キツネ耳「生きる為なら何でもしよう」 (4)

100年くらい前に何かが起きて、人類社会は崩壊したらしい。

培養カプセルから私が排出されてから一ヶ月と少しの間で、調べられたのはたったそれだけだった。

カプセルの中で植え付けられた、崩壊前の常識や知識は余り役に立たない。

文明の象徴とも言われた高層建築群は軒並み瓦礫の山と化し、かつては先端の光る目玉で人々を見下ろしていたはずの塔は、今や私の足下に無惨に横たわり、這い上がってきた植物に覆われた様を見下ろされている。

上空ではカラスのような鳥(私の知識にあるカラスはあんなに大きくない)が群を為して飛び、頭だけ恐竜に退化したような更に大きな鳥(?)がその群に飛び込んでいった。

人、鳥、それらを内包する生態系、それを支えるこの大地、何もかもが私の知識のそれと違う。

「こんな耳の生えた人間なんて、私の中の知識にはなかったし」

頭から生えたキツネのような自分の耳を触りながら、私は新たな瓦礫へと視線を移す。

今では遺跡と呼ばれる事の方が多いかつての都市、そこから有用な物を探し出し、生き残った者達の生活に役立てるのが私の仕事。

何の為に生み出されたのかは知らないが、今の私はキツネ耳のスカベンジャーなのだ。

電話機やらコンピューターやら、かつてならその部品も何かに再利用して価値のある物に出来たかも知れないが、今の時代に生まれた私の目にはただのゴミにしか映らない。

それらは未だロストテクノロジーで、時代がこれらを活用できるまでに追いつくには、私の見立てではまだまだかかるだろう。

ならば何なら価値があるのかというと、包丁やらフライパンやら、電力を必要としないレトロな品々、それと───

「こっちのは全部で30グラム。“りばぁた”の方は70グラムだね」

私の過去の時代の知識には影も形も無かった、“りばぁた”と呼ばれる、自然に覆われた土地に時折転がっている薄緑色の石ころだった。

「ありがと」

緑色の看板の目立つ掘っ建て小屋で換金業を営むおっさんから、130グラムの銀貨を受け取ると、それを大事にしまってから、カウンターの向こう側へと入った。

換金を終えて空っぽになったリュックサックと大事な鞄を奥のテーブルに置いて、羽織っていたジャケットと一張羅のつなぎを脱ぎ捨てる。

余分に貰った30グラムは単に色をつけてもらった訳ではなくって、この掘っ建て小屋だらけの貧相で汚らしい大都会に置いては「一発ヤらせろ」という意味が込められていた。

つまり、私が今全裸になってカウンターテーブルの下に潜り込み、男のズボンに手をかけるのは至極当然な流れで。

「ん・・・」

そこから飛び出した見慣れた逸物に舌を這わせるのも日常的な事なのだ。

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