・フィアンマさんとフロイラインちゃんが不老不死
・フロイラインマスレ
・時間軸不明。過去から
・会話文が主ですが地の文もあり
・キャラ崩壊注意
※注意※
過去捏造・特殊設定多々あり。
エログロがあるかもしれません。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371130349
その女は、監禁されていた。
誰かに、というレベルではない。
宗教組織そのものに、だ。逃げられるようなものではない。
15世紀後期。
彼女は、その頑丈な身体を、他者から疎まれていた。
火を押し付けられてもやけどをしない。
首を絞められて呼吸が途絶えても尚、心臓は動き続ける。
当然、何か魔術を用いているのでは、と疑われた。
彼女は"そういう"生き物なのに、誰もそれを認めようとはしなかった。
いいや、正確には、認めるのが怖かったのかもしれない。
だって、そんなものが本当にいたら、怖いから。
決して死なない頑丈な生き物が傍に居るだけで、恐怖を感じるのだ。
弱い民衆とはそんなもので。しかし、数は力となる。
結局、世間の魔女狩りの流れに乗った邪教によって、彼女は幽閉されていた。
「………」
彼女と一緒に閉じ込められている哀れな魔女達は言う。
私達は魔女じゃない。
殺さないで。助けて。
あんな風に真似をするのが、きっと一番暮らしていくのに有効で、快適さを得られる方法だ。
そう考えた彼女は、彼女たちの真似をすることにした。
「優しい優しい神父様」
これで、火炙りにかけられたのは何度目なのだろう。
カウントする癖などない女———フロイラインは、日常の一部としてそれを受け入れていた。
服が燃えてしまい、ほぼ裸の状態に羞恥を覚えるでもなく、彼女は首を傾げる。
彼女を拘束したまま燃やした木は、その木の十字だけが燃えてしまった。
彼女の体はどこまでも無事で、無傷で、そのことが周囲から恐怖を誘う。
群衆はざわめき、聖職者は後ずさる。彼が握りしめているロザリオは、半ば歪みかけていた。
「ば、化けものが……!!」
「…本日の処刑は、これで御終いですか?」
彼女は、表情を彩らずに首を傾げた。
痛くも熱くもなかったのだから、当たり前だろう。
ただ、無駄に拘束されているのはあまり快適ではなくて。
拘束という快適でないものから逃れる為に、彼女は問いかけていた。
今日は、これでおしまいですか。
おしまいなら、今日はもう寝てしまいたいのですが。
そんな日常を感じさせる言葉が、聖職者の恐怖を刺激した。
「…み、水! この女を水に浸けましょう」
水は聖なるもの。
だから、この女が魔女ならば、死ぬ筈です。
そんな暴論に、しかしてフロイラインは取り乱さなかった。
死への恐怖という概念がそもそも無い彼女は、村に居る為にこれらの処刑を受け入れるしかないのだから。
「水、ですか」
わかりました。
そう返答して、フロイラインは川の方へ向かう。
死も痛みも、彼女には存在しない概念だった。
何度も神明裁判にかけられ。
その度に傷一つ無い彼女は、確かに神様から愛されているはずなのに。
神様は微笑まず、どこまでも彼女を苦難の道へと追いやる。
「餓えるかどうか試しましょう」
「雷にて裁きましょう」
「幽閉しましょう。暗闇で本性が見える筈です」
何度も何度も何度も何度も何度も。
只の人間であれば確実に死んでいた処刑を繰り返されて。
それでも聖人という扱いは受けないまま、彼女は暮らしていた。
沢山の伝説を作り、多くの人を怯えさせ、息をしていた。
「クソ、何故だ、何故死なない、この魔女が!!」
罵倒され、それにすら首を傾げる。
フロイラインは誰かを怯えさせたくて、生きている訳ではないのだ。
ただ、息をして、普通に暮らしているだけ。その日常に神明裁判が含まれているだけ。
「……致し方無い」
呟いて、その神父は出ていった。
フロイラインは真っ暗な牢の中、一人ぼっちで膝を抱える。
「寒い、です」
ここに"居た"無実の魔女たちを真似て、そう呟いた。
実際、彼女の居る場所は寒かった。
すきま風は石作りの間から吹き付けてきて、凍えてしまいそうになる。
彼女は人を真似て、自分の手で身体を摩る。
二メートル程の身長、細く長い腕。華奢な指が、彼女の身体をさすった。
「お腹が、すきました」
本当に空いているのかどうかは、彼女自身もわかってはいないだろう。
彼女は古来より、その地域で最も有力な生物に擬態してきた。
その群に混じり、生存してきた。
故に———本質的に既存の生物とは一線を画す生態を有する。
本当は、食事だって必要無いのだ。なくたって、充分生きていける。
実際、神明裁判の一環で餓死するように仕向けられた時も、餓死はしなかった。
「……寒くて、おなかがすきます」
0と1で表現出来るであろう彼女の思考が、そう呟かせる。
ギィ
ふと、きしんだ音を立てて、扉の開く音がした。
コツン、コツン、という硬めの靴音がする。
フロイラインは首を傾げ、その足音が近づいてくるのを待った。
その気になれば抜け出せる牢屋だが、逃げ出すつもりはなかった。
ここから抜け出せば、快適さが減ってしまうことを識っているから。
「……?」
「……お前が、件の魔女か」
「私は、魔女ではありません」
「そうか」
蝋燭の類を手にしていないのに、彼の姿は不思議としっかり見えた。
フロイラインは牢の鉄格子に近寄り、じっと彼を見上げてみる。
修道衣と同じ色の、つまり黒く長いフードを深めに被っている。が、赤い髪が僅かに見えていた。
赤毛は差別、迫害の対象だ。かといって親近感を覚えるなどという感覚は存在しないフロイライン。
彼女は条件反射的にそう言葉を返して、彼と暫く見つめ合う。
双方黙りあった後。
彼は、鉄格子の隙間から、手を差し出してきた。
その手の上には、紙に包まれたパンがある。
彼女は大人しくそれを受け取って。
「これは、何でしょう」
「お前の夕飯だ」
「私は、今日、ご飯を与えていただけません」
「俺様が許可する」
不思議な神父様だな、とフロイラインは思う。
ただ、パンを食べることは快適なので、いただくことにした。
一口、二口。
噛む度に、甘い味がする。
ほんのりと温かいのは、彼の手の温度が移ったか、あるいは焼いて間もないのか。
総合的に美味しいと判断し、フロイラインは黙々と食べていく。
全てを食べ終えたところで、どこか遠く、叫び声のようなものが聞こえた。
小首を傾げる彼女を見やり、フードを被った青年はこう問いかける。
「この村はもうすぐ燃え尽きる。…来るか?」
「…来る、とはどういった意味でしょう?」
「俺様についてくるか。それとも、この村の大火災で死ぬ事を夢見るか。
どちらが良いか、選ばせてやる」
彼の言葉に、フロイラインは少しだけ思考時間を取った。
さて、ここに留まるのと、彼についていくのと、どちらが快適なのだろうか。
「行きます」
決断は、思いの他早かった。
彼女はパン屑を舌で舐めとり、彼を見つめる。
フードで顔は見えないが、彼についていけば"より快適"な気がしたのだ。
見えぬ布地の向こう、彼がうっすらと笑った気がする。
「そうか」
再び、手が差し出された。
彼女の人生において手が差し伸べられたのは、これが初めての事だった。
とりあえずここまで。
ゆっくり更新でいこうと思います。
期待等レスありがとうございます、頑張ります。
フロイライン「五つ星。美味しいです」
第三の腕『』
フィアンマ「やめろ」
というのが頭に浮かんで、
投下。
差し伸べられた手を握り。
鉄格子を火で溶かし、出してくれた彼の手を握り。
フロイラインは燃える民家や野原を見ながら、首を傾げていた。
「燃えて、います」
「燃やしたからな」
「神父様が、燃やしたのですか?」
「そうだが」
「何故、ですか」
「邪教に犯され歪んだ悪徳の村だからな。
かのソドムとゴモラ———罪深き街と同じ扱いが妥当だろう」
最も、あれは大天使を呼び出さねばやり辛い術式だが。
彼女の問いかけに対する答えである彼の言葉は、何一つ理解出来ないフロイライン。
不思議そうな表情のまま黙る彼女の手を引いて、彼はゆっくりと歩く。
まるで物見遊山でもしているかのように、焼け野原を眺めながら。
ところどころ転がる死体に対しても、表情は変えない。
「た、助け、」
燃え盛る民家から、一人の男が転がり出てきた。
どこからどう見て、フロイラインを執拗に追い詰めた聖職者だった。
彼は赤髪の彼を呼び、フロイラインの処刑法を尋ねようとした。
その結果がこれだった。赤き青年は、歪んだ価値観の村より、一人の哀れな生き物を救った。
聖職者は青年を見、彼が手をひいているフロイラインを見、呆然とする。
「どうして…な、何故です…?」
「どうしてだと思う?」
青年は、表情を変えず。
下半身を焼かれ、みっともなく這い蹲る事しか出来ない聖職者の頭を踏んだ。
ぐりぐりと押し付け、地面にキスをさせながら目を細める。
酷薄で、綺麗で、悪魔的で、悪意の無い笑みを浮かべ。
彼は、聖職者の方へ慈悲の象徴である右手を無慈悲に伸ばした。
「俺様は、歪んでいるものが大嫌いなんだ」
一つの村を悠々と滅ぼし。
何の罪悪感も抱かぬまま、青年は歩いて行く。
魔女を殺すにはどうしたら良いですか、という質問を受けた時点で、あの聖職者を殺すことは決めていた。
殺せない魔女は人間であることを認めない聖職者など、必要ない。ましてや邪教に染まった者など。
そして、その聖職者に従い、嬉々として一人の人間を虐げる村も滅ぼしてしまおうと。
決めてしまえば、躊躇は無かった。それが、彼の歪んだ正義だった。
「お腹がすきました」
ともすれば、無邪気。
フロイラインはそう述べて、彼を見つめた。
身長差の影響から、正確には見下ろしている、というのが正確か。
「先程パンを食べただろうに」
「消化してしまいました」
長時間歩いていればそれも道理か、と彼は思う。
少し考えた後、青年はフロイラインを連れて宿屋へ入った。
少なくとも、こういった場所では金さえあれば食事を工面出来る。
「……目下のところ、衣服の類を買い揃える必要がありそうだな」
みすぼらしいフロイラインのぼろ布で出来た服を眺め、彼は言う。
対してフロイラインは振舞われたシチューをマイペースに食べていた。
「衣服、ですか」
寒くも暑くもない彼女は、必要だろうかと不思議がる。
青年は彼女の様子を眺めた後、パンをかじった。
粗末な食事で充分らしい。あるいは、食欲が無いのか。
「おやすみなさい。不思議で優しい神父様」
「ああ」
同じ一部屋。
だからといって何の過ちも起こさないまま、彼らは眠る。
青年は壁に寄りかかり、フロイラインはベッドで丸くなり。
一夜の値段に見合っただけの粗末な部屋は、隣室の物音がよく聞こえる。
それでも、疲れはいくら嫌がっても眠気を連れてくる。
目が覚めた。
青年がそろそろと目を開けると、目の前には青みがかった無機質な瞳。
言うまでもなく、フロイラインの顔だった。
「…何を、している」
「神父様を見ていました」
「…どういった理由で」
「理由は……ありません」
す、と引くフロイライン。
どうやら早起きをして暇だったらしい。
「……ところで」
青年は欠伸を噛み殺し、彼女を見やる。
眠った時に僅かに乱れていたフードは、再び赤髪を隠していた。
「お前の名前は何という」
「…私の、名前」
露骨なカニバリズムのフラグを立ててはならない(戒め)
…まさかホントにパックリいっちゃうなんて事は無いよな…?(震え声)
考える。
パチパチパチパチ。
彼女の思考。0と1の判断が高速で繰り広げられていく。
結果として、彼女におおよそ名前というものは存在しなかった。
故に、虚偽を告げず、偽名を名乗るでもなく、真実を述べる。
「私に、名前というものはありません」
「そうか」
相槌を打ち、青年は考え、思いついたのか、特別言葉を彩らずに言う。
「では、今日からお前の名前は"フロイライン"だ」
「フロイライン」
「…ドイツ語で未婚の女を指す。結婚はしていないんだろう?」
「していません」
彼女は、口の中で数度、彼がつけてくれた名前を繰り返してみる。
フロイライン。フロイライン。ふ、ろ、い、ら、い、ん。
悪くない。少なくとも言いやすい名前だ。舌を噛みそうにもない。
「……不思議で優しい神父様のお名前は」
「……」
彼はほんのちょっぴり逡巡する。
「…忘れた」
「つけますか」
「いらん」
「何処に行くのですか」
「そうだな。…イタリア辺りにしようかと思っているのだが」
つまらなそうに彼は言う。
ちなみに先ほどの第一回名前付ける付けない議論の結果、彼の名はフィアンマに決まった。
イタリア語で『炎』。あるいは一般的な女性名詞だが、それでいいと放り投げたらしい。
が、名前をつけた本人であるフロイラインは彼の名を呼ぶつもりはないらしい。
最初に感じた思いである『不思議で優しい神父様』が気に入ったのかもしれない。
「希望の行き先でもあるのか」
「ありません」
ふる、と彼女は首を横に振る。
彼女に自我というものはない。
変温動物のように、周囲の環境に合わせて変化していくだけだ。
ちょうど、親に似てくる幼児のようなもの。
「不思議で優しい神父様」
「何だ」
「カラスとは、おいしいものなのでしょうか」
「そんな訳があってたまるか」
ここまで。
>>32
腕たんは天使の力だから(震え声)
でも血が出るから…あっ(察し)
乙
やべぇ…やべぇよ…(恐怖)
でも実際、フィアンマの『聖なる右』を何の苦もなく吹き飛ばしたよなアレイスター…分身体だったのに…
2mの身長に慣れてしまったフィアンマは今のフロリラインを見てどう思うんだろうか…
多分明日投下出来ないのでもう一回。
烏料理ダメぜったい… (フロイラインマ流行りますように)
>>40
右腕切られたから…アレイスターさんはホルスの人だし(震え声)
>>41
何も変わらず接するような気がします。見目にこだわらない男性なので。
投下。
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「…素直にフィアンマと呼んだ方が疲れないだろうに」
フロイライン「フィアンマさん」
フィアンマ「……」
フロイライン「フィアンマくん」
フィアンマ「……」
フロイライン「フィアンマちゃん」
フィアンマ「……」
フロイライン「フィアンマ殿」
フィアンマ「……」
フロイライン「フィアンマ様」
フィアンマ「……」
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「……」
フロイライン「これが、一番です」
フィアンマ「……そうか」
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「んー?」
フロイライン「あれは、何ですか」
フィアンマ「…ビスケットだろうな」
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「…美味しいものでしょうか」
フィアンマ「お前は食べる事しか考えていないのか?」
フロイライン「何も、考えていません」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フロイライン「星二つ。微妙な味です」
フィアンマ「そうか」
フロイライン「……」
子供「はいママ、半分あげる。あーん!」
母親「ありがとう。んん、おいしいね」
フロイライン「……」パキッ
フィアンマ「…不味いなら捨てるか鳥にでもや、」
フロイライン「」グリグリ
フィアンマ「、」
フロイライン「あーん」グリグリ
フィアンマ「やめろ」ベチッ
フロイライン「……」
フィアンマ「……」ボリボリ
フロイライン「……」
フィアンマ「…確かに微妙な味だが」
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「何だ」
フロイライン「"あーん"という行為には、どのような意味があるのでしょう」
フィアンマ「……」
フロイライン「……?」
フィアンマ「……」グイ
フロイライン「……」モグ
フィアンマ「……特に意味は無い」
フロイライン「…そうなのですか」モグモグ
フロイライン「喧嘩をしているようです」
フィアンマ「そうだな」
フロイライン「……」
フィアンマ「…何だ。気になるのか」
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「……怪我をしています」
フィアンマ「放っておけ」
フロイライン「……」
フィアンマ「……何か不服でもあるのか」
フロイライン「神父様は、人を助けるものです」
フィアンマ「……、…」
フロイライン「………」
フィアンマ「…助ければ良いんだろう。ただし、今回だけだ」
責めるつもりは一切無いのだろうが、フロイラインの視線に耐え兼ねて。
フィアンマは喧嘩をして一方的に敗北した方の子供の前にしゃがみこんだ。
怪我は軽いもので、膝から血液が溢れ、ふくらはぎを伝っている。
「う、うう、ひっく、」
泣きじゃくる子供は、恐る恐るフィアンマを見上げた。
時代が時代である。魔女の男版———狼男が聖職者のフリをしている、と疑ったのかもしれない。
実際彼は魔術師で、ともすれば魔女でもあるのだから、間違ってはいない。
