響子「あげて・もらって」 (9)

女子寮のキッチンで生クリームを泡立てている私。その傍では凛ちゃんが黙々といちごのヘタ取りに勤しんでいる。
お菓子作りについてはこの日のためにかな子ちゃんや愛梨ちゃんからコツを聞いてきたから……うん、大丈夫。

オーブンから漂う香りが部屋を満たし、頃合いかなと声を掛ける。

「凛ちゃん、ちょっと手伝ってもらえますか?」

今日は、私と凛ちゃんの誕生日。

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………
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数日前、女子寮で私たちの誕生パーティーを開いてくれると聞いたので、私は凛ちゃんにある相談を持ちかけることにした。

「うん、それは構わないけど……誕生パーティーの主役がケーキを作るって、変じゃないかな?」

「確かにそうかもしれません。でもそうしたいし、凛ちゃんにもお願いしたいんです!」

続けて理由を説明すると、凛ちゃんは納得してくれたみたい。

「凛ちゃんは普段お料理やお菓子作りをしますか?」

「いや、あんまり……足引っ張らないように努力するよ」

「そんなに気負わなくて大丈夫ですよ。私もお料理はできてもお菓子作りはそんなに得意じゃないので、2人で一緒に作りましょう!」

「響子はどうして料理が好きなの?」

「うーん、食べる人の心を満たしてあげられるから、ですかね」

………
……


それから、私は凛ちゃんにボウルを渡す。

「教えますから、泡立ててみてください」

凛ちゃんはぎこちなく手を動かすけれど、うまくいかないみたい。

「なかなか大変だね……ハンドミキサーを使えば、負担も少ないんじゃない?」

「手で泡立てたほうが、キメが細かくてやさしいクリームができるんですよ」

オーブンから焼き上がったスポンジ生地を取り出して、 一緒にクリームを塗っていく。

「普段はこういうことしないから、手際よく進める響子が頼もしく思えるよ」

「料理もお菓子も、作るときは共通の大切なことがあるんです」

「共通の……それは?」

「食べてもらう人の事を想いながら作ることです」

「……うん、とても大切なことだね。覚えとく」

凛ちゃんがやさしく微笑んだ。

女子寮のラウンジから、賑やかな声が聞こえてくる。
今ごろみんなで会場の飾り付けをしてるのかな。
誕生日の当人がケーキを作るのはおかしいかも知れないけど、それでも。


誕生日は、生まれてきたことをお祝いする日。
そして、お祝いされる側は、日頃の感謝をお返しできる日。
あげて・もらって……だからこそ、2人で作ることにした、私たちの誕生日ケーキ。

仕上げにいちごを乗せていって、しばらくしたら、いちごの入ったボウルの上でお互いの手が止まる。
いちごは残すところ、あと1個。

「一緒に乗せましょうか」

「うん、私も同じこと思ってた」

2人でいちごをつまんで、最後の1個を盛り付けて――
完成したケーキは、お店で売られるものよりどこか不恰好で、だけど素敵なもの。

「響子、誕生日おめでとう」

「ふふ、凛ちゃんも誕生日おめでとう」


さぁ、ケーキを会場に持っていこう。
たくさんのおめでとうと、ありがとうを込めて。

短いですが以上です。誕生日おめでとう。
ここまで読んでくださった方に、バースデーケーキを。

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