愛の坩堝 (22)

好きになると、その人の好きなところがたくさん見えてきて
胸いっぱいに満たされる

私もあなたもあの野郎も

それはみんな同じだと思う

だから私は人を好きになるの

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ああ、なんてステキな人
寡黙で無口で寡黙なところが可愛らしい
彼はクラスメートの橋本くん

強いて悪いところを上げるとするなら無愛想で無口で陰気なところかな
あいつといると事ある毎に雨降らしそうだし一緒にはいたくないかも
たまにウンコ臭いし

ふふ、カレー見ると橋本くんを思い出しちゃう
やっぱりウンコ臭いからかな

とにかく一つ言えるのは
私は橋本が大好きってこと!

ああ、なんてステキな人
元気で活発で明るいところがいとおしい
彼はサッカー部の小泉くん

敢えて苦言を呈すなれば元気が有り余ってるところかな
正直うるさい。休み時間中ノイズかってくらい不快音撒き散らしててウザい
走り回るしリフティングするしドリブルするし黒板にシュート決めるしチョークの粉舞うし鬱陶しい
しょっちゅう汗臭いしベタついてそう

得意のサッカーもそんなでもないし
お世辞にも褒められたルックスじゃない
でもそんなところもまた……とは思わない

とにかく私が言いたいのは
私は小泉が大好きってこと!

ああ、なんてステキな人
家柄がよくて裕福で裕福なところが尊い
彼は生徒会長の金島くん

非の打ち所がないくらい裕福な彼だけど
もうちょっとだけ痩せてほしいかな
糖質、制限した方がいいよ?

とにかく私はお金島が大好き!

ああ、誰よりもステキな人
顔がよくてハーフでイケメンでパーツが整っててスリムで身長192cmの頼もしげが惚れ惚れする
彼は転校生の冨士田ノワールくん

特技はスポーツ全般
理系、文系どっちも極めててハーバード大学からもスカウトされる程の天才
テレビにだって引っ張りだこの完璧超人
ルックスも神!神ってる!

ただ一つだけ気になるのは髪型がドレッドヘアーなとこかな
でもそんなとこもお茶目でキュート
あの顔見たら全て許せちゃう!

と思ってたけどクチャラーだった
飲み物飲んでてもクチャクチャいってる
固形物も流動食もお構い無しにクチャクチャクチャクチャ
なにも口に含んでなくたってクチャクチャいってる
マジ無理だわ
そもそも髪型が生理的に受け付けない

とにかく私クチャール大好き!

ああ、こんなにこんなにだーい好きなのに
どうして誰も私を好きになってくれないの?

愛情は与え合うもの、分け合うものよ
そうでしょう?

それなのにあなた達ったらお話の一つもしてくれない
私の目を見てもくれない
愛情ばかり享受してる
そんなのってないわ!不公平よ!

ねぇ見て?そうよ聞いて?
好きよ、好きなの、愛してる
だからあなた達もくれなきゃ

たっぷりの甘い愛情を

いいかい
愛情に溢れた君よ
愛情の意味を知り、尊さを知り、儚さを知る優しい人よ

君はとても素晴らしい
君はとても美しい
君はとても微笑ましい
君はとても愛らしい
私は今も君を恋しく想っている

よほど拙い言葉でしか君を語れない
無学な私を許しておくれ
愛は口にするたび重みを失ってしまうけれど
月がきれいなこの夜は
きっと限りなく君を愛しているからだ

だがせめて一言
君への不平を漏らすとするのなら
それは凄まじく口が臭いことだろう

君との距離を縮めるほどに
君を愛しく想う私は
いつもその口から溢れる芳しき香りと
がらがらとした汚ならしい声に悩まされている

はたして君は歯を磨いているのだろうか
歯というものを磨いたことがあるのだろうか
黄色くねばつく歯を見て私は
君への偏見を持ってしまうのだ

内臓が悪いのだろうか
心配である
なぜ舌まで変色しているのか
不安になる
欠けた歯を慮るあまり
金歯を衝動買いしてしまった
君の親は君を娘として
人として、どのように育てていこうと案じていたのか

