狙撃手「観測手ってレズなの?」 観測手「ふっへっへ」 (59)

~櫓~

観測手「2時方向距離200高度0」

狙撃手「確認……」

観測手「猫さんです」

狙撃手「……」

観測手「可愛いなあ……」

狙撃手「撃つの?」

観測手「いやいや、撃っちゃだめですよ」

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観測手「10時方向、距離100、高度0」

狙撃手「……確認」

観測手「タンポポです、もう春ですねえ」

狙撃手「……」

観測手「15時方向、距離40、高度5」

狙撃手「……確認」

観測手「蝶々さんです」

狙撃手「……」

観測手「こっちまで飛んで来ないかな、この櫓は高すぎて無理かな?」

狙撃手「……あのさ」

観測手「はい?」

狙撃手「まじめにやって……」

観測手「えー、まじめに報告してるじゃないですか」

狙撃手「敵が来たときだけでいいから、観測報告は」

観測手「敵って言われても……前線はずっと北の方なんですから滅多な事では来ませんよ?」

狙撃手「それでも油断しちゃ……」

観測手「5時方向、距離15、高度20」

狙撃手「……確認」

観測手「ハーピーさんです」

ハーピー「まいどっす~、お昼ごはん持ってきたっすよ~」バッサバッサ

狙撃手「……」ハァ

ハーピー「あの、銃口向けるのやめて欲しいっす」

狙撃手「……ごめん」

観測手「そうですよ?いつもご飯を運んでくれるハーピーさんに銃口向けるのはいけない事です」

狙撃手「……もういいわ」

観測手「それでハーピーさん今日のお昼ごはんは?」

ハーピー「チキンサンドっす」

観測手「わあい♪」

ハーピー「にしても」

観測手「~♪」モグモグ

狙撃手「……なに?」

ハーピー「今日も暇そうっすねえ」

狙撃手「……まあね」モシャモシャ

観測手「それもこれも前線で戦ってくれてる方達のお陰ですね~」

観測手「特に獣人兵団の方達は本当にすごくて!」

ハーピー「あー、最近調子いいらしいっすね彼女達」

観測手「ほんと!凄いんですよ!特に団長を務める白い耳の……」

狙撃手「……その噂の兵団が出撃するみたい」

観測手「へ?」

狙撃手「……城門が開くよ」


ギィィィィィィィィィィィィィ


 

 

