エミリア「弱い物イジメとは最低ね」

桐生「弱い物…いじめ…俺が?」

エミリア「あなた以外だれがいるの!」

トン・チン「」

カン「お、お、お助けぇぇ」ジョワァァ

桐生「……」

エミリア「可愛そうに…そこの小さな子なんか漏らしてるじゃない」

桐生「いやおれは」

エミリア「それはそうとアナタ、わたしの徽章を返して!」

桐生「え?」

エミリア「とぼけても無駄よ。さあ早く!」

桐生「生憎、おれは誰かの徽章なんか盗んだ覚えは無い」

桐生「それにこの状況も、元を正せばコイツらが喧嘩を売ってきたのが原因だ」

エミリア「……」ジーッ

桐生「……」

パック「エミリア、その人は嘘をついてないと思うよ。彼からは邪悪な感情を感じられない」

エミリア「……そう。疑って悪かったわ」

桐生「ああ。それより何だ?その喋る生き物は」

エミリア「見てわからないの?精霊よ」

桐生「精霊だと?」

エミリア「私急いでるの。情報ありがとう、じゃあね」

桐生(俺は何も教えてないが…)

桐生「……」

桐生「おいそこのチビ」

カン「ひぃ!?」

桐生「あの娘の徽章とやらの行方に心当たりはあるか?」

カン「あ、あるわけないだろ!」

桐生「そうか…」コツコツ

桐生(ここは情報集めがてら、物探しに手伝ってやるか)

カン「助かった…何だったんだよあのオッサン…」

~~

桐生「おいお前」

エミリア「なに?」

桐生「徽章を探してるんだろ?おれも手伝ってやる」

エミリア「結構よ。それにさっき何も知らないって言ってたじゃない」

桐生「……ならこれから俺といっしょに探していけば良いだけだ」

エミリア「うーん…変な人、言って置くけど何のお礼もできないからね」

桐生「ああ構わない。ただその代わりだな」

エミリア「その代わり…なに?」

桐生「この国の事を教えてくれ」

エミリア「え?」

桐生「何も分からないんだ。この国のことも、いま自分が置かれている状況も…何もかもだ」

エミリア「はぁぁ!?」

桐生「一辺に全部教えろとは言わない。歩きながら少しずつで良い」

パック「良いんじゃない?少なくとも彼から悪意は感じないし」

パック「暴漢相手の弾除けは多い方が良いしね」ボソッ

エミリア「ちょっとパックまで…」

桐生「安心しろ。喧嘩は慣れている」

エミリア「はぁ…それじゃ徽章を探しながら、アナタにこの国の事を教えればいいのね?」


桐生「ああそうだ」

~~

それから桐生はエミリアと徽章を探しながら、この国の事を教えてもらった

桐生「しかしこのルグニカ王国ってのは本当に広いな」

エミリア「ここはルグニカ王国の王都だものね」

桐生「王都…いまさらだがここは王政なのか」

エミリア「えーと…そういえば名前をまだ聞いてなかったけど…」

桐生「ああ、俺の名は」

桐生「き…」

桐生「……」

桐生「鈴木太一だ」フイッ

パック(ん?いま目をそらした…)

エミリア「スズキタイチ?変わった名前ね…それに服装も変わってるし…」

桐生「ああ、おれは東の国、日本から来たからな」

エミリア「ニホン?ルグニカより東の国って無い気がしたんだけど…」

桐生「なに?」

エミリア「えっとタイチって…いまいる場所もわからなくて、お金もなくて、文字も読めなくて…ひょっとして私よりも危ない立場なんじゃ」

桐生「……」

桐生(どういう事だ。つまりここは、俺がしってる世界じゃないって事なのか)

桐生「そういえばそこの精霊とやらは…えーと」

パック「パックだよ!よろしく~」

桐生「おう、よろしく」ギュッ

エミリア「精霊と気軽に接する人なんて珍しい…」

桐生「む?そうか」

パック「しかしこうやって見ると、タイチはかなりマッチョだね」

桐生「ああ。元々筋肉質な方なんだが、少し前にライザップで鍛えてた事もあったからな…」

パック「ライザップ?」

桐生「簡単に言うと筋トレをする場所だな」

エミリア「そのライザップっていうのは良く分からないけど…」

エミリア「タイチってかなり良い家柄の出でしょう?」スッ

そういうとエミリアは桐生の手にそっと触れる

桐生「……」

エミリア「指もキレイだし…あ、でも所々妙に硬い」

桐生「ああ…さっきも話したが喧嘩はそれなりにしてきたからな」

桐生「それよりお前の名前は?」

エミリア「…………サテラ」

パック「っ!!」

桐生「サテラ…そうか。改めてヨロシクな」

エミリア「えっ…」

パック「はぁ…趣味が悪いよ…」

桐生「さあ、徽章さがしの続きを再開しよう」

~~

その後、迷子の女の子を見つけて、母親を一緒に探したりもして時間を費やした

桐生「あのガキの母親が見つかって良かった…」

エミリア「タイチって本当に親切な人なのね」

桐生「面倒事を頼まれるのは慣れてるからな」

エミリア「……もしかしてタイチって、すごく損する性格なのかな?」

桐生「さあ、どうだろうな」

エミリア「悪い子じゃ…ないのよね?」

桐生「子って…俺は明らかにお前より年上だろう」

エミリア「その予想は当てにならないと思う。私ハーフエルフだから」

桐生「ハーフエルフだと?」

エミリア「……」

桐生(まるで映画のような世界だな)

桐生「そうか、それにしてもこの世界には色んな人種がいるな」

エミリア「え?」

桐生(この世界なら、ゆるキャラの着ぐるみを着て歩いても本物として見られるかもな)

エミリア「ねぇ…あなた、何も感じないの?」

桐生「え?」

エミリア「ほらわたし…ハーフエルフ…」

桐生「ああ、それはさっき聞いたが」

エミリア「……」

パック「んん~~てい、パーンチ!」ポン

桐生「なんだ急に」

パック「何となくムズムズ感を現したくて!別に怒ってる訳じゃないし、むしろ逆なんだけどぉ~」

その後、聞き込みを繰り返しながら、ようやく確信らしき情報を得る

【貧民街】

桐生「貧民街…か。ここに噂のフェルトって奴がいるんだな」

エミリア「聞けば教えてくれるかしら?」

パック「誰も仲間を売ったりはしないと思うけど…」

パック「ふぁぁ~」

桐生「ふっ、どうした。眠いのか?」

パック「僕には動ける時間に制限があるんだ」

パック「まだもう少し頑張れるけど…出来るだけ僕が起きてる時に犯人を見つけたいね」

桐生「1日どれくらいの時間起きていられるんだ?」

パック「大体、9時から5時かな」

桐生「そうか」

桐生(精霊ってのは本当に不思議な生き物だな)

エミリア「初めてタイチと会った時に、決闘にならなくて良かったわ」

桐生「え?」

エミリア「だってあそこで闘いをはじめてたら、徽章の探索だってもっと時間かかってたし」

エミリア「ココに辿り着く頃には、きっとパックも寝ちゃってただろうし…」

桐生「ふっ、それもそうだな」

桐生「ここがフェルトって奴が出入りしている盗品蔵か」

エミリア「たしか入るのに、合図と合言葉が必要だって言ってたわね」

桐生「ああ。だがそんな物は必要ない」

エミリア「え、ちょ待っ」

ガチャッ

桐生「失礼するぜ」

フェルト「!?」

ロム爺「なんじゃお主は!?合言葉も合図も無しに勝手に入るでない!!」

エルザ「……」

桐生「話は聞いてるぜ。ここは盗品蔵なんだろ?」

桐生「……この中にフェルトって奴がいるはずだ。どこにいる?」

フェルト「」

フェルト(うげ…あれは昼間に路地裏で不良狩りしてた気狂い親父じゃねぇか…)

フェルト(関わりたくなかったのに何でこんな所まで!?)

ロム爺「フェルトに何のようじゃ?」

桐生「フェルトはそこにいる奴の徽章を盗んだ。だから返して欲しい」

ロム爺「ここが盗品蔵だと知った上でのその発言とは…もう少し考えて交渉したらどうじゃ」

桐生「……俺は何度も年寄りと喧嘩をしたく無い。素直にフェルトがどいつなのか教えろ」

ロム爺「まるで前にも老人を殴ったような台詞じゃな」

桐生「ああ、止む終えずな」グッ

ロム爺「……」グッ

桐生は拳を構えると、巨大な体尽きの老人もまた棍棒を取り出す

フェルト「待てロム爺!このオッサンは普通じゃねぇ!」

ロム爺「……」

桐生「お前がフェルトって奴か?」

フェルト「ああそうだ!あんた昼間、路地裏で兄ちゃん達を虐めてただろ!」

桐生「誤解だ。おれは虐められてたんだ」

フェルト「どうみても被害者と加害者が逆転してたぞあの状況!」

桐生「御託はいい。とにかく徽章を返してやれ」

そう言うと桐生はゆっくりと前を歩き出す

桐生「……」コツコツ

フェルト「な、なんだよ…やんのか!!」

桐生「女を殴る趣味はねぇ」コツコツ

フェルト「なに今さら紳士ぶってんだ!あたしはな、闘えるんだぜ!」

シャキンッ

短刀を取り出して、剣先を桐生に向ける

フェルト「スピードには自信あるんだ!オッサンなんかイチコロだぜ!」

桐生「……」コツコツ

だが桐生の歩みを止めない

そしてジリジリとフェルトを壁際に追い詰める

フェルト「な、なんだよ!本当にやっちまうぞ!」

桐生「やって見ろ」

桐生「フン!!」

ズドンッ

フェルト「」

桐生の腕がフェルトの頬を掠め、手の平が壁を強く叩く
そしてズイッとフェルトに顔を近づける

桐生「いいから黙って徽章を差し出せ」

フェルト「」

ロム爺「な、なんじゃあの男…全身から青白いオーラが!?」

フェルト「あ…ぁぁ…」ガクガク

フェルト(お、落ち着け!こんなおっさん…私が本気をだせば…!)ガクガク

コトッ…

フェルト「あ…」

全身を震わせていたフェルトは思わず、手のひらから徽章を落としてしまう
それを桐生が拾う

桐生「たしかに返してもらうぞ」

フェルト「あ、ちょっ…待てよ!」

桐生「ほら」ポイッ

エミリア「あ…ありがとう…」

パック「いや~すごいねぇ。いまのオーラは何だったの?」

桐生「オーラ?なんの話だ」

エミリア「気付いてないの?無意識に発動してたのね…でもタイチはマナを使いこなせて無さそうだし…いまのは一体」

フェルト「おい待てコラァ!無視すんな!!」

桐生「言っただろ。俺は女には手を出したくない」ギロッ

フェルト「……」グッ

ロム爺「フェルト、手を貸すぞ」

桐生「チッ…ガキと年寄りを相手じゃ俺は本気を出せないぞ」

エミリア「それならここからは私に任せて」

桐生「サテラ…いや、お前が闘う必要はない」

フェルト「サテラ?そういえばアンタのその見た目…」

エミリア「……っ。名前はともかく別に私は悪者じゃ、無い」

エルザ「あらあら…置いてきぼりなんて酷い」

ザシュッ

ロム爺「ぐああぁぁ!!」

突如、巨体の老人が胸元を切られる
鮮血が部屋中に飛び散る

全員「!?」

フェルト「ロム爺!!」

エルザ「持ち主が来てしまっては予定が狂ってしまうじゃない」

エルザ「いまこの場にいる関係者は全員…皆殺しよ」

桐生「なっ…」

エミリア「そうはさせないわ!行くわよパック!」

パック「うん!」

桐生「……」

フェルト(ど、どうすりゃ良いんだ…あんな強そうなの…)

フェルト(いや迷ってる暇な無い!ロム爺の仇を討たないと!)

桐生「お前たち全員ここから出て避難しろ」

エミリア「え?」

フェルト「オッサンなにを言って…」

桐生「そこのロム爺ってのは生きてるか?」

ロム爺「ぜぇぜぇ…」

エミリア「衰弱はしてるようだけど息はあるわ」

桐生「お前たしか魔法が使えるんだよな。回復魔法とかも使えるのか?」

エミリア「え、ええ」

桐生「それなら今すぐフェルトって奴と一緒に、そこの爺さんを連れて逃げるんだ。出来るだけ遠くまでな」

桐生「俺はコイツを始末する」

フェルト「あんた何言ってんだ!いくらちょっと喧嘩が強いアンタでも危ないぞ!」

エミリア「そうよ!あなただけじゃ危険よ」

パック「僕にも分かる。この彼女は只者じゃない。むしろここはキミが逃げるべきだ」

桐生「行け!!!!!」

全員「」ビクッ

桐生の気迫のこもった声が部屋中に響く

桐生「俺には秘策がある。だから安心しろ」

桐生「こんな奴すぐに始末してやる」

エミリア「タイチ…この恩はいつか必ず返すわ!」

桐生「ああ」

フェルト「えっと…その、頼んだぞオッサン!ヤバイと思ったらすぐに逃げろよ!」

フェルト「いくぞロム爺」ガシッ

エミリア「お、重い…」ガシッ

ロム爺「ぅぅ…すまん…二人とも…そして謎の男よ」

桐生「……」

エルザ「おっと…行かせると思う?」ヒュンッ

エルザは短剣を構えながら、素早い動きで三人へと突進していく

フェルト「やばっ…」

エミリア「パック!」

エミリアがパックに頼みバリアを張ってもらおうとした
しかしエルザの短剣はバリアに届く事なく、変わりに身を呈して守りに来た桐生の腹部に突き刺さった

桐生「……」

桐生は口を閉じ無言のまま唇から血を垂らす

エミリア「タイチ!!」

フェルト「オッサン!」

エルザ「あら、本当紳士ね」

エミリア「やっぱり私も闘わないと…」

桐生「いいから行け!!!!!!」

桐生は先ほどよりも更に気迫を込めて叫ぶ

桐生「行っただろ?秘策があると…だから心配するな」

エミリア「……で、でも」

桐生「何度も言わせるな!!!!」

パック「……もう行こう。ここは彼を信じて」

エミリア「タイチ…」

フェルト「ほら行くぞ姉ちゃん!」

バタンッ

三人は足早に盗品蔵から脱出する
それと同時に桐生は口内からドバッと血を吐き出す

桐生「ぐふっ…」ボタボタ

尚も彼女の短剣は、桐生の腹部を突き刺したままである

エルザ「惜しかったわ…あとほんの少しずれてたら心臓に届いたのに」

エルザ「それでもいまの一撃はかなり致命傷のハズよ」

エルザ「頑丈なのね」

桐生「ぜぇぜぇ…ぐふっ」ボタタ

エルゼ「それで?あなたの言う『秘策』とは一体、何なのかしら」

桐生「……」

桐生「そんな物はない」

エルザ「くっ…ふふふ…」

エルザ「だと思ったわ」

桐生「……」

エルザ「あの子たちをとにかく無事に帰したかった。だからとっさに思いついた嘘」

桐生「ああそうだ」

エルザ「よくもまあ、あの状況であんな嘘がとっさに思いつくものね」

エルザ「過去に似たような経験でもあったのかしら?」

桐生「別に」

エルザ「嘘おっしゃいなさい。前にもこうやって自己犠牲して、誰かを逃がした経験とか合ったんでしょ?」

桐生「……」フイッ

エルザ「目が泳いでるわよ」ニタァ

桐生「ひとつ言える事は…俺はお前を少しでも長い時間足止めする事だ」

ガシッ

桐生はエルザの腕を掴む

桐生「これでお前はその短刀を引き抜く事ができない」

エルザ「ふふふ、でもあなたはお腹に短剣が刺さったままよ?」

桐生「俺がこの程度で死ぬと思ってるのか?」

エルザ「大層な自信ね。でも私の腕力を舐めない方が良いわよ?尋常じゃなく強いんだから」ググッ

エルザ「……」ググッ

エルザ「あ、あれ?」ググッ

エルザが短剣を引き抜こうとするがビクともしない

桐生「言った筈だ。俺は少しでも長い時間足止めをすると」

桐生「俺は女に手を出したくない。だから誓って欲しい」

桐生「もう二度と悪さをしないとな」

エルザ「……私がいまこの状況で『二度と悪さをしません!』って言えば、あなたはそれを本気で信じるの?」

桐生「……」

エルザ「そんなの信じられないでしょ?だって私は…『腸狩り』の異名を持ってるもの」

桐生「……そうか。どうやらお前には何を言っても無駄なようだな」

桐生「全く…広島で年寄りと喧嘩して…次は異世界で女と喧嘩か…イヤになるぜ」

ボゴォン!!

エルザ「ぐぅぅ!」

桐生はエルザの腕を一層強く掴み、同時に反対の拳で、彼女の腹部にめがけて鉄拳をお見舞いする

エルザ「良いパンチ…感じたわぁ…」ニタァ

桐生「フンッ!!」ボゴォ

エルザ「ぐっ!良いわ…もっともっと」ニヤニヤ

ボゴォン!!ボゴォン!!ボゴォン!!

エルザ「フフフ、こんな良いパンチ貰うの初めて…」

桐生「ふざけてないでいい加減降参しろ」

エルザ「そうね~私がわるかったですぇ~ごめんなさ~いゆるしてぇ~」

桐生「……」

エルザ「どう?私の事信じた?」

桐生「おらぁぁ!!!」

ドゴォォ!!

エルザ「ああぁん!良いわ…かんじちゃう…」

桐生「……」

エルザ「ねぇ…あなた、まだ本気出してないでしょ?」

エルザ「私には分かるわよ?本当はもっと凄い力がある…でも私が女だからどこか本気が出せない。見せ掛けの力しか出してない」

エルザ「私を殺していいのか、否か。悩んでるんでしょ?」

桐生「……」

エルザ「言って置くけどね。私、とっても強いのよ?」

エルザ「本気ださないと…私に勝つどころか、逃げきる事すらできないわよ?」

桐生「おれは逃げない」

エルザ「そんな事をいってると、足元すくわれるわよ?」

ザシュッ

桐生「ぐぅ!?」

エルザは掴まれている反対側の腕から、隠してた短剣を取り出し、桐生の胸部に貫く

エルザ「そろそろチェックメイトの時間よ」

そのまま弾丸を乱射するが如く、エルザの短剣は目にも止まらぬ勢いで串刺しにしていく

桐生「ぐぅぅ…!」

耐え切れず、桐生は掴んでいたエルザの腕を離してしまう

エルザ「腸を見せてもらうわよ…きっと極上な腸なのでしょうね~」

ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!

