【艦これ】ノッハ・アイン・メランジェ【Graf Zeppelin】 (56)

ここでは初めてなので、何か間違ってたら言ってください。

※フェティシズム注意

"Schlafe…… schlafe…… holder, s??er Knabe……"

 カリコリと音を鳴らすミルに合わせて、囁くような歌声が紡がれる。
 目を閉じてその声に聴き入りながら、俺はくるくると手を動かしていた。

"leise…… wiegt dich…… deiner Mutter Hand……"

 安らかな声音に、思わずうとうとしそうになる。
 豆を挽き終わって空回りするハンドルに気づいた頃には、既に湯が沸々と音を立てていた。
 ミルの取っ手を引いて粉を出すと、ふわっと珈琲の香りが広がる。

「……久し振りだな、挽きたての香りは」

 背後からひょっこりと妻が顔を出す。
 肩越しに香気を楽しみ、ご満悦の表情だ。

「Graf、あの子は寝たのかい?」
「ああ、ぐっすりだ。 全く、誰に似たのかな?」

 そう言うと、彼女はくすくすと笑った。

「昔のAdmiralは執務中だというのに、何度も居眠りしていたからな」
「耳が痛い話だ……」

 Grafは育児のため、暫く鎮守府を空けていた。
 立て続けに発動される大規模作戦に付きっきりな俺に代わって、子供の世話や家事の一切を担ってくれていたのだ。
 作戦が一段落し、珍しく長期の休暇を貰えた俺は、家族揃っての団欒を楽しんでいた。

「いつもありがとな」
「ん」

 労いに頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうにそれを受け入れた。
 ンフー、と吐息を漏らしながら頭を擦りつけてくる様は、さながら子猫のようだ。
 相変わらず、一児の母とは思えないほど、彼女は可愛らしい。

「今日はZ3が遊びに来てくれたんだ」
「へぇ……そう言えば、今日は非番だったか」
「ああ。 あの子と、私の代わりに遊んでくれてな……」

 久々にやりたい、と言ってサイフォンに珈琲粉をセットするGrafに代わって、俺は寝室のベッドに眠る我が子を見ていた。
 子守唄で寝かしつけられて、すっかり眠っている幼子の頬を、ゆっくりと撫でる。
 安らかな寝顔が、少し微笑んだような気がした。

「『目の形は提督に似てるわね』と、そう言っていた。 『色は貴女に似てる』とも……」
「そうか……ふふ、俺たちで言ってた通りだな」
「ああ……」

 口元が緩んでいるのを自覚した。
 ブラウンの髪、整った鼻筋、少し薄い唇……。
 全く、どこをとっても天使のように可愛らしい。

「鼻と顔の輪郭はGraf譲りだな」
「口元と眉毛はAdmiral似だ」
「それで髪の色は……」
『二人の中間』

 もはやお決まりのフレーズを妻と二人で言い合って、少し笑い合う。
 子を持つ前は、ここまで親馬鹿になるとは思わなかった。

「ほら、出来たぞ」

 寝室の小さなテーブルにソーサーを2つ置くと、妻はベッドに座る俺の隣に腰を置いた。
 湯気立つ珈琲の芳しい香りが漂った。

「ようやくこの子も乳離れしてくれたからな……これでやっと気兼ねなく、珈琲が飲める」
「そんなに辛いものなのか?」
「Deutscheの生き甲斐のうち一つが失われるようなものだぞ」

 カフェインは乳児には毒となりうる。
 その為に、Grafは乳離れが終わるまでは、泣く泣く"断珈琲"をしていたのだ。

「大変だったのだからな? 誰かさんに似て甘えん坊なこの子は、直ぐにおっぱいをせがむんだから」

 両手でその豊満な膨らみを持ち上げながら、妻は横目で俺を見た。
 ただでさえ大きかったその双峰は、ミルクを湛えてもう一回り……いや、二周りは大きくなっていた。
 思わず、服越しに揺れるそれに目を奪われてしまう。

「助平」

 Grafは視線に勘付くと胸を両手で庇うようにして、少し意地悪く笑ってみせた。
 下心を見抜かれた気恥ずかしさに苦笑して、俺はカップを手に取った。

 ブラックの珈琲を口に含むと、どっしりとしたコクと少し野性味のある深い苦味が広がった。
 たっぷりとその風味を味わってから飲み込むと、香辛料や南国の果実を思わせる余韻が香る。
 執務中のインスタントとはまるで違う、至高の一杯だ。

