QB「言い訳になるけれど」 (53)

反逆の物語をベースにしています。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1474456527



世界は二回の改変を受けた。
だけど、エントロピーの増大による宇宙の終焉を防ぐ計画そのものに支障はない。
この宇宙に存在する、条理を捻じ曲げる力の多くは暁美ほむらと鹿目まどかに集約されることになった。
だが、彼女達が宇宙の危機を見捨てず、そして救う力を持っているのならば彼女達に重要な役割を任せればいい。

現在、鹿目まどかはその力を封印され、暁美ほむらだけが大きな力を振るうことが出来る。
彼女が吹聴する悪と愛で宇宙を救うことが出来るというのなら試してみるがいい。
僕等がこの惑星に降り立った時から、星全体に満たされていたその感情を宇宙全体に拡散させることが出来るならやってみればいいんだ。



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僕達は人間に対して譲歩している。
或いは、譲歩し過ぎているとさえ言える。

このことを暁美ほむらに話したことがあるが、受け入れられたことも無かった。

僕達は人間が家畜を扱うよりも、ずっと人間に対して譲歩している。
或いは、暁美ほむらの干渉を受ける前から、暴走さえ許容していたと言える。
それは本当だろうか。

断片的な情報では断定ができないが、この世界は少なくとも過去、二度に渡って改変されている。

一度目は鹿目まどかが円環の理という概念になるため。
二度目は暁美ほむらが自らの意思で世界を作り変える概念になるため。

二度目はともかく、一度目の改変については僕達が鹿目まどかを円環の理にするため、その技術を提供したことになる。
過ぎてしまったことをとやかくは言えないが、僕達はそれを否定することが出来たはずだ。
危険であれば後付でも何でも言い訳を付けて、願いを拒否することも出来ただろう。
結末だけを言えば、その世界改変は宇宙を救うために必要なエネルギーの回収効率を著しく落としただけと言える。
背景には何があったのだろう。



無限に発展を続けることはなかなかに難しく、人類もそのうち大きな壁に直面せざるを得なくなる。
太陽圏を越えた先にある他の恒星系はあまりに遠く、人類はそこに到達する技術を得るよりも先に滅んでしまう可能性のほうが遥かに高い。
それでも、人類が星々を渡り歩く技術を手に入れて、僕達の仲間入りをする可能性は、ないとは言えない。
だが、僕達がそうであったように、人類が大きな行き詰まりに直面することはもう間違いがない。

今の僕達は星を越える技術こそ手に入れているが、技術の進歩には行き詰まりを見せている。

インキュベーターは宇宙の他の星系まで進出を果たした種族ではあるけれど、概念を制御する技術は未だに実現していない。
僕達がその技術を求めていたとしたら、鹿目まどかを人格を持つ比較的干渉しやすい概念として昇華させることに、それほどの不合理はない。

円環の理を克服し制御する技術は、それを基礎として発展し、概念という事象の全てを制御する技術へと繋がっただろう。
そうなれば僕達インキュベーターの存在を、今より何段か上のステージに押し上げることが出来たかもしれない。
正常な群にも精神疾患の個体が出るように、かつて壮大な計画を立案したインキュベーターが存在していたとしてもおかしくはない。

結局のところ目算は外れ、暁美ほむらという概念をもう一人産み出しただけに終わった。



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暁美ほむらは今更、脳という小さな器官に依存することを好む。
機能不全に陥るか、破壊でもされれば、その復元までの間、概念或いは魔法に依存した思考機構に切り替えるのだろうが、普段常用することはない。
大きなリソースを管理するのに生身の脳を使用するのは不便だし、間違いや誤解も起こりやすいので感覚器の変更を勧めたこともあるが、未だ取り入れられていない。
円環の理の活動や出現する魔獣の監視などには魔法による自動処理を組み込んでいるが、それも限定的なことだ。

僕達インキュベーターにとって、暁美ほむらは必要なときに必要な力を振るう余力さえ持っていればいいのだから、その不合理を否定まではしない。
ただし、脳を使い続けるというのなら反復的な練習が必要になる。
悪魔となった暁美ほむらは学習意欲を低下させた時期があった。
成績の操作は彼女にとって難しいことではないが、脳に学習を強制する作業そのものの必要性を説明した結果、どうやらこちらは受け入れられたようである。
暁美ほむら自身の考えた結論がたまたま同じだったのか、他の誰かの影響だったのかは分からない。

少なくとも暁美ほむらの勉強中、黒い服の子供達の面倒を僕が見る羽目になったため、体の消費量が増加したことは難点だった。



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暁美ほむらは僕達にとって脅威である。

少なくとも、気まぐれに体を潰すのは勿体ないので止めて欲しい。
だが、彼女がエントロピーの増大による宇宙の危機を救うつもりがある以上、それは必要な投資であるとも言えるので、無駄とまでは言えない。
暁美ほむらは概念であり、円環の理と魔獣の制御の要であり、僕達の計画を手伝う気が少しばかりあり、僕達を好き勝手に使い潰している。

暁美ほむらには彼女の感情の体現である黒い服の子供達が従っている。
余りにも奔放な彼女達を相手することに比べれば、暁美ほむらのほうがまだ幾分マシである。

インキュベーターという種族は未だに円環の理の制御も出来ず、多くの計画は暁美ほむらに依存する。
感情のエネルギーは大きいが、危険も大きく、火薬庫のようなこの星からの撤退は有効な手段といえる。
だが、暁美ほむらにとって、この星にある呪いの回収には僕達を必要とする以上、それが許されることはない。

離れられないときは共生する他なく、それは今も続く。



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少しずつ進む予定です。



魔法少女と、その能力について。

時間遡行の魔術は強大であるが、注目する価値の低い魔法と言えた。
時間遡行の魔術は強大であるが、注目する価値の低い魔法少女と言えた。

簡単に言えば、そんな能力を割り当てられても基本となる戦闘能力が低下するので、魔獣と戦う力が見込めないからだ。
簡単に言えば、特殊な力を持つ魔法少女は理解を得られにくいことで孤立する可能性が高く、生存期間が短いからだ。

なので、かつて暁美ほむらが時間遡行の魔術を持つ魔法少女だったという判断に至ったとき、因果の収束についての納得と同時に、生き延び切ったことを意外にも思った。

魔法少女についての情報を本人から聞けることは少ない。
情報を情報として完成させるには、断片的な会話や状況証拠を組み合わせるしかない。
今回も、実際に聞いた話はごくわずかで、推察も含めた情報として形にしている。

現代の強力な殺傷力を持つ兵器の補助があって、初めて存在可能となった魔法少女。
いつかの時代に存在したその魔法少女は、円環の理に叛逆した以上、他の魔法少女にとっても敵に近い。

時間遡行の力を持った当時の彼女と、現在の彼女には、どのくらいの変化があっただろう。
大して変わらなかったかも知れないし、今の彼女とは全く別の存在だった可能性もある。

いずれにしても、当時の暁美ほむらが居たから、現在の暁美ほむらがある。



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美樹さやかは魔法少女として異質である。
魔獣討伐において彼女の貢献は大きく、とても優秀な魔法少女と言える。

そして、暁美ほむらに接触を試みる数少ない存在であり、暁美ほむらの正体を知るようなことを時々言うため、情報源としても希少である。

何ら確信を持てない僕達の推測でしかないので、彼女の過去形として扱うには語弊を生じるけれど。

改変前の世界では、僕達にとって他者を操ることにも使える利用価値の高い道具であり、自らもエネルギーとして変化する有用な存在だった。
改変前の世界では、正体を隠し、完全に僕達を出し抜いた円環の理の一部分だった。

少なくとも。

今の美樹さやかは僕達の話を簡単に鵜呑みにするほど愚かではない。
今の美樹さやかは情報を完全に遮断できるほど有能でもないため、僕達が暁美ほむらの情報を集めるために彼女を観測することには大きな意味があった。

僕達は魔法少女ではなく、集めたエネルギーを無駄に使うわけにもいかないので、魔法少女の監視に大きなリソースを割くことは出来ない。
新人の魔法少女が時々やるように、魔力の節約にと僕を中継してテレパシーを使い、際限なく重要な会話をしてくれるなら話は早くて助かるけれど。

地球の電子機器は僕達にとって原始的で直接的な機構となるため、通信の傍受は容易い。
何なら、スマートフォンやLINEの経由でもいいけれど。



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佐倉杏子は魔法少女で、暁美ほむらと関わりのある数少ない人物だ。
暁美ほむらとは時々、隣の風見野市などで食事をしたり、ゲームセンターなどで遊ぶこともあり、それは暁美ほむらの行動として、とても珍しい。

ただ、僕達はこの関係から、未だ重要な情報を観測できていない。

佐倉杏子は暁美ほむらが悪魔であることを知らないし、暁美ほむらは佐倉杏子にそれほど深く踏み込もうとはしない。
彼女たちの間柄は表面的と言える。

その解釈は正しいか。

佐倉杏子は美樹さやかと親しい。
だから、暁美ほむらには美樹さやかの様子を探るという目的があっても不思議ではない。

でも、それを確認する意味は薄い。

目的があるなら表面的であるというなら、それも表面的だ。



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巴マミは強力な魔法少女だ。

美樹さやかは普通の魔法少女とは異質の力を持つ。
だけど、魔法少女としての本来の優秀さをいうなら、巴マミを先に挙げるべきだろう。

暁美ほむらが巴マミを苦手としているかのように見えるのは、それだけ彼女が優秀で、警戒してしかるべき対象だからか。

魔法少女は孤立しがちではあるが、彼女には佐倉杏子や美樹さやかといった魔法少女の後輩が居る。
最近は百江なぎさといった人物とも親しくしていて、一緒に料理などすることもあるようだ。

巴マミも、佐倉杏子も、世界が改変される前から魔法少女として活動していたという推察が成り立つ。
恐らく、鹿目まどかや暁美ほむらが概念となる前に大きな影響を彼女達に与えただろう。