彼は無言で、奇跡を宿す右手で少年の膝に触れた。
何事かを口の中で詠唱する。淡く赤い光が灯り、少年の膝を癒した。
傷はみるみる内に治癒されていき、膝の痛みは消滅する。
「……、あ、」
驚き。
少年は、お礼を言うか迷い。
しかし、母親の声が、それを遮った。
「ッ、逃げなさい!!」
フィアンマを魔女だと判断したのだろう。
男であっても、害をなせば魔女と判断されてしまう。
ちょうど子供の陰で何も見えなかった母親にとって、フィアンマは殺人未遂犯に見えたのかもしれない。
自分の子供を魔術で殺されてしまっては元も子もない、と彼女は立ちふさがる。
何も言えないまま、追い立てられるまま、子供は走っていった。
こうなることは、わかっていた。
昔、フィアンマが何でもないことで笑い、何でもないことで泣いていた時からそうだった。
こうして魔術を、奇跡を使って人を癒せば化物と呼ばれ、医学を使って人を癒せば怯えられる。
こうやって冷たい視線しか向けられないから、苦しいから、救うことをやめたのだ。
フィアンマの表情は、フードに隠れて見えない。誰にも。知られる必要もない。
フロイライン=クロイトゥーネに、申し訳ないだとか、そんな感情はない。
彼女を突き動かしているのは本能と機能、ただそれだけだ。
0と1、その思考の繰り返しで生きているだけで、何を思うこともない。
ないはずなのに。
フードの向こう、僅かに透けて見えた顔が、無表情を取り繕いながら歪んでいるのを見て。
フロイラインは、唇を噛んだ。
0と1の思考回路によれば、彼は間違っていなくて。
民衆の方がおかしくて。だから、自分は。
「誰か教会の人を呼ん、」
母親の声は、途絶えた。
フロイラインが、地面に落ちていた石を拾い、殴ったからだった。
死んでこそいないものの、頭を殴られ、彼女は倒れる。
無表情で。少し前に村を燃やしたフィアンマによく似た顔で、彼女は周囲をぐるりと見る。
「ごがっ、」
「げぐ、」
彼女の無意識下の敵意が露呈した。
それだけで、人々は体内に異物を押し込まれ、息ができずに倒れる。
「彼を、責めないでください」
死屍累々と積み上がっていく民衆。
その陰に隠れていた少年が、怯えて後ずさる。
「彼は、魔女では、ありません。私も、また」
「待て」
フロイラインの腕を、フィアンマが掴んだ。
ぐるり、と目が向き、彼を捉えた。
が、彼の体内に一瞬だけ出来た凝りは、防御術式によって掻き消える。
暗いフードの奥。
金色の双眸が、フロイラインを睨んでいた。
反省するでもなく、何か言う訳でもなく。
彼女はただ、何もしないで、彼に従う。
フィアンマは彼女の手を掴み、歩き出す。
怯える少年に何か言葉をかけるでもなく、すれ違い、通り過ぎて。
「……」
「……」
ごめんなさい、だとか。
そんな言葉はない。
フロイライン自身、どうして自分があんな風に動いたのかわかっていない。
フィアンマは、喜ぶべきか、怒るべきか、考えあぐねている。
空が、曇っていた。
ここまで。
日常生活ネタ募集中です。
乙
子供を高い高いしてる親を見て、自分もフィアンマさんを持ち上げようとするフロイライン
とか?
フロイラインちゃんとフィアンマさんをいちゃつかせたくて、このスレを立てた。
正直に言って、後悔はしていない。
>>63-66
皆様ネタ提供ありがとうございます、ゆるりと取り入れさせていただきます。
投下。
黒く染まった雲は、泣きそうな、くぐもった音を立てる。
雷雨でも来るのだろうかと思いながら、フィアンマは彼女の手を引いて歩いた。
彼女は無言のまま、彼をじっと見つめながら、それでも転ばずについて歩く。
「……何故あんな事をした」
余計な事を、とばかりに彼は言う。
フロイラインはきょとんとし、何でもないことのように言う。
「あなたが、責められていました」
1+1が2になる事を告げるかのように。
あなたが責められていたからああいった行動を取っただけだ、と彼女は言う。
そこに嘘はなく、だからといって特別な何かも無かった。
気持ちの無い感情とは矛盾した言葉だが、彼女にはそれが当てはまる。
守ろうとしてくれたことは有難いのだが、何度もやられてはその内世界中から追い出される。
が、こう言ったところでおそらく彼女は理解してくれないだろうと思ったので。
「そうか」
フィアンマは淡白で簡素な相槌を打ち、歩き進む。
予期していた通り雨が降り始めた為、フィアンマとフロイラインは雨宿りをすることにした。
長距離を黙々と歩いている内に次の街に到着していたのだ。
適当な店屋(既に閉店している)の軒下に二人揃って立ち、空を見上げる。
暫く降り続きそうだな、とフィアンマは思った。今日心配すべきは宿の空き具合だろう。
同じ軒下にはひと組の親子がいる。子供は立ち疲れたのか、もう濡れてもいいから帰ろうとぐずる。
そんな子供に苦く笑って、若い父親は幼い子供を抱き上げた。
よしよし、と"高い高い"をしてやり、優しく笑いかけながら頭を撫でてやる。
「……」
フロイラインは、親子を見つめていた。
そして、フィアンマを見やる。
彼はぐずってはいない。が、あれはやってみるべきことなのではないか。
特に深い情緒というものを持ち合わせないフロイラインに、空気を読むという行動は出来ない。
「高いたかーい」
故に、彼女は二メートルの長身に見合った長い腕を活かし、彼の身体を抱き上げた。
彼女が見目に似合わず(脳に存在するパワーセーブリミッターというものがないため)怪力であり。
且つ、フィアンマが標準体重よりやや軽かった事が災いし、彼の体は予想外に軽く抱き上げられた。
軽く、いいや、地味にしたたかに軒に後頭部をぶつけたフィアンマは、しばし押し黙る。
「……?」
「…………」
「……」
フロイラインは、首を傾げていた。
首をかしげたいのはこちらの方だ、と彼は思う。
親子はというと、そんな二人の様子に動揺し、気配をひっそりと消していた。
「フロイライン」
珍し…くはないのだが、彼はにっこりと笑みを浮かべた。
人類であればこれは危険だと思えるような笑顔だった。
一応は人類に分類されるであろうフロイラインは、しかし首を傾げたまま。
ガラス玉のように透き通った、悪意など微塵もない瞳で彼を見上げるのみ。
「はい、何でしょうか。不思議で優しい神父様」
「吹っ飛べ」
既に数百年生きているとはいえ、まだまだ若く悟りを得られぬ青年である。
たとえ相手が女であろうと笑顔で済ませられる程紳士ではないのであった。
そんな訳で、フロイラインは魔術による打撃に吹っ飛ばされ。
数十メートル単位で宙を舞い、廃墟の壁に背中を叩きつけられた後。
別に痛くも何ともなかったので、何食わぬ顔で戻ってきたのであった。
余談だが、フィアンマとは正義感と自制心の強い男である。
責任感もそれなりにあり、つまり、現在。
青年は落ち込んでいた。突発的なムカつきを抑えきれなかった自分に対してである。
「……」
フロイラインはというと、林檎ジャムを水で溶かした甘いものを飲んでいた。
味はさほどよろしくないが、この時代にしては良い飲み物である。
甘ったるい保存食染みたりんごジュースを飲みながら、フロイラインはフィアンマを見つめる。
何となく彼が落ち込んでいるのは察知出来るのだが、何をすべきかが判然としない。
フロイラインは周囲に適応する生き物だ。
当然、周囲が悪意で染まれば悪意で返し。
善意や愛で染まればそういう風にもなるだろう。
先程は暴力を振るわれたが、この短い期間で、フロイラインはそれでもフィアンマに愛されていた。
彼にそういうつもりはないのだろうが、彼の行動や提供してくれるものは、彼女を幸せにしていた。
幸せにされたのだから、幸せにしたい。パチパチパチ。彼女は考え込む。
「……はい。あーん」
グラスを、フィアンマの口元へ寄せた。
彼は目を瞬き、フロイラインを見やる。
何かを考えてか、何も考えていないのか、彼女は微笑んでいた。
「どうぞ」
フロイライン「……」ニコニコ
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「……やはりお前はおかしい」
フロイライン「? おかしなことをしているつもりはないのですけれど」
フィアンマ「……」ナデナデ
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「…快適です」ニヘラ
フィアンマ「…そうか」
ここまで。
>>1にある通り、フロイラインちゃんは攻めです。
もうすぐ時代が動いてその内現代(原作時間軸)に行くつもりなのですがアバウトに再構成交えるか悩んでます。
投下。
フロイライン「…猫がいます」
猫「にゃー」
フィアンマ「…野良猫だろう」
フロイライン「……」
猫「にー?」
フロイライン「…猫とは、美味しいものでしょうか」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「…おそらく無駄だとは思うが、食べて良いものと悪いものを教えてやる。覚えろ」
フロイライン「はい」
フィアンマ「食べて良いものは毒の無い植物全般、家畜、魚介…この程度だ」
フロイライン「……猫はダメなものなのでしょうか」
フィアンマ「毒物と同じくダメだ。愛玩動物の扱いに入る」
フロイライン「わかりました」
フィアンマ「……」
フィアンマ(本当にわかっているのか、コイツは)
フロイライン「猫が連れて行かれてしまいました」
フィアンマ「…黒猫は魔女の使いだという線が濃厚らしいからな。風説では」
フロイライン「魔女の使い…」
フィアンマ「……」
フロイライン「……怯えています」
フィアンマ「取り返しに行ったりはするなよ。そもそもお前が飼っている訳でもないのだから」
フロイライン「はい」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「…この暗黒時代が終わるまでの我慢だ。色々と、な」
フィアンマ「先程食べてはならないものの話をしたが、何事にも例外はある」
フロイライン「例外ですか?」
フィアンマ「今はあまり見かけんが嗜好品というものがある」
フロイライン「……」
フィアンマ「厳密に言えば食べ物ではないが、煙草は構わん。
……後は多少悪食でも倫理に触れない程度でお前が好きなもの、か」
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「好きなもの。…不思議で優しい神父様を食べても良いということでしょうか?」
フィアンマ「そんな訳があるか」
フロイライン「ですが、……」
フィアンマ「……」
フロイライン「……?」
フィアンマ「その"何故ダメなのでしょう"と言わんばかりの顔をやめろ」
フロイライン「……」モグモグ
フィアンマ「……」
フロイライン「パン、美味しいです」
フィアンマ「そうか、良かったな」
フロイライン「猪を焼いたものも、美味しいものです」
フィアンマ「そうか」
フロイライン「不思議で優しい神父様は、あまり食事をなさらないのですね」
フィアンマ「食べ飽きたからな」
フロイライン「食べ飽きる?」
フィアンマ「お前と同じように、俺様もなかなか死なん人間だ。長く生きれば多くのものを食べる。
流石に同じものを何度も食べたくはない」
フロイライン「……?」モッモッ
宿を見つけて眠っては、短くて一日、長くて一週間単位で移動する生活。
旅人そのものの生活だったが、フロイラインは適応していた。
フィアンマは密かに、本当にひっそりと。
口には決して出さないものの、"良かった"と思う。
ずっと、寂しかった。
長い人生においての大半は差別と迫害から逃げて生きてきた。
赤毛、不老不死、魔術を扱う者。
差別をされたり、迫害される理由はたくさんあって。
最初の、産まれてから暮らしていた街から追い出されてからずっと一人だった。
聖職者の死体から剥ぎ取った神父服とフードを被り、孤独に生きてきた。
仮に誰かが受け入れてくれたとしても、一緒に生きて死ぬことは出来ない。
最後には怯えられて逃げられるか、こちらが逃げるか、ごめんねと言われて死なれてしまうのがオチだ。
だから、寂しかったから、歪んだものを壊すことで満足して、精神の均衡を保ってきた。
「不思議で優しい神父様」
そう呼んでくる女は、フィアンマの服を軽く掴む。
彼女に"実は自分は神父ではない"と告げても、呼び名は変えないだろう。
そしておそらく、こうやってなついたままでいてくれる。
これまでいくつもの伝説を作り、如何なる処刑でも死ななかった女。
何か転機がなければ、この女だけは、一緒に居てくれる。一緒に生きてくれる。
もう孤独を感じることはない。迫害されようと、辛くはない。一人じゃないから。
そんな事をぼんやりと考えながら眠り。
朝方、唐突な重みに目が覚めた。
「…ん?」
目を開ける。
目の前には、フロイラインが居た。
大人に甘える子供のように、俺様の体に乗っている。
正直に言って重い。女だから軽いなどというのは幻想だ。
「……」
一緒に寝ると大体この起こし方をされる。
起こしたいから乗っている訳ではないようだが。
何度注意しても聞く気が無いのは、これが"快適"ということなのか。
「…フロイライン。起きて退け」
「……」
す、と目が開く。
青みがかった黒めの瞳。
「不思議で優しい神父様」
「何だ」
「おはようございます」
「いいから退け。おはよう」
ここまで。
乙
八月には映画のDVD発売だからエンディミオンの奇蹟にフィアンマ参加する話を……
アリサに惚れたりしてね、フィアンマ
乙
このフィアンマさんならむしろレディリーを気に入りそうだ
>>102
このSSのフィアンマさんならレディリーちゃんな気がします。
>>100
もし買えるか借りて見れましたら…。
奇跡と奇蹟が交錯する時———で何でフィアンマさん出なかったのかと不可解でなりません。
投下。
フロイライン「お腹がすきました」ノソリ
フィアンマ「そうか」
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」ガバッ
フィアンマ「何だ、唐突に」
フロイライン「あむ」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」ピチャ
フィアンマ「…こそばゆいのだが」
フロイライン「…味がしません」
フィアンマ「当たり前だろう」
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「つんつん」
フィアンマ「……んん」スヤ
フロイライン「……」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」ナデナデ
フィアンマ「……」スー
フロイライン「イタリア南部からイタリア北部」
フィアンマ「それなりに長い道程だったな」
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「ん?」
フロイライン「宿屋を借りる生活をおやめになったのですか」
フィアンマ「ああ、…少し落ち着いたしな。魔女裁判も廃止になったことだし」
フロイライン「ここに住むのですか」
フィアンマ「今日からだがね」
フロイライン「お金はどう工面していきましょう」
フィアンマ「…宛がある」
フロイライン「?」
魔女裁判が廃止になった、18世紀頃。
フィアンマは、ローマ正教に入信した。
元より独学で魔術を学び、特殊な術式を持ち、且つ神の如き者の適性があった彼は、頼られた。
主に、ローマ教皇の相談役として。
十字軍遠征、ペスト、魔女裁判という誤りへの糾弾。
様々なトラブルを抱えていたローマ正教を治める教皇は、フィアンマに相談し続けた。
彼の不老不死という体質は、教皇にとって心強かったのかもしれない。
父性の象徴であるローマ教皇に頼られ、破格の給金を得ながら、彼は自分の立場を組織にした。
『神の右席』。
ローマ正教の如何なるピラミッド構造にも因らぬ特殊な組織。
ローマ教皇の相談役であり、魔術に秀で、特別な者が所属出来る最暗部。
右席に関しての取り決めを様々定め。
他の適性者を見つければ取り入れ、フィアンマは自分の司る右方以外を埋めた。
彼らに時折相談役としての仕事を任せ、自分の仕事を減らし。
イタリア北部に構えた小さな家で、彼はフロイラインと暮らしていた。
フィアンマ「…ただいま」
フロイライン「おかえりなさい。早かった、ですね」
フィアンマ「まあ、適性者がまた一人見つかったからな。俺様の仕事は減ったよ」
フロイライン「良い事なのでしょうか」
フィアンマ「だと思うがね」
フロイライン「ご飯、作りました」
フィアンマ「ほう」
フロイライン「鶏肉の煮込みと鶏肉のソテーと鶏肉の」
フィアンマ「おい」
ここまで。
既に三百年程一緒にいるので傍目には夫婦。
乙。映画は色んなものが投げっぱなしジャーマンで酷すぎる。
聖歌隊作って指揮するフィアンマさんとか見てみたかったな。後は某キャラの先祖と会うとか…
もう遅いが
>>116
えろえろですか
フロイラインマは結婚してどうぶ○の森に住めば良いと思います。
>>118
一部取り入れさせていただきました。ネタ提供ありがとうございます!
