信頼 (49)
彼女とは高校2年のクラス替えで知り合った。
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周りは知らない人ばかりで戸惑っていたのだが彼女は一人で居た。
さっそく出された宿題を黙々と取り組んでいた。女子にしては一人でいることに抵抗がないようだ。自分から声をかけようともしない。変わっていると言える。
私は彼女に声をかけた。彼女の返事は感じが悪かったが、これが彼女の素なのだと、その点では好感が持てた。
私たちは友だちになれた。
彼女は女子と群れを作りたがらない性格で、そのためかわりと一緒にいる時間が多かった。
日常で、休み時間を利用し一緒に勉強することは珍しくなかった。
体育ではペアを組むこともあった。
私たちの意外な共通点としては、二人ともスポーツや運動が大嫌いだということだった。
修学旅行では同じ班で行動することができた。
昼食はいつも一緒に食べていた。
彼女は私と正反対で、物事にのめり込んで熱くなる柄ではない。一方、私は情熱的で感情的なため、何事も本気で取り組まなければ気がすまない。
気が合わないわけではなかったのだが、喧嘩は耐えなかった。喧嘩は実際は私が一方的に悪態をつくだけだったが。
彼女の冷めているところは主に人付き合いのことで、彼女は高校を卒業したら、今の友だちとは縁を切るそうだ。なぜなら、同じ人間とずっといるのは嫌だからだそうだ。私には理解できない。つまらない人間だ。
3年のある夏の昼食時、私たちは行きたい大学と、将来やりたいことについて話し合っていた。
「私は大学で栄養士の資格を取る」
理系の彼女の目標だ。担任に勧められたそうだ。最近は栄養士の給料がいいらしい。
「ぼくは将来英語の先生になりたい。そのために大学では留学して英語を鍛える」
文系の私の夢だ。母校で英語を教えたい。
「お互い頑張ろう」
私は、高校時代の友だちと卒業後にたまに会って、居酒屋で近況を報告し合うのが憧れだ。
だから、彼女の性格は私の理想と合わないところがある。残念でならない。
「行きたい大学は違うけど……」
彼女は言った。私は公立短大で、彼女は私大だ。
「電車の方向は一緒だね」
「確かに。そうみたいだ」
「通学のとき、会ったらよろしく」
私には最初、彼女が何を言っているのかわからなかった。
少し間をあけて、ようやく理解した。
「会ってもいいってこと?」
「あなたなら信頼しているし」
意外すぎる言葉だった。
これまで彼女を悪く思ったことは何度もあった。
その度に暴言を吐いて、それを全く気にしない彼女にまた腹がたったこともよくあった。
彼女もまた私に嫌なことを言うときもあった。
それでも嫌いになったことは一度もない。
いくつもの経験を経て、お互いがどんな人間か分かってきた。
弱い部分を知ることで、一人の人間なんだと、正直でいられた。
その日々は無駄ではなかった。
信頼は友情であり、絆でもある。
人は弱くても輝けるのだ。
それからしばらくして、私は無事に進学することができた。
忙しい毎日だけど、やりがいはある。
勉強は楽しいし、サークルもわくわくしている。
アルバイトをして遊ぶ金を稼ぐのもおもしろい。
実に大学生らしい生活を送っている。
そして、大切な人がいた。
卒業後も連絡を取り合い、こうしてたまに会う日がある。
念願の居酒屋で身の回りについて語りあかしている。
彼女は酒を飲まないらしい。
ちなみにタバコもだ。
得にならないことはとことん興味がないのが彼女だ。
実は私もタバコは吸わない。
彼女の話はだいたい愚痴だ。
つまらない話だが聞いていて気分がいい。
本音で語り合えることがこんなにも幸せだとは知らなかった。
彼女のことは愛しているが付き合おうとは思わない。
彼女も応じるとは思えない。
彼女は恋愛にも興味がないからだ。
だけど、いつかお互いが今よりも自立できるようになって、落ち着いてきたら……
指輪を渡してみたい。
おしまい
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