インセクター羽蛾「夢限少女?」 (141)
羽蛾「ヒョヒョヒョ! 買ってきたぜ、WIXOSS」
羽蛾「元日本チャンプの俺は他のカードゲームのチェックも怠らないのさ」
羽蛾(それにWIXOSSには昆虫をテーマにした凶蟲という種族も存在してるらしいからな)
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョー、俺に虫のカードを使わせれば敵はいないピョー」
羽蛾「ウィクロスパーティーとかいう大会で優勝してレアカードを手にいれてやる」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、さっそくデッキを開封するぜ」
羽蛾「WIXOSSのモンスターにはルリグとシグニの二種類がいるのか」
羽蛾「へぇ、話には聞いてたが、カードは全部女の子みたいだピョ」
羽蛾(所謂女体化ってやつ。まあ、デュエルモンスターズでも最近ではそういうのがあるけどさ)
羽蛾「このシグニってカードにはたくさんの種類があって、これを中心にデッキを組んでいくわけか」
羽蛾「ほー、女の子の恰好をしているが、どのカードも昆虫の特徴があるねぇ」
羽蛾「これはデッキの組みがいがありそうだピョー」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1485101648
羽蛾「ヒョヒョヒョ、そしてルリグってやつがデッキのメインカードになるわけだな」
羽蛾(シグニが兵隊アリならルリグは女王蟻って感じか)
羽蛾「きっと昆虫を総べるに相応しい見た目になってるはず」
羽蛾(えっと、裏面の色が違うこれがルリグだな)
羽蛾「なんだ? このカードの娘、真っ白で何の特徴もないピョー」
羽蛾(シグニと違って全然昆虫らしくない)
羽蛾「まさかミスプリントか? それなら店にクレームを」
「私は始まりのルリグ」
羽蛾「ひょ?」
始まりのルリグ「あなたの記憶を登録します」
羽蛾「な、なんだ、この廃墟みたいな白い空間は一体?!」
始まりのルリグ「ようこそ、セレクター」
始まりのルリグ「私はルリグ、名前を付けて」
Lostorage incited WIXOSS legend of Insektor
羽蛾(これから90日間、俺はセレクターバトルとかいうのをしなきゃいけないらしい)
羽蛾(勝ったらコインを手に入れ、負けたらコインを失う)
羽蛾(五枚揃えばゲームから抜けられるが、その際の報酬は自分の記憶をいじれるだけ)
羽蛾(逆に全てのコインを失った場合、俺は消えちまうそうだ)
羽蛾(厳密にはルリグに体を取られちまうんだったか。隠しもせずにあっさり教えてくれたぜ)
羽蛾(ショボイ報酬に反して、でかすぎるデメリット)
羽蛾(しかもバトルしなくても時間経過と共にコインは失われるときたもんだ)
羽蛾「まったくとんでもないことに巻き込まれたピョー」
羽蛾(俺の初期コインは一枚だったが今は二枚に増えている)
羽蛾(街で見つけたセレクターから早速バトルでコインを巻き上げてやったぜ)
羽蛾(確か、ゆきめとかいうルリグを使う女だったか)
羽蛾(近くにもう一人セレクターがいたらしいから、そっちと戦えば勝てたかもしれないものを)
羽蛾「元日本チャンプの俺に挑んでくるとは不運な女だピョー」
羽蛾「この調子で他のセレクターを倒して、さっさと勝ち抜けしてやるぜ」
羽蛾(ちなみに、ルリグは他のルリグを感知することができる)
羽蛾(最初は白かった俺のルリグだが、今は記憶を読み取ったとかで姿が変化した)
羽蛾(その恰好が何となくインセクトクイーンに似てたから、彼女のことは『女王様』と名付けたぜ)
羽蛾(女王様は既存ルリグのミュウと同じルリグタイプと能力を持っているようだ)
――カードショップ
羽蛾「ヒョヒョヒョ、やっぱりセレクターが集まるとしたら、この辺りなんじゃないか」
羽蛾(TCGプレイヤーを探すならカードショップに行くのが一番)
羽蛾(ルリグが気配を感知できるって言っても、まずはある程度近づく必要があるらしいからな)
羽蛾「どうだ女王様、他のセレクターはいるか」
羽蛾(……ふむ、いないか)
羽蛾「あては外れたが、ここに来た目的はセレクターを探すだけじゃない」
羽蛾「デッキを強化するためのカードを購入するピョー」
羽蛾「ヒョヒョ、随分色んな種類のパックがあるんだな」
羽蛾「とりあえずバランスよく買ってみるか」
――街
羽蛾「まだ時間もあるし街を徘徊してセレクターを探すピョー」
羽蛾「女王様、セレクターの気配はするか」
羽蛾「ひょ、特に感知できない?」
羽蛾(思った以上に見つからないな)
羽蛾(もたもたしてたらバトルしないままコインがなくなる)
羽蛾(コインは二枚あるとはいえ、余裕があるってわけでもない)
羽蛾「何か対策を考えたほうがよさそうだぜ」
――住宅街
「おい、そこのお前!」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾「それはもしかして俺のことかい」
墨田「お前、セレクターだな」
羽蛾「ヒョヒョ、そうだと言ったら」
墨田「四の五の言わずに俺とバトルしやがれ」
羽蛾(ふーん、何かこいつ余裕がないな)
羽蛾(コインが残り一枚で追い詰められたって雰囲気じゃないんだけど)
羽蛾(妙にイライラしてるというか)
羽蛾「もしかして君、初心者狩りでもして負けたのかな」
墨田「て、てめえ、何でそのことを」
羽蛾「ヒョヒョ、図星か。当てずっぽうに言ってみるもんだねぇ」
墨田「うるせえ! さっさとカードをかざせ!」
羽蛾「ヒョヒョ、こんな感じで前に出すんだったかな」
墨田「何だ、その反応。ははっ! お前、初心者だったのか!」
墨田「それなら楽勝だ。この勝負、もらったぜ」
羽蛾、墨田「「オープン」」
――バトル空間
羽蛾「それじゃあ始めるピョー」
羽蛾(とりあえず勝負開始前に挑発しといてやるか)
羽蛾「君のカードがビビッてますよー」
墨田「おい! グズ子、ビクビクしてんじゃねえ」
グズ子「は、はぃ、ご、ごめんなさい」
羽蛾(ん、カードに意思があるから、こういうことになるのか)
羽蛾(にしてもあのルリグ本当にビビッてるねぇ、これは楽勝なんじゃないの)
羽蛾「先攻は俺みたいだな、じゃあ一枚カードを引かせてもらうぜ」
羽蛾(ウィクロスは基本的にターン開始時二枚カードを引くが、先攻一ターン目のみ一枚ドロー)
羽蛾(一見すれば不利に見えるが、実際のところ先攻はかなり有利だ)
羽蛾「エナをチャージ、女王様! グロウだ」
羽蛾(一ターンに一度プレイヤーはシグニのレベルを上げることができる)
羽蛾(上げたルリグのレベルに応じて、プレイヤーはレベルの高いシグニを場に展開することが可能だ)
羽蛾(つまり先攻をとるということは、先にレベル4にグロウして高レベルのシグニを場に展開できるということ)
羽蛾(この一ターン差はかなりでかい。デッキにもよるがウィクロスは基本的に先攻が有利なゲームなのさ)
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョ、さっそく行くぜ」
羽蛾「俺は幻蟲モンシロを二体召喚!」
羽蛾「先攻に攻撃は許されていない。これでターンを終了するピョー」
墨田(こいつ初心者の割に手際がいいな)
墨田(前の小娘と違ってルールも把握している)
墨田「はっ、とはいえカモであることに変わりはねえ」
墨田「エナをチャージ。グズ子、グロウ!」
墨田「†ワラニン†、†ケンダマ†を召喚」
墨田「†ケンダマ†でモンシロに攻撃だ!」
羽蛾(デュエルモンスターズにおいては同じ攻撃力同士のモンスターがバトルした場合両方が破壊される)
羽蛾(だがウィクロスの場合、攻撃を受けた側のシグニのみが撃破される)
羽蛾(モンシロのパワーは1000。†ケンダマ†のパワーも1000。つまり……)
墨田「そうさ、お前のシグニだけが破壊される!」
羽蛾「ば、馬鹿な!? こんなことがぁ」
墨田「はははっ、所詮は初心者だったな」
羽蛾「なーんてね」
墨田「何!?」
羽蛾「モンシロが破壊された瞬間、特殊能力が発動するピョー」
墨田「と、特殊能力だと」
墨田(こいつ初心者の癖に既にシグニの能力を使いこなしてやがるのか!?)
墨田「一体、どんな能力だ! そんな貧弱な昆虫にどんな能力が」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョ、モンシロは場から離れた時、対戦相手のシグニ一体のパワーをマイナス1000するのさ」
墨田「マイナス1000!? じゃあ、まさか」
羽蛾「†ワラニン†を破壊するぜ」
墨田「こ、こいつ、あえてまだ攻撃してない方のシグニを狙って」
墨田「ならグズ子で攻撃だぁ」
羽蛾「ひょひょ?」
羽蛾(サーバントはあるからガードはできるんだけどねぇ)
羽蛾(ここはあえて攻撃を通す。サーバントを温存し、同時にエナを貯める)
墨田「ははっ、どうだ、ライフクロスを削ってやったぜ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、なら俺のターンだな」
羽蛾「俺はモンシロをエナチャージ、この瞬間、特殊能力発動!」
墨田「ば、馬鹿な、バトルで破壊されたわけでもないのに、どうしてその蟲の能力が!?」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョ、さっき言ったはずだぜ」
羽蛾「こいつは場を離れた時に対戦相手のシグニのパワーをマイナス1000すると」
羽蛾「バトルによる破壊、つまりバニッシュされた時以外でも能力は発動するのさ」
墨田「な、何だとぉ!」
羽蛾「ヒョヒョ、これで君の場にシグニはいなくなった」
羽蛾(ウィクロスはデュエルモンスターズと違って、リミットオーバーさえしなければ一ターンに何体もシグニを場に出せる)
羽蛾「いくぜ! インセクトモンスターを三体展開して総攻撃だ」
墨田「くそっ! こいつ初心者じゃなかったのか」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、初心者だよ。このカードゲームはね」
――数ターン経過
羽蛾ライフクロス4枚 墨田ライフクロス1枚
羽蛾「ヒョヒョヒョ」
羽蛾(追い詰めた、ウィクロスは互いに七枚のライフクロスを削っていくゲーム)
羽蛾(こちらが四枚なのに対して相手は一枚)
羽蛾(盤面的にも優位で手札の枚数もこちらが上。これは勝ったな)
羽蛾(それにしてもこいつ、カードの能力を使いこなせず、単調な攻撃を繰り返してくるだけ)
羽蛾(やはり大したレベルの相手じゃなかったぜ)
墨田「くそ、くそ、こんなはずじゃ」
墨田「しょうがねえ、こうなったらコイン能力を使ってやる!」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾(コインをベットすることで使える特殊な能力か)
羽蛾(ベットして負けた場合、コインは戻ってこないらしいが)
墨田「コインベットだ!」
グズ子「ダイレクト」
羽蛾「ヒョヒョ、女王様。奴の能力は一体何なんだ」
羽蛾(俺の女王様にはちょっとした特殊能力があってねぇ)
羽蛾(相手がコインを使用した瞬間、コイン能力を瞬時に把握することができる)
羽蛾(何々、奴の能力は……)
羽蛾「!?」
墨田「ダイレクトは相手のルリグが受けた痛みをセレクター本人にも共有させる」
墨田「ルリグ数多しといえどグズ子だけが保有する、対戦相手に直にダメージを与えるコイン能力だ」
羽蛾「な、何だ、その能力はぁ!」
墨田「まずはアーツを使って、お前の盤面のシグニを全て破壊する」
羽蛾(こいつ、これで全部のアーツを使い切ったぞ)
羽蛾(並べられたシグニを見る限り、このターン総攻撃が全て通っても俺にとどめを刺すことはできないはず)
羽蛾(逆に防御手段を失って俺の攻撃を凌ぐことはできなくなる)
羽蛾(そうか、奴の狙いは痛みによる俺の戦意喪失)
羽蛾(セレクターバトルならではの戦略ってわけか!)
墨田「行けぇ! まずは†サラマワ†で攻撃だぁ!」
羽蛾「かはっ!」
墨田「まだだ、次は†ヨーヨー†で攻撃ぃ!」
羽蛾「ぎょえええええええええええええ!」
墨田「ははは、そして三体目! †ニホニンギョ†でアタック!!」
羽蛾「……ぐぅぅぅぅ!」
墨田「くっく、どうだ。仮に手札にサーバントがあったとしても、もうガードする気力もないだろ」
墨田「行けぇ、グズ子! 攻撃だぁ!!」
グズ子「ごめんなさぁぁぁぁぁい!」
墨田(勝った! これでこいつが何もできなくなったら、次の俺のターンでとどめを)
羽蛾「……無駄ピョー」
墨田「何? まさかっ!」
羽蛾「サーバントでガード」
墨田「な、何故だ。お前は痛みで戦意を喪失したはずじゃ」
羽蛾「ふん、カードゲームで直接ダメージを受けるのはこれが初めてじゃないんでね」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、今の攻撃を受けたことでエナは十分にたまった」
羽蛾「フォーカラーアイアズマで貴様のシグニを破壊し、トラッシュからカードを手札に加える」
墨田「†ニホニンギョ†が、俺の切り札が破壊されただと」
羽蛾「更に黒幻蟲 ムカデスをレゾナ召喚」
羽蛾「出現時能力でお前のシグニを捕食する」
墨田「さ、二面あけられた。これじゃ攻撃を防ぐ手段が」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョ、いくぜ、インセクトカードで総攻撃だ!」
――自宅
羽蛾「ヒョヒョヒョ、これでコインが三枚になったピョー」
羽蛾「この調子ならコインが五枚集まるのも近そうだねぇ」
羽蛾(いや、事はそれほど単純でもないか)
羽蛾(これまでは都合よくセレクターが見つかったが、次もそうとは限らない)
羽蛾「他のセレクター共はそのあたりをどうしてるんだ?」
――後日、住宅街
羽蛾「ここ最近、街を徘徊しているが中々セレクターが見つからないピョー」
羽蛾「いっそカードショップで待ち伏せでもしてみるか」
羽蛾「このままじゃ、せっかく増やしたコインが減っちまうぜ」
羽蛾「ん、どうした女王様」
羽蛾「ひょ、近くにセレクターの気配」
羽蛾「あの走ってる娘二人がセレクターだと」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョ、でかしたぁ!」
羽蛾「俺のコインは三枚! あの小娘ども二人を倒せば、あっという間に勝ち抜けだピョー」
羽蛾「さっそく追いかけるぜ」
――公園
羽蛾「ん、眼鏡をかけた娘が見覚えのある奴と取っ組み合ってるピョー」
羽蛾「奴は確か墨田とかいったな」
羽蛾「こいつをもう一度倒せば楽なんだが、多分ビビッて勝負を受けないだろ」
羽蛾「となると、やはり狙いは眼鏡の娘かもう一人の」
羽蛾「ひょ、どうした女王様、何!」
羽蛾「更にセレクターが現れただと!」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョ!」
羽蛾「今日は本当にツイてるぜ」
羽蛾「ヒョ、待てよ。まさか墨田もあの娘どもを狙ってるのか?」
羽蛾「それはまずいピョー」
羽蛾「あのダイレクトとかいうコイン能力で娘どもが戦意喪失したら、俺がコインを稼げないじゃないか」
羽蛾「それ以前に娘どものコインが残り一枚だったら奪い取るコインがなくなる」
羽蛾「おい、お前!」
はんな「む、貴方は。え、ナナシちゃん。あの眼鏡の少年もセレクターですか」
墨田「て、てめーはあの時の」
羽蛾「悪いがあの娘どもは俺の獲物でね」
墨田「ま、まさか、横取りを」
羽蛾「うるさい! くらえ、殺虫剤だ!」
墨田「目があああああああああああああああああ!!」
はんな「驚愕! こんなにも平然と人に向けて殺虫剤を使うなんて」
墨田「ふ、ふざけるな、あの初心者は俺が」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョ、そこで転がってな!」
羽蛾「おい、お前ら、誰でもいいから俺とデュエル、いやバトルしな」
千夏「それなら、私が相手をしてあげる」
すず子「ちーちゃん、待って」
千夏「……」
羽蛾「あれ、いいのかい、彼女を無視して」
千夏「貴方には関係ないでしょう」
羽蛾「ヒョヒョ、それもそうだ」
羽蛾「それじゃあ始めるぜ」
羽蛾、千夏「「オープン」」
――バトル空間
羽蛾「ヒョヒョヒョ、今度の相手は緑のルリグを使うのか」
羽蛾(俺のデッキは墨田とのバトルから更に進化しているぜ)
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョ、スーパーインセクトデッキの恐ろしさを思い知らせてやる」
千夏「先攻は私。エナをチャージ。メル、グロウ、シグニを二体配置。ターンエンド」
羽蛾「ひょひょ?」
羽蛾(初心者ならではの基本に忠実なプレイングと見ることもできるが)
羽蛾(そもそも一ターン目の動きなんて、よほど変則型のデッキか手札事故でも起こってない限りあんなもんだ)
羽蛾(これだけで力量を判断することはできない。とはいえ……)
羽蛾「どちらにせよ、元日本チャンプの俺の敵じゃないピョー!」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、俺のターンだ!」
羽蛾「幻蟲ツクツクと幻蟲モスキートを召喚」
羽蛾(ヒョヒョヒョ、これが俺の新たなインセクトカードだぜ)
羽蛾「ツクツクと女王様で攻撃だ」
千夏「ノーガード」
千夏「私のターン。シグニを配置。ターンエンド」
羽蛾「ヒョヒョ! 攻撃してこないどころか、二ターン目なのに面が空いてるピョー」
羽蛾(手札事故か、それとも本当に初心者だったのか)
羽蛾「まあいい。俺はツクツクをエナにまわすぜ」
羽蛾「この瞬間、ツクツクの特殊能力発動」
羽蛾「トラッシュのカードをお前のシグニにチャームする」
羽蛾「いくぜ、ここからが必殺インセクトコンボ!」
羽蛾「俺が場に出すのはこいつだ」
羽蛾「幻蟲ハナマキリを召喚!!」
羽蛾「こいつは相手の場にチャームがある時、カードを一枚引くことができるのさ」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョ、見たか! これがウィクロス版インセクトコンボ」
羽蛾「単にパワーマイナスするだけじゃなく、手札を維持しながらの速攻が可能なんだぜ」
――観戦場
すず子「ちーちゃん、どうして」
はんな「確認。両者共にコインは三枚。同条件での勝負みたいですね」
はんな「それにしても、あの少年どこかで見たような」
すず子「どうしたの、はんなちゃん」
はんな「……確信。間違いありません。あの眼鏡の少年、インセクター羽蛾です」
すず子「インセクター羽蛾?」
はんな「デュエルモンスターズというカードゲームで日本チャンプだった少年です」
すず子「そんな相手とちーちゃんが」
墨田「何だよ、そういうことかよ!」
はんな「おや、もう目は大丈夫ですか」
墨田「まだ痛てえよ、あのガキ、非常識な真似しやがって」
墨田「殺虫剤を人に吹き付けるなんてまともじゃねえよ」
はんな「それで、そういうことかよ、とは?」
墨田「ふん。あの小僧には一度負けてるんだが、奴が元日本チャンプってなら納得もいく」
はんな「疑問。貴方はすず子さんにも負けたそうですが」
墨田「う、うるせえ、それは偶然だ」
墨田「とにかく、元日本チャンプと初物JKじゃ勝負は見えただろ」
はんな「……どうでしょうね」
すず子「はんなちゃん?」
はんな(一見すれば元日本チャンプ優位でゲームが進んでるようですが、あれは)
――バトル空間
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョー!!」
羽蛾「君は随分とぬるいプレイングをするんだねぇ」
羽蛾「顔が可愛いだけじゃ、セレクターバトルは生き残れないぜ」
羽蛾「タマムシとキアハでアタック!」
羽蛾「防御アーツもなしかい。拍子抜けだねぇ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、なら次は女王様で攻撃だぁ」
千夏「ノーガード」
メル「くっ!」
千夏「メル、耐えて」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョー!」
――観戦場
はんな「間違いありません」
はんな「すず子さんのお友達はわざと攻撃を受けています」
すず子「ど、どういうこと、はんなちゃん」
墨田「はぁ? 何だ、そりゃ? あの初心者、マゾってことかよ」
すず子「ちーちゃんはマゾなんかじゃないよ!」
はんな「すず子さん、落ち着いてください」
はんな「おそらく攻撃を受けているのには理由があるはずです」
墨田「何だよ、その理由って」
はんな「断言。カードゲームにおいて意図的に不自然なプレイングをする理由は一つ」
はんな「一撃で勝負を決められるコンボを狙っているんでしょう」
墨田「じゃあ勝つのは、あの初物JKの方ってことか?」
はんな「……」
はんな(確かにこのままゲームが進めば、すず子さんのお友達が勝利する可能性が高い)
はんな(しかし、相手はあのインセクター羽蛾)
はんな(雑誌のコラムを書く時に彼をことは軽く調べたことがあります)
はんな(日本チャンプから転げ落ちて以降、彼の戦績はお世辞にもいいとは言えない)
はんな(しかし結果は残せてはいないとしても、あの少年は色々な相手と戦ってきたはず)
はんな「……勝負はまだ、わかりませんね」
――バトル空間
羽蛾「ヒョヒョ、相手が初心者だろうが、俺は容赦なく行くぜ!」
羽蛾「クロハ、キアハをトラッシュに置く」
羽蛾「来た来た来た来た来た来た来た来たぁぁぁぁぁ!」
羽蛾「見ろぉ! これがウィクロスにおける俺のエースインセクトモンスター」
羽蛾「黒幻蟲アラクネ・パイダ召喚だぁ!」
羽蛾「レゾナが場に出たことによって女王様の能力発動、エナチャージ」
羽蛾「更にヘラカブトを出すぜ。こいつも強力なインセクトシグニだ」
羽蛾「ヒョーヒョヒョ、もう勝負は見えたな!」
羽蛾「俺はアタックフェイズに――」
羽蛾「――ひょ」
羽蛾(なーんか嫌な感じがするぜ)
羽蛾(あの娘の表情、負けてる奴の顔じゃねえ)
羽蛾(それにこれと似たような状況が何処かで……)
羽蛾(そうだ、KCグランプリ)
羽蛾(あの時、一ターン目からインセクトクイーンを召喚して優位に立ったと思っていたが、敵のコンボで瞬殺されちまったんだ)
羽蛾(まさか、あの小娘も何かコンボを狙ってるのか)
羽蛾「ヒョヒョ、一応用心しとくかねぇ」
羽蛾「俺はスペルキャッチリリースを使用、タマムシをバニッシュしてトラッシュからハナマキリを回収」
羽蛾「ハナマキリを場に出すことでカードをドロー」
羽蛾「続けてもう一度キャッチリリース。再度ハナマキリを回収」
羽蛾「ハナマキリを場に出してカードを一枚引く」
千夏(何かのカードを引こうとしている?)
羽蛾「ハナマキリをトラッシュに置いてから、女王様の起動能力発動」
羽蛾「ダウンさせることによってハナマキリを回収する」
羽蛾「ヒョヒョ、随分浅いところにいたな」
羽蛾「スペル、烈情の割裂」
メル「まずいよ、ちーちゃん。あのスペルは」
羽蛾「互いのプレイヤーのエナゾーンのカードを四枚にするピョー」
千夏「!」
羽蛾「キャッチリリースとボクマキリのインセクトコンボでエナを補充後、アタックフェイズに移行」
羽蛾「チャームの付いているシグニ一体をアラクネパイダは捕食することができる」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、アラクネの能力で空いた一面のみを攻撃するぜ」
羽蛾「さあ、そっちのターンだ」
千夏「……」
千夏(まさか黒のルリグでエナを焼いてくるなんて)
千夏(しかも、こちらに極力エナを与えないように動いてる)
メル(これじゃあコインのコンボからスーパーノヴァに繋げられないよ、ちーちゃん)
千夏(大丈夫、私は強くなった、すずを捨てる覚悟を決めたことで、私は強くなった)
メル(そうだね、ちーちゃん)
千夏「勝つのは私。コインベット」
メル「ベルセルク」
羽蛾「来たか、コイン能力!」
羽蛾「女王様、奴の能力はなんだ」
羽蛾「強制攻撃? もっと詳しくたのむぜ」
羽蛾「ヒョヒョ? ヒョヒョヒョ?」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョ――!」
羽蛾「あの小娘の狙いが分かったピョー」
羽蛾「そしてその攻略法もなぁ!」
千夏(次のターンに相手は攻撃しかできなくなる)
千夏(そこで――)
羽蛾「エンドオブハート、だろ」
千夏「!」
羽蛾「自分のシグニが破壊された瞬間、相手のシグニを爆殺しライフを回復するカウンターアーツだ」
千夏「っ! 分かったところでベルセルクを防ぐことはできない」
千夏「次のターン貴方は攻撃以外できなくなって」
羽蛾「ああ、次のターンはな。だからこのターンのアタックフェイズで俺はアーツを発動するぜ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ブラッディスラッシュとフォーカラーアイアズマ!」
羽蛾「お前の場のシグニを二体破壊だ!」
千夏「まさか、そんな」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョ、全ては俺の計算通り」
――観戦場
墨田「一体、奴らはどんな駆け引きをしてやがるんだ」
すず子「何が起こってるの、はんなちゃん」
はんな「確信。あの少年、性格はともかく実力は確かなようです」
はんな「エンドオブハートは対戦相手のターンにしか発動できないカウンター系アーツ」
はんな「自分のシグニが一体破壊されるたびに、相手のシグニを破壊しライフを回復する」
はんな「しかし、破壊されると分かっていて攻撃してくる相手はいない」
すず子「だから、ちーちゃんは、あのベルセルクっていうコイン能力と組み合わせて使ったってこと?」
はんな「正解。どうやらベルセルクというコイン能力は相手に強制攻撃させる効果があるようですから」
はんな「同時に対戦相手のアーツやスペルの使用を制限できるようですね」
墨田「だけどよぉ、ならなんであの小僧はアーツを使えたんだ」
はんな「補足。ベルセルクにはタイムラグがあると思われます」
はんな「効果が発動するのは次の相手のターンの間」
はんな「そしてベルセルク発動後、ターンプレイヤーであるすず子さんのお友達はアタックフェイズを行わなければならない」
はんな「アーツの中には対戦相手のアタックフェイズ中に発動できるカードも存在します」
はんな「ブラッディスラッシュとフォーカラーアイアズマ」
はんな「両方ともアタックフェイズに対戦相手のシグニをバニッシュできるアーツです」
墨田「シグニを破壊したら逆にエナがたまって、そのエンドオブハートってやつを打ちやすくなっちまうんじゃないのか」
はんな「不適切。エンドオブハートは緑1エナで打てるアーツ」
はんな「場のシグニが破壊されなくとも発動に支障は出ません」
すず子「逆に強制攻撃の際に破壊されるシグニがいなくなるから、カウンターをとれなくなる」
すず子「そういうことだよね、はんなちゃん」
はんな「……正解。すず子さんにはウィクロスの才能があるかもしれませんね」
墨田「お、俺にだって才能はあらぁ」
はんな「スーパーノヴァ発動に必要なエナを焼かれ、コイン技を攻略された」
はんな「確信。このバトルの勝者は決まりました」
――バトル空間
千夏(まだこちらの場には一体シグニが残ってる)
千夏(エンドオブハートを発動させられないわけじゃ)
羽蛾「行くぜ、俺のアタックフェイズ」
千夏(まだ攻撃宣言されてないのに、あの蜘蛛みたいなシグニが勝手に動き出して)
千夏(そう言えばさっきも!)
メル(あれは常時能力だよ、ちーちゃん)
千夏(常時能力!?)
