大垣峰出身のミスティック。
タイコンデロガさんが友達三人引き連れて風飛の街まで
鼻歌交じりに観光にやって来た。と、風紀委員からの
ホットラインが飛んできたのがついさっき。
『ウチからは服部が、あとは氷川に許可を出させて生天目つかさも向かってますが
流石にタイコンデロガ複数を相手なんで、アンタさんもクエストを受けて向かってくだせー』
みちると朝のランニングを10km程こなした後の事だった。
はぁはぁ言ってたら『クエスト終わったら報告ついでに顔出してくだせー。
ちょーば……ちょっとお話したいんで』って言われた。
慌てて弁解しようとしたら同じく息が荒いみちるが傍に寄ってきて
「ねぇ……早く……」とか言いだした所為で『懲罰房』と今度は確実に言い切った上で電話を切られた。
かけ直したら即座に切られた。
「どしたの?」
状況をわかってないみちるのポカンとした表情がちょっと腹立って
頬を軽くつねってからクエストに行く旨を伝えながらデバイスから
クエストを受注する。
「あ、ちょっと待って。私も行く! 転校生君が行くなら私も行けるもんね!
いいでしょ? 私の大砲は役に立つよ~」
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―――
「吹き飛べぇっ!」
そんなこんなで風飛の傍。
元々は木々の生い茂った山道はミスティックの攻撃と魔法によって
所々地面が剥げ、木々が折れた無残な様相になっていた。
「フハハハハ! いいぞ! もっと来い!」
テンションの上がったつかさが拳を振るう。
鯨沈を三重にかけた肉体は高さ3m以上ある
四足歩行のミスティックの横面を張り、その巨体を宙に浮かす。
「うっわ、すっごい。なにあのパンチ」
ゴロンゴロンと土埃をあげてミスティックが転がり
大樹に勢いよくぶつかってなおその勢いは止まらず山の傾斜を転がり上って行く。
みちるの感嘆に思わず共感。なんていう馬鹿げた威力。
身体強化魔法怖い。
「これ私達の仕事ある?」
哄笑しながら戦うつかさを見ながら
少々脱力したようにみちるが言う。気持ちはわかるけど。
「もちろんあるッスよ。纏まってると生天目先輩が一人占めしようとするんで
とりあえず分断したんスけど。今度は人が足りなくなったんで向こうをお願いするッス」
いきなり後ろから話しかけるのはやめて欲しい。
「……ご、ごめん。大丈夫?」
驚いて飛び上がったみちるに顎を殴られるから。
―――
「てぇーい!」
みちるの身体からストリーマーの様に細い魔力の筋が伸び、
その後みちる自身の最大容量にほど近い魔力が追いすがる。
「―――!」
四足歩行のその胴体ど真ん中。
送り込まれた魔力がエネルギーに変換されて爆発四散する。
色んな人とクエストへ行ったけれどやっぱりみちるの威力はおかしい。
威力に差はあれどホワイトプラズマと同じ理論で魔法を使っていると言われるだけはある。
「どんどん行くよー!」
爆音、爆音。魔力を送り込む端から使われていく。
この感覚をわかりやすく他の物に例えるなら穴の開いた容器に水を注ぐ行為に近い。
人によって容器のサイズと底に空いた穴の大きさが違うから
溢れないように、それでいて途切れないように魔力を送りこむのは意外と繊細な作業だったりする。
特にみちるの様に容器が小さめの上馬鹿デカい穴が空いてると大変だ。
なにせちょっと量を加減すると戦闘不能になっちゃうんだもの。
「……」
ちらりと周囲を伺う。話に聞いていたのは四体。
ウチ一体はつかさが担当しているのがここからでも見える。
分断したとは言ってもさほど距離はないらしい。
単にまとまってると全部つかさが相手取ろうとするばかりか、
援護しようとする魔法使いまで敵視するから少し離しただけのようだ。
そして一体はここ。少し西に外れたところで歓談部と天文部が一体を抑えている。
ギリギリ魔力譲渡が届くエリアで、卯衣も参加しているのか時折大樹の上を光が飛んでいるのが見える。
そしてもう一体は精鋭部隊が戦っているらしい。
「さらにどーん!」
魔力を補給してもらいながら好き放題手加減も
ペース配分もお構いなしでどかどか魔法を撃つのは
存外爽快な物らしく、目の前のみちるに限らず
敵の前であるにも関わらず始めてエミネムを聞いた中学二年生の様な
テンションの上がり方をしている。
魔力は合っても実用性のある魔法をまともに放てない
自分には無縁なその状態の彼女達を見ると羨ましいやらなにやら。
なんて、目の前のみちるのハイテンションに引っ張られたのかなんなのか。
ミスティックは四体であるという前情報と同じ数のミスティックを視認できる位置に居たからなのか。
とにかく油断してしまっていて、それの接近に気が付くことができなかった。
「……っ!?」
ドンと、軽い衝撃。と言っても魔力で身体強化されてる身体。
生身で言うと金属バットで殴られた位に匹敵する衝撃が腰を襲い、
鈍い痛みが走る。
振り返って、そこに居たのは小型のミスティック。
何故だ? タイコンデロガなど強い魔物が発生している時は、
周囲の霧はそちらに吸われて逆にその付近の霧濃度は低下する。
これくらいの小物なら吸われて消えている筈じゃ?
「え、ちょ……」
原因も理由も不明。けどそれはいっそどうでもいい。
不意打ちで驚きはしたものの、所詮は驚きで終わる程度の力しかない小物。
魔法使いでもなくても苦も無く倒せるそいつを蹴り一つで蹴散らしたと同時、
みちるの声と共に、淡く草の生えた地面に膝を突く音。
やってしまった。こいつに意識を持ってかれた所為で
魔力譲渡が遅れてしまったんだ。他の魔法使いならこの程度の遅れ
どうという事はないけれど、戦闘中の彼女にそれは致命的だ。
「―――!」
咆哮をあげて今までの意趣返しとばかりにミスティックが
膝を突き息を荒げるみちるに向かい地面を抉りながら駆ける。
今から魔力を送っても立ち直るまでにミスティックの攻撃でみちるは死んでしまう。
『お前だけは死ぬな』
『自分の命を最優先に考えろ、お前が死んだら人類は負ける』
以前言われた言葉が脳裏に過ぎった。
けど、そんなもの知ったことか。友人が自分のミスで
命の危機に晒されてるのを見捨てるなんてできるわけがない。
がむしゃらに走る。間に合え、間に合えと。
咆哮で鼓膜がビリビリと震える。
肌が粟立って膝から崩れそうになる。
みちるの腕を掴んでがむしゃらに
強化された腕力に任せて彼女をできるだけ遠くに放り投げる。
反動で身体が崩れる。視界の端で唯一空から全体を把握できる卯衣が
こちらに向かってなにかを叫んでいるのが見えた。
どさっ。と、ミスティック巨体が鳴らす足音と声の中、
やけに尻もちの音がハッキリと聞き取れた。
ひんやりとした地面の感触、つい突いた手の平に刺さる小石に感じる僅かな痛み。
「転校生君!」
無理に引っ張り上げ、力任せに投げた所為で
腕か、あるいは肩を痛めたのか右腕を抑えながらもみちるが悲痛な声で呼びかけてくる。
そんな大声をだしたら折角かばったのにまた標的になってしまう。
早く逃げろとジェスチャーで伝えようとして。
――視界が暗転した。
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