乱馬「弱くなってあかねに閉じ込められた」(12)

乱馬は苦悩していた



元々の原因は八宝斎が据えた貧力虚脱灸にある

乱馬は赤子程度しか力が出せなくなり、普段は難なく勝てるはずの九能に負ける始末だ



しかし今、乱馬は弱くなってしまったことより、許嫁のあかねに拘束され体育倉庫に閉じ込められている現在の状況について悩んでいる



あかねは乱馬を恨む人達の報復から守るために乱馬を隠した。乱馬が言うことを聞こうとしないから力づくで拘束までした。破灸法を見つけ力を取り戻さない限り、乱馬は狙われ続けるだろう。彼女の思いやりだ

しかしズボラな性格のあかねは、拘束された状態の乱馬が恨みを持つ人に見つかってしまったときの事など想定していなかった



弱くなっても攻撃を避けることはできる。しかし身動きがとれなければ、それすらもできない。

話を聞こうともせず口を塞ぎ、手と足の自由を奪ったあかねに苛立ちながら乱馬は脱出の方法を考える



下校時刻までは恐らく7時間程ある。同時に部活動が始まるのでここを使いに来るはずだ。いや、その前に体育の授業で使われるかとしれない。しかし、他人に見つかるということは自分が解放される可能性と同時に危機に瀕する可能性も孕んでいた



もし九能が手を回して自分を探し回っていたら?九能が自分に勝ったことを言いふらしていて、聞きつけた奴らが探していたら?



そう考えると、とにかく早くあかねが来て拘束を解くか、自力でどうにかするかしかないのだ。そしてタイムリミットは想像よりも短いかもしれない





乱馬は生娘以下の力で拘束を解こうとしていた。 埃が酷く、器具の独特の香りがするこの場に不快感を覚えていた乱馬だったが、今はそんな事を忘れて必死にもがいている



一方あかねは、今更になって、もし乱馬が誰かに見つかってしまったらと不安になってきた。どうにも不安が拭い去れないので、仮病で授業を抜け出して体育倉庫へと向かった

乱馬が奮闘し始めて20分程経ったとき、キイイイと嫌な音を立てて扉が開いた。乱馬はギョッとして顔を向けたが、訪れたのがあかねであることを知ると安心した表情をした

走ってきたのだろうか、あかねの顔には汗が浮いていた。あかねはその汗を拭おうともせずに黙って乱馬を担ぐ

恥ずかしさから乱馬があかねの肩の上で暴れる



「んーー!むう!!」



だが今の乱馬が暴れたところで、赤ん坊が駄々をこねた程度でしかない



「あーーーもう!!!うっさいわねー!見つかっちゃうでしょ!?」



あかねの声が一番うるさいのだが、口も縛られてるため乱馬がそれを伝えることはできなかった。



「絶対に誰にも見つけない場所を思いついたから、そっちに行くわよ」



スタスタと歩いて行くあかねに乱馬は抵抗を諦めた。どうせ今暴れたところで逃げれないし、見つかるリスクが高まるだけだと判断したからだ。

あかねが連れて行った所は宿直室だった。数年前からこの学校で教師が宿直室を使う頻度は少なくなっていた。今では入学式と卒業式の前日ぐらいにしか使われていない

あかねは職員室から持ち出した鍵を使って部屋に入る。それから布団を敷いて、乱馬を寝かせるとこう言った

「いい?ご飯なら私が持ってくるし、仕方ないからトイレも……体も拭いてあげるから……だから、お願い。大人しくしてて」

あかねは照れながらも心配そうにしていた。しかし乱馬は納得がいかずに声を出す。

「なにいってるのかわからないわよ。布ほどいてあげるからじっとしてて」

そう言って乱馬の口を塞いでた布を外す。やっと喋れるようになった乱馬は、それまで溜めてきたことを一斉に吐き出すかのように畳み掛けた

「こんの馬鹿がっ!人を何だと思ってるんだっ。話も聞かねえで好き勝手やりやがって!」

あかねがムスッとしてるが構わず続ける

「いいか、あかね。今の俺だって、襲われても攻撃は避けれるんだ。だけど手足封じられたら袋叩きだ。だからすぐにこの紐を解け。このアホッ」



最後の一言が余分だった

「なによ!アンタのためにやってるんでしょっ。乱馬のバカ!」

「だーかーらっ、それが余計なんだよ!お前に世話焼かれる程落ちぶれてねえんだよ、この寸胴」

更なる関係の無い悪口にカッとなったあかねがマウントポジションをとって乱馬の顔を殴る

乱馬の痛みに歪む顔と、苦痛から短く漏らした声であかねは正気に戻った


しまった。いつものようにやってしまった
今の乱馬は自分よりも遥かに弱いのに


あかねは謝ろうとした。しかし自分の暴力に怯える乱馬の顔を見たとき、心が微かだが、確実に高揚していたことに訳が分からず、口をパクパクさせることしかできなかった


あかねは戸惑った。乱馬のことは好きだ。だから彼が困っていたら力になりたい、そうして今日も行動もしたのだ。なのに何故その好きな人を傷つけて興奮してるのだろう。

いや、きっと間違いに違いない。怒りに任せてしまったせいで興奮を錯覚してるのだ。そうにちがいない。
そう言い聞かせて気を鎮めようとした。


しかし乱馬は食い下がる


「な、なにすんだっ、この暴力女!ちょっと言っただけでキレやがって。あー可愛くねえっ」

あかねは自分の感情が沸騰するのがわかった。そうだ。その通りだ自分は可愛くない。シャンプーに舞い上がって、右京には可愛いって言ってるのに、自分には何も無かったじゃないか


こんなに好きなのに。こんなに力になりたいと思ってるのに。どうしてわかってくれないんだろう。どうして好きになってくれないんだろう


そう思うと勝手に手が出た

「が、はっ……!」

片手で首を締められ、乱馬は苦しそうに顔を歪ませる。ああ、今自分は彼の命を握ってるんだ。そう思うと、なんとも言えない優越感があかねを支配した

「ふふ……ふふふ」

もう片方の手で何発か顔面を殴る。

「ぐぅっ!あか、あかねっ、やめっ!」

ゾクゾクと快感が込み上げてくる

もっと彼の声が聞きたい。自分の思うように彼を支配したい。誰にも見せたことの無い面を私だけが知りたい。

「悪かった!あやまるからっ、あやまるからもうやめ……い、いたいいたいいたい!」

あかねは乱馬の反応に瞳の奥の狂気を膨らませ、乱馬はその瞳を見て怯えていた


数分経ち、部屋には男女の荒い呼吸だけが響いていた。


あかねは背徳的行動の快感に震えていた。乱馬は恐怖に震えていた

しばらく息を整えてから、あかねが口を開く

「ほんっと、情けないんだから……あたしが、あたしが守ってやらないと、なーんにもできないくせに」

乱馬は布団に蹲って答えない

だがそれがあかねを刺激した

「聞いてるのっ!?あんたは!あたしがいないと!ダメなの!!」

あかねは無理矢理に布団を引っぺがして、乱馬の顔を手で押さえつける


「こんな赤ちゃんみたいに弱いくせに、襲われて大丈夫なわけないでしょ……?ん?わかりまちゅか~~っ?」

「……っ!」

「……なんか、言いなさいよ!この雑魚っ!」


乱馬の頭を強く殴る

そうなのだ。あの乱馬が自分よりも弱くなった。それももしかしたら一生かもしれない。誰にも目につかない場所にいることは自分の欲望をどれだけでも叶えられることを示していた。

一段と瞳の闇を深くしたあかねは乱馬の股間に手を伸ばす。乱馬が声を上げる前に布を口に突っ込んだ

乱馬は体を捩らせて拒絶する。あかねが鳩尾を殴ると乱馬は大人しくなった



あかねは震えた
あのじゃじゃ馬を思うがままにしている

自分に怯えて、媚びるような、許しを乞うような目を向けている

あかねの欲望はもう止められなかった

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