>>119
それがたったの一度もナニもしてないんです
投下。
"右方のフィアンマ"として働く片側。
フィアンマは一人の聖職者としても働いていた。
内容としては、主に婚礼における司祭・司教だ。
別に葬儀も行えるのだが、どちらかといえば、彼は婚礼の仕切りを好んだ。
自分が結婚出来ないからか。あるいは、したいという気持ちの代償行為か。
「……」
幸せそうな人間を見るのは気分が良い。
ローマ正教では離婚が許されない為、結婚すればそのままどちらかが死ぬまで一生続く。
故に、冷え切った関係はあっても、別れることは許されない。
「…帰るか」
片付けを終え。
今日も幸せそうに、カップルから夫婦へと昇格した二組の男女を思い返しながら、フィアンマはぽつりと呟いた。
家に帰れば、フロイラインがいる。夕食の有無はその日によるが、無くても構わない。
ただ、彼女といる事に安らぎを感じる。
本能の求むる快適さの為にであろうと。自分を心から慕い、懐き、笑いかけてくれる女と共にいるのは。
「……ん?」
「毅然として。久しいな」
ドアの辺りに佇んでいたのは、一人の男だった。
かの高名なる錬金術師の直系の子孫。パラケルススの末裔だ。
地を司る事を専攻としているからか、全体的に服装が緑色である。
この時代に染髪料が存在していたのなら、彼の髪は真緑だったことだろう。
初代———つまり高名なる錬金術師本人と瓜二つだな、とフィアンマはぼんやりと思う。
所謂隔世遺伝なのだろう。見目の整った男だ。
「何か用か? 片付けをしているのだが」
「当然として。数々の男女を結んできた貴男にこそ頼みがある」
「…結んできた、といっても単に結婚を主に担当しているだけなのだが」
「構わない。…確然として、相談がある」
神父としては、人の悩みを聞かなければならない。
残業か、と思いつつ、フィアンマは掃除半分に彼の話を聞く。
何でも愛する女が居て、異教徒であるが故に結婚が許されないらしい。
「…宗旨替えするか、宗旨替えさせるかのどちらかだろう」
「……残念ながら彼女が拒否をする」
「となれば、お前が変わるしかないだろう」
「それも困る」
我侭な男め、とフィアンマはため息を吐きだした。
先代も先々代も頑固な男だったが、一子相伝か何かなのかもしれない。
一つの目的の為になりふり構わない血なのだろうか。
そうだとするならば後々の子孫も大変だろうな、と思ったりして。
そんなことを考えていると、錬金術師は鬱々と愚痴を零していた。
曰く、彼女は聖女のようで愛らしく、誰にでも愛され、心配なのだ、だとかで。
「結局、お前はその女と結婚したいのか。したくないのか」
「当然として、したいに決まっている」
「なら答えは簡単だろう」
女が何と言おうが攫ってこい。
俺様が結ばせてやる。
不遜で傲慢な口調によって放たれたその言葉は、何とも身勝手なものであった。
単に(不老不死の為結婚という手順を踏む勇気の無い彼の)八つ当たりである。半分くらい。
フィアンマが帰ってこない。
今までも時々遅く帰ってくるときはあった。
が、一晩中仕事の場合でも、彼は一度帰ってくる。
「……帰ってきません」
まるで帰りの遅い父親を待ちかねた子供のように、フロイラインは呟いた。
彼女はイタリアに定住してからほとんど外に出たことがない。
故に、彼女の記憶も、割と魔女狩り時代で止まっていたりする。
「………」
頭に思い浮かべたのは、フィアンマが民衆からの冷たい視線に悲しげにしていた様子だ。
無意識に敵意を向けてしまった程、フロイラインにとって、あれは許せなかった。
もし、あの時と同じ状況で、彼が逃げられないでいるとしたならば。
それはいたく由々しき事態だ、とフロイラインは思う。
「…探しに行きます」
誰に言うでもなくそう宣言して、彼女は立ち上がる。
そして、ふらりと外へ出ていき、自らの全感覚を頼りに彼を探し始める。
家族を心配して外に探しに行く。彼女はもう、人間と呼称して差し支えない存在にまで"進化"していた。
錬金術師が女を連れてくるまで一時間。
丁寧に説教をして一時間。
結婚式を簡易的に挙げてやって二時間半。
気がつけば、時刻は深夜だった。
「……まったく」
無理やり断らなかった自分も自分だ。
故に、悪態をつく訳にもいかず。
眠い、とだるさを覚えながら、フィアンマは自宅へと戻ってきた。
フロイラインはもう眠ってしまっているかもしれない。
連絡を入れる手段を構築すべきかとは思っているのだが。
生憎便利な機器もなければ、通信霊装は使い捨てのものばかり。
ひとまず今日のことは謝罪しておくべきだろうか、と思いながら、ドアを開ける。
家の中は暗かった。荒れてはいない。
「…フロイライン?」
部屋の中を見回す。
ベッドの方も見てみたが、どうやら居ないようだ。
「………」
彼女は不老不死だ。
加えて、自分と違って"異常な頑丈さ"を持つ。
殺すどころか、傷つける事すら不可能。
魔術実験に使用するにはさぞ好都合なモノだろう。
こんな風に第三者的に彼女を解釈してしまう自分が嫌になるが、これは事実だ。
彼女はカインの末裔ではないが、似たような体質は持つ。
おそらく霊装に"加工"したところで生き続けるだろう。
「…………、」
舌打ちをしたい気分で外に出る。
彼女は魔術を扱えない。捜すのは難しい。
だが、それは探さない理由にはならない。
人さらいにでも合っていない限り、イタリア国内にはいる筈だ。
『……何故あんな事をした』
『あなたが、責められていました』
彼女だけは、喪う訳にはいかないのだ。
何をどうしたって、失いたくないのだ。
たとえ再び世界を敵に回しても、彼女には幸せでいてほしい。
自分のそばで笑っていて欲しい。微笑んでいて欲しい。
彼女が人間と呼べるかどうか曖昧な生態のモノであることはわかっている。
快適さを求め、0と1で物事を判断し、自我というものが存在しているのかも怪しい。
一般的には自分以上に化け者と判断されてしまう存在で。
人の形をした異形。痛覚はなく、恐怖も感じない生き物。
そんなことは関係無い。
彼女は自分の手を取って、笑いかけてくれた。
それだけで充分だ。必要なら世界を燃やし尽くしてでも救い出す。
「……手間をかけさせやがって」
悪態をつく彼は、怒りという感情とは程遠い表情を浮かべていた。
ここまで。
赤い服を好んで着る男性は男らしい男性だそうです。
カインの末裔が魔術使ったら怖いという話は何だったのか(震え声)
不老不死タイプとしては
レディリーちゃん:生命力循環。漏れ出さない為途絶えない。魔力を練れない。
カインの末裔(吸血鬼):本人に宿る生命力自体が無尽蔵
フロイラインちゃん:理由不明。そもそも人間であるかどうかも不可解な生命体。が、傷つかず死にもしない模様
フィアンマさん:世界に存在する様々な力(地脈、天使の力、神の祝福など)が勝手に人間用の生命力に変換されて戻ってくる。
幻想殺しが調和の取れた破壊であるならば、彼の体質は調和の取れた再生・蘇生である。(魔力を練れるが消費してもすぐ補充される)
な感じでしょうか。
トンデモ理論的なのはあることにはあるのですが。
投下。
居ない。
居ない。
居ない。
右を捜す。
左を探す。
前方を見て。
後方を振り向き。
嗅覚を使い。
視力を使い。
見つからない。
見つからない。
見つからない。
ふらふらと路地裏を歩き回り、フロイラインは首を傾げる。
その姿は親を求める子のようにも、人魂を追うバケモノのようにも見えた。
「いま、せん」
声は無感動で。
表情も無に近いものだったが、彼女は孤独を埋めるために彼を探していた。
どんな時代にも下衆な輩というものはいる。
そして、それらの人間達に常識や恐怖というものは少なく。
集団でつるんで行動しているが故に、単独の相手には強く出る。
だから、彼らはフロイラインを恐れなかった。
女が薄着で一人で不用意にも深夜に出歩いている。
それ自体が犯罪を招く状況なのだから構うまいと、彼らはフロイラインを呼び止めた。
「お嬢さん」
「?」
彼女は、のろのろと振り返る。
その女性にしては高すぎる長身に男達は一瞬だけ怯むものの、すぐに気を取り直した。
少々常人では考えられない独特な雰囲気を持つ女だが、スタイルや顔は悪くない。
「悪く思うなよ」
「あんたの無用心が悪いんだからさ」
各々身勝手な責任転嫁をして、凶器を取り出す。
首を傾げる彼女を羽交い絞めにし、男が服を裂いた。
不思議そうに首を傾げる彼女は、これから行われようとしている行為について、知らない。
サーチ術式には引っかからないと判断した為、フィアンマは自らの足で彼女を探していた。
夜更けの街は静かで、眠る人々の寝息が支配しているように思える。
今の時間に起きているのはならず者か、寝食を求める孤児位のものだろう。
「……」
騒がしい路地裏を覗いてみる。
抑えた男の声というのは存外響くものだ。
そこには、一人の女と、数人の男が居た。
性的な乱暴をする寸前なのだろうか。
女の服はナイフで裂かれ、熱狂した空気がそこにあった。
「———、」
フィアンマは、何かを言いかけて。
そんな独白に費やす時間も惜しい、と思った。
思うよりも先に身体が動き、彼女にのしかかっていた男の首がぼろりと"取れた"。
「な、何だ!?」
ざわめく男は、残り三人。
フィアンマは何を思うでもなく、ただ術式のための精神的作業のみを行い、指先を動かす。
強い衝撃を受けた男の身体が吹っ飛び、路地裏の壁へ強く叩きつけられた。
残り一人が怯えながら女を———フロイラインを盾にして事なきを得ようとしている。
彼女の服は裂かれ、陶磁器のように白い肌がやや露出していた。
辛うじて下半身はミニスカート程度にとどめられているが。
ふんわりとして紫がかった髪を男に掴まれたまま、フロイラインは無感動でいた。
自分の身に迫る危機について、よくわかっていないのだろう。
何しろ、魔女裁判の結果、理不尽な処刑を笑顔で受け入れていた女なのだから。
「それ以上来るんじゃねえ、ひっ、人殺し!!」
「………」
フィアンマは、僅かに首を傾げる。
そして、にっこりと穏やかな笑みを浮かべてみせた。
彼に悪意はない。殺意はあっても。敵意もない。
「人殺し? 冗談だろう」
笑みを浮かべたまま、彼は手を伸ばした。
その瞳には、世界の絶望を根こそぎ集めたような深淵がある。
顔を掴まれ、男はじたばたと暴れた。
フィアンマは微笑んでいた。病人を癒す救世主が如く。
ぐしゃ ぐきゃ、ぐちゅり。
そんな音がして、男は動かなくなった。
フロイラインはぼんやりとフィアンマを見つめ。
それから、まるでスイッチの入ったロボットのように、瞳に生気が点った。
「いました」
良かった、と微笑む彼女の表情に悪意はない。
言われずとも、その笑顔から大体わかってしまう。
自分が帰らなかったから探しに行って、こうなってしまったのだろうと。
それでも腹に据えかねるものがあったが、今は怒りよりも優先すべきことがあった。
「帰るぞ」
「はい」
手を引いて、すぐさま家に戻る。
死体は当然見つかるだろうが、この時間では不審死として処理されるだけだろう。
もっとも、バレたとしてねじ伏せるだけの力は持っている。
家に戻り、手を洗い。
フィアンマは、フロイラインを抱きしめた。
身長差の関係で半ば抱きつかれた形のまま、彼女は首を傾げる。
「…不思議で優しい神父様。どうかしたのでしょうか?」
フィアンマは無言で抱きしめる力を強めた。
フロイラインはしばらく考えるような素振りを見せていたが、フィアンマの髪を撫でる。
そして彼の様子に気がつくと、ほんの僅かに表情を曇らせた。
「……泣いているのですか?」
「……、」
否定はしなかった。
安心したから。
彼女が生きていて。
乱暴される前に間に合って。
怖かったから。
彼女がいなくて。
何をされるかわからなくて。
「お前は、」
だめだ、うまく言葉にならない。
唇を噛む。
うまく思考がまとまらなかった。
自分に彼女を縛り付ける権利は無い筈だ。
無い筈なのだが。
「? はい」
「……、…俺様を探さなくていい。外に出るな」
「……、…」
「此処に居ろ。俺様が呼ぶまで、招くまで、」
みっともないとわかっているのに、目からは涙が流れるばかりで。
数度緩やかで長い呼吸を繰り返し、フィアンマはフロイラインの目を見つめる。
「俺様が居ない時は此処に居ろ」
「はい、不思議で優しい神父様」
落ち着きを取り戻し。
フィアンマはフロイラインと共にソファーへ腰掛け、時計を見つめていた。
「……今日は、結婚式が多くてな。なかなか帰る事が出来なかった」
「そうだったのですか」