ザワザワザワ


ハーピー「おおー、そういや伝令会議の時に今日出撃するって話出てたっすねえ」

観測手「わ、わわわ!か、確認!確認しないと!」

狙撃手「……」モシャモシャ

観測手「12時方向、距離15、高度0」

狙撃手「……」モシャモシャ

観測手「団長さん、今日も格好いいなあ……」

観測手「いいなあ、白い兎の獣人、いいなあ……」

ハーピー「……」

狙撃手「……」

ハーピー「ねえ、狙撃手さん、私、前からちょっと思ってたっすけど」

狙撃手「……ああ、私も思ってた」

観測手「白い耳、ふわふわ、髪きれい、ふっふっふ……」

狙撃手「観測手ってレズなの?」

観測手「ふっへっへ……」

ハーピー「うわあ、わらってるっすよ……」

観測手「ふへ?あ、いま何か言いました?」

狙撃手「……観測手がレズなんじゃないかって話をしていたね」

ハーピー「いやあ、身の危険を感じるっす」

観測手「れ、レズ……って、え、な、なんで?」

狙撃手「……だって尋常じゃないから、反応が」

ハーピー「そうっすねえ……」

観測手「い、いやいやいやいや!」

観測手「私はレズとかじゃないですよ?ただ可愛いものが好きなだけです!」

狙撃手「……じゃあ、あの白兎の団長さんの事は好きじゃないと?」

観測手「好きですよ?」

ハーピー「隠す気ゼロじゃないっすか」

観測手「い、いや違います!私の好きはこう、レズとかじゃなくて!」

狙撃手「……まあ、観測手がレズでも私は気にしないから」

観測手「う、うぅぅぅ……」

ハーピー「けど、あれっすねえ、彼女達が出撃したってことは、また北の帝国が攻めてきたんっすかねえ」

狙撃手「……最近、多いよね」

ハーピー「なーんで懲りないんっすかねえ、毎回負けてるのに」

狙撃手「……うちの国は湿地と森林だらけだし」

狙撃手「……北の帝国が力を入れてる騎馬兵団とか運用しづらいはずなんだけどね」

ハーピー「実際、遊撃能力の高いうちの獣人兵団にボロボロにやられてるっすからね」

狙撃手「……増えすぎた人口を減らす為に無茶な用兵してるって噂も」

ハーピー「それが本当なら酷い話っすよ~」

狙撃手「……観測手はどう思う?」

観測手「いや、私の想いは何て言うか憧れに近いものであって恋愛感情とかは……」ブツブツ

狙撃手「……」

ハーピー「……」

観測手「けど、けどもし彼女が私の事を好きって言ってくれたらその想いに応える準備は、ええ、ありますありますよ」ブツブツ

狙撃手「……」ハァ


ハーピー「……そんなに気になるなら、会ってみるっすか?」

観測手「でも、でもチューとかはまだちょっと……し、親しくなってからじゃないと///」モジモジ

ハーピー「おーい?」

狙撃手「……」ツンツン

観測手「ふあっ!?え、な、なんです?」

ハーピー「いや、あの白兎の団長さんと会ってみます?プライベートで」

観測手「……へ?」

ハーピー「私らハーピーは伝令とかで割と話す機会があるんすよ、あの団長さんと」

ハーピー「だから飲みに誘うくらいは出来るっす」

観測手「あ、会ってみる……の、飲みに……おさけ……?」

ハーピー「まあ、断られる可能性もあるっすけど」

狙撃手「……」

観測手「え、け、けど私そんなにお酒強くないし……」モジモジ

ハーピー「ふーん、じゃあ団長さんに介抱してもらえるかもしれないっすよ?」

観測手「介抱……」

ハーピー「ちょっと想像してみるっす」

観測手「かい……ほう……飲み過ぎて……服を……緩めて……」

ハーピー「もっと」

観測手「団長さんの部屋に……二人で……ベットに……」

ハーピー「もっと」

観測手「団長さんの唇が……私の胸を……耳が……ウサ耳が……私の頬をくすぐって……」

ハーピー「はいストップ」

観測手「わ、わたし!やります!団長さんと会います!」フンフン

ハーピー「いや、断られる可能性もあるってことは了解しといてほしいっす」

観測手「ふっへっへ……兎さんが1匹、兎さんが2匹……」

ハーピー「いやあ、キマっちゃってるっすねえ、あはははは」

狙撃手「……」

ハーピー「狙撃手さんどしたっすか?」

狙撃手「……ハーピー、貴女面白がってるでしょ」

ハーピー「ふふふふ、この手の娯楽がないと伝令なんてやってられませんって」

狙撃手「……」ハァ

~数日後~

~兵舎~


コンコン


狙撃手「……」


コンッコンッ


狙撃手「……んー」ムクリ

狙撃手「……何?今日は非番なんだけど……」

狙撃手「……」

狙撃手「……無視しよ」ゴロン


ドンドンドンッ

アケテー


狙撃手「……この声は」

狙撃手「……」ハァ



ガチャッ


観測手「良い朝ですね!狙撃手さん!」

狙撃手「……うるさい」

狙撃手「……というか、今は夜だから」

観測手「細かい事はまあいいじゃないですか!」

狙撃手「……何でそんなにテンション高いの」

観測手「いえ!私はいつも通りですよ!」

狙撃手「……」

観測手「……」

狙撃手「……それで何か用?」

観測手「実はさっきハーピーさんから伝言がありまして!」

狙撃手「……声が大きい」

観測手「な、な、な、なんと!白兎の団長さんが今日会って下さると言う事に!」

狙撃手「……」

観測手「もう、もう、私、嬉しいやら緊張するやらで!」

狙撃手「……ふーん」

観測手「後からハーピーさんには何か奢らないといけませんね!」

狙撃手「……で?」

観測手「で、とは?」

狙撃手「……何で私の所に来たの?」

観測手「……」

狙撃手「……」

観測手「……」

狙撃手「……なにこの沈黙」

観測手「……観測手と狙撃手は」

狙撃手「……え?」

観測手「二人で一つのユニットです……」

狙撃手「……うん、まあ、そうだね」

観測手「もし狙撃手さんがいなければ、私の観測は無意味なものとなります」

狙撃手「……正しい認識だね」

観測手「その逆もまた真なり、です」

狙撃手「……うんうん」

観測手「これは人生においても同じです」

狙撃手「……うんう……ん?」

観測手「狙撃手さんが一人道に迷い立ち止まってしまった時は、私が道を照らす義務があります」

狙撃手「……そう、かな?」

観測手「そうです!」

狙撃手「……まあ、そう言って貰えるのは嬉しいけど」

観測手「その逆もまた真なり、なのです!」

狙撃手「……」

観測手「……」

狙撃手「つまり?」

観測手「一人で行く勇気がないから付いてきて」

 