今度は水平に何度も、桐生の腹部を切り付ける

エルザ「さあ、あなたの腸をみせて!」

【1分後】

エルザ「おっかしいわね~」

エルザ「もうかれこれ、数十回分は命を落としてるハズなのに」

桐生「ぜぇぜぇ…」

エルザ「なぜまだ生きてるの?どうして腸が出てこないの?」

桐生「潜り抜けてきた修羅場の数が違うんだよ…俺とお前とじゃ」

桐生「ぐぅ…ごはぁ!」

威風堂々と立ち尽くす桐生だが最早限界だった
勢いよく吐血して、床が真っ赤に染まる

エルザ「聞いておきたいのだけれど…どうしてあなたは彼女達を守りたかったの?」

桐生「ぜぇぜぇ、さあな…単なる気まぐれみたいな物だ」

エルザ「フーン。きまぐれねぇ」

エルザ「確かにあなた自身、正義感はとても強そうだけど」

エルザ「別な理由もあるんじゃないの?例えば…」

エルザ「もういっその事死んでしまいたい…とか」

桐生「俺が死にたいだと?ふん、バカな…」

エルザ「貴方の目…いや体から悲しみの匂いがするわ」

エルザ「どうしようもなく寂しくて、いっその事消えてなくなってしまいたい…そんな風に思ってない?」

桐生「……」

桐生「今の俺に死なんて怖くも無い」

エルザ「そう、それならお望み通り」

ザシュッ…シュパァァァ

桐生「……ッ!!!」

エルザ「わぁぁ、綺麗な血の雨…素敵…」ゾクゾク

桐生の咽元を水平に切り付ける
エルザは桐生の咽元から溢れる鮮血で真っ赤に染まる

エルザ「フフフ…最期に最高の赤いシャワーが浴びれたわ」

ガシッ

エルザ「!?」

しかし桐生は息絶える事無く、再びエルザの片腕を掴む

桐生(声がでない…声帯をやられた…)

桐生(だがコイツを生かしておくわけにはいかない)

チャキッ…カラン

桐生は片腕で懐から、ドスを取り出す
鞘を口で嚙みながら引抜き、ペッと鞘を床に吐き捨てる

桐生「……」

エルザ「フフ。あなたって本当に面白い男ね」

エルザ「この期に及んでまだ私を倒せると思ってるの?」

ザシュッ

エルザ「ぐっ!」

桐生「……」

桐生「」ドサッ

桐生は最後の力を振り絞ってドスを、エルザの腹部に突き刺す
深く刃を押し込むと、桐生は力なく倒れ付す

桐生「……」

エルザ「本当…最後の最後まで甘い男ね」

エルザ「心臓じゃなくて腹部を狙うだなんて…せっかく私に致命傷を与えるチャンスが台無しじゃない」

エルザ「久々に楽しい決闘が出来たわ」

エルザ「さあ、極上の腸を見せて…」

桐生「……」

桐生(今度こそ…俺の最期だ)

桐生(まさかこの俺が女に負けるとは…それも異世界のサイコパス女に)

桐生(東城会の連中が聞いたら、一体どんな反応をするんだろうか…)

桐生(なんにせよ時間稼ぎ位は出来ただろう)

桐生(あんなキチガイを生かしたままなのは心残りだが)

桐生(どうか無事に生きてくれ…サテラ…)

桐生(……)ゴソゴソ

桐生は最後の力を振り絞って、ポケットからアサガオの皆が写っている写真を取り出す
しかしその写真を落としてしまう

ザクザク…ザクザク…

エルザは短剣で桐生の腹部をゆっくりと切り開いていく
その片手間、エルザは写真を拾う

桐生「……」

エルザ「これは…絵なのかしら?ずいぶんとリアルに描かれた絵ね」

エルザ「これが貴方の言う家族なのね…でも私に同情なんてきかないわよ?」

桐生「遥…遥勇…勇太…アサガオのみんな…」ツー

桐生の瞳から涙が溢れ出す

桐生「真島の兄さん…冴島…大吾…秋山…伊達さん…」

桐生「みんな…」

エルザ「もう~、やっと腸がハッキリと見えてきたのに。なんでまだ生きてるのかしら?」

桐生「……」ボロボロ

エルザ「もっと沢山切り刻まないとダメなの?」

―――――
―――


桐生「俺は後悔などしてない…だが死ぬ前にもう一度だけ会いたかった…」ツー

桐生「……」ボロボロ

カドモン「お、おい。大丈夫かアンタ」

桐生「……」ボロボロ

カドモン「なあアンタ…何が会ったか知らねぇけど、辛い事あったんだろ?」

カドモン「ほらリンガと水!タダでやるから!金はいらないからさっさと帰んな!」

桐生「……」

桐生「ん?」

カドモン「なんだよ…これ以上店の前で泣かれても困るんだよ」

桐生「……」

桐生「!?」

桐生「全部…夢…?」

カドモン「ああもう!ほらさっさとどっかに行ってくれ!商売の邪魔だ!」

桐生「……」コツコツ

桐生は放心状態のまま町を歩く

桐生(なにがどうなってるのかサッパリだぜ)

桐生「……ひとまず、あの店主からもらったリンゴと水を頂こう。心を落ち着かせるんだ」

カン「おいオッサン!なーに独り言ブツブツ言ってんだよ!」

桐生「え?」

チン「痛ぇ思いしたくなかったら出すもん出しな!」ガシッ

桐生の目の前に、以前にも見た三人組の不良が現れる

桐生「……」

桐生「お前ら、本当に懲りないな」

チン「あ!?」

カン「何言ってんだテメェ?初めて会ったばかりだろ」

桐生「初めて…?何言ってんだ、前にも会ったじゃねぇか」

カン「オッサン頭おかしいんじゃねぇの?」

トン「さっさとやっちまおうぜ」

桐生(話が嚙み合わねぇ…どうなってやがる)

桐生(これじゃまるで…)

チン「おい!早く出すもん出さないとぶっ飛ばすぞゴラァァ!!」

桐生「……」

桐生(一先ずはいまはコイツらをぶちのめすか)

桐生「オラァァ!虎落としだ!!」

ズドォォン!!

トン「ゴハァァ!!?」ドサッ

桐生「さあ、残るはお前だけだ」

カン「ひぃ…!?」

トン・チン「」

カン「ま、待ってくれ…」ジョワァァ

桐生「またお漏らしか…肝っ玉小さいなら初めっから喧嘩なんか吹っかけるな」

「そこまでだ」

桐生「え?」

「僕は今日非番だけど…こんな路地裏で弱い物イジメとは見逃せない」

桐生「弱い物…イジメ…俺が?」

カン「赤髪に…竜爪の刻まれた騎士剣」

カン「まさかあの剣聖ラインハルト!?お…お助けぇぇ!!」

ラインハルト「自己紹介の必要はなさそうだ……最もその二つ名は僕にはまだ重すぎる」

ラインハルト「今なら見逃してあげても良い。だがもし強硬手段に出るというのなら相手になる」

桐生「……」

桐生(なぜ毎回俺が悪役になるんだ)

今日はここまで

ごめん、ちょっと意見をお聞きしたい
今後の展開はどっちが良いでしょうか?

①ラインハルトと盗品蔵にカチコミ

②桐生さん単機で問題解決

締め切りは明日の9時で

自分で決めろ

>>38-40

意見ありがと
意見の多い方を選ぶつもりだったけど、腹が決まりました

>>37は取り消して、今から自分で考えます
これもある意味多数決の結果なので

さてどうすっか…

桐生「まて誤解だ。虐めれていたのはこの俺だ」

ラインハルト「え?でもそこの彼は、恐怖のあまり失禁してるじゃないか」

カン「……」ガクガク

桐生「そいつらは度胸もねぇのにカツアゲしかけてきたんだ」

桐生「まあいい。俺はこれ以上手出しするつもりはない」

ラインハルト「…それなら安心だ。問題解決だね」

ラインハルト「君たちもほどほどにね。タイミングが違えばキミたちを取り締まる事だってあった」

カン「は、はひ…」

桐生「ところで」

ラインハルト「ん、なんだい?」

桐生「このあたりで白いローブ着た銀髪の女の子って見てないか?」

ラインハルト「白いローブに、銀髪…」

桐生「ああ」

ラインハルト「ちょっと心当たりはないな。もしよければ探すのを手伝うけど」

桐生「……」

桐生「いやいい。その代わりもし見つけたら伝言を伝えてくれ」

桐生「貧民街の盗品蔵には絶対に立ち寄るなとな」

ラインハルト「……ああ。わかったよ」

【貧民街】

桐生「さて、なんのプランも立てずにまたここに来ちまった」

桐生「俺の予想が外れてなければだが…時間が巻戻っているように見える」

桐生「それも記憶を保有してるのは俺だけだ」

桐生「……」

桐生「自分では知らなかっただけで、実は超能力でも使えたのか?」

桐生「まだ確信は持てないが…俺のやるべき事はとりあえず、徽章を返してもらうことだ」

桐生「……」

桐生(なぜ俺はこの期に及んでお節介を焼くんだ…前回はともかく、今回はサテラと関ってすらいないのに)

桐生(頼みごとをされるのは良くあることだが…なぜ俺がここまでする必要が。俺は自分の状況すらよく分かっていないのに)

桐生「……だが危ない目に合うと分かってる奴を黙って見過ごせない」

桐生「何のことはない。今までだって俺は…そうやって生きてきたからな」

【貧民街・盗品蔵】

コンコン

桐生「…………」

桐生(返事がないな。さては居留守か?)

コンコン

桐生「いるのは分かっている。返事をしろ」

「合言葉を」

ガチャッ

桐生「そんな物は知らねぇな。失礼する」

ロム爺「おい!合言葉を言わんかい!!」

桐生「すまない。もう時間がないんだ」

ロム爺「誰じゃお主は」

桐生「きり…鈴木太一だ」

桐生「あんた、昨日の事は覚えてないか?」

ロム爺「昨日の事?はて、なにかあったかのう」

桐生「……」

桐生(見た感じ傷跡も無いし部屋も荒れていない、そして昨日の記憶も無い)

桐生「やはり時間が巻き戻っている…?」

ロム爺「なに独り言をブツブツと…何のようじゃ!」

桐生「あんたフェルトってガキを知っているな?」

ロム爺「なんじゃフェルトに用があるのか」

桐生「ここが盗品蔵という事は、あいつがいま何をしてるのか大方わかっているはずだ。そうだよな?爺さん」

ロム爺「ああフェルトなら今日は依頼されたある物を、回収している所じゃ」

桐生「……依頼?だれかに頼まれていたのか」

ロム爺「ああ、たしかエルザという若い女からな」

桐生(エルザ…あのイカれ女の名前か)

桐生「悪いことは言わない。あんたは今すぐこの盗品蔵から逃げるんだ」

ロム爺「ああぁ?いきなり何を言い抜かすんじゃ」

桐生「直にフェルトもココに来るハズだ。一緒に逃げるといい。悪いが説明している暇は無い」

ロム爺「合言葉も知らない男に、いきなりココを出て行けと言われても困るんじゃが」

ロム爺「そもそもお主の用件はなんじゃ」

桐生「俺の目的は二つ。一つはアンタらを保護する…二つ目は」

桐生「フェルトが盗んだ徽章を返してもらうことだ」

ロム爺「盗んだ徽章を返してもらうじゃと?」

桐生「ああそうだ」

ロム爺「そんなの返して欲しい言っても簡単に戻ってくるほど、容易い話ではないぞ?」

ロム爺「それにお前さんが買い取れるか…徽章となればそれなりの値打ちはするはずじゃ」

桐生「……あんた何を勘違いしているんだ」

ロム爺「あぁん?」

桐生「ハナっから交渉なんかするつもりはねぇ」

桐生「俺はな、その徽章を持ち主に返したいんだよ」

桐生「盗まれたモンを取り返す為に金を払うなんてよ…筋が通らねぇにも程があるだろ」

ロム爺「ではどうするんじゃ」

桐生「手荒なマネはしたくはないんだが…」

桐生「痛い目に合ってもらうしかないな」

ロム爺「…………」

桐生の意思を聞くや、巨人の老人は後ろを振り向き、なにやらカウンターの奥でゴソゴソと探し物をし始める

桐生「……」ゴクゴク

老人から殺気を感じ取る桐生だが、お構い無しに無防備に、老人から出されていた酒を飲んでいる

ロム爺「……」ギロッ

やがて老人は桐生の方を振り向く
その目は先ほどとは打って変わって、鋭く怒りに満ちていた
そして手には巨大なこん棒を持っていた

ロム爺「うおぉぉぉああ!!」

ボゴォォォン!!!

桐生「……っ」

老人はカウンター越しに、桐生に目掛けて巨大なこん棒を振り下ろし、酒を飲んでいる桐生の頭部を叩く
その勢いで、カウンターと桐生の座っていたイスは無残に破壊される

ロム爺「……フェルトはな、わしにとって孫みたいな存在じゃ」

ロム爺「フェルトに手を出すなら客人だろうが容赦せんぞ!!」

桐生「すげぇ力だ…驚いたぜ」ボタボタ

桐生は額に、大量の血を流しながら何事も無く立ち上がり拳を構える

桐生「だが残念だが、20年以上前にムショの監視員に殴られた警棒の方がよっぽど痛かったぜ…あの時は気絶したからな」

ロム爺「よほど打ち所が悪かったんじゃな」

ロム爺「……それにしても巨人族の力で殴られ平気でいられるとは」

ロム爺「只者ではないな?」

桐生「喧嘩は慣れてるんでな」バッ

桐生はそう言って上着を脱ぎ、上半身を露わにする

ロム爺「よし…こい若造が!」

桐生「いくぞ!ジジイ!!」

  VS盗品蔵の主・ロム

桐生「うおぉぉぉ!!」

桐生はダッシュして老人の懐まで辿り着く
それに合わせる様にして老人は、こん棒を高々と振りかぶり振り下ろす

ロム爺「フン!!!」

桐生「ぐっ…」ガシッ

ロム爺「なっ!?両手で掴んで防ぎおった…!」ググッ

桐生「……」ググッ

ロム爺「じゃが巨人族の力にはかなうまい」

両手でこん棒を抑えるも徐々に押されていく
そのまま地面に叩き落す勢いで桐生を追い詰める

桐生「昔、あんた程じゃないが、でかいバケモノと戦ったことがある」

ロム爺「なんじゃと?」

桐生「名前は…たしか総称でカツアゲ君なんてよばれてた連中だ」

桐生「アイツらも相当なバケモノだったが…何とか勝利した」

桐生「もう一つ教えてやる。おれは二十代の頃よりもずっと強いぜ?」グイッ

ロム爺「ぬっ!?」

桐生は老人の持っていたこん棒を強引に奪う
そして大きく振りかぶる

桐生「オラァァァ!!」

ボゴォォ!!

ロム爺「ぬぅぅ!」

老人の頭部に目掛けて、巨大なこん棒をブチ当てていく

桐生「まだまだいくぞ!!」

ボゴォォ!!ボゴォォ!!ボゴォォ!!ボゴォォ!!

右に左に反復させながら、巨大こん棒の攻撃は続く

桐生「そろそろ終わりにしようか」

桐生はそういって巨大こん棒を捨てる。そして両腕を腰にひきつけて、低く声を張り上げる

桐生「おおおおぉぉぉ…!!」ゴゴゴ

ロム爺(なんじゃあの男…青白いオーラが…!?)

桐生「せいや!!」ボゴォ

ロム爺「ぐっ!?」

桐生は勢いよく老人の腹部をアッパーで殴ると、老人の体は一瞬だが宙に浮く
その宙に浮いた瞬間を桐生は見逃さない

桐生「オラオラオラオラオラ!!」

桐生は目にも止まらぬ勢いで、老人の腹部にパンチを繰り出す
パンチの重みで老人は宙に浮いた状態が続く

コンコン、コンコン

桐生「オラオラオラオラオラ!!」

ドアからノックの音がする。しかし桐生の猛攻は尚も続く

「お~い!あたしだよ!フェルト!合図を言うからいつもの質問してくれ!」

桐生「オラオラオラオラオラ!!」

ガチャッ

フェルト「あ~もう!入るぞロム爺!」

フェルト「って、なんじゃこりゃ!?」

桐生「オラオラオラ!!オラァァァ!!!」

ドサッ

ロム爺「」

桐生「おう、やっと来たかフェルト。待ちくたびれたぜ」

フェルト「お、おっさん確か…昼間に路地裏で不良狩りしてた…」

フェルト「よくもロム爺をこんな酷い目に!あんた何しにきたんだ!」

桐生「お前ら二人を保護しに来た」

フェルト「……意味がわからねぇ。あたし達を保護しに来ただと?」

フェルト「嘘つくならもっとマシな嘘をつけってんだ!」

フェルト「言ってる事とやってる事が逆だぜおい!!」

ロム爺「ぐ…ぬぅぅ…フェルト…に、逃げるんじゃ…」

フェルト「よくもロム爺を!!」

桐生「おれは爺さんに襲われてたんだ。それはさっきの路地裏の時も一緒だ」

フェルト「どっちにしたってやりすぎだ!」シャキッ

フェルトは腰から短剣を取り出す

桐生「俺は女やガキを殴りたくない」

フェルト「うっせ!!覚悟しろ!!」

  VSフェルト

フェルトは物凄いスピードで桐生へ突進していく

桐生(……速い!!なんだあのスピードは!?)

そして一瞬で懐までたどりつく

桐生(だがそのスピードは、場合によっては命取りになる事もある)スッ

桐生「虎落し」

ズドォォン!!!

フェルト「ゴハァァ!?」

桐生は間一髪のところでスウェーして避けつつカウンターを決める

ロム爺「フェルト…!!貴様よくも!!」

桐生「安心しろ、本気で殴った訳じゃない。あんなにスピードを出した状態で、本気でカウンターを決めてたら死んでしまう」

ボタボタ…

桐生「ん?腹にキズが…どうやら完全には避け切れてなかった様だ」

桐生のサラシは血で赤くにじんでいく

桐生(そこまで深い傷ではないが…この俺を相手にやるじゃねぇかあの嬢ちゃん)

桐生「さて、これでひと段落したな」

桐生「素直に俺の言う通りにしてくれれば、これ以上痛い目に合わせやしない」

フェルト「ぐ…痛てて…何なんだよアンタ。いきなり保護するってどういう意味だよ」

桐生「説明してる暇は無い」

フェルト「っざけんな!ちゃんと説明しろ!」

桐生「……俺の用件は二つだ。一つはお前らの保護。もう一つはお前が盗んだ徽章を返してもらうことだ」

フェルト「はぁ!?」

桐生「間も無くここに徽章の持ち主がくる。ちゃんと返してやるんだ」

フェルト「な…なんで私が徽章盗んだ事知ってんだよ!」

桐生「いいから持ち主に返せ!!!」

フェルト「」ビクッ

桐生「もう時間が無いんだ早く逃げるぞ。うまく行けば持ち主とも合流できるハズだ」

フェルト「アンタは一体、誰から私たちを守ろうとしてんだよ?」

桐生「お前の依頼者…エルザからだ」

フェルト「な…」

桐生「あいつは『腸狩り』とか言う異名を持っている」

桐生「あいつは人のいう事なんて聞かない残酷な奴だ」

フェルト「そりゃアンタ自身のことじゃなくて?」

桐生「冗談で言ってるんじゃない。お前も徽章を渡した瞬間、報酬なんて渡さずに殺されるぞ」

桐生「早くエルザから逃げるぞ。もう本当に時間が無い」

エルザ「一体、誰から逃げようとしてるですって?」

桐生「……!!遅かったか…」

エルザ「ええ。タイムオーバーよ」

フェルト「あ、エルザ!ちゃんと徽章は手に入れてきてやったぜ!」

エルザ「ふふ、流石だわ」

桐生「まて!そいつは渡さんぞ!」

エルザ「じゃあ交渉でもする?」

桐生「盗まれたモンに金払って取り返すとかふざけた事をするつもりはない。筋が通らねぇしな」

桐生「大体お前は、金を払わずにコイツらをぶっ殺して奪うんだろ?」

ロム爺「おいおいお前さんや…いくらなんでもそんな言い方…」

エルザ「ええ、勿論そのつもりよ」

ロム爺「なに?」

フェルト「は?」

桐生「お前ら!!いますぐ逃げろ!!」

エルザ「じゃあまずは…目の前にいるお嬢さんから」

桐生「おおぉぉぉ!!」スッ

ザシュッ!!

桐生「ぐぅぅ!!」

フェルト「おっさん!!?」

ロム爺「なっ…!?」

桐生は身を呈してフェルトを守る
そしてエルザから繰り出される短刀は、桐生の心臓を貫く

桐生「ぐ…ぅぅ…」ガクッ

エルザ「フフフ。あなた頑丈そうだから、早々に退場させてもらうわ」

桐生「……」

フェルト「おいオッサン!しっかりしろ!」

桐生「……」ググッ

フェルト「おっさん…」

ロム爺「フェルト!早く逃げるんじゃ!!」

老人はエルザにこん棒で殴りかかる

ロム爺「こんな小娘などワシの敵ではないわ!!」

ザシュッザシュッ!

