京子「プレゼントは奇跡の魔法」 / 結衣「ほんのり甘い、ブラックコーヒー」 (50)

あかりちゃんお誕生日おめでとう、という趣旨のSSがなぜか2つ出来てしまったので、今回はそれらをまとめて投稿します

そんなワケでまず『京子「プレゼントは奇跡の魔法」』を次レスから

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もうすぐ日付が変わる。
1年間、どれだけこの日を待ちわびていたことか。

私の大切な幼馴染にとって、記念すべき1日。
それが、今年もやってくる。







「あかり、誕生日おめでとー!!!!!」

「えへへ。ありがとう、京子ちゃん」




「まさかこうやって、日付を跨いですぐにあかりの誕生日をお祝いできる日がくるなんてなー」



電波時計が刻む針の音が告げる、午前0時。

私の部屋でテーブルを挟んで向き合う私たちは、満面の笑みを浮かべた。
あかりもすっかり夜更かしに慣れてしまったものだ。
というのも、一緒に遅くまで遊ぶことが増えたからなんだけど。
詰まるところ、私のせいなんだけど。



最初は母親や、結衣やちなつちゃんにもかなり怒られた。
あかりの早寝は健康でいる上で大切なことだから……とか何とか。
事実、私だって罪悪感の1つや2つないワケじゃない。
あかりとこうして2人で会うようになってからも、早寝なのは変わらずにいてほしかったところだった――。
そのことは、否定しない。




とは言ったものの。



「えへへ。あかりだってもう子供じゃないんだよ」



実はあかりだって満更でもなさそうな心中を口にしてくれるのだ。
あかりも、大人への仲間入りが……なんて言いながら、私と一緒に夜中まで過ごすようになった。
それを繰り返すうち、9時を過ぎても半眼を向いたあの怖くて可愛らしい顔をすることがなくなっていった。
今では、私が先に寝落ちして布団をかけてもらうなんてことも少なくないのだった。


「京子ちゃん」

「ん?」

「この1年間も、またよろしくお願いします」



「ふふっ。あかり、それ年明けの挨拶みたいだよ」

「あっ」



照れくさそうに微笑むあかり。

……早いけど、前言撤回。
やっぱりまだまだ子供っぽいところもたくさんあるかも。






ま、そういう話はおいおいするとして……。



「それじゃあかり、お待ちかねのプレゼントタイムだ!!」

「今年もプレゼント、あるんだねぇ」

「そりゃあモチのロンよー!」

「わぁい、何だろう……?」


「じゃじゃーん!!今年のプレゼントは、これだー!!」



私は部屋の箪笥を開き、隠していたそれを取り出して、テーブルの上に置く。
その正体に、あかりは少し呆気に取られているようだった。







「これって、話題boxじゃ……」

「見た目はね。今日のこの箱は、あかりに奇跡の魔法をかける箱だ!」

「奇跡の……魔法……??」

「……」

「……」



……あかりの半開きにした口は動かない。
できる限りツッコミやすくしたボケだというのに。
どんだけ良い子なんだか……。






いかん、ちょっと顔が熱くなってきたっ……!



「お、おいあかり!!何か喋ってよ、私が恥ずかしいじゃん!!」

「ご、ごめんね、京子ちゃん。嬉しいんだけど、どう喜んだらいいか分からなくって……」



ああー、失敗してしまった!!
天使あかりにこんな日までツッコミなんて野暮なことをさせようとしたのが間違いだったか……!!!!







ヘコむなあー……。
この手は来年から使っちゃいけないなあー……。


「とりあえず、引いてもいいかなぁ?」

「う、うん、引いていいよ!」

「よーし……京子ちゃんの魔法のステージ、開演だねっ」

「うぐっ、そ、そんなに気使わなくていいから!」



ヘコむなあー……!
その上刺さっちゃうなあーっ……!!



何が出るかなあー……。
おかしくなったテンションで変なものも書いた気がするし……。
しょっぱなであかりをイジるようなものが出なきゃいいけど……。






「うーんと……『奇跡の絵を描く』?」



お。

「そ、それが出たか」



絵は私の十八番だ。
これが真っ先に来てくれたのはまだ運が良かった。

ふー、と大きく息を吐いて説明し始める。



「私が今から即興で絵を描くから、あかりはそれを受け取って」

「ほんと!?」

「うん、ちょっと待っててね。あと、できれば何を描いてるかは見てからのお楽しみにしてほしいな」

「はーい」



楽しみだよぉ、とワクワクを隠さないあかりを横目に見つつ、私はペンを取り出した。
そして、スケッチブックの上でペンを走らせ始める。








思えば小さい頃から、私にとって絵は大切な取り柄であり、そして武器だった。



勇気が出なくて口に出せないもの。
怖がりなせいで得られないもの。
意気地のない私が願うもの。
全てを何もないところから思うままに作りあげられる、それは夢のような空間。






それを私に勧めてくれたのはあかりだった。
私の描いた絵を初めて、上手だと言ってくれたのもあかりだ。
いつだったか、そうやって私が描いたものを、魔法と形容してくれたこともあった。
私にとってそれは何よりの誇りだ。



そんなあかりの前で、予め構図だけを思い浮かべてぶっつけ本番で描く絵。
言うまでもなく、あかりが私を褒めちぎって調子づかせてくれている、とも言えるかもしれない。
言うまでもなく、私の手は内心の張り切りを隠せてないんだ、とも言えるかもしれない。
ま、きっとどっちもなんだろうな。



そんなことを頭の片隅に置きながら滑らせるペン先はいつだって、スラスラと心地の良い音を立てるものだ。






「できた!」

「わぁあ……あかりとミラクるんだぁ……!!」

「どう?」

「とっても――とーっても可愛い!!」



答えなんて、そのさっきよりも更に輝いた目を見れば一目瞭然だった。
それでもつい、感想をあかり自身の言葉で聞きたくなってしまう。


そのキラキラした表情にこちらもニコニコしつつ安堵した。
すると、あかりが突然何かに気づいたように声を張り上げる。



「あっ!京子ちゃん、ひょっとして……」

「ん、どうかした?」



「『奇跡の魔法』って、これのこと?」



「えっ」

「『奇跡』がミラクるんのことで、『魔法』は京子ちゃんが絵を描いてるのが魔法みたいって言ったことが関係してるんじゃないかなって」



「……お、おう!確かにそういう意味もあるぞ、よく気づいたなあかり!」

「えへへ……。やっぱりスゴいね、京子ちゃん」







ふふっ。
スゴいのは私のボケに意味を持たせちゃったあかりのほうだよ、全く。






「ねぇねぇ、次、引いてもいい?」

「うん、いいよ」



「じゃあ……えーい!――って、ちょっと京子ちゃん!『魔法で存在感を上げる』って何!?」

「あははは、次はそれかあ」

「んもーっ!」









「はー……、流石にそろそろ眠くなってきちゃったなあ」

「うん……そうだねぇ……」



笑顔の咲き乱れる楽しい時間はあっと言う間に過ぎていく。
気づけばもう、1時間以上プレゼントタイムを続けていた。






「おトイレ行ってくるねぇ……」

そう呟いて、目を擦りながら部屋を出ていくあかり。



そろそろ布団を出してあげようかと思って立ち上がった瞬間、私の携帯電話が震え出す。
こんな時間に、誰からだろうか。
手に取って表示されている名前を確認すると、考えられる選択肢の中では妥当な人物のものだった。






『あかり、ちゃんと喜んでくれるといいな』

「おう、上手くいったぜ!」

『えっお前、もうプレゼント渡したの!?』

「そりゃあ早いうちに渡したほうがいいかなーと思ってさ、日付を跨いですぐに」

『――お前、またあかりと一緒にずっと起きてたのか……』

「こんな時間まで起きてて電話してきた結衣に言われたくないんだけど」

『目が覚めて気になったから電話したんだよ。あかりのためにも、そのクセは早めにやめてやれよ?』


「はいはい、分かってるよ。あかりも流石に眠そうになってきたし、もう少ししたら寝るから」

『うん。――ところで京子、プレゼントは何にしたんだ?』

「あかりとミラクるんの絵を描いて、あかりに存在感を上げて、それから――」

『おいおい、もっとちゃんとしたプレゼントやれよ!何だよ存在感って!?!』

「それはギャグだよ!ってか、絵はちゃんとしてるだろー!」

『ったく、私が何も手伝わないとすぐこれだ」

「何が欲しいかなんて、直で聞くなんて流石に……!」



恥ずかしい、というのを口にするのさえまた恥ずかしい。
ああ、ダメだ。
また身体が火照ってきた。


『しょうがないな。じゃあ一応教えとくけどこの間、そろそろ新しい靴が欲しいってあかりが言ってたっけかな」

「ほんと!?」

『ああ。上手くやれよ、それじゃ私はまた寝るから』







そんなアドバイスを残して、電話は一方的に切られてしまった。
ああ、どうしよう……。






「京子ちゃん……?」

「あかり……」

「お布団、ありがとうねぇ……」

「あ、ああ。どうしたしまして」



「『奇跡の魔法』、もう少しやりたいなぁ……」

「えっ、まだやるの?もう眠いでしょ……?」

「大丈夫……あかり……平気だから……。えい……」


そんな私の戸惑いを解消してくれたのは、眠気眼のあかりが手に取ったお題だった。
今にも眠りに就きそうなその口が、なおも疑問をぼやく。



「……『魔法のような素敵なお出かけ』……?」

お出かけ……そうだ、よし!



「あかり、新しい靴が欲しいんだっけ?明日買いに行こうぜ!」

「えっ、なんで知ってるの……?」

「京子ちゃんに分からないことなんてないのだ!」

「えへへ、あかりとっても嬉しいなぁ――」



これなら、あかりの願いを叶えられる。
そう思っていると……。


ぽてっ



音を立てて、あかりはすぐ横の布団に倒れ込んでしまった。

やっぱり流石に無理があったか。
私のワガママとあかりの願望が重なってこんなことになっちゃったけど、日付を越えてまで一緒に遊ぶのは、まだしばらくお祝いごとの日だけにしておこうかな。






私は電気を消した。
魔法のステージの第一部は、とりあえず終幕ってところだろうか。
寝て起きたら、続きをまた頑張らなきゃ。



あかり、私が祝いたいっていう勝手なワガママに付き合わせちゃってごめんな。
いつも一緒にいてくれてありがとう。
それじゃ、おやすみ。






おしまい

続いて『結衣「ほんのり甘い、ブラックコーヒー」』を次レスから




オフィスの玄関先で見る、どんよりとした空の夕方。
薄いながらも切れ間のほとんどない雲が、あくせくする人々を笑うように流れていく。
左手には近場のコンビニエンスストアで買った、気合を入れ直すためのブラックコーヒー。
いつもは朝と夜の2度、1つ屋根の下で共に暮らす年下の幼馴染と共に、欠かさずコーヒーを飲む。
けれど冷たい音を立てて缶を開栓し、口に含んだコーヒーは、思わず咽せ返るほど苦かった。

勤務時間中に携帯が震えていたことを思い返し、手にして見るとグループチャットに新着が1件。
差出人は、予想通りその幼馴染だ。

『結衣ちゃん、今日の帰りは何時くらいになりそう?もし早いなら、今日は何かお話したいなぁ』




社会人1年目の私は、ちょうど仕事に対して大童にならざるを得ない苦境にあった。

学生時代に人1倍努力してきたおかげか、原則定時退社で残業代もきちんと出されるような優良企業を就職先として物にすることはできた。
それに、世のため人のために勤労に励むということに対しての覚悟も、自分なりに持っていたつもりだった。
しかしいざ実際にその苦難に向き合うことになると、やはり気が滅入ってしまうのはどうしても避けられない。
私の無知で無垢な想像よりも遥かに早く来てしまった、言うところの繁忙期なるもの。
そんな時期を通じて、大人としての義務を果たす厳しさを改めて痛感する日々が続いていた。






『ごめん。今日も遅くなるから、あかりは先に休んでて』

中身の半端に残った缶を片手に、もう一方の手で味気ないメッセージを送り返す。
その手には、じっとりとした汗が浮き出てくる。

ああ。
"今日も"。
申し訳なさが募る。
しかも明日は、彼女にとって記念すべき日だというのに。
胃がちくちく、きりきりと痛む。
俯きがちに吐いた溜息が街の喧騒に溶け込んで消えていく。



携帯はまたすぐさま震えて、返信を受け取ったことを告げた。

『そっか。大丈夫だよ、気をつけて帰ってきてねっ』

そのメッセージに、またしても私の胸が締め付けられた。
彼女の優しさを手に持ったまま、私はそれをぼんやりと眺め続ける。


ううん、それじゃダメだ。
ちゃんと返信して、お礼を言わなきゃ。

そう思って我に返ると同時に、上司からの招集がかかった。
ああ、と漏れ出たのは、声にさえならない声。



“ありがとう”。
その一言が、なぜかどうしても切り出せなくて。
何と不甲斐ないことか。
その虚しさは、既に微温くなったコーヒーの缶を握り締めることでしか発散できなくて。







オフィスルームに戻ると、同期の面々は既にだいたい揃っていた。
今日の残業も頑張ろう、ここを乗り切ればまたのんびりできる時間が増えるから、と口々に話す。
先輩方も続々と思い思いの休憩を終え、表情を切り替えて来る。
未だにパートナーのことが頭を過ってしまう私を、皆置いていくようにして。









帰宅したのは、12時を過ぎた頃だった。
左手に小さな手提げ箱を携えて、なるべく音を立てないように玄関の鍵を開ける。
あの早寝の幼馴染は、とうに寝ているだろうから。
きっとそのハズだ、と私は踏んでいた。

しかし、予想に反してリビングの灯りはついたままだった。
その光景に、一瞬目を疑う。
あかり、と無意識に小さくその名を呼び、私は早足で部屋に駆け込む。


あかりは、横に布団の用意までしながら、テーブルに頭を伏せていた。
その上に並べられていたのは、料理を普段担当していないことを考えれば十分すぎる量のご飯。
どれもこれも私のためのものであろうことは、彼女の性格上想像に難くなかった。

(あかりが、ここまで……。あかりに、ここまで……)

頭の中を掠める目の前の事実に、思わず立ち眩みがした。
膝を突いた衝撃から辛うじて死守したその箱を、やっとのことでテーブルの上に置く。



「っ……んう……結衣ちゃん……?」

(あっ)


「おかえり……」

「あかり……」

「えへへ……」



その物音で、私は彼女を目覚めさせてしまった。
しばらく息が詰まり、時計の針の音だけが部屋に鳴り響く。


その沈黙を先に破ったのは、彼女のほうだった。



「結衣ちゃんだ……ずっと待ってたんだぁ」

「そんな、無理しなくたって……」



「だってお話したくって……、もっとそばに……いたくって」

「泣くなよ、あかり……」



申し訳なさが、また募ってくる。
せめてあかりが湛える涙を、私の手で拭ってあげたかった。

でも、それはできなかった。


「……結衣ちゃんだって」



先に相手の感情を捉えたのは、あかりの指だった。



「……えっ」

「泣いてくれるなら……あかりは全部受け止めたい」







その先の返事をすることは、私にはもうできなかった。







「うっ……ううっ……。ぅああぁ……」






2つの唇が、自然と重なる。



あかりだって、きっと寂しい思いをしていたに違いなかった。

なのに、私は本当の意味でそれに気づいてあげられていなかった。

真にあかりに寄り沿ってあげるということが、今まで足りていなかった。

私がやっていたのはただ、自分を責めているだけだった。

あかりのことを考えている自分は、その上にしか成り立っていないものだった。

あかりにだって、私より強いところはいくらでもあった。

私に必要なのは、あかりを信頼して待っていてもらうことだった。

何より私は、その事実に向き合うことさえできていなかった。



涙が、止め処なく流れ出る。
嗚咽が、耐え間なく響き渡る。



それなのに、本当に伝えなければならない言葉が、まるで出てこない。






「結衣ちゃん……何かしてほしいこと、ある?」

「あかりがっ……、っ、うっ……」

「うん……。あかりが、叶えてあげる」

「ぁ――あかり、が……、欲……しい……」

「分かった。上手くできるか分からないけど、結衣ちゃんがしてほしいなら――」







私の意識は、そこで途切れた。








気づくと私を包んでいたのは、部屋の中へと降り注ぐあたたかい朝の日射し。
慣れないことで乱れたであろう、私のスーツはどこへやら。
布団の中の自分の身体は一糸まとわぬ姿だった。



私は、あれからどのくらい泣いたのだろう。



頭の片隅でそんなことを考えつつ、身体を起こして時計を見る。
ここ最近にしては、比較的早い朝だった。
隣りの布団は既に畳んで整えられていた。私しかいない部屋の外からは、どこか芳しい香りが入り込んでくる。
私が座る場所に置かれていたのは、昨日とは別のスーツ。
それを身に付けて、私は香りの待つ廊下へと出た。


「結衣ちゃん。おはよぉ」

あかりはキッチンで、ご飯の支度をしてくれていたようだった。



「う、うん。おはよう」

少し戸惑ってしまい口篭る私を他所に、あかりは続ける。

「結衣ちゃん、身体は平気?」

「ああ。あかりの、おかげだよ」

「そっか、ほんとに良かったぁ」

「……うん」






昨夜は口にすることのできなかった、あかりが作ったご飯。
今朝ようやく、2人で配膳して一緒に食べるご飯。

「さ、食べよ。結衣ちゃん」

「そうだね。じゃあ、いただきます」

「いただきます」



「――ねえあかり……昨日は、その……ごめんな」

「あかりだって、もう子供じゃないんだよ。結衣ちゃんほど、大人ってわけでもないとは思うけど……」

「いや、あかりはもう大人だよ」

「そうかな……えへへ」

「うん」


「そういえば結衣ちゃん、ケーキ買ってきてくれたんだよね」

「そりゃそうさ。お誕生日おめでとう」

「ありがとう、結衣ちゃん。帰ってきたら、一緒に食べようね」

「そうだね」



久し振りに、談笑しながら一口一口ゆっくり味わうご飯。
それは、思わず微笑んでしまうほどおいしいものだった。






食事を終えて後片付けをした私は、洗面所へと向かった。



覗き込んだ自分の表情は、なるほどいくぶん晴れやかに見えた。

頬をパチンと、強めに叩く。

今度は、上手く切り替えができるように。

顔を洗い、涙の跡を落とす。

"いつもの表情"が、ちゃんとできるように。

そしてもう一度、顔を整える。

同じ涙を、もう流さないように。

あかりのためにも、自分のためにも。






「そうだ結衣ちゃん、コーヒー」

そして、洗面所を出て出勤しようとしたところで、あかりに呼びとめられる私。



「そういえば、今朝はまだ飲んでなかったっけ――って、あかり!何してるんだよ!?」

振り返った私は、思わず声を張り上げてしまう。



「何って、結衣ちゃんのコーヒーにちゅって――」

「いやそうじゃなくて!なんでそんなことを――」

「なんでだろう。えへへ」



あかりは、大人のこんな部分まで覚えてしまったのか……。
別の意味で、少し先行き不安かもなあ。

苦笑いしながら口にしたコーヒーは、ちょっぴり甘い気がした。
飲み干したマグカップをあかりに預け、私は荷物を手に提げる。


「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

「それじゃ、行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい」



「あ、そうだ」



私は大切なことを思い出した。

「結衣ちゃん、どうかした?」

首を傾げるあかりのほうを、もう一度向き直す。
ずっと言いそびれていた大切な言葉を、今度こそ伝えるために。







「あかり。いつも、私を支えてくれてありがとう」






おしまい

あかりちゃんお誕生日おめでとう

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