【モバマスSS】 凛「ダブルクロス」 (12)

モバマスSSです。

凛ちゃんがビッチです。

そんなの許せぬ!!と言う方は、閲覧注意でよろしくお願いします。

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「渋谷さん、ずっと好きでした。ボクと付き合って下さい!」


高校の卒業式の校舎裏。

そんなベタな場所で私、渋谷凛はそう告白をされた。


告白して来た人はクラスメイト。


余り話したことは無いけれど、友達の一人がちょっといいね、
と言うくらいには容姿の整った人だった。

とは言っても印象はそれくらい。

私の事を好きだなんて一年間全く気が付かなかった。


私は少し考えると、

「知ってると思うけど、私、アイドルやってるから……。
付き合ってる事秘密になるし、あまり会えないけど、それで良いなら」

と、答えた。

彼は顔中一杯に喜色を浮かべると、

「う、うん!それで構わないよ!!ありがとう!凄く嬉しいよ!!」

と、とても嬉しそうに微笑んだ。


私はその笑顔を見ても特に思う事は無く、
ただ無感情に彼の顔を眺めながら、心の中では別の男性の事を考えていた――

私はずうっとプロデューサーの事が好きだった。

デビューしてからしばらくしてから気づき、それからは、それとなく好意を向けてみたりもした。

でも、この三年間彼は全く気付いた様子を見せず、私はその他大勢の中の彼の担当アイドルの一員でしかなかった。


そんな現状にヤケになっていたのだろう。
卒業式に来てもくれないプロデューサーに失望もしていたのかもしれない。


私は、そんなグチャグチャの感情の中、卒業式を終えた。


そんな時、クラスメイトである彼に校舎裏で告白されたのだった。





告白を受けたのには理由がある。

もう、ただプロデューサーが振り向いてくれるのを待つのに疲れていたし、正直、打算も有った。

彼は勉強もかなり出来て、良い医大に行くことが決まっていると友達から聞いていたし、
クラスメイトの話によると、かなり大きな医院を持つ、医者の一人息子らしい。


これでもそこそこ売れていて稼いでいるアイドルだが、将来の不安は無いとは言えない。
アイドルなんていつまでもやれる職業ではないのだから。


大病院の経営者でも有る医師の婦人、そんな社会的ステータスが頭に無かったとは言えなかった。





彼はその後、クラスメイトの男子と卒業式の打ち上げに合流しに行った。

申し訳なさそうに、

「ゴメン、前から約束してて……」

と、私に告げて来た。

私は気にしないで、とだけ告げ、連絡先だけ交換して彼と分かれた。


人生で初めて彼氏持ちの身分となった訳だが、コレと言った心情の変化も無く、
こんなモノか、大した事無いな、と思いながら家への帰路に就いた。



すると、校門の前に思いがけない人物が立っていた。

プロデューサーだった。


ご卒業おめでとうございます―― 
私にそう告げて、迎えに来ました、車を回して来ます、と言い、駐車場へと歩いて行った。


私はさっき彼氏が出来たばっかりだというのに、何故かその時とは比べ物にならないくらい胸がドキドキしていた。




車の中でプロデューサーは改めて、

「ご卒業おめでとうございます」と告げてきた。

もう二回目だよ、と笑いながらも、ありがとう、とお礼を言う。


そんな私の方をチラチラと見ながら、プロデューサーさんは、

「あのー……もう、高校卒業と言えば…もう社会人の仲間入りと言っても…良いですよね…」

と、何か言いづらそうに話を切り出した。


私は何気なく、

「そうだね、もう仕事してるいまさらではあるけど…お酒はまだ飲めないけどね、未成年だし」

と、軽く答えた。

「未成年…そうか…未成年…」

その言葉を聞いて更に口ごもるプロデューサー。


「一体何??早く言ってよ、気になるから」

何時もと違うプロデューサーの態度に気になった私がそう告げると、
私の言葉に気を振り絞ったのか、車を路肩に停車したプロデューサーが私に、

「渋谷さん…、私と交際して頂けますか??」

と、私の眼を真っ直ぐに見つめて告げて来た。


思わず、その言葉に頭が空っぽになった私に、

「長年、貴女の好意には気付いてはいました…。大変、嬉しく思いました。
しかし、社会通念上、高校生と交際する訳にはいきませんので、貴女がこの歳になり、卒業するまで待っていたのです…」