ロム爺「ぐぅぅ…!!」

エルザ「さようなら」

ドサッ

ロム爺「」

方腕とノドを切られ、出血多量で倒れる
見るも無残な姿になった老人はそのまま息を引き取る

フェルト「ロム爺!!この…よくもぉぉ!!」

フェルトは目にも止まらぬスピードで、エルザへと突進していく

エルザ「風の加護…素敵、世界に愛されてるのね」

エルザ「妬ましい」

ザシュッ…ブシュゥゥゥ

フェルト「ぐっ…!」

フェルト「」ドサッ

フェルトの血が部屋中に飛び散る

エルザ「終わったわね…さて、あとは徽章を回収して…」

エルザ「その後はじっくりと三人の腸を見させて貰おうかしら///」

桐生「……」ムクッ

桐生「ウオォォォォォォォォ!!!!!」

エルザ「!!?」

咆哮の如く叫ぶ桐生の声が部屋に響く

桐生「ぐふ…げほげほ…」

エルザ「驚いたわ。確実に心臓を貫いたのに」

桐生「……」コツコツ

桐生はフラフラとした足取りで、胸部にエルザの短刀が刺さったまま近づいていく

桐生「お、お前…だけは…もう…女だろうが…関係ない…」

桐生「終わらせてやるよ」チャキッ

桐生は懐からドスを取り出し鞘を捨て、両手で持ち腰に引き付ける

桐生「ゼェゼェ…」

エルザ「……あなたの腸はきっと極上なのでしょうね~///」ニヤニヤ

フラフラと近づいてくる桐生に対し、エルザは頬を染めながら桐生を見つめる

桐生「ぐっ…がはぁ…」ガクッ

そしてようやくエルザの懐まで辿り着いたところで、桐生は強い意志を持ちながらも、無常にも膝を落とす

エルザ「無駄よ。私がこれ以上手を下すまでも無いわ」

エルザ「あなたは直に死ぬ」

桐生「ま、まだ…まだだ」ドサッ

カララッ…

起き上がろうと必死に決意するも、体がいう事を聞いてくれない
両手に持たれたドスを床に落し、桐生はうつ伏せに倒れ、血だまりが広がっていく

エルザ「いま仰向けにしてあげるわね~その極上の腸、見せて頂戴///」

歪んだ笑みを浮かべながら、エルザは桐生の体を仰向けにする

桐生「……」

桐生「俺には…秘策がある」

エルザ「秘策ですって?もう間も無く息を引き取るのに?」

エルザ(でも不思議ね。嘘を言っている風には見えないわ)

桐生「俺は…必ず…」

桐生「必ず…お前を…」

―――――
―――


桐生「俺は必ず、お前を殺しに行く…!!」

桐生「絶対だ…覚えてろ」ギロッ

カドモン「」ドサッ

桐生「……」

桐生「ん!?」

カドモン「」ガクガク

桐生「そうか…おれは…また死んだのか」

カドモン「ひぃ…!や、やめてくれ!俺には妻も子供もいるんだ!」

八百屋の店主は一般的に見て、立派な体つきと度胸を備えていた
しかし桐生の眼力と殺害予告に驚いてしまい、腰を抜かしてしまう

桐生「あ…すまん。いまのはアンタに言った訳じゃないんだ…忘れてくれ」

カドモン「もういいから出て行ってくれ!ほら!リンガならタダでやるから!」

桐生「いや、大丈夫だ…」

カドモン「いいから持ってけ!」

桐生「……」

桐生はタダでリンゴをもらった

【路地裏】

桐生「またここに来ち待ったな…たしかこの後、あの三人が来るはずだ」

桐生「このままじゃアイツらはきっとカツアゲをし続けるんだろな…ここは予定通り、痛い目に合ってもらおう」

桐生「お灸を据えていく必要がある」

桐生「そしてあのタイミングで、ラインハルトかサテラに会えるはずだ」

桐生「そういえば何故か毎回フェルトが俺の事を知っている。少し離れた場所からフェルトがその様子を見てるのだろうな」

カン「おいオッサン!なーに独り言ブツブツ言ってんだよ!」

桐生「来たな…」

チン「痛ぇ思いしたくなかったら出すもん出しな!」

桐生「予定通り終わらせてやるよ!」ドォォン

三人組「っ!?」

桐生は片手で地面を思いっきり叩き、全身から青白いオーラを放つ

桐生「よし。倒したぞ」

トン・チン「」

カン「ひぃぃ!?や、やめてー!見逃してくれ!!」ジョワァァ

桐生「またお漏らしか…もう悪さしないと誓うか?」

カン「誓う誓う!」

桐生「よし…なら見逃してやる」

カン「ほっ…」

桐生「……その代わり、お前に頼みがある」

カン「た、頼み?」

桐生「少し芝居がしたい。上手く演技してくれ」

カン「え、演技?芝居?」

桐生「悪いようにはしない…いくぞ」

カン「え?は、はい」

桐生「スーッ…はぁぁ…」

桐生「フェルト、そこにいるのは分かっている」

フェルト「!?」

フェルト(なんだあのオッサン…どうして物影に隠れて様子を見てるのが分かった!?)

桐生「お前、徽章を盗んだな?」

フェルト(っ!?何でそんな事まで知ってんだよ!?)

フェルト(って言うか何で私の名前を…!)

桐生「いますぐ盗んだ徽章を俺に差し出せ。元の持ち主に返したい」

フェルト(返すだぁ!?何言ってんだ…そんな事して何を得するんだあのオッサン)

桐生(……)

桐生(ココから先は不本意だが…時間も無いし止む終えん。芝居開始だ)

桐生「もし…返さないと」スッ

桐生は懐からドスを取り出し、鞘を引き抜く
そして小さな不良少年カンの体を後ろからつかみ刃を向ける

桐生「今すぐに徽章を差し出さないと…このガキの命がねぇぞ!!!」

カン「」

フェルト(何やってんだあのオッサン!?脅しかよ!!)

桐生「オラァァ!!このガキがどうなっても良いのか!!」

カン「ひ、ひぃぃ…!!」ジョワァァ

カン(こ、これ演技だよな!芝居なんだよな!?本気じゃないよな!?)ガクガク

桐生「早く徽章を差し出せゴラァァ!!」

桐生「すまんな。これは演技なんだ。本気じゃない」ボソッ

桐生「あと頼むからションベン漏らさないでくれ」ヒソヒソ

カン(演技でも怖すぎるっつーの…!!)ジョワァァ

フェルト(ええい!もう知るか!あんなガキがどうなった所で私は関係ない!)

カン「た、助けてぇ~!!」ボロボロ

フェルト(でもちょっと可哀そう…うーん…)

フェルト(お、丁度あそこに騎士らしき奴が!あいつに頼んでおくか!)

桐生「フェルト!!早く出て来い!!このガキを本気で殺すぞ!!」

カン「ヒィィ…!!」ガクガク

桐生(おかしい…フェルトは泥棒をやっているが、根は良い奴そうに見えるんだがな…)

桐生(ここであいつが助けに来てもおかしくない…早く出て来いフェルト。時間が無い)

「そこまでだ」

桐生「ん?その声は…」

「僕は今日非番だけど…こんな路地裏で恫喝とは許せない」

桐生「……」

カン「赤髪に…竜爪の刻まれた騎士剣」

カン「まさかあの剣聖ラインハルト!?お…お助けぇぇ!!」

ラインハルト「自己紹介の必要はなさそうだ……最もその二つ名は僕にはまだ重すぎる」

ラインハルト「今なら見逃してあげても良い。だがもし強硬手段に出るというのなら相手になる」

桐生(なるほど、フェルトはラインハルトに助けを求めたか。まあ、ある意味正しい判断だ)

桐生「そうか…剣聖ラインハルトが出てきたんじゃ仕方が無い」

桐生「すまなかったな。もう悪さはしない」

ラインハルト「んん?あ、ああ…」

ラインハルトはどこか釈然としない様子で桐生を見る

桐生「それじゃあ、俺は急いでるんで」

ラインハルト「待つんだ。ついさっきまで脅し行為をやってたキミが急ぎの用事…?」

桐生「……」

ラインハルト「さてはまた違う人々に危害を加える気だね?」

桐生(今回はやけに絡んでくるな…まあこの状況なら無理もないか)

ラインハルト「手荒な真似はしたくないんだけどね…キミが危なそうな人物である以上、僕はキミを許しはしない」

桐生「俺もお前と戦う理由が無い」


桐生「もう一度言う、俺は急いでるんだ。いますぐ貧民街の盗品蔵に行かないといけない」

ラインハルト「貧民街の…盗品蔵?」

桐生「じゃあな」ダダッ

ラインハルト「あっ…ちょっと、待つんだ!!」

ラインハルトの言葉を無視して、桐生は走って路地裏を後にする

カン「何だったんだよ…あのオッサン…」グスッ

桐生「ぜぇぜぇ…」ダダッ

桐生は街中をダッシュして盗品蔵に向かう

桐生(……)

桐生(俺はかつて、本気で人を殺そう決意した事が二回ある)

桐生(一回目はまだ二十歳だった時に渋澤と闘った時。あの時は錦が止めてくれ無かったら俺は一線を越えていた)

桐生(そして二回目は…つい最近の話だ。会長代理の菅井と、巌見造船の巌見恒雄…奴らと共に刺し違える覚悟だった)

桐生「今度は三度目だ…しかも相手は女…」

桐生(俺は果たしてあの女を殺せるのか…?)

桐生(実力的な意味だけではない。どんなに腐ってもあいつは女だ)

桐生(……)

桐生(迷ってるヒマは無い。あのイカれ女、話が通じるとも思えない…もうやるしかねぇ)

ドンッ

エミリア「キャッ!」

桐生「っ!!すまない、大丈夫か…」

エミリア「もう!ちゃんと前を見てよね!危ないじゃない!」

桐生「ん?お前は…サテr」

桐生(おっといけない。まだ今回は初対面だな)

エミリア「……?ちょっとアナタ、いま何か変な事言いかけなかった?」

桐生「何でもない。間違えただけだ」

エミリア「もう…気をつけてよね?間違え方によっては私、すごく怒ってたんだから!」

桐生「……?ああ」

桐生(すでに少し怒ってるように見えるが…?)

桐生「俺はいま急いでる、それじゃあ」

エミリア「そう。私も急いでるからこの辺で」

桐生「そうだ。貧民街の盗品蔵には近づくなよ!」

エミリア「え?」

桐生「お前の徽章は必ず取り返す。明日の昼、徽章を取られた場所の近くにある八百屋で会おう」

桐生「じゃあな」

エミリア「え…ちょっと!なんで私が徽章盗まれた事知ってるの!?」

桐生(時間がない!急がないと…)

桐生(そして今度こそあの女を殺す)

エミリア「……」

エミリア「ねえパック」

パック「ん、さっきの男の事?」

エミリア「うん。なんで私が盗まれたこと知ってるんだろ」

パック「どこかで見てたんじゃない?」

パック「僕的に見た目に反して、悪い人には見えなかった…むしろ逆だね」

エミリア「良い人なの?ふーん…」

エミリア「盗品蔵ねぇ…」

パック「行くの?」

エミリア「……」

今日はここまで

投下します
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>>52(訂正)

桐生「さて、これでひと段落したな」

桐生「素直に俺の言う通りにしてくれれば、これ以上痛い目に合わせやしない」

フェルト「ぐ…痛てて…何なんだよアンタ。いきなり保護するってどういう意味だよ」

桐生「説明してる暇は無い」

フェルト「っざけんな!ちゃんと説明しろ!」

桐生「……俺の用件は二つだ。一つはお前らの保護。もう一つはお前が盗んだ徽章を返してもらうことだ」

フェルト「はぁ!?」

フェルト「な…なんで私が徽章盗んだ事知ってんだよ!」

桐生「いいから徽章を返せ!!!」

フェルト「」ビクッ

桐生「もう時間が無いんだ早く逃げるぞ。運が良ければ持ち主とも合流できるかも知れない」

フェルト「アンタは一体、誰から私たちを守ろうとしてんだよ?」

桐生「お前の依頼者…エルザからだ」

フェルト「な…」

桐生「あいつは『腸狩り』とか言う異名を持っている」

桐生「あいつは人のいう事なんて聞かない残酷な奴だ」

フェルト「そりゃアンタ自身のことじゃなくて?」

桐生「冗談で言ってるんじゃない。お前も徽章を渡した瞬間、報酬なんて渡さずに殺されるぞ」

桐生「早くエルザから逃げるぞ。もう本当に時間が無い」

>>55(訂正)

エルザ「驚いたわ。確実に心臓を貫いたのに」

桐生「……」コツコツ

桐生はフラフラとした足取りで、胸部にエルザの短刀が刺さったまま近づいていく

桐生「お、お前…だけは…もう…女だろうが…関係ない…」

桐生「終わらせてやるよ」チャキッ

桐生はポケットからドスを取り出し鞘を捨て、両手で持ち腰に引き付ける

桐生「ゼェゼェ…」

エルザ「……あなたの腸はきっと極上なのでしょうね~///」ニヤニヤ

フラフラと近づいてくる桐生に対し、エルザは頬を染めながら桐生を見つめる

桐生「ぐっ…がはぁ…」ガクッ

そしてようやくエルザの懐まで辿り着いたところで、桐生は強い意志を持ちながらも、無常にも膝を落とす

エルザ「無駄よ。私がこれ以上手を下すまでも無いわ」

エルザ「あなたは直に死ぬ」

桐生「ま、まだ…まだだ」ドサッ

カララッ…

起き上がろうと必死に決意するも、体がいう事を聞いてくれない
両手に持たれたドスを床に落し、桐生はうつ伏せに倒れ、血だまりが広がっていく

エルザ「いま仰向けにしてあげるわね~その極上の腸、見せて頂戴///」

歪んだ笑みを浮かべながら、エルザは桐生の体を仰向けにする

桐生「……」

桐生「俺には…秘策がある」

エルザ「秘策ですって?もう間も無く息を引き取るのに?」

エルザ(でも不思議ね。嘘を言っている風には見えないわ)

桐生「俺は…必ず…」

桐生「必ず…お前を…」

本編投下します

【貧民街】

エルザ(待ち合わせの時間まであと少し…盗品蔵はすぐそこだし、少し散歩でもしてようかしら)

桐生「……」ザッ

エルザ「……」

エルザの前に立ちはだかる桐生
鋭い目つきで睨む

エルザ「あら素敵な紳士さん。何か私に用?」

桐生「……」バッ

桐生は無言のまま上着を脱ぎ上半身を露わにする

エルザ「いきなり女性の前で脱ぐなんて、すごく大胆…そんなに私とヤリたいのかしら?」クスクス

桐生「ああ、今すぐお前を殺りたい」

エルザ「それにしても凄い体つきね…これなら楽しめそうだわ」

桐生「手加減はしないぞ?今度は本気だ」

エルザ「あら、あなたとやり合うのは初めてのハズだけど?」

桐生「お前が忘れてるだけだ」

エルザ「……」

桐生「初めてのときは…俺は頭の中がグチャグチャだった。感情を整理する時間が欲しかった」

桐生「だがそんな余裕なんてなかった。次から次へとトラブルが俺の前に押し寄せて来たからだ」

桐生「女相手に俺は本気が出せなかった。あの時のオレにできたのは精々、アイツらを守るための時間稼ぎだけだった」

桐生「そして二回目、今度はアイツらの保護を優先的に考えた」

桐生「だが事態は空回りし続け…最悪の結果を迎えた。おれ自身も心のドコかで殺人に躊躇していた。決意が甘かった」

エルザ「……アナタが何を言っているのかサッパリ分からないのだけれど」

桐生「だが今度は本気だ…オレはお前を本気で殺す」

エルザ「……」

エルザ「困ったわね…ここではあまり騒ぎを起こしたくないのだけれど」

桐生「テメェの都合なんざ聞いていない」

桐生「お前はこの後、依頼した相手の盗品を回収したあと、筋も通さないで無残に殺害するんだろ?」

桐生「腸狩りのエルザ」

エルザ「あら、私の異名まで知ってるのね」

桐生「ああ、オレは…時間を巻きm」

ドクンッ!!

桐生「ぐっ…!!!」ガクッ

エルザ「?」

自分の能力を打ち明けようとした刹那、心臓が握りつぶされるような感覚を覚え、思わず膝を崩す

桐生(な…なんだ?いまの不快感は…)

エルザ「どうしたの?いまさら命乞い?」

桐生「いや…なんでもない」

桐生「とにかく、これ以上の狼藉は働かせない。オレはお前を殺す…!!」

エルザ「フフフ…良いわ。あなたの腸、見せてもらうわ!」

 VSエルザ・グランヒルテ

桐生「いくぞぉぉ!!」

エルザ「……」ヒュンッ

桐生「……」ササッ

エルザは短剣を薙ぎ払うが、それを桐生はスウェーして避ける
同時に桐生の拳が、エルザの腹部に突き刺さる

桐生「虎落し…!」

【盗品蔵】

ロム爺「そろそろ時間かの?」

フェルト「ああ、そうだな」

フェルト「へへへ…今日の商談はかなりでかいぜ。楽しみだな」

ボゴォォォン!!!

ロム爺「なっ!?」

フェルト「な、なんだ!?いきなりドアがぶっ壊れたぞ!」

エルザ「ぐっ…!」ガクッ

突如、ドアが破壊されたと同時に何者かが飛んでくる
目線を部屋の奥へ向けると、壁にめり込んだフェルトの依頼者であるエルザがいた

桐生「しまった。つい吹き飛ばしすぎてしまった」

桐生「いや…闘うべきを場所をもっと離れた所にすべきだったか」

ロム爺「なんじゃこの男は!?」

フェルト「げげ…!?お前たしか路地裏にいた気狂い親父!」

桐生「昼間の路地裏の一件はすまなかったな。あれはちょっとした芝居だ」

フェルト「はぁ!?」

桐生「だがいまの状況は本気だ、芝居じゃない」

エルザ「ええそうよ、正真正銘の…公開処刑よ」

エルザは桐生の懐に入ってきて、二回、三回と短剣を薙ぎ払う

桐生「ぐっ…!!」

フェルト「!?」

桐生の腹部からドバッと大量の血が溢れ出る
しかし桐生の闘志は消える事はない

エルザ「さあ、そろそろ公開処刑も終わりにしましょう」

桐生「オレの公開処刑だと?違う、これはお前の公開処刑だ」

桐生「オラァ!!」ボゴォォ

エルザ「ぐっ…いいパンチだわぁ」ニヤニヤ

桐生「ふん…笑っていられるのも今のうちだ」

ドス!ドガ!バキ!

桐生「オラァァ!!」

エルザ「ウフフ…」

あざ笑うエルザに対し、鬼の形相で立ち向かう桐生
二人の激しい闘いは、次第に部屋を荒らしていく

ロム爺「お、おい!お前さんらいい加減にせんか!わしの家を壊す気か!」

フェルト「そうだぞ二人とも!それとオッサン、そのケンカ相手は私にとって商談相手だ」

フェルト「殺されちゃ困るんだよ!」

桐生「お前はだまされている」

フェルト「は、はぁ!?」

桐生「細かい説明をしてるヒマは無い。爺さんもフェルトも今すぐ逃げろ」

桐生「お前たちも関係者である以上、始末されるぞ」

フェルト「え…」

ロム爺「な、なんじゃと!?」

桐生「お前らじゃコイツに敵わない。逃げろ」

エルザ「あ~あ…本当、何でもお見通しなのね…」

エルザ「いま逃げられちゃ困るし…先にお嬢さん、あなたを始末しましょうかしら」

フェルト「え、ちょ…!嘘だろ!?」

エルザ「フフフ…」

ボゴォォン!

エルザ「ぐっ…!」

エルザがフェルトの方へ襲い掛かる瞬間、部屋においてあったテーブルが飛んでくる
直撃したテーブルは粉々に砕ける

桐生「お前の相手はこのオレだ」

エルザ「……」

フェルト「ちっ…分かったよ。こうなったら私も加勢してやる」

桐生「待てやめろ!!」

エルザ「あら?自分から殺されにくるなんて…」

桐生「ちっ…またこのパターンか!いい加減学習しやがれ…!」

フェルトは物凄いスピードでエルザへと突進していく
だがフェルトの攻撃があと少しで届く瞬間、桐生が目の前に立つ

フェルト「っ!?おっさん邪魔だ!」

桐生「ぐっ…!!!」

フェルトは攻撃を寸止めする
しかしなぜか桐生のうめき声が部屋に響く

桐生「くっ…」ボタボタ

フェルト「おっさん!!」

エルザ「フフフ、身を呈してあなたを守ってくれたみたいね」

桐生「フェルト…お前じゃ敵わない。逃げろ」

エルザ「惜しいわね。もう少しで心臓を串刺しに出来たのに…」

桐生はギリギリの所で、己の右手でエルザの手首を握り、わずかに軌道をずらしていた
心臓に近い場所に刺さったものの、誰よりも頑丈である桐生の致命傷には至らない

桐生「こっちも学習してきたんでな」

桐生「混乱していた一回目の時とは違う…覚悟が甘かった二回目とも違う」

桐生「今度はお前を本気で殺す。覚悟しろ」

桐生「オラァァ!!!」ドスッ

エルザ「ぐぅぅ!!」

桐生の殺気を込めた拳が、エルザのみぞに減り込む

桐生「まだだ…こんなんじゃ…お前を殺せない」

桐生は右手で、エルザの腕を掴んだまま攻撃を続ける
腹部に短剣が刺さったまま、エルザの片腕を強引に制止させる

桐生「ふん、一回目の時は随分と余裕そうだったがな…今回は生憎、手加減なしだ」

桐生「オラァァ!!」ドスッ

エルザ「ぐぅぅ…!」

桐生「オラ!まだまだ!!」

ドス!ドス!ドス!

エルザ「ぐっ…!予備の短剣ならもう一つあるんだから」

桐生(しまった…!そういえば予備が)

エルザ「終わりよ」ブンッ

桐生「甘い!!」バキッ

エルザ「なっ!」

掴まれていた腕とは反対側から、予備の短剣で桐生を襲う
しかし桐生は左手でそれを薙ぎ払う

エルザ「それなら蹴りならどうかしら!?」ゲシッ

桐生「ぐっ…!」

エルザの強烈なキックが桐生の腹部を襲う
その衝撃でエルザの掴まれていた腕は解放され、桐生の腹部に刺さってた短剣を引き抜く

再びお互いに距離が開く

桐生「お前本当に打たれ強いな。俺の本気のパンチをこれだけ喰らってまだ立っていられるとはな」

エルザ「頑丈なのはお互い様でしょ?」

エミリア「ちょっとアナタ達…何やってるの!?」

桐生「な、お前!?来るなと行った筈だ!」

エミリア「何があったのかしらないけど、もうケンカはやめなさい!」

エミリア「私はそこの金髪の女の子に用があるんだから!」

フェルト「げっ!アンタは…」

エミリア「さあ!早く私の徽章を返して!」

エルザ「これはこれは、始末しなきゃならない相手が増えちゃったわね」

エミリア「え?あなた…何を言って」

桐生「チッ!どうしてこうも面倒な展開に…」

桐生(一回目の時は…全員をどうにか逃がしたがオレは死んだ)

桐生(二回目はオレの油断で最悪な結果に)

桐生(俺がコイツと差し違えて、全員を仮に守れたとしても…結局のところ時間は強制的に巻き戻されちまう)

桐生(……ならばココは賭けにでよう)

桐生「おいお前、確か魔法が使えたな」

エミリア「え?うん…何で知ってるの?」

桐生「よし、それなら精霊と共にオレを援護してくれ」

エミリア「もう!色々と聞きたいことあるのに…」

エミリア「行くわよパック!」

パック「任せて!」

桐生「すまない…こんな事に巻き込ませたくなかったんだが」

エミリア「いいのよ、私だって闘えるもの」

桐生(さて、この後はどうせめていこうか)

桐生(ひとまず様子を見よう。サテラがどこまで戦えるか)

桐生(奴を責めるチャンスは必ず来る)

パック「自己紹介がまだだったねお嬢さん。ボクの名前はパック。名前だけでも覚えて…逝ってね!」

それからパックとエミリアのコンビネーションがきいた攻撃がエルザを襲う

桐生「……」

桐生(初めにエルザを完全に氷漬けにしたが…奴が魔法のコートとやらで身を守った)

桐生(魔法のコートを失ったが、厄介なことに素早さが跳ね上がった…だがオレとの闘いでスタミナは既にかなり消耗しているはずだ)

桐生(いまの所、互角の闘いを見せているが…たしかパックには時間制限があった)

桐生(パックが寝てしまうと、残るはオレとエミリアだけになる…その前にどうにかしたい)

キン、キン!キン、キン!

