P「2人きりの」 あずさ「夏祭り」 (16)
「ほぉ。綺麗な浴衣だなぁ」
今日は、とある七夕祭にゲストとして招待されて、美希、真美、亜美、そして竜宮からあずささんと律子がミニライブやトークショーを行っていた。。
俺は、営業先からそのまま、一仕事終えた後の彼女達の控室に来ていた。
「でしょでしょ!ミキのお気に入りの柄で作って貰ったの!」
「にーちゃーん!真美のは?ねえ、真美のはどう?」
「亜美のも可愛いっしょー?」
美希は、イメージカラーの黄緑色に、フルーツの絵柄をあしらった可愛らしいデザイン。
亜美真美は、そろいの黄色に夏らしい朝顔などで彩られた浴衣。
どれも、可愛らしい物だ。
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「ああ、可愛い可愛い」
「あ、ハニー、ちょっとテキトーなの」
「だねー、何か傷ついちゃうなぁ…」
「お仕事、ヤル気でないねー」
俺のおざなりな返事に、亜美と美希と真美は少し不満げだった。
「ちょっ、待て!いや、ホント、可愛いんだってば!」
「あの…プロデューサーさん、これで、良いんでしょうか?」
「お、あずささんも着替えおわ…」
振り向いた瞬間、俺は言葉が出なかった。
「ど、どうでしょうか…?」
紫色の浴衣には、紫陽花の花が描かれている。
俺は、その姿に思わず見とれていた。
「あ、あの…プロデューサーさん?」
「ハニー、固まってないで何とか言うの」
「にーちゃーん、起きろー」
「駄目だ、しかばねの様だ」
「死んでねえよ!」
亜美達の言葉に、ようやく俺は意識をこちら側へ引き戻す。
「あ、あの…どうでしょうか?」
「あ…そ、その…すごく、綺麗です」
「あーっ!ハニー、あずさにはそうやって言うのに、ミキ達には言ってくれなかったのー!」
「まー、にーちゃんも男ですからねぇい…」
「ちかたないですねぇい…」
「むぅ…もうミキ、お仕事しないもん」
「わっ、待てミキ!」
口を尖らせる美希達に、俺が翻弄されているのを見かねたのか、控室の奥から呆れたような声が飛んでくる。
「ほら、あんまりわがまま言うんじゃないの。美希」
「律子、あれ?浴衣じゃないの?」
半袖のライトグリーンのブラウスと、いつもの黒のパンツの律子。
てっきり浴衣で来ると思っていたが。
「私が浴衣着て、どうするんですか?」
「いや、見てみたかったかなーって」
「やよいみたいな口調で言わないでください!」
「あははっ…今日の仕事はどうだった?」
「盛況でした、美希と真美にも大分助けられましたけど」
「えっへん!」
「まあ、ミキ達に任せておけば結果オーライ、って思うな」
「そうか、それは良かった…あずささんも、お疲れ様でした」
「はい、ありがとうございます」
そんな話をしているとき、突然美希が立ち上がった。
「ねえ、亜美、真美、まだ時間あるし、縁日見に行くの」
「え?」
「うんうん!行く行く!りっちゃん、いいっしょー?!」
「はいはい、集合時間に遅れないようにね」
「「いぇっさー!」」
「じゃーねー、ハニー、あずさー」
「は~い」
美希と亜美真美が出て行ったあと、律子もしばし考え込んだようにして、立ち上がる。
「…プロデューサー、私、運営事務局に用事があるので、あずささん、頼めますか?」
「は?」
「え?」
「時間はまだ結構あるので、まあ縁日でも見回ってください、それじゃ」
控室に残されたのは、俺とあずささん。
まさか…気を使ってくれた…のか?
「…あずささん、どうですか?少し見に行きませんか?」
「は、はい、お願いします」
あずささんも、心なしか嬉しそうに見えたのは、俺の自惚れだろうか?
