雪風「しれぇ! 麻雀ってなんですかー?」 (28)
雪風「しれぇ! 麻雀ってなんですかー?」
提督「こんどは麻雀か……」
雪風「しれぇー!」
提督「こんどは教えません。ほら、遠足の前日に知恵熱出すお子様は、向こうで鬼ごっこでもしてきなさい」
雪風「鬼ごっこだと、島風に勝てないですもん!」
提督「おーい、大淀。なんとかしてくれー、っていまは半舷休息中か。まいったなぁ」
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コンコン
提督「はーい、どうぞ」
瑞鶴「失礼します。提督さん、隼鷹見なかった?」
提督「いや、見てないな。少なくともここには来ていない。なんだ、どこへ出かけるのか。パチンコ屋はよしておけよ」
瑞鶴「え、えらい具体的ね……。まぁ、大して変わらない用事なんだけど」
蒼龍「瑞鶴、隼鷹いたー?」
瑞鶴「ここには来てないみたいね」
蒼龍「良かったら、提督ご一緒にどうですか?」
クイックイッ
提督「まさか」
蒼龍「そのまさかです。提督、自費で買っちゃうくらい好きなんでしょう? 隼鷹が見つかるまでの間で構いませんから」
雪風「なにするんですか?」
蒼龍「『麻雀』だよ。もしかして、雪風、できる?」
雪風「麻雀! 雪風、やってみt――」
バカンッ
瑞鶴「提督さん、ひどくない……?」
提督「子供の情操教育に悪い」
瑞鶴「子供って……雪風、ここに来てもう長いわよね……。それにしても、わざわざ気絶させなくたって、ちょっとやらせてみたらいいのに」
提督「想像してみろ……。雪風に麻雀をさせてみた最期を……」
瑞鶴「あー、なるほど……。アウトレンジで仕留められそう」
蒼龍「でも、どうするんです? とりあえず、雪風、医務室に運びましょうか?」
提督「……至急、雪風を医務室に。できれば、ベッドに縛り付けてこい。それから――大至急、ここに卓を持って来い!」
…………
……
…
瑞鳳「あれ、提督ぅ?」
提督「……たしかに、最近、空母を出撃させる機会を意図して少なくしていたのは認める。だからといって、こんな朝っぱらから、空母が集まって麻雀をしているのかと思うと、己の不甲斐なさを恥じ入るばかりだ……」
瑞鳳「違うよ、提督ー。そもそも、私、つい昨日まで長期の遠征に出てたじゃないのぉ」
提督「そういえばそうか。敵艦隊との接触を危惧して、軽空母を一人随伴させたんだったな」
瑞鳳「それでちょうど蒼龍や瑞鶴の休みと私の休みが重なったから、こうして友誼を深めているのよ」
瑞鶴「瑞鳳、のいてのいてー。卓入れらんない」
提督「いやぁ、やっぱり麻雀といえばコタツだなぁ」
瑞鶴「提督さんも変なこだわりもってるわよね。私は全自動の方が楽できて好きなんだけどなー」
瑞鳳「私は、足元が暖かいからコタツって好き」
瑞鶴「私の家には、コタツどころか机にかける布団もなかったからなぁ」
提督「そういえば、お前はそういうクチか」
瑞鶴「そ。そういうクチ。まぁ、今更思い出すようなことでもないけどね」
※艦娘は志願した少女が改造された軍事兵器という設定
蒼龍「おまたせー。牌持ってきましたよー。お、瑞鳳も揃ってますね」
瑞鶴「それじゃあ、さっそく始めちゃいましょうか」
蒼龍「レートはどうします?」
瑞鳳「わ、私あんまり大きいのはちょっと嫌かなぁ……。点玉子焼きなら」
提督「どういうレートだそれは。鎮守府中の卵を焼き尽くすつもりか。それにぶっちぎりトップ取ったって、とても食いきれんだろう」
瑞鳳「そんな提督、私の焼いた玉子焼き食べてくれないんですかぁ……?」
提督「誰もそんなこといっとらんだろーが」
瑞鶴「点彗星とかどう!」
提督「それはお前の姉の持ち物だろうが。まさか、お前姉妹艦から毎夜毎夜とむしりとってるのか……」
瑞鶴「まさか! 翔鶴姉は、賭け事苦手な人だからね」
蒼龍「点0.5くらいにしますか。クイタンアリ後付アリ。よくあるフリー雀荘のルールで」
提督「お前、フリーなんか行くのか? とてもそうは見えんが」
蒼龍「え、あー……。昔の話ですよ」
提督(ここの鎮守府のやつらは、昔やんちゃしてたやつが多くないか)
■東一局 親:瑞鶴
蒼龍「ロン! 3200点!」
瑞鶴「っ…かすり傷なんだから!」
■東二局 親:提督
提督「あちゃー、流局か。これ、聴牌でも親流れるのか」
瑞鳳「うん。そうだよぉ」
■東三局 親:瑞鳳 一本場
瑞鳳「ツモ! 500オールは600オール。て、点は小さくても精鋭だから!」
提督「精鋭ってなんだよ。はい、600点」
■東三局 親:瑞鳳 二本場
瑞鶴「ロン! 6400は70000! アウトレンジで仕留めてやったわ!」
蒼龍「ま、まぁ、たしかに七対子は飛び道具っぽいけどね」
■東四局 親:蒼龍
提督「ロン! タンピン三色2丁! 闇夜の奇襲だ!」
瑞鳳「痛たたたた…やるわねぇ……」
■南一局 親:瑞鶴
瑞鶴「ロン! チンイツドラドラよ! やったー!見たか!これが五航戦の本当の力よ。瑞鶴には幸運の女神がついていてくれるんだから!」
瑞鳳「うぅ…飛んじゃったぁ。やられちゃったなー。温泉、入りたいな」
蒼龍「温泉、いいですねぇ。空母たちで慰安旅行とか、ないんですかね!」
提督「俺を見てもなにもないぞ。そもそも空母連中がここを空けたら、緊急の出撃の時にどーすんだ」
蒼龍「それじゃあ、平和になってからのお楽しみってことで」
提督「気長なことで」
龍驤「なんやなんや、懐かし音聞こえてきた思たけど、もう終わりかいな」
蒼龍「龍驤さん。最近見なかったですけど、どこか遠征にでもいってらしたんですか?」
龍驤「あー、遠征言うたら遠征みたいなもんやな。ちょっと熱海までやな」
瑞鶴「熱海ってまさか……」
瑞鳳「温泉ですかぁ!?」
提督「そのおっさんが行ってきぃ言うもんやさかい、一週間くらいゆっくり湯治してきたったわ。あー、ええ湯やったわ」
瑞鳳「ずるーい! 提督、私もぉ!」
提督「龍驤は一ヶ月ほど、事務に出撃に休みなく働いてくれたからな。まぁ、年寄りは労らんとな」
龍驤「ほいで、それはもう終わりかいな」
蒼龍「龍驤さんも昔よくした方なんですか?」
龍驤「もう30年以上の前の話やけどな。あっちの鎮守府におった時はようやったもんよ。ま、サンマやったけど」
瑞鳳「サンマ? 焼いて食べる……」
龍驤「それは秋刀魚。三人でやる麻雀やよ。向こうやったら、それが主流やったんよ」
提督「一回やってみるか。なんだっけか、萬子の二~八を抜くんだっけ」
龍驤「そうそう。ほんで、五筒と五索はぜんぶ赤。それに華も入れんねん」
瑞鶴「赤って、ドラのこと?」
龍驤「せや。その代わり、点数は35000持ちやな。あ、おっさん、煙草吸うで」
提督「司令室は禁煙だって何度言ったら……」
龍驤「おっさんも12時過ぎたら吸ってるがな。固いこと言いなや」
瑞鳳「こ、こんなにドラ入れたら、満貫、跳満なんて当たり前……。すぐトんじゃうんじゃ――」
龍驤「せやから、いかにトばへんようにするかが、サンマの腕の見せどころや」
瑞鶴「萬子の二から八抜いちゃったら、三色って成立しなくない? その代わり、なんか別の役でも入ったりすんの?」
龍驤「いや、そんなことあらへん。まぁ、ウチは三連刻とか入れてたな」
瑞鶴「えーっ! 三色好きなのにぃ!」
蒼龍「大阪のルールだと、完全先付のクイタンナシ、じゃないんですか?」
瑞鳳「どうゆうこと? クイタンナシはわかるけど……」
