【モバマスSS】 蟲喰う幸子 【昆虫食、閲覧注意】 (33)

モバマスSSです。

エロもグロも有りませんが、昆虫食をモチーフにしたSSです。

そういうのが無理な方にはグロ要素がありますので、閲覧注意でよろしくお願いいたします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1474927769

ボクが昆虫食に目覚めたきっかけは、太平洋の無人島にヨットが漂着した時の事です。

いきなりそう言われても、何が原因でそうなったのか訳がわかりませんよね??
安心してください、当事者のボクも、何であんなお仕事させられたのか、今でも全く意味が分かりませんから!

何やら、ボクのプロデューサーさんとファンの皆さんは、カワイイボクをいぢめて愉しんでいるフシが見受けられるんですよね。
稀にこう言う無茶な仕事をさせられる事があるんです。
体中に水を掛けられたり、泳げないのに水泳大会のお仕事入れられたり、
インストラクターの随伴無しで初心者のボクに一人でスカイダイビングさせたり…。(違法じゃないでしょうか?)
今回も『カワイイボクは太平洋単独横断も楽勝ですよ!!』と題されて、
ヨットで1人、太平洋を横断する仕事をする事になりました。

……これはほぼ冒険家の仕事の域なのではないでしょうか…??

少なくともアイドルの仕事とは到底思えません。
でも、ゴールのアメリカ西海岸では、ご褒美の世界デビューが待っているとプロデューサーさんが言うので、
その言葉にホイホイ釣られたボクは、意気揚々と日本の港を出発した訳です!
世界中の未だ見ぬ人々にボクのカワイサを広めるのは、ボクの使命ですからね!!フフーン!



三日後に巨大台風に巻き込まれて、ヨットは真っ二つにへし折れました。



本来なら、そのまま海の藻屑に成り果てる所ですが、流石は神に愛されたカワイサを持ち合わせているボクですね!!
気が付いたら見知らぬ砂浜に、一人横たわっていました。

どうやら命は助かったようです。命だけは。

しばらく呆然と座り込んでいたボクですが、いつまでもそうしていても何も始まりません。
とりあえず現状を確認する意味を込めて、現在の持ち物を確認してみる事にしました。

今、ボクが持っているのは、転覆寸前のヨットの中、慌てて掴んだ緊急セットが入っているバッグだけです。
救命胴衣を着ている暇は無かったので、このバッグの浮力を救命胴衣代わりにしてしがみ付き、此処まで流れ着いたようですね。

SOSと赤い字が書かれたバッグの中身を確認してみると、
懐中電灯 救助笛 方位磁石 十得ナイフ 押し付けて使うタイプのファイアースターター 防寒シート
電池 電波が入らないラジオ タオル 軍手 スマホの携帯充電器 各種コード類が入っていました。
ボクのスマホは水を被ってウンともスンとも言わないので、コードの類は何の役にもたちそうにありませんが、
他はとりあえず何かの役に立ちそうで助かります。

ボクはそれらを纏めてバッグに戻すとそれを背負い、
人家を探す為、助けを求める為に意を決して砂浜を歩き始めました。


そんな希望に溢れる行動を実行に移していたのが半日前のボクです。


現在、ボクは最初に流れ着いた場所からそう離れていない砂浜に座り込み、遥かに広がる水平線を虚ろな瞳で眺めています…。
半日ほど歩き回って辺りを調べた所、この場所はぐるりと砂浜に囲まれた、そう大きくない島だという事だけが分かりました。
中心部には森と丘があり、人が住んでいる気配はどうやら無さそうです。

要するに無人島という奴ですね。ロビンソンです。
だーれもさわーれーないー♪
無事に帰れたら漂流記でも出すべきでしょうか、アハハ。
そんな調子で、砂浜に体育座りで乾いた笑い声を浮かべていたボクですが、
自分が絶望的な状況に置かれている事を誤魔化しきれずに、顔面を両手で抑えて、
その場でゴロゴロと転がったり悶えたり叫んだりしてました。

しかし、そんな無駄な事をして時を過ごしていたら、当然お腹が空いてくる訳です。
生きてますから。
既にボクのカワイイお腹は、先程からかなり可愛くない轟音を鳴らし始めていました。