「ないわ」

「子供じゃないんだから1人で行け」



狙撃手「……というのは簡単だったんだけどね」

観測手「狙撃手さん、私の服ってこんな感じでいいです?」

狙撃手「……うん、それでいいんじゃない」

観測手「ホントです?ちゃんと可愛いですか?」

狙撃手「……はいはい、可愛いかわいい」

観測手「ならばよしです!」

狙撃手「……断ったら泣きそうだったしなあ」

観測手「ん?何か言いました?」

狙撃手「……別に」

観測手「狙撃手さんは着替えないんですか?」

狙撃手「……私はおまけみたいなもんだし、別にいいよ」

観測手「おまけじゃないです!パートナーです!」

狙撃手「……」ハァ

観測手「もう、狙撃手さんは可愛いんですし、もっと着る物に気を使えばいいのに……」

狙撃手「……背の低い私が着飾ると子供にしか見えないから」

狙撃手「……だから最低限のでいいって」

観測手「可愛いのに……」

狙撃手「……そろそろ時間でしょ、間に合わなくて泣いても知らないよ」

観測手「うわわわ!そうでした!」ガサゴソ

~酒場~



白兎「……」



観測手「10時方向、距離10、高度0……」

狙撃手「……うん、もう待ってるね、団長さん」

観測手「う、うわあああ……どうしよう、待たせちゃったかな、けどまだ時間前だし、うわああああ……」プルプル

狙撃手「……会う前から怯えすぎなんだけど」

観測手「け、けど、けどぉ……」ガクガク

狙撃手「……」ハァ

狙撃手「……じゃあ声かけるのは私がやってあげるから」

観測手「う、うぅ、ほ、ほんと?」ウルッ

狙撃手「……その後は、ちゃんと自分で会話してね?」

観測手「う、うん、が、頑張る……」

白兎「……」ボー

狙撃手「……こんばんは、ちょっと遅れたかな」

観測手「コンバンワー」

白兎「あ……いえいえ私も今来たばかりですわ」

狙撃手「……そう、ならよかった」

観測手「コンバンワー」

白兎「こんばんわですわ、観測手さん」ニコリ

観測手「アウ……アウ……カワ……カワイイ……」

白兎「え?」

狙撃手「……気にしないで、ちょっと緊張してるだけだから……」

白兎「緊張……ですの?」

観測手「イイニオイスル……」

狙撃手「……」ハァ

狙撃手「……何か頼もうか、団長さんは何飲む?」

白兎「私は……キャロットメアリーでお願いしますわ」

狙撃手「……観測手は適当でいいよね」

観測手「アルコール……カイホウ……フヘヘ」

狙撃手「……だめだこいつ」

白兎「……」

狙撃手「……」

観測手「……」



狙撃手「……何か喋れ」ボソボソ

観測手「ムリ」

狙撃手「……貴女が主役でしょうが」ボソボソ

観測手「ムリ」


白兎「……けど、少しびっくりしてしまいましたわ」

狙撃手「……え?」

白兎「今回、突然の事でしたので……」

狙撃手「……まあ、そりゃあ知らない人から突然誘われたらびっくりするよね」

白兎「いえ、私の方が、一方的に知っていただけかと思ってましたので」

狙撃手「……ん?」

白兎「正直、少し緊張しております……」

狙撃手「……ねえちょっと」ツンツン

観測手「ムリムリムリ」

狙撃手「……ひょっとして、団長さんと会った事あるの?」ボソボソ

観測手「ムリダッテバ」

狙撃手「……何か以前から知っていたみたいな話になってるけど」ボソボソ

観測手「アア、モウカエリタイ」

狙撃手「……」ハァ



白兎「あの?」

狙撃手「……ごめん、ちょっと混乱してて」

白兎「はぁ」

狙撃手「……えっと、団長さんはこの子の事を知ってるの?」

白兎「ええ、勿論」

