智絵里「…え?」
P「すまない…本当にすまない…智絵里…」
智絵里(プロデューサーさんに、何かのカギを渡されたと思ったら…)
智絵里(プロデューサーさんは膝から崩れ落ちたあと、頭を地面に押し付けて…私にひたすら謝罪を繰り返している)
智絵里(こ、これはどういうことなんだろう…?)
P「俺の力が足りないばかりに…すまない…許してくれ…」
智絵里「ぷ、プロデューサーさん?」
P「俺は…事務所のアイドルを、他人の玩具にさせるような真似だけはしたくなかったんだ。だが…」
智絵里(…え?お、玩具?)
P「智絵里がこれを引き受けてくれるかどうかに、この事務所の存続がかかっている…お前に渡したそれは、ホテルの一室のカギだ」
智絵里(ほ、ホテル?…これって、もしかして…)
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P「お前の年ではまだ理解できないと思うが…世の中には、人の弱みにつけこんで、とんでもないものを要求してくる輩がいる。そして今回そいつらは智絵里に目を付けてきたんだ…」
智絵里(…ああ…そういうことなんだ…こういうのって何て言うんだっけ…ま、ま…かまくら営業?)
智絵里「えっと…プロデューサーさん、私は…」
P「今夜、このホテルに向かってほしい。ホテルに着いた後は、そこにいるお偉いさんの言うことをよく聞いて…よく聞いて…っ」
智絵里(プロデューサーさん…泣いてる?)
P「できない!できるわけがない!智絵里にこんなことさせるなんて…ううっ…」
智絵里「…ぷ、プロデューサーさん…顔を上げて下さい…」
P「…」
智絵里「だ、大丈夫です…私、やります」
P「智絵里…?」
智絵里「プロデューサーさんは、こんな…こんな私をアイドルにしてくれた、大切な…本当に大切な人だから…プロデューサーさんのためなら、私…」
P「ううっ…智絵里…」
智絵里「プロデューサーさん…四つ葉のクローバーにお祈りしてて下さい。どうか私が、怖い思いをしないように…」
P「すまない…すまない…」
【とある高級ホテル】
「ほら、恥ずかしがってないでよく見せなさい」
智絵里「…」
「智絵里ちゃんだ…本物の智絵里ちゃん…」
「ちょっと、一人で暴走しないで下さいね。今夜の智絵里ちゃんは、貴方だけのものではないんですから」
智絵里「…ううっ」
司会「皆さん、あまり興奮しないで下さいね。本日のゲストが怖がっています」
「おや、失敬」
司会「それでは智絵里ちゃんに着てもらう衣装は決まりましたか?」
「「「満場一致でふわふわうさぎコス」」」
司会「はい。それでは智絵里ちゃん、その衣装でこちらのステージにお越し下さい…それでは始めましょうか」
智絵里「あ、あの…私、何をすればいいんですか?」
司会「分かっているでしょう?智絵里ちゃんは、今夜お越し下さったこちらの方々の要求を満たすために呼ばれたんですよ」
智絵里「男の人の…要求…うう…」
「ま、まずは私から!」
司会「はい、そちらの赤いバタフライマスクの方」
「エサ!エサをあげてみたい!」
司会「いいでしょう。それではステージの方までお越し下さい。ルールはご存知ですね?」
「ルールその二『ステージには上がらない』。大丈夫だ。それじゃあ智絵里ちゃん…膝を付いて、口を開いて」
智絵里「こ、こうですか?」
「ほら、これを口に含むんだ」
智絵里「そ、それって…」
司会「智絵里ちゃん。貴女はただ、この人達の言うことに従えばいいのです」
智絵里「…わ、わかりました…」
智絵里(プロデューサーさんのために…頑張らなきゃ…)
智絵里「…はむっ」
「おおっ、あの智絵里ちゃんが俺の…俺の…」
智絵里「あむ、んっ…」
「俺の差し出したセロリスティックを食べてる!」
「小動物みたいでカワイイ!」
「そこまで得意ではないのか、ところどころ顔をしかめるのがカワイイ!」
「「「カワイイ!!!」」」
智絵里「ごくん…ご、ごちそうさまでした」
「ちゃんと『ごちそうさま』が言えててカワイイ!ありがとう、智絵里ちゃん!」
智絵里「あ、はい…これで喜んで貰えたなら…」