メル(ベルセルクは相手の意思で発動する起動能力は制限できるけど、自動的に発動する常時能力までは防げない)
メル(効果耐性のあるシグニは意思がある間にアーツを使って処理。残りはアラクネパイダに捕食させる)
千夏(自分の場にシグニがいなくなったらエンドオブハートは無意味)
千夏(私のベルセルクが……完全に読み切られた)
羽蛾「行けええええ! インセクト軍団で総攻撃だぁ!!!」
――公園
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョー!」
羽蛾「これでコインが四枚になったピョー」
羽蛾「君は残念だったねぇ、コインが残り一枚になって」
羽蛾「多少腕に自信があるからって身の程を弁えず俺に挑むなんてさ」
千夏「私は強くなったはず、なのに」
羽蛾「ヒョヒョ、お前の強さなんて俺の前では何の意味もないんだよ!」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョヒョー!」
羽蛾「あ、そう言えば一度言ってみたいセリフがあったんだよね」
羽蛾「お前、弱いだろ」
千夏「っ!」
羽蛾「ヒョヒョヒョ! これは中々気分がいいねぇ」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ――!」
羽蛾「よーし、もう一度言うぞ。お前、よわ」
すず子「やめて、ちーちゃんを苛めないで!」
羽蛾「ひょ?」
千夏「……すず」
すず子「私と別れてからちーちゃんに何があったかは分からない」
千夏「……」
すず子「でも私にとってちーちゃんは今でも大切な友達だから」
羽蛾「ヒョヒョ、なら今から友達の敵討ちでもするかい」
すず子「……その勝負、受けて立つよ」
千夏「駄目、すず、こいつは強――」
千夏「!」
千夏(どうして私はすずを助けるようなことを、捨てようと決めたはずなのに)
羽蛾「ヒョヒョヒョ、バトルを始めるぜ、カードをかざしな」
はんな「否定。貴方の相手はすず子さんではありません」
羽蛾「ひょ?」
すず子「はんな、ちゃん」
はんな「不愉快。インセクター羽蛾。貴方の言動は目に余ります」
はんな「打倒。貴方のようなカードゲームプレイヤーの面汚しは、この私がドクターはんなの名にかけて倒します」
羽蛾「俺のことを知ってるのかい。もしかしてファンなのかな」
はんな「論外。貴方のような傲慢な人物のファンになどなりません」
羽蛾「多少可愛いからって、あんまり調子に乗らない方がいいぜ」
はんな「必然。私は事実を述べているだけですが」
羽蛾「ふん、ドクターはんな、ねぇ」
羽蛾「ウィクロス雑誌のレビューで名前を見たことがあるよ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、成程。ウィクロスの腕には自信があるってわけだ」
羽蛾「少なくとも、そこの素人三人よりは強いんだろうねぇ」
羽蛾「俺としてはわざわざ強い方と戦う必要もないんだけど」
羽蛾「ん? 墨田がいない。ヒョヒョ、逃げたか」
羽蛾(あのバトルを見て、この中の誰にも勝てないと悟ったんだろうね)
羽蛾(でもまだ相手はいるし、無理にこいつと戦う必要は)
はんな「軟弱。もしや勝負から逃げるつもりですか」
羽蛾「お、俺が弱虫だとでも言いたいのか」
羽蛾(つくづく気に障ることばかり言う奴だ)
羽蛾「……いいだろう。その勝負を受けてやる」
はんな「すず子さん、ご友人と退席ください」
すず子「でも、はんなちゃん」
はんな「対決。ここから先は彼と私のバトルです」
はんな「(それに、ご友人は貴方を庇おうとした)」
はんな「(迷走。彼女は迷っているはずです)」
はんな「(どのような結果になるにしろ、一度よく話し合ってみることをお勧めします)」
すず子「……ありがとう、はんなんちゃん」
すず子「行こう、ちーちゃん」
千夏「……」コク
羽蛾「ヒョヒョヒョ、それじゃあ始めるぜ」
羽蛾、はんな「「オープン」」
バトル空間
羽蛾「ヒョヒョヒョ、俺が先攻か。ドロー」
羽蛾「エナをチャージ、グロウ!」
羽蛾「ツクツクとハナマキリを配置してターンエンド」
はんな「開始。ツードロー。ナナシちゃんをグロウ」
はんな「召喚。羅菌クロコウジ。効果発動。ウイルス配置」
はんな「追加召喚。羅菌ヨグルティ」
はんな「攻撃開始。ヨグルティでツクツクにアタック」
羽蛾「ヒョヒョ、いきなりシグニを殴るのかい」
羽蛾「ドクターはんなとか呼ばれてる割にぬるいプレイングをするんだねぇ」
羽蛾「ウィクロスにおいてシグニは破壊されるとエナに変わる」
羽蛾「だから攻撃するのはライフクロスだけにするのが賢い戦略なのさ」
はんな「短絡的。それは浅知恵を言わざるを得ません」
羽蛾「な、なんだと!」
はんな「確かに常に全てのシグニでアタックするのはド素人のやることですが、シグニを一切攻撃しないなど初心者にありがちな安易な思考停止です」
羽蛾「何が言いたいんだ!」
はんな「臨機応変。シグニを攻撃するかどうかは、その場の状況や対戦相手のデッキにもよります」
はんな「幻蟲ツクツクはバニッシュされると相手のトラッシュからチャームを付けるカード」
はんな「最善。トラッシュにカードのない最初のターンに攻撃してしまえば効果は発動しない」
はんな「先程の貴方の言葉をそのままお返します」
はんな「滑稽。インセクター羽蛾というのは随分とぬるいプレイングをするのですね」
羽蛾「ば、馬鹿にしやがって」
はんな「攻撃を続行」
はんな「クロコウジでライフクロスをクラッシュ」
はんな「ナナシちゃんで攻撃です」
羽蛾「サーバントでガード!」
はんな「終了。ターンエンドです」
――数ターン経過
羽蛾ライフクロス2枚 はんなライフクロス3枚
羽蛾(まずい、ライフクロスは一枚差だが盤面的にはこちらが劣勢)
羽蛾(こうなった以上、コイン能力を使うしかないのか)
羽蛾(女王様のコイン能力はパラサイド)
羽蛾(その能力は――)
羽蛾「行くぜ、女王様、コインベット」
女王様「パラサイド」
はんな「これは……鱗粉?」
羽蛾「そうさ。このコイン能力は自分の場に三体の凶蟲のシグニがいる場合のみ使用可能」
羽蛾「毒鱗粉を散布して対戦相手のシグニ全てのパワーを8000ポイントダウンさせる!」
羽蛾「ヒョヒョ、一面空いたな。更にアラクネパイダでシグニを捕食し攻撃だ!」
はんなライフクロス3→1
羽蛾「行けぇ、女王様ぁ! クイーンズヘルブレス!」
はんな「サーバントでガード」
羽蛾「ちっ、まだサーバントを握ってたか」
はんな「交代。私の番ですね。ドロー」
はんな「……決断。こちらもコイン能力を使わせてもらいましょう」
羽蛾「ヒョヒョ、いいのかい。負けたら使ったコインは帰ってこないんだぜ」
はんな「愚問。この勝負に私が勝てば問題ありません」
はんな「ナナシちゃん、コインベット」
ナナシ「ブラインド」
羽蛾(奴のフィールドが黒い霧で包まれた?)
羽蛾(女王様、あれの効果を教えてくれ)
羽蛾(何? 黒い霧のせいで奴のコイン能力を把握できない)
羽蛾(くそ、あの霧に目くらましの役割があるってわけか)
はんな「召喚。これが私の切り札です。羅菌姫オイゴナ!!」
はんな「効果発動、感染状態のシグニ一体をパワーマイナス10000」
はんな「羅菌ラクチスを召喚し、アタックフェイズ移行」
羽蛾「ヒョヒョ、アラクネパイダの捕食効果発動」
羽蛾「今回はチャームの付いたシグニが二体いるから、お前はそのうち一体のシグニを」
はんな「不要。私にカードの説明はいりません」
はんな「私がバニッシュするのは羅菌ラクチス」
はんな「この瞬間、ウイルスコンボ発動!」
はんな「ラクチスがバニッシュされた瞬間、感染状態の全てのシグニのパワーをマイナス5000」
はんな「合計値。オイゴナでマイナス10000された箇所は15000マイナス」
はんな「破壊。アラクネパイダをバニッシュ」
羽蛾「捕食効果を利用して逆にアラクネパイダをバニッシュしただと!?」
羽蛾「俺の戦略の裏をかいていたのか!」
はんな「補足。レゾナシグニの欠点はバニッシュされてもエナが溜まらないこと」
はんな「よって、アラクネパイダがバニッシュされようとも貴方のエナは増えません」
羽蛾「おのれぇ、よくもアラクネパイダを。俺を本気で怒らせたことを後悔させてやる」
はんな「攻撃開始。空いた一面をオイゴナでアタック!」
はんな「続けてナナシちゃんでルリグアタック!!」
羽蛾(くそ、こちらはサーバントが手札にない)
羽蛾ライフクロス2→0
はんな「ターン終了」
羽蛾「まだだ! ここから巻き返してやる!」
羽蛾「俺はスペル、ワームホールを使用!」
羽蛾「こいつは蟲の数だけ使用コストを減らせるレアカードだ」
羽蛾「お前のオイゴナをバニッシュし、このターンの次のターンの間、そこに新たなシグニを配置できなくす、る?」
羽蛾「な、何故だ。何故、オイゴナが破壊されない!?」
はんな「回答。これがナナシちゃんのコイン能力、ブラインドの効果です」
はんな「このターンの間、私のシグニは対戦相手の効果の対象として選択されない」
羽蛾「ならシグニを出して、さっきアラクネの効果で空いた隙間から攻撃だ!」
はんな「好機。この瞬間を待っていました」
羽蛾「ひょ?」
はんな「アーツ発動、フェイタル・パニッシュ!」
羽蛾「お、俺のインセクトカードが全滅、しただと!?」
はんな「勝利宣言、これでゲームエンドです」
はんな「総攻撃。オイゴナ、インフル、ショウコカビでアタック!」
羽蛾(まずい、残りの防御アーツじゃ三面は防げない)
羽蛾「ぎょえええええええええええええええええええ!!!」
羽蛾「お、俺の昆虫が、や、られた」
はんな「断言。貴方のようなカードゲームプレイヤーの品格を落とす男に私は負けません」
――誰もいなくなった後の公園
「ふん、予想外の展開が続いたな」
「不機嫌みたいね、紅」
里見「森川千夏。とんだ期待外れだ」
カーニバル「あの羽蛾とかいう奴はどうなのかしら」
里見「インセクター羽蛾、ね。今一そそらないな」
里見「俺の目的は奴らが苦しむ姿を楽しみつつ」
里見「最終的にはゴミみたいな記憶に翻弄されない最強の生き物を育てて、それをぶっ壊すこと」
里見「あの小僧は駄目だ。多少カードゲームが上手いだけの三下」
里見「俺が育ててやる価値もない」
里見「小物枠なら墨田で足りてるんだよ」
里見「まあ穂村すず子や御影はんなもいるし、当分はそっちで遊ぶとするさ」
里見「もっとも、向こうから接触してきたなら、それを拒みはしないがね」
――後日、カードショップ
羽蛾(ドクターはんなめ! 許さないぞ、インセクター羽蛾の名にかけてリベンジしてやる)
羽蛾(新たなインセクトカードも手に入り俺のデッキは更に強化された)
羽蛾(あの女とバトルする前にコインを補充も兼ねて、他のセレクターとバトルしておきたいな)
「あのー、すいません」
羽蛾「ヒョヒョ?」
鳴海「セレクターの方ですよね。僕とバトルしてくれませんか」
羽蛾(カモが現れたピョー)
――バトル空間 数ターン後
羽蛾「女王様の攻撃! クイーンズヘルブレス!!」
鳴海「あやあああああああああああああ!」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、俺の勝ちだ」
――カードショップ付近
羽蛾「ヒョヒョヒョ」
羽蛾(これでコインは三枚。デッキの具合も悪くないピョー)
羽蛾「おい、金髪男」
鳴海「な、なんですか」
羽蛾「他に居場所を知ってるセレクターがいるなら教えな」
鳴海「それならブックメーカーを利用されたらどうでしょう」
羽蛾「ひょ? ブックメーカー、何だ、それ」
鳴海「セレクター同士のバトルをブッキングしてくれる里見さんっていう男性がいるんですよ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、いいね、そいつ。便利そうだピョー」
羽蛾(他のセレクターどもはそいつを使って相手を見つけてたのか)
羽蛾「じゃあ、そのブックメーカーのところに案内しな」
鳴海「今からですか」
羽蛾「あ、何か文句でもあるのか」
鳴海「いえ、そういうわけじゃないですけど」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、立場を弁える奴は嫌いじゃないぜ」
羽蛾「俺はデュエルモンスターズで日本チャンプだった男なんだからな」
鳴海「元日本チャンプ。道理で強いわけだ」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョ、褒めてもレアカードはやらないぜ」
――里見の喫茶店
里見「ん、鳴海さんじゃない。今日はどんな御用かな」
鳴海「あの、紹介したセレクターがいて」
里見「彼がそうなのかな、ふーん」
羽蛾「ヒョヒョ、俺のことを知ってるのか」
里見「いいや、知らないね。自己紹介してくれるかな」
羽蛾「ふん、覚えとけ。俺はデュエルモンスターズで日本チャンプだった男、インセクター羽蛾だ」
里見「はいはい。羽蛾君ね」
里見「じゃあこの契約書にサインして。それからメールアドレスも教えてね」
羽蛾「ひょ」
里見「あと俺がブッキングしたバトルは基本的に断れないから」
羽蛾「何だか面倒そうだピョー。まあ対戦相手が見つかるなら我慢してやるか」
羽蛾「……よし書き終わったぜ。じゃあ相手の都合がつき次第俺に連絡しな」
羽蛾「行くぞ、金髪」
鳴海「ぼ、僕にまだ何か用事でもあるんですか」
羽蛾「お前には俺のバトルの練習相手を務めさせてやる。光栄に思いな」
羽蛾(こいつ実力はあんまりだが、俺よりもウィクロスを長くやってるみたいだし、何かと役に立ちそうだピョー)
――市街地
千夏(あれからすず子と話し合って、私は本当の自分の気持ちに気づいた)
千夏(私がすずに縛られていたんじゃない、すずを縛っていたのは私だった)
千夏(本当はずっと一緒にいたかった。すずと本当の友達になりたかった)
千夏(だから私はすずの憧れになれるように振る舞っていた)
千夏(それを打ち明けた私をすずは受け入れてくれた。だから私は……)
すず子「これで三枚目。ようやく追いついたよ、ちーちゃん」
千夏「見ていて冷や冷やするバトルだったけど、貴方が勝てて安心した。おめでとう、すず」
千夏(すずと共にセレクターバトルを戦っていくことを決めた)
すず子「今日はこれからはんなちゃんの所に行くんだけど、ちーちゃんも一緒に行こうよ」
千夏「御影はんな。本当に信用できるの。だって彼女はセレクターなんでしょう」
すず子「大丈夫だよ、話してみたらとってもいい子だったから」
千夏「……すずがそう言うなら別にいいのだけれど」
すず子「それにはんなちゃん、とってもウィクロスに詳しいんだよ」
すず子「だから弟子になって色々教えてもらってるの」
すず子「はんなちゃんは私にとって師匠なんだ」
――カードショップ、バトルスペース
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ルリグでアタック」
羽蛾「これで俺の勝ちだぜ」
鳴海「やっぱり強いですね、羽蛾さん」
羽蛾「ヒョヒョ、俺が強いのは当然なんだけどさぁ」
羽蛾「セレクターバトルをしてた時も思ったけど、お前大したことないよねぇ」
鳴海「はは、はっきり言われるときついな」
あーや「笑ってる場合じゃないよね、お兄ちゃん」
羽蛾「ヒョヒョ、ルリグに自分をお兄ちゃんって呼ばせるのもどうかと思うぜ」
鳴海「僕には、その、本当に妹がいたんです」
鳴海「でも彼女はセレクターバトルに負けて、僕の元にもルリグが来たんですよ」
羽蛾「へー、そりゃ災難だったねぇ」
鳴海「僕が妹の相談に乗ってあげていれば、彼女が消えることはなかったかもしれない」
羽蛾「いやお前が何かしたって、その妹がセレクターを辞められるわけじゃないだろ」
羽蛾「お前もバトル弱いし、何も変わらなかったんじゃないの」
鳴海「……ははは、本当にきついなぁ」
羽蛾「ただお前が弱いままだと練習相手としては支障が出るピョー」
羽蛾「元日本チャンプの俺がカードゲームのテクニックってやつを教えてやるぜ」
鳴海「ホントですか、ありがとうございます」
羽蛾「まずはデッキの改造から手伝ってやるよ、お前の持ってるカードを見せてみな」
鳴海「はい。それと羽蛾さんのことは師匠って呼んでいいですか」
羽蛾「ヒョヒョ、師匠か」
羽蛾(日本チャンプじゃなくなって以降、俺に敬意を払う奴はいなくなっちまったからな)
羽蛾(こういうのは悪い気はしないぜ)
――公園
はんな「来ましたね、すず子さん」
すず子「はい、師匠」
はんな「おや、意外。貴方も一緒ですか」
千夏「すず子の友達である私が一緒にいるのは当然でしょう」
千夏「それに、この公園は、私とすず子の思い出の場所だから」
はんな「困惑。貴方の態度からは何処となく敵意を感じるのですが」
はんな「仇討。私はインセクター羽蛾を倒したのですから、一応、貴方の仇を取ったことになると思いますが」
千夏「それについては感謝してるけど」
すず子「もう、二人ともギスギスするのはやめてよ」
すず子「みんな仲良くするのが一番だよ」
千夏「すず、ごめんなさい。私、また」
すず子「気にしないで、ちーちゃん」
すず子「今日はいっぱいお菓子作ってきたから皆で」
すず子「あれ、メールが」
千夏「私の方にも」
すず子、千夏「「!」」
はんな「どうしました?」
千夏「里見からのメール。これからすずとバトルしろって」
はんな「確認。どうやらすず子さんの方には千夏さんのバトルを強制するメールのようです」
はんな「策略。あの男の考えそうなことです。和解したお二方の関係を再び引き裂くつもりなのでしょう」
はんな「バトルを拒否した場合、ブックメーカーと契約している他のセレクターとはバトルができなくなりますが」
すず子「バトルしよう、ちーちゃん」
はんな「疑問。そんなに簡単に決めていいのですか」
はんな「お二方のコインは三枚と聞きます。いかにブックメイカーと言えど全てのセレクターを掌握しているわけではありません」
はんな「ここで互いにコイン移動をするよりも、残り二枚は野良のセレクターを探すという選択肢もありかと思われます」
はんな「挑戦歓迎。それに私で良ければ相手になりますよ。無論、負けるつもりはありませんが」
すず子「大丈夫だよ、はんなちゃん」
すず子「コインを使用しなければ互いに脱落することはないんだから」
すず子「友達だからこそ、互いに手加減抜きでバトルする」
すず子「そうだよね、ちーちゃん」
千夏「ええ、その通りよ、すず」
はんな「……羨望。お二方の関係、少し羨ましく思います」
はんな「そして、このバトル。ドクターはんなが見届けさせてもらいます」
――数週間後、カードショップ
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ブックメーカーから紹介された相手を倒してコインが四枚になったピョー」
鳴海「僕もコインが一枚増えましたよ」
羽蛾「ほぉ、鳴海君も勝てたのかい。良かったじゃないか」
鳴海「羽蛾さんのアドバイスでデッキに入れた大幻蟲 §オタガメ§が活躍しました」
鳴海「トリックデッキに凶蟲のシグニを入れるなんて発想、僕じゃ到底思いつきませんでしたよ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、インセクトカードは万能なんだぜ。昆虫の偉大さが君にも分かったかな」
羽蛾「それじゃあ俺はあの娘と決着をつけて一足早くバトルを抜けるとするよ」
鳴海「あの娘?」
羽蛾「ドクターはんなとかいう生意気な小娘さ」
鳴海「僕も名前は知ってますよ、彼女セレクターだったんですね」
羽蛾「ところで鳴海君。確実に勝つためにある細工をするから、君に協力してもらいたいんだが」
鳴海「細工?」
羽蛾「その内容は―――――なんだけどさ」
鳴海「だ、駄目ですよ、そんな卑怯なことしちゃ!」
羽蛾「卑怯? ヒョヒョ、これは戦略だ」
羽蛾「どんな手を使っても最終的に勝てばいいんだからね」
鳴海「見損ないましたよ、羽蛾さん」
羽蛾「ふん、あくまで引き受けないつもりか」
鳴海「……」
羽蛾「ならお前なんてもう破門だ。弟子失格。さっさと失せな!」
鳴海「羽蛾さん!」
羽蛾(ちっ、こいつが使えなくてもまだ方法はあるんだよ)
――後日、裏路地
「俺を里見経由でこんなところに呼び出しやがって」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、君がしぶとく生き残っていてくれて嬉しいよ」
羽蛾「墨田君」
墨田「……」
羽蛾「しかし君のコイン、随分と黒ずんでるねぇ」
羽蛾「ヒョヒョ、それが最後の一枚なんだろ」
羽蛾「相変わらず初心者狩りで生き延びて、それも限界が来たってところかな」
墨田「さっさと本題に入りやがれ。例の話、本当なんだろうな」
羽蛾「ああ、君が俺の頼みごとを聞いてくれたらコインを一枚やろう」
羽蛾「具体的には一試合わざと負けてやる」
墨田「簡単には信用できねえな。反故にして、また殺虫剤でも吹き付けてくるんじゃないのか」
羽蛾「ヒョヒョ、抜け目がないねぇ」
羽蛾「いいだろう。なら先払いにしてやる」
墨田「……それなら反故にはできねえか」
墨田「それで頼みごとってのは何なんだ」
羽蛾「ヒョヒョ、それは――」
――学校付近
はんな(ようやくコインが四枚集まりました)
はんな(すず子さんと千夏さんもあれから順調にコインを集めているようですが、最初に勝ち抜けるのは私になりそうですね)
はんな「おや、貴方は確か」
墨田「やあ、御影さん」
はんな「墨田さん、でしたか?」
はんな「確認。ここに来たということはセレクターバトルのお誘いということですね」
墨田「ああ、そうだよ」
はんな「了解。その勝負、御受けしましょう」
墨田「へえ、学校帰りなのにデッキを持ってるんだ」
はんな「当然。セレクターとしては当たり前のことです」
墨田「あれ、そのデッキ、ちょっと変じゃない」
はんな「疑問。変とはどういうことでしょう」
墨田「ほら、そこのところ、なんか汚れみたいなのが、さ」
はんな「汚れ? そんなものは付いて、なッ!」
ナナシ「はんな様、あの男デッキを奪って、逃げていきます!」
はんな「追跡! 逃がしなどしません」
――路地
はんな「投擲。ペットボトルを投げつけます!」
墨田「ぐえ」ドタ
はんな「捕縛。捕まえました」
はんな「要求。デッキを返しなさい!」
墨田「わ、分かった。返す、返すから」
はんな「質問。一体何のつもりですか」
はんな「私のデッキを奪ったところで貴方のコインは増えませんよ」
墨田「そ、それは」
はんな「警告。警察に突き出してもいいんですよ」
墨田「分かった本当のことを言うよ!」
墨田「あいつだ。あの小僧、インセクター羽蛾」
墨田「奴にあんたのデッキを奪ってこいって言われたんだ」
はんな「あの子供、私に負けた腹いせになんてことを」
はんな「あなたはそれを引き受けたんですか」
墨田「仕方なかったんだ。あの後、俺は奴ともう一回バトルしたんだけど負けて、グズ子を、ルリグを奪われちまったんだ」
はんな「ルリグを奪われた!?」
ナナシ「んー、確かに今の彼はルリグを持っていないようですわね」
墨田「グズ子を返してほしかったら、あんたのデッキを盗ってこいって」
墨田「ドクターはんなのデッキと交換でグズ子を返してやるって言い出したんだよ」
はんな「激怒。セレクターの生命線とも言えるルリグを奪うとは許されることではありません」
はんな「……分かりました。墨田さん。あなたのルリグは私が取り返してきましょう」
墨田「ほ、本当か、ありがとう」
はんな「制裁決定。あの子供にはもう一度きついお仕置きが必要なようですね」
墨田「あいつはカードショップの裏にいるはずだ」
はんな「行きますよ、ナナシちゃん」
ナナシ(なーんか引っかかりますわねー)
――カードショップ裏
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョ、あれぇ、はんなちゃん」
羽蛾「こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」
羽蛾「それとも俺に用事でもあるのかな」
はんな「とぼけても無駄です。はやく彼のルリグを返しなさい」
墨田「……」
羽蛾「ちっ、何だよ、失敗したのかよ、役に立たない奴だなぁ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、まあいい。ばれちまったんなら仕方ない」
羽蛾「ほら、ルリグだ」
グズ子「ご、ごめんなさぁい」
羽蛾「それでぇ、墨田のルリグを取り戻すためだけに来たんじゃないんだろ」
はんな「無論、私とバトルしてもらいます」
羽蛾「断るという選択肢もあるが、いいだろう」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、その勝負を受けてやる」
はんな「不本意。最後のバトルの相手が貴方のような性根の腐った男というのは残念ですが」
はんな「全力全開。手加減抜きで叩きのめしてあげます」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョー、やってみなぁ!」
羽蛾、はんな「「オープン」」
――バトル空間
はんな「勝負開始。では、まず手札を引い、て?」
はんな初手
羅石マクリ【花代限定】
幻水ウナ【エルドラ限定】
羅菌クロカビ
幻獣コアラン【緑子限定】
コードアンチ コスタリク【ウムル限定】
はんな「!?」
はんな(意味不明。どうしてデッキに入れた覚えのないカード、が)
はんな(他のルリグの限定カードなんて、ナナシちゃんでは場に出すこともできないのに)
はんな「……」
はんな(ッ! 墨田が私のデッキに不要なカードを仕込んで)
はんな(必然。ならそれを指示したのは……)
羽蛾「ヒョヒョ?」
はんな「卑怯者。あなたという人は、何処まで卑劣な真似を」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョ―――!」
羽蛾「卑劣な真似ぇ?」
羽蛾「優れた戦略家というのは戦う前から準備を怠らないものなんだよ」
羽蛾「そもそも、バトルの前にデッキを確認しなかったお前が悪い」
羽蛾「俺に文句をつけるのは言いがかりなんじゃないの」
ナナシ「あらあら、一理ありますわね」
はんな「確認。どっちの味方なんですかなんですか、ナナシちゃん」
ナナシ「もちろんはんな様の味方ですわ」
はんな(不覚。怒りのあまり勝負を焦って、デッキ確認を怠ったのは私のミス)
はんな(想定外。しかし他人のデッキを改造するなんてふざけた戦略を実行するセレクターがいるなんて)
はんな「ウィクロスにおいて初手は任意枚数引き直しが認められています」
はんな「交換。私は4枚の手札を入れ替えます」
はんな(……多少はマシになりましたが、やはりこれはきつい)
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョー! お前は蜘蛛の巣に捕らえられた獲物も同然なんだよ!」
――数ターン後
羽蛾ライフクロス5枚 はんなライフクロス3枚
はんな(劣勢。状況的にかなり不利です)
はんな(ライフクロス差や盤面状況もですが、何よりエナが足りない)
はんな(他シグニの限定カードは場に出すことはできなくても、一応エナにすることは可能)
はんな(しかし、赤や青のエナではナナシちゃんのグロウコストにはならない)
はんな(既に向こうのルリグがレベル4にグロウしてるのにナナシちゃんはレベル2)
はんな(発生。グロウ不全。黒エナが足りないせいでレベル3にグロウできない)
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョー、動きが鈍いねぇ」
羽蛾「こっちは遠慮なく行くぜ、これがアラクネパイダに並ぶ、インセクトシグニの超レアカード」
羽蛾「場の凶蟲二体と手札の凶蟲一枚をトラッシュに送り……」
羽蛾「黒幻蟲オウグソク・フルアーマーをレゾナ召喚!!」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ヒャハハハハァ! 来た来た来た来た来た来たァァァァ!!!」
羽蛾「こいつには登場時に対戦相手のチャームがついたシグニ全てを合計でマイナス15000する超強力効果がある」
羽蛾「お前の場の雑魚シグニどもを全て破壊だぁ!」
はんな(全滅。私の場のシグニが全てバニッシュされたッ!)