狙撃手「……ごめんね、二人はてっきり初対面だとばかり思ってたんだ」

白兎「ああ、どうりで……何だか少し話がかみ合わないなと思っておりましたわ」ニコリ

白兎「そのお方とは、前線でご一緒した事がありましたの」

狙撃手「……前線で?」

白兎「ええ」

「あれは、5年前、北の帝国が我が国に侵攻してきた時の話です」

「帝国部隊の奇襲を受けた国境防衛部隊は、短時間で制圧されてしまいました」

「当時は戦争が起こるとは予想されてなかったので兵の数も少なく錬度も低かったのです」

「それでも生き残った兵達は森林地帯まで後退し抗戦してはいましたが……数で勝る帝国に各個撃破されている状態でした」



「私も当時、城で迎撃部隊として召集を受けました」

「けれど、我々がどんなに急いでも国境まで3日はかかってしまうのです」

「その間に、生き残りの兵達は全滅してしまうだろう……そう思われていました」

「けれど、そうはならなかったのです」

「私達迎撃部隊が到着したとき」

「4人の兵が生き残っていました」



「1人は医療兵で失明してしました」

「1人は槍兵で片手を失っていました」

「1人は観測手で保護された直後死亡してしまいました」

「唯一無傷で生き残っていた最後の1人は射撃手で、彼女は我々は見てこう言いました」



『だんがんをください、はやく、はやく、はやく』

『でないとみんなしんでしまう』

白兎「その3日間で何があったのかは、判りません」

白兎「保護された兵達も、具体的に語ろうとしませんでしたから」

白兎「けれど、彼女達がいなければ、我が国はもっと深くまで帝国に侵攻されていたでしょう」

狙撃手「……」

白兎「……私は、忘れられないのです」

狙撃手「……何を?」

白兎「あの時の、彼女の眼です」

狙撃手「……眼?」

白兎「はい」

白兎「まるで機械仕掛けのような、冷たく恐ろしい……」

白兎「……けれど、美しい眼でした」

白兎「魅入られるかのような」

白兎「……だから」

白兎「……今でも彼女の眼は、まっすぐ見る事ができません」

狙撃手「……」

観測手「……」

狙撃手「……帰っちゃったね、団長さん」

観測手「うん……」

狙撃手「……尊敬はしてるって言ってたよ」

観測手「うん……」

狙撃手「……良かったじゃん」

観測手「うん……」

狙撃手「……」

観測手「……」

狙撃手「……狙撃手だったんだ、昔は」

観測手「うん……」

観測手「私ね、昔、パートナーを死なせちゃったの」

狙撃手「……うん」

観測手「皆はね、ほめてくれた、英雄だって言う人もいた」

狙撃手「……うん」

観測手「けど、そんなの嘘なの、私はただ怖がりだっただけ」

狙撃手「……うん」

観測手「怖かったから、パートナーの言う通り何も考えずに撃ってただけ」

狙撃手「……うん」

観測手「そうすれば皆助かるって、死ななくて済むって言われたから」

狙撃手「……うん」

観測手「けど私の銃が暴発して医療兵さんが失明した」

狙撃手「……うん」

観測手「私をかばって槍兵さんの腕が斬られた」

狙撃手「……うん」

観測手「私のせいで観測手ちゃんが死んじゃった」

狙撃手「……うん」

観測手「聞こえてくるの、銃を持つと彼女の声が」

狙撃手「……うん」

観測手「6時方向、距離0、高度0」

観測手「撃たなきゃ、急いで撃たなきゃ、でないと、でないとみんな死んじゃう」

観測手「気がつくと、私は自分の頭に」

狙撃手「……うん」

観測手「銃口を向けて」

狙撃手「……うん」

観測手「怖いけど、怖いけど声が聞こえるから」

