小君「時間を止められるか……」(55)
──公園──
美子「大丈夫? 道に迷っちゃったのかな」マエカガミ
小君「うん……大丈夫」プイッ
美子「本当に? 私で良ければ一緒にいてあげるよ」
小君「大丈夫だって!」
美子「っ‼」ビク
小君「……」
美子「ほら」手を握る
小君「え?」呆然
美子「ダメだよ、強がっていたら。困った時は他人に頼ること! お姉さんとの約束だよ。」
小君「だからいいって……」
美子「ううん! もう私はここで君とお母さんを待つって決めたから」ギュ
小君「お母さんは来ないよ……」
美子「え、どうして? もしかして家出?」
小君「違うよ」
美子「家出なんだ、そうか~。よし!」
小君「……」
美子「お姉さんと遊ぼうか!」袖をまくる
小君「君、高校に行かなくていいの? 今日って始業式でしょ?」
美子「き、君って……まあいいか。」
小君「僕は高校に行かなくていいのかを聞いているんだよ」
美子「もう! いいのいいの。君をここに一人にしとく訳にいかないからね」
小君「そう……じゃあ僕は帰るよ。」
美子「なんだ帰っちゃうのか~遊ぶ気満々だったのになぁ」アハハ
美子「またね! 家出はダメだよ。」
小君「……家出なんかしてないよ……」ボソ
美子「え? ごめん聞こえなかった」
小君「……そう。じゃあまた」
美子「!? ……うん! またね、え~と」
小君「矮精 小(わいせい しょう)」
美子「小君ね!私は優木 美子(ゆうき はるこ)ヨロシク」
小君「……」プイッ
美子「あはは」バイバイ
美子「さて、学校に行かないと!」タタタ
※※※
小君(やっぱりか……でも仕方がない……か。そりゃこんな外見じゃ誰もが勘違いをするよな。僕が高校二年生なんて初見で分かるはずがない。)
小君(こんな童顔で身長が150にも満たない、その上こんな小学生みたいな声なんだから小学生と……迷子と勘違いされるのも仕方がないんだ)
小君(美子さんは悪くない。悪いのは僕、非があるのは全て僕なんだ。苛められるのも小さい僕が悪いんだ)
小君(家計が厳しいのに僕のことを思って父さん、母さん、そして妹が何かを失ってまで引っ越してくれたんだ……)
小君(新しい高校で何があっても耐えてみせる)
小君(でももう……この体格をからかわれたくないよ……)涙が目に溜まる
──小君宅──
小君「……ただいま」ガチャ
小母「新しい町はどうだった? この先大丈夫そう?」
小君(息なり迷子と勘違いされたなんて言ったらどうなるだろうか……)
小君「うん、綺麗でいい町だよ。さっき来週から僕が通う高校の生徒と会って、小話をしてきたよ」
小母「……その子とは仲良くなれそうなの?」ソワソワ
小君「また会う約束をしたよ」
小君(またねって言っただけだけど……)
小母「よかったわね小! でも、もし辛いことがあったらお母さんに言うのよ」
小君「分かってるよ、母さん」
小君「じゃあ僕は新しい部屋の整理をしてくるよ」
小母「昼食は12時だから、佳菜と一緒に下りてきてね」
小君「うん、分かった」
佳菜「おかえりお兄ちゃん!」
小君「ただいま佳菜」
小君(いつみても大きい妹だ。とても中学3とは思えない。いや……僕が小さいからそう見えるだけか……)
佳菜「大丈夫? 何か嫌なことでもあったの?」
小君「う、ううん……何も」ギク
佳菜「お兄ちゃん」ガシ
小君「どうした息なり肩を掴んできて?」
佳菜「私は転校なんて辛くないからね! LINMで毎日会話もできるし」
小君「……ありがと佳菜」
佳菜「お礼なんて言わないで、お兄ちゃん! それにこっちでも友達出来たんだ」
小君「よかったね……佳菜。」
佳菜「隣の家の優木紗知ちゃんって言ってね。引っ越してきたばかりの私に色んなことを教えてくれたんだぁ」
小君「僕も佳菜みたいに友達が欲しいよ……」ボソ
佳菜「お兄ちゃん……」
小君「あ、ごめん佳菜……じゃあ僕は荷物の整理をしてくるよ」タタタ
佳菜「あ、お兄ちゃん……」
佳菜「……頑張ってね」ボソ
小君(あれじゃ逃げるのと一緒だ。それにあれでは優しい佳菜は自分のことを責めてしまう。僕は最低だな、戻るべきだと分かっているのに佳菜に嫉妬して戻れない……)
小君(友達が欲しい。欲しいよ友達が! 困った時は助け合って、楽しいときは笑い合いたい。仕様もない話で笑い合いたい……)バンッ
小君「壁を叩いたって僕の手が痛いだけだ……」
小君「どうして僕はこんなに小さいんだ……どうして世界はこんなに不平等なんだ…」グスン
小君「小さいから……なんなん…………だ」zzZ
……
佳菜「……お兄ちゃん! 起きてって」ユサユサ
小君「……佳菜、どうしたの?」アクビ
佳菜「もう! もう12時5分だよ」
小君「あ、ごめん佳菜……」
佳菜「先にリビングに言ってるから早く来てよ」アキレ
小君「情けない……少し寝たら爆睡してしまう。」トタトタ
ガタッ
小君「うわ!?」スベル
小君(階段で足を踏み外すなんて……本当に最悪だ)
ドンガラガッシャーン
佳菜「今の音なに!?」
小母「小! 大丈夫? 小‼」
佳菜「お兄ちゃん……? お兄ちゃん!」ユサユサ
小母「佳菜ゆすっちゃだめ! 今救急車呼ぶから」119
ピーポーピーポー
※※※
小君「……ぁ、ここは」キョロキョロ
看護「あ、大丈夫ですか矮精くん」
小君「あ、はい大丈夫です。」
小君(そうか階段から落ちたんだった。じゃあここは病院か。また迷惑をかけてしまったな)
看護「ごめんね。今からお医者さん呼んでくるから待っててね」
小君(年齢を知ってるだろう看護さんでも子供扱いか……まあ仕方がないか)コクリ
医者「うん、問題ないね。今日は一日安全にして明日退院しようか」
小君「分かりました」
医者「いい返事だ」室から出ていく
看護「何度みても小学生にしか見えない、あの子が高校生なんて信じられないですよ」コソコソ
医者「あの子の場合、ホルモンバランスも問題ないし小人症ではないんだ。色んな人を診てきた僕でも矮精君のような子は始めてみるよ」コソコソ
小君(聞こえてる……)
※※※
──退院して自宅──
小君「ただいま佳菜」
佳菜「もう心配したよお兄ちゃん! 体はもう大丈夫なの?」
小君「うん大丈夫。今日は念のためにお母さんに迎えに来てもらったけどね」
佳菜「大丈夫そうでよかったぁ」
小君「心配かけさせてごめんね」
佳菜「ううん、いいの。あとお兄ちゃん来て来て」
小君「うわ、なんだよ佳菜」
小母「佳菜! お兄ちゃんはまだ退院したばかりなのよ!」
佳菜「分かってるってお母さん」タタタ
小母「本当かしら」フフ
佳菜「じゃじゃ~ん」
小君「!?」
佳菜「お兄ちゃんの部屋、整理しておいたよ!」
小君「あ、ありがとう佳菜……」
佳菜「へへへ~どういたしまして。まあ私も学校なくて暇だからね」
小君「まあ暇だもんな」
佳菜「もう! お兄ちゃんのバカ!」
小君「嘘だよ、本当にありがとう佳菜……」
佳菜「うん」
小君「……この前はごめんな。」
佳菜「この前? あ、あぁ~あれ? 気にしてないよ」
小君「僕は気にしてるんだ。佳菜、僕頑張るよ。」
佳菜「うん! 頑張ってね。」ニコリ
小母「……」メソメソ
※※※
──翌日──
ピンポーン
小君「誰だろう?」
佳菜「あ、紗知ちゃんだ!」
小君「もう遊ぶ約束をするほど仲良くなったのか」
佳菜「うん!」ニコリ
小君「楽しんでおいで」ニコ
佳菜「え? この家で遊ぶんだよ」
小君「そんなの聞いてないよ!」
佳菜「そうだっけ? あ、そう言えばお兄ちゃん入院してたんだった」
小君「僕が悪いから何も言えないよ」ガクリ
佳菜「そうだよ、お兄ちゃんが悪いの」ヘヘヘ
小君「そうだね、僕が悪いな」
佳菜「待たせてるから迎えに行ってくるね」ドタドタ
小君「あぁ! 待って一旦部屋に隠れるから」カクレ
紗知「こんにちわ~」
佳菜「いらっしゃい!」
小母「まあ、貴方が紗知ちゃん? 佳菜と仲良くしてやってね」
紗知「はい! 私こそヨロシクお願いします」
佳菜「私の部屋に行こ!」
紗知「佳菜ちゃんの部屋楽しみだなぁ」ワクワク
佳菜「い、言っとくけど汚いからね」アセリ
小君(うわぁ……階段上がってきたよ。バレないように。出会ったりしたら弟に思われてしまう……それだけは嫌だよ)
紗知「佳菜ちゃんの部屋ってここ?」
佳菜「ち、ちちちち違うよ! そこは入ったら駄目だからね!」
紗知「怪しいなぁ~まあそんなに念を押すくらいだから止めとくかぁ」
佳菜「絶対に開けないでね!」
小君(佳菜ありがとう)
……30分後……
佳菜「そんなことがあったの~」
紗知「あ、それ私のお姉ちゃんもやったことあるよ」
佳菜「本当に! ってお姉さんいるんだね」
紗知「うん高校2年生だよ」
佳菜「あ! お兄ちゃんと同い年だ」
紗知「それじゃあ同じ高校かもね。あ、分かった隣の部屋はお兄さんの部屋なんだ」
佳菜「そうだよ。怒られるから絶対に開けちゃ駄目!」
紗知「挨拶したいのに~」プクゥ
小君(うぅ……紗知って子が我慢できなくなって僕の部屋に入って来そうで怖いよ……今のうちに逃げておくか)ソロリ
小母「小、出かけるの?」
小君「うん、ちょっと部屋に居づらくて」
小母「そう……まあ晩御飯には帰ってくるのよ」
小君「うん分かった、行ってきます」
小母「行ってらっしゃい」
小母「……」
※※※
──公園──
小君「出てきたものの……行くところなんてないな」
小君(また、子供扱いされるのを恐れて逃げてしまった。佳菜に頑張るなんて格好つけたのに情けない……)
小君(って……ここじゃ、ますます子供扱いされるじゃないか)
小君(適当に町をブラブラして時間を潰すか~)
美子「あ、君は」ニコ
小君「あ……」
美子「久しぶりだね、小君!」
小君「……こんにちわ」
小君(どうしてよりによって美子さんに会ってしまうんだ……)
美子「最近見なかったから心配してたよ。またねって言ったのに全然来ないから」
小君「え? 最近ってまだあの日から三日しか経ってないけど」
美子「毎日来てたよ」ニコ
小君「ごめん」
美子「謝らなくていいよ、私がやりたくてやったことだし。」ヨシヨシ
小君「撫でないで……」
美子「恥ずかしがり屋さんだね小君は」
小君(別に恥ずかしい訳じゃない。同じ年っぽいし……撫でられるのが嫌なだけ)
美子「ねぇ、小君は学校に行ってるの?」
小君「学校?」
美子「うん、初めて会ったときも行ってなかったでしょ?」
小君「行きたくても行けないだけだよ」
美子「え、何か嫌ねことでもされたの?」
小君(そうやって子供扱いされることが一番嫌なんだ……)
小君「いや、この町に最近引っ越してきたばかりだから」
美子「あ、そうなんだ。んん? 確か小君の名字って」
小君「……矮精」
美子「やっぱり! 私の家の隣だ」
小君「!?」
小君(そう言えば美子さんの名字は優木……隣の家に住む妹の友達の紗知さんの名字も優木だったっけ……)
小君(近所なんて興味がなかったから確認してなかったや……)
美子「偶然だね! これから隣家どうしヨロシクね」
小君(紗知さんと同じヨロシクの言いかただ。)
美子「じゃあ月曜から行くの? 」
小君「そうだよ……」
美子「小学校で友達直ぐにできるといいね!」
小君「……」ピク
美子「小君なら直ぐにできるよ! 頑張ってね」
小君(分かってた。子供扱いされてることくらい分かってた。悪いのは僕だ……僕が小さいから悪いんだ。非があるのは全て僕だ。美子さんは悪くない。悪くない……けど一緒にいたくない)
小君「それじゃ」
美子「もう、せっかくの再会なんだからもっと話そうよ」ガシ
小君「……してよ」
美子「ん? なんて小君。ごめん聞こえなかった」ニコリ
小君「離せって言ってんだよ! 早く離せよ、離せよ、離せって‼」
美子「小君!?」ビク
小君「……」バッ
美子「あ……」
小君(またやってしまった……こんなの八つ当たりだ。僕は最低だ。最低だと分かっていながらやってしまう)
小君(これじゃ僕を苛めたアイツらよりも最低だ。アイツらは少なくとも駄目だと分かってなかったから)
……1時間後……
小母「あら、早かったのね、おかえりなさい」
小君「うん、ただいま」
小母(家を出る前より辛そうね……)
小君「……寝てくるよ」
小母「……おやすみ、6時に起こしに行くからね」
小君「ありがとう母さん」
佳菜「それでさ~」
紗知「えええ‼ そんなことが!」
小君(相変わらず楽しそうで何よりだ)
小君(でも、どこかでまた佳菜に嫉妬してしまっている……)
小君(寝よう……)
※※※
??「や、初めまして」
小君「貴方は……誰ですか?」
??「う~ん君の作り出した幻想かな」
小君「幻想?」
幻想「そう幻想。君がいるから僕が成り立つ。でもその逆はない僕がいなくても君は成り立つ。そんな儚い存在だよ」
小君「なんだか僕に似てるね」
幻想「まあ君が作り出した幻想だからね」
小君「で、幻想さんは僕に何かようなの?」
幻想「あぁ、そうだった。用事があるんだった」
小君「どういう用事?」
幻想「君に伝えたいことがあるんだ」
小君「伝えたいこと?」
幻想「そう、伝えたいこと。」
小君「話してよ」
幻想「そんなことを言われずとも話すよ。僕の存在が消えそうなんだ。勿論、僕は君が作りだした幻想だ。僕が消えたところで君には殆ど影響はないよ。」
幻想「君が階段から落ちた衝撃を殆ど僕が吸収したせいでね。まあそのおかけで僕はこうして君と話せるんだけどね」
小君「体が透けて……」
幻想「だから消滅する前に僕の生みの親、小君に教えたいことがあるんだ」
小君「それは何?」
幻想「時計だよ。これは僕の一部分。これが見えるのは君だけだ。」
小君「時計?」
幻想「そう時計。これを上手く使えば君はもう大丈夫。僕が心の中にいなくても大丈夫だよ。」
幻想「残りカスのような僕の存在をこの時計に変換することにした。」
幻想「君は僕なしでも生きていけるよ……頑張って僕は時計として君の傍らにいるから」
小君「幻想さん!」
幻想「ほら、これを持って。」
小君「……」ギュ
幻想「時を止める時計だ……さよなら小君。最後に君に会えてよかった。」
※※※
小君(変な夢をみた……どこか懐かしくて切ない夢だったな)
小君(紗知さんはもう帰ったのかな、話し声がしないや)
小君(……ッ)ビク
小君(これって……時計? 夢の中で幻想さんに渡されたものとそっくりだ)
小君(なんだか気味が悪いな……捨てるのも怖いし本棚にでも置いておこう)
小君(え……何だこれ……浮かんでる)スポ
小君(自分から僕のポケットの中に……)
小母「小、6時よ起きなさい。ご飯にするわよ」
佳菜「お兄ちゃん! 早くぅ私お腹すいた~」
小君「わ、分かった今、行く」
小君(今はとりあえずご飯にしよう。それにお母さんがくれたものかも知れないし……聞いてみるか)
小君「ねぇ、お母さんこれってお母さんがくれたの?」
小母「え? なんのことかしら」
小君「これだよ、この変な時計だよ」
佳菜「何言ってるのさお兄ちゃん」
小母「そうよ何を言ってるの小?」
小君「これだよ? 見えないの?」
小母「どうしちゃったの小?」
小君「もしかして見えてないの?」
小母「見えるも何も……小、何も持ってないじゃない」
小君「冗談はやめてよ母さん……」ゾクゾク
佳菜「こっちの台詞だよお兄ちゃん」
小君(そう言えば……幻想さんは僕にしか見えないって……)
小君(まさか……あの夢は現実? そんな訳がないか……でも、まさかね?)
小君「う、ううん……やっぱり何でもないよ……」
小母「そう……それならいいのだけれど」
佳菜「お兄ちゃん?」
小君「ほらご飯食べよう。佳菜、お腹空いてるんだろ?」
佳菜「そうだね! いただきます」
小君「いただきます」
小母「召し上がれ」フフ
※※※
──翌々日──
教師「今日は金曜日にも言っていたと思うけど転校生がこのクラスにきます。みんな拍手で迎えてあげて」
パチパチ
小君(怖い。バカにされたくない……)
教師「もう入っていいのよ?」
小君「は、はい……」
小君「こんにちは……矮精 小です……よろしくお願いします」
美子「え! 小君?」
美子(嘘……小君が高校生なんて!? じゃあ、あの時小君が怒ったのも)
小君「……」ビク
小君(まさか同じクラスになるなんて……)
史華「え? あの小さい子美子の知り合いなの?」
早苗「小さくて可愛い……本当に私たちと同級生なの?」
一真「小学生にしか見えねぇじゃん」
信治「それな! まじちっせぇ」
小君(やっぱり僕はどこにいてもからかわれるのかな……)ウゥ
教師「う~んじゃあ矮精君? 美子さんの隣の席に座って」
小君「え……美子さんのですか?」
教師「貴方たち知り合いっぽいしね」ウインク
小君(ありがたおせっかいだよ……)
小君「はい……」
美子「よ、ヨロシク……小君」
早苗「よろしく……小君?」
小君「うん……よろしく……」
教師「うん! じゃあホームルームは終わり。みんな矮精君を取り合ったら駄目よ」
クラスメイト「分かってるって」
一真「……」ニヤ
美子「小君……あのね? その……」
小君「……」タタタ
美子「あ……小君」
史華「ねぇ美子ぉ~小君とどういう仲なのよ~」
美子「え、いやうん……家が隣なんだ」
早苗「お隣さんかぁ……もう話したことあるの美子ちゃん?」
美子「うん……2回くらい……」
一真「そのわりにはお前嫌われてんな」クスクス
美子「う、うんまあね」アハハ
史華「何かあったわけ?」
一真「なかったらあんな態度とらないだろ」
美子「そ、それが……ずっと小学生だと思ってて……その、まさか高校生なんて……」
史華「まあ、あの体格では勘違いしても仕方がないわよね」
一同「だよね~」クスクス
美子「ど、どうしたらいいのかな?」
一真「ほっとけばいいじゃん。矮精の奴もお前と話したくなさそうだしよ」
早苗「私もそれが最善の手だと思う……」
美子「……そうかな」
信治「おい! 戻ってきたぞ」
一同「シーン」
小君「……」
小君(皆が僕を見て、笑っている。似てる……似てるアイツらに。苛められたくない……怖い)席に座る
小君(僕が小さいからだ……駄目だ怖い)
時計ブルルン
小君「うわぁ!」
一真「アイツ何いきなり叫んでんだ」コソコソ
信治「頭の中と小学生なんだよ」コソコソ
一真「ちょ、お前」クスクス
小君(どうして息なり揺れたんだ? もしかして幻想さんが?)
一真「アイツなんかしてんぞ?」コソコソ
史華「エア積木?」コソコソ
信治「怖……なにアイツ。まじで怖いんだけど。エア積木とか怖すぎる」コソコソ
美子(なんだか雰囲気が悪いな……うん! やっぱり思いきって話しかけよう)
小君(やっぱり皆には見えてないのか……このまま弄ってたら何を言われるか分からないけど時計の振動が止まらない……)
美子「ね、ねぇ小く」
カチ
小君(あ、止まった。この上の突起している奴を押せばいいのかな。あれ? 何だか違和感が)
小君「!?」
美子「」
小君「美子さん?」
小君「他の皆もどうしたの? え、止まってる?」
小君「誰も動いてない……?」
小君(そう言えば幻想さんが時間を止められるって言ってた気がする。でもまさか……そんなはずが……でも、事実皆、止まってる。何も聞こえない……)
小君「美子さん……? からかってるの?」
美子「」
小君「僕に話しかけようと口を開けて止まってる。どうしよう……」
小君(もしこれが本物なら……もう一度ここを押せば止まった時間を動かせられるかもしれない……)
カチ
美子「ん……その……この前はごめんね」
小君(動いた……本物だ。息なり色んな音が耳に入ってきて変な感じだ)
美子「……小君?」
小君「う、うん……僕が小さいのが悪いんだ……だから謝らないで」
美子「で、でも……」
史華「もう! 美子? 相手がいいって言ってるんだからさいいじゃん。」
小君(時間を止めて落ち着いてから動かしたおかげでなんだかいつものように苦しくない)
史華「あ、小君? 私、史華ねよろしく!」
小君「え、あ、うんよろしく……」
早苗「私は……早苗。よろしくね」
小君「うん……」
一真「女子は優しいなぁ」クスクス
信治「たちが悪いとも言うけどね」クスクス
一真「俺、ああいう奴嫌いなんだよな」
信治「俺も俺も、小さい。体格も心も何もかも」クスクス
一真「どうする?」
信治「小林にも飽きたしアイツにする?」
一真「そうだな」クスクス
信治「決まり!」クスクス
※※※
──昼休み──
ガタン
ベチャ
小君「あ……」
一真「やっべ! 悪い矮精!」
信治「おい一真何してんだよ。矮精の弁当が……」
一真「本当にごめん……どうしよ……えーっと」
小君「う、ううん大丈夫……」
史華「小君のお弁当どうすんのアンタら」
一真「わざとじゃないんだ。ごめん急いでて……俺のパンあげるから」
小君「え? あ、ありがとう……」
一真「まじでごめんな矮精。」
小君「うん……」
小君(さんざん、からかわれて苛められてきた僕だからこそ分かる……悪意に満ちた目、表情。あれはわざとだった。どうせこのパンにも何か仕込まれているに違いない)
美子「小君、はいこれ……」
小君「拭き取ってくれたんだ……ありがとう」
一真「アイツが食うの楽しみだなぁ」コソコソ
信治「特製、チョークの粉シュガーパン」クスクス
史華「全くアンタら腐ってるわね」クスクス
信治「お前が考えた案だろ」
史華「私も少し小君のこと苦手なんだもん♪」
小君(コソコソと話しているつもりだろうけど僕には聞こえてるからな。陰口を気にしていたら耳だけはよく利くようになったんだ)
小君(ただ……)
小君(……苦しい。初日でどうして……)
美子「小君……調子悪いの?」
小君「い、いや大丈夫……」
カチ
小君(無意識に時間を止めてしまった。やっぱりこの無音の世界は心地がいい。締め付けられていた心が解き放たれるようだ)
小君(幻想さんが作ってくれたこの時計が僕の心を調整してくれる。苦しみから解き放たれる。この世界が僕のものになったみたいだ)
小君「どうしよう。この特製チョークの粉シュガーパンだっけ……一真君たちが見ている以上食べるしかないか……」
小君「いや、食べる必要はないかも」
ガサゴソ
小君「やっぱり二つ買ってたんだ、このパン。これを取り替えたらいいんだ」
小君「これで大丈夫だ」
カチ
小君「いただきます」パク
一真「美味しいかな?」
小君「うん美味しいよ」ニコリ
信治「ブフゥ」
早苗「だ、大丈夫? 信治くん、突然むせて」
信治「うん……俺は至って普通だ」ギャハハハ
史華「そうそう、コイツは普通だから」クスクス
小君(そうやって笑ってろよ。君たちが食べているとき僕は心の中で笑ってやる)
一真「信治、俺たちも飯にしようぜ」
信治「あぁそうするか」
一真「アイツ、チョークパン上手いって言ってたぞ」クスクス
信治「子供の味覚って敏感なのにな」クスクス
一真「やっぱりこの普通のシュガーパンは旨いぜ」パクパク
信治「いやいや、チョークパンの方が旨いって」
一真「確かにな」クスクス
小君(大人の味覚は残念なんだね)
※※※
小君「ただいま~」ニコニコ
小母「あら、機嫌がいいじゃない。友達でも出来たの?」
小君「ううん、一人もできてないよ」
小母「あら……そうなの?」
小君「まあ良いことはあったかな」ニコリ
小母「まあそれは良かったわ。お母さん心配してたのよ」
小君「大丈夫だよ! 何だか僕、やっていけそうな気がするんだ」ニコニコ
小君(今日は息なり苛められたけどなんだか楽しかった)
小君(踊ってしまいたいくらい幸せだ。本当に簡単だな僕も)クスクス
小母(本当に良いことがあったのね……)ニコリ
小君「じゃあ僕は自分の部屋に戻るね」
小母「6時になったら下りてくるのよ! ってあ……ダメ小……行っちゃった」
小母「まあ、大丈夫よね♪」
佳菜「あ、お兄ちゃん。なんでいるの?」
小君「何でって酷いな。ここが僕の家だからだよ」
佳菜「もうお母さんのバカ。あれだけお兄ちゃんを上にあげないでって言ったのにぃ」プクー
佳菜(でも、あれお兄ちゃん何だか嬉しそう……)
紗知「え! 佳菜ちゃんのお兄さん? 会いたい見せてよ佳菜ちゃん」
佳菜「あ、ダメだって!」
紗知「いいじゃん見させてよ!」
紗知「え? この小さい人がお兄さん?」
小君「……」ザク
小君(やっぱり小さいよね……まあ仕方ないか。実際に小さいし。でもいつまでもそんなことで挫けていてはダメなんだ。僕は変わるんだこの時計で)
佳菜「お、お兄ちゃん……」
小君「こんにちは、紗知さん。妹をよろしくね」
ニコリ
紗知「あ、はい! 任せてください!」
佳菜「もう何言ってるのさ。ほら部屋に戻って遊ぼ。」
佳菜(お兄ちゃんきっと上手くいったんだね!)
小君(僕がこうやって笑ってるだけで皆が心の底から笑ってくれる)
小君(今まで僕、本気で笑ったことなかったからなぁ)
紗知「佳菜ちゃんのお兄さんって小さいのにカッコいいね!」
小君(カッコいいなんて言われたの初めてだ……)
佳菜「でしょ! でもお兄ちゃんにあまり……その小さいとか言わないでね」
紗知「そんなに気にすることなのかな?」
佳菜「まあ……仕方がないよ」
紗知「何かあったの?」
小君(佳菜……それだけは言わないでくれ)
佳菜「ううん……何もないよ。ただお兄ちゃんが気にしてるだけだから」
紗知「ふ~ん。まあこれからは気を付けるね。」
小君(本当にありがとう)
カチ
小君(なんだろう……今までこんなことにはならなかったのに)ムクムク
小君(これが、勃起? 初めてだ。初めて異性にカッコいいと言われて興奮した)
小君(考えを改めるだけでこんなに変われるんだ……)
佳菜「ううん何もないよ。お兄ちゃんが小さいとか言われたら落ち込むから」
紗知「もう! 佳菜ちゃんは本当にブラコンだな……」
小君(ブラコンって佳菜が僕のこと好きな訳ないじゃないか)
佳菜「もう! それを言わないでってば!」
小君(え、本当に佳菜のやつ僕のことを?)
カチ
小君「股間が……」ムクムク
小君「これが……勃起? 初めてだ。初めての股間の異変につい時間を止めてしまった……」
小君「くそ、佳菜の発言のせいでドキドキする」
小君「か、佳菜~動ける?」
佳菜「」
紗知「」
紗知は笑顔で佳菜は顔を赤く染めて止まっていた。
小君「止まっている人って本当に綺麗だ……あれ僕何を言ってるんだ」ドキドキ
照れている佳菜の頬を優しくつねる。
つねられても佳菜の表情は照れたままだ。
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