―1945年 冬―
501JFW ロマーニャ基地
滑走路
美緒「…………」
土方「……」
ヒュォ~~
美緒「……土方」
土方「はっ、何でありましょう少佐」
美緒「…もう、冬だな?」
土方「はい。オペレーションマルスの延期決定から既に三ヶ月以上経っていますから」
美緒「……。何だ彼んだと擦った揉んだを繰り返し、ついに秋節をも越したか…」
土方「決戦の是非をめぐるロマーニャ王権派との議論も、もはや泥沼化している様です」
美緒「むぅ……」
土方「……」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480224471
美緒「…こう言ってはなんだが、指令本部は完全に機を逸したと、私は思う」
土方「は、はい…。こちらがまごついている間にヴェネツィアの巣の活動も消極的になりましたからね」
美緒「まあ、こうも極端に冷え込めばな…」
土方「……。やはりネウロイも寒冷には弱いのでしょうか?」
美緒「…………」
土方「…? 少佐?」
美緒「私もなんだか、毒気が抜けてしまった」
土方「は?」
美緒「真・烈風斬を体得し最終決戦にて必ず結果を残すのだと、自身の命も惜しまぬ覚悟で構えていたのだが――」
美緒「…なんとも白けた状況になったものだ」
土方「少佐…。最近は魔法力を使わず瞑想のみの訓練でしたのはそういう訳だったのですね?」
美緒「ああ。すっかり頭も冷えてしまって、やたら空虚に烈風斬を無駄打ちする愚行にも気付いた」
土方「…そうですか」
美緒「うむ。今となっては魔法力を温存するのが最善だろう、いざ使うべき時に枯れていては話にならん」
土方「確かに。ごもっともです」
美緒「…訓練も、基礎鍛錬による維持に留めて一度様子を見ようと思う」
土方「はい」
美緒「ついこの間まで無理を重ねた分、今度は少し逆からを試みたい」
土方「……つまり、お身体を労わる方向でありましょうか?」
美緒「うむ。幸か不幸か、決戦まではまだ時間があるだろうし――」
ヒュォ~~ッ
美緒「っ…! ……流石に、もう海風が洒落にならん」ゾク
土方「はい、自分もたった今半袖着である事を本気で後悔しました。…至急、重ね履き用の長ズボンを手配いたします」
美緒「…いや待て。それよりも先ず優先して頼みたい物がある」
土方「?」
―後日―
シャッキーニ部屋
シャーリー「……」
ルッキーニ「~…」ギュー
シャーリー「……なあルッキーニ、そろそろ起きないか?」
ルッキーニ「ん…ゃ~。 外寒いんだもん…」ヒシ
シャーリー「うんまぁ、そうなんだけどさ。いい加減もうベッドから出ないとまた中佐達に叱られるから」
ルッキーニ「うじゅ……ゃだやだ、寒いのやだぁ…」
シャーリー「でも朝飯だってあるし、ルッキーニも腹減ってるだろ?」
ルッキーニ「……」
シャーリー「ルッキーニ? …おーい?」
ルッキーニ「……zz…」スヤァ
シャーリー「えぇ…」
ルッキーニ「~…んにゅ……zz」モゾ
シャーリー「はぁ~、仕方ない。悪いけどあたしはもう起きるからな」ノソノソ
ルッキーニ「zz…」
シャーリー「んしょっと。ほら、放してくれー?」グイ
ルッキーニ「んむ……ん~…」モゾゾ
シャーリー「あーあー、毛布の中で丸まっちゃったよ。こりゃ駄目だなぁ――」
シャーリー「…! て、うぉっ…マジで寒!?」ゾクッ
シャーリー「~~っ、これじゃ確かに……人肌恋しくもなるか…」サスサス
食堂
バルクホルン「――それで今朝は遅刻したと言うのか?」カチャ
美緒「成る程、どうりで最近は朝練時にも姿を見かけんと思ったら。…流石のあいつもこの気温では外寝を控えるか」
シャーリー「部屋のベッドはあたしの分しか置いてないから一緒に使ってるんですけど、シーツも冷たいせいかあたしに抱きついたまま寝付くんですよね…」