「次は私に!」
司会「どうぞ、黒のマスカレードマスクの方」
「スクリーンを…まずは智絵里ちゃんに、こちらの動画を見て貰いたい」
智絵里「は、はい…わっ…えっと、これって…」
「よく見るんだ。このあと君には、この動画と同じ事をして貰うのだからね」
智絵里「私が…これを…」
「…よし、見終わったね。出来るかい?」
智絵里「えっと…」
司会「実際のところ、貴女に選択肢はありません。望まれたなら、やるしかないのです」
智絵里「…わ、分かりました…それでは…」
智絵里(四つ葉のクローバーが守ってくれる…大丈夫…大丈夫…っ)
智絵里「んっ…あっ…」
「おおっ…こ、これは…」
智絵里「えっと…あうっ…」
「あの智絵里ちゃんが…智絵里ちゃんが…」
智絵里「んしょ…うんしょ…」
「一生懸命うさぎの仕草を真似している!」
「うさぎコスも相まって実に愛らしい!」
「目をくしくししたり、ちょっと飛び跳ねてみたり…」
「「「カワイイ!!!」」」
司会「その動画のうさぎですが、貴方が飼われているんですか?」
「ああ。名前はチェリーだ。智絵里ちゃんへの抑えきれない想いから飼い始めた。今では、この子の成長記録を動画共有サービスにアップするのが日課になっている」
智絵里「こ、これでいいですか?…ぴょん」
「語尾に『ぴょん』まで付けて、うさぎになりきっている!ありがとう!…くそっ、うさ智絵里も動画に収めたかった…!」
司会「それはいけません。ルールその三、ですよ」
「ああ…ルールその三『この集まりに関する一切を記録してはいけない』…分かっている。分かってはいるが…」
司会「ところで皆さん、もっとその…過激な要求は無いのですか?ほら、男の人なら…お山を登りたいと思いませんか?低いお山も奥ゆかしさがあって気持ちいいよ?」
「何を言っているんだ、あの司会の少女は」
「心が汚れているんじゃないのかね」
司会「ええ…」
司会(お触り禁止のルールは無いのに、これだけは徹底してるんだよなあ…)
「わ、私も…やって欲しいことが…」
司会「はい、そこのでっけえマカロン被った方」
「私、智絵里ちゃんの手料理が食べたいです!」
司会「手料理?たしか部屋にキッチンがありましたね。さすが高級ホテルといったところですが…」
「料理をするとなると、智絵里ちゃんがステージから降りることになる…」
「そうなるとルールが曖昧なものになってしまうな…」
「だが智絵里ちゃんの手料理は食べてみたい…」
司会「…それではこうしましょう。智絵里ちゃん以外はキッチンの中に入らないこと。皆さんはキッチンの外から智絵里の料理する姿を鑑賞するということで」
「「「異議なし!」」」
司会「それでは智絵里ちゃん、どうぞこちらへ…」
智絵里「えっと…お料理するのはいいんですけど…私、何を作れば…」
マカロン「材料なら用意してきました!」
司会「手際がいいですね、マカロンさん。あれ?あなた…マントを着ていてハッキリとは分からないけど、大きなお山を感じる…」
マカロン「き、気のせいです!それより智絵里ちゃん、これでスープパスタを作ってくれないかな?レシピはこのメモにまとめてあるから!」
智絵里「あれ?マカロンさん、どこかで…」
マカロン「い、いいから早く作って!お腹が空いちゃって、このままだと乾麺のままいっちゃいそうだよ!」
智絵里「は、はい…では…」
「お、おお…どこからともなく某料理番組のテーマ…いや、イエッセルの「おもちゃの兵隊のマーチ」が…」
司会「こんなこともあろうかと、用意していました」
智絵里「えーと…メモの通りだと、まずは玉ねぎを切って炒めなきゃ…」
「ああっ、智絵里ちゃん!包丁を使うときは…」
智絵里「あ…猫さんの手、ですね!あっ、今はうさぎさんの手かな?」
「「「カワイイ!!!」」」
智絵里「玉ねぎさんを…よいしょ!あれ?涙が…」
「あれ?俺も涙が…」
「我々の涙は硫化アリルの作用によるものではない…智絵里ちゃんの料理姿に癒されているのだ」
智絵里「これをバターで炒めて…コンソメを馴染ませる…コンソメ?これかな?」
「あれは角砂糖…お約束だな…」
「あの量を加えれば味の保証はできないが…ま、カワイイからいっか★」
智絵里「材料を加えて、生クリームと牛乳を…あ、皆さん苦手なものとかありませんでしたか?」
「料理も終盤に差し掛かってきたこのタイミングで聞くか…」
「だが、その優しさがあれば苺のパスタでも難なく食べられる」
智絵里「調味料で味を整えて…ここにパスタを投入…あれ?」
「な、何だ!?この煙は…」
智絵里「ぱ、パスタに火が付いて…お線香みたい!」
「いや、もう発煙筒ってレベルだから!窓…窓を開けろ!」
「それより、まずは料理を止めさせるんだ!」
マカロン「美味しいから大丈夫ですよ」
「何も大丈夫じゃないから!このままだと全員窒息死するから!」
智絵里「えっと、えっと…私、どうすれば…」
拓海「ここかァ!智絵里がいるのは!」
「な…あれは向井拓海!?」
「会員以外にこの場所が分かるはずが…まさかルールその一『このクラブについて話すな』が破られて…!?」
智絵里「拓海さん!どうしてここに!?」
拓海「智絵里、大丈夫か!?テメェら…よくもアタシのダチにこんな…」
「お、おいキミ…何をする気だ?我々に手を出せばどうなるか…」
「くそっ…逆に組み伏せてしまえ!」
司会「大きなお山だー!」
拓海「上等ッ!全員まとめてぶっ飛ばす!」
【翌日】
P「作りかけだった料理はかな子が全て美味しく頂きました」
拓海「るっせえ!てめぇ自分のやったことが分かってんのか!?智絵里をあんな目に会わせやがって…」
智絵里「た、拓海さん…」
P「そ、それについてはすまない…度々噂になっていたんだよ。アイドルに妙なことをさせてる秘密のクラブのこと…気になっていたところに、ちょうど今回の話を持ちかけられてさ…」
拓海「だからってお前…」
P「うちのアイドルがテレビ局のお偉いさんの胸倉を掴んだとかで、そのお詫びをする気はないか…ってな」
拓海「だッ…だからそれは、あのジジイがアタシの体を触ってきたから…」
晶葉「とにかく、助手と拓海と私でそのクラブを摘発しようと考えたわけだ」
P「本人に話せば計画がバレる可能性が高いと考えて、あえて黙っていたんだが…俺が間違っていたよ。騙した上に、危険な目に会わせてしまって…すまなかった、智絵里。怖かったよな」
智絵里「あ、あの…私なら大丈夫ですから…」
拓海「智絵里…いいのか?言ってくれりゃあ、私が代わりにプロデューサーのヤツ、殴ってやるぜ?」
P「暴力反対…」
晶葉「拓海、気持ちは分かるが、助手も助手なりに精一杯やったつもりなんだ。保険に事務所のアイドルを潜入させたりな」
智絵里「あ、かな子ちゃん!顔は隠れてて分からなかったけど、あのマカロンさんはきっとかな子ちゃんだと思います!」
晶葉「ところで、私のパスタ型発煙筒は役に立ったか?」
拓海「ああ。おかげでソッコー智絵里を連れ出せたからな。助かったぜ」
智絵里「あの…それで事務所は…」
P「ああ、大丈夫だよ。クラブの主催者と話をつけてきた。事務所に手出しをさせない代わりに、こちらも目をつむるという形で手打ちになったよ」
拓海「ちッ…全員二度と起き上がれないようにしてやりたかったぜ」
智絵里「でも良かった…みんなが離れ離れになるなんて、絶対に嫌ですから…」
拓海(天使かよ…)
P「智絵里、何度も言うが今回は本当に済まなかった…それと、ありがとう。何かお詫びできることがあったら言ってくれ」
智絵里「あの…それでしたら、みんなでスイーツを食べに行きたいです!かな子ちゃんオススメのお店があって…」
P「ああ、任せろ!好きなだけ食べさせてやる!」
拓海「ま、智絵里良ければすべて良し、だな」
晶葉「そういえば今日はかな子と愛海の姿を見ないが…オフだったか?」
P「いや、あいつらなら今日はロケで…」
愛海「あの…本当に反省してます…だから、その…」
かな子「愛海ちゃーん、大丈夫ー?」
愛海「大丈夫じゃない!逆バンジーなんて…お山は好きだけどお空は好きじゃ…ぎ、ぎいやああああああああ…」
おしまい
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