ほむら「まったく、どうかしているわ…かち目なんてないのに」 (27)

叛逆の物語がベースです。
少しずつ進みます。

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ほむら「まったく、
     どうかしているわ…
     かち目なんてないのに

     だいたい、貴女はもう円環の騎士じゃない…
     いまの世界に人間として残れたのだから
     好きに生きれば良いのに……
     きに入らないわ……」


あちこちに付いた傷から赤いものが垂れる。
一瞬にして14か所に傷を付けられた。
傷口に回復魔法を掛けるあたしの前に、黒い翼を持った悪魔は降り立って、呟く。

ほむら「早々に終わらせてやるわ……
     くるしみは覚悟の上よね、魔法少女なら貴女も円環の理に
     回収される……貴女は魔法で傷を治すことが出来たとしても
     復活の暇は与えない……!
     しっぱいはもう無い…貴女に必ず止めを刺すわ
     てってい的にやるつもりよ…
     逃がすと思う?試してみればいいわ
     げんかいまでこれから力を貯めるから
     てがあるならこれが最後かもね……」


彼女は興奮しているためか、呂律がおかしい。
ただ、今の彼女から聞こえてくる意思は絶対にあたしを逃がさないという意気込みのみ。
あたしはかつて友人だった、ほむらから純粋な殺意を向けられていることに戦慄する。



ほむら「皆のことなんかどうでもいいの…あの子が悲しむからそうしただけ…
     にも関わらず、向かって来るなんて愚かとしか言えないわ……
     もはや私は悪魔としか言えない存在……
     幸福になって欲しいのはあの子だけ…私にはあの子だけ…
     せかいなんてどうでもいい……!!
     にんげん全体のことも、貴女達たちのことも私には関係ないわ
     なにを言われても、もう変わらない……
     って、それは傷ついた貴女が身を持って知っている筈よね……
     てきであるのなら、私はあの子の友人であっても容赦しない……!
     欲望のままに生きる悪魔の前で、そんなに
     しに急ぎたいなら、私は喜んで貴女に
     いんどうを渡すわ……!!!!」


ほむらの声は冷たく響く。
ほむらから発せられた言葉。
ひとつひとつの言葉が剣となって本当の傷よりも深くあたしに刺さる。
それは、あたし達を傷つける、だけど。


さやか「そんなんじゃない!あんたにだって分かっているはずだ!!あんたがまどかだけを見てる!?」

さやか「それが出来なかったからあんたは今こんなになってるんじゃないか!自分を否定して!傷ついて!!傷だらけなのはあたしじゃない!ほむらだってそうだ!!」


ほむら「はなしにならないわ!!
     いい加減にして!!!」


ほむらも絶叫する。
ほむらの声からは氷のような冷たさしか響いてこない。もしかしたら本当にあたし達のことなんかどうでもいいのかもしれない。
それを考えるのは怖い、だから信じない。
そんなこと認めない、あいつが何を考えていようと、これはあたしの我儘なんだ──。



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結局、ほむらは戦いを投げ出して逃げていった。
終始冷静に事を運んでいたはずなのに、激昂してしてしまったことを恥じたのか。

こっちも久し振りの出血で動揺していた。
あらためて自分につけられた傷口を見ると、運が良かったのか、大して深くは無いようだ。
これなら、残った魔力で治してもまだ十分に余力がある。
丁度回復を終わらせた頃、あたしを見つけてまどかが駆け寄る。


まどか「……さやかちゃん、もういいよ。ほむらちゃんはわたしが説得する」

さやか「まどか、今のほむらは危険だ。ほむらの目は本気だった……びっくりするほど冷たかった。今のほむらはあたしに対してだけじゃなく、まどかをも傷つける」


まどかはいつだって優しいんだ。
未だにほむらをこんなに心配して……。
くそう、こんなまどかを放っておいて、何をやってるんだよ、ほむら。


さやか「円環の理の力を取り戻したと言っても、まどかの力は戦闘向けじゃない。ほむらはまどかからまた円環の力を奪おうとするはずだ。今のまどかは安全じゃない」

まどか「さやかちゃん……」


まどかは力の多くの部分を取り戻したとはいえ、ほむらには過去を繰り返した結果としての膨大な因果の力が流れている。
ほむらが魔法少女になった後に増幅された因果は、まどかだけがその力を使えるもので、ほむらに本来関係ないはずだったが、暁美ほむらは自分自身を概念として昇華させたため、その力を振るうことができるようになっていた。
今のほむらは未だに円環の理以上の力を持ち続けている。


