氷の地より、電波にのせて (78)






――ザザザ……ザッ……




……CQ、CQ、CQ


こちらは、ウィスキー、フォー、キロ、チャーリー、シックス、ノベンバー、ホテル、ズールー


ダブリュー、フォー、ケー、シー、シックス、エヌ、エイチ、ズィー


432.92、432.92にてコンタクトを求む……







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――ザ、ザザッザザ……



……CQ、CQ、CQ


こちらは、ウィスキー、フォー、キロ、チャーリー、シックス、ノベンバー、ホテル、ズールー


ダブリュー、フォー、ケー、シー、シックス、エヌ、エイチ、ズィー


聞いている方、いらっしゃれば……交信を……


受信します……どうぞ










――ザザーッザザッ




………………


……はぁ



……
…………
………………










――ザッザ……ザザッ




……CQ……ハローCQ


こちらはウィスキー、フォー、キロ、チャーリー、シックス、ノベンバー、ホテル、ズールー


ダブリュー、フォー、ケー、シー、シックス、エヌ、エイチ、ズィー


432.92、432.92にて……コンタクトを……


ゴホッ……ゴホッ……










――ザ、ザザッザザ




……ハローCQ、ハローCQ


こちらは、ウィスキー、フォー、キロ、チャーリー、シックス、ノベンバー、ホテル、ズールー


ダブリュー、フォー、ケー、シー、シックス、エヌ、エイチ、ズィー


どなたか、交信を……どうぞ










――ザザザッザッ




ッ、ゴフッ、ゴホッ……


……やっぱり……だめか……



……
…………
………………










――ザザザザーッザザザッ




……ハローCQ


こちらは……ウィスキー、フォー、キロ、チャーリー、シックス、ノベンバー、ホテル、ズールー


ダブリュー、フォー……ケー、シー、シックス、エヌ、エイチ……ズィー


432.92、432.92にてコンタクトを……










――ザ、ザッザザザ



……ハローCQ……


こちらは、ウィスキー、フォー、キロ、チャーリー、シックス、ノベンバー、ホテル、ズールー


ダブリュー、フォー、ケー、シー、シックス、エヌ、エイチ、ズィー


交信を……誰か……


……ゴホッ、ゴフッ……


ヒュー……ヒュー……ゴフッ……


……どう……ぞ











――ザ、ザザ………………












『ダ……ダブリュ……フォ……シー、シックス、………エイチ、ズィー』



……っ!











『……らは、エクスレ……エイト、アル……チャーリー、エ……』


『エックス、エイ……エー、……、イー、よ……くどうぞっ』



あ……あぁ……!










エクスレイ、エイト、アルファ、チャーリー、エコー……!


お、応答……ゴホッ、ゴホ……感謝する……


こちらはウィスキー、フォー、キロ……チャーリー、シックス、ノベンバー、ホテル、ズールー……


レポートはこちらより、フォー、シックス……!


よろしゴフッ……コフッ……どうぞ










『了解、レポ……フォ……シックス、確……!』


『こち……らのレポート……ファイブ、セブン!』




『まさか、……の方と本……交信できるなんて、夢……思いませんでした!』


『よろし……ねが……ます!ど……!』










了解……あぁ、わしも心の底から驚いておるよ……!


てっきり、そちらでは旧式無線が完全に廃れてしまったものかと……


とても……とても嬉しく思っている……どうぞ……!