放出される氷の弾丸と、短剣が弾く音が部屋中に響く

桐生「よし…今のうち準備しておくか…」

桐生「おおおぉぉぉ…!!」ゴゴゴゴ

フェルト「っ!?な、なんだ…おっさんの体から青白いオーラが…」

ロム爺「魔法とはちいと違うのぅ…これは一体…?」

桐生「……」ゴゴゴゴ

パック「そろそろ眠くなってきたな…ケリをつけないとね」

エルザ「せっかく楽しくなってきたのに。つれないわ~」

パック「モテる男の辛いね。女の子の方が寝かせてくれないんだから。でも夜更かしするとお肌に悪いからさ」

パック「そろそろ幕引きといこうか!」

エルザ「ぐっ、足が」

エルザの右足は凍結した床に張り付いて動けずにいた

パック「無目的にばらまいてたわけじゃ…にゃいんだよ?」

エルザ「……してやられたってことかしら?」

パック「オヤスミ~!!」

パックの手から氷の塊がビーム状に射出される
しかし氷漬けにされることなく、右足の負傷を覚悟で力任せに、ジャンプし回避する

エミリア「くっ…避けられた!」

パック「もう眠い…限界だよリア…」

桐生「……」ゴゴゴゴ

桐生「まてパック、寝るのはまだ早い…」ゴゴゴ

パック「え?」

桐生が宙に浮いてるエルザを睨む

桐生(氷で縫い付けられた足の表面を強引に引き剥がした…という事は、いま奴の足裏は血まみれだ)

桐生(床に着地した瞬間、激痛が伴うはずだ)

桐生(どんなに余裕なツラを見せても…内心、痛がっているに違いない)

桐生「奥義をみせてやる」ゴゴゴゴ

エミリア「奥義…?」

桐生「おおおおぉぉぉ…!!!」

エミリア(青白かったオーラが、急に赤くなりはじめた…!?)

桐生「いくぞ」ヒュンッ

桐生は目にも止まらぬスピードで、床に着地するエルザの前まで突進していく

エルザ「あらあら…せっかちな男は嫌われるわよ?」

ズバッ!

桐生「……っ!!」

エルザは着地すると同時に短剣を薙ぎ払い、桐生の胸部にダメージを与えていく
だが決して怯まず、短剣が水平に薙ぎ払い終えると同時に、拳を腹部へ送り込む

桐生「究極の極みだ…!!」

ズドォォォォン!!!

エルザ「ッ!?」

メキメキ…ボォォン!!

すごい勢い吹き飛ばされ壁に激突する
だが勢いは収まる事無く、壁を破壊して外へと飛ばしていく

桐生「ぜぇぜぇ…」

エルザ「」

ロム爺「あの男…やりおったわい」

フェルト「まじで何モンだよあのおっさん…!」

エミリア「凄いわね貴方。見た限り…マナを自在に操れる訳でもなさそうなのに」

桐生「マナ?ああ…魔法関連の事か」

桐生「生憎オレは、体術と武器だけで修羅場を潜り抜けてきた。魔法はオレの専門外だ」

桐生「ありがとな。助かったぜ」

エミリア「酷いキズ…あなたよく生きてるわね」

桐生「ケンカ慣れしてるんでな…とは言え、今回闘ったこの女。相当やばかったぜ」

桐生「50年近く生きてきたが…その中でも間違いなくトップクラスの強さだ」

桐生「さて」クルッ

フェルト「あ…」

桐生「わかっただろ?お前は…言わばだまされていた様なもんだ」

桐生「徽章を返してやれ」

フェルト「……はぁぁ、分かったよ」

フェルト「命を助けてくれて…ありがとう」

フェルト「今度からは盗まれないようにちゃん隠せよ」

エミリア「貴方にその忠告されるのって、ヘンテコな気分ね」

桐生「ん?」ゴソゴソ

桐生「な…ない」

フェルト「ん?どうした、今度はおっさんが無くしものか」

桐生「アサガオの…写真…」

桐生「写真…どこだ…」

ロム爺「もしや、このやけにリアルに描かれた絵の事か?」

桐生「ああそれだ!すまねぇな」

ロム爺「気にするこたぁない。命を救ってもらったんじゃからな…まあ家の壁に穴があいたり、玄関のドアはぶち壊されてしまったがのう」

桐生「……」

ロム爺の皮肉は桐生の耳に届いていなかった
アサガオの写真を大切に懐かしげに、それでいて切なそうに見つめる

エミリア「その絵、すごく上手いわね」

フェルト「ホントだ。いったいどんな描き方すればそんなにリアルに描けるんだ」

桐生「……」

エミリア「その絵の中に貴方もいるわね」

桐生「ああ…みんなかけがえの無い奴らさ」

桐生「この写真にも写ってないのもいるがな」

エミリア「そう、大切な人が沢山いるのね…」

桐生「……」ビクッ

桐生「フェルト、下がってろ」

フェルト「え?」

桐生がそういうと後ろに振り返る
その視線の先には、倒れてたハズのエルザが短剣をもって襲い掛かってきていた

エルザ「……」ダダッ

桐生「虎落し…!」

ズドォォン!!

エルザ「ぐっ…本当にしつこい相手ね」

桐生「それはこっちの台詞だ」

エルザ「……」スッ

エルザは両手に短剣を持ち、桐生を睨む

エミリア「まだ終わってなかったのね」

パック「ごめん…もうボク限界…」

エミリア「あとは大丈夫よ。私と…彼でどうにかするわ」

パック「いざとなったらオドを使って僕をよんでね」

桐生「そのオドってのが何だか知らねぇが…出す必要はない」ゴソッ

桐生は背中の腰に差していたドスを取り出す
そしてゆっくりと鞘を引き抜いて、刃をエルザに向ける

桐生「今度こそオレはコイツを殺す」

エルザ「……」

エミリア「……えーと、そういえばまだ名前聞いてなかったわね」

桐生「ん?ああ…鈴木太一だ」

エミリア「タイチね…私は」

「そこまでだ」

エミリア「え」

桐生「ん?お前は…ラインハルト」

ラインハルト「黒髪に黒い装束。そして北国特有の刀剣…それだけ特徴があれば見間違えたりはしない。君は腸狩りだね」

ラインハルト「危険人物として、王都でも名前が上がっている有名人」

エルザ「そういうあなたは騎士の中の騎士。剣聖…ラインハルト」

エルザ「すごいわ!こんなに楽しい相手ばかりだなんて」

ラインハルト「色々とお聞きしたいこともある。投降をお勧めしますが」

エルザ「血の滴るような極上の獲物を前に、飢えた肉食獣が我慢できるとでも?」

ラインハルト「……」

エルザ「……っと言いたい所だけど。生憎、私はもうボロボロなの」

エルザ「それでも、貴方1人ならまだ殺り合う気もあったけど…」チラッ

桐生「……」

エミリア「……」

エルザ「……」

エルザ「いずれ、この場にいる全員の腸を切り開いてあげる」

エルザ「それまでは精々、腸を可愛がっておいで」

そういってエルザはその場を素早く立ち去っていく

桐生「待てゴラァァ!!まだ終わってねぇ!!」

桐生が力強く一歩を踏み出すと同時に、ラインハルトが目の前に立ち制止する

ラインハルト「キミも酷い傷じゃないか。深追いしない方が良い」

桐生「……」

ラインハルト(それにしてもこの傷跡は何なんだ。命がいくつあっても足りない。なんで立っていられるんだ!?)

桐生「うっ…」クラッ

ラインハルト「大丈夫か!」

桐生「ああ、これ位平気だ」

ラインハルト「……」

桐生「それにしてもお前はやはり凄い奴なんだな」

桐生「あのバケモノみたいな女が、お前の名前を聞いただけで警戒し、逃げ出すとは」

ラインハルト「僕なんてまだまださ…それにあっちが退却したのは君たちもいたおかげだよ」

桐生「…改めて礼を言う。逃げられちまったが…助けに来てくれた事に感謝する」

桐生「ラインハルト、ありがとう」

ラインハルト「ハハハ、僕は何もしてないけどね」

桐生「……」

桐生「ラインハルト…ラインハルト…」

ラインハルト「?」

桐生「ライン…ハルト…」

桐生「ハルト……」ツーッ

エミリア「え、タイチ…?」

ラインハルト「っ!?どうしたんだい、急に涙なんか流して…」

桐生「いや…その、オレの知り合いでお前と名前が、かぶっている奴がいてな…」

桐生「つい…」ボロボロ

ラインハルト「そうか。涙を流すほど大切な存在なんだね」

桐生「ああ。付き合いこそ短かったが、あいつもまたかけがえの無い存在だ」

桐生「……もう会うことは出来ないけどな」

桐生「そうだ。まだお前の名前を聞いてなかったな」

エミリア「え?」

桐生(今回は、な)

エミリア「えーっと…そうね」

エミリア「エミリア!私はエミリア、ただのエミリアよ」

桐生「なに?エミリア…だと」

エミリア「そうよ」

桐生「……」

桐生(どういうことだ。なぜ名前が違う)

桐生(そういえば昼間にあったときも、サテラと言いかけた時に妙な表情してたな)

桐生(いずれにせよ偽名だったという訳か。そしてエミリアこそが本名)

桐生「……お前が本名を名乗るなら、オレも筋を通さないといけない」

桐生「オレの本当の名前は…桐生。桐生一馬だ」

エミリア「え、偽名だったの?」

桐生「ああ。訳合って偽名で名乗っていた」

桐生「桐生一馬は…本来は死んでいるハズの男だからな」

エミリア「……??」

その後、徽章を無事にかえして貰うエミリア
だがその直後、なぜかラインハルトが血相を変えてフェルトに何かを問い詰める

その後、妙な力を使いフェルトを気絶させ連れて帰ってしまう
更に、とりかえそうと襲い掛かってきた老人を気絶させる

桐生「……さて、気絶した爺さんをベッドに寝かせたぞ」

ロム爺「」

桐生「しかし急にどうしたんだろうな。ラインハルトの奴」

エミリア「さあ…悪い人じゃないから、とりあえず彼を信じておく事にしたけど」

桐生「たしかに悪い奴には見えない。だからオレも黙って見届けた。まあ悪いようにはしないだろう」

桐生「さて…そろそろお別れだな」

エミリア「え?」

桐生「元気でな」

エミリア「ま、待って!」

桐生「ん?」

エミリア「そんなキズだらけで…あなたいくら頑丈でも」

桐生「一晩寝れば治るさ」

エミリア「そういう問題じゃないわよ…家族だって心配するわよ」

桐生「帰る場所は無い。これから俺は…適当に旅に出るつもりだ」

エミリア「それなら尚更よ。行くあてが無いなら、ウチで療養していきなさい!」

エミリア「……それに今のあなた、闘ってる時と違って、凄く悲しい眼をしてるわ」

桐生「……」

エミリア「とにかくついてきて」

桐生「……」

今日はここまで。これで第一章終了

いまの所の予定では第二章まで書こうとおもってます

第三章は書きたいけど内容があまりに複雑なので、現段階では断念
桐生さんにしか出来ない展開が思いつけば、三章分もやるかもしれません

ただ三章の序盤だけ、オマケとして書く予定はあります

投下します

桐生は異世界で1つの問題を解決したが、一安心すると同時に我に返る

自分の置かれた状況、心に積もった家族への想い
寂しさで心が押し潰されそうだった

しかしそれは、元の世界の住人もまた一緒であった

【神室町・真島組事務所】

真島「……」ボーッ

西田「親父、今月分のシノギです。お納めください」

真島「ああ、ご苦労や」

真島「……」ボーッ

西田「あの…親父?」

真島「……」

真島「うお…ぉぉぉぉ…」

真島「桐生チャァァァァァン!!!!!」

西田「!?」

真島「んが!!」ガブッ

真島は突如、奇声を発した後に、自らの手を口の中に入れ嚙み始める

西田「親父止めてください!血が、血が出てます!」

南「なんの騒ぎや」

西田「お、親父がトチ狂った!」

南「もともとトチ狂っとるやろ」

西田「いいから一緒に止めるぞ…親父!落ち着いて下さい!」

真島「ああああああ!!」

真島「脳が!!脳が震えるでぇぇ!!!!」

西田「なに意味の分からない事いってるんですか!」

真島「桐生チャァァァン!!!!!!」

真島吾郎のストレスは既に臨界点にあった

真島「ぜぇぜぇ…」

西田「お、親父…救急セットをお持ちしました」

真島「いらんわそんな物!」

南「なんや親父、いきなり手をガブガブしおって。それが最新式のエンコかいな」

真島「ちゃうわドアホ。ちょっとしたインスピレーションみたいなもんや」

南「過激なインスピレーションやのう」

真島「……ちょっと外の空気吸ってくる。留守番頼むわ」

西田・南「へい」

ガチャッ

西田「親父…やっぱり四代目が亡くなってから情緒不安定だ」

南「まあ確かに、信じられへんもんな…あの四代目が死ぬなんて」

【神室町・公園】

真島「スーッ…はぁぁ…」

真島はベンチにすわり煙草を吸う
吐き出し煙は溜め息にも近い物があった

冴島「ここにおったんか兄弟」

真島「なんや、仕事の方はええんか。怠惰やのう兄弟。実に怠惰や」

冴島「お前ここ最近、情緒不安定だと噂になっとるで」

冴島「そんなんじゃ下のモンに示しがつかん。しっかりせい!真島組は東城会最大の組織やろ」

真島「……」

冴島「まあ気持ちは分からんでも無いけどな」

真島「兄弟、お前はどう思う?」

冴島「何がや」

真島「あの桐生一馬が本当に亡くなったと思うか?」

冴島「最初にその話を聞かされたときは、嘘か本当か言うより、悲しみと怒りばかりが込み上げたわ」

冴島「せやけど…いまは色々と疑問に思うこともある」

真島「さすが兄弟、同感や」

真島「俺も後々、冷静になり振り返って思ったわ…あの桐生一馬が死ぬ訳ないと」

真島「大体、銃弾3発程度で死ぬ訳ないんや。大砲3発喰らっても生きとるで桐生チャンの場合」

秋山「さすがお二人です。俺が何も言わずとも、その考えに辿り着くとは」

冴島「秋山か、久しぶりやのう」

真島「お前も何か心当たりあるんか?」

秋山「ええ。死亡確認したのは伊達さんだけ。しかも話によると既に遺灰になった状態…おかしな事だらけでしょう」

真島「あのサツの旦那が真相を知っとるという事かいな」

秋山「でも聞くだけ無駄ですよ?あの人、何言っても口を割る気なさそうだし」

真島「チッ」

秋山「そういえば桐生さんは前に、長洲でタクシーをやってたといってました」

秋山「案外、福岡にいけばアッサリ見つけられるかも知れませんね」

冴島「ほなら、ためしに福岡へ行って探してみるか?」

真島「……」

真島「桐生チャンは福岡にはおらん。多分、もっと遠い所におる」

冴島「なんや、やけに自身たっぷりに言うやないか」

秋山「他に心あたりでも?」

真島「…………」

真島「近頃、毎晩の様に奇妙な夢を見るんや」

秋山「はぁ?」

冴島「夢やと?」

真島「夢の中の桐生チャンはな、異世界ファンタジーを満喫しとったわ」

真島「異世界でも桐生チャンは相変わらずお人よしでな、困ったハーフエルフの嬢ちゃん助けとったわ」

真島「それとオレ好みのエロい女がいてな。ナンパしようとしたら桐生チャンが本気でその女を殺す覚悟で闘っとるんや」

真島「しかもゲームの主人公みたいに何度も死んでは蘇ってな…さすが桐生チャンやと思ったわ」

秋山「あの、真島さん?」

冴島「おい兄弟、何を言うとるんや」

真島「まあつまり、あれや…桐生チャンはきっと異世界にいるんや。そして俺は桐生チャンの現状を知る特殊能力みたいなのを手にしたんや」

真島「俺も桐生チャンと一緒に!!異世界ファンタジー満喫して、大暴れしたいでぇぇ!!!」ガタッ

真島はベンチから立ちあがり両手を掲げ、天に向かって叫ぶ

秋山・冴島「…………」

冴島「秋山、この辺でいい精神病院あるやろか?」

秋山「う~ん、真島さんは重症だから慎重に探さないと」

真島「ドアホ!聞こえてるで二人とも!」

真島「ええか?桐生チャンはな!きっと異世界にいるんや!間違いない!」

冴島「兄弟…こんな事なら陽銘連合会と戦争させてストレスを発散させた方がよかったかのう…」

秋山「桐生さんも酷だな…嶋野の狂犬がここまで苦悩してると言うのに」

真島「あああ!脳が震えるでぇぇ~!!桐生チャンと異世界で冒険したいわぁぁ!!」

その頃、桐生一馬は大きな屋敷に泊まっていた

【異世界・とある屋敷】

桐生「……ん、朝か」パチッ

桐生「変な夢を見た…知り合い三人が公園のベンチに座って、俺の話をしていた」

桐生「真島の兄さんは俺の名前を叫んでたな…あの人、俺がいなくなって現実でも発狂してないよな?」

桐生「……」ブルッ

桐生「トイレにいきたくなった…トイレ…トイレ…」

ガチャッ

桐生はベットから起きて扉を開ける
すると左右共に長い廊下が続いていた

桐生「徽章をもっていたからそれなりのお嬢様だとは理解してたが」

桐生「想像以上にデカい屋敷だなここは」コツコツ

桐生「……」コツコツ

桐生「そういえば、俺のキズはどれ位ふさがったのだろうか」サッ

桐生は廊下でおもむろにガウンを半身分だけ脱ぎ、自分の体を見つめる
なぜか傷跡は無くなっていた

桐生「……」

桐生「エミリアが回復魔法で傷口まで完璧に消してしまったのか」

桐生(それにしても廊下が長い。そして扉も多い)

それから桐生は適当に思うがままに、扉を開けていく

~~~

桐生(全然トイレが見付からない)

桐生「チッ…トイレはどこだぁぁ!!」

ガチャッ

ベアトリス「……」

桐生「……」

ドスを利かせるような声で叫んだ桐生
しかしその部屋の中には図書館のような場所で、金髪の幼い少女が本をみていた

不本意に怒鳴ってしまったせいで、こちらを警戒した眼差しで見つめてくる

桐生「すまん。忘れてくれ」

ガチャッ

ベアトリス「……」

ベアトリス「なんなのアレは」

ベアトリス「……ああ、そういえばあの小娘が妙な男を拾ってきたわね」

~~~

ガチャッ

桐生「ぜぇぜぇ…また同じ場所…」

桐生「どうなってやがるんだこの屋敷は!?」

ベアトリス「なんて心の底からうっとおしい奴なのかしら」

桐生「すまん漏れそうなんだ。トイレの場所を教えてくれ」

ベアトリス「……」パチンッ
金髪の少女は指を鳴らすと、桐生の方を改めて見向きする

ベアトリス「……もう一度、後ろの扉を空ければトイレに行けるわよ」

桐生「なにを言っている?そこの扉を開けたら廊下じゃねぇか」

ベアトリス「いいから開ける!」

桐生「…?」

ガチャッ

桐生「うおぉ!?本当にトイレが合った…どういうことだ!?」

ベアトリス「漏れそうなんじゃなかったの?」

桐生「おおっとそうだった…」ガチャッ

桐生「ふぅ」

ベアトリス「……」モジモジ

桐生「ん?何だお前もトイレか」

ベアトリス「この状況で普通、女相手にそういうこと聞くかしら?」

桐生「……そうだな。すまない」

ベアトリス「ふん」

桐生「ところで、トイレに行く前に聞いておきたいんだが…ここは何なんだ?」

ベアトリス「ベティーの書庫であり、寝室権私室かしら」

桐生「ほう。ずいぶんと豪華な部屋なんだな」

桐生「さて俺はそろそろ戻るか…まだ朝も早いしな。二度寝でもするか」

ベアトリス「それならベティーが良い事をしてあげるわ」

桐生「ん?」

ベアトリス「二度寝にはもってこいのお呪い」スッ

金髪の少女はそっと、桐生の腹部に手を当てる

ベアトリス「何か言いたいことは?」

桐生「いや無い」

ベアトリス「そう。じゃあお休み」

ドクンッ!!

