こんなわたしでも (5)

初めて書いたssです。智絵里ちゃんは自分に自信のない子だから、きっと自分の嫌なところを消し去りたい、
新しい自分になれたとしたら、自分の中で過去をなかったことにしようとするんじゃないかなと思い
このようなssを書きました。新曲「cherry*merry*cherry」を聞いてからだとなお楽しめるかもしれません。

ーこんなわたしでも、いいのかなー



小さい頃からずっとその言葉がわたしの頭の中の口癖だった。小学校の女の子グループの会話に入るときも、中学校の修学旅行の班決めの時も、わたしは仲間外れにされることはなかった。誰かしらが私を輪の中にいれてくれた。
そのたびにその言葉が頭をよぎる。自分に自信が持てなくて。今もまだ変われてないのかなって。時々不安になって。


かな子「…りちゃん」


アイドルになって、お友達も増えて、前より明るくなった今でも時々こんなことを考える。


かな子「智絵里ちゃん!」

智絵里「わ、ごめんねかなこちゃん、ぼーっとしてて…」

かな子「えっとね、来週私たちキャンディアイランドでバラエティ番組に出るじゃない?どんな事話そうか私迷っちゃって~」


バラエティ番組、あ、そういえばそうだったな。


智絵里「芸能界に入って変わったこと、だっけ?トークで聞かれる内容」

かな子「そうそう~!たくさんお菓子が食べられなくなったとかお菓子つくりの時間があまり取れなくなったとかしか思いつかないよ~」

智絵里「あはは…」


変わったこと、か。


ちひろ「あら智絵里ちゃんにかな子ちゃん、まだ事務所にいたのね」

智絵里「ちひろさん、すいません長居しちゃって」

ちひろ「それは全然構わないのだけれど、明日からまた月曜日だから、早めに帰って休んだほうがいいんじゃないかなって」

かな子「それもそうですね、お腹もすいてきちゃいましたし~」

智絵里「そういえば杏ちゃんには相談してないの?」

かな子「「杏はどんな時も変わらないのだ~、あ、でももっと印税がでるならやる気あふれる杏にかわるかも」って言ってたよ」

智絵里「杏ちゃんらしいね」





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ーー智絵里宅、自室ーー

智絵里「変わったこと、か。」


アイドルを始める前のわたしは臆病で、自分に自信がなくて、卑屈な女の子だった。


プロデューサーさんがわたしを見つけてくれなかったら、いまも変われないままだったかもしれない。


ーーーーーコンコン。


智絵里「はーい」


ガチャ


智絵里父「智絵里」

智絵里「おとうさん、どうしたの」

智絵里父「明日からお父さんとお母さんは出張で一週間くらい家を空けてしまう。智絵里を一人数日この家に置いてくことはできないから、智絵里は明日からしばらくおばあちゃんの家にお世話になってくれ、連絡はしてある。」

智絵里「あ、うん、わかった。」


おばあちゃんの家はここから30分くらいのところにある。通学や出勤にはそこまで影響しない。


智絵里父「じゃ、お父さんたちはもう寝るから、智絵里も早く寝るんだぞ」

智絵里「あ、おとうさん」

智絵里父「?」

智絵里「おとうさんは、わたしがアイドルを始めて、わたしが変わったと思う?」


おとうさんは少し驚いた顔をした。普段日常的な会話もほとんど交わさない娘が、いきなり真面目な質問を投げかけたからだろうか。


智絵里父「……智絵里は、変わったよ。」

智絵里「…そうなんだ。」

わたしは少し安心した表情をした。わたしが、あの頃の弱虫なまま変わってないといわれなくて。少なくとも親が言うなら、しんじられると思ったから。

智絵里父「…智絵里は、変われてうれしいのか?」

智絵里「うん、弱虫だったわたしが、少しでも変われたのはうれしいなって。」

智絵里父「…」


おとうさんは少し困った顔をする。わたしはそれが少し不思議だった。何か気に障ることでも言っちゃったのかな。


智絵里父「…そうか、それはよかった。智絵里がやりたいことをやってるのはお父さんもお母さんもうれしいよ、おやすみ。」

智絵里「…うん、おやすみ。」


そうしてわたしも眠りについた。

ーー翌日、智絵里祖母宅ーー

智絵里「おばあちゃん、しばらくお世話になりますっ」

おばあちゃん「あらあら、そんなにかしこまらなくてもいいのに、智絵里ちゃん、おっきくなったねえ、すっかり美人さんになっちゃって」

智絵里「そ、そんなことないよっ///」

おばあちゃん「まあまあ、入って入って」


わたしはそう言われて促されるがままおばあちゃんの家に入る。小さい頃よく来た記憶とあまり変わりない。


とりあえず仕事があるので、荷物を置いて事務所へ向かった。




ーースタジオーー

AD「おつかれー!」

智絵里&かな子「おつかれさまです!」

杏「はー今日はもうつかれた~杏一歩も動けな~い」

かな子「はいはい杏ちゃん、飴あげるから控室までももどりましょう」

杏「え~しかたないなあ、戻るか~」

智絵里「わたしも戻るね」


と、二人についていこうとしたとき、肩をたたかれた。


智絵里「はいっ?」

AD「智絵里ちゃん、今日よかったね」

智絵里「あ、はいっ!ありがとうございますっ」

AD「ぼくデビューしたての頃の智絵里ちゃんを見てたからわかるんだけど、前はどこか暗い雰囲気があったんだけど、今は明るい雰囲気がすごいいい感じに出てるよ~新曲もそれが伝わってきたなぁ。頑張ってね」

智絵里「ありがとうございますっ!」


周りの人が、わたしが変わったと、よくなったと言ってくれてる。
 

わたしは、変われた。





ーーー楽屋ーーー


かな子「おつかれさま~」

杏「おつ~」

智絵里「おつかれさま」

かな子「そういえば智絵里ちゃん、前話してた番組のお仕事、キャンディアイランドだけ歌うんじゃなくて、智絵里ちゃんの新曲も歌うらしいよ~」

智絵里「そうなの!?緊張するなあ…」


新曲かぁ…


前の「風色メロディ」とは違う、明るいアップテンポの曲。そういう歌を歌えるようになったのも、やっぱりわたしがかわれたってことかな。


ーこんな私でいいのかなー


そんなことを考える過去のわたしは、もういなくなってて、それはきっといいことなんだ。


ーー智絵里祖母宅ーー

智絵里「ただいま」

おばあちゃん「おかえり智絵里、ご飯できてるよ」

智絵里「ありがとうおばあちゃん」


おばあちゃんの作った少し味の濃い、けど疲れた体を満たすおいしい夕食を食べながらわたしは考える。


自分は恐らく変われたこと。前のように臆病で、「こんなわたしでいいのかな」と思うような卑屈なわたしはいなくなってるということ。それを周りの人も喜んでくれてること。


でもなんで、ならなんでお父さんはあの時、あんな顔をしたんだろう。


おばあちゃんの背中を見る。小さい頃、わたしはよくおばあちゃんの家にお世話になっていた。


小さいわたしでは両親が仕事の間、家に一人でいられないからだ。


実は一人で留守番するようになったのは高校生になってからである。


なので臆病で卑屈なわたしのこともおばあちゃんはわかってるはずだ。人に言いたいことを言えなかったりして気持ちがあふれそうになった時、よくおばあちゃんに泣きついていたのを覚えている。


考えると同時に、その疑問を彼女にもしていた。


智絵里「おばあちゃん、わたし、変わったかな」


おばあちゃんは一瞬キツネにつままれたような顔をした。その一秒とない間、どんな答えが返ってくるか緊張する。告白した後の返事を待つのってこういう感じなのかな。経験したことないから想像だけど…、


その緊張をほほえましく見るように、おばあちゃんはいつもの柔らかな顔で答えた。


おばあちゃん「智絵里は変わったね、昔より明るくなったし、べっぴんさんになった。」


わたしはほっとした。今の「このわたし」はいいんだ。「こんなわたし」はもういないんだと。


「でもね」おばあちゃんは続けた。


おばあちゃん「前の智絵里は、内気で弱気な女の子だったかもしれないけど、自分がやるって決めたことは途中で投げ出さない芯の強い、人の幸せを喜べる優しい女の子だよ、そこは変わってない」


わたしはびっくりした。わたしにとって以前の自分は負の遺産のようなものだとしか思っていなかったからだ。


おばあちゃん「智絵里のお父さんもお母さんも、「アイドルを始めてから智絵里は明るくなった、けどそれ以上にうれしかったのは、智絵里が今も昔と変わらず、優しい智絵里のままでいること」って前私に話してたのよ。たぶん直接言うのは照れくさかったのかもね。」






「ーーーーーーっ。」






わたしは小さい頃と同じようにおばあちゃんに泣きついた。けど、小さい頃と違ってすごくうれしい気持ちであふれて。




ーーーー日曜日ーーーーー


司会「えーそれではアイドルになって変わったこと、では智絵里ちゃんどうぞ!」


智絵里「わたしはアイドルになって、前より明るくなれました!」




ーーーこんなわたしでもいいのかな、って思うことはあるけどーーー




司会「なるほどそれでは、そんな智絵里ちゃんの新曲「cherry*merry*cherry」歌ってもらいましょう!」




ーーーどんなわたしでも、それがわたしだからーーー




智絵里「どんなわたしも、受け止めてくださいね♪」



おしまい




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