テルマエ・オトノキザカ ~ 8人の平たい顔族と1人のゲルマン (474)

〔元ネタ〕
『テルマエ・ロマエ』
『ラブライブ』

ネタばれ注意
タイトルの由来は『テルマエ・ロマエ』原作にて主人公が現代ロシア人をゲルマンと認識したエピソードから

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1471778970

ルシウス (嘘だろ……)

ルシウス (クビって……)

ルシウス (つまり、仕事が無くなるということか……)




ルシウス (私の……私の輝かしい……)

ルシウス (テルマエ技師としての生活が!)

ルシウス 「あの設計事務所め、アテネにまで赴き最高の建築技術を習得してきたこの私をクビにするとは!」

マルクス 「俺も彫刻で食ってる身だし気持ちはわからんでもないが……まあ、そうカッカするなってルシウス」

ルシウス 「いつか私はこれまでにないテルマエを造り、私の才能を認めなかった連中を見返してやる!」

マルクス (ルシウスは腕はいいが融通の利かんところがあるからな)

マルクス 「……そうだ! ルシウス、ちょっとテルマエにつき合わねえか」

ルシウス 「テルマエだと?」

マルクス 「こういう時は風呂に入ってパーッと気分転換するのが一番だって」

ルシウス 「……」

売り子 「菓子はいらんかね――ッ!」

垢すり屋 「ダンナ! 随分出ますね!」

脱毛屋 「脱毛! ワキの下綺麗に脱毛しますよッ!」

マルクス 「ハーイ、ハイハイッ。俺脱毛頼みます!」

ルシウス (……いつ来ても騒々しい浴場だ……)

じゃぼっ……

ルシウス (こうして湯の中に入らねば静けさを感じられないなんて……私ならもっと趣のある浴場を……)

ルシウス (建国から約800年……。確かにこのローマがかつてこれだけ豊かだったことはないだろう。
     ……一体ローマ帝国の境界線はどこまで広がったのであろうか……)

ルシウス (世の中は景気が良くても失業した私にとっては住みにくくなるばかり……)

ゴポッ

ルシウス (ん?)

ゴポポポ……

ルシウス (こんなところに穴が……妙な排水口だな……?)

ルシウス (職業柄どのような仕組みになっているのか気になる。調べてみよう)

ズズウッー!

ルシウス (……ぐわぼっ、湯の中に吸い込まれる! なんなんだ!? この吸引力は!)

ゴポポポポポポッ

ルシウス (く、苦しい……)

ゴボボボボボボ

ルシウス (……あれは……水面!?)

ゴポゴポゴポゴポゴポ

ザパアッ! 

ルシウス 「ぷふアッ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

入浴客達 「……」

ルシウス (な、……なんなんだ、ここは一体!?)

ルシウス (こ、この壁画は! 女性が描かれているのか……)

ルシウス (えらく目が大きい……斬新なデザインだ)

ルシウス (その下に書いてあるのは模様? いや、文字……)

ルシウス (明らかにラテン語ではない。ギリシャ語でもない。見たことの無い文字だ)



『キュアメイドスパへお帰りなさいませ、ご主人様』



男性客A 「風呂場だから濡れても大丈夫なようにってことなんだろうけど……」

男性客A 「メイド風の白いフリル付きの濃紺スクール水着で接客なんて誰が考えたんだろうな? 頭には白のカチューシャまでつけてるし」

男性客B 「濃紺スク水と白エプロンの組み合わせってのも意外とアリだろ」

男性客A 「ああ、しっかしまあどう考えても交わらない筈の組み合わせだぜ」

男性客B 「案外『雪見だ○ふく』とかこういう発想で生まれたのかもな。ただ、東京観光でここに来て正解だったろ?」 

男性客A 「おう、何せ日本でもここだけっていうメイドスパだ」

男性客B 「ほら、あそこに外国人もいるしやっぱ海外でも話題なんだよ」



ルシウス (私を見ているこの男達、ローマ人じゃない。……顔が平たい)

ルシウス (肥満体の男が多い。裕福な市民層だろうか。少なくとも奴隷風呂ではなさそうだ)

ルシウス (この桶、何という鮮やかな黄色……)

ルシウス (この引き戸の先はどうなってる?)

ガラガラガラ

ルシウス (ここは脱衣所か)

ルシウス (これは!)

ルシウス (巨大な一枚板の鏡! なんという技術だ!?)

ルシウス (これは!)



『次回イベント メイドさんと萌え萌えジャンケン大会』



ルシウス (文字は読めないが催し物の告知か。……これ程の絵が書ける職人がいるのか)

ルシウス (ほう、ここではこの籠の中に衣類を入れるのだな)

ルシウス (この先にも部屋があるのか? 行ってみよう)

ルシウス (入り口の日よけ布か……この案も頂いたぞ? ん? 急に開けた感じが)

男性客D 「また来るね~ミナリンスキー」

男性客D (キュアメイドスパ伝説のメイド『ミナリンスキー』相変わらず可愛いなあ)

ことり 「いってらっしゃいませ、ご主人様!」

ことり (さて次のお仕事は……ん? 向こうの方が何か騒がしい……)

女性客 「キャーッ!?」

ことり (何! トラブル!? 行かなくちゃ!)

女性客 「変態、露出狂だわ!?」

ルシウス (この女、えらく動揺している……)

男性客E 「おい、あの外人、フリ○ンで出てきたぞ!」

ことり (大変!?)

ことり 「ご主人様、お召し物がまだのようですね? 一旦更衣室までご案内致します」

ルシウス (この娘、何を言っている? この民族の言葉か?)

ことり (日本語通じない……でもあせっちゃ駄目。スマイルよ、ことり!)

ニコッ

ことり 「このままの格好で休憩コーナーにいらしてはお風邪を引きます。ご主人様がお風邪を引かれたらミナリンスキーは悲しいです」

ことり 「お願いです! どうか一緒に来て下さい!」

ウルッ

男性客F (満面の笑みの後で)

男性客G (胸元に手を寄せてから目を潤ませて懇願の表情……今日のミナリンスキーもたまらん!)

ルシウス (よく分からんが案内してくれるようだ)

ことり 「失礼します、ご主人様」

ルシウス (さっきの部屋に戻った)

ことり (ここでアルバイト始めたばかりの頃は清掃時に男子更衣室に入るのが凄く恥ずかしかったけど、今は大分慣れたかな)

男性客H (おおっレアイベント! ミナリンスキーが更衣室に!)

男性客I (やべっ!? 剥いておこっ!)

男性客J (これは俺のマッパをミナリンスキーの網膜に焼き付ける好機!)

ことり (落ち着いてことり、先輩に言われたアドバイスを思い出すのよ)

ことり (『ご主人様に注目された時は相手をウィンナーだと思え』)

ことり (……)

ことり (ウィンナーじゃなくてジャガイモだった!)

ことり (改めて落ち着くのよ、まずは状況確認から)

ことり 「ご主人様、服はどちらに置かれましたか?」

ルシウス 「FUC?」

ルシウス 「……」

ルシウス (ここはローマではない……。どうやら私自身の身に何かが起こったようだ……私は元の世界に帰れなくなったのだろうか……?)

ことり (どうしよう、服の場所聞いても分からないし、この人凄く落ち込んでるし……)

男性客J 「ミナリンスキー、俺の奢りでこの人にネクター飲ませてあげなよ」

ことり 「よろしいのですか、ご主人様?」

男性客J 「えらく困ってるみたいだし、盗難にあったのかもしれん。これが原因でこの人が日本嫌いになったら悲しいでしょ?」

ことり 「ありがとうございます!」

男性客J (数百円でミナリンスキーの俺への好感度が上がるのなら安いもんだ)

ことり (お話しする時はせめて前は隠して欲しいかな……)

ことり (以前は『安心して下さい、穿いてませんよ!』っていってワザと見せる人が多くて……って少しでも外人さんに元気になって貰わないと!)

ことり 「ご主人様、少々お待ち下さい」

ルシウス (?)

ルシウス (部屋から出て行った……)

ことり (音ノ木坂の廃校を悲しんでいるお母さんとさっきの外人さんが重なって見えた……)

ことり 「お待たせしました、ご主人様」

ルシウス (戻ってきた)

ことり 「これを召し上がって元気を出して下さい」

ルシウス (ガラスの容器に入った……飲み物か)

ことり 「でもその前に、いつものやりますね」

ことり 「美味しく♡美味しく♡美味しくなあれ! 萌え♡萌え♡キュン!」

ことり 「ハイ、どうぞ♡」

ルシウス 「……」

ことり (思いっきり引いてる……)

ルシウス (この娘、呪文をかけた飲み物を渡してきたぞ!?)

ルシウス (私を呪い殺す気か!)

ルシウス (待てよ、本当に呪い殺す気ならわざわざ目の前で呪文をかけたりはしない……)

ルシウス (ではさっきの呪文は……)

ことり 「美味しいですよ。当店特製ネクターです」

ルシウス 「?」

ことり 「イッツ ネクター」

ルシウス (ネクタル!?)

ルシウス (ギリシャにおいて神々が飲まれるとされた不老長寿の飲み物、ネクタル)

ルシウス (その名前を冠した飲み物……分かったぞ)

ルシウス (仰々しい名前を付けた飲み物を乙女が勧めることで客の気を引く魂胆か)

ルシウス (どうせ大したこと――)

ゴクリ

ルシウス (美味い!!)

ルシウス (しかも冷たくて甘い!!)

ルシウス (甘い果実の風味、雪のような冷たさ、湯上りの火照った体内に沁み込む柔らかな味……)

ルシウス (この味は桃? いや桃だけではない、複数の果実の味と香りがする)

ルシウス (この独特の舌触りととろみ……果実を絞った果汁ではなく、果肉を細かく磨り潰しているのか?)

ルシウス (この世のものなのか?ああ、この甘みが夢心地にさせてくれる……)

ことり (よかった、気に入って貰えたみたい)

ルシウス (よく見るとこの少女の服装、壁画の目の大きな娘と同じ。濃紺の服を纏い、呪文を操る……)

ルシウス (まさか、魔女!?)

ルシウス (あれ……景色が……)

マルクス 「ルシウス! おいッ!」

ルシウス 「……あれ」

マルクス 「大丈夫かッ、ルシウス! オマエ、ずーっと浴槽の下に沈んでたんだぞッ」

ルシウス 「……平たい顔の男達は?」

マルクス 「なに言ってんだ、水飲んで目を覚ませっ」

ルシウス 「……夢、だったのか?」

コンッコロコロ

ルシウス (これは……魔女の飲み物の容器!)

ルシウス (夢だけど夢じゃなかった!)

入浴客A 「ほう、この籠に衣類を入れるのだな」

入浴客B 「おお、これが今週の見世物の告知か!」

入浴客C 「これが噂の目の大きな魔女の壁画、斬新だ」

入浴客D 「接客の女奴隷が壁画と同じ格好してましたなあ」

女奴隷 「当浴場特製ネクタルです、お一人様1本まででお願いします!」

マルクス 「いやぁーすっげえなあァ、ルシウス。失業して落ち込んでたオマエが今じゃ
     ローマで大人気の建築家ときたもんだ。」

マルクス 「魔女が甲斐甲斐しく客の世話をするテルマエってよく思いついたな」

ルシウス (マルクスには悪いがとてもあの経緯を説明出来る自信は私にはない)

女奴隷 「ルシウス様、地下水で冷やした温度よりもネクタルを冷やせません!」

ルシウス 「駄目なのか?」

女奴隷 「はい、言われた通り、この浴場の全ての奴隷に『モエモエキュン』をさせたのですが」

ルシウス (最後の『キュン』という引き締まるような語感から、あの世界の飲み物があんなに冷えていたのは魔女の呪文に
     よるものかと思っていたのだが……私もその場で聞いただけであの呪文を完全に覚えていた訳ではない……)

マルクス 「あっ、そうだルシウス。前にオマエが沈んだ浴場でさ、浴槽の中にでっかい穴が見つかって
     危険だから取り壊すことにしたんだってよ」

ルシウス (なに!)

ルシウス 「……」

ルシウス 「せめてあの魔女から『モエモエキュン』のやり方を教わってくる!」

マルクス 「おいッ、どこ行くんだルシウス!」

穂乃果 「見て見て見て、このパンフレット!」

海未 (音ノ木坂の廃校を聞いて以来、元気が無かった穂乃果が明るい声で……?)

ことり (どうしたのかな、穂乃果ちゃん?)

穂乃果 「アイドルだよ、アイドル! こっちは大阪の高校で、こっちは福岡のプールアイドルなんだって!」

海未 「プールアイドル?」

穂乃果 「うん、プールで歌って踊るアイドルのことだよ。最近どんどん増えてるらしくって、人気の子がいる学校は
    入学希望者が増えてるんだって!」

穂乃果 「それで私考えたんだ。……あれ、海未ちゃん、まだ話終わってないよー! いい方法思いついたんだから聞いてよー!」

穂乃果 (かつてお祖母ちゃんもお母さんも卒業した音ノ木坂、そして今は私が通う学校……)

穂乃果 (入学希望者が増えれば廃校を阻止出来る筈!)



こうして二千年近く離れた二つの世界が繋がった
テルマエ・オトノキザカ
これは古代ローマと現代日本を結ぶ
時空を超えた皆で叶える物語(風呂限定)

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

希 「理事長の話では今度のオープンキャンパスの結果次第やね」

絵里 「廃校が正式に決定するか、一時保留になるか……ここが頑張りどころよ」

真姫 「私達のライブでオープンキャンパスを盛り上げてみせるわ」

穂乃果 (プールアイドル『μ's』を結成して早数ヶ月、手応えはある。学校を存続させるんだ!)

海未 「これを弓道部に提供して下さるのですか?」

にこ 「そうよ! あんた、今度のオープンキャンパスで弓道部は射的をやるって言ってたでしょ」

海未 「はい」

にこ 「お客さんへの景品をどうするか悩んでるって言ってたわよね」

海未 「はい」

にこ 「このプールアイドルにこにーのフィギュアをあげるわ」

海未 「ありがとうございます……ってこのフィギュアは?」

にこ 「人気プールアイドルにもなればこうしてフィギュアが作られるのよ」

穂乃果 「私のフィギュアもあるのかな?」

にこ 「無いわ」

穂乃果 「えっ!?」

にこ 「現在μ'sで唯一フィギュアが作られたのがこのにこにーよ。あんた達もいずれ人気が出たら作って貰えるでしょうね」

にこ 「だから頑張りなさい」

穂乃果 「はい!」

にこ 「但し!」

海未 「?」

にこ 「フィギュアを提供するにあたってこれから出す条件を飲みなさい」

穂乃果 「条件出すの?」

にこ 「当ったり前でしょ。このフィギュア高いのよ」

ことり 「高いってどの位ですか?」

にこ 「定価6800円だけどプレミアがついて今じゃ相場3万円で取引されているわ」

海未 「そんな高価な物を!?」

にこ 「そう。だから話を聞きなさい」

海未 「分かりました」

にこ (本当は中古ショップで叩き売りされていた昔のアニメのフィギュアがたまたまにこにーに似てたから買い取って少し改造しただけなんだけど)

にこ 「話を戻すわ……まず、このフィギュアは射的の1等賞にしなさい」

海未 「分かりました。それだけ高価な物なら当然です」

にこ 「次に、1等賞なのだから難易度を高くするのよ。素人では絶対に取れない獲得条件にしなさい」

海未 「分かりました」

にこ 「それからこのフィギュアは1等賞の商品として一番目立つ場所に展示しなさい。ポップはこちらで用意するわ」

海未 「はい」

にこ 「最後に……」

海未 (まだ条件があるのですか?)

にこ 「誰も1等賞を取れなかったら商品は私に返しなさい」

海未 (それって弓道部をダシに自分の宣伝をしたいだけでは……)

今晩はここまで
これからは一回の更新量は短めながらも更新頻度を多めにする形で投下します
読んで下さった皆さんありがとうございました

アッティリアヌス 「元老院の意見なんてあって無きに等しいもの……何もかも納得がいかぬ……。どうせハドリアヌスが後ろでいろいろと操作しているんだろう」

セルギアヌス 「私は心配ならんのですよ! 今のローマを思うと……」

アッティリアヌス 「かといって裏で謀をしたことが皇帝に知れたらえらい目に遭いますぞ」

セルギアヌス 「そうそう、あの皇帝は戦いはしないくせに内部の企てに対しては容赦が無いからな」

アッティリアヌス 「何かこう……良い手は無いものか……」

セルギアヌス 「……市民が今のように皇帝を支持しなくなればいいのですよ。それにはまず風呂をどうにかせねばと思っているのですが……」

アッティリアヌス 「風呂!?」

セルギアヌス 「市民にとって大切な浴場を繁栄させているのだからハドリアヌスやアエリウスの人気も当然かと……ならば……」

セルギアヌス 「その人気の原因を消してしまえばいいのではないかと……」

アッティリアヌス 「! ほう……そんな人物がおるのかね……」

セルギアヌス 「ハドリアヌスお抱えの浴場設計技師で名は……」

ルシウス (陛下の命でヴェスビオスまで来たが山賊に囲まれるとは……)

ルシウス 「金なら持って無いぞ」

山賊の頭 「金を盗るだけが山賊の仕事じゃねえ……」

ルシウス 「こっちだって仕事だ。私は皇帝からの仕事を仰せつかってここへ来たのだ! ここへ浴場を作らねばならぬ!」

山賊共 「……」

山賊共 「ドッヒャハハハハハ!」

山賊A 「ハハハハ、フロだってよ!」

ルシウス 「風呂を小馬鹿にしている様だがお前達の臭さはこの世のものとは思えぬ。一体どれだけ風呂に入っとらんのだ!?」

山賊の頭 「うるせいッ! 山賊が風呂なんかにちまちま浸かってられるかって! 馬と身に着けてる物さっさとこっちに寄越しな!」

ルシウス 「こんな宝の山に囲まれているのに……」

山賊の頭 「……宝だとォ!?」

ルシウス 「……知りたければ……私について来い!」

山賊の頭 (俺達を見ても顔色一つ変えねえなんて大した度胸だなァ……ま、宝とやらが見つかったら始末すればいいか)

山賊の頭 「で、お宝ってのはどこなんだ?」

山賊の頭 (こいつに言われるままに石を動かして湧いてくる湯を溜めたが……まさか命が惜しくてデタラメ言ってたんじゃ……?)

ルシウス 「これが宝だ」

山賊の頭 「!?」

ルシウス 「お前達が頑張って作ったテルマエ、思う存分浸かればいい」

ルシウス (湯量も豊富、温度も適温、そしてこの湯の良質なこと、触れただけで肌の中に染み込んでくる! 今は湧いてくる湯を簡易的に石で囲んだだけだがいずれ……)

山賊達 「……」

山賊の頭 「フザケやがって! ぶっ殺してやる!」

ビュンッ!

ルシウス 「何ッ!?」

ドボン!

山賊A 「お頭の剣を避けようとして風呂に落ちたぞッ!」

山賊の頭 「マヌケな野郎だぜ!」

ルシウス (ゴポポポッ!)





山賊B 「……おいっ……あいつ出て来ねえぞ!?」

山賊の頭 「っていうか居ねぇぞ!?」

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

ゴポゴポゴポゴポゴポ

ザパアッ! 

ルシウス 「ぷふアッ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

ルシウス (テルマエ!)

ルシウス (……また見知らぬ世界に来たのか? このテルマエ……えらく天井が高い)

ルシウス (上の方に席がある……あの席からだとここを見下ろせるようだ)

ルシウス (しかしこの鼻をつく薬のような湯の匂い、何とかならないものか。それに浸かるには湯の温度がぬるい。ここの窯職人は何をしている?)

ルシウス (ともかく出よう、ここを調べるぞ)

ルシウス (ようやくテルマエから出て来た)

ルシウス (テルマエが整備されたこの建物の出入り口……扉が全面ガラスで出来ているとは)

ルシウス (平たい顔族の技術の高さに改めて驚かされる……)

ルシウス (出入り口の上に刻まれている文字、私には読めないがこの建物の名前なのだろう)

『音ノ木坂学園 屋内プール』

花陽 「アルパカさん、今日はオープンキャンパスの日だからいい子にしようね」

花陽 (アルパカを飼育してる学校って珍しいだろうから今日の来場者の印象に残ればいいんだけど……ん?)

ルシウス 「……」

花陽 「ぴゃあ!?」

花陽 (一般解放は10時からの筈、フライングで入ってきたの? それにこの人ずぶ濡れ……)

花陽 「あの……タオル持ってきます!」

ルシウス (少女が走り去っていった……。この生き物は!?)

白アルパカ 「メエェェ」

茶アルパカ 「メエェェェ」

ルシウス (見たことも無い生き物!? まるで羊のように毛むくじゃらだ。だが羊にしては足も首も長過ぎる)

ルシウス (体形はむしろ駱駝に近い。……がコブが無い。顔は羊と駱駝を足して2で割ったようだ)

ルシウス (これは……まさか!?)

ルシウス (キメラか!?)

ルシウス (ならばあの少女はキメラ使い!?)

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

花陽 「持って来ました。このタオルで身体拭いて下さい」

ルシウス (言葉は相変わらず分からんが、これで身体を拭けということか)

ルシウス 「礼を言う」

花陽 「……えっ!? ええっ!?」

ルシウス 「?」

花陽 「あ、あの、私、後ろ向いてます!」

花陽 (まさかいきなり脱ぎ出すとは思わなかった……)

バシャアア

花陽 (水が落ちる音……脱いだ服を絞ってるんだ……今、裸なのかな?)

花陽 「手伝ってくださってありがとうございます」

花陽 (凄い、あのアルパカさん達が大人しくしてる)

ルシウス (世話の仕方は馬とさほど変わらないようだ)

花陽 (この人絞ったばかりの服を着ている、着替えがあればいいけど私の服貸す訳にもいかないし……)

花陽 (最初は警備員さん呼ぼうかとも思ったけど、アルパカさん達が懐く位だからきっといい人なんだ)

ルシウス 「ところでこのキメラの名前……いや、私から名乗ろう」

ルシウス 「私はルシウス・クィントゥス・モディストゥスだ」

花陽 「ルシ……」

ルシウス 「ルシウス・クィントゥス・モディストゥス」

花陽 「ルシウス・クイントス・モデストス?」

ルシウス (発音はやや怪しいが良しとしよう)

ルシウス コクリ

花陽 (頷いてくれた!)

花陽 「私は」

花陽 「花陽、小泉花陽と言います!」

ルシウス 「ハ、ナ……」

花陽 「ハナヨ・コイズミ」

ルシウス 「ハナヨ・コイズミ」

花陽 コクリ

ルシウス 「彼らの名は?」

花陽 (アルパカさんを指差してる。名前を聞いてるのかな?)

花陽 (そういえば……)

花陽 (私、アルパカさんの名前知らない!)

花陽 (どうしよう……?)

ルシウス (動揺している。キメラの秘密を知られたくないのか? ん? 白いキメラを指差した)

花陽 「ハナコ」

ルシウス 「ハナコ?」

花陽 コクリ

ルシウス (頷いてもう1頭のキメラを指差した)

花陽 「ヨウコ」

茶アルパカ 「メエェェェ!」

花陽 「ご、ごめんなさい! 今は話合わせて」

ルシウス (ハナコとヨウコか)

花陽 (勝手に名前決めちゃった)

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

希 「みんなお疲れ様」

真姫 「午前のステージは問題無く終わったわね」

絵里 「午後のステージまで各自休憩にしましょう」

凛 「かよちん、一緒にご飯食べに行こう」

花陽 「うん」

穂乃果 「海未ちゃんとことりちゃんもご飯行こう」

ことり 「うん」

海未 「私は弓道部に顔を出さないといけないので食事は済ませておいて下さい」

穂乃果 「わかった、後で弓道場行くね」

穂乃果 (アイドル研究部と弓道部掛け持ちって忙しそうだな、海未ちゃん)

花陽 「あ、あの人!」

凛 「どうしたの」

花陽 「さっき話したアルパカさんのお世話手伝ってくれた人だよ」

花陽 「あ、こっちに気付いたみたい」

ルシウス 「君か」

花陽 「今朝は有難うございました」

ルシウス (言葉は分からないが私に感謝しているようだ)

凛 「日本語は分からないみたいだね。ねえかよちん」

花陽 「何、凛ちゃん?」

凛 「この人ひょっとして生徒会長の親戚かな」

花陽 「ハッ! そうかも」

凛 「外人さんで髪の色一緒だし」

プーン

ルシウス (この香りは……)

ルシウス 「向こうで食事を作っているのか?」

凛 「学食の方指差してるよ? 案内してあげよう」

花陽 「うん」

凛 「ここで食券を買います、ほら」

ピッ

カタン

ルシウス 「!」

ルシウス (硬貨を入れたら紫の板が出てきた!)

花陽 「私は……これ」

ピッ

カタン

ルシウス (こんどは黄色い板!?)

ルシウス (まさかこの箱の中で奴隷が瞬時に判断して板を出しているのか?)

花陽 「ロシアでは券売機って珍しいのかな?」

ルシウス (ともかく硬貨を入れよう。私も試したい)

ルシウス (入らん……)

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

凛 「これ日本のお金じゃないよ、これじゃ券売機使えないね。外人さん、税関で両替しなかったの?」

花陽 「私が出すよ」

凛 「かよちん?」

花陽 「アルパカさんのお世話を手伝ってくれたお礼をしたいから」

凛 「かよちんのそういうところ、凛好きだよ」

花陽 「このメニューでよかったのかな」

凛 「せっかくだからロシアには無さそうな料理がいいにゃ」

ルシウス (ハナヨが私にくれた鮮やかな紫の板……何か刻まれている)

『音ノ木坂学園食堂部』

ルシウス (さっきのテルマエにも似たような文字があった。これがこの辺り一帯を指す言葉なのだろう)

花陽 「その食券を出したら食事が貰えます。こっちです」

花陽 「代わりにこれくれるのですか? いいですよそのお金日本じゃ使えないから」

花陽 「お気持ちだけ頂きますから」

花陽 「……分かりました、その小銭頂きます」

凛 (かよちん、押しに弱いにゃ……)

ルシウス (この料理……一体何が素材になっているのであろうか……)

ルシウス (こうして見たところ私に判別出来るのは薄切りの平たい肉と茹でた卵くらいだ。汁の中に浸されたこの黄色くて長い物は何なのだ?
     この黒いパピルスのような物やこの茎の伸びたような植物は一体……。渦巻き状のこれは食べるのが惜しい程美しいが何なのかさっぱり分からぬ……)

ルシウス (いや、それよりも私が気になるのは……この器の縁にあるギリシャ伝来のメアンドロス柄……。
     以前のネクタルといい、この民族も我々と同様にギリシャの影響を受けていたのか? しかしローマにはこの様な食べ物は存在しない……)

凛 「早く食べないとラーメン伸びちゃうよ」

ルシウス (早く食べねば冷めてしまうという忠告か。それもそうだ。まずは頂くとしよう)

凛 「そっか! きっと食べ方が分からないんだよ。凛が食べるのを見て同じように食べるといいよ」

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

凛 「うーん、美味しい~」

花陽 「凛ちゃん本当にラーメン好きだね」

凛 「ここのラーメンは学食にしてはおいしいよ」

ルシウス (なるほど……このリグラとルディクス2本で中身を汁からすくい出すのだな)

ズ、ズズズズル

ルシウス (美味い!)

ルシウス (これは一体どういうことなのか……。料理の分野でも我々はこの民族と同様にギリシャの影響を受けているはずだというのに……。
     (なぜ平たい顔族だけこんなに美味い物を開発できたのだっ!?)

ルシウス 「OPTIMUM!(うまいぞ!)」

凛 「へ!」

花陽 「きっと美味しいって言ってるんじゃないかな?」

凛 (確かに美味しそうに食べてる……)

※ リグラ = ローマ時代のスプーン
※ ルディクス = スープをかき混ぜたりした太い棒状の食器

ルシウス (この汁に気を取られてもう一つの料理を食べてなかった。こっちも食べてみよう)

モグモグ

ルシウス (むう……美味い!)

花陽 「餃子も気に入って貰えたみたいだね」

凛 「このおじさんにラーメン餃子セットを選択して良かったにゃ」

ルシウス (これはっ止まらん! ……待て! 最後の一個はローマに持ち帰ろう……)

凛 (小銭入れに餃子をしまってる……)

凛 「お腹一杯……」

花陽 「生徒会長さん探さないと」

凛 「そうだね。生徒会室に行こう」

ルシウス (いろいろな出店や催し物で賑っている上にギムナシウム(運動場)まであるとは……。そして治安の悪さを全く感じさせない。清潔かつ開放的な空間)

ルシウス (私が先程まで居たヴェスビオスで漠然と思い浮かべた復興案に似ている……)

ルシウス (いや! ここは私が想像したものより遥かに素晴らしい……。画期的な事を思いついたと確信していたのに平たい顔族にとっては既に存在するものだったとは!)

凛 「あ、穂乃果先輩だよ」

花陽 「本当だ」

パスッ

ビシッ

穂乃果 「アーッ……真ん中駄目だった」

弓道部員 「残念、でも2等ですよ」

穂乃果 「これ1等取れる人いるのー?」

ルシウス (今の弓……素人だな)

凛 「先輩」

穂乃果 「凛ちゃん、花陽ちゃん……その後ろにいる人は……」

花陽 「ルシウスさんって人です。ひょっとしたら生徒会長のご親戚じゃないかって思って」

ことり (この人メイドスパのお客さんだ! バイトしてるのがバレるかも!)

穂乃果 「どうしたの、ことりちゃん?」

ことり 「私、お母さんと会う約束してるから、また後で!」

穂乃果 「ことりちゃん! 行っちゃった……」

花陽 「行っちゃいましたね」

凛 「海未先輩は?」

穂乃果 「海未ちゃんは演武の準備中、着替えてくるって……そうだ! 外人さん!」

ルシウス 「?」

穂乃果 「弓やってみませんか?」

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

弓道部員A 「園田さん、大変! ……着替え中だったの」

海未 「構いません。何があったのですか?」

弓道部員A 「着替えが終わったら直ぐに来て。予想外の事態が起きて……」

弓道部員A 「あの人よ、一手(二射)束中されて1等のフィギュアを持っていかれたわ」

弓道部員B 「園田先輩がさっき更衣室で着替えていた間の出来事です」

海未 「そんな……」

海未 (的を近くしたとはいえ、初心者向けのオモチャの弓で……)

ルシウス (的が近すぎる……それよりこの像だ……)

ルシウス (顔の造詣は雑だがなかなかよく出来ている。マルクスの彫刻の腕前には及ばないものの、あんな簡単な的当てで得た褒美としては十分過ぎる)

ルシウス (特筆すべきはこの像の素材だ。金属なのか粘土なのか、それすら我々の科学力では分からない)

海未 「持って行かれたものは仕方ありません。素直にあの方の腕を称えましょう」

弓道部員A 「そうね」

海未 「私はこれから演武に入ります」

ルシウス (あんな簡単な的当てでこんな大きな褒美を与えると言う事……それはつまり平たい顔族の軍事力の低さを物語っている)

ルシウス (この像は私がこの民族をやっと超えられたということの大切な証……)

ルシウス (あの弓を射ろうとしている少女も構えは良いが――)

ビィィン

スパァン!

ルシウス (何!? あれだけ離れた円の的に当てたぞ!?)

穂乃果 「凄おぉい! さすが海未ちゃん!」

凛 「かっこいい!」

花陽 「おおぅ……」

ルシウス (何ということだ……平たい顔族は少女でもあれほどの弓の腕前なのか? 技術も発想も軍事力も優れている……)

ルシウス (もし彼らと戦争になればいかにローマといえども……)

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

真姫 (午後になって人が増えてきたわね)

真姫 (どこを向いても女の子ばかり……って女子高のオープンキャンパスだから当たり前か……)

ルシウス (あの娘は……)

にこ 「あーッ! にこにーのフィギュアが!?」

海未 「申し訳ありません、1等を取られました」

にこ 「心配になって弓道場に来て見れば! 1等は難易度を上げなさいって言ったでしょ!」

海未 「初心者ではまず無理な難易度です。ただ、弓の経験者が現れて……」

にこ 「もー! どうして経験者が来ることを予想しなかったのよ!」

ルシウス (先ほどの弓使いの娘が叱責されている。ということはあの黒髪の娘はあの弓使いより偉いのか? 百人長といったところか)

ルシウス (……そうだ……分かったぞ)

ルシウス (何故ここは女性ばかりで男の姿が見当たらないのか?)

ルシウス (何故弓の得意な娘がいるのか?)

ルシウス (平たい顔族の正体……)





ルシウス (彼女達は……アマゾネスだ!)

海未 「申し訳ありません……」

にこ 「しょうがないわね……提供するって言ったのはにこだし」

にこ (あのフィギュアが実はにこにーのフィギュアじゃないと知れたら私の立場無くなるし、あまり責めるのも大人気ないわね)

凛 (良かった……仲直りしてくれた)

ルシウス (この娘達がアマゾネスならその胸が平たいことに合点がいく。伝説では弓を射るのに邪魔な右の乳房だけ切り取ると言われているが……)

ルシウス (実際には両方切り取っていたのか……)

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

穂乃果 「あの外人さんとどこで出会ったの?」

花陽 「朝、アルパカさんのお世話をしてたらあの人が現れて……」

ルシウス (あの娘はキメラの世話をしていたし、もう一人の弓の腕前は素人)

ルシウス (アマゾネスの全てが戦士ではなくて、戦に出ない者は切り取らないのだろう)

ルシウス (あれ……また景色が……)

絵里 「親族から今日ここに来るという話は聞いてないわ」

穂乃果 「そうでしたか……」

絵里 「でも気を利かせてくれてありがとう」

花陽 「いえ、そんな……」

凛 「とすると急に居なくなったルシウスさんって人、何者だったのかな?」

ことり 「そ、そろそろ午後のステージの準備しよ!」

希 「そうやね、みんな屋内プールに移動しよか」

ルシウス (ハッ! 戻ってきたのか……)

山賊の頭 「あら? ……こいつ生きてるわ」

山賊B 「おめえあんなに長い間湯の底に沈んでてよく死んでねえなあ」

ルシウス 「私に案がある!」

山賊の頭 「案? ……どんな?」

ルシウス 「皆が平和に暮らせる案だ!」

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

山賊B 「このおみやげたったの1アスです!」

山賊A 「おっ! 親分!」

山賊の頭 「おおー、お前か。忙しそうだな」

山賊A 「いやー繁盛してますよ。例の野郎が何度も味見して作った変なスープと蒸し料理、客にバカ受けっスよ、ワハハハ」

山賊の頭 (みんな堅気になって喜んでる……ルシウスよ、貴様にゃ感謝してるぜ!)

山賊の頭 (でもよ、俺の仕事が羊と駱駝の牧畜って何なんだよ……いくら一緒に飼ってもキメラなんて産まれねえよ)

セルギアヌス 「お忍びで様子を見に来れば……暗殺どころか奴め、こんな快適な街なぞ作りおって……」

セルギアヌス 「計画は大失敗だ!」

アッティリアヌス 「まあまあもう良いではないか……いずれまた機会も来よう、セルギアヌス殿」

セルギアヌス 「私はどうもあのモディストスという男を甘く見ていたようだ……クッ!」

セルギアヌス (おのれ……このままでは済まさぬぞ)

マルクス・ウェルス(後のマルクス・アウレリウス・アントニヌス) 「それにしても……」

マルクス・ウェルス 「手強い山賊をも集めて働かせてここに温泉の村を築くとは、さすがハドリアヌス陛下が気に入られるだけのことはありますね」

ルシウス 「いえ、ここに村を建設出来たのはマルクス・ウェルス様がお連れになった大勢の兵によって確保出来た労働力と……」

ルシウス 「湯の力です!」

マルクス・ウェルス 「ところでルシウス技師、気になることがあるのですが。あの奥のララリウム(祭壇)に置かれている……」



祭壇に置かれし『にこにー』フィギュア



マルクス・ウェルス 「あれは一体何なのですか?」

ルシウス 「神です!」

ルシウス (本当はアマゾネスにとっての女神像だろうが、それを話したらローマ人の祭壇には飾れなくなる)

教師 「小泉さん、これどこで手に入れたの?」

花陽 「貰ったんです」

教師 「そう……。先生ね、教職以外に学芸員の資格も持ってるんだけど……これ古代ローマの古銭ね」

花陽 「古代ローマですか?」

教師 「ほら、ここにラテン語で『ハドリアヌス』って当時の皇帝の名前が書いてあるの。2世紀の古銭よ」

花陽 「2世紀……そんな昔のお金……」

教師 「極めて保存状態が良いわ、多分売ったら軽く1万円は超えるでしょうね」

花陽 「1万! ……そんなに」

花陽 (学食1回奢っただけでそんなに! そして……)

花陽 (ルシウスさん、どうして古銭を食券の自販機に使おうとしたんだろう?)

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。
書き始めた頃から高評価や期待のコメントが1の励みです。ありがとうございます。

ルシウス (パンノニア提督にして次期皇帝候補ケイオニウス様からの依頼)

ルシウス (駐屯地でも楽しめるテルマエという要望に応えるべく自宅に作ったこの簡易式木製テルマエだが……)

ルシウス (こうして浸かってみると我ながら良い出来だ)

ルシウス (これで実用に耐えうることは分かった。明日にでも船か馬車でパンノニアに送ってもらおう)

ルシウス (そろそろリウィアが外出先から帰宅する頃だし風呂から上がるか)

ルシウス (仕事で家を空けることが多かったからな、妻リウィアへの贈り物も用意したし……)

ズルッ

ルシウス (足が滑った!?)

ドボオン!

ゴポゴポゴポゴポッ

絵里 「オープンキャンパスの結果、廃校を一時保留にして学校の存続を検討し直すってことになったわ」

亜里沙 「良かったね、お姉ちゃん」

絵里 「まだ油断は出来ないわ」

亜里沙 「そうなんだ……」

亜里沙 (昔はお姉ちゃんとお風呂に入ると一緒に湯船に浸かってたけど、流石に今は一緒に浸かるには私達も身体が大きくなった)

亜里沙 (お姉ちゃんがこっちに背中を向けて髪を洗っている間に私がこうして湯船に浸かっている)

亜里沙 (私が洗う番になったら今度はお姉ちゃんが浸かる。入れ違いだ)

亜里沙 (仮に音ノ木坂が存続したとして来年私がそこに入学出来たとしてもその時お姉ちゃんは……)

亜里沙 (入れ違いか……)

ゴポゴポゴポッ

ザパアッ! 

ぺちっ

亜里沙 (ほっぺたに何か当たった!?)

ルシウス 「ぷふアッ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

ルシウス (これは……狭い室内にテルマエ!?)

亜里沙 (何、この人!?)

ルシウス (この少女……?)





ルシウス (ゲルマン!?)

亜里沙 (こっちに背中向けて髪洗ってるお姉ちゃんはまだ気付いていない……。心臓がバクバクする。声が出ない……)

ルシウス (何だこの狭苦しいテルマエは……)

亜里沙 (それに想像つくけど、想像したくないけど、さっきわたしのほっぺたに当たったのって……)

亜里沙 (この人の……お…おちん……)

亜里沙 「キャアアアアアア!」

絵里 「ヒィッ!?」

絵里 「亜里沙ッ!? いきなり大き……な……声……」

ルシウス 「……」

絵里 (うちの風呂に見知らぬ男が……?)

絵里 「キャアアアアアアア!」

ルシウス 「いいかげんにしろ!」

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

ルシウス 「いきなり入って来たのは悪かったが私は怪しい者ではない」

亜里沙 「お姉ちゃん……」

絵里 「亜里沙、こっちよ!」

絵里 「この覗き魔め……」

亜里沙 (お姉ちゃん、垢すりの布を持って何を……)

ビシィッ!

ルシウス 「痛ッ!」

ビシィッ! ビシィッ! ビシィッ! 

絵里 「変態ッ、覗きッ、犯罪者!」

亜里沙 (濡れた垢すりをムチのように使って男を叩いてる)

ルシウス (所詮は狭い奴隷風呂にしか入れない蛮族か、風呂で騒ぎおって)

ガシッ!

絵里 (垢すりを掴まれた!)

ルシウス 「この蛮族め!」

グィッ!

絵里 (引っ張られる!)

ドン! ドボン!

亜里沙 「お姉ちゃん!」

亜里沙 (勢い余ってお姉ちゃんが裸の男とぶつかって一緒に湯船に!)

ゴポゴポゴポ

絵里 (今度は吸い込まれる!?)

絵里 「亜里沙!」

亜里沙 「お姉ちゃん、捕まって!」
 
ガシッ!

亜里沙 「うわっ!」

バシャア!

亜里沙 (私も落ちた!?)

ゴポゴポゴポゴポゴポ

ルシウス (また潜る羽目に……あれは水面?)

ルシウス 「ぶぷあっ!」

絵里 「ぶぷあっ!」

亜里沙 「ぶぷあっ!」

ルシウスと絵里と亜里沙 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

リウィア 「貴方、あまり根を詰め……」

リウィア 「……」

ルシウス 「ハァ、ハァ……リウィア」

リウィア 「さっき帰宅したんだけどどういうことか説明して」

ルシウス 「……」

リウィア 「あなたと混浴してるその若い娘達について」

ルシウス 「!」

ルシウス 「待ってくれ、これは誤解だ!」

リウィア 「次期皇帝候補の依頼とかいって自宅に小さいテルマエを造るなんておかしいと思っていたらこういうことだったのね」

ルシウス 「このテルマエは本当に仕事の――」

リウィア 「夜に私の相手をしてくれなかったのも、その小娘達に色々絞り取られていたからでしょ!」

ルシウス 「本当に違うんだ!」

リウィア 「実家に帰らせて貰うわ」

ルシウス 「待ってくれ!」

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

亜里沙 「私達取り残された?」

絵里 「ええ……。あの人達修羅場だったようね」

亜里沙 「うん、言葉はわからなかったけど。それよりここはどこかな?」

絵里 「さあ……」

ゴポゴポゴポゴポ

絵里 (また!?)

亜里沙 (溺れる!?)

ゴポゴポゴポゴポ

絵里 「その後また風呂で溺れて気がついたら私も亜里沙も家の風呂に戻ってたの」

希 「えらいスピリュアルな話やね」

絵里 「本当よ、信じてないでしょ!?」

希 「うちは信じるよ、エリチがそういう冗談言うとは思えへんし」

絵里 「もう……、顔が笑ってるわよ」

ね、眠い。続きはまた明日。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

マルクス 「ルシウース、おーい。オレだ、マルクスだ!」

マルクス (テルマエに誘おうとルシウスの家まで来たのはいいが……おかしいな……奴隷も出て来ないなんて。まさか引っ越しでもしたのか……?)

マルクス 「あれ? 鍵が開いてる!?」

マルクス 「うっ……酒臭ェ……。……何が起きたんだ一体……!?」

ルシウス 「……う……リウィアか……?」

マルクス 「ルシウス! おっお前!? どうしちゃったんだようッ」

ルシウス 「リウィアが家を出て行った……」

マルクス 「自宅で女と混浴してたところを見られた……流石にそれはマズかったんじゃねえか?」

ルシウス 「私だって望んだことではない。何というか……そういう事態に巻き込まれたのだ」

ルシウス (マルクスに事の経緯をうまく説明出来なかった。『気がついたら見知らぬ世界のテルマエに居るときがある』と話す訳にもいくまい……)

マルクス 「まあ、男にはその気が無くてもつい……ってことがあるからな」

ルシウス 「でもその娘達には決して手を出していない!」

マルクス 「娘達って……一人じゃなかったのか?」

ルシウス 「……ああ」

マルクス (羨ましいというか何というか……本来生真面目なルシウスがなぁ……ん?)

マルクス 「ルシウス、この布は?」

ルシウス 「それか……あの女の腰布だろう」

マルクス 「腰布って……これ目が粗いしスケスケだぞ。……なあ、ルシウス」

ルシウス 「何だ?」

マルクス 「その娘達ってのは美人なのか?」

ルシウス 「ああ、二人共若くて美しいゲルマン娘だった。だが私にとっては悪夢だ……」

マルクス 「……この布、貰ってもいいか?」

ルシウス 「ああ、好きにしろ」

マルクス 「それじゃ、頂くぜ」

マルクス 「今回のことは、カミさんの怒りが少し収まったところで連れ戻しに行けばいい! な! その時は俺も行くから!」

ルシウス 「ああ……」

マルクス (ルシウス、立ち直ってくれよ……)

亜里沙 「久しぶりだね。家でお風呂に入るの」

絵里 「そうね……」

絵里 (しばらく私と亜里沙は銭湯を利用していた。あの日起きたことは夢だと思いたかったが、垢すりの布が無くなってたことが、あれが夢では無いことを物語っていた)

亜里沙 「大丈夫だよ、防犯グッズも買ったし」

絵里 「そうよね……」

絵里 (これからラブライブの予選も始まるし、亜里沙の為にも、私がいつまでも不安がってちゃ駄目)

久しぶりの投下。
今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

真姫 (現在ランキングで私達は比較的上位にいる)

花陽 (このライブが成功すれば……)

凛 (きっとラブライブに出場出来る!)

穂乃果 (身体がだるい……まだライブ中なのに……)

穂乃果 「ウウッ……」

バシャッ ブクブクブク

海未 「穂乃果!?」

海未 (穂乃果が沈む!?)

ことり 「穂乃果ちゃん!?  しっかり!」

ことり (支えないと溺れちゃう!)

絵里 「穂乃果、大丈夫!? ハッ! 凄い熱……」

絵里 (こんなコンディションでプールでダンスしたら……)

穂乃果 「次の曲……せっかくここまで……来たんだから……」

観客A 「どうした?」

観客B 「倒れた?」

観客C 「大丈夫……?」

絵里 「すみません。メンバーにアクシデントがありました。少々お待ち下さい」

雪穂 「お姉ちゃん!」

雪穂 (ライブ観に来たらこんなことになるなんて……)

にこ 「続けられるわよね? まだ諦めたりしないわよね!? ねぇッ!」

希 「穂乃果ちゃんは無理や」

真姫 (穂乃果がライブ中に倒れてμ'sが今回のラブライブへの出場を断念してからギクシャクしてる)

絵里 「じゃあ穂乃果はどうすればいいと思う。どうしたいの? ……答えて」

穂乃果 「辞めます。……私……プールアイドル辞めます」

希 「穂乃果ちゃん……」

パシィン!

穂乃果 (痛ッ!)

海未 「あなたが、そんな人だとは思いませんでした……」

凛 (ぶたれた穂乃果ちゃんも痛かったろうけど……)

花陽 (ぶった海未ちゃんも心が痛かった筈……)

にこ (ただでさえことりが居なくなるってのに……)

絵里 「正直、穂乃果が言い出さなくてもいずれこの問題にはぶつかっていたと思う。来年までだけど学校が存続することになって……」

絵里 「私達は何を目標にこれから頑張るのか考えなきゃいけない時が来ていたのよ」

希 「そうやね。ひとまず廃校を阻止出来たといっても穂乃果ちゃんがプールアイドル辞めてもうてμ'sは活動休止」

希 「仮に穂乃果ちゃんが辞めてなくてもことりちゃんが海外留学する時点で衣装作りの問題が詰んどる」

絵里 「お得意のカードは何か告げてる?」

希 「えりちもうちのカードを当てにするようになった? この前は水難って言うたら風呂に変態が現れたし結構的中やろ?」

絵里 「もう! その話はしないで。それより今後のことを占って欲しいのよ」

希 「今下校中やから、明日部室でえりちの前でやるよ」

絵里 「お願い」

希 「……」

絵里 「どう?」

希 「塔のカードが出とる。トラブルの発生は免れんやろなあ」

絵里 「例えば?」

希 「高所からの転落」

絵里 「ストレート過ぎるわよ」

希 「でも悪いことばかりやないよ。逆向きの女帝のカードが何なのかは予想し難いけど、太陽のカードが穂乃果ちゃんだとしたら……」

希 「案外丸く収まるかもしれんよ」

今晩はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

子供A 「キャハー」

子供B 「プハー」

子供C 「ハハハハハ!」

アポロドトス 「……最近やたらと浴場の中の子供の数が増えたような気がするが……争いごともない分、人口もどんどん増えとるということじゃ……」

アポロドトス 「ただこういつも子供に騒がれてばかりいるとこっちはなかなかくつろげんしのう」

ルシウス 「子供の入浴時間に制限を設けるというのはどうでしょう?」

アポロドトス 「ハドリアヌス帝が混浴を禁止して以来男女の時間帯も分けられているのに、その上更に子供の時間帯まで区切られてしまうとなると……」

アポロドトス 「不便じゃのう……」

アポロドトス 「……いっそ同じ浴場施設内に子供も楽しめるような浴場があればいいのかもしれんが……」

ルシウス (この世界で大先輩にあたる天下のアポロドトス技師をも悩ませる問題。子供の人口が増加する今のローマに必要なのは子供が楽しめる浴場だ!)

子供 (よしっ、助走を付けてから風呂の中に飛び込むぞ!)

ルシウス (そうだ! ……彫刻の代わりに子供が楽しめる何かを設置して……)

スクッ

子供 (おじさんが急に立ち上がった!?)

ゲシッ!

ルシウス 「わッ!?」

バシャーッ!

ゴポゴポゴポゴポ

穂乃果 「次、スライダー行ってみようよ!」

雪穂 「うん!」

穂乃果 (最近μ'sの活動で忙しかった。こうして雪穂と遊ぶのも久しぶり)

穂乃果 (プールアイドルは辞めたけど、もう学校は存続することになったし、こうして家族との時間も増える)

穂乃果 (いくら練習しても今回優勝したA-RISEには勝てっこないし、後は好きなことをやって残りの高校生活を楽しめばいい)

穂乃果 (好きなことか……)

雪穂 「お姉ちゃん!?」

穂乃果 「何?」

雪穂 「あれ見て! あの男の人素っ裸だよ!?」

穂乃果 (あの人、まさか!?)

ザッパッ

ルシウス 「プハ、ハーッ、ハッ」

ルシウス (ここは……滝だ!)

ルシウス (なっ……何なのだこれはッ!? 湯だとッ!?」

ルシウス (傾斜のある水路上に湯が流されていて、そこを平たい顔族が滑り落ちてくる……)

プール監視員A 「脱げちゃいましたか? このバスタオル巻いて下さい」

ルシウス (大きな布を渡された。……そう言えばここは何故か皆全裸ではないな……。これで体を覆えということか)

プール監視員A 「しばらくその格好でお願いします。それでは水着探しますね」

ジャボン!

ルシウス (男が潜っていった……)

穂乃果 「ルシウスさん」

ルシウス 「以前出会った弓の素人の娘……」

女性客A 「あの人さっきまで真っ裸だったわよ!?」

女性客B 「やだーッあの男の人、水着着てないッ!」

雪穂 「お姉ちゃん、皆見てるよ」

穂乃果 「ルシウスさん、こっちへ」

雪穂 (お姉ちゃんが知らない外人さんの手を引いてる)

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

穂乃果 「ここまで来れば大丈夫かな、よっと!」

ジャブン!

ルシウス (この堀のようなテルマエは……)

穂乃果 「こんなところで会うなんて奇遇ですね。ルシウスさん」

穂乃果 (オープンキャンパスの次は温泉遊園地かあ)

ルシウス (依然言葉は分からないが私に対して友好的だ。以前出会ったゲルマンとはえらい違いだ)

雪穂 「お姉ちゃん、この人は?」

穂乃果 「この人はルシウスさんっていってオープンキャンパスの時に学校に来てたの」

雪穂 「そう」

穂乃果 「花陽ちゃんが言ってたんだけど、学校で飼ってるアルパカさんのお世話を手伝ってくれたんだって」

雪穂 「そうなんだ」

雪穂 (中年のオジサンが女子高のオープンキャンパスに?)

穂乃果 「ルシウスさん、紹介します。妹の雪穂です」

雪穂 「Nice to meet you. I am Yukiho Kosaka. I'm her younger sister.」

ルシウス 「……」

雪穂 「英語、通じないみたいだね」

雪穂 「流れるプール久しぶりだったね、お姉ちゃん」

穂乃果 「うん、そろそろスライダーに戻っても大丈夫かな」

ルシウス (このような発想があったとは……)

ルシウス (円環状につながった堀のようなテルマエの中で大勢の入浴客が同じ方向にグルグル移動すれば大きな水流が起きる)

ルシウス (輪になったテルマエでその流れに身を任せながら回遊する、流れるテルマエ……)

ルシウス (しかも唯の真円ではなく緩やかに蛇行させて飽きさせないようにしている)

雪穂 「お姉ちゃんスライダーやりたいの?」

穂乃果 「うん、やりたい! 雪穂も一緒に滑ろうよ」

雪穂 「うん」

穂乃果 「ルシウスさんも行こう!」

プール監視員B 「はーい3人ずつ1列に並んで下さい。前の人との間隔を十分に取ってから滑って下さい」

雪穂 「お姉ちゃんこういうの好きだよね」

穂乃果 「うん、ワクワクする!」

ルシウス (叫び声を上げながら平たい顔の子供がとめどなく下に滑り落ちていく……もしやこれは精神力を鍛える為の装置なのではないだろうか!?)

ルシウス (かつてスパルタでは子供に過酷な修行をさせて国力増強を計っていたが……この国ではどうやら湯を使って子供を鍛えているのかもしれぬ)

ルシウス (この湯滑りの修行でどれだけ精神力が高められるのか試してみようではないか!)

ズルッ

ルシウス 「!?」

バシャー

雪穂 (フライング!?)

穂乃果 「ルシウスさん、早い、早いよ。雪穂、私達も行こう!」

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

穂乃果 「ヒャッホー、ハハハハハ!」

雪穂 「ヒャー! キャー!」

ルシウス 「FER MIHI AUXILIUMI!(助けて!)」

ブン ドボーン!

ゴポッ

ルシウス 「プファッ! ハァッハァッ」

ルシウス (怖いが、愉快だ!)

穂乃果 「ルシウスさんこっちこっち! そのままそこにいると次の人が来ちゃうよ!」

ルシウス (少し離れてこうして見ると、子供も大人も楽しそうに滑り降りている)

ルシウス (湯滑りのテルマエを造り、それを囲むように流れるテルマエを巡らせる。これはローマ市民に確実にウケる!)

ルシウス (しかし高いところにあるあの黒い大きな板は何なのだろう?)

穂乃果 「楽しいね!」

雪穂 (お姉ちゃん凄く楽しそう……ここに連れてきて良かった)

雪穂 (元々人懐っこいお姉ちゃんが、それこそ言葉も通じない一回会っただけの外人さんにも屈託無く笑顔で話しかけるようなお姉ちゃんが……)

雪穂 (μ'sの皆と一緒にアイドル活動出来なくなって寂しくない訳が無いんだ)

雪穂 (これで少しでも元気になってくれれば……)

バン!

雪穂 「オーロラビジョン……」

穂乃果 (オーロラビジョンが点いた)

ルシウス (板が光った!?)

番組司会者 「今、話題のプールアイドル。その頂点を決めるプールアイドルの祭典がラブライブです。先日行われたその第一回大会で見事優勝された人気プールアイドル……」

番組司会者 「A-RISEの皆さんをスタジオにお招きしています! よろしくお願いします!」

A-RISE一同 「よろしくお願いします!」

番組司会者 「栄えある初代チャンピオンということで……おめでとうございます」

A-RISE一同 「ありがとうございます」

雪穂 (よりによって何て映像が流れるの!)

女性客C 「キャー、A-RISEよ!」

女性客D 「カッコイイー!」

穂乃果 「……」

雪穂 (お姉ちゃん落ち込んじゃった……)

ガシッ

穂乃果 (掴まれた!? ルシウスさん!?)

ルシウス 「教えてくれ!」

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

ルシウス 「さっきまで黒かったあの大きな板が光ると同時に中に人が入っていた」

ルシウス 「どういう仕組みになっているのだ……!?」

ルシウス 「あれはどんな装置なのだ!?」

穂乃果 「い、痛い!」

雪穂 「おじさん!? ちょっと止めて!」

ルシウス 「ハッ! ……すまない、つい力が入って」

ルシウス (言葉が分からないがこの娘が間に入って我に返ることが出来た)

雪穂 「お姉ちゃん大丈夫?」

穂乃果 「大丈夫……、ちょっと肩掴まれただけだから」

雪穂 「もう、一体何なの……」

ルシウス 「……」

雪穂 (おじさんが跪いてる)

ルシウス (何ということだ……)

ルシウス (技術なのか、それとも奇術なのか……このような物はローマにはない……私の誇るべきローマには……)

穂乃果 「どうしちゃったのかな?」

穂乃果 (今度は俯いて体育座りしてるし、少なくとも落ち込んでるのは分かる)

雪穂 「お姉ちゃん、ひょっとしてこの人μ'sのファンじゃない?」

穂乃果 「まさか」

雪穂 「さっきオープンキャンパスでこの人に会ったって言ったよね。女子高のオープンキャンパスに男の人って普通来ないよ」

雪穂 「A-RISEの映像が映ったのを見て、さっきお姉ちゃんに言ったんじゃない? 『あの映像を見ても何も思わないのか? 悔しくないのか?』って」

雪穂 「この人日本語分からないし、きっと日本に来て日が浅いんだと思う。そんな人がμ'sの追っかけしてたんだよ」

雪穂 「外国から来た人も魅了するだけのものをお姉ちゃん達は持ってるんだよ」

穂乃果 「でももうプールアイドル辞めたから」

雪穂 「お姉ちゃんを応援してくれてたのは身近な人だけじゃない。ファンの人達だってそう。この人は大勢のファンの一人」

雪穂 「お姉ちゃんが辞めて、こうして悲しんでいる人が他にも大勢いるんだよ」

穂乃果 「……」

雪穂 「お姉ちゃんがどうしてもμ'sに戻るのはイヤだって言うのなら無理強いは出来ない。でも……」

雪穂 「戻りたいという気持ちが少しでもあるのなら、ルシウスさん達のことも考えてあげよう」

穂乃果 「雪穂……」

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

絵里 「ごめんね、突然お邪魔して」

穂乃果 「いえ、お気になさらず。今お茶を」

絵里 (穂乃果の自宅を訪ねたけど、思ったより元気そうね)

穂乃果 「そうだ、お茶を淹れたら聞いて欲しい話があって」

絵里 「そう、そんなことが」

穂乃果 「私、その時初めて本当に自分のファンを意識したんです」

穂乃果 「決して自惚れじゃなくて。アイドルを続けて人気が出てきたらファンが増える訳で、でもその人達のことを今まで真剣に考えたことが無かった」

穂乃果 「勿論応援してくれることは嬉しいし感謝もしてる。でもこれまでプールアイドルやってきたのは学校の為、ラブライブの為で……ファンのみんなのことはあまり考えてなかった」

絵里 「私もよ」

穂乃果 「絵里ちゃん……」

絵里 「私は日本に来る前にシンクロをやっていて……その時続ける上で感謝する相手は家族、チームメイト……コーチ。そして友達」

絵里 「ただ競技者としてやっている間、ファンのことは意識していなかった。レギュラーを決めるのはコーチ、試合で採点するのは審判であってファンではない」

絵里 「プールアイドルやるようになって観客の皆を意識してダンスするようになってはきたけど、ライブ以外にファンと交流する場も無かったし、穂乃果と同じよ」

穂乃果 「お互い気付くのが遅かったね」

絵里 「遅くなんかない。今気付いたのならこれからでも――」

穂乃果 「言わないで」

絵里 「穂乃果」

穂乃果 「今更虫が良過ぎるとは思うけど、考えさせて欲しい」

絵里 「分ったわ。あのとき見たいに直ぐに答えなくてもいい。ゆっくり考えて」

穂乃果 「ありがとう」

絵里 「私もそのルシウスさんって人に会ってみたいわ……」

穂乃果 「私好きなの、歌うのが。それだけは譲れない。だから……ごめんなさい!」

穂乃果 「でも! 追いかけていたいの!」

海未 「私が怒ったのは穂乃果がことりの気持ちに気付かなかったからじゃなく、穂乃果が自分の気持ちに嘘をついているのが分かったからです」

穂乃果 「ことりちゃん、行かないで!」

ことり 「私の方こそごめん。私、自分の気持ち分かってたのに……」

絵里 (穂乃果もことりも戻ってきた。これで再びみんなで……)

花陽 「全員再集合してからの初ライブ、緊張する……」

凛 「それより凛達スクール水着のままだよ」

真姫 「高校生らしくていいんじゃない」

希 「じゃあ、全員揃ったところで部長、一言」

にこ 「ええっ!? なぁーんてね。ここは考えているわ」

にこ 「今日皆を一番の笑顔にするわよ!」

穂乃果 (『今日皆を一番の笑顔にする』か……)

穂乃果 (凄いよにこちゃん。にこちゃんは最初から分ってたんだね。ライブを観に来てくれた皆を笑顔にする。ファンのみんなを意識したステージにする)

穂乃果 (この人は心底アイドルが好きだから、自分もアイドルに憧れてきたから……ファンの望むことが分かるんだ)

穂乃果 (大分遅れちゃったけど、穂乃果も同じ様になろう)





雪穂 (こうしてお姉ちゃんはプールアイドルを続けることになった)

雪穂 (あの日のルシウスさんの姿がお姉ちゃんの決心にどれだけ影響を与えたかは分からない)

雪穂 (ただ、あの後突然姿を消したルシウスさんがお姉ちゃんのライブを見てくれてることを私は信じている)

ルシウス (あの光る黒い板は再現出来なかったが、滑り湯と流れるテルマエは造った。問題は……)

ケイオニウス 「まず私が最初に滑ると言ったであろう」

法務官 「いや、次は私の番の筈です!」

将軍 「違いますよ法務官殿、あなたはもう2度もお滑りになったでしょ!?」

子供A 「お父様ばっかりでずるいよう!」

子供B 「子供はずっと流れるテルマエしか入れないの?」

ルシウス (このようなことになるとは! 私だって明日のローマを思って全力を尽くしたのだ!)

マルクス・ウェルス 「そのように思いつめた顔をしなくても心配には及びませぬよ、ルシウス技師」

ルシウス 「マルクス・ウェルス様!」

マルクス・ウェルス 「大人達も十分童心に帰ったらそのうち飽きてくることでしょう。それまで待てばいいだけの話です!」

ルシウス (な……何とできたことを……!)

ケイオニウス 「誰だッ! こっちで順番を決めている間に勝手に滑っているのは!?」

ジャバーッ

アポロドトス 「こりゃ愉快じゃあーっ」

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

司会 「μ'sの皆さんでした。盛大な拍手を!」

観客 ワーッ、パチパチパチパチ

μ's一同 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

穂乃果 (地区大会決勝……)

真姫 (私達のステージが終わったわ)

希 (やれるだけのことはやった……)

花陽 (まだ歌ってないのは残り1組、優勝候補筆頭……)

にこ (A-RISE!)

にこ 「もう! 着替えてからじゃないと会場の出場者席に戻れないって何なのよ!」

ことり 「仕方ないよ。濡れた身体のままシートに座る訳にいかないし」

花陽 「早く着替えないとA-RISEのステージが始まります」

にこ 「万が一の時はここで視聴するわよ」

絵里 「ワンセグ?」

ムニュ

希 「ここ(女子更衣室)で見るの?」

ムニュ

にこ (二人して両脇から覗き込まないでよ!)

凛 (にこちゃん挟まれてる)

穂乃果 (か、格差が……)

にこ 「あれ?」

花陽 「どうしたの?」

にこ 「『しばらくお待ち下さい』ってこの画面……」

希 「まるで放送事故やん」

にこ 「間に合った」

海未 「私達のステージが終わってから多少時間がかかっているのが気になりますが……」

絵里 「どうしたの、希? キョロキョロして」

希 「えりち、会場の雰囲気なんかおかしくない?」

にこ 「確かにこれからトリのA-RISEの出番にしては盛り上がってないわね」

海未 「私達が歌い終わった直後はもっと盛り上がってました」

ことり (盛り上がるどころか騒然としてる)

花陽 「何かあったのかな?」

真姫 「そろそろ始まるみたいよ」

絵里 (一体何があったの? 動きに余裕が無い)

穂乃果 (笑顔で歌ってるけどどことなく表情が硬い)

凛 (今、一人だけ振り付け間違えた)

花陽 (A-RISEのこんな姿を見るなんて)

にこ (ウソ、今歌詞間違えたわよ!?)

海未 (気の毒ですが、これでA-RISEの優勝は……)


ツバサ 「みんな、悔いは残るかもしれないけど……」

英玲奈 「本来の力を出せたらこんなことには……」

ツバサ 「本番で力を発揮できるかどうかも実力のうちよ」

あんじゅ 「でもおかしいわ」

あんじゅ 「歌う直前に完全にフリチ○の男が突然プールから飛び出して来るなんて」

英玲奈 「あれのせいで大きくペースが狂った。いくら仕切り直しさせてくれたといっても、おいそれと平常心には戻れない」

英玲奈 「正式に抗議した方がいいと思う」

ツバサ 「抗議しようにも犯人は行方不明。個人の意思か誰かの差し金かも分からない」

ツバサ 「私だってこんな終わり方納得出来ない」

ツバサ 「でもせめて潔く勝者を称えましょう」



この日、μ'sは初めてA-RISEに勝利した。

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

ルシウス (今度は直接パンノニアに赴いてケイオニウス様の為のテルマエ造りか……)

ルシウス (特に今のような冬場に寒冷地パンノニアでの入浴となると、湯につかるだけでは侘しいのも分かる)

ルシウス (だからこそ、袋に道具一式を詰め、辺り一面雪景色の山道を護衛の兵と共に歩いているのだ)

ルシウス (どこまでも続く雪道……。この前迷い込んだ平たい顔族の派手なテルマエとは対象的だ)

ルシウス (あのテルマエで見た眩いばかりの色とりどりの灯り、あれはどうやって灯しているのか?)

ルシウス (そしてあの時入浴中の3人の娘達を、私は以前湯滑りのテルマエで見ている)

ルシウス (忘れもしない。謎の光る黒い板に入っていた娘達だ。まるで奇術師……そうか!)

ルシウス (きっとあの娘達は奇術師で、テルマエにて客に奇術を披露していたのだ。着衣で入浴していた時点で身体を洗ったり疲れを取ったりする為の入浴でないことは明らか)

ルシウス (そしてテルマエが混んでいないにもかかわらず、服を脱ぎもせずに彼女達の前に集まっていた大勢の人間は、奇術を見に来た観客だったのだろう)

ルシウス (だから私が突然テルマエに現れた時に皆怒っていたのだ)

ルシウス (しかし今更ローマに引き返して奇術師を探す訳にもいくまい。それに駐屯地で都市部のような豪勢なテルマエ造りは望めまい)

ルシウス (以前ヴェスビオスで作った温泉村は帝国の中心部に近く観光収入が見込めるから建設と維持が可能な訳で、国境近くで蛮族との戦いに明け暮れるこの地でそれは難しいだろう)

ルシウス (それでも少しでも力になりたい。ケイオニウス様からの書状には『体力が日に日に衰える』と書かれていた)

ルシウス (帝国が私を必要とするなら家庭の不和があっても仕事を続けよう)

ルシウス (……)

ルシウス (それでは以前の私と何ら変わらないではないか。今の私ではリウィアを連れ戻すことは……)

ズルッ

ルシウス (うわっ!)

ズササササアアッ!

兵士A 「ルシウス殿!?」

兵士B 「ルシウス殿が滑落したぞ!」

タッタッタッタッタッタッタッタッ

ルシウス (止まれ、止まれ!?)

ルシウス (この下り坂はどこまで続く? 今、足を止めたら転倒する)

ルシウス (しばらく走り続けるしかないのか?)

ブワッ

ルシウス (宙に浮いた!?)

ドッポーン!

ゴポゴポゴポゴポ

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

真姫 (この露天風呂から上がったら湯冷めにしないように気をつけなくちゃ。だって今日は年に一度の大切な日……)

ザパアッ!

真姫 「何っ!?」

ルシウス 「ぷふアッ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

ルシウス (ここは……落ちた先に天然の温泉があったのか? 不幸中の幸いだった)

ルシウス (こうしてはおれん。早く合流せねば皆を心配させてしまう)

ルシウス (仕事道具を入れた袋は……あった! 良かった……旅先でこれを無くす訳にはいかない……。ん?)

ルシウス (夕方……先程まではこんなに暗くなかったぞ)

真姫 「……」

ルシウス (平たい顔族……)

真姫 (振り返った先に居た白人のおじさん、大きな白い袋を背負って、厚手の冬服を着て……)

真姫 (そして今日はクリスマス……)

真姫 「サンタさん!」

ルシウス 「SANTASAN……?」

真姫 「貴方サンタさんでしょ! ひょっとして橇から落ちたの? 大丈……」

真姫 (あ、そういえば私……裸……)

真姫 「キャアッ!」

ルシウス (やはりそうなるか)

ルシウス (この前のゲルマンみたいに暴れられては面倒だ。立ち去るとしよう)

真姫 「待って!」

ルシウス (私の袖を掴んだ?)

真姫 「お願い、少しお話したいの……」

ルシウス 「……」

真姫 「ここから見えるあの家がうちの別荘……って知ってるよね。サンタさんは毎年プレゼント届けてくれるから」

ルシウス (この前の奇術師は兎も角、平たい顔族は概ね私に対して友好的だが……この娘は特に顕著だ)

真姫 「今年は秋に別荘でμ'sの合宿をやってその時暖炉を使ったんだけど、今はもう煙突と暖炉の掃除終わってるから。サンタさんが煤で汚れないように毎年煙突と暖炉の掃除を前もってしてるのよ」

ルシウス (上目遣いで私の腕に抱きついて話しかけてくる、私が来ている服の生地が厚いとはいえ、僅かに胸の膨らみの感触が……)

真姫 (これでも恥ずかしいんだから……くっついた方が裸見られずに済むし)

真姫 「そろそろ時間ね……サンタさんもう一度うちの別荘を見て」

ルシウス (平たい顔族が指差す先の屋敷……)

真姫 「……ほら、光った!」

ルシウス (……これは!?)

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

真姫 「今年のクリスマスのイルミネーションよ? 発光ダイオードって綺麗よね」

真姫 (サンタさんと二人きりで……露天風呂からクリスマスのイルミネーションを見るなんて……今年のクリスマスは最高だわ!)

ルシウス (何なのだ、あの光は!?)

ルシウス (赤、青、白、緑、色とりどりの明かりが点滅しながらあの屋敷を覆っている!? あの明かりの源は!?)

ルシウス (これが平たい顔族の技術か……。いや、技術だけではない。辺りが閑散とした雪山だからこそ明かりが映えるのだ)

ルシウス (しかし少々派手過ぎないか……。あれではルパナル(娼館)だ)

ブッブー!

ルシウス (今の音!? 進軍ラッパ?)

真姫 「クラクション! パパがジャガーで迎えに来てくれたのね」

真姫 「サンタさん、残念だけどここでお別れ」

チュッ

ルシウス 「!?」

ルシウス (私の頬にキスを!?)

真姫 「パパ以外の男の人に初めてしちゃった。毎年プレゼントを貰っているお礼よ。今年もあの別荘で待ってるから!」

ルシウス (さっきの娘が私に慣れ慣れしくしていたのはあの娼館の商売女だからか……)

ルシウス (立ち去る直前、最後に私に話しかけながらあの娼館を指差したのは、後で客として館に来て欲しいという意味だったのだろう)

ルシウス (しかし妻との生活がうまくいかなかったショックで今の私は男として無能なのだ。とてもそんな気分には……)

ルシウス (ん、景色が……)

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

兵士A 「ルシウス技師が見つかったぞ!」

兵士B 「川に落ちたのか。ルシウス殿、お怪我は!?」

ルシウス (寒っ! 戻ってきたら川だったとは……)

ルシウス 「大丈夫だ、心配をかけた。それよりテルマエのアイデアが……」

ケイオニウス 「言われた通り、以前ルシウス技師が贈ってくれた木の風呂に浸かったが、これからどうしろというのだ」

ケイオニウス (さっき日が落ちたところだ。間も無く真っ暗になると言うのにこんな屋外の丘で……。そしてこの風呂を覆う木の矢倉は何だ?)

ルシウス 「これよりご覧に入れます」

ケイオニウス (ルシウスが松明を振っている、何かの合図か?)

ケイオニウス 「! これは……」

ケイオニウス (テルマエを覆う矢倉に兵士達が松明を灯した。矢倉の各所に点火する場所を用意していたのか。明かりに覆われたテルマエ!?)

ルシウス 「これだけではありません」

ケイオニウス 「おお……!?」

ケイオニウス (いつもは侘しく見える駐屯地の建物とその周辺に大量の松明が灯っている。まるで光の宮殿だ……)

ルシウス 「この地で本格的な都市は造れなくても、せめてこれをお見せしたかったのです」

ケイオニウス 「その為にこの小高い丘に……光の宮殿、美しい」

ケイオニウス 「テルマエに浸かりながらこの幻想的な風景を楽しむ、素晴らしい! 礼を言おう」

ルシウス 「勿体無きお言葉」

ルシウス (松明は高価だが、それでも豪勢なテルマエを造るよりは安上がりだし時間もかからない。これでケイオニウス様が少しでも元気になってくだされば……)

ケイオニウス 「後、もう一つ頼みが」

ルシウス 「私に出来ることなら何なりと」

ケイオニウス 「ローマに帰ったら、美しい娘を2、3人この地に寄越すよう手配してくれぬか? この景色をテルマエに入りながら美女と楽しみたい」

ケイオニウス 「パンノニアの娘は田舎臭くていかん」

ルシウス (軟弱な……。平たい顔族の商売女でもあてがってやりたい)

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

穂乃果 「冬休みも学校で練習かぁ……」

海未 「授業が無いこの時期こそ練習に専念するチャンスです!」

真姫 「実は私、週末びっくりするようなことがあったの」

穂乃果 「びっくりするようなこと?」

真姫 「そう! 私、今年のクリスマスで遂に……遂に……」

真姫 「サンタさんの正体を見ちゃったの!」

真姫を除く一同 「……」

真姫 (何、このお通夜みたいな雰囲気……)

穂乃果 「あちゃー……」

海未 「遂に知ってしまったのですね」

凛 「凛は幼稚園で経験したから今の真姫ちゃんの気持ち分かるよ!」

絵里 「いつかこの日が来るとは思っていたけど……」

希 「真姫ちゃん、サンタする側にも事情はあるんよ」

にこ 「そうよ……。今年、虎太郎が薄目で寝た振りしてるのに気付かなかったばかりに……翌朝虎太郎から嘘吐き呼ばわりされたわ」

にこ 「真姫、これだけは覚えておきなさい」

真姫 「何、いきなり?」

にこ 「あんたの家ではどんなだった知らないけど、あんたは家族に愛されてるわ。それだけは絶対に信じること、いいわね」

真姫 「ええ、分かったわ……」

花陽 「良いこというねえ」

にこ 「当ったり前でしょ、何たって部長なんだから」

真姫 (意味分かんないんだけど……?)

マルクス 「お前まだカミさんのことから立ち直ってねえのか?」

ルシウス 「マルクス、オレはもうダメだ。妻に逃げられる男などローマ人として失格だ」


ルシウス 「私は妻を愛しているしパンノニアでも一度も商売女には手を出さなかった!」

ルシウス (そして平たい顔族の商売女にも)

ルシウス 「妻は度々子供を私にせがんだが、かえって萎縮してしまって……。子孫を残せない男なんて……私が女でも……お断りだ」

マルクス 「まー確かにガキガキ言われ続けたら萎えるよな……。よし! オレに考えが浮かんだ!」

オイテノアのオババ 「まず服を脱いでこのカメの中に入るのじゃ」

ルシウス 「何!?」

マルクス 「カミさんを連れ戻したいんだろ!」

マルクス 「このオイテノアはな、オレの師匠(78歳)が女買う前に必ず寄ってくとこなんだ! だから絶対効き目あるって!」

ルシウス 「そっそうか……よし……」

ルシウス (この薬湯の入ったカメに入るのか。……腰巻だけは着けたままでいいか)

ジャブ

オイテノアのオババ 「この薬湯に頭ごと全身を沈めるのじゃよ!」

ルシウス 「何ッ! ここに全身だと!?」

オイテノアのオババ 「早くッ! 効き目が無くなるッ!」

グイッ

ルシウス 「ごふっ!」

オイテノアのオババ 「わしが良しと言うまで出てはいけぬぞ!」

ゴポポポポッ


※ オイテノア = ブリアポス神の女祭司

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

穂乃果 「みんなおはよう!」

海未 「おはようございます」

ことり 「おはよう、穂乃果ちゃん」

凛 「おはよう」

花陽 「おはよう」

真姫 「おはよう」

にこ 「おはよう、ってあんたが最後よ」

穂乃果 「えーっ、でも時間には間に合ってるよ……って希ちゃんは?」

海未 「希はもう準備に向かいました」

穂乃果 「そっか。絵里ちゃんと真姫ちゃんからはメール来てたけど」

花陽 「大丈夫かな……」

海未 「大勢で押しかけてもかえって迷惑でしょうし、ここは真姫に任せましょう」

絵里 「ハァ、ハァ、せっかくの参拝を……台無しにして、ごめ……ゴホッゴホッ」

真姫 「病人なんだから今は自分の心配だけしてなさい。全く、受験生が新年早々インフルエンザなんて絵里も運が無いわね」

亜里沙 「ありがとうございます」

真姫 「貴方もタクシーに乗って」

亜里沙 「はい。何から何まで、ハラショーです」

真姫 「あなたも罹ってたら後で大変でしょ。二人まとめて家の病院で診てあげるわ」

真姫 (後輩が出来たらこんな感じなのかしら)

ジャバジャバ

男性参加者達 「オーッシ! オーッシ!」

ジャバジャバ

穂乃果 「『寒中禊がまん会』かあ。見てるこっちが寒くなりそうだよ」

海未 「μ'sのラブライブ優勝と3年生の大学受験合格祈願も兼ねての参加です」

にこ 「希もここで働いているとはいえよく参加する気になったわね」

花陽 「あの氷柱が浸かっているお水を頭から被るんだよね」

凛 「1月上旬だよ、普通に服着てても寒いのに」

ことり 「でも希ちゃん以外は皆見てるだけだから」

ゴポゴポゴポ

ザパァ

ルシウス 「ぶぷあッ、冷たッ!?」

穂乃果 「急に人が飛び込んできた!?」

ルシウス 「冷水!?」

男性参加者達 「オーッシ! オーッシ!」

ジャバジャバ

ルシウス (この男達は何をしている!? また平たい顔族の世界か?)

ルシウス (腰巻一つの男達が掛け声をかけながら冷水を浴びている……これは!)



神○明○寒中禊がまん会、ここでの水行は禊場と呼ばれる氷柱が入った水場にて行われる。
禊場の冷水を桶で掬い自らの全身にかけて身を清めるものだが今年は折からの暖冬と快晴にて氷柱が溶けて角が丸くなり、見ようによっては卑猥な形状となった。
それが不幸にも古代ローマ人の誤解を生んだ。



ルシウス (氷で出来た○根だと!?)

今日はここまで。
現時点でルシウスが遭遇したμ'sのメンバーは8人。最後の一人が次回登場。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

ルシウス (天に向けてそそり立つこの氷の男○は妻に対して問題を抱えた私への当てつけか!? だとしたら非道すぎはせぬか!?)

ツンツン

ルシウス 「ん?」

希 「外人さん、交代よ」

ルシウス (私の肩をつついたこの純白の衣装の女……服が濡れているということはこの娘も既に冷水を浴びたということか)

ルシウス (妙に色気のある女性ではないか……)

ルシウス (冷水に打たれて毛穴が閉じているのだろうか、つややかできめの細かい肌。凍えているせいか憂いを含んだ瞳)

ルシウス (それに濡れた服が身体に張り付いているからこそ分かる)

ルシウス (胸デカッ!)

希 「あんまり見られると恥ずかしいわぁ」

ルシウス (隠した? ……これはもしや……ローマ女には見られない恥じらいというものなのか……!?)

ムクムクッ

ルシウス (何ッ!)

ルシウス (今まで不能だった私に男の活力が!)

ルシウス (やった! やったぞ! 素晴らしい! いや、いかん!)

ルシウス (このような衆人環視の場で怒張なぞしてはローマ人の誇りに係わる)

ジャバジャバ

ルシウス (冷水を浴びれば収まる筈……)

希 「あの、次の人達待ってるから……」

シナシナッ

ルシウス (ローマ人の誇りは守られた……)

穂乃果 「あの外人さん、オープンキャンパスで見たよ! あとプールでも!」

海未 「私も思い出しました。弓の経験者の方です!」

にこ 「にこにーのフィギュアを持っていった男ね」

凛 「ラーメン一緒に食べた人にゃ!」

花陽 「ルシウスさんだ!」

ことり (あのメイドスパのお客さん……ここにも来てたんだ)

海未 (ここにいる誰もが突然現れたこの男性をいぶかしんでいるのでしょうが……)

海未 (神事に口を挟むのを皆憚っているのでしょう。私もこの場で「神主さん、水場から人が!」なんて言い辛いです)

今晩はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

ジャバジャバ

女性参加者達 「エイッ、エイッ」 

ルシウス (我々ローマ人のフリギタリウム(冷水浴室)とは明らかに違う。この浴場の目的は何なのだろう?) 

ルシウス (……ひょっとしてこの者達はさっきの私のように淫らな心を捨て去らんが為に冷水を浴びているではないか?)

ルシウス (人は生きていれば色々な欲望がある。名誉欲、物欲、性欲、その他諸々様々な欲望を消し去ろうとしているのなら……)

ルシウス (彼らの目指すところは質実剛健を理想とする我らローマ人に通じるものがある)

ルシウス (女性達が上がるようだ)

希 「次、外人さんの番やで」

ルシウス (ローマ女性をも凌がんとするボリューム感と触ってみたくなるような柔らかそうな体つき……)

ビキビキッ、ビーン!

ルシウス (これまでの反動か!? 元気が良すぎる!) 

ルシウス (冷水を浴びて自らを律すると同時に他民族の心を惑わすとは恐るべし、平たい顔族)

ルシウス (今の私は善きローマ人とはいえない。私も冷水で静めよう)

ガツッ

希 (この人、水場の縁に足引っ掛けた!)

ドボォン!

穂乃果 「落ちちゃった!」

凛 「……あれ、居ないよ!」

花陽 「あの人、居なくなっちゃった……」

ザパアッ

ルシウス 「ぶぱぁっ、ハァ、ハァ」

マルクス 「ルシウスッ、大丈夫かッ! うお! 効いてるじゃねえかルシウス!」

マルクス 「バッ、バババすっげえ!」

オイテノアのオババ 「当たり前じゃ」

マルクス 「ここがお前のカミさんの家か、すげえ立派な屋敷だな……」

ルシウス (遂にこの時が来た。今日、私は何としても妻を連れ戻す!)

ルシウス 「リウィア、私とローマに帰ろう! 今までお前には色々と辛い目に会わせて悪かった! しかし今の私ならお前をいくらでも満足させられるであろう」

リウィア 「あたし、あなたがパンノニアに行ってる間に再婚したの。私のお腹にはその人の子が居るのよ。だからあなたとはもう縒りは戻せないわ。ごめんなさいネ」

リウィア 「元気になったのなら大好きなゲルマン娘でも孕ませなさいルシウス……」

バタン

ルシウス (無情にもリウィアの実家の扉が閉まった)

ルシウス 「違うっ、私は浮気などしていないッ、違うんだーッ!」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。
これでようやくルシウスがμ'sの全員と遭遇。序破急の序が終わり。
今後もこのスレ続くので引き続き読んで貰えると嬉しいです。

凛 (凛は悪い子だ)

凛 (本当はイケナイことだって頭では分かってる。みんなが凛の秘密を知ったら凛のこと軽蔑するかな。でもこんなキモチイイこと覚えたらもう止められないよ)

凛 (かよちんは優しいから本当のことを知っても凛を強く責めたりはしないと思う。いや、凛の為を思って怒ってくれるかもしれない)

凛 (でも一番怖いのは、連帯感からかよちんが凛と同じようになること。それは凛の虫のいい願望だけどかよちんがそんな女の子になっちゃ駄目。だから一番仲良しのかよちんにも相談出来ない。いや、誰にも知られちゃいけないんだ)

凛 (でも凛がこうなったのはμ'sに入ったからだよ。μ'sに入らなければこんなこと始めなかった……)

穂乃果 「気持ちいい……」

ことり 「露天風呂、癒されるね」

穂乃果 「いいなあ……海辺に温泉付きの別荘なんて。真姫ちゃんはその気になればいつでも来られるんでしょ?」

真姫 「だからってそんな頻繁に来ないわよ。普段は学校だってあるし」

穂乃果 「そっか……。でもやっぱり羨ましい! こんな露天風呂あったら毎日でも入りたいよ」

海未 「穂乃果、あまり浮かれてはいけません。真姫の別荘を借りたのはラブライブ決勝直前合宿の為です」

穂乃果 「分ってるよぉ。でもお風呂に浸かってる時位は息抜きしたっていいじゃん」

絵里 「そうね、レッスン後は体を休めることも大事よ。今回の合宿の目的、海未はどう思ってる?」

海未 「それは、決勝前の最終調整です」

絵里 「そう、決勝まで残り数日。オリンピックで例えれば既に選手村に滞在しているようなもの。今すべきことは決勝に向けての最終リハ、メンタルの安定、コンディションの調整で、体力増強のトレーニングではないわ」

海未 「それはそうですが……」

絵里 「これでも私、昔は本気でオリンピックを目指してたのよ。だから少しは信用して」

海未 「ええ、わかりました。……絵里がオリンピックを目指していたのは知っていますから」

海未 (そう、シンクロ経験者の絵里がいなければ私達はここまで来られなかった)

花陽 「いよいよ決勝なんて緊張しますぅ……」

にこ 「あんたはまだいいわよ。来年も再来年も経験出切る。あたしは次が最後なんだから」

希 「うちら3年生は受験も終わったし、これが高校最後のビッグイベントやね」

絵里 「残るはラブライブ決勝……」

凛 (あ~)

凛 (……)

凛 (……気持ちいいにゃ~)

凛 (……ごめんねみんな、イケナイことだって分ってるけど……)

凛 (これだからお風呂でオ○ッコするの止められないにゃ~)

穂乃果 「ねえ、そろそろ温泉卵出来てるでしょ? みんなで食べようよ!」

花陽 「楽しみです。凛ちゃん?」

凛 「ふぇ!?」

花陽 「?」

凛 「な、なんでもないよ」

花陽 「凛ちゃん、そこで茹でてる温泉卵取ってくれる?」

凛 「うん」

凛 (オ○ッコしてたの見つかったかと思った……。それに凛の近くに卵あったの忘れてた。すぐ傍でオ○ッコしちゃった)

凛 (……)

凛 (ま、いっか!)

ゴポゴポゴポゴポゴポ

ザパアッ! 

ルシウス 「ぷふアッ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

ルシウス (屋外のテルマエ……!?)

μ's一同 「……」

ルシウス (この娘達は!?)

μ's一同 「キャアアアアアア!」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

ルシウス (平たい顔族か!)

希 「あーっ! この人、神社で見たわ!」

ルシウス (胸の豊かな娘が!)

真姫 「えっ!? サンタさんでしょ?」

ルシウス (商売女!)

凛 「以前凛とラーメン食べた人だよ! 覚えてるよねかよちん?」

ルシウス (旨い飯を紹介してくれた少女……)

花陽 「覚えてます! 以前この人から古銭貰いました」

ことり 「バイト先のご主人様……」

ルシウス (キメラ使いに……魔女もいる!?)

穂乃果 「プールで会った人だ!」

ルシウス (滑り降りるテルマエの娘……)

海未 「弓の経験者……」

ルシウス (アマゾネスの弓兵!?)

にこ 「結局こいつは何なのよ!」

ルシウス (アマゾネスの百人長!?)

絵里 「覗きよ」

ルシウス (ゲルマン!?)

海未 「覗き!?」

絵里 「ええ。この男、ウチの風呂を覗いたのよおおおお!」

μ's一同(絵里を除く) 「エエーッ!?」

にこ 「どこ見てんのよ!」

凛 「こっち見ないでよぉ」

ルシウス (慎ましい胸の先端に薄桃色の突起が)

ルシウス (アマゾネスの伝説みたいに切り取っていた訳ではなかったのか)

海未 (見られてしまいました。見られてしまいました。見られてしまいました。見られてしまいました。見られてしまいました。見られてしまいました)

海未 (これを無かったことにするには……そうです!)

海未 「みんなでこの男を抹殺しましょう!」

穂乃果 「海未ちゃん物騒過ぎ!」

希 「道理でウチの身体に視線感じた訳や……」

海未 「武道を嗜む者として恥を知りなさい!」

ことり 「海未ちゃん、この人日本語通じないから」

真姫 「サンタさんだと思ってたのに……騙したわね!」

絵里 「捕まえるわよ」

花陽 「捕まえるって……私今裸……」

にこ 「こいつは唯の覗きじゃない。きっとストーカーよ。今捕まえないとまた出没するわよ」

花陽 「怖い……」

凛 「捕まえるって具体的にどうするの? この人筋肉質だし、背だって凛より頭一つ大きいよ」

絵里 「まずは全員で絶えずお湯をかけ続けて相手の視界を奪うわ。その方が裸を見られずに済むし」

絵里 「そして私と希で男にタックルをかけて倒して、倒れた相手の右腕を穂乃果、左腕を凛が抑える」

絵里 「最後は後ろから海未が相手の首を取る。5人で押さえ込めば流石に捕まえられる筈よ」

絵里 「他の4人はその間、男の顔にお湯をかけ続けて。男を確保したらことりは警察に通報。真姫とにこは男を縛るロープを持って来て」

花陽 「あの……私は何を?」

絵里 「取り押さえた男の両目を手で塞いで。私達が見られないように」

花陽 「はい……」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

絵里 「作戦開始!」

バシャバシャバシャバシャ

ルシウス (包囲してお湯をかけてきただと? 前が見えん)

絵里 「希は右、私は左でそれぞれ片足タックル、いくわよ……」

希 「オーケー」

絵里 「せーの、行けッ!」

ガシッ
ガシッ

ルシウス 「!」

ザバァン!

ことり (倒した!)

穂乃果 「捕まえた!」

ガシッ

凛 (そんな悪い人に見えなかったのに!)

ガシッ

凛 「この人凄い力だよ……」

絵里 「しっかり抑えないと逃げられるわよ!」

絵里 (この男、筋肉がしっかりしている。お湯をかけて視界を奪わなければ二人がかりでタックルしても倒せたかどうか……)

穂乃果 「ここの露天風呂ぬめり湯だからすっごい滑るよ!」

ルシウス (何なのだ、このテルマエは!?)

ルシウス (ぬめり湯の中で柔らかくかつ弾力に富みスベスベしたものが手足に絡みついてくる!)

ルシウス (うら若き娘達が一糸纏わぬ姿で身体に縋りついてくるテルマエ。気持ち良すぎる!)

ルシウス (しかも顔に絶えず湯をかけられるので必然的に目を閉じるようになる)

ルシウス (目を閉じることでより研ぎ澄まされる触覚!)

ルシウス (独自の発想と高い技術を持つ平たい顔族のテルマエにはこれまで幾度も驚かされたし、打ちひしがれて来たが……)

ルシウス (気持ち良さではこれまで入ってきたテルマエの比ではない!)

ルシウス (このようなテルマエが流行したら人間は堕落してしまう!)

ルシウス (ハドリアヌス帝が混浴禁止令を出されたのは慧眼であった)

ムクムクッ、ビーン!

にこ 「こ、こいつ、興奮してるわよ!」

花陽 「ぴゃあっ!?」

真姫 「何よ、私の時は勃たなかったくせに」

ことり (みんなは驚いてるけど私はメイドスパのバイトで一生分見たからもういいかな)

海未 「人様の浴場で欲情するとは破廉恥極まりない……」

海未 「最低です……」

海未 「あなた、最低です!」

穂乃果 「海未ちゃん!」

希 「うちらが抑えてるうちに早く首を取るんや!」

海未 「わかりました。私がこの汚らわしい男に天誅を下します。この男の首に……」

海未 「天蓮華を!」

穂乃果 「そんな技かけたら死んじゃうって!」

海未 「ならば仕方ありません。生け捕りにしましょう……」

ガシッ

海未 「裸絞めです!」

花陽 「裸でかけるのが前提の技があるんだ……」

ことり 「裸絞めは裸でかける訳じゃないよ」

にこ 「じゃあ何で裸絞めって言うのよ?」

ことり 「それは……」

真姫 「今はそんなのどうだっていいでしょ!」

ルシウス (後ろから抱きついてきた!? く、首が締まる……)

ゴポゴパゴポゴポッ

花陽 (辺りから気泡が……)

花陽 「みんな、気をつけて!? 何か変!?」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

ゴポン

穂乃果 (力が抜けた!?)

穂乃果 (いや……違う……吸い込まれる!?)

穂乃果 (溺れる?)

ゴポゴパゴポゴポッ

バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ!

さつき 「!」

さつき (家の浴室の方から凄い音が?)

さつき (どうしたのルシウス!?)

さつき 「これって……」

凛 「助けて……」

花陽 「むぎゅー」

真姫 「もう、早くどきなさいよ」

海未 「真姫、暴れないで」

ことり 「落ち着いて、狭いのは……みんな一緒だよ……」

絵里 「ひきがでひなひ」(息が出来ない)

希 「エリチしゃべったらくすぐったいって」

穂乃果 「さっきから下半身だけ水面から出して足ジタバタさせてるのは誰?」

にこ (苦しい……し……死ぬ……)

ルシウス 「さつき、これは違うんだ!」

さつき 「この度は主人が大変ご迷惑をおかけしました」

穂乃果 「どうか頭を上げて下さい。ええと……」

さつき 「さつきと言います。順を追って説明します。少し長くて突拍子もない話ですが……」

穂乃果 (この女の人凄く綺麗……)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

さつきいるんかい!

真姫 「もう、これ唯の水じゃない」

さつき 「すみません。今、テルマエでネクター分けて貰えるようにお使いを出したから」

希 (テルマエってスーパーの名前かしら?)

凛 「あの、身体拭いたタオルはどこに?」

さつき 「……それは腰布として渡したんです」

凛 「腰布……?」

海未 「下着の代わりです。説明を聞いていなかったのですか?」

凛 「そんな怒ることないじゃん」

ことり 「みんな、落ち着いて」

穂乃果 「まずはさつきさんの話を聞こうよ」

穂乃果 (さつきさんから聞いた話は突拍子も無い話だった)

穂乃果 (ここが2世紀のローマということ)

穂乃果 (私達が露天風呂で出会った男の人はルシウスさんといってお風呂の設計技師をしていること)

穂乃果 (原因や原理は分からないけどルシウスさんやルシウスさんと関わった人が不定期でタイムスリップすること)

穂乃果 (さつきさんもその不思議な力でルシウスさんに巡り会って……)

穂乃果 (そして二人が最近この時代で結婚したこと……)

穂乃果 「そうだ!」

さつき 「どうしたの……?」

穂乃果 「私達、元の世界に帰らないといけないんです!」

真姫 「まさか穂乃果今の話を信じたんじゃないでしょうね」

にこ (これはきっとプールアイドルに仕掛けられたドッキリよ! でもここはドッキリ企画を潰さないようにアイドルとして騙されたフリを続けないと……)

ことり 「実は……この男の人、μ's結成前に私のバイト先に来たことがあるの」

穂乃果 「えっ!? そうだったの?」

にこ (何よ、μ'sへのドッキリじゃなかったの?)

海未 「ならば元々ことりがターゲットだったのでしょうか?」

花陽 「メイドスパ伝説のメイド、ミナリンスキーへのストーキング……ありえます」

凛 「でもイタズラやストーキングにしても手が混んでるよ……」

希 「ウチはさつきさんの話信じてもいいと思うんやけど」

絵里 「兎も角、何でもいいから私達を元居た場所に帰して下さい!」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

>>212
実は今まで拙作は『テルマエ・ロマエ』を原作コミック準拠、『ラブライブ!』をアニメ版準拠で書いてます。
『テルマエ~』原作キャラの小達さつきは通訳として必須なので登場です。

ことり 「……」

海未 (ここに来て3日目、本当なら今日がラブライブ決勝の日……)

花陽 「お父さん、お母さん……グスッ……」

凛 「かよちん……」

凛 (家族に会いたいのは凛も一緒だよ……)

絵里 (亜里沙、今頃どうしてるかしら……)

希 (元々独り暮らしのウチと違って家族と暮らしている皆はこういう時に耐性が無い。親元を離れているエリチも亜里沙ちゃんと二人暮らしやったし……)

にこ 「どうしてくれんのよ……」

ルシウス 「……」

さつき 「……」

にこ 「にこは本気でアイドルやりたかったからμ'sに入ったのよ! ここに賭けようって思ったのよ! それをこんな形で諦めろっていうの!」

さつき 「……ごめんなさい」

にこ 「うちは弟も妹達もまだ小さいの! 親が仕事で忙しいから弟や妹達の世話はあたしがしてきたの! あの子達きっと困ってるし泣いてる……」

さつき 「……本当にごめんなさい」

にこ 「……風呂に入れば元の世界に帰れるかもって……言ったじゃない……」

ルシウス (これまでの彼女達の経緯はさつきが教えてくれた。言葉は分からないがこの少女が怒るのは尤もなことだ)

真姫 「にこちゃん……」

穂乃果 「だったら……」



穂乃果 「ここでアイドルやってみない?」

にこ 「……あんた、本気で言ってるの?」

穂乃果 「このまま何もしないでいると穂乃果も気が滅入りそうだし、折角歌もダンスも一生懸命練習してきたのにこんな形で終わりにしたくないもん」

穂乃果 「にこちゃんだってアイドルやりたいんでしょ? だったら……ね」

真姫 「でもこの時代にアイドルなんて文化無いわよ」

穂乃果 「無いなら作っちゃえばいいんだよ、私達で」

希 「アイドルの元祖になるわけや。うまくいけば後世に名を残すかもな」

にこ 「……やるわ」

にこ 「にこにーがこの時代に飛ばされたのは、ここでアイドルの原点にして頂点になれという神の啓示ね。きっとそうよ!」

絵里 「そうね、このままじっとしてても手持ち無沙汰だし」

絵里 (家族のことを思うと歌って踊れば気が紛れるというものではない。でもここで悩むよりは何かすることがあった方がいい)

凛 「凛もやるにゃー!」

花陽 (私まだ、アイドル出来るんだ……)

ことり 「だったらまた衣装作らないとね」

にこ 「二千年近い時を超えた超時空アイドルにこにーが古代ローマにカルチャーショックを起こしてやるんだから!」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

海未 「あの、一つ問題が……」

穂乃果 「どうしたの?」

海未 「私、ラテン語で作詞なんて出来ませんよ。それ以前にラテン語で歌える人間が誰一人いないではないですか?」

穂乃果 「日本語で歌えばいいよ。日本のアーティストが海外公演する時にわざわざ現地の言葉でライブやらないでしょ?」

真姫 「でも自己紹介くらいはラテン語で出来るようになっておいた方がいいわよ」

穂乃果 「そうだね……そうだ!」

穂乃果 「さつきさん、私達にラテン語教えて下さい!」

さつき 「わたしに? 分かったわ、協力させて頂戴」

ことり 「あとは練習場所の確保だね」

さつき 「それはこちらで何とかするわ」

花陽 「何とかするって……」

さつき 「ルシウス、あなたのツテでどこかテルマエを貸切り出来ないかしら?」

ルシウス 「テルマエを?」

さつき 「今までの会話日本語だったから分からなかったのね、簡単に説明するわ」

海未 「ワン、ツー、ワン、ツー、はいそこまで! 一旦休憩にしましょう」

ルシウス (これが平たい顔族の踊り……)

ルシウス (本来テルマエは踊る場所ではない。テルマエで歌って踊るなど言語道断と思っていた)

ルシウス (しかし、彼女達の躍動感溢れる歌声と踊りには心動かされる物がある。何より今までこのような歌も踊りも見たことが無い!)

ルシウス (テルマエとは癒しの場、その大前提は変わらないし変えるつもりもないが……)

ルシウス (かつて経験した滑り降りるテルマエといい、女体が絡みつくテルマエといい、興奮や高揚感を齎すテルマエも平たい顔族は造ってきたのだ)

ルシウス (この柔軟な発想は見習う部分ではある)

真姫 「やっぱり音楽が欲しいわね」

絵里 「でもこの時代ピアノ無いわよ」

真姫 「分ってるわよ! それでも弾ける楽器を手に入れなきゃ駄目でしょ!?」

さつき 「楽器なら私が……」

花陽 「さつきさん、楽器使えるんですか?」

さつき 「三味線の経験があるからこれから竪琴を覚えれば……」

海未 「今から覚えるって……。演奏なんて一朝一夕で出来るものではないと思いますが?」

穂乃果 「海未ちゃん」

海未 「でもそうでしょう?」

ことり (場の雰囲気が……話題逸らさないと!)

ことり 「さつきさんって三味線弾けるんですね。音楽以外には何かされてたんですか?」

さつき 「日舞を」

海未 「いい加減にして下さい」

穂乃果 「どうしたの海未ちゃん、さっきから?」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

海未 「失礼ながら言わせて頂きます」

海未 「私達の夢をフイにした負い目があるから少しでも役に立つ人間と思われたいという気持ちは分からないでもありません。私だって逆の立場なら心苦しいです」

海未 「だからといって三味線や日本舞踊といった若者があまり経験しないことを挙げるのはいかがなものかと?」

にこ (要するにブラフと言いたい訳ね)

希 「海未ちゃん、いくらなんでもさつきさんに失礼や」

さつき 「三味線や日舞は本当にやってきたの」

海未 「ならば私が見極めさせて頂きます。私は日舞の家元の跡取りとして幼少の頃から稽古をしてきました」

穂乃果 (これがさつきさんの舞……)

ことり (素人目にはよく分からないけど……優雅というか……)

花陽 (美人さんだから様になります)

海未 ワナワナ

ことり (海未ちゃん震えてる……)

凛 (叫ぶ直前の藤○達也みたいになってるよ)

真姫 (もしかして怒ってる?)

海未 「数々のご無礼、申し訳ありませんでした!」

μ's一同(海未を除く) 「ええっ!?」

にこ 「あんたと比べてどんだけスゴイのよ?」

海未 「比べるのが失礼です! 天才ですよ!」

さつき 「そんな、大袈裟よ」

希 (謙遜しつつも恐縮はしとらん。褒められ慣れてるんやな。つまりそれだけ上手いっちゅうことや)

海未 「あの、お許し頂けるなら……」

海未 「『先生』と呼ばせて下さい!」

絵里 (完全に心酔してる……)

ルシウス 「サツキ、いるか?」

真姫 「キャッ!」

ルシウス 「……シチュレーシマスタ」

真姫 「もう、気をつけてよ……」

ルシウス (日除け布の向こう、サツキの部屋でマキが着替えていたか)

ルシウス (この娘、露天風呂で初めて会った時はもっと友好的だったが……それでもここに来た当初よりは打ち解けた感じがする)

ルシウス (トラブルになりそうな時に相手に向けて唱えるようにとサツキが教えてくれた呪文……)

ルシウス (「シチュレーシマスタ」には一定の効果が認められる)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

にこ 「焦らしてるの? もう、早く済ませてよ……」

にこ 「このにこに恥かかせるつもり?」

にこ 「にこにー……もう我慢出来ない……」

にこ 「あんたトイレ長いのよ! ここで漏らしたらあんたのせいだからね!」

ルシウス (言葉は分からなくても言いたいことは察することが出来る。が、用を足してる時に急かすのは止めてくれ)

ルシウス (サツキと暮らすようになって自宅のトイレの改装を行った)

ルシウス (個室式にし、用を足した後に風呂の残り湯を便器に流すと汚水が下水管に流れる水洗式だ。尻を拭く為のパピルスも置いてある)

ルシウス (公衆トイレで水洗なら兎も角、個人宅で水洗式のトイレ、増してや個室式などなかなかお目にかかれない)

ルシウス (だが、このトイレは9人の居候共にはすこぶる評判が悪い)

キィィッ

ルシウス (個室トイレの扉を開けると不機嫌な表情をした内股のにこと目があった)

ルシウス 「シチュレーシマスタ」

にこ 「もう、いいからどいて」

バタン

ルシウス (私の横をすり抜けるようにトイレに入って扉を閉めた)

ルシウス (いきなり同居人が9人も増えたせいで我が家のトイレは順番待ちが多い。トイレを増築するか?)

キィィッ

ルシウス (一度閉まった扉が空いた?)

にこ 「絶対に音聞いちゃ駄目よ」

バタン

シャアアアアア

ルシウス (相変わらず平たい顔族の言葉は分からん)

ルシウス 「サツキ……」

サツキ 「ルシウス……愛してる」

チュッ チュパッ レロレロ

ルシウス (平たい顔族の少女達が我が家で暮らすようになってからサツキとの夜の営みは……それまでの日々が嘘のようにパッタリと無くなった。同胞の同居人が大勢居るのを気にするサツキが拒むのだ)

ルシウス (新婚だというのに侘びし過ぎる)

ルシウス (我が家に居ながら人目を忍び、偶にこうして抱擁しながら口づけを交わすだけの悶々とした日々)

サツキ 「ルシウスッ、ダメッ!」

ルシウス (私を拒絶した!?)

サツキ 「その、後ろ……」

海未 ワナワナッ

海未 「あ、あの、……先生……」

ルシウス (見られたか。ウミが小刻みに震えてる)

海未 「失礼しました!」

ルシウス 「!?」

ルシウス (私が怒ると思って先に呪文を使ったのか!?)

ルシウス (私も使おう)

ルシウス 「シチュレーシマスタ」

海未 「いえ、私が悪いんです。失礼しました!」

ルシウス 「シチュレーシマスタ」

海未 「すみません、覗くつもりなんてなかったんです!」

ルシウス 「シチュレーシマスタ」

海未 「末永くお幸せに……ごゆっくりーッ!」

ルシウス (逃げるように走り去っていった)

サツキ (ごゆっくりって言われても……)

今日はここまで。
最近下ネタが多いのでそろそろ真面目な話書きます。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

>>236は以下の通り訂正
さつきの名は平仮名表記が基本。ルシウスの台詞や独白内のみカタカナ表記

ルシウス 「サツキ……」

さつき「ルシウス……愛してる」

チュッ チュパッ レロレロ

ルシウス (平たい顔族の少女達が我が家で暮らすようになってからサツキとの夜の営みは……それまでの日々が嘘のようにパッタリと無くなった。同胞の同居人が大勢居るのを気にするサツキが拒むのだ)

ルシウス (新婚だというのに侘びし過ぎる)

ルシウス (我が家に居ながら人目を忍び、偶にこうして抱擁しながら口づけを交わすだけの悶々とした日々)

さつき 「ルシウスッ、ダメッ!」

ルシウス (私を拒絶した!?)

さつき 「その、後ろ……」

海未 ワナワナッ

海未 「あ、あの、……先生……」

ルシウス (見られたか。ウミが小刻みに震えてる)

海未 「失礼しました!」

ルシウス 「!?」

ルシウス (私が怒ると思って先に呪文を使ったのか!?)

ルシウス (私も使おう)

ルシウス 「シチュレーシマスタ」

海未 「いえ、私が悪いんです。失礼しました!」

ルシウス 「シチュレーシマスタ」

海未 「すみません、覗くつもりなんてなかったんです!」

ルシウス 「シチュレーシマスタ」

海未 「末永くお幸せに……ごゆっくりーッ!」

ルシウス (逃げるように走り去っていった)

さつき (ごゆっくりって言われても……)

ルシウス (サツキには『この後ウミちゃんとニチブのケイコを付ける約束してるのにどんな顔して会えばいいのよ』と恨み節を言われた)

ルシウス (最早自宅に居るよりも、こうして公衆浴場に浸かっている方が落ち着く)

マルクス・アウレリウス 「先帝ハドリアヌス帝は帝国各地を行幸されることで……」

ルシウス (テルマエに浸かりながら話をしている相手が次期皇帝候補のマルクス・アウレリウス様だというのに)

マルクス・アウレリウス 「それは各地の属州に対し『自分達は帝国の一部である』と再認識させ、皇帝の権威を……」

ルシウス (こうしてマルクス様と会話する方が家より落ち着くとは皮肉なものだ)

マルクス・アウレリウス 「その代償としてハドリアヌス帝はローマを離れることが多く、元老院との確執……」

ルシウス (ここではシチュレーシマスタの呪文も不要)

マルクス・アウレリウス 「義父上は元老院との関係改善を急務とし……」

ルシウス (突然9人の若い娘達が降って湧いたように現れ、我が家は突然賑やかになった)

マルクス・アウレリウス 「元老院との関係改善に成功しても、その後に皇帝が行幸を頻繁に行えば従来に逆戻りです。そこで……」

ルシウス (これまでは私と妻のサツキと僅かな奴隷だけでの暮らしからいきなりの大所帯だ)

マルクス・アウレリウス 「帝国を束ねる新たな指標が必要です。私はそれをストア哲学に見出し……」

ルシウス (今の自宅は手狭過ぎる。かといって扶養家族が増えて物入りな今、広い家に引っ越すのは金銭的な問題が……)

マルクス・アウレリウス 「義父上も私の考えに賛同して下さりました。コスモポリタニズムに則る国政こそが……」

ルシウス (こういった会話についていけるのは若かりし頃アテネに修行にいった時の経験が大きい。アテネでは建築技術だけでなく多くを学んだ)

マルクス・アウレリウス 「その政の方針を記念式典の催し物で示したいのです」

マルクス・アウレリウス 「ついてはルシウス技師、この件を引き受けて頂きたいのです」

ルシウス 「畏まりました。全身全霊をもって務めさせて頂きます。……一つお聞きしてよろしいでしょうか?」

マルクス・アウレリウス 「どうぞ」

ルシウス 「アントニヌス陛下の皇帝就任記念式典にて開催される数々の催し物の一つとして、ローマと帝国内の異民族との融和に繋がるものを行いたい……」

ルシウス 「その企画立案から運営までを私が行うと」

マルクス・アウレリウス 「そうです。勿論必要な労働力と資金は此方で用意します。報酬も弾みます」

ルシウス 「有り難き幸せ。しかし、それ程の大役を何故私に?」

マルクス・アウレリウス 「ルシウス技師の独自な発想と行動力、そして帝国への忠誠心は先帝ハドリアヌス様の御代に数々の優れたテルマエを生み出しました。それを買っているのです。そしてもう一つ」

ルシウス (もう一つ?)

マルクス・アウレリウス 「民族の枠を超えた愛を成就されたルシウス技師こそこの件の適任者だと思ったのです」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

穂乃果 「ライブですか?」

さつき 「そう、ライブよ。新皇帝の就任記念式典でライブをやってみない?」

海未 「皇帝の就任記念式典となるとどの位の規模になるのでしょうか?」

さつき 「ローマのコロッセオが会場だから観客は5万人ってところね」

花陽 「ご、5万……」

凛 「ドーム球場並だよ」

にこ 「チャンスよ」

絵里 「まさか、話を受ける気?」

にこ 「あたり前でしょ。いきなりそんな大きなハコでライブ出来るなんて、やっぱりにこはここで時代の先駆者になる運命にこ」

希 「発声練習も頑張らんとなぁ。マイク無しでそんな大きな会場で歌うんなら」

ルシウス (平たい顔族の踊り娘達は二人返事で引き受けてくれた)

ルシウス (マルクス・アウレリウス様にテルマエで踊る娘達の話をしたらすんなり採用された)

ルシウス (9人の少女達は式典に向け練習を続けている。目標が出来たせいか生き生きしている)

ルシウス (マルクス様が目指されるコスモポリタニズム。しかし、人類は遍く地球市民であると元老院やローマ市民に説いたところでどうなるものでもない)

ルシウス (敬意は相手の長所を見つけることから生まれる。私が平たい顔族に一目置くようになったのは、彼らが優れた技術と発想を持ちながらそれに驕ること無く勤勉かつ親切で平和を愛する民族だからだ)

ルシウス (ローマ市民に彼女達の歌と踊りを見て貰う。その上で平たい顔族のことを知って貰う。ローマ人以外にも優れた民族が居ることを知れば頭の固い連中も考えを改めるだろう)

ルシウス (これから忙しくなるぞ)

伝令 「ルシウス・モディストゥスは居るか!?」

ルシウス (一体何だ?)

ルシウス (元老院に呼び出された)

ルシウス (仕事の依頼だろうか? 仕事があるのは嬉しいが、今は他の仕事を同時進行する余裕は無い)

アッティリアヌス 「ルシウス・モディストゥスだな」

ルシウス 「ハッ」

アッティリアヌス 「モディストゥス技師がヴェスビオスにて造ったテルマエの町、あれは素晴らしいものであった」

ルシウス 「有り難き幸せにございます」

アッティリアヌス 「ところでお主が今進めているという記念式典の催し物だが……」

アッティリアヌス 「蛮族の歌と踊りを会場で披露するというのは本当か?」

ルシウス 「どこでそれを?」

アッティリアヌス 「質問しているのはこっちだ」

ルシウス 「……確かに異民族の歌と踊りを披露する予定ですが、彼女達は蛮族などでは無く……」

セルギアヌス 「嘆かわしい!」

ルシウス 「!」

セルギアヌス 「何が楽しくて野蛮人の歌と踊りを見せられねばならんのだ? しかもよりによって新皇帝の就任記念式典でだ」

セルギアヌス 「モディストゥス技師にはローマ人としての誇りが感じられんな」

ルシウス 「!」

ルシウス 「恐れながら、私はローマ人であることに誇りを持ち、先帝ハドリアヌス様の御代より帝国に尽くして参りました」

セルギアヌス 「聞けばそなたは異民族を妻に娶ったそうではないか。愛人や娼婦なら兎も角、卑しい蛮族を正妻に迎えるなどど……」

ルシウス 「サツキは! ……我が妻は、蛮族などではありません……。妻も、妻の民族も、高い知性と豊かな発想を持ち、平和を愛しています」

アッティリアヌス 「平和……軟弱な発想だ」

セルギアヌス 「そもそも帝国における公用の行事に敢えてその異民族の踊りを行う理由は何か?」

ルシウス 「それは……」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

ルシウス (どこから話が漏れた? 式典の段取りを進める際にマルクス・アウレリウス様が元老院に話されたのだろうか?)

ルシウス (ここでマルクス様が仰ったコスモポリタニズム構想の話をするか?)

ルシウス (いや、この元老院議員達がマルクス様のお考えに賛同するとはとても思えない。それはマルクス様のお立場を悪くしてしまいかねない)

アッティリアヌス 「どうした、モディストゥス技師?」

ルシウス (よし、ハッタリでもいいから話しながら考える)

ルシウス 「新たなるサーカスの提供です」

アッティリアヌス 「サーカスだと?」

ルシウス (よし、食い付いて来た!)

ルシウス 「ハッ、サーカスでございます」

ルシウス 「帝国の維持には民衆の支持が必要不可欠です。そしてそれには市民への施しと催し物が大きく影響することは周知の事実であります」

ルシウス 「私はこれまでローマ人が見たこともない新たな催し物を開拓することで、民衆の帝国への忠誠心を高めることに微力ながら貢献したいのです」

ルシウス 「ローマ人にとって未知の物をと考えた結果、異民族の歌と踊りに目を付けました」

ルシウス 「私がこれまで見たこともない、そして見ていると元気になれるような歌と踊りです」

セルギアヌス 「そなたの帝国への忠義は分かった」

セルギアヌス 「勿論我らとて帝国、ひいては陛下の御身を案じておる。その思いはモディストゥス技師と同じだ」

ルシウス (ついこの間、故ハドリアヌス陛下の弾劾を決議しておきながらよく言う)

ルシウス (現皇帝陛下が元老院を説得出来なかったら、今頃ハドリアヌス陛下はローマ人の歴史から抹消されていた)

歴史抹消だっけ、くらいかけてたんだったか

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。
>>248 その通り神格化拒否と歴史抹消されるところでした。もしそうなってたら五賢帝という括りは無くなってたのかなあ。

アッティリアヌス 「どこの馬の骨とも知れぬ蛮族の歌や踊り、そのようなものが我らローマ人を魅了し、これまで長年闘技場で行われてきた剣闘士の殺し合いや罪人の処刑に取って代わるものとでも言うのか?」

ルシウス 「はい、数年のうちに彼女達の名は帝国全土に響きわたることでしょう」

セルギアヌス 「今一度聞こう、モディストゥス技師。その歌と踊りは従来の『パンとサーカス』にとって代わるものと断言出来るのだな」

ルシウス 「はい、お約束します!」

セルギアヌス 「ならば今回の式典で民衆にそれを見せて反響が大きければ今後の催し物として採用するというのはどうでしょう、アッティリアヌス殿?」

アッティリアヌス 「セルギアヌス殿!?」

ルシウス 「有り難き幸せ」

セルギアヌス 「但し!」

セルギアヌス 「元老院に対してそこまで言い切るのであれば失敗は許されん。分かっておろうな?」

ルシウス 「元より覚悟の上です」

セルギアヌス 「見上げた精神だ。……ならばもし失敗したら……」

セルギアヌス 「その踊り娘達を剣闘士にしてその者達同士で試合をさせるぞ」

ルシウス 「!」

ルシウス 「お待ち下さい! それはあまりにも――」

セルギアヌス 「その方は『覚悟の上』と言ったばかりではないか! 舌の根も乾かぬうちに言葉を翻すか!」

アッティリアヌス 「代々帝国を支えてきた元老院に一介のテルマエ技師が意見するなどおこがましい」

アッティリアヌス 「もしくはその娘達を素っ裸にして猛獣の前に放してみるか」

セルギアヌス 「クックック、アッティリアヌス殿も人が悪い」

アッティリアヌス 「さっきの奴の顔と言ったらなかったぞ」

アッティリアヌス「あの者、今頃はハドリアヌスや野蛮人に肩入れしたことを後悔しているであろう」

セルギアヌス 「しかし懸念すべき事案ではありますぞ。アッティリアヌス殿」

セルギアヌス 「あのルシウスという男、風呂造りにおいてはあのアポロドトスをも凌ぐ天才と言われています。それほどの審美眼の持ち主が推す物となると実際に人を惹きつけるのかもしれませぬ」

アッティリアヌス 「確かにヴェスビオスに奴が造ったテルマエの町は見事であった」

セルギアヌス 「バイアエにあるハドリアヌスの別荘もあの者の設計です。それはもう桃源郷のようなところでした」

セルギアヌス 「そして私が懸念しているのは、新皇帝がハドリアヌスの為に我々元老院を涙ながらに説得したことです」

アッティリアヌス 「ハドリアヌスを敬愛する皇帝の前で異民族がその就任を喜んで歌い踊るか……」

アッティリアヌス 「まあ、面白くはないですな」

殺される(懸念)

上の歴史抹消抹消とかはダムナティオ・メモリアエってやつであってるかな

>>253 あってますよ。
今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

セルギアヌス 「現皇帝は先帝と違って情に厚い。しかしながらハドリアヌスの政策を受け継ぐ気でいることは容易に想像出来る」

アッティリアヌス 「また領土拡大を諦め守りに徹するローマが続くのですか」

セルギアヌス 「現状維持は緩やかな後退に等しい。陛下が就任から日の浅い今こそ我ら元老院が陛下をお支えして……」

セルギアヌス 「強く誇り高きローマを築きましょうぞ、アッティリアヌス殿。その為には野蛮人の見世物など不要」

アッティリアヌス 「全くですな。もしその踊り娘共の人気が出たら異民族を付け上がらせる切っ掛けになる。あのテルマエ技師はそれが分かっていない」

セルギアヌス 「そうです。帝国は我らローマ人が管理運営してこそ滅亡を免れるのです」

さつき 「何てこと……」

ルシウス 「元老院がこのような手に出るとは思わなかったのだ」

ルシウス 「済まない」

さつき 「謝る相手が違うわ」

さつき (あの子達に本当のことなんて言えない。言ったらきっと萎縮してうまく行くものも行かなくなる)

さつき 「マルクス様は?」

ルシウス 「視察に向かわれて暫くローマには戻られないそうだ」

さつき 「出来るだけ早く相談しないと……最悪ライブの件は辞退してでもーー」

ルシウス 「諦めるのはまだ早い」

ルシウス 「陛下やマルクス様ならきっと助けて下さる」

さつき 「私だってあの子達が落ち込む姿なんて見たくないわ」

さつき 「でも意地を張っている場合じゃないわよ」

ルシウス (サツキ、私はお前が蛮族呼ばわりされたのが許せない。だからこそ退きたくないのだ)

さつき 「ありがとう、花陽ちゃん、凛ちゃん。お買い物付き合ってくれて」

花陽 「荷物持ち位しか出来ませんがそれでもお役に立ちたいんです」

凛 「真姫ちゃん誘ったら『そういうのは奴隷にさせればいいじゃない』だもん」

花陽 (今のモノマネ似てない)

凛 「まあ、真姫ちゃん作曲が大変そうだから仕方ないけど」

花陽 「この時代にある楽器を使うって前提だからこれまでと勝手が違うって言ってた」

さつき (色々考えているのね、この子達しっかりしてるわ)

さつき (私もしっかりしないと。この子達を守る為に)

行商人 「お嬢さん方、お安くしとくよ」

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました。

希 「えりち、ちょっといい?」

絵里 「ええ、いいわよ」

希 「あのな、最近ルシウスさんとさつきさんの様子がおかしいと思わへん」

絵里 「特には思わないわ」

希 「ウチらの扱いに悩んどる気がするんよ。それは当然なんやけど、赤の他人といきなり同居することへの戸惑いやウチらを巻き込んだことへの後ろめたさは最初からあったと思う。ただ……最近は悩みの種類が違う気がするんよ」

希 「カード無いからこういう時困るわ」

絵里 「考え過ぎよ、といいたいけど希が気にするのなら何かあるのかもね」

希 「思いあたることは考えたらキリがないし」

絵里 「例えば?」

希 「失礼な話、ウチらのせいで家計が火の車とか」

絵里 「それはあるかもね。3階立ての自宅だから結構裕福なんでしょうけど、人数が一度に9人も増えれば真姫みたいな家庭でもない限りそうなるでしょうし。……後はご近所からも色々噂されてるかもしれない」

絵里 「私分かるのよ。近所に『ガイジン』が引っ越して来た時の隣近所の反応」

希 「えりちがそれ言うたら重いわあ。まあでもさつきさん含めて10人もおったらなあ。それと……」

絵里 「何?」

希 「ここだけの話、最近二人とも欲求不満かもしれん」

絵里 「ちょっと、希ったら何言いだすのよ!」

希 「さつきさんもきっとルシウスさんにわしわしされたくて……」

絵里 「もう、そんな話しないで」

凛 「ただいまー」

花陽 「ただいま」

さつき 「ただいま」

ことり 「お帰りなさい」

絵里 「お帰りなさい」

凛 「行商のおじさんが魚勧めてきたけど断っちゃった」

さつき 「食べ物は買ったから次は日用品ね」

花陽 「またお出かけですか?」

さつき 「ええ。こういう時、車があると便利なのにね」

絵里 「私がお供します。凛と花陽は休みなさい」

さつき 「ありがとう、絵里ちゃん」

花陽 「うん」

凛 「気をつけてね」

ことり 「私もついていっていいかな? 衣装作りの為の布を探したいから」

さつき 「ええ、お水飲んだら3人で行きましょう」

ことり 「はい」

さつき 「ただいま……」

ことり 「エグッ、ヒック……グスッ」

絵里 「……」

希 「えりち!?……その髪」

穂乃果 「ことりちゃん?」

海未 「ことり、絵里、何があったのですか?」

さつき 「道を歩いてたら、男達がぶつかったって因縁つけてきたの」

ことり 「ごめんなさい、私のせいで……」

絵里 「ことりのせいじゃないわ。相手の方からぶつかってきたのよ」

穂乃果 「ことりちゃん、大丈夫?」

ことり 「……うん」

真姫 「一体何があったの? 絵里の髪は……」

さつき 「連中は手打ちの条件として彼女の髪を要求したの」

さつき 「ゲルマン人の綺麗な金髪は高値で売れるって……。ごめんなさい、私何も出来なかった」

希 「えりち、よう堪えたなあ。あんた立派や」

凛 (希ちゃんが絵里ちゃんを抱きしめてる)

絵里 「大袈裟ね、……髪なんてまたすぐに伸びてくるわ」

花陽 「酷い……」

海未 「警察に相当する機関は無いのですか?」

さつき 「警備隊はあっても私達異民族までは積極的に守ってくれないわ」

穂乃果 「そんな……」

さつき (まさか元老院が人を使って……杞憂であって欲しいけど)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

凛 「ただいまー」

花陽 「ただいま」

さつき 「ただいま」

絵里 「お帰りなさい……」

ことり 「……お帰りなさい」

凛 「今日は露店で肉と野菜買ってきたにゃ」

にこ 「さあ、にこにーのクッキングタイムよ」

さつき 「手伝ってくれるの? ありがとう」

にこ 「いいえ」

さつき 「?」

にこ 「ここはにこと絵里にお任せあれ。さつきさんはごゆっくり」

にこ 「行くわよ、助手」

絵里 「誰が助手よ! ちょっとどうしたの急に?」

トントントントントン

グツグツグツグツ

ジューッ

絵里 「私も料理するけどにこの手際のよさには負けるわ」

にこ 「あんたは妹と二人暮らしでしょ」

にこ 「作る料理の手間自体は人数が多少増えても大して変わんないけど、あたしの場合は弟や妹達の面倒見る合間で料理してたから。その分、時短に長けたのよ」

絵里 「時短か……。私、髪だけは短くなっちゃった」

にこ 「……絵里、聞いて」

絵里 「?」

にこ 「ことりがあんたの今の髪型に似合う衣装作るって言ってたわ。あの子をこれ以上悲しませたくなかったら、カラ元気でもいいから明るく振る舞いなさい。それから……」

にこ 「あんた、元がいいからショートも様になってんのよ! だから、自信持ちなさい」

絵里 「まさか、それを言う為に二人きりになろうとした訳?」

にこ 「悪い?」

絵里 (少しぶっきらぼうなにこの言葉。でもその言葉が冬に食べるボルシチのように暖かい)

絵里 (貴方の気持ちは伝わったわ)

絵里 「フフッ、ありがとう」

絵里 「伸びてきたら今度はツインテールに挑戦しようかしら」

にこ 「希と同じタイプならかまわないわ」

にこ 「いよいよローマでの初ライブよ」

ことり 「衣装も出来たし」

海未 「いきなりコロッセオは大き過ぎですし、まずはローマ市内の各地でライブをしながら知名度を上げましょう」

花陽 「この時代の人に受けるかなぁ?」

にこ 「勝算はあるわ、信じるのよ」

海未 「場所はルシウスさんが設計されたお風呂屋さんと聞きましたが」

穂乃果 「昨日下見とリハーサルで来た時はびっくりしたよ。ねえ、ことりちゃん」

ことり 「う、うん」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。
余談だが年明け1月3日にEテレでのラブライブ!劇場版放送が決定。

穂乃果 「あのお風呂ことりちゃんの昔のバイト先に似てたよね」

ことり 「うん、懐かしかった」

ことり (ルシウスさん、キュアメイドスパをモデルにお風呂屋さん造ってたんだ)

海未 「あっ」

穂乃果 「どうしたの、海未ちゃん?」

海未 「リハの時は営業時間外だったからお客様は居なかったですが……」

海未 「今日のライブはお客様が居る訳ですよね」

穂乃果 「うん」

海未 「風呂場ということは全員裸……」

希 「そこは開き直っていこ。海未ちゃんもルシウスさんの見たやろ?」

希 「それも元気な時の」

海未 「あれは不可効力です!」

ことり 「大丈夫だよ。私も慣れたから」

海未 「慣れてしまっていいのですか!? 私達嫁入り前ですよ!」

真姫 「前時代的ィ」

海未 「なっ!?」

穂乃果 「こっちが恥ずかしがってたら相手も恥ずかしがって見てくれなくなるよ」

凛 「こういう時は相手をジャガイモか何かと思うといいにゃ」

にこ 「駄目よ。ライブはきちんと観客の反応を見ながらーー」

海未 「反応!?」

にこ 「そういう意味で言ったんじゃないわよ!」

絵里 (この時代で初めてのライブが終わった)

花陽 「何とも言えない……」

にこ 「手応えは悪くない。観客も盛り上がり方を知らなかっただけ」

希 「初めてのライブでこれなら上出来やって」

真姫 「今回は楽団が居ないからアカペラでやるしかなかったけど、今後、楽団が付いたらもっと盛り上がるわ」

ほのか 「海未ちゃん大丈夫かな?」

ことり 「そっとしといてあげよう」

海未 (いっぱい見てしまいました。いっぱい見てしまいました。いっぱい見てしまいました。いっぱい見てしまいました。いっぱい見てしまいました。いっぱい見てしまいました)

海未 (形とか大きさとか色々個人差があるのですね)

市民A 「MUSAって知ってる?」

市民B 「ああ、風呂で踊るっていう最近話題の踊り子だよね、何て名前の踊りをするんだったっけ?」

市民A 「AMOR VIVOだよ」

市民B 「詳しいね」

市民A 「実はこの前見に行ったのよ」

市民B 「へえ、で、どうだった?」

市民A 「凄いよ、あんな歌も踊りも今まで見たことも聞いたこともない。流石ルシウス・モディストゥスが考えただけのことはあるよ」

市民B 「ルシウスってあの建築家の?」

市民A 「うん、あの人が有名になる切っ掛けになった魔女のテルマエでその踊りを見たんだ」

市民B 「お前魔女のテルマエ出来た頃からルシウス贔屓だったよね」

市民A 「うん、あの人の才能にいち早く気づいたのが自慢だよ。ただ……」

市民A 「青みがかった黒髪の踊り子がえらい表情が強張ってた。緊張してたのかもしれん」

市民B 「その顔が強張ってた子が一人で踊ってたの?」

市民A 「いや、全部で9人居たよ。一人はゲルマンと思うけど他の8人は見たこと無い顔立ちしてた」

市民B 「ところで複数だったらMUSAじゃなくてMUSAEじゃね?」

市民A 「あっ」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

凛 「ただいまー」

花陽 「ただいま」

さつき 「ただいま」

希 「お帰りなさい」

ことり 「お帰りなさい」

凛 「今日は行商人のお婆ちゃんが勧めてきた果物が美味しそうだったから買ってきたにゃ」

ことり (ライブをする度に反響も段々大きくなってきたし、皆の笑顔も増えた……良かった)

カキカキカキカキ

真姫 「あ、間違えた」

カキカキカキカキ

真姫 「アーッ、もう!」

真姫 「何でこの時代シャープペンと消しゴム無いのよ!」

凛 「真姫ちゃんただいま」

真姫 「あら、お帰り」

凛 「真姫ちゃん、はい、これ」

花陽 「さつきさんが、作曲で頭使うだろうから少し糖分取った方がいいって」

真姫 「ありがとう、早速頂くわ」

真姫 (カットフルーツ、さつきさんのカッティングかしら?)

パクッ

真姫 「……ちょっと癖があるわね」

花陽 「どう、音楽の方は?」

真姫 「新曲を作る余裕はないわ。今迄の曲をこの時代で使える楽器でどうアレンジするかで精一杯よ」

真姫 「私が書いた楽譜をさつきさんがこの時代の楽譜に書き直してくれるっていうからそれは助かるんだけど……」

花陽 「けど?」

真姫 「私あの人のことよく分からないのよ」

花陽 「よく分からないって?」

真姫 「東大大学院卒、ラテン語どころか英語、イタリア語、フランス語も堪能でおまけに美人」

真姫 「本当ならエリート街道真っしぐらの筈よ。実際ここに来るまでは東大で歴史教えてたんでしょ? しかも日舞の腕前は海未が裸足で逃げ出すレベル」

花陽 「キャリア聞けば真姫ちゃんが憧れそうな人だね」

凛 「でも性格は正反対にゃ」

真姫 「どういう意味?」

凛 「さつきさんはおっとりしてて真姫ちゃんはプライド高いにゃ」

真姫 「失礼ね!」

真姫 「そんな人がこんな原始人みたいな暮らしに満足してるのが分からないのよ」

凛 「原始人は言い過ぎだよ」

花陽 「さつきさんは好きな人と一緒に暮らす幸せを選んだんじゃないかな」

凛 「さつきさんにとってのルシウスさんは真姫ちゃんにとってのサンタさんみたいなものだよ」

真姫 「今度その話したら怒るわよ」

凛 (怖っ!)

真姫 「だって最初ビックリしたんだから」

真姫 「自分のオ○ッコで髪洗うなんて!」

花陽 「この時代石鹸はあるけどまだ普及してないんだってね」

凛 「この時代の人もきっと、デザート食べながらオ○ッコの話する真姫ちゃんに原始人呼ばわりされたくないにゃ」

真姫 「ウップ!」

凛 「今頃気づいて気分悪くなっても遅ーー」

真姫 「ヴェエエエッ!」

ビチャビチャッ、ビチャッ

花陽と凛 「!?」

真姫 「ウグウゥゥ! 痛……」

凛 「真姫ちゃん!? どうしたの!?」

花陽 「さつきさん呼んでくる!」

行商人のオババ 「これでよろしかったですか?」

男 「ああ、これが報酬だ」

行商人のオババ 「これであたしは商売を続けられるんですね」

男 「ああ、口外さえしなければな」

行商人のオババ (いくら脅されたとはいえ、こんなことしたくなかった……)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

花陽 「真姫ちゃん、急に吐いて……」

さつき 「これって……!?」

真姫 ガクガクビクビク

凛 「どうしよう!? 真姫ちゃん痙攣してる!」

希 「何があったんや!?」

ことり 「真姫ちゃん……!?」

さつき 「布を巻いた棒を噛ませて! すぐ戻るわ!」

花陽 「真姫ちゃん、デザート食べたら急に吐いて……」

さつき 「これって……!?」

真姫 ガクガクビクビク

凛 「どうしよう!? 真姫ちゃん痙攣してる!」

希 「何があったんや!?」

ことり 「真姫ちゃん……!?」

さつき 「布を巻いた棒を噛ませて! すぐ戻るわ!」

凛 「凛が余計なこと言ったから……グスッ」

花陽 「きっと凛ちゃんのせいじゃないよ」

凛 「でも!」

花陽 (さつきさんが戻ってきた)

さつき 「ちょっとどいて」

さつき 「真姫ちゃん、聞こえる? これ飲んで」

花陽 「それは?」

さつき 「解毒作用のある温泉水よ。私はこの後医者を呼んでくるわ。戸締りをお願い」

ルシウス 「マキの容態は?」

さつき 「今は眠ってるわ。お医者さんの話では数日安静にしてれば治るって。すぐに嘔吐したのと温泉水が良かったって」

ルシウス 「そうか……」

ルシウス (やはり湯の力は偉大だ)

さつき 「それから……」

ルシウス 「どうした?」

さつき 「……お医者さんの見立てでは毒を盛られてるって」

ルシウス 「毒だと!?」

ルシウス (まさか元老院の仕業か!?)

なかなか書き込めない。
今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

今気づいたが283は投下ミスです。 失礼しました。
飛ばして284から読んで下さい。

さつき 「……」

μ’s一同(凛除く) 「……」

さつき (無理も無いわね)

ルシウス (元老院め、私が気に入らないなら私だけを標的にすればいいではないか! こんな見下げ果てた連中が信用ならないから故ハドリアヌス陛下は元老院をアテにしなかったのだ。それとも私が服毒することを期待したのか?)

花陽 「凛ちゃんは真姫ちゃんに付き添ってます。皆で交代で付き添いしようって」

穂乃果 「さつきさん」

さつき 「真姫ちゃん食中毒だけど数日寝てたら治るってお医者さんは言ってたから」

花陽 「真姫ちゃん治るんですね。良かった……」

希 「ホンマに食中毒なんですか?」

さつき 「ええ」

希 「今日の真姫ちゃんといい、この前のえりちの件といい、ただごとやない。それにライブの時も、さつきさんと一緒にお出かけしてても目つきの悪い男の人がこっち見てることあるんです」

さつき 「21世紀の日本からこの時代に来たら治安や衛生面で不安を感じるのは仕方ないわ」

希 「それだけやない。さつきさん何か……」

希 「ウチらに言えなくて困ってることありませんか?」

さつき 「……」

さつき 「仕方ないわね」

さつき 「恥ずかしい話だし無責任なのは重々承知の上で言うけど」

さつき 「貴方達と暮らすようになってからやりくりが大変なの」

希 「それはすみません。ただ、それだけじゃなくて他にも何かあるんやないかと思うて」

さつき 「無いわ。この世界に来て不安になるのは分かるけど心配し過ぎよ。それに……」

さつき 「仮にあったとしてもプライベートまで詮索して欲しくない」

希 「さつきさん何か無理しとる。お願いです。さつきさんがーー」

さつき 「もういいでしょ? ……流石に甘やかし過ぎたかしら」

希 「さつきさん?」

さつき 「貴方達がここで不自由な暮らしをする羽目になった原因はルシウスにあるからこれまで多少のことは受け入れてきた」

さつき 「そして確かに真姫ちゃんの食べたフルーツは私が切ったわ」

さつき 「ただ、それが原因と言わんばかりに婉曲にあてこすりはあんまりじゃーー」

希 「そんな、誤解や!?」

さつき 「貴方達の間では先輩禁止とか言ってるけどそれは他所では通用しないわよ」

絵里 「待って下さい。希だって悪気があった訳じゃーー」

さつき 「そこまで言うなら今後の食事は主人と私が先に摂ります。それで安全が確認出来たら貴方達も食べなさい」

海未 「先生!?」

さつき 「日舞の稽古も暫くお休みにしましょう。お互いに頭を冷やす時間が必要だわ」

海未 「そんな、一方的過ぎます!」

穂乃果 「海未ちゃん、待って」

海未 「穂乃果 !?」

穂乃果 「さつきさん、お願いします。どうか考え直して下さい!」

さつき (皆いい子達ね……)

さつき (でも……)

さつき 「考え直す気はないわ」

ルシウス 「サツキ、大丈夫か?」

さつき 「ルシウス、私……」

ルシウス 「あの娘達と何を話した?」

ルシウス (何を言い争いしていたのだ?)

さつき 「今説明するわ」

ルシウス 「そうか……」

さつき 「後で希ちゃんにだけは謝って真姫ちゃんが毒を盛られてたことを話すわ。今日思ったけどあの子カンの良さがあるし、しっかりしてる。事情を知った上で上手く皆の調整役になってくれると思う」

ルシウス 「分かった。マルクス・アウレリウス様は今晩ローマに戻られるそうだ。明日掛け合おう。マルクス様のことだ。きっと力になって下さる」

さつき 「頼んだわ、ルシウス」

ルシウス 「任せろ。それからサツキが毒見をする必要は無い」

さつき 「ルシウス……」

ルシウス 「そういうことは奴隷にさせればいい」

今日はここまで。
尚、>>289 の2行目に以下の誤りがありました。失礼しました。

誤 μ’s一同(凛除く) 「……」
正 μ’s一同(真姫と凛除く) 「……」

別室にて眠っている真姫に凛が付き添っている設定です。
読んで下さった皆さんありがとうございました

マルクス 「よっ、色男!」

ルシウス 「私のことか?」

マルクス 「何言ってんの。美人のカミさんだけじゃ飽き足らず大勢の若い娘と一つ屋根の下で暮らしといて」

ルシウス 「……」

マルクス 「どうした? ルシウス」

マルクス (何を思い詰めた顔してる?)

マルクス 「ふーん、カミさんと喧嘩したねぇ……。その、食中毒になった嬢ちゃんは気の毒だったな」

ルシウス 「幸い、数日で治るそうだ。私としては妻や妻の同胞が今後食中毒にならないようにと思って言ったことだが……」

ルシウス 「そしたらサツキは『奴隷だって人間なのよ!』って言って……滅多に怒らないサツキが感情を露わにした」

ルシウス (マルクスには毒を盛られたことは話さないでおこう。そのことを伝えたらマルクスをも巻き込むことになるやもしれん)

マルクス 「まあ、夫婦と言ってもたまには喧嘩だってするさ。今日はカミさんに何か土産でも買って帰ればいいって」

ルシウス (サツキのコスモスポリタニズムは奴隷をも対象にするものだったのだ。私は知識として知っていてもコスモポリタニズムを実際には理解していなかったのかもしれない)

絵里 (ただでさえ真姫が寝込んでるのに私達とさつきさんとの間に亀裂が走った)

絵里 (希は大丈夫って言ってるけど……。こういう時こそ力になりたいのに)

花陽 「昨日、さつきさんとルシウスさんが喧嘩して、今朝起きたら奴隷さん達が皆居なくなってて」

花陽 「どうなっちゃうのかな、私達?」

ことり 「さつきさんとルシウスさんのことだがらきっと仲直りすると思うよ。海未ちゃんもまた日舞教えて貰えるって」

海未 「だといいのですが……あの時先生が突然希に対してあそこまで怒りをぶつけた理由が分からないのです」

穂乃果 「まあ、あの時希ちゃん結構喰い下がってたし、さつきさんだって機嫌が悪い時くらいあるよ」

凛 「ああいう頭が良すぎる人は一般人には計り知れない感覚があるのかも知れないよ」

海未 「同じ日本人同士でも中々上手くいかないものですね……」

にこ 「あんた達、何くつろいでんの?」

穂乃果 「にこちゃん?」

にこ 「奴隷が誰も居ないのよ。油売る暇あったらあんた達も家事しなさあい!」

今日はここまで
読んで下さった皆さんありがとうございました

穂乃果 (さつきさんは私達より先に食事を終えて自分の食器を洗ってる)

海未 (ルシウスさんが仕事を終えて帰宅するまでまだ大分時間があります)

ことり (この気まずい空気を何とかしたいけど話しかけられない)

花陽 (希ちゃんは務めて明るく振る舞ってる。さっきもさつきさんが食事を終えたと皆に伝えてくれたのは希ちゃんだった)

凛 (本当なら楽しい筈のごはんの時間が……あ、さつきさんがこっち来た……)

さつき 「ちょっとごめんなさいね」

にこ (後ろを通り過ぎるだけね)

穂乃果 (……)

穂乃果 「あの!」

さつき 「どうしたの、穂乃果ちゃん?」

穂乃果 「あの……やっぱり、こういうのってーー」

さつき 「昨日の話の続きならするつもりは無いわ」

穂乃果 「さつきさん、お願いします。せめて理由を聞かせて下さい」

穂乃果 「今、何ていうか家の中がギクシャクしてて、私達さつきさんと仲直りしたくて」

さつき 「それは私も同じよ」

穂乃果 「だったらこれからは食事一緒に食べませんか?」

さつき 「仲直りしたいのならそのことは蒸し返さないで」

絵里 「居候は場を弁えろということですか?」

さつき 「そんなつもり無いわ」

絵里 「穂乃果も言いましたが、気に入らないことがあるなら言って欲しいんです。何も言ってくれないとこちらとしても直しようがありません」

海未 「誰か食事中のマナーに問題があったのでしょうか?」

ことり 「誰も問題無かったと思うよ」

にこ 「にこにー以外はみんな大事なこと忘れてるわ」

凛 「大事なこと?」

にこ 「そうよ、今朝いきなり奴隷が居なくなったことと関係あるんじゃない?」

さつき 「……ウッ!」

花陽 (さつきさんが口を抑えた!?)

にこ 「その表情、確信を突かれたって顔ね」

にこ 「いくら東大出の頭脳でも、にこにーの名推理からは逃れられないわよ」

にこ 「さあ、奥さん! 洗いざらい吐いて貰いますよ」

さつき 「ウ、ウプ……」

さつき タッタッタッタッタッタッ

にこ 「……本当に吐きに行かなくても……」

海未 「何をしているのですか、にこ。先生の具合が悪くなるまで追い詰めるなんて」

希 「違う、毒や」

穂乃果 「また食中毒なの!?」

希 「食中毒やない! ホンマもんの毒や!」

絵里 「希、急に何をーー」

希 「皆、良う聞いてや。この前の真姫ちゃんは毒を盛られた」

花陽 「毒!?」

希 「今回も同じや。皆、さっき食べたもん全部吐くんや」

花陽 「トイレ2つしか無いよ。しかも1つは今さつきさんがーー」

希 「お椀の中でも、袋の中でもそこらへんの路端でもええ」

希 「死にとうなかったら一刻も早よ胃袋空にするんや!」

ことり (こんな真剣な表情の希ちゃん初めて見た)

ルシウス 「ただいま」

さつき 「お帰りなさい」

穂乃果 「ルシウスさん、お帰りなさい! 皆、ルシウスさんが帰って来たよ!」

ルシウス (今朝家を出た時とまるで雰囲気が違う。サツキも穂乃果も明るい)

ルシウス 「皆、どうした?」

ルシウス (皆集まってきた。一様に笑顔だ)

穂乃果 「みんないくよ、せーの」

μ’s一同 「GRATULATIO(おめでとう)!」

ルシウス 「え?」

さつき 「私、子供ができたの」

ルシウス 「……」

ルシウス 「やった、やったぞー!」

さつき 「それから……」

ルシウス (?)

さつき 「彼女達に全てを話したわ」

ルシウス 「そうか……」

ルシウス 「最後まで諦めずに最善を尽くそう。ただ、あまり無理をするな。お腹の子に障らないように」

希 「さつきさん、堪忍や。ウチおもいっきり『毒』って言うてしもうた」

さつき 「こちらこそ、他のみんなには秘密にしておいてって無理言ってごめんね」

にこ 「さつきさんのつわりを毒を盛られたと思いこんだ希が大騒ぎするなんて」

凛 「全部吐いたからきっと後でお腹空くにゃ」

海未 「先生は私達の為に毒味役を買って下さってた。それを私は『一方的』などと」

さつき 「その話はもう言いっこ無し。明日から日舞の稽古また頑張りましょう」

海未 「はい!」

さつき (結果論だけどお祝いムードの中で元老院の陰謀を話せたことで悲壮感が緩和された)

真姫 「で、これからのことはどうするの?」

花陽 「真姫ちゃん大丈夫?」

真姫 「本調子じゃないけど話する位なら。今は病気だ怪我だって言ってられないわよ」

さつき 「そのことだけどまず私がルシウスから話を聞くわ」

さつき 「ルシウス、マルクス様とは話せたの?」

さつき 「ルシウスから聞いた話をするわ」

さつき 「みんなにはティヴォリにある皇帝の別荘に住んでもらいます」

穂乃果 「皇帝の?」

海未 「別荘ですか?」

ことり 「凄そう……」

さつき 「ティヴォリには最近亡くなった故ハドリアヌス帝の別荘があるの。先帝の別荘内で毒殺なんてあったら騒ぎになるから元老院も迂闊に手出し出来ないでしょうし、大浴場も運動場もあるからライブの練習も出来るわ。護衛もいるしここより安全よ」

絵里 「それはありがたいですが根本的な問題、ライブに失敗したら剣奴にさせられる話は回避出来たのですか?」

さつき 「それは出来なかったわ。いざという時には政治的な手段を含めあなた達を守るけど、まずは催し物の成功を目指して欲しいというのが皇帝とマルクス・アウレリウスの回答だったそうよ」

ことり (そんな……)

花陽 「あの……」

さつき 「どうしたの?」

花陽「皇帝が元老院に命令出来ないんですか? 皇帝って一番偉いんじゃ……」

さつき 「今の皇帝は生れながらの皇帝じゃ無いのよ。前の皇帝の実子じゃないし、50歳過ぎてハドリアヌス帝の養子になるまでは元老院の一有力議員に過ぎなかったわ」

さつき 「皇帝の養子になる経緯も、先に皇帝の養子になった人が病死したことで順番が回ってきたから」

海未 「皇帝だからと言って絶対的な権力を持つわけではないのですね」

穂乃果 「海未ちゃんだって生徒会長の穂乃果の言うこと聞いてくれない時あるもんね」

海未 「それはあなたが生徒会の仕事で職務怠慢な時です!」

少し更新空いたが今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

さつき 「さらに先帝ハドリアヌスが亡くなった時に元老院はハドリアヌス帝の神格化拒否と歴史抹消を行おうとしたの」

凛 「よく分からないです、さつきさん」

希 「例えて言うと、にこっちが高校卒業してアイドル研の部長を辞めた後に……」

希 「残った部員が、OG名簿からにこっちの名前を消してハナからそんな人は部におらんかったことにするようなもんよ」

凛 「分かりやすいにゃ」

にこ 「何よ、その例え」

希 「冗談やって。にこっちが皆に愛されてるからこういうことも言えるんよ」

さつき 「その神格化拒否と歴史抹消を阻止する為に涙ながらに元老院を説得したのが今の皇帝よ。それも今回元老院に対して皇帝が強く出られない理由の一つなの」

にこ 「なる程ね、話が読めたわ」

希 「要するに棚ボタで跡継ぎになった新米皇帝は即位していきなり元老院に大きな貸しを作ってしもうた訳や」

絵里 「今は元老院にとって発言力を大きくする好機ということね」

真姫 「何よそれ……ふざけないで!」

真姫 「ローマ人同士の権力争いで私は毒盛られたの!?」

花陽 「酷い。どうして私達が命を狙われないといけないの!? ライブに失敗したら殺し合いしろなんてことになるの!? 」

花陽 「私達はアイドルをやりたかっただけなのに、グスッ……」

凛 (かよちん……)

ことり 「いざという時に恩赦とか出ないんですか?」

穂乃果 「ことりちゃんナイスアイデア!」

さつき 「それも断られたの。ハドリアヌス帝崩御の際に恩赦があったばかりだから頻繁に恩赦は出せないって」

穂乃果 「駄目かあ……」

絵里 「いっそのこと式典への参加を辞退した方が……」

海未 「確かにそれが一番無難ですが、それでは私達を皇帝に推薦したルシウスさんの立場が……」

さつき 「私達夫婦のことは気にしないで。貴方達の命の方が大事よ。それに……」

さつき 「ルシウスも私もあなた達を巻き込んだことを申し訳ないと思っているわ」

穂乃果 「さつきさん……」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

真姫 「私は嫌よ」

花陽 「真姫ちゃん……」

海未 「真姫、気持ちは分かりますがここは冷静に――」

真姫 「下を向いて生きるなんて真っ平よ。元老院が私達の邪魔をするなら私は連中を黙らせるだけの曲を作ってみせるわ!」

海未 「相手は元老院ですよ。国家権力と戦う気ですか?」

真姫 「パパが言ってた。『逃げることの楽さに慣れた人間は逃げ癖がつく』って。穂乃果だって一度逃げだしたことを後悔したからてμ'sに戻ってきたんでしょ?」

真姫 「やる前から諦めることなんかない」

穂乃果 「そうだね……やろう、みんな」

絵里 「ちょっと待って!? 今度は廃校どころじゃないわ。一歩間違えたら私達殺し合いさせられるのよ」

凛 「そうだよ、凛は死ぬのも殺すのも嫌だよ」

希 「ウチもそれには同意見やな」

希 「だからこそ式典でライブをしたほうがええと思うんよ」

絵里 「希?」

希 「仮にウチらが式典の参加を辞退して今後の活動を自粛してもそれで元老院が見逃してくれる保証は無い。むしろこのまま闇に葬られる可能性もあるっちゅうことや」

海未 「しかし戦って勝つ保証もありません」

希 「そこはまあ水かけ論になるわな。ただ見ようによっては今回のことはチャンスと思うとるんよ」

にこ 「チャンス? どこが?」

希 「さっきさつきさんがウチらを皇帝の別荘に住まわせる話をされた。ウチらはこの国ではどこの馬の骨ともしれん異民族や。ルシウスさんのコネがあったとはいえ、これは破格の待遇よ。そうでっしゃろ、さつきさん?」

さつき 「ええ、本来ならあり得ない話よ」

希 「つまり今回のことで皇帝とのパイプが出来た。ならばライブを成功させてこれから皇帝と仲良く――」

海未 「皇帝と元老院との権力争いに飛び込むつもりですか!?」

希 「争うつもりはないよ」

ことり (相変わらず茫洋とした人……)

希 「史実では今のアントニヌス帝は元老院と仲良く出来たんよ」

凛 「本当!?」

希 「そうよ、つまり今後皇帝と懇意になることでウチらと元老院の関係も改善される」

花陽 「でも今すぐって訳じゃないんでしょ?」

希 「そう、ただこれだけはみんなも考えて欲しい」

希 「ウチらがこの時代に来て結構な時間が経った。みんな頭のどこかで考えてるとは思うけど……」

希 「ウチらはもう元の時代に戻れんかもしれん」

絵里 「希……」

希 「ウチかて諦めとらんよ。でもその可能性を考えないといけない時期に来てると思うんや」

希 「いつまでも居候という訳にはいかん。生きる術が必要や。その時にこの9人で歌と踊りを仕事に出来たら素敵と思うんよ。それがウチの夢」

希 「それに元の時代のことを忘れへんように、音ノ木坂のことを忘れへんようにアイドル続けたいんよ」

にこ 「やるわ」

真姫 「にこちゃん?」

にこ 「この時代でナンバーワンアイドルになって歴史に名前を刻んでみせるわ!」

海未 「そんなにうまくいくでしょうか? 今もこうして命を狙われている以上、リスクを犯すのは……」

希 「今のウチらは例え殺されても文句も言えん立場や。それを帝国公認のアイドルになって大勢のファンが味方につけば元老院もウチらには簡単に手出し出来んようになる。何も元老院と張り合うことは無いんよ。排除するにはリスクが大きいと相手に思わせればええんや」

海未 「それは分かりますが……」

ことり 「どっちに転んでもリスクはあるよ。だったら私は好きなことをやってみたいな」

海未 「ことり……」

穂乃果 「それに海未ちゃんはまだいいよ」

海未 「どういう意味ですか?」

穂乃果 「仮にこの中で殺し合いになっても武道やってる海未ちゃんが最後まで生き残るよ」

パシィン!

穂乃果 (痛ッ!)

海未 「あなたは……私があなたを……あなた達を……」

海未 「殺せると思っているのですか!?」

穂乃果 「!」

海未 「ウッ……グスッ……」

ダッ! タッタッタッタッタッ

ことり 「海未ちゃん!」

凛 (海未ちゃん部屋飛び出しちゃった……)

さつき 「ことりちゃんは穂乃果ちゃんについてあげて。海未ちゃんは私が連れ戻すから」

真姫 「お言葉ですがさつきさんが間に入るの?」

さつき 「あの子は私の弟子よ。それに、たまには大人らしいことさせて頂戴」

久しぶりの更新ですが今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

海未 「ウゲェ……、ハァ、ハァ、ハァ……」

海未 「ウ、ウウ……」

さつき 「あら、あなたもおめでた?」

海未 「……先生」

さつき 「海未ちゃん」

海未 「先生、私……」

さつき 「悲しかったのね。ただ穂乃果ちゃんに悪意は無いわ。それはあなたも分かるでしょ?」

海未 「はい、分かっています。穂乃果は悪くありません」

さつき 「穂乃果ちゃんも少しデリカシー無かったし今の状況なら誰もがナーバスになってもおかしく無い。でも問答無用で手をあげるのは感心しないわ」

海未 「はい。私に穂乃果を責める資格はありません」

海未 「家を飛び出した後に思ったんです」

海未 「家族に会いたい。元の時代に帰って家族と一緒に暮らしたい。でも死んでしまったらそれも叶わない。もしライブに失敗して死ぬか生きるかの選択を迫られた時に果たして私は……」

海未 「仲間を、親友を絶対に手にかけないと言い切れるのかと」

海未 「胸に手を当てて自問自答して……」

海未 「断言出来ないんです。恐ろしいことを考えてしまう自分を振り払えないんです!」

海未 「切羽詰まった時こそ人間って本性が出るんですね。自分の醜さに文字通り反吐が出ました。……軽蔑……しますよね」

さつき 「いいえ」

海未 「どうしてですか!? 私は最低の人間ですよ!?」

さつき 「本当に最低な人間はそこまで葛藤しないわ」

さつき 「それに私もあなたと同じよ」

海未 「先生が……同じ? 私とですか?」

さつき 「ええ。家族の絆を大切にしたい、家族水入らずで一緒に暮らしたいという思いは当然のことよ。私も同じ。責められるものでは無いわ」

海未 「しかしその為に友達を殺めることになるかもしれないんです!」

さつき 「私だって家族か家族以外かの二者択一を迫られたら家族を選ぶわ」

さつき 「私、10歳の時点で両親が居なかったの」

海未 「先生!?」

さつき 「母とは死別、父はもっと前から居なくて。だから幸せな家庭を築くことへの憧れが人一倍強いんだと思う」

さつき 「だから今の幸せを絶対に失いたくないの。そしてあなた達にも幸せになって欲しい」

さつき 「このお腹の中の子が生きて、あなた達が死んでいい道理なんてない」

さつき 「一緒に歌って踊ることは出来なくても私はあなた達の支えになってみせる」

さつき 「だから海未ちゃんも諦めないで」

さつき 「現実から目を背けること無く精一杯足掻きなさい。現状を把握して分析して対策を立ててそれを実行する」

さつき 「諦めるのはそれからでも遅くないわ」

今日はここまで
そして>>321に以下の通り修正有ります。失礼しました

誤 真姫の台詞部分 「後悔したからてμ'sに戻ってきたんでしょ?」

正 真姫の台詞部分 「後悔したからμ'sに戻ってきたんでしょ?」

以上、読んで下さった皆さんありがとうございました

海未 「やる前から諦めるな、というのは分かります。それでも自分が怖いんです。希望が絶望に変わった時に自分が何をしでかすか……」

さつき 「大丈夫、あなたが思っている以上に勝算は十分にあるわ」

さつき 「元老院はあなた達のことを何も知らないのに対し、私達は歴史としてこの世界の行く末を知っている」

さつき 「さっき希ちゃんが言っていた、皇帝と元老院の融和に便乗すればいいという話も歴史を知っているからこそ思いつけるのよ」

さつき 「少なくともこの時代の歴史には私、自信があるわ」

さつき 「それに私の夫はこの時代でアポロドトスさんの次に有名な建築家よ。必ずあなた達の為に立派なステージを造るわ


さつき 「それだけじゃない。ローマ五賢帝のうち二人が私達の味方なんだから」

さつき 「今の皇帝は五賢帝の中で最も凡庸とされているけど決して暗君ではないわ。むしろ全盛期を過ぎたローマの実情を見極め、よく治めた人物よ。今は元老院に対して弱気なところがあるけど、マルクス・アウレリウスと共にきっと力になってくれる」

さつき 「それにあなたにはかけがえのない仲間がいるでしょ。何より彼女達のことも信用してあげなさい」

海未 「先生……」

さつき 「ただいま」

花陽 「お帰りなさい」

希 「お帰りなさい」

ルシウス 「サツキ、大丈夫か?」

さつき 「海未ちゃんのことならもう大丈夫と思う」

ルシウス 「そうか、良かった」

海未 「あの……穂乃果?」

穂乃果 「海未ちゃん……」

海未 「ごめんなさい! いきなりぶったりして!」

穂乃果 「まあ、私も悪気がなかったとはいえ海未ちゃんを傷付けるようなこと言っちゃったし」

海未 「穂乃果、私をぶって下さい」

穂乃果 「もういいよう、そんな気にしないでよ」

海未 「いえ、それでは私の気が済みません。……それとも……」

海未 「私は殴る価値も無い人間ということでしょうか?」

穂乃果 「いや、そういう訳じゃなくて……その……言い辛いというか……」

海未 「構わす言って下さい。今度は例え罵倒されても激昂しません」

穂乃果 「分かった」

穂乃果 「海未ちゃん、今ゲロ臭い」

海未 「ヴエエエエン!」

穂乃果 「ごめん、ごめんね海未ちゃん!」

真姫 「もう、なんであなたはそんなにデリカシー無いのよ!」

穂乃果 「でも誰かが教えてあげないといけないじゃん!」

にこ 「だからって言い方ってもんがあるでしょうが!」

穂乃果 「そんなぁ……。さつきさんならどうしてました?」

さつき 「私? 私だったら今の場合、さり気なくお風呂に入ることを促すわ。例えばお風呂に入ったら落ち着くよって言ったり」

希 「決まりやね」

絵里 「穂乃果と海未で仲直りにお風呂入ってきなさい」

穂乃果 「ウ……分かった」

にこ 「それじゃ二人がお風呂に入ってる間にクッキングタイムよ。おめでたい日だから豪勢にいくわよ!」

凛 「今日はご馳走にゃー!」

ことり 「海未ちゃん、お料理が出来るまでに穂乃果ちゃんとお風呂行ってきたら?」

海未 「はい……」

穂乃果 「行こう、海未ちゃん」

ことり (これできっと穂乃果ちゃんと海未ちゃん、仲直り出来るよね)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

にこ 「さあ、お料理出来たわよ」

花陽 (わああぁぁっ、美味しそう)

凛 (かよちん目が輝いてる)

花陽 (これでお米があったら……)

海未 「お風呂お先頂きました」

穂乃果 「お待たせ、おおーっ、ご馳走だ。エスカルゴもあるし本場のイタリアンって感じ」

さつき (この時代、まだイタリアって概念はないのよ)

にこ 「で、どうするの? 毒味」

真姫 「毒味っ!?」

にこ 「そうよ。この祝いの席でまさかルシウスさんやさつきさんに毒味させるつもりじゃないでしょうね?」

μ's一同 「ジャンケンポン! あいこでしょ!」

にこ 「やったぁ、一抜け!」

穂乃果 「アーッ! にこちゃん後出し!」

にこ 「何? 言いがかり?」

海未 「私も今のは後出しだと思います」

にこ 「あんたら仲直りした途端同調し過ぎじゃない?」

絵里 「流石に今のは露骨よ」

にこ 「アーッ、もう! こうなったらくじ引きよ、くじ引き」

凛 「自分でくじ作ってズルする気でしょ?」

にこ 「何でよ! だったらさつきさんにくじ作って貰うわ。それで文句無いわよね」

希 「ウソや、こんなんウソや……」

真姫 (まさか希が引くとはね)

希 「カードが、カードさえあればこんなことには……」

絵里 (そういえば希ってくじでハズレを引いたことが無いって言ってたわね)

ことり 「毒が入ってるとは限らないし、そんなに落ち込まなくても」

希 「ウチが気にしてるのは毒味することやなくて運が尽きとることや。ウチのアイデンティティが……」

海未 「気の毒ですがこればかりは恨みっこ無しということで」

穂乃果 「毒と気の毒をかけたの? 流石μ'sの作詞担当」

海未 「違います」

今日はここまで。
「毒味」と「毒見」のどちらが適切かという問題だがどちらも間違いではないようです。拙作では「毒味」で統一しました。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

確認したらルシウスには「毒見」と言わせてました。本当は直したいがどちらの言い方も有りということでそのまま読み進めて下さい。

穂乃果 (普段はティヴォリの別荘で練習し、ライブの時はローマに出掛ける日々。市内各所でライブを繰り返すうちに私達の知名度は少しずつ上がっていった)

穂乃果 (さつきさんのお腹が目立ち始めた頃にはライブは各地で好評となり、新皇帝就任記念式典に向け私達は手応えを感じていたけど……)

にこ 「今日という今日は言わせて貰うわよ! あんたこの時代に来て何回ライブやったと思ってんのよ!」

海未 「それはそうですが……」

にこ 「男風呂でライブする度にそんなんでどうすんのよ!?」

にこ 「いい加減オチ◯◯ンに慣れなさい!」

海未 「ストレート過ぎます!」

にこ 「ことりが作ったベールで顔を覆って視界をボヤけさせないと男風呂に入れないってこれからどうすんのよ?」

絵里 「式典はコロッセオで開催するからいいとして普段のライブでは問題よね」

にこ 「顔を隠してステージに上がるアイドルなんて聞いたこと無いわ。第一観てくれてる皆に失礼でしょうが」

海未 「はい……」

希 「にこっちの言ってることは尤もやけどただ責めるだけじゃ萎縮するよ。具体的に対策を立てんとね」

希 「みんな、何かええアイデアは無いやろか?」

真姫 「以前映画観た時にキスシーンすら正視出来なかった海未よ。対策っていっても……」

花陽 「やっぱり少しずつ慣れていくしか……」

ことり 「私も最初は凄く恥ずかしかったけどバイト先で日々見てるうちに慣れていったよ」

希 「定期的に見ることで文字通り見慣れるってことやね」

絵里 「でもそれならライブを繰り返すうちに自然と慣れる筈よ」

凛 「やっぱり知らない人だから緊張するってのがあるんじゃない?」

穂乃果 「そうだ!」

ことり 「何かいいアイデアが浮かんだの?」

穂乃果 「うん! 知らない人だから緊張するのなら……」

穂乃果 「海未ちゃんの為に毎日ルシウスさんに見せて貰おう!」

海未 「それだけは止めて下さい! 先生に合わせる顔がありません!」

海未 「あの……」

にこ 「何?」

海未 「にこはどうやって慣れたのですか?」

にこ 「にこは男風呂でライブする時はファンの皆を虎太郎だと思ってるわ」

海未 「なる程、いいことを聞きました!」

海未 「身内だと思えばいいのですね」

にこ 「呆れてものが言えないわ……」

海未 「……」

にこ 「途中でライブを放り出して逃げ出すってどういうつもりよッ!」

真姫 「駄目ェ!」

花陽 (真姫ちゃんが止めに入らなかったら……)

凛 (にこちゃん、海未ちゃんに掴み掛かってたね)

絵里 「一体どうしたのよ、海未?」

海未 「……身内が観に来てくれたと思えば緊張しないと思ったのですが……」

海未 「風呂場の男性を全員父だと思ったら……」

海未 「余計駄目で……ウウウ……グスッ」

穂乃果 「もういい、もういいよ、海未ちゃん」

海未 「穂乃果?」

穂乃果 「これも海未ちゃんの個性だよ」

海未 「穂乃果!? いつもあなたに厳しく接する私にどうしてそんな甘いことを」

穂乃果 「私思ったんだ。オ◯ンチ◯に慣れてしまう海未ちゃんって海未ちゃんらしくないなって」

穂乃果 「穂乃果は慣れてしまったけど無理することないんだよ」

ことり 「いっそのことベールを必須アイテムにしてしまうのはどうかな?」

花陽 「ベールを被ることでキャラ付けするってことですか?」

にこ 「あんたらおかしいわよ」

にこ 「アイドルは顔と名前を覚えて貰ってなんぼでしょうが」

凛 「覆面レスラーで人気ある人だっているよ」

希 「ものは試しやね」

にこ 「あんた達どうかしてるわ!」

にこ 「あんた達がやるのは勝手だけどステージで顔も晒せない相手と組む気なんか無いわ」

にこ 「とおぉぉぉっても不愉快よ!」

真姫 「ねぇ、海未自身はどういう方向に向かいたいのよ?」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

海未 「私はもっと強くなりたいです。しかし強くなりたいといっても男性恐怖症を克服したいだけなんです」

穂乃果 「海未ちゃんのは男性器恐怖症だね」

凛 (酷いツッコミ)

希 「海未ちゃん、これまで男の人の裸を見て動揺せんかったことは無いの?」

海未 「動揺しなかった時ですか?」

希 「そうや、よく思い出すんや」

海未 「動揺しなかった時……」

ことり 「思い出した」

穂乃果 「ことりちゃんが思い出したの?」

ことり 「うん、この世界に来る直前に露天風呂に現れたルシウスさんをみんなで捕まえようとした時の海未ちゃんは落ち着いてたよ」

希 「海未ちゃん、今の話はホンマ?」

海未 「はい、そういえばそうでした。私自身すっかり忘れてました」

希 「あの時平気やったのは何でやと思う?」

海未 「はい……きっと怒りが羞恥心を上回っていたからだと思います」

希 「ちゅうことは羞恥心を上回る感情を持てばええんや」

絵里 「海未、ダンスに思いを込めなさい」

海未 「ダンスに思いを……ですか?」

絵里 「そう、自分の思いをダンスに込めるの。理不尽にこの世界に飛ばされた不条理への怒り。望郷の念。ライブへの不安。死への恐れ。自らの理想と現実の相違への葛藤」

絵里 「それら全てを全身で表現するのよ。目の前の光景が気にならなくなる位に」

ことり 「気持ちを昂ぶらせて羞恥心を忘れさせるというのは分かるけど、海未ちゃんにそれをさせたら百面相になっちゃうかも」

絵里 「構わない」

にこ 「ステージは笑顔が基本よ。突拍子もない顔されても困るわ」

絵里 「それも考え様よ」

絵里 「シンクロ元日本代表の奥◯史子さんは現役時代『笑わないシンクロ』で世界を驚愕させたのよ」

海未 「『笑わないシンクロ』ですか?」

絵里 「そう。シンクロにおいてもアイドルのライブ同様、笑顔での演技がセオリー。しかし奥◯選手は女の情念や怒りを表情やしぐさで現した『夜叉の舞』をフリー演技で披露して、シンクロ世界選手権ソロ史上初の芸術点オール満点を達成、銀メダルを獲得されたわ」

海未 「シンクロ出身の絵里らしい発想ですね。ありがとうございます。ただ、やってみる前に相談したい人が……」

絵里 「分かったわ。しっかり考えなさい」

絵里 (そういえば奥◯さんが銀メダルを獲得したのは奇しくもローマでの世界選手権だったわ)

にこ 「まっ、きちんとやってくれさえすればにこから言うことは無いわ」

海未 「はい!」

絵里 「あと勿論、今の話は基礎体力や技術あっての話よ」

海未 「はい、練習も頑張ります」

さつき 「正直感心しないわね」

海未 「はい……」

さつき 「あなたも日舞やってるから分かると思うけど『顔で踊る』のは敬遠されるのよ」

さつき 「でも日舞でなくてライブなら有りかもね」

海未 「先生……」

ことり 「海未ちゃん、本当にベール無しで大丈夫? いざという時の為に付けるだけ付けておいた方がいいんじゃ……」

海未 「ことり、ありがとうございます。でも自分の中の甘えを断ち切りたいのです」

ことり 「うん、分かった。応援するよ」

穂乃果 「その意気だよ、海未ちゃん!」

海未 「はい、今日こそは踊りきって見せます!」

海未 (私はもう絶対に、男性器なんかに負けたりしません!)

市民A 「今日のAMOR VIVOどう思った?」

市民B 「キレッキレの動きしてた娘がいたな」

市民A 「俺も気付いた。気の強そうな娘だが、あの刺すような視線がたまらん」

市民B 「きっとベール被ってた娘と入れ替えで新規加入したんだろう。前居た娘は気の毒だが」

市民A 「そこは弱肉強食なんだろ。踊り娘の世界も大変だ」

今日はここまで。
そろそろ真面目な話書きます。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

セルギアヌス 「密偵の報告ではウミ・ソノダは復活を果たしたとのことです」

アッティリアヌス 「これではウミに揺さぶりをかける案は白紙ですな」

アッティリアヌス 「連中は普段ティヴォリに居るし、移動時や男風呂で歌う際も護衛が付いている。迂闊に手が出せん」

アッティリアヌス 「式典まで日が無いというのに……」

セルギアヌス 「いや、むしろここ最近あの者達に手が出せなかったのは好都合かもしれませぬ」

アッティリアヌス 「どういうことですか、セルギアヌス殿?」

セルギアヌス 「今頃連中は油断している筈です。式典当日自分達の催物の番まで何もなければ妨害は無いだろうと」

セルギアヌス 「その裏をかきましょう」

穂乃果 (覚醒した海未ちゃんがオ◯◯チンに初勝利した日、別荘に戻ってから皆でお祝いした)

穂乃果 (ワールドカップで南アフリカに勝ったラグビー日本代表のように海未ちゃんは讃えられた。これまでの海未ちゃんの苦悩を皆知っていたからだ)

穂乃果 (この記念すべき勝利はμ's改め私達MUSAIの結束をより強くし式典へのモチベーションを上げた)

穂乃果 (それから幾日か過ぎ、今私達は式典のリハーサルの為にコロッセオに訪れている)

穂乃果 (いよいよ明後日……)

花陽 「外からは何度か見たことあるけど中に入るのは初めてだよ、凛ちゃん」

凛 「うん、今日と明日がリハーサルで明後日が本番かぁ……」

花陽 「……凛ちゃん、絶対ライブ成功させようね」

凛 「うん!」

さつき 「入り口はこっちよ。さあ、入りましょう」

穂乃果 「うわぁー凄い、凄いよ!」

絵里 「これがコロッセオ内部……。ハラショー……」

海未 (穂乃果がはしゃぐのも無理はありません。ラブライブの最終予選会場が小さく感じます)

ことり (初ライブは学校の講堂だったのがここまでになるなんて)

にこ 「フン、にこにとっては来るべき時が来たって感じね。日本に居た場合よりもそれが少し早まっただけだわ」

希 (にこっち、足が震えてるよ)

真姫 (収容人数5万人のここが明後日満員になる。そして私達の命運が決まる)

凛 「何メートル位あるのかな?」

さつき 「高さ約50メートル、外周527メートルよ」

花陽 (暗記してるんだ)

絵里 「アーチ式構造で建物を支えているのは分かりますがこの時代に造られた建物が21世紀までよく原型を保ちましたね」

さつき 「この時代に使われたローマンコンクリートの賜物ね」

穂乃果 「ほら、見て見て! 真ん中にプールがある!」

さつき 「ええ、あれがあなた達のステージ」

さつき 「そしてルシウスの造ったテルマエよ」

ちょっと寝てしまった。
今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

凛 「ここお水出てるよ」

さつき 「こういった水飲み場がコロッセオ内部に100箇所以上あるのよ」

希 「ここら辺地上から結構高さがあるのに水が上がって来るんやね」

穂乃果 「ゴク、ゴク、ゴク、……フゥ、生き返った……。喉乾いてたから助かったよ」

海未 「あのプールがあった場所が地面ではなかったのですね」

さつき 「ええ、この地下の区画が舞台裏で控え室や倉庫も兼ねているの」

凛 「なんか動物園みたいな臭いするよ」

ライオン 「ガルルル……」

絵里 「キャアッ!?」

希 「えりち!?」

絵里 「ライオン!?」

にこ 「ライオンだけじゃない! カバや……ワニもいるわ」

希 「こっちはダチョウや。……みんな一頭から数頭ずつ檻に入れられとる……」

真姫 「そりゃ檻に入れとかないと逃げちゃうでしょう?」

希 「それはそうやけど」

花陽 (アルパカさんは居ないのかな?)

穂乃果 「分かった! 式典で動物のサーカスやるんだよ。穂乃果、世界史の授業で習ったよ。ローマ皇帝は『パンとサーカス』を市民に提供したって」

ことり 「穂乃果ちゃん、その『サーカス』ってのは催物一般を指す言葉で現代のサーカスとは意味合いが違うんだよ」

穂乃果 「そうだったんだ。じゃあこの動物達って……」

凛 「……まさか食べるの?」

にこ 「あんたの発想には負けるわ」

凛 「ガルルル!」

希 「かわええライオンさんやね」

海未 「猛獣狩り、ですね」

さつき 「そう、人間相手に殺し合いさせる為に集められたの」

花陽 「そんな、可哀想……」

真姫 「花陽、気持ちは分からなくもないけど今は動物の心配してる場合じゃないわ」

真姫 「下手したら私達も……」

花陽 「うん、分かってる……分かってるよ」

希 「えりち、顔色悪いよ。大丈夫?」

絵里 「ええ、大丈夫……」

キュラキュラキュラキュラ
カタカタカタカタ

希 「ステージに上がる為の人力エレベーターなんてよう造ったねぇ。しかもウチら10人いっぺんに乗れるんよ。ロープ巻き上げる奴隷さん達は大変そうやけど」

希 「さっきの水飲み場といいアナログでここまでやるって凄いわあ」

さつき 「そうね、このエレベーターを使えば地面から迫り上がるように登場出来るのよ」

希 「まるで歌番組でアイドルがステージに登場する時みたいですねぇ……ってウチらアイドルやったわ」

希 「……」

希 (アカン、話を合わせてくれるさつきさん以外誰も喋らんようになった……)

さつき 「ルシウス、助かったわ」

ルシウス 「助かったって?」

さつき 「このテルマエに入る直前……あの子達、落ち込んでたの。でもあなたが造ったテルマエでリハーサルしたら少し元気になったみたい」

さつき 「これまでのテルマエと比べて踊りやすいって」

ルシウス 「踊っていて転倒しないように浴槽の床を滑りにくくしている」

さつき 「そう……」

ルシウス 「そして事前に聞いた彼女達の要望を出来る限り取り込んだ」

ルシウス 「後は彼女達を信じよう」

さつき 「そうね」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

さつき 「みんなリハーサルお疲れ様、はい」

海未 「先生、ありがとうございます。皆の分は私が――」

さつき 「タオルは私が皆に渡すから自分の体を拭きなさい」

海未 「分かりました」

凛 「凛も欲しい」

さつき 「どうぞ」

凛 「ありがとうございます」

花陽 「リハ2日目、問題無く終了です」

真姫 「泣いても笑っても明日が本番。明日のライブ、成功させるわよ」

にこ 「当ったり前でしょ」

穂乃果 「さつきさん、どうされたんですか?」

穂乃果 (さつきさん、今感慨深そうな表情してた)

さつき 「え? ああ、あなた達の姿が眩しく見えて」

穂乃果 「眩しい……ですか?」

さつき 「ええ、とっても」

にこ 「そりゃあこのスーパーアイドル矢澤にこにーが眩しく見えるのは当然のことよ」

絵里 「きっとプールの水面が日光を反射したのね」

にこ 「なっ!?」

海未 「第一、私達から先生が眩しく見えてもその逆は考えられません」

にこ 「何っ!?」

真姫 「さつきさん、過度な謙遜はかえって皮肉ですよ」

海未 「真姫!」

さつき 「いいえ、謙遜なんかじゃない。あなた達は私が手に入れられなかったものを今持っているわ」

ことり 「さつきさんが手に入れられなかったものですか?」

さつき 「ええ、青春時代に同世代の仲間と一緒に同じ目標を力を合わせて叶えるという経験」

ことり 「さつきさんは部活や生徒会には入らなかったんですか?」

さつき 「部活は入ってたわ。私、高校生の時に部を創設したの」

花陽 「どんな部を創部されたんですか?」

絵里 (想像はつくけど)

さつき 「『古代ローマ研究会』って名前の部で活動内容は……名前そのままよ」

希 (意外性も何もないなあ……)

にこ (部活しても今の私達みたいになれなかったということは……)

さつき 「高校3年間の部活動の殆どが顧問の先生一人と私一人での活動だった。一人だけ入部希望者が居たけど私のせいですぐに辞めたわ」

真姫 「何があったんですか?」

にこ 「そこはスルーしなさい」

真姫 「えっ?」

にこ 「誰にだって触れられたくない過去はあるのよ」

さつき 「そこまで気を使わなくていいのよ、昔のことだし」

にこ 「いいえ、さつきさん。皆まで言うことなんてないんです。真姫、分かったわね」

真姫 「……分かったわよ」

にこ (きっと方向性の違いで辞めていったのね。去年や一昨年のアイドル研と同じ)

さつき (入部した男子に告白されてフッたのが原因なんだけど敢えて話すことも無いわね……)

さつき 「今のあなた達が置かれてる状況にはかける言葉もないし、その責任が私やルシウスにあることは本当に申し訳なく思っている。ただあなた達みたいな青春を送りたかったと思ったのよ」

凛 「さつきさんに羨ましがられるなんて凛達イイ女だね」

穂乃果 「さつきさん、今からでもμ 'sに入りませんか?」

さつき 「フフッ、大人をからかうもんじゃないわよ」

海未 「二人とも調子に乘るんじゃありません!」

希 「それに今はMUSAEよ」

穂乃果 「もー面倒くさい! μ'sのままで良かったのに」

にこ 「駄目よ。現地受けする為にラテン語にしたんだから。その為にラブライブもAMOR VIVOに言い換えたんだし」

海未 「歌は日本語で歌うとしてもせめて名前はラテン語にすると皆で決めたでしょう。今更我儘は無しですよ、穂乃果」

穂乃果 「はぁい」

穂乃果 (明日の記念式典でのライブで全てが決まる)

穂乃果 (絶対にライブを成功させるんだ!)

今年はここまで。
読んで下さった方々ありがとうございました。
来年からいよいよ記念式典ライブ当日の話になります。
皆さんよいお年を。

希 「立派なステージやね」

花陽 「はい、プールの大きさは長さ15メートル、幅18メートルの楕円形。一番広い部分は9人横並びに展開出来ます」

ことり 「プールだけじゃなくて支柱や彫刻も配置してるよ」

絵里 「よく考えたらこれまで既存のプールやお風呂で踊ったことはあっても私達のライブの為にプールが造られることはなかったわ」

穂乃果 「ルシウスさんがその気になれば会場全部プールに出来そうだけどね」

海未 「流石にそれは無理があるのでは」

さつき 「可能よ」

凛 「本当!?」

花陽 「ルシウスさんがそう言ってたんですか?」

さつき 「ルシウスが出来るというより元々このコロッセオに備わっている設備よ。地上の構造体や人力エレベーター諸々の設備を取り払ってから市内の水道を利用してコロッセオ全体を水で満たすの」

さつき 「そうすればここはオリンピックで使用するプール50杯分の水を湛えた巨大プールになるわ」

凛 「凄い」

希 「そういうところで泳いでみたいわぁ」

真姫 「何の為にそんな設備を?」

さつき 「軍船を実際に浮かべて……模擬海戦をするの……」

花陽 「それってやっぱり……」

さつき 「ええ、どちらかが全滅するまで戦うの……。ごめんなさい、今する話じゃなかったわね」

穂乃果 「気にしないで下さい、さつきさん」

穂乃果 「私達、絶対ライブを成功させますから!」

花陽 (コロッセオ地下の控え室に来たけど……)

ことり 「武器を持った人達が大勢いる」

絵里 「出番待ちの剣闘士ね」

凛 「武器は持って無くても凛達も同じ立場なんだね」

海未 「私達の武器は歌とダンスです」

にこ 「そうよ、これまでの練習で培ってきたものこそ私達の武器よ。後はそれを出し切るだけ」

真姫 「花陽、もうジタバタしても始まらないわよ」

花陽 「うん、分かってるんだけど……。真姫ちゃんは凄いね」

真姫 「いきなり何?」

花陽 「今だって落ち着いてるし、これまでだって楽団担当の奴隷さん達相手に音合わせして」

真姫 「あれはさつきさんが通訳してくれたから出来ただけよ。それに相手は奴隷だから基本こっちの言うこと聞くし。形の上では私達ルシウスさん直下のスタッフ兼キャストだから」

真姫 (それに怖いのは私だって一緒よ……)

ことり 「ルシウスさんってやっぱり凄いんだね」

海未 「何と言っても先生が見初めた方ですから」

さつき 「そろそろスタンバイよ。皆がステージに上がったら私とルシウスは観客席に移動して、そこでライブの成功を祈ってるわ」

さつき 「頑張って」

μ's一同 「はい!」

ルシウス (元老院が剣闘士の中に暗殺者を紛れ込ませることを警戒してここまで彼女達に護衛を付けてきたが、どうやら杞憂だったようだ)

穂乃果 「みんな行くよ」

ルシウス (平たい顔族の娘達が円陣を組んだ。その姿はまるで小さなコロッセオだ。だがこの小さなコロッセオがこれから巨大なコロッセオを舞台にその真価を発揮する)

ルシウス (全てのローマ人に告ぐ。この世界には我らローマ人に比肩しうる、いやそれ以上のテルマエ文化を築いた民族が居ると)

ルシウス (そして私は誇りに思う。私が最初に平たい顔族に出会ったローマ人であることを)

ルシウス (我が妻もその優れた民族の一人であることを)

ルシウス (間もなく私がローマ人と平たい顔族の両方の血を引いた子供の父親となることを)

ルシウス (MUSAEの娘達よ、お前達が妻の同族ならばここに集まったローマ人達を唸らせてみせろ)

ルシウス (かつて平たい顔族のテルマエが私を唸らせた時のように)

穂乃果 「みんな、ここだけ今まで通りでお願い。せーの!」

μ's一同 「μ's、ミュージックスタート!」

本日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。
今年もよろしくお願いします。

アントニヌス・ピウス 「これがAMOR VIVO……」

マルクス・アウレリウス (彼女達の歌と踊りは一度テルマエで観たことがある。私が来ることは彼女達には告げないようにとルシウス技師に話した上での視察だった)

マルクス・アウレリウス (あの時はやや照れが感じられたが、今はこの大舞台を前に堂々たるものだ)

海未 (身体が軽い、このような気持ちで歌うのは初めて)

ことり (ステージに上がった直後は満員の会場に面食らったけどもう大丈夫)

絵里 (全員の息もピッタリ合ってる)

にこ (きっと以前のライブを観てくれたファンの皆ね。ノリのいい歓声も聞こえるわ)

希 (集中出来てる)

穂乃果 (これならいける、いけるよ!)

ことり (ここで反転して後ろ向きに……あれは?)

花陽 (人力エレベーターが動いてる?)

真姫 (昇降機に乘ってるのは……まさか!?)

絵里 (ことり達、急に止まった!?)

にこ (ちょっと何やってんのよあんた達!?)

花陽 「ライオン……」

凛 (ライオン?)

花陽 「後ろにライオンがいる!?」

にこ 「何でライオンが居るのよ!?」

真姫 「考えるのは後! 逃げるわよ!」

希 「アカン! 前もや!」

ことり (前方の昇降機からもライオンが登ってきた!)

海未 (挟まれた!?)

観客A 「演目はAMOR VIVOっていう歌と踊りの筈だが……」

観客B 「サプライズの猛獣ショーかよ!? 粋な演出じゃねえか」

観客C 「いいぞ! 殺せ!」

観客D 「止めろおおお、MUSAEを殺すな!」

観客D (以前テルマエで見てから今日のAMOR VIVO楽しみにしてたのに)

観客E 「殺せ! 殺せ!」

アッティリアヌス 「どうやら時間を間違えた奴隷が、猛獣ショーで使う猛獣を昇降機で上げてしまったようですな」

セルギアヌス 「まあこういった催物にハプニングはつき物ですぞ」

アッティリアヌス 「勿論です。このまま猛獣による公開処刑に移行しても構わないでしょう」

アッティリアヌス 「要は市民を満足させればいいのですから」

アッティリアヌス (ルシウス・モディストゥスよ、お前の目論見もこれで終わりだ)

セルギアヌス (蛮族の無惨な末路をその目に焼き付けて後悔するがいい)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

穂乃果 「皆、プールの中央に集まって!」

海未 「逃げないのですか?」

穂乃果 「今から逃げたって追い付かれる」

穂乃果 「ライオンは身体が濡れるのを嫌う。本で読んだことがあるの。急いで!」

海未 (ライオンがプールサイドからこちらを窺ってます……)

真姫 (本当にプールに入って来ない……)

にこ (やるじゃない、穂乃果)

ライオン 「ガオゥッ!」

花陽 「ヒィッ!」

花陽 (怖い……)

凛 (凛、オ◯ッコ漏らした)

絵里 「グスッ……死にたくない」

希 (えりち……)

希 (プールの一番狭い部分が幅15メートル。全員が中央に集まれば一番外側の人間とライオンの距離は7メートル弱か)

希 (恐らくは餌抜きで空腹のライオンがいつしびれを切らすか)

希 (プールの水深は60センチ、ライオンが本気になれば入って来れる)

ことり 「穂乃果ちゃん?」

穂乃果 「大丈夫。ルシウスさんとさつきさんがきっと助けを呼んでる」

ことり 「気になったんだけど……ライオンは水が苦手って何の本に書いてあったの?」

穂乃果 「小さい頃読んだ絵本!」

海未 「何ですかそれは!?」

にこ 「ふざけんじゃないわよ! あんたの判断に賭けたのよ!」

希 「喧嘩しない! 結果的に助かってるのは穂乃果ちゃんのおかげ。後は穂乃果ちゃんの言う通り助けを待つよ」

凛 (標準語になってる……)

アントニヌス・ピウス 「いかん! 踊り娘達を助けよ!」

マルクス・アウレリウス 「近衛隊長、近衛兵及び会場の衛兵に指示を出してライオンを排除、踊り娘達を救助して下さい」

近衛隊長 「ハッ、畏まりました。弓隊、前へ!」

さつき 「みんなあああっ! 矢が来るわよおおっ!」

観客達 「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

一部の観客 「止めろおおお! MUSAEを助けろお!」

さつき 「駄目、ルシウス。会場の歓声や怒号が大きくてあの子達まで声が届かない!」

ルシウス (どうする、近くに石でも投げて注意を促すか? いや、仮に彼女達の注意をこちらに向けることが出来ても声が届かなければ意味が無い!)

ルシウス (矢文なんて書いてる暇は無い。身振り手振りでどこまで伝えられるか?)

ルシウス (最悪、私が囮になってライオンを……)

ルシウス (駄目だ! サツキを寡婦にするつもりか? それに私だって我が子の顔も見られずに死ぬのは……)

ルシウス (……)

ルシウス (本当にそれでいいのか?)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

ルシウス (私が平たい顔族の娘達を巻き込んだ)

ルシウス (それなのに私はあの娘達を見捨てるのか)

ルシウス (それはローマ人として正しい行いなのか)

ルシウス (いや、それ以前に人として正しいのか)

ルシウス (……)

ルシウス 「済まない。その槍と盾を貸してくれ」

衛兵 「何!?」

さつき 「待って!? ルシウス!」

マルクス 「馬鹿な真似はよせ!」

ルシウス 「私は彼女達を助けたい」

さつき 「それであなたに何かあったら私やお腹の子はどうなるの!?」

マルクス 「そうだ。それにお前が行くことはないだろ!?」

ルシウス 「私は……妻やこれから生まれる我が子にとって……」

ルシウス 「恥じることの無い夫であり父親でありたい!」

さつき (ああ、そうだ……)

さつき (この人はそういう人だ)

さつき (質実剛健で、不器用な位実直で自分に厳しい)

さつき (そして私はこの人のそんなところに惹かれた)

さつき (今ここで掴んでいる彼の腕を離すことなく……)

さつき (『情けなくても卑怯でもいいから私の傍に居て』と言えればどんなにか楽だろう……)

さつき 「ルシウス、一つだけ約束して」

さつき 「必ず生きて帰って来るって」

ルシウス 「ああ、約束する」

さつき 「ルシウス……」

マルクス 「こうなったら俺も付き合うぜ」

ルシウス 「マルクス!?」

マルクス 「心外だな。俺がお前に手を貸すのがそんなに意外か?」

ルシウス 「いや、そうではない。しかし……」

マルクス 「まあ、そう何でも一人で抱えこみなさんなって」

ルシウス 「済まない、ありがとうマルクス」

ワァー、ワァー、コロセーッ!
コロセ! コロセ! コロセ!

花陽 「この会場の雰囲気……」

凛 「まるで凛達が襲われるのを楽しみにしてるみたいだよ」

ことり 「ひょっとしてライブに成功したら助けるって話は嘘なんじゃ?」

真姫 「ルシウスが私達を売ったってこと?」

海未 「あの二人がそんなことをする筈がありません!」

真姫 「そんなの分からないじゃない!」

海未 「あんな生真面目な人が……。第一、先生が私達を見捨てる筈がありません!」

真姫 「あの人だってきっと自分の家族が一番大事よ!」

真姫 「私だって……パパとママに会いたいもん……ウウ……」

真姫 「パパ……ママ……助けて……お願い……」

海未 「真姫……」

海未 (二人きりの時に先生は『家族か家族以外かの二者拓一を迫られたら家族を選ぶ』と仰った。でも私は先生を……先生が選んだ人を……)

海未 (信じます!)

穂乃果 「今そんなこと言い争ってもしょうがないよ。それに元老院がルシウスさん達を騙したかもしれない」

にこ 「そう考えるのが一番妥当ね」

絵里 「うわぁーん、エリチカ、おうちに帰る……」

希 「えりち、大丈夫、大丈夫だから」

希 (どうすればこの状況を打開出来るか……生きる為に考えるんだ!)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

ワァー、ワァー、コロセーッ!

ワァー、ワァー……

ザワザワ……

シーン……

マルクス (静かになった? あれは!?)

さつき (貴賓席のマルクス・アウレリウスが立ち上がって両手を掲げている)

ルシウス (静粛にと民衆に訴えていらっしゃる……)

マルクス・アウレリウス 「皇帝はこれを望んでおられる!」

マルクス・アウレリウス (今です、サツキ殿)

さつき (ありがとう)

さつき 「みんなあああっ! そこに矢が降ってくるわああっ!」

さつき 「プールの底まで潜って、腹這いになりなさあああいっ!」

海未 「矢が!?」

穂乃果 「みんな潜って!」

ジャプン、ジャポン、ジャボン

ルシウス (全員がテルマエの水面から姿を消した)

さつき (矢が水中ではどの位勢いが減衰するかは分からないけど、水面から身体を出した状態よりはマシな筈)

さつき (お願い、あの子達には当たらないで!)

マルクス・アウレリウス 「近衛隊長、今です。ライオンに攻撃を」

近衛隊長 「ハッ、各弓兵は二頭のライオンのうち、自分に近い方を狙え! 弓隊、構え! ……」

近衛隊長 「放てえッ!」

ライオン 「ガォッ……」

ライオン 「グオォォ……」

ルシウス (結構な数の矢が刺さったがまだライオンは動いている)

近衛隊長 「弓隊、第二射、構え! ……放てえッ!」

穂乃果 「ぶぷあっ、ハァ、ハァ、ハァ」

ことり 「穂乃果ちゃん!」

穂乃果 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

真姫 「最後まで潜ってたのはあなたよ」

穂乃果 (ライオンは? みんなは?)

穂乃果 (居た! ライオン!)

ライオン 「グルル……ゼェ……ゼェ……」 

穂乃果 (もう、虫の息。ライオンが二頭とも沢山の矢が刺さって針山みたいになってる。可哀想だけど……)

海未 「穂乃果、希が……」

穂乃果 (海未ちゃん? その表情は……)

絵里 「希ッ!」

穂乃果 (今の声、絵里ちゃん! ……絵里ちゃんが希ちゃんを抱き抱えてる……)

希 「ヒュー……ヒュー……」

花陽 「希ちゃん……」

凛 「希ちゃん!」

穂乃果 (そんな……左胸に矢が刺さってる……)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

絵里 「希……しっかり……」

花陽 「……希ちゃんが死んじゃう」

絵里 「馬鹿なこと言わないで!」

花陽 「ヒィッ! ……ごめんなさい」

ことり 「ウ……、グスッ、希ちゃん……」

希 「そんな近くで……ヒュー……ヒュー……大声……出されたら……ヒュー……敵わんわぁ」

絵里 「希、きっとさつきさんが医者を呼んでくれてるわ。それまでの辛抱よ」

希 「ヒュー……ヒュー……その前にまだ……やらんといかんことがある……」

希 「ライブは……まだ終わっとらん」

絵里 「今は自分の心配しなさいよ! どうしてあなたはいつも……周りのことばかり……」

凛 「ウエエエン!」

希 「えりち、……みんなの中で1番最後にウチが加入した時、ウグッ!」

絵里 「希!?」

希 「ズキッてきただけ……あの時、ヒュー……ヒュー……ウチが何て言ったか……覚えとる?」

絵里 「忘れる訳が無いわ。『ウチを入れて9人』」

希 「そう、ウチを入れて9人。グッ! 痛……なのにこんな大事な時に……仲間外れはないわぁ」

絵里 「私だって希と一緒に歌いたいわよ!」

絵里 「でも、今は一刻も早く手当てするのが先よ! ライブが出来たってその後に万が一のことがあったら何にもならないじゃない!」

希 「これをラストライブにせんように」

希 「ウチは歌いたい」

希 「えりちと……μ'sのみんなと……ヒュー……ヒュー……」

希 「これからも……歌い続ける為に……」

希 「3年生が音木坂……ヒュー……ヒュー……卒業したら……μ'sはお終い。穂乃果ちゃん達下級生で、イッ! ……そう決めた」

絵里 「ええ、そうよ。私達3年生が卒業したらもうμ'sとは言えないって嬉しいこと言ってくれて……グスッ……」

希 「今なら思える。……9人でこの世界に来たのは……ヒュー……ヒュー……もう暫くの間μ's続けていいっていう……歌の女神様の思し召しだって」

希 「だったら……これからもきっと……9人でいられる」

希 「少なくとも……この世界にいる間は……」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

にこ 「希はプールサイドに寝かせてライブ続行するわよ」

にこ 「会場のみんなをあんまり待たせられないわ」

絵里 「あなた、この状況でよくそんなこと言えるわね……」

にこ 「さっきべソかいてた時とは別人ね」

にこ 「絵里、今のあんた、ライオンでも殺せそうな面構えだわ」

穂乃果 「待って! 喧嘩してる場合じゃないよ!」

希 「ウチはやるよ……肩貸して」

絵里 「希……」

海未 「私もにこに同意です」

絵里 「海未!?」

海未 「にこだってああ言ってますが本当は辛いんです」

海未 「通常のライブならここで中止も考えますが今回ばかりはそうもいきません」

海未 (思えば色んなことがありました……)





海未 「プールで踊るということは水着になるということですか?」

穂乃果 「うん、そうだね」

海未 「無理無理無理絶対無理です!」

ことり 「大丈夫だよ、海未ちゃん」




海未 「私達は廃校を阻止する為にプールアイドルを始めたんです!」

にこ 「プールアイドル? フン、下らないわ」

にこ 「にこが目指す正統派アイドルってのは可愛らしさと歌とダンスで勝負するものよ」

にこ 「水着前提ならグラビアに行けばいいじゃない」

にこ 「プールアイドルなんて不完全なパフォーマンスと不完全なグラビアの集合体に過ぎないの。分かる? 半端者の集まりよ」





絵里 「私に言わせれば最も実力があるとされるA-RISEですら素人にしか見えない」

海未 「あなたに……あなたにそんなこと言われたくありません!」





海未 「この動画は……?」

希 「これはえりちがシンクロやってた頃の動画。日本に来る前はウラジオストック代表にも選ばれとるんよ。当然オリンピックも目指しとった」

海未 「今は続けてないんですよね。どうしてですか?」

希 「コーチからドーピングを強要されてえりちはそれを拒んだ。そのせいでレギュラーから外された」

海未 「酷い……あんまりです! 生徒会長は何も悪くないじゃないですか!?」

希 「そうやね。世界は残酷だということを知るにはえりちは純粋過ぎた」

希 「きっとあんた達にも同じ思いをさせとうないんやろな」

海未 「傷が深くなる前に手を引けということですか?」





海未 (各々の考えの違いから衝突しながらも私達は一つになれた……)

さつき 「みんな!」

海未 「!」

さつき 「お医者さん連れて来たわ!」

海未 「先生! ルシウスさん!」

ルシウス 「大丈夫か!?」

ルシウス (客席から状況が見えていたから医者を連れて来たが、ノゾミの容態が気になる)

マルクス 「円陣組んでるな」

ルシウス 「ああ」

ルシウス (医者に診て貰ってる間、ノゾミの肌が客席から見えないようにとのことだろう)

マルクス 「6、7、……8人で組んでるということは中に3人、怪我した娘とお前のカミさん、それに医者か」

ルシウス 「マルクス、あまり向こうを見ないでやってくれ」

マルクス 「お、おう」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

医者 「幸い急所は外れている。胸に刺さったといっても内蔵はおろか肋骨にも届いとらん」

さつき (少しホッとしたわ)

医者 「但し、本格的な手当てをするなら以降歌も踊りも中止だ。傷が治るまではな」

さつき 「分かりました」

さつき (これを通訳しないと)

希 「このまま歌います」

絵里 「ちょっと、手当ては!?」

希 「ダンス無しで歌うだけなら……何とかなるやろ。……手当てはライブの後に」

真姫 「何言ってるのよ! 21世紀ならともかくこの時代なら破傷風で死ぬことだってあるのよ! すぐ手当てよ!」

さつき 「真姫ちゃん、歌わせてあげて」

真姫 「さつきさん!?」

さつき 「途中のアクシデントで時間が押してるの。歌えるのは後一曲」

真姫 「!」

希 「ならなおさら歌わん訳にはイカンね」

海未 「ここまで決して平坦な道のりではありませんでした。それでも私達9人は先生やルシウスさんの力を借りながらここまでやってきたんです」

海未 「この私達の命運を決めるライブこそ9人で、全員で臨みましょう」

穂乃果 「絵里ちゃん、真姫ちゃん、希ちゃんの願いを叶えよう」

絵里 「あなた達、自分が生き残りたいからって……」

穂乃果 「生き残りたいよ、全員で」

穂乃果 「途中から一人欠けたって言われて元老院に駄目出しされる訳にいかない」

穂乃果 「でもそれ以上に、最後まで一緒に歌えなかった悔しさやみんなに謝っても謝りきれない気持ちは……私分かるから」

ことり 「穂乃果ちゃん……」

穂乃果 「希ちゃんの場合、本人に何の責任も無いけど、それでも一緒に歌えないのはきっと辛いよ」

穂乃果 「私達の夢『みんなで叶える物語』の集大成としてμ'sの誰一人欠けることなくみんなで歌おう」

穂乃果 「歌は時空を超えて人と人を繋げるんだって会場のみんなに伝えよう」

絵里 「そうね……あなたの言う通りだわ。私は希の意思を尊重する」

真姫 「分かったわよ……」

花陽 「もう一曲頑張ろうね、希ちゃん」

希 「ありがとう」

穂乃果 「さあ、行くよ。私達の全てを出し切ろう!」

さつき 「あなた達の意思をお医者さんに伝えるわ」

さつき 「精一杯歌いなさい」

観客 「MUSAE! MUSAE! MUSAE! MUSAE!」

観客A (マジかよ……あの少女、胸に矢が刺さったまま歌いきった……)

観客B (なんて娘だ……)

観客C (さっきまでこの娘達がライオンに喰われるのを期待していた自分が恥ずかしい)

観客D (最後の曲は『NIX HALOS』だった。ここで聞けるとは……)

希 (みんなありがとう)

希 (季節外れの『Snow halation』、会場のみんなに届いたみたいやね)

穂乃果 「凄い……」

穂乃果 (何万もの人達が口々にラテン語の私達の名前を呼んでいる)

花陽 「本当の大歓声ってこうやって空から……シャワーみたいに降ってくるんだ……」

凛 「かよちん泣いてるにゃ」

真姫 「あなたもでしょ、凛」

花陽 「真姫ちゃんだって泣いてるよ」

ザワザワ……

シーン……

ことり (貴賓席の皇帝が立ち上がった)

さつき 「みんな、皇帝の方を向いて跪いて! 私と同じ姿勢を取ればいいわ」

穂乃果 (皇帝は私達のライブを観てどう思ったんだろう?)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

アントニヌス・ピウス 「素晴らしい歌と踊りではないか」

アントニヌス・ピウス 「そして9人全員で最後までよく頑張った」

アントニヌス・ピウス 「MUSAEの乙女達よ、そして彼女達を束ねたモディストゥス夫妻よ、大儀であった」

アントニヌス・ピウス 「そして皇帝の名において改めてその方達に命ずる」

アントニヌス・ピウス 「テルマエと歌と踊りをもってローマの、いや……世界の民を癒やし続けよ」

アントニヌス・ピウス 「そしてこれがAMOR VIVOというのなら……」

アントニヌス・ピウス 「余はAMOR VIVOを愛する者、AMOR VIVORになろう!」

観客 「ワアアアアッ!」

観客 「新皇帝、万歳! 新皇帝、万歳! 新皇帝、万歳!」

ルシウス 「勿体無きお言葉!」

真姫 (この大歓声……会場が一体化してる)

ことり 「これって認めて貰えたのかな……?」

凛 「きっと大丈夫だよ!」

さつき 「みんな!」

穂乃果 「さつきさん!」

さつき 「あなた達を讃えた皇帝に観客が賛同したわ」

さつき 「ライブは……成功よ!」

海未 「ウ、ウウ……先生……ウワアアン!」

さつき 「よく頑張ったわね……グスッ……」

ことり 「穂乃果ちゃん!」

穂乃果 「ことりちゃん、ウエエエン!」

にこ 「一時はどうなることかと思ったわ……」

真姫 「にこちゃん!」

にこ 「真姫!? いきなり抱きつく!?」

真姫 「怖かった……怖かったの……ウウウ……」

凛 「かよちん、凛達助かったんだよ……」

花陽 「うん……グスッ……夢みたい……」

凛 「夢じゃないよ!」

絵里 「希……私達……」

ガクッ バタリ

絵里 (跪いていた希がスローモーションのようにゆっくりと倒れ、地面に横たわった)

絵里 「希?」

絵里 (そんな……)

凛 (槍を持った兵隊さんが来た)

衛兵A 「こりゃあもう死ぬな」

衛兵B 「いずれにせよ陛下のご命令だから俺達は殺るだけだ」

衛兵A 「むやみに苦しませるよりも速やかにトドメを刺せか。皇帝も慈悲深いお方だ」

花陽 (何をするの……まさか!?)

衛兵AとB 「せーの!」

ブスリッ

花陽 「イヤアアアアアッ!」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

1です。
今更ながら以下の通り2箇所訂正有り。失礼しました。

>>305の1行目
誤 にこ 「その表情、確信を突かれたって顔ね」?

正 にこ 「その表情、核心を突かれたって顔ね」?

>>407の1行目
誤 医者 「幸い急所は外れている。胸に刺さったといっても内蔵はおろか肋骨にも届いとらん」?

正 医者 「幸い急所は外れている。胸に刺さったといっても内臓はおろか肋骨にも届いとらん」?

花陽 「今にして思えば……もっと早く出会ってたら希ちゃんと姉妹みたいになれたのかな」

絵里 「ここで眠っている希が聞いたらきっと喜ぶでしょうね」

ことり 「希ちゃんは、2年生が3人でプールアイドルを始めた頃から私達を気にかけてくれた」

海未 「一歩引いたところから私達を暖かく見守っている、そんな人です」

真姫 「合宿の時、人付き合いが苦手な私が人の輪に入れるよう、積極的に話かけてくれたわ。……こんな生意気な一年生に……」

凛 「しっかり物のお姉さんで、それでいて茶目っ気のあるところは遥か年下の女の子みたいな」

にこ 「あんたの人懐っこさが正直羨ましかったわ」

穂乃果 「コロッセオのライブで矢が刺さったまま最後まで歌い続けた希ちゃん、立派だったよ」

さつき 「なかなか出来ることじゃないわ」

絵里 「希、私は気付くのが遅かった」

絵里 「あなたが誰よりも勇敢だということを」






希 「そんなベタ褒めされたらかえって嫌やわぁ」

希 「まるでウチが死んだみたいやん」

絵里 「あら、起きたの?」

希 「病室にこんなにぎょうさん集まって会話されたら目が覚めるよ」

さつき 「ごめんなさいね」

にこ 「昨日は大変だったわ」

にこ 「倒れた希を見て取り乱す絵里に、兵士が傷ついたライオンに槍でトドメを刺すところを見て泣き叫ぶ花陽」

にこ 「ライブ成功から一転して修羅場よ」

花陽 「私、あの時凄くショックで……」

凛 「かよちんあの後ライオンに向かってお祈りしてたね」

花陽 「うん。食べる為に命を頂くのは仕方ないけど、殺し合いを見世物にするなんて間違ってる」

花陽 「私達だって怖かったけどライオン達だってきっと人間が怖かったと思うよ」

花陽 「人間に捕まって檻に閉じ込められて、きっと餌も満足に与えられずにお腹空かせて……。だから、せめて安らかに眠って欲しいって」

絵里 「そんなことがあったなんて知らなかったわ。私、希のことで頭がいっぱいで……」

花陽 「勿論希ちゃんのことも心配だったよ」

花陽 「さっき私が言ったことは本当だから」

希 「ありがとう、花陽ちゃん」

さつき 「起きたところ早速で悪いけど、しばらくしたらここにお客様が来るわ。希ちゃんのお見舞いとあなた達全員を労う為に」

希 「ウチのお見舞いって……もしかしてファンのみんなですか?」

さつき 「いいえ。皇帝の宮殿に簡単に一般人は入れないわ。ここに来るのはマルクス・アウレリウス。皇帝の名代としての訪問ですって」

ルシウス (ライブの後、コロッセオの控え室で応急処置を受けたノゾミはその後馬車で皇帝の宮殿に運ばれ、皇帝お抱えの医師の手当てを受けた。そしてそのまま我々は皇帝の宮殿で一夜を明かした)

ルシウス (昨日のライブからまだ一日しか立ってない。でもきっとこれからこの娘達を取り巻く世界は大きく変わっていくだろう)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

《以降のやりとりはサツキの通訳が間に入っているが、一部を除き通訳の過程は省略する》

穂乃果 (この人がマルクス・アウレリウス……)

絵里 (目の前にローマ五賢帝の一人がいるなんて……)

ことり (年は私達と同じ位かな)

真姫 (次期皇帝候補って言ってもちょっとハンサムな只の男の子じゃない)

ルシウス 「マルクス・アウレリウス様、病室までお越し頂きありがとうございます」

ルシウス 「怪我人が一名伏せておりますが何卒ご容赦を」

マルクス・アウレリウス 「気にしないで下さいルシウス技師。そして……」

マルクス・アウレリウス 「ルシウス技師、サツキ殿、MUSAEの皆さん、はからずもあなた方に辛い思いをさせました。帝国を代表してお詫びします」

ルシウス一同 (!?)

ルシウス 「マルクス様!? マルクス様は何も悪くありません。陛下もマルクス・アウレリウス様も我々の為に力を貸して下さったではありませんか!」

マルクス・アウレリウス 「元を辿れば昨日の式典での皆さんの催物は私の依頼によるもの。それが今回の事態を招きました。どうか許して頂きたい」

マルクス・アウレリウス 「そして困難を乗り込え、新皇帝就任記念式典にて素晴らしい催物を披露されたあなた方に感謝します。義父も喜んでおりました」

ルシウス 「有り難き幸せ……」

にこ (ズルいわよ)

にこ (文句の一つも言ってやりたかったけどこれじゃ怒るに怒れないじゃない……)

マルクス・アウレリウス 「喜ぶのはまだ早いですよ、ルシウス技師」

ルシウス 「?」

ルシウス 「恐れながらそれはどういう意味でしょうか?」

マルクス・アウレリウス 「皆さんに見て欲しいものがあります」

凛 (奴隷さん達が何か持って来た……あれは……瓦礫?)

真姫 (何なの、あのゴミは?)

マルクス・アウレリウス 「サツキ殿、この陶器の欠片に彫られた文字を彼女達に読んで聞かせて下さい」

さつき 「分かりました」

さつき 「読みます」



・今日聞いたNIX HALOS、一生忘れません。

・怪我した子が早く元気になりますように。

・痛みに耐えてよく頑張った。感動した!

・全ローマが泣いた。

・ローマ中の人間に言いたい。『MUSAE』の名を覚えよ。

・皇帝だけでなく僕も今日からAMOR VIVORです。

・エリ、同じゲルマン人として貴方を誇りに思う。



穂乃果 「これって……」

マルクス・アウレリウス 「式典で皆さんのAMOR VIVOを観た人々が彫ったものです。文盲に近い者は名前だけ彫っています。ここにあるのはほんの一部でパピルスに書かれた物もあります」

穂乃果 (この時代に来る前、神社に初詣に行った時に、沢山の絵馬が掛けられていたのを思い出す)

穂乃果 (みんなの想いが、願いが、伝わって来る)

穂乃果 (ありがとう、みんなの想い受け取ったよ)

穂乃果 「みんな!」

ことり 「穂乃果ちゃん?」

海未 「穂乃果?」

穂乃果「分かったよ。ここでも出来るって!」

花陽 「出来るって……何が?」

穂乃果 「みんなで叶える物語!」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

穂乃果 「この世界に来てから、ファンのみんなの想いを、気持ちを聞くことが出来なかった」

穂乃果 「ネットやメールも無いし、そもそもこの時代の言葉が分からないからどうしようもないと思ってたけど……そんなことない!」

穂乃果 「これでライブを観てくれたみんなの気持ちを知ることが出来るって分かったんだ」

穂乃果 「これからはみんなの願いを、想いを受け取めて、それを出来るところから反映させたアイドル活動をしていこう。ね、みんな?」

絵里 「そうね、以前穂乃果と二人で話した時に『ファンのみんなのことはあまり考えてなかった』って話をしたわ。それなのに私ったら……」

絵里 「特にここ最近はライブを成功させようって思いばかりでファンのみんなへの意識が無かった」

絵里 「これからはファンのみんなのことも考えていきましょう。音楽やダンスは民族や時代を超えて人を繋げることが、改めて分かったから」

花陽 「そうだよね、沢山の人達が私達のライブを喜んでくれたんだもんね……グスッ……」

凛 「相変わらずかよちん泣き虫だね」

にこ 「……フン、みんな気付くのが遅いわよ」

穂乃果 「胸のつかえが取れた気持ちです。ありがとうございます、マルクス様!」

マルクス・アウレリウス 「喜んで貰えて何よりです」

マルクス・アウレリウス 「皆さんとAMOR VIVORが触れ合える場を考えていきましょう。私もAMOR VIVORの一人として協力します」

真姫 (嘘? もうマルクス・アウレリウスと打ち解けてる!?)

ことり (これが穂乃果ちゃんの凄いところだね)

海未 「せっかく盛り上がっているところ水を差してしまいますが、一つお聞きしてもいいでしょうか?」

マルクス・アウレリウス 「いいですよ」

海未 「皇帝陛下は私達のライブを賞賛されました。私達もライブは成功したと思っています。これで元老院は手を引いてくれるのでしょうか?」

マルクス・アウレリウス 「引きます。皇帝たる我が義父が元老院に対してこれまで弱腰だったのは、昨日までの帝国内でのあなた方の立場の問題です」

マルクス・アウレリウス 「長年帝国内にて皇帝に次ぐ国の要にあった元老院とあなた方を比べれば、義父上としても元老院に重きを置かざるを得ません」

マルクス・アウレリウス 「義父上も私も周囲が納得する理由が出来るまでは表立ってあなた方を擁護出来なかったのです」

ことり 「私達が『パンとサーカス』の代わりになれることがその理由だったんですね」

マルクス・アウレリウス 「そうです。国益になるから今後もAMOR VIVOを続けるようにと勅命を下した、という建前が必要でした」

真姫 「何よそれ? 皇帝は建前で私達のファン宣言したの?」

さつき (この子の言葉は敬語込みで訳さないと)

マルクス・アウレリウス 「いいえ。義父上はあなた達の歌と踊りを気に入ってます」

穂乃果 「ありがとうございます!」

海未 「ありがとうございます」

マルクス・アウレリウス 「話を戻します。もし今後元老院があなた達の活動を妨害したりあなた達に危害を加えるならば、それは義父上があなた達に出した勅命を元老院が蔑ろにしたことになります」

マルクス・アウレリウス 「それに皇帝だけでなく今や多くの市民を味方につけた歌姫達を無理に排除すれば元老院は敵を増やしてしまう」

マルクス・アウレリウス 「それでも元老院が何か企むようなら私もAMOR VIVORとして黙っていませんが、最早元老院はあなた達に手出ししないでしょう」

ルシウス 「サツキ」

さつき 「ルシウス、これでひと安心ね」

ルシウス 「ああ……良かった」

マルクス・アウレリウス 「そちらの方、傷は痛みますか?」

希 「?」

マルクス・アウレリウス 「もう少し皆さんと話したいところですが公務が立て混んでいるのでそろそろお暇します。日を改めて皆さんと再会しましょう、お大事に」

希 「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です。そして皇帝侍医の先生から治療を受けられるよう図って頂きありがとうございます」

穂乃果 「希ちゃんが普通に標準語で話してるよ……」

海未 「穂乃果、会話に割って入ってはいけません」

希 「ご心配でしたら手術の跡をお見せします」

絵里 「希!? 怪我の場所が場所なんだから」

さつき 「希ちゃん、今のは訳さないわよ」

今日はここまで。
今日は風呂関連のSS多く、触発されて自分も更新しました。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

マルクス・アウレリウス 「それからルシウス技師」

ルシウス (?)

マルクス・アウレリウス 「これだけは言わせて下さい」

マルクス・アウレリウス 「あなたは元老院の問いに対し有言実行を成したのです」

マルクス・アウレリウス 「彼女達の歌と踊りが『パンとサーカス』の代わりに成り得ることを証明したのです」

マルクス・アウレリウス 「それだけではありません。人種や民族を超えて人は分かりあえる。私は昨日、その可能性を感じました」

マルクス・アウレリウス 「あなたの慧眼と熱意がローマに変革をもたらすきっかけとなったのです。素晴らしい」

ルシウス 「いえ、自分一人の力では……」

ルシウス 「昨日の催物が成功したのは陛下とマルクス・アウレリウス様のお力添えと、我が妻や友の支えと、MUSAEの娘達の頑張りと……」

ルシウス 「湯の力です!」

マルクス・アウレリウス 「相変わらず謙虚ですね。そこがルシウス技師が先帝に重用された一因かも知れません」

マルクス・アウレリウス 「これから忙しくなると思いますが皆さんよろしくお願いします。我々が手を取り合えば帝国はAMOR VIVORの理想郷となるでしょう」

神でも
自然でも
為政者でもない
新たなる崇拝の対象の降臨

こうして9人のうら若き乙女達は
人類史上初のアイドルユニットとして
活動を続けることとなった

希 「おおきに、にこっち」

にこ 「あんた怪我人なんだから気にせず安静にしてなさい。それにあんたの看病はμ'sの皆で交代でやってるから全然負担にならないわ」

にこ 「むしろ家に居たら家事があるから宮殿の中であんたの相手してる方が楽なのよ」

希 「元気になったら家事頑張るわ」

にこ 「その必要は無いわ、多分」

希 「……それってどういう意味なん?」

にこ 「まだ誰も雇ってないけど……この前のライブ以降、奴隷希望者が殺到してるのよ」

希 「おおきに、にこっち」

にこ 「あんた怪我人なんだから気にせず安静にしてなさい。それにあんたの看病はμ'sの皆で交代でやってるから全然負担にならないわ」

にこ 「むしろ家に居たら家事があるから宮殿の中であんたの相手してる方が楽なのよ」

希 「元気になったら家事頑張るわ」

にこ 「その必要は無いわ、多分」

希 「……それってどういう意味なん?」

にこ 「まだ誰も雇ってないけど……この前のライブ以降、奴隷希望者が殺到してるのよ」

>>434>>435が間違えて連投になってしまいましたが今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

希 「応募者が多いのはありがたいけど迂闊に雇えんね」

にこ 「そこは同意だわ。ヘタに雇ったら夜這いかけられるわよ」

希 「それに応募者に元老院の息がかかってる人間がおったら……」

にこ 「そっちの心配?」

希 「疑いだしたらキリ無いのは自分でも分かっとるけど……。ただ元老院がウチらのこと諦めたかはまだ分からんよ」

にこ 「まあね。でも今は皇帝の庇護がある分、以前より遥かにマシだわ」

希 「うん、皇帝とマルクス・アウレリウスに感謝せんとね」

にこ 「ただ、こうしてあんたと二人っきりになれて良かったわ」

希 「夜這いかけるにはまだ日が高いよ」

にこ 「なら夜ならいい?」

希 「にこっちが男の子だったら」

にこ 「それは無理にこ。同じ顔でいいなら虎太郎が大人になるのを待つといいにこ」

希 「にこっちも虎太郎君も可愛いけど顔で選ぶ訳やないよ」

にこ 「じゃあ決め手は……いや、そろそろ真面目な話するわ」

希 「真面目な話?」

にこ 「そう、あの日……コロッセオでライブした日……」

にこ 「矢が飛んで来る前にさつきさんは『プールの底に潜って腹這いになりなさい』って言った。あんた、言われた通りにしたの?」

希 「どうしたん、急に?」

にこ 「答えて」

希 「うん、したよ」

にこ 「だったら変よ。腹這いになって胸に矢が刺さるなんて」

にこ 「さつきさんに聞いたわ。医者が何て言ってたか」

にこ 「矢は左胸の上からほぼ垂直に刺さってて、仮にもっと深く刺さったとしてもそのまま下乳に抜けていただろうって」

にこ 「見事に急所を外れてる」

にこ 「希、あんた……」

にこ 「水中に居る間に自分で刺したんじゃない? プールに落ちてた矢を拾って」

希 「動機は?」

にこ 「にこはμ'sが結成される前からアイドルを目指してきたから分かる。アイドルとして大勢の人間に認められるのがどんなに大変なことか」

にこ 「ましてやアイドルという文化自体が無いこの時代にそれを叶えるのは容易じゃない。『みんなで叶える物語』って言ってもその『みんな』を集めるのが一番難しいのよ」

にこ 「事前にライブを重ねても観てくれた人は知れてる。ネットで動画配信も出来ない」

にこ 「殆どが初見の会場の皆の気を引く為にあんたは……」

にこ 「怪我をしながらも健気に歌うヒロインになろうとした、違う?」

にこ 「言葉や人種が違う相手でもこれなら感動させられるわ」

今日はここまで。
昨日書いてて寝落ちした。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

希 「そぉかぁ……」

希 「こればっかりはにこっちが分からんかったとしてもしょうがないわぁ」

にこ 「何よ?」

希 「ウチの場合、プールの底に胸を押し付けたら」

希 「圧迫されて行き場を無くした胸の肉が上ないし横方向に溢れるんよ」

にこ 「!?」

希 「あの時は上方向に胸を持ち上げてから腹這いになったらそこに矢が刺さった」

希 「だからにこっちの推理はハズレ」

にこ 「クウゥッ……。何よ、その勝ち誇った表情は」

希 「人様の怪我を自作自演って言ったお返しよ」

希 (堪忍やにこっち)

希 (ホンマは動機も状況もにこっちの推理通り)

希 (でも真相は一番仲良しのえりちにも話せん)

希 (μ's最大のライブが成功した原因が自作自演の怪我なんてみんなには口か裂けても言えへん。生き残りたいが故にウチが犯した罪は、みんなで正々堂々一生懸命に頑張ってきたアイドル活動に対する冒涜)

希 (一生痕が残るであろう左胸の矢傷は、罪人の証としての刻印)

希 (みんな、本当にごめんなさい)

にこ 「悪かったわよ」

希 「……何で謝るん?」

にこ 「希の怪我のこと誤解して非道いこと言ったから。さっきあんた悲しそうな表情に変わったわ」

にこ 「あたしは、仮にあたしの推理が当たってたらあんたが一人で抱え込んでないか心配だったのよ。だから二人っきりの時に聞いたの! 本当よ」

希 「にこっちは優しいわあ……」

にこ 「ちょッ、今度は何泣いてんのよ!?」

にこ 「情緒不安定になってもこの時代心療内科とか無いわよ」

にこ 「寂しかったら他のみんなも連れて来るわ。だから元気出しなさい」

にこ (希がさめざめと泣いてる……)

ギュッ

希 「にこっち?」

にこ 「以前みんなで海を見に行った時に、希はあたしをこうやって抱きしめてくれた」

にこ 「あの時、泣かないって決めてたのに涙が止まらなかった」

にこ 「今度はにこにーが抱きしめる番」

にこ 「泣いて貰うんじゃなくて落ち着けるように」

希 「余計……泣いてまうわ……」

にこ 「弟や妹達が泣くとこうして抱きしめて慰めてた」

にこ 「こうやって頭を撫でているうちに眠っていた」

にこ 「少し休みなさい。目が覚めるまでここに居るから」

希 「うん……ありがと……」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました。

絵里 「希、迎えに来たわ」

希 「ありがとう、えりち」

希 「去年はえりちが家に誘ってくれなかったら独りぼっちのクリスマスになるとこやった」

希 「今年のクリスマスはみんなで過ごせるんやね。クリスマスまでに自宅療養の許可が出て良かったわぁ」

絵里 「そうよ、今宵はμ'sのみんなで一緒に……」

絵里 「希の快気祝いを兼ねたクリスマスパーティよ!」

絵里 「他のみんなは今、料理や飾り付けの準備してるから迎えに来られなかったの。だから気にしないで」

絵里 「みんな、希が帰って来るのを楽しみにして、喜んで貰いたくて張り切ってるわ」

希 「うん、ありがと。嬉しい」

希 「ウチが宮殿で療養中に、えりちを始めみんな変わりばんこで見舞いに来てくれたし、ウチは幸せもんや」

希 「ただ、こうして街を歩いてもクリスマスらしさの欠片も無いなあ」

絵里 「この時代、キリスト教は時々迫害されてたから」

絵里 「ただいま」

希 「ただいま」

希 (久しぶりにルシウスさんとさつきさんの家に帰って来た)

ことり 「希ちゃん!」

花陽 「希ちゃん! 絵里ちゃん!」

希 (不穏な空気……)

絵里 (トラブル?)

絵里 「あなた達、何があ――」

真姫 「ウワアアアン!」

絵里 「真姫!?」

絵里 (真姫が号泣!?)

希 「真姫ちゃん、どないしたん?」

真姫 「希、絵里、聞いて!」

真姫 「この女は悪魔よ!」

さつき 「待って、落ち着いて。真姫ちゃん……」

希 (あのさつきさんが狼狽えとる!?)

海未 「真姫、先生だって悪気はなかったのです!」

真姫 「何よ! 東大まで出てるのに……」

真姫 「サンタさんが居ないなんてよく言えるわ!」

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

さつき (困ったわね)

さつき (冗談で言ってるかと思ってたら、まさか本気でサンタクロースを信じていたなんて……)

さつき (会話が噛み合わないと感じてはいたけど、サンタを信じる高校生なんて居る筈が無いという思い込みが、私の判断を鈍らせた)

さつき (兎に角、この場を収めないと)

さつき 「ごめんなさい、真姫ちゃんの言う通りよ。サンタクロースは居るわ」

真姫 「じゃあ何でさっきは居ないって言ったのよ?」

さつき 「さっきサンタクロースが居ないって言ったのは……」

さつき 「この時代、サンタクロースはまだ生まれてないのよ」

真姫 「だったら会えないじゃない!」

真姫 「やっぱりあなたは悪魔だわ! そしてお腹の子は悪魔の子、ダミアンよ!」

さつき 「いくら何でもそれは言い過ぎじゃない?」

ことり (さつきさん、流石に怒ってる……)

海未 「真姫! 先生に謝りなさい」

真姫 「嫌よ!」

海未 「謝りなさい!」

真姫 「ウ……ウ……ウエエエエン!」

凛 「真姫ちゃん、泣き疲れて眠っちゃったね」

さつき 「折角のクリスマスと希ちゃんの快気祝いが……ごめんなさい、私のせいだわ」

希 「ウチのことは気にせんといて下さい。むしろウチらの仲間の非礼をお詫びします」

穂乃果 「さつきさん、すみませんでした!」

μ's一同(寝てる真姫除く) 「すみませんでした!」

海未 「先生は悪くありません。冷たいかも知れませんが早かれ遅かれ真実を知る日は来るのです。今日がその日だったというだけのことです」

穂乃果 「海未ちゃんはそれでいいと思ってるの?」

海未 「いいも悪いもありません。……勿論、真姫をフォローしたいのは山々ですが」

ルシウス (大まかな経緯はサツキから聞いた)

ルシウス (平たい顔族の世界には子供相手に施しをするサンタクロウスなる人物が居て、毎年この時期になるとマキはサンタクロウスからの施し物を楽しみにしていた)

ルシウス (しかし今年はローマに居る為に施しが受けられないと知り、嘆き悲しんでいる)

ルシウス (施しを受けられないだけでこれ程までに泣き叫ぶのだからマキは貧困層の生まれなのだろう)

ルシウス (しかしながらサンタクロウスとはどのような人物なのだろう? 子供達に施しをするということはそれだけの財力を有するということ……)

ルシウス (以前マルクスを通じて私に仕事を依頼してきたアウグスタレス(解放奴隷)の成金みたいな人間かもしれん)

今日はここまで。
読んで下さった皆さんありがとうございました

真姫 「スゥ……スゥ……」

にこ 「寝顔だけなら可愛いのにね」

さつき 「真姫ちゃん、年が明けるまでに口聞いてくれるかしら?」

海未 「私も出来る限りのことはしますがそればかりは何とも言えません……」

ルシウス 「サツキ、マキと一緒に我が家の風呂に入るんだ」

ルシウス 「二人で話し合うといい」

さつき 「あなたらしいわ。でも、悪くない案ね」

ことり 「真姫ちゃんを起こします」

真姫 (みんなに半ば強引に勧められて風呂に入らされた。この人と二人っきりで)

さつき 「……」

真姫 (いったい何を話せって言うのよ?)

さつき 「真姫ちゃん、タイガーマスク運動って知ってる?」

真姫 コクリ

真姫 (そりゃ知ってるけど……?)

さつき 「タイガーマスクの本名『伊達直人』名義で児童福祉施設にランドセル等が寄付された話」

さつき 「勿論、寄付した人は虎のマスクを付けた覆面レスラーじゃない」

さつき 「それでも施設で働く方々や施設で暮らす子供達はランドセルを贈られてきっと嬉しかったと思う」

さつき 「その時、タイガーマスクは人の善意の象徴として存在したの」

さつき 「それってサンタさんも同じって思わない?」

さつき 「我が子にプレゼントを贈るだけならパパとママからのプレゼントだよって言えば済む話を何故サンタさんからのプレゼントと言うのか?」

さつき 「それって子供達に人の善意を信じて欲しいからだと思うの」

さつき 「見返りも求めず、他者の幸せを願い行動する人がいる。世の中捨てたものじゃない」

さつき 「そう思えるようになって欲しいからだと思うの」

真姫 「でも私、今日サンタさんの正体知って……凄くショックだった」

さつき 「それについては気の毒なことをしたと思ってるわ」

さつき 「ただ、これは通過儀礼なの」

真姫 「大人になる為のですか?」

さつき 「大人になる為と言うより」

さつき 「サンタさんになる為」

真姫 「ハァ?」

さつき 「サンタクロースの正体を知ることは……」

さつき 「自分がサンタクロースになれることを知ることでもあるわ」

さつき 「次は自分が子供達に人の善意を伝える番」

さつき 「クリスマスの夜にプレゼントを待ち侘びて布団の中でワクワクした気持ちや、翌朝枕元に置かれたプレゼントを見つけた時の喜びや、サンタさんへの感謝の気持ち」

さつき 「その時の思いを忘れずに次の世代に伝えたい」

さつき 「そうやってサンタクロースの伝説って受け継がれてきたのよ」

真姫 (そうか、そうだったんだ)

真姫 (私はパパやママに何不自由無く育てられた。そして自分でも気付かないうちに、人から愛されるのが半ば当たり前と思っていたんだ)

真姫 (音楽の方向性の違いに戸惑いつつもアイドルをやること自体には我ながら然程抵抗無く入っていけた)

真姫 (ファンレターを手渡しされても、ショップで自分のグッズが売られているのを見てもあまり動揺しなかった。これが海未や花陽辺りなら慌てふためいたり泣く程喜んだりするのだろう)

真姫 (だからこそ、サンタさんの正体を知るのが他の子よりも遅れたのだ)

真姫 (私は変わる、変わるんだ)

真姫 (愛を受け取る側から届ける側に)

真姫 「その、さつきさん」

さつき 「何?」

真姫 「さっきはごめんなさい。悪魔とか悪魔の子とか酷いこと言って」

さつき 「なら、お互い水に流しましょう」

真姫 「はい!」

真姫 「お腹、撫でていいですか?」

さつき 「いいわよ」

真姫 「ごめんね。悪魔の子だなんて言って」

さつき 「『気にしないで』って言ってるわ」

真姫 「分かるんですか?」

さつき 「臍の緒で繋がってるから」

真姫 「フフッ。……そうだ!」

さつき 「?」

真姫 「私、さつきさんの子が産まれたら、この子のサンタさんになる! いいでしょ?」

さつき 「ありがとう、真姫ちゃん」

さつき 「良かったね、真姫お姉ちゃんがあなたのサンタさんになってくれるって」

真姫 (さつきさんが自らのお腹を撫でながら胎内の我が子に呼びかけている)

真姫 (ママも私を身籠っている時はこんな感じだったのだろうか?)

さつき 「みんなお待たせ」

真姫 「あの、みんな……さっきは空気悪くして……ごめんなさい」

海未 「きちんと先生に謝りましたか?」

真姫 「うん。そして仲直りした」

海未 「それを聞いてホッとしました」

ルシウス 「サツキ」

さつき 「大丈夫よルシウス、真姫ちゃんとはこれからも仲良くやっていけるわ」

さつき 「真姫ちゃん、さっき私の髪洗ってくれたの。助かったわ」

ルシウス 「そうか、良かった」

にこ 「もう一回仕切り直しね」

花陽 「折角のご馳走が冷める前に」

穂乃果 「それじゃ行くよ。希ちゃんの快気祝いと、みんなでこの日を迎えられた喜びと……」

穂乃果 「そして来年産まれるルシウスさんとさつきさんの子に神の祝福がありますように」

穂乃果 「せーの」

μ's一同 「メリークリスマス!」

ルシウス (湯のあるところに争いは起きない、仮に起きても直ぐに収まる)

ルシウス (サンタクロウスなる人物が施し物で子供達を笑顔にするのなら)

ルシウス (私はテルマエで子供達を笑顔にしよう)

孤児院院長 「いやあ、ここのテルマエは子供達も喜んでいてねえ」

孤児院院長 「子供達も清潔に暮らせるから病気になりにくくなったし、ここで働く大人達も大事に使わせて貰ってます」

孤児院院長 「以前は子供達を街のテルマエに連れて行ってたのですが、他の入浴客から『騒がしい』とか『子供が風呂でオ◯ッコした』とか苦情を言われて肩身が狭かったんです」

孤児院院長 「大勢の子供をテルマエに入れるのは結構手間だったんですが、孤児院内にテルマエが出来たことで大分楽になりました。ルシウス殿、ありがとうございます」

ルシウス 「そう言って貰えると私も嬉しいです」

ルシウス (これで身寄りの無い子供達を少しでも救うことが出来ただろうか)

ルシウス (こういった孤児院をもっと増やせば、世界はより良き方向に……)

花陽 「ア、アア……見つけました……」

ルシウス (ハナヨ?)

花陽 「大変です!」

ルシウス 「何があった?」

花陽 「さつきさんが産気づきました!  兎に角自宅へ!」

ルシウス 「何ッ!?」

タッタッタッタッタッタッタッ

孤児院院長 「行ってしまった……」

花陽 「MUSAEの皆で手分けして探してました」

ルシウス 「サツキの容態は?」

花陽 「サツキさんの……何ですか?」

ルシウス 「容態、身体の具合だ!」

花陽 「すみません、私まだラテン語上手じゃなくて」

ルシウス 「それでも大分上手くなった」

花陽 「ありがとうございます」

ルシウス 「ハナヨ、もう少し早く走れないか?」

花陽 「無理です! 先に行って下さい!」

ルシウス 「分かった!」

ルシウス (遂に私も我が子を授かる)

ルシウス (我が子に愛を注ぐことが出来る)

ルシウス (サツキ、待っていてくれ。すぐ行く、走って行く……)

ルシウス (これまでも見たことの無い世界を見てきた、見たことの無いテルマエを見てきた)

ルシウス (しかしこれからもワクワクする世界がきっと私を待っているだろう)

おわり

これで終わり。?

読んで下さった皆さん、半年近くお付き合い頂きありがとうございました。?特にコメント下さった皆さんありがとうございました。
最後の方で子供が風呂でオ◯ッコする云々書きましたが、温泉、ホテルの風呂、プール、海水浴場等を利用しながらの放尿はやめましょう。正しいマナーで気持ちいい入浴を。?
なお、このスレの1に風呂でオ◯ッコをする癖はありません。?

コメントに何故か「?」が入ったが無視して下さい。

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