渋谷凛「卯月が大体島村卯月になった」 (28)
※ ニュージェネの三人が会話する。大体そんな話です。
===
事務所内フリールーム。
凛「おはよう。卯月、未央」
未央「おっ! おはよーしぶりん!」
卯月「凛ちゃん、おはようございます!」
凛「なんだか、二人に会うのも久しぶりだね」
凛「最近は、三人バラバラの仕事が多かったから」
未央「だね。こうやって揃うのは、二ヶ月ぶりぐらい?」
凛「もう少し、短いんじゃない? ほら、この前プロデューサーに集められた時」
卯月「あれが、大体一ヶ月と十日ぐらい前です!」
未央「おお? やけに自信満々で答えるねー」
凛「卯月ってもしかして、そういうの律儀に覚えておくタイプ?」
卯月「えへへ、違いますよぉ」
卯月「ちゃんと、『大体』ってつけたじゃないですか」
卯月「だって私は、大体島村卯月ですからっ!」ダブルピース!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477738066
===
未央&凛「…………」
卯月「?」
卯月「あの、どうかしましたか?」
未央「……はっ!」
未央「いやね。久しぶりに披露された、しまむーのダブルピースに見惚れて……」
未央「って、それはまぁ置いといて」
凛「……何なの卯月。その、『大体島村卯月』って」
卯月「何ってそれは……」
卯月「大体島村卯月は、大体島村卯月ですよ?」
卯月「えへへ♪」
未央「ぐ、うぅ……なんたる可愛さ! なんたる笑顔!」
未央「あー……しまむーのことギュってしたい」
凛「未央、欲望が口から洩れてる」
未央「おっと」
卯月「それに私は、もう未央ちゃんにギュッとされてますよぉ」
未央「はうぁっ!? い、いつの間に……?」
凛「私が部屋に来た時からだね……話を戻すよ? 二人とも」
卯月「ああっ、ごめんなさい」
未央「どうぞどうぞ」
===
凛「それで、もう一度聞くけど」
凛「なに? その、大体島村卯月って」
卯月「さっきも言いましたけど、大体島村卯月は、大体島村卯月です!」
凛「あぁ……卯月、そうじゃない」
凛「そんな『なんじゃもんじゃは、なんじゃもんじゃだよ』みたいな説明じゃなくて」
未央「う、うん?」
卯月「もんじゃもんじゃ……ですか?」
凛「違うよ。なんじゃ、もんじゃ」
卯月「もじゃ、もじゃ?」
未央「しぶりん。悪いんだけど説明プリーズ?」
凛「……二人とも知らない? なんじゃもんじゃの木」
未央「ごめん。知らないなぁ」
卯月「奈緒ちゃんの髪のことでしょうか?」
凛「違うよ。……まぁ、確かに奈緒の髪はいつももじゃもじゃしてるけど」
凛「そうじゃなくて。昔の人が珍しい木や植物を見つけた時に、名前が分からないからそう呼ぶようになったってヤツ」
卯月「へぇ……そんな話があるんですか」
凛「うん」
未央「あのさ、しぶりん」
凛「なに?」
未央「その、花屋トークって言うのかい? 唐突に植物知識を会話の中にぶっこむの、止めよう?」
卯月「最近はテレビやラジオのトーク中にも、大体一回入れて来ますよね」
凛「……ダメかな?」
凛「自分的には花屋の娘ってことを仕事に活かせる、良い方法だと思ってたんだけど」
凛「今度三人でやるラジオ。プロデューサーから、自分なりのコーナー案を考えておくようにって言われてたから」
未央「まぁ、確かにそうだけど」
未央「今日こうして集まったのも、そのラジオの話をするためだし」
凛「だから、自分なりに練習してたんだ。花や、植物に関する面白い話を紹介するコーナー……みたいな」
凛「……子供っぽい、かな?」
未央「いやぁ……そんなことは無いけどさぁ」
未央「時と場合に、よるって言うか」
卯月「でも、私は好きですよ? 凛ちゃんの、お花屋さんトーク」
凛「卯月……!」
卯月「大体の場合、披露した直後に『うわぁ……』って空気が広がって」
卯月「その居たたまれなさは、正直見ていて背筋がゾクゾクと――あっ、それで私はですね」
凛「待って卯月、そこで話題を変えないで」
卯月「それで私は、大体島村卯月なんですっ!」ダブルピース!
凛「スルーしないでっ!!」
===
未央「まぁ、なんだね」
未央「とにかく、今日のしまむーは大体島村卯月で行くと」
未央「そう言う感じで、いいんだね?」
卯月「はい! 大体は!」
凛「……けどさ、どの辺が『大体』なの?」
未央「まぁ、気になるよね。見た目は、普段のしまむーと変わらないし」
卯月「でも、大体ですが卯月です!」
卯月「大体笑顔の、島村卯月です!」
卯月「だけど曖昧な笑顔もできる、大体島村卯月ですっ!」
卯月「え、えへ……♪」
未央(うわぁ……本当に曖昧な笑顔だよ)
凛「キュンとした」
未央「ちょいと、しぶりんさんや?」
凛「なに? 未央はキュンとしなかったの?」
未央「私はキュンとするより、ギュッとしたい派だから」
卯月「あの……話を元に戻しても?」
凛「ああ、ごめん」
未央「どうぞどうぞ」
卯月「えっと、それでですね」
卯月「私ってほら、よく普通の子って言われるじゃないですか」
凛「いやいやいや」
未央「いやいやいやいや」
凛(卯月の普通って、良いとこのお嬢様感覚での普通じゃん)
未央(庶民な私たちから見れば、普段の言動が十分普通じゃないんだよ?)
未央&凛「そんなことないって」
卯月「そ、そんなことありますよっ!」
卯月「だから、何か個性を増やそうと思って」
凛「それで『大体』?」
未央「でもさ、しまむーにはもう笑顔にお尻に前歯だってあるし……十分個性的だと思うけど」
卯月「え、笑顔は個性になりません!」
凛「キュンとするよ?」
卯月「それに、お……お尻が大きいのも、女の子としてはちょっと……」
未央「えー? そうかなー」
未央「私の学校には結構いるよ? しまむーのお尻良いよねって言ってる人」
凛「……それ、おおもとの発信源は未央でしょ」
未央「あちゃ、ばれたか」
卯月「『あちゃ』じゃないです!」
卯月「だ、大体、サイズは未央ちゃんも一緒じゃないですか!」
未央「だけど自分のお尻じゃ楽しめないじゃん!」
未央「ギュッてしながら、露骨に触って反応を楽しめないじゃん!」
卯月「た、楽しまなくてもいいですよぉ!」
卯月「うぅ……だから、何か別の魅力を探そうと思って」
卯月「私、よく人から相談事を受けるから。それで大体の人は、私が相談事に乗ってあげると、『悩み事が無くなった』って」
卯月「だから私、今度のラジオのコーナーに、リスナーさんから相談事を募集して」
卯月「私が皆さんのお悩みを大大……じゃなかった! 大体解決!」
卯月「大体島村卯月が、お悩み大体解決しちゃいます!
……ってコーナーを、今日の話し合いで提案しようと思って来たんです!」
凛「へぇ」
未央「そっかぁ」
卯月「えへへ……♪ どうでしょうか二人とも。良い考えだって思いませんか?」
凛「うん。いいんじゃない」
未央「そうだね。しまむーにはピッタリっていうか」
凛(ラジオのコーナーでお悩み相談……)
未央(だけどそれって、清々しいほどまでに……)
未央&凛(普通だなぁ)
卯月「えへっ♪ 二人にそう言ってもらえると、自信がもてます!」
凛(でもまぁ……)
未央(喜ぶしまむーが可愛いから、いいや)
凛「まぁ、それでこそ卯月だよ」
未央「うんうん。しまむーがしまむーたる所以だね」
卯月「はい?」
凛「ああ、こっちの話」
未央「気にしなくって大丈夫だよ」
===
凛「でもさ、卯月は大体解決って言ったけど」
凛「実際のところ、相談事を解決する割合ってどのくらいなわけ?」
未央「そもそも、大体ってどの位を言うんだっけ? ほぼ完ぺき? それとも半分とちょっとぐらい?」
卯月「えっと、大体って言葉自体は、全体における九割ぐらいを指しますね!」
未央「おっ! それって凄く高い解決率じゃん!」
未央「それだったら私もさ、何か悩み事があったらしまむーに相談しようかなー」
卯月「その時は是非、大体島村卯月にお任せください! あっ、でも……」
卯月「実際の解決率は、このぐらいしかないんですけど」ダブルピース・・・!
凛「ダブルピースってことは……四割?」
卯月「いえ、二割ですよ?」
未央「ちょっとしまむー?」
卯月「大体、二割です!」
未央「それって、ほぼほぼ解決してないじゃん!」
卯月「そうなんですよ。大体皆さん、そう言って……なんでかな?」
未央「不思議そうに首を傾げても、原因はハッキリしてるよ!?」
卯月「でもまぁ、大体は大した悩みでもないですから」
卯月「相談を受けた時点で、半分以上は解決したということで……ねっ♪」
未央(あ、悪魔の笑顔だ……!)
凛「ああ……卯月……」
未央「しぶりん? キュンとしてる場合じゃないからね!?」
===
卯月「と、いうわけで改めまして!」
卯月「大体(本人談で二割ほど)島村卯月の、島村卯月です!」ダブルピース!
凛「いや、今さら改める必要は……」
未央「ついでに会話も噛み合ってないよ、しまむー?」
卯月「うぅ、ごめんなさい」
卯月「でも私、大体島村卯月ですから」
卯月「何事も、大体しかこなせないんです」
凛「いや、もう大体って言うよりは」
未央「いささかも……って、はっ!?」
卯月「どうしました、未央ちゃん?」
凛「……なに? そのヤバいことに気づいちゃったって顔」
未央「あ、あのさ? 大体島村卯月が、九割方しまむーだって言うなら――」
卯月「違います。二割です」
未央「あ、うん」
凛「……こだわるね、卯月」
卯月「そこはもう、大体島村卯月ですから!」
未央「……あのー、続けてもいい?」
卯月&凛「どうぞどうぞ」
未央「コホン!」
未央「……はっ!? もしや――!」
凛「そこからやり直すんだ」
卯月「舞台にも出てますし、未央ちゃんなりのこだわりがあるんですよ。きっと」
未央「そうそうしまむーの言う通り……! って、違う違う!」
未央「だからね、大体島村卯月が、二割方しまむーだって言うならさ……」
未央「残り八割の島村卯月が別にいる可能性も……微妙に存在?」
凛「なにそれ怖い」
卯月「……えーっと?」
未央「つまりだね。今ここでギュッとされてるしまむーが、大体島村卯月だって言い張るのなら」
未央「残り何割かの、大体じゃないしまむーがどっかにいるかもねって、そんなもしもの話だよ」
卯月「ああ、なるほど!」
その時、フリールームの扉が音を立てて開かれた。突然の来客に驚く三人。
だが、中に入って来たのは彼女たちのプロデューサー。
「悪い悪い、遅くなった」
謝る彼に「びっくりしたー!」「タイミング、バッチリですね!」「来るのが遅いよ」と話しかける三人だったが、
プロデューサーの後から部屋にやって来た人物を見て、未央と凛は言葉を失った。
「おはようございます。凛ちゃん、未央ちゃん!」
「丁度ここに来る途中、プロデューサーさんとのお話に夢中になっちゃって……あれ?」
未央が、彼女の腰に回していた手をサッと解いた。
驚愕に見開かれた凛の目を見据え、その少女は微笑んだ。
「だから、大体島村卯月です! ……えへへ!」
===
大体これでおしまいです。
お読みいただき、ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません