勇者「救いたければ手を汚せ」 (999)


ーー世界中の誰からも好かれるには?

そんなこと考えたことないな。

そもそも、世界中の誰からも好かれたいなんて思って行動してないよ。

大体そんな奴がいたら気持ち悪くないかな?

みんなに好かれるなんて嘘くさいし、信用出来ないよ。


ーー言われてみれば確かに、色々と勘繰ってしまいそうですね。
ーーでは次の質問です、あなたは誰から愛されていると思いますか?


うーん、それはやっぱり母さんじゃないかな。

母さんは心の底から僕を愛してくれてるって思う。


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ーー父親のことは、どう考えているのですか?


えっ? 父?

父さんか、父さんはどうなんだろう……

父さんには、まだ会ったことがないから分からないんだ。


ーーそうでしたか……
ーー父親に対して何か思うところがあるのでは?


母さんと二人で暮らしていた頃、よく考えてたよ。

一人で頑張ってる母さんを見てると、何で隣には父さんがいないんだろうって。

だけど時々、母さんが笑いながら父さんとの昔話しをしてくれたんだ。

本当に楽しそうに笑ってたし、昔話しの中の父さんは凄く格好良かった。


父さんが生きてることは知ってる。

離れているのは僕等を守る為にしたことなんだって、そう言ってた。

だからなのかな、父さんに対して怒りとかそういった類の感情は湧かなかった。

一度も会ってないのに父さんが好きだった。

一度も会ってないのに憧れの人だったんだ。変な話しだろ?

僕の中の父さんは、母さんと同じように僕を愛してる。


ーー何故、そう言い切れるのですか?


何でって、それは母さんが愛した人だからだよ。

だからきっと、父さんも僕を愛してる。


ーーでは家族以外で愛されていると感じることは?

家族以外、それは難しいな。

僕を好きな人と同じくらい、僕を嫌いな人がいるだろうから。

もしかしたら、嫌いな人の方がずっとずっと多いのかもしれない。


でも、僕はやらなきゃならない。

誰に愛され、誰に好かれているのか……

誰に憎まれ、誰に嫌われているのか……

全てを受け止めて、全てを受け入れて、前に進まなきゃならないんだ。

想いは僕を強くして、困難な時に奮い立たせてくれる。


ーーですが、その想いが必ずしも力になるわけではないですよね?


うん、そうだね。

時には足枷になることもあるよ?

けど、それを含めて僕の力だと思ってる。


ーー強い想いによって人格まで変わる可能性は?


うーん、有り得ないとは言えないな。

でもさ、人って日に日に変わるんじゃないかな。


ーー今や世界は混沌としていますからね。
ーー人々は強くありたいと願い、自ら変わろうとしているのかもしれません。


いや、そういうのじゃなくてさ。

誰かの為にとか、愛する人とか、世界とか、そんなに大きなものじゃなくて……

痩せようとか、眼鏡をかけるとか、挨拶しようとか、素直にお礼を言うとか……

そんな些細なこと、ほんの小さい変化だよ。


僕はね、人は変わろうと思った時に変わってると思うんだ。

変わろうと思う気持ちが芽生えた時、人は変化してると思うんだ。

だから、人が本心から変わりたいと思ったのなら変われるんじゃないかな。

誰かに影響されたり、憧れたりして変わろうとする人もいるだろ?

君がさっき言ったように、人の想いで僕が変わってしまっても同じことだよ。

色々な人と関わって影響を与えたり、逆に影響や刺激を受けたりする。

人は互いを知ることで変化していく。

そして、それは僕も同じ。

自分では気付いていないだけで、常に変化してるんだと思う。


ーー想いと言っても様々な形がありますよね?
ーーそれについてはどうお考えですか?


そうだね、確かに色々な想いがある。

僕と関わった人が百人いるなら、その百人の中にはそれぞれ違う僕がいるんだろう。

中には似ている僕もいるだろうけど、ちょっとは違うはずだ。


ーー接した人の数だけ違った自分がいる、というわけですね。


そう、それぞれ違う僕の姿がある。

僕に限ったことじゃないけど、接した人が全く同じ印象を持つなんてことはない。

優しい、怖い、強い、弱い。色々な僕がいる。

だけどね、これだけは自信を持って言えるよ。

沢山の人に好かれ愛され、沢山の人に嫌われ憎まれても……

願いや想いが、どんな風に僕を変えてしまったとしても……


僕は勇者だ


精霊「まだ見つからないの?」

勇者「ちょっと待って、もう少し時間が掛かりそう」

精霊「ちんたらしてないで早くしなさいよ」

勇者「……僕の言葉聞いてた? それとも年取り過ぎて耳が遠くなった?」

精霊「口を動かさないで手を動かして、今はお喋りしてる時間なんてないのよ?」

勇者「乱雑に置かれてるから見付けるのが大変なんだ。さぼってないで君も手伝ってくれ」

精霊「やってるわよ」ガサゴソ

勇者「悪口はしっかり聞こえるんだ」

勇者「小さい頃、近所に住んでたお婆さんを思い出すよ」ガサゴソ


精霊「……昔はもう少し可愛げがあったのに」

勇者「君が説教ばかりするから捻くれたんだ。君に責任がある」

精霊「はいはい、そうね」

精霊「あなたが捻くれたのは私の責任、ごめんなさい悪かったわ反省してる許してちょうだい本当に申し訳ないと思ってる」

勇者「分かったから!もうやめてくれ! 冗談だよ」

精霊「あら、冗談だったの?私としては謝り足りないくらいよ」

勇者「謝ることなんてない、君がいたから今の僕がいる。感謝してるよ」

精霊「(全く、ふざけてると思ったら急に真面目な顔するんだから……)」


勇者「顔がにやけてるけど、どうかした?」

精霊「いえ、別に何でもないわ。それより目的の物は?」

勇者「これだろ? ほら、ちゃんと二本ある」スッ

精霊「どう? それを手にした感想は?」

勇者「細くて頼りなく見えるし実用的とは思えない、戦えばすぐに折れそうだ」

勇者「けど、この剣は僕が知っている誰よりも強い人が手にしていたもの」

勇者「これ以上心強いものはない、力が湧き上がってくる。それに……」

精霊「それに?」

勇者「とても懐かしいんだ。これを見てると色々なことを思い出す」


ガチャッ!

王宮騎士「勇者様、まだですか!!もう我々だけでは保ちません!!限界です!!」

精霊「時間がないって言ったのに、あなたがちんたらしてるせいで怒られちゃったじゃない」

勇者「君が感想なんて聞くからだろ!!」

王宮騎士「喧嘩は後でいいですから!! 勇者様、早くして下さい!!」

精霊「……とにかく、思い出に浸るのは後にしましょう」

勇者「分かった。でも悪いのは僕じゃない、君が感想なんて聞くからだ」

精霊「はいはい」

王宮騎士「勇者様!!」

勇者「分かった! 分かったよ!!」


勇者「あんまり大声出さないでくれない?」

勇者「それ以上怒鳴られると確実に頭が痛くなる……」

精霊「頭が痛いのはこっちよ。ねえ?」

王宮騎士「ええ、同感です」

勇者「……二人して酷い言い草だな。とにかく、走りながら話そう」ダッ

王宮騎士「そうしましょう」ダッ

勇者「住人の避難はどう?」

王宮騎士「避難は無事終了しました。奴の移動速度が遅いのが唯一の救いです」

勇者「現場の騎士達は?」

王宮騎士「今のところは何とか……」

王宮騎士「しかし大型な個体なので攻撃範囲は非常に広く、未だ攻め倦ねています」


勇者「術士による解析はまだ終わらないの?」

精霊「それは私が行けば済む話しでしょ」

勇者「えっ? あぁ、まだ居たのか。あまり喋らないから忘れてた」

精霊「ハァ…」

王宮騎士「拗ねてますね。こういうあたり、彼もまだ子供ですか」ボソッ 

精霊「ええ、まだまだ子供よ。この通り、お守りが付いてるんだから」ボソッ

王宮騎士「あれから四年ほど経ちますか、早いものです」

精霊「……私達にとってはね。けれど、あの子にはとても長かったはずよ」


勇者「ほら、お喋りはお終いだ。敵はどこにいる」

王宮騎士「旧・噴水広場……あの場所です」

勇者「……僕等は先に行く」

王宮騎士「はい、お気を付けて」

勇者「腕から血が出てる。早く医療班に止血して貰った方がいいよ?」

王宮騎士「ええ、そうします」

勇者「じゃあ、また後で」

ダッ…

王宮騎士「おお、もうあんなに遠く……」

王宮騎士「やはり変わられた。いや、成長したと言うべきか」

王宮騎士「今やあの頃の、私の知っている彼ではないのですね」


>>>>

ゴーレム「いい加減鬱陶しいぞ、虫けら共」グオッ

ーー来るぞ!!散開しろ!!
ーー揺れるぞ!!踏ん張れ!!

ーーまずい、足が…
ーー早く掴まれ!行くぞ!!

ーーおいっ、二人共早くしろ!

ーー畜生め、何とかして奴を止めろ!!
ーーもうやってます!攻撃が弾かれるんです!!

ーー駄目だ。間に合わない、お前だけでも
ーーふざけるな、お前も一緒に行くんだ。いいな
ーー済まない……


ゴーレム「敵に背中を向けて死ぬ。騎士とは、人間とはそんなものか」ズズン

勇者「その人間に背中を見せるなんて、間抜けな奴もいたもんだ」


ゴーレム「……ようやく来たか」クルッ

勇者「遅れてごめん。二人共、今の内に」


ーーこの声は勇者か?助かった……
ーーったく、時間は稼いだんだ。後は頼むぜ?


勇者「分かってるさ。早く行け」

ゴーレム「聞いていた通り、まだ幼いな。これが脅威になるとは思えん」

勇者「見かけで判断すると痛い目を見るって言葉を知らないのか?」

勇者「体が大きくて粗暴。頭悪いって言われない?」

ゴーレム「小僧、口は災いの元という言葉を知っているか?」ググッ

勇者「えっ、ちょっと待っ


ゴンッ!


ーーおいおい、思いっ切り吹っ飛ばされたぞ……
ーーあいつに任せて本当に大丈夫なのか?

ーーま、まさか死んじまったんじゃ?
ーー馬鹿なこと言うな!


精霊「大丈夫?」

勇者「僕なら平気だ。それより二人は?」

精霊「攻撃圏内から出たわ。二人共無事よ」

勇者「……そっか、なら良かった。解析は済んだ?」

精霊「ええ、核は胸部中心、背面にある僅かな隙間を通せば破壊出来る」

勇者「よし、さっさと済ませよう。これ以上この場所を荒らされるわけにはいかない」


ズズンッ…

勇者「もう来たのか……」

ゴーレム「いつまで寝ているつもりだ?」

勇者「寝てたんじゃない、作戦を練ってたんだ」ムクッ

ゴーレム「もう立てるのか、見かけによらず頑丈だな」

勇者「あんたは見かけ通り頑丈そうだ。動きは遅いけど!!」バッ

ゴーレム「むっ!?」

勇者「背中を取った。名残惜しいけど、これでお別れだ」

ズンッ…

ゴーレム「……お前の言う通り、少々見くびっていたようだ」ミシッ

勇者「次から気を付ければいいさ。まあ、次はないだろうけど」


ゴーレム「いいや、まだ終わりじゃない」

ガシィッ!

勇者「痛っ、何だこれ!まだ動いてるぞ!? どうなってる!?」

精霊「……あっ、ごめんなさい」

勇者「何で謝る!! あっ、って何だ!!? 何で止まらない!?」

精霊「剣に宿る術法をあなた用に書き替えるのを忘れてたわ」

勇者「どういう意味だ!! もっと分かり易く言ってくれ!!」

精霊「今のままではその剣は機能しないし核を破壊出来ないってことよ!!」

勇者「なっ、君がミスするなんてらしくないな!! 剣は預ける!早くしてくれよ!?」ブンッ


精霊「分かってる!!」ガシッ

ゴーレム「そんな時間を与えると思うか?」

勇者「いや、僕が君なら与えないかなぁ……」

ゴーレム「お前とは気が合いそうだ」

勇者「なら優しく…よせっ、早まるなあッ!?」


ビタンッ!


精霊「何するのよ!危ないわね!!」

勇者「今のは僕の所為じゃないだろ!! あのさ、人をハエ叩きみたいに使わないでくれる?」

精霊「(誰がハエよ、全く……とにかく早くしないと)」ヒュン


ゴーレム「人だと? 人であればもう二度は死んでいる。お前は人ではない」

ゴーレム「我々と変わらない怪物だ。人を超えた力を持ち、忌み嫌われるだけの存在だ」

ゴーレム「姿が人間である以外、何ら変わりはない」

勇者「……前はそう思ってた。世界一の嫌われ者だって、でも今は違う」

勇者「僕はこの世界が好きなんだ」

勇者「向こうが僕を嫌いでも、この想いは変わらない」

ゴーレム「永遠の片想いか、それはさぞ辛いことだろう。今終わらせてやる」

勇者「……やってみろ」


ドズンッ!ドズンッ!ドズンッ!


勇者「げほっ…そんな…もん…か?」

ゴーレム「まだ耐えるとはな、こちら側から見てもお前は異常な存在だ」

勇者「本当に異常なのは、こんなことをして何とも思わないあんたの方だ……」


ゴーレム「どちらも異常だ」

ゴーレム「俺も、お前もな。叩いて駄目なら握り潰すまでだ」


ミシッ…ミシッ!ミシッ!!