この胸に溢れる愛と嫌悪感が
膨らんで張り裂けそうだ
愛しているよ。心の底から
そして憎悪している。心の奥底から

ゆえに私は…

ゆえに私は……

ゆえに私は………

折しも私と君は互いを想い
互いへの信頼は惜しみない

馴れ合いなどではない
そこにあるのは濁りなく豊かな愛だ
だからこそ正直に伝えたい

君の歯はもはや磨いたところで輝く見込みはない
その吐息が涼やかな風のごとくたなびくこともない
生暖かく刺激臭を放つのみだ

別れよう
そう切り出したのは私からだった

君は涙ぐましく口をつぐみ
やがて静かにこくりと頷いた
無残な別れ話ではあったが
彼女も私も口を閉ざしたまま多くは語らなかった
それが唯一の救いと言えよう

あんなに好きだったのに
あんなに好きだと言ってくれたのに
あなたは私を裏切った
私のクチ……クサぃってィッた

でも私はあなたを嫌いにならない
嫌いになんてなれない
大好きな人だったから

私達

ズッ友だョ☆

あれから彼女は変わった
私などには目も暮れず他の男に愛想を振り撒くようになったのだ

されど不服を申し立てる気など毛頭ない
私と彼女の縁は既に絶たれたのだから何をしようと自由だ
今や情など、どこにもない
君の新たな出会いに幸あらんことを

どうして!どうして!どうして!

どうして誰も私を好きにならないの!

こうなったら!こうなったら!

あなたと!大好きなあなたと!

よりを戻すしか!それしかないんだから!

彼女がよりを戻したいと願い出た
無論、私はその申し出をきっぱりと断る
彼女の悲しみに包まれた顔を見るのはとても居た堪れなかったが
それでも私は勇気を持って決断を下したことを

誇らしく思う

あ~あ!本物の愛ってどこかにないのかしら

私はいつだって無償の愛
あげてるのに!

元サヤになれなかった彼とは
もう覆水盆に帰らずなの

それでも!それでも!
いつも思い出しちゃうのは
どうして!どうして!
あなたしか……いないの?

いいかい
愛情に溺れた君よ
私が愛してやまなかった人よ

君は愛しさを求めるあまり
愛の在処を見失ってしまったのだ

いつでも信じるばかりで
疑うことを知らない君は
人に疑われることを
信じてもらえない苦しさを
決して認めはしないのだろう

その哀れな口から紡がれる囁きは
どれをとっても苦々しく
語るに落ちるとは
まさに君の為にあるのかもしれない

だが私はもう
そんな君を見ていられないのだ
君が報われる日を夢に見ては
シーツを握り締め、うなだれるしかない

救いが 必要だ




溶かしてやった
あの可愛さ失せて憎たらしい想い人を
めいっぱいの硫酸にぶちこんで

溶かしてやった

橋本も小泉も金島も冨士田も

みんなみんな

溶かしてやった

好きも嫌いも詰め込んで
どっぷりの王水に漬け込んで
大好きな柚子胡椒を振りかけて
愛情たっぷり

あま~い君の出来上がり

よ~く混ぜ混ぜ
骨が残らなくなるまで
髄液が蒸発して消滅するまで
私と君の最高傑作

愛の形は残らない
でも私は君を愛していたよ
今も君の幸せを
ただそれだけを願っている

愛しい人と一つに
いっしょくたになれる喜びを
私のいない世界で感じているといい

これでもう……君の枯れた叫びを聴くこともない

木漏れ日から射し込む太陽の香りが詰まった日溜まりの丘さえ
荒廃した不毛の地へと染めてしまう
朝の乾いた口の匂いも


嗅がなくて済むのだ

おや、鍋がコポコポと音を立てて
沸いては弾ける泡の粒
心なしか君の躍動が窺えるようだ

古来の祭りで例えるなら
魂を込め打つ太鼓のさやけき
それはさながら情感を写し出す浄玻璃の鏡
その臭さは糞尿風呂だ
針山のように尖らせた
刺激的な香り


香り……?


なぜ硫酸から……
いや、硫酸は香るものだ
なにもおかしくはない
だがしかし

これは……君の


そこで私の意識は途絶えた
鍋から噴き出した硫酸に
この身を呑まれてしまったからだ

大好きなあなた
大好きな人

私はいつまでも
あなたを大事にするわ

これは最後のプロポーズ
届いたみたいでよかった

溶けて、混ざって、お互い様ね
善意も好意も悪意も殺意も
まるごと飲み干してしまいましょ

あなたと私もウンコも汗だくもマネーもクチャ男もみんないっしょ

なんて薔薇色なのかしら

音を立ててコポコポと
溢れる愛がこぼれそう


著 夏目創世記

愛の坩堝 完

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