「……お前に苗字をやる」
「苗字」
きょと、とする彼女をちらりと見やり、フィアンマは言う。
「クロイトゥーネ、という苗字だ」
「クロイトゥーネ」
「……俺様の苗字だ」
恐らくこの言葉、及びやりとりの意味はわからないだろうな、とフィアンマは思う。
思いながらも言うのだから、自分もなかなか褒められたところのない男だ。
「わかりました。今日から、私の名前は、フロイライン=クロイトゥーネ、です」
ここまで。
プロポーズ回でした。
乙。しかしフロイラインもン百年生きてるのに、出会った当時から変わらずあまり色んな物に対する理解ができないのは…
やっぱフィアンマさんが半軟禁状態(意味深)にしてたからかね
単にキャラ崩壊しちゃ不味いからかもわからんがww
乙
ネタはアニェーゼの部隊の三人(アニェーゼとルチアとアンジェレネ)と出会うフロイライン。そして仲良く遊ぶ
いつの間にかオルソラと仲良くなっているフロイライン
リドヴィアの勘違いに巻き込まれるフロイラインとフィアンマとか
息を切らし、走り逃げる。
どうしてこんなことになってしまったのかもわからないままに。
今日だって、いつも通りの日常生活だったはずだ。
向かいの家に住む御婆さんの体調が悪かったから治してあげて。
隣の隣の家のご主人の仕事を少しだけ手伝って。
親を亡くしてから今まで、そうやって暮らしてきた。
だというのに、今日だけ、皆の様子が違う。
「居たか?」
「いや、見つかんねえ」
「前々から気色悪いガキだとは思ってたが、まさか———さんを魔術で殺すとはな」
名前が遠くから聞こえた。
その名は、自分が昼間体調を治してあげた年配の女性の名前だった。
魔術と呼ばれるようなものは確かに使ったが、殺しなどするものか。
彼女は自分に優しくしてくれたし、自分に害意は無かった。
「俺がガキの頃とさっぱり変わりゃしねえ」
「俺もそう思う。…やっぱり"カインの末裔"だったか」
その言葉のやり取りが耳に届く度、胸が痛くなる。
自分でもどうして周囲と同じように老けていかないのか不可解だった。
ずっとずっと不思議で、それでも優しくされるのを良いことに気にしないようにしていた。
嘘だったのか。
この長い間、彼らは自分を気味悪がっていたのか。
「………」
じわじわと目の前の光景が歪む。
魔術は十字教を布教しに来てくださった神父様から学んだ。
医術は一時的に身を寄せたお医者様から習った。
だから、人を殺す黒魔術なんて知らない。
知らないのに、知ったことにされて、会話が進んでいく。
彼らが歩く度に、刃物が擦れ合う音や草を踏む音が聞こえる。
「……、」
何も悪いことなんてしていないのに。
むしろ、自分は一生懸命良い事をしていたはずだ。
皆笑って喜んでくれていたじゃないか。
「……、…」
甘い夢を見るのはやめよう。
彼らは自分を異形のバケモノと同じように捉えていたのだ。
その事実は、どんな言葉を並べようと消えたり変わったりしない。
「……」
思うままに泣けば、声が出てしまう。
そうすれば居場所がバレて、恐らく殺される。
死にたくない。
痛い思いをしたくない。
カインの末裔なんかじゃない。
血を飲みたいという衝動を持ったことなどない。
あのお婆さんを殺してなどいない。
言いたいことはたくさんあったが、言うより逃げた方が良いに決まっている。
ぐしぐしと手の甲で目元を拭い、走り出す。
ひとまずこの街から抜ければ、この恐怖からは逃れられるはずなんだ。
「見つけたぞ!」
「っあ、」
「コイツ、」
髪を掴まれる。
痛い、と叫ぶことすら許されなかった。
首を絞められた上で、地面に押し付けられる。
土の苦く青臭い不味い味が口の中に充満した。
斧の刃の部分だろうか、ひんやりとした嫌な感触が首元にある。
切れたと思われる赤い髪が地面にはらりと数本落ちる。
あてがわれているのは刃物だと判断して間違い無いだろう。
「た、すけ、」
「……人殺しの魔女が。観念しろ」
命乞いをしようにも、泣きじゃくっているせいでうまく言葉にならない。
どうして、誰も助けてくれないんだろう。
この状況を知っている人はたくさんいるのに。
実際、周囲には光る不安げな民衆の瞳が沢山窺えるのに。
そのどれもが、誰もが、守らず、庇わず、許さない。
「誰でもいいから、…」
自分は何もしていない。
無実だ。
訴えても否定されるばかりで。
そこにしっかりとした根拠はないのに。
もしかしたらこれは言いがかりなのかもしれない。
不老の自分を殺すための言い訳なのかもしれない。
「神様、」
地面を引っ掻く。
どうしたって逃げられないようだ。
「……、…」
呪ってやる、と密かに思う。
自分の血で、この者達が罰を受ければ良い。
「……ルカ福音書より抜粋。…"主の名を呼ぶものは誰でも救われる"」
目を閉じて、祈りながら呟いた。
神の名を呼び、讃える。
ただそれだけで、轟音と共に雷が落ちた。
「……?」
ひんやりとした感触が、消える。
のろのろと目を開けると、炭と化した男の身体が、ゴロリと転がる。
「…え…、…?」
呆然とした声に重なって、民衆の非難と慄く声が聞こえた。
動揺のままに黙り、身体を起こすと、蜘蛛の子を散らしたかのように人が消えた。
その場に座り、炭となったモノに触れてみる。
死体だった。明らかに。
「……、…」
俺様が、神様に祈ったから。
呪ったから、雷に打たれ死んだ。
「……、」
俺様が殺したと同じだ。
これこそ、魔術で殺したといえよう。
「…う、うう、」
誰も助けてくれなかった。
誰も守ってくれなかった。
誰も救ってくれなかった。
神様でさえ、こんな仕打ちだ。
もう何も信じられない。
「……、…嫌いだ」
無罪の人間を疑う歪んだものが嫌いだ。
真っ直ぐでないものは嫌いだ。
醜いものは憎らしい。
この世界は歪んでいる。
人間はもっと美しい生き物だったはずだ。
「……」
何もかもが狂っている。
"お前達"が暴力で歪みを露呈するというのなら、それ以上の暴力をもってねじ伏せてやる。
「…一人ぼっちに、なっちゃったな…」
目が覚めた。
昔の回想、記憶そのままの忌々しい夢だった。
反吐が出る、と思いつつ、目元を拭う。
「おはようございます」
不思議で優しい神父様。
凛とした女の声だった。
のろのろとそちらを見やると、穏やかな微笑みが見えた。
彼女はハンカチを手に、自分の頬と額を拭う。
「すごい汗、です。暑さでしょうか」
「…初夏だからな」
起き上がる。
今朝の朝食は何にしようか、とうっすら考えて。
「……、…」
気分の悪さのせいで、うまく立ち上がれない。
フロイライン=クロイトゥーネは、そんな彼の様子を暫くじっと見ていた。
それから、何かで見た記憶を手繰り寄せ、彼の身体を抱きしめる。
彼に抱きしめられた時、快適だったことも思い返しながら。
「大丈夫、です」
母親が子供にそうするかのように。
その長身で彼の身体をすっぽりと包み込み、彼女は言う。
快適さをくれた彼にも、快適であって欲しいから。
それが快適という熟語だけでは表せない感覚だということまでは理解出来ていない。
「……、何の話だ」
俺様は、大丈夫だよ。
そう述べているのに、声はしっかりとしていない。
いつもの彼らしからぬ、どこか芯の腑抜けた感じがする。
そこまでは思わなかったが、フロイラインは、よくわかっていないまま、呟くように言った。
「あなたは、私が守ります、から」
ここまで。
徐々に原作に絡めていきます。
プライドで色々とこらえきり。
それでも腕を振り払う気にはなれなくて、暫し彼女を抱きしめ返した後。
一時間程してようやく元の調子を取り戻し、彼は無言で台所に立った。
朝食といっても非常にシンプルなものだ。
パンを適当に薄く切ってバターを塗り、ジャガイモを茹でて食べる、それだけだ。
粗末な食事ではあるものの、それで充分だった。
正直な話をしてしまえば、この二人に食事は必要なかったりする。
「…ん。そこの塩を取ってくれ」
「はい」
早く渡そうと思ったのか、あるいは何も考えていなかったのか。
時速にして、170km/h。
恐ろしい速さで飛んできた塩の瓶はというと。
非常に非常に残念なことに、彼の顔面にめり込んだ。
めぎゅう、という効果音が適切だろうか。
とりあえず。
痛かった。
「……」
彼は塩の瓶を手にし。
それからそっと卓上に置いて。
きょと、とするフロイラインの頬をつまみ。
「むにゅむむ、」
「……速すぎだ」
結構に容赦の無い力でほっぺたを引っ張られるフロイラインであった。
フロイライン「何をなさっているのですか」
フィアンマ「んー? "敵を最適な出力で倒す"術式といったところか。奇跡の加工だな」
フロイライン「???」
フィアンマ「理解する必要はない」
フロイライン「はい」
フィアンマ「……」カリカリ
フロイライン「……」
フィアンマ「……んー」
フロイライン「……」ジー
フィアンマ「…ん?」
フロイライン「楽しいこと、ですか」
フィアンマ「…さほど楽しくはないが」
フロイライン「……」
フィアンマ「……少し休憩にするか」
フロイライン「はい」ニコ
フィアンマ「すぐに戻る。この教会から出るなよ」
フロイライン「はい。不思議で優しい神父様」
アンジェレネ「はああー、お腹すきました」
ルチア「まだお昼には早すぎますよ」
アニェーゼ「そんなに食べてばっかりいるとブクブク肥えちまいますよ?」ガチャ
ルチア「?」
フロイライン「?」
アンジェレネ「…ええと。同胞、ですか?」オドオド
フロイライン「? …はい。私、は。ローマ正教徒、です」
ルチア「この教会はまだ建設中なので、私達は手伝いに来たのですが…」
アンジェレネ「あっ、でもチャイム鳴りました! 今鳴りましたよ! ご飯が先です!」
ルチア「シスター・アンジェレネ、あなたという人は…」
アニェーゼ「まあチャイムが鳴ったのは事実ですし。
この人の胸元にかけてあるロザリオからして同胞であることは間違いないでしょう」
アンジェレネ「お食事はいっぱい人が居た方が美味しいですよね!」
ルチア「…仮設食堂に同行しませんか?」
アニェーゼ「先約があるなら引き下がりますけどね」
フロイライン「先約は、ありません。教会の中ならば、ご一緒します」
アニェーゼ「…で、結局遊ぶ流れになっちまう訳で」
アンジェレネ「上がりです!」
フロイライン「…難しい、です」
ルチア「この場合はこちらのカードを出していくんです」
アニェーゼ「相変わらずの面倒見のよさですね」
アンジェレネ「たまに怖いですけどね!」
ルチア「…何か言いましたか?」
アンジェレネ「!! な、なにも!」ヒシッ
アニェーゼ「しがみつかないでください、皺になっちまいますから」ハァ
ルチア「まったく…」
フロイライン「………」
アンジェレネ「じゃあまた!」
フロイライン「はい、また」
ルチア「また会うことがあれば。どうかお元気で」
アニェーゼ「われらが主のご加護のあらんことを」
フロイライン「…彼が戻ってきません」ポツリ
オルソラ「失礼するのでございます」ガチャ
フロイライン「……」
オルソラ「あら? 先客がいらっしゃったのでございますね」
フロイライン「…」コク
オルソラ「どうぞ」
フロイライン「…飴、でしょうか」
オルソラ「渋柿飴でございます」
フロイライン「……」ムグムグ
オルソラ「そういえば、あなた様はどなたかと約束していらっしゃるのでしょうか?」
フロイライン「約束のようなものは、しています」
オルソラ「渋柿飴は喉に良いのでございますよ」
フロイライン「喉に、良い」キョト
オルソラ「約束のようなもの、というのは曖昧でございますね」
フロイライン「ここで待っていろ、とのことでしたから」
オルソラ「渋柿飴は唾液が出るので、喉が潤うのでございますよ」
フロイライン「喉が、潤う」コクン
フィアンマ「…遅くなったな。変わりないか」
フロイライン「沢山の人と、話しました」
フィアンマ「ほう」
フロイライン「渋柿飴は、喉に良いそうです」
フィアンマ「……」
フィアンマ(誰と話していたんだ…?)
フロイライン「大富豪というものをやりました」
フィアンマ「…ああ、トランプのゲームか」
フロイライン「昼食もいただきました」
フィアンマ「そうか」
フロイライン「…お疲れ、様でした」
フィアンマ「……ん」
ここまで。
この後の流れは決まってるので、日常ネタを提供してくださる方がいらっしゃいましたら今の内にお願いします…。
インちゃんの首輪をうっかり破壊しちゃったフロイラインマ達
>>202は叶えられないですが…ほとんどの方のネタを取り入れさせていただきます。
皆様ありがとうございます!