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特徴的な三叉路は風見野市との境界線だ。
見滝原市を出てしまえば学生である彼女達に見つかる可能性は著しく低くなる。


ほむら「みんなにとうとう正体がばれてしまった…でも、あれ程
     きずを付けたのだから、少なくとも
     さやかは、もう懲りたでしょう……
     ん……何だか発声が悪いわね」


ほむら「平仮名が混じっている感じというか……
     気のせいね……ふふっ
     かなり私も動揺していたみたい……
     なにもかも失うことに私はもう慣れていたはずなのに
     ……」


もう見滝原市に戻ることはできない。
記憶を取り戻したと言っても、未だ円環の理とまどかは同一となっていない。
私自身を鍵としてプロテクトを掛けた以上、私が円環の理の一部であるさやかやなぎさに捕まらなければ、まどかが円環の理として消えてしまうことは無い。
もう、まどかと会えなくなることは仕方がない。
でも、まどかに人としての一生を送らせてみせる。


私は自分を捨てることなど慣れっこだ。
私は悪魔となってから、まともにまどかと仲良くしなかったし、さやかとも険悪なままだった。
円環の理としてまどかが戻るために私が必要と気づくまでは、誰も私を探したりしないだろう。
その間に、私は誰にも見つからないところに自分自身を捨てなければ。



杏子「よ、ほむらじゃん」


ほむら「き
     ょ
     う
     こ
     ……」


杏子「ああ。で、どうかしたのか?顔色悪いけど」


驚いて声が出てなかったと思ったけど、咄嗟に返事をしたらしい。
風見野市には佐倉杏子の実家がある。
彼女が居ても不思議ではなかった。


ほむら「さあ、何でもないわ。いきなり声を掛けられたから、

     びくっとしてしまっただけよ。
     しかたないわよ、突然だったのだから。
     いしきがはっきりして来たので、そろそろ私はこの辺で」

私は足早に立ち去ろうとするが、杏子に腕を掴まれる。

杏子「ちょっとほむら……何かあったのか? なんか寂しそうっていうか、今のあんたはほっとけねーな」




ラーメン屋のテーブルで私達はラーメンを啜る。
杏子は珍しくおごると言ってくれたのだけど、杏子のおこずかいから2人分のラーメン代を出させるのも気が引けたので、頼んで割り勘にして貰った。
これからの運命を考えるとどうしてもポジティブでは居られないが、それでも杏子の気持とラーメンの暖かさは心に沁みた。

ほむら「ありがとう、杏子……落ち着いたわ。

     りくつじゃなく、ショックを受けてたようね。
     がんばっていたことが
     とうとう駄目になっちゃって、
     うつになっていたみたい……」

杏子「礼なんて何度も言わなくてもいいさ、照れくさいだろ。それより、大丈夫なのか?」

ほむら「ごめんなさい、私は少し、

     めんどうなことになっていて、……
     んっと、事情があって、話せないの。
     ねつっぽくて、考えるのも今は辛いし」

杏子「何度も謝るなよ、そんなんじゃ調子狂うだろ……ま、ほむらがいいっていうなら聞かないさ。
それでも、どうしようもなくなったら相談してくれよ」

何度も、と言われるほど何かを話した覚えはないけれど、それでも杏子の暖かみは容易に感じ取れた。
もう叶うことはないけれど、まどかともう一度こんな風に話してみたかったな。