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョー、オウグソク・フルアーマーに続きアラクネパイダをレゾナ召喚」
羽蛾「行けぇ、蟲軍団で攻撃だぁ!」
はんなライフクロス3→0
羽蛾「女王様の攻撃ッ! クイーンズヘルブレス!!」
はんな「サーバントでガード」
羽蛾「ヒョヒョ、ターンエンド」
はんな「ナナシちゃんをレベル3にグロウ」
はんな(防戦。ここは壁を並べて凌ぐしかありません)
はんな「羅菌ヨグルティを場に出しま」
はんな(しまった。アラクネパイダとオウグソク・フルアーマーが並んでるということは)
羽蛾「ヒョヒョ、あれぇ、君さぁ、前に俺になんて言ったっけ?」
羽蛾「私にカードの説明は不要、だっけ」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョー、それにしては随分間抜けなプレイングをするねぇ」
羽蛾「この瞬間、アラクネパイダの効果発動」
羽蛾「対戦相手のシグニにチャームを付加する」
羽蛾「そしてチャームが付いたシグニはオウグソク・フルアーマーの常時能力によってマイナス5000され、自動的に破壊されるのさ」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョ!!」
羽蛾「つまりお前が出したパワー5000以下のシグニは片っ端から俺の蟲の餌になるんだよ!」
はんな「……ターンエンド」
羽蛾「ヒョヒョ、このターンで決めるぜ」
羽蛾「祝砲替わりだ。くらえ、オウグソク・フルアーマーでアタック!!」
――歩道橋
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョー、実に気分がいいねぇ」
羽蛾「結局、細工のために墨田に一枚渡しちまったからコインは四枚どまりだが、ドクターはんなを倒せたんだからよしとするか」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、コインについては里見に適当な相手を紹介させて、そいつを倒せばいい」
羽蛾「それでセレクターバトルから抜けられるピョー」
「あら、お久しぶりということになるのでしょうか」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾(この女、誰だっけ)
「貴方がまだコインが一枚だった頃にバトルしたセレクターのルリグと言えば分るでしょうか」
羽蛾「ひょひょ?」
羽蛾「あー、そんな奴もいた気がするピョー」
羽蛾「確かゆきめ、だったっけ?」
羽蛾「ルリグと入れ替わったってことは、そいつコインを失ったのか」
ゆきめ「そういうことになりますね」
羽蛾「で、そんな歩道橋に身を乗り出して、お前何しようとしてるわけ」
ゆきめ「自殺です」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾「おいおい、何だよ、今せっかく良い気分になってるのに、目の前で人が死んだら、その気分が台無しじゃないか」
ゆきめ「……はぁ、何というか、バトルをしていた時も思いましたが、貴方は本当に最低の性格のお方ですね」
羽蛾「人の体乗っ取って、勝手に自殺しようとしてる奴に言われたくないピョー」
ゆきめ「それは確かにそうかもしれませんが、私だって好きで体を乗っ取ったわけではありませんよ」
羽蛾「ヒョヒョ、で、何で死のうとしてるわけ?」
ゆきめ「この体を手に入れてから、何の刺激もない退屈な毎日を生きてきました」
羽蛾「退屈ぅ? ウィクロスはやらないのか。面白いゲームだろ、これ」
ゆきめ「元ルリグの身としては、ウィクロスを素直に楽しむことはできないんですよ」
羽蛾「ヒョヒョ、ルリグじゃない俺には分からない感覚だねぇ」
ゆきめ「もう、うんざりなんですよ。生きるなんて苦痛に満ちた行為」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、それはお前が楽しいことを知らないだけなんじゃないの?」
ゆきめ「何が言いたいんでしょう」
羽蛾「お前さぁ、カードゲーム自体が嫌いなわけじゃないんだよな」
ゆきめ「ええ、別に好きも嫌いもありません。ただウィクロスには抵抗感があると」
羽蛾「ならデュエルモンスターズをやればいいピョー」
ゆきめ「デュエルモンスターズ? 何ですか、それは」
羽蛾「ヒョヒョヒョー、デュエルモンスターズも知らないなんて、人生の大半を損してるぜ」
ゆきめ「ですから、デュエルモンスターズというのは何なんですか」
羽蛾「デュエルモンスターズは最高のカードゲームだ」
羽蛾「あれをやらずに人生に退屈したとか、ヒョヒョヒョヒョー」
羽蛾「お前ほんとに馬鹿だねぇ」
ゆきめ「……いいでしょう。そこまで言うなら、そのデュエルモンスターズとやらをやってみましょう」
ゆきめ「それがつまらないと判断したら自殺を実行します」
ゆきめ「ああ、ご安心を。その時は貴方を不快にさせないように人目につかない所で死にますので」
羽蛾「ヒョヒョ、いい心がけだ」
羽蛾「デッキを組んだら大会に参加してみな。腕を磨けるぜ」
羽蛾(素人が大会に増えれば楽に勝ちやすくなるピョー)
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョー!」
――数週間後、路地
はんな「ふ、不覚。また勝ちきれませんでした」
はんな(あの場面であんなプレイングミスをしなければ)
はんな(せっかく四枚まで増やしたコインがまた三枚に)
はんな「悪循環。最近はずっとこの調子です」
はんな(あの卑怯者に負けてから、どこかプレイングが噛み合わない)
はんな(一切勝てないわけではなく、むしろ勝率自体は高いのですが、ここ一番の場面で勝ちきれない)
はんな(千夏さんは既にコインを五枚集めてバトルから抜け、すず子さんも四枚目を手に入れてリーチをかけている)
はんな(師匠として弟子に先を越されるわけにはいきませんね)
はんな「再挑戦。ブックメーカーに依頼して新たな対戦相手を」
ナナシ「あのー、はんな様」
はんな「何ですか、ナナシちゃん」
ナナシ「大変申し上げにくいのですが……」
ナナシ「時間切れですわ」
はんな「……え?」
ナナシ「ああ、ご心配なさらず、コインは三枚残ってますので、比較的記憶の欠損の少ないままセレクターバトルを終えることができます」
ナナシ「私と体が入れ替わるということもありません」
はんな「待って、まだ私は」
ナナシ「はぁ、何というか、これは私としても非常に不本意な結果なのですわ」
ナナシ「真実を知って絶望の表情に歪むはんな様を見たかったのですが」
はんな「一体、何を言って」
ナナシ「しかし、真実に至ることなく悩みを抱え続けるはんな様というのもまた一興」
ナナシ「実際、知らない方が幸せなことというのも世の中にはありますわぁ」
ナナシ「それでは、はんな様、ごきげんよう」
はんな「ちょっと待って、待ってください!」
はんな「ナナシちゃん、ナナシちゃん!」
はんな「ナナシちゃん!!」
はんな「ナナシちゃん――――!!!」
――後日、カードショップ付近の路地
羽蛾「里見の奴に対戦相手を要求してから、それになりに時間が立つが、まだ返信がこない」
羽蛾「あいつも便利そうで、案外使えないな」
「いた、インセクター羽蛾」
羽蛾「ひょ? 君は確か公園にいた」
すず子「……穂村すず子」
羽蛾「ヒョヒョ、すず子ちゃんか」
羽蛾「おいおい、何だか、顔が怖いねぇ」
すず子「心当たりがないとは言わせない」
羽蛾「ああ、はんなちゃんの事か」
羽蛾「あれは公正なバトルの結果だろう。恨むのは筋違いだピョー」
すず子「卑怯な勝ち方をしたっていうのは聞いてる」
すず子「はんなちゃん、貴方に負けてから調子が出なくなって、時間切れになっちゃったんだよ」
羽蛾「ヒョヒョ、ルリグと入れ替わりでもしたのかい? それとも君に関係する記憶がなくなったとか」
すず子「そんなことにはなってないけど」
羽蛾「ヒョヒョ、ならいいじゃないか」
すず子「良くないよ。はんなちゃんには失われた記憶があって、それを取り戻すためにセレクターバトルを戦ってた」
すず子「なのに卑怯な手を使われて負けたせいで」
羽蛾「そんなこと知らないピョー」
すず子「貴方って人は!」
羽蛾「それでぇ、結局すず子ちゃんは何をしに来たんだい」
すず子「私にとってはんなちゃんは大切な友達で」
すず子「尊敬している師匠だから」
すず子「師匠の仇は私がとる」
羽蛾「……」
羽蛾「……ふん、やれるもんならやってみな」
羽蛾「お前を倒して、さっさとセレクターバトルから抜けてやるぜ」
羽蛾、すず子「「オープン」」
――バトルフィールド
羽蛾(穂村のコインも四枚か。つまり、この勝負勝った方がバトルから抜けることができる)
羽蛾「当然、勝つのは俺だ!」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ついてるぜ、先攻だ」
羽蛾「エナをチャージ。女王様をグロウ」
羽蛾「ツクツク二体を配置。ターンエンド」
すず子「エナをチャージ。リル、グロウ」
すず子「ノヒメとコウキンを場へ」
すず子「アタックフェイズ。ノヒメでツクツクにアタック」
羽蛾「ちっ、師匠の教えをしっかり守ってますってか?」
羽蛾「ヒョヒョ、調子に乗るんじゃないぜ、俺は元日本チャンプ」
すず子「関係ない! 貴方がどこの誰であろうと、私は貴方を倒す!」
すず子「コウキンでアタック。リル、ルリグアタック!」
羽蛾「エイフドでガード」
羽蛾「ヒョヒョ、こいつは数あるシグニの中でも珍しい、ガードの能力を持ったインセクトカードだ」
羽蛾「ヒョヒョ、昆虫デッキの恐ろしさを味わわせてやるピョー」
――数ターン後
羽蛾ライフクロス4 すず子ライフクロス1
すず子「リル、コインベット」
リル「オーネスト」
羽蛾「ヒョ?」
すず子「貴方の手札を全て見せて」
羽蛾(ちっ、面倒なコイン能力だな)
羽蛾「だが、手札を見られるだけなら」
すず子「アーツ、ディストラクトスルー!」
羽蛾「何!?」
すず子「これはカード名を宣言して、それが正解なら捨てさせる効果を持つ青のアーツ」
羽蛾(コイン能力を利用したコンボか!)
羽蛾(赤のルリグでハンデスをするなんて、俺の発想の斜め上を行く奴だ)
すず子「宣言するカード名は幻蟲エイフドと大幻蟲ヴェスパ」
羽蛾(ま、まずい、両方とも手札に二枚ずつあるカードが)
羽蛾「合計四枚のカードを捨てさせただとぉ」
羽蛾(しかもエイフドがなくなったことで、ルリグの攻撃を防げない)
すず子「シグニとルリグで総攻撃!」
羽蛾ライフクロス4→1
羽蛾(消耗が激しい。このターンで勝負を決めきゃヤバい)
羽蛾(おそらくあの娘の狙いは火竜点睛によるカウンター)
羽蛾(高パワーの武勇シグニをライズ召喚して、俺の場のインセクトカードを一掃するつもりだ)
羽蛾「ヒョヒョ、お前の戦略は見切ったぜ」
羽蛾「コインベットだピョー」
女王様「パラサイド」
羽蛾「毒鱗粉を散布してお前の場のシグニのパワーを8000ポイント低下」
羽蛾「ヒョヒョ、更に俺はこのアーツを発動するぜ」
羽蛾「アンシエント・サプライズ!!」
羽蛾「こいつは数ある黒属性のアーツの中でもかなりのレアカードだ」
羽蛾「俺のトラッシュにカードが二十枚以上ある場合、全てのシグニをマイナス8000する」
羽蛾「毒鱗粉と合わせてマイナス16000。お前のシグニは全滅だぁ」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョー!」
羽蛾「フィールドががら空きになったな」
羽蛾「これで火竜点睛は打てないピョー」
羽蛾「インセクトシグニを展開して総攻撃ッ!」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ヒャハハハハ、俺の勝ちだぁ!!」
すず子「……何、勘違いしてるの」
羽蛾「ひょ?」
すず子「私が発動するアーツは火竜点睛だけじゃないよ」
すず子「アーツ、クライシスチャンス!」
すず子「自分のフィールドにシグニが一体もいない時、手札からシグニを一体場に出せる」
羽蛾「ま、まさか、俺の戦略の更に裏をかいて」
すず子「そして二枚目のアーツが火竜点睛」
すず子「今場に出した武勇シグニに矜持の豪魔オダノブをライズ!」
すず子「対戦相手のパワー15000以下の全てのシグニをバニッシュ」
羽蛾「お、俺の昆虫軍団が」
羽蛾(まずい、既にクマムスは破壊されている。もう三面防げるほどの余力はない、このままじゃ)
すず子「私のターン!」
すず子「四郡の南王モウカク、美学の海賊リリアナを場へ」
すず子「アタックフェイズ!」
すず子「これで終わり、シグニとルリグで総攻撃」
羽蛾「じょ、女王様ああああああああああああああああああああ!!」
――カードショップ付近の路地
羽蛾「バ、バカな。元日本チャンプの俺がこんな素人の小娘に」
羽蛾「もう一回だ! もう一回やれば俺が」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾(いや、待て。この娘、既にコインが四枚だった。つまり)
すず子「ありがとう、リル」
すず子「……さようなら」
羽蛾「お、俺よりもこんな小娘が先にバトルを抜けただと」
羽蛾「認めないぞ、俺はこんな結果」
羽蛾「おい、穂村!」
すず子「何?」
羽蛾「お前、まだウィクロスは続けるんだろうな!」
すず子「……やめるつもりはないよ」
すず子「辛いこともあったけど、私にとってウィクロスはリルとの絆の証だから」
すず子「それに、ウィクロスを通してちーちゃんと心を通わせることができたから」
羽蛾「お前の事情なんてどうでもいい」
羽蛾「ウィクロスを続けるっていうなら大会に出な!」
すず子「大会?」
羽蛾「ヒョヒョ、大会も知らないのか」
羽蛾「ウィクロスの大会、ウィクロスパーティーさ」
羽蛾「大勢のウィクロスプレイヤーが集まってバトルするんだぜ」
すず子「色んな人とバトルができるのはちょっと面白そう」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、呑気な奴だ!」
羽蛾「俺もさっさとセレクターバトルから抜けて、ウィクロスパーティーの場でお前を完膚なきまでに叩きのめしてやるからな」
羽蛾「この屈辱は100倍にして返してやる。精々首を洗って待ってな!」
――後日、公園付近
羽蛾「里見の奴から連絡がないし、今日はこの辺りを徘徊してセレクターを探すピョー」
「こんちには、セレクターさんですよね」
羽蛾「ひょ?」
莉緒「私とバトルしてください」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、子供が相手でも俺は容赦しないぜ」
羽蛾、莉緒「「オープン」」
――バトル空間 数ターン後
羽蛾「ヒョヒョヒョ――!」
羽蛾「インセクト軍団と女王様で総攻撃だぁ!」
莉緒「ママァァァァァァァァァァァァァァ!!」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョ、ヒャハハハハハハハハハァー!」
――公園付近
羽蛾「お前みたいな子供が元日本チャンプの俺に勝てるわけないだろ!」
羽蛾「身の程を弁えな! ヒョヒョヒョヒョヒョヒョー!!」
莉緒「う――」
羽蛾「ひょ?」
莉緒「うええええええええええええええええええん!」
羽蛾「お、お前、ちょっと待て!」
羽蛾「そんな大きい声で泣き出したら」
「あら、何あれ」
「女の子を苛めてるのかしら」
「酷いことするわね」
羽蛾「俺はセレクターバトルで勝っただけで何も」
羽蛾「ちっ、おい子供。そこの公園でアイス買ってやるから泣き止みな」
莉緒「え、アイス買ってれるの」
羽蛾「ああ、買ってやる。だから大声でわめくな」
莉緒「うん、わかった」
――公園
羽蛾「まったく、無駄な出費をしちまった」
莉緒「お兄ちゃん、名前は何ていうの」
羽蛾「あ? 羽蛾だよ。インセクター羽蛾」
莉緒「私は莉緒だよ」
羽蛾「ふん、アイスを買ってやった途端に泣き止みやがって」
羽蛾「親の顔が見てみたいぜ」
莉緒「それは無理だよ、ママはもうこの世にいないから」
羽蛾「……」
莉緒「でも大丈夫。セレクターバトルで勝てばママが戻ってくるから」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾(セレクターバトルで勝っても自分の記憶をいじれるだけじゃなかったか?)
