【アイマス】憧憬の痛み(菊地真篇) (52)
アイドルマスターのSSです。
ミュージックディスクコレクションを基にしていますが、
アニメ版しか知らないので細かな設定等の矛盾はご了承ください。
このSSは、
【アイマス】滄の向こう(我那覇響篇) 【アイマス】滄の向こう(我那覇響篇) - SSまとめ速報
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【アイマス】滄の向こう(菊地真篇) 【アイマス】滄の向こう(菊地真篇) - SSまとめ速報
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の続きです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1473084922
雑誌をパラパラとめくってみる。
目当てのページを見つける。
そこに載っている記事にガッカリする。
ほんとは喜ばなくちゃいけないことなんだけど……。
それは分かってる。
記者の人もボクが答えやすいように質問してくれたし、カメラマンも衣装の担当の人も、良いのが撮れるようにって動き回っていた。
それだけに落胆するのは失礼だって分かってるけど。
『 菊地真 可憐な花嫁を優雅にエスコート 』
新郎役のボクがタキシード姿で花嫁を抱き上げている。
実際には花嫁役は見えないようにした台座に腰をかけていて、ボクはそれらしく見えるように腕を回しているだけだけど……。
でも誰がどう見たって、そうしているようにしか見えない。
だって違和感がなかったから。
良いのが撮れたよ、ってカメラマンが言うくらいの自信作だから無理もないことだった。
「………………」
”ウェディングドレスの撮影だぞ!”ってプロデューサーが言った時は、自分でも恥ずかしいくらい大喜びした。
いつも男役ばかりだったから、やっとそういう仕事が来たんだって。
しかも花嫁衣裳!
女の子の永遠の憧れだったし、フリフリだってついてる。
アイドルやっててよかった、って思えた瞬間だった。
でも実は新郎役だと分かったのは、現場に着いてすぐだった。
プロデューサーもボクが花嫁役をやると思っていて、なんとか交代できないかって頼んでたけど、
依頼者の求めるイメージが……という理由で叶わなかった。
今までのボクなら不貞腐れてNGを出すこともあったけど、取り敢えずそれが求められてることだから、
すぐに気持ちを切り替えられたのは、我ながら成長したなあと思ったりして。
でも終わってから、こうして記事になっているのを実際に見ると、やっぱり悔しい。
なんていうか結局、ボクはそういう風にしか見られてないんだって思い知らされる。
『真ちゃんはかわいいよ! かわいくて、かっこいいよ!』
雪歩はそう言ってくれるけど、世間のイメージはそうじゃない。
”かっこいい”ってほんとは褒め言葉のハズだけど、ボクにはレッテル貼りみたいなものだった。
”かわいい”を目指してるハズなのに、誰もそれを認めてくれないし、許してくれない。
そう思う反面、今の自分の立場があるのは、それのおかげだってことも分かってる。
王子様路線を捨ててアイドルを目指しても、雪歩や春香が相手じゃ勝負にならない。
他にもかわいいアイドルはたくさんいるから、ボクなんてすぐに埋もれてしまう。
こういうの、ジレンマっていうのかな。
「どうしたんですか、真さん? 元気がないみたいですけど……」
やよいが心配そうにボクの顔を覗き込んできた。
ホウキを持ってる……事務所の掃除でもしてたのかな。
「あ、うん、そんなことないよ?」
取り敢えずそう答える癖がついていた。
誰かに心配される、っていうのが苦手だった。
頼りたくないワケじゃないけど、そうすることが相手に悪いっていう気持ちになってしまう。
「そうですか……?」
だけど顔には出ていたみたいで、やよいは不安そうな目でボクを見てる。
「あはは、ちょっと寝不足かも」
寝不足なら病気じゃないから、心配かけることもないだろう。
疲れてはいないけどちょっと休みたい気持ちではあったから、応接室のソファにもたれることにした。
肘掛けのあたりに身を預けて。
快適な枕とはいえないけど、気分が沈んでいたせいかボクの体も沈み込んでいって……。
いつの間にか眠ってしまっていた……。
「――そうなの?」
「……疲れてるみたいです……だから……」
「レッスンの時はそんな感じじゃなかったけどな」
「そうなんですか?」
遠くから聞こえる声に目が覚める。
応接室といってもパーティションで区切っているだけだから、話してる声はけっこう聞こえてくる。
時計を見て、寝ていたのは30分程度だと分かった。
「真さん」
応接室から出たボクにやよいが声をかけてきた。
掃除はもう終わったみたい。
「ごめん、起こしちゃった?」
響が申し訳なさそうに言った。
そういえば買い出しの手伝いに行くって言ってたっけ。
「ううん、そんなことないよ」
そう言って大袈裟に背伸びをする。
30分くらいでしかも姿勢も悪かったから、かえって疲れが溜まった感じがする。
「疲れてるんでしょ? 今日のレッスンは厳しかったからな」
響が笑って言った。
午前中のダンスレッスンはかなりハードだった。
次のライブではアップテンポな歌が続くから、そのために完成度を高くする必要があった。
ボクや響は難なくこなせたけど正直、個人個人のレベルに合わせた内容にしたほうがいいと思う。
「あ、これ?」
テーブルの上に置きっぱなしだった雑誌を、響が手にとった。
「この前のやつか」
そう言って響が開いたのは、タキシード姿のボクが写っているページだ。
「やっぱり真はこういうのが似合うな」
チクリ、と胸を針で突いたような感覚。
耳のずっと奥がざわざわとうるさい感じ。
分かってる。
分かってるんだ、ボクは。
響に悪気なんてない。
あれはみんなが言う感想だから、間違ってなんかいない。
「真さん……顔色、悪いです。休んだほうがいいと思います」
やよいは心配そうに――というより、ちょっと怯えた感じでボクを見上げた。
強い顔してたかな、ボク。
「う、うん……そうしようかな」
鞄を持って肩に担いだところに、
「真、帰ったらストレッチしといたほうがいいと思うぞ」
響が気の抜けたような声で言った。
それがなんだか無性に腹が立って、
「響に言われなくても分かってるよ!」
って、つい大きな声で返してしまう。
横でやよいがビックリしてたから咄嗟に謝ろうかと思ったけど、なんとなくばつが悪くてそのまま事務所を出てしまった……。
「サイアクだ…………」
通りに出たところで頭を抱える。
後悔先に立たずっていうけど、ほんとにそのとおりだ。
なんで怒鳴ってしまったんだろう……。
怒るようなことなんて何もないハズなのに。
5分でいいから戻りたい。
やよいにも響にも悪いことしちゃったな……。
「………………」
謝るなら早い方がいいと思って振り返る。
けど、足は事務所に向かって進んでくれなかった。
なんというか、今は戻りたくない。
「とりあえずメールで――」
ケータイを開いて文字を打ちかけたところで指を止めた。
メールで謝るのってなんかズルい感じがする。
いいや、明日ちゃんと謝ろう。
悪いのはボクなんだから。
短いですが今夜はここまでです。
それでは、また。
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