・ご都合主義万歳
・アイランドモード的な世界観
・ゲームはプレイ済ですがアニメ未視聴です。なのでアニメのネタは使いません
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暴力のボの字も絶望のボの字もない、晴れ晴れとした青空の下。
豊かな自然を感じさせる木々に囲まれた公園にて。
心地良い爽やかな風を浴びながら、その少年は何もせずにただぼうっとベンチに座っていた。
「……」
――ツマラナイ。
そう言いたげな表情で、彼は空を見上げる。
退屈なように見えるが、それを紛らわそうとする素振りもない。
「……」
なんとなく、彼は理解していた。
自分が動いたところで、何かが変わるわけではないし、きっと何をしてもツマラナイと思ってしまう。
そして。
唯吹「フンフンフフーン♪ フンフフー♪ イブキチャンー♪」
自分が何もしなくたって、やたらと騒がしくしてくれる彼女が、ここにはいる。
ウサミが出した課題をクリアするべく、素材集めに勤しむ日々。
リーダー感溢れる十神白夜の指示の下、毎日のように繰り返される作業は順調に進んでいる。
一日のノルマを達成した後には、各々が好きに過ごす自由時間が与えられるのだが……。
「……澪田」
唯吹「フンフー……はわ!? ハジメちゃんが喋ったっス!!」
「あなたは人をなんだと……まあ、いいでしょう……」
彼が一人で過ごそうとすると、何故だかちょっかいをかけてくる少女。
立っても座っても歩いてても騒がしい、それが彼女――澪田唯吹に対する、彼の印象だった。
唯吹「イヤー、コレは世紀末的大事件っスよ! ハジメちゃんから話しかけて貰ったの、多分始めてっスから!!」
イブキカンゲキー、と眼をキラキラさせる彼女を尻目に、彼は顎に手を当て考える。
確かに、今までの事を振り返ると自分から澪田に対して話しかける事はなかった。
いや、それは澪田に限った話ではないが……。
唯吹「ハジメちゃーんっ!!」
「どうでもいい」
唯吹「ガーン!!」
「どうでもいいのです、そんなことは」
感極まって飛びついて来る澪田をあしらいながら、彼は口を開く。
「なんですか、コレは」
そう言って、指差す先は自分の頭。
平凡な容姿である自分の、唯一の特徴である無造作に伸びた髪の毛が――。
唯吹「お揃いっス! バンドメンバーに必要なモノは一体感っスから!!」
「……」
自信満々に手鏡を見せてくる澪田に、彼は何と言葉をかけるべきか迷う。
怒るべきなのか、呆れるべきなのか。
それとも、この整髪剤も無しにこの髪型を整えた腕前を称えるべきか。
ある意味で初めて、戸惑うという経験を彼は覚えた。
「……一体いつから、僕がバンドメンバーになったんですか。合奏した事すら無いのに」
そう言うと、澪田は少し寂しそうに微笑んだ。
「それは……ね……」
騒音を体現したような少女が、始めて見せる表情。
彼に生まれた戸惑いは益々強くなる。
唯吹「出会った時から! 唯吹とハジメちゃんはハートがユニゾンっス!!」
……が、そんなの関係ねえとばかりに、唯吹はテンションを180度反転させた。
何となく損した気分になった彼は、小さく溜息を吐いた。
彼が思い返してみると、澪田唯吹という少女は出会った時からそうだった。
他の同級生たちは自分の態度に戸惑っているようで、あまり深く関わってこない。
当然だろう。
――ツマラナイ。この島も、あなたたちも。
突き放すような態度を取ってくるような、初対面の相手に対して仲良くしたいと思う筈がない。
この修学旅行が終わればサヨナラするのだから、尚更だ。
「ハジメちゃん!」
だが、唯吹は違った。
彼女は、驚く程にしつこい。
彼が素材を集めに行くと、彼女も同じエリアについて行く。
彼がコテージの掃除をすると、彼女も同じ場所の掃除を始める。
