ただひとつの器、かたちづくる手 (16)

祝☆藤原肇デレステSSR抜擢!
SSR、SSR+の台詞を多数引用したSSが書いてみたい!と思い立ち書きました。
ピックアップ中にギリギリ間に合ってよかった…

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炎が揺らめくように、時に激しく、時に明るく、時に静かに響き渡る歌声。

見渡せば一面のサイリウムの海、舞台裏まで聞こえるファンの歓声。

岡山のとある文化ホール。そこで今、肇にとって初めてのソロライブが行われていた。

肇のアイドルランクからすると大きめの会場を抑えたつもりではあったが、席は即日完売となってしまった。

過去最大のステージ、さらに凱旋ソロライブということもあり、開演前は普段以上に緊張していた肇だったが、一旦ライブが始まると最高のパフォーマンスで魅せてくれていた。

最後の曲も見事に歌い切り、挨拶を終えた肇が舞台裏に戻ってくるのを拍手で出迎えた。

「お疲れさま。初めてのソロライブはどうだった?」

「はい!ホールという器にファンの皆さんの心が満ち満ちているようで、なんだか私、感動してしまって…!それに、窯の火が爆ぜるような歓声…!ああ、とにかく凄くって!」

「どうどう、少し落ち着け。ほら、水」

「あ、ありがとうございます(コクコク」

「アンコールが残っているけど、すぐに行けるか?」

「大丈夫です!皆さんの期待に応えたい気持ちが溢れていますから!」

「よし、それじゃあラスト、行って来い」

ステージへ駆け出していく肇の後ろ姿は、薄暗い舞台裏でも輝いて見えた。

『今日は私のソロライブにお越しいただき、誠にありがとうございました。次が本当に最後の曲になります。静かに…聴いてください。ただ実直に…その胸深くまで届けます』

凱旋ライブを大成功で終えた肇は、控室に戻っても興奮が冷めやらないようだった。

普段は聞き手に回ることが多い肇だが、時折今のように一転して饒舌になることがある。

「プロデューサーさんに積ませてもらった経験を、ひとつひとつ練りこんで…。唯一無二のアイドルの色…ようやく私にも宿りました!時間をかけて染めた深い色…。大事にされた分、より私らしくなれた気がします!」

「アイドルも陶芸も…同じなんですね。すべては、この感動を生むために…」

「それに、この衣装もとても素晴らしかったです!総天然色…。心地よい風合い…。波打つ紋様…。ちゃんと着こなせていたでしょうか」

夢中になって話す肇を見ていると、こちらの胸にも込み上げてくるものがあった。

「今日は本当に良いステージだった。頑張ったな」

「はい!私の色、備前の心、ファンの皆さんに届けられたと思います!」

今日のステージで積んだ経験で、さらに肇は成長できるだろう。気が早い話だが、次のライブが今から楽しみだ。

スタッフさんたちへの挨拶を終え、衣装から着替えた肇を連れて車を出す。

スケジュール調整中に肇の家に泊まることも勧められていたが、会場からの距離も考え、今回は遠慮させて頂いた。

「さて、宿に戻ってゆっくり休むとしようか。明日は一日オフにしてあるから、肇の家に寄ってから帰るのもいいかもしれないな。ご家族は今日のライブを見に来てくれたんだろう?」

