一ノ瀬志希「絶対に許さない」 (43)

P×志希

※一ノ瀬志希
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――ヒトをスキになる、ってコワいよね。
――ほかのヒトには絶対許さないコトを、望んでしまうんだから。





『一ノ瀬志希の家に、開かずの部屋がある』と、
一部のアイドルの間で噂となっていた。



アイドル・一ノ瀬志希は、所属事務所から徒歩圏内の一戸建てで一人暮らしをしていて、
事務所の仲間はときどきその敷居をまたぐことがある。

そこに、志希が客へ絶対に触らせないドアがあるという。
そのノブに触れたせいで出禁にされた者さえいる、とささやかれている。

アイドルたちは、志希の趣味が『アヤシイ実験』であることから、
その部屋に危険な薬品でも保管していると想像し、あえて探ろうとはしない。



しかし、そのドアの向こうの部屋は、広さも内装もいたって普通だった。
ベッド、クローゼット、化粧台……あるのは家具が少しばかり。

つまりその部屋は、志希の寝室であった。
ただ、志希がそこへの立ち入りを許すのは、彼女を担当するプロデューサーだけである。





「志希、入るぞ」

プロデューサーが、彼だけに許されたドアノブをひねり、扉を開ける。
中に入り込んだ瞬間、彼は顔の肌すべてを志希の舌で包み込まれたかと錯覚した。
部屋の空気は、志希の唾液のように淡い酸っぱさと甘さで満ちている。



「ドア、閉めて。あたしが、溢れ出ちゃうから」

一ノ瀬志希は、ベッドのふちに腰かけたまま声をかけた。
彼女は素肌にべったりと張り付く濡れ白衣だけを羽織って、
その合わせ目を胸の前で閉じている。



「キミがドアを開けてくれるまでの間で、たっぷり焦れちゃったよ……?
 早く、キミを吸わせて欲しいな」

志希は、上目遣いで立ち尽くすプロデューサーを促した。

吸わせて、というのは二重の意味があった。
まず彼女の嗅覚が今まさに彼を求めて喘いでいること、
そして匂いを吸わせる特殊なローションに浸した白衣に体臭をよこせ、ということ。

「気が済むまでどうぞ。でも、この間も志希に絞られたから、あまり濃くないと思うが」
「濃ければいいというものじゃないよ。今日のあたしは、ちょっとビンカン過ぎるから、
 あんまり濃いのだと一気にトんじゃって、じっくり味わえないし」



衣服を脱いだプロデューサーをベッドに寝かせると、
白衣だけを羽織った志希は彼の下半身に覆いかぶさり、
半ばほど血の気が通ってきたペニスを指先でなぞった。

いつもはマイクや試験管を握る志希の手が、まずは硬さの度合いを確かめるように指で包み込む。

「プロデューサー、志希ちゃんの匂いだけで興奮してない?」
「匂いもそうだけど、志希の家に向かってる時点で……」
「期待しちゃってた? キミも焦れてたんだ♪」

志希が指でペニスを愛撫し、ペニスがどんどん本調子の怒張へ近づいてくるに連れて、
志希の脳髄に、幾度も焼き付けられたセックスの記憶が湧き上がってくる。

この男の、このペニス――最初は服越しの匂いで感じ取っただけだった。
それから一線を超えるその時、視覚と、触覚と、味覚に刻み込んだ。

志希の下肢が破瓜の痛みを思い出したか、白衣に包まれたままわずかに震える。
処女喪失は、志希の記憶では確かに泣くほど鋭い痛みだった。
けれど今の幻痛は、志希の女陰を寂しげにむずからせた。



(まだ――まだだよ。始まったばっかりだもん……)

志希は自分の指をペニスに絡めて上下させはじめると、
指が自分の膣内のように思えてきた。
十分な硬さを得たペニスは、部屋の天井を指し、先走りの気配さえ告げている。




「ふっふー、いい具合にオトコの準備がデキつつあるみたいだけど?」
「……志希の手にかかれば、なぁ」

「それじゃ、いただきまーす」

志希は舌を伸ばし、まずは舌先でプロデューサーのペニスを味わおうとし――

(あ、ダメこれ、勝手に、色んなの出ちゃう……っ)

――そのまま吸い寄せられるように亀頭を口内に迎え入れてしまった。

プロデューサーの、志希が占有するところのオトコが、
彼女の味蕾を焼き、口蓋をねぶり、鼻腔を逆流して、鋤鼻器官に襲いかかる。
その刺激は志希の脳関門をこじ開け、視床下部を小突いたり海馬にのしかかったり、
またたく間に志希の全身に、彼女を求める雄の存在を触れ回る。

(ああ、もう下に欲しくなってる……でも、まだだよ。
 プロデューサーの匂いを味わえるのは、上のクチだから……)

志希の身体で欲望と欲望がつばぜり合いして、
白衣に包まれたシルエットをぎこちなく歪ませる。



「志希。さっきから、ずいぶん落ち着かないみたいだが」
「んふふっ、キミからは見えちゃってるよね……」

志希がいったんペニスを口内から解放すると、
彼女の唾液とプロデューサーの先走りが混ざって蒸散する匂いが彼女の粘膜をくすぐった。

「下のクチ……おまんこがね、キミのせーし欲しいって、ムズムズわがままいって、
 でもね、上のクチが、いやいや、こっちによこしなさいって、もーたいへん」
「俺は一人しかいないってのにな」
「二人もいたら、あたしは完全におかしくなっちゃうよ」

志希は不思議に思っていることがあった。
プロデューサーの精液を膣で絞り出し、子宮に迎え入れ、卵子と受精を果たして子を孕む……
という妊娠が、志希に刻まれた生存戦略の命ずるところなら、

(どうしてあたしの嗅覚は、それを邪魔するほど強くキミのコレを求めるんだろ……)

志希はてらてらと濡れ光るプロデューサーのペニスに目線を注ぎながら、
詮もない思考をからからと彷徨わせていた。




(……もしかして、このヒト――あたしのプロデューサーを、感じ取って、引き寄せて、
 あたしの意識に初めて届けたのは、ほかならぬあたしの嗅覚だから……)

志希は、くちびるをプロデューサーの雁首に寄せて添えた。
まるでくちびる同士のキスでもするかのような、よどみない動きだった。

(あたしが最初に見つけたんだ! って主張してるのかなぁ)

鼻息をこれみよがしに聞かせながら、蒸散する体液を吸い込み摂取する。

(いいよ――まずは上のおクチで、プロデューサーを、もらお……♪)



「うっ……し、志希――っ」

志希の口淫は、急激にペースを上げていく。
どこをどう刺激してプロデューサーの肉体を高ぶらせられるか。
志希は体を交わすごとにその手管を洗練させている。

志希が本気になれば、もはやプロデューサーは抗えない。

(期待が予感になって、気配になって、確信に変わって……分かる、あたしは分かっちゃう。
 あたしの体も、プロデューサーに負けず先走って……
 ほとんどパブロフの犬だ。条件付けられちゃってる……)

志希は顔を少し上向けて、目線で先を促す。
白衣で包まれた下半身の曲線を、これみよがしに上下させる。

「志希、もう……」

(ただ、あたしがワンちゃんと違うのは)