そう告げるプロデューサーの声が、どこか遠くに聞こえる。


嗚呼

何で

後1時間早く私にその言葉を告げてくれていれば


私は貴方の胸に喜んで飛び込めたのに



そう思い絶望する私の顔を不安げに見つめるプロデューサー。

私はその顔を見て――


「うん…、嬉しいよ。これからよろしくね、プロデューサー」


と、笑顔でプロデューサーに告げたのだった――


もう、私には彼氏が居ると言うのに――



翌日から私の奇妙な二重交際の日々が始まった。


幸いな事に私はアイドル、彼氏は忙しい医大の一年生。

会えるのが二週間に一度、月に一度でも何の不思議もない事が功を奏したのか、
不思議なほどに毎日は順調に過ぎた。

「ボクも時間が作れないからね、申し訳ないと思っているよ」

そう、寂しそうに告げる彼氏の笑顔を見るたびに胸が痛んだ。


そうは思いながらも、アイドル活動を熟しながら、プロデューサーとは愛を深める毎日――


罪悪感からか、彼氏にも身体を許した――


キスもセックスも初めてはプロデューサーだったけど、半ば義務感の様に逢う度に彼氏と身体を重ねた――


不思議な事に、私は彼と交際しているのだから、
プロデューサーとそういう関係にある時こそが不貞、と言う事になる。

なる筈なのに、私は彼氏に抱かれている時こそが、プロデューサーに申し訳ない気持ちで一杯になるのだ。


そう、既に私の中では彼氏との関係が罪に、重荷になっていたのだった――


そうは思っても、何の落ち度もない彼を捨てる事も私には出来なかった。




二人の男性と身体を重ねながら、一人の男性だけを愛する――

そんな歪んだ関係を続けて、数年が経過した――


彼は無事に医大を卒業し、父親の経営する大手の産科医院に入り、若手医師として勤務している。

私もアイドルとして大成功を収め、最近では女優業にも成功しつつある。

プロデューサーとの交際も上手くいき、愛し愛されている自覚も有る。

最近では結婚に付いても言及する事も増え、その度に心が弾んだ。


全ては順調すぎる程順調だった。



私の妊娠が発覚するまでは――



生理があまりにも来ない事を不審に思い、妊娠検査薬を買ってきて試してみた。

結果は陽性だった。


流石に赤ちゃんが出来たら、隠しきれない。

私は思わず頭を抱えた。



この子は多分――いや、ほぼ間違いなくプロデューサーの子供だ。

彼氏とセックスをする時は、危険な日にはコンドームをしていたが、
プロデューサーとの時は何時も何もしていなかった。


プロデューサーとの間に、余計なものを挟みたくなかったのだ。


プロデューサーは不安がったが、安全日だ、アフターピルを飲んでいる、等と誤魔化してそのまま行為に及んだ。


その結果がコレだ。


しかし、私は頭を抱えながらも心の中は喜びで満ち溢れていた。

大好きなプロデューサーとの愛の結晶が、このお腹に宿っている。


その思いだけで、私の中は幸せで満ち溢れてくるのだ。


アイドルは当然続けられないだろう。

引退、と言う事に成るのかもしれない。


しかし、私はその事には不安は無かった。

プロデューサーは結婚も考えていると言ってくれているし、貯金もサラリーマンが生涯稼ぐ賃金の数倍は有る。

今後の生活にも不安は無い。


プロデューサーは職を失うかもしれないけど、二人で花屋でもやればいいではないか、

むしろそっちの方が不安も無くなって嬉しい。
プロデューサーは他にも、数人のアイドルに好意を持たれているから――


もっと不安な事は別にある。

私の彼氏――の事だ。


流石に妊娠までして、二重交際の事を隠せない。

彼の子供だと言い張る事は難しく無いかもしれないが、私は本当に愛しているプロデューサーと結婚したい。


二人でこの子供を育てたいのだ――


私はそう思い、考えた末、覚悟を決めた。


全部、事実を話そう、と――


大丈夫、彼は優しい人物だ。話せばわかってくれる。

顔の一、二発は殴られるかもしれないが、お腹の中の子供に危害を加える事まではしないだろう――

そう思い立ち上がると、彼とスマホで連絡を取り、落ち合う約束を取り付け、その場所へと向かった。


プロデューサーと二人で子供を育てながら、花屋を経営する――

そんな幸せな家族像を想像しながら――



渋谷さんが行方不明になってから、あれから何年が経っただろうか――


最初は人気アイドルの失踪として大々的に騒がれ、警察も数百人体制で捜索に加わり、日本中が大騒ぎだったことを覚えている。

しかし、手掛かりは余りに少なく、進展が無いまま月日は流れ、
警察の捜査体制も日に日に縮小し、遂に見つからないまま死亡届が出されてもおかしくない年月が流れた――


渋谷さんの両親は、死亡届だけは提出してないようだが、もう半ば娘の事を諦めているようだ。

我が社も殆どの人員は入れ替わり、当時居たアイドルで今も残っているのは2,3人。

彼女が居た事すら、我が社では既に朧げになっていた――


そんな中、私だけは渋谷さんの事が忘れられない。

いや、忘れてはいけないのだ、と自分に言い聞かせながら、毎日を過ごしていた。


心の底から愛し、いずれは結婚を望んでいた相手だったのだから――


そんな私の思いが、彼女には重荷だったのだろうか??

いや、私が何れは結婚も視野に、と語る時の彼女は、
確かに困惑はしていたが、とても嬉しそうに笑顔を浮かべていたではないか――


私がそんな事を思いながら歩いていると、

「お父さーん、こっちこっちー、早くー」

と、呼び掛ける少女の声が背中の方からした。


思わず振り向いたのは何故だろうか――

振り向くとそこには、確かに彼女が、私が愛した、渋谷凛さんが居た――

慌てて駆け寄り、渋谷さんの肩に手を掛け、

「渋谷さんっ!!」

と大声で呼び掛けた。


驚きの表情で振り向く彼女は、渋谷さん――では無かった。


多少、似てる所は有るが明らかに少女は、渋谷さんではない。


何よりも年が違いすぎる。
渋谷さんなら、もう三十代も半ば近くだろう。

彼女は、どうみても十代――最初に渋谷さんと会った時より若いくらいの年代だった。


「ちょ、ちょっと、貴方誰ですかっ??放してくださいっ」


そう、迷惑そうに身を捩る彼女にハッと気づき、手を離す。


「す、すいません!!人違いでした!あまりにも知人に似ていたもので!!」

申し訳ないと頭を下げていると、そこの一人の中年男性が駆けつけて来た。


「…どうした、○○ ……、私の娘が何か??」


怪訝そうな顔で私に尋ねて来る中年男性。

私が渋谷さんと見間違えた少女は、嬉しそうな顔をしてその男性の背後に隠れる様に身を寄せた。


その少女の父親らしい男性に知人と見間違えたことを告げ、改めて謝罪すると、
彼は紳士的に謝罪を受け入れてくれた。

気にしないでください、と私に笑顔で告げ、
娘と二人で腕を組みながら、楽しそうに立ち去って行った。


仲の良い親子だ――


私はそんな二人を見送りながら、もし自分が渋谷さんと結婚していれば、
あの位の子供が居たのだろうか――等とぼんやりと考えていた。

そんな益体も無い事を思いついたのは、少女があまりにも渋谷さんに似ていたからだろうか――

私はフルフルと頭を横に振ると、コートの襟を立て、
ポケットに両手を突っ込み、冬の街を独り歩いて行った。


あの仲の良い親子とは逆の方向に――








どうしたんだい??


んーん、さっきの人、どこかで会った事あるのかなぁ…?ちょっと気になったって言うか…


おやおや、○○はああいう感じの男性が好みなのかい??


ちょっと、止めてよー。私はパパみたいな人が良いの!!


ははは、そうかい、じゃあパパとさっきの男性、どっちが好きだい??


断然パパだよ!!比べ物にならないよ!!


ははは、そうかい。それは――とても、嬉しいよ…。






【完】





終わりです。

何か娘が凛そっくりな話、前に書いた気がする…。

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