莉緒「莉緒ね、バトルに勝ってママが死んじゃった思い出を消してもらうの」
莉緒「そしたらママが死んだことがなしになるでしょ」
羽蛾「はぁ? なぁに言ってんだ、お前」
莉緒「莉緒、何かおかしなこと言った?」
羽蛾「おかしいも何も記憶を消したところで、その事実がなかったことになるわけないだろ」
羽蛾(それでなかったことになるなら、俺だって遊戯や城之内に負けた記憶を消すぜ)
莉緒「じゃあ莉緒はどうすればいいの」
羽蛾「そんなこと俺が知るわけないピョー」
「子供が泣かされてるって周りの人たちが話してたから来てみたけど」
羽蛾「ひょ?」
千夏「貴方だったのね。子供を苛めていたのは」
羽蛾「緑のルリグ使いか。もう一人知らない男がいるな」
羽蛾「ヒョヒョ、何、こいつもセレクターなのか、女王様」
白井「その変な笑い方、このメガネの子供が森川の言ってた卑怯なセレクターか」
羽蛾「ヒョヒョ、卑怯とは心外だねぇ」
羽蛾「それで、どっちが俺とバトルするんだい」
千夏「私はもうセレクターじゃない。コインを五枚集めてバトルから抜けたの」
羽蛾「それじゃあ、こっちの男と」
千夏「白井君もバトルはしない」
羽蛾「はぁ? おいおい俺も随分嫌われたもんだねぇ」
白井「いや、相手があんたじゃなくてもバトルはしないよ」
羽蛾「ひょ?」
白井「俺は他人を傷つけてまでセレクターバトルをするのが嫌なんだ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、理解できないねぇ」
羽蛾「それで逃げ切ることにしたのかい」
羽蛾「その方法だと随分記憶が欠損することになるって話じゃないか」
白井「……確かに、それは怖かった。でも」
千夏「私が覚えてる。私が覚えてる限り白井君の記憶はなかったことにはならない」
千夏「だから彼は戦わないの」
千夏「バトルは諦めなさい」
羽蛾「ヒョヒョ、そうかい、そうかい。ならお前らに用はないピョー」
千夏「はやく彼女から離れて」
羽蛾「言われなくてもそうするぜ。じゃあな子供」
千夏「もう大丈夫よ、何か怖いことされなかった」
莉緒「ううん、大丈夫」
莉緒「アイスありがとう、羽蛾お兄ちゃん」
千夏「?」
――後日、市街地
羽蛾「やっぱりあてもなく街を徘徊するだけじゃ、中々セレクターが見つからないピョー」
羽蛾(里見の奴は俺にまったく連絡を入れて来ないし我慢の限界だ)
羽蛾(これからあいつの喫茶店に直接出向いてやる)
羽蛾「ひょ?」
羽蛾「ヒョヒョヒョ! あそこにいるのは里見じゃないか」
羽蛾「喫茶店に出向く手間が省けたピョー」
羽蛾「さっそく奴に文句を言って、ん、どうした女王様」
羽蛾「……はぁ?! 里見がセレクター?」
羽蛾「一体、どういうことだ」
羽蛾「……どこかに向かってるみたいだな」
羽蛾「ヒョヒョ、とりあえず奴の後を付けてみるか」
――人気のない建物
羽蛾「もう一人セレクターの気配がする?」
羽蛾「なるほど、読めたぜ。里見の奴はバトルをするつもりなんだな」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾「あいつは、鳴海か」
羽蛾(何か話してるな、ひょ、鳴海が里見に掴みかかった)
羽蛾(温和なあいつにしては珍しい。何を言われたんだ)
羽蛾「ヒョヒョヒョ、バトルが始まるみたいだな」
――観戦場
羽蛾「里見のコインは一枚、鳴海は二枚」
羽蛾(里見がどれほどの力量かは知らないが、コイン一枚ってことは大したことはないんだろ)
羽蛾「レベルの低いバトルになりそうだピョー」
――数ターン経過後
羽蛾(聞こえてくる会話によれば、里見は元ルリグで今はセレクターの身分を隠しながらブックメーカーをやっていたらしい)
羽蛾(ルリグ時代に鳴海の妹を葬ってやったと楽しそうに語っている)
羽蛾(カードプレイングの腕も鳴海とは比べものにならない)
羽蛾「……」
羽蛾「勝負は見えたな」
羽蛾(あとは鳴海がどう負けるかだが)
羽蛾(コインをベットして負ければ消滅か)
羽蛾(里見の奴、鳴海を挑発してコインをベットさせようとしてるようにも見えるぜ)
羽蛾(あいつ、妹の話になると熱くなるしな)
羽蛾(……これは終わったか)
羽蛾(俺の予想に反して鳴海のやつは最後までコインを手放さなかった)
――人気のない建物
里見「はっ、コインをベットする気概もないとは腰抜けだな」
鳴海「……」
里見「お前ならコイン二枚からでも消滅させられると思ったんだけどねぇ」
鳴海「……」
里見「いやいや、ある意味予想外だったよ、鳴海さん」
里見「妹の仇を前にしても勝負に出られない臆病者だったとはね」
鳴海「……」
里見「ふん、反応なしか。つまらないな」
里見「まあいいさ、もうお前には何の興味もない」
里見「行くぞ、カーニバル」
――物陰
羽蛾(里見のルリグは赤属性でカーニバルとかいう名前らしい)
羽蛾(そして真に驚愕すべきは奴のルリグのコイン能力ジョーカー)
羽蛾(女王様はコインが使われた瞬間、その全ての能力を明らかにする)
羽蛾(女王様の話ではジョーカーには複数の能力があり、鳴海相手に使った場のカードを入れ替えるというものだけじゃなく)
羽蛾(相手のサーバントを無色に書き換えたり、揚句の果てには他のルリグのコイン能力を使うことまで出来るそうだ)
羽蛾「……ヒョヒョ、無理だな」
羽蛾(そんなのに勝てるわけないピョー)
羽蛾(俺を騙してたってのはムカつくが、ここは大人しく他のセレクターを探すか)
羽蛾(……鳴海のやつ、まだ座り込んで放心してやがる)
羽蛾(まあバトル中に散々煽られてたから仕方ないが)
羽蛾「……俺には関係ないね」
――夜、路地
羽蛾「歩き回ったが、結局セレクターは見つからず仕舞いか」
羽蛾「仕方ない、今日は家に帰」
羽蛾「ん、どうした女王様。セレクターがこっちに近づいてきてる?」
羽蛾「ヒョヒョ、あの娘がそうか」
「……」
羽蛾「お前、セレクターだろ」
「ええ、そうよ。私は清衣」
清衣「水嶋 清衣」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、バトルだ」
――バトル空間
清衣「私の先攻。エナをチャージ。ピルルク、グロウ」
羽蛾(ヒョヒョ、青のルリグか。そして使うカードは、ヒョヒョ、あれはまさか)
清衣「幻蟲 §ショウリョウ§、幻蟲 §Cアント§を配置」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョー!」
清衣「?」
羽蛾「凶蟲、凶蟲じゃないか。色は違えど君もインセクトデッキを使うってわけか」
清衣「だったら何なの」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、自己紹介がまだだったね」
羽蛾「俺はインセクター羽蛾。デュエルモンスターズというカードゲームで日本チャンプだった男だ」
羽蛾「インセクトカードを使うことに関しては右に出るものはいないんだぜ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、まさか俺に昆虫で挑んでくる馬鹿がいるとはねぇ」
羽蛾「この勝負、俺の勝ちは決まったピョー」
――数ターン後
羽蛾ライフクロス1枚 清衣ライフクロス3枚
羽蛾「ば、馬鹿な」
羽蛾(この娘、強い)
羽蛾(これまで戦ってきたセレクターとはレベルが違う)
羽蛾(穂村はもちろんのこと、ドクターはんなより上だ)
羽蛾「くそ、俺はヴェスパを二体配置しアタックフェイズ」
羽蛾「正面のシグニのレベルがこのシグニより高い場合、ヴェスパにはアサシンが付与される」
清衣「ドント・ステップ。ヴェスパ二体をダウン」
羽蛾「女王様の攻撃ッ!」
清衣「ノーガード」
羽蛾「……通ったか。ターンエンド」
清衣「かつて」
羽蛾「ひょ?」
清衣「この90日間のバトルが始まる前に、別のセレクターバトルが行われていた」
清衣「数多くの少女たちが夢限少女を目指して願いを散らせていったバトル」
羽蛾「夢限少女?」
清衣「夢限少女になれば、どんな願いでも叶えることができる。そう言われていた」
羽蛾「ど、どんな願いでも叶うだとぉ!」
羽蛾「ズルいじゃないか! 俺のやってるバトルの報酬は自分の記憶を弄れるだけなのに」
羽蛾(どんな願いでも叶うなら、遊戯に負けたことをなかったことにしてやるピョー)
清衣「でも、結局のところ願いなんて叶わなかった」
清衣「夢限少女に至った少女はルリグになってカードに閉じ込められる」
清衣「そしてルリグがその少女の体を乗っ取って、できる範囲で願いを叶える」
清衣「そういうシステムだった」
羽蛾「ヒョヒョ、何だ、そりゃ、馬鹿みたいだピョー」
羽蛾「それで、そんなことを俺に話して何がしたいんだ、お前」
清衣「別に、特に意味なんてないわ」
清衣「ただ、貴方は私がルリグをやっていた頃のセレクターの一人と何処か似ている」
清衣「だから何となく、語る気になっただけ」
羽蛾「お前の事情なんて知らないね、さっさとターンを進めな!」
清衣「……」
清衣「シグニを全てリムーブ。ターンエンド」
羽蛾「自分のシグニを全部トラッシュに置いただと?」
羽蛾(何かの戦略か? いや、さすがにこれは)
羽蛾「何のつもりか知らないが容赦しないぜ」
羽蛾「インセクト軍団で総攻撃だ!!」
――路地
羽蛾「一体どういうつもりだ、お前」
清衣「私にはまだするべきことがある」
清衣「だからバトルを抜けるわけにはいかないの」
羽蛾(くそ、コイン調整のために俺を使ったってことか)
羽蛾(これでコインは四枚になったが、気分が悪い)
羽蛾(里見といい水嶋といい、気に入らない奴ばっかりだぜ)
――後日、市街地
羽蛾(現在のコインは四枚。里見や水嶋みたいな奴らとあたらなければ俺は余裕で勝てる)
羽蛾(弱い奴らは消滅だの記憶だので悩んでるみたいだが、俺には関係ない話だね)
羽蛾「さっさと雑魚を狩ってセレクターバトルから抜けるピョー」
羽蛾(とりあえずカードショップに)
羽蛾「ひょ?」
羽蛾(里見がいる。どこかに向かってるみたいだな)
羽蛾「……後を付けてみるか」
――人気のない建物
羽蛾「ヒョヒョ、奴はまた誰かとバトルするつもりか」
羽蛾「女王様によればもう一人セレクターが近づいてきてるらしいが」
羽蛾「あれは、水嶋か。里見に露骨に敵意を向けてるぜ」
羽蛾「やるべき事ってのは里見を倒すことだったのか」
羽蛾「ヒョヒョ、水嶋対里見。これは面白い勝負が見れそうだピョー」
羽蛾「どっちもムカつくから、両方とも負けてほしいってのが本音だが」
――バトル終了後
羽蛾「ヒョヒョ、水嶋のやつ偉そうにしてた癖に、無様に負けていい気味だね」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョ、ヒョ、ヒョ」
羽蛾「……あんまり気分が良くないな」
羽蛾「勝ったのが里見だからか。あいつ調子に乗りまくってムカつくぜ」
羽蛾「水嶋も情けない。昆虫使いでありながら里見なんかに負けやがって」
羽蛾(ジョーカーとかいうインチキコイン能力がなければ、勝負は分からなかったけどな)
羽蛾(やっぱり、あんな能力、勝てるわけがない)
――カードショップ
羽蛾「ヒョヒョヒョ、水嶋のバトルを見て俺は凄いインセクトコンボを思いついたピョー」
羽蛾「黒のルリグである女王様のデッキに青の凶蟲を入れればグロウに支障が出ると思って控えてたが」
羽蛾「青の凶蟲にも女王様と相性がいいインセクトカードがあるじゃないか」
羽蛾「ヒョヒョ、あったあった、これだピョー」
羽蛾(大幻蟲 §オタガメ§。こいつとあるインセクトカードを組み合わせると恐ろしいコンボが完成する)
羽蛾「デッキには三枚は積んでおきたいカードだが、ヒョヒョ、それなりの値段だねぇ」
羽蛾「まあ予算をオーバーしてるわけじゃ、ひょ?」
羽蛾(あの子供にアイスをたかられたせいで金が微妙に足りないじゃないかぁ)
羽蛾「ちっ、とりあえず二枚買っとくか」
羽蛾「面倒だが家に金をとりに戻るぜ」
――カードショップ前
鳴海「……お久し振りです、羽蛾さん」
羽蛾「鳴海か。何の用だ」
鳴海「羽蛾さんに知らせなきゃいけないことがあって」
鳴海「実は里見が」
羽蛾「セレクターなんだろ、知ってるよ」
羽蛾「ジョーカーとかいうふざけた能力を使うインチキ野郎だってこともね」
鳴海「お願いします、里見を、里見を倒してくれませんか!」
羽蛾「……お前さぁ、前に俺の頼みを断ったよねぇ」
羽蛾「それで自分のお願いは聞いてくれって、随分都合がいいんじゃないの?」