「はい、携帯に両親からのメールがありました。素敵なステージだったと…。わずかながらの親孝行になったでしょうか?」

「娘の晴れ舞台を喜ばない親は居ないだろうさ」

「ふふ、ありがとうございます。それと、両親は仕事のためそのまま九州へ向かうそうです」

「そういえば肇のお父さんはあちこち飛び回るお仕事をされているのだったな」

「今日のライブは絶対に見に行くと、何とか休みを合わせてくれて。本当はおじいちゃ…祖父にも来て欲しかったのですけれど、行くつもりはない、と言っていたと母が…」

「…そうか」

気を落としてはいないかと横目で伺うと、そこには予想に反して、決意の込められた眼差しがあった。

「…あの、Pさん。明日なのですが、私の実家に寄らせてもらえますか?」

「ああ、勿論それは構わないが…お爺さんと話しに行くのか?」

「いえ…工房で器を創りたくて。今の私に出来る全てを祖父に見せたいんです」

「なるほど…分かった。ただ、明日中には岡山を出る必要があるからな」

「大丈夫です。イメージは…出来ていますから」

そんな訳で明日は肇の実家へ行くこととなった。

肇が陶芸をしている姿を見られるのはいつ以来だろうか。

少し不謹慎かもしれないが、楽しみだ。

翌日、朝一から肇の実家を伺うと、ご両親だけでなくお爺さんも留守にしているようだった。

「おじいちゃんの車が無い…出かけているみたいですね」

「アポイントも取らずに来たのはまずかったかな?」

「ふふ、大丈夫ですよ。着替えてきますので、少しだけ待っていてもらえますか?」

数分ほど待っていると、作務衣に着替えた肇が戻ってきた。

「肇のその恰好は久しぶりに見るな」

「土をこねる時は、作務衣に限ります。トレーニングウェアのようなもので」

普通ならやぼったく見えるであろう作務衣も、肇が着ると立派な衣装となるから不思議だ。

「では工房に行きましょうか…退屈かもしれませんが、見守っていてくれますか?」

「ああ、邪魔にならないなら、是非見学させてくれ」

肇に誘われ、土をこねるのを見様見真似でやってみたが、想像以上の重労働だった。

「すまん、ギブアップだ…明日は間違いなく筋肉痛だな」

「練りは慣れないと大変ですから。こねかけのものは私の土に混ぜてしまいますね」

肇は慣れた手つきで土をこねていく。

「ふふっ、これもPさんとの合作になるのでしょうか」

土をこねる肇は真剣ながらも楽しそうだ。

事務所でたまに『土が恋しい…』と呟いているだけあって、土を触るのが好きなのだろう。

「祖父によくこう言われていました。『土を見ろ。土と向き合え。そして、手のひらに思いの丈を込めて、土を練れ』と。アイドルになる前も、その教えに忠実にやっていたつもりでしたが、少し土から離れていたことで、その言葉の意味がより深く理解できたかもしれません」