プロデューサーが約束された限界を迎える瞬間、
志希は自分の意識を口内と鼻腔の粘膜に収束させようとする。
自分がプロデューサーの精子を受け止めるだけの器官と化すように。

(自分で自分をそう望んで、そうなるよう誘導してしまってるってコト、かな)

やがて射精が志希の口内を襲うと、志希は胎児のように背中を丸めた。
プロデューサーのペニスがびくんびくんと痙攣するのに合わせて、
志希の顔とウェーブヘアがかすかに揺れた。



「ん、くっ……んぅうぐ、う、ふぅうう……っ」

くちびるでペニスを締め付けたまま、口内に精液をためたまま、
志希はプロデューサーの下腹部が涼しくなるほど荒い鼻息の発作を起こして呻く。

(こうやって、じわじわ、ふわふわ、イカされてくの、スキ……♪)

志希の絶頂は、熱気球が音もなく上がっていくように、
緩やかに、しかしもう志希にもプロデューサーにも邪魔できない勢いで、
志希の脳髄から焦燥や渇望を洗い流し、代わりに抗えない充足感を注ぎ込んでいく。



「志希――」

精子と一緒に欲望を搾り取られて、志希と相反するように頭が冷えてきたプロデューサーは、
手持ち無沙汰になった体を少し起こしすと、
ベッドのシーツを掴んで震えている志希の手に自分の手を重ねた。

(手――あ、あたし、プロデューサーに、また――っ)

プロデューサーは、志希に置いてけぼりにされた気がして、
ただ志希の肌のどこかに触りたかっただけだった。

しかし志希の体と意識は、彼女の手の甲を包むプロデューサーを、
新たな条件付けと受け取った。

(また、覚えさせられちゃう……気持ちいいって、シアワセだって、キミに……っ)



プロデューサーは志希の為すに任せて、恍惚とする彼女をしばらく眺めていた。
目に入る志希の動きは鈍っていた。反対に、粘膜で感じる彼女の体温は火照っていて、
プロデューサーの下半身にまとわりついて汗を引かせないままにした。




志希はベッドに仰向けに横たわり、両腕を乱れたウェーブヘアとともに頭の後ろに投げ出していた。
プロデューサーの指示である――今度は、志希がプロデューサーに従う番だった。

プロデューサーは志希の顔を見下ろしながらつぶやく。

「前に、志希に教えてもらった気がするんだが、
 緊張や興奮したときの手汗や脇汗は、意識しても止めることができないんだよな」
「うん。そーだね。その汗も、フツーの運動したときに汗出すエクリン汗腺とはちょっと違う、
 アポクリン汗腺――いわゆる脂汗ってやつで、同じ人でも匂いがそこそこ違うんだよね」
「で、それがいわゆるフェロモンの一種なんだよな」
「まぁ、大雑把に言えばね」

志希は腕を上げているため、両脇をプロデューサーに晒していた。
自然、羽織っていた白衣の合せ目も広がるため、
フェラチオ中に白衣の内側でこもっていた志希の体臭が、ぶわりと色濃く放散されている。

腋に負けず劣らず、胸の谷間も汗と涎が染み込んで、
赤らんだ肌の放熱と混ざってプロデューサーを誘う。

そこから、腋を開いていることで薄く伸ばされた乳房の膨らみを辿ると、
少し色素の沈着した乳輪と乳首が見える。少女に近い若々しい膨らみと裏腹に、
乳暈は十分な成熟を誇示するようにふっくらと勃起している。
薄く点描された乳腺口は、とりわけきつい雌の匂いで占められている。
まるで子を孕ませ、早く本来の役目を果たさせるよう催促している風だ。

鎖骨と首筋では、浮き沈みする皮膚のくぼみに汗をためて、
ただでさえ匂いが強く出る部位に、こってりと光る発情色をつけていた。
それを戒めるように、上に流しきれなかった幾筋かの髪が絡みついている。
髪の毛を退けるぐらいのわずかな接触でも、彼女の欲望は肌から溢れ出してしまうだろう。

志希の匂いは、どれもこれもが、プロデューサーにさえ感知できる濃厚さだった。
より鋭い志希自身の嗅覚であれば、尚更。



「なら例えば、俺が志希のグラビアでこういう脇を強調させるポーズとか指示してるのって」
「言うなれば……『あたしに発情したまえ、男子諸君♪』ってやらせてるんだよね。キミが」

志希は腕で目を半分隠しながらはにかんだ。
プロデューサーは内心、自分の仕事の業が深いことを思った。
体のいい美人局である。

「ただね、カメラはあたしの姿だけを切り取る。匂いは伝えない」

プロデューサーの内心を知ってか知らずか、志希の口調は軽く高く弾む。

「そして、あたしがフェロモン出しちゃうほど興奮するのも、キミの前だけ。
 そうなったのは、キミの匂いと執拗な条件付けのせいなんだけど。
 さっきだってキミのスーハースーハーしてただけで、恥ずかしくなるぐらい、びちゃびちゃにしちゃった」

志希はぺろりと舌先を出して、いたずらっぽく笑った。

「確かめてみる? アイドル・一ノ瀬志希を演じる女の子が、キミのために、どこまでいやらしくなれるか」




志希の肌は、人並みの嗅覚なプロデューサーでも感じ取れるほど匂い立っていた。
主香料は、べとつく女の欲情。副香料は、爽やかな乙女の若気。
彼が嗅ぎ分けられるのはそれぐらい。

「俺は、志希ほど敏感じゃないからなぁ……近づいていいか」
「どーぞ。志希ちゃんの発情パフューム、ご賞味あれ♪」
「お前、またそんなオヤジギャグみたいなこと言って……」

弛緩しかかった空気をすり抜け、プロデューサーは志希の右腋へ鼻を近づけ、
鼻息も高く吸い上げた。香水師の見よう見まねで、肺腑の呼気を三度に分けて反芻する。

「ふわ、あ、あっ……あたしの、えっちな匂い、プロデューサーに、嗅がれちゃってる……♪」

志希は、自分の欲望の証どころか、自分の体そのものがプロデューサーの中に取り込まれて、
鼻腔や口内の粘膜で検分され、蹂躙されている錯覚がした。

が、それはすぐに破られる。

「ふぅうぁああっ、あ、い、息が、あたって」

プロデューサーの吐息が志希の右腋を襲い、
彼女は肩甲骨がシーツを引きつらせるほどさらに関節を開く。
激しく心臓が打ち付けるあまり、腋に流れる大動脈の高鳴りまで嗅ぎ取られたか、と想像する。

(あたしが……キミにえっちにされちゃうところ、感じてっ)



「じゃあ、志希。腋、舐めるから」
「もう、いちいち許可とらなくていいのにぃ」
「心の準備が必要かな、と思って」

(心の準備……いや、もう、むしろ、あたしの体が)

志希は目を閉じていたが、唾液の匂いが強くなったのを嗅ぎ取り、
プロデューサーが舌を出したと感づいた。

(準備、しちゃう。あたしはプロデューサーのためのオンナなんだって、匂いで、叫ぶ)

「スケベな匂いさせてるな、志希は。匂いでこれなんだから、舐めてみたらどんな味がするやら」

(もっと、言って。普段なら言わない、下品なコト)

プロデューサーの舌先が、志希の腋窩をするりとさらう。

(今度はあたしで、キミを狂わせたい)

志希は体をくねらせ、音のない叫びを部屋中まで散らす。
神経を騒がせるくすぐったさが、志希の体を自ら弄ぶ。



「志希がいい女だってこと、まだまだ教えてもらう」

プロデューサーの口角から漏れた匂いで、志希は彼の笑みの深さを察した。





「……と、その前に、やることがあったな……今日は、準備してるんだろ」

プロデューサーが首をもたげて志希の部屋を見回し、
すぐ目当ての物を見つけて、満足気に目を細めた。

彼の目線の先にあるのは、化粧台に置かれた500mlのペットボトル。
薬局売りの生理食塩水のラベルがついていて、まだ開栓されていない。

「ふぁ……? ああ、アレ……」
「この間は部屋にこもって、こってりやり過ぎて、二人で脱水になりかけたからなぁ」
「喉もダメになって、トレーナーさんに怒られちゃったね」

プロデューサーは、一瞬でも志希から離れるのが惜しいとばかりに、
そそくさとペットボトルを取ってベッドに戻ってきた。



志希は、ペットボトルの蓋をパキリとひねるプロデューサーを見上げていた。
開けたペットボトルの中身を少し口に含む姿を目に映して、ふと考えた。

(あたし……媚薬を作ろうかな、と思ったこともあったけど……)

プロデューサーは湿らせた唇を志希に近づけた。
志希も自分の唇を軽く開けて応じた。
少しひやりとする濃度0.9%の塩水が、二人の粘膜の間に渡される。

(今から、キミにこれ飲まされた分と同じだけ、あたしのフェロモンを絞り出されちゃうと思うと)

志希の喉に、プロデューサーの精液と絡み合った水が流れる。

(タダの生食液に、興奮しちゃう……敵わないなぁ、キミには……)

志希は、粘膜の乾きを癒やされながら、
愛撫への渇望を煽られるという矛盾を噛み締めていた。



プロデューサーが、志希の両脇から乳房の横のふもとに指で触れると、
志希は声を立てず吐息だけで笑った。

「ここ触ったら、くすぐったいよなぁ」
「まぁ、ね。動脈も、自律神経も走ってるし。つまり、人間の弱点」

そう言いつつ、志希は肩甲骨を動かして腋を強調した。

「志希はくすぐられるの、好きか?」
「イヤだよ、あたしそんなヘンタイじゃないもん」

プロデューサーが笑いを噛み殺すと、それを察した志希はわざとらしく頬をふくらませる。

「くすぐったいのはイヤだよ……ソレに関しては、あたしもフツーだって。
 くすぐったいって感覚は、そーゆー人体の弱点に接近を許してしまった時、
 それを振り払うための反射で……つまりは不快感なの。キミじゃなかったら触らせないよ」

そう言いつつ志希は、上半身を白衣とシーツが衣擦れを起こすほど、これ見よがしにもぞつかせる。
プロデューサーの刺激を、目と仕草でねだっていた。



プロデューサーは、志希の腋窩の一番深いところに指を差し伸べる。
志希の期待を浴びながら、溜まった汗のフェロモンを肌に延ばしていく。

「はぁう……っ、ふぅ、うぅぅ……」

軽く、しかし決して志希の肌から指先を離さないタッチで、
乳房の横をたどり、肋骨とふもとの間を確かめるように触れる。
志希の鼓動が指先に伝わり、それがプロデューサーにまで伝染して、彼の喉を鳴らした。

「もっと、いじって……あたしのフェロモン、絞り出しちゃってよ……♪」

プロデューサーの指に触れられたところから、
志希はそこに張り巡らされた自分の神経やら乳腺やら汗腺やらに、触覚が伝染して、
体の内側まで染み渡っていくイメージを思い描いた。

「あうっ、ふぁあっ、ああ、んんんっっ」

プロデューサーの指が何度も行き来すると、
志希の肌は前にもまして汗の玉を乗せ、それらは鎖骨や首筋のくぼみに溜まったり、
胸の稜線に筋を引いて垂れ落ちたりした。
白衣とシーツが濡れすぎて、ベッドの下地が透けてきていた。

(もっとくすぐったくして。息ができなくなって、ナニも考えられなくなるぐらい)

志希は息を荒げながらも、プロデューサーの愛撫をせがみ続ける。

「あっ……ふ、あっ――は、んぁ……っ」

(キミにシてもらったぶんだけ、あたしはオンナらしくなれるから。
 オンナらしいとこ、キミに味わってもらえるから)







志希はくすぐったさに笑い声を上げた。
プロデューサーは指の動きをエスカレートさせた。

「ひっ、い……ふぁっ、ひ、ぁああっ……」

志希の笑い声がだんだん詰まって、気管支をひゅうひゅうと喘ぐようになって、
頬が病的な赤さを孕んでも、志希は腋を下げないまま。

(あたし一人じゃ、イケないトコロ、キミの手で連れて行って)

プロデューサーから与えられるくすぐったさと息苦しさが、それらに伴って、
反射系から脳へ否応なく叩きつけられる警鐘が、むしろ志希を充足させていた。

(くすぐったく、されるほど、苦しく、されるほど、あたし――)



しかし、志希の意識が弾ける数歩前で、プロデューサーは指を止めた。



「声、かすれてきたなぁ。また少し、志希が用意してくれたこいつを飲ませてやるよ」

喘ぎ喘ぎながら、不満げにプロデューサーを見上げる志希の唇を、
彼は生理食塩水を含んだ口でこじ開けて液体を流し込んだ。



「ふっ……ふふっ、にゃははっ……♪」

口づけと水分の摂取が終わると、志希はくすぐられる前から笑みをこぼした。

「何かおかしいことでもあったか?」
「今のあたし……ホントにキミの手に転がされてるな、って思ってさ」
「しっかりフェロモン絞り出しくれ、って頼まれたからな」



プロデューサーは執拗に志希をくすぐり、撫で回し続けた。
志希の喘ぎが乾いた様子を見せると、その度にプロデューサーはペットボトルを開けて、
生理食塩水を口移しで一口ずつ与えた。そしてまた愛撫を再開した。



ペットボトルの中身が半分ほどになった頃、ついに志希が音を上げた。



「も、もうダメぇ……♪ い、いくらキミでも、ダメに、なっちゃう……♪」

志希は腋を閉めようとして、二の腕をふらふらと震わせた。
敏感なところへの刺激と反射が積もり積もって、上半身が言うことを聞いていない。

「飲ませながらやるのって、初めてやったけど、いいな。
 志希がどれくらいでダメになるか、分かりやすい」
「キミは、あたしを……モルモットかナニかと思ってない……?」
「志希がどこまで付き合ってくれるか、知りたいしね」

瀬戸際の志希は、プロデューサーの余裕を小面憎く思った。

「でも、俺も待ち遠しかったから。志希のソレを、味あわせていただくことにしようか」

プロデューサーが志希の体液で濡れた指先を舐め、
それを見せつけられた志希に、また自分の体まで舌に舐められた錯覚が浮かぶ。



プロデューサーは、さんざん撫で回した志希の乳房のふもとに、
軽く指を沈み込ませた。それだけで、志希は悲鳴を漏らし、上体を仰け反らせた。

「ひっ――くあぁあっ! ふあぁああっ! な、ナニ、これっ……!」
「やっぱり、相当キてるなぁ……見た目でも、分かるぞ」

腋を閉じた志希の胸の膨らみは、興奮のあまり全体が一回り大きくなっているようだった。
潤い光る肌の稜線で、乳輪が恨めしげにプロデューサーを指して盛り上がっている。
乳首は既にさんざん吸われたかのように勃起して濡れていた。

「ひっ――くっ、うああ、ふぁああああっ!」

プロデューサーが左右五本ずつの指で、志希の胸を軽く揺さぶると、
志希はプロデューサーに覆いかぶさられている下半身まで震わせた。

「んああっ、ああっ、お、おっぱい、オカシく、なっちゃ――んんんっっ!」

素面の時なら、プロデューサー相手でも笑って済ませられる刺激だった。
それが、とろとろに解されじっくりと仕上げられた今では、志希を忘我の境地に追い込む。

(おっぱいで、こんなにイクのなんて、覚えさせられたら……
 プロデューサーにおっぱい見られる度に、思い出しちゃう、期待しちゃう)



「それじゃ、志希謹製のフェロモンをいただくよ」

プロデューサーは、志希の片方の乳輪を口に含み、もう片方に指を添えた。
濃厚な女の甘い匂いに反して、志希の肌は、プロデューサーの舌を微かに痺れさせる塩辛さだった。

「んあ、あぁ…………ひ、ぁぁぁ…………ぉ……」

プロデューサーが目を上げても、志希は顎を反らせていて、表情は伺えなかった。
プロデューサーが顔を上げて志希の顔を見た。

志希は、大きく口を開けているのに呼吸はか細くて、
薄く開けられた目に半分隠れた瞳孔がゆらゆらしていた。
志希が絶頂を迎えたことは明らかだった。





プロデューサーはこの時だけ、志希への気遣いを忘れた。
普段はもちろん、セックスの時でさえ飄々としている志希の態度を、完膚なきまでに崩してみたくなった。

プロデューサーは、固くしこった志希の乳首に再び吸い付いた。
舌と歯でコリコリとした感触をいじめてやると、
志希の肌から発する女の匂いが、ぶわりと一気に強まった気がした。



「んっ……ん、く……う、ぅぁ……あぁ……っ」

プロデューサーは志希の反応から、つい男の射精を連想した。
性欲にいきり立ち充血する肉突起に刺激を与えてやると、
志希が女の体液を浴びせかけてくれる。

志希がフェラチオしていて心地よさそうにしていたのは、こういうことなのか……
プロデューサーは、似ている気がしたし、違う気もした。

「あぁ……ぁぁ……ぉ……。……ぉお、っほおお……ぉおおおお……ッ」

甘かった志希の嬌声に、低くどろどろした粘りが混じりだしても、プロデューサーは乳責めを止めない。
吸う側が痛みさえ感じるほどに吸い付く。指ではねじり、つねり、押しつぶさんばかりにしごく。

志希の匂いは、きつい香水をぶちまけたように垂れ流し。
だが、男と違って射精を迎えず、萎える気配がない。



「ハァッ……あはぁっ……はぁっはぁっ、んはあっ、あ、ふぁ、あっあっ……」

志希の胸に、顔と手を押し付ける。プロデューサーには、志希の鼓動か、肺腑のひくつく感触か、
とにかく彼女の体の奥で周期的に揺らぐ、温かい波を感じられた。

プロデューサーは触覚を頼りに、志希の体の奥から伝わる波を感じ取ろうとした。

「んあっ、あっ……ああ、あっ、う、ううっ、うあ……っ!」

志希の声にすすり泣きの色がにじみ始めた頃、
プロデューサーは手と口で波を感じ取ることを諦めた。

一度フェラチオで吸精されたペニスも、十分以上の勢いを取り戻していた。
プロデューサーは、志希の中に押し入る腹を決めた。


プロデューサーは、また生食液を口に含んで志希に飲ませようとした。
サラサラとした流れの一部が志希の気管に入り込み、志希はむせてしまう。

それで彼女の意識は混濁から引き戻された。

「あ……悪い、変なとこ入っちゃったか」
「……は、ああ゛あっ……き、キミ、やり過ぎだって……おっぱいも、心臓も、食べられちゃったかと……」
「一応、そこらへん触られてるってのは感じてたんだ」

えずく志希の体を、プロデューサーは横に転がし、白衣越しに背中を撫でてやった。

しかし志希の呼吸が落ち着きかけた頃、プロデューサーの手は彼女のヘソに触れた。



「プロデューサー……今度は、こっちを食べちゃうつもり……?」

志希の慄きが、プロデューサーをつかむ。

「アイドル志希ちゃんに、精液クラクラするほど味あわせて、
 それから意識がトんじゃうほどおっぱいいじめて、
 そうしてじっくり盛り上げたオマンコにずっぽずっぽシちゃうんだ……♪」
「発情パフュームといい、どこで覚えたんだよそのセンス」
「キミに教え込まれたイロイロに比べれば、なんてコトないでしょっ」

志希は仰向けの体勢に戻った。

「キミにさんざんイタズラされちゃった志希ちゃんは、
 体の力が抜けちゃって、もう抵抗できないよー」
「そういえば、この姿勢でするのって今まであまりなかったな」

プロデューサーは、かつて正常位で志希と行為に及ぼうとして、止められたことを思い出した。
志希曰く『匂いが遠くて好みじゃない』らしい。

「ああ、いーよ。もう、なんか、そーゆーの」
「下のクチが『今度はこっちに独り占めさせろ』ってうるさい、とか」
「同じセリフでも、キミの口で喋られると結構恥ずかしいね……」

志希はおぼつかない両腕で、自分の顔を隠した。



志希の秘所は、決して濃くはない陰毛に泡が立つほど濡れそぼっていた。
一番外側の粘膜にプロデューサーが触れると、志希がそれを止める。

「もう、指はいいよ。準備、デキてるから」
「じゃあ、志希、いくぞ……」

プロデューサーは志希の腰を抑えながら、忍びやかに挿入した。
膣内の締め付けは柔らかく侵入を迎え入れ、しかしそわそわとしたうごめきでプロデューサーのペニスを煽る。

「プロデューサーの、あつい……ふふっ……」

志希のつぶやきは、初めて性の快楽を知った少女のように無邪気だった。

「今日の志希は『ちょっと敏感』だったっけ。最初は動かないほうがいいか?」
「そーやって、あたしのアソコに、キミのカタチを覚えさせちゃう気なんだよね」

プロデューサーは笑って、ゆっくりとペニスを進めた。
深いところまで抵抗なく、志希の粘膜はひだでプロデューサーを抱きしめてくれているようで、
彼はどこまでも身を沈めたくなる。

しかしプロデューサーの挿入は、間もなく志希の奥底までたどり着いた。
膣の中は、はしたなく愛液で濡らしてるくせに、
動きはもじもじとはにかんでいる風だった。



プロデューサーはつながりあった局所を動かさず、
志希を見下ろしながら彼女の下腹部を手で撫で回した。

「やぁ……そこ、いい子いい子って、しちゃったら……」
「心臓みたいに、こっちも食べられちゃう気がするから? 可愛いなぁ」
「……もうっ」

抽送を控えているプロデューサーは、手持ち無沙汰を愛撫や言葉でしのぐつもりか、
志希がむずかったり彼女の腹や腰を撫でるのを止めず、
恥じらいを見せれば喜々として賛辞を浴びせた。



だが、次第にプロデューサーから、志希をもてあそぶ余裕が失われていった。

入ったばかりは控えめだった志希の雌孔も、外から手でくすぐられるうちに、
反撃とばかりにペニスを刺激する。それはまるで意思を持って弱点を探っているようだった。
プロデューサーは、自分の一物の追い込み方が、志希の肉襞へ写し取られていく気がした。

プロデューサーが快楽の予感に腰を震わせ、ほんの少しだけ奥に進む。
すると、ゆるゆると包み込む感触の中に、ごくかすかな強張りへ行き当たった。

「んん――っ! あ、ぷ、プロデューサー……」

微笑んでいた志希は、そこで眉根を歪め、深い息を吐いた。

「イケないところ、当たっちまったか」
「……なんだろうね……ちょっと、ズキズキ来るような……でも、続けて」

ペニスを退かせようとしたプロデューサーを、志希が止める。

「キミ、アイドルやってるときとかは、あたしにやさーしくしてくれてるけど、
 その分、どこかであたしをいじめたいと思ってるでしょ。ソコに当てた時、顔に出てたよ」


「ソコ……確実に、アブナイ予感がする。オカシクなっちゃうよ、あたし。
 意識飛ばすほどの刺激なんて、あたしはキライなハズなんだけど……」

志希は両手を下げて、先程プロデューサーに愛でられた自分のヘソの下を、手のひらで覆った。

「キミからは、むしろ、欲しい。さっきおっぱいいじめられて、実感しちゃった。
 おかしいかな。ほかのヒトには許さないし、自分自身でだってしないコト、して欲しいなんて」
「そういうセリフ言うと、俺はまた手加減できなくなるぞ」
「その言い方こそ、あたしを挑発してるでしょ」

プロデューサーの言葉を聞いて、志希は声をあげて笑った。

「本気のキミ、欲しくてたまらなくなっちゃうよ」



プロデューサーは、志希が自分の下腹を覆っている手の甲を、自分の指で撫でた。
たったそれだけで、志希の全身が――膣内も――びくりと慄いた。

「解剖学的に、ここに何かあったかなぁ。デリケートなところだったら、最初は丁寧にしてやらないと」
「子宮、かなぁ。断言するほど自信ないけど」

志希は、下腹に広げていた指をきゅっと軽く握った。

「あたしは、そーゆーコトにしておきたい、って気がする♪」



プロデューサーは、手は志希の下腹を包み込み撫でさすった。
膣内では、志希の奥底の強張りをペニスがぴったりと捉えて、緩やかな体重移動で押し付けていく。

「う……く、うぁ、ああっ、お、おく……キちゃうううっ……!」

志希の両手は、プロデューサーの手首に指をぎゅうと食い込ませていた。

「んぐっ……くっ、うぁ、お、おくが、あ、く、くるっ、うううっ……!」

プロデューサーが志希の底にペニスを押し付けたり、離したりを繰り返す。
その度に志希は、プロデューサーの手首に爪を強く食い込ませ、血が垂れ落ちて局部の愛液に混ざる。

志希の体はぐずぐずに乱れていく。
志希の上半身は脂汗でみるみるうちにおびただしく覆われる。
その肌と肉は蝋燭の火のようにふらつき、膨らんだ乳房を波打たせる。
喘ぎとともに浮き沈みする志希の腹筋は、だんだん浮き沈みが激しく不規則になっていく。

しかしプロデューサーは、じりじりと責めを強めていく。
志希の体の表面が歪み壊れていくほどに、志希の膣内は彼のペニスを心地よく締め付け、受け入れていく。
奥の強張りもほころび、ふっくらと亀頭を迎え入れる。
彼が退こうとすると、肉ひだと連動して名残惜しげに絡みつく。

「ああぁあ゛っ、ああああ゛……う、あっあっ、うううっ……!」

志希の神経系を、曳光のような快楽が焼いて奔る。彼女の脳裏に凄絶な衝撃となって襲いかかる。
正気とは思えない体の乱れは、肌まで届いた衝撃の余波に過ぎない。

「あぅうっ、く、ふぁあああっ、んはぁあっ、あっ、ぉああっ、あぁあぅ……っ!」

志希の意識は平衡を失いかけていた。
暴力的な法悦に飲まれながら、更にプロデューサーの責めを乞うた。
肉孔はもう、フェラチオにも負けない勢いでペニスを包み精を啜ろうともがいていた。

本来苦痛であるくすぐったさが快楽に裏返ったように、志希の感覚は顛倒していた。
バイタルをかき乱す呼吸困難。磨き抜かれた曲線美を踏みにじる痙攣。
自分でもは届かない女の器官を乱暴に叩かれる衝撃。志希は自分のすべてを果てさせよとばかりに呑み干す。

そうして志希が彼岸に達する直前に、プロデューサーは最後のひと押し。

「志希――中に、出す、ぞ」

志希に声が届き、志希が絶頂状態の限界を超え、
プロデューサーがペニスを震わせ、志希の奥底に射精した。

圧倒的な眩しさが二人の意識を塗り潰した。
その眩しさが二人の肉体に影送りのようにこびりついて、無意識に腕を絡ませ、おもむろに潰えた。


数時間後、二人は生臭い部屋で目覚めた。

最初に話した内容は『次は500ml生理食塩水をもう一本余計に買っておこう』だった。

前編終了

後編は志希をほんのりSにすること以外未定です
ではまた

(後編開始)





――ヒトをスキになる、ってコワいよね。
――ほかのヒトには絶対許さないコトを、望んでしまうんだから。



――それと。
――ほかのヒトなら全然気にしないコトを、許せなくなるんだから。



その日、関東屈指のキャパシティを誇るアリーナは、
一ノ瀬志希と宮本フレデリカによるユニット――レイジーレイジーによって興奮に轟いていた。



「さいこー! きゅうきょくー! オランジェット!」

フレデリカは、空気が沸騰しているようなステージから、
スタッフの達成感に満ちてほどよく弛緩した舞台裏にスキップで駆け込み、
ライブの大成功を高らかに宣言した。

「ねーねープロデューサー、アタシたちのステージ見た? 聞いた? 触った? 嗅いだ? 味わった?」

フレデリカは衣装のまま靴音も軽く、隅で立ったままのプロデューサーに、
駆け寄るのとタックルの間ぐらいの勢いで飛び込んだ。

「あー、フレちゃんったら、フィナーレのテンションでついプロデューサーに抱きついちゃった♪
 見て聞いて触って嗅いで……えー! こんなトコロで興奮にあえぐ乙女の柔肌をペロってのはダメだよー♪」



フレデリカは、かすかな違和感を覚えて顔を上げた。

プロデューサーの表情は何故か硬直していた。
その他のスタッフが、ライブの盛況を噛み締めて破顔しているのとは対照的だった。

「あれ、どったのプロデューサー。アタシたちの晴れ姿に感極まっちゃった?
 それとも、フレちゃんとのスキンシップで今更ドキっと――ねーねーシキちゃんはどう思う――

 ――ってアレ、シキちゃんは」



フレデリカは首を振って辺りをうかがい、
自分の数歩後ろに志希が立っているのに気づいた。

フレデリカの目は、志希の表情からとっさに当惑を感じ取り――

「ああ、どーぞおかまいなく宮本さん。ご歓談お楽しみくださいませー」

志希はフレデリカの目から逃げるように、足早に控室へと去っていった。



「プロデューサー。シキちゃんに、ナニかしたの」

フレデリカは察しの良いアイドルである。
けれど気付く由はなかった。

今フレデリカに腕を回されているプロデューサーは、
仕事人としての努力を成就させたその瞬間に、
男としての努力を水泡に帰すこととなった。

それを知るのは、プロデューサー当人と志希だけであった。





発端は、ライブ最終日から数えて1ヶ月ほど前だった。

「プロデューサー、昨日は一人でお楽しみ? 最近ご無沙汰だしねー」

志希とフレデリカとプロデューサーが軽い打ち合わせを切り上げた直後、
誰も席を立たないうちに、志希から言葉が飛んできた。

プロデューサーは二重の意味で驚き硬直した。

「一ノ瀬さん。プロデューサーはアタシたちの与り知らぬところで、
 いったいどんなお楽しみに耽っていたのですか?」
「ふっふー♪ ちょっとカマかけただけだよー! あたしたちが大きなライブに向けて頑張ってるのに、
 プロデューサーが一人でナニか楽しんでたらがーんじゃない?」
「わーお、確かにがーんだけど、シキちゃんの聞き方ったらイジワル♪
 小悪魔はフレちゃんの十八番なんだぞー!」

プロデューサーと志希は、レイジーレイジーのライブ準備などで多忙であり、
ここ数週間はセックスから遠ざかっていた。
また彼は疲労のため自慰することもなかったが、昨晩不意に催して射精に及んでいた。

それを言い当てられたのか。



「ねープロデューサー。ちょっと話があるんだけど。
 だいじょぶ、長くは取らせないよ」

プロデューサーの危惧は、それを志希に告げる前に肯定された。

「あたしの手の届かないところで射精するの、気持ちよかった?」




「ニオイ――特に体臭を消すというのは、とっても難しい。
 だって、ニオイって分子だもん。そうそう消えたりはしない」

フレデリカが名残惜しげに立ち去った後、志希はプロデューサーの身体へ距離を詰めた。

「より強い匂いで誤魔化す――ふふん、ソレって嗅ぎ“分け”られるハナには、ムダな抵抗。
 体液を体臭成分へ変える雑菌を殺す――殺し尽くすほどやったら、肌が荒れてバレバレ。
 ニオイ成分そのものを分解するか洗い流す――ふふっ、化学工場の洗浄室でも使うつもり?」



志希は普段と同様に、プロデューサーに顔を近づけてスーハーと鼻呼吸した。
プロデューサーは、自分の服の下や心の底まで覗き込まれている気がした。

「他の男の人相手なら、気に留めやしなかったけど、他ならぬキミだしねぇ。
 キミのニオイは定点観測してる。ニオイそのものがゴチャゴチャになってても、
 どうやって誤魔化したか想像がつくから、誤魔化す前までたどれちゃう」

同時に、志希のニオイがプロデューサーに迫ってきた。
その刺激が鼻腔をくすぐって嗅球まで伝達されたとき、
プロデューサーは自分が押し倒される錯覚に飲まれた。

「こんがらがった糸玉みたいなものでね……
 嗅ごうとしないヒトはどんな色の糸が絡まってるかさえ分からない。
 でも、嗅げば色合いが分かる。さらに糸のほどき方がわかっていれば、嗅ぎ“分け”られる」

志希は目で、すべてお見通しだ、とダメ押しした。



「気に入らない。あたしが、ライブに向けてイロイロ我慢してるのに、キミったら自分だけお楽しみ……?
 だいたい、あたしがこんなに欲しがってるのに、無駄打ちして……」



志希の目は、ファンには見せられないほど据わっていた。

「決めた。キミの性染色体は、あたしが管理する」



志希の提案――という形を取った要求は、ごく単純であった。
プロデューサーは、レイジーレイジーのライブ最終日が終わるまで、射精しない。
その代わり、志希はアイドルとして完璧以上のライブを提供する。

「キミの精液は、あたしをダメにしちゃったキケン物なんだから、
 誰かがちゃんと管理しなきゃ!」

プロデューサーには、何らの肉体的拘束はない。
自慰しようと思えば何の支障もなくできる。誰かとセックスに及ぶことも可能だ。

しかしそれは、志希の嗅覚と推理の前に確実に暴かれる。

「もし、あたしとの約束を守れなかったら、そのときは……」

そうなったら、志希はいったい何をするのか。
付き合いの長いプロデューサーにも、想像がつかない。
プロデューサーは志希の言葉に頷くしかなかった。





ライブ最終日までの日々、プロデューサーは片時も心を休められなかった。



特に仕事中は残酷だった。
志希はフレデリカと一緒に、何食わぬ顔で自分たちの身体と技量を仕上げていく。
彼女らのライブパフォーマンスは、コンセプトのキュートを全面に出したもので、
そう露骨に男の欲望を煽るものではない――観客席にいれば、だが。



プロデューサーは、彼女らのもっと近くに立つ。

レイジーレイジーの二人が、レッスンスタジオで歌とダンスを合わせているのを、
プロデューサーは志希の希望で、数歩の距離を置いた間近で眺めている。

彼女らの息遣いが、汗が、体温が、そして匂いが、プロデューサーに押し寄せる。



志希の身体が舞い躍る。声帯の粘膜が空気を撫でて歌を奏でる。

プロデューサーは知っている。
束ねられた長いウェーブヘアの匂いを。
ラブソングを紡ぐ唇と奥の粘膜が精液を啜る様を。

プロデューサーは思い出す。
色気のない練習着の下にある肌の滑らかさを。
肌と肉の間にはりめぐらされた分泌腺がどれだけ男を誘うかを。
肌の下にある肉がどう男を包み込むかを。

否応なしに、志希との交情の記憶が蘇る。
しかし勃起させようものなら、志希どころかフレデリカにも自分の欲望が丸わかりだ。



そのフレデリカの存在も、プロデューサーにとって強烈な毒であった。

頑固な志希の黒髪に対して、細く柔らかそうなフレデリカの金髪は、触ったらどんな心地か。
ネコ科のようにぱっくりと開く志希の口に対して、人形のようにやや小作りなフレデリカの口は、男をどうくわえ込むか。

志希もフレデリカも一言で片付ければ色白であるが、その白さは全然違う。
志希は肌に色が乗っている。内側の血潮は、光でわずかに透けて見えるのみ。
フレデリカの肌は、コーカソイドのそれに似て透明度が高く、血潮がより濃く真っ赤に見える。
肌の下に熾る熱さや匂いが、より強く感じられる――目に惑わされたプロデューサーの思い込みだろうか。

かつてのプロデューサー自身が、互いをより鮮やかに輝かせると踏んでこの二人を組ませた。
それが正しいことを、プロデューサーは肉欲の鬱屈で実感させられた。



志希もフレデリカも真剣にレッスンに励む。
プロデューサーは仕事として、彼女らの完成度をしっかりと測らねばならない。
けれどそれで欲情すれば、その欲情を彼女らに見抜かれたら、二人の意気に水を差してしまう。


そうしてレイジーレイジーの直の媚態から解放されても、プロデューサーの試練は続く。
彼は夢精も我慢しなければならなかった。



『夢精――ああ、イヤらしい夢とか見ると、勝手に出ちゃうんだっけ。
 でも、大丈夫でしょ? 睡眠や食事じゃなくて、性欲なんだから。男のヒトって、心因性でEDとかなるよね。
 つまり生殖に関しては、ヒトのココロは本能に優越できる。だから、キミのココロも勝ち目あるよ』

志希はプロデューサーに対して、心を病んで耐えろと宣告した。

『頑張って――信じてるから』

志希とフレデリカがどれだけ観客を惹きつけられるか考えながら、
その彼女らのイメージに勃起するとそれを押さえつけなければならない。
もはや自傷行為の強制だった。




『プロデューサー、大丈夫? ムリしてない? ムリはノンノン!』

そんなプロデューサーの異変に、フレデリカは早々に気づく。

『緊張とかしちゃう気持ちも分かるよー。でも、世の中、楽しむことが一番大事。
 特にあたしたちは、自分自身だけじゃなく、ライブでファンも楽しませないといけないから、なおさら』

フレデリカはいつもの飄々とした調子。
何をどこまで考えているのか気取らせない。

『まずは、あたしとシキちゃんが精一杯楽しむ! 楽しめるように頑張るんだ!
 次は、レイジーレイジーの仲間であり、あたしたちの最初のファン――プロデューサーを楽しませちゃう!』

ひょっとしたら、フレデリカもすべてお見通しなのかもしれない――と、プロデューサーは思った。
それは――もしそうなら、もうこんな辛い足掻きはムダだからしなくていい――という逃げだった。



『ねぇ、プロデューサー。フレちゃんもあたしも、
 今度のライブはベストを尽くして最高のものにしたい! と思ってるけど』

そうした逃げ腰を知ってか知らずか、志希が割り込んで来た。

『そのベストは、キミに耐え難い我慢を強いてまで追求するものじゃない、とも思ってる。
 キミの事情は言えないかもだけど、キミの方が大事だもん。キミのためなら、あたしたち、なんとかするよ』
『……わーお、シキちゃんったら』

志希は悪魔のようにささやく。
完璧なレイジーレイジーが要らないなら、この我慢比べを降りても良いと言う。

だが、プロデューサーは首を横に振った。

『……そっか。たまにはこーゆーoverloadもいいかもね』

プロデューサーはギラギラといきり立つ目で、
スタッフやほかのアイドルを怯えさせたりしつつも、
ギリギリの境地で耐え抜き、ついに本番を迎えた。



最終日。ライブは順調以上だった。プロデューサーは、呆けた目で二人を見守った。
フレデリカも志希も今までで最高のパフォーマンスを見せた。
その結果は、溢れんばかりの観衆からの喝采。



志希は、ライブで全力を出し切った恍惚感の中をたゆたいながら、
相棒のフレデリカに引きずられてやっと舞台袖へはけた。

フレデリカが志希を離し、スキップの勢いのままプロデューサーに抱きついた。
プロデューサーが彼女の体を腕で支えた。

その時のプロデューサーの顔を、志希は遠目で見ていた。

プロデューサーの表情から、色が抜けた。



志希は一歩一歩ゆっくりと歩み寄った。
二人に手が届く三歩前で、志希の嗅覚は嗅ぎ慣れたあの待ち遠しい生臭さを捉えた。



「……ああ」

その深く長い溜め息には、失望と安堵が同じくらい混じっていた。



「どーぞおかまいなく宮本さん。ご歓談お楽しみくださいませー」

志希は度し難い感情を気取られたくなくて、強引に二人の前を去った。



ライブが終わって数時間後の、プロダクション事務所の地下駐車場。
エンジンを切った営業車の中で、プロデューサーは運転席に、志希は助手席に座っていた。

「……こんな時に、フレちゃんに気を遣わせちゃった。
 あとでどうやって埋め合わせればいいんだろ」

ライブ会場は首都圏であり、フレデリカは『実家に泊まりたい』と言って、
プロデューサーに家まで車で送らせた。志希はそれに同乗していた。



志希は、プロデューサーのスラックスをするするとくつろげた。
志希でなくとも、誰でも分かるツンときつい生臭さが籠もっていた。

「フレちゃんに抱きつかれた時、出しちゃったんだ……?
 フレちゃん、いいニオイだもんね。ふわふわして、すべすべして、ぷるぷるして、あったかいもんね」

フレデリカを受け止めた瞬間、志希に勝るとも劣らない女の色香をもろに浴びて、
プロデューサーはたまらず射精してしまった。志希はそのニオイが、三歩隔てていても分かったのだ。

「ねぇ、プロデューサー。あの時、フレちゃんとセックスしたいと思った?
 せーえきブチまけて妊娠させてやりたいって思った? ねぇ、ねぇったら」



プロデューサーは声も上げられなかった。
あの瞬間は、何かを考える間もなくペニスが暴発した。

でも、仮にもしあのままフレデリカに誰もたどり着けないところまで連れ去られて、
そこでセックスを求められたら、抗えただろうか。

「キミは、いいオンナであれば誰でも良かったんだねー。
 キミのココロは最後の最後で、本能に無残な敗北を喫しましたとさ。
 フレちゃんがキミのこんな有様を知ったら、どう思うだろ」

志希の胸元に、雫が弾けて、サラサラ落ちた。

「そしてあたしは、大事な友達を当て馬にしたんだ。
 フレちゃんが、あたしのこんな有様を知ったら、どう思うだろ」

プロデューサーが、志希の涙を演技以外で見るのは、初めてだった。



「辛いね。でも、おかげで分かったよ」

志希はプロデューサーの濡れた下着へ無造作に手を差し入れ、精嚢を指で包み込んだ。

「フレちゃん相手で許せないなら、あたしは他の誰であっても許せない。なら、やることは一つ。
 いいオンナと見れば誰にでも発情するキミの本能を、これからあたしがぶっ壊す」

志希はプロデューサーの股間から手を離した。

「車、あたしの家まで出して。あたしの部屋で、あたし以外では射精できないように躾けてあげる」



志希の寝室で、志希と何度も体を重ねたベッドで、
プロデューサーは大の字に拘束されていた。

それを見下ろす志希は、全裸に白衣を羽織っていた。
プロデューサーは、悪の化学者に捕まったヒーローを連想した。
となると、これから自分が後戻りできないほど志希に作り変えられることが、すとんと理解できた。



「プロデューサーは、ここを自分でいじったコト、ある?」

志希は、プロデューサーの睾丸と肛門の間を指でもんだ。
1ヶ月間にたった1回のみ。まだ射精し足りないプロデューサーは、思わずペニスを反応させる。

「解剖学的には、会陰っていうの。ここを抑えられると、もう滅多なことでは射精できないらしいよ。
 射精のときに、精管から尿道へ精液を送り出す筋肉を封じちゃうんだから、理屈の上では当たり前だけど」

志希は皮の拘束具を手にとって、プロデューサーへ見せた。

「キミのここを、あたし特製の貞操帯で抑えちゃうんだ♪
 最初からコレ着けれてば、たぶんキミは1ヶ月耐えられただろうね。
 まぁあたしは、キミのココロだけで耐えてほしかったから、出さなかったけど」

志希はプロデューサーの腹をパンパンと叩いて、腰を浮かせるよう促した。
プロデューサーはまったく抗わず志希へ協力し、種付けを禁じる戒めをその身に受けた。

プロデューサーのペニスは、貞操帯など物ともしない勢いで天井を突いている。

「どう? 付け心地は……出せるかな。出せないかな。早速、確かめてみよー」



志希は、仰向けに拘束されたプロデューサーの上にまたがった。
志希の女陰は、既に膝下まで愛液を幾筋も垂らしていた。

「あたしも……あたしも、1ヶ月、長かった、欲しかった……
 一日ごとに、キミのニオイがとんでもないコトになってって、それを感じてて、
 あたしとキミと同じ辛さで、ライブ直前までは一緒だったのになぁ……」

志希はため息とともに腰を下ろし、膣内にペニスを飲み込んだ。

「……あ……お、おっ……!」

口はまったくの自由なのに、プロデューサーは意味のある言葉を発せない。

「ねぇ、プロデューサー……どう……? 出したい……?
 志希ちゃんのナカに、溜め込んでた精液出して、妊娠させたい?」

志希はささやきながら、プロデューサーの腰骨のあたりを撫でた。
そこには会陰貞操帯のバックルがあった。

「あたしが出してほしいと思ったら……ここをパチンとやって、
 それで会陰を解放してあげる……今、外したら、すぐ出ちゃうかな?」

プロデューサーは陸揚げされた魚のように口を開けたり閉じたりしていた。
志希の膣内にペニスを絞られ、射精しようとして力が入って、それを会陰貞操帯に封じられる。
射精直前の生殺しが始まっていた。

「キミが、どんなに欲しがっても、ダメ。あたしが、ほしいと思ったら、だよ」

志希はいきなり下腹部と腿に力を入れた。
つい数時間前には、数万人の観衆を魅了したアイドルの肢体が、
今は一本のペニスを握りつぶさんばかりに食らう。


「あ゛、ぐあぁあっ、う、ぐっ、おおお゛っ!」

志希の寝室に、醜く潰れたプロデューサーの声が散らばる。
ペニスの根本を縛る程度の飾りじみた拘束ではなく、
射精の根を羂索する志希の貞操帯は、プロデューサーを射精直前に追い詰めたまま。

「あは、ははっ、あっはは♪ すっごい声! 苦しいの? もしかして痛い?
 そんなに出したい? でも出させない――このままじゃ、泌尿器科のお世話になっちゃうかもねっ♪」

それでいて志希は、思う様にプロデューサーの男性器を虐める。
疲れれば止める。気力が戻れば無造作に腰を叩きつける。
うめき声が聞きたくなれば中を締めたり、手を伸ばし睾丸を握って揉んだりする。

「うーん……前立腺ダメになったらどうしよ。精嚢が無事なら精液つくれる?
 それなら、カテ突っ込んで吸い出せば……♪」

プロデューサーはベッドを揺るがすほど四肢を暴れさせたが、拘束具は取れなかった。
彼の生殖能力は、彼が一番孕ませたいと思っていたはずの女によって、踏みにじられている。

「あー、でも精管のカテなんてあるのかな……? あたし、女の子だからわっかんない♪」

対照的に、志希の女性器は外陰から奥底まで、プロデューサーのペニスを占領して、
肉襞でくすぐり、クリトリスをこすりつけて楽しみ、じゅぶ、じゅぶと下品な音を立てて遊ぶ。



志希はプロデューサーを、ベットをがたつかせるディルドー以下に扱った。
彼が射精を乞うて、関節の可動範囲の限界まで腰を使おうとすると、
笑いながらわざと体重をかけのしかかって封じた。

「そんなに、射精したいの。これ、外して欲しいの」

プロデューサーは恥も外聞もなく懇願した。
出したい、出したい、志希の、膣内に、熱くぬめって、精液を心待ちにしている女の孔に、

「じゃあ、言える?」

言える、言う、何でも、言う、

「志希ちゃん以外のメスには――ついでにオスも含んでおこうか。
 ともかく志希ちゃん相手以外には、勃起もしないし、射精なんてしませーんって」

言うから――志希、だけ、勃起して、射精するのは、志希、だけだって――

「本当に? フレちゃんにも勃たない?」

プロデューサーは泣きそうな顔でぶんぶん首を振りながら叫んだ。



「もう一回言ってー。キミが精液びゅっびゅってできるのは、志希ちゃんの前だけ」

志希は鼻歌を漏らしながらプロデューサーに催促する。

「テレビ電話とか通すのは許そうか。離れててもつながってるってステキ♪」

プロデューサーがまた腰を暴れさせ、志希は奥を突かれて思わず息を吐きのけぞる。

「あ、はぁっ……♪ お、奥、こづいちゃあ……」

プロデューサーのペニスに、志希の粘膜は素晴らしく鮮やかな反射を――圧搾じみた締め付けを加える。
プロデューサーは悶絶するが、もう止まらない。
この女の孔にペニスを出し入れして吐き出すことしか考えられない。

「もう、プロデューサーったら、イケない子なんだからぁ……」



志希は、白痴のように震えるプロデューサーを慈しんだ。

「志希ちゃんの前だからって、おしっこみたいに垂れ流しちゃダメだよ。
 志希ちゃんが待て、って言ったら我慢しなきゃダメ。できるかな」

できる、から、志希の、いうこと、聞くから――

「ホントに? 今からこの貞操帯を外して、射精を物理的に抑えてるタガが外れても、大丈夫なの。
 今の志希ちゃんに中出ししちゃったら、妊娠しちゃって、アイドルできなくなっちゃうかも」

貞操帯のバックルに手をかけて、志希がつぶやく。
志希の言葉が終わる寸前から、彼女の奥底が――おそらく子宮が――孕む切望に、くつくつと沸いた。
彼女自身も一月あまり我慢して我慢してしのいできたのが、決壊寸前になっている。

志希はプロデューサーを見下ろした。
いつも自分やフレデリカを堅実に支える男の姿は見る影もなく、涙や涎や鼻水など、
精液の代わりとばかりに出てきた無様な体液にまみれ、体を震わせていた。

とても理性によって射精を押さえつけるなど、期待できそうもない。

「でも、信じたいんだよね……キミは、あたしを信じて、アイドルにしてくれたし……
 それに……このまま……」



志希は会陰貞操帯のバックルを爪で引っ掻いて、パチンと甲高い音とともに解き放った。
プロデューサーは射精をこらえようとしているのか、
シーツを裂けるほど強く握り、歯をむき出しにしながら噛み締めている。

二人の間に、凍りついたかのような静寂が下りた。

「……あ、はっ、プロデューサー……♪」

静寂は、一瞬だったのか、もっと長かったのか。



少なくとも、志希にとっては、永遠に近かった。

志希は、手を延ばしてプロデューサーの頭を撫でた。



「……もう、いいよ、出しても……志希ちゃんだけ、特別……♪」

プロデューサーが唸り呻きながら、欲望のすべてを解放していく。

「ふふ……頑張ったね……♪ 頑張った子には、ごほうびが、いるから……」

志希はその律動を奥底で感じながら、プロデューサーの頭を撫で続けた。



――あたしがキミのコトを条件付けられてしまったように……

――キミはあたしのモノだってコトを、これから毎日、繰り返し教えてあげよう……♪



(了)

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