『了解、こ……こそ、感激です』


『実は、祖父……譲り受け……董品の無線機を、たまたま動かして……のですが』


『まさか、チャンネルが……と繋が……いたなんて』


『それに、……にはもう…………いと聞いていました、ど……』










……了解


その通り……少なくとも、この周囲に住んでおるのはもうわし一人だけだ


じきに、誰もいなくなるだろう


それより……


声を聞く限り、君はまだお若いようだが……堪能な応答だった、どうぞ










『了解、僕は……で16です』


『ハイス……ルに入って1年にな……す』


『応答に関し……こちらで学んだ光通信の手順と、さほど変わりが無……たので』


『……ぞ!』










了解……なるほど


わしも若い頃は、そちらに移り住んだ人と話をするため……必死でコイツの使い方を学んだものだが……


実に感心した……どうぞ










『了解、お褒め……けて、本当に嬉し……す』


『僕からも……一つ、聞きたいことが……』




『あな……住んでいる……は今、どうなってい……か?どうぞ』





一旦ここまで

続きは夜にかきます






了解、おそらくは概ね……君の知っている通りだよ


わしの家の窓から見えるのは、厚い雪に覆われたかつての町と……ゴホッゴホッ


その先に広がる……どこまでも凍てついた海原だ


君の家の辺りは……今どうなっている?どうぞ










『了解、僕の家の周……、目覚ましい発展を遂……した』


『見渡……り、真っ直ぐに伸びた銀色……が立ち並び、ハイパー……プが行き交う立派な大都市です』


『ただ、現在はここより少し北にある神……海を中心にテ………………ザザザッ…』


『そこに大規模……施設が完成すれば、いずれはそ……発展するでしょうが』


『今は、ここが南半……中心都市です、……ぞ』










……了解、順調そうで何よりだ


では……食事などは……ゴフッゴフッ、どうしている?


……どうぞ










『了解……』


『食事は相……わらず、チューブ食が中……す』


『最近はチーズ……ガー味、あとスモ……ベーコン味が僕たちの世代のトレンドですね』


『こればかり食べて……と、ママに怒られてし……ますが、ハハハ……』


『あなたは?ど……』










了解……悪いが、食欲はそそられん


だが、わしもかれこれ……ずうっと缶詰だけで過ごしておる


最近は喉を通りにくくなってきたが、困ったことに……地下にまだたくさんの備蓄が残されているのだ


できることなら、君たちにも分けてやりたいくらいだ……どうぞ










『了解……カンヅ……すか……』


『僕は実物を見たこ……ありませんが、どんな味が……んだろう?』


『すごく気に……ます、どうぞ』










了解……うぅむ、一言に缶詰といってもなぁ


君たちに、ランチョンミートやオイルサーディンを食べる文化が残されているなら、おのずと分かるだろう


そうでなければ、どれもしょっぱい食い物だとしか言い表せん……どうぞ










『了解、らんち……みーと……?そんな食べ……名前を聞い……は初めてです』


『名前から察す……、食肉の習慣があった時代の食……と思いますが……』


『かつて……に連れて来ら……家畜は……産めず、一匹も残さずいなく……てしまったそうです』


『今、……では合成培養食を無尽……生産できますから、特に問題はありませんが……』


『ということは、あなたの……は今も家畜動物たちが?どうぞ』










了解、いや……こちらも家畜の類は一匹も残っちゃいないさ


野性の獣も、もう何年も見ていない……


……どうぞ










『了解……そう……たか、残念です……』


『いつか……を訪れた時に』


『この目で本物の動……見て……かったのに』










…………



――ザザザッザザ……



『…………』










『……何故、そこに残ったのですか』


『……どうぞ』





おねむなので、一旦ここまでです

できれば夜中か早朝に書ききります

読んでくださっている方、ありがとうございます、どうぞ






……了解、それは……


わしが、効率の悪い男だったからだ


……どうぞ










『…………』


『申し訳ありません……言葉の意……よく分……ません』


『……うぞ』










りょう……ゴホッ、ゴホッ……かい


確かに……少々理解し辛い言い方だったかもしれぬな


言い換えれば……そうだな、わしはここを離れたくなかったんだ










先祖代々、わしらの一族はこの地に住み続けてきた


かつて、家の北東に大きな宇宙センターがあったのだが……


わしらの一族は世代を超え、そこの仕事に従事し続けてきた


それは緑を湛え、潮の満ち引きを感じられた時代……


ここが氷に覆われるより、ずっと……ずっと前の話だ











今、君たちが住んでいる場所を、最初の移住者が訪れてから間もなくのこと


誰もが知る……この星の地軸変動の原因となった、あの災いが起こった











災害の後、人々は大きな選択を強いられた


開発の進みつつある新たなフロンティアへの移住か、ここで静かに終わりを迎えるか……


……まぁ、選択の余地など無いわな










皆が安全に移り住むまで、仕事の手を休めわけにはいかなかったのも事実だ


誰かが最後まで、ここに残る必要があったことも……




結局、最後まで残ったのは……わしを含めた数人だけだった


だが、わしらはそれを望んだのだ……どうぞ










『了……ですが、尚のこと理解……きません』


『……は今、開発のおかげでとても住み……環境となりました』


『千kmを隔て……市への移動も、今や一時間で済みます』


『医療の発達……病気による死……は限りなく0%に近づきました』


『都市全体の気候すら、人の……操作を……』










『だから僕は、僕が生ま……この……、大好きです』


『できる……なら、あなたを……に迎えたいとも思……います』


『そのために、僕は宇宙工……学んでいるのです……どうぞ』










了解、君の心からの好意に感謝する


だが……君とわしの本質は同じ……


わしも、ここが大好きなんだ










それが……それだけが、ここに残った理由


人が住めるようになり、発展を遂げる見通しのあったそちらよりも


寒冷化に見舞われ、いずれは人の住めなくなるここを、わしは選んだ


ゴホッ、ゴフッ……それだけだ……どうぞ











『……了解』


『僕には想像もつ……い程の想いが……には込められて……のですね、……ぞ』











了解……まぁそういったところだな


……だが、わしは今


かつての自分がとったその選択に、ちょうど感謝をしているところだ










なぜなら今、君とこうやって交信ができていることが……


わしには、嬉しくて仕方がないのだから



『…………』










だって、そうだろう


この地上からわしが発した電波が、この星の遥か上層を覆う電離層を越え


その更に幾十万キロという途方もない距離を経て、ようやく君のもとまで届いたのだ


ここに残ったわしも、そちらにいる君も……


たまたま同時に顔を向き合せ、このヘンテコな無線機に手を触れ、同じチャンネルを開いた……どうぞ











『了……だから、僕たちは繋が……』



――ザザッザザザッ



……ゴフッ、ゴホッ……そうだ












だが、残念なことに……それももう、終わりを迎えようとしているらしい……


……どうぞ











『な……何故で……!?』


『まだ、そち……らは見えてい……ず!』


『……かく、地球……と話がで……のに!』


『僕はまだ……、あなた……話がした……です!』


『……ぞ』










了解……空に、“あれ”がかかりはじめたのだ


“あれ”は、やがて……ゴホッ、ゴホッ……上空の電離層を掻き乱す


わしらの発する微弱な電波など、すぐに……届かなくなるだろう


それに……わしももう、長くない










……それよりどうだろう


最後に一つ、わしの願いを聞いてほしいのだが……


……どうぞ










『……り、了……』


『僕にでき……とであれば、何……』


『……ど……』










了解、感謝する


では……この交信を切った後、君は家の外に出て


こちらに向かって、手を振ってほしい


わしも、そうする……どうぞ










『り……』


『分か……し……やって……ょう』


『僕……そ……ザザッザッ……い…………ぞ』










了解、ありがとう


どうやらもう……限界らしい


では、この辺りでお開きにしよう……どうぞ










『りザザザッ……寂し…………仕方あ……』


『……リュ……ザザッ…………ザッ、シ…………クス…………エイ……ズィー』


『こち……エック…………ト、エ………ザッザザッ………イー』


『本……楽し……信ありが……ござ……ザッ……た』


『……ぞ』










あぁ……了解


エックス、エイト、エー、シー、イー


こちらは……ゴホッ、ダブリュー、フォー、ケー、シー、シックス、エヌ、エイチ、ズィー


ありがとう、わしの最後のお友達


……さようなら










『……か……』


『……リュ………ザッ……ザッ、シ…………ザザザ……エイ……ザザザッザ』


『こ……ピィィィ……エックザザザッ……ト、エ………ザッザザッ………イー』


『……大切……友達……ザザッ』


『さ……なら……ザザザザザ……』











『ザ――――――ッ』



『プツン』











――ギィ……バタン




うぅ……やはり、外は寒い


ここも昔は……ゴホッ、ゴフォッ……亜熱帯の地だったのだがなぁ


今ではこのように、“オーロラ”までもが掛かるようになりおった


……だが、綺麗だな……










……さて、君の目には今……どう映っている?



“そら”からは、どう見えているのだ?



このオーロラが



この氷に覆われた星が











わしの目には、機械で覆われた鉛色の月が見える



残念ながら、手を振る君の姿は見えない












だが、君は間違いなくそこにいるのだろう



何故なら儚く脆い、あの電子の“やり取り”だけが、それを証明してくれたのだから












だから……わしも、あの月に向かって手を振ってみよう



さようなら、さようなら




――――――――――――fin――――――――――――――





これで以上となります

少々退屈な作品だったかもしれませんが……

ここまで読んでくださった方、楽しく書かせていただきありがとうございました

本作をカクヨム様にて投稿、掲載させていただきました。

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