しかし本人達に記憶がなく、暁美ほむらが彼女達に踏み込もうとしないなら、情報を得ることは困難だ。

相当な才能と実力を持ち、安定した精神を持つ強力な魔法少女。
それが現在の巴マミの評価だ。



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僕達は一度、概念としての鹿目まどかの存在を知覚するために、様々な実験を行ったことがあるらしい。


暁美ほむらは鹿目まどかを守護するという目的がある。
だから、僕達インキュベーターから鹿目まどかを隠すという選択も有効な手段と言えただろう。

しかし、この世界には魔獣を含め、対処しなければいけない脅威も多い。

だから暁美ほむらは折り合いをつけて、僕達インキュベーターを味方か、或いは手先として使うことを考えたようだった。

未だに概念は僕達にとって現象でしかなく、円環の理についても、ソウルジェムの濁り切った魔法少女が消える、その具体的な作用は観測できていない。


世界の改変前は、鹿目まどかも魔法少女の一人だった。
円環の理も魔法少女が元であるなら、魔法少女としてのシステムを作り上げた僕達がそれを克服できなかった点について、追及の余地があるべきだ。
困難は伴うだろうが、観測し、その作用を理解し、制御に至ることは可能だったはずだ。


鹿目まどかは円環の理という概念になった。
暁美ほむらは円環の理の力を奪い、概念になった。


世界が改変する前の僕達の技術力や計画の内容が分からない以上、推測しか行えない部分は多く。
暁美ほむらは膨大な隠し事を持っていて、それを誰かに話すこともない。

それでも、鹿目まどかが契約当時から変化せず、概念という神の座から何もしていなければ、暁美ほむらが概念になることもなく、いずれ円環の理を完全に克服していたはずだ。

円環の理も僕達を警戒し、美樹さやかなどと協力をして隙をついたからこそ、僕達の計画は失敗したと言える。

彼女達は何もしていなかったわけではなく。


神でさえ、維持するための努力を要する。



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本日はここまでです。



牛や、豚や、鶏に対して、彼らを食べるのは間違っているから逃がしてあげよう、

などと、人の農園から家畜を開放して回る人が居たとしたら、正常な人間の価値基準に於いて、それは精神疾患というほか無いだろう。
僕達は魔法少女が躊躇いもなく肉や野菜を食べていることを残酷とは思わない。
しかし僕らは人間に対して、人間が家畜に対して行うことよりもずっと譲歩をしている。
人間は人間同士ですら集団や個性に差異を見つけて差別や虐殺をするけれど、僕はどんな人間であろうと魔法少女の素質があれば契約を結ぶ──

などということを暁美ほむらに話してみたが相手にされなかった。

彼女の問いの本筋から逸れたが、『かつて魔法少女に味方をしてインキュベーターを裏切ったインキュベーターがどれだけ居るのか』という思考実験に対する問いの答えは概ねこんなところにある。
後半部分はともかく、精神疾患のインキュベーターを人間に例えると、どれ位の精神疾患になるのか、という具体例を挙げたわけだ。

暁美ほむらの目に警戒の光が差したようにも思えるが、この程度は今更彼女に隠すほどのことではない。

彼女の断片的な情報を総合すると、暁美ほむらは僕達がこの立場だったらこうするであろうことを一通り経験しているようだった。
いざとなれば宇宙ごと世界を改変するという切り札を持っている以上、話せることは話してしまったほうが良い。

僕達は人間よりも高い文明を持つけれど、人間から外れた暁美ほむらに対しては大分制御されてしまっている。

彼女はかつて時間遡行という珍しい力を持った魔法少女だった。
本来は一匹の魔獣も倒せずに死んでしまう運命だった彼女は仲間に恵まれたのか、或いは時代にも恵まれて魔獣を倒す術を身に着けた。
改変前の魔獣という部分については、正確には魔獣級の未確認の怪物という意味であるが、今のところ情報が揃っていないため、魔獣という名称で通している。

彼女は幸運といえるのか、どうか。
その運命の運びはともかく、結果的に暁美ほむらは概念の地位にまで辿り着いた。
あらゆる彼女達自身の特異性を排して、その他の要素は全て偶然だったのか。





妄想に近い思考ではあるが、他の要素もあるかもしれない。
僕達インキュベーターの発見した感情のエネルギーは非常に大きな力だ。

鹿目まどかや暁美ほむらを概念にまで押し上げ、その瞬間を僕達に知覚すらさせない大きな力。

その力を使うなら、因果の量が突出していない魔法少女の願いでも、インキュベーター全体に対して何らかの魔法の影響を受けさせることは可能になるかもしれない。

基本的にインキュベーターは単体行動であり、普通の魔法少女には僕達が集団であるということすら伝わっていない。
だからインキュベーターに魔法を掛ける場合でも、ほとんどの場合は精神疾患の個体を作るに留まり、全体への影響は薄い。
そもそも、願いを叶えるという機会を、生活の部外者であるインキュベーターという存在に向けることも本来は無いといえる。

それでも、インキュベーターと人類の共生関係は数万年に及ぶ。
いくつかの願いはインキュベーター全体に掛けられており、インキュベーターという存在そのものにも変化が起きているという可能性は十分に考えられる。

魔法少女はソウルジェムが濁り切り、その体を消滅させるまで魔獣と闘い続ける運命を持つ。

世界が改変されるよりも前、僕達が地球に降り立った時点で、インキュベーターの魔法少女に対する契約内容は今よりもずっと厳しかった可能性もある。
それが、願いの力によって、インキュベーターの存在は僕達が無自覚のうちに少しずつ変えられていった。
僕達インキュベーターは宇宙の危機を救うために地球に降り立ったこともあって、多少のリスクは覚悟の上で行動を取っている。

その間隙を縫って、いつかの魔法少女達が願いを積み上げていった結果、鹿目まどかが願いを叶えて僕達と比べてすら遥かに上位といえるような存在、概念まで駆け上がったという可能性は、議論する価値があるだろうか。

円環の理という概念は、過去から未来までの魔法少女の運命を全て見通していると言う。
干渉遮断フィールド下で魔法少女を辞めて、円環の理にとって運命の不可視存在となった後から叛逆を企てた暁美ほむらを例外として、全ての魔法少女の運命を鹿目まどかは知っている。

鹿目まどかが円環の理に戻るようなことがあれば、その真相を聞いてみてもいいのかも知れない。



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偽悪家だからかどうかはともかく、暁美ほむらは自身を悪魔だと自称する。

僕達に知覚できないから、その情報は曖昧になるが、通学路にテーブルを置いてお茶会をしたり、黒い服の子供達にトマトの投げ合いをさせて遊ばせたりしているらしい。
僕達は魔力で隠されていて人には見えないものでも、魔法少女に知覚できるものであるなら、その大部分を知覚できる。
だが、暁美ほむらはもう一段階は上のステルス能力を持っており、誘い込んだ美樹さやかなどを予告もなくティーパーティーに招いたりすることがあるようだ。

その迷惑行為を悪魔らしいというかどうかは別にして。

彼女の人格はともかく。

人格として実在する円環の理などの概念を除き、実在しない宗教上の概念を持ち出すとする。
そうするならば、暁美ほむらの人の好し悪しには何の関係もなく、彼女は悪魔であると判定することは可能だろう。

神の行いは人間の外にあり、人間の行動は人間にとって良いか悪いかではなく、神にとって良いか悪いかという判断になる。
神という存在を仮想の主人と仰ぐことで、人間の指導者は集団の全体利益を考慮しなくても良くなった。
歪な富の分配や収奪を行っても、利益の享受者がその責任を逸らせるといった意味では、このシステムは優秀である。

富を集めた強力な指導者や、共通の信仰を持つことは集団を強固にするため、それは集団にとって不利益になるとも言えない。





悪魔とは何か。

神や正義とは、強いことだ。
歪な富の分配を行うのも、富を集めて強力な指導権を発揮するのも、神を前にして誠実で、正義を正しく行った当然の恩寵である。
悪や悪魔は、神や正義を剥奪されたものだ。
神に対して不誠実で、正義を正しく行わないものが相応の不利益を被ったとしても、当然の罰ではないか。

相手は悪なのだから──というような時に、悪や悪魔は使われる。

暁美ほむらは強力な力を持つ概念であり、円環の理をも制御下に入れる、実質の世界の主である。

だが、悪魔とは弱いものにつける記号だ。
凶暴な印象を持たせるために名乗る場合でさえ、言外にもっと強く正しい機構が存在し、それに負け得る要素を含んでいる。

暁美ほむらは円環の理や鹿目まどかに対して、負けるつもりがない。
彼女の決意は強固なものだ。

暁美ほむらはそれでも、本当は鹿目まどかが正しく、自身が間違ったことを行っていると思い続けている。

その悪魔は自分はまどかに釣り合わないと、自称し自嘲し自傷する。



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本日はここまでです。

次の投下は10月3日になります。



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「あんた相変わらず悪魔の犬なんてやっているのね」


美樹さやかが毒づく。
放課後の校舎の屋上。
夕日からはほぼ平行に光が差し、彼女の青い髪と髪留めに光が反射する。

「……あの悪魔、もう帰ったの?」

そうだよ、と、答えたが彼女の機嫌は直ってはいないようだ。


「あんた、まだ鹿目まどかの監視なんかやってるの?暇なもんだよね」

関係のない話が振られる。
僕は暁美ほむらからまどかを守護するように言われていることを説明する。
見ての通り、今は中断を余儀なくされているが。


「ふぅん……、あいつがやりそうなことだけど、あんたも気に入らないね。あんたらのほうこそ何かおかしなことを企んでいるんじゃないの?」

心外だなあ。
僕がそんなことをするように見えるのかい?
君は改変前のことで未だに僕を怒っているようだけど、僕には記憶がないんだよ。
と、僕は説明をする。

「なら、忘れないで……あたしはほむらもあんたも許さない。あたしはずっと覚えている」

その情報は重要であるか、どうか。






「あの悪魔、どうしてる?」


対象は明確でも不明瞭な質問。
いつも君が見ている通りさ、と、定型的に返す。


「あいつは弱い……力のことじゃない。あいつはずっと弱虫だったんだ。あたしよりもずっと弱かった……なのに、いつまでも居られるわけがないんだ」


本人の力が及ばないもので侮られることは得である。

ただ、暁美ほむらがこの情報を聞いて喜ぶ可能性は薄いだろう。
彼女達の間にある力の差は歴然で、精神的な状態でどうにかなる域を越えているからだ。

暁美ほむらは美樹さやかを敵視していない。
美樹さやかが一方的に敵視するも、それは平然と受け流されているように思える。
少なくとも、そうとしか言えないような行動を取る。


「それは彼女本人にしか分からないことだね。僕はもう帰るよ」

「……」


美樹さやかは暁美ほむらを敵視する。
悪魔は嫌われることを覚悟して、それでもその振る舞いを止めることはない。
その意思は改変後も、改変前の僅かな情報からでも。


それはいつまでもそうなのか、どうか。




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「何でそういうことを早く言わないのよ!!?」




帰宅後の勉強を終えたタイミングで、僕は暁美ほむらに必要なことを話す。
暁美ほむらは叫ぶが、引いて済むようなことでもない。


「僕は何度も説明をしたはずだよ。僕達の目的はエントロピーの増大による宇宙の滅びを止めることだって」


人類に観測されていないだけで、宇宙は複数構造となっており、ある宇宙は重力の膜を通して存在する。
宇宙は生成と消滅を繰り返しており、生成される宇宙の性質は宇宙ごとに全く違う。
物質の移動が光速までに制限されるのも、時間の移動が不可逆的なのも、この宇宙の代表的な力が四つなのも、その中で重力の力が極めて弱いことも、この宇宙に限った話でしかない。

ただし、時間の移動に法則性のない宇宙などは複雑な物質の存在すら出来ないわけで、僕達はこの宇宙に多くの制限があることを歓迎するべきだ。
ともあれ、ある宇宙同士は完全に断絶され、ある宇宙同士は簡単にお互いを通過することが出来る。

多くの宇宙は平均化によって空虚になることを運命づけられており、僕達が観測に成功したその外宇宙がこの宇宙を通過すると、多くの物質は激しい干渉と相互作用からばらばらに引き裂かれて消滅し、この宇宙はからっぽに成り果てる。

人類は未だにこの世界の多重次元構造さえ観測できていないのだから、予測することは困難だろう。
だが、この世界をからっぽにする外宇宙はこの宇宙のすぐ傍まで迫っており、地球上の時間の尺度を当て嵌めると宇宙同士の接触に掛かる時間はもう数日と空いていない。
近づきつつある外宇宙の進路変更か停止を行うには、鹿目まどかや暁美ほむらクラスのエネルギーをかき集める必要があり、僕達インキュベーターは未だノルマを達成することなくこの日を迎えた。


……ということを、僕は正直に暁美ほむらに説明した。





「……宇宙におけるエントロピーの増大なんていうから、もっと先の話かと思っていたわ。
というか、貴方達は何兆年もの先の問題について今から心配をするような頭のおかしい連中だと思ってた」

暁美ほむらが毒づく。
それは彼女が起こした勘違いに寄る。

「そちらも重要な問題であると認識していることには間違いがないね。
ただ僕達インキュベーターは、君たちの持つ情報だけを価値基準として話をするとは限らないんだ」

「こいつらの危うさはもう自覚していたはずなのに、隠しごとがまだ残っていたなんて……」

隠し事ばかりのほむらが言う。
弁解はするべきか。

「僕達は嘘をついているわけじゃないよ。隠していたわけでもない。
ただエントロピーの増大という現象がどういうものであるかの説明を省略したけれど」

「それだわ……本当に腹の立つ」

どうやら効果は無かったらしい。

「騙したつもりはないんだけどいつもそう言われるんだ、わけが分からないよ」


本日はここまでです。




「……そうよね、お前たちはそういう奴らだったわね……はぁ」


諦めたように、暁美ほむらは溜息をつく。
疲れているように見えたのは、勉強の後だったからだろうか。
彼女の怒りは相当のようにも見える。
もしかしたら彼女は僕に今晩の夕食を作ってくれないのかもしれない。
簡単な造りとはいえ、出来立てのポテトフライと卵焼きは消化に良く、摂取に意義があったのだけど。



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もう外は暗かったが、暁美ほむらはふらふらと制服のまま出ていった。
クスクスと黒い服の子供達が、主人である暁美ほむらを馬鹿にして薄ら笑いを浮かべる。

とはいえ、僕が暁美ほむらの調査に出ようとすると、子供達はまち針の剣を持って邪魔をするのだから、彼女達は任務に対して忠実であるといえる。
こういう時の暁美ほむらは手強く、他のインキュベーター達も何らかの形で使い魔達に邪魔をされていて、暁美ほむらに手を出せないでいるだろう。

外宇宙の接触を食い止める仕事は、暁美ほむらといえど、いくらか困難に違いない。
鹿目まどかは全ての宇宙の過去・未来・現在を見通す力を有し、暁美ほむらはそれを書き換える力を持つとはいえど、それは高度な予測とこの宇宙に限った話。
彼女達は最低でもローカル銀河群程度の範囲であるなら好き勝手な改変が出来るのであろうが、彼女達の本来の願いは極々局所的に留まる。

彼女達の改変した範囲は全宇宙に及ぶが、実際に高精度な改変操作が必要だったのは、地球を含めた僅かな範囲と言っていい。

この宇宙そのものと同クラス、最低でも直径930億光年以上ある、法則のまるで違う外宇宙の衝突を防ぐことはそれなりに難しいかもしれない。
僕達が現在までに集めたエネルギーは暁美ほむらに託したが、少なくともそれだけでは到底足りない。



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大分時間を取られたが。

黒い服の子供達からの警戒が解かれた。
もう、行ってもいいということか。
急いでも仕方のないことだが、最優先にするべきことでもあるため、外に出て暁美ほむらを探す。
暁美ほむらの魔力の気配を手繰り、見つけることは簡単だった。

見滝原市にある、丘のある大きな公園。

園内は月の光を受けて輝き、魔力で練られた月が天を覆う。
可視光線だけで見るには何の変哲も無い月なのだろうが、魔力を凝らすと片半分が完全に消失しており、永遠の半月としてその姿を晒す。
月は地表に異様に近づいていて、遠い雲よりも前面から光を放つ。

月に照らされる公園の丘も、やはり魔力を凝らすとその半分を失っており、奈落があるかのように底が見えない。
歪んだ世界を制御する歪んだ悪魔は黒いバレエ衣装のような服に黒い翼を付けて、月に照らされた丘の上で踊っている。

暁美ほむら。

可視光線だけで見るなら、彼女は見滝原中学の制服を着ている。
踊っていることに変わりがないので、見る人によっては人に隠れてこっそり夜練でもしている子供に見えるのかも知れない。
僕が来たことに気付いたのか、彼女はぴたりと踊りを止め、奈落に飛び込むように重力に任せて落ち込んでいく。
実際には物質があるため、彼女の肉体は草原に倒れこんでいたが。

どちらに話しかけても構わないため、制服を着ているほうに話しかける。





「準備は出来たのかい? 暁美ほむら」

「……相変わらず無粋ね」


ほむらは面白げもなく呟き、起き上がる。
どういう理屈か分からないが、奈落に落ちたはずの精神も、今は肉体と一致している。
彼女には僅かな顔の紅潮が見て取れる。
高揚しているのかも知れない。

何事かを聞いても、暁美ほむらが答えることは少ない。
今は必要なことだけ確認しよう。


「暁美ほむら、鹿目まどかの協力は得られたのかい?」

「お前には関係ないわ」


思いついた質問であるが、彼女はそっけなく躱す。
そして視線で公園を見渡し、魔力を巡らす。
それだけで、公園内は誰も立ち入れない結界と化した。
今の公園内に侵入することは魔法少女でさえ困難だろう。

人払いの魔術も掛かっているため、公園の存在すら忘れられているのかもしれない。





他のインキュベーターは結界内に入れないので、僕は暁美ほむらに、近づきつつある外宇宙の観測の補助をする。
暁美ほむらは自分の魔力でその規模を知覚して、息を飲んだようだった。
法則の違う宇宙同士の反応はこの世界にある物質をあっという間に消滅させる。
宇宙同士は混ざり合い、何もない永遠の平滑をもたらす。

暁美ほむらは今度こそ可視光線でも分かるほどに魔力を練り、黒いドレスに身を包んだ姿を現し、胸の前に浮かばせたダークオーブを輝かせた。
かつて宇宙を満たした力の渦は呪いよりもおぞましい色となって暁美ほむらの周りを廻る。

暁美ほむらは外宇宙のとこの宇宙の衝突を止めることができるだろうか。
実はそこに、それほどの心配はしていない。



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本日はここまでです。


つい引き込まれる
期待


投下の時上げないの?



暁美ほむらの目的は鹿目まどかを守ること。
つまり全てに優先して、暁美ほむらは鹿目まどかの住む世界を守る。

暁美ほむらは宇宙を作り変えるほどの力を持つ。
だから、彼女が全力を出すのであれば、外宇宙の軌道を変える程度のことは出来るに違いない。







だから、問題は暁美ほむらがどれだけの力をここで消耗するかに掛かっている。







これは当然のことだが、僕達が接近を予測した外宇宙の排除に必要なエネルギーは、その準備期間が長いほど効率よく使うことが出来るため、少なくて済む。
僕達は暁美ほむらに情報を渡すタイミングを調整して、必要なエネルギーの量を、暁美ほむらや鹿目まどかが概念になる際に用いたであろうエネルギーの総量に近くなるよう調節した。
暁美ほむらが消耗し切って円環の理を制御できなくなるようなら、この世界は一つ前に戻り、僕達もまた暁美ほむらの制御からは外れ、インキュベーターの有り様は今と大きく変わるだろう。
例え暁美ほむらの消耗の程度が低くとも、余裕のない暁美ほむらがプロテクトのない状態で力を振るうことで、これまで謎だった概念の力を観測できるようになるかもしれない。

各地のインキュベーターが、大抵は単純な行動しか行わない彼女の使い魔達から逃れて、概念の力が振るわれるであろう方向へと観測を開始する。
残念ながら本命ともいうべきこの公園内は結界に阻まれているため、外部のインキュベーターは様子を覗うことが出来ない。

でも、僕が最優先で設置した小型の観測機器類は、公園の内側で作動し、データを収集し続けるだろう。
暁美ほむらに見つかるかどうかは賭けになるが、彼女の成すべき事象は大きく、彼女が余力を望めない可能性は大きい。



情報を渡した段階で、暁美ほむらは怒っていた。
それは彼女の情報の不備を表す。
でも、それは彼女が脳という器官を使うからで、彼女の外側にいる概念としての彼女から見れば、僕達の行動も織り込み済みであった可能性も考えられる。

彼女の脳が誰にも操作されることなく、自らの決断で選び出す答えを彼女はとても尊重する。
暁美ほむらが脳を使う活動にこだわることを、理屈で答えようとするなら、それは可能だろう。

鹿目まどかを何よりも大切に思う彼女ならば、概念である少女を人間に戻す正しさの証明を、自分自身で確認したいと思うはずだ。

概念のままで神として君臨するよりも。
暖かな太陽の光を浴びること。
家族と共に過ごすこと。
朝ごはんに好物がでること。
誰かの名前を呼んだり、呼ばれたりすること。
誰かのために感情を乱すこと。
そんなもののほうが重要だと。

不完全な脳で、不完全な肉体ではあるけれど、それが鹿目まどかの幸せだと信じたいはずだ。

彼女がやることはいつだって鹿目まどかのため、他人のためで。
そのために何が出来るのかを考えていて。

いつも一生懸命になっている。



暁美ほむらの放つ、呪いよりもおぞましい力は結界内を魔力の奔流に包んでいく。
既に彼女は宇宙の外の認識に僕達の補助を必要としなくなっている。

世界を変える前の僕達は、その途方もない結末に呪いのエネルギーを諦めようとしたことさえあるという。

銀河系よりも広大な銀河群よりも広大な超銀河団よりも広大な大規模構造と法則の全てを内包する宇宙同士の衝突を回避するために、彼女は概念の力を集中させる。
暁美ほむらは僕達がこれまでに集めた呪いの力も消費しているが、用心深く、重要な部分では使うつもりがないらしい。
魔法少女との長い関わりの中には純粋に僕達に協力をするような物好きな魔法少女もいた。ぬいぐるみを操るその魔法少女の力がその呪いの力には含まれていたから、信用しないのは正解と言えたが。

僕達の計画は上手く行くか、どうか。

物質は光速に縛られるが、物質でないものは光速を簡単に飛び越えられる。
この宇宙で起きた大規模な奇跡を、少なくとも3回は数えられる。
原初から始まるインフレーションも、2回の世界の改変も、光速を越えて起きた奇跡だ。
暁美ほむらが持っている武器が悪と愛だというのなら、その力で宇宙を満たすことが出来るかどうか、試してみればいいんだ。


世界は二回の改変を受けた。
だけど、エントロピーの増大による宇宙の終焉を防ぐ計画そのものに支障はない。
この宇宙に存在する、条理を捻じ曲げる力の多くは暁美ほむらと鹿目まどかに集約されることになった。
だが、彼女達が宇宙の危機を見捨てず、そして救う力を持っているのならば彼女達に重要な役割を任せればいい。

現在、鹿目まどかはその力を封印され、暁美ほむらだけが大きな力を振るうことが出来る。
彼女が吹聴する悪と愛で宇宙を救うことが出来るというのなら試してみるがいい。
僕等がこの惑星に降り立った時から、星全体に満たされていたその感情を宇宙全体に拡散させることが出来るならやってみればいいんだ。

彼女が自分を貶めてでも、鹿目まどかの幸せがそこにあると思っているのなら。
節理を乱し、蹂躙する力を使って、宇宙だろうが次元だろうが遥かに越えて、やり遂げてみればいい。


彼女はひときわ大きく力の波動を出して──

その瞬間にノイズが流れた。





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魔力によって閉ざされていた暗がりが晴れて、夜の姿に戻していく。
各地のインキュベーターからこの宇宙の外で何が起こっていたのか、情報が伝わる。

観測した外宇宙はその軌道を完全に逸らし、この宇宙から離れつつある。

この宇宙の基本則が根本から変わらない限り、エントロピーの増大という問題が無くなることはない。
それでも目下の危機は去り、しばらくは数兆年規模の、もっと長い問題に取り組めばいいこととなる。

黒い衣装に羽根を出した姿のまま、ほむらは息を荒げていた。
少なくとも、姿を保てるほどの余力はある。
公園内の結界は既に解けていたが、僕達を容易に干渉させない程度の魔力も、まだ残っているようにも見えた。


「暁美ほむら」

僕は話しかける。
聞いているか、聞いていないかは分からないけれど。

「これは言い訳になるけれど、僕達は君を理解したかったんだ」

聞く気があるかは分からないけれど。

「きっと、以前の僕も君を理解しようとしたんだよ。
君は許さないだろうし、僕達の行う計画の中で、ついでだったであろうことは否定しない。
けれど、以前の僕は本当に君が鹿目まどかと邂逅することで、その幸せを全うできると考えたんだ」




「利用するために、でしょう?」


ほむらは憎々しげに呻く。
今回、彼女がギリギリまで魔力を消費しなければいけなかった理由に気付いているのかもしれない。


「共生関係とは利用しあうことだ。無償の愛というものもあるけれど、それは僕達の間では難しい。
でも完全な信頼関係よりも、そのほうがずっと自然なんだ。
利用しあって、完全に負け切らないように努力し続けることこそ、この世界にとって普遍性のあることなんだ。

君も鹿目まどかとお互いの主張を賭けて戦っているんだろう?
仲が悪くなくたってそうなのだから、それ以外の全ての関係が戦いであることも自然なんだ。
概念だろうが悪魔だろうが、存在が存在だからって安心していい要素なんてどこにもない。
僕達が君を出し抜く機会を狙い続けることも、君が僕達を制御しつつ呪いの浄化に利用し続けることも、その維持には努力を要する。

僕達に停滞は許されない。
鹿目まどかが概念になったことで停滞していれば、僕達は円環の理に対しての完全な克服を達成していただろうし、
暁美ほむらが概念にならずに停滞していれば、鹿目まどかは円環の理から解放されることも無かっただろう。
僕達が停滞していれば魔法少女が存在しなかった代わりに世界は滅んでしまったのかも知れない。

だから」


暁美ほむらは思考に脳を使うことを好む。
僕達はこの先も起こるであろう宇宙の崩壊を防がなければならないし、暁美ほむらは僕達の利用を続ける必要がある。
彼女が脳を使い続けようとするのなら、他動的な自動機構に任せるよりも自律的な意思で決定をするべきだ。


「これからも利用しあって生きていこうよ、暁美ほむら」



暁美ほむらは何も言わず、黒い翼をはためかせて飛び去った。
彼女は飛行に魔力を使っている。
何の意味のない羽根だけど、彼女は形から入る性質がある。


「……あの悪魔、もう帰ったの?」

暁美ほむらの姿が見えなくなるころに、背後から声が聞こえた。


「来てたのかい、美樹さやか」

「相変わらず悪魔の犬なんてやってんのね、インキュベーター」

美樹さやかは魔法少女に変身していた。
彼女なら暁美ほむらの結界が見えていても、それほど不思議はない。

「そういうさやかはどうしたんだい?君には結界が見えていたんだろう?君の力なら強引に結界を突破することも出来たはずだ」

「初めはそうしようと思ったよ……でも、結界を切った後に何も出来なそうだったから止めにした」

美樹さやかは普通の魔法少女以上の力を持っている。
それでも、宇宙の危機を救うために協力しようとしたところで、美樹さやかには何も出来なかっただろう。
単純に暁美ほむらに戦いを挑んでも勝てそうにない、という意味で言ったのかも知れない。

「あの悪魔、どうしてるの?力のことじゃない。あいつはずっと弱虫だったんだ。あたしよりもずっと弱かったくせに、いつまでも居られるわけがないんだ」

日が落ちる前に一度したような会話。
被せる必要はなかったが。


「それは彼女本人にしか分からないことだね。僕はもう帰るとするよ」

「あっそ、なら忘れないで……あたしはあんたもほむらも許さない。あたしはずっと覚えている」

「……」




「あの悪魔……何でも一人で背負い込んで……」



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宇宙の危機を回避できたのだから、今回の成果は十分ともいえる。
ただ、成果は二重に得られればさらに良い。
そういう意味で、もう一つの目的は成功と言えなかった。

今回、概念について得られたデータは僅かだった。
公園の外に居たインキュベーターはノイズによりほとんど情報を集められず、観測が可能になったのは全てが解決してからだ。

公園内に僕が設置した観測機器も、ほぼ破壊されていてデータ収集は難しい。
偶然が重なったのか、僕達の予想よりも暁美ほむらは力を持っていたのか。

または。


全くの推測になるけれど、円環の理の協力があったとは考えられないだろうか。

宇宙を守ったのは暁美ほむらで、

円環の理が公園外にいた僕達の観測を妨害し、

干渉できない公園内の結界に侵入して観測器を潰して回ったのが美樹さやかだと考えれば、

今回、僕達の取得できた情報が極めて僅かだったことには説明がつく。

暁美ほむらが自ら招き入れるのであれば、美樹さやかは結界をわざわざ壊す必要もない。

美樹さやかは、改変前を想定するイメージとは重ならず、検討の余地があるだろう。

分からないことは多く、予測しか出来ないことも多い。
思い通りにならないことは多い。
でも、それはきっと僕達だけに限らない。



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残処理を終わらせた後。

既に深夜とも言える時間帯になっていたため夕食はもう諦めていたが、テーブルの上にはラップに包まれたポテトフライの皿があった。
卵焼きは出なかった。











<了>

ここまでです。
短編なのにこんなに時間が掛かってすみませんでした。


>>40
こっそりと投下完了時にageてます。

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