「我ながら、上手く淹れられたと思う。 豆は何処のものなんだ?」
「リンガの同期から貰ったマンデリンのG1だよ。 ……うん、相変わらずGrafの珈琲は旨い」
「当たり前だろう? ふふ」

 得意げに笑うと、彼女もソーサーを手に珈琲を飲んで……キュッと目を閉じた。

「んっ、苦いな……久しぶり過ぎて、ブラックは少し味が強いみたいだ」
「そうか、もうちょっと苦味の弱い豆にすべきだったな……済まない、気が回らなかったよ」
「なに、気にしなくていい。 ミルクを入れてくる」

 Grafはソーサーを持ってリビングに向かう。
 たなびく髪から、少し甘い残り香がした。

 我が子の寝顔を見ながら一服していたら、Grafが戻る前に一杯飲みきってしまった。
 どうせならもう少し珈琲が欲しい、そう思った俺は子供に毛布を被せてリビングの方へ歩いて行った。

 何故だか、リビングはもぬけの殻だった。
 僥倖な事に、サイフォンのフラスコにはもう一杯分の珈琲が残っていたが、Grafの姿は何処にもない。

 ……ふと思い出したが、今、牛乳のストックはあっただろうか?
 自分の記憶が確かなら無かった筈だし、ブラックコーヒーが基本の我が家にはコーヒーフレッシュも置いてない。
 まさか、わざわざ買いに出てしまったのだろうか。
 もしそうだとしたら、申し訳ないことをしてしまったな……。

 そう思いながら、フラスコの珈琲をカップに注いでいた。

「……はぁ、うぅん、中々……出ないな……」

 台所から声が聞こえたのは、その時だった。

 どうやら姿の見えなかったGrafは台所に居たようだ。
 声を掛けようか、と思って、少し悪い考えが芽生えた。
 先ほどからかわれた仕返しをしてやろうではないか。

 足音を殺して台所にゆっくりと入っていく。
 背中に隠されて見えないが、Grafは何かを両手で持っているようだった。
 ……何をしてるんだろうか?

「ここを、こう、してっ……ふぅ、ん、んっ……」

 何やら悩ましい声と共に、しゃぁ、しゃぁ、と微かな水音が聞こえる。
 俺は好奇心半分、悪戯心半分で、彼女の背後まで忍び寄っていく。

「もう少し、だろうか……」

 一歩、また一歩と近付く度に、彼女のまとう、熱気じみた感情の上擦りを感じる。
 言いようもない緊張感に胸が高鳴るのを感じながら、俺は歩みを進める。
 そして、シャンプーの香りが感じ取れるまで近付くと、ゆっくりと俺は彼女の肩に手を差し伸べた。

「なーにしてるんだ?」

 ぽんと手を置いた瞬間、Grafは跳び上がるほどに身を震わせた。

「ひゃうっ!! なっ、あっ、Admiral……!?」

 驚きに可愛らしい叫び声をあげて、ぱっとGrafは振り返る。
 そして、それが見えた。
 見えてしまった。

 上気する純白の肌は頬を朱に染め、柳のような細い眉は、とろんと八の字に垂れ下がっている。
 それだけでも十分愛らしいが、それ以上に、目を惹きつけてやまないモノがその下に鎮座していた。

 彼女は自身の、たっぷりと実った水蜜桃を惜しげもなく晒し、その片方に両手を添え、少し濃い桃色に色付いた先端を、白魚のような指で摘んでいた。
 重力に負けることなく、ツンと前を向いた乳房は、細指の力に柔らかく窪んで、それを包み隠してしまっている。
 そしてピンと立った2つの官能の芽からは……その肌と同じ、乳白の色をした甘い香りを放つ雫が滴り落ちていたのだった。

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 俺は妻の巨大な胸に目が吸い寄せられていたが、視界の端に彼女のカップがあることは分かった。
 ……どうやら彼女は、自身の母乳をミルクの代わりにしようとしていたようだ。

「ど、どうし……っあ!!」

 状況に気がつくと、Grafはすぐさま捲れた服を下げ、たわわな膨らみを無理やりに押し込み、俺から逃げるように体を離した。
 そして、両腕で胸を覆い隠しつつ、震える声でこう尋ねた。

「見た、のか?」

 視線を上げてGrafの顔を見る。
 冷や汗をかいて視線を泳がせながら、明らかに動揺しているようだ。
 俺は妻を落ち着かせるように破顔して、ゆっくりと、こう答えた。

「……牛乳、無かったもんな」

 その瞬間、一気に彼女の顔が紅潮した。

「いやっ、ち、違うんだ! 別に、その……みっ、ミルクが余ってたから、ちょっと試そうとしただけで……っ!!」
「で、自分で飲む為に絞ってたのか、母乳」
「言うなぁ! 私がっ……へ、変態みたいではないか!」
「違うの?」
「違う! Admiralと一緒にするな!!」

 Grafは耳まで真っ赤になり、必死になって弁明する。
 視姦されるのを拒むように、胸を両腕で上下から挟むようにして隠しながら。
 ……隙間からは乳汁の染みた服が見え隠れして、むしろ挑発するような格好になっていたが。

「恥ずかしくて死にそうだ……うう、見ないでくれ……」

 羞恥に今にもべそをかきそうな顔をしながら、彼女は細い腰をよじって背を向けてしまう。
 流石に少し可哀想になって、俺は妻に寄り添うと、慰める為に背を撫でた。

「悪かったよ……驚かすような真似して」
「……軽蔑、するだろう? こんなことをする私を……」
「まさか、そんなわけ無いだろう」
「……本当か?」
「本当さ。 まぁ……ちょっと興奮はしたけど」
「……この、ケダモノ」

 Grafは俺の軽口に安心したように、少し笑った。

「で、どうする? それ」

 ちらりと彼女の珈琲を見やる。
 脇に置かれたカップの中の珈琲は、ダークブラウンとホワイトのマーブル模様になっている。
 白磁のソーサーには、狙いを外した雫が少し溜まっていた。

「……流石にもう、飲む気分ではない、な」
「あ、やっぱり?」

 あそこまで恥ずかしがっていたのだから当然ではあるものの……俺は正直、勿体無いと思っていた。
 前々から、彼女のミルクには興味があったのだ。

 妻の言葉通り、俺は変態だからな。
 勿論、対象はGraf限定だが。

「落ち着いたか?」
「……頭も、頼む」
「ん、よしよし」

 俺の肩に頭を預けるGrafは、まだスキンシップをご所望のようである。
 荒かった呼吸もだいぶ鎮まり、軽く目を閉じていた。

 ……やっぱり、少し味見してみたい。
 少しくらいならバレないだろうか。

 よし決めた、一口頂こう。

 初心なGrafのことだから……まぁ、頼んだところで飲ませてくれるとは思えない。
 いや、そんなこと言えば、むしろドン引きされるに違いない。
 普通の感性だと、夫が妻の母乳を飲みたがるなど考えられないだろう。

 だが、どうしてもこの欲望だけは叶えたいのだ。
 手が届く所に至宝をチラつかされて踏み止まれるほど、俺は我慢強くはなかった。

 ……では、どうやって彼女のミルクを味わえばいいのか?

 そんなものは決まっている。
 悟られぬ内にギンバイすればいいのだ。

 緊張の糸が緩んでいる妻の目を盗み、俺はこっそりと手を伸ばす。

 少しづつ、着実に、望みの品を手に入れるために。
 俺は右手でGrafを撫でつつ、左手で音を立てぬように、ソーサーからカップを手に取った。

 そっとカップから視線を右に向ける。
 妻はうっとりと目を閉じて、俺の掌を受け入れていた。
 ……よし、まだバレていない。

 慎重にカップを口に近づけていく。
 少しぬるくなった珈琲の深い香りの中に、霧のように漂う、ほの甘い雰囲気を感じる。
 生唾を飲み込まないよう堪えるのが大変だ。

 もう少し。
 もう少しで、この甘露を口にできる。
 俺はカップを唇に付け、いよいよその中身を口に入れようとして……。

「……待て、Admiral、何をしている」
「げっ」

 ……その一歩手前で、俺はGrafに見咎められた。

 Grafは半目で、非難するように俺の口元を見つめている。
 目の前でカップの中身をあおる訳にも行かず、奇妙な姿勢で固まったまま、今度は俺が弁明をする番になった。

「……勿体無いし、頂こうかな、と」
「だからと言って、何故そのようにコソコソしているんだ?」
「いやぁ、その、飲みたいって言ったら……断られるかと思いまして……」

 目を逸らしてカップを戻す俺を見ながら、彼女は大きく大きく溜息をついた。

「なるほど、それで、隠れて飲もうとしたのか」
「はい」
「それも私の目の前で」
「はい」
「…………」
「軽率な行いでした……反省しております……」

 妻の態度は極めて冷ややかである。
 俺は背中に嫌な汗が伝うのを感じていた。

 この機嫌の悪さは……鎮守府でドイツ艦娘達と内々に開いたオクトーバーフェストが大荒れに荒れて、誰のものか分からないキスマークを襟元に付けて帰った時以来だ。
 因みにその時は暫く弁当がザワークラウトだけになった。

「本当に、貴方という人は……」

 ヘコヘコと情けなく頭を下げる俺を見ながら、Grafはもう一度溜息をつく。
 そして唇を尖らせつつそっぽを向くと、聞こえるかどうかといったトーンで、こう呟いた。

「……そんなに、飲みたいのか?」

「え」

 全く予想外なその発言に、思わず間の抜けた声が出てしまう。
 唖然としている俺をちらと見て、Grafは不機嫌な顔のまま、言いづらそうに、もう一度尋ねた。

「だから……それを、その……飲みたいのか、と聞いているんだ」
「めっちゃ飲みたいです」

 無意識のままに即答してしまった。
 彼女は面食らったように目を見開くやいなや、表情を隠すように顔を逸らした。
 そのままGrafは、まるで何かを必死で考えるように顔をしかめたり、思い浮かんだ事を振り払うように首を振ったりしながら、一人百面相を始めるのだった。

 暫くすると考えがまとまったのか、あからさまに顔が赤くなっているのをなんとか見せないようにして、彼女は押し出すように、こう言った。

「……分かった。 ……好きにして、っ、構わない……」

 青天の霹靂とはこの事だ。
 Grafが。
 あの、お固くて色事には滅法弱い、俺の妻が。
 俺に、自分の母乳入り珈琲を飲んでいいと言ってくれたのだ。

「嫌じゃ、ないのか?」

 思わず浮かんだ疑問が、口をついて出てきた。
 彼女は返答を探すように、目をきょろきょろと動かしながら答えた。

「全く抵抗がないかと言われれば……その、嘘になる。 だが……」

 答えが見つかったのか、深呼吸を一つして、妻は俺をまっすぐな瞳で見つめた。

「私は、貴方の妻だ。……確かに、Admiralの性癖は……今の私には、中々理解し難いものだってあるかもしれない。 それでも」

 言葉を切ると、目を伏せて、彼女は言った。

「……それでも、したいことがあるなら、言って欲しいんだ。 私だって、貴方の期待に出来る限り応えたい。 最初から何も言ってもらえないのは、遠ざけられているようで……少し、悲しい」

 初めて聞く妻のありのままの気持ちに、俺はしばし、呆然としていた。
 無意識のまま、俺は次々に彼女に尋ねていく。

「その、俺、だいぶ趣味偏ってるんだけど」
「何を今更……そんな事くらい、結婚する前から知っている」
「だったら、何で俺と……」
「それも含めてAdmiralだろう? ……それ以上言ったら、私も怒るぞ」
「……軽蔑しないのか?」
「貴方を軽蔑などするものか」

 俺の問いに答えているうちに、少しづつ、妻の顔が綻んでいく。
 顔色をうかがっているままの俺に対して、呆れたように彼女は笑った。

「だから、貴方はもう少し素直になればいいんだ。 知っているだろう? 私は、尽くす女だぞ」

 その言葉に、ようやく俺も安心して笑うことができた。
 ……本当に、いい嫁を持ったな、俺は。

「……ありがとな」
「ん」

 親愛の意を込めて頬を撫でると、彼女は擽ったそうに目を閉じて、自らの小さな手を重ねたのだった。

 よし。
 もう懸念は微塵も残っていない。
 俺は手元のカップを凝視し、はやる気持ちを鎮めるために、一度深呼吸をした。

 この一杯は、砂漠を流浪する者にとっての天からの恵みの雨に等しい価値がある。
 全霊を持って賞味するのが礼儀というものだ。

「その、出来れば、手早く済ませて欲しいのだが」

 隣ではGrafが、その様子をちらちらと落ち着きなく見ていた。
 自分から出たものを飲まれるのはたまらなく恥ずかしいだろうに、何故か彼女は、俺が珈琲を飲むのを見届けたいらしい。

「……分かった」

 彼女の厚意で、夢にも見たこの甘露を口にできるのだ。
 その意思は汲まねばなるまい。
 俺は躊躇うことなく、カップの中身を呷った。

「っ!……」

 ぴくっとGrafが肩を震わせたのを脇目に見ながら、俺は口内の感覚に集中した。

 とろっとした口当たりだった。
 あれだけボディの強かった舌触りが、不思議なほどに柔らかく、心地よく感ぜられる。
 僅かに甘みさえ感じる程だ。

「……ま、不味かったか? 何なら、吐き出してもいいんだぞ?」

 珈琲を口に入れて黙ったままの俺を気遣って、妻は声をかけてくれる。
 俺はそれを手のひらで制止し、目を閉じて味覚と嗅覚を研ぎ澄ませた。

 ぬるくなった珈琲は本来、あまり美味しくはないものである。
 香りが飛んでしまうが故に、苦味やえぐみと言った味が強調されてしまうからだ。
 だがしかし……この珈琲はどうだろう。
 俺は口の中の珈琲を胃に収めると、深く息を吐いた。

「旨い」
「ぁ、ぅ」

 一言そう呟くと、Grafは表情を隠すように、口元を手で覆った。

「まるでシルクみたいな、なめらかな舌触りだ……」
「そ、その解説は必要なのか?」
「勿論」

 俺は断言して、品評を続けるためにもう一口珈琲を飲む。
 舌の感じている感覚は、確かに脳に甘美な信号を送り続けていた。
 その一つ一つを解きほぐすように、俺は思考を全力で使って珈琲を味わい続ける。

「上質なビターチョコレートを思わせる苦味、そしてそれを柔らかく受け止める乳糖の甘みに、摘みたての若草を思わせる微かに青い、落ち着く香り……!」
「あうぅ、止めてくれ……妙な気分になる……」

 自身の母乳の味をくまなく言い表されて、Grafは顔を朱に染めながら、それでも珈琲を飲む俺から目を離さなかった。

「旨い……涙が出そうだ……」
「何なんだ……これは新手の拷問か……?」

 想像を遥かに超える美味しさに、俺は一気に珈琲を飲み干してしまった。
 余韻をあまさず堪能するために、細く息を漏らしながら、俺はカップをソーサーに置く。

「最高だよ、Graf。 この上ない味だった」

 心の底から俺は絶賛する。

「っ、そうか……」

 俺からの怒涛のような賛辞を準備もなしに受け入れて、彼女は羞恥のあまりに、のぼせたようになってしまっていた。

「そんなに喜んでもらえたのなら……私も、その、悪くない気持ちだ」

 それでも嬉しそうに、軽く肩で息をしながら妻ははにかんだのだった。

 やがて感情の高揚を誤魔化すように、Grafは俺の手からカップとソーサーを取り去った。

「よ、よし、もう気は済んだだろう。 私は洗い物をしておこう……あぁ、服も汚れていたか」

 妻はエプロンを上から着て胸元を隠し、努めて日常へと戻ろうとしていた。
 手早くシンクに汚れた食器を収めていく姿は実に手馴れていて、流石、専業主婦だといったところだ。
 俺も今までならそれを邪魔せず、いつも通りの夫婦に戻ったのかもしれない。

 だが……駄目だ、まだ足りない。
 まだ渇望が収まらないんだ。

「なぁ、Graf」
「ぅ、なっ……何だ……?」

 神妙な声色をした俺の雰囲気を察したらしいGrafは、ピタリと動きを止めて、油の切れたブリキ人形のような歪な動作で、ゆっくりと俺の方へ顔を向けた。
 やがて沈黙が続くと、許してくれとばかりに、懇願するような目で俺を見始めたのだった。
 
 だが、素直になれと言ったのは彼女だ。
 ならば……今日は全力で、お言葉に甘えようではないか。

「……実は珈琲、リビングにもう一杯あるんだけど」

今日はここまで。
導入が長くて申し訳ないです。
次回からようやく本格的なR要素が入ります。

あと、遅ればせながら、おーぷんで宣伝して下さった方、ありがとうございました。
遅筆故に見てる人少ないかなと思ってたので、純粋に嬉しかったです。
こっから気合入れて書いてくんで、何卒よろしくお願いします。

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