【ミリマス】志保「ブラックナイト」 (40)
北沢志保生誕記念SS
「あ……」
「……」
「……」
面倒だな。
面倒なことを思い出したというか、思いついたというか。
でも……。
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少し遠回りになる帰り道の先に、コンビニ……ファミリーマートがある。
ファッション雑誌を買うのにわざわざファミマに行かなくても
事務所の近くの大きな書店で買えば良かったけど、
私は今、猛烈にその本が欲しかった。
好敵手として認める最上静香のインタビュー記事が載っているから。
事務所の近くで購入するのには
誰かに見つかる可能性もあるし、それが恥ずかしくて嫌だった。
だから自宅の近くのファミマで買うようにした。
ファッションなんて、最上静香がすごい、
と思うかと言えば、ぶっちゃけそうでもない。
私の方が色々とファッションのことも勉強はしているし、
もう少しだけ詳しいはず。
なんて粗を探そうとしてこの雑誌を買いに行く訳じゃないけれど。
それでも好敵手として認める彼女が何を秘めて持っているのか気になっていた。
私の知らない何をこの雑誌で見せているのか気になった。
レッスンの帰りということもあったが、
暗くなる前に帰ってこれたのは幸いだった。
今もまた無意識にこの道を通ることを「幸い」と思ってしまった。
そんなことにも気が付かずに、
私はいつも使う駅前のセブンイレブンではなく自宅近くのファミマに行ってしまった。
何でそうなったのかって言えば特に理由もない。
ただ、自宅の近くまで来て急に「やっぱり欲しい」と思い、
自宅の近くのファミマに行こうとしたから。
気になる。
何の話をしたのか。
何を聞かれたのか。どう答えたのか。
夕暮れで空がオレンジに染まる頃だった。
私の家の近所は住宅密集地で、
集合住宅もあれば小綺麗な築2,3年のマンションがあったりする。
こんな住宅地の中に誰が行くんだろう? いつ店を開いているんだろうという疑問しか残らない床屋や
クリーニング屋、中華屋、よく分からないマッサージ屋なんかもぽつぽつとある。
その帰りの道で、自宅に帰る前のほんの少しの寄り道が……。
ふと、目に入ったのは周囲と明らかに築数の違う建物だった。
建物、と呼ぶにはもう無理があるんじゃないかとも思う。それは廃墟だった。
――こんな廃墟……あったっけ。
もうボロボロで壁なんか突けば崩れるんじゃないかってくらいで、
蔓がうじゃうじゃと張っていた。
何かのお店だったのだろうか……ガラスケースがある。
ガラスケースは割れていて、グシャグシャにひん曲がったシャッターを突き破っている。
ネズミやハクビシンの巣にでもなっていそうな、心底気色の悪い建物だった。
ゾンビ映画の舞台セットのような。
ガラスケースが突き破ったシャッターからは、中が丸見えだった。
見たくもないし、見ないように少し顔を伏せる。
その半開きになったシャッターには近づきたくなくて一車線の反対側の歩道を歩く。
急にゾンビが飛び出してきたら対応できそうにない。
まあ――何も出てこないのだけど。
現実は私の被害妄想を超えることはない。
こんな誰も住んでいないような廃墟に何を考えているのだか……。
それから私は目的のファミマにたどり着き、
お目当ての雑誌を購入する。
だらしない接客態度の店員にはジロジロと見られるが、
「北沢志保さんですか?」と声をかけられることはなかった。
また、これも私の被害妄想なんだろう。
その嫌らしい……目つきに嫌悪感と苛立ちを感じながらも
「こういう職を選んだのならば、仕方のないことか」
と諦めながら自宅への道へ。
時刻はすっかり遅くなってしまった。
コンビニに行くだけなのに何をしていたんだって
……そりゃあ最上静香のインタビュー記事が載っている雑誌の横の
ゴシップ記事に事務所のアイドル二階堂千鶴という名前を見たからだ。
うっかり目についたその雑誌を手に取った私は
結局のそのゴシップ記事を最後まで目を通してしまった。
内容は別にどうってことのない、
千鶴さんが本当は庶民派の三流以下の精肉店産まれだとかいう記事。
記事には「二階堂精肉店」という写真まで掲載されていた。
まあ、これに関しては別に事実だし、
千鶴さんも「理想の自分に近づくためにはまず形から入る」ということを語っている内容だった。
別段スクープでも何でもない。
本当のことを書いてあるだけの実に退屈な記事だった。
そんなものを読んでしまったせいで、
もう陽は落ちて帰りの道は暗い街頭の明かりだけになってしまった。
お腹も空いた。
まだまだ陽が落ちると寒い日が多い。
早くうちに帰ろう。
薄暗い一車線。
ゴシップ記事のことや、コンビニの店員のことで頭がいっぱいになっていたから
頭からすっかり抜け落ちていた。
行きの道であんな妄想をしていたことを思い出してしまった。
いや、記憶からも抜け落ちていたものが一緒に蘇った。
小学生だかの頃、この通りにあるいつも開けっ放しのお店があった。
そのお店が結局何屋さんなのかは分からないままだったが、
母親に言われていた。
「絶対にあの家には近づいては駄目よ」
帰り道の遠くに見えている廃墟を見て、思い出した。
そうだ、そう言っていたなぁ。
理由は分からなかったけれど、幼い私はその言いつけに素直に従っていた。
何で近づいたらいけないんだっけ。
記憶の中を探る。
これ以上思い出したらいけない気がするけれど、
ああ、気になってきた。いけない気がするのに。
学校の先生にも言われていたのも一緒に思い出した。
「あの辺りに開けっ放しのお店があると思うけれど、人がいないように見えるからって
冒険とか言ってふざけて入らないように。前に上級生の男子が何人か入ったみたいで、大変なことになったんだ」
この時は確か……男子はまた馬鹿なことして。と簡単に思っていた。
簡単に考えていた。
段々と近づくに連れて思い出していく。
これ以上思い出したくない。考えたくない。
でも考えないようにしようとすると、余計に考えてしまう。
ホームルームの時だったなぁ、そういえば。
早く帰りたかったのに。
先生の言葉をもう一つ思い出した。
「……あの場所にはまだ人がちゃんと住んでいるんだから、不法侵入になってしまう。
それとは関係なくあの家には近づいても絶対に中を覗いてはいけないよ」
ああ、そうだ。
思い出してしまった。
見たらいけないんだ。
見たらいけない家なんだ。
でも、おかしい。
私の記憶にはあの家の中の様子が浮かぶ。
見たことがある……。
ああ、思い出したくないなぁ。
きっと思い出したら現在の様子を比べたくなってしまう。
必死に違うことを考える。
そう、この前の765の先輩たちのライブ、凄かった。
確か、シャッターの奥には座敷があって。
違う。思い出したくない。
響さんのダンスが格好子良くて、
千早さんの歌唱力、パフォーマンスに圧倒されてて……
「それとは関係なくあの家には近づいても絶対に中を覗いてはいけないよ」
違う。学校の先生の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
そう、亜美と真美は相変わらずのノリと勢いで――座敷にはちゃぶ台が置いてあって――
「 絶対に中を
覗いては
いけないよ 」
そう、覗かない。絶対に見ない。
だから静かにして。
「 絶対に 中を 」
そう、春香さんは舞台裏とは別人でキラキラしてて
――もう廃墟が目の前まで――
「 覗いてはいけないよ 」
あずささんは――ガラスケースが、壊れて開いたシャッターが見える――何だっけ、なんか凄かった。
「 特に夜は 」
そう、やっぱり奥の部屋にはちゃぶ台が一つある座敷があるだけ――――――――――あ
見てしまった。
先生の最後の言葉を思い出した時、私は既に中を見てしまっていた。
見たくなかったのに、思い出したくなかったのに。
じゃあ別の道を通ればよかったのに、とか
少し遠回りすればよかったのに、とか
そんな理屈じゃない。これは。
この好奇心に、そんな理屈は通用しなかった。
ガラスケースが突き破ったシャッターの中に真っ暗の座敷があることだけが分かる。
でも別にちゃぶ台以外何もない。誰かがいるとかそういうこともない。
……拍子抜け。何を焦っていたんだか。何を怖がっていたんだか。
――アホくさ。早く帰ろ。
歩く速度を戻して、さっさと家に帰ろうとする。
ガシャン……!!
鉄の……そうこの音はなんとなく分かる。
背後からシャッターの音。シャッターを誰かが掴んだような触ったような音。
どこに居た……?
暗くて見えなかったけど、居たの?
誰が? 分からない。分かりたくもない。
今、間違いなく私を見ている。
グシャグシャに曲がったシャッターにもたれかかるようにして私を見ている。
今、間違いなく、私の背中を見ている。
歩く速度をあげる。
「ハァッ……ハァー……」
息が上がる。身体が寒くてしょうがない。
こんなに息が切れているのに……寒い。足が寒い。手が冷たい。
まだ後ろにいる。
ずっと着いてきている。
後ろに感じる気配。
逃げるように歩く。唾を飲み込むのも音を立てないように気を使う。
なるべく音を立てないように歩く。それでいて早く。
薄暗い通りから抜け出して明るい大通りまで戻ってきた。
もう自宅はすぐだ。
ここまでくれば、もういいだろ。
私は早く歩く速度も落とし人の通りも車の通りもちゃんとある道を
他の人達と同じように歩く。息を整えるように。
まだ明るい自宅マンションのエントランスゲートから入りオートロック開ける。
セキュリティで二重のオートロックにもなってるから、ここまで来れば安心だ。
――何が安心なんだろ。
振り返ってしまった。
「ーーーーーっっっ!!」
そこにはオートロックに阻まれた白髪の老婆が立っていた。
裸足で、ボロボロの雑巾のような汚い格好の老婆が顔にかかる長い髪の間からずっと私を睨んでいる。
老婆は私が振り返ったのを見て、ゆっくり……にやりと笑って。
オートロックの扉一つ挟んでも聞こえる小さな声で言った。
「 見てたな 」
エレベーターホールも駆け抜けて階段を駆け上がって自宅に飛び込む。
扉を勢いよく閉めすぐに鍵をかけチェーンもかける。
ベランダの洗濯物を乱暴に投げるように取り込んで窓を全部閉めてカーテンも締める。
学校の制服も脱がないままベッドに潜り込んでいる。
震えながら目を閉じてもあの老婆の顔が目に浮かんで気が気じゃなかった。
あの人は誰なんだろう……
あの人はあの廃墟の人なんだろうか。
ここまで着いてきたんだろうか。
ぐるぐると恐怖心が産む被害妄想の最中。
携帯がバイブと共に光を放つ。
「きゃあっ!!」
「……ハァ……ハァ……なんだ」
着信画面に「最上静香」と書かれていたのを確認してから電話に出る。
「もしもし? 夜分遅くにごめんなさい。もう家についた頃?」
「ハァー……ハァ……もしも……し? 何なのよあんた」
「ええっ!? ごめんなさい。あの、明日会えないし直接は言えないから
お誕生日おめでとうって電話だったのよ」
「……はぁ~~~~~」
「えっ何?ため息?」
すっかり忘れていた。
そうか……明日だったのか。
「何かあったの?」
「いえ、別に」
「そう、何か欲しいものある? 可能なものなら……」
「あなたが選んだ私が気に入りそうなもの。期待してるから」
「うっ……嫌なハードルのあげかたしないでよ。
渡すのは明々後日とかになるかもしれないけど、考えとくわね。それじゃまた」
「ん、また」
私はもう一度ため息をついた。そういえば、あれ、静香の雑誌、買ったやつがない。
ああ、もういいや。どうでも。
あれから――。
別に何もなかった。
私の日常はまた戻ってきた。
普通のアイドルの生活。
あの老婆が別に廃墟の人だったという証拠はない。
私はそれを目撃した訳じゃないから。
でも、あの道には二度と夜には通らないと誓った。
誓った……はずなのに。
別に何もないから、私は数ヶ月後、懲りずにファミマへの道として使っていた。
今度からは昼間の明るいうちに通るようにしたし、
あれから何も起きないから問題ないだろうと思っていた。
そう思って通ったときに中をチラッと覗いた時。
あの時、買ったファッション雑誌がちゃぶ台の上に見えた。
終わり。
お疲れ様です。
色々めちゃくちゃな話ですみませんでした。。
祝う気があるのかってくらい申し訳程度の蛇足誕生日要素でしたが、
志保さんお誕生日おめでとうございます。
コワッ>>1ホラー上手いね.....
乙です
>>1
北沢志保(14) Vi
http://i.imgur.com/YBR2cZB.jpg
http://i.imgur.com/Xfi06FU.jpg
>>30
最上静香(14) Vo
http://i.imgur.com/GGx03LU.jpg
http://i.imgur.com/BbPBaZa.jpg
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