鳴海「……デッキをあげます」
羽蛾「はぁ?」
鳴海「僕のデッキと……あーやをあげますから、里見を倒してください」
羽蛾「お、おい!」
羽蛾(俺にデッキを握らせて、どっかに行きやがった)
羽蛾「……ヒョヒョ、俺は一言も引き受けるなんて言ってないんだけどねぇ」
羽蛾「あいつ、本当に馬鹿なんじゃないのか。君もそう思うだろ、ルリグ君」
あーや「はっ、それについては全面的に同意だよ」
羽蛾「セレクターがルリグを手放すとか意味不明だピョー」
羽蛾「鳴海のやつ、もうバトルできないじゃん」
あーや「ん、ああ。それについてはどちらにせよ同じことだけどな」
羽蛾「ヒョヒョ、同じこと?」
あーや「あのクソシスコンにはもうバトルする気力は残ってねえよ」
あーや「あーやがいようがいまいが、もうバトルすることはねえ」
羽蛾「じゃあ君は人間のボディをゲットできるってわけかい」
あーや「いや、90日のタイムリミットから逆算するとギリギリ無理なんじゃねえの」
羽蛾「その割には落ち込んでないんだねぇ」
あーや「そりゃいらねえからな。あんなやつの体。毎朝あんな顔見なきゃいけないとか吐き気がする」
羽蛾「ヒョヒョ、酷い言いようじゃないか」
あーや「ただ、あのシスコン。体は無事でも記憶の方はそうはいかないだろうな」
羽蛾「残りのコインの応じて記憶が欠損するんだったか」
あーや「コインのリミットぎりぎりってことは、記憶の殆どが失われるってことだ」
あーや「妹のこともあんたのことも全部忘れるんだろうよ」
羽蛾「……ふうん」
あーや「ただ、あーやを手放したのは予想外だったけどな」
あーや「あんたがあれどう見てたか知らねえが、あのシスコン野郎はあーやに失った妹を重ねて現実逃避をしてるだけのクズだ」
あーや「あーやを可愛がってるようで、結局は自分を慰めてる救いようのない奴だよ」
あーや「だから妹のことになるとすぐにトラウマスイッチが入る」
あーや「里見のやつに挑発された時はこれで終わりかと思ったんだけどねぇ」
あーや「羽蛾さんに伝えなきゃ、羽蛾さんならあいつを倒せるって、バトル中にぶつぶつ言ってやがった」
羽蛾「……」
あーや「里見のやつの挑発に耐えたのと、あーやを手放したことだけは、素直に賞賛してやるけど」
あーや「託す相手がてーめとか、ははっ、ホント人を見る目がねえシスコンだよ」
あーや「あんたも里見と戦う気はないんだろ。あーやもそれでかまわねえよ」
あーや「あのシスコン野郎よりはあんたの方が気が合いそうだし」
あーや「短い付き合いだろうけど仲良くしようね、羽蛾お兄ちゃん」
羽蛾「……」
――翌日、鳴海自宅
鳴海「はい。どちら様ですか……羽蛾さん?」
羽蛾「へえ、結構いい家に住んでるんだな」
羽蛾「おい、俺が来てやったんだ、お茶ぐらい出せよ」
鳴海「は、はい」
鳴海「あの、どうして僕の家の場所が分かって」
羽蛾「お前のルリグに聞いたんだピョー」
鳴海「……そうですか」
羽蛾「あのさぁ、このデッキの中身を見たけど、雑魚カードばっかりじゃん」
羽蛾「ルリグにしたってそうだ。俺には女王様という最高のルリグがいるってのに、あんな生意気なやつ渡されても使い道がないピョー」
鳴海「羽蛾さんは、デッキを返しにここへ?」
羽蛾「ヒョヒョ、まあな」
羽蛾「ただ、カスみたいなお前のデッキにも、レアカードはあるみたいじゃないか」
羽蛾「ヒョヒョ、大幻蟲 §オタガメ§。これは貰っておいてやるぜ」
羽蛾「お前にはこんなレアカードもったいない」
鳴海「かまいません、元々、羽蛾さんのアドバイスがなければデッキに入れなかったカードだ」
羽蛾「ヒョヒョ、いい心がけだね。前にも言ったが立場を弁える奴は嫌いじゃない」
鳴海「……」
羽蛾(……もうその記憶もなくなってるのか)
羽蛾「それじゃあ、俺はさっさとセレクターバトルを抜けてくるぜ」
羽蛾「俺にはこんなバトルじゃなく、公式大会の場で叩きのめさなきゃいけない奴がいるからねぇ」
羽蛾「ああ、それから、最後のセレクターバトルの相手は里見にすることにしたよ」
鳴海「羽蛾さん!」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、なーんか勘違いしてるんじゃないの、お前」
羽蛾「里見の奴は元々気に入らなかったんだピョー」
羽蛾「俺のことを騙してやがったわけだしな」
羽蛾「ジョーカーとかいうインチキコイン能力に対処する戦略も既にある」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、セレクターバトルなんてのはウィクロスパーティーの前座に過ぎないピョ」
羽蛾「里見は所詮、俺の踏み台でしかないのさ」
羽蛾「ヒョヒョ、お前は残された時間をルリグと兄妹ごっこでもしてな」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョー!」
鳴海「――――ありがとうございます」
羽蛾「……」
羽蛾「……ふん」
――都内
里見「呼び出しに応じて来てやったぞ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、メールの内容は見てくれたようだねぇ、里見さん」
里見「カーニバルが俺を付け回すセレクターの気配を感じてたが、それがお前だったってわけか」
羽蛾「ヒョヒョ、そうさ、俺はお前がセレクターだってことを知っている」
里見「要求は何だ。バトル相手の紹介か」
里見「ああ悪かったよ、羽蛾君。君にはあんまり興味がなかったからね」
里見「ブッキングの優先順位も低かったんだ」
里見「でもこうなった以上は勝ちやすそうな相手を紹介してやるよ」
里見「それでお前はさっさとバトルを抜ければいい」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョー!」
里見「何がおかしい?」
羽蛾「バトル相手の紹介ぃ? そんなことしなくても目の前に相手がいるじゃないか」
里見「へぇ、俺とのバトルをご所望だったってわけだ」
里見「意外だなぁ、俺を付け回してたってことは、カーニバルのコイン能力を知ってるんだろ」
里見「その上でお前みたいな小物が俺に挑んでくる度胸があったとはねぇ」
里見「あれ、もしかして鳴海さんの敵討ちとか? 何か一緒に行動してたみたいだし」
里見「いや、それはないか。お前は俺と同じ側の人間だ。くそったれの悪党だよ」
里見「一つ違いがあるとすれば、俺は大物だが、お前はどこまでいっても小物止まりってことさ」
里見「カードゲームが多少上手なだけの子悪党、決して一流や本物にはなれない」
里見「それがインセクター羽蛾という男だろう」
羽蛾「黙って聞いてれば好き放題言ってくれるじゃないか」
羽蛾「寛容な俺でも我慢の限界だぜ」
里見「バトルね、いいよ。悪党としての格の違いってのを分からせてやる」
羽蛾「ヒョヒョ、待ちな。バトルの前に不正がないか確認しておきたい」
里見「……君が何を言っているのか分からないな」
羽蛾「君のルリグ、カーニバルはセレクターの気配を消すことができるんだろう」
羽蛾「なら他にどんな細工があるか分かったもんじゃない」
里見「カーニバルができるのは気配の隠ぺいだけだ。他に能力はないよ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、どうだろうねぇ」
里見「不正と言えばお前は他人のデッキに細工をしたそうじゃないか」
里見「言い掛かりをつけて、俺のデッキに何かしようってんじゃないだろうな」
羽蛾「ヒョヒョ、別に君のデッキにカードを仕込もうなんて思ってないさ」
羽蛾「これは俺の最後のセレクターバトルになるかもしれないからねぇ」
羽蛾「そういう小細工は抜きでバトルをしようと思っている」
羽蛾「疑うのなら俺にデッキを触らせなければいい」
羽蛾「ただ、逆に君の側が何か卑怯な手を使うかもしれないだろ」
里見「はん、だから、それが俺とお前の違いなんだよ」
里見「お前はそういう姑息なことをする子悪党だが、俺は強い相手を正面から叩き潰す一流の悪党だぜ」
羽蛾「どうだかねぇ、例えばブックメーカーのコインなんていかにも怪しいじゃないか」
羽蛾「君が負けても減らないとか、そういう細工があるんじゃないかい」
里見「ないって言ってんだろ。いい加減、痛くもない腹を探られるのは不愉快だな」
羽蛾「なら見せてみろよ。他のセレクターのコインと変わらないのを確認したらバトルを開始する」
里見「ちっ。ああ、分かったよ。ほら、これが俺のコインだ」
羽蛾「……里見さん、俺はずっとジョーカーを攻略する戦略を考えていたんだ」
羽蛾「でもなかなか見つからなくて」
里見「そりゃ、そうだ。お前ごときにカーニバルのコイン能力は攻略できないからな」
羽蛾「でも、ようやく見つけたよ」
羽蛾「こうすればよかったんだ」バッ
里見「!?」
カーニバル「こいつ! 紅からコインを奪い取って川に」
羽蛾「コインがなければコイン能力は使えない」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ――!」
羽蛾「これが俺のジョーカー封じの戦略さ!」
里見「き、貴様ッ!」
羽蛾「おやぁ、俺と揉めている暇があるのかい」
羽蛾「お前はコインを全て失った。消滅も時間の問題だ」
羽蛾「ブックメーカーの権限で呼び出せるセレクターはいくらでもいるだろうが」
羽蛾「今から連絡しても間に合うとは思えないねぇ」
里見「……いいだろう、お前みたいな雑魚、コインなしでも十分だ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、度重なる俺への侮辱、許されると思うなよ」
羽蛾、里見「「オープン」」
――バトル空間
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョッ! 俺の先攻だ」
羽蛾「エナをチャージ、女王様をグロウ!」
羽蛾「ツクツクとモスキートを配置するぜ」
羽蛾「ヒョヒョ、ターンエンド」
里見「カーニバル、グロウ。≡アンタレス≡、≡プロキオン≡を場へ」
里見「ここで負けてもお前は消滅しないが、この先、これまでのようにセレクターバトルができると思うなよ」
里見「契約しているセレクター全員にインセクター羽蛾とバトルするなと指示を出す」
里見「それだけじゃなく、俺はあらゆる手段を使ってお前のバトルを妨害する」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、関係ないね。ここで勝って俺はバトルを抜けるんだから」
羽蛾「そしてお前は消滅ピョー」
里見「……認めてやるよ、お前は二流の子悪党だが、人を煽るセンスだけは一流だ」
――2ターン経過
羽蛾「ヒョヒョヒョ、行くぜ、インセクトコンボ!」
羽蛾「幻蟲タマムシを召喚、お前の場のシグニにチャームを付ける」
羽蛾「そしてハナマキリを場に出すピョ。チャームがあるので一枚ドロー」
羽蛾「続いてマジックコンボだ」
羽蛾「俺は手札からキャッチリリースを発動」
羽蛾「ハナマキリをバニッシュしてエイフドを回収」
羽蛾「モスキートを召喚、ヒョヒョヒョヒョヒョ!」
羽蛾「コインベット!」
女王様「パラサイド」
羽蛾「毒鱗粉でお前の場のシグニを一掃し、シグニとルリグで総攻撃だ」
里見「このガキッ! こっちはコインを使えないってのにふざけやがって」
2ターン経過
里見「羅星姫≡ガーネットスター≡配置。このカードが場に出た時」
羽蛾「俺のフィールド中央のシグニを破壊だろ」
羽蛾「ヒョヒョ、使用者が破壊対象を選択できないタイプの効果モンスターだよねぇ、それ」
羽蛾「よってバニッシュされるのはオウグソク・フルアーマー」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョ、こいつは場を離れた時、墓地からインセクトカードを二枚回収できるのさ」
羽蛾「俺が回収するのはヴェスパとエイフドだ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ありがとよ。手札が増えたピョー」
里見(≡ガーネットスター≡の存在を見越して、オウグソク・フルアーマーを中央に配置していたか)
里見(俺の戦略を読んでやがるな。隠れて俺のバトルを見てたなら当然だが)
里見(だがその程度のハンデ、ジョーカーさえ使えれば簡単に覆せるってのに、くそが!)
