琴葉葵「これからお姉ちゃんの実況を始めようと思います」 (11)

【警告】
リョナSSなので耐性がない人は閲覧しない方がいいです。
地の分が長いタイプの文章なので読みにくいかもしれません。
切断・出血などを含みますので苦手な人はご注意ください。

「う、うぅん……」

琴葉茜が目を覚ましたとき、世界は暗闇だった。一瞬、彼女はパニックになりかけたが目が慣れてくるに
つれてこの空間が暗いだけなのだということに気が付いた。

「な、なんやねんこれ……」

自分の覚えている限りでは、昨日は何事もなく自分の部屋の、慣れ親しんだベッドに入って眠ったはずな
のである。それが、どうしてこんな真っ暗な部屋で、固そうな床の上で寝ているのか全く持ってわからなかった。

そんな風に茜が困惑していると唐突にバチンという何か弾ける音と共に視界が真っ白に染め上げられた。

「痛っ……」

急な刺激に茜のまぶたが反射的に閉じる。五秒ほど経って、まぶた越しの鋭い刺激が徐々に和らいできた。
恐る恐る目を開けると、そこは真っ白な部屋。天井も、壁も、床も、汚れ一つない白色で統一されていた。
立ち上がって周りを見てみた。茜の部屋と比べると、なんだか広く感じたが、たぶんそれはクローゼット
とかベッドとかが置かれていないからだろうなと思った。

そんな真っ白な部屋の中で、一際目立っている物があった。真っ黒なデスク、真っ黒なモニター、真っ黒なゲームのコントローラー。
こんなに黒いデスクは別だが、モニターにコントローラーはゲームの実況をすることもある茜には馴染みのある物だ。
知らない部屋の中に、唯一自分が知っている物が置かれていることがなんだか気味悪かった。

「なんやのここ……というかなんでうちのコントローラーとモニターがここにあるんや……?」

「ん、起きてたんだねお姉ちゃん」

茜の後ろから、いつも聞いている家族の声が、いつもどおりに自分のことを呼んだ。
信じられなかったが、確かにそこには茜が最も大切にしている妹、琴葉葵が優しげに微笑んでいた。
茜の中で、いくつもの疑問が生まれるが、それを言葉にしたくとも口は上手く回らない。

「あ、葵……こ、ここなんなん? なんでうちらここにおるん……?」

「お姉ちゃん、そんなことはどうでもいいんだよ」

「えっ、えっ?」

「そんなことよりこれを見てね」

これ、と言われて示された方を見ると、ガラスでできている円柱形の物体がいつの間にか葵の隣に置かれている。
天井と底の部分が機械になっていてこの柱を蓋しているようだ。その機械部分は少し見ただけでも精密に作られた特別な物なのだろうと察せられるほど複雑だった。
きっとあの中身を詳しく説明されても自分にはカケラも理解できないに違いないと茜は思った。

「なんやねんその、ようわからんガラスの装置」

「ふふふ、まぁ見ててよお姉ちゃん」

葵が呟くとその装置が光り輝き、ガラスの中が見えなくなる。
しかし見えないのは一瞬のことで、装置の輝きは消えてまた見えるようになった。
すると、ガラスの中に何もなかったはずなのに、人間が入っている。

それだけではない。そこに入っているのは、琴葉茜だった。
最初は、あまりにもそっくりな人間が目の前に現れたのを反射で見えているものだと思った。
自分とそっくりすぎてそう勘違いするほどに、目の前の少女は自分と同じ姿形だったのだ。

だが、自分が「え、あ」と口をパクパクさせている中、ガラスの中の琴葉茜はガラスに閉じ込められていることに気が付いて両手で叩き始めた。
自分と異なる行動をする琴葉茜を見てようやく、あの中に本当に琴葉茜がいるのだということに気が付いた。

「は、え……う、うち?」

『なんなんやこれ!? なんでうちが閉じ込められてんの!? だ、出してっ!!』

どんどんと何度も叩いてはいるが、琴葉茜の力ではガラスはびくともしないようだ。
おそらくそれは自分が殴ったところで同じなのだろう。

「はははっ、お姉ちゃんにはそれは壊せないから安心していいよ」

『あっ、葵!? ちょ、これどうなってるん!? なんでうちがもう一人!?』

「あのね、お姉ちゃん、あ、お姉ちゃんっていうのは元々の方ね。こっちの中にいるお姉ちゃんはね、今作ったクローンなんだ」

「ク、クローン?」

『うちが……クローン? あ、葵、冗談はよして、な?』

「それでね、お姉ちゃんにはこれからゲームをやってもらうよ」

「ゲームて……なんでそんなことせなあかんの葵……」

『なぁ!? 葵! 葵!!』

もう一人の琴葉茜が叫んでいるのを無視して、葵はモニターに近付くとそっと手を触れる。
すると、モニターがブツンと音を立てて電源が入る。画面には白い背景に、黒い文字で「GAMESTART」と書かれていた。
大昔のゲームでもここまで工夫もないタイトル画面は作らないだろう。

「このゲームで十回死ぬ前にクリアできたら無事に帰してあげるよ」

「なぁ、葵ほんまに、なんでこんなことせなあかんの……おかしいやん、なぁ……」

この異常な状況、後ろでもう一人の茜が葵の名前を呼び続けているにも関わらずにやにやとモニターを撫でる葵。
ゲームを実況していてよく「察しが悪い」だとか「覚えが悪い」だとかバカにされる茜だったが、薄々とだが葵がこの状況の原因に関わっているのではないかと思い始めていた。

「お姉ちゃん、私はね、”やれ”って、言ってるんだよ。なんでとかどうしてとか必要ないの。今はただ、このゲームをプレイすればいいの」

『葵! 葵!! 出してや葵!! 葵!!!』

葵が話している間も絶え間なくガラスを叩きながら叫んでいたのが、流石に気になったのだろうか。
すっと振り向いた葵は机の上に置かれていたコントローラーを握った。

「必死なお姉ちゃんもかわいいけど、今は邪魔だから。デモンストレーションしてあげるね」 

葵はそう言うと、右手の親指でコントローラーのボタンを押した。
「GAMESTART」の文字が一瞬点滅したかと思うと画面が切り替わる。
変わらず白い背景のままだったが、文字ではなく黒い棒人間が左下に現れた。
たぶんこれが操作するキャラクターなのだろう。パッと見た印象だがこういうゲームは見たことがある。
横スクロールアクションゲームだ。
基本的にはゴールを目指してジャンプをして障害物だったり穴を飛び越えたりするゲームだ。

しかしまぁ、タイトルだけでなくゲームの中身もずいぶんと手抜きだなぁと思った瞬間のことだった。
棒人間が今いる足元が一瞬で白くなって穴となった。棒人間の足場がなくなれば当然そのまま落下するしかない。
落下した先にはこれ見よがしに当たれば死ぬと言わんばかりのトゲ。誰も操作しない棒人間はトゲに当たると同時にパァンという破裂音と共に消えてなくなった。

そのとき、ビシャという音が聞こえた。それはモニターから聞こえたものではなかった。
音のした方向が気になって目線を向けてみる。

 
真っ赤だった。
赤いものがガラスの内側にいくつもへばりついていて、そんな中で琴葉茜が立っている。
そしてその琴葉茜は文字通り「穴だらけ」だった。
直径五センチメートルほどの穴がいくつも、全身にできていた。

「あっ、あっ……?」

『う”……げ……』

「あはははすごーい。お姉ちゃんまるでチーズみたいになっちゃったね」

茜に開いた穴からどろっと赤い物が流れ出していく。
それが、現実に、あの茜に起こったことなのだと頭が理解すると同時に。

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

脳から溢れる混乱という感情を処理するために。彼女の口から叫び声として溢れていった。

今日はここまで。

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