桐生「っ!!?」

次の瞬間、全身に言葉では言い表せない衝撃が走る
体力が根こそぎ持っていかれる様な、極めて不快な感覚が桐生を襲う

ベアトリス(さて、この辺でいいかしら)スッ

少女の手が桐生の腹部から離れる

桐生「ぜぇぜぇ…なるほど、二度寝には持って来いだな」

桐生「全身がだるいぜ」

ベアトリス「」カチーン

桐生「ん?」

なぜか少女は不服そうに桐生をにらむ
そして再び桐生の腹部に手を置く

ベアトリス「立っていられるハズがない。もう一度やってあげる」

ドクンッ!!

桐生「うおぉ!?」

再び桐生の全身に衝撃が走る

桐生「」ガクガク

桐生「離せぇぇ!!!」バッ

ベアトリス「……」ムスッ

桐生がドスのきいた声で、少女の手を薙ぎ払う

桐生「ぜぇぜぇ…何なんだ。おまじないどころか嫌がらせじゃねぇか」

ベアトリス「おかしいわね…」

桐生「え?」

ベアトリス「普通なら一回目の時点で気絶してもおかしくないのに」

ベアトリス「二回も体内のマナを徴収したのに。まだ意識があるなんて」

桐生「なんだ。やっぱり嫌がらせじゃねぇか」

ベアトリス「お前が他領からの間者という可能性もあったから、すこし懲らしめておいたのよ」

桐生「間者って…俺は別にこの屋敷を襲うスパイでも何でもない」

ベアトリス「敵意がないのは理解できた。それでチャラで良いじゃない」

ベアトリス「それに体がだるいのだから二度寝には繋がるわ」

ベアトリス「ほら、さっさと部屋に戻りなさい」

桐生「その前にお前がトイレに行かないと俺は部屋に帰れない」

桐生「扉の先の移動場所を変えてるのはお前の魔法なんだろ?ならさっさと用を足してくれ」

ベアトリス「~~~ッ!!いちいち癪にさわる男ね!」

ベアトリス(それにしても…あの小娘の言う通り、体が異常なほど頑丈なのね)

その後、桐生は部屋に戻り二度寝をする

桐生「さて寝るか」

桐生「zzz…」

~~~

一方その頃、現代日本にいる真島もまた昼寝をしようとしてた

真島「おう。帰ったで」

真島(どうにか夢の中だけでも、桐生チャンと会話できんかのう)

真島「俺はいまから仮眠する。起こすなよ」

南・西田「へい」

真島(俺だって異世界ファンタジー満喫したいんや!)

真島「zzz…」

真島「お、桐生チャン…zzz」

~~~

【???】

「おう桐生チャン」

「兄さん…」

「やっぱり生きとったんかワレ」

「……」

「聞いておきたいことは互いに仰山あるだろうけど」

「まずは挨拶しようや」

「ああ、そうだな…俺たち流の挨拶をな」

「いくで…桐生チャァァン!!」

「来い!!」

【異世界・桐生の寝室にて】

レム「お客様はまだ寝てます。姉さま」

ラム「ええ、呑気に寝てるわねレム」

桐生「zzz…」

レム「そろそろ起こしましょうか。姉さま」

ラム「そうね。そろそろ起こしましょう。レム」

水色の髪をしたメイドの少女と、ピンクの髪をしたメイドの少女は、眠る桐生に近づいていく

桐生「zzz…」

レム「お客様、そろそろ起きましs」

桐生「本気でいくぞ!!」

レム・ラム「!?」

突如、眠っていたはずの桐生は大声を張り上げる

桐生「うおぉぉぉああ!!!」

レム「ね、姉さま…お客様の体から青白いオーラが…」

ラム「レ、レム…お客様は魔法が扱えないと聞いていたはずなんだけど」

意気揚々とベットから起き上がる桐生
そしてガウンがはだけ、上半身が露わになる

レム・ラム「」

相変わらず目を瞑ったままだが、全身にオーラを纏いながら、拳を構える

桐生「ふん!ふん!せいやぁぁぁ!!!」

右に左にと拳を振り子に振るう

レム・ラム「」ガタガタ

二人のメイドは部屋の隅で、桐生の奇行に怯え、両手を合わせながら震えるしか出来なかった

コンコン…ガチャッ

エミリア「失礼するわ…カズマその後はどう?」

桐生「オラオラオラオラオラ!!オラァァァ!!!」

レム・ラム「」ガタガタ

エミリア「」

エミリア「ちょっとカズマ!なにやってるの!?」

桐生「そろそろ終わりにしてやる」

桐生「おおおおぉぉぉ!!せいや!!!」

桐生の正拳突きが決まると一瞬、静寂の時間が流れる

桐生「……」

桐生「兄さん」ツーッ

桐生「ああ…黙っていて悪かった。俺は本当は生きていたんだ」

桐生「だが俺にはこの選択しか残されて無かった。大切な物を守る為だ」

桐生「アンタとの決闘もこれで最後だ」

桐生「悪いな」ボロボロ

エミリア「……」

エミリア「もう…仕方ないわね」テクテク

エミリアは立ちながら涙を流す桐生に近づく
そしてそっとハンカチで涙を拭く

エミリア「もう良い加減に起きなさい。お寝坊さん」フキフキ

桐生「……」

桐生「ん?」パチッ

エミリア「あ、やっと起きた」

桐生「……」

桐生「俺は寝ていたハズなんだが。気がついたら半裸で立ち上がり、涙を流し…お前にハンカチで目元を拭いてもらっていて…」

桐生「まるで意味がわからねぇ。一体どういう状況なんだ」

エミリア「それはこっちの台詞よ…もう」

桐生「……うしろで震えている二人は何なんだ?」チラッ

エミリア「ウチの使用人のメイドさん達よ」

レム「姉さま姉さま…お客様は重度の夢遊病患者です」ガタガタ

ラム「レムレム…お客様は重度の露出狂の変態よ」ガタガタ

それから桐生はいつものスーツへ着替え、エミリアと共に庭園へ向かう

桐生「驚いた。凄く広い場所だな」

エミリア「お食事までココでちょっと我慢してね」

桐生「ああ気にするな。あまりお腹も空いてないしな」

ぐぅぅぅ~

桐生「……」

エミリア「ふふふ、おもいっきりお腹が鳴ってるわよ」

桐生(そういえば、昨晩から何も食べてないな)

桐生(まあ正直、いまはゴハンがノドに通りそうも無いが)

桐生「……とりあえず、食事の前の運動でもするか」

桐生「いっちにっ、さんしー」

エミリア「なにをやってるのカズマ?」

桐生「ラジオ体操だ」

エミリア「ラジオ体操ってなに?」

桐生「俺の故郷に伝わる準備運動だ。ムショにいた時も毎日これは欠かさなかった」

エミリア「ムショってなに?故郷の名前?」

桐生「あ…すまん。いまのは聞かなかった事にしてくれ」

エミリア「…?うん」

~~~

桐生「よし、これで終わりだ」

エミリア「うん、たしかにスッキリしたかも」

パック「やあカズマ、おはよう!」

桐生「パックか。おはよう」

エミリア「おはようパック。昨日は無理させてごめんね」

パック「おはようリア。昨日は危うく君を失うところだ。カズマには感謝してもし足りないくらいだね」

パック「何かお礼をしなきゃ」

桐生「……礼などいらない。俺の気まぐれで動いたようなもんだ」

パック「そんな事言わずにさ、何か言ってみなよ」

桐生「それなら今夜にでも俺はこの屋敷を出て行く」

エミリア「え…でも帰る場所ないんでしょ!?」

桐生「エミリア。お前たしか療養していけと俺に言ったな?」

エミリア「え、うん」

桐生「……昨晩、俺が寝てる時に治癒魔法をかけてくれたな?」

エミリア「うん。キズの具合も良くなったでしょ?」

桐生「ああ。見事なまでに傷跡すら無くなっていた」

桐生「それならもう俺はこれ以上、ここにいる理由はない」

エミリア「いいえ。まだココに残る理由ならあるわ」

桐生「なに?」

エミリア「昨晩、『とても悲しい眼をしている』って貴方に言ったわよね?」

桐生「……」

エミリア「貴方は家族の絵をいまでも大切に持っている。それなのに帰る家がない」

エミリア「詳しい事は聞けないけど、カズマはかなり訳ありなんでしょ?」

桐生「……」

パック「そうだね。カズマはもう少しここにいた方がいい」

パック「薄っすらと心が読めるけど…キミはこの状況に混乱していて、更に寂しさのあまり心が押しつぶされかけてる」

パック「眼も闘っている時と違って…光の無い眼をしている」

桐生「なんと言おうが構わない。だが…俺がここに残るのはやはり…」

レム「エミリア様」

エミリア「あ、二人とも。どうしたの?」

ラム「当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうかお屋敷へ」

エミリア「わかったわ。さあカズマ、食事の時間よ」

桐生「……」

【大食堂】

桐生「ここが食堂か。ここも豪華だな」

ベアトリス「……」ジーッ

桐生「お前か…そんなに睨むな」

ベアトリス「ふん」

ロズワール「おんやぁ~?ベアトリスじゃ~ないのぉ。わぁ~たしと、一緒に食事をしてくれる気になったとは嬉しぃ~じゃないのぉ」

ベアトリス「この屋敷はキチガイばかりでイヤになるわ」チラッ

桐生(なにか俺までキチガイ扱いされている気がするな)

桐生「……」

桐生「ん?隣に誰かいるのか…」チラッ

ロズワール「んんん~~??おんやぁ、起きたんだねぇ~」

桐生「うおぉ!?な…何だお前は!」

長身に濃紺の髪、瞳の色は左右が黄色と青のオッドアイ、そして白塗りの化粧をした男が現れる

エミリア「紹介するわカズマ。彼がこの屋敷の当主。ロズワール・L・メイザースよ」

桐生「なに?」

ロズワール「あ~らぁためてぇヨロシク。キリュウカズマくん」

桐生(なんだこの変な口調は)

その後、改めて各自の自己紹介を始める

双子の使用人のメイドは、桃色の髪をした少女がラム、水色の髪をしたのがレム
屋敷の禁書庫を管理し守っている金髪の少女ベアトリス

他にもルグニカ王国の現状や、エミリアが時期王候補の1人だという説明を聞かされる

桐生「そうか。徽章をもっているからそれなりに偉い立場だというのは想像していたが」

エミリア「ごめんね。もっと早く説明すれば良かったかな」

エミリアは手のひらに乗せた徽章を見せる
試金石が王の資格を現すように赤く光っている

桐生「不思議な石だな。今度は取られるなよ」

エミリア「うん。カズマには私にとって恩人、何でも言って」

ロズワール「褒美は想いのまま!さぁ~なんでも望みを言いたまぁ~えぇ!」

桐生「さっきも言ったはずだ。おれは今夜中に出て行く」

ロズワール「あ、あれぇ~??」

エミリア「カズマ…!」

桐生「大体、いまは王を決める跡目争いの真っ最中なんだろ?」

桐生「そこに俺のような男が偶然にも近づく…俺のこと疑っているよな?」

ロズワール「……」

レム「……」

桐生「俺はな、これまで跡目争いに散々巻き込まれてきた。その度にウンザリした…裏切りも散々見てきた」

桐生「素性が良く分からない以上、俺を警戒するのは当然だ」

レム「……」

桐生「言っておくが俺も自分が置かれている状況が良く分かっていない」

桐生「俺は日本にいたのに、なぜこのルグニカ王国にいるのか」

ロズワール「余計な事を言うよぉ~だけどぉ?」

ロズワール「キミィ、相当病んでるね?」

エミリア「あのねロズワール、事情は知らないけどカズマはね、愛する家族や仲間に会えなくなっちゃったの。あんまりその…」

桐生「良いんだ。気を使うな」

ロズワール「朝の一件のも聞いたんだ~よ?キミは夢遊病患者な~んだってぇ~?」

桐生「あんた等にとって俺は、夢遊病の患者以前に、他領の間者じゃないのか?」

ロズワール「……まあ正直、疑いがなぁ~いかと言われたウソになるねぇ~」

桐生「なら出て行ってやる。それで身の潔白を証明する」

レム「……」

レム(そんな事で…)

ロズワール「そう~こまで言うなら止めはしないさ、カズマくん」

桐生「ああ。やっと分かってくれたか」

エミリア「ちょっと待って!」

桐生「……」

エミリア「私はやっぱり…どうしてもカズマに恩返しがしたいの!」

エミリア「眼に光を失ったままの貴方を放っておけない!」

エミリア「せめて明日の夜までいてくれる?」

エミリア「私が…貴方の変わりにお願い事を考えてくるから」

桐生「え?」

エミリア「もう少しだけ、待ってもらえる?」

桐生「……」

桐生「ああ、わかった。明日の夜までな」

レム「……」ギロッ

ロズワール「話はまとまったよ~だねぇ」

桐生「ただしココにいる間…おれはスープしか飲まない」

ラム「お客様、それはどういう事でしょうか」

桐生「ノドに食事が通らない。だからスープだけでいい」

それから桐生は宣言通り夕食も、次の日の朝も昼も、スープだけ飲んで過ごした
日中は庭園で昼寝しつつ感情を整理し、今後の事を考えていた

桐生(……俺がアサガオの園長をやっていた頃なら、元の世界に帰ることを模索してたに違いない)

桐生(だが俺は死んだ事になっている。今さら戻る意味が無い)

桐生(もう二度とアサガオの連中を…遠くで見守る事すら出来なくなった)

桐生(錦や由美、風間の親っさんの墓参りも行けない)

桐生「……何回おんなじことを考えてるんだ。情けない」

桐生「まるで、ばかみたいだぜ…」

桐生「……」

桐生「誰もいないよな…?」キョロキョロ

桐生は周囲を確認すると、やがて1人で歌いだす

エミリア「あ、いたいたカズマ…」

パック「ん?なんか歌ってるよ」

桐生「馬鹿みたい~子供なのね~夢を、追って傷ついて~」

~~~

桐生「どれだけ~強い、お酒で~も~」

桐生「歪まない~思い出が~馬鹿みたい」

桐生「……1曲歌っただけじゃダメだな。あと3曲くらい歌ってみるか」

パチパチパチパチ!

桐生「え?」ビクッ

エミリア「カズマ上手ね!ビックリしちゃった!」

パック「心に染みるね~僕、感動しちゃったよ~!」

エミリア「わたし、音痴だから羨ましいわ」

桐生「」

桐生「お前らいつから?」

エミリア「初めの頃から」

桐生「」

パック「カズマったら顔真っ赤だよ~」

桐生「お前らはどうしたんだ。王選の為の勉強とやらをしてたんじゃ」

エミリア「勉強はひと段落したからきたわ」

エミリア「それよりもね、私ちゃんと考えてきたの…カズマへの恩返し」

桐生「そうか。一応聞いてやる」

エミリア「カズマ、私と…」

エミリア「家族にならない?」

桐生「え」

エミリア「家族よ家族」

エミリア「カズマは…どんな理由か知らないけど、もう二度と家族に会えないんだよね?」

エミリア「だから私でよければ…家族にならない?」

桐生「家族…」

エミリア「あ…でも家族ってなんかおかしいかな?」

エミリア「友達の方が良いかな」

桐生「……」

桐生「ふふ…はははは…」

桐生「ははははは…!」

エミリア「あーっ!笑ってるひどい!一生懸命考えたのに!」

桐生「…………」

桐生「ありがとう」ツーッ

桐生の瞳から一筋の水滴が流れる

桐生「その気持ち、嬉しいぜ」

エミリア「えっと…どっちがいい?家族と友達」

桐生「両方だ。家族であり友達だ」

エミリア「ふふ、カズマったら欲張りね」

エミリア「じゃあ今日からカズマと私は家族であり友達ね!」

エミリア「ただひとつ…困った事があるわ」

桐生「ん?」

エミリア「友達は良いとして…家族と言うのは、役割があるじゃない?」

エミリア「カズマにとって私は、家族では何に入るかな?」

桐生「そうだな……娘?」

パック「ちょっとストーーップ!」

パック「娘だって?父親役はこの僕が担ってるんだよ~!」

桐生「む、そうなのか?」



エミリア「そうよ、それに私はハーフエルフだから…確実にカズマよりも年上だし」

桐生(そうか。場合によっては俺の倍は生きてるんだもんな。見た目は十代だが)

桐生「なら…どうすれば良い…」

エミリア「うーん…どうしよう」

パック「…………」

パック「ハッ!!」

パック(この流れからして)

桐生「どうした?」

パック「あ、あああ、あのねカズマ!僕は、僕はね!キミなら別に構わないと思っているんだ…でも、でも…」

桐生「え?」

パック「カッコいいし、マッチョだし、渋いし、異常なまでに頑丈だし…キミならリアを幸せにしてくれるって信じてる…でも…それでも…」

パック「流石に…ね?まだ出会って間もないんだし…もうちょっと互いを知ってからでも」

桐生「……」

桐生「安心しろ。お前が想像していることは望んでいない」

パック「ほっ…」

エミリア「??」

桐生「その代わり、俺から提案がある」

桐生「エミリア、俺の兄弟になってくれないか?」

エミリア「兄弟?」

桐生「ああ。渡世の兄弟になってほしい」

エミリア「え?トセーノキョーダイ?」

パック「兄弟…そうきたか。まあ構わないけど、その場合…」

桐生「ああ、分かっている」

桐生「パック、お願いがある」

桐生「俺の…渡世の親になってほしい」

パック「……」

パック「良いよ。なってあげる」

パック「ただし、僕は娘をひいきするけど良いよね?」

桐生「構わない」

エミリア「えへへ、じゃあこれからもウチにいてくれる?」

桐生「ああ、勿論だ」

桐生「……じゃあ、早速。盃をかわすか」

【数時間後・庭園にて】

ラム・レム「お待たせしましたエミリア様」

ベアトリス「なんで私まで…」

エミリア「ありがとう二人とも」

ロズワール「なにやら面白~いことをはじめ~ると、聞いてきちゃったんだぁ~よ」

エミリア「これはロズワールにとっても重要な話だから、よく見ていてね」

ロズワール「いったいどぉ~んな余興がはじまるのか~なエミリア様?」

エミリア「いまから私とカズマは、トセーノキョーダイになるの!その為の儀式よ!」

ロズワール「ん?んん?トセーノキョーダイ?」

桐生「ええっと…レムと言ったか、酒を持ってきたか?」

レム「はいお客様。こちら白ワインですが」

桐生「構わない。ラム、スープ用の皿は?」

ラム「はいお客様。スープ用の皿よ…でも、ワイングラスじゃなくて良いの?」

桐生「俺の故郷ではワイングラスで盃は交わさない。スープ用の皿が一番形として近い」

桐生「ほらエミリア、盃を出すんだ」

エミリア「うん!」

エミリアは両手に皿を持って、そっと差し出す
そしてゆっくりと白ワインを盃モドキに入れていく

桐生「次はお前が俺の盃に酒を入れてくれ」

エミリア「はい!」

コポポポ…

桐生「……よし。準備はできた」

二人は正座して向かい合う

桐生「まあ本来の作法とはちょっと違うが…コレでいいだろう」スッ

エミリア「ええっと…こう?」スッ

桐生の腕とエミリアの腕が、互いに交差する
そして互いの持っている盃を、唇へと持っていく

エミリア「んく」ゴクゴク

桐生「ん…」ゴクゴク

エミリア「……んく。これで終わり?」

桐生「ああ、これで俺とお前は」

桐生「渡世の兄弟だ」

エミリア「ええ。これで私たちは家族…トセーノキョーダイよ」

桐生「次はパックだな」

パック「うん」

パックも正座してキリュウに向き合う

桐生「しかし驚きだぜ、まさか巨大化できるとはな」

現在のパックの身長は、元の手のひらサイズではなく、2m近い物に変身している

パック「ふっふっふっ、その気になればもっとデカくなれるよ!」

桐生「さて、もう盃には酒を入れた。あとは交わすだけだ」

パック「……カズマ」

桐生「ん?」

パック「僕の息子となる以上、キミの身にもしもの事があったら」

パック「僕はその相手に対し、ケジメつけさせるから」

桐生「そうか。親分らしいな」

パック「ただし、僕はさっきも言ったように、エミリア贔屓だから」

パック「キミが娘を守り切れなかったら、ぼく~怒っちゃうからね~?世界が滅亡しちゃうかもよ~?」ニッコリ

そういって可愛らしい顔で、ウインクを桐生に送るパック

桐生「フン。世界を滅ぼすって…なかなか面白い冗談を言うんだな」

桐生「だが約束は守る。もしも兄弟を守り抜く事ができなかったら」

桐生「きっちりケジメをつける」

そういうと同時に、パックと桐生は手に持たれた盃を一気に口へ運んでいく

パック「んく」ゴクゴク

桐生「ん…」ゴクゴク

パック「……ヨロシク、わが息子よ」

桐生「ああ、ヨロシクなパックの親父」

エミリア「ふふふ、家族が増えたわねパック!」

パック「うん!」

桐生「家名は精霊一家で良いか?」

エミリア「…?うん、良いんじゃない?」

エミリア(なんだろう…改めて家名って。ま、いっか)

ロズワール「ええっと…要するにぃ~?カズマくんはやっぱり出~て行かないという事にな~るのかぁ~な?」

桐生「ああ。昨日あんたは俺に何でも望みを言ってくれと言ったな?」

桐生「もしアンタさえ良ければ…この俺を雇って欲しい」

ロズワール「ふむ、たーった1日でぇ、随分とぉ心境がかわったんだぁ~ね」

ロズワール「言っておくけどぉ~?キミに対して、疑いが晴れてるわぁ~けじゃないよぉ?」

桐生「構わん。俺はこの屋敷に渡世の義理を尽くす」

桐生「俺が間者でないことは、今度の動きをみて判断してくれ」

ロズワール「ふふふ、キミはほんと~にぃ、面白い男だぁ~ね」

ロズワール「二人とも、明日から彼の面倒をみてくれたま~え」

ラム・レム「はい。かしこまりましたロズワール様」

レム「……」

レム(何が…兄弟)ギロッ

今日はここまで

【次の日】

桐生はメイド二人、エミリアとともに仕事着を選んでいた

桐生(仕事の服を着たのは良いが…)ググッ

桐生「きつ過ぎる…!」ミチミチ

エミリア「他にないのかしら?」

ラム「それが一番大きめのサイズです」

レム「おかしいですね…身長180越えのサイズなのに」

ラム「肩幅と胸板が無駄に広いからじゃないかしら?」

桐生「う、動き辛いぜ」

ブチン、ブチン

桐生「……」

仕事着のボタンが幾つか弾けて、薄っすらと上半身が露わになる

ラム「あなたって本当に脱ぎたがりなのね。そんなに筋肉自慢したいの?」

桐生「いや、そういう訳じゃ…」

レム「仕方ありませんね。少々、見苦しいかもしれませんが」

レム「カズマさんの私服は幸いにも背広です。そのままの格好で仕事をしてもらいましょう」

レム「もっとも、背広が灰色にシャツが赤色と珍奇な色合いですが」

桐生「俺の背広にケチをつけないでほしい。気に入っているんだ」

桐生「大体、俺の地元じゃ似たような格好した奴らがゴロゴロいる」

ラム「ブツブツ言っていないで、ついてきなさい。館内の案内をするわ」

館の案内を終え、掃除や選択、料理といった仕事に取り掛かる

【調理室】

桐生「……」シャリシャリ

包丁でジャガイモの皮を剥いていく

ラム「あら、意外と器用なのね」

桐生「料理は毎日やってたからな」

ラム「ふーん。見かけによらず」

桐生「……」

レム「……」ギロッ

桐生(ん?)