軽く調べた所、島の真ん中には綺麗な小川が通ってましたので、どうやら水の心配だけは要らなそうです。
プロデューサーさんがよく見ている有料放送のサバイバル番組の番宣によると、
人間は水を飲めなければ三日も持たないそうなので、その点に関してだけはラッキーでした。
早速川辺に移動し、手で掬って水を飲んでみます。
乾いた喉に冷たい水が沁み渡たり、涙が出るくらい美味しかったです。
その時、一瞬だけ生水は危険じゃないか、との思いが頭を掠めましたが、
この圧倒的な美味しさの暴力の前では些細な事でしょう。
たっぷりと水を飲んで空腹も治まりました。

お腹がチャポチャポしてますが、どうやら急場を凌げた様で何よりです。
でも、何も根本的な解決にはなっていません。
早急に食料を探さないと取り返しのつかない事になりそうです。

具体的に言うと餓死です。

骨になって南国の無人島で野ざらし、と言う最悪の想像が頭をもたげてきたので、
ボクはそれを振り払う様に頭をブンブンと振り、そこらへんに落ちてた棒を拾い、それを片手に島の探索を再開しました。


何か見つかると良いのですが…。


そう思いながらしばらく歩くと、前方の砂浜にヤシの木が有るのを見つけました。
ヤシの実と言えば、無人島生活では定番のご馳走です。
当然、ボクもご相伴に預かろうとは思いました。
しかし、その実は天高く十メートルくらいの所になっていて、とても取れそうにありません。
自慢じゃないですが、ボクはシティ派カワイイアイドルな訳で、木登りなど一切出来ません。
ヤシの木にしがみついて登ろうと試みましたが、自分の身長の倍ほども登れませんでした。
そこら辺に転がっている石を拾って実に向かって2度3度投げてもみましたが、
半分の距離にも届かない事が判明し、早々に採取を諦めました。

他には、森の入り口の倒木の脇にキノコが生えているのを見つけました。
しかし、種類が全くわからない事と、お友達の輝子さんからキノコの食中毒の恐ろしさを繰り返し聴かされているので、
到底口にする気にはなれません。
他にも色々調べてみたのですが 、目ぼしい食べ物は見つかりませんでした。
どうやら植生が乏しい森らしく、小さい島なので動物の類もあまりいない様です。
いや、居ても困りますけどね。捕まえて捌いて食べる、なんて出来っこありませんし。

大型動物なら逆に食べられてしまいますし。


その点では動物がいなくてラッキーなのかもしれません。
が、食料のアテが全く無いのには困りました。
一応、ヨットが転覆する前にSOS信号は出しましたし、多分、既に捜索隊がこの辺を探しているとは思います。
プロデューサーさんも必死に探してくれてる事でしょう。
あの人はボクに無茶はさせますが、その点だけは信頼しています。
きっと助けに来てくれる筈です。
それまでどうにかして 生き延びなければいけませんが、どうすればいいのでしょうか…。

サバイバル知識も経験も殆どない、カワイイだけが取り柄のボクには、これからの行動の指針が全くとれません。
ひたすら頭を抱えて悩んでいたら疲れが出たのか、瞼が重くなりウトウトし始めたので、
眠気でどうでも良くなってきたボクはそのまま砂浜に横になり、防寒シートを被ってゆっくり瞼をとじました。

程なく気絶する様にボクは眠りに落ち、無人島生活の1日目が終わりを告げたのです。


それから5日ほど経ちましたが、助けは一向に来ません。

一切食べ物を口にしてないボクは、何時ものように小川の水で空腹を誤魔化そうと川辺に向かいました。
既に空腹は限界に達し、一歩歩くごとに地面は波打ち、頭はフラフラです。
揺れる体を棒で支えながらボクは必死に小川まで歩いて行きます。
たった5日で?だらしない??それは食べ物に溢れる人間社会の中での発言と言わざるをえませんね!!
ボクはこの5日、食料を探してこの島を隈なく歩き回りました、その上で5日の絶食ですよ??
しかも、ボクはアイドルです。
テレビや写真は実際より太って見えるのは皆さんも周知の事実でしょう。
実際、一般女性の平均体重くらいのかな子さんが、ファンの皆さんやネットの間ではふくよか扱いされている事からも明白です。
だから、ボク達アイドルは余分な脂肪などつける訳にはいきません。
レッスンや食事制限で、BMIでは痩せ過ぎの分類に達するまで身体を絞らないといけないのがアイドルなんです。
そんな厳しい世界です。
当然カワイイボクにも余分な脂肪などある訳がありません。
脂肪がないという事 は余分な燃料が無いと言う事、即ち飢餓に弱いという事です。
つまり、今、ボクが、此処で、行き倒れ、ているの、は、何の…間違いでも…ありません……。

ずるずると地面に倒れこんだボクは、虚ろな目で地面の先を眺めます。
この光景がボクの見る人生最後の光景か、と思うと涙が出てきました。
そんな涙で歪む視線の先に、ボクがこの島に流れ着いてきた最初の日に見つけた倒木が目に入りました。
相変わらず木の側には名前も知らないキノコが鈴生りに生っています。
ボクはその食べれるかどうかもわからないキノコを恨めしそうに睨み…

……覚悟を決めました。
朦朧とした意識の中で、ボクはこのキノコを食べる事を決意したのです。

どうせ死ぬならお腹いっぱい食べて死にたい。そう思ったのです。
毒キノコは案外美味しいって言いますしね!
やけっぱちになったボクはフラフラと立ち上がると、キノコを取ろうと倒木に手を伸ばし…、そしてその場で足がもつれて、盛大にその場に転びました。
どんがらがっしゃん。
その時思わず掴んだ倒木の表面が、ボクの重みで僅かに欠けました。

「あいたたた……ん??」

ボクはヨロヨロと立ち上がりながら、何気なくその欠けた表面から覗いたモノを見て、思わず孤島に大きな叫び声を挙げたのです。

「ひぃいいいいいいいっ!!」

倒木の中には穴が空き、その至る所にクリーム色で頭でっかちの細長い虫の幼虫が大量にうぞうぞと蠢いていたのです!

そのおぞましさにボクは思わず空腹を忘れて、素早く後退りました。
他を寄せ付けないほどのカワイサを誇る僕といえど、世間一般の女の子並みに虫は苦手です。
ただでさえ苦手なのに、その虫 が集団で集ってる様と言ったら、不気味の一言です。

一刻も早くこの気持ち悪い場所から離れよう、
そう思ったボクは、そのおぞましい群体から目を背けつつ、改めてキノコに手を伸ばしました。
すると、一、二本摘み取った所でボクの脳裏にある白人男性の顔が思い浮かびました。

『確かな知識がない限り、キノコ類は食べないのが賢明です』

そう僕の脳内で告げたのは、プロデューサーさんがよく見ている有料放送の別のサバイバル番組で、
毎回無茶なサバイバルを繰り広げている人でした。
そういえばあの人はネズミや蛇、サソリ、時にはラクダの死骸だって食べるのに、
よく知らないキノコには手を出していませんでした。
それほどキノコの毒は危険なのでしょう。
そんなものより危険なものをボクは食べようとし ていたのです。
背中に流れるひと筋の冷や汗。
冷静になった僕は、摘み取ったキノコを元の場所にそっと戻しました。
命を粗末にする訳にはいきませんから。
世界レベルカワイイこのボクが、簡単に命を投げ出してしまったら、全世界のボクのファンの皆さんに、そして帰りを待ってくれているでしょうお友達やアイドルの同僚の皆さん、
何よりボクのプロデューサーさんに申し訳が立ちませんからね!

しかし、この絶え間無く襲い来る空腹感と眩暈は如何したものでしょうか。
例えキノコを食べずに食中毒から逃れたとしても、そう長く持つとは到底思えません…。
そんな時、またもボクの脳裏にあの白人男性の声が聞こえてきたのです。

『昆虫の多くはビタミンやミネラルを大量に蓄えているので、昆虫食は良質な蛋白質を摂取できます』


…………いやいやいや、何言ってるんでしょうか、この白人男性。
昆虫を?食べる?? いやいや、有り得ないでしょう。こんな気持ち悪いものを食べるくらいなら、毒キノコに当たった方がまだマシと言うものです。
ボクはそう思いながら、倒木の内部で集団で蠢くクリーム色の芋虫を一瞥しました。
それぞれが絡み合いお互いの身体を這い回る、見るからに気持ち悪くおぞましい手を触れる事すら無理そうな光景です。


こんな物を…食べるくらいなら……。




そう思いながらもボクは今、焚火の前で一匹の幼虫を火で炙っています。
ナイフを使って小枝を削り、箸の様に使って虫の幼虫を一つまみ、そのまま焚火の前まで持って来て火の上に翳しました。
熱に炙られて苦しそうにモゾモゾと蠢く幼虫の、その有様から目を背けながら、
ボクは本当にこんな物を口にしないといけないのかと思い、絶望の余り涙が溢れてきました。
しかし、毒が有るかもしれないキノコを一か八かで食べるよりは幾分マシ、と、最終的にボクの理性は判断しました。
せめてもの抵抗に、しっかりと熱を通された幼虫は至るところに黒い焦げ目がつき、
最初に捕まえた時には丸まっていた姿形は熱を通されてピンと真っ直ぐになっています。
それがまた気持ち悪さを強調しているので、ボクはなるべく幼虫の頭を見ない様に目を瞑り、尻尾の方から恐る恐る口にしました。


恐々と咀嚼したボクの口内に広がったのは、まずサクッとした歯ごたえ、その後を追う様に香ばしさとトロリとした中身が旨味と共に口の中に広がっていきます。

「…えっ…、美味しいっ!?」

懸念した生臭さやエグミなどは全くなく、甘みすら感じます。
舌の上でとろける感じは上質なバターすら思わせる食感でした。
雑味と言えば、夢中で幼虫全部頬張った後に、頭の部分に若干の苦みがあるかな?と感じたくらいでしたね。
それもアクセントになり決して悪くはありませんでした。


…コレ、普通に美味しいですよ??

お腹がペコペコなのを差し引いても、見た目がアレじゃなければ、普段でも食べたい程の味に正直、驚きでした。
ボクは慌てて立ち上がると、倒木の穴の中で蠢く幼虫を、今度は軍手越しとは言え指で摘みあげ、
掌一杯に虫を乗せ、焚火の方まで走って行き、片っ端から炙り焼きにしていきました。
回数を重ねるごとに焼くコツがわかり、きつね色の良い具合に焼かれた幼虫は、
最初の物よりさらに香ばしく、甘みがありました。

ボクはその後、もう夢中で幼虫の炙り焼きを貪りました。
最後の方など我慢できずに、殆ど生焼けのまま食べていたような気がします。
ほとんど生でも全く臭みは無く、皮がゴムっぽいのを除けば中身もトロッとしていて、
こちらの方を好む人も居そうだと感じました。


程なく、倒木の穴の幼虫をほとんど食べつくしたボクは、満足な面持ちで砂浜に寝転び、空を見上げました。
南国に広がる青空、今まで追い詰められてて気づきませんでしたが、落ち着いてみると、こんなにも良い景色だったんですねぇ。
久しぶりの満腹感。圧倒的な多幸感がボクを包みます。
冷静に考えてみれば、現在ボクの胃の中は虫の幼虫で一杯なのですが、その想像すら今のこの幸せの前では取るに足らない事です。
一時間前までは見るのも嫌がっていた虫が、お腹一杯に詰まっていても何とも思わないなんて、
人間の価値観なんて容易く変わるものなんですねぇ。
それほどに美味しかったです。
まあ、ボクがカワイイ事だけは絶対不変ですけどね!!フフーン!
そんな軽口が叩ける程余裕が出てきたところで、軽い眠気が訪れ、ボクは湧き出てきたカワイイ欠伸を噛み殺し、
手で押さえました。
初日の様な疲れからくる電池が切れたような眠気では無く、満腹感から来る心地よい微睡みの誘い。
ボクはそれにさして抵抗する事も無く、もぞもぞとおしりに敷いていた防寒シートを引っ張りだし、
それを被って眠気に身を任せたのでした。


翌日の目覚めは頗る快適でした。



フラフラだった身体にも活力が戻り、食事というのがいかに大事かを再確認した思いです。

元気が出て来たので、とりあえず助かる為に色々行動に移すことにしました。

まず昨日、虫を炙った焚火を大きく拡張し、島中から枯れ枝を集めてバンバンその中に放り込みます。
火の勢いはボクの身長ほどまで上がり、煙も高く大量に出ています。
救助の飛行機や船が通りかかったら、この煙を見てくれる事を願っての行動です。
次に、石を集めて来て砂浜にSOSの文字に並べました。
手頃な石を見つけるのに苦労しましたが、かなり見やすく大きく作れたと思います。
コレで飛行機が飛んできても見つけやすくなったのではないでしょうか??

どちらもかなりの重労働で、昨日までのフラフラのボクでは到底成し得ない作業量でした。
この元気を与えてくれただけでも昨日の虫達には感謝ですね。

そんな作業をこなしていると、今日もお腹が空いてきました。
昨日よりは食料の当てがあるので、今日は随分気楽なものです。
ボクは今日も倒木を探しに、森の入り口に向かいました。
良い事と言うのは重なるもので、森の入り口に生えてて、昨日まではとても手の届かなかったヤシの実が、
ヤシの木から二個ほど茶色に熟して地面に落ちているのを見つけました。


ボクは大喜びでその二つを拾い、足元に落ちていた石とナイフの先端を使い、ヤシの実に穴を開けました。
そのまま浴びる様に中身のココナッツミルクで喉を潤します。

甘さとコクに溢れた素晴らしい風味です。観光地で飲んだことはあるのですが、あの時とは一味も二味も違いますね。
苦労がスパイスになっているのでしょう。

さて、ココナッツミルクだけではお腹が収まりませんので、今日も幼虫探しです。
似たような倒木はチラホラ発見できるものの、昨日ほど幼虫が纏まっている木は無く、
小さな穴の開いた所を目印に、倒木にナイフを刺し込み、梃子の原理で皮を剥がして、一匹一匹摘み取っていきます。

これはかなりの重労働で、昨日の様に纏まっている木はないものか、と、真剣に願いました。
穴の奥に潜り込んでいる幼虫を穿り出すのに軍手では邪魔なので、今日は素手で幼虫を穴から引っ張り出しています。

昨日は全力で気味悪がっていたのに勝手なモノですよね。

努力の甲斐もあり、昼過ぎにはココナッツの実を半分に割って作った入れ物をお皿代わりにして、
その器山盛りくらいに採集できました。

昨日までのボクが見たら卒倒しそうな絵面の幼虫の山盛りですが、今の僕には炊き立てのコシヒカリ並に美味しそうに見えます。
正直、少し涎が口内に湧いてきました。

ボクは砂浜に戻ると、かなりの火勢を上げる焚火の横に座り込み、木の枝に幼虫を刺し、炙り焼きにしていきます。

今日は思いついた事があり、幼虫の半分を海水で洗い、もう半分を焼いた後、ココナッツミルクに潜らせてみました。

海水で洗った方は仄かに塩味がして、香ばしさがさらに増しました。
贅沢を言うならばもう少しきつめに塩をして、胡椒をかけたらなお素晴らしいかもしれません。

調味料が不足しているのをこれほど残念に思った事は無いですね…。


ココナッツミルクの方は更に正解でした。多少香ばしさは無くなるものの、虫の甘みとココナッツミルクの甘みが重なり、
非常にグッドです。どちらもクリーミィーなので愛称抜群です。

乳白色の液体に浮かぶきつね色の芋虫のスープは見た目はパンチがあり過ぎますが、とても上品な一品です。
見た目さえ気にしないなら、普通に街のレストランで出されても問題ない味だと思います。


そんな風に食料状態が改善してからと言うもの、体力も戻り、気力も沸き、
活動範囲も増えたので、丘に登って砂浜の文字の出来を確認したり、泳いでみて魚の様子を調べたり、
色々と無人島サバイバル生活を満喫していました。

そして二日後、どうにかして素潜りで海の魚が取れないか、波打ち際にはだかんぼうで座り込み、
ナイフでモリ代わりの木の槍を削っている最中、遥か地平線から聞きなれた機械音が聞こえてきました。

キラキラと輝く太陽光を反射する波に目を細めて、水平線を見ると…そこにはまぎれもなく、飛行機が飛んでいます。


ボクは慌てて服を着て、大急ぎで焚火の元に走りました。

もう後先も考えずに全ての枯れ枝を焚火に放り込みました。
火勢はなおも強まり、煙はものすごい勢いで吹き上がります。

ボクはせき込み、涙を流しながらも全力で枯れ枝を放り込み続けました。
すると、願いが叶ったのでしょうか、飛行機は煙りに気付いたように急旋回してこちらに向かってきてくれたのです!!


大喜びで両手で手を振り続けるボク、やがて砂浜に降り立った飛行機から、
見慣れたスーツ姿の男性が一番に飛び出してきました。

まぎれもなくボクのプロデューサーさんです。
全力でボクの方に駆け寄って来るプロデューサーさん。

ボクも全力でプロデューサーさんの元に走り寄りました。
その後ろからは小梅さんや輝子さん、他のアイドルの皆さんも涙を浮かべて駆け寄ってきます。

砂浜の中心でぶつかる様にプロデューサーさんと抱き締め合い、抱擁で再開を喜び合いました。

ギュっと抱きしめると、プロデューサーさんの胸に顔を埋めると懐かしい匂いがしてきました…。


……匂い??

その事で自分が10日ほどお風呂に入ってないことに気が付いて、
ボクは慌ててプロデューサーさんから離れようとしました。

多分、すごい臭いがしています。

が、
後ろから小梅さんや輝子さんが抱き着いてきて放してくれません。


半泣きで放すように懇願しましたが、全員どうしても聞き入れてくれませんでした。

ボクは恥ずかしいやら何やらで、もう少し無人島に放置されたい気持ちで一杯になってしまったのでした…。





こういう経緯でボクは無人島から生還したのです!!








「皆さん!お早うございます!!カワイイボクが出社しましたよ!!」

あれから数か月が経ちました。

しばらくは奇跡の生還を遂げたアイドルとしてマスコミから引っ張りだこ、サバイバルの指針になったと言う事で、
あの白人男性との対談も組まれた程でした。

事務所や寮に戻ってもプロデューサーさんやお友達の皆さんが側から放してくれず、
嬉しい中にも困ったモノでしたが、流石に一月もしたら周りも落ち着いてくれました。

そんな訳で普段の生活に戻ったわけですが、ボクの命を繋いでくれた昆虫食の事については、あれから誰にも話してはいません。
白人男性との対談でもヤシの実で過ごした事にしました。
話の流れで木登りの達人と言う事になってしまったので、バレない内に泳げなかった水泳大会の時の様に、
特訓しなければならなくなりましたが。

何で話さないのかって??

やはり、昆虫食はまだ一般的ではないので、ゲテモノ扱いされています。
昆虫を食べるアイドルと言うのはボクの溢れるカワイサをもってしても埋めがたい異質さだと思うのです。

だからしばらくは隠して生きていこうと思います。
感謝だけは忘れないようにして。


それと、あれから図鑑などで調べてみたのですが、あの幼虫はカミキリムシの仲間の一種だったみたいです。
興味が沸いたので色々調べてみると、カミキリムシの幼虫は昆虫食の王様と言えるほどの美味らしく、
偶然とはいえ、その食材を発見できたボクは大変幸運だった訳ですね。

それに、島から出る前に輝子ちゃんに聞いたら、あの倒木のキノコはめっちゃ毒キノコでしたし。
食べたら一昼夜で腎不全に至り、死亡例もあるそうです。

危ういところでした…。


そんなことを思いながら事務所に入ると、事務所の中は何やら大騒ぎです。

どうやら莉嘉さんがロケで行った森から大量のカブトムシを捕まえて、籠に詰めて持って来てしまったらしく、
事務所中が大パニックになっていました。

流石、カブトムシ絶対捕まえるガール。秋も近いのにすごい量を捕まえてきましたね。

捕まえてきたのは良いですが、あまりの量に莉嘉さんも持て余しているみたいですねぇ。

他のアイドルに配ろうとして、拒否されて困っているみたいです。
虫、苦手な子多いですから…。


ほとんど全員に拒絶されて、半泣きになり始めている莉嘉さんを見て、ボクはやれやれとため息をつき、

「莉嘉さん、ボクが引き取りますよ」

と、彼女に声を掛けました。

莉嘉さんは大喜びで、籠ごとボクにカブトムシを渡してくれました。

大喜びで感謝する莉嘉さん。
本当に嬉しそうにボクに感謝の言葉を述べてきます。

いえいえ、いいんですよ、困ってる人はカワイイボクとしては見過ごせませんから。














それに、とても美味しそうですし。


【完】

終了です。次回が有ればカブトムシ編も書いてみたいです。

カミキリムシは幼虫も成虫もネタにならないくらい美味しいですが、
カブトムシはネタにならないくらい不味いので、その辺を描写してみたいです。

それでは次回も機会がありましたらよろしくお願いします。

読んで頂いてありがとうございます。

昆虫食は父が宮崎県、母が長野県生まれなので、幼い頃から抵抗なく育ちました。(どちらも昆虫食がさかん)
ゴトウムシ(カミキリムシの幼虫)は親戚が山を止めてしまったので、食べる機会がなく
美味しいとは両親に聞いていたのですが、長年食べる機会が有りませんでした。

最近、某SNSの昆虫食の集いに参加してそこで初めて食べる事が出来ました。

凄く美味しかったので、皆さんも機会が有ったら是非。


カブトムシは東南アジアに旅行した時に食べました。
その時はすごく美味しかったので、日本に帰って来て日本のカブトムシ食べたら…とても食べれたものじゃありませんでしたw

詳しくはまたの機会に書きますが、幼虫、成虫とも虫を残したのは初めての経験でした。

クワガタはそこまで酷くありませんでしたよ。

ベアグリさんが鼻糞を丸めた~って言ってるのはあの人、生で食べたからじゃないですかね?? あの人なんでも生で行くから…。

その辺も機会が有ったら書いてみたいですね。

その時はまた、よろしくお願いします。

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