渋谷凛「ハンバーガー」 (28)
P「凛。腹、空いてないか?」
凛「……いきなりどうしたの? プロデューサー」
P「いや、さっきの仕事、結構キツかったからな。どうだろうな、と思って」
凛「プロデューサーが……じゃなくて?」
P「バレたか」
凛「バレるよ、そりゃ。……でも、うん、私も、ちょっとお腹減ってるかも」
P「お! じゃあ行くか? 行ってもいいか?」
凛「うん。あ、でも、ぺこぺこってわけじゃないから、ちょっとしたものがいいかな」
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P「……ぺこぺこ?」
凛「え? ……あ、いや、その……忘れて」
P「ぺこぺこ……ぺこぺこ、ねぇ」
凛「……そんなに言わないでよ、もう」
P「凛が『ぺこぺこ』とか言うとかわいくて、つい」
凛「……かわいくない」
P「かわいいよ」
凛「うるさい。やっぱり何も食べずに帰る?」
P「それは困るな。俺はぺこぺこだから」
凛「……プロデューサー。さすがに怒るよ」
P「ごめんごめん、許してくれ。もう言わない」
凛「……その言葉は信用できないけど、もういいよ。早く行こう、プロデューサー」
P「お、優しい。ありがとな、凛」
凛「……その言い方もむかつくけど、どういたしまして」
――店の前
凛「ここは……ハンバーガーのお店?」
P「まあ、『バーガー』って名前に付いてるしな。というか、凛は来たことないのか?」
凛「うん、たぶん」
P「そうなのか。意外だな」
凛「意外、って……そこまで意外?」
P「いや、そこまで意外ではない」
凛「どっちなの?」
P「んー……凛なら来たことがあってもおかしくないと思っていた、程度だな」
凛「それじゃあ意外じゃないんじゃ」
P「確かに。これが加蓮なら意外って言ってもおかしくなかったと思うが」
凛「加蓮は……まあ、確かにね。加蓮はこういうところも好きそうだし」
P「まあ、加蓮はもっと身体に悪そうなのを好みそうだけどな」
凛「プロデューサーの中の加蓮はどういう味覚をしてるの……?」
P「身体に悪いものほど好みそう?」
凛「……否定したいけど、加蓮ならその可能性もありそうだね」
P「もし本当にそうなら注意したいところだが」
凛「注意したら『うざい』って言われたりして」
P「もし言われたら奈緒に泣きつく」
凛「そこで奈緒なんだ」
P「奈緒なら俺が泣いてるってだけで心配してくれそうだからな」
凛「それ、奈緒に言ったら絶対怒られるよ」
P「でも、その後に『ま、まあ、Pさんが泣いてたら心配すると思うけど……』とか言ってくれそうだから問題ない」
凛「……今の、奈緒のものまね? 気持ち悪いからもうやらない方がいいよ」
P「きもっ……その言葉は、ちょっと、その、傷付く……」
凛「それは傷付くんだ……というか、プロデューサー。ずっと店の前で喋ってるけど、そろそろ入ろうよ」
P「ん、そうだな。ありがとう、凛。入ろうか」
凛「お礼を言われるようなことじゃ……まあ、うん、入ろっか」
――店の中
P「凛は何を頼む?」
凛「私は……プロデューサーのオススメは?」
P「俺のオススメ?」
凛「うん。私は初めてだけど、プロデューサーは初めてじゃないんでしょ? それなら、オススメとかあるかな、と思って」
P「んー……そうだな。この店の名前そのままのこれか……初めてなら、普通の『ハンバーガー』かな。ここはバンズとパティが良い。それそのものの良さが感じられるから、割りとオススメだな」
凛「それじゃあ、『ハンバーガー』の方にしようかな。この店の名前の、も気になるけど……」
P「それなら、俺がこれを頼むから、一口食べるか?」
凛「いいの?」
P「もちろん」
凛「それじゃあ、お願いしようかな」
P「そうか。なら――っと、そう言えば、俺は飲んだことないが、ここはスムージーもおいしいらしんだが」
凛「そこまではいらないかな。お腹がいっぱいになっちゃいそうだし」
P「それもそうか。じゃあ、注文してくる。凛は適当に座っててくれ」
凛「うん、わかった。ありがと、プロデューサー」
P「どういたしまして」
――
P「こちらハンバーガーになります。渋谷様」
凛「誰?」
P「ウェイター?」
凛「そうだったんだ。ありがと、ウェイターさん。チップは必要?」
P「あなたの笑顔が最高のチップですよ、お客様」
凛「何かの映画の台詞?」
P「さあ? ありそうだけどな」
凛「うん、ありそう。奏が嫌いそうな映画の台詞」
P「なんだよそのピンポイントな感想……確かに好きじゃあなさそうだが」
凛「でしょ? まあ、早く食べよっか。冷めたら嫌だし」
P「ん、そうだな。それじゃあ、いただきます」
凛「いただきます」
凛(それじゃあ、ハンバーガーを……っと)ヒョイ
凛(ん、あたたかい。それに、なんだか、バンズがふかふかしてる……手触りが良い)フニフニ
凛(こうやって触っているだけで、ちょっと、楽しいかも……まだバンズを触っただけだけど、おいしそう)
凛(とにかく、食べてみよう……)パクッ
凛「……ん」
凛(……おいしい。プロデューサーの言った通り、かも。バンズとパティがおいしい。シンプルだけど、だからこそ、その良さがわかる、というか)
凛(バンズはふかふかで、あたたかくて……これだけで、おいしいパン、って感じ。甘み、みたいなのもほのかに感じる。これが小麦の甘み、なのかな)
凛(パティもおいしい。『お肉』って感じがする。ジューシーで、肉々しい。お肉のおいしさがわかる)
凛(これは……うん、思ったより、おいしい。いつも食べてるハンバーガーとはどこか違うような気がする。ハンバーガーって、『料理』なんだ、って……そんなことを思う)
P「どうだ? 凛」
凛「……おいしいよ、プロデューサー。思ったより、おいしい」
P「それは良かった。凛がそう言ってくれて嬉しいよ」
凛「嬉しい、って……どうして?」
P「んー……自分の好きなものを好きって言われることは嬉しいだろ? 凛をプロデュースしてるのと……はちょっと違うが」
凛「? ちょっと違う、って?」
P「大切な人に自分の好きなものを好きって言われている、ってところが違うな。凛を好きでいてくれる人たちもそりゃあ大切な存在なんだが、凛は特別だからな」
凛「……プロデューサー、それ、わざと?」
P「は? 何が?」
凛「……べつに。ただ、自覚がないって罪だな、って思っただけ」
P「……意味がわからん」
凛「わからなくてもいいよ。わからないからプロデューサーはプロデューサーなんだと思うし」
P「俺、悪口言われてるのか?」
凛「ううん、褒め言葉だよ」
P「よくわからんが……まあ、褒め言葉ならありがたく受け取っておくか」
凛「うん。ありがたく受け取ってよ、プロデューサー」
P「ありがたい……渋谷様……」
凛「ふふっ……何それ」
P「ありがたい気持ち?」
凛「全然伝わらないんだけど」フフッ
P「そうか? おかしいなぁ……って、こんなことやってると冷めるな。凛、こっちも食べるか?」
凛「あ、そうだね。それじゃあ、もらおうかな」
P「ん、食え食え」ヒョイ
凛「えっ」
P「ん? どうした? 凛」
凛「えっ、と……なんでもない」
P「そうか。それじゃあ……あ、俺も凛の、もらっていいか?」
凛「……うん」ヒョイ
P「ありがとう、凛。それじゃあ、もらうよ」
凛「うん……」
凛(……そのまま渡す、って、プロデューサー、どういうつもりなんだろ)
凛(いや、たぶん、自分でハンバーガーを割って食べろ、ってことなのかもしれないけど……どうやって分けようかな――って!)
凛(プロデューサー、私の食べたところから……!?)
P「……ん? 凛、どうかしたか?」
凛「え? ……な、なんでもない」
P「そうか。じゃあ、改めて……」パクッ
凛(あっ……今の反応、プロデューサーは何も気にしてなかった、ってことだよね)
凛(……なんか、ちょっと、むかつくかも)
凛(……もう、いいや。私も、そのまま食べよう。プロデューサーと、間接……とか、もう、そんなの、気にしない)
凛(それじゃあ、一口……)パクッ
凛「……あ」
凛(おいしい。うん、おいしい。バンズとパティは一緒だけど、この、小松菜とトマトが……うん、良い。あと、このタルタルソース……これは、わさびの味、かな。なんだか、すごく良い)
凛(何と言うか、さわやかな感じ。バンズとパティだけでもおいしいんだけど、一緒になって、さらにおいしくなっているような……普通のハンバーガーはハンバーガーで、シンプルで良かったけれど、こっちはこっちで、すごくおいしい)
凛「……プロデューサー」
P「ん?」
凛「ありがとう。おいしかったよ」
P「そうか。じゃあ、凛はそのままそれを食べるか? それとも、また交換するか?」
凛「また、って……プロデューサー、本当に気にしてないんだね。それか、気付いてない?」
P「気付いて……って、何が?」
凛「……やっぱり」
P「やっぱり、って……いったい、何のことだ?」
凛「それじゃあ、問題。プロデューサー。人が口を付けたところに他の人が口を付けることをいったい何と言うでしょう。ヒントは『○○』キス」
P「そりゃ、間接……あ」
凛「気付いた?」
P「……気付いた」
凛「そう。それで、交換、する?」
P「……これで交換するとか言ったら凛と間接キスしたいって言ってるようなものだろ」
凛「もうしてるけどね」
P「それはそうだが……気付く前と後じゃ違うだろ」
凛「そうだね」
P「だから……ん? そう言えば、凛は気付いていたんだよな」
凛「うん」
P「それで口を付けた、ってことは……」
凛「……」
P「……」
凛「……この話、もうやめない?」
P「そうだな。やめよう。冷めるしな」
凛「うん。冷めるしね」
P「それじゃあ、改めて、いただきます」
凛「いただきます」
――店の外
凛「ごちそうさま、プロデューサー。おいしかったよ」
P「それは良かった。お腹はもうぺこぺこじゃないか?」
凛「……それ、まだ覚えてたの?」
P「忘れるわけないだろ? あの渋谷凛が『ぺこぺこ』なんて、な」
凛「『もう言わない』って言ったのは忘れてるみたいだけどね」
P「確かに。すまんな、凛」
凛「まあ、べつにいいけど」
P「お、いいのか?」
凛「他の人には言わないでほしいけど、まあ、二人きりの時なら、ね」
P「他の人って……つまり、未央や加蓮?」
凛「……その二人に言ったら私が知ってるプロデューサーの恥ずかしいこと事務所中にバラすから」
P「んっ……それは、さすがに困るな」
凛「なら、もう言わないでね」
P「わかった。凛と二人きりの時だったら、思わず言ってしまうこともあるかもしれないが……」
凛「それはもういいよ。あんまりにもうざかったらうざいって言うかもしれないけど」
P「……程々にする」
凛「ん」
P「それじゃあ、帰るか。どこか寄りたいところとかあるか?」
凛「特にないかな。プロデューサーは?」
P「ないな」
凛「うん、それじゃあ、帰ろっか」
P「ああ。……帰ったら仕事かぁ」
凛「私は……レッスンでもしようかな」
P「あんまり根を詰め過ぎないようにな」
凛「プロデューサーもね」
P「俺は……まあ、そうだな、身体を壊して、お前らをプロデュースできなくなったら嫌だからな」
凛「……プロデューサー、仕事を嫌だー、とか言ってる割に、かなりの仕事人間だよね」
P「凛に言われたくないけどな」
凛「そう?」
P「自覚なしかよ。お前もかなりの仕事人間だと思うぞ」
凛「もしそうなら、プロデューサーに似たのかもね」
P「俺に……って、ご両親に、じゃないのかよ」
凛「それもあるかもしれないけど……プロデューサーが頑張っているから、私も――私たちも、頑張ろうと思えるんだよ」
P「そういうもんか?」
凛「そういうものだよ」
P「そうか。……それなら、俺もある程度は息抜きしていかないとな」
凛「うん。私たちだったら、いつでも付き合うから」
P「……ありがとな、凛」
凛「こちらこそ、いつもありがとう、プロデューサー」
P「……俺たち、なんでこんな話してるんだ?」
凛「さあ?」
P「……帰るか」
凛「うん。帰ろう。私たちの、事務所に」
終
終わりです。読んで下さってありがとうございました。
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