レム「……」プイッ

桐生「……」

~~~

ラム「さあ次は庭の手入れよ」

桐生「くっ…なかなか難しい」

桐生(冴島ならこういうの得意なんだろうな…)

ラム「流石に庭の手入れには苦戦しているようね」

桐生「……なあ、余計な事を言うかも知れないが。お前、適当にやってないか?」

ラム「適当じゃないわ。私は精一杯、一生懸命にやっているわ」

桐生(いや嘘だな。コイツ、意図的に手を抜いている)

ラム「それにレムという優秀な妹がいるおかげで、手入れは問題ないわ」

桐生「もう少し頑張ったらどうだ」

ラム「先輩に文句言ってる暇があるなら、少しでも技術を磨きなさい」

桐生「はぁぁ…まあ立場上、先輩ではあるが」

レム「……」ジッ

桐生「ん?」

レム「……」ギロッ

桐生「おい、さっきからジロジロと何だ?」

レム「」ビクッ

桐生はさり気に聞いたつもりだが、その身長差からか、レムには妙に威圧的に伝わってしまう

ラム「こらバルス。レムは別に貴方に喧嘩を売っている訳では無いわ…ね?レム」

レム「え、ええ…その、ちょっと」

レム「えと…」

桐生「……」

ラム「……レムは貴方の髪型が気になったのよ。少し髪の量が多くて、ね?」

レム「はい。少々もっさりした感じがしました」

桐生「……そう言われてみれば、最近髪を切っていなかったな」

ラム「今度、切ってあげたら?レムがその気であればの話だけど」

桐生「いや、そういうわけには」

レム「良いですよ。今度カズマさんの髪を切ってあげます」

桐生「そうか。すまないな」

レム「……」ギロッ

ラム「次はこの部屋を掃除しなさい」

桐生「わかった」

桐生「……」フキフキ

桐生は丁寧に雑巾で窓やら机を拭いていく

ラム「……」

ラム「つまらないわ」

桐生「え?」

ラム「料理も洗濯も掃除も…全てにおいて、新人とは思えない位、そつなくこなし過ぎているわ」

桐生「そんな事はない。備品の場所や、館内の部屋を完全に把握していない。庭の手入れも全然だ」

ラム「バルスは何を聞いていたの?つまらないと言ったのよ…あまりに仕事が出来すぎて」

ラム「これじゃいじりがい無いじゃない」

桐生「フン、仕事に慣れない新人をいびろうとでも思ってたのか?」

ラム「……何か面白いことをしなさい」

桐生「え?」

ラム「なにか面白いことよ…そうね、一発芸でも良いわ」

桐生「おいおい、いきなりそんな事言われてもな」

レム「姉さま、いまは掃除中なので」

レム「ロズワール様の夕食時に余興として、やってもらうのはどうでしょう?」

ラム「それは良い提案ねレム。バルスは今日の夕食時に、ロズワール様に一発芸を披露しなさい」

桐生「…………」

ラム「バルス、返事は?」

桐生「はぁぁ…分かった」

【大浴場】

桐生「ふぅぅ…いい湯だ」

ロズワール「一緒に入ってもい~かなぁ~あ?」

桐生「ロズワール…ここはアンタの館だ。俺がどうこう言う資格は無い」

ロズワール「では失礼」

桐生「……」

ロズワール「しっかぁ~しキミは、本当に寡黙だね」

桐生「そうか」

ロズワール「ラムやレムとは上手くやっているか~なぁ?」

桐生「二人からは色んなことを教わっている。感謝もしている」

桐生「ラムとは気兼ねなく話せるが…レムがどうも、まだ俺を妙な目線で見ている気がする」

ロズワール「まあキミは、ここに来たばかりだ~し?仕方ないね」

桐生「……姉のラムはどこか仕事に手を抜いている。上手く立ち回ってはいるが」

ロズワール「なぁ~に、足りない部分はレムが補う。姉妹なんだから助け合わなくちゃ。そういう意味ではあの二人は実によくやっている」

桐生「……」

ロズワール「それよりも、キミの傷跡はキレイに消えたようだね~え」

桐生「ああ、エミリアが癒してくれたようだ」

ロズワール「いんやぁ?その傷跡を消してくれたのはベアトリスだと思うけどねぇ~え?」

桐生「え?」

ロズワール「応急処置はエミリア様がしてくれて、最後の仕上げはベアトリスが癒してくれたんだと思うよ」

ロズワール「かなりひど~い傷だと聞いていたしねぇ~え。傷跡を根本的に消すなんて、ベアトリスかあの精霊くらいしかいないと思うんだぁ~よ」

桐生「そうか。後で礼を言わないとな…ウザがられそうだが」

ロズワール「まあ何にせよ、元気が出てきたようで何よりだ~よぉ」

ロズワール「眼に光りも出てきたしねぇ」


ロズワール「それにしてもぉ~?凄い筋肉だねぇ」

桐生「あんたも痩せてる印象が強かったが、割と筋肉質なんだな」

ロズワール「ところで、その背中の彫り物は?」

桐生「ああ、これは俺の故郷では入れ墨という。見てのとおり龍だ」

ロズワール「……龍?」

桐生「ああ」

ロズワール「これがぁ?」

桐生「そういえばこの世界…いやこの国の龍は西洋系のイメージが強いんだったな」

桐生「俺の故郷ではこういう形の龍が、伝説上として伝えられている」

ロズワール「ふーん。不思議なもんだ~ねぇ」

ロズワール「で、キミは龍が好きなのかい?」

桐生「ああ。好きだな」

ロズワール「…………………」

桐生「どうした?」

ロズワール「いや、なんでも」

【夕食の時間にて】

ロズワールとエミリアが食卓の前に座ると、二人に食事を差し出す
メイドの姉妹と桐生は、ロズワールの横に立つ

ロズワール「ベアトリスがいないのは残念だ~ねぇ、でも今日も実にいい味だね」

ラム「ありがとうございますロズワール様」

レム「恐悦至極に存じますロズワール様」

桐生(……ほとんどの仕事はレムが頑張っていた気がするが)

桐生(さて、この後はラムに言われたとおり一発芸を披露しないとな)

ラム「ロズワール様、実はこのあと新入りが一発芸を披露してくれます」

ロズワール「ほう、そぉ~れ実に楽しみだぁ~ね」

ラム「さあバルス。この場にいる全員を楽しませなさい」

桐生(何をすれば良いんだ。ゆるキャラのモノマネなんてこの世界でやっても通用しないしな。困った)

桐生「……」

ラム「ちょっとバルス。まさか何も考えてこなかったんじゃ」ボソッ

桐生「いや、その…考えてはいたんだが」フイッ

エミリア「……」

エミリア「あ、そういえば!カズマって歌すごく上手だったよね!」

桐生「え?」

ラム「それは初耳ねレム」

レム「それは興味深いです姉さま」

ロズワール「ではカズマくん。さっそく得意の歌をワ~タシに聞かせておくれ」

エミリアは桐生にウインクを送ると、桐生は黙って頷く

桐生(やれやれ、エミリアに救われたぜ。一発芸とは少し違うが結果オーライだ)

桐生「よし…じゃあそうだな。俺の故郷の歌を」

桐生「これは俺が二十歳の頃に幼馴染とさんざん歌った曲だ」

桐生「曲名は『JUDGEMENT』」

そういうと桐生はスマホを取りだす

桐生(予備バッテリーに差し込めば…まだいけるよな)ガチャッ

そしてスマホから音楽が流れる

ラム・レム「!?」

ロズワール「これは…」

エミリア「なにこれ!?音楽が流れてる不思議…」

エミリア「もしかしてこれってミーティアかしら」

桐生「ミーティア?」

エミリア「魔法が扱えない人でも、魔法を起こす事ができる道具の事よ…しらないの?」

桐生「しらなかったが…まあある意味、これは魔法の道具みたいなもんだ」

桐生「さあいくぜ。合いの手を頼む」

~~~

パチパチパチ!

エミリア「やっぱりカズマは上手いわ!」

ロズワール「すぅ~ばらしいじゃぁないか!もう一曲お願いしてもいいかなぁ?」

桐生「仕方ねぇな。今度は控えめな曲でいこう」

桐生「聞いてくれ。『神室雪月花』だ」

その後もアンコールは続き、桐生はあらゆる曲を30分ほど歌わされた

【夜・寝室】

一日の仕事を終えた後、ラムの勧めで桐生は読み書きの勉強をしていた

桐生「すまないな、夜遅くまで付き合ってもらって」

ラム「いいえ。貴方が読み書きできないのは見ていて分かったから」

ラム「むしろ、早く読み書きが出来て貰わないと、レムの苦労が増えて、さらに私がラクできないじゃない」

桐生「フン。お前はビックリするほど正直なんだな」

ラム「それも私の美点よ」

桐生「……」カキカキ

桐生「ん?」

ラムから渡された、教材代わりの童話を読んでいて桐生はあることに気付く

桐生「この国はやたらと龍との接点が多いんだな」

ラム「まあ、国が親竜ルグニカ王国なんて呼ばれてる位だし」

桐生「俺の人生にはつくづく龍との接点が多い」

ラム「そういえばバルスが服脱いだときに、背中に彫り物があったけど…あれ何なの?」

桐生「あれは俺の故郷に伝わる龍の一種だ」

ラム「そうなの?変わった龍ね」

桐生「お前らからすればな…それよりもなぜ俺のあだ名がバルスなんだ?」

桐生(昔、錦と見たアニメの映画にそんな単語があったような気もするが…この国には映画なんてないしな)

ラム「なんとなくよ、気にしないで」

桐生「……」

ラム「それとも呼んで欲しいあだ名とかあるの?」

桐生「特にない」

ラム「なにかあだ名があれば考えるけど。昔はどんな風に呼ばれてたの?」

桐生「うーん…堂島の龍、四代目、桐生チャン、カズマくん、アニキ、おじさん…他に何があったかな」

ラム「ドージマノリューと四代目って言うのが色々気になるけど」

桐生「まあ、好きに呼んでくれ」

ラム「じゃあバルスで」

桐生「そのバルスってのにはこだわるんだな」

【数時間後】

ラム「zzz…」

ラム「ん?」

桐生「……」

寝ていたラムが眼を覚ますと、視界に桐生がうつる

ラム「……私をお姫様だっこなんかして、なんのつもり?」

桐生「お前が人のベットで寝てたから寝室へ送っていたところだ」

ラム「そう」

桐生「さあついたぞ」

そういって桐生はゆっくりとラムを下ろす
そして、ポンッとラムの頭に手を置く

ラム「!?」

桐生「今日はありがとう。おやすみ」

ラム「」

桐生「ん、どうした」

ラム「あ、えと…」フイッ

桐生「すまない。馴れ馴れしかったか?」

ラム「……いえ。すこし懐かしい気持ちになったわ」

ラム(ロズワール様とは違う意味で安心する感覚。亡き両親を思い出すわ)

桐生「懐かしい…そうか」

ラム「おやすみ。バルス」

桐生「ああ」

レム「……」

桐生「お、いたのかレム」

レム「……はい。おやすみなさいカズマさん」

桐生「ああ、おやすみ」ポンッ

レム「」ビクッ

レム(私にまで頭を…)

桐生「また明日な」

レム「はい」

【次の日・アーラム村】

子供達「キャッキャ!」

桐生「はははは」

ペトラ「えへへ。キリュウのおじさん、また遊びに来てね」ダキッ

桐生「ああ。また来るさ」

レム「……」

レム(とても優しい顔をしている。口調もいつもより穏やか)

桐生「じゃあなお前ら」

そういって桐生は、青い髪の女の子が抱きかかえている、子犬の頭をそっと撫でようとする

子犬「ウゥ~…ガウッ!!」

ガブッ

桐生「……」

子供「あははは、嚙まれてやんの」

桐生「こらこら笑うな」

レム「大丈夫ですかカズマさん」

桐生「問題ない。放っておけば治るさ」

レム「……買い物も終わりましたので帰りましょう」

~~

レム「子供達に大人気でしたね」

桐生「ああ。とても懐かしい気持ちになった」

レム「懐かしい?」

桐生「家族の事を思い出してな」

レム「家族って…ああ、もしかしてあの絵に描かれた子供達?」

桐生「そうだ。前は孤児院で働いててな」

レム「孤児院…いまは辞めてしまったのですか?」

桐生「ああ。訳あってな…もう二度と戻れない」

レム「なにか悪いことでもしたんですか?」

桐生「……いや、そういう訳ではない」

桐生「とにかく俺がいなくならないと、仲間と家族に、被害が及ぶ可能性があった」

桐生「会いたいのは山々なんだがな」

レム「……」

【その晩・寝室】

エミリア「今日は私がカズマの勉強を見てあげるね」

桐生「忙しいのに悪いな」

エミリア「ううん。カズマは家族であり兄弟。これくらい当然なんだから」

桐生「……」カキカキ

エミリア「ふふふ」

桐生「どうした?」

エミリア「カズマ、すっかり元気になったわね」

桐生「そうみえるか?」

エミリア「ええ。やっと眼に光が戻った」

桐生「お前のおかげだエミリア。感謝している」

~~~

エミリア「今日はこれ位にしておきましょう」

桐生「ああ、さすがに眠くなってきた」

桐生「うっ」クラッ

エミリア「どうしたの?」

桐生「いや何でもない」

~~~

エミリアが退室したあと、桐生は就寝しようとベットに横になるが、息が徐々に荒くなっていった

桐生「ぜぇぜぇ…な、なんだ…熱か?」

桐生「日中は問題なかったはずだが…何なんだこれは…」

発汗と吐き気、そして全身の寒気が桐生を襲う

コンコン

桐生「……?」

ラム「入るわよ」ガチャッ

ラム「寝る前に挨拶に来たわ」

桐生「そうか…悪いな…」

ラム「ん?バルス…体調悪いのかしら」

桐生「あ、ああ…ついさっき、いきなり来てな」

ラム「……」

レム「姉さま?カズマさんの部屋で何を」

ラム「レム大変よ。バルスが体調悪そうなのよ」

レム「え、夕食の時まではあんなに元気だったのに」

桐生「ああ…何故かしらないが、急にな」

レム「ひとまず濡れたタオルをお持ちします」

桐生「あ、ああ…頼む…」

レムは小走りで廊下へと向かう。そして残ったラムは桐生を心配そうに見つめる

ラム「……」

ラム「本当はまた頭を撫でてもらおうと思ってきたの」

桐生「そうか…悪いなこんな状況で」

ラム「……」ギュッ

ラムはそっと桐生の、熱で汗ばんだ大きな手を握る

桐生「……」

ラム「気休めだけど、ちゃんと見守ってるから」

桐生「ありがとう」

レム「」

ラム「あらレム、もうタオルをもってきたのね」

レム「え?はい」

固まった表情をして立ち尽くしていたレムは、ラムに呼ばれ我に返る
そして桐生の側へ小走りして、そっと濡れたタオルを額に置く

桐生「ありがとう…ぐっ!ぅぅ…あぁ…」ガクガク

ラム「体調がどんどん悪化してるわね」

レム「……」

レム「気休めかもしれませんが、私も…」ギュッ

ラムとは反対側の位置に立ち、桐生のもう片方の手を握るレム

ラム「これは明日の仕事は休みね」

桐生「大丈夫だ…この程度で俺が…」ガクガク

ラム「そんなに体調が悪い状態で、館を歩き回られてもかえって迷惑よ」

桐生「……」

ラム「無事に寝ることが出来るまで一緒にいてあげるわ。バルス」

桐生「すまない」

~~

それから暫くして、桐生は苦しみながらも、二人に見守られながら眠りについた

桐生「zzz…ぅ…ぅぅ…」

ラム「まだ苦しそうだけど、眠りについたようねレム」

レム「はい姉さま」

ラム「私達も戻りましょう」

レム「はい」

【深夜・館の廊下にて】

レム「……」

レムは部屋に戻った振りをしていて、いまだにメイド服を着たまま館内を歩いていた

レム「……」

ただ先ほどと一つだけ違う点は、その手にモーニングスターという凶器を所持している事であった

ジャララ…ジャララ…

鎖の音が不気味に廊下に響く

レム(エミリア様だけでなく…あの姉様まで、カズマさんに気を許しかけている…)

レム(姉さまが…姉さまが…)プルプル

レムは全身を震わせている
そしてモーニングスターの取っ手をギリッと力強く握り締める

レム(姉様への問題だけじゃない。このままだとロズワール様やエミリア様にも被害が…)

レム「……」

レム(でも彼が。キリュウカズマが悪い男には見えない)

レム(見た目はともかく、彼は本当に真面目だし…優しさもある)

レム「……」ブンブン

レムは目を瞑りつつ頭を左右に振る

レム「情に流されてはダメ。あの男からは『魔女の残り香』がする。魔女教関係者なのは間違いない」

【桐生の寝室】

ガチャッ

レム「……」

桐生「うぅぅ…zzz…ぐっ…」ガクガク

レム「寝苦しそうですねカズマさん」

レム「でもご安心を。いまラクにしてあげますから」

ジャララ…ゴロッ

鎖とトゲのついた鉄球が転がる音が部屋に響く

レム「これ以上、あなたと関っていると情が移ってしまいます。だから悪く思わないで」

レム「噂だとずいぶん頑丈なようなので、一思いに、一気につぶして上げます…その頭を」

桐生「zzz…ぅぅ…」

レム「でやぁぁぁ!!!」ブンッ

ゴォォォン!!!

レムは力を込めて投げつける
そしてトゲのついた大きな鉄球は、桐生の顔面に直撃する

それと同時に桐生のベットも粉々になる

レム「……」

レム「さて、ミンチになったカズマさんの遺体はどうしましょう」

レム「燃やして山に埋めるのが一番でしょうか」

桐生「……」ムクッ

レム「!?」

レムが後処理について考えていると、血だらけとなった桐生が黙って立ち上がる

桐生「この館には随分と、過激なモーニングコールがあるんだな」

レム「ばかな…」

桐生「誰だ?この俺に闇討ちをしかけた輩は」

レム「……」ギリッ

桐生「な…おまえは…」

レム「この死に損ないが!!」ブンッ

桐生「……」ブンッ

ゴォン…ボォォォン!!!