観測手「6時方向、距離0、高度0」

観測手「急いで、けど焦らないで、慎重に狙いを定めて」

観測手「これでぜんぶおわる」

観測手「ぜんぶわたしがわるいから」

狙撃手「……ふざけてるの?」

狙撃手「全部自分が悪いって何?」

狙撃手「自分がしっかりしてたら全部解決してたと思うの?」

狙撃手「どんだけ自信過剰なの貴女」

狙撃手「貴女みたいなドン臭い奴がどんな頑張っても戦況なんて変わるはずないでしょ」

狙撃手「逆に言うとどんだけ失敗しても戦況に影響なんて与えないよ」

狙撃手「貴女はその程度のものよ」

狙撃手「そんな貴女が生き残れたのは周りの子達がよほど優秀だったからね」

狙撃手「その子達が最善の策をとり最善の選択をした最善の結果が今この状況よ」

狙撃手「それ以上の結果は存在しないわ」

狙撃手「もし今その子達が貴女の今の発言を聞いたらきっとこう言うわね」

狙撃手「私達の選択に何か文句あるのかこの処女が!」

狙撃手「ってね」

観測手「……」パクパク

狙撃手「……何よ、池の鯉みたいに口パクパクして」

観測手「う、うぅ……」グスッ

狙撃手「……泣くな」

観測手「うぅ、ドン臭いって言われた……」グスッ

狙撃手「……事実でしょ」

観測手「うぅぅぅ……ひっく……」グス

狙撃手「……鼻水でてる」

観測手「ふぇ……処女とか、関係なくない、ひっく……」グスッ

狙撃手「……うん、それは言い過ぎたね」

観測手「うぅぅ、狙撃手のばぁかぁぁ……うぐっ……」

狙撃手「……はいはい、私が悪かったよ」

観測手「ぐすっ……ひっく……」ゴシゴシ

狙撃手「……人の服で鼻拭かないで」

観測手「ふ、ふへへ、ざまぁ……」グスッ

狙撃手「……」ハァ

~翌日~

~櫓~


ハーピー「おーい、お昼ごはん持ってきたっすよ~」バッサバッサ

観測手「わあい♪今日の献立は何です?」

ハーピー「からあげサンドっす」

観測手「やったあ♪」

狙撃手「……いただきます」

ハーピー「で、昨日はどうだったっすか?」

観測手「う……」ピタッ

ハーピー「ちゃんと告白できたっすか?」

観測手「そ、そんな大胆な事出来るはずないじゃないですかっ!」

ハーピー「えー、つまんないっすねえ……けど、まあお話くらいは出来たっすよね?」

観測手「おはなし……というか、えっと……」

ハーピー「え?」

狙撃手「……団長さんの話を一方的に聞いてただけだったよ、ほぼ無言で」

ハーピー「え?」

観測手「も、もう!狙撃手さん黙っててって言ったのに!」

ハーピー「えええええ……まじっすか……」

観測手「ごめんね、ハーピーちゃん、折角機会作ってくれたのに……」

ハーピー「……ありえないっすわあ、この人間ありえないっすわあ……」

観測手「ご、ごめんってば……」




ギィィィィィィィィィィィィィ




狙撃手「……あ、城門が開く」

ハーピー「ああ、そう言えばまた獣人兵団が出撃するらしいっすよ」

狙撃兵「……また?」

ハーピー「ほんと、意味が判んないっすよねぇ、北の動き」

観測手「……」

ハーピー「おーっと、観測手さん、ほら見てください団長さんいますよ」

観測手「え、ああ、そうですね、今日もいらっしゃいますね」

ハーピー「……あれ、何か反応が淡白になってないっすか?」

観測手「そ、そんな事ないですよ、い、いやあ、今日も可愛いなあ団長さん」

ハーピー「なーんか変っすねえ……」

狙撃手「……まあ昨日の今日だしね、気恥ずかしさがあるんだと……」

観測手「9時方向、距離400、高度60」

狙撃手「……確認」

観測手「撃って下さい」


ズドンッ


 

