穂乃果「ずっと一緒だよ…」 (29)


医学的なものはよく知らない

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絵里「……」

海未「……」

真姫「……」

希「……」

にこ「……」

花陽「……」

凛「……」


絵里「……穂乃果は」

6人「……」ピク

絵里「来てるの?」

海未「……いえ」

海未「部屋に閉じ籠ってるみたいで」

海未「誰も部屋に入れないらしくて……」

絵里「……そう」


海未「ですが……」

絵里「何?」

海未「部屋の前まで行きましたが」

海未「人の気配がしないんです」

花陽「…………ぇ」

にこ「……」

希「……」

絵里「待って、部屋に閉じ籠ってるって」

海未「それは……雪穂から聞きました」

絵里「……様子は?」

海未「雪穂なら……ひどく疲れた顔をしていました」

絵里「……そう」







真姫(……)コツコツ

「――――でね、ひどいんだよ■■ちゃんったら」アハハ

真姫(……また、か)スゥ…

ある病院の個室。
その中からは楽しそうな少女の声が聞こえる。

「私のことを思ってるって、嘘なんだよ絶対」

一方的に話す少女の声。

「――――だって私には」

見舞い客も来れないような部屋から聞こえる話し声。

「■■■ちゃんが一緒にいてくれればいいんだから」

■■に向かって話す、
■■■■■の声。

真姫(……こんなこと)

真姫(話せる訳、ないわ)スゥ…

病室から遠ざかる真姫。
辛そうな顔をする彼女とは対照的に、個室からは楽しげな声がずっと聞こえていた。




凛「かよちん……」

凛「穂乃果ちゃんは、もう来ないのかな……」

花陽「凛ちゃん……」

穂乃果ちゃんがスクールアイドルを辞めるって言って、μ'sが活動停止になって……。
それから一度だけ、穂乃果ちゃんが神社に来て……。

それから、ことりちゃんが留学した後…………。
穂乃果ちゃんは、学校に来なくなった。

夢中で、他のことが見えなかった自分をずっと責め続けてるって思ってた。
けど、今日の海未ちゃんの話を聞いて…………、穂乃果ちゃんは、もういないんじゃないかって、思った。

どこか遠いところにいるんじゃないかって。


そんなことを考えながら、凛ちゃんと帰ってたら、不審な人影を見つけた。

「……」キョロキョロ

花陽「? …………あれって」

凛「真姫ちゃん……?」

周りを見回しながら、真姫ちゃんが建物から出てきた。

凛「……なんか怪しい」

警戒して建物から出てきたってことは、何かを気にしてる?
そう思いながら、建物をよく見たら――――

■■病院、とあった。

花陽「……捕まえよう」

真姫ちゃんが、何かを知っている気がした。




希「えりち」

絵里「……何かしら?」カキカキ

希「どう、するの? これから」

絵里「……生徒会のことかしら」カキカキ

希「違うよ。穂乃果ちゃんのこと」

絵里「……」ピタッ

絵里「このまま……」

絵里「このままでいけないことは分かってる」

絵里「でもどうしろっていうの」

絵里「穂乃果のことを解決できるのは、穂乃果自身が受け入れるか、ことりが帰ってくるかだけ」

絵里「私たちにできることは何もないのよ……」

希「えりち……」

ウチは、今の穂乃果ちゃんがどうなっているか知っている

ただ、ほんのちょっとの好奇心だった

何かを隠そうとしていた真姫ちゃんを尾けただけ

それで、穂乃果ちゃんのあんな姿を見るなんて、夢にも思わなかった

穂乃果ちゃんの今を、軽々しく話すことはできない。
だから、ウチは真姫ちゃんとの、穂乃果ちゃんの家族との秘密にした

こんなことはえりちにも話せない




喫茶店

真姫「何かしら? 凛、花陽」

花陽「真姫ちゃん……」

あの後、偶然会ったように話しかけた。
ちょっとは距離を空けて、じゃないとすぐに勘づかれそうだったから。

真姫「日が暮れちゃうわよ」カチャン

注文したコーヒーに手をつけようとした真姫ちゃんを、凛ちゃんの言葉が制した。

凛「凛たちは、真姫ちゃんに話してほしいだけ」

真姫「…………何を?」


花陽「……」チラ

凛「……」チラ

真姫「……」

空気が重い。
どうやら凛ちゃんは私から言ってほしいみたい。

花陽「あのね、真姫ちゃん」

花陽「どうしてさっき」

花陽「あんなに不審に」

花陽「病院から出てきたの?」

真姫「…………!」

真姫ちゃんの顔が強張る。


花陽「普通にしていれば何にもおかしいところなんてないのに」

花陽「どうして」

花陽「『精神病院』から出てきたの……?」

真姫「………………」

花陽「答えて」

真姫「……」



凛「…………もしかして」

凛「穂乃果ちゃん」

真姫「……」ピク

凛「が、関わってるの?」

真姫「……」

真姫「………………そうよ」

長い沈黙の後、真姫ちゃんはそう答えた。
そして――、

真姫「ずっと迷ってた」

真姫「言うべきか言わざるべきか」

真姫「とてもじゃないけれど、これは言う必要が無いと思って諦めていた」

真姫「二人には、すべてを話すわ」ガタッ

真姫「行くわよ」

花陽「……何処に?」

真姫「決まってるじゃない」

真姫「病院よ」





病院前

真姫「入る前に確認しておくわ」

花陽「?」

凛「何?」

真姫「これから向かうのだけれど」

真姫「何があっても声を出さないで」

真姫「約束、できるかしら?」

凛「穂乃果ちゃんについて、だよね?」

真姫「そうよ」

凛「ならできるにゃ」

花陽「約束するよ」

真姫「…………ふふ」

真姫「ついてきて、案内するわ」

真姫「穂乃果の元へ」



薄暗い廊下を歩く。
なんでこんなに暗いのか分からなかったけど、多分その方が都合がいいんだ。

凛「なんだかこわいね……」

花陽「うん……」

壁にあるものを見なくて済むから。

真姫「…………ここよ」

真姫ちゃんがある部屋の前で止まる。

真姫「……」

真姫「ちょっと静か過ぎるわね」

真姫「待ってて」ゴーッ

横引きのドアを開けて、真姫ちゃんが中に入っていく。
様子を見れそうな窓はない。違う。塞がれているんだ。

花陽「……」ブルッ

なんだろう。
寒気がした。


真姫「穂乃果……?」

真姫ちゃんの声がする。
少しくぐもっている。

真姫「あー、またそんなことして」

「ぁー…………」

真姫「ちゃんと勉強しなさいって言ったでしょ」

ドアの窓から光が漏れる。
真姫ちゃんが外したのかな。

凛「かよちん……」ボソッ

花陽「どうしたの? 凛ちゃん」ボソボソ

凛「LINE……」ボソッ

言われて携帯を見るとチカチカ光ってる。
慌てて見てみると、

从廿_廿从:窓から見て

花陽「……」ソーッ

凛「……」ソーッ

























そこに みえた ものは。















「ごめんねぇ~」

真姫「ほら、ここ間違ってる」

穂乃果ちゃんの勉強を見てる真姫ちゃん。
先輩なのに後輩に間違いを指摘される穂乃果ちゃん。

よかった。
変わってない。

凛「ヒッ……!」

花陽「……ピャアッ……!」

そう思えたら、どんなによかったか。




真姫(二人とも……)



「……。いま」



か、お。






「なに、か」

かお。

「きこえなかった?」

顔。

真姫「……そう?」

真姫「また希が来て、帰ったんじゃない?」

「んー……そうかな」



「ねえ、どう思う?」








顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔。

部屋一面に、顔、が。
あの、かお、が。
見知った、か、お、が。


穂乃果「ことりちゃん♪」ニコッ

南ことりの、顔が。
壁一面に貼られた、南ことりの、いろいろな表情が。
等身大の、ことり、が。
ことりの、人形、が。

すべて、を、おおいつくし、て。
…………その中で。

穂乃果「ことりちゃんも真姫ちゃんと同じー?」ニコッ

穂乃果「そっかぁ。じゃあ、いっかぁ」ニコニコ

微笑む高坂穂乃果が、異様なものに、思えた。










病院前

凛「……」

花陽「……」

真姫「……今日のこと」

真姫「……秘密にしなさいよ」

凛「……穂乃果ちゃんは」

凛「どうして……」

真姫「――――どうしてあんなに、ことりに囲まれているか?」

凛「……」ビクッ



真姫「…………部室で」

花陽「……」

真姫「部室で、喧嘩みたいなこと、したでしょ。文化祭後に」

花陽「……うん」

真姫「ことりの言う通り、穂乃果は周りが見えていなかった」

真姫「周りが、というよりことりが、と言ったほうがいいのかもしれないわね」

真姫「ことりのことが見えていなかった穂乃果は、ことりを見ようとした」

真姫「結果、一部を除いて」



真姫「すべての、人間、人形がことりに見えるようになった」

真姫「声を発する、ね」

凛「……一部って?」

真姫「穂乃果の家族と理事長、それから……」

真姫「ことりの留学前にあまり穂乃果と会わなかった私と希」

真姫「……それだけ」

花陽「……穂乃果ちゃんは」

花陽「…………治る、の?」


真姫「…………結論から言えば」

真姫「治らないわ」

凛「そん……な……」

真姫「ただし、治ることもある」

花陽「……?」

真姫「……これは、穂乃果の心の問題だから」

真姫「穂乃果が現状を受け入れない限り、治ることはないのよ」






「」


「」



「」




「」





「」






「……」





「えへへ」




「ことりちゃん」



「ずっと一緒だよ?」


「ずっと……一緒……」


おわり





初期設定


ことりが留学して周りの人間や人形(希と真姫は別)がことりに見えるようになった病み穂乃果
(声を出さなければ見えない)

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