飛んできたトゲのついた鉄球を、手の甲で力強く薙ぎ払う
その勢いで鉄球は壁にめり込む

レム「なっ!?」

桐生「レム、何故だ。何故俺を襲う」

レム「疑わしきは罰せよ。メイドとしての心得です」

桐生「ラムは闇討ちの件、知ってるのか?」

レム「姉さまに見られる前に終わらせます」

桐生「俺がそんなに怪しいか?」

レム「そんなに魔女の臭いを漂わせてよく言いますね」

桐生「……何を言っている。意味が分からない」

レム「姉さまがお前と親しげに話す姿を見ていた時…私は不安と怒りでどうにかなりそうでした」

レム「姉さまの振る舞いが『演技』とはいえ、姉さまが情に流されつつあるのは目に見えてわかった」

桐生「……」

レム「これ以上、この館では好きにさせない」

桐生「俺はお前を傷付けたくない」

桐生(あのエルザの時とは違う。コイツが気狂いには見えない)

レム「そうやって優しいフリして、エミリア様や姉さまを騙し続けてきたのですよね?これも作戦なんですよね!?」

桐生「レム…もう一度言う。俺はお前を傷つけたくない」

レム「一生言ってなさい!!」

ビュンッ…ズバッ!ズバッ!

桐生「ぐぅ!!」

レムは風の魔法を使う
鋭い刃物のような切れ味で、かまいたちは桐生の体を切り裂いていき、部屋中を血に染めていく

桐生「痛ぇ…」

レム「おかしい…おかしいおかしい」

レムは信じられないといった様子で、首を横に左右に振る

レム「手足が吹き飛ぶように攻撃したのに…!」

桐生「この俺をミンチにでもする気だったのか?だったら諦めるんだな」

桐生「うっ…」ガクッ

レム「でも、傷は深刻なようですね」

レム「そうじゃなくても熱で体が上手く動かないのに」

レム「諦めて死んだ方が身のためかと」

桐生「ぜぇぜぇ…」

桐生はダメージと熱で、全身がボロボロだった
しかし尚も倒れず、しっかりとレムを見つめる

桐生「俺は…死ぬ訳にはいかない」

桐生「例え保険が残ってたとしてもな」

レム「保険?」

桐生「エミリアと兄弟の盃を交わしたんだ…その約束を無にしたくない」

レム「何が兄弟…!」ギリッ

桐生「本当は殴りたくないが…悪く思うなよ」グッ

桐生は拳を構える

レム「死ね、魔女教の使者!!」

壁にめり込んでいた鉄球が引き戻され、再び桐生にめがけて飛んでくる

桐生「ぜぇぜぇ…悪く思うなよ」

 VSロズワール家使用人・レム

今日はここまで

投下します

今回投下分はバトルが8割
そして残り2割が、一足早い衝撃シーンの場面(リゼロ読んでる人は分かると思う)

桐生は飛んできた鉄球を、斜め後方にスウェーしながら避けきる

桐生「……」スッ

壁に激突した鉄球で、室内に広がる轟音
その音が鳴り止まないウチに、桐生は一気にレムの懐まで向かう

レム「っ!」

桐生「……」ガシッ

レム「くっ…」ズズッ

レムの肩を右手で掴み、そのまま壁まで強引に押していく
壁に張り付けられると、ドンッと低い音が響く

桐生「オンラァァ!!!」

ズドォォン!!
ミシミシ…ボォォン…!

桐生の左拳が、レムの右頬にかする
背後の壁は轟音とともに崩れ、大きな穴を開けていく

レム(人間がただの腕力だけで、こんな大きな穴を…!)ビクッ

チラッと背後を確認するレムは、思わず背筋に寒気がした

桐生「レム、分かってくれ。俺は間者ではない」

桐生「それに俺のどこが魔女なんだ。意味のわからない事を言わないで欲しい」

レム「とぼけるな!レムにはわかる…お前から漂う魔女の臭いが…!!」

ズドォォン!

桐生「ぐっ…!!」

小さな体から繰り出される一発のキックで、桐生は一気に部屋の反対側の壁まで吹き飛ばされる
再び粉々になったベッドの上で、起き上がるハメになる

桐生「な…なんだコレは…とても年頃の女の力とは思えないぜ…ゴハッ!」

ドバッと吐血し、足をガクガクさせながらも、どうにか膝をつかずにいる

レム「メイドから冥土への土産として教えておきます…レムは鬼です」

レム「でやぁぁ!!」

ゴォォン!

桐生「微妙にスキがあるぜ、その攻撃手段は」

鉄球を投げつけるが、桐生はサッと避け切る
そしてモーニングスターの鎖をグイッと、自分の方へと引っ張る

桐生「オラァ、コッチ来い!」グイッ

レム「うっ…!」

レムは武器の取っ手に、体ごと桐生のほうへと持っていかれる

桐生「フン!!」

ズドォン!

レム「ぐっ!」

桐生の拳がレムの腹部にめり込む
それと同時にガクッと膝を崩すレム

レム(な、なんて力を…!)

桐生「……っ」

苦悶の表情を浮かべながらも、ギロッと桐生をにらみつけるレム
だがレムの目に映った桐生は、非情に申し訳なさそうにコチラを見ていた

桐生「レム、やはりこんな闘いは止めにすべきだ。何も良い事なんてない」

桐生「俺は患者ではない。本当だ」

レム「だから…そんな演技は!」

ボゴォォン!!

レムのキックが桐生の腹部に炸裂する

桐生「ぐっ…」

レム「レムには!!通用しない!!!」

背後の壁が崩壊し、そのまま隣の部屋に飛ばされる

桐生「やめるんだレム。この闘いには何の意味も」

レム「黙れぇぇぇ!!!」

追撃をやめないレム
倒れている桐生の頭部をわしづかみし、そのまま床に叩きつける

桐生「ぐぅぅ…!」

更に馬乗りになり

レム「死ね!死ね!死ね!」

ズドォン!ズドォン!ズドォン!ズドォン!

桐生の顔面を左右の拳で何度も打ちのめす

レム「故郷の家族が恋しいだと…?馬鹿にするな」

レム「レムと姉さまへの当て付けか!?両親を返せ!!!」

ズドォン!ズドォン!ズドォン!ズドォン!
ミシミシ…ボォォン!!

床に大きなひび割れが生じ、やがてぶ厚い床を粉々に砕く
そのまま二人は下の階の部屋へと落ちていく

レム「ふぅふぅ…!」シュタッ

桐生「ぐぅぅ…」ドガッ

二人はバラけるように距離を置いて着地する

無事に着地したレムはしかさず追撃していく

桐生「この…いい加減、頭を冷やせ!」ガシッ

着地し損ねた桐生はすかさず、背後にあったダブルベッドを強引に持ち上げ

桐生「オンラァァ!!」

ボゴォォン!!!

レム「っ!?」

ダブルベッドをブレーンバスターし、そのままレムに叩きつける

桐生「……っ」ビクッ

良心が痛み体が震える
割れたベッドへと近寄り、腰を下ろし様子を見る

桐生(大丈夫か…?)

ビュン!ビュン!

桐生「うおぉぉ!?」

突如、破壊されたベッドの中から、かまいたちが飛んでくる
それに直撃した桐生は、体に切り傷を負いながら、後方へ吹き飛ばされる

レム「この魔法で何故、体がバラバラにならないのか…理解できませんが」

レム「体力は限界を超えているはずです。ましてそれだけ高熱だしていて、今も生きていられるのがおかしいくらいです」

桐生「ぜぇぜぇ…」

レム「……」ダダッ

棒立ちの桐生に、レムは全力疾走で立ち向かう
そして飛び跳ねたレムは、足をしっかり伸ばし

桐生「ぐぅぅ!!」

とび蹴りを仕掛ける

バリィィン!!

吹き飛んだ桐生の体は窓ガラスに直撃する
桐生の体は、粉々になった窓ガラスと共に、外の庭へと落下していく

だがレムの追撃は終わらない

レム「お前が異常なまでに頑丈なのは、この闘いを通して改めて理解した」

レム「ミンチになるまでレムは、追撃を止めない」ダダッ

落下してゆく桐生を追うように、レムも外へ飛び出していく

空中の状態でレムは、モーニングスターの鉄球を、桐生にめがけて投げ飛ばす

レム「死ねぇぇ!!!」

桐生「……いい加減しつこいぜ、お前」ガシッ

飛んできた鉄球を、片手で掴み、腹部で抑え込む
腹部と手の平がトゲで出血を起こすが、桐生にはこの程度では致命傷にはならない

桐生「悪く思うなよ」

空いてるもう片方の手で、ガシッと鎖を掴み引っ張る

レム「なっ!?」

桐生「オラァァ!!」ブンッ

ボゴォォン!

鎖を動かしてレムごと、地上へ叩きつける

レム「ぐっはぁぁ…!!」

レムが地上へ激しく叩きつけられた、ほんの数秒後に、桐生も無事に着地する

~~~

桐生「ぜぇぜぇ、喧嘩は終わりだレム」

レム「終わり…ですって?」ムクッ

レム「生憎、打たれ強いのはレムも一緒なので」

桐生「ああ…驚きだ。凄すぎるぜ、お前」

桐生「このままだと、俺は本気で死んでしまう」

桐生「だから」

ミシミシ…ビキビキ…

突如、モーニングスターの鉄球が、鈍い音を立てる

ボゴォォン

その鉄球は、桐生の手の平の中で粉々に破壊されていく

桐生「こんな無粋な物を使うのは、もう止めろ」

レム「な…!?」

桐生「お前はさっき、自らを鬼と例えたな?」

桐生「なら俺は……龍だ。魔女なんかじゃねぇ」バッ

ボロボロになった血濡れの寝巻きを脱ぎ、その背中の龍を露わにする
血濡れの上着は無造作に地に落ちる

レム「お前と違って例えじゃない。レムは鬼だ…!」

ゴゴゴゴ…

桐生「なに!?」

突如、レムの頭部から光を帯びた一本の角が生える

桐生「角だと…」

そのままレムは桐生の方へと走っていく

桐生「本当に鬼だったのか…!」

レム「うあぁぁぁ!!!!」

猛ダッシュして、桐生の顔面に目掛けて、勢いよくパンチを仕掛ける

桐生「フン!!」

ズドォォン!!!

桐生の右拳と、レムの左拳が、交差するように激突する
その瞬間、小さな衝撃波が庭に、波紋の様に広がる

レム「うあぁぁ…うあぁぁぁぁぁ!!!!」

猛攻は止まらない
レムは目にも留まらぬ勢いで左右交互に、拳を桐生の全身に叩き込んでいく

桐生「ぐふ…!!」

桐生(さっきよりも段違いでパワーアップしてやがる…!)

桐生「なら…俺も力をあげないと。力負けしてしまう」

桐生「うおぉぉああ!!」ゴゴゴッ

桐生の全身が青白いオーラで包まれる
しかし熱で衰弱しているゆえか、いつもよりその光は弱々しい物だった

桐生「いまいち上手く調子がでないぜ…だが、負けられない」

レム「ああああ!!うあぁぁぁぁぁ!!!!」

桐生「いくぞ!オラオラオラ!オンラァァァァァ!!!」

ズドォン!!ズドォン!!ズドォン!!

レムと桐生のパンチは、腕が互いに交差するように、拳がぶつかり合う
何度も何度も、轟音を立てながら

ズドォン!!ズドォン!!ズドォン!!

あまりに激しい拳のぶつかり合いは、両者の拳から出血を起こすほどに至る

桐生(まずい…このままだと、俺の拳が破壊されてしまう)

レム「うああああああ!!!!」

桐生(レムの拳もまた壊れてしまう)

桐生「フン!!」ガシッ

レム「……!!」

桐生はギリギリのところで、自らの両手で、レムの両方の拳を抑える

桐生「このままだと互いに壊れてしまう。俺はともかく…お前にはまだ先がある」

桐生「もう充分だろ?俺はもうボロボロだ」

レム「離せぇぇ!!!」

桐生「ぐあ…!!」

両手を抑えられたレムは、桐生の腹部にキックをお見舞いする
そのまま後方へと飛ばされる

レム「はぁはぁ…!!」ギロッ

桐生「うっ…ぐぅぅ…」ガクッ

桐生(まずい…本当に死んでしまう…)スッ

防衛本能が動いたのか、寝巻きのズボンに差していた、ドスを取り出す

桐生「……っ」

だが桐生はドスの鞘を引き抜くのに戸惑ってしまう

桐生「……」

レム「うああああ!!!!」

桐生(力は人外そのものだが…こうやってみると本当に小さいし、顔つきもまだ幼い)

桐生(遥にもあんな小さな時代があった。いや遥だけじゃない…他の奴らだって)

桐生(俺にはやはり…あんな小さなガキを、年頃の女を…)

ラム「死ねぇぇぇ!!!」

桐生「……」カラン

桐生はその場でドスを落とす
そして観念したように目をつぶり、その怒りの攻撃を受ける覚悟を決める

エミリア「止めてぇぇぇ!!」

桐生「……?」

目の前にエミリアが立ち、桐生の守るように、氷のバリアを張る

レム「……!?どいて下さいエミリア様!!」

一瞬、情が動くもやはり暴走状態の鬼化レムは止まらない
せめてエミリアには当たらないよう、動きの軌道を変えようとする

ラム「止めなさいレム」

レム「……!!」

レムの動きは完全に止まる

レム「姉さま…これは、その」

ラム「もういい。分かったから」ギュッ

ラムはそっと妹を抱きしめる
すると、光を帯びた角は消えていく

ラム「止めなさい。こんな闘い…意味がないわ」

レム「……」

ラム「分かってくれたのね?さすが私の妹、良い子ね」ナデナデ

レム「姉さま…」

桐生「ぜぇぜぇ…」ガクッ

エミリア「大丈夫カズマ!?酷いキズ…全身が血まみれのボロボロじゃない…」

眼に涙を浮かべつつ、心配するエミリア

桐生「さすがに…こんなにボロボロになったのは随分、久しぶりだぜ」

桐生(ラウカーロンに拷問されたとき以来か?それとも広島や大阪でのカチコミか…真島の兄さんと闘った時か…いや、どう考えてもそれ以上だな)

桐生「悪いなエミリア…こんな真夜中に」

ロズワール「夜中に物凄い~音が聞こえてきたから。なんだと思ったら…大喧嘩とはねぇ~」

桐生「ロズ…ワール…」

ロズワール「い~くら部屋がたぁ~くさんあるからって~?ちょっと暴れすぎじゃない二人とも?」

レム「申し訳ございません、ロズワール様…」

ロズワール「まあレムは悪気があって、こ~んなに暴れた訳じゃないのはわかって~いるからご安心を」

ロズワール「色々と聞いておきたいのは事実だけどぉ」

ロズワール「い~まは一先ず、二人ともキズを癒しなさい」

桐生「……」

レム「……」

ベアトリス「まったく、館の一角がメチャクチャじゃない…キチガイかしら?」

桐生「ベアトリスも来てくれたのか、悪いな」

ベアトリス「フン!」

ベアトリス「……」

桐生「どうした?」

ベアトリス「はぁぁ。お前、呪いにかかってるわ」

桐生「なに?」

ベアトリス「本当はこんなこと教えたくもないけど。ここで死なれてもそれはそれで面倒だし」

エミリア「呪い…?」

桐生「まさか、この熱が呪いだと言うのか」

エミリア「え、カズマ体調悪いの!?」

桐生「ああ…勉強が終わった直後にな」

ベアトリス「まったく、ろくな人生送ってないわね」

エミリア「お願いベアトリス。パックは寝ちゃってるし、呪いを解いて!」

ベアトリス「はぁ~本当に面倒な男」

桐生「すま…ない…」フラッ

桐生「」バタッ

エミリア「カズマ!?しっかりして!」

ベアトリス「退いてなさい。呪いを解くから。介抱はそれからよ」

【明け方にて】

桐生「……ん」パチッ

エミリア「zzz…」

桐生「……体に倦怠感がない。ベアトリスが呪いを解いてくれたんだな」

桐生「体中の痛みとキズもない。これはエミリアとベアトリスのおかげか」

エミリア「zzz」

桐生(まだ寝ているな)

桐生はベッドから起き上がり、イスの上で寝ているエミリアの横で、メモを書き始める

桐生「……」カキカキ

~~~

桐生「俺のスーツは…あったあった」

桐生「あとは…ドスと…スマホと…」

桐生「この思い出の写真だな」

桐生「……」

ガチャ、バタンッ

パック「リア!大変だよ!」

エミリア「ん?」パチッ

エミリア「おはようパック…ちょっと寝すぎちゃったかな」

エミリア「あれ?カズマがいない…」

パック「コレ見て!」

エミリア「何コレ…置き手紙?」

~~~~~~~~~~~~~~~

エミリアとパックへ

この国の文字を覚えたてで読みづらいかもしれないが、どうか読んでほしい

俺はこの館を出て行く
理由は言うまでもない。昨晩の事だ

この屋敷に来た時点でお前ら以外の全員が俺を疑っていた
状況が状況だけに仕方のない事だ。それでも匿ってくれたロズワールには感謝している

レムはなぜか俺を魔女同等の扱いしていた。まるで意味がわからない
だが彼女の尋常じゃなく殺気立った目には、過去に何かあったのだけは察する事ができた

この館にいる限り、彼女は何度でも俺に立ち向かうだろう

俺には昔、レムと同じ年頃の家族がいた。今では大きくなっている
そんな彼女を俺は、やはり本気で殴る気に慣れない

そしてこれ以上、お前らに迷惑をかける訳にはいかない
故にお前らと決別する。全てはお前達の為だ

最後に。レムの事は絶対に責めないでほしい。これからも温かく見守るんだ
ベアトリスには感謝していると伝えてくれ

たのんだぜ兄弟、そして親分
勝手な事をして申し訳なく思っている

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エミリア「……」

エミリア「カズマ…そんな…」ツーッ

エミリアの頬に涙が伝う

【それから、月日がたち】

桐生「うぅぅ…寒い…」

桐生は森の中をひたすら歩いていた
木々は雪で白く覆われていた

桐生「なんだこの寒さは…いったいマイナス何℃なんだ」

桐生「背広だけでは寒すぎる…せめてダウンがあれば…」

桐生「……」

桐生(エミリア…今頃、なにをしているだろうか)

桐生「勝手に出て行ってしまって悪いことをした…だが…あのままあの館で殺し合いの日々を送っても…」

桐生「あいつらに…迷惑…かかる…」

ビュォォォォォ…!

猛吹雪は勢いを増していく

桐生「……」

桐生「どこかに小屋は…いや洞窟でも良い…」

桐生「やっと見つけたぜ…小屋…」

ガシッ

桐生は凍える手でそっとドアノブに手をかける

桐生「……?なんだ、凍り付いてて動かない」

桐生「チッ、参ったぜ」ググッ

桐生「ん?何だ」

桐生「手まで張り付いちまったじゃねえか」

桐生「くそ…離れろ…」ググッ

バリッ

妙な音がしたが、どうにかドアノブに張り付いた手を離す

ドアノブは血で染まっていた

桐生「これは…血…」

桐生「ん?」

ふと何か違和感を覚えた桐生は、血だらけになった手の平を見つめる

桐生「小指が…ない…」

桐生の小指は凍傷で切り落とされ、真下に落ちていた

桐生「嘘だろ…」

桐生「……」

桐生「手でドアを開けるのは危険だ」

桐生「本当はやりたくないが…蹴り破るしかない…」

桐生「オンラァァ!!」

ガシャァァン!

桐生「ぜぇぜぇ…中に…ベッドがある…温かそうな毛布も…」

桐生「早く…横に…なりたい…」

「こんな寒い状況で寝たら、死ぬんじゃないかな?」

桐生「……?」

桐生(なんだ…いま一瞬、声が?)

ズシン…ズシン…

桐生「え?」クルッ

何かが近づいてくる音が聞こえた
ふと振り返ると、すぐ目の前にとてつもなくデカイ怪物が立っていた

桐生「な、なんだ…これは…」

「それにして、この状況で小指の切断程度で済んでいるとは」

「やはりキミはバケモノだね。キリュウカズマ」

桐生「誰だお前は」

「……」

「もう忘れたのかい?僕のこと」

今日はここまで

※報告を

リゼロ見直しててある事に気がついた

おかしな所があったので、そこを止む無く修正します
(一度発動した呪術は、解呪できないらしいです。読み直して思わず発狂した)

物語自体は月日が経った>>179に繋がるようにします
(ゆえに修正版を見なくても、さほど問題はないです)

根本的に、展開を書く直すことも考えたけど、>>179に繋がるのが一番しっくりくるので
かなり強引な展開になるけど、桐生さんなら耐えられるだろってことでご勘弁を(震え声)

そういう訳で次回更新時はまず修正分を投下

本当に申し訳ないです
できるだけ矛盾が起きないように執筆します

投下します

まず>>188のとおり設定矛盾の修正の為に、5レスほど修正分を投下します

>>173(修正)

ロズワール「夜中に物凄い~音が聞こえてきたから。なんだと思ったら…大喧嘩とはねぇ~」

桐生「ロズ…ワール…」

ロズワール「い~くら部屋がたぁ~くさんあるからって~?ちょっと暴れすぎじゃない二人とも?」

レム「申し訳ございません、ロズワール様」

ロズワール「まあレムは悪気があって、こ~んなに暴れた訳じゃないのはわかって~いるからご安心を」

ロズワール「色々と聞いておきたいのは事実だけどぉ」

ロズワール「い~まは一先ず、二人ともキズを癒しなさい」

桐生「……」

レム「……」

ベアトリス「まったく、館の一角がメチャクチャじゃない…キチガイかしら?」

桐生「ベアトリスも来てくれたのか、悪いな」

>>174(修正)

桐生「熱が上がっちまったぜ…早く寝ないと…」フラッ

エミリア「え、カズマ体調悪いの!?」

桐生「ああ…勉強が終わった直後にな」

ベアトリス「……っ!」

ベアトリス(この男、まさか)

桐生「すま…ない…」フラッ

桐生「」バタッ

エミリア「カズマ!?しっかりして!」

ベアトリス「……」

ベアトリス(ベティには、関係のない事なのよ…)

エミリア「いま治癒魔法するからね!」

>>175(修正)

【明け方にて】

桐生「……ん」パチッ

エミリア「zzz…」

桐生「……倦怠感はある。だがキズは癒えているな。エミリアが癒してくれたんだな」

エミリア「zzz」

桐生(まだ寝ているな)

桐生はベッドから起き上がり、イスに座って寝ているエミリアの横で、メモを書き始める

桐生「……」カキカキ