美緒「ふむ、難儀だな」ズズ
バルクホルン「…だが朝は時間通りに起床をしろ。その話は全く関係しないだろリベリアン」ジト
シャーリー「あーいや、それが朝は朝で部屋が冷えてるからってぐずるんだ。一応気が済めば起きるから一緒に二度寝はするんだけど――」
バルクホルン「おい」
シャーリー「なんか今日は手強くて、それで今やっと飯食えたってことさ。…いやぁ、あたしもバルクホルンの気持ちがちょっと解ったよ」アハハ
バルクホルン「だったらちゃんと起こせ。毛布を剥ぎ取るなり、尻を叩くなり出来た筈だ」
シャーリー「そんなの逆効果じゃん。可哀想だろ?」
バルクホルン「あのなぁシャーリー、奴等が時間を厳守するのは躾ではなく規則なんだぞ? 我々は軍人としてだな――」
シャーリー「あー…はいはい、そうだな」
バルクホルン「こら、ちゃんと聞け!」
美緒「……まぁしかし、この時候に海岸住居ではな。多少改修したとは言えこの建物も古い、所々に隙間風が抜けてしまうのも道理ではあるが」コト
シャーリー「あたしも今朝ベッドから出た時は鳥肌立っちゃいましたけどね…。一応自分で見付けたクラックはパテで埋めてた筈なんですけど、駄目でした」
バルクホルン「…この宿舎が寒いのは同意するが、少佐の言うようにそれは仕方ない事だ。身体を動かせ」フン
シャーリー「ベッドの中でか?」
バルクホルン「ぐっ…、屁理屈を返すな!」
美緒「……。ふむ…」
――スタスタ
ミーナ「少佐、ちょっといいかしら?」
美緒「ん? どうしたミーナ?」チラ
ミーナ「今朝到着した補給物資の搬入を指揮していたんだけど、扶桑から少佐個人宛の荷物が数件あったわよ?」
美緒「む、ついに来たか!」
バルクホルン「ん…?」
シャーリー「?」
ミーナ「品名が暖房器具になっていたけど少し大きそうな物だから、貴方が立ち会うなら部屋まで運ばせるけど、どうする?」
美緒「了解、今直ぐ行こう」ガタッ
シャーリー「少佐、まさかストーブ買ったんですか?」
美緒「いや、恐らくはもっと良いものだ」フフ
シャーリー「え??」
美緒「扶桑の誇る [ピーーー]浦電気 が開発した画期的な暖房装置の試用を無理言って頼んだんだ。暇ならお前達もどうだ? 仕様では4人までなら使える筈だぞ」
バルクホルン「はあ…? いやまぁ、確かに時間は持て余しているが…」
シャーリー「おぉ、なんか面白そうですね!? 後であたしも行きますよ!」
シャッキー二部屋
シャーリー「おいルッキーニ、起きろー? 少佐の部屋に面白そうな物が――」ガチャ
ルッキーニ「~~゛」モゾゾ
シャーリー「…て、何やってんだお前?」スタスタ
ルッキーニ「しゃむぃぃ…」
シャーリー「あー…うん、それじゃあ寒いよな? ほら、起きたなら早く着替えちゃえよ」
ルッキーニ「うじゅぃ~やだ~~! 毛布取ると寒いぃ~!」
シャーリー「いやそうだけど、それ被ったまんまじゃ着替えられないだろ?」グイ
ルッキーニ「ん~~! シャーリーやめてぇ~!?」ギューー
シャーリー「……駄目だこりゃ。よわったなぁ、ルッキーニのママさんとかこういう時どうしてたんだろ?」
ルッキーニ「むじゅ…」
シャーリー「あー……ルッキーニ? 少佐の部屋になんかハイテクのすげー暖房機が来たからって誘ってもらったんだけどさ、面白そうだからお前も一緒に来ないか?」ポリポリ
ルッキーニ「…! なにそれ行く!」
シャーリー「おーよしよし、じゃあサッと着替えて行こう!」
ルッキーニ「!? やっ!」プイッ
シャーリー「ておい、何でだよ!? 少佐の部屋行くんだろ?」
ルッキーニ「服も冷たいもん、寒いから着替えない! このまま行く!」
シャーリー「は? そのままでって、お前…」
ルッキーニ「~んしょ、んじゅ」ノソノソリ
シャーリー「え、えぇ……マジかよ…」ガク