里見「空いた中央を≡ガーネットスター≡で攻撃」
羽蛾「ヒョヒョ、バカめ! 既にこっちのトラップモンスターが発動してるぜ」
羽蛾「黒幻蟲クマムス、相手にチャームを付けて、コストを支払わない限り攻撃不能にするインセクトカードだ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、どうする攻撃するかぁ?」
里見「……」
羽蛾「そういえば里見ぃ、お前さぁ、元ルリグなんだよな」
里見「……それがどうした」
羽蛾「いやぁ、少し残念でねぇ、ルリグカードに入ってる状態の君をもし俺が手に入れていたら」
カーニバル(裏面が白いウィクロスのカードをポケットから出した?)
羽蛾「こんな感じでッ、破ってやったのにさぁ」バリ
里見「こ、この、クソガキがぁ!」
カーニバル「紅、安い挑発よ。落ち着い」
里見「シグニを総動員して、あのガキを攻撃だッ!!」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョ! この瞬間、クマムスの効果発動」
羽蛾「お前のエナを三つ喰い潰すぜぇ」
里見「カーニバルッ、アタック!」
羽蛾「無駄ピョー、エイフドでガード」
里見「ターン、終了」
里見(こんな不愉快なバトルは生まれて初めてだ)
羽蛾「ヒョヒョヒョ、これからお前に究極のインセクトコンボを見せてやる」
羽蛾「まずはさっき回収した大幻蟲ヴェスパを召喚する」
羽蛾「次に手札から大幻蟲 §オタガメ§を含むインセクトカード三枚をトラッシュに送りオウグソク・フルアーマーをレゾナ召喚」
羽蛾「この瞬間、§オタガメ§の効果発動だピョ」
羽蛾「こいつは手札からトラッシュに送られた時、場に特殊召喚できる」
里見「おい、待て、ヴェスパ、オウグソク・フルアーマー、§オタガメ§、そいつらは全員レベル4のシグニだ」
里見「つまり合計でレベルは12、お前のルリグのリミットは11」
里見「くく、バカが。リミットオーバーだ」
里見「はは、何が元日本チャンプだ、こんな馬鹿みたいなプレイングミスしやがって」
羽蛾「馬鹿はお前だピョー、ヴェスパの効果をよく読みな!」
羽蛾「大幻蟲ヴェスパは相手の場のチャームの数だけ、自分のレベルを低下させることができる」
羽蛾「さっきお前の場の≡ガーネットスター≡にクマムスでチャームを付けたから、現在のヴェスパのレベルは3」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、よってリミットオーバーは免れるぜ」
里見「だが、オウグソク・フルアーマーの効果で俺の≡ガーネットスター≡はバニッシュされる」
里見「俺の場のチャームがなくなったことでリミットオーバーが発生」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョ――! 全ては俺の計画通りに進行した」
里見「何、だと?」
羽蛾「俺がトラッシュ送りの対象として指定するのはオウグソク・フルアーマー」
羽蛾「こいつはトラッシュ送りにならずルリグデッキに戻るレゾナシグニだ」
羽蛾「そしてオウグソク・フルアーマーが場を離れた時、俺はトラッシュから二枚のインセクトカードを回収できる」
羽蛾「俺が回収するのはタマムシと二枚目の§オタガメ§」
里見「おい、まさか」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ようやく気付いたか。そうループだ」
羽蛾「タマムシでチャームを付けながら、場の§オタガメ§と今回収した§オタガメ§をコストにオウグソク・フルアーマーを再召喚することによって、さっきと同じ動作を繰り返すことができる」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、アド損なしで逆にエナを3つ増やしながら、お前の場のシグニを全滅させられるのさ」
羽蛾「これこそがインセクトコンボの進化系、名付けてインセクトループだピョー」
里見「ち、畜生がぁぁぁぁ!! ジョーカーさえ使えれば、その程度のコンボ」
羽蛾「インセクトループでお前の場のシグニを全て抹殺!」
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョッ! アタックフェイズに移行だぁ」
カーニバル「早く防御アーツを使って、サーバントが握れてないんでしょう」
里見「……駄目だ、エナが足りない」
カーニバル「はぁ?!」
里見「黒幻蟲クマムスの無色3コストを支払ったせいで、防御アーツを打つエナが不足しているんだよ!」
カーニバル「この無能! 役立たずがぁ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ヴェスパとオオムラサキで攻撃だピョー」
羽蛾「最後のライフクロスを§オタガメ§でクラッシュだ!」
里見「俺が、こんな小物のガキに」
羽蛾「行くぜ、女王様の攻撃ッ!」
羽蛾「クイーンズ・インパクトッ――!!」
里見「終わらないよ、闇は終わらないさ」
里見「俺を消滅させようと何も変わりはしない」
里見「人間どもがいる限りバトルはまた始まる」
里見「奴らが苦しむ有様を見て俺はわら」
羽蛾「ひょ? 俺はもうセレクターバトルから抜けるんだから、後の事なんでどうでもいいピョー」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョ、ぐだぐだ言ってないで、さっさと消滅しな!」
里見「……この、蟲、野郎が」
羽蛾「ヒョヒョ、コインはちゃんと五枚に増えたか」
羽蛾(里見のコインがなかったから、勝利時に俺のコインが増えるか不安があったが問題なかったな)
羽蛾(案外、ガバガバのルールじゃないか。これならフィールド外から別のセレクターがコインをベットできたりしてな)
羽蛾「ヒョヒョヒョ、さすがにそれはないか」
羽蛾「さて、これでようやくセレクターバトルから抜けられるぜ」
羽蛾「……女王様ともお別れか」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾「ここは最初の白い部屋、か」
女王様「――――――――――」
羽蛾「――――――――――」
―――――――――――
―――――――
――――
――後日、カードショップ
羽蛾「ウィクロスパーティーにエントリーするピョー」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョ、優勝してレアカードを手に入れてやるぜ」
羽蛾「参加受付をやってる店員はあいつだな」
羽蛾「ひょ? あの店員、どこかで見たような気が」
墨田「げ、てめーは、インセクター羽蛾か」
羽蛾「ヒョヒョ、墨田か。何でお前がここにいるんだピョ」
墨田「俺がカード屋でアルバイトしてることに文句でもあんのかよ」
羽蛾「その口調、人格は入れ替わってないみたいだねぇ」
墨田「グズ子はもういねえよ」
墨田「……別れは済ませた」
羽蛾「ヒョヒョ、お前がコイン五枚を集められるとは思えないし、バトルしないで逃げ切る方針に変えたか」
墨田「ああそうだよ。おかげでかなりの記憶が抜け落ちたけどな」
羽蛾「別にいいじゃないか。どうせお前に大した記憶なんてないんだろう」
墨田「はぁ、てめーに関する記憶が消えればよかったと本気で思ってるよ」
羽蛾「ヒョヒョ、おい店員。客に対する口の聞き方がなってないぜ」
墨田「……申し訳ありませんでしたお客さま。ウィクロスパーティーのエントリーですか」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、さっさと用紙を出しな」
羽蛾「さて、開始まで少し時間があるピョー」
羽蛾「デュエルモンスターズのコーナーに行くか」
羽蛾「最近はセレクターバトルで忙しかったが、俺の本職はこっちだからな」
「あら、お久しぶりです」
羽蛾「ひょ?」
ゆきめ「その様子では無事にセレクターバトルを乗り切ったようですね」
羽蛾「ヒョヒョ、元ルリグのゆきめじゃないか」
ゆきめ「この体では雪野かがりと名乗っていますが、別にそちらで呼んでいただいても構いません」
羽蛾「一体、ここで何をしてるんだピョー」
ゆきめ「おかしなことをお聞きになるんですね」
ゆきめ「ここはカードショップで、このコーナーではデュエルモンスターズのシングルカードを取り扱っている」
ゆきめ「私がデッキを強化するためのカードを購入しに来たのは明白でしょう」
ゆきめ「購入が済んだので帰宅しようと思っていたところで貴方を見かけて、お声をおかけしたのです」
ゆきめ「私にデュエルモンスターズを勧めてくださった貴方に一言感謝を申し上げたかったので」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、自殺はやめたのかい」
ゆきめ「自殺? そんなことするわけないじゃないですか」
ゆきめ「だって自殺したらデュエルキングになれないでしょう」
羽蛾「ヒョヒョ?」
ゆきめ「明後日はこの店でデュエルモンスターズの大会があります」
ゆきめ「デュエルキングへの第一歩として、まずはこの大会で優勝しようと思っていますので、参加されるのでしたらどうか御覚悟を」
ゆきめ「感謝の意こそあれ、私はデュエリスト。決闘においては容赦しません」
ゆきめ「それではこれで失礼します」
羽蛾「……」
羽蛾「……」
羽蛾「……」
羽蛾「何か初心者が随分調子に乗ってるねぇ」
羽蛾「ヒョヒョヒョ! だが狙い通りだ」
羽蛾「ああいう初心者が増えれば俺が大会で楽に勝てるようになるんだからな」
羽蛾「あの娘には俺のインセクトデッキの恐ろしさ味わわせてやるピョー」
羽蛾「そろそろウィクロスパーティーの開始する時間か」
羽蛾「デュエルスペースに移動するピョー」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾「こうして会うのは三度目になるのかなぁ」
はんな「再会。まったく嬉しくない出会いですが、一応、挨拶はしておきます」
羽蛾「ドクターはんな。随分と元気そうじゃないか」
羽蛾「何か記憶が取り戻せなかったとかで、落ち込んでるかと思ったんだけどねぇ」
はんな「復帰。立ち直るのに時間はかかりましたが、今はこうして前を向いて生きています」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、どうやら君もウィクロスパーティーに参加するようじゃないか」
羽蛾「既に格付けは済んだと思うんだけど、また俺に負けたいのかい」
はんな「愚問。そちらこそイカサマなしで私に勝てるとお思いですか」
羽蛾「ふん、相変わらず口数の減らない女だ」
すず子「いた、はんなちゃん。それに……」
羽蛾「出たな、穂村すず子!」
すず子「インセクター羽蛾、君」
羽蛾「逃げずに大会に参加したのだけは褒めてやる」
羽蛾「ヒョヒョヒョ! ここでお前を倒して格付けを済ませた後、優勝してレアカードを手に入れてやるピョー」
千夏「言っておくけど、すずのデッキに何か細工するような真似をしても私が見逃さないから」
羽蛾「ひょ? 俺に負けた緑のルリグ使いじゃないか。それに」
白井「バトルもサッカーと同じで正々堂々やるべきだ」
莉緒「ズルは駄目だよ、羽蛾おにーちゃん」
羽蛾「一緒にいた男と俺からアイスをたかった子供まで」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、随分とセレクターが集まったものだねぇ」
千夏「いいえ、白井君も莉緒ちゃんも元セレクターよ」
羽蛾「人格はそのままみたいだし、無事逃げ切るか勝ち残ったのかい?」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、まあ俺にはどうでもいい事だけどねぇ」
墨田「時間になりましたので、受付を締め切らせてもらいます」
墨田「それでは、これからウィクロスパーティーを始めます」
墨田「お名前を呼ばれた方から席についてください」
羽蛾「穂村すず子。せいぜい俺とあたるまで負けないようにしな」
羽蛾「ヒョヒョヒョ、ヒョッ!」
羽蛾「おい、そこのお前、今俺に肩がぶつかったぞ」
「す、すいません」
羽蛾「……」
「よそ見をしていました」
羽蛾「……」
「あの、どうしましたか」
「もしかして……僕のことを知っている方なんですか」
「あ、変なこと言ってごめんなさい。ただ、僕には記憶がないんです」
「記憶の手がかりになるんじゃないかと思って、家にあったこのウィクロスというカードの大会に参加してみたんですが」
羽蛾「ヒョヒョ、お前のことなんて知らないピョー」
「そうですか」
羽蛾「大会にエントリーしたなら一回戦目から俺にあたらないように祈ってな」
羽蛾「元日本チャンプである、このインセクター羽蛾にな」
羽蛾(さて、俺の対戦相手は誰だ)
羽蛾(一回戦の相手を瞬殺すれば、穂村すず子のバトルを覗きに行ける)
羽蛾(そうすれば奴のアーツ枠を把握することができるピョー)
羽蛾(ヒョヒョヒョ、優れた戦略家は情報収集も怠らないのさ)
「おや、坊やがあたしの相手かい」
羽蛾「ひょ?」
羽蛾(婆さんだと)
羽蛾(そういえば一人だけ参加者に老人がいたな)
羽蛾(若い娘や男ばっかりの中で妙に目立ってたが)
羽蛾「ヒョヒョヒョヒョヒョヒョ――!」
羽蛾(これはラッキーだぜ。一回戦目からチョロイ相手にあたったピョー)
羽蛾(多分、ボケ防止のためにウィクロスをやってる婆さんなんだろう)
羽蛾(悪いが俺は老人相手でも手加減はしないぜ)
墨田「皆さん準備はできたみたいですね」
墨田「それじゃあ、始めてください」
羽蛾(速攻でこの婆さんを倒してやるピョー)
――バトル開始後
「ファフニール」
「ファフニール」
「アークオーラ」
「一覇二鳥」
「おやおや、何の対策もしてないのかい」
「それじゃあ、これで終わりだねえ」
羽蛾「ギョエエエエエエエエエエエエエエ」
羽蛾「バ、バカな」
羽蛾「この俺がワンターンキルされた、だと」
羽蛾「おのれぇ、ババア! これで勝ったと思うなよ」
羽蛾「次のウィクロスパーティーで、この屈辱は1000倍にして返してやるからな。覚悟しとけ!」
羽蛾「ヒョーヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ――!!」
おわり
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