~~~

桐生「俺のスーツは…あったあった」

桐生「あとは…ドスと…スマホと…」

桐生「この思い出の写真だな」

桐生「……」

ガチャ、バタンッ

>>176(修正)

パック「リア!大変だよ!」

エミリア「ん?」パチッ

エミリア「おはようパック…ちょっと寝すぎちゃったかな」

エミリア「あれ?カズマがいない…」

パック「コレ見て!」

エミリア「何コレ…置き手紙?」

~~~~~~~~~~~~~~~

エミリアとパックへ

この国の文字を覚えたてで読みづらいかもしれないが、どうか読んでほしい

俺はこの館を出て行く
理由は言うまでもない。昨晩の事だ

この屋敷に来た時点でお前ら以外の全員が俺を疑っていた
状況が状況だけに仕方のない事だ。それでも匿ってくれたロズワールには感謝している

レムはなぜか俺を魔女同等の扱いしていた。まるで意味がわからない
だが尋常じゃなく殺気立ったあの目には、過去に何かあったのだけは察する事ができた

この館にいる限り彼女は何度でも俺に立ち向かうだろう

昔、レムと同じ年頃の家族がいた。今では大きくなっている
そんな彼女を俺は、やはり本気で殴る気に慣れない

これ以上、お前らに迷惑をかける訳にはいかない
故にお前らと決別する。全てはお前達の為だ

最後に。レムの事は絶対に責めないでほしい。これからも温かく見守るんだ

たのんだぜ兄弟、そして親分
勝手な事をして申し訳なく思っている

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エミリア「……」

エミリア「カズマ…そんな…」ツーッ

エミリアの頬に涙が伝う

>>177(修正)

館を出て行ってから桐生は、各地を転々とした
その後、街の親切な病院で世話になっている

それから更に月日がたち

少し体調がよくなった桐生は外に出て、世話になっている人のために、狩りで得物と、火を起こすための木の枝を拾いにきた

桐生「うぅぅ…寒い…」

猛吹雪の最中、森でひたすら歩いていた

桐生「なんだこの寒さは。いったいマイナス何℃なんだ」

桐生「背広だけでは寒すぎる…せめてダウンがあれば…」

桐生「……」

桐生(エミリア…今頃、なにをしているだろうか)

桐生「勝手に出て行ってしまって悪いことをした…だが…あのままあの館で殺し合いの日々を送っても…」

桐生「あいつらに…迷惑…かかる…」

ビュォォォォォ…!

猛吹雪は勢いを増していく

桐生「……」

桐生「どこかに休める小屋は…いや洞窟でも良い…」

では続き投下します

桐生「なに?俺とお前が知り合いだと」

「一緒にお酒だって飲んだじゃないか」

桐生「そんな記憶はない」

「……」

桐生「もう一度聞く。お前は誰だ」

「エミリアの父親だよ」

桐生「なんだと…お前、まさか」

「やっと思い出してくれたようだね」

桐生「パックなのか!?」

パック「ああ、そうだ」

桐生「……」

パック「信じられないって表情だね。まあ、無理もないか」

桐生「パック…何があった」

桐生「この異常気象はなんだ。そして、なぜお前はそんな姿に」

パック「エミリアは死んだ」

桐生「っ!?なんだと…!!」

桐生「誰だ。誰がそんな事を…!!」

ピシッ…!

拳をギュッと強く握る
その力が災いして、既に凍傷しかけている手に、ひび割れが起こる

だが寒さで感覚が無くなっていて、気がついていない

パック「もう遅いよ。何もかも。だから君に教えても意味がない」

桐生「……」

パック「僕にとって、リアがいない世界なんて意味の無いものだ」

パック「契約に従い、僕はこれから世界を滅ぼす」

桐生「意味が分からねぇ」

パック「キミはさっき、なぜ異常気象が起きたのか知りたがっていたよね?だから答えてあげたんだよ」

桐生「だから、なぜ世界を滅ぼす必要がある」

パック「精霊にとって契約という物は、それだけ重要な物なんだよ」

桐生「お前の言っている意味がサッパリ分からない。なぜそうなるんだ」

パック「価値観の相違だよ。人間同士にだってあるだろ?」

桐生「…………」

桐生「ウオアアァァァァ!!!!」

バリィィン!

激昂し雄叫びをあげる桐生
ひび割れた拳が、怪物と化したパックの足に激突する

しかし体の芯まで凍りかけていた体
桐生の右腕は木っ端微塵に砕け散る

桐生「ぜぇぜぇ…」

パック「あーあ。小指だけじゃなくて、とうとう片腕まで」

桐生「テメェ……なに考えてんだゴラァ!!!!」

パック「……」

桐生「エミリアがこんな事を望んでいるとでも思っているのか…!!」

パック「ま、望んでないだろうね」

パック「でもそのエミリアがもういないじゃないか」

桐生「アイツが嫌だと思うことを…なんで平気な面してやりやがる…!」

パック「平気なんかじゃないよ。リアがいなくなって僕は胸が痛くて仕方ない」

桐生「この世界にはな、あらゆる家族が大勢いる」

桐生「そいつらは全員、大切な存在を失う事になる」

パック「そうだね。そして自分自身の命さえも」

桐生「それが分かってんならなぜこんな事を…価値観が違うで済む問題じゃねえだろ」

桐生「まるで筋が通らねぇ」

パック「……」

桐生「どうなんだパック……答えろぉ!!!!」

パック「筋が通らない…か。それは君自身の事じゃないのか?」

桐生「なに?」

パック「君と盃を交わしたとき…君は言ったよね?」

パック「家族を守りきる事が出来なかったら、ちゃんとケジメをつけるって」

桐生「……!」

パック「それと僕は、娘にもしもの事があったら、怒って世界を滅ぼすとも言った」

パック「あれは冗談なんかじゃないよ」

桐生「…………」

パック「まあ、君も曲がりなりにも息子な訳だ」

桐生「……」

パック「君が望むのなら、君だけは殺さずにしてあげてもいい」

パック「もっとも、この状況で生き残れるのか怪しいけどね」

パック「世界の氷河期…片腕の欠損…そして」

パック「君の体にかけられた呪い」

桐生「呪いだと…!?」

パック「その様子だと。知らなかったようだね」

パック「普通はどんなに頑丈でも、一度呪いが発動すれば…すぐに命を落とすハメになる」

パック「だがキミはどういう訳だか、今日まで生き延びていた。いままでドコにいたんだ?」

桐生「親切な診療所で世話になっていた。いま外にいる理由は、体調が少しマシになって、狩猟とまき拾いをしていた」

パック「普通は恩返しをやっている余裕なんて無いんだけどね」

桐生「今日まで幾度となく生死をさ迷いはしたがな」

桐生はチラッと欠損した右腕を見つめる

桐生「どうやら、ここまでのようだ」

パック「どうやら息子の死に目に間に合ったようだね」

桐生「わざわざ俺の死に目を見届けるために来たのか」

パック「一応、親だからね」

桐生「……」

桐生「俺も…ケジメはちゃんとつける。約束だからな」

桐生「小指と片腕だけじゃ圧倒的に足りないな」

パック「そうだね。エミリアの死は、それだけ重い」

桐生「……」スッ

左腕で懐からドスを取り出す
そして歯で嚙みつつ引き抜こうとするが、全く開かない

桐生「ぐっ…」

ギチギチ…ガキィィン

凍ったドスは無残にへし折れ、白い雪の地へ落ちる

桐生「………」

桐生「パック」

パック「なんだい、わが息子よ」

桐生「介錯を頼む」

パック「承知した」

パックはスッと、大きな足を上げる
大きな影が桐生を覆う

パック「何か遺言は?」

桐生「必ず救ってみせる」

パック「?」

桐生「エミリアも…あの館の連中も…」

桐生「そしてお前もだ。お前がこんな汚れ役を背負わず済むように」

パック「なにを言っているんだキミは」

桐生「俺は…死に戻r…ぐっ…!!」

視界に映る、薄暗いビジョン
真っ黒な手が心臓をわしづかみする

パック「……?」

桐生「とにかく…俺には秘策がある」

桐生「それでお前らを救う」

パック「もっと潔く死ぬのかと思えば妄言とはね」

パック「実に哀れだよ」

桐生「」

パック「さよなら、カズマ」

怪物と化したパックは、その大きな足で氷結した桐生を踏み潰す

桐生「ん?ここは…」

桐生の目に映ったのは、摩天楼の数々。都会の夜景だった

桐生「ミレニアムタワーの屋上?」

桐生「元の世界に戻ってきたのか…」

そっと手すりに、手を置いて夜景を眺める桐生
すると後ろから足音が聞こえてくる

真島「ちゃう。これは夢や」

桐生「兄さん…!?」

真島「なんや桐生ちゃん。しばらく見ないうちに」

真島「目が死んでるで」

桐生「……」

真島「おっと、今日は喧嘩せえへんで」

桐生「珍しいな」

真島「ついさっき、兄弟とタイマンしてきた所や」

桐生「冴島と!?なにがあった!」

真島「安心せい。兄弟が俺に喝をいれてきただけや」

真島「『いつまでふぬけとるんや!』って怒鳴られのう」

真島「あ~おしかったわぁ!あと少しで勝てたっちゅうのに」

桐生「……」

真島「桐生チャン、寂しいのはおどれだけやない。俺も一緒や」

桐生「フ、変わらないなアンタも」

真島「で、どないするんや?これから」

桐生「え?」

真島「またやり直すんやろ?」

桐生「……あんた、ドコまで知っているんだ」

真島「全部や。桐生チャンがあの世界にいってからの全て」

桐生「……」

真島「俺はある時からな、妙な能力に目覚めよった」

真島「桐生チャンの異世界生活、映画を見るみたいに眺める事や」

真島「勿論、寝ている時だけやけどな」

桐生「」

真島「それと、たまにこうやって…夢の中で桐生チャンと直接会話することも出来る」

桐生「あんた、分身の術だけじゃなくて、とうとうそんな訳のわからない能力に目覚めたのか」

真島「ヒャーッハハハ!俺に不可能はあらへん」

桐生「……」

桐生(でもこれは夢。俺の願望なのだろうな)

桐生(誰かに自分の置かれた状況を知ってもらいたい。そんな願望から生まれた、俺の弱い心が生み出した…ただの夢)

真島「なんや桐生チャン。どうせこれは自分の妄想だと思っとらんか?」

桐生「……」

真島「ちゃうで、これは俺の桐生チャンに会いたいという願望から生み出された…超能力や」

桐生「……まあ、どちらでも良い。アンタに会えて少し元気がでた」

桐生「たとえコレが夢でもな」

真島「俺の使命…それは、多分こうやって桐生チャンにあうことやろな」

桐生「会う事?」

真島「桐生チャン、目の色が変わったで。さっきよりも光っとるわ」

桐生「……」

真島「元の世界じゃ死亡扱い、家族と永遠の別れ、慣れない異世界での生活、その後も続く困難…どんな屈強な男でもホームシックになるわ」

真島「だから辛い時は会いに来たる。おどれとの接触はランダムやから次はいつになるか分からんがな」

桐生「兄さん…」

桐生と共に夜景を眺めていた真島は、そっと後ろをふり向き歩み始める

真島「相談に乗ったろうか思うたけど、目に光が戻ったおどれなら、俺が口出しする必要もあらへん」

桐生「……」

桐生は振り返らず夜景を見ながら今後の事を思索する

桐生「ありがとう、兄さん」

真島「俺は仕事に戻るわ。いつまでも気絶してられへん」

真島「ほな、またな」

桐生「ああ、俺も目覚めるとする」

桐生「やるべき事を成し遂げてくる」

【ロズワール邸・客室】

桐生「……」パチッ

桐生「ん、ここは…」

レム「姉さま姉さま、ずっと寝言を言っていたお客様が目覚めました」

ラム「レムレム、頭のおかしそうなお客様が目覚めたわ」

桐生「……」

桐生「そうか。初めて館に訪れた、次の日の朝か」

桐生「という事は…ま、まさか」

桐生「……なんて事だ」

レム「お客様どうかされましたか?何かお悩みごとでも?」

ラム「お客様どうかしたの?妄想癖がばれて心が痛いの?」

ポンッ

ラム・レム「!?」

桐生はそっと、二人の頭に手を置く

桐生「おはよう。俺は桐生だ」

桐生「俺の様子を見に来てくれたんだな?ありがとう」

ラム「お、お客様…やめなさい」

ラム(あれ?なぜかしら…悪い気がしない…)

レム「お客様、止めてください」

エミリア「あ!カズマ起きたのね!」

桐生「エミリア…おはよう」

エミリア「フフフ、さっそく二人と打ち解けてるのね」

ラム「エミリア様、これはお客様が勝手に」

レム「エミリア様。おはようございます」

桐生「エミリア、確認したいことがある」

エミリア「ん、なに?」

桐生「最近、俺とパックとエミリアの三人で酒を飲んだ記憶は無いか?」

エミリア「え?なにを言ってるにカズマ。私たち昨日初めて会ったばかりじゃない」

桐生「………………」

エミリア「カズマ?」

桐生「すまない。ちょっと顔を洗ってくる」

エミリア「フフフ、まだ寝ぼけてるのね。いってらっしゃい」

【禁書庫】

ベアトリス「こんな朝早くから、部屋に入ってきていきなり自己紹介して…」

ベアトリス「勝手に感傷に浸るのは止めてくれないかしら?うっとおしいのだけれど」

桐生「……」

桐生(いつまでもショックを引きずってる暇は無い。俺のすべきこと…まずは)

桐生「ひとつ聞いておきたい」

ベアトリス「なにかしら?」

桐生「呪いを防ぐ方法、教えてくれ」

ベアトリス「なによ藪から棒に」

桐生「頼む、教えてくれ」

ベアトリス「……ないのよ。そんなもの」

ベアトリス「一度発動した呪いは、対象への呪いを果たし切るまで消えることはないかしら」

桐生「……」

ベアトリス「ただし、発動した呪術に限定した話なのよ」

ベアトリス「発動前ならば妨害はできるのよ。発動前は呪術ではなく単なる術式でしかないから」

桐生(なるほど。ようは解除不能の時限爆弾みたいなものか。起動寸前までが勝負って訳か)

ベアトリス「この屋敷ならベティー。にーちゃ。あとはロズワールが解呪が可能かしら」

桐生「お前とパック、ロズワールか…あと、呪いが発動する前に術式に気づく方法はあるのか?」

ベアトリス「見つけることは可能よ。絶対的なルールがあるわ。呪術を行う対象との接触…それが必須条件なのよ」

桐生「そうか。ありがとう」

桐生(これで1つの疑問が解けた)

その後、前回と一通り同じ様な流れで、ロズワールと挨拶を交わす
そして、報酬の件を聞かれる

【大食堂】

ロズワール「褒美は想いのまま!さぁ~なんでも望みを言いたまえ!」

桐生「……もし良ければ俺をこの館で雇って欲しい」

ロズワール「……」

ラム「くしゅん」

レム「」

エミリア「っ!じゃあこれからも一緒ね、カズマ!」

桐生「ああ。あとそれと…」

エミリア「?」

ロズワール「ん?まだ何かお望みな~のかなぁ?」

桐生はチラッとエミリアの方を見つめる

桐生「……」

――――

私ちゃんと考えてきたの…カズマへの恩返し

どんな理由か知らないけど、もう二度と家族に会えないんだよね?
だから私でよければ…家族にならない?

――――

桐生「……」

エミリア「カズマ、私に出来ることなら何でも言って」

桐生(あの時とは状況がまるで違う。主に俺の記憶と感情に)

桐生(昨日あったばかりの仲で…少なくとも俺から、兄弟の盃を頼むのはあまりにおこがましい)

桐生「ぐっ…」

エミリア「カズマ?苦しそうだけど大丈夫?」

桐生「……」

桐生「何でもない」

桐生「俺の望みは1つだけだ。ここで雇って欲しい。それだけだ」

桐生(俺がこの屋敷にいないと、エミリアの安否の確認が出来ない)

桐生(盃の件は…ひとまず置いておくとしよう。ほかにやるべき事がある)

食事を終えるとさっそく、館の案内をされる
そして仕事がはじまる

ラム「ではこれから、掃除と洗濯をしてもらうわ」

レム「しっかりと頼みます、カズマさん」

桐生「……その前に。お前達に言っておきたい事がある」

ラム「なにバルス?」

レム「何ですかカズマさん」

桐生「さっき食事を終えたあと、ロズワールにも密かに話しておいた事なんだがな」

桐生「お前たち、俺にどういう感情を抱いている?」

ラム「何がいいたいの?」

桐生「正直な話、俺を疑っているはずだ」

ラム「……」

レム「……」

桐生「どうなんだ?」

ラム「そんなこと聞いてどうするの」

桐生「お前たちは、王選が近いこの状況で現れた俺に違和感を覚えてるはずだ」

桐生「……そうじゃなくても、俺の体には魔女の残り香もするしな」

ラム「っ!」

レム「……カズマさん。この状況で何故、わざわざそれを打ち明けるのですか」

桐生「……」

桐生「なぜ自分の体に魔女の臭いがするのか、俺にも分からない」

桐生「だがこれだけは言える。俺はお前たちの敵じゃない」

ラム「口ならいくらでも言えるわよ」

レム「……」コクコク

ラム「言いたい事はそれだけ?」

桐生「いや、まだある」

桐生「……」ゴソッ

懐からドスを取り出し、鞘を引き抜く

ラム「バルス、なにをする気?」

レム「カズマさん、いきなりそんな物とりだして…怒りますよ?」

桐生「一週間、時間がほしい」

ラム・レム「一週間?」

桐生「一週間、俺はお前たちから信頼を得るために努力する」

桐生「だが一週間たって、もしもお前ら二人が信頼できないと告げるのなら…」

桐生「その時は、自らこのドスで腹を切ってやる」

ラム「!?」

桐生「そうすればお前たちが手を汚す事もない」

レム「カ、カズマさん。何をいっているんですか」

桐生「これはお前達に対する誓いだ」

桐生「そのかわり、俺は身の潔白を証明するために努力する。以上だ」

ラム「あなた、死ぬのが怖くないの?」

桐生「……俺は本来、もうとっくに死んでるハズの男だ」

桐生「紆余曲折して、結局今日まで生き延びる事が出来た…だが俺はもう二度と故郷に帰ることが許されない」

桐生「死に恐れは無い。だが、まだ死ぬワケにもいかない」

ラム「……」

レム「……」

桐生「俺は人外で例えるなら魔女ではない…龍だ」

桐生「それをこの一週間で証明してやる。以上だ」

ラム「……」

レム「……」

桐生「さあ、仕事を教えてくれ」

今日はここまで

報告を

次回の投下分で第二章の終わりまで一気にやるから、執筆に苦戦中…
申し訳ないですが、もう少しお待ちください

予定では『次回投下分(第二章終了)→その次(オマケ回)』になるかと


保守しにきました
もう駄目かなって思ったけど、なぜかまだHTML化してなかった

とりあえずモチベ回復に努めるべく、原作もこのSSも色々見直したりします
もう少しで終わりになのに申し訳ない

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年03月13日 (月) 13:01:23   ID: 6s-cZoYM

頑張って下さい見ています!

2 :  SS好きの774さん   2017年06月12日 (月) 14:12:45   ID: RZdizh27

ここで終わりではないですよね?続き待ってます!

3 :  SS好きの774さん   2017年08月31日 (木) 20:24:05   ID: ezgskRIh

待ってます

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