十神の指示すら無視をして、彼女は彼について回る。
初めの内は、十神も注意をしていたが――
十神「……適材適所、ということなら仕方あるまい」
――あっという間に、彼と澪田はペアのような扱いをされていた。
彼はそれに対して不満はない。
しかし、疑問に思う事はある。
「……あなたは」
唯吹「……」
「あなたは、どうして僕につきまとうのですか」
唯吹「それは……」
きっと彼女は、なんだかんだで他人に好かれる人物の筈だ。
自分なんかに声をかけなくても、彼女の周りには誰かがいると思う。
「……理解できませんね」
「ツマラナイでしょう。あなたも――」
唯吹「それは、違うよ」
「……何?」
唯吹「それは違うっス。ハジメちゃんと一緒で、ツマラナイなんてこと、一度だってなかったから」
強い否定を感じる言葉だが、拒絶の意思は感じない。
唯吹「……それに」
唯吹「唯吹は、もっと大きなモノを、創ちゃんに貰ったから」
「……」
唯吹「だから、今度は唯吹がハジメちゃんにあげる番なんスよ」
唯吹の言葉は力強い。
真っ直ぐに彼をみつめ、無感情な瞳に臆する事なく、気持ちをぶつけている。
「……」
「……」
黙する二人の間に、そよ風が吹いた。
彼には、返す言葉が思い浮かばなかった。
(大切なモノ……? ありえない、彼女と僕はこの島が初対面……で……)
事実を述べて、理屈で論破する事は容易い。
けれど、それで?
(そんなツマラナイ事をして、僕は……)
――キーン、コーン、カーン、コーン。
ウサミ『もう直ぐ夕食のお時間でちゅ』
ウサミ『寄り道せずに帰るでちゅよー』
「……」
唯吹「……あは」
沈黙を破ったのは、彼の言葉ではなく場違いなチャイムの音だった。
唯吹は可笑しそうに小さく笑い、彼に手を差し伸べて。
唯吹「ハジメちゃん」
唯吹「お手々繋いで、帰るっス!」
唯吹「おっゆはっん♪ なっにかっなー♪」
唯吹に歩調を合わせながら、彼は思う。
相変わらず、この島はツマラナイ。
だけど。
(この時間は……)
「悪くは、ない」
なお。
お手々繋いで帰ってきた二人を見て、他の面子は驚愕し。
次に彼の髪型を見て爆笑した左右田は、彼の手でペガサス盛りにされた。
というわけでダンロン2のssです
もうちょっとだけ続きます
メインヒロインは唯吹です
……ちゃん!!
それじゃー! さっそく部活を始めるっすよー!!
今日は何して遊ぶっすかーっ!?
創ちゃんと唯吹は以心伝心っす!
「……コレは……」
何か思い出したりして……っすか?
唯吹の知ってる……ちゃんは……
「……」
だって……ちゃんはもう……っすから
「……ああ、わかりました」
だって……本当の自分は……
「コレは」
だから……
「夢、ですね」
――カシャッ
「……」
真昼「あ、起きた?」
シャッターのような音で目が覚めたと思ったら、目の前には一眼レフを構えた少女。
彼女の名前は小泉真昼、超高校級の写真家だ。
「君は何をしているのですか」
「何って……あんたねえ」
真昼は額に手を当てて、呆れたように溜息を吐く。
彼女の態度に思いた辺りのないハジメは、心中で小首を傾げた。
真昼「唯吹ちゃんがあんたのこと探してたのよ。『ハジメちゃんがいないっすー!!』って朝から大騒ぎだったんだからね」
「……なるほど」
真昼「それで朝ゴハン食べてからあんたを探してたってわけ」
ようやく合点がいく。
唯吹がハジメにベッタリなのは周知の事実であり、それはウサミの課題がお休みの日も例外ではない。
『突撃! 隣のハジメちゃん!!』と叫んで朝っぱらから彼のコテージに突っ込んでいくのは、最早唯吹の日課でもあった。
真昼「……で? あんたは、朝からずっとここにいたの?」
「ええ」
真昼が辺りを見渡す。
積み上げられた本の山に囲まれた彼。
ウサミの起床時間アナウンスよりも早くから、彼はここで読書に勤しんでいたらしい。
