【デレマスSS】あなたの温度【藤原肇】 (31)

シンデレラガールズの藤原肇SSです。二作目です。
纏めて頂く前提で投稿しますので、スレッド形式では少々読みにくいかもしれません。
前作(名前の無いファンレター)後の話ではありますが、今作から読まれても大丈夫です。
大丈夫です(念押し)。

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「ケホッ、コホッ…うぅー…」
発熱、咳、頭痛、のどの痛みに全身のダルさ。典型的な風邪の諸症状。
起きた時から調子がおかしくて、熱を測ってみると驚きの38℃。
測りなおしても変わらないその数字を見ると、余計に調子が悪くなるような気がした。
寮母さんに連れて行ってもらった休日診療所で風邪とのお墨付きを頂き、薬を飲んで安静にしておくように、とお達しを受けた。
「せっかくの日曜日なのに…コホッコホッ」
学校や仕事の予定がない日だったのは不幸中の幸いだろうか。
Pさんに体調を崩してしまったことは連絡し、明日以降の仕事の心配はせずしっかり治すように、とのお返事ももらってある。
今はゆっくり休むのが私にできること、なんだけど…
「…寂しい…」
体が弱ると心も弱る、という話は本当らしい。

実家に居た頃に風邪をひいたことは勿論あるが、上京してから体調を崩すのは初めてだ。
これまでは寝込んでいても傍に家族がいてくれたし、こんなに心細くなることはなかった。
寮母さんは何かあったらすぐに声をかけるように、と言ってくれていたけれど、毎日寮の掃除や料理などを一手に引き受けてくれている寮母さんに迷惑はかけたくない。
「…うん、寝よう」
もらった薬の朝の分は飲んだし、お昼ご飯は入りそうにない。
飲んだら眠くなる薬らしいのだが、中々眠気は訪れてくれなかった。

「………ゴホッゴホッ!…?…あー、そっか、寝込んでるんだった…」
時計を見ると、長針は一周もしていなかった。
寝つきが悪かったことも考えると、30分程度しか眠れていないかもしれない。
眠るにも体力が必要なんだ!と熱弁していた杏ちゃんの話は正しいのかも。
でも眠ることを体力トレーニングと主張するのは無理があると思うなー、などと熱っぽい頭でボンヤリと考えていると、ノックの音がした。
「ケホッ、はい、今開けます」
少しふらつきながらドアを開けると、
「こんにちはー、お見舞いに参りましてー」
大きなマスクをつけた芳乃ちゃんが、果物を抱えて立っていた。

布団に戻るよう促され、再度横になった私の傍にちょこんと座る芳乃ちゃん。和服姿のためだろうか、正座がとても絵になる。
「調子のほどはいかがでしてー?」
「少し眠ったんだけど、あんまり良くないかな…ケホッ」
「寮母さんからお話は伺いましたー。風邪のときには果物を取るとよいかと思いましてー。食べられそうにないならば無理はしませぬようー」
「ありがと、お昼は入りそうになかったけど、果物なら食べられるかも」
「それは行幸ー。それでは病の時には定番のー、桃などどうでしょうー」
慣れた手つきでつるつると桃の皮を剥いていく芳乃ちゃん。
こんなに器用だったんだ、ちょっと意外かもしれない。
体を起こすともう桃は一口大に切られていた。
布団の上で食事するのはあまりよくないことだけど、今日ばかりは許してほしい。
「きれいにむけましてー。はい、あーん」
「…え?」
「あーん、でしてー」
「て、手は動かせるから大丈夫…」
「あーん、でしてー?」
「…あーん」
観念して食べさせてもらう。
ひんやりとした桃は痛む喉を癒やしてくれるようだった。
「モグモグ…ゴクン。うん、美味しい、ありがとうね。あとは自分で…」
「なによりでしてー。はい、あーんー」
「………あーん(カァァ)」
桃はとても美味しかった。
ただ、ちょっぴり熱が上がったかもしれない。