投下。
フロイライン「お昼寝が、したいです」
フィアンマ「すれば良いだろう」
フロイライン「不思議で優しい神父様も」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「…数時間だけだ。わかったな」
フロイライン「はい」コクン
フロイライン「……」スヤー
フィアンマ「………」スヤァ
フィアンマ「……午後八時半…だと?」
フロイライン「おはようございます。不思議で優しい神父様」
フィアンマ「……」
フロイライン「お腹がすきました」
フィアンマ「今、お前がそう言うと思っていたよ」
フロイライン「預言者に転職なさったのですか?」
フィアンマ「いつものパターン、というやつだ」
フロイライン「ピザが、食べたいです」
フィアンマ「朝からか?」
フロイライン「……」
フィアンマ「…ダメだ」
フロイライン「……、」
フィアンマ「手間と時間がかかる」
フロイライン「食べたいです」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「…わかった。暫く待っていろ」
フィアンマ「…石窯に火を入れるのはいつ振りだったか」
フロイライン「……」ジー
フィアンマ「手伝、……やはり良い。座っていろ」
フロイライン「……」ストン
フィアンマ「…んー」
フロイライン「……」
フィアンマ「……人と土地を焼くのは上手いのだが、これはダメだな」ハァ
フロイライン「焦げていますが、美味しそう、です」
フィアンマ「……あまりお勧めはせんがね」
フロイライン「食べます」モッサモッサ
フィアンマ(……時折コイツにきちんと味覚があるのかどうか不安になる)
フロイライン「猫を拾いました」
フィアンマ「戻してこ、……三毛猫とは珍しいな」
フロイライン「にゃー。…ダメでしょうか」
フィアンマ「ダメに決まっているだろう」
フロイライン「……」
フィアンマ「……確かにあの時"この時代が終わったら"とは言ったが」
フロイライン「三毛猫は、ダメですか」
フィアンマ「……却下だ。…里親を探すんだな」
フロイライン「……にゃー」
猫「にゃー」
フィアンマ「…少し行ってくる。この時計台の付近に居ろ」
フロイライン「はい。行ってらっしゃいませ」コクン
少女「うう…」
フロイライン「??」
少女「おねえちゃん」
フロイライン「? 私は、あなたの姉ではありませんが」
少女「わたしのおかあさんしらない?」
フロイライン「お母さん?」
少女「あのね、せがたかくてね、でもおねえちゃんよりはひくくてね、」
フロイライン「はい」
少女「きんいろのかみのけでね、めのいろが」
フロイライン「……」
少女「いっしょにさがして!」
フロイライン「…はい。わかりました」
フィアンマ「……また失踪か。今回は自分の意思で動いたのだろうが…」
フィアンマ(見当たらん)
フィアンマ「……サーチをかけるか」
フィアンマ(まあ、国外ということはないだろう)カリカリ
フィアンマ「……何故国外なんだ…」
フィアンマ「何をどうしたらここまで迷子になれる…?」
少女「あっ、おかあさんいたあ!」
母親「…どうして、こんなところまでっ、」
フロイライン「良かった、です。見つかって」
母親「ッ!」ギロ
フロイライン「…?」
少女「おかあさん、いっしょにかえろ!」
母親「……ええ、………そうね…」
フィアンマ「…思いの他買い物が増えたか」
フロイライン「一週間保ちます」
フィアンマ「お前の食べる量に左右されると思うが」
フロイライン「明日はリゾットが食べたいです」
フィアンマ「明日はパエリアだと決めている」
フロイライン「……」ウーン
フィアンマ「……」
フロイライン「では、リゾットをメインにパエリアを副菜にしましょう」
フィアンマ「……」
オリアナ「あら?」
フィアンマ「…『追跡封じ』か」
オリアナ「うふ。確かにその呼び名で間違ってないけど、今はオフ。もっと色気のある感じで呼んで欲しいものね?」
フィアンマ「年端もいかん女が何を言う」
オリアナ「やっぱり年上って素敵ねぇ。思わず濡れちゃいそう。スカートびちゃびちゃになっちゃう」クスクス
フィアンマ「…まったく」
フロイライン「……」
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「何だ。余計なものを買いたいなら一度帰宅してからにしろ」
フロイライン「スカートが濡れる、とは何でしょう」
フィアンマ「聞くな」
フロイライン「気になります」
フィアンマ「言うな。黙っていろ」
フロイライン「年上だと、何故濡れるのでしょう。スカートが濡れるということは、何かが分泌されるということでしょうか」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「自分のスカートを捲って確かめようとするな。思考せずに黙っていろ。…頼むから」
フロイライン「……」ウーン
フロイライン「先ほどのお菓子が気になりました」
フィアンマ「そうか」
フロイライン「購入していただけますか?」
フィアンマ「お前が食べきると約束出来るならな」
フロイライン「大丈夫、です」コクン
フィアンマ「…最近迷子の頻度が増しているな…」
リドヴィア「何やらお困りのようで」
フィアンマ「随分と神出鬼没だな、リドヴィア=ロレンツェッティ。確かに俺様は今困っている」
リドヴィア「どなたかとはぐれたので?」
フィアンマ「ああ。女が一人。…困ったものだ」
リドヴィア(これはもしや駆け落ちの類ですので?
ああ、何という困難。何という辛苦。私が手助けし、救わなければ。
かの聖ヴァレンティヌスの如く、彼らを救わずして誰を救うこというのでしょうか)
リドヴィア「挙式までお任せしてくださって構いませんので」キリッ
フィアンマ「……おい?」
《>>227 ×救うこと ○救うと》
ヴェント「ナルホド。それで花嫁衣装が贈られてきたワケか」
フィアンマ「不要だと言ったのだが、相変わらず人の話を聞かん女だ」
ヴェント(アンタがそれを言うのか)
ヴェント「ま、見つかったんだからイイんじゃないの?」
フィアンマ「…そうだな」
ヴェント「ああ、そうだ。一回出て行って」
フィアンマ「何だ、唐突に」
ヴェント「イイからイイから」
フィアンマ「出て行くから押すな」
何やら勘違いしまくったリドヴィアは、フロイラインを見つけ。
彼女のサイズを計測し、それに見合ったウェディングドレスを購入した。
それをフィアンマに押し付けた上、聖ピエトロ大聖堂まで送ってきたのだった。
運が良いのか悪いのか、恐らく後者だろう、そんなところをヴェントに捕まり。
にやにやといろいろ揶揄された上、現在、部屋から追い出されたフィアンマである。
「…今日はアンラッキーデイだな」
ロクな事がない、とため息をつきかけ。
ため息をついては更に気が滅入ってしまう、とどうにか堪えた。
と。
ガチャリ、とドアが開いた。
中からは、やや硬質な足音。
視線を向ければ、そこには一人の花嫁が居た。
薄く化粧を施された白い肌。
どこか無機質な、陶磁器を思わせる印象。
非力に見える細く長い腕は、白く長い手袋に覆われている。
覆われていない部分は、ヴェールの下に。
紫がかった長くふんわりとした髪はまとめあげられ。
長い長いマリアヴェールが、彼女の髪を隠していた。
長い丈の白いドレス、フリルの裾が華奢な彼女の足を隠している。
履いているのは白く磨かれた磨硝子のヒール。
ガラス玉のように透き通った瞳。
まるで人形のような、それ以上の厳かな雰囲気を湛えた聖女。
綺麗だ、とフィアンマは思う。
「不思議で優しい神父様」
彼女のつやつやとした唇が動き、呼ばれた。
「……何だ?」
「似合っていますか」
誰かを真似たのか、本当に何か考えているのか。
どちらでもいい、と彼は思った。
問いかけに対し、笑みを浮かべながら、素直に、本当に素直に、フィアンマは答える。
「すごく、綺麗だ」
ここまで。
>>221と>>223の間に
フロイライン「……困りました。帰り道がわかりません」ウーン
フィアンマ「…探したぞ。いくつ国境を越えれば気が済むんだ?」
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「時計台近くから動くな、と言ったはずだがね」
フロイライン「女の子の親を、捜してあげていました」
フィアンマ「……そうか」
フロイライン「…どうか、なさいましたか?」
フィアンマ「……いや、何も」
フィアンマ(探すのに国境を越えた時点で"売られた"子供だったということには気づかない、か)
フロイライン「帰りましょうか」
フィアンマ「そうだな。…しかしお前が言う事でもないと思うぞ」ハァ
が入ります。
投下ミスすみません。
母親に売られた
↓
子供よくわかってない
↓
フロイたんもよくわかってない
↓
なんで売ったのに戻ってきてんだよゴルァァ!!!って
ことじゃねぇの
謎メイドSから「女が男を従わせるぐらいじゃだめだ」みたいなアドバイスを貰い実行するフロイライン
ナンパされるフロイライン(そして怒るフィアンマ)
銀行強盗に巻き込まれる2人
2人でドライブ
フロイライン「綺麗、ですか」
フィアンマ「ああ」
フロイライン「…ありがとうございます」
フィアンマ「不可解そうに言われてもな」
フロイライン「…ふわふわしています」
フィアンマ「ドレスとはそういうものだ」
フロイライン「……」
ヴェント「…デレついて気色悪い顔になってるケド?」
フィアンマ「表情筋の動き位把握している」
フロイライン「……」
フィアンマ「……まあ、その格好で帰れる訳ではない。着替えてこい」
フロイライン「はい。不思議で優しい神父様」
翌々日。
フィアンマは非常に残念なことに、風邪を引いた。
本当に珍しいことだ。普段は風邪など引かない。
死ぬレベルの病気にかかったとして、症状に苦しめられながらも死ねないのが彼の悲しき運命である。
風邪はそれほど辛いレベルに分類されないため、フィアンマはとにかく眠ることにした。
熱が出ている時は大人しく安静に眠り続け、汗をかいて治してしまうのが確実だ。
古典的な方法が何だかんだで一番なのだから、と彼はぼんやりと思う。
少し心配なのは彼女の食事等だが、彼女は彼女で適当にやってくれるだろう。馬鹿ではないのだから。
「……」
眠い。
寒くなったり暑くなったりを繰り返して不愉快だ。
一度だけ咳をして、フィアンマは沈黙し、数度深呼吸する。
目をつむってしばらく耐えていると、ふと、額にひんやりとした感触があった。
「…?」
目を開ける。
フロイラインの細い指が見えた。
「看病、します」
額に乗せられているのは、冷たい氷水を含ませたタオルのようだ。
力はあるはずなのに勝手が掴めていないのか、水気が多すぎる。
彼女はそう告げると、台所へ消える。
暫く様子を窺っていると、良い匂いがしてきた。
ブイヨンでパスタを煮込んだもの。
日本でいうお粥にあたるイタリア料理だった。
「…できました」
宣言と共に運ばれてきた器の中身は温かく。
食欲がない、と言えば、パターン通り、"良いから食べてください"。
息を吹きかける動作はどこで習ってきたのだろう。
首を傾げている内に、スプーンが口元に運ばれた。
スープは味が薄すぎて、お世辞にも美味しいとは言えない味。
素材本来の味、などと言葉を取り繕うにしても少々厳しいものがある。
だが、一生懸命やったのだろう。
0と1の思考を繰り返し、繰り返し。
精一杯努力したのは、自分の看病の為。
こんな風に尽くしてくれたのは、遠い昔、世話になった医者しかいなかった。
僅か、涙が出そうになり。
歯を食いしばった上で、フィアンマは一度深呼吸をした。
「……今から言う比率で材料を混ぜてもってこい」
ぼんやりとした頭を働かせ、言葉を紡ぐ。
砂糖や塩、水。全部混ぜれば市販のスポーツドリンクと同じものが出来上がる。
言われたままの配分や材料とはいえ、彼の為に何かが出来ることが嬉しいのか、どうか。
理由は不明だが、フロイラインは健気に、懸命に、彼の言葉を聞いて取り組んでいた。
フィアンマ「…だいぶ良くなった。外出するか」
フロイライン「はい」
フィアンマ「……」
フロイライン「…止まってしまいました」
フィアンマ「…故障か。落下したところで死にはしないが」
フロイライン「エレベーター会社向け通報ボタン…これでしょうか」
フィアンマ「押しておけ」
フロイライン「はい」ポチ
フロイライン「…暑い、です」
フィアンマ「脱ぐなよ」
フロイライン「? 何故ですか」
フィアンマ「…女だからだ」
フロイライン「???」
フロイライン「ところで、どちらに行きますか」
フィアンマ「銀行だ」
フロイライン「銀行」
フィアンマ「手持ちの金が少なくなってきたからな」
フロイライン「……」テクテク
フィアンマ「…お前はそこで待っていろ」
フロイライン「はい」チョコン
フィアンマ(暗証番号はいくつだったか)
強盗「手を挙げろ!!」
強盗2「テメェら全員だ!!」
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ「…懐の広い俺様といえど流石に許容出来ん。顔面の形が元に戻らなくなるまで殴るか」
フロイライン「お疲れ様でした」
フィアンマ「やりすぎてしまった。ストレスが溜まっていたとはいえ」
フロイライン「顔に血がついています」フキフキ
フィアンマ「ん、…」
フロイライン「過剰防衛扱い、ですか」
フィアンマ「いや、銃を突きつけられてからやったからな」
フロイライン「良かった、です」
フィアンマ「別に捕まっても問題無いのだが」
フロイライン「檻は……良くない、です」
フィアンマ「……そうだな」ナデナデ
フロイライン「はぐれてしまいました」ウーン
男「ねえ彼女、暇?」
男2「暇ならさ、俺たちと遊びに行こうよ」
男3「ね?」
フロイライン「………帰らないといけません」
男「そう言わずにさ、」
フロイライン(腕を掴まれてしまいました)
シルビア「嫌がってるでしょうが」
男2「あ? 何だこのおばごッ」
シルビア「ん?」
男2「」プシュウ
男「や、やべえ」ダッ
男2「逃げようぜ」ダッ
シルビア「…腰抜け腑抜け」ハァ
フロイライン「ありがとう、ございました」
シルビア「ん? ああ、いいのいいの。…あの馬鹿から感染ったかな」
フロイライン「?」
シルビア「ああいう時は毅然とした方が良い。女が男を従わせる位が良いんだよ」
フロイライン「女が男を従わせる、ですか」
シルビア「そうそう。ま、お節介だけど。絡まれないように自衛しなよ」スタスタ
フロイライン(神父様とはまた違う形で、不思議な人です)キョトン
フィアンマ「…ようやく見つけたぞ」
フロイライン「不思議で優しい神父様」テトテト
フィアンマ「…何をしていたんだ?」
フロイライン「男性数人に連れて行かれそうになり」
フィアンマ「……」ムス
フロイライン「女性に助けていただきました。不思議で優しい神父様」
フィアンマ「何だ」イライラ
フィアンマ(はぐれたかと思いきやすぐに絡まれやがって、)
フロイライン「女が男を従わせる方が良いものなのでしょうか?」
フィアンマ「そういう家庭も近頃はよくあるらしいがね」
フロイライン「……不思議で優しい神父様」
フィアンマ「何だ」
フロイライン「ずっと、私の傍に居なさい」キリリ
フィアンマ「……張っ倒すぞ」
今回はここまで。