ルッキーニ「早くいこシャーリー!」ズリズリズリ
シャーリー「……仕方ないなまったく。着替え持って行って、あっちで如何にか説得するか」
もっさん部屋
美緒「ふむ…存外場所は取らんな?」スタスタ
バルクホルン「! 少佐、その瓶はまさか…?」
土方「少佐、配電も無事完了しました」
美緒「よしご苦労だ土方。せっかく来たんだ、お前も入ってみるか? シャーリーが来てもまだ一片空きはある」
土方「い、いえそれは…。男子従兵の分を越えますので、自分は直ぐに宿舎から退散いたします」
美緒「そうか。…ならお前も今日は一日身体を暖めて休むといい、非番の男共とこいつで楽しくやれ」ス
土方「これは…! 宜しいのですか?」
美緒「かまわん、持て余していた賜物だ。私が空けるには大き過ぎる酒だろうしな」
バルクホルン「……」
土方「有難く頂戴します」ペコ
美緒「はっはっはっ! 酔ってハメを外し過ぎるなよ?」
バルクホルン(冗談のつもりなんだろうが、あの少佐が言うとそうは聞こえないな…)モヤ
土方「では失礼致します少佐、大尉殿も」ビッ
バルクホルン「ん? ああ、いつもご苦労だ。兵曹」
スタスタ――
バルクホルン「……」
美緒「…さて、ではさっそく電源を」カチ
『だぁーおい、ほら!? 引きずってると危ないっての! ……あ、土方さん? どーも』
美緒「ん? シャーリーも来たか」
バルクホルン「?」
――ズリズリズリ
ルッキーニ「しょうさ~」トテテ
美緒「??」
バルクホルン「…なんだ? 誰だ?」
シャーリー「なあ、頼むから着替えてくれよルッキーニ? そんな格好で出撃になったらどうすんだよ」スタタッ
美緒「ルッキーニ? まさかこの布団達磨はルッキーニなのか?」
シャーリー「すみません少佐。あたしが誘ったんですけど、こいつどうしても毛布から出たがらなくて…」
バルクホルン「……。もう叱る気にもならない、私はハルトマンだけで十分だ」ガク
美緒「仕方のない奴だ。おいルッキーニ、ちゃんと制服に着替えてから出直して来い」
ルッキーニ「ぅ~……ゃ…」ギュ
美緒「嫌ではない。命令だ」
シャーリー「ほらルッキーニ、少佐もこう言ってんだから流石にやばいって。マジで叱られる前にこれ着てくれ?」クイクイ
美緒「…おい、まさかここで着替えさせる気か?」
シャーリー「すみません少佐、そこだけは勘弁してやってください!」
美緒「むぅ…」
バルクホルン「少佐、私なら反対するぞ」
ルッキーニ「んぃ~、やぁだぁ……服冷たいんだもん…」
シャーリー「着てりゃ直ぐ暖かくなるって! な?」
ルッキーニ「履くときビックリするんだもん、やだやだ~!」
シャーリー「っ……~たく、いい加減にしてくれよルッキーニ!! あたしだって怒るぞ、お前のこと嫌ってもいいのか!?」クワッ
ルッキーニ「ッ!? ぅ…うじゅ……」タジ
美緒「…何やら雲行きが怪しいな」
バルクホルン「お、おいシャーリー? 気持ちは分かるが、あまり喧嘩まがいに諭すのはお前らしくないと思うぞ? 少尉が泣きそうじゃないか…」オズオズ
シャーリー「いや、だからって甘やしてちゃやっぱり駄目だ。あたしだって自分で気付いて欲しかったけど、このままだとこいつが恥かく事になるよ」
ルッキーニ「ぇじゅ……だって…、だってぇ…」ウルル
バルクホルン「ま、待て! こんな所で泣くなルッキーニ少尉!? シャーリーはお前の事を想っているからこそだな――」ワタワタ
ルッキーニ「ぅじぃゅ……うぇぇ…っ」エグエグ
シャーリー「はぁ…、あたしだって朝からこんな事したくないよ…」
美緒「……。シャーリー、その衣類を貸してみろ」
シャーリー「えっ? なんです?」
美緒「いいから寄越せ、このままでは収拾が付かん。ここは私の部屋だぞ?」
シャーリー「あ、はぁ…? すみません、どうぞ」スス