「ほかにも果物はありますがー、もうよろしいのでー?」
「うん、まだ食欲はあまりなくて…」
それにこれ以上“あーん”をしてもらうのは気恥ずかしい。
食欲がないのも本当だけど。
「ではお薬をばー。お白湯を持ってまいりますー」
「何から何までありがとう。せっかくのお休みなのに、ごめんね」
「なんのー。特に用事もありませんでしたゆえー」
薬と湯呑を受け取り、飲み下す。
桃とお白湯、薬のおかげか、のどの調子は少しマシになってきたみたい。
「それではまたー、ゆっくりと休まれますようー」
立ち上がろうとする芳乃ちゃんの袖を握ったのは、自分でも意図せぬことだった。
「あっ…」
「…ほー?」
「えっと、あのね、風邪を移しちゃうかもしれないから、無理にとは言わないんだけど、芳乃ちゃんがよかったら、もう少しだけお話しできないかな…?」
「…承りましてー。ふふふー、そなたがお願い事を言うのは珍しいですなー」
にこにこと腰を落ち着ける芳乃ちゃん。
少し恥ずかしいが、こうして甘えてしまうのは風邪で気が弱っているせいだということにしてほしい。
「いいでしょー、この依田は芳乃、そなたの願いをかなえましょー。あと二つまで願いをかなえてしんぜよー」
「ふふ、可愛いランプの魔人さんありがとう。じゃあ、私の風邪を治してくださいな」
「残念ながらその願いは私の力を超えておりましてー」
「そっかー、ランプじゃなくてボールのほうだったかぁ」
「もしも病ではなくー、呪い(まじない)であれば打つ手もあったのですがー」
「うーん、それは聞きたくなかったかなー、小梅ちゃんは喜びそうだけど」
他愛無いやり取りがとても楽しい。
さっきまでは長く感じた時間が、あっという間に過ぎていくようだった。

1時間ほどお喋りをして、そろそろぷち女子会もお開きかな、というタイミングで、芳乃ちゃんは爆弾を放り込んできた。
「なるほどー、今は体の調子を崩してはおりますがー、最近そなたを悩ませていたことは解決したようでー」
思わず硬直してしまう。
確かについ先週まで思い悩んでいたことがあった。
「…えっと、もしかして私って、物凄く分かりやすかったりするのかな?」
おじいちゃんやPさんが鋭いのではなく、私が単純すぎるのだろうか、あるいは実は私はサトラレだったのかも、でもそうなると秘めているはずの想いまで周りには筒抜けの可能性すら、っていや違う今の問題はそこじゃない。
「いえいえー、そなたに限りませずー、ばば様の教えにて皆々の悩みというものに敏感ゆえー。それにわたくしの趣味でもごさいますればー」
「あ、そっか、悩み事解決…」
石ころ集めと失せ物探し、悩み事解決が趣味なんだよね。
私が言うのもなんだけど、渋い趣味だと思う。
「解決したのでしたら何よりでしてー。もしもまた何か悩めることがありましたらー、その折にはわたくしにも話してもらえればー」
「心配かけちゃってごめんね。うん、次に何かあったら、相談させてもらおうかな」
「はいー、そなたに頼ってもらえるのはー、とても喜ばしき事ですのでー」
そう言って芳乃ちゃんはふんわりと笑った。

「それではわたくしはこれにてー」
「うん、今日は本当にありがとう」
それから少し話した後、芳乃ちゃんを見送り、また布団に横になる。
のどの痛みは随分取れたし、もしかしたら熱も下がってきているかもしれない。
借りておいた体温計を腋に挟み、計測を待ちながらさっき芳乃ちゃんに言われたことを思い出す。
頼ってほしいと言ってもらえるのはとても嬉しい。嬉しいのだけれど…
「うぅー、やっぱり少し恥ずかしい…」
自分ではちゃんと隠せていたつもりのことが実はバレバレだった、というのは中々に羞恥ポイントが高いと思うのだがどうだろうか。
布団に顔を埋めてごろごろ転がりたくなるような気持ちに駆られていると、電子音が鳴った。
「…全然下がってない…」
38.4℃、新記録を更新するとは思わなかった。
「今度こそちゃんと寝よう…」
桃とお薬、芳乃ちゃんのおかげか、昼前よりも眠れそうな気がして目を閉じた。

夕方に流れるチャイムの音で目が覚めた。
「…のど乾いた…」
のろのろと起きて冷蔵庫の麦茶を飲むと、少し気分がスッキリした。
汗をたくさんかいたおかげか、熱は随分下がった気がする。
体温計を手に取ろうとすると、携帯電話が点滅しているのに気が付いた。
この光り方はメール、のはず。
「加蓮ちゃんからだ…えっ!?」
寝ていて気付かなかったのだろう、1時間ほど前に着信したメールには
『やっほー肇、風邪って聞いたけど大丈夫?1時間後くらいになるけど、お見舞いに寄っていいかな?もし寝てるみたいだったら、寮母さんに差し入れ預けておくから後で受け取ってねー』
と書かれていた。
1時間前のメールの、1時間後、それってつまり…
「め、メール返さなきゃ!」
電話すればよかったと気付いたのは、
『ごめを、居間起きたの、お見舞いありかとう』
という誤字だらけのメールを送った後だった。

行間空けてくれ

「ごめんね、急に押しかけちゃって」
「ううん、わざわざありがとう。すれ違いにならなくて良かった」
「ちょうど女子寮に着いたところだったからねー、ナイスタイミングだったよ。あ、冷蔵庫開けていい?スポーツドリンクやプリンやヨーグルトなんか買ってきたんだ。風邪の時には食べやすいものを食べて、水分をしっかり摂るのが大事だからね」
事務所でPさんとちひろさんが私の体調について話しているのを聞いて、お見舞いに来てくれたらしい。
私は本当に仲間に恵まれていると思う。
「寝込むことに関してなら私はベテランだからねー。困ったことはない?何でも言って!」
「あはは、ありがと。今は加蓮ちゃんに風邪を移さないかが一番心配かな」
「もー、肇まで私を病弱扱いする。マスクもしてるから大丈夫だよ。インフルエンザとかだったら流石に危ないけどさ」
加蓮ちゃんはあまり心配されるのが好きじゃないみたい。
奈緒がいつも過保護で困る、なんて相談を受けたこともある。
ただ、その時の加蓮ちゃんの表情を見る限り、決して嫌がっている訳ではないのだろうけれど。