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それはとってもおかしいなって。

わたしに円環の理の記憶が戻っていることがほむらちゃんとさやかちゃんにばれちゃった。

いずれ話そうと思っていたんだよ、嘘なわけないよ。

とにかく、ほむらちゃんは本音を話すのが苦手だし、さやかちゃんは暴走しちゃう。

だから、何とかこの場を納めなくちゃって思って、栄養ドリンクだって言ってほむらちゃんに円環印の特製本音薬を飲んで貰ったんだ。

これでほむらちゃんが素直に話せなくても、さやかちゃんにはほむらちゃんの本音が響くから、2人は仲直りできるかなって。

でもさやかちゃんから聞いたほむらちゃんの本音は、いつものほむらちゃんのものとは思えないもので。

でもわたしはほむらちゃんに迷惑を掛け通してるから、本当にそれが本音なのかも知れなくて。

ほむらちゃんは本当にわたしを嫌いになっちゃっているのかも知れなくて。

ひどいよ。そんなのってないよ。


さやか「……まどか。やっぱりショックだよね……あいつ、すぐに探さなきゃ……」


かたかた震える私の肩をさやかちゃんが支えます。その時、私はさやかちゃんの腕に付いている黒い羽根に気付きました。

まどか「さやかちゃん、それ……」

さやか「ん?さっきの戦いのとき付いたものだ。何だろ」



わたしとさやかちゃんは黒い羽根を覗き込んで、そこに魔術文字が書かれていることを確認しました。

ほむらちゃんは14人の子供の使い魔を従えています。それぞれにネガティブな名前が付いていて、魔法少女並の力と自分の名前にちなんだ魔術を少し使うことが出来ます。

わたしとさやかちゃんはそこに書かれていた文字を読み上げます。


『ウソツキ』


まどか・さやか「………」


なぎさ「そこでなぎさの登場です!」


まどか「なぎさちゃん!?」

さやか「わ!驚いた」

なぎさ「このSSでなぎさの出番はこれだけなのです!」

なぎさ「だから手っ取り早く説明するのです」

なぎさ「元ほむほむ派のわたしには分かるのです!」

なぎさ「この魔法は言葉に伝わる本音を嘘にしてしまうものなのです!」


まどか・さやか「(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー!! (`・д´・ ;)」

ここまでです。


なぎさ「言葉というのは口に出していることが真実だとは限らないです」

なぎさ「だから、その言葉が本当かどうかはニュアンスを感じ取って確認するしかないのです」

なぎさ「この魔法は掛けられた言葉のニュアンスを反転して伝えてしまう魔法なのです」

なぎさ「なので神様、ちょっと薬を貸してくださいなのです」

まどか「う、うん」

なぎさ「(ごくごく)」

なぎさ「なぎさの話を良く聞いてくださいなのです。なぎさは

     ぎっしりチーズが食べたいだけなのです。
     さっきからチーズは食べているけれど、
     はっきりいってもっとチーズを食べたいのです。
     たとえ、どんなにチーズの入手が困難であろうとも、
     だれよりもチーズが好きなのです。
     チーズの種類も大事ですがとにかくチ
     ーズを食べたいのです。とにかくチー
     ズを食べたいのです。とにかくチーズ
     が食べたかっただけなのです。
     食べたかっただけなのですチーズ。
     べべと言われてたときにチーズ以外の食べ物も
     たべましたがやっぱりチーズが好きなのです。
     かみさまのために仕事もするけれど、や
     っぱりチーズが目的でもあるのです。
     ただチーズが食べたかったのです。
     だけどマミの作るものにチーズがな
     ければがまんしてもいいのです。
     なぜならチーズは食べたいしチーズ
     のために魔法少女になったの
     ですがなぎさはチーズもふくめて
     すきなものがいっぱいあるのです」

さやか「お、おう」

まどか「チーズが大好きってことが伝わってくるね……」



なぎさ「かいつまんで説明するのです。

     まず、この黒い羽根に魔力を込めるのです。
     ん…、で、これをさやかの
     べるとに付けて、神様も捕まってて欲しいのです。
     えっ と、すぐに効果がでてく
     るので、同じ台詞を言ってみるのです」

なぎさ「~(文章省略)」

さやか「そ、そんな……どう聞いてもチーズ偏愛の怪文書なのに!?」

まどか「なぎさちゃんの本音ではチーズを嫌ってるみたいに聞こえる……!?ひどいよ、こんなのってないよ!」

(黒い羽根に書かれた魔術文字から光が消える)

なぎさ「…効果が切れたのです」

なぎさ「まったく、酷いいいようなのです。でも、

     すぐに誤解を解かないとどうなるか分からないのです。
     かってに本音が分かる仕組みは
     るーるが変わったときに大きな誤解を招くのです。
     ぽっとにチーズを入れると美味しいのです。る
     ーるが変わった時にたやすく勘違いしてしまうなら、ほん
     ねであるほど、実際はおそろしいものなのです」

まどか「…そうだよね。ほむらちゃん、どんな気持ちだっただろう……」

さやか「ところでなぎさは本音でずっと話してても平気なの?」

なぎさ「ちっとも平気ではないのです。薬の効果は

     いち時間は続くので、その間、なぎさはよそにいって
     ずっと黙っているのです」



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杏子「さっきまでほむらの声が二重に聞こえていたけど、ようやく元に戻ったな」

ほむら「そうなの…?自覚はなかったけれど」

杏子「片方は……ダイレクトに頭の中に入って来る感じだったけど、上手い表現が見つからないな。ま、戻ったのならそれでいいさ」

ほむら「貴女がそういうのなら、私も気にしようがないけれど……」

ほむら「……あら、もう一時間を過ぎてしまっていたわ」

杏子「どうしたんだ?」

ほむら「ええ、まどかから栄養ドリンクを貰ったのよ。3本貰って、1本はすぐ飲んで、もう2本は1時間毎に1本ずつ飲んでって言われたわ」

ほむら「今から飲んでも遅いでしょうし…佐倉杏子、1本は貴女にあげるわ。時間を過ぎてしまったし、それなら私は最後の一本だけ次の一時間後に飲んでも同じでしょう」

杏子「そっか、あんがと。ふむ…『円環印の本音薬』か。聞かねー名前のドリンクだな。まあ、まどかがくれたんなら悪いものじゃないだろ。有り難く貰っとくよ」

杏子「じゃーな、ほむら。早まるんじゃねーぞ。言っちまったほうが楽になることってあるぞ」

ほむら「ええ、有難う。」


頼ってしまえば楽になる。それはその通りなのだろう。
でも、私はそれがまどかの幸せの邪魔をするくらいなら、そんな楽を少しも必要とはしない。


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正しいことって何だろう。
それは、誰かを思いやる心。
それは、秩序を維持すること。
それは、正しいと思う誰かに従うこと。

正しいことは昔ほど単純じゃなくなった。
昔は心の赴くままに正義感を発揮すれば、それは大体正解だった。


あたしが家に着いてすぐ、杏子も帰ってきた。


杏子「さきに帰ってたのか。まどか達と

    やることがあるって言ってたからもっと時間が
    かかると思ってたけど、それはもう済んだのか?」

さやか「まだ駄目……早くしなくちゃいけないことなんだけど、どうにも手詰まりでさ」

杏子「元からさやかの頭は良くないだろ。

    気になっても変わらないならさ、もう
    ねちまって、明日に備
    えるほうが良いかも知れねー
    ぞ」

さやか「そんなに単純じゃない。簡単に言わないで」

何故だか杏子の声が勘に障る。
心配している振りをされているような、心がざわつく感じ。


杏子「心理状態ってのもあるからな。気苦労の

    配分を増やしても疲れるだけさ。
    さっきほむらに会ったから話したけど、あいつも
    せいかくが真面目だよな。
    んなこと、深刻に考え過ぎるなよって言いたかったけど
    なんの事情かも分からなくてさ」

私たちの行動が保留になった原因は、ほむらの居場所が分からないことだった。
杏子の軽はずみな物言いがいらいらする。
どうしてほむらを放って来たのさ!

さやか「心配する振りなんかしてるけど……何となく分かっちゃうんだよね。あんたが嘘つきだってこと」

杏子「おい、どうしたんだ。

    いつもさやかは変だけど、今日は特別おかしいぞ
    ?」

人を馬鹿にして……って、いくらなんでもあたし自身の思考がおかしいと気づく。

そしてベルトに着いた黒い羽根に魔術文字が薄く光っていることを確認する。

さやか(放っておくと回復するんだコレ……)

さやか「あたしって……ほんとバカ」


遅くなって済みません。ここまでです。

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