ハーピー「うわあっ!び、びっくりした……突然撃つのやめて欲しいっす……」

観測手「着弾確認、地面に落ちました」

狙撃手「……今のって」

観測手「すみません、ハーピーさん、あれ拾って来てもらえます?」

ハーピー「いいっすけど……うう、耳がキーンとする……」バッサバッサ




ハーピー「拾ってきたッすけど、これただの鳥っすよ?」バッサバッサ

狙撃手「……うん、やっぱり鳥だね」

観測手「……」

ハーピー「けど、何か臭いっすね、この鳥」

観測手「腐敗がもう始まってますね」

狙撃手「……今撃ち落としたばかりなのに?」

観測手「……」

カキカキカキ


観測手「ハーピーさん」

ハーピー「はいっす」

観測手「この鳥を魔術兵団の団長さんに渡して来てください」

観測手「あとこの手紙も」

ハーピー「わ、判ったっす」

狙撃手「……腐敗の呪いか何かかな?」

観測手「それくらいなら……いいんですけど」

観測手「何か……良くない予感がします……」

~数日後~

~櫓~


観測手「14時方向、距離350、高度0」

狙撃手「確認」

観測手「誤差調整、右に0.5、撃て」


ドシュッ


観測手「10時方向、距離400、高度35、2体」

狙撃手「確認」

観測手「誤差調整、右に0.3、撃て」



ドシュッ

ドシュッ



観測手「着弾確認」

狙撃手「……猫と鳥だったね」

観測手「はい……」

狙撃手「……アレも前のと同じなのかな」

観測手「動きが……おかしかったですから……」

狙撃手「……あの小動物達は、何なのかな」

狙撃手「……ここ数日、森からフラフラと出てくる」

狙撃手「……確認してみると、身体が腐敗している」

狙撃手「……骨が露出しているヤツもいた」

狙撃手「……奇病が森の中に蔓延しているとか?」

観測手「12時方向、距離500、高度0」

狙撃手「……確認」

観測手「あれは……」

狙撃手「……あれは、うちの獣人兵団?」

観測手「けど、けど変です、あんなに少ないなんて……」



開門!開門!

早くあけてくれ!



観測手「……」

狙撃手「……観測手?」

観測手「……血の、匂いが」

「わ、私達獣人兵団は小隊ごとに分かれて森林地帯を進んでいました」

「何時もと同じだと、思ったんです」

「森林地帯を進む敵に奇襲を仕掛けて戦線をかき回す」

「陣形を崩して敵を孤立させ撃破する」

「何時もと同じようにそうしたんです」

「けど、けど、森が何時もと様子が違っていて」

「こ、声が、声が聞こえてきたんです、森から」

「違います、森の奥からじゃありません、森のそこらじゅうから」

「悲鳴が、うめき声が、這いずる音が」

「あれは、あいつらは帝国の鎧を着ていました、けれど、けれど」

「ああ、そうです、あいつらは、あいつらは、もう死んで」

「死んでたんです、だって首が半分千切れかけて」

「生きているはずがない、そう、私達が今まで殺した、殺してきた」

「殺したはずの帝国兵が、森の中に置き去りにされた死体が、死体が動いて」

「私達はあいつらに囲まれて、切り裂いても殴っても立ちあがってきて」

「ひ、ひひひ、何体も、何十体も、何百体も、何千体も、あいつらが、あいつらが」

観測手「……団長さんは?」

獣人兵「やつらが、やつらが……」ブツブツ

観測手「団長さんは、どうしたんですか」

獣人兵「……だ、だんちょう?」

観測手「はい、貴方達の団長さんはどうしたんですか」

獣人兵「……団長は」

獣人兵「我々を逃がす為の囮に……」

観測手「……」

獣人兵「生き延びて、この事を王に伝えろと……」

観測手「……そう、ですか」

獣人兵「そう、そうだ、私は悪くない、私は言われた事をしただけ、そうだ、悪くない」ブツブツ

狙撃手「……」

観測手「……」

観測手「あの小動物達は、アンデッドだったんです」


「12時方向、距離200、高度0、犬型2体、人型1体、誤差左に0.6、撃て」

「確認」


観測手「恐らく帝国に死霊術師がいるのでしょうね」


「9時方向、距離300、高度20に鳥型1体、高度0に人型3体、誤差なし、撃て」

「確認」


観測手「北側森林地帯には戦死した帝国兵が大量に放置してありましたし、それを利用したのでしょう」


「14時方向、距離250、高度0、人型6体、誤差右上に1.2、撃て」

「確認」

「再調整、誤差右に0.2、撃て」


観測手「ここ最近無茶な用兵をしていたのはこれが目的だったのかもしれません」


「10時方向、距離500、高度0、人型2体、誤差左に0.4、撃て」

「確認」


観測手「あるいは5年前の開戦当時からこの状況を作る為に動いていたのかもしれません」


「再度12時方向、高度0、獣人……白い……」

 


「まるで機械仕掛けのような、冷たく恐ろしい……」

「……けれど、美しい眼でした」

「魅入られるかのような」

「……だから」

「……今でも彼女の眼は、まっすぐ見る事ができません」



 

観測手「……白い兎の獣人1体、誤差なし、撃て」

狙撃手「……けど、あれは」

観測手「撃って下さい」

狙撃手「……確認」



ドシュッ



狙撃手「……」

観測手「……ああきっと」

観測手「きっと私は、今……」

観測手「……彼女が言ったような眼をしているんでしょうね」

「死体達は森から続々とやってくる」

「私は観測手の指示の元、それらを撃ち殺した」

「やつらは頭を撃たないと動き続ける」

「精密な射撃が必要だ」

「余計な事を考えている余裕はない」

「10体、20体、30体を撃ち殺した」

「100体、200体、300体を撃ち殺した」

「キリがないように思えてくる」

「けれど、観測手の声は止まない」

「彼女の声が続く限り、私も撃ち続けないと」

「……ああ、それでもまだ状況はマシなほうだったんだ」

「外敵にだけ気を向けていれば良かったんだから」

「けれど」

ハーピー「はーい、お昼ごはんの時間っすよー……」バッサバッサ

観測手「11時方向、距離100、高度0、獣人型4体、修正左上に0.3、撃て」

狙撃手「確認」



バシュッ



ハーピー「スルーっすか……いやあ、きついっすわぁ……」

観測手「……ハーピー、さん?」

ハーピー「はいはい、ハーピーさんっすよ……えっと伝令もあるっす……」

狙撃手「……貴女、怪我を?」

ハーピー「……王様が死んだっす」

狙撃手「……え?」

観測手「死ん、だ?」

ハーピー「ほら、撤退してきた獣人兵達がいた、じゃないっすか……」

ハーピー「あいつら、アンデッド達に噛まれてたみたいなんっすよね……」

ハーピー「しばらくは大丈夫、だったんっすけど……なんか、突然……」

ハーピー「あいつらも、アンデッドになって……周りの兵に噛みつき始めて……」

ハーピー「王様も、その時……」

ハーピー「いやあ、あっけない、もんっすわ……」

観測手「そう、ですか……」

狙撃手「……ハーピー、貴女もしかして」

ハーピー「あははは、私もちょっと王様助けようとしてドジって噛まれてしまったっすよー……」

観測手「……」

狙撃手「……じゃあ、貴女も」

ハーピー「……はい、アンデッドに、なると思います」

狙撃手「……そ、そんな、何か、何か治す方法は」

狙撃手「……そうだ、魔術兵団なら、もしかしたら治療法を探ってるかも」

ハーピー「いやあ、あるかもしんないっすけど、時間ないと思うっす……」

ハーピー「もう城の中で誰が生き残ってるかもわからない状態っすし……」

観測手「……」

ハーピー「高所から飛び降りて死のうかとも思ったんすけど……」

ハーピー「打ち所が良くて死に切れなかったら、辛いっすよね……」

ハーピー「けど、狙撃手さんと観測手さんなら……」

ハーピー「上手く仕留めてくれるかなって……あ、あははは……」

観測手「判りました」

狙撃手「……けど、けどハーピーはまだ生きてる!生きてるのに!」

ハーピー「いやあ、たスかるっす……おんにキるっすよ……」

観測手「12時方向、距離0、高度0」

狙撃手「……!」

観測手「……狙撃手さん」

狙撃手「だ、だめだ、こんなの……」

観測手「……大丈夫です、狙撃手さん」

狙撃手「な、なにが……?」

観測手「嫌な事は、見なくてもいいです」

観測手「怖い事は、目を背けていいです」

観測手「辛い事は、考えなくてもいいです」

観測手「全部、全部私がシテあげますから」

観測手「だから、狙撃手さんは私の声だけを聞いていればいいんです」

狙撃手「……声、だけ……」

観測手「はい」

「……観測手と狙撃手は」

「……え?」

「二人で一つのユニットです……」

「……うん、まあ、そうだね」

「もし狙撃手さんがいなければ、私の観測は無意味なものとなります」

「……正しい認識だね」

「その逆もまた真なり、です」

「……うんうん」

「これは人生においても同じです」

「……うんう……ん?」

「狙撃手さんが一人道に迷い立ち止まってしまった時は、私が道を照らす義務があります」

「……そう、かな?」

「そうです!」

「……まあ、そう言って貰えるのは嬉しいけど」

「はい、ですから狙撃手さん」

「うん」




「12時方向、距離0、高度0、誤差なし、撃て」

「確認」


ドュシュッ

狙撃手「……」

観測手「……」

狙撃手「……ん、あれ、私寝てた?」

観測手「はい、ぐっすり眠ってましたね」

狙撃手「……ごめん、任務中なのに」

観測手「いえいえ、狙撃手さんも疲れてらしたようですし」

狙撃手「……確かに、沢山撃ったしなあ」

観測手「もう少し、休憩しますか?」

狙撃手「……いや、いいよ、それより弾ってどれくらい残ってたっけ」

観測手「大丈夫、いっぱいありますよ」

狙撃手「……そっか」

観測手「またやりますか?」

狙撃手「……うん、やろうか」

「彼女の声に従い、引き金を引く」

「そうすると、パッと赤い花が咲く」

「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」

「沢山の花が咲く」

「そうすると、また彼女の声が聞こえる」

「私を包み込むような声が」

「また花が咲く」

「何も考えなくていい」

「何も想わなくていい」

「何も観なくてもいい」

「まるで彼女と一体になったかのような感覚」

「ああ、凄く安心する」

「私はこれを望んでいたんだ」

「ずっと望んでいたんだ」

「好きでした」

「ずっと好きでした」

「言いだせずにいたけれど」

「パートナーになった時からずっと」

「貴女の声が好きでした」

「貴女の仕草が好きでした」

「貴女の香りが好きでした」

「貴女が他の人を好きだとわかっても」

「ずっと貴女が好きでした」

「好きでした」

「好きでした……」

~1週間後~

~国境~


幼女「はい、終了れす」パンパン

将校「は?」

幼女「お城で生きてる人、みんないなくなったれす」

将校「そ、それは……素晴らしいお手並みで」

幼女「まあ、私の死霊術にかかればこんなもんれす」ピョン

将校「あ、お、お待ちください、どちらに行かれるので?」

幼女「そりゃあ、お城に行くに決まってるのれす」

幼女「私が行かないと、城を制圧する帝国兵達までゾンビに食われてしまうれすよ」

将校「し、しかしまだ危険があるかもしれませんし」

幼女「あ?生きてる奴が一人もいないのに危険も何もないれすよ」

幼女「それとも、私の感知能力疑うれすか?」

将校「い、いえ、そういうわけでは……」

幼女「なら黙ってついてくるれす」

将校「はっ!」

~城門前~


幼女「うわあ……予想以上に酷い有様れす……ドロドロれす……」

将校「ここ数日は雨がひどかったですからね……」

幼女「もう、靴下までドロドロになったれす、とっとと城の中に……」



ドシュッ



幼女「あ……」ブシュッ

将校「え……」

幼女「……」ガクッ

将校「死霊術師様!?」

将校「う、うわあああ!死霊術師様の頭が撃ち抜かれて……!」



ドシュッ



将校「がっ……」プシュー

将校「……」ガクッ

「彼女の声が聞こえた」

「細い、風のような声」

「もう人の言葉を成さない声」

「その声に導かれるように」

「私は銃身を動かす」

「何時ものように」

「狙って撃つ」

「何度も繰り返した動作」

「もう意識しなくてもできる」

「ああ、きっと今の私は」

「彼女と同じように」

「機械仕掛けのような、冷たく恐ろしい眼をしているのだろう」

「それは、きっと、とても幸せな事」

「ずっと望んでいた事」

「私は忘れない」

「この感覚を」

「このまま死んでしまっても」

「人でなくなってしまったとしても」

「きっと繰り返す」

「彼女と一緒に」

「ずっと」

「ずっと」

「ずっと」

終わり!

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