>>10
あー、やはり読みにくいですかね…了解です

「声はそんなに枯れてないし、鼻声でもないみたいだね。熱はどう?」

「昼過ぎには38度くらいあったけど、そのあとたくさん汗をかいたからかな、少し下がったと思う」

改めて体温計で測ってみると、37.3℃だった。

まだ少し高いけど、寝る前と比べたら随分下がっていた。

「大丈夫そうだね。これなら明日には熱も引くんじゃないかな」

「うん、体のだるさもほとんど無いし、お腹も空いてきたから夕ご飯は食べられそう」

病院に行ったときに、夕飯にはおかゆを作ってくれると寮母さんが言ってくれていたのを思い出す。

寮母さんの料理はとても美味しいので、おかゆにも期待が高まる。

「あとはー…そうだ、汗かいたよね?体がべとべとして気持ち悪くない?」

「あ、うん。でも今日はシャワーはやめておいたほうがいいだろうから、着替えだけしようと思ってて…」

「だよね!よし、任せてっ!蒸しタオルとか用意してくるからちょっと待っててね!」

「え、ちょっと、加蓮ちゃん!?」

止める暇もなく部屋を飛び出す加蓮ちゃんは、レッスンの時より張り切っているようにも見えた。

「それじゃあ背中から拭いていくね。痒いところはございませんか?」

「温かくて気持ちいいけど、恥ずかしいよ…」

「あはは、いいじゃん女の子同士なんだから。それに肇は普段から一人で頑張りすぎちゃうみたいだから、風邪の時くらい周りに頼ってもいいんじゃない?」

汗を吸ったシャツは脱がされ、下着一枚で体を拭いてもらう。

脱がされた時、下着にダメ出しをされたことは忘れたい。

自宅用だから…と言い訳したものの、レッスン後の着替えの時などにも気になっていたそうだ。

この時のことがきっかけで、後日有志数名と一緒にランジェリーショップに行くことになるのだけど、それはまた別のお話。

それはともかく。

恥ずかしいけど、加蓮ちゃんの言う通り汗でべとついた体を拭いてもらうのはとても気持ちがいい。

「よーし、次は髪だね。ドライシャンプー持ってきておいて良かった」

「えっ、髪も?」

「一晩とはいえ、洗えないのは気持ち悪いでしょ?大丈夫、オーガニックなドライシャンプーだよ」

ドライシャンプーは初めての経験だったが、想像以上に良いものだった。

寝込みのベテランというのはあながち冗談でもないのかもしれない。

「はい、おしまい。どうかな、スッキリしたでしょ?」

「うん、本当に気持ちよかったよ。ありがとう加蓮ちゃん」

「喜んでもらえてよかった。…なんなら着替えも手伝ってあげよっか?」

「っ!?もう、加蓮ちゃん!」

「あはは、ごめんごめん、冗談だってば。少し外に出てるね」

笑いながら退散する加蓮ちゃん。

ため息をつきながら、下着を換えてパジャマ代わりのシャツを着て、加蓮ちゃんのお気に召さなかった下着をネットに入れ、洗濯機に放り込んでおく。

「…好きな色なんだけどなぁ、ベージュ」

部屋に再度上がってもらった加蓮ちゃんにお喋りに付き合ってもらう。

治りかけとはいえ、風邪を移してしまわないかは心配だったが、加蓮ちゃんの好意に甘えさせてもらうことにした。

「それにしても肇が風邪をひくなんて珍しいよね」

「んー、昨日ちょっと体を冷やしちゃったから、それでかな…」

「心当たりはあるんだ。ダメだよー、私たちは体が資本なんだから、気をつけなきゃ。なんて、私が言っても説得力ないかなー、あはは」

「ううん、そうだよね。身に染みたよ…気を付けます」

幸い今回は軽い風邪だったみたいだけど、長引くような病気だったら色んな人に迷惑をかけてしまう。

体調管理はプロとして基本中の基本なのだから。

「ところでさ、肇はプロデューサーさんがお見舞いに来てくれたとしたら、嬉しい?」

「えっ、それは勿論嬉しいけど、Pさんは忙しいし…」

何人ものアイドル達を担当しているためか、あの人はいつも働いている。

うちの事務所には何人ものプロデューサーがいるけれど、誰もが忙しそうにしているイメージがある。

「そっかそっか…おっと、電話だ。ちょっと出てくるね」

そう言って部屋を出ていく加蓮ちゃん。

その手に持った携帯電話からは音も振動もしなかったけど、最近の携帯電話は持ち主にだけ着信が分かる機能があるのかもしれない。

加蓮ちゃんの電話は少し長引いているようだ。

のどが渇いたので、差し入れに貰ったスポーツドリンクを飲んでいると、ドアが控えめにノックされた。

「はーい、開いてますよ」

そっと開けられたドアから入ってきたのは、加蓮ちゃんではなくスーツ姿のPさんだった。

「こんばんは、肇。体調は大丈夫か?」

「…ええっ!?」

な、なんでPさんが!?

思わず取り落としそうになったペットボトルを、中身をこぼさずにキャッチ出来たのは運が良かった。

「おお、ナイスキャッチ。じゃなくて、驚きすぎだろう!?おい北条、話が違うぞ!?」

「いやいや、ちゃんとプロデューサーさんに入ってもらっていいか肇に確認はとったよ?」

Pさんの後ろから加蓮ちゃんも入ってきた。

さっきの質問ってそういうことだったの?

「それじゃあお土産も全部渡せたし、私は凛達と夕ご飯の約束があるからそろそろ帰るね。お大事にー」

「えっ、加蓮ちゃん!?」

ばいばーい、と手を振りながら去っていく加蓮ちゃん。

お見舞いに来てくれたのはとても嬉しいのだけれど、なんで芳乃ちゃんといい加蓮ちゃんといい、爆弾を放り込んでくるのだろうか。

「あー…もしかして、まずかったか?」

「い、いえ、大丈夫です。わざわざありがとうございます」

少しギクシャクしながらPさんに座ってもらう。

Pさんが私の部屋に入るのはこれが初めてだ。

顔が火照ってしまうのは、熱のせいだけではないだろう。

「寮母さんと北条から少し話は聞いたよ。体調は落ち着いてきてるみたいだな」

「はい、のどの痛みはもうありませんし、熱も明日には落ち着くと思います」

「それは何よりだ。ただ、明日の予定はもう変更させてもらったからな。学校に行けるかの判断は肇に任せるから、仕事は明日まで休むように。もしも明日になってまた体調が悪化していたら、すぐに教えてくれ」

「分かりました。すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」

「…いや、謝るのは俺の方だ。すまん肇、無理をさせてしまって」

深々と頭を下げるPさんの姿に慌ててしまう。

「そんな、無理なんてちっとも…」

「撮影のあと、肇をしっかり温めてあげていればこんなことには…」

「そ、それは冗談です♪って言ったじゃないですか…!」

確かに風邪をひいてしまったのは昨日の撮影で体を冷やしてしまったことと無関係ではないと思うけれど、その話を蒸し返されると酷く照れてしまう。

撮影中は集中しすぎて軽いトランス状態になってしまうのか、自分でも信じられないくらい大胆なことを言ってしまうことが偶にあるのだ。

Pさんは真面目に謝っているのだろうけど、そういうことを真顔で言うのは恥ずかしさに耐えられなくなってしまうので勘弁してほしい。

昨日のお仕事は美しい水辺での撮影で、場合によっては雑誌の一面を飾らせていただける、というものだった。

とても綺麗な衣装だったし、私も久しぶりに心から集中して取り組めたおかげか、撮影後に見せていただいた写真は我ながら会心の出来栄えだった。

それが嬉しくて、水に濡れた衣装を撮影後もしばらく着ていたためか、あるいは緊張の糸が少し緩んでしまったのか、今日の体調に至るわけである。

「ともかく!昨日のことが原因だったとしても、明日までにはちゃんと治しますから、Pさんが気に病むことなんてないんです!」

恥ずかしさのせいか少しだけ強い口調になってしまう。

いけないいけない、深呼吸をひとつして、言葉を続ける。

「私は大丈夫ですから。それにPさんが体調を崩してしまうほうが事務所としてはもっと大変なことになるんですから、Pさんこそ体を労わってあげてください。今日だってお仕事だったんですよね?いつ休んでるんですか?」

「う、それを言われると弱いな…大丈夫だって。体は鍛えているし、今まで体を壊したことはないからさ」

「今まで大丈夫だったことは、これからも大丈夫なことの証明にはなりませんよ?」

論破です!と、ありすちゃんから名言を借りさせてもらうと、Pさんは目を逸らしてしまった。

そうこうしているとドアがノックされる音が響き、これ幸いとPさんが立ち上がった。

どうやら相手は寮母さんのようだ。そういえばそろそろ夕食の時間になる。

「寮母さんがおかゆを持ってきてくれたぞ。食欲はあるか?」

「はい。お昼は果物だけでしたから、実はお腹ぺこぺこで」

お昼のことを思い出すと、芳乃ちゃんに“あーん”をしてもらったことまで思い出してしまい、少し恥ずかしい。

「そうか、じゃあ俺はそろそろお暇しようかな」

「あっ…はい、お見舞いありがとうございました…」

本当はもう少しだけPさんと一緒にいたい、そんな我儘。

普段の私だったらきっと蓋をして隠してしまった思い。

それを伝えるのを後押ししてくれたのは、芳乃ちゃんや加蓮ちゃんの言葉だった。

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