赤城みりあ「オトナになるとき」 (37)
※ちょっとした思いつきを無理やり形にしたようなSSです。
※短いですが、それでもよろしければ、読んでいただけると幸いです。
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夕暮れの中、事務所の前の信号を待っていると、ふと、それに意味があるのかと思ってしまう。
こっちがルールを守っていたって、相手が破ってしまえばそれまでだと。
勿論、それが極論だということは分かっているけど、それでも、そんな考えが頭をもたげてしまう。
「みーりあちゃん!」
不意に後ろから抱きつかれた。
「莉嘉ちゃん?どうしたの?」
出会ってからもう9年は経つ親友。下手な同級生よりも深い仲、言ってしまえばアイドルとしての戦友。
「いやー、見つけちゃったから☆」
「もう。酔った時のきらりさんじゃないんだから」
「酷いなー、あそこまで無闇にハグハグしたりしないよ。あ、みりあちゃん、青になったよ」
横断歩道を渡りながら、ふと、いつから彼女の事を「きらりちゃん」と呼ばなくなったのかと思う。
彼女だけじゃなく、いつの頃から年上の人を「ちゃん」付けで呼ぶのをやめるようになっている。例外は莉嘉ちゃんだけだ。
きっと、高校に上がる前だったろうか。
確かその時には、もう子供では居られないと思っていたから。
「みりあちゃん、はい、これ!」
仕事から帰ると、きらりさんから謎の包みを貰った。
「ありがとう、きらりさん!……あれ、でも、これって?」
「一日早ーいけど、お誕生日プレゼント。明日はお仕事で帰れないから、もう渡しちゃおっか、って」
促されて包装を解くと、いつも誕生日に貰っているPikaPikaPoPの新作ではなく、少しばかりフォーマルな服。
「ハタチのお祝いだから、いつものハピハピな服じゃなくて、こういうのもいいかなぁーって。杏ちゃんとも相談してね」
あの頃のままでは居られない、年甲斐という物を意識し始めて、諸星きらりは変わっていってしまった。
それでも、言葉の端にあの頃の面影を感じて、何故か少し安心していた。
14歳になった頃、私はアイドルであるという夢から醒めつつあった。
その頃の仕事に不満を持っていたという訳でもなく、大切なのは分かっていた。楽しかったとさえ言える。
それでも、頃合いかもしれないとは思っていた。
アイドルとしても、もう無邪気な子供ではいられなくなるのが分かっていたから。
だからこそ、どうやって辞めるべきか。私はそれを模索していた。
一番いいのは高校生になったその時だと考えていた。オトナの象徴であった、出会った頃の美嘉さんと同じ存在になった時。
それがオトナの始まりだと考えていたから。
結論を言えば、結局私はアイドルを辞めることはなく、
高校生以上のオトナである、20歳を迎えようとする今の今まで続けている。
美嘉さんが理由だ。
『みりあちゃん。アイドル、辞めたいの?』
『その……ワガママかも知れないけどさ、アタシは、みりあちゃんにアイドル続けて欲しいって思っちゃうな』
『今までやってきたどのお仕事も、みりあちゃんはバッチシだったし★』
『何より……ギャル以外あり得ないって思ってたアタシだって、ハタチになって色々やってみれば、楽しいって思えてきたから』
『アイドル「赤城みりあ」がどう変わっていくのか、先輩としてもファンとしても見続けたいんだよね』
『オトナのみりあちゃんも見てみたい。もちろん莉嘉もだけどね★』
美嘉さんとしては、本気で止めたいと思っていた訳では無いかもしれない。
ただの率直なワガママ。ただ、少しでも私に、アイドルへの未練があるのなら、それに期待したかったのだろう。
けど、その言葉は、私にとって……
寮に戻ると、ベッドに身を投げこんだ。
明日は、誕生日だ。
ただでさえアイドルの誕生日というのは、ファンにとって一大イベントだ。
その上、成人も兼ねているのだから、盆と正月が一緒に来たような物で
「……違うよね。そうじゃない」
一言呟いて、ベッドから降りた時。
電話が鳴った。
『もしもし、みりあちゃん?アタシ。莉嘉だけど』
『莉嘉ちゃん?どうしたの』
『その……朝さ、ちょっと変だったから。やっぱり、お姉ちゃんのこと、意識しちゃうのかなって』
『えっ』
いきなりで、言葉を詰まらせてしまう。
『去年のアタシもそうだったし。だからさ、みりあちゃんも辛いのかなって思って』
『その……ごめんなさい』
『謝んなくていいよ。お姉ちゃんだって思ってもらうのは嬉しいと思うよ』
『……そう、かな。そうだといいんだけど』
『そうだよ。でもさ、やっぱり、一番嬉しいのはアタシ達の元気な姿だと思うんだ☆』
『だから、これからも、オトナになってパワーアップしたアタシ達、魅せつけちゃお!』
『……うん。そうだね』
目が覚めると、もう11時半を過ぎていた。
電話が終わったあと、身体を洗って夕食を済ませて。
少し横になっていたら、そのまま眠ってしまったらしい。
「あぶなかったー……」
莉嘉ちゃんが言ったことは正しいと思うけど、
ホントはもう少し、感傷的に、子供でいたいんだ、私。
オトナになる為に、ほんの一瞬でいいから。
服を着替え終えて、時計に目をやる。
あと1分
あと30秒
ゼロ。
「美嘉ちゃん」
「同い年になったよ」
以上です。
思いつきを簡単な形にするのがこんなに大変だとは…
お目汚し、失礼いたしました。
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