エスペランサ (14)
初投稿です
オリジナルSS。時間が空いた時にちらちらと投下するので亀更新かつ駄文になりがちです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1481301277
ヒュー・スクリントン氏の私生活はお世辞にもしっかりしているとは言い難い。
昼間から飲んだくれ、貯金を切り崩したはした金を握りしめ日がなパチンコに興じる。
夜には安居酒屋に居座り、誰彼構わずに絡んでは疎まれ、店主にたたき出されて店を出、千鳥足で自宅に帰るのが常だった。
────今日もダメかぁ。
誰にともなくヒューは呟く。ダメ、というのがパチンコでまた勝てなかったことなのか、それとも行きつけの居酒屋からたたき出されたことなのか、はたまた今の自堕落な生活に向けてなのか。
それは本人にすらわからなかった。
ヒューは千鳥足のまま帰路につき、酔って回らない頭で明日のパチ代はどうしようかなどとどうでもいいことを考えていた。
ヒュー「……冷えるな……ヒック」
思わず口に出す。秋も暮れ雪が降るんじゃないかというほど冷たい空気の中、満月は煌々と煌めいていた。
居酒屋からおよそ徒歩10分。ヒューは自宅へ帰り着き、玄関のドアをアルコールで震える手でなんとか開ける。
ヒュー「たぁだいまァ」
こんなヒューにも娘はいる。ケイシーという名の、気立てが良く、きりきりと働き料理もできる、父娘なのかと疑うほどにできた娘である。
ところが、様子がおかしい。いつもなら
『またこんな時間まで飲み歩いて!また人様に迷惑かけてたんじゃないでしょうね?!』
とかなんとか口うるさく言ってくるのに、今日はケイシーの姿が見えない。それどころか、いつもなら遅くに帰るヒューを想いリビングの電気はつけてあるはずなのに、家中の照明が点いておらず、真っ暗だった。
ヒューは舌打ちをし、自分のことを棚に上げてここにいない娘を責める。
ヒュー「あのバカ……こんな時間にどこほっつきあるってんだ?帰ってきたら叱ってやる……」
ヒューはぶつくさ言いながら2階の寝室へ向かう。
小煩い娘がいない中、いちいち風呂に早く入れとか仕事を見つけろとか言われずにベッドに向かうことが出来る幸福と身体中に回りきったアルコールを前に、ヒューはこの家の異変に気づいていなかった。
気づくことが、出来なかった。
ありがとう
昨日はスレ立てして割とすぐ寝落ちしてしまった
2、3レス分の書き溜めがオシャカだ……
一歩一歩、アルコールで鈍った身体を引きずるように階段を上がる。上がりきった先、2階のフロアは階段から見て正面がヒューの部屋、右手側が娘ケイシーの部屋だ。
ろくにまっすぐ歩けもしない足を無理やり動かし、自室へと歩くヒューの耳は、ふと物音を捉える。
何かがぶつかるような音だ。
ヒューは自室に抜き足で近づき、恐る恐るといった体でドアノブをつかみ、回す。
そこにあったのは散乱したビール缶とタバコの吸殻。対照的にピシッと整えられたベッドのシーツ。
前者はヒューが、後者は恐らく、というか絶対にケイシーがやったものだろう。
散らかり具合はともかくとして、部屋の様子に異変はない。いつもと同じだ。
────やはり、気のせいか。
そう思い、室内に入ってドアを閉めようとしたその時。先ほどよりも大きな衝突音がヒューの動きを留める。
ヒュー「!?」
咄嗟に自室のドアを背にして、2階を見渡す。今登ってきた階段に異変はない。
ふとケイシーの部屋に視線をやると、ドアが不自然に歪んでいる。
ヒューはゆっくりと娘の部屋に近づき、ノックをする。
ヒュー「おい、ケイシー!いるのか?何かあったのか?」
返事はない。不気味なまでの静寂が鼓膜に突き刺さり、一種の恐怖的感情が湧き上がる。
なんてことは無い。物音は気のせいだ。そして娘は家の電気を消して寝ているだけなんだと自分に言い聞かせ、先ほど自室を開けたのと同じように、恐る恐るドアノブに触れる。────冷たい。
まるでこの状況を嘲笑うかのような無機物の冷たさにヒューは逆に奮い立ち、勢いよくドアを開ける。
本文書き込めないぞ……?
テスト
────そこに広がるのは、異世界だった。
そう言ってもいいほどの惨状がヒューの目に飛び込んできた。
ケイシーが愛用している化粧台は鏡が割れ、その破片が床に散乱している。読書家な娘の大きな本棚は倒れ、収納されていた本は横たわる棚の下敷きになり、破れ、抜け落ちたページもまた床にばらまかれていた。
極め付きはベッドの上だった。
中心には横たわり、呻いているケイシー。しかしその様子は尋常ではない。左足は有り得ない方向に曲がっており、右腕からは骨が突き出ている。腹には抉られたような穴が空いており、そこから今なお鮮やかなほどの赤がベッドにシミを作っている。
ヒュー「え……?は…」
あまりの状況にヒューは言葉を口に出すことすらできなかった。
ケイシー「う…おと……っさ…にげ…………」
息も絶え絶えに、ケイシーが何かを言わんとするも、最後まで聞き取る前に轟音がヒューの鼓膜を襲う。
音の出どころはクローゼット。慌てて振り返ると、半分壊れたドアを押しのけるように一人の男がのそりと出てきた。
男「… … …」
男、とは言ったもののその目には生気がなく、ベッドを濡らす血と同じ色の瞳孔が意味ありげに収縮し、口元からのぞく歯は牙、と言った方が適当で人間と言っていいのか不明瞭だった。
ヒュー「あ……あ…?」
目の前の事態を理解出来ずに動けないヒューの前を素通りし、男はベッドの傍らに立つ。
そして、男は右腕をヒューに見せつけるように拡げたかと思うと、男の右腕はいきなり肘先から先が黒く染まり始めた。筋肉は膨張し、血管ははち切れんばかり。指先には1本1本に冷水で研がれたナイフのように鋭利な爪が伸びていた。
その黒色の腕で男はケイシーの右腕を力ずくでもぎ取り、その牙でもって咀嚼し始める。
ケイシー「あっ……があ……ッ、」
意識も朦朧とするケイシーは叫び声をあげることすら許されず、ただただ目の前で自分の腕が喰べられているのを見ている事しか出来なかった。
ヒューは視界に映る状況を理解すると立っていることすらままならず腰を抜かしへたりこむ。
床についた手は散らばっていた鏡の破片が突き刺さり血が出たものの、それを意に介す素振りをも見せることなく、ただこれだけ呟いた。
ヒュー「悪魔……」
男、いや悪魔はケイシーの腕の『食べ残し』を無造作に捨てたかと思うと、ヒューへと向き直る。
ヒュー「ひっ」
ヒューは何も考えられず、ここに居たら殺されるという直感のみに身を委ねケイシーの部屋から脱兎のごとく駆け出した。
鉄砲玉のように走るヒューだったが、後ろからの声に振り返る。
悪魔「……ケケケ…ヒハハハハハハ!!!」
悪魔の耳障りな笑い声。どうやら悪魔はヒューのことを『おかわり』とみなしたらしい。
その目には躊躇や情けなんてものは砂一粒程も感じられず、狂気と殺意だけがむき出しの刃物のような鋭い瞳をしていた。
階段を駆け下り、リビング横のキッチンへ入るヒュー。冷蔵庫を背に身体中の震えと筋肉の弛緩による失禁が止まらなかった。
ヒュー「は、ハハ……ハァ……」
乾いた笑いもすぐに消え、入れ替わるようにキッチンに悪魔が姿を現す。
悪魔はその牙から涎を滴らせ、いつの間にか左腕も黒く大きくなっている。その腕を大きく振りかぶり、ゆっくりと、獲物を追い詰めるように近づいてくる。
ギラギラと光る悪魔の目は次の食料への純粋な期待に爛々と輝いていた。
────その輝きが、ヒュー・スクリントンの最期に見たものだった。
『────そのため、政府は公安局による武力制圧を考慮に入れ、慎重に話し合っていく方針のようです。』
『速報です。きょう未明、ハナニラの市内にある一軒家で2名の死体が見つかりました。
ひとりは五十代半ばの男性、もうひとりは二十代の女性と見受けられます。』
『2人は家主であるヒュー・スクリントン氏とその娘、ケイシー・スクリントンであるとの見解がなされていますが、死体はバラバラにされ、直接の死因は特定できていません。』
『その手口から公安はこの事件を“デモンズデッド”と見ており、専門機関への依頼を要請するとの事ですが、これで今月の────』
ブツン。
女性アナウンサーの声は途絶え、室内は静寂に包まれる。その中、重く長いため息をついたのはたった今テレビを消した男性だった。
「まったく、嫌んなるよ……どう思う?クレア。」
クレアと呼ばれた少女は答える。
クレア「今月に入って……8件目、か。2日に1回はデモンズデッドが行われてるって計算になるね、単純計算だと。
ねぇウォケル。今度もまた“ヒトガタ”の仕業だと思う?」
ウォケルはこめかみを掻き、やれやれと言った感じで頷く。
ウォケル「まぁそうだろうな…今回のは何でも家の中で殺人は行われたらしい」
クレア「中で……?それって…」
ウォケル「あぁ。今までよりももっとヒトに近い形で、もっと狡猾に獲物を狙っている」
ウォケル「もしこのまま状況が変わらないなら」
ウォケルは一旦言葉を切り、言うのをはばかるように息を呑む。そして、長いため息とともにこう言った。
ウォケル「“僕ら”の出番は増えるね」
ミス
少女?
女性○
成人してるのに少女はおかしいですよね
────『デモンズデッド』。
そう呼ばれる事件が起こるようになったのは2年前からだった。
始まりは、とある山林で男性のバラバラ死体が見つかったことだった。
しかし遺体のどの部位にも刃物を使った形跡はなく、力任せに引っ張られ千切れた、と言った方が適当だった。
公安局はこれを猟奇的殺人事件として捜査を進めた。
次に事態が動いたのは一般人からの通報で発覚した現行で行われた悪魔による殺人。
『怪しいものがうろついている』との通報を受けた公安局が現場に急行すると四肢が黒く膨張し、口元には鋭利な牙を生やした悪魔がそこにおり、通報者の五体を引き裂いていた。
これが事実上、初めて確認された悪魔による人間の殺戮、及び捕食であった。
この事件を機に、政府は悪魔による殺人を
『デモンズデッド』と定め、人類の安全を守るための最大の障害として最重要課題においた。
人類は悪魔に慌てふためいた。
どうにかできないものかと策を講じた。
第一に公安による制圧を試みた。
しかし、悪魔1匹に一個小隊が壊滅させられるほどに、戦力差はあった。どう考えても人類の数は減るだけだった。
第二に、戦車や遠隔狙撃による攻撃を試みた。しかしそれもまた、悪魔の強靭な腕によりぐしゃぐしゃに破壊され、狙撃した弾が悪魔の体を貫通しても知ったことはないと歩みを進めていた。
どう考えてもコストの無駄だった。
人類は救世主を待ちわびた。奇跡を、勝利の女神を待ちわびた。
────しかし、そんなものは現れなかった。
当然だろう。英雄というものは事の後に現れる、いや、祭り上げられ、創られるものだ。
政府も公安も悪魔をのさばらせておくことに並々ならぬ危機感を感じつつも、どうしようもない、というのが現状だった。
そんな中、立ち上がったのは科学者だった。
医学や情報技術、脳科学の髄を結集して作り上げられたそれは、
────小さな小さなその集積回路は、
『バトルチップ』と呼ばれた。
やっべシャープつけ忘れた
まあいいや 次から紅葉でやります
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