蒼龍「例えば、先に七八九で鳴いちゃって、白バックなんかで和了できないってことね」
龍驤「他にも、青と一筒のシャンポコをヤミってて、青出たから言うて和了られへんわな」
提督「ま、ようするに役が確定してる状態でないと和了できない、ってことだ」
瑞鳳「む、難しい……」
龍驤「ま、一回やってみたら分かるわ。で、誰が入んの」
瑞鶴「私はパスで。三色がないなんて!」
瑞鳳「わ、私も……。よく分からないし……」
龍驤「ほな、提督とウチと蒼龍でやろか」
■東一局 親:提督 35000:35000:35000 (提督:蒼龍:龍驤)
龍驤「あ、提督。ドラめくるとこそこちゃうで。華で取らなあかん分あるさかい、五つ目や」
提督「なるほど。華ってのは、さっきの春夏秋冬書いてる牌だよな」
龍驤「そうそう。1枚でドラひとつ分や。ドラが華やったら、ダブ懸やな」
提督「ダブケン?」
蒼龍「ダブル懸牌、まぁダブドラってことです。ついでに言うと、華は空気扱いなんで、立直の一順目に抜いたりしても、一発が消えることはないですよ」
提督「本当にただのドラって訳か」
龍驤「ま、そういうこっちゃな。あ、ツモってもたわ。ツモ2丁」
提督「これ、芝棒入れてないけど、支払いはどうするんだ?」
龍驤「場所にもよるけど、大概はヨンマの点数を千のくらいで切り上げた支払いやな」
蒼龍「今回はわかりやすく、テンパネは無視して支払いましょうか」
龍驤「ほな、1000・3000やな」
■東二局 親:蒼龍 32000:34000:39000
龍驤「蒼龍、牌の扱い綺麗やなぁ。ほんまにただの趣味でやってたんか?」
蒼龍「え、いや、ま、まあ趣味の一環ですよ。今でも、休日たまに歓楽街の方へ行きますし……」
龍驤「ふーん。あ、ロン。タンヤオ四つ。満貫」
提督「げっ。それをダマかよ。立直かけたら跳満じゃねぇか」
龍驤「待ち悪いし、ツモっても跳満やろ。ほれ、はよ払いや」
提督「ちっ……」
■東三局 親:龍驤 24000:34000:47000
提督「ロン! 東南ホンイツ赤赤華。跳満!」
蒼龍「あ、提督、それ三風付くんで、倍満ですね。はい、どうぞ16000です」
龍驤「言わんかったら安すんだのに」
提督「三風?」
蒼龍「風牌を三種類刻子にしたら付く役ですね。2翻役です」
提督「へー、蒼龍は物知りだなぁ」
龍驤「…………」
■南一局 親:提督 40000:18000:47000
提督「立直! 親リーだ!」
龍驤「おー、こわこわ。とりあえず筋でも切っとこか」
蒼龍「私もついていきましょうか」
提督「結局流局かぁ。聴牌」
龍驤「ペン七筒かいな。うちが暗刻で持ってもうとるわ」
■南一局 一本場 親:提督 40000:18000:47000
提督「もう一回立直! 今度こそあがるぞ!」
龍驤「提督にはかなわんなぁ」
提督「親リーに対する第一打で無筋の三筒は強くないか……?」
龍驤「なんや、当たるんかいな」
提督「いや、当たらんけど……」
龍驤「ほな、べっこいいなや。はい、これは」
提督「通し」
龍驤「せやったら立直」
提督「げ……赤い……」
龍驤「丸の方か竹の方か」
提督「丸い方」
龍驤「ロン。ケツ乗ってトッパンやわ」
提督「トッパン?」
蒼龍「倍満のことですよ。一本場なんで17000ですね」
提督「くそ……」
龍驤「…………」
■南二局 親:蒼龍 23000:18000:64000
蒼龍「立直です。ここで一回和了らないと、トップが見えませんからね」
龍驤「華3枚も抜いて……トリプルまであるんとちゃうの?」
蒼龍「それは開けてからのお楽しみです」
龍驤「なぁ、チャッソウ通るん?」
蒼龍「無筋なんで何とも……。あ、切ってみたらわかりますよ」