美緒「うむ、しばし待て。お前はルッキーニを落ち着かせろ」
シャーリー「?」
――
―
ルッキーニ「ぇじゅ……ひくっ…」
シャーリー「ご、ごめんなルッキーニ? あたしは嫌いになんてならないよ、ほら」ナデナデ
ルッキーニ「ぅぐ……ぅ…、ごめな…さぃ…っ」
シャーリー「うんうん、解ってる。寒いの嫌だもんな? でも今度からは一緒に我慢だ、ちゃんと着替えて起きてないとお前のマーマに笑われちゃうぞ?」
ルッキーニ「う゛ん……あだし…きがえる…」グシグシ
シャーリー「よしよし偉いぞルッキーニ。あたし達は相棒だ」
ルッキーニ「しゃーりぃ、ごめんなさぃ…」
バルクホルン「……(なるほど、こういうテクニックで手懐けるんだな? 一応覚えておこう)」
美緒「――涙を拭え、ルッキーニ」スタスタ
ルッキーニ「…しょうさ?」
美緒「ほれ、今日は特別だ」ス
ルッキーニ「…? あたしの服??」ムンズ
美緒「冷めないうちに着替えてしまえ」
ルッキーニ「!? なにこれ、ホカホカしてる!!」
シャーリー「え? ……お、ホントだあったけえ!?」
バルクホルン「少佐、これはまさか…?」チラ
美緒「ああ、そうだ。新型暖房器具の一番乗りがまさか他人の制服になるとは思わなかったがな?」フッ
ルッキーニ「~♪ 気持ちい~!」ホカホカ
シャーリー「あ、待てルッキーニ」
ルッキーニ「にゃ?」
シャーリー「ほら、タイがちょっと歪だぞ? 貸してみろ」シュルル
ルッキーニ「うじゅじゅ、くすぐったい」
シャーリー「我慢しろー。……あれ、上手く付かないな…」クイクイ
美緒「やれやれ、気は済んだかお前達? ルッキーニはもう同じ我儘をするんじゃないぞ」
ルッキーニ「うん! ねぇねぇ少佐? あたしの服どやって温かくしたの?」
美緒「ん?」
ルッキーニ「あたし前に自分の魔法で同じ事やろうとしたら、黒いカスみたいになっちゃって無理だったんだよ?」
シャーリー「おいおい、何だよそれ? 危ないな…」クイクイ
バルクホルン「あ、呆れた奴だ…。光熱魔法をそんな事に使ったのか?」
美緒「ふむ、私のは魔法ではなくこれだ。こいつの中に放置して温めた」クイ
ルッキーニ「なにそれ? 台?」
美緒「炬燵〈こたつ〉だ。電気式の“やぐらこたつ”と言う扶桑の最新暖房器具だ」
ルッキーニ「へぇ!?」
シャーリー「な、面白そうだろ? …そら、綺麗に結べたぞ」ポン
ルッキーニ「ありがとシャーリー!」
バルクホルン「…先程から見ていたところ、使用方法は単純そうだな?」
美緒「ああ。布団で覆われたこのやぐらの中が温まっていて、これを囲んだ者達が足などを自由に入れ暖をとることが出来る」
シャーリー「なるほど、それで4人まで使えるんですね?」
美緒「出来てしまえば構造こそ単純かもしれんが、この画期的発想は我々扶桑人にとって晴天の霹靂とも言えるものだ」
バルクホルン「はあ…? そうなのか」
美緒「まあ取り敢えず、話は炬燵を囲んでからするとしよう。お前達も遠慮なく入れ」
ルッキーニ「わーい♪」
――――
――
―
バルクホルン「確かに、なんと言うかこれは…」
シャーリー「なかなか居心地いいですね、これ!」
美緒「だろう? 私もこのやぐらこたつは初体験だが、予想以上にいい代物だ」
ルッキーニ「あったか~い♪」ヌクヌク
シャーリー「これ新型って言ってましたけど、今までのコタツってのはどんなのだったんですか?」
美緒「うむ、まさにそこが先程の続きだ。一般的に炬燵と言えば“腰掛”と言う名の掘り炬燵を指すことが多かった」
バルクホルン「ホリゴタツ?」
美緒「熱源が床より下に設置された物が所謂“掘り炬燵”。そこから足を降ろす空間を広げ、更に熱源を下げた構造のものは厳密に“腰掛炬燵”と言われていたんだ」
バルクホルン「ほぉ…」
シャーリー「なんか結構大仰そうな設備ですね?」
美緒「元来、囲炉裏から発展した文化だからな。欧州で言う暖炉の系譜と似た様なものだろう」
シャーリー「あ、そうなんですか? じゃあやっぱり火使ったりするんです?」
バルクホルン「扶桑の古い暖房設備については私も少し聞いたことがあるぞ。たしか炭を壺に入れて燃やすんじゃないか?」
美緒「壺と言うか“火鉢”だなそれは」
シャーリー「お! Hibachi!? それあたし知ってますよ、リベリオンでもバーベキューで使いますから!」
美緒「いや、それは恐らく七輪の間違いだろう。火鉢は1000年程前からある置炉の一種で、調理用の網は付かん」
シャーリー「はあ…? Shichirin…?」
バルクホルン「フッ、赤っ恥だなリベリアン」チラ
シャーリー「む! まぁ、壺でもなかったけどな~?」ニヤリ
バルクホルン「うぐっ!? //」
ルッキーニ「…~」ウトウト
美緒「…話を戻すが、とにかく掘り炬燵はその熱源の位置や火鉢を扱う故に、手入れがなかなかに億劫だという欠点があったんだ」
シャーリー「あーまぁ、そうでしょうね? というか足元で炭が燃えてるとか怖くないですか?」
美緒「うむ、まさにそこが難物だ。やはり危険もそれなりに孕む故に熱源の位置はかなり深く、余計に掃除などが容易ではなくなる。更に扱いを間違えると一酸化炭素による中毒や火災も起こり得るしな」
バルクホルン「…暖炉よりは暖房効率が良さそうだが、なかなかに原始的な装置だな?」
美緒「うむ、ただし現代では扱いやすい専用炉や練炭を使用する等の工夫はしてあるぞ?」
シャーリー「練炭〈ブリケット〉かぁ。…なるほど、触媒使うんですね?」
美緒「そうだ。だがそれも程度の問題だ、危険と手間の有無にさほど変わりはない」
バルクホルン「……そこでこのヤグラコタツ、という事か」
美緒「いや、概ねその通りだと言えるが。そこで登場した電気炬燵はこれではなく20年は前の代物だぞ」
シャーリー「お! なら少佐が生まれた頃ですね?」
美緒「……。火ではなく電気を使う故に安全性や使い勝手に秀でてはいたんだが、正直未だに普及は進んでいない様子だ。私の実家には一台有ったがな」
バルクホルン「…何故だ? 需要に合致している気はするが、やはり高級品なのか?」
美緒「うむ。確かに安くはないんだが…私が思うに、決定的な要因はその使い心地だろう」
バルクホルン「使い心地?」
美緒「そうだ。電気炬燵は従来の様に床を抜いて炉を作る必要も無く、床置きの熱源とそれを覆う布団で好きな場所にて使えるんだが――」
シャーリー「今あたし達が使ってるのと同じですね? 全然オーケーじゃないですか」
美緒「いや大きく違う、もう一度言うが熱源は“床置き”だぞ? そこへ今と同じく布団を掛ける訳だが、これをいざ使ってみるとなかなかに歯がゆいんだ」
バルクホルン「…??」
シャーリー「んー? ……あっそうか、すげー邪魔じゃん! 今のあたしみたいに足なんて伸ばせないんじゃないですか!?」
美緒「明察だシャーリー。我々は正座等の膝を折った座り方で使うのが常套なんだ」
シャーリー「えぇ…、あたし胡座以外でそういう座り方はちょっとなぁ…」
バルクホルン「確かに、現状のこれから比べれば不便だろうな」
美緒「しかも基本的には一人用で、この様に複数人で暖をとる事など物理的に不可能だった――」
美緒「…そして、やぐらを組み天井に熱源を置く事で弱点を克服した、革新的な電気式炬燵がこうして誕生したという訳だ!」ドヤ
シャーリー「あー……なるほど(つまり“もの凄く欲しかった”って事か。なまじ不便さを体験してたから)」
バルクホルン(少佐のこういう物欲は“ライス”や“大風呂”以来な気がする…)
美緒「やはり期待通り、素晴らしいな! 畳との親和性も文句無く最高だ!」ワッハッハッ!
バルクホルン「…ん、待ってくれ? この新しいコタツの恩恵に感嘆してるという事は、少佐は今足を伸ばしてベタに座っているのか?」
シャーリー(確かに! …意外というか、ちょっと見たいかも)
美緒「いや、正座だが」
シャーリー「あ、なんだ。惜しい」
美緒「…? 流石にこの人数で足を伸ばせば窮屈だろう。私は独りの時にでもその辺りは満喫してみるさ」
バルクホルン「そうか。やはり少佐は“セイザ”なんだな? 恐れ入った、私には無理だ」
シャーリー「バルクホルンは今どんな感じなんだ?」
バルクホルン「私は普通に胡座で座っている。それがどうした?」
美緒(……ふむ。だが確かにこのままでは足の裏が冷える…。私も崩して座るか、憩いな訳だしな)モソ
シャーリー「あれ?? じゃあさっきからあたしの上に足乗っけてるのはバルクホルンじゃないのか」
バルクホルン「そんな訳ないだろ」ジト
シャーリー「横から乗っかって来てるからてっきり…。となると――」チラ
バルクホルン「必然的に、私の対面にいる奴だ」
ルッキーニ「……zz」スースー
シャーリー「おぉ…そっか、ルッキーニ。静かだったから忘れてた」
バルクホルン「こっちからは姿もろくに見えていない」
美緒「いつの間にか寝転んでいたな。私も語るに夢中でつい失念していた」
シャーリー「おーいルッキーニ、寝るな? 起きろー」ユサユサ
ルッキーニ「~んん……んにゃ…?」
ルッキーニ「ふわ……ぁ~…、むじゅ…」ムクリ
美緒「そう何度も立て続けて眠れるものだな。今日はそれで何度目の起床なんだ?」
バルクホルン「少佐、感心する前に上官としてしっかり言ってやって欲しいんだが?」
美緒「うむ…」
シャーリー「ま、まあまあ! 少佐一押しのこのコタツがホント優れもで、温かくて気持ちいから寝ちゃったんですよ…!」アセ
美緒「……そうか。ならば仕方ないな」
バルクホルン「こら、余計な口車を使うなシャーリー」
ルッキーニ「ん~…? あたし寝てた…?」ポケー
シャーリー「バッチリな。でもここ少佐の部屋だし、ハメ外し過ぎるなよ?」
バルクホルン「いや、そういう問題じゃないだろ」
ルッキーニ「んー……んじゅ…」グデ
バルクホルン「おいシャーリー、言ったそばから少尉はだらけているぞ?」
シャーリー「たった今起きたんだから勘弁してくれよ? 4度寝なんてしたらそりゃ目覚めも重いって」
バルクホルン「ぐ…! そもそも根本の生活態度から間違っている…」グヌヌ
ルッキーニ「んぁ~……シャーリー、お腹空いたぁ」
シャーリー「えっ? あ、そういえばお前は朝飯まだだったな?」
ルッキーニ「うん。食べて来る――」ノソノソ
ルッキーニ「…少佐」
美緒「ん?」
ルッキーニ「ご飯食べたらまた来てもいい?」
美緒「……」
※>>34訂正
ルッキーニ「んー……んじゅ…」グデ
バルクホルン「おいシャーリー、言ったそばから少尉はだらけているぞ?」
シャーリー「たった今起きたんだから勘弁してくれよ? 4度寝なんてしたらそりゃ気分も重いって」
バルクホルン「ぐ…! そもそも根本の生活態度から間違っている…」グヌヌ
ルッキーニ「んぁ~……お腹空いたぁ」
シャーリー「えっ? あ、そういえばお前は朝飯まだだったな?」
美緒「…ならば食堂へ急げルッキーニ。ここへ引き入れた私が言うのもなんだが、片付かずに宮藤達が困っているだろう」
ルッキーニ「うん。食べて来る――」ノソノソ
ルッキーニ「少佐」
美緒「ん?」
ルッキーニ「ご飯食べたらまた来てもいい?」
美緒「……」
美緒「ああ、構わん」
バルクホルン「!?」
ルッキーニ「やた…、ありがと」
美緒「その代わりに今朝の新聞を持って来てくれ。誰も取っていなければ置き放しになっている筈だ」
ルッキーニ「うん」トテトテ
シャーリー「ルッキーニ、靴ちゃんと履いてけよ? 寝ぼけてると危ないからな」
ルッキーニ「うん」イソイソ
ルッキーニ「…いってきまぁーす」フラフラ~
シャーリー「やれやれ、大丈夫かなあいつ?」アハハ
バルクホルン「……少佐、少し甘やかし過ぎじゃないか?」
美緒「まあ、偶の無礼はいいさ。無粋という訳でもないからな」
バルクホルン「らしくないな? 下手すれば少尉は此処に住み着くかもしれないぞ?」
美緒「フッ、大袈裟だなバルクホルン」
バルクホルン「…いや、決してそうは思わないが」ジト
シャーリー「――…んしょっと」ノソノソ
シャーリー「んじゃあたしもこの辺で失礼します。ルッキーニの脱いだパジャマと毛布持って行っちゃいますから」
バルクホルン「……私も自室へ戻るか。少尉を見ていたらハルトマンがまた寝てしまってないか心配になってきた」ノソノソ
美緒「む、そうか? お前もコタツが恋しくなったら、また来ていいぞ」
シャーリー「あはは、ありがとうございます」
バルクホルン「確かに良い体験だったが、私はこいつと違って身体を動かすから平気だ」
シャーリー「あ、なんだよその言い方? 引っ掛かるなぁ」
バルクホルン「フン、いいから行くぞリベリアン。なんなら一緒に汗を流してみるか? 私に付いて来られればだが」スタスタスタ
シャーリー「む!? …待てよバルクホルン、だったら短距離走で勝負だ!」スタター
美緒「……」
美緒「ふむ……では私も、脚を伸ばしてみるか」モソソ
――
―
美緒「……~」ズズ
美緒「ふぅ…。こうして、心身共に何事も無い時間というのも新鮮だな」コト
美緒(よもや世捨て――…いや、隠居というのはこういった境地なのだろうか? なんとも贅沢だが、尊くも感じられるな…)
『しょ~さ~!』
美緒「ん…?」
――ガチャ
ルッキーニ「コタツ入れてー?」ステテ
※>>37訂正
お前もコタツが恋しくなったら → お前達も炬燵が恋しくなったら
美緒「ルッキーニか。ああ、いいぞ」
ルッキーニ「ありがとー! はいこれ、新聞もあったよ?」パサ
美緒「うむ、すまんな」
ルッキーニ「うじゃ~♪ あったかい!」モゾモゾ
美緒「フッ…。さてと」バサ
ルッキーニ「――…ぁ、そだ! ねえ少佐?」
美緒「ん、なんだ?」
ルッキーニ「芳佳と>>43も多分もうすぐ来ると思うんだけど、入れてもいい?」
美緒「なに…? 宮藤達に話したのか?」
ルッキーニ「うん。片付け終わったら遊びに来るって」
美緒「……」
寝るーん
ペリーヌ
美緒(ここは私の部屋なんだがな…)モヤ
ルッキーニ「ぁ、もしかしてあんまり言っちゃダメ…だった?」
美緒「いや、その点はべつに構わんのだが……まあいいか。席も空いているのだし、この際1人も3人も変わらん」
――コンコンッ
『あの坂本さーん? すみません、ルッキーニちゃん来ていませんかー?』
『あぁっ! お、お待ちなさいと言ったでしょう!? わたくしはまだ心の準備が――』
ルッキーニ「ぅじゃ来た! 芳佳いいよ、入って入って~?」
美緒「……。むぅ…」モヤモヤ
芳佳「失礼します。…わぁ! 本当にこたつがある!?」トテテ
ペリーヌ「ちょっ、宮藤さん!? まだ少佐の御許可を頂いてませんのに!!」
美緒「…いい、ペリーヌ。ルッキーニから今しがた話は聞いていたから、お前も遠慮するな」
ルッキーニ「へへーん! すごいでしょー!?」
芳佳「うん、まさか本当に有るなんて! 坂本さん、これ床掘っちゃったんですか!?」
美緒「いや違うぞ宮藤。ルッキーニがお前達にどう言ったかは知らんが、これは電気式だ」
芳佳「え!? あ、電気式…? でもちゃぶ台置いてますよね?」
ペリーヌ「…? いったい何の話ですの??」
美緒「まあ聞くより使うが速い。お前も入ってみれば分かる」
芳佳「はあ…?」
ルッキーニ「よしか! はやく~♪」
芳佳「えぇっと、それじゃあ失礼します」
ペリーヌ「んなっ!? ちょっとお待ちなさい!!」
芳佳「へ? なんですかペリーヌさん?」
ペリーヌ「貴方そこは…!! 少佐のお隣はわたくしが――」
美緒「?」
ペリーヌ「!? で、ではなくて… ///」
ルッキーニ「にゃ?」
ペリーヌ「~ぁ、貴方はそちらに座った方がよろしくないかしら? そこはわたくしが変わって差し上げますから」
芳佳「…あの、べつに私ここでも平気ですよ?? 特に選んだわけじゃ――うぇぶっ!?」
ペリーヌ「いいからっ! 少しは空気をお読みなさい…!!」ヒソヒソ
芳佳「ぇ、ぇえ!??」
美緒「…? 何だか知らんが喧嘩はよせ、この炬燵はどこに入っても変わらんぞ?」
ルッキーニ「いいじゃん芳佳、あたしの隣来てー?」
芳佳「え、ああうん。勿論いいけど…」
ペリーヌ「ふふ、なら決まりですわね。やりましたわ!」
美緒「…何がだ?」
――
―
美緒「……ほぅ? 農耕神“さーとぅるぬす”の祭りか…」ガサ
ペリーヌ(あぁ~、少佐! 新聞をお読みになる眼差しも素敵ですわぁ~!)
ルッキーニ「これはぁ~……芳佳の足?」モゾ
芳佳「うん、そうだよ」
ルッキーニ「ん~、ホントかな~?」モソモソ
芳佳「わっ!? る、ルッキーニちゃんやめっ……足の裏、くすぐったいってばー!」
ルッキーニ「にひひ! うりゃりゃ~♪」モソソ
芳佳「もぉルッキーニちゃんってば、こっちも反撃するよー?」モソモソ
ルッキーニ「うじゅあ! くすぐったい~」キャッキャッ
――ガッ
ペリーヌ「痛ッ! ちょっと宮藤さん…? #」ジト
芳佳「あ、ごめんなさいペリーヌさん。弾みで足が当たっちゃいました…」
ルッキーニ「ペリーヌ? ペリーヌの足どこ~?」モソソ
美緒「…! ん?」ピク
ルッキーニ「んにゃ、違った。これ少佐だ」
美緒「なんだ、どうした?」バサ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません