【ガルパンSS】西住しほ「夫に離婚届を提出されてしまった…」 (30)

ガルパンの妄想短編ssです。

珍しく純愛です。ラブですラブ。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1472425242


夫に離婚届を提出されてしまった――


戦車乗りの私と整備士の夫、仕事柄話が合う事も多く、元々相性は良かったと思う。

その証拠に、早婚ではあったが二人の子宝にも恵まれ、夫婦仲もこれと言った障害も無くまさに順風満帆だった。


私が西住流の家元を継ぐ事が決定するまでは。


家元の継承が本決まりになってからは、私の日常は激務に追われる事になった。

覚える事、やる事が大量に有り、家に帰れる事すら稀な毎日。


その間、夫婦の時間を作る事を疎かにしていた事は否定しない。


戦車道プロリーグ設置委員会の立ち上げ等にも関わる事になり、その状況は更に悪化していく。

しかし、私はそれが西住流家元を継ぐ者の責任だと思っていたし、夫もその事を良く理解してくれていた。

お互いに、一緒になる時に覚悟をしていた事でもある。


だから、その事が離婚の直接の原因ではない。


離婚の原因は子育ての視点の違いだった。

私は幼い頃から西住流の跡取りとして育てられ、また、育ってきた。

故に私は西住流跡取りの育ち方、育て方しか知らず、また長女のまほもその様に育ててきた。



撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 それが西住流―――



まほはこの言葉を体現するように、鉄の掟を守る、鋼の心を持つ良き少女へと育ってくれた。


それが夫には耐えられなかったらしい。


夫は優しい人だ。

私の西住流次期後継者と言う立場にも理解してくれて、婿養子にも入ってくれた。

しかし、理解していたとは言え、やはり彼の優しい心には耐えかねる事が多々あったのだろう。

まほはしょうがない、長女であり西住流をいずれは継いでいかなくてはならない、それはわかる。

だが、せめてみほだけはもっと自由に育ててあげられないか、
偉大な母と姉の重圧に押しつぶされて、今にも潰れそうになっているじゃないか…。

それが彼の言い分だった。


私はそれを即座に拒否した。一切の話し合いも持たずに、だ。

みほも西住の家に生まれた女である。いずれは西住流を継承して往くまほの補佐をして貰いたい。
それにまほに万が一の事があれば、みほが西住流を継がなければならないのだ。

夫の言葉を受け入れる事は到底出来なかった。


西住流の次期家元として。


それでも尚、夫は考え直すように粘り強く説得を続けてきたが、私は頑として一歩も譲らなかった。

一晩の間、そんな平行線の話し合いが続いた挙句、私は翌日の戦車道プロリーグの会合を理由に話を打ち切ろうとした。

そんな私の顔を、疲れ切った表情でじっと見つめてきた夫は、
無念の表情を噛み殺して一枚の緑色の紙を、無言で私の前に提出してきた。


それは離婚届だった。

翌日、戦車道プロリーグの会合が行われた会議室の近くに有るホテルのバーで、私は荒れた。

原因は勿論、昨晩の出来事だ。

何時もの私ならば、差し出された離婚届に対して、冷静に話し合う事を夫に求めたと思う。

だが、やはり連日の激務で私の精神は疲れ切っていたのだろう。

冷静な判断が出来ずに、怒りに任せて離婚届に自分の名前を書き込んで、そのまま家を飛び出したのだ。

そして、会議室近くのこのホテルにチェックインして、翌朝会議に出席した。

話し合いは滞りなく終わったが、会場から出た私を待っていたのは、
マナーモードを解除した携帯が告げた、

「離婚届を今日提出してきた」

と、一言だけ書かれた、夫だった人からのメールだった――


そして今、私は後悔と失望が綯い混ざった感情を誤魔化すために、ただ杯を重ねている。

既にかなりの量を飲んでいるが、私は更に空のグラスをカウンターの向こうにいるバーテンダーに向かって突き出した。

先程まで窘めるように飲み過ぎを警告していたバーテンダーは、
諦めた様にため息をつくと、無言で新たな琥珀色の液体を私の前に運んできた。

それをまた早めのピッチで喉に運んでいると、隣の席に見慣れた人物が腰かけて来た。


日本戦車道流派の双璧の成している島田流の家元、島田千代である。

彼女とは学生時代からの戦車道のライバルで、私との付き合いも長い。

それは今でも変わらず、私が西住流の家元を継ぐ話が持ち上がると、彼女は島田流の家元になる、
そんな感じで今も尚、良きライバルと言った感じだ。

とは言え、今ではお互いの立場が有るから、昔の様に気安く軽口を叩き合う感じではなく、
お互い差し障りのない探りを入れた後、軽く嫌みの一つも言い合う、それだけの間柄の筈だ。

しかし、今日、隣に座った千代の顔はどことなく柔和で、昔、仇名で呼び合っていたあの時を思い出させた。

「何か用があるのか」

そう尋ねた私に、

「まあ、まず一杯飲ませてよ…、これだから西住流は…」

と、軽く笑うと、バーテンダーに向けて私と同じ飲み物を注文した。

飲み物が千代の前に置かれ、乾杯するでも無く口に運ぶと千代は、

「実は私、貴女に相談があってね…」

と、置いたグラスの淵を指で撫でながら、言いにくそうに私に告げた。


島田流の家元が西住流の師範に相談ですか?? そんな揶揄の言葉が頭に浮かんだが、
何時になく辛そうな千代の表情に私はその言葉を飲み込んで尋ねた。

「――相談とは??」

「うん――私も貴女も、同じ様に結婚してるでしょ??」

そうなのだ、早婚だった私達からはかなり遅れたが、彼女も整備士の婿養子を貰い結婚、娘を設けていた筈だ。

私が頷くと、千代は、

「あのね…私達、今までは夫婦仲も良かったんだけど、家元になったら毎日激務でね…夫との時間が取れなくて、
すれ違いが多いのよ…、娘の教育方針でも最近揉めてて…このままだと離婚だ、って先日遂に夫に言われたのよ…それで…」

千代の語る話の内容に驚愕する私。

今の私と全く同じ状況ではないか。

そう私が語ると、千代は驚いた表情を浮かべ、寂しそうに笑った。

「そう――貴女もなの…」
「ああ…だから残念だが私には――」

相談には乗れない、私がそう答えようとすると、千代は軽く首を振って私の発言を遮る様に、
手にしていたグラスを目の前に挙げた。

「大変よね、お互いに」
「ああ、お互いに、な」

私はそう受け答えると同じ様にグラスを挙げ、初めてそこで彼女と乾杯のグラスを鳴らしたのだった――



そこで終わっていれば、二大流派の中心人物同士が心を交し合った感動的なワンシーン、で済んだのだろう。


翌朝、私のベッドの横に、裸の千代が寝ていなければ。


私とて火の国の女だ。どれ程酔っぱらっても記憶を無くすような醜態だけは冒さない。

だが、この場合、それをどれ程恨んだことか…。

散々二人で愚痴を吐きながら泥酔するまで痛飲し、千代を伴って部屋に戻ってもルームサービスで酒を運ばせ飲んでいた。

お互いに旦那の悪口を言い合い、冗談でもう男は懲り懲りと言い合っていた。

その時、酒がそうさせたのか、魔が刺したのか…、ふと見た泥酔する千代の赤く上気する顔が、何やらとても魅力的に見えたのだ。

からかい半分で、酔った頭で何も考えずに千代の唇を奪った。


千代は一瞬だけ目を丸くすると、目を瞑り両腕で私の体を抱きしめて、口づけを返してきた。

もうそうなると酒で焼き切れた理性は止まらなかった。

ベッドに倒れ込む様に押し倒し、千代の体を貪った。


シーツの中で揺れる彼女の肢体や、嬌声の一言一句までハッキリと覚えている。



心を交わすどころか、身体を交わしてしまった――



裸の千代が眠る横で、顔を両手で覆って頭を抱え込む。

別れたばかりの夫、二人の娘、何より手を出してしまった同性の友人――

色んな人に対する責任に頭を抱えて苦悩して唸っていると、
そんな私の様子に気が付いたのか、千代が目を覚ましてきた。

「――おはよう、しほ。」

酒も残り、目が覚めたばかりの千代は、まだ目が覚めきっていないようで、
笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。

私は、そんな千代の笑顔を見て、思わず笑みが漏れた。

彼女の笑顔を見ていると、全てが吹っ切れた様な気がしたのだ。

私は顔をキッと引き締め、覚悟を決めると寝ぼけ眼の千代の両手を取ってギュっと握り、
千代の目を確りと見つめて、こう言い切った。


「責任を取る―― 私と結婚してくれ――」


私の言葉を聞いて、千代は一瞬きょとんと、そして次の瞬間、少女の様に顔を赤らめると、
無言で頷いてくれたのだった――


そこからの私たちの行動は早かった。

何せ、戦車道二大流派の次期家元の師範と家元の婚約である。
大変な混乱が予想された。

だが、二大流派の中核相手に表立って反対を唱える者はおらず、
また、居たとしても私たち二人の睨みに逆らえるものは一人として居なかった。

問題は同性婚、と言う事だが、昨今、オリンピックでもメダリストが

「自分はLGBTである」

と言うカミングアウトが大量に増えるご時世である。

戦車道でも遂に、と、世間の評判は概ね好評だった。

それに武士道にも昔、衆道が有ったように、戦車道も伝統時に百合の文化が色濃く残っている。

それは昔ほど盛んだったようで、うるさ型の年寄ほど過去の自分達の道ならぬ恋と相手を思い、
二人の味方に付いてくれたのだった。

若い世代も今はネットの影響でそれほど同性に抵抗は無く、最早、私達二人の結婚に反対する者は誰も居なかった。

突如として三人姉妹となった娘達はどうだろうか。

これが意外と大丈夫だった。
意外と、どころか大成功だったのかもしれない。

まほは、可愛い妹が増えたのを冷静に喜んでいる。

親の目から見ても何時も沈着冷静で、喜んで居るかどうか傍からの判断が難しいが、
千代と愛里寿が私達の家に引っ越してくる時に、鼻歌交じりに愛里寿が使う予定だった部屋を掃除していたのを私は見逃さなかった。

みほは一番喜んでいたのではないだろうか。

まほに比べると感情が読み取りやすい子ではあるが、その喜びを隠しもせず、全身で喜びをアピールしていた。

元々、妹を欲しがっていた事もあり、しかも趣味が一緒(ボコ)の、
可愛い妹が出来て大喜びで二人を我が家に迎え入れたのである。

愛里寿も、寂しい思いをしていた一人っ子からいきなり、頼りがいのある長女と趣味(ボコ)の合う優しい次女
の二人の姉が出来て大喜びだった。

そして愛里寿は学校も黒森峰の一年に転入してきた。


新たに出来た二人の姉を慕う余り、だったが、これが更に事情の好転を呼んだ。

黒森峰で、みほは副隊長の職に付いて居たが、自信が無いのか西住流と優秀すぎる姉に対する重圧か、
実力が思ったほど発揮出来ずにいた。

その所為か、陰では「親と姉の七光り」と蔑まれ、それが更にみほの実力を出し辛い状況に追い込んでいた。

しかし、一年に愛里寿が転入してきて事態は変わった。

みほは新しく出来た妹に良い所を見せようと、積極的に発言、行動をし始めた。

元々厳しく西住流を私の元で叩き込まれ、本人も才能溢れる戦車乗りである。次第に副隊長らしい実力を示し始めた。

また、愛里寿も一年にして他者とは隔絶した戦車道の腕前を見せ、周囲を瞠目させた。

そのエース級の愛里寿が全力で懐いていて、本人もその能力を示した、
みほに代わって副隊長の座を狙っていた多くの隊員も、その盤石さを認めざるを得ない状況になっていた。


三年、西住まほ、

二年、西住みほ、

一年、島田愛里寿

の、この世代は、この年、高校戦車道大会決勝でプラウダ高校を全く寄せ付ける事無く、一方的に撃破して、
高校戦車道10連覇を達成した後も、30連覇を達成する遥か未来まで、黄金世代と長く語られる事になるのである。


そして私達家族五人も、同じ様に末永く幸せに暮らしていくのだった――





なお、大洗女子学園は廃校が決まった。


【完】

終了です。アニメと劇場版くらいしか知らないニワカですので、小説とか漫画でこの二人の
過去に触れてたら申し訳ありません。

しぽぽん、ちよきちと呼び合ってたのは知ってます。後、千代さんの旦那が整備士ってのも
妄想オリジナルです。

それではHTML化依頼出してきます。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom