モバP「説明しよう!Fruity Girlsとは桃華・ありす・梨沙の3人から成るユニットである」 (17)


急に応接室に呼ばれたと思えば、プロデューサーから謎の説明を受けました。
意味が分かりません。

モバP「…というわけなんだけど」

橘ありす「というわけなんだけど。では、ありません。もっと論理的に説明してください」

すかさず私はそう返しました。

櫻井桃華「橘さんのおっしゃる通りですわ。プロデューサーちゃま、もう少し詳しくお願い致しますわ」

桃華さんも私に続けるようにそう言います。

P「あ、ああ。桃華もありすも梨沙も名前に果物が入ってるだろ?」

返ってきたのそんな返事でした。

的場理沙「あー、確かにね。アンタにしてはいい目の付け所じゃない」

両腕を腰に当てて傍観していた梨沙さんがようやく事態を呑み込んだようで口を開きます。

P「お褒めにあずかり光栄だ。それで、ある企業から新商品のPRにうちのアイドルを使わせてほしいってオファーがあったわけ」

桃華「なるほど。その新商品が果物に関係のあるもの、というわけですわね」

P「その通り」

梨沙「じゃあ最初からそう言いなさいよ」

P「それは…その、返す言葉もない」

あの、プロデューサー。大人なんですからもう少し威厳をですね。


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桃華「それにしてもFruity Girls…可愛らしい響きですわね」

ありす「はい。ユニット名は素敵です」

ユニット名は。

梨沙「まぁ及第点、ってトコかしら」

こんな感じでプロデューサーは干支が一回り以上離れた子から次々に毒々しい言葉を投げかけられている始末です。

P「……ごめんって。ノリと勢いで新しい仕事を発表したのは悪かった」

桃華「ふふ。プロデューサーちゃまをからかうのもこの辺りにして、本題に入りましょうか」

梨沙「そうね。時間がもったいないわ」

P「なんで12歳3人に進行を乗っ取られてるんだ俺は」

あなたが不甲斐ないからです。

ありす「それで、そのお仕事の具体的な内容の方は…」

P「よくぞ聞いてくれた。これが資料です」

そう言って手渡された資料は左上をステイプラーで留められていて、それなりの分厚さがありました。

梨沙「へぇ、『新感覚フルーツ体験!7種のフルーツタルト』?」

梨沙さんが表紙で踊る文字列を読み上げます。

P「ああ。有名スイーツ店と全国に展開する大型ショッピングモールのコラボ企画らしくてな」

ありす「それって、イオ…」

桃華「橘さん」

ありす「…軽率でした。気を付けます」

P「名前を出してはいけないあの企業」

商店街を駆逐するあの企業です。


梨沙「PRのためのCMの撮影と発売日に店頭で簡単なトークイベント…だけ?」

私達は渡された資料を一枚、二枚とぺらぺらとめくりながらななめ読みを進めます。

P「ああ、まぁそんなとこだな。先方の都合で雑誌掲載用の写真なんかも入ってくるかもしれないけど」

ありす「では、特別にレッスンなども必要ないんですね」

比較的簡単なお仕事だと思いました。

P「いや、コラボCMに曲を一曲録り下ろしてもらう」

梨沙「アタシ達の曲!?」

曲を録ると聞いた梨沙さんが目をキラキラしながらそう尋ねました。

P「それがまたちょっと複雑なんだけど、曲自体は向こうが用意してくれててな」

桃華「私達のものになるわけではありませんのね」

P「まぁ、今後もその曲を使ってCMを作ることも視野に入れてるのかもな。大人の事情ですまん」

ありす「大丈夫です。プロデューサーに文句を言ってもどうにもならないことは分かってますから」

プロデューサーのせいではありませんし。

P「それはそれでヘコむなぁ」

ですから、ヘコまないでください。


一通りの説明を終え、沈黙が訪れるとプロデューサーは手をぱんと叩き注目を促します。

P「そんなわけで撮影の日までにダンスをマスターすること。
 収録の日までに歌いこなせるようにすること。以上2点を目標に頑張って欲しい」

仕事をするときのこの人とさっきまでのおちゃらけていたこの人はやっぱり別人なのでは。
そう思う程に真剣な口調でした。

桃華「プロデューサーちゃま。自分が何をおっしゃっているかお分かりですの?」

P「もちろん」

ありす「なるほど。よく分かりました」

桃華「ええ。私達もプロですもの」

梨沙「そうね、やってやろうじゃない。受けて立つわよ」

二人も信頼して任されている。という実感を得たのか意気揚々としています。

P「そう言ってくれると思ったよ。この世界に年齢なんて関係ない。
 君らが勝ち取った仕事だ。楽しんで」

桃華・ありす・梨沙「はい!」

私達の声が初めて揃った瞬間でした。


***



招集をかけられた二日後、ダンスレッスンが始まりました。

トレーナー「ワンツー、ワンツー。橘! 左腕が遊んでるぞ!」

ありす「はい! すみません!」

弱音は吐きません。

私の両翼を担っている二人もそれは同じです。

トレーナー「櫻井! もうバテたか!」

桃華「…まさか。そんなわけありませんわ」

トレーナー「そうだ、その意気だ。動きは止めるな」

私達の前で手を使ってリズムを取りながら絶えず檄を飛ばし続けるトレーナーさん。

今では慣れっこ…ではありませんが、何度も経験しているものです。

しかし、トレーナーさんを憎いと思ったことは一度としてありません。

的外れなことを言ってるわけではないのですから。

トレーナー「的場! 勝手にアレンジするな!」

梨沙「分かってるわよ!」

トレーナー「分かってるなら振り付け通りに踊れ!」

梨沙「………はい!」

こんな日々が1週間続きました。


本来なら1週間と半分続くはずでしたが、急遽ボーカルレッスンに移行することとなったのです。

理由ですか? それはもちろん私達が優秀だからです。それ以外にありません。

そして、優秀な私達は1日オフをもらえることとなりました。

私は各々が自宅で休養することを提案したのですが、

桃華さんが「親睦を深めるためにどこか出かけましょう」と言ったのでした。

急に決まったオフですから予定が入ってるはずもなく、断る理由もありませんでしたので私も梨沙さんも賛成しました。


***



そうして約束の日がやってきました。

本日の予定は梨沙さんの家で過ごすというもので、梨沙さんが提案したものでした。

変装などに気を遣う必要も大人に引率を頼む必要もないため
私も桃華さんもナイスアイディアと言わんばかりの同意をしたのを覚えています。

そして今。私は母に今日は友人の家で遊んできます。と伝えたところ「人様の家に上がるのだから何か持っていきなさい」と言われ
手渡された菓子折りを左手首にぶら提げて、梨沙さんの家のインターホンの前に立っています。

ごめんください? こんにちは? 困りました。こういう場合はなんとご挨拶したらいいのでしょう。
なんてまごまごしながらインターホンを押しあぐねていると、横から手が伸びてきてインターホンを押しました。

桃華さんです。桃華さんは「あら、橘さん」なんて言いながらふふふと笑っています。

桃華さんがインターホンを押した数十秒後、「はーい」という可愛らしい声が聞こえました。

その声に対して桃華さんが「櫻井です。今日はお招きいただき…」と言い終わらないうちに
とてつもない勢いでドアが開き梨沙さんが出てきました。

梨沙「遅いわよ! 上がりなさい!」

あの、梨沙さん。まだ約束の時間まで30分あるんですが。


私と桃華さんは揃って「おじゃまします」と言って靴を揃え、梨沙さんのおうちの中へと入っていきます。

梨沙さんはというと「こっちよ!」などと言いながら廊下をずんずん進んで行き、リビングへ一足先に行ってしまいました。

私達がリビングに入るとキッチンの方から「適当に座ってなさい!」と声が飛んできます。

言われるがままにソファに腰掛け、梨沙さんを待っていると大きなトレンチにグラスを3つ乗せた梨沙さんがやってきました。

…流石にそれは危なくないですか。

そんな私の危惧に反して、梨沙さんは無事にテーブルまでドリンクを運び「飲んでいいわよ」と言うので
そのお言葉に甘えて口を付けることにしました。

いただいたジュースを一口飲んだ後に、私と桃華さんは持ってきた手土産を渡します。

梨沙「あら、なんか悪いわね…」

照れ臭そうにする梨沙さんが印象的でした。


それから、私達は持ってきたお菓子をつまみながら談笑をすることになりました。

専らの話題は今回のお仕事について、でした。

梨沙「それで、アンタ達はどう思うわけ?」

ありす「どう、とは…」

梨沙「今回の仕事よ。アイツが持ってきたフルーツの」

桃華「私は大満足ですわ。何より梨沙さんや橘さんとユニットを組めたことが嬉しくて」

梨沙「…恥ずかしげもなく言うわね」

同意見です。

梨沙「それで、桃華はこう言ってるけどアンタはどう思ってるのよ」

ありす「ありそうでなかった組み合わせと、同世代のアイドルと切磋琢磨し合える環境を…」

梨沙「あー、もう。アンタって分かんないわね!」

……?