個人的にはオッレルスさんは速水奨さんが良いです(小声)
投下。
フロイライン「不思議で優しい神父様」
フィアンマ「何だ」
フロイライン「その鍵は何でしょう」
フィアンマ「車の鍵だが」
フロイライン「運転なさるのですか?」
フィアンマ「少し届け物をするのだが、…たまには科学的な移動をしようかと思ってな」
フロイライン「……」
フィアンマ「…お前も来るか?」
フロイライン「…」コクン
フロイライン「安全運転、ですね」
フィアンマ「早く走ってもどうにかなるものでもないしな」
フロイライン「免許は」
フィアンマ「持っていた。というよりも、取得したというべきか」
フロイライン「? いつ頃ですか」
フィアンマ「帰りが遅い事が多かった時期だ」
フロイライン「納得しました」
フィアンマ「…で、冷房が気に入ったのか」
フロイライン「どうして風が出るのか気になります」チョイチョイ
フィアンマ「一応は借り物の車なんだ。壊すなよ」
フロイライン「…壊れてしまいました」バキッ
フィアンマ「……人の話を聞け」
フロイライン「あーん」
フィアンマ「何だそれは」
フロイライン「……」
フィアンマ「……自白剤?」
フロイライン「」グイッ
フィアンマ「むぐ、」
フロイライン「手を握ってください」
フィアンマ(言う事を聞かせる類の薬品か)キュ
フロイライン「……抱擁してください」
フィアンマ(どこからこんなものを入手したんだ? 心当たりが多すぎて絞り込めん、)ギュウ
フロイライン「……」ム
フィアンマ「……」
フロイライン「……従うより、従わせる不思議で優しい神父様の方が、安心します」ムムゥ
フィアンマ「…それは亭主関白好みだという話をしているのか?」
フロイライン「旅行ですか」
フィアンマ「…たまには過去を振り返るのも悪くないと思ったのだが」
フロイライン「……」ジー
フィアンマ「……」
フロイライン「……」
フィアンマ(飛行機のチケットがそんなにも珍しいと感じるのか。いや、習性だな)
フロイライン「何処に行くのでしょう」
フィアンマ「日本の予定だが」
フロイライン「行くのは初めてですね」
フィアンマ「世界中のほとんどを回ったが、確かに初めてだな」
フロイライン「空港は興味深い、です」
フィアンマ「それは結構なことだが売店から離れろ」
フロイライン「くんくん」
フィアンマ「……」
フロイライン「美味しそう、です」
フィアンマ「……欲しい物をそこの黒い籠に入れろ」
フロイライン「はい」ガッサゴッソ
フィアンマ「……」
フロイライン「……マリモジュース…」
フィアンマ「…あまりゲテモノは買うなよ。言ったところでムダだとは思うが」
フロイライン「メロンゼリーは良いですか」
フィアンマ「出来る事ならそういうものばかりを購入して欲しいところだ」
フロイライン「雲が近くに見えます」
フィアンマ「まあ、上空だしなぁ」
フロイライン「前の方でがさごそと何かを準備しているようですが」
フィアンマ「…準備?」
フロイライン「??」
男「お前ら全員腕を頭の上で組め! 今死にたくねえならなあ!!」
フロイライン「…銃です」
フィアンマ「……俺様の幸運も尽きてきたということか」フゥ
今回はここまで。
特に理由の無い捕食がテロリストを襲う。
乙
いや、そこは「特に理由の無い捕食が浜面を襲う」だろ!(なぜ浜面なのかは浜面だから)
あとネタはテレビのアニメに影響されるフロイライン
乙。ハイジャック犯はスタッフ(ふろいらいん)が美味しく頂きました
豆しば「ねぇ、知ってる?自分の乗る飛行機がハイジャックされるのは、宝くじに当たるよりも確率が低いんだってー」
つまり、そんな超低確率を引き当てるフィアンマさんマジパねぇ
フロイライン「しかし、ハイジャックに遭遇する確率は低いらしいです」
フィアンマ「ああ、……幸運過ぎるのも考えものだな」
フロイライン「腕は組みますか」
フィアンマ「んー。…お前は組んでおけ」
フロイライン「? 不思議で優しい神父様はどうなさるのですか?」
フィアンマ「…見た様子では自爆テロのようだしな。止めるしかあるまい」
フロイライン「……」
フィアンマ「…何だ」
フロイライン「お手伝い、したいです」
フィアンマ「ダメだ」
防御術式に対する絶対の自信。
自分は死ねないという不変の事実。
この二点を元に、フィアンマはゆらりと立ち上がった。
たとえ何を出されようが、死ぬ気はしない。
露払いが居ない以上、自ら手を出す他に道はない。
「おい、」
男の声を遮る形で、拳銃の先端を掴む。
そのまま強引に彼の胸元へと向けさせた。
恐ろしい握力で手首を掴まれ、男は戦慄する。
だが、その表情にはどこか楽しそうな色が見えた。
「準備、終わったぞ」
別の男の声。
カチ、カチ、と規則正しい音が聞こえた。
視線を向ければ、そこには小さなブラックボックス。
「……やはり自爆テロか」
「世界初、世界に一つ。この俺様のお手製爆弾だ。
威力はまぁ…この飛行機に乗ってる乗客全員を殺す位はある。
暴れるも脱出するも勝手だが、操縦席は俺様の仲間が握ってる」
妙な気を起こせば、爆発時刻を早める。
その言葉に、何の力も持たぬ一般乗客はパニックを起こした。
具体的に言えば外に出ようとしたのだ。
上空2000メートルは軽く越えている地点から勝手に落ちればミンチではすまないのに。
「俺様と仲間の死は、我々の神の崇高なる名を世界に知らしめることになるだろう」
傲岸な話し方が何となく気に障る。
フィアンマはほんの少しだけ考えて、まず目の前の男に蹴りを入れて昏倒させた。
無力化させるべく拳銃を奪い、握りつぶして放り捨てる。
元より機内で銃を撃つつもりなどない。流れ弾が一般人に当たれば大問題だ。
ちら、と後ろを見やる。
やや遠くの席で、フロイラインがじっとこちらを見つめていた。
何の感情も浮かんでいないが、恐らく一言言えばこちらにくるだろう。
だが、彼女を危険に晒したいとは思わない。
自分がやることは、この眼前の危機を徹底的に破壊して安息を得る事だ。
今までだってそうしてきた。これからだってそうする。
何を壊しても誰を殺しても。
彼女との日常を保ってきたのだから。
「……死ぬ事が最終目標。故に抵抗しない訳か」
「ああ。…なるべく多くの人間を殺せればそれで良い」
「くだらんな」
一刀両断するも、目の前の主犯の顔色は変わらない。
フィアンマは右手を振り、空中から取り出した縄でもって、彼らを縛ることにした。
フィアンマが操縦席の方へ移動したことで、一時的に機内は静かになった。
ただ、静かになればなる程、爆弾がリミットを刻む音がいやに耳につく。
パニックを起こした一般乗客達は優秀な添乗員達が宥めたらしく、怯えながら席についている。
フロイライン=クロイトゥーネは。
0と1の思考回路、特殊な『機能』、擬態の繰り返しで生活している。
彼女は常に生活の中から知識やインスピレーションを得ることにより、"進化"する生き物だ。
そして、彼女は今、少し過去の出来事を思い出していた。
テレビで見た、アニメの映像だった。
主人公らしき女の子が特殊能力を発揮し、爆弾を解体するのだ。
確か彼女は、何か———知識となるものを"食べて"爆弾を解体していた。
フィアンマと男のやり取りから考えて、爆弾は解体されるべきものなのだろう。
「……」
もう少しだけ考えてみる。
なら、食べられる、且つ、爆弾を解体出来る知識となるものは何だろうか。
フロイラインの視線が。
ぎょろり、という音でもせんばかりに動いて。
『世界初、世界に一つ。この俺様のお手製爆弾だ』
下卑た笑みを浮かべる男を、捉えた。
「安全運転を続けてくれ」
操縦席にてパイロットを脅していた"仲間"を無力化し。
同じく縄———正確には捕縛霊装で縛り上げたフィアンマは、操縦士達にそう言った。
パニックを起こさぬよう、精神的に落ち着けるよう、時折術式を用いつつ。
「…後は"アレ"か」
ぽつりと呟く。
一般乗客の前で拷問するのはどうかとは思う。
思うのだが、爆弾の解体方法は聞き出すしか他に手はない。
操縦士と一言二言交わし。
フィアンマが乗客達のところへ戻ろうとしたところで。
多人数のものと思われる、絶叫が聞こえた。
ぐちゃ。 ずちゅり。
嫌な水音が響いていた。
フロイラインは、一心不乱に、人を救う為に、"食べていた"。
彼女の手は、白、或いは薄ピンクとも呼べる色で染まっていた。
血液ではない。もっと別の、口にしたくないようなものだ。
「…フロイライン」
乗客席へ戻ったフィアンマは、それを見た。
フロイラインは無表情で、ひたすらに"中身を掻き出して"それを食べている。
それを貪る事で、さらなる進化を遂げる為に。
その脳が所有している知識を得て、情報を得て、誰かを救うために。
これまで人間として保ってきた殻を破って、彼女は彼女の本分を全うしていた。
フィアンマは、失望しない。
絶望しないし、嫌いにもならない。
ただ、この状況は哀しい事だった。
ずるる。
ともすれば呑気な音と共に、最後の捕食が終わる。
フロイラインの口周りも、手も、汚れ、穢れきっていた。
「これ、で」
とうとう、ピクリとも動かなくなった男の身体を見つめ。
フロイラインは知らず知らず、自分が選んだこととはいえ、ぼろぼろと涙を流していた。
だって、こうする他にどうすれば良かったというのだ。
皆を救う為には、こうするしかなかったのだ。
どれだけ言い訳をしても、自分が"食べた"ことは変わらない。
自分は、絶対に。
フィアンマがどんなに努力してくれても。
普通の人間には決してなれないということを、フロイラインは今、初めて理解した。
泣きながら、無理矢理に微笑んで、聖女<まじょ>は言う。
「爆弾を、壊す事が出来ます。…皆さんは、安心してください」
本当に、悲しくも。
彼女のその言葉に安心の情を覚えられる優しい人間など、一人も居なかった。
今回はここまで。
お食事回でした。
乙
なぜか
「ここに人間はいなかった。一人もな」
「今までに「人」を殺した事は 一度もない」がよぎった
投下。
ギチリ。
彼女の中で、何かがハマる音がする。
定着した知識を元に、思考を繰り返す。
判断を繰り返しながら爆弾に近寄り、解体を開始した。
導線を正しく切り、爆発しないよう慎重に壊していく。
最後の線をパチリと硬い爪で切れば、それはもはや不発弾ですらないガラクタ。
火薬の入ったただの箱。燃やさなければ爆発しない。
「……終わり、ました」
振り返る。
たった一人を除く乗客の冷たい視線が、彼女を睨んだ。
人間として最適化してきてしまった彼女は、今や情緒に近いものを獲得している。
だから、辛いと思った。悲しいと思った。苦しいと思った。辛いと感じた。
「ご苦労」
怯えと敵意の混じった視線に言葉を噤むフロイラインの目元を。
一人の青年の手のひらが優しく覆った。
それが誰かなど、わざわざ説明するまでもなかった。
「不発弾以下の代物に成り果てたとはいえ、火薬は健在だ。
着陸後、危険物処理のスペシャリストにでも改めて連絡すべきだろう」
「ぁ、」
「……お前のお陰で、多くの人間の命が助かった」
フロイラインに何も見せず。
優しく言って、フィアンマは彼女の手を握った。
同じように手が汚れても、何とも思わなかった。
「少し、疲れただろう。休め」
様々な手続きを終え。
フィアンマは荷物を引きつつ、眠るフロイラインを背負いつつ、歩いていた。
少し時間はかかってしまったが、予定より少々遅れた程度。
無事日本に到着出来たのだから、それなりに喜ばなければならないだろう。
「……」
ぱちり。
彼女が目を覚ます。
フィアンマの髪が目の前にあった。
安心する、と彼女はぼんやりと思った。
彼と一緒にいると、それだけで全てが解決するような気がするのだ。
自分が異常であることも。
自分が辛いと感じたことも。
何もかも、彼が何とかしてくれるような気がして。
「目が覚めたか」
ホテルのフロントでキーを受け取り。
無事部屋までたどり着いてドアを開け、彼女の身体をベッドへ下ろす。
日本の空港で身を清めることは出来たので、風呂に入る必要まではない。
乗客達は口に出しては自分達も喰われると思ったのか、フロイラインの行為については口をつぐんだ。
故に最低限の事情聴取だけで難を逃れる事が出来たのだった。
少し眠って、疲れをとった後。
散歩をしたい、と言い出したフロイラインに、携帯電話を持たせた。
レンタル式のもので、防犯ブザーの役割を果たすものである。
ピンが抜かれればフィアンマに通知が行く。それで充分だ、とフィアンマは思った。
彼女を束縛する権利はないのだから、と今一度認識し直す。
「行ってきます」
言って、彼女は出て行った。
何か思うところがあるのかもしれない。
時には一人にさせる時間だって必要だと、思う。
フロイラインは、ぼんやりとした表情で歩いていた。
何も考えないでいたいのに、先ほどの感触が忘れられない。
自分はどこまで醜い生き物に堕ちれば気が済むのだろう。
「うわっぶ」
小さい子供とぶつかった。
ツンツンとした黒髪の少年。
まだまだ身長もさほど無い彼は、フロイラインの長い丈のスカート内に入ってしまっていた。
羞恥心というものの存在しないフロイラインは、不思議そうに首を傾げる。
と、そこへ父親らしき男性が走ってきた。
「す、すみません! ウチの息子見てませんか!」
言って、身体的特徴を告げられる。
その言葉を聞き、フロイラインは自分のスカートを見やった。
不自然にもこりと膨らんでいるのは、決して風のせいではない。
「…当麻?」
男が呼びかけた。
スカートがばっと内側からめくられ、少年が出てきた。
「げっ、とうさん」
ふんわりと広がる薄手のスカート。
バッと出た瞬間に、強すぎる突風が吹いた。
父親から逃げようとする少年。
少年を捕まえようとする父親。
その両方が、フロイラインのパンツを見ることになった。
フィアンマは少し寝直そうかと思ったものの。
空腹を感じて外へ出た。
別にフロイラインが心配だから探しにいった訳ではない。
問いかければ百パーセント彼はそう言うだろうが、外出理由の半分はそれである。
「……」
どれを見ても美味しそうに見える。
聞けば、日本の料理に不味いものはまず存在しないと言う。
流石にそれは比喩表現込みだろうとは思うのだが。
「……後にするか」
飲み物だけを購入してコンビニから出る。
良いものがたくさんあるというのも考えものだ。
どうしたって悩んでしまってうまく決められない。
そうして、しばらく歩いている内。
フロイラインと、二人の男を発見した。
一人は年端もいかぬ少年である。
が、フィアンマが問題だと思ったのはそこではない。
彼女のスカートが盛大にめくられているところである。
「おい」
父親———生粋な女たらしである上条刀夜は、声の発信源を見た。
そこには、若き一人の青年が立っていた。
近くにいるこの女性の恋人なのだろうか、並々ならぬ怒りの雰囲気を感じ取れる。
武器として拾ったのだろうか。
彼の手には鉄パイプが握られているのだが。
怒りのあまり握りすぎたらしい、パイプは半分のところでポッキリと折れていた。
「……生きて帰れると思うなよ…」
ゆらり。
彼が一歩近づく度、これは死へのカウントダウンだと直感が囁く。
父親は幼い少年を抱き上げ、一度だけ深く強く息を吸い込んで。
やがて大きくなった息子が口癖とする言葉を言って、走り逃げ始めた。
「不幸だ!!!!!」
恐ろしい速さで走る男を追いかけようとするフィアンマの手を、フロイラインが掴んだ。
ふるふると首を横に振る彼女に、フィアンマの怒りがあっという間に治まっていく。
愛情とは強くもとてつもない効果を発揮するものである。
その気になれば世界を壊せる男の手をあっさりと止めるのだから。
「…お前はもう少し羞恥心を持て」
ふてくされたような彼の要求に、フロイラインは小首を傾げた。
「羞恥心というのは、どうすれば所持出来るものなのでしょう?」
「……わかった。警戒心を持て」
「……警戒心とは、美味しいものなのでしょうか」
「………」
やっぱりダメか。
がくりと項垂れそうになりながら、フィアンマはフロイラインの手を引いた。
「…食事にする。空腹だ」
「はい。不思議で優しい神父様」
食事を終えて。
三日間程、様々な場所を遊び歩いた。
ゲームセンター。
水族館。
動物園。
遊園地。
一般的にアミューズメントと形容される場所に行った。
多くのものを口にし、目にし、耳にして。
楽しい時間を過ごせたはずだ、とフィアンマは思う。
実際、フロイラインも何度か楽しいとは感じた。
だが。
坂の上を転がり落ちるボールは。
いかにストッパーを置かれても、それを弾いて堕ち続ける。
「不思議で優しい神父様」
ホテルの部屋に到着して。
さて寝ようかどうしようかと少々の疲れを抱く彼の袖をくいくいと引き。
まるでお菓子でも強請るかのような、それでいて無機質な愛らしさで。
それでも、誰よりも澱み絶望を湛えた瞳で、彼女はこう言った。願った。
「わたしを、殺してください」
今回はここまで。
乙。今までのどこに死にたがる理由が…
脳食か、ぱんつか…
何色のパンツだったのやら
いよいよラストスパート。
>>324
恐らく白のパンツだと思います。
投下。
頭から氷水をかけられたかのようだ。
そう思ってしまう程、フィアンマは衝撃を受けていた。
動揺していることに気がついたのは、少し時間が経過してから。
沈黙を続けるフィアンマの態度をどう解釈したのか。
フロイラインは、静かに、ぽつりぽつりと言葉をこぼす。
「私は、……人の脳を口にしました」
「………」
「乗客の皆さんを助ける為に。……自分の意思と、『機能』によって」
「……」
「私は、恐らくずっとそういう生き物だったのでしょう」
確かに、その解釈は間違っていない。
彼女は人道的・非人道的な『機能』を獲得し、変化していく生き物だ。
赤ちゃんが掴まり立ちをするように、彼女は脳を啜る。
幼い子供が言語を学ぶように、彼女は情報を吸収する。
いつしか子供は大人になるように。
彼女は『羽化』をする。
それがどのような結果になるかは誰も知らない。
知らないが、恐ろしい事態であることは間違いないだろう。
「私は、」
彼女は、笑っていた。
笑いながら、泣きそうな顔をしていた。
ずっとずっと昔、フィアンマが誰にも守ってもらえなかった時の笑顔と同じ。
見ているだけで胸がきつく締め付けられる、痛々しい笑顔。
「いつか、不思議で優しい神父様のことも、傷つけてしまう日が来ます」
それだけは避けたい、と彼女は言った。
フィアンマとしては、彼女に傷つけられても良かった。
多少の傷なら、痛みなら、慣れきっている。
彼女の『機能』や『本能』に基づく行動の大半なら、耐えられる。
が、彼女は優しすぎた。あまりにも温かい心を持ってしまった。
だから、耐えられない。
いつの日か、自分が大切だと思っている彼を傷つけることが。
実際にそうなるかどうかではなく、その可能性そのものすら。
「お願い、します」
殺してください。
再度の懇願。
本当に彼女を救おうと考えるのなら、殺してやるべきだ。
フィアンマは、『聖なる右』という特殊な術式を保有している。
目の前の試練を最適な力で乗り越えるこの力を使えば、或いは彼女を殺す事が出来るだろう。
「……」
フロイラインが、目を閉じる。
フィアンマは、右拳を握った。
無力が悔しかった。
結局。
五百年余り共に過ごしたところで。
自分には、彼女という存在を救う事は出来なかった。
どれだけ笑い合っても。
幸せにしてあげても。
助けても、守っても。
何一つ届かない。
彼女の絶望を払ってやることは出来ない。
「……、」
右手を、振り上げる。
出力値を設定すれば、後は手を振り下ろすだけだ。
それで、全部終わる。
彼女にパンを差し出したことも。
彼女と過ごしてきた温かい時間も。
彼女が笑ってくれたことも。
彼女が嘆いてくれたことも。
築いてきた幸せを、ここで絶つ。
それだけではない。
これから先、彼女が自分ではない誰かと幸せになる機会すらも奪うということだ。
「………、…」
フィアンマの右手が、震えた。
どうしたって、振り下ろせる訳がないのだ。
こんなに長い間一緒にいて。
こんなに長い間暮らして。
こんなに長い間満たされて。
沢山の幸福をくれた彼女に、そんな仕打ちが出来る訳がないのだ。
たとえ不老不死であろうと、右方のフィアンマは人間だった。
彼は、人間にしかなれなかった。
「……フロイライン」
手を、そろそろと下ろす。
そのまま、彼は彼女の髪を撫でた。
長身を抱きしめ、強く抱きしめ、唇を噛む。
記憶の積み重ねによって。
自分との生活により、彼女は成長してきた。
このまま進化を続ければ、また同じようなことが起きる。
けれども、自分には殺すことは出来ない。
ならば、何をどうすれば一時的に彼女を助ける事が出来るのか。
簡単なことだ。
自分を犠牲にすればいい。
フィアンマが死ねば良いというものではなく。
それよりも余程辛い選択肢だったが、致し方ない。
これで彼女が多少は楽になるのなら。
「安心しろ。……俺様が、殺してやる。今は無理だが、約束しよう」
人間である内は、人の心でもって彼女を殺せない。
人でない領域、その高みにまで登れば、彼女を殺してあげられる。
哀しく歪んだ考えが首を擡げ、フィアンマは小さく笑んだ。
優しい声で、彼女を宥める。
「お前が、どれだけ自らを蔑み否定しても。
お前のことを、誰がどれだけ貶したとしても。
……俺様は、お前の味方だったよ。ずっと。これからも」
言って、彼は詠唱と、僅かに指を動かした。
幾つかの魔術記号が示され、それは一つの効果を発揮する。
そして。
フロイライン=クロイトゥーネは、自分よりも大切な人との思い出を失った。
あれが、発端だった。
世界の歪みを正し、神上となれば世界を救えば。
人としての思考を神聖な光が吹き飛ばしてくれたなら。
今度こそ何を考えることもなく、彼女を救えた<ころせた>だろう。
失敗してしまったが。
「……マ」
彼女は今、学園都市の『窓のないビル』に幽閉されている。
暗闇の中で、何を思うこともないまま、きっと。
「フィアンマ、」
「何だ」
「…聞いていたかい?」
「ああ。お前の説明の仕方が下手過ぎて半分寝ていたが」
「……はあ」
魔神になり損ねた魔術師が項垂れる。
少しだけ笑って場をとりなし、聞き返した。
「…それで、俺様の役割は?」
「君がこの騒動の中、歩き回っていても感知されないかどうか実験をしたい」
「ほう」
「簡単に言えば遊撃、かな。あまり関わらないでくれていていい」
「戦力外通告か。なるほど」
「そういう訳でもないんだけどね。君、まだ本調子じゃないだろうし」
「バゲージシティでは容赦なく使われた気がするが」
「だからこその遊撃。…休憩だよ」
「まあ良いか」
お互いに背を向ける。
やることは、説明されずともわかっていた。
今回はここまで。
次回は説教合戦です。
(説教合戦になるはずが幻想右方が穏やかに仲良くなっていた。前世のせいだ。
フィアンマさんの声優はどなたでも良いのですが男性声優さんがいいです)
>>345
現時点では新約6と同じ時間軸です。
こだわりはないので、適宜脳内補完していただいて構いません。
投下。
雷神トールとはまた別行動でかく乱を試みた上条は。
レイヴィニア=バードウェイの手腕に負け、撃たれた。
だが、脇腹を撃たれた程度で止まる男でもない。
彼は病院を抜け出し、浅い呼吸を繰り返しながら、フロイラインを探していた。
が、無理は長くは続かない。
歩き、走ったことにより、傷口が開いてしまったこと。
それに伴う再びの大量出血により、上条はその場にずるずると崩れ落ちた。
意識が飛びそうになり、酷く頭が痛む上に、吐き気がした。
このまま死んでしまうのではないか、という本能的な恐怖がこみ上げる。
「く、そ……」
騙すことには成功した。
だからといって、フロイラインが捕まらない理由にはならない。
『グレムリン』にもオッレルス勢力にも彼女の身柄を預けられない以上、彼女を救う目的を持っているの雷神だけだ。
雷神トールだって彼なりに身内を裏切ったり騙していて忙しいだろう。
最も身軽な自分が救いに行くべきだとは思うのだが、本能には勝てない。
「は……」
目の前がぼやける。
貧血の症状による吐き気のせいで、涙が浮かんでいた。
酸っぱい液体がこみ上げ、しゃがみこんだまま動けなくなる。
突然。
上条の口に、錠剤が押し込まれた。
「んぐ!?」
動揺しながら、それでも強引な手から逃れられず、飲み込んでしまう。
恐らく薬品の類だろう、口の中が異常な苦さで満たされ、眉を寄せざるを得ない。
ふらふらと揺れる視線を上にあげれば、そこには一人の青年の姿があった。
「お、前。…右方の、フィアンマ……?」
「……『グレムリン』の一人。"サンドリヨン"だったか。ヤツが近くに来ている」
「なに…?」
「恐らくお前の味方になるだろう。が、先に増血剤だけは飲んでおけ。吐くなよ」
言って、彼は視線を向ける。
何かを探すような仕草の後、再び上条を見た。
懐を探る。
何をしているのかと内心怯える上条の前で、フィアンマが手に持ったのは包帯だった。
路地裏に膝をつき、上条の傷口を締め上げるように止血を行う。
針と糸を持っていたが、縫合については丁重にお断りした。
「……お前、オッレルス勢力の一人なんだろ」
やや警戒心のある声音。
突っ込むべきはそこなのか、とフィアンマは肩をすくめ。
「そうカウントされているが、別にオッレルスと運命共同体という訳ではないしな」
「……」
「治療はひとまずこれで良いか。サンドリヨンならば生理食塩水位用意してくれるだろう」
「……フロイラインを捕らえて、どうするつもりだ」
「ん? そうだな」
フィアンマは懐に余った包帯をしまい。
上条の血と唾液に汚れた手をズボンで適当に拭ってから答える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺様は無傷で保護したいと考えている」
「……全員で同じ考えじゃねえのかよ?」
「オッレルスは…正直に言ってわからん。シルビアはオッレルスの指示に従うだろう。
ブリュンヒルド=エイクトベル、及びレイヴィニア=バードウェイなら、フロイラインを餌にしたがるだろうな」
「魔神をおびき寄せるための、か?」
「それ以外に何がある? ……その最悪の事態を回避するために、俺様はお前のサポートに回ることにした」
「良いのかよ。オッレルスの味方しなくて」
「ヤツがフロイラインを救ってくれると保証するのなら話は別だったのだが。
まあ、問題ないだろう。ヤツに俺様は殺せないしな」
フィアンマの行動方針が見えぬ上条は、眉を潜める。
そんな彼を見やり、フィアンマはほんの少しだけ、フロイラインと自分の関係を話した。
それは昔の話だけれど、術式を行使すれば今の関係に繋がりを取り戻せる。
「上条当麻。……フロイライン=クロイトゥーネを救い出せ」
フィアンマの話を聞き。
上条は暫し黙って急性増血剤(学園都市勢の効き目が強いものだ。すぐに効く)が効くまで黙っていた。
血液量が増え、止血をしたこともありだいぶ体調が良くなったことを感じ、彼はフィアンマを見やる。
「…お前、右腕は?」
「…事故だ」
「…いや事故って」
「自動車事故だ。…こう、重トラックにガツン、だ」
「嘘つけ」
そんなことはどうでもいい、とフィアンマはひとまず上条の質問を制止して。
一瞬だけ日常ムードになりかけた上条は一度だけ深呼吸する。
「…言われるまでもなく、フロイラインは助け出す」
「そうか。…俺様からの要求は"救い出す"ところまでなのだが」
「どういう意味だよ」
「……フロイライン自身、現在の状況を喜んではいないはずだ」
ミサカネットワークのコンソールたる最終信号の脳の捕食。
フィアンマはかつて泣きながら脳を啜っていた彼女を思い浮かべながら、そうぼやき。
「その状況自体から助け出せ。脳を啜らねばならない、その"機能"から」
そんな無茶な、と上条は思う。
「フロイラインに触ればどうにかなるモンなのか? 異能の力なのかよ?」
「いいや。……あれは"そういう体質"だ」
「なら、」
「出来ないとは言わせんぞ。考え出せ」
「あのな、」
上条には本来、フィアンマに協力する義理も何もない。
のだが、彼は続けて言い切った。
「俺様には出来ないが、お前ならば出来るはずだ」
「………やってはみるけどな」
「お前の行動の結果如何では魔道書図書館にツケが回る事を忘れるなよ」
「なっ、」
フィアンマは立ち上がり、上条に背を向ける。
彼の背中を見上げ、ふらりと立ち上がり。
少年は一度だけため息を吐き出して、脳をフル回転させる。
フロイライン=クロイトゥーネを助けるだけでなく、救い出す方法を思いつくために。
「……そもそもインデックス狙いなら俺に何か言う必要ないよな?」
「………」
「なあ」
「何だ」
「……お前ってツンデレキャラだったっけ?」
「違う」
事情を話したのは、上条の同情を買う為だった。
そうしておけば、インデックスを引き合いに出さずとも、彼は彼女を救うだろう。
助ける、だけでは足りないのだ。それならば自分にだって出来た。
これだけ万能の力を持っていても、あくまで幸運なだけに過ぎない自分はフロイラインは救えない。
無力を自覚しているからこそ、フィアンマは上条に全てを託した。
「賭け事は、強いんだ」
空を見上げ、ぽつりと呟く。
オッレルスのことだ、もしかすると自分を監視しているかもしれない。
それでも何の介入も連絡もないということは、彼もフロイラインを救うつもりでいるのだろう。
かつて、自分一人では彼女を救えなかった。そのツケが、今この状況だ。
結局、彼女を二度も嘆かせる羽目になってしまった。そうならないための記憶消去だったのに。
「……」
ポケットの中で、小さな十字架を転がす。
この中には、彼女の記憶が封じ込めてある。
どうしても壊せなかった。どうしても手放せなかった。
「……フロイライン」
自分の勇気の無さが彼女の不幸に繋がった。
けれど、今度こそ、もう大丈夫だろう。
あの男に任せれば、最後まで助けてくれる。救ってくれる。
そうしたら、自分はやはり必要なくなるけれど。
彼女が幸せになった姿を見る事くらいは、許されるだろうか。
もう、大丈夫だよ。
大切な『ともだち』に許され、抱きしめられ。
思い切り抱きしめ返して泣きじゃくり、フロイラインは安堵していた。
何一つ自分の好きなように人生は決められなかったけれど。
大丈夫なのだ。心配する必要など、もうどこにもないのだ。
人の頭にかじりつき、脳を啜って情報を得るような機能は、もう無い。
これから先の自分が一体どうなるかはわからないけれど。
怖いことは、もう何も無いような気がした。ずっと昔にも、こんな感じがしたよう、な。
「にゃあにゃあ、おねーちゃん、この人が私の大切なはまづらだよ!
はまづら団全員大事だけどな! にゃあにゃあ!」
お姫様のような愛らしい少女が笑って紹介してくれる。
ややガラの悪そうなジャージ少年は、のんびりと軽く頭を下げてくれた。
「こっちが一方通行ね、ってミサカはミサカはご紹介してみたり」
大切な人、と。
打ち止めは、大切なともだちのもう一人は、そう笑顔で紹介してくれる。
戦闘という言葉はもうどこにもない。
平和になった世界で、フロイラインは少し表情を和らげていた。
「そういえば、おねーちゃんの大事な人は?」
「い、ます」
打ち止めの脳を模した菓子を食し、体が縮んだからか。
視界がだいぶ低くなった、と思いながら、フロイラインは会話の一部として答えようとして。
記憶が、思い出が、あったはずのものが、見当たらなかった。
———彼女は、友達からもらった大切な防犯ブザーを、思わず取り落とした。
大切な人がいたのだ。
確かに、傍にいた。
長い間一緒に過ごしてきたはずで…けれど、思い出せない。
彼の、あるいは彼女の事だけ、すっかり、記憶から抜け消えてしまっている。
「あ、…れ…?」
「にゃあ。おねーちゃん、どうしたのだ?」
友達が、心配そうに問いかけてくる。
フロイラインは、泣きそうに顔をぐしゃぐしゃに歪めて、首を傾げた。
「どうして、しまったんでしょう」
美味しいパンの味。
くれたのは誰だった。
思い出せない。思い出せない。抜け落ちて、存在していない。
あたたかで、甘いパンだった。
まるで、彼の本心のように。
彼だったかどうかも、もうあやふやで、思い出せなくて。
「私、の、」
大切な。
忘れてはいけないはずなのに。
あの人だけは、忘れてはならないのだ。
彼は、自分を救い出してくれた。
特に辛いと思ったことはないけれど、檻の中へ手を差し出してくれた。
皆が異端と疎んだ自分を、普通の人間のように、受け入れてくれた。
「あ、ああ、」
フロイラインの瞳が、じわりじわりと潤む。
泣いてはいけない。
友達が心配してしまう。
0と1の繰り返し、遺る判断機能はそう指し示しているのに、喪失感に対する本能的な悲しみを抑えきれない。
「ああああああ…!!!」
先ほどの嬉し涙とは別に。
安堵とは真反対の絶望に満ちた泣き声。
地雷を踏んだ。
そう思った打ち止めは、一生懸命に思考を巡らせて。
「え、ええと…ハンカチどうぞ、ってミサカはミサカは差し出してみたり」
ああ。
何だかずっと昔にも、こんな風に、誰かが何かを差し出してくれた気がする。
「ありがとう、ございます」
フロイラインは、両手でそれを受け取った。
何も考えずに、軽く噛んでみる。
———甘い味は、しなかった。
今回はここまで。
もうそろそろ最終回です。
私事連絡ですが、今日は右方前方がお休みです。
乙
上条さんが小さい頃であった記憶はトラウマで封印されてンのかな……
乙です!
文体が綺麗だな!
内容も面白いし凄いなこれは…!
あと個人的にフィアンマの声はフリーザ様(中尾隆聖さん)のイメージがあるでござんす。
>>366
ヒント:記憶喪失
そうして。
ようやっとフロイラインと再びの邂逅を果たした上条は、彼女を背負って歩いていた。
インデックスの待つ、愛しい我が家へ帰る為だ。
打ち止めやフレメアと抱き合って安堵することを覚えたからだろう。
ちんまりと幼い少女になったフロイラインは上条にしがみついている。
「……」
「……」
上条は、何も言わなかった。
フロイラインは上条にしがみついたまま、胸の中で渦巻く想いをしっかりと抱える。
何だかとても懐かしい感じがする。この状況が、何だか、とっても。
けれど、そこを突き詰めて考えれば、また泣いてしまいそうだから。
「…よし、ついた」
言って、上条は鍵を開ける。
ドアの音に反応してくれたのだろう、インデックスが迎えてくれた。
「……とうま」
「う」
「いつも通り無茶してきたみたいだけど」
「はい」
「それより何より」
「な、何でせう?」
「……その背中の女の子は誰なんだよ!?」
上条がまずすべきは、彼女への事情の説明だった。
事情の説明が終わったところで。
台所からかちゃりと音がした。
覗き見やればフィアンマが居る。
「あ、そうだそうだ。この人、とうまのお友達なんだよね?」
インデックスは、フィアンマのことを覚えていない。知らない。
戦時中は意識を喪っていたからだ。
フィアンマと意識が繋がる事はあったものの、彼の容姿は知らない。
声だけでは完璧に聞き分けがつくはずもない。
そして警戒心の少ない彼女は、上条の友人と名乗ったフィアンマを受け入れたのだった。
「ご苦労」
素っ気ない労いをする彼の手元には大量の皿。
隻腕にも関わらず皿洗いをしているらしい。
「……」
「…何だ? お前の行動如何では、といったはずだが」
「……家庭的魔術師ってそう珍しくもないんだな」
五和を思いだし、ぼやっと呟く上条。
頭部にインデックスが噛み付いている事はもはや日常としてスルーである。
この数日間で異常な痛みにもすっかりと慣れてしまった。
「……あ、そうだ。インデックス、少しコンビニで買い物してきてもらっていいか?」
「ふぇ? お買い物?」
「そうそう。えーっと、アミノ酸入りシャンプーと」
「あみ、あみのしゃ…???」
相変わらず科学・化学系の単語に弱い少女である。
上条が居なかった間、多少の努力はしたものの、やはり向き不向きというものがある。
そんな訳でインデックスに一時家から出てもらい。
フィアンマが皿洗いを終えたところで、上条は告げた。
「お前が言った通り、救えたぞ」
「……そうか」
淡白な返答。
フィアンマは振り返り。
いつの間にか上条の背中で眠ってしまっていたフロイラインを見つめる。
その瞳は、優しかった。
今となっては悪名高き"右方のフィアンマ"とは思えぬ程に。
世界を救う為に第三次世界大戦を引き起こした男とは思えない程に。
上条は、そっとフロイラインを下ろす。
彼女はタンスに軽く寄りかかり、静かに眠り続けた。
怯え、惑い続けた『機能』が消えた彼女の寝顔は穏やかで愛らしかった。
妙な無機質さがもうないのは、再び<はじめて>情緒が目覚めたからなのだろう。
「……フロイライン」
そっと、左手を伸ばす。
ふんわりとした髪の毛を撫でた。
んん、と眠たそうな声を漏らす彼女が、愛おしかった。
「……お前、フロイラインを連れて逃げるのか?」
上条の問いかけ。
きっとそうするだろうという確信を持っている上条の考えに、フィアンマは首を横に振る。
「いいや」
「…何でだよ」
「……お前は、救ったんだろう。なら、俺様はもう必要無い」
「………」
・・・・・・
「…仮に連れて行ったとして、俺様は戦犯だ。巻き込まれる」
何をどうしようが自分は戦う事は確定している。
しているのなら、それに彼女を巻き込むべきではない、とフィアンマは思う。
昔ならばそうは思わなかったが、長く生きている内にそう思った。
「…ふざけてんのか、お前」
上条は、苛立った声で、そう言った。
確かに、フィアンマは取り返しのつかないような悪い事をした。
第三次世界大戦の被害を鑑みればそれは明らかだ。
上条が知っている以上に、直接間接問わず彼のせいで傷ついた人は大勢居るだろう。
だが。
そこには理由があった。
彼はたった一人の大切な女の子を救う(ころす)為に間違った方向で努力をした。
上条はそれを良い事だとは思わない。間違っていることは間違っているからだ。
けれども、フィアンマは昔、フロイラインを殺せなかった。
手を振り上げ、後少しで殺せるとわかっていても、手を振り下ろす事は出来なかった。
彼自身はその事を今でも"臆病"と自嘲するだろうが、上条はそうは思わない。
上条だって、インデックスが何を言おうと殺せないから。殴る事すら出来ない。
聞けば、彼女は『大事な人』という話題で泣いたらしい。思い出せない、思い出せない、と。
フィアンマは言っていた。彼女を助ける為に一時的に記憶を消去した、と。重なる。
思い出せない事を泣いて嘆く程に大切な相手が、たかが体質が変化した程度で必要なくなる訳がないのだ。
それこそが臆病ではないのか、と上条は思った。
「お前は、フロイラインの幸せを願ってきたんだろ」
上条は、宗教について詳しくない。
インデックスと暮らし、様々な戦いを経て多少は理解したが、それでもフィアンマには絶対に及ばない普遍な知識程度だ。
だけれど。
もしも神様とやらが、信仰の深さと祈った期間で人の願いを叶えるのなら。
五百年にも及ぶ長い時間の中、ただ一人。
特殊な体質を持っている彼女を。
どれだけ辛くとも友達の為に頑張れる優しい彼女を。
途方もなく長い間迫害され続けてきた女の子の幸せをただ一人願い続けてきたフィアンマは、もう報われてもいい。
この世界は歪んでいる。
それだけではない、と上条は言った。
それは上条が幸福な時代に産まれたから思える事で。
フロイラインと同じように迫害されてきたフィアンマの中でそれが不変だとしたならば、それでも仕方がない。
これから先だって、彼の敵は沢山居るだろう。
「どんなに願われてもフロイラインを殺せない程、傷つけられない程、大切なんだろうが。
死んで欲しくないって。辛い思いをして欲しくないって、そう思ったから記憶を消したんだろ。
自分との思い出を消してでも、彼女にだけは幸せでいて欲しかったから」
「…だったらどうした」
「……だったら。…百回"死にたい"と思わせちまったなら、百一回"生きたい"と思わせてやればいいじゃねえか。
人生に希望がねえなら、テメェが希望になってやりゃいいだけだろうが。
全人類を敵に回す覚悟があるなら。……それ位貫き通せよ、大馬鹿野郎が!!」
「質問を返してやろうか。魔道書図書館が、お前を傷つけたくないから殺して欲しいと言った。
何をどうしようと納得しない。傷つけられても構わないと言っても信じてくれない。
救えない。助けられない。唯一の救う方法は殺すことだけ。それからも逃げるしかなかった。
その結果がこれだ。どこまでも道を踏み外したのに、顔を合わせられるのか。
何も言わないでくれるから。自分のせいで傷つけられる恐れも高いこの場面で、彼女の手を引けるのか。
自らの無力を実感しているのに、世界中を敵に回して守りきれると、本気で思っているのか。
一度は逃げ出した俺様に、フロイラインと生きる権利があると思うのか。…無い。どこにも。
だからお前に賭けた。フロイラインは救われた。………これ以上のハッピーエンドが何処にある?」
「あるさ。お前がフロイラインと一緒に生きる事が、至高のハッピーエンドだろ。それより上なら、ねえだろうけど」
上条当麻は、知っている。
多くの人を傷つけ、敵に持ち。
大切なたった一人の少女を守る為に戦い続ける超能力者を、知っている。
闇の中を足掻き続け、愛する少女を守ろうとする男の事も。
「……お前にはわからんよ」
「わかんねえよ。大切なのに守ろうとしない野郎の気持ちなんて」
「あまりにも。……あまりにも、身勝手過ぎるだろう。今更、」
ちらりと視線を向ける。
夢でも食べているのか、彼女はふにゃんと柔らかく笑んでいる。
「今更、俺様が現れたところで、裏切られたと思うだけだ」
「…お前は知らないんだろうけど」
「……」
「…フロイライン、泣いたんだ。"大事な人がいたのに思い出せません"って、苦しそうに」
フィアンマは、唇を噛み締める。
あまりにも思いつめていたからだろう、最も大切なことを忘れていた。
彼女の気持ち。最優先すべきものを。
「……だから、もう一度聞くぞ。お前、フロイラインを連れて逃げるのか?」
「……そうだな。お前を見習って、身勝手に生きる方がかえって良いのかもしれん」
彼は、ポケットに手を突っ込む。
そして小さな十字架を取り出し、フロイラインを見つめた。
十字架を適切に破壊したと共に。
フロイラインは記憶を取り戻し、同時に目を覚ました。
ぼんやりとした表情を浮かべた彼女は、青年を見上げる。
ひんやりとした暗い路地裏は、何となしに地下牢を彷彿とさせる。
「……」
彼は、手を差し出してきた。
その手の上には、紙に包まれたパンがある。
彼女は大人しくそれを受け取って。
「これは、何でしょう」
「お前の夕飯だ」
一口、二口。
噛む度に、甘い味がする。
ほんのりと温かいのは、彼の手の温度が移ったか、あるいは焼いて間もないのか。
総合的に美味しいと判断し、フロイラインは黙々と食べていく。
「俺様についてくるか。それとも、この科学の街に留まるか。
どちらが良いか、選ばせてやる」
彼の言葉に、フロイラインは少しだけ思考時間を取った。
さて、ここに留まるのと、彼についていくのと、どちらが幸福なのだろうか。
「行きます」
決断は、思いの他早かった。
彼女はパン屑を舌で舐めとり、彼を見つめる。
「そうか」
返事をする彼の姿が、徐々に滲む。
フロイラインは服の袖で乱暴に自らの目元を拭いて。
濡れてぐずぐずになった声で言う。
安堵の象徴<不思議で優しい神父様>を精一杯に抱きしめて。
「ずっと、ずっと、あいたかったです。不思議で、優しい神父様…!!」
今回はここまで。
次回最終回です。
このSSまとめへのコメント
良い話じゃん