龍驤「ほな止めとこ。降りや降り」
蒼龍「そうしてくれると助かります」
蒼龍「ツモ。リーズモドラ7。12000オールです」
提督「げっ、赤五筒の暗刻。降りてて良かった」
龍驤「そうでもないけどな」
■南二局 一本場 親:蒼龍 11000:42000:52000
龍驤「それにしても蒼龍が大阪の出とはなぁ。流暢に標準語喋るさかい、気ぃつかへんかったわ」
提督「なんで知ってんだ。艦娘の経歴は軍事機密のはずだが……」
蒼龍「りゅ、龍驤さん!? な、なに言ってるんですか…はは……」
龍驤「今更しょうもない白切りなや。カマかけてみただけやけど、提督も見事に引っ掛かりよるし。ほんまにいけんかいな、こんなおっさんが提督で」
提督「カマかけただ? 部下の分際で……」
龍驤「年はおっさんとおないなんやさかい、多めに見てぇな」
蒼龍「ど、どこで気付いたんですか……?」
龍驤「初めにおかしなぁ思たんは、三風に気ぃ付いたところや。三風は普通この辺やと採用してへんルールやろ」
蒼龍「いや、でも、私はただのローカル役オタクでして……」
龍驤「ほんでその次はトッパンや。普通はおっさんみたいになんのこっちゃ分からん顔するやろ」
提督「どういうことだ?」
龍驤「トッパンっちゅうんは、大阪弁やねん。十(とお)翻(はん)やから、トッパン」
提督「なるほど」
龍驤「それから、チャッソウ。これも関西弁やな。こっちの人間でつこてる人みたことあらへん」
蒼龍「あはは……まさか麻雀で出身地バレるなんて。私、戦災孤児なんです。それで、私を拾ってくれた人が雀荘経営者でして」
龍驤「ほーん。てことは、その牌捌きもメンバー上がりかいな」
蒼龍「まぁ、そういう訳です。あ、それロンです。満貫です」
龍驤「ウチもロンやわ。ハネ」
提督「てめーら、汚ねぇぞ!」
龍驤「知らんわいな。トビやな提督」
蒼龍「えっと、提督が△74、私が+15だから……」
龍驤「+59やな。レートは、ハーフでやってたんか?」
提督「ハーフ? ああ、0.5ってことか。一旦、紙でも成績書いとくか」
蒼龍「そうですね。なにか、裏紙のようなもの……」
バァーン
雪風「提督ーっ! 見つけましたー!」
提督「げっ、気が付いたか」
龍驤「こら敵わん」
雪風「気絶させるなんてひどいです!」
提督「いや、やっぱり子供に麻雀なんてダーティなものを教えるのは情操教育に悪いというかな」
雪風「雪風はもう大人です!」
提督「そ、そうだ。この強い空母のお姉さん方に教えてもらいなさい――って、龍驤の姿が……」
龍驤「おっさん、勝った分は、またあとでもらいにくるわな。ほな、さいなら」
雪風「雪風は、提督に教えてもらいたいです!」
提督「しかし面子がだな。麻雀は4人いないとできたくてだな」
雪風「3人でもできるって、さっき聞きました!」
提督「誰だ余計なこと吹き込んだやつ……」
蒼龍「どーするんですか、提督」
提督「どうもこうも……」
雪風「雪風、やってみたいです!」キラキラ輝く目
提督「少しだけだぞ……」
雪風「やったー!」
蒼龍「はぁ……」
龍驤「ほんで、結局どうなったんや」
蒼龍「提督のひとり負けです。幸いにも、ノーレートでやってたのが救いですね」
龍驤「ノーレートの麻雀とかアホらし。あーあ、絶好のカモやったのになぁ。雪風にボコボコにされたら、しばらく牌触らんやろ」
蒼龍「ふふ、そうですね」
龍驤「そや、たまには二人で飲みに行こか。お好み焼き好きか?」
蒼龍「大好きです! お供させていただきます」
龍驤「ほな、行こか」
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