梨沙「アンタは楽しいの? どうなの?」

ありす「えっと…それは」

もちろん、楽しいのですが直接口に出すとなると気恥ずかしいもので。

梨沙「アンタ、ホンット煮え切らないわね!」

ありす「アンタ、アンタ言わないでください!」

梨沙「じゃあなんて呼べばいいのよ!」

ありす「私にはちゃんと橘という名前があります!」

梨沙「桃華は桃華って呼んでるのにアンタだけ橘じゃ寂しいじゃない!!」

ありす「…………え?」

梨沙「あーーーーーーっ! 今のナシ! 今のナシよ!」

桃華・ありす「ぷっ…あはははははははは」

梨沙さんの意外な一面に私も桃華さんも思わず吹き出してしまいました。

梨沙「ちょっと!桃華まで笑ってんじゃないわよ!」

ありす「…仕方ありませんね。」

梨沙「何よ!」

ありす「ありす、でいいですよ。特別に許可します」

梨沙「分かったわ……ありす」

ありす「はい。お呼びですか?」

梨沙「もう! からかうんじゃないわよ!!」

桃華「それでは、私もありすさんと呼ばせていただいても?」

ありす「…仕方ありませんね。不公平ですから」

桃華「はい。ではありすさん、と」

ありす「…」

桃華「…」

梨沙「なんで桃華のときだけお呼びですか? って聞かないのよ!」

桃華・ありす「ぷっ…あはははははははははは」

またもや、二人して大爆笑。

梨沙「笑ってんじゃない!!」

そうして、この日は3人で楽しくオフを過ごしました。


***



オフの日の翌日。私達は現実へと引き戻されます。

レッスン漬けの毎日とその中日に撮影。撮影を終えると先方の指定したスタジオで曲を収録しました。

しかし、オフを共に過ごしより一層仲良しになった私達の前ではベテラントレーナーさんも敵ではありませんでした。

嘘をつきました。ベテラントレーナーさんはダンスレッスンを担当してくださったトレーナーさんより厳しいのでとても大変でした。

ボーカルレッスン中で印象深いことと言えば

ベテラントレーナー「的場! 何のためのパート分けだ! 言ってみろ!」

梨沙「…自分の音域に合ったパートを歌うため」

ベテラントレーナー「分かってるなら自分のパートを全力でこなせ!」

梨沙「はい!」

このように少しだけ、ダンスレッスンの頃よりも
梨沙さんは素直にトレーナーさんの言葉を聞くようになりました。
少しだけ。


撮影も終えた。

収録も終えた。

となれば、私達を待つのはトークイベントのみです。

トークイベントとは名ばかりで、
サプライズに私達が登場しPR曲を歌って踊り、会場の人々に試食を配るというものです。

現在、私達はワイヤレスのマイクを一本ずつ手にして舞台裏で待機中。

梨沙さんは「まだなの」と不満そうです。

そんな梨沙さんの我慢が限界に達するかと思われたその時、司会の方が大きな声でイベントを始める旨を伝えました。

司会「会場にお集まりの皆さん! 長らくお待たせいたしました!!」

わあ、という歓声が波のように押し寄せ、それが収まると再び司会の方が口を開きます。

司会「さっそく、新商品の試食…といきたいところですが! その前に! お聞きいただきましょう!」

来ました。

私達の出番です。

梨沙「行くわよ。準備はいい?」

桃華「ええ。問題ありませんわ」

ありす「はい」

梨沙「ありす! リーダーなんだから何か言いなさい!」

では。

ありす「Fruity Girlsの初舞台です。次もこの3人でお仕事をできるように結果を持ち帰りましょう!」

梨沙・桃華「ええ!」

果実を連想させるかのような楽しげな前奏と共に私達は踏み出します。

きらきらしたスポットライトを浴び、瑞々しく輝く果物のように。



おわり

ありがとうございました。

別にええやんけ!!

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