神「私は人間達に異能の力を与え、彼等がそれをどう使うか? 興味があるのだ」
その日、新たな神となった存在は言った。
それを聞いていた彼に仕える者や、下級の神。天使達は一斉にざわめきはじめる。
すぐに異論の声が上がった。
「馬鹿な! そんな事をすれば、またかつての様に下界はめちゃくちゃになります! あなたはあの惨劇を繰り返すつもりか!?」
神はあっさりと頷くと
神「そうとも、私はその為に神になったのだから」
「あなたはそれでも神か――」
声を荒げた下級の神の一人が消えて無くなる。勿論消したのは神であり、それを理解した周囲の者達は口を閉じた。
神「これは、ほんのささいな気まぐれだ……。私は退屈なんだ、私を楽しませてくれ、人間達よ」
神は地球の中から”異能を与える”場所を選ぶ、全世界にバラまいたのでは、自分が観察するのに手間な為、地域を絞る事にしたのだ。
ここにしよう。
楽しそうに神は呟いた。
そして選ばれたのは――
日本。
今日本は激動の最中にあった。
「ブッ壊せ! 全部奪え!」
叫んだのはまだ若い男、その凶悪な容貌と派手な身なりですぐには判別がつかないが、高等学校に通う年齢の男だ。
その少年に続いて小さな商店から強盗行為をしているのは、大体近い年齢だろう男女の数人組みだ。
彼等はただの不良集団ではなく
「ひィィ! ”焼か”ないでくれェェェ!」
その悲鳴を待っていたといわんばかりに、叫んだ男は”手の平から炎を噴き出し”店主を焼いた。
彼は異能の能力を持つ。今日本という島国を混乱に落としいれ、周囲の国々を騒がせている存在の一人だ。
10代から20代前半に異能の力は発現した。その結果、こういった能力を悪用する人間がそこら中で発生していた。
彼らはアウトサイドと呼ばれた。
始めは小さな事件からだった。それから異能を恐れる”異能を持たない者達”が異能を持つ者を取り締まり始め
今ではもはや収集がつかなくなっていた。
反旗を翻した能力者の集まり・連合、つまりアウトサイドの一派に日本の縦社会は崩壊させられ、力が全てを支配する時代に移り変わりつつあった。
一部の異能者たちは金や権利を持つ組織や個人に”保護”され、代わりにそういう異能者は自分達を保護してくれる存在のために力を奮った。
それが世の中の「普通」になってから、2年が経過していた。
男「また夕方まで寝ちまった」
そんな世間の騒動から隔離されているかのような男が一人。
彼は今年ハタチの大学生で、用事が無い日は深夜までネットで時間を潰し、朝から昼まで寝て過ごす。
そんな怠惰な生活を貪る男だった。
周囲の者は愚か、家族さえも知らないが、彼も異能者の一人だ。
男「……」
男は気だるげに視線をPCに向けた、すると勝手に電源が入る。
よくその能力を知らない者が見れば、超能力の一種と思うだろう。
男の能力は、異能者が異能を使う時発生する特有の力の波を飛ばす力。
テレキネシスに近い力だ。ただしテレキネシスのように使おうと思っても物を掴んだりはできないし、少し小突く程度に動かすだけだ。
今男は異能の力の波で電気の流れを操り、PCのスイッチを入れた。
男(2年も使い続けただけあって、細かい操作も安定してできるようになったな)
その男がどう暮らしているかというと
ある日、男は外へ出ていたときアウトサイドの連中に出くわしたのだが
男(うわぁ、めんどくさいなぁ。ここは比較的、穏やかな町だと思ってたのに。最近は結構大きな事件とか起きるようになったよなぁ)
進行方向の先から異能の力の波… 男はこれを異能線と呼んでいるのだが、それが飛んでくるのを男は感知した。
男(関わらないように遠回りするか)
そういうふうに、これまで異能線を操り、感知する能力を使い。一度も他の能力者と遭遇せず、危険を回避し、我関せずという考えで過ごしてきていた。
彼にとっては国がどう混乱しようとどうでもいい、明日何か食べられて少しの苦しみもないのが重要だ。
そして寝たいときに寝て勝手に過ごす。その為にはすぐ近くで人の良さそうな他人が異能者に襲われてようとどうでもいい。
男は死にたくもないが、一生懸命生きる気もなかった。完全な無気力人間、欲を示す事があるとすれば食欲、睡眠欲、性欲。
他はネットがあれば満足だった。
そんな彼が一つだけ、最近のめり込んでいる事がある。
大学で何かの講義を受けて閃いた事だ。
それは自分の能力を改良、開発する事。
その為に一度も真面目に書いた事のないようなレポートをつけ、研究していた。
男(何かのスイッチをおしたりリモコンを操作するときに、無意識してたこの能力の使い方。そこにヒントがある)
男が名付けた異能線というのは、異能者なら誰でも発していたのだ。
例えば火を発生させ、火炎放射器の様に使う能力者は、まず能力の発動前に異能線を”火炎を到達される地点めがけて”発している。
そしてその異能線をなぞるようにして、火炎が空中を進んでいく。
このように、異能線は異能者が何かをしようとする意思の方向に進む性質を持つ。
そして男はもう一つ発見した。
炎を操るような異能者ならソレ特有の、電気を操る異能者ならまた特有の、異能線の特色が存在するのだ。
男はそれらを観察する内に思いついた。
あの異能線を真似できたら、自分にも他の能力が使えるのではないか?
そしてそれは成功した。PCの電源を入れるように、電気や他の現象を異能線を操り起こすことに。
男は浮かれて油断していた。
いつものようにネットを楽しみ、夜にコンビニに食べ物でも買いに行く。
いつのもパターンをなぞり、男は外にでてコンビニへの道を向かうさなかに意識を失った。
気がつくと金属のコンテナの様な物の中にいた。
男「ぅ……え?」
男(どこだ……? ここ……?)
一瞬夢かと思った。毎日フラフラしているせいだ。
次き気が付いた痛みで、今は現実だということを理解した。
男「いっ……!」
頭部に激痛を感じる。そこから流れでて顔面を流れていたのであろう血が固まっていた。
男(なんだ? 一体、なんなんだ?)
男の疑問に答える者はおらず、今まさにその小さなコンテナは海に落とされる所だった。
コンテナの外ではいかにもな風貌の人間達が会話していた。
「それじゃ捨てるぞ、いいな?」
機械を操りクレーンを吊っている男が言う。
「ああ、頭の中まで全部読んだが、このレポート以上の事は知らないようだからな」
「だがまさか、個人でここまで知ってる奴がいたとはなァ。あの特殊な能力のせいだろうが」
「厄介な存在になる前に対処できて良かったよ」
二人の会話を聞きながら、コンテナの中にいる男の疑問も”聴く”女がいた。
読心術の異能を持つ彼女は、町を歩き情報を収集する、男を攫った組織についている異能者だ。
彼女は町で異能線についての考えをまとめている男の考えを町で受信し、組織の者につたえた。
男の研究内容は異能の力を研究する機関ではシークレットな扱いを受ける物であり、それを知る男は処分されることになったのだ。
女(ごめんね…)
男が入っているコンテナが、冷たい海中へと落とされた。
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