カランコロンと鳴る下駄の音を響かせながら、祭りの本会場となっている商店街へ向かう事にした。
「この辺りではかなり規模の大きい七夕祭りですからねぇ、人も多いや」
空中に吊り下げられた、鮮やかな飾り。そして道路の両脇には出店が所狭しと並んでいる。
タコ焼き、唐翌揚げ、キュウリの浅漬け、水風船、お面、くじ引き、金魚すくい…そこには、自分の子供時代と何ら変わりはない祭りの情景があった。
ともすれば、人の波にのまれて消えてしまいそうな気がして、俺はあずささんの手を取った。
「あずささん、はぐれないように…その…」
「え?」
「手、繋いだほうが…」
「…は、はい…」
あずささんの手は、じんわりと汗ばんでいた。
多分、俺の手も。
「それにしてもすごい人だ…」
「うふふっ…賑やかで、楽しいです」
「そうですね…っと」
「あっ…プロデューサーさん!」
押し寄せた人波に、繋いでいた手が解かれてしまう。
「あずささん!」
「くそっ…どこだ…?!」
そう広くない祭りの会場。
たった数分しか離れていない筈なのに。
何故だ。
何故こうも俺の心は、掻き乱されるのか。
不安で仕方がない。
心細い。
やっぱり俺は…
「だーれだ」
「え?」
突然、視界が閉ざされた。
目を覆う、暖かな感触。
背中に感じる体温。
「あずささん…?」
「せいか~い、うふふっ」
「良く俺の事、見つけましたね」
正直、驚きだった。
そのままどこへ行くか分からないと言うのが、本音だった。
「プロデューサーさんが、こっちに居た気がしたので来てみたら、大当たりでした~」
「そうですか…良かった…」
ほっと胸を撫で下ろすと、あずささんが少し不満そうな顔をしていた。
「そんなに心配でしたか?」
「ええ、どこかへ行ってしまわないかって…」
「もう、そんなに私、ひどくないです」
「…ごめんなさい」
「うふふっ、許してあげます」
にっこりとほほ笑んだあずささんの顔を見て、ようやく俺も安心できた。
やっぱり、彼女はこの表情が一番良い。
「あら…雨かしら」
「降ってきましたね…うわぁっ、これ、強い…!こっちへ!」
ポツリ、と地面を濡らした雨は、気づけばバケツをひっくり返した様な激しい物になってきた。
「止みそうにありませんね…しばらく、ここで休んでいきましょう」
「ええ…」
祭りの会場にもなって居た神社の境内で、俺達は雨宿りをしていた。
先程までは出店の方もまだ賑わっていたが、この雨に一旦店を閉じているようだ。
「あずささん、大丈夫ですか?」
「はい…」
2人揃って、濡れ鼠。
自分の事などどうでも良いが、あずささんが風邪でも引いたら一大事だ。
だけど、こうして、2人でいる時間は、貴重だった。
東屋のベンチに腰かけている俺とあずささんの距離は、徐々に狭まっていた。
「…プロデューサーさん」
「はい」
「…今だけ…今だけ、こうしていても…良いですか?」
俺の身体に、あずささんが身を預ける。
濡れた髪からは、ほんのりとシャンプーの香りがした。
「…」
何も話さず、ただ、こうしているだけで幸せだった。
竜宮小町にあずささんが抜擢されてからは、こうして二人の時間を作ることは殆どなかった。
「…私、内心では不安なんです」
「…」
「私は、事務所の子達の中でも最年長です…でも、最年長らしい事が、出来てるのかなって…」
「…」
「伊織ちゃんや亜美ちゃん、律子さん…ううん、他の子達にも、毎回迷惑をかけてはいないかって…」
「あずささん…」
あずささんの、珍しい弱音。
何時も、皆の後ろで微笑んでいる彼女も、内心ではそう言った不安を抱えていて、それを吐き出せないでいる。
そう、最年長だから、お姉さんだから…
「ごめんなさい、いけませんね…でも、プロデューサーさんにしか…」
「…良いんですよ…俺は、あずささんのそのままの姿が好きなんです…」
「えっ…?」
「いつも、無理をしてるでしょう…皆が辛い時も、自分だけは、笑ってなきゃって、励まさなきゃって…不安な時でも、皆の為に…」
「…」
「俺にだけでも、そう言う弱いところ、見せてください…」
「…良いんですか?私、甘えちゃいますよ?」
「…甘えてください、俺に」
「…っ…うふふっ…そう言って貰えると、私も気が楽です」
「そうですか…あ、雨、止みましたよ」
「ええ…行きましょうか」
「はい」
「…あら?」
「どうか、しましたか?」
「鼻緒が切れてしまって…」
「…はい、あずささん」
「え?」
「そのままじゃ、どうしようもないでしょ?」
「…はい…お願いします」
背中に感じる、柔らかな感触。
駐車場まで、どのくらいあっただろうか?
俺の自制心は、どこまで持つのか?
背中越しに感じるあずささんの吐息、耳元に囁かれる小さな声。
「…ある意味、拷問かな…」
「え?」
「いえ…さ、行きます…よ!」
駐車場まで、歩いて15分。
その間も、貴重なあずささんとの、2人きりの時間だった。
「あーあー…見せつけてくれちゃって」
傘を三本腕に提げて来て、間抜けな姿だな、と自分でも思う。
神社の境内でプロデューサーを見かけたけど、でも二人きりの空間が出来上がっていたので、声もかけられず、今、あずささんを背負って歩いていくのを見送る。
「ねーねー、りっちゃん、どうするの?」
「…ほら、あんた達、まだ射的がやり足りないとか言ってたでしょ」
今、鉢合わせするのは何だか気まずい。
適当な時間つぶしの方法を考えては見たが、それも無理らしい。
「うぇー、さっき景品をめっちゃ取ってきたらそこら中の射的屋さんから出入り禁止にされちゃったよ」
「…どんだけ当ててんのよ…」
「ねえ、律子…さん、とりあえず、ミキ達ももう少しブラブラしよ」
「…あんたは良いの?」
「ミキは、ハニーが一番幸せにしててくれるのが、一番幸せなの」
「…ミキミキ、超オトナー」
「でしょ?ミキもそう思うな」
「…はぁ、良いなぁ…」
溜息をついたそばから、今度は真美が私に絡んでくる。
「あ、りっちゃん、にーちゃんあずさお姉ちゃんに取られちゃって寂しいんだー」
「う、うるさいわね!そんな訳無いでしょ!ほら、たこ焼きでもお好み焼きでも買ってあげるから、行くわよ!」
「「「ハーイ!」」」
ホント、世話の焼ける2人だこと…
そんな事を考えながら、私は亜美と真美と美希を連れて、出店の並ぶ商店街へと足を向けた。
終
おしまい、単純にあずささんの浴衣姿を想像したかっただけ。
旧暦七夕も近いという事で。
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