そう言って作業に集中していく肇の姿からは、ステージの上でアイドル衣装を纏っている時にも負けない輝きが伝わってくるようだった。

練り上げた土をロクロに乗せ、器を形作っていく。

しばらく陶芸から離れていたこともあり、作業は難航しているようだ。

「Pさんと出会って…衰えたとは言わせたくないから。昔のやり方を思い出すだけじゃ…。思い出して、さらに…超える…」

想像できているイメージに手がついてこないのがもどかしいのだろう。

肇の眉間には皺が目立ち始めていた。

「まだ…まだ手は休めません。つぎこそ最高の器を……」

失敗した器をロクロから降ろし、次の土を乗せようとする肇。

「肇、ちょっとストップ」

汗だくになってしまっている顔をハンカチで軽く拭ってやる。

「あ…ありがとうございます。ステージ並みに緊張していて」

「気合が入っているのは分かるが、打ち込みすぎじゃないか?」

「…そうですね、根を詰めすぎたかもしれません。少し休憩しましょうか」

工房の外に出ると、気持ちの良い風が吹いていた。

肇が持ってきてくれたお茶を飲みながら縁側に座っていると、普段の生活が慌ただしいだけに、老後はこういう家でのんびり過ごすのもいいもしれない、なんて思ってしまう。

「イメージは…出来ているんです。アイドルになる前の私では創れなかった器が、今ならきっと…」

そう話す肇の額には、また皺が出来てしまっていた。それをほぐすように、額を再度拭いてやる。

「あ…泥でもついていましたか?」

「いいや。…なあ肇、最初のダンスレッスンの時のこと、覚えているか?」

「それは勿論…あっ」

「今の肇は、あまり楽しそうには見えなくてな。真剣なのはいいことだけど…」

「できたときのことを思いながら、失敗すらも楽しんで……ふふ、大事なことを忘れていました」

「よかった、肇が覚えていてくれて」

これで『なにかありましたっけ?』などと言われていたら相当凹んでいただろう。

「やっぱりPさんは凄いです…私の不安も拭い去ってくれるのですから」

肇から向けられる信頼の視線がくすぐったくて思わず目を逸らすと、一台の軽トラックがこちらに向かってきているのが見えた。

「なあ肇、あれってもしかして…」

「おじいちゃんの車ですね」

「なんじゃ、帰って来とったのか」

「うん、ただいま、おじいちゃん」

「どうも、ご無沙汰しております」

「…よう来たの」

気のせいだろうか、以前肇がアイドルになる際に手続きで訪れた時に比べて、お爺さんの眼光が柔らかくなっているように感じる。

「その恰好、工房に入っとったんか」

「うん。ねえ、おじいちゃん。今から創る器、見てもらえる?」

「…ああ、出来たら声かけぇ。ちぃと疲れとるから居間におる」

そう言って母屋のほうに向かうお爺さんを見送り、改めて工房に向かう。

肇の額から皺は無くなっており、これなら大丈夫そうだ。

ちなみに実は、泥は鼻の頭に付いていたのだけれど、服装と併せてあまりにも似合っていたのであえて拭わなかったのは内緒だ。

ほどなくして、一つの器が出来上がった。

「できました。あがいて、もがいて、一度は陶芸から遠く離れて、やっとつくれた器…。これが藤原肇の新しい形です」

「相変わらず、色合いはそんなに華やかではないかもしれません。離れていたから形もいびつですし、曲線も慎ましやか。おじいちゃんには、100点はもらえないかも……」

「でも、魂を込められました。伝わりますか。Pさんは正しいと、証明しましたよ。アイドル魂のこもった器は、決して揺らぎません!」

そう言って肇が見せてくれた器は、芸術にそう詳しくない自分にも素晴らしいと伝わるものだった。

「焼くときの場所や薪の量ももう考えてあるんです。次に窯に火を入れる時にはスケジュールをあけておきたいのですが…大丈夫でしょうか?」

「ああ、日程が分かったらできるだけ早めに教えてくれ」

「ありがとうございます!土も残っているし、他にもいくつか創っておこうかな…ねえ、Pさん、新しいお茶碗、欲しくありませんか?」

「肇が作ってくれるのなら、是非欲しいな」

「ふふ、分かりました。渡せるのは数か月後になりますけど、期待していてくださいね!」

肇が創った器は、お爺さんからも高評価を貰えたようだ。

二人で窯に入れる際の位置などを相談しているが、素人の自分には良く分からなかった。

「見ていて、おじいちゃん。藤原の窯に、新しい風を吹かせてみせるから」

「ふん、ひよっこが生意気な。お前も昨日言うとったじゃろ。『窯焚き一生』とな。まだまだこれからじゃ」

「…え、昨日って…もしかして…」

肇の反応を見て、しまった、という顔をするお爺さん。

「…何でもない、忘れぇ」

「…ふふっ、次からはチケット、お父さんとお母さんの席とは離れた場所に用意してもらおうか?」

「…余計なことはせんでええ」

ツンデレ頂きました。そんなことを考えていたら、ギロリと睨まれてしまった。

いくつかの器を創り、お爺さんとも少し話をしてから、肇の家を後にする。

山道を運転していると、肇がこんな話をしてくれた。

「小さい頃、おじいちゃんから聞いた、忘れられない話があるんです」

「それは……遅咲きの山桜の話。アイドルになった今も、今だからこそ、よく思い出します」

「山の桜は、麓から少しずつ花開いていくのですけど……山頂に立つ一本桜は、中々咲きません。まわりがすべて花開いても、かたくなに咲かないんです。自分の順番が来るまでは」

「薄い空気の中、寒風に身をさらしながら、ずっと待ち続けます。でも咲くのが遅いからといって、劣るわけではありません」

「むしろ時間をかけた分、芯は強くなるんです。耐え忍んだ分、雪割りの季節への憧れは大きく……そして咲き誇る時は、どの樹よりも……!」

「その野趣あふれる輝きは、早咲きの桜とは、違うもの。時間をかけたからこそ、洗われた清流のように、人の胸を打つのかもしれません……!」

それは肇の境遇を思わせるもので、この先もずっと忘れられない話となるのだが、こちらが運転中に話すのはやめてほしかった…

視界がクリアになるまで路肩に車を停めてしまった俺を誰が責められるだろうか。

肇はそんな俺を見て、少し驚きながらも、笑顔で追撃を放ってきた。

「これからも私のプロデュース、よろしくお願いしますね」


以上になります。読んで頂きありがとうございました。

ピックアップはあと2時間ほどですが、恒常追加なので今後ふらっと肇さんがあなたの事務所に訪れるかもしれません。

その際にはぜひ育てたり、ホームに置いたり、ルームの一員にしてみたりしてあげてください。本当に素敵な娘さんですから!

おそらく次のスカウトチケットには入ると思われますので、迎える対象にいかがですか。

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