二番目の島の図書館。
ジャンルを問わず、様々な種類の書物が揃う場所。
防音や空調設備もしっかりしているため、読書・昼寝をするなら打って付けの場所だ。
真昼「あ、もしかしてヒナタって読書好き?」
邪魔をされずに静かに読書をしたかった、そういう理由なら書き置きも残さずに出掛けていった事も納得できる。
唯吹には悪いが、彼女の隣で静かに読書なんてどうやっても無理だろう。
棚の影で隠れんぼしたり本を並べてドミノをやったり、破いた本のページで紙ヒコーキを飛ばす姿しかイメージできない。
「……まぁ、そういう事にしておきましょう」
一人納得して頷く真昼を余所目に、ヒナタは一冊の本を小脇に抱えて立ち上がる。
真昼「どこに行くのよ」
「コテージに戻ります。きっと、もうすぐ彼女も――」
「ハージーメーちゃあぁああああああんっ!!」
噂をすれば何とやら。
図書館では静かに、なんて常識は彼女には通用しない。
「とーうっ」
超高校級の才能を響かせながら、彼が振り向く前にその背中に飛び付いた。
唯吹「ハジメちゃんみーっけ! これでハジメちゃんが次のオニねー!」
「……」
唯吹「がぶーっ!!」
いつからかくれんぼになっていたのか、なんてツッコミを入れる前に彼の首筋に噛み付く唯吹。
そんな彼女の奇行にはもう慣れきっている、とでも言わんばかりに微動だにしないハジメ。
真昼「あはは……」
ある意味マイペースを貫き通す二人に、真昼は苦笑いを浮かべるしかなかった。
唯吹「あ、真昼ちゃんこんつわっす!!」
真昼「あ、うん、こんにちは」
唯吹「真昼ちゃんも一緒に遊ぶっす!! かくれんぼとか鬼瓦ゴッコとか!」
真昼「え、いや、私は」
唯吹「ピピーンッ!! 決めたっす! 今日の遊びはライブラリーピタゴラスイッチで!!」
真昼「あ、ちょっと!!」
彼の背中から飛び降りて、本の山へと突撃する唯吹。
エイエイオーッ!!と雄叫びを上げてやる気満々だが、その後姿はテンション高過ぎでやや危なっかしい。
真昼の制止の声も聞かず、走り出した彼女は――
唯吹「うげぎゃっ!?」
――案の定、躓いて盛大に素っ転んだ。
唯吹が勢いよく突っ込んだ先には、大きな本棚。
しっかりと固定されているため、彼女一人が突撃したくらいでは倒れたりしない――が、中の本は別である。
強い衝撃が加わった事によって何冊かの本がグラグラと揺れて、雪崩のように降り注ぐ。
唯吹「うぎゃぴっ!?」
真昼「唯吹ちゃんっ!?」
勿論、その下にいるのは唯吹。
真昼とハジメが止める間もなく、トレードマークの二本角を残して、彼女は本の山に生き埋めとなった。
「……やれやれ」
どうでもいいけど>>23は余所目ではなく尻目ですね
――その後。
沈んでいく夕陽を背後に、2人並んで歩いて帰る。
真昼はハジメに歩調を合わせて、ハジメは背中に唯吹をおんぶして。
真昼「唯吹ちゃん、大丈夫?」
唯吹「ハジメちゃんが手当してくれたので平気っすけど……お、重くないっすか?」
「フツウですね」
唯吹「フツウ……すか……」
「ええ。フツウ、です」
足を捻った唯吹の手当と、散らかした図書館の片付けをしていたら日が暮れてしまった。
真昼としては良い写真を何枚か撮れたため、そこまで悪くない一日だったが――彼は、果たして何を思っているのだろうか。
真昼「……」
真昼がチラリと横目で見ても、彼はいつもと同じ無表情。
ただ前を見る瞳からは、何も気持ちを読み取る事はできなかった。
真昼(まぁ、でも……)
唯吹「……ハジメちゃん……」
「……」
唯吹「……ありがとう」
真昼「……悪くない、のかな?」
背負われている彼女の頬が赤いのは。
きっと、夕陽のせいだけじゃないだろうから。
今回はここまでで
次は王女様あたりで
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