勇者「これ…は……まずいな…まだか……」

ゴーレム「世界に愛されぬ同類よ。我が手の中で死んで逝け。さらばだ」

勇者「……お前等と、一緒にするなッ!!」グッ

ゴーレム「なにっ!?」

精霊「大丈夫!?」ヒュン

勇者「ハァ…ハァ…それより書き換えは終わったのか?」

精霊「ええ、あなたのお陰で邪魔されずに出来たわ。遅くなってごめんなさい」スッ


勇者「やっとだな」ガシッ

ゴーレム「ふん、これも作戦の内か?」

勇者「負わなくていい傷まで負う羽目になったけど……まあ、取り敢えず作戦成功だ」

勇者「それより最近忘れっぽくなってるんじゃないか? 後で物忘れ防止の本でも買おうか?」

精霊「そうね、その方が良いかもしれないわ……」

勇者「そんな顔するな、僕は大丈夫。心配し過ぎだよ」

精霊「心配してるなんて一言も言ってないわよ?」

勇者「……言ってないだけだろ? そうだよな? そうじゃなきゃ」

精霊「はいはい、とっても心配してるわ。腕と足首と体中の怪我は大丈夫かしら?」


勇者「全然平気、大丈夫」ウン

精霊「ハァ…」

勇者「僕は僕が出来ることを、君は君が出来ることをした。それでいいだろ?」

精霊「そう言ってくれてると助かるわ。ありがとう、勇者」

勇者「お礼なんていいさ。さて、始めようか」

ゴーレム「終わったか?」

勇者「ああ、予定より遅くなったけど準備完了だ」

ゴーレム「そうか、此方も準備は終わった」ギシッ

勇者「えっ、なにそれ?」

ゴーレム「強度を上げたまま小型化する。鈍重なままでは勝てそうにない」


勇者「何て言うか、ゴツい割に器用なんだな」

精霊「勇者、気を付けて」

勇者「ああ、分かってる。危ないから君は離れててくれ」

精霊「……ええ」ヒュン

ゴーレム「さて、始めよう」

勇者「さっきまで見上げてた相手と同じ目線になるなんて妙な感じだ」

勇者「正直、見上げるたびに首が痛くて困ってたから助かる」


ゴーレム「行くぞ」ゴキッ

勇者「……来い」ジャキッ

ゴーレム「ふんっ!!」


ガギィッ!


勇者「くっ、やけに……重いな」ググッ

ゴーレム「見事、その剣でよく防げたものだ。初撃に反応したのも素晴らしい」

勇者「あんまり褒められると調子に乗るから止めてくれ」

勇者「それより随分速くなったな、さっきとはまるで違う。重さも速さも段違いだ」

ゴーレム「どうだ?」

勇者「正直言うと凄くやりにくい。元の方が格好良かったし戻ってくれないかな」

ゴーレム「それは無理な相談だな。それに、そういうことを聞きたかった訳じゃない」ブンッ


ガギンッ!ギャリリリッ…

勇者「じゃあ、どういう意味で聞いたんだ」

ゴーレム「有り余る力を存分に奮える相手が目の前にいる。どうだ? 良い気分だろう?」

勇者「そんなわけないだろ」

勇者「お前のような奴と戦うたびに、自分が普通じゃないってことを実感する……」ググッ

ゴーレム「押切られ…っ!!」

勇者「良い気分だって? 違うね、最高に嫌な気分だ!!」

ザシュッ!

ゴーレム「……この体に傷を付けるとはな、やるじゃないか」

勇者「(駄目だ。あの程度の傷しか付けられない、流石に硬すぎる)」


ゴーレム「負けてられんな、行くぞ!!」ズッ

勇者「なっ!? 速ッ…」

ズドンッ!

勇者「がっ…」ガクン

ゴーレム「面ではなく点、力は分散せず一点に集約する。分かるか?」

勇者「ハァ…ハァ…さっきよりも痛いから、よく分かる」ググッ

ゴーレム「まだ平気そうじゃないか、[ピーーー]自信が少しだけ無くなってきた」

勇者「自信満々な声で言うな、説得力がないぞ」

ゴーレム「少しだけと言っただろう? ぬんッ!!」ゴッ


ガキンッ!

ゴーレム「二刀とは防御に適しているな。その動き、余程研鑽したと見える」

ゴーレム「しかし不思議な剣だ。それほど頑丈そうには見えないが?」

勇者「何度も言わせるな、見た目で判断すると痛い目を見るぞ」

ゴーレム「口は達者だな。どうした? 来ないのなら此方から行くぞ!!」ズッ


ガギンッ…ガギンッガギンッ!


勇者「(駄目だ、胸部に隙間はない。やっぱり背中から貫くしかない)」

勇者「(いや、さっきまでとは速度が段違いだ。そう簡単に背後を取れそうにない)」

勇者「(まさか、こんなに厄介な相手だとは思わなかった。どうする?)」

勇者「(今の実力で岩ごと核を斬るなんて無理だ。試す価値もない)」

勇者「(考えろ。背後に立たなくても背後から攻撃する方法を………!!)」


ゴーレム「その剣ごと、砕け散れ」グオッ

勇者「……胸が、がら空きだ!」ズッ

ガギッ…

ゴーレム「突きだと? 通ると思ったか、浅はかだな……ふんッ!!」バキッ

勇者「……………」

カランッ…

ゴーレム「勝負を急くあまり暴挙に出たな。その挙げ句、剣を一つ失った」

勇者「まだ一つ残ってる。それに、僕はまだ生きてるぞ?」

ゴーレム「減らず口を……二刀でやっとだった攻撃をどう防ぐ」

勇者「何とかするさ」

ゴーレム「……そうか。なら、やってみろ」ダンッ


ガキンッ…ガキンッ…ガキンッ…ズドンッ!ドズンッ!


勇者「ぐっ…ちっ!!」ブンッ

ドガッ…

ゴーレム「何の真似だ。それは」

勇者「いや、こっちも殴ってやろうかと思って」

ゴーレム「……苛つかせるのが上手いな、褒めてやる」

勇者「君が怒りっぽいだけなんじゃないか?僕は別にそんなつもりは

ゴーレム「もういい、少し黙れ」

ズンッ!ドガッ…

勇者「うぐっ……流石に、何度も吹っ飛ばされるのは…きついな」


ズリ…ズリ…ズリ…


勇者「ハァ…ハァ…ハァ……」ストン

ゴーレム「惨めだな」

ゴーレム「虫のように這いずり、石碑を背にしたまま立ち上がることすら出来ない」


勇者「これは石碑じゃない、墓標だ」

ゴーレム「そうか。なら、そこがお前の墓だ。丁度良かったじゃないか」

ゴーレム「次の瞬間には、お前ごと砕け散るだろうが」

勇者「……止めといた方がいい」

ゴーレム「何だ、命乞いか?」

勇者「違う、忠告してるんだ。これを壊したら、ただじゃ済まない」

勇者「あんたは間違いなく幽霊に殺される」

ゴーレム「減らず口も此処までだ。もう付き合いきれん、死ぬがいい」ズッ


ズドンッ…

勇者「…………」

ゴーレム「……何だ、これは? 何故…誰が…気配は何処にも…」グラッ

勇者「後ろには誰もいない。だから言ったんだ、幽霊に殺されるって」

ゴーレム「何をした……答えろ!!」

勇者「自分の体を見て分からないのか? あんたは背後から核を突き刺されたんだ」

ゴーレム「……俺が弾いた剣…そうか…あの時、何か細工を…」

勇者「大した細工じゃないさ、ガキの小細工だよ」

ゴーレム「……お前が人の身であることが嘆かわしい、醜い化け物であれば共に戦えただろうに……」

勇者「いや、あんたが良い奴なら一緒に戦えた」

勇者「あんたが優しい奴なら心強い仲間として、良き友達として背中を預けて戦えたはずだ」

ゴーレム「何を馬鹿な、そんな奴など、いるわけがない」


勇者「僕ならそうした」

ゴーレム「……本気で言っているのか?」

勇者「勿論、だって怪物は怪物を怪物とは言わないだろ?」

勇者「互いに罵り合うこともなく、痛みだって分かち合えた。姿が違っても分かり合えたはずだ」

ゴーレム「…………」

勇者「君の痛みは分からないけど、その道を選んだのは君自身だ」

勇者「出逢う時が違えば……もしかしたら、僕等は友達になっていたかもしれない」

ゴーレム「……俺は自分の選んだ道に後悔していない」

ゴーレム「だが何故ここまで違う。俺とお前、何が違う……何…が…」ビキッ


ガシャン…

勇者「……違いか、強いて言うなら僕は運が良かったんだろうね。出会った人に恵まれたんだ」

勇者「きっとそれが一番大きい、生まれながらの怪物なんていない」

勇者「君も、最初から怪物じゃなかったはずだ」

サラッ…サラッ…ヒョゥゥ……

精霊「……終わったわね」

勇者「………」

精霊「どうしたの?」

勇者「僕はどうだった? 上手くやれてた?」

精霊「あなたはまだ途上よ、理想と自分を比較するのは止しなさい」

勇者「向こうは僕の成長を待ってくれない、今のままじゃ駄目なんだ」

精霊「それでも焦っては駄目よ。今日はもう休みなさい」

勇者「これから瓦礫の撤去作業があるだろ。僕も手伝わないと」フラフラ


精霊「立っているのがやっとじゃない!! あなたが倒れたらどうするの!?」

勇者「うるさいな!!」

精霊「勇者……」

勇者「ああそうだ!僕は勇者だ!! 僕がやらなきゃ駄目なんだ!!」

精霊「それは違うわ!あなたは勇者である前に人間なの!! 今のあなたは間違ってる!!」

勇者「僕の何が間違ってる!! 力を持つ意味を常に考えろって言ったのは君だろ!!」

精霊「……っ」

勇者「……怒鳴って、ごめん…」

勇者「君は動ける騎士達を呼んで来てくれ、僕は先にやってるから」フラフラ


精霊「分かったわ」ヒュン

勇者「これぐらい出来なきゃ勇者じゃない。勇者なら、これぐらい出来て当たり前なんだ」

勇者「早く大人になりたいな。無精髭とか生やして、お酒飲んで、それから……」

勇者「母さんに、ただいまって……」グラッ


バタンッ…


ーー勇者が倒れてるぞ!
ーー大至急、医療班を呼べ!!

ーー酷い傷だ……
ーーああ、強敵だったらしい

ーー我々では手も足も出なかった。情けない
ーー魔術すら通用しないとは……

ーーそっと運べよ、起こさないように
ーー生きてるよな? 大丈夫だよな?

ーーこんな事が本当に起きるなんて……
ーーあの人が言っていたのは本当だったんだな

ーー勇者が目を覚ます前に撤去を終わらせるぞ
ーーああ、力になれなくてもこれぐらいは出来る


>>>>

勇者「……っ!!」ガバッ

精霊「どう? 良く眠れた?」

勇者「暗いな、夜か? 今はいつの夜だ。僕はどれくらい眠ってた」

精霊「……丸二日よ」

勇者「何で起こしてくれなかったんだ! 他にもするべきことがあったのに!!」

精霊「いい加減にしなさい!! あなたが倒れて心配してる人も沢山いるのよ?」

勇者「助けを求めてる人も沢山いる」

精霊「……あなたは一人しかいないの、全ての物事を一人でやろうとするのは無理よ」

勇者「人々の想いが僕の力になる、そう言ったろ?」

精霊「言ったわ。けれど自分の命を軽んじては意味がない、それではただの死にたがりだわ」


勇者「……今の僕は」

精霊「『それ』を見るのは止めなさい」

勇者「嫌だね」スッ


【小さな希望】
【最愛の息子】
【剣聖の弟子】
【命知らず】
【偽善者】
【破壊者】
【怪物と戦う怪物】
【人類の脅威】
【破滅を呼ぶ者】



勇者「これが、皆が想う僕か……」

精霊「勇者、人の数だけ想いがある。皆がそう思ってるわけじゃない」

勇者「気休めは止めてくれ、僕には見えるんだ。これが僕なんだろ?」

精霊「想いが力になるとは言ったけれど、あなたは人の評価を気にしすぎてる」


精霊「全ての人間に好かれる人なんていないわ」

勇者「分かってる!! でも見えるんだから仕方ないだろ!?」

勇者「いつかこれが僕の力になるなんて思えない。人の気持ちが分かるなんて苦しいだけだ」

精霊「あなた、何を怖れているの……」

精霊「嫌われること? それとも好かれること?」

勇者「両方だよ。破壊者や脅威だなんて、そんな風に恐れないで欲しいだけだ」

勇者「希望だなんて、そんな風に美化しなくたっていい。されたいとも思わない」

精霊「なら、どうしたいの?」

勇者「僕は……普通に好かれて、普通に嫌われたい」


精霊「それは無理ね。だって勇者だもの」

勇者「……知ってる。怖がられただけで破壊者呼ばわりされるし」

精霊「ハァ、あなたって妙に繊細だから本当に面倒臭いわ。イジイジして情けない」

精霊「それとも優しく慰めて甘やかして欲しいのかしら? だとしたら、まだまだお子様ね」

勇者「何で落ち込んでる相手にそういうこと言うんだ……」

勇者「大体、人が気にしてる所を狙って攻撃するなんて酷すぎるだろ」

精霊「あなた、普通に嫌われたいんでしょ?」

精霊「だから面と向かって普通に罵ってあげただけよ」

勇者「……普通、普通か」

勇者「そうだね……うん、ありがとう。少しだけ元気が出た」

精霊「罵られてお礼? ごめんなさい、気持ちが悪いわ……」


勇者「いや、もう罵る必要はないよ?」

勇者「それ以上やられると傷付くだけだから止めてくれる?」

精霊「あらそうなの、それは残念ね」

勇者「なあ、僕は…」

精霊「もう少し簡単に考えなさい」

勇者「えっ?」

精霊「好かれる人には思い切り好かれて、嫌われてるなら思い切り嫌われればいいのよ」

精霊「誰からも好かれようなんて考えは捨てなさい。そんなものは何の役にも立たないわ」

精霊「それと、無茶して頑張ったからって必ず報われるとは限らない」


勇者「……そうだね」

精霊「後は褒められたい感謝されたい、そんな気持ちも捨てなさい」

精霊「どんな形であれ、あなたがやった結果は想いとして必ず返ってくる」

精霊「最後に、やるときは精一杯やる。休む時はきちんと休む。分かった?」

勇者「何度も言われてるから分かるけど、やっぱり簡単には切り替えられそうにない……」

精霊「その一言が要らないの、返事は?」

勇者「……はい」

精霊「よろしい、この話しはこれでお終い。で、これからどうするの?」

勇者「まだ眠いから、寝る」

精霊「ふふっ、それでいいのよ。もう少し我が儘になりなさい」


勇者「うるさいな、もう終わりだろ? じゃあ、お休み」

精霊「はいはい、そうだったわね。お休みなさい」

勇者「(やっぱり敵わないな。ありがとう、君がいてくれて良かった……)」

勇者「…………」スゥスゥ

精霊「あらあら、もう夢の中? 全く、強がって無茶するからよ」

ナデナデ…

精霊「大丈夫、あなたの力で救われた人々は沢山いるわ。皆、あなたに感謝してる」

精霊「見返りを求めない行いはきっと報われる。自分を信じなさい」

精霊「あなたはまだ子供、これから幾らでも変われる。強くなれるから……」

また明日書く


コンコンッ…

精霊「はい、どうぞ」

ガチャ…パタン…

王宮騎士「夜分に失礼します。勇者様はまだ?」

精霊「いえ、さっき一度起きたけれど今は夢の中。何の用かしら?」

王宮騎士「いえ、特に用はありません」

王宮騎士「王も皆も心配しているので私が様子を見に来た次第です」

精霊「あなた、ちゃんと寝てる? 隈が酷いわ、取り敢えず座ったら?」

王宮騎士「失礼。皆もこんな顔ですよ。王もですが、王妃は特に…」ストン

精霊「あぁ…彼女は昔から勇者を可愛がっていたものね」

王宮騎士「ええ、お子様は王女様お一人ですからね。我が子のように思っておられます」


精霊「ねえ。彼女、暴れてるんじゃないの?」

王宮騎士「何故それを?」

精霊「左頬に引っ掻き傷があるからよ、相変わらずヒス…感情的な人なのね」

王宮騎士「私なんてまだマシな方です。国王様なんてズタズタですよ……」

精霊「口を塞いで体中に鎖でも巻いたら? そうでもしないと収まらないでしょう」

王宮騎士「それは国王も検討しました。ですが、それは無理です」

精霊「何故? 無理矢理にでも休ませないと体に悪いわよ?」

王宮騎士「厄介なことに、給仕のおば様方なども結託しているのです」

精霊「あぁ……そう言えばこの子、おば様や年配の女性からの受けが異常なほど良かったわね」


精霊「同年代の女性からはさっぱりだけど……」

精霊「それより彼女、もう歳でしょ? 良く体力が保つわね。倒れないわけ?」

王宮騎士「問題ありません」

王宮騎士「精の付くものばかり口にしているので常に目が血走っていますが、城の誰よりも元気です」

精霊「今はそれで何とかなるでしょうけど後が辛いじゃない。馬鹿じゃないの?」

王宮騎士「王や我々が疲れ果てるのを待っているようなのです。ちょっとした戦ですよ」

精霊「ハァ、阿呆らしい。王は何してるの?」

王宮騎士「会いたいと暴れる度に、起きるまで我慢しなさい、とだけ」

王宮騎士「効果は全くないですがね……」

精霊「明日の朝に勇者を行かせるわ。だから今は眠りなさいと伝えてちょうだい」


王宮騎士「更に興奮して眠れなくなるのでは?」

精霊「面倒な女ね……」

精霊「なら、事情を話して給仕の若いのに一服盛らせれば良いでしょ」

王宮騎士「……なる程、それでいってみます」

精霊「成功を祈ってるわ」

王宮騎士「難しいでしょうがやってみます。では、私はこれで…」

精霊「待って、住民の様子はどう?」

王宮騎士「十数名の高翌齢の方や子供が瓦礫の下敷きになった。との報告がありました」

王宮騎士「この二日で何とか全員発見しましたが、半数の方は……」

精霊「亡くなっていたのね?」

王宮騎士「はい、家族を失い自暴自棄になっている方もおられます」


精霊「……そう」

王宮騎士「如何なる魔術でも死者は蘇らない、心の傷を癒すことも出来はしない」

精霊「死者に冥福を…魂に安らぎを」スッ

王宮騎士「………」スッ

王宮騎士「勇者様には言わないで下さい。救われた命もあるのですから」

精霊「無理よ。きっと勇者の方から聞いてくるわ」

精霊「この子のことだから、救った命ではなく救えなかった命に目を向けるでしょう」

王宮騎士「前を向けと言うのも酷なこと……力を持つ者は常に己を責め続けている。ですか」

精霊「ええ。事実、勇者なら救えたでしょうね。その場にいれば、だけど……」

王宮騎士「自分なら出来た、というのが厄介ですね。それが更に彼を苦しめる」


精霊「『もしかしたら』なんて、幾ら考えても埒のあかないことよ」

精霊「結果として救えなかったのなら、事実を受け入れるしかないの」

精霊「何を言われようと、それしかないのよ……」

王宮騎士「……この先、心ない言葉が彼を襲っても、私は彼に感謝しています」

王宮騎士「それに、危うく殺されるところだった騎士二名を間一髪救ったと聞きました」

王宮騎士「彼等は勿論、彼等の家族も心から感謝しています」

精霊「……そう、それは良かったわ」チラッ

勇者「…スー……スー……」

王宮騎士「心配なさらずとも彼なら大丈夫です」


精霊「えっ?」

王宮騎士「彼は成長する。そしていつの日か、世界が彼を知り、彼を理解した時……」

王宮騎士「世界中の人々が彼の名を呼ぶでしょう。親しみや敬愛を込めて、勇者と」

精霊「そうね、私もそう信じてるわ」

王宮騎士「では、失礼します」

ガチャ…パタン…

精霊「親しみと敬愛を込めて、か」

勇者「…スー…スー……」

精霊「事あるごとに悩んだり葛藤したり、つくづく面倒な生き物よね、人間って」

精霊「いい? 勇者の名に囚われては駄目よ?」

精霊「嫌なら逃げてもいいの、なんて言ったら怒るわよね」

ナデナデ…

勇者「…スー…スー……」

精霊「……こんな風に寝顔を眺めるのも久しぶり」

精霊「ふふっ、どんな夢を見ているのかしら。お休み、勇者……」

物騒な単語や「魔力」以外にも伏せ字や「翌」が割り込む現象があるから
全ての作者の書き込みに「saga」を忘れず入れておけば間違いないぞ
読んでるよ乙


>>>>

剣士「ほーら着いたぞ、此処が都だ。どうだ、凄いだろ?」

勇者「うわぁ、人が沢山いる!建物もすごく大きい!!」


これは夢だ。夢が夢だと分かる夢。

これ何て言ったっけ? 前に精霊に教えて貰ったんだけどな。

確か分析夢とかだったかな? 駄目だ、思い出せない。


剣士「おっと、手を離すんじゃないぞ? 迷子になったら大変だからね」

勇者「はーい」ギュゥ

剣士「よし、じゃあ行こうか」

勇者「え?どこかに行くの?」

剣士「王様に会いに行くんだ。前に言っただろう?」


勇者「……忘れてた。ねえ、王様ってこわい?」

剣士「怖くなんかないさ、とっても優しい方だよ」

勇者「……じゃあ行く」

剣士「よーし、偉いぞ」

ナデナデ

剣士「お話ししてる間は退屈かもしれないけど、我慢してくれ」

勇者「えー……」

剣士「あ、でも王女様がいるから大丈夫かもしれないな」

勇者「?」

剣士「王様の子供、女の子だよ。勇者と歳が近いし、友達になれるんじゃないかな」


勇者「友達かぁ、村のみんなは元気かな?」

剣士「……勇者、旅はもうじき終わる。お母さんとも友達とも会えるよ」

勇者「うん、でも寂しくないよ?」

勇者「旅に出てから新しいお友達もできたし、お兄ちゃんもいるから」

剣士「……そうか、ありがとう」

ヒュン…

精霊「いつまでお喋りしてるつもり?」

剣士「お帰り、どうだった?」

精霊「気配はないわ。今のところはね」

剣士「……引き続き警戒してくれ、いつ現れてもおかしくない」ボソッ


精霊「了解」

勇者「なに話してるの?」

剣士「美味しいお菓子があるか見て来てくれたんだ」

勇者「ねえねえ、なんか面白いのあった?」

精霊「面白いもの? そうねぇ、飴で作った蛇とかならあったわ。食べたい?」

剣士「……いや、それは流石に」

勇者「食べたい!」

剣士「勇者、蛇だぞ? 怖くないのか?」

勇者「ヘビはすごいんだよ? はねたりするし」ウン


剣士「そ、そうなのか?」

精霊「あなた蛇が怖いの? 情けないわね」

剣士「人間には苦手なものがあるんだ。まあ、君には分からないだろうけど」

精霊「失礼ね、私にだって苦手なものくらいあるわよ」

勇者「へー、精霊はなにが苦手なの? ミミズ?」

精霊「ミミズも嫌だけれど、そうね……泣き止まない子供とか?」

勇者「あー! また意地悪なこと言った!!」

剣士「ハァ…ほら、もう行こう」


勇者「蛇のアメは?」

精霊「それは後、今は王に会うのが先よ」

勇者「わかった。早く食べたいから早く王様に会いに行こう」グイッ

剣士「分かった分かった。そんなに引っ張らないでくれ、飴は逃げないよ」

精霊「あなた、いつ話すつもり?」ボソッ

剣士「……時が来たら話すさ」

精霊「早めに話した方が良いわよ?」

精霊「問題を先延ばしにして後悔した人間なら沢山知ってるから」


剣士「分かってるさ……」

精霊「あらそう、ならいいわ」

勇者「どうしたの? 早く行こう?」

剣士「ああ、そうだな」


スタスタスタ…


精霊「そう言い続けてどれくらい経つのかしらね」

精霊「打ち明ける機会なら、何度もあったはずなのに……」

勇者「おーい、精霊も早く行こうよー! 迷子になっちゃうよー!」

精霊「ふふっ、あんなに手を振って……」

勇者「早くしないとおいてくよー!!」

精霊「はいはい今行くわ。全く、子供の相手は疲れるわね」


>>>>

剣士「お久しぶりです、陛下」

国王「長旅だったな、もう三年になるか。その子が勇者か?」


あ、場面が変わった。

夢を見てるって言うより、追体験してるような気分だ。


勇者「こんにちは、勇者です」

国王「初めまして、こんにちは」ニコッ

勇者「…………」ジー

国王「ん、何かな?」

勇者「おじさんが王様なの? なんか、ちがうね」


剣士「こらっ、勇者」

勇者「えー、だって…」

国王「はははっ、こんなおじさんが王様じゃ変かな?」

勇者「ううん、すごくこわい人だと思ってたのに優しそうな顔だから」

国王「驚いたのかい?」

勇者「うん。僕、こわい人が王様になると思ってたんだ」

国王「それは違うな。いいかい? 優しくないと王様にはなれないんだ」

国王「怖いだけだと皆が逃げてしまうからね。すると、最後は一人ぼっちになる」

国王「王様は皆がいるから王様でいられる。だから優しくなくてはいけないんだよ」


勇者「へー、王様って大変なんだね」

国王「ははっ、王様は大変だぞー? 何なら一度王様をやってみるかい?」

勇者「うーん、面白そうだけど……いいや」

国王「ん? それは何故かな?」

勇者「その服、すごく重そうだから。それに大きいから僕には着られないよ」

勇者「かんむりだって王様が一番似合うと思う。かっこいいよ?」

国王「…………」

剣士「陛下、申し訳ありません」

国王「いや、いい。確かにこの冠と服は重い、かと言ってそう簡単には脱げん」

勇者「それずっと着てるの? やっぱり僕が王様やってあげようか?」


国王「はははっ、面白い子だ」

勇者「?」

国王「勇者君、歳は幾つだい?」

勇者「えっーと、もうすぐ8才です」

国王「そうか、八歳か……」

国王「おじさん達は、これから退屈な話しをする。勇者君は外で遊んでおいで」

勇者「いいの?」

国王「勿論いいとも。君、城を案内してあげなさい」

王宮騎士「はっ、畏まりました」

剣士「勇者、あまり走り回ったりするんじゃないぞ?」


勇者「はーい」

剣士「あの、勇者のことお願いします」

王宮騎士「はい、お任せください。さあ、行きましょう」

勇者「うん」


ガチャ…パタン…


国王「さて、旅の方はどうだ?」

剣士「人々に勇者を認知させることは出来ています」

剣士「来たるべき時の為、今は存在だけでも知って貰わなければ……」

剣士「異界のものについては予言通り、数体ではありますが各地で存在を確認しました」

国王「……そうか、実は我が国でも数体討伐した。やはり予言は真実だったのだな」

国王「今のところは対処出来ているが、この先は分からん」


剣士「予言通りだとすれば、これは始まりに過ぎません」

剣士「これ以上増えるようであれば、近々、各国で専属の部隊が編成されることになるでしょう」

国王「カビの生えたお伽話かと考えていたが、まさか現実になるとはな」

剣士「邪悪なる異形の者共が世に混沌をもたらさんとする時……」

国王「それを討ち払い、世を救わんとする善なる者達も現れるであろう……だったな」

国王「剣士よ。あの時、少しでも疑いを持った私を許してくれ」

剣士「いえ、疑って当然です。僕もあれが嘘であれば良かったと今でも思っています」

剣士「事実、この目で見るまでは本気で信じていませんでした」


国王「いずれは民にも知れるだろう。早急に対策を練らねばなるまい」

国王「しかし、邪悪なる異形の者共か。奴等にも王と呼ばれる存在がいるのだろう?」

剣士「はい、比類なき力を持つ者と言っていました」

剣士「闇の王、魔を統べる者、決して救われぬ咎人とも……」

剣士「最後の言葉が何を意味するかは分かりませんが、脅威になることは間違いないでしょう」

国王「まだ謎の多い存在のようだな。それだけに不気味だが……」

剣士「ええ、ですが我々…人類の敵となるのは間違いないでしょう」

国王「……剣士よ、いずれ我々では対処出来なくなる時が来る。そう言ったな」

剣士「予言では、ですが……」

国王「ふぅ、いずれ世界は異形の者共で溢れかえるか。その予言が外れるのを願うばかりだ」


こんな会話は記憶にない。

これはあの人の、兄ちゃんの記憶か?でも何故?

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勇者「広いね-、みんな迷子にならないの?」

王宮騎士「皆さん城内で働いる方ですから、大丈夫ですよ」


また場面が変わった。

二人が何を話していたか、もう少し聞きたかったんだけど仕方ない。

この時は確か……


勇者「そうなんだ。ん、あれっ?」

王宮騎士「どうしました?」

勇者「庭にいる女の子、一人で何してるの?」

王宮騎士「あの方は王女様です。どうやら、お稽古の最中のようですね」

勇者「王女様が剣のお稽古するの? 教えてくれる人はいないの?」


王宮騎士「それは……」

王女「わたくしが教えて欲しい剣術を教えて下さる方がいないからです」

王宮騎士「王女様!?」

勇者「足、はやいね…ですね」

王女「あなたが勇者ですね?」

勇者「うん、じゃなくて、はい」

勇者「僕が勇者ですが、えーっと、何かごようでございますの?」

王女「いつも通りの話し方で結構です。その方が話し易いので」


勇者「そっか、分かった。僕が勇者だけど、なに?」

王女「剣士様と一緒に旅をしているそうですね」

勇者「剣士…あ、お兄ちゃんか。うん、そうだよ」

王女「あなた、自分のことを特別だと思っていませんか?」

勇者「どういうこと?」

王女「こういうことです」ガシッ

勇者「うわっ!?」

グルンッ!バタンッ…

王宮騎士「なっ、王女様! 何をなさるのです!!」


王女「軽く試してみただけです」

王女「この程度に反応出来ないとは思いませんでしたが」

王宮騎士「そういうことではありせん! 何故このようなことをしたのかと聞いているのです!」

勇者「いいよ、そんなに痛くなかったから大丈夫」

王宮騎士「勇者様……」

勇者「お兄ちゃんにお友達になれるって言われたけど、君は僕がきらいみたいだね」

勇者「騎士さん、もう行こう?」

王宮騎士「え、ええ……では王女様、失礼します」

王女「投げられたのに、何もせず逃げるのですか?」


勇者「……君は、僕とけんかしたいから投げたりしたの?」

王女「いえ、手合わせ願いたかっただけです」

勇者「だったらそう言えばいいのに……」

勇者「自分が一番だって思ってるのは、君の方じゃないの?」

王女「……何ですって?」イラッ

王宮騎士「(ど、どうする?止めようにも王女様がこの様子では…)」オロオロ

勇者「君みたいなことを言う人を沢山いたから分かるんだ」

勇者「何でこんなガキを弟子にしたのか分からない、俺の方が……みたいなこと」


王宮騎士「……勇者様…」

勇者「お兄ちゃんは強いし、あこがれてる人がいるのも知ってる」

勇者「僕だってお兄ちゃんみたいになりたい」

勇者「だから僕は、君がしたようなことは絶対にしない」

王女「っ!!」

勇者「さよなら、王女様」

王女「ま、待って下さい!」

勇者「なに?」

王女「いきなり投げ飛ばしたことは謝ります。ごめんなさい……」


王女「よろしければ、私と手合わせして下さい」

王宮騎士「王女様、今日はもうお止めになった方が…」

勇者「ゆっくりならいいよ、危なくないから」

王宮騎士「勇者様っ!?」

王女「分かりました。それでも構いませんのでお願いします」

勇者「騎士さんも行こう?」

王宮騎士「は、はぁ…ですが一応報告をしなければならないので」

王女「あなたは木陰で休んでいて下さい。お母様に伝えられると面倒ですから」


王宮騎士「(流石は王女様、勘が鋭い…)」

王女「よいですね?」

王宮騎士「し、承知しました(どうしよう……)」


スタスタ…


勇者「ゆっくり合わせていくやつ、行くよ?」

王女「ええ、いつでもどうぞ?」

王宮騎士「(大変なことになってしまった)」

王宮騎士「(あぁ、こんな時、王妃様が王女様の傍にいて下されば……)」


勇者「行くよ、ほっ」

王女「……(これは、退屈しそうですわね)」

カツン…カツン…カツン…

勇者「ゆっくりしっかり振ると体の真ん中がずれないんだって」

王女「体の中心、軸ですね?」


カツン…カツン…カツン…


勇者「うん、それ。ゆっくり続けてから早く振ってみると分かるよ?」

王女「試してみても?」

勇者「いいよ? もう少し続けてからね?」

王女「ええ、分かりました」


カツン…カツン…カツン…

勇者「もういいよ?」

王女「……では、せいっ! あっ…」

勇者「ね、違うでしょ?」

王女「ええ、確かに違います」

王女「でも何故でしょう? いつもと同じように振っているつもりなのですが……」

勇者「ちょっといい?」ギュッ

王女「あっ…」

勇者「ほら、強く握りすぎだよ。ゆっくりの時はもっと力抜いてたのに」


王女「そ、そうでしたか?」

勇者「うん、ちゃんと見てたから」

王女「…………」

勇者「あとは肩と腕にも力が入ってる。力抜いて? ぶらんってして」

王女「こうですか?」ダラン

勇者「うーん、もっとぶらぶらさせる方がいいんだって」

王女「どういうことです?」

勇者「うーん、そうだ。剣を置いて?」


王女「は、はいっ」

勇者「手かして?」

王女「………」スッ

ギュッ…

勇者「こう、手首とかふらふらさせて、体になんにもない感じ」

王女「なる程、こういうことですか」

勇者「そしたら、ゆらゆらしながら一気に…ふっ!」

王女「あっ!」

勇者「違うの分かる?」

王女「ええ、今までとは全く違った感覚でした……」


勇者「どう? ゆっくりでも楽しいでしょ?」ニコッ

王女「…っ、あのっ!」

勇者「なに?」

王女「先ほどは本当にごめんなさい。あなたを誤解していました」

王女「勝手な思い込みで、あんなことをしてしまって……」

勇者「思い込みって?」

王女「もっと偉ぶったような、自分の力を見せ付けるような人だとばかり」

勇者「僕はそんなことしないよ。そういうのきらいだもん。でもよかった」ウン


王女「良かったとは何がです?」

勇者「仲良くなれたから」

王女「えっ…」

勇者「それに、さっきまでこわい顔だったけど、今は優しい顔してる」

王女「……優しいのは貴方の方です」

王女「自分を投げ飛ばした相手に、こんな風に接することが出来るなんて」

勇者「こわい人は王様になれないんだって、やさしくないと一人ぼっちになるから」

王女「……それは、誰が仰っていたのですか?」

勇者「さっき王様が言ってた。かんむりと服が重たくて大変なんだって」

王女「そうですか、父がそんなことを…」ポツリ


勇者「王様が言ったみたいに、世界中のみんながやさしかったらいいのにね……」

王女「旅の道中、何か嫌なことでもあったのですか?」

勇者「……なにも知らないの人に色々言われた。親に捨てられたんじゃないか、とか」

勇者「お母さんの悪口を言う人もいた。他人に一人息子預けるなんて親失格だって…」

勇者「僕がいると再婚出来ないから追い出したんだとか、ありもしないこといっぱい言われた」

王女「酷い……」

勇者「もっと嫌なことも言われたけど、別にいいんだ」


王女「何故です?」

勇者「お母さんが僕を心配してるのも、泣くの我慢して見送ったのも、僕が知ってればいい」

勇者「嫌なこと言われても、お母さんの気持ちは僕が知ってる。だから、いい」

王女「そうですか……貴方は強いのですね」

勇者「王女様も強いよ? 投げ方上手だったし」ウン

王女「いえ、わたくしが言っているのはそういうことではなくて…」

勇者「どういうこと?」

王女「悪意に耐える強い心を持っているということです」


勇者「そうなの?」

王女「わたくしはそう思いますよ?」

勇者「そっか。王女様が言うなら、そうかもしれないね」

王女「ふふっ、何ですかそれは」

勇者「だって王女様だよ? 絵本に出てくるお姫様だよ?」

勇者「そんな凄い人が言うんだから間違いないよ」ウン

王女「わたくしは別に……父が王であるというだけです」

勇者「えー? 一人でお稽古したりするのは偉いと思うけどなぁ」


勇者「あれっ、王女様は王女様だからもう偉いのか……」ウーン

勇者「どうしよう、なんて言えばいい?」

王女「えっ? それをわたくしに聞かれても…」

勇者「そっか、なんかあれだね。王女様をほめるのって難しいね」

勇者「凄いとか偉いとか言っても違うし、頑張り屋さんって言ったら変な感じだし」

王女「頑張り屋さん、ですか…」

勇者「あー、えーっと違う。何だっけ、ほら……頑張る人。努力屋?」

王女「ふふっ、努力家ですか? でも、頑張り屋さんでいいです」

勇者「そう? じゃあ、王女様は頑張り屋さんだね」ウン


王女「…………」

勇者「王女様? どうかしたの?」

王女「いえ、こんな風にお話しをするのは久しぶりなものですから」

勇者「そうなの?」

王女「ええ、歳の近い方と接する機会はあまりないので」

勇者「じゃあ、いつもはどんな子と遊ぶの?」

王女「年に何度か他国の王子や王女と会うくらいです」

勇者「へーっ、王女様同士ってどんなお話しするの? このたびは流通がとどこおり、とか?」

王女「いえ、そんなことは……でも…」

勇者「でも?」

王女「仲良くお話ししているようで、実はそうではないのです」


勇者「それは・つくってこと?」

王女「・をつく……そうかもしれないですね。それに近いと思います」

王女「お互い、本当に仲良くなるのを避けている」

王女「仲が良すぎても駄目、かと言って仲が悪すぎても駄目ですから」

勇者「みんな、そんな感じなの?」

王女「いえ、中には本当に仲の良い、気の合う方もいるのですよ?」

王女「ですが次に会った時は、そうでないかもしれません」

勇者「それはなんで? 会えない時間が長いから?」

王女「それもありますが、他にも色々です。何より国が違いますから……」

勇者「ふーん、国かぁ…なんか色々めんどくさいね」


勇者「それは嘘つくってこと?」

王女「嘘をつく……そうかもしれないですね。それに近いと思います」

王女「お互い、本当に仲良くなるのを避けている」

王女「仲が良すぎても駄目、かと言って仲が悪すぎても駄目ですから」

勇者「みんな、そんな感じなの?」

王女「いえ、中には本当に仲の良い、気の合う方もいるのですよ?」

王女「ですが次に会った時は、そうでないかもしれません」

勇者「それはなんで? 会えない時間が長いから?」

王女「それもありますが、他にも色々です。何より国が違いますから……」

勇者「ふーん、国かぁ…なんか色々めんどくさいね」


勇者「そうだ! 僕と友達になればいいよ!」

勇者「僕となら難しいお話ししなくていいし!」

勇者「嘘もつかなくていい、普通にお話ししたり遊んだりするんだ!」

王女「……普通に…わたくしに出来るでしょうか?」

勇者「大丈夫! 僕は違う国の人じゃないし王子様でもないから!」

王女「ぷっ…あははっ!!」

勇者「えっと、嘘もつかないよ?」

王女「……そうですね、あなたは王子様でもなければ嘘吐きでもない」

>>87はミスです。

また後で書きます


王女「勇者、わたくしからも言わせて下さい」

勇者「うん?」

王女「わたくしと、お友達になっていただけますか?」

勇者「いいよ! ぼうえきの話しとか出来ないけど」

王女「ふふっ、構いませんよ。そんな会話は退屈なだけですから」

勇者「じゃあ何する?」

王女「もう少し剣術を教えて下さいませんか? 出来れば、剣士様の剣術を」

勇者「お兄ちゃんの? 二つ使ってやるやつ?」

王女「そう!それです! わたくし、あの方に憧れて剣術を始めたの!」


勇者「へぇー、そうだったんだ」

王女「でも、誰も教えてくれる人がいなくて…」

勇者「何でお兄ちゃんの剣術じゃなきゃ駄目なの?」

王女「何と言えばよいのか、剣術らしくないところが好きなのです」

王女「あの日に見た軽やかに舞うような姿は、今でも忘れられません」

勇者「うーん、真似するだけなら出来るよ? 多分ぐちゃぐちゃになると思うけど見る?」

王女「是非! 見せて下さい!」

勇者「じゃあ、王女様のやつも借りるよ?」ガシッ

王女「ええ、どうぞ」

勇者「よーし……ふっ!!」タンッ


ヒュン…ズッ…ダッ…グルンッ…

王女「……凄い」

勇者「止めちゃ駄目なんだ、こうやって動き続けて、同じことの繰り返しにならないようにする」グルンッ

勇者「こんな風に横とか縦とか、真っ直ぐに突いたり、上、下、真ん中、時々両方……」ドッドッ

勇者「肩とか揺らして次の動きがバレないように、剣だけじゃなく足も使う」ヒュン

勇者「両手と両足を使って相手を困らせる。次に何が来るか分からなくするんだ」

勇者「そうすると相手が止まるから、その時を狙う」ブンッ

王女「(この動き、あの日見た剣士様にそっくり。旅の中で見ていたからかしら?)」

勇者「今のはずっと動いてたけど、反対に止まって待つやつもある」ビタッ

勇者「動かずに、相手が来るのを待つ。わざとどこかを狙わせて、それを避けながら……」グンッ

勇者「打つ」

勇者「これは一回だけ、一回で決める。相手に合わせて動くんだって」


王女「…………」ポケー

勇者「ねえねえ、ちゃんと見てた?」

王女「え、ええっ! もちろん見ていましたよ!? ただ、想像よりも美しかったので……」

勇者「ううん、今のは剣を振ってただけ。これじゃあ全然駄目なんだって」

王女「どうしてです? あんなに綺麗に動けていたではないですか」

勇者「ただ振り回すなら誰にも出来る。一つ一つの動作に力が入ってないと意味がない」

勇者「次へ次へと急ぐあまり、力みが出る。そうなると体と剣の動きが合わなくなってしまう」


王女「それは剣士様が?」

勇者「うん、だから今はゆっくり振ってる。一つ一つていねいに」

王女「なる程。だから先ほど、わたくしにもゆっくりと振るように言ったのですね?」

勇者「うん。急いだってお兄ちゃんみたいには出来ない、少しずつでいいんだ」

勇者「だから、まずは一つでゆっくりやった方がいいよ。それが大事」ウン

王女「……そうですね、そうしてみます。見せていただいてありがとうございました」

王女「よければ、また付き合ってもらえますか?」

勇者「うん! 旅が終わったら絶対来るよ!!」

勇者「ぼうえきの話しとか出来るようになるから」ニコッ

王女「ふふっ、貿易の話しは別にいいですよ。また会える時を楽しみにしています」

勇者「僕は大丈夫だよ? 次に会っても変わらないし、・ついたりしない」


王女「それは剣士様が?」

勇者「うん、だから今はゆっくり振ってる。一つ一つていねいに」

王女「なる程。だから先ほど、わたくしにもゆっくりと振るように言ったのですね?」

勇者「うん。急いだってお兄ちゃんみたいには出来ない、少しずつでいいんだ」

勇者「だから、まずは一つでゆっくりやった方がいいよ。それが大事」ウン

王女「……そうですね、そうしてみます。見せていただいてありがとうございました」

王女「よければ、また付き合ってもらえますか?」

勇者「うん!旅が終わったら絶対来る!!」

勇者「ぼうえきの話しとか出来るようになるから!!」

王女「ふふっ、貿易の話しは別にいいですよ。また会える時を楽しみにしています」

勇者「僕は大丈夫だよ? 次に会っても変わらないし、嘘ついたりしない」


王女「何故そんなことを……」

勇者「だって王女様、とってもとっても悲しい顔してたから」

王女「顔に出ていましたか。わたくしも、まだまだですね」

勇者「嫌な時は嫌な顔して、嬉しい時は嬉しい顔した方がいいよ?」

勇者「嘘ついて嘘の顔してたら、何が何だか分からなくなると思う」

王女「……そうですね。きっとその通りなのでしょう」

王女「けれど、それが必要な時もあるのです。仕方のないことなの……」

勇者「ねえ王女様、それは本当の悲しい顔?」

王女「……ええ、これは本当の本当に悲しい顔です」


王女「さっき言われた通り、再会する時のことを想像すると怖くなります」

王女「実際、仲の良かった方が突然態度を変えて接してきたこともありましたから」

王女「その方自身の意志なのか、それは今も分かりません。色々、ありますから」

勇者「ふーん、僕は会えないからって嫌いになんてならないよ?」

王女「勇者、それは本当の言葉ですか?」

勇者「本当の本当。だって、僕は嘘つき王子様じゃないから」

王女「ふふっ…そうでしたね。安心しました」

勇者「ぜったい会いに来るから、またここでお話ししたりしよう」ウン

王女「……ありがとう、勇者」


憶えてる。

この時のことも彼女の笑顔も、今でもしっかりと憶えてる。

でも、僕は約束を破った。

嘘を吐いて遠ざけて、それ以来、彼女とは会ってない。

子供なんて、こんなものだ。

出来もしない、守れもしない約束を簡単にする。

絶対とか必ずとか、そういう言葉を軽々しく使うから痛い目を見るんだ。

この小さな僕に、今の僕の声が聞こえるのなら、こう言ってやりたい。


無責任な発言はするな、この大嘘吐きめ……


王宮騎士「一時はどうなることかと……仲良くなられたようで良かった」ホッ

王妃「そうねぇ、娘のあんな顔は初めて見るわ」

王宮騎士「お二人とも可愛らしいですね。見ていて微笑ましい限りです」ウンウン

王妃「あの子が勇者君よね?」

王宮騎士「ええ、もうすぐ八歳らしいですよ?」

王妃「うふっ…可愛いわね、凄く」

王宮騎士「そうですね…っ、王妃様!? 一体いつから…」

王妃「二人が良い雰囲気になるちょっと前からかしら。あらあら、見事に二人だけの世界ね」

王妃「やっぱり子供っていいわぁ、見ていて癒やされる」


王宮騎士「ええ、そうですね」

王妃「勇者君、本当に可愛いわねぇ。うちの子にしたいくらいだわ」

王宮騎士「……………」

王妃「あの娘、最近一人で考え込むのが多いのよ。親には相談出来ないこともある」

王妃「弟妹がいれば良かったのだけど、出産以降子宝に恵まれなかったのよね……」

王宮騎士「王妃様、それは誰が悪いわけでもないです。気に病むことは」チラッ

王妃「………」ズーン

王宮騎士「も、申し訳ありません!私ごときが出過ぎたことを……」

王妃「良いのよ、その通りだもの。敢えて言うなら、運が悪かったのかしらね」

王宮騎士「あの、お子さんを授かるのは中々難しいことだと思いますし」オロオロ


王妃「そうね。でも、あの子に寂しい思いをさせてしまっているのが自分だと思うと……」

王妃「かと言って今からとなると難しいし、近頃はあの人も忙しいようだから。中々ねぇ」

王宮騎士「あの、王女様も今は楽しそうですし、それでよいのでは?」チラッ

王妃「あんな弟がいれば娘も喜ぶでしょう。私も喜ぶわ」ギラギラ

王宮騎士「ヒッ…」

王妃「さてと……」ザッ

王宮騎士「な、何をなさるおつもりですか?」

王妃「何もしないわよ、三人で手を繋いで城内を歩くだけ」


王妃「あなたは後から付いてきなさい」

王宮騎士「は、はいっ!」

王妃「二人とも、お稽古はその辺でお止めなさい」


王女「お母様!?」

王妃「良き友人が出来たようで良かったわ」

王妃「あまり遊ばせてあげられなくて、ごめんなさいね」

王妃「こんな母を許してちょうだい……」グスッ

王女「お母様、わたくしは別に」

王妃「いいのよ、私には分かるもの」

王妃「いつも寂しい想いをさせてしまって本当に…うぅぅ」


勇者「王女様のお母さん? 何で泣いてるの?」

王女「現在、わたくしは城から出てはいけないのです。何か事情があるのでしょう」

王女「それからというもの、わたくしに弟妹がいないのを嘆くように……」

王妃「勇者君がよければ私の…いえ、この子の弟になってくれないかしら」

勇者「嫌だよ。僕にはもうお母さんいるもん」

王妃「第二の母でもいいわ。見たときにビビッときたの」

王女「お母様」

勇者「お母さんは一人でいいよ。それよりビビッってなに?」


王妃「母性に直接、いえ、この場合は子

王女「お母様! もう止めて下さい!」

王女「勇者はわたくしの友人です、あまり困らせないで」

王妃「あら、弟にしたいとは思わないの?」

王女「普通は思いません!」

王妃「じゃあ、そうねぇ……恋人ならどうかしら?」ニコニコ

王女「からかうのは止して下さい」

王女「勇者、もう行きましょう。わたくしが城を案内します」ギュッ


王女「さ、行きましょう」

勇者「あ、うん」テクテク

王妃「娘よ、待ちなさい。今のは冗談よ」ガシッ

王女「……それは気付きませんでした。それで?お母様はどのようなご用件でここに?」

王妃「別に用なんてないわ。そうねぇ…取り敢えず」スッ

ギュッ

王妃「三人で歩きましょう。一度、こんな風に歩いてみたかったの」ギュッ

勇者「僕が真ん中なの?」

王妃「当然よ、勇者君が一番小さいんだもの」

王女「お母様、あまりはしゃがないで下さい。皆が見ています」

王妃「……そうね、ごめんなさい。あなたに弟が出来たようで、つい」グスッ


勇者「王女様のお母さんって泣き虫なんだね」

王女「泣き虫と言うか、感情の振れ幅が普通の人より大きいのです」

トコトコ…

王妃「……………」

王妃「(しっかりした姉に支えられて育った弟は、いつしか姉の背を追い越し、姉を支えるように……)」

王妃「(そんな弟を頼もしく感じ始め、もう昔とは違うことに気づく。姉は少々寂しさを感じたが、素直に成長を喜んだ)」

王妃「(弟は立派に王位を継承、他国との友好関係を盤石なものとして国民に安全と安心を与えた)」

王妃「(両親である私とあの人は大いに喜び、息子の成長に涙を流した。その夜は綺麗な月夜であった)」

王妃「(姉は弟の親友である他国の王と結婚、城を去ってしまう。両親は大きな喜びと同時に、大きな哀しみを覚えた)」

王妃「(一方、盛大な結婚式の後、弟は姉からの手紙を見て人知れず涙していたのであった)」

王妃「(それから数年、王となった弟は美しい妃を迎えた。しかし、その妃は王を誑かし城を掌握しようと企む悪女…)」


王妃「駄目よ!」ギュッ

勇者「なにが?」

王妃「女には気を付けなさい、見た目で判断しては絶対に駄目。女は怪物よ」フルフル

勇者「女の子が怪物? 王女様も?」

王妃「いえ、娘は良い子よ。でも他は違うわ、何をされるか分かったもんじゃないわ」

勇者「そんなにこわいの? 女の子って」

王妃「女より怖い生き物はいないわ。騙されてからでは遅いの? 分かった?」

勇者「お母さんは男の子が守ってあげないと駄目だって言ってたけど、違うの?」


王妃「確かにお母様の言う通り、男は女を守る存在でないと駄目ね……」

王妃「でもね、か弱いフリをしてる女も大勢いるのよ。奴等は計算高く恐ろしい醜悪な生物よ」ギリッ

勇者「気持ち悪いやつにでも変身するの? イモムシみたいな」

王妃「……変身。そうね、まさに変身よ」

王妃「あんなに優しかった女性が、実は夫に毒を盛っていたなんて……嗚呼、なんと恐ろしい」

王女「お母様は本の読み過ぎです。そんなことはありません」

勇者「王女様は変身する?」

王女「しません。ほら、お母様が変なことを言うから真に受けているではありませんか」


王妃「ごめんなさい。私ったら、つい……」ショボン

勇者「謝らなくていいよ? 大丈夫?」サスサス

王妃「……大丈夫よ、ありがとう。優しい子ね」

ナデナデ…

勇者「手、優しいね」

王妃「こんなおばさんでいいなら、いつでも撫でてあげるわ」ニコッ

勇者「ちょっと変だけど、優しいお母さんだね?」

王女「そう言ってもらえると嬉しいです。普段はもっとしっかりした人なのですよ?」

勇者「へー、王女様よりも?」

王女「わたくしなど全然です。今のお母様からは想像出来ないでしょうが……」


勇者「じゃあ、本当は本当に凄いんだ」

王女「最近はちょっとおかしいですけどね……」

王妃「ねえ、勇者君もあなたもお腹空いてない?」

王妃「空いてるわよね? さ、厨房に行きましょうか」

王女「お母様、急に行ったら皆の迷惑に

王妃「ならないわ。いえ、なるわけがないわ」

王女「はぁ…勇者、ごめんなさい。もう少しだけ付き合って下さい」

勇者「うん、いいよ」

王妃「さっ、行きましょう!」ニコニコ



王宮騎士「(近頃お元気がなかったのが嘘のように笑顔でいらっしゃる。喜ばしいことです)」

王宮騎士「(やはり子は宝、希望だと分かった今日この頃であります……)」トコトコ

また後で

>>97はミス。
たびたび申し訳ない。


>>>>

給仕長「どうしたんだい坊や、野菜は嫌いかい?」

勇者「……うん」

給仕長「あははっ、大変素直でよろしい。苦手なら残したって構わないよ」

勇者「そんなこと言われたの初めてかもしれない。本当にいいの?」

給仕長「いいんだよ、どんな生き物にも好き嫌いってものがあるからね」

勇者「ふーん」

給仕長「でもね? その野菜だって坊やに嫌われたくて生まれたわけじゃないんだ」

給仕長「坊やに美味しく食べて欲しいから、一生懸命頑張ったんだよ?」


勇者「そうなの?」

給仕長「そうさ。だから、そんなに嫌わないでおくれ」

勇者「……ちょっとだけ食べてもいい?」

給仕長「ふふっ、もちろん」

勇者「………」パクッ

給仕長「どうだい? そんなに悪い奴じゃないだろう?」

勇者「なんか、思ってたより美味しい。嫌いだったのに……」

給仕長「そりゃそうさ、嫌いだ嫌いだと思ってたら、どんなに美味しいものでも不味くなるからね」

勇者「そっか、じゃあ野菜を不味くしてたのは僕ってこと?」


給仕長「そうかもしれないねえ」

勇者「……僕、野菜好きになったのかな?」

給仕長「美味しいんだろう?」

勇者「うん、美味しいよ?」

給仕長「なら好きになったんだよ。だから美味しく食べられるのさ」

勇者「なるほど……もっと食べもいい? このトマトが一番美味しい」

給仕長「あははっ、気に入ったみたいだね。ほら、どんどんお食べ」

勇者「うん、ありがとう」モグモグ

給仕長「あらあら、夢中で食べてるね」


王妃「相変わらず食べさせるのが上手いわね。娘も世話になったわ」

給仕長「なーに言ってんのさ、あんたは今でも野菜残してるじゃないか」

王妃「私はいいの、もう大人だから」

給仕長「野菜の好き嫌いは早めに治さないと後々大変だからね」

給仕長「坊やも、こんな大人にならないように気を付けなよ?」

勇者「………」モグモグ

給仕長「あら、聞こえちゃいないね」

給仕長「小さいお口にあんなに頬張って……可愛らしい坊やだこと」


王妃「でしょう? 絶対気に入ると思ったわ」フフン

給仕長「まだ八歳なんだろう?」

王妃「いえ、まだ七歳。もうすぐ八歳になるらしいわ」

給仕長「七歳、親元を離れるのは辛かったろうに……」

王妃「そうね、お母様もさぞかし心配しておられることでしょう」

給仕長「正直、気が気でないと思うよ。やっぱり、あの人だから任せられたのかねぇ」

王妃「そうでしょうね。あの人以外に安心して我が子を預けられる人はいないでしょうから」

給仕長「剣士さんは旦那様と?」

王妃「ええ、まだ話しているわ。調査内容の報告、各国の対応。色々よ」


給仕長「……最近は色々と忙しいようだね。大丈夫かい?」

王妃「私は平気よ?」

王妃「これくらいで疲れてたら、王の傍にはいられないもの」

王妃「それより娘が心配だわ。今は同じ年頃の子供と遊ぶ機会もないし」

給仕長「でも、分かってくれてるんだろう?」

王妃「あまり我が儘を言う子じゃないのよ。だから余計に心配……」

王妃「溜め込んだものを吐き出す場所がないというのは、子供も大人も関係なく、つらいことよ」


勇者「王女様も一緒に食べようよ、美味しいよ?」

王女「わたくしは結構です。調理場で食べるのは行儀が…」

勇者「野菜苦手なの? 王女様なのに?」

王女「苦手ではありません」

王女「ただ、調理場で食べるのはいけないと言っているだけです」

勇者「ふーん、じゃあいいや」モグモグ

王女「………」グゥ

勇者「本当に食べないの?」チラッ

王女「本当に食べません、結構です」


給仕長「でも、今は違うみたいだね」

給仕長「王女様のあんなに和らいだ顔、久しぶりに見たよ」

王妃「やっぱり弟妹がいた方が良いのかしら?」

王妃「もう少し落ち着いたら頑張ろうかしら。まだ遅くはないし」

給仕長「あたしは、あの坊やだからこそだと思うけどねぇ」チラッ


勇者「やっぱり一緒に食べよう? 僕ばっかり食べるのは何か嫌だよ」

王女「ですから、調理場で食べるのは…」

勇者「自分ばっかり食べないで分けてあげなさいって、お母さんが言ってた」

勇者「これ、すごく美味しいから食べてみて?」

王女「……はぁ、分かりました。少しだけですよ?」パクッ


王女「あっ、美味しい…」

勇者「ねっ? 美味しいでしょ?」ニコッ


王妃「……あなたの言う通り、勇者君だからかもしれないわね」

給仕長「弟妹にだからこそ、弱い部分を見せられない時もあるからねぇ」

給仕長「あたしは、王女様はそういう質だと思うんだ。責任感の強い子だから」

勇者「もう一個食べる?」

王女「……ええ。じゃあ、もう一つだけ」

給仕長「ほらね、きっと他人だから良いのさ」ウン

王妃「そうね。出来るなら、勇者君にはこの日のことを忘れないで欲しいわ」


忘れられるわけがない。

この日を境に、何もかも変わったんだから。


ーー失礼します! 広場に……


もういい、見るのは楽しい記憶だけで十分だ。

この先は思い出したくもない。


ーー報せを受けた剣士様と精霊さんが…
ーー全身を黒衣で覆った、異様な風体の…


何だよ、早く目覚めろ。これは僕の夢だぞ。


ーー何だこの騒ぎは!
ーー広場の奴とは違う奴が城内に……


王宮騎士「皆さん、早く逃げて下さい! ここは我々が! ぐっ、ああああッ!!」


王妃「勇者君、王女、早く逃げなさい……」

王女「……血? お母…様?」

勇者「…ハァッ…ハァッ…」ガクガク

王女「お母様、しっかりして! お母様!!」

勇者「…ハァッ…ハァッ…ハァッ…」スッ

ガシッ…

王宮騎士「何故、剣を、まさか戦うつもりですか……お止め下さい…無…茶…です」

勇者「痛くたっていい。みんな痛いんだから、痛いのなんて怖くない」ギュッ

勇者「死んだら二度と会えなくなる。僕は、そっちの方が怖い」ダッ


ーーあの子か?
ーーああ、そうらしいな。


勇者「…………」ポツン


ーーあの子が城内に出た化け物を退治したらしい
ーー凄まじい力だ、どっちが化け物か分からん

ーー相手が化け物とはいえ、あの歳で殺しちまうなんてな
ーーああいう子が稀に生まれるのは知ってるだろう。
ーーそんな言い方はするもんじゃない。

ーー勿論知っている。直接会ったことだってある。
ーーだが、あの子はその中でも別格、抜きん出ている。


うるさいな、そんなの今更聞かなくても良く分かってるよ。


ーーあの子が正しい道を進むとは限らない。

ーーおい、何てことを言うんだ!
ーーあんな小さい体で王妃様や城内の皆を助けたんだぞ!


ーーそうだ!そんな言い方はあまりに酷すぎる!
ーー怖いんだよ、あの子は我々とは違いすぎる。

ーー事実、ああいう連中が力を悪用した例は多々ある。
ーー今がそうだからって楽観視出来るか。

ーー黙れ。城内にいた者ならば、そんな口を叩けるはずがない。


いい加減目覚めろ、もういいって言ってるだろ。


ーー勇者様に非難される謂われはない。
ーーだがまあ、貴様等のような人間には分からんだろうが。

ーー何だと! もういっぺん言ってみろ!
ーーどうせ逃げ回っていたんだろう、腰抜け。

ーーこの野郎ッ!!
ーーお前達、何をしている!止せ!


勇者「…………」ギュッ

【変異種】
【稀少種】
【超人類】
【悪魔の子】
【先天性・強化型特異体質】
【ーーー】
【ーーー】

勇者「……もう嫌だ。こんなの知らない、見たくない」グスッ

王女「勇者、こんなところにいたのですか。捜したのですよ?」

勇者「……なに?」

王女「隣に座っても?」

勇者「駄目だよ。王女様までなんか言われる」

王女「わたくしは何を言われても構いません」

王女「あなたは皆を、わたくしとお母様を救ってくれました」

王女「さあ、これで涙を拭いて?」

王女「あなたは勇気ある行動をしました。堂々としていればよいのです」


勇者「王女様は、僕を嫌いにならない?」

王女「なるわけがありません。だって、あなたはわたくしのーーー」


止めろっ! もういいって言ってるだろ!!


勇者「もういいって言ってるだろ!!」ガバッ

精霊「んーっ…なに、どうかしたの?」

勇者「ハァ…ハァ…まだ夜も明けてないのか。起こしてごめん、少し出てくる」

精霊「酷い汗だわ、大丈夫?」

勇者「いや、大丈夫じゃない。少し一人になりたい、君は休んでていい」

精霊「……勇者、あなた…」

勇者「理由が分かるなら、言わないでくれ」


ガチャッ…パタンッ…


精霊「…………………」スッ

ちょっと休憩、もう少し書きます。


>>>>

城内庭園

勇者「……今日は眠れそうにないな」ストン

勇者「あぁ、そうだ。思い出した」

勇者「確か、明晰夢だ。全然思い通りならかったけど…」


ーーまた、ここでお話しよう?
ーー僕は王子様じゃないから大丈夫だよ!


勇者「………何言ってんだ、まったく」ゴロン

勇者「(嫌な夢だったな、夢の中くらい休ませてくれてもいいだろ)」

勇者「(傷を抉ってくる相手なら精霊だけで十分足りてるんだ)」

ザッ…ザッ…ザッ……


勇者「誰だか分からないけど、もし僕に用があるなら明日にしてくれないかな」

勇者「ただの散歩なら僕のことは気にしないでいい。石ころみたいに黙ってるから」


スッ…

勇者「偶然、なわけないよな。精霊に言われて来たんだろ」

勇者「……何か言ってくれ。一人で会話してるみたいで自分が可哀想になってきた」

勇者「いい加減、何か言ってくれないと


サァァァァ…サラサラ…


王女「とても心地良い夜風ですね」

勇者「何で黙ってた?」

王女「石が喋るのは珍しいので、少しばかり眺めていただけです」

勇者「……もう戻った方がいい。それに前に言っただろ、もう二度と会いたくないって」


王女「なら何故此処に?」

勇者「深い理由なんてない、眠れないから来ただけだよ」

勇者「別にこの場所じゃなくても良かった。ただ、気が向いただけで……」

王女「そうですか。最早この景色を共に見ても、何も感じないのですね」

勇者「……っ!!」

王女「勇者は想い出の場所でわたくしを待っている。精霊さんはそう言っていました」

勇者「……………」

王女「どうなのですか? 十二歳になった大人の勇者君、早く答えて下さい」


勇者「うるさいな、歳は関係ないだろ」

王女「あら、待っていたことは否定しないのですね」

勇者「あのさ、こういことはあんまり言いたくないけど意地悪になったんじゃないの?」

王女「あなたは、とてもお喋りになりましたね。それが本心を隠す為の手段ですか?」

勇者「違う。別にそんなんじゃない、僕は変わったんだ」

王女「わたくしには、そうは見えません」

王女「寂しがり屋なのに、強がりで泣き虫。あの時と変わりませんよ」

勇者「今は泣いてないだろ。ハンカチはいらないからな」


王女「ふふっ、そうですね。ごめんなさい」

勇者「……何だよ」

王女「勇者、本当にありがとう。あなたの活躍で多くの人が救われました」

王女「……あの日から四年、あなたは見違える程に強くなりましたね」

勇者「活躍なんてしてないし強くない。後、お礼も言わなくていい。僕は

王女「勇者だから、ですか?」

勇者「……………」

王女「もう二度と会いたくない。あなたにそう言われた時は、ただただ悲しかった」

王女「何故そんなことを言うのか、あなたの意図が分かりませんでしたから……」


王女「ですが、時が経った今なら分かります」

王女「遠ざけたのは、わたくしを守る為にしたことなのだと」

勇者「そんなんじゃない」

勇者「……あの時言った通りだ。言葉通りの意味だ」

王女「なら何故、今すぐ此処から立ち去らないのです?」

王女「わたくしとは会いたくない、そう言ったではありませんか」

勇者「…………」

王女「勇者、お願いです。どうか、あなたの口から聞かせて下さい」

王女「それとも、わたくしには……話せない…ことなのですか?」


勇者「……僕を殺したいのに僕を殺せない、そうなったら何をする?」

勇者「そうなった時に狙われるのは家族や友人。僕じゃなくて、僕の大事な人だ……」

勇者「そんなことになったら僕は耐えられない。君が大切だから離れたんだ」

勇者「……君を忘れたことなんてない」

王女「……勇者…」

勇者「ずっとずっと会いたかったんだ。でも、だからこそ離れるしかなかったんだ」

王女「なら、わたくしは待ちます」

勇者「えっ?」

王女「今夜のように、あの日のように話せる時が来るのを待ち続けます」

勇者「いいよ、人は変わるんだ。王女様だって時間が経てば僕を忘れるよ」


勇者「それが、普通なんだから……」

王女「いいえ、時を経ても変わらないものもあります。目を閉じれば見えるのでしょう?」

勇者「えっ、何で

王女「では、わたくしもこれで失礼します。勇者、あなたの本心が聞けて良かったです」

王女「……お休みなさい」スタスタ


サァァァァ…


勇者「…………」スッ

ーー王女様は僕を嫌いにならない?

ーーなるわけがありません。
ーーだって、あなたはわたくしのーーー

ーー勇者は、わたくしの【王子様】ですから。

勇者「目を閉じれば分かるよ、変わってないことくらい……分かるから、怖いんだ」


>>>>

翌朝

国王「民を救ってくれたこと、心から礼を言う」

勇者「いえ、そんな……」

国王「しかし君にとっては災難だったな、修行の合間に剣を取りに来ただけだったというのに」

勇者「それが、どうやらそうでもなさそうなのです」

国王「何? それは、どういう意味だ?」

勇者「あの時戦った異形の者、ゴーレムは、初めから僕を狙っていたようでした」

勇者「何かしらの方法で監視されている可能性があります」

国王「ふむ、あちらからすれば勇者は存在を脅かす存在。隙あらば亡き者にしようというわけか」

勇者「おそらくは……ですので、僕が都に留まるのは危険かと思われます」

王妃「確かに、勇者が狙われているのであれば民に危険が及ぶのは必至」


勇者「両陛下、無理を承知で申し上げます」

勇者「ほんの僅かな間で構いません、復興作業に参加させていただきたいのです」

ザワザワ……

勇者「どうか、お許しを」

国王「……一日、今日一日だけだ。よいな?」

勇者「ありがとうございます」

王妃「作業後はどうなさるのです?」

勇者「未だ修行中の身、速やかに師の下へ帰還します」

国王「よろしい」

王妃「…………」チラッ

国王「コホン…これより先は勇者と我等で話す。皆は外してくれ」


ザッザッザッ…ガチャ…パタンッ…

王妃「邪魔者は消えたわね、勇者君!!」ダッ

ギュッ…

王妃「さっきは怖かったでしょう? ごめんなさいね」

勇者「王妃様、苦しいよ……」

国王「あー、肩が凝る。勇者君も疲れただろう?」

勇者「はい、王様ってやっぱり大変なんですね」

国王「はははっ! ああ、相変わらず大変だよ」

王妃「勇者君、怪我はもういいの?」

国王「(夫を傷だらけにした人間の台詞とは思えんな……まあ、心配する気持ちは分かるが)」

勇者「うん、もう大丈夫。王妃様は大丈夫なの? 寝てないんでしょ?」


王妃「これくらい平気よ……あまり無茶しちゃ駄目よ?」

勇者「……うん。王様は大丈夫なの?」

国王「何ともないよ、大丈夫だ。ちょっと噛まれたりしたが……」

王妃「あなた、ごめんなさい。嫌なことばかり想像してしまって……」

国王「いいんだよ。勇者君の元気な姿を見られて良かったじゃないか」

王妃「あなた……ありがとう」グスッ

勇者「(やっぱり王様は優しいなぁ……??)」

勇者「あのっ、王女様は……どこに?」

王妃「今は剣術の稽古をしているわ」

王妃「どういうわけか、いつもより熱心なのよねぇ」ニコニコ


王妃「何か良いことでもあったのかしら?」

勇者「……昨日の夜、庭で話したんだ。色々…」

王妃「あら、意外に素直ね」

勇者「だって、王妃様には何を隠してもバレるから」

王妃「ふふっ、そうね。でも隠さず素直に話してくれたから、これをあげる」スッ

勇者「ペンダント?」

王妃「きっと気に入るわ。開けてごらんなさい」

パカッ…

勇者「……!!」

国王「中の写真はあの子が選んだんだ。妻と一緒に、時間を掛けてね」

勇者「ありがとう、大事する」ギュッ

王妃「気に入ってくれたかしら? 答えなくても顔を見れば分かるけれど」ニコニコ

勇者「……僕、頑張るよ。今は会えないけど、いつかまた会えるように」



勇者編#1 終


盗賊「想いとか意志とかってさ、口にすると途端に安っぽくなる気がしねえ?」

盗賊「そこいらの連中がよく言うじゃん。いつか殺してやる!とかってさ」

盗賊「けど結局、実際に行動に移す奴なんていやしない。その場だけの言葉だ」

盗賊「有言不実行っつーの? だっせえよなぁ、そういうのってさぁ……」

盗賊「やっぱり不言実行がいい。何も言わず、やるべきをやる」

盗賊「男ってのは、そうあるべきじゃねえのかなぁ……なあ、あんたはどう思う?」


宝石商「ムグッ…ムゥー!!」ジタバタ


盗賊「金が欲しいけど職にも就けねえ、こんな汚えガキを雇う奴なんていやしねえ」

盗賊「そんな奴が苛ついて腹も減ってる時、何すると思う?」

盗賊「目の前をあんたみたいな金持ちが通り過ぎたら、何を考えると思う?」


盗賊「当然やるしかねえって思うだろ?」

盗賊「まあ、本当にやるかどうかは別としてだ。頭を過ぎるよな? そうだろ?」

盗賊「俺はやるって思ったらやる。だから今も生きてる、これが生きる術なんだよ……」

盗賊「いやいや、同情して欲しくていったわけじゃねえんだ。事実を言っただけ」ウン


宝石商「フー…ムグッ…ムッ…ムグゥー!」


盗賊「あんたが何したかは知らねえが、この都の連中にかなり嫌われてるみたいだな」

盗賊「都合のいい的だよ。死んで喜ばれるなら、その方がいいと思わねえか?」

盗賊「あんたが死んだら、連中はこう言うだろうな。義賊が悪党を成敗したってさ」


盗賊「ちょっと宝石ばらまきゃ済む、頭の緩い奴等だよな……」

盗賊「悪党を成敗したら賞賛されて、その際に行われた殺人……悪事は正当化される」

盗賊「つまり、俺は良い奴ってことになる。あんたにとっては最低の奴だろうけどな」ニコッ

盗賊「……まあいいや、つまんねえ話しに付き合ってくれて、ありがと……なっ!!」

グサッ…

宝石商「ウグッ…ンッ…グゥゥ…」ドサッ


盗賊「最後の最後まで黙って聞いてくれるなんて、あんた良い奴だ」

盗賊「あんたが嫌われてるなんて、俺には信じられねえよ」

盗賊「そいじゃ、ぐっすり眠ってくれ」


盗賊「あっ、宝石はもう必要ねえだろ? なっ?」ガシッ

ユサユサ…

宝石商「」コクン

盗賊「よっしゃっ! じゃあ全部貰ってもいいよな!!」パッ

宝石商「」ドサッ

盗賊「人っ生♪ 終わりは♪ とっつぜんさ♪」


トコトコ…


盗賊「さーて、なに食おうかなぁー」

浮浪者「ちょっと待ちなよ」

盗賊「何だよ、友達でもないのに話しかけてくんな。馴れ馴れしい奴は嫌いなんだ」

浮浪者「そう言うなって、おめえが何やったか見てたんだぜ?」ニヤニヤ


盗賊「だから?」

盗賊「(夜の路地裏、暗がりで恐喝、ありきたりだな)」

浮浪者「オレ達にも恵んでくれよ、独り占めは良くないだろ?」

盗賊「オレ、達?」

ワラワラ…

盗賊「こんなにいるのかよ、西部の都も中々に終わってんなぁ」

浮浪者「今はこんなナリだが、以前は国に尽くす立派な兵士だったんだぜ?」

浮浪者「兵士っていったら、当然人間相手に戦うもんだろ?」

浮浪者「なのに、いきなりバケモンと戦えとか言われてよぉ」

盗賊「何だよ、兵士のクセに戦が怖いから職を捨てたのか?」


浮浪者「あんなバケモンと戦えるか! 頭がまともなら逃げるに決まってる!!」

盗賊「あのなぁ、今の世の中、まともな奴なんていやしねえよ」

盗賊「どいつもこいつも好き放題やって、他人の迷惑なんか考えやしない」

盗賊「だから俺も好き勝手にやる。盗んで殺して生き延びる」

浮浪者「好き勝手か。なるほど、分かりやすくていい考えだ」

浮浪者「じゃあ分かるよな、さっさとブツを置いて失せろ」

盗賊「おいおい、人が頑張って手にした物を奪おうなんて最低な奴だな」

盗賊「それでも元兵士かよ、お前等」

浮浪者「馬鹿かてめえは!! そいつはおめえが殺して奪ったモンだろうが!」


盗賊「お前アホだろ?」

盗賊「これは俺が殺して、俺が貰ったんだ。意味分かるか?」

浮浪者「はぁ? 奪ったブツを奪って何が悪い!」

盗賊「だーかーら、今は俺の物だって言ってんだろうが、そんなことも分からねえの?」

盗賊「こんなことしてる暇があるなら、さっさと軍に戻って、お国の為に働きなさい」ウン

浮浪者「てめえ、馬鹿にしてんのか」

盗賊「馬鹿になんかしてねえさ。金が欲しいなら働く、これ常識だろ?」

盗賊「化け物殺して金貰えるなら、それでいいじゃねえか。辞めた意味が分からねえ」


浮浪者「……話しにならねえ。おい、やるぞ」

ザッ…

盗賊「ちょっと待って下さいよ! そりゃないだろ!?」

盗賊「……俺はただ、孤児院のガキ共に美味いもんを食べさせたくて……」

浮浪者「嘘吐け、そんな奴が人殺しといて歌うか? しかも笑いながら」

盗賊「なーんだ、バレてたのか。じゃあいいや」ハァ

浮浪者「ふざけやがって……もういい、やれ」

盗賊「あー、待った待った!! そんなに欲しいならくれてやるよ、ほら」ポイッ


ドサッ…ジャラジャラ…


浮浪者「……落ちたやつも拾え、てめえはまだ動くなよ」

盗賊「動きませんよ、だって死にたくないもの」

盗賊「(やっと暗がりに目が慣れてきた。1…2…8人か?)」

浮浪者「いかれたガキだ。おい、早くしろ。袋の口は結わえとけ」


ガサゴソ…ジャラジャラ…ギュッ…

浮浪者「よし、行く

パンッ!

浮浪者「あぇ?」バタン

盗賊「な、何だよ!頭が吹っ飛んだぞ!? 撃たれたのか!?」

盗賊「おい、そこにいんのは誰だ!? お前等の知り合いか!?」


ザワザワッ…キョロキョロ…


盗賊「簡単に背中見せんな、それでも元兵士か?」カチャ


ーーあ、あいつ、銃持ってるぞ!!
ーー銃を奪え、取り抑えろ!!


盗賊「いやいや、普通に逃げなさいよ。馬鹿じゃねえんだからさ」

ダンッ…ダンッ…ダンッダンッダンッ…ダンッ…

盗賊「もうあんた一人だ。まだやるか? どうする?」


ーーヒッ、ヒィィッ!!

盗賊「逃がすか、よっ!」ブンッ

グサッ…バタンッ…

盗賊「いいかよく聞け、悪人が悪人を裁けば良しとされる」

盗賊「だが善良な者が悪を裁いた時、彼もまた悪に堕ちるだろう」


ザッザッザッ…


盗賊「誰かが悪に堕ちてでも悪を裁かねばならない、悪にしか裁けぬ悪がある」

盗賊「最も汚れた手があるなら、それこそが人を救った証なのだ」スッ

ガシッ…

盗賊「まあ、ちょっとは違うけど、昔の恩人が教えてくれた言葉だ」

盗賊「聞き手はいないけど言ってみたかっただけ。袋の口結んでくれてありがとな」

盗賊「これで溢さずに運べ、ねえな……やっぱ重いわ。ちょっと捨てよ」シュル


ジャラジャラ…ギュッ…


盗賊「お前等にくれてやるよ。それ持ってけば間違いなく天国行きだぜ?」

盗賊「そいじゃ、もう行くわ。お休みー」トコトコ

寝ます。また明日かな

レスありがとうございます。
見てる方いたんですね、嬉しいです。


>>>>

闇酒場

ガヤガヤ…

盗賊「どーも、こんばんは」ニコッ

情報屋「ここはお前のような小僧が来る場所じゃない。面倒にならないうちに帰れ」

盗賊「まあまあ、堅いこと言うなって」ポンッ

情報屋「……お前、何をしてきた」

盗賊「ん? どういう意味?」

情報屋「しらばっくれるな、人を撃っただろ。それも、ついさっきだ」

盗賊「情報屋って凄えな。誰かの情報か? それとも匂い?」

情報屋「匂いだ。情報なんぞなくても分かるものは分かる」

情報屋「時には匂いや音さえも貴重な情報になる。俺にとってはな」

盗賊「その台詞格好いいな! あんた、すげーよ!!」


情報屋「あまり騒ぐな。で、何をした?」

盗賊「何をしたか教えたら、俺にも情報をくれるのかい?」

情報屋「それは内容による」

盗賊「口が上手いな。でもさ、そんなこと言って危ない目に遭ったことないか?」

盗賊「ほら、こんな風に」カチッ

情報屋「そうだな、何度も危ない目に遭ってる。だがな、そんなもので譲ってたまるか」

情報屋「脅されて口を割るなんてのは、情報屋として最低の行為だ」

盗賊「ごめんごめん! 冗談だよ。いやー、良かった良かった」


情報屋「俺を試したのか?」

盗賊「だってガラクタ掴まされたら困るだろ? 信用するかどうかは俺が確かめる」

情報屋「……誰から俺の存在を聞き出した?」グビッ

盗賊「心配すんなって、そんな奴はもういないから」

情報屋「消したのか」

盗賊「聞いてもねえのに余計なことをベラベラ喋るからさぁ、口塞いだだけ」

盗賊「俺、お喋りな奴は嫌いなんだよ」ウン

情報屋「(一見へらへらしてる小僧だが、酒場の全部を見てやがる。何者だ、こいつは)」


盗賊「あれ? もしかして友達だったりする?」

盗賊「だったら悪いことしたなぁ」

情報屋「いや、商売敵が減って助かった。で、何をした」

盗賊「あぁ、そうだったな。さっき宝石商を殺して全部貰ったんだ」

盗賊「ほら、綺麗だろ?」ゴトッ

情報屋「これは奴の……」

盗賊「金庫の中に大事に大事に保管されてた。どうだ? でっけーだろ?」

情報屋「お前、一体どうやって」

盗賊「そりゃあ忍び込んで」

情報屋「だからどうやって忍び込んだんだ。奴は用心深くて有名だった」

情報屋「家族すら弱味になると言って家庭を築かなかった。そんな男だぞ?」


盗賊「じゃあ最初から話そうか」

盗賊「……この都に来てからすぐ、宝石商の噂を聞いた。たんまり稼いでるってな」

盗賊「で、直接見た。直接見て、宝石商を的に決めた」

盗賊「その日から毎日、奴が通る道で靴磨きをしてた。毎日毎日な」

情報屋「…………」

盗賊「すると、奴から話し掛けてきた。君は勤勉な人間だね、ってな」

盗賊「俺は礼を言っただけで、それ以上は何も言わなかった」

盗賊「それからも毎日毎日靴磨きをした」

盗賊「同じ場所で同じ時間、ひたすら真面目に靴磨き」

盗賊「一ヶ月か二ヶ月くらい経ったかな? その頃、俺は奴の専属の靴磨きになってた」

盗賊「綺麗好きな奴だった。だから使用人の靴も磨いた。奴は大層喜んでたよ」

盗賊「君のように気の利く青年はいない、それは才能だ。そう言ってた」


盗賊「時々、この都のことを教えてくれた。旨い店や、近付かない方がいい場所をな」

盗賊「奴は家庭に憧れてた」

盗賊「どんな宝石よりも、和やかな家庭が欲しかったのさ」

盗賊「ここまで来たら、そろそろ頃合いだ」

盗賊「分け前をやると言って、一番信用出来る使用人を丸め込んだ。使用人の頭みたいなやつ」

盗賊「そいつは、散々扱き使われてるのに金の払いが悪いことを不満に思ってた」

盗賊「尽くせば何かを得られると思ってたみたいだ。まっ、その下心は宝石商にバレてたけどさ」

盗賊「まあいいや、そいつに一時の間だけ使用人達を出払わせ、俺は仕事を済ませた」

情報屋「分け前はやったのか?」

盗賊「勿論、約束は守る。分け前どころか全ての罪をプレゼントしたよ」


盗賊「奴は浮浪者と組んで宝石を強奪し、宝石商を殺害した」

盗賊「途中でいざこざがあったのか、浮浪者は殺されちまった。辺りには宝石が散乱してた……」

盗賊「仲間割れか、他にも協力者がいたのか、真相は闇の中だ」

盗賊「あいつ、今頃は塀の中で後悔してんだろうなぁ」

盗賊「俺はなんてことをしちまったんだ。真面目に働いていれば良かったって」

盗賊「犯罪に手を貸すことが如何に愚かなことか、身をもって知ってる頃だ」

盗賊「まあ、そんなこんなで今に至るわけさ」

情報屋「…………」

盗賊「おいおい、情報屋が黙っちゃ駄目だろ。どうしたんだよ?」

情報屋「……言葉も出なかった。よく練られた、鮮やかな手口だ」


情報屋「だが、疑問がある」

盗賊「どうぞどうぞ」

情報屋「お前の腕なら、靴磨きなんかしてる間に盗みは出来ただろう?」

盗賊「出来たさ、やる気になりゃあね」

情報屋「やる気?」

盗賊「大事だろ、やる気ってのはさ。でなけりゃ的の真ん中には当たらない」

情報屋「……なる程な」

盗賊「それに、俺は奴の噂を聞いた時、この目で確かめたくなったんだ」


盗賊「どんな奴で、どう生きてるのか……」

情報屋「……どんな奴だった?」

盗賊「やたら金に煩く、敵を潰す為なら手段は選ばない」

盗賊「他の宝石商の名を騙り、裏で高値で売り捌き、信用を失墜させる」

盗賊「使用人すら完全には信用せず、金庫の番号はこまめに変えていた」

情報屋「お前は信用されていたんだろう?」

盗賊「信用なんかされてない」

盗賊「奴にあったのは一時の気の迷いか、家庭への強い憧れだ……」

盗賊「誰よりも仕事をこなし、誰よりも見返りを求めなかった俺を、奴は大層気に入った」

盗賊「出来のいい息子を見ている気分だったのかもしれねえ」

盗賊「まっ、当たり前だよな?」

盗賊「最初から奪うつもりだったんだから、見返りなんて求めちゃいない」


情報屋「……殺した理由は」

盗賊「全てを失い裏切られた悲しみを背負ながら生きるより、死んだ方がマシだろ?」


情報屋「(こいつは違う。そこらにいる、頭のいかれたガキなんかじゃない)」

情報屋「(常識や教養、倫理も持ち合わせながら、それを完全に切り離せる頭を持ってる)」

情報屋「(でなければ、宝石商の懐に潜り込むのは無理だ。こんな男は見たことがない)」


盗賊「質問は以上かな?」

情報屋「……ああ、以上だ」

盗賊「じゃあ、次は俺の番だ。なあ、勇者って知ってるか?」


情報屋「勇者……噂程度だが知っている」

盗賊「よし、話してくれ」

情報屋「その前に、何で勇者の情報がいるか教えてくれ」

情報屋「個人的に、お前の行動に惹かれるものがある」

盗賊「答えは単純、友達なんだ」

盗賊「だから知りたい。あいつが、今、どこで、何をやっているのか」

情報屋「友達? お前と勇者が?」

盗賊「疑うのはいいけどさ、勇者について知ってることは全部話せ」

盗賊「俺はあんたの問いに全て答え、情報を与えた。情報屋なら意味分かるよな?」


情報屋「さっきも言ったが、ほんの噂程度だ」

情報屋「東部の都に大型の異形種が現れ、勇者が一人で打ち倒した」

情報屋「彼は損壊した都の復興に助力し、今は剣聖と呼ばれる師匠の下で修行している……らしい」

盗賊「なんだよなんだよ! 元気そうじゃねえかよ!!」

盗賊「しかし化け物相手に一人で立ち向かうなんてな、中々出来ることじゃねえ」

盗賊「しかも戦っただけじゃねえ、復興の手伝いまでしてんのか……」

盗賊「あいつも俺に負けず劣らず、いい男になったんだなぁ。こいつは嬉しい情報だ」ウンウン


ドガッ!


盗賊「いってぇ、飲み過ぎてふらついてんじゃねえか。大丈夫か?」


酔っ払い「おい、今勇者とか言ってたな?」

盗賊「何だ、あんたも興味あんのか?」

盗賊「勇者の奴、凄えよなぁ。あいつ確か、まだ十二…」

酔っ払い「うるせえっ!」ブンッ


ガシャンッ!


情報屋「!?」

盗賊「……いやいや、ジョッキで人の頭を殴っちゃ駄目でしょうよ」

酔っ払い「なーにが勇者だ! そんなに高貴なお方ならオレ達を助けてくれよ!!」


ザワッ…ザワザワ…

酔っ払い「化け物相手だか何だか知らねえが、こっちは軍に従業員取られて工場をなくしてんだ」

酔っ払い「そしたら軍の奴等、なんて言ったと思う!? お前も国の為に戦えだとよ!!」

酔っ払い「ふざけやがって!!」

酔っ払い「どうせ化け物がいなくなりゃ勇者なんざ殺される!!」

酔っ払い「今の内にイイ思いしてりゃあいいのさ!! ガハハハッ!!」

盗賊「……………」

グサッ…

酔っ払い「……は?」

盗賊「なぁ、俺の友達を馬鹿にすんなよ。あいつ、本当に良い奴なんだからさぁ」ニコッ


酔っ払い「おまっ…腹、ナイフ刺した?」

盗賊「あいつを!侮辱すんのは!! 誰だろうが!絶対に許さねえ!!」

グサッ…グサッ…グサッ…グサッ…

酔っ払い「ギィィッ! あっ、がアアア!!」

盗賊「……おい、そこの野郎共、ちょっと来い」


ーーは、はい!?
ーー何ですか!!


盗賊「こいつ、お前等と飲んでたよな?」


ーーいやっ、でも別に友達ってわけじゃ…
ーーそ、そうです! 飲んだのは今日初めてで


盗賊「悪いけど、こいつの死体運んでくんねえかな」

盗賊「この酒場がなくなったらさぁ、店主もお前等も悲しいだろ? なっ?」


ーーわ、分かりました!!
ーーさっさと早く始末しようぜ

ーーうわっ、重っ…
ーーこんなの二人じゃ無理だって!


盗賊「誰か手伝ってやってくれないか? ほら、これやるから」ポイッ

情報屋「なっ!? お前、その宝石は!!」


ーーあたし手伝う!!
ーー私も手伝ったげる!!


盗賊「それ売って得た金はみんなで分けろ、迷惑かけたし店主にも金渡せよ」

盗賊「店主に金渡さなかったら、お前等も殺すからな。金で揉めて喧嘩すんなよ?」


ーー分かりました!!
ーー今日はついてる! 最高の日だぜ!

ーーほら、早く行くよ!
ーー行こっ、兵隊さんに見つかったら終わりなんだ!


シーン……

盗賊「いやー、みんな悪かった!」

盗賊「というわけで今日は俺が奢る!! だから勘弁してね?」ニコッ


ワァァァッ!! ガヤガヤ…ガヤガヤ…


盗賊「いやいや、お騒がせしちゃって申し訳ない」ストン

情報屋「……お前は、お前は本当に……」

盗賊「ん、何だよ?」

情報屋「本当に見てて飽きない奴だな」

盗賊「褒めてる?」

情報屋「ああ、勿論褒めてる」

情報屋「正直関わり合いたくない奴だが、だからこそ面白い」ニヤッ

盗賊「あんた、良い奴だな。じゃあ、話の続きをしようか」


情報屋「勇者の情報はあれだけだぞ?」

盗賊「違う違う。軍の奴等は何やってるんだ?」

情報屋「軍か……最近、異形種ってのが増えてるのは知ってるな? 軍の話はそれからだ」

盗賊「詳しく分かりやすく手短に話せ」

情報屋「……分かった」

情報屋「数年前から目撃情報はあったが、当時は軍が対処出来る程度の存在だった」

情報屋「だが四年前、東部の都に異形種の王と呼ばれる存在が出現したんだ」

情報屋「それを機に奴等は一気に数を増やし、各国で対異形種部隊が編成された」

情報屋「だが異形種が減ることはなく、今や人間の手で鎮圧出来なくなってきている」


情報屋「西部の軍は特に被害が多い、猫の手も借りたい状況だ」

情報屋「さっきの男が言っていたように、無理矢理徴兵するのも今や当たり前になりつつある」

情報屋「都を見て分かるだろうが、それが原因で潰れた店や工場は少なくない」

情報屋「民の軍に対する鬱憤は溜まっていく一方だ。これではいずれ滅びるだろうな」

盗賊「他の国の助けは得られねえのか?」

情報屋「長らく独裁国家だったからな、各国もあまり協力的ではない」

盗賊「頭下げて頼めばいいじゃねえか」

情報屋「確かにそうだな。だが、西王は頭を下げるのが嫌いらしい」

情報屋「まあ、他人に借りを作りたくないって気持ちだけは分かるがな……」


盗賊「なるほどなるほど、分かりやすくて助かる」

情報屋「ところで、お前はどこから流れてきたんだ? 西部出身じゃないだろ?」

盗賊「南部だ。追われるのに飽きて、なんだか疲れたから逃げてきた」

情報屋「だから西部に来たのか、それは災難だったな」

盗賊「何だよ、その含みのある言い方は」

情報屋「一度入った以上、この国からは二度と出ることは出来ない」

盗賊「何で? 入る時、めちゃくちゃ歓迎されたんだけど」

情報屋「当たり前だ。新たな兵士が来てくれたんだからな」ニヤッ

盗賊「あー、そういう感じでしたか。早速東部に行きたかったのに、こりゃあ困ったな」


情報屋「ふっ、どうする? このまま戦にでも参加するか?」

盗賊「そうだな、そうしてみるわ」

情報屋「……何だって?」

盗賊「勇者も頑張ってるしな、盗みは休業だ」

盗賊「それに、兵士になりゃあ食うに困んねえだろ?」

情報屋「おいおい、ちょっと待て! お前が職に就くなんて馬鹿げてる!!」

盗賊「南部ならいざ知らす、今の状況なら俺でも入れる。ありがてえ話だ」

情報屋「何だそれは、どういう意味だ?」

盗賊「南部に今でも忌み嫌われてる部族があるのは知ってるか?」

情報屋「ああ、知ってる。真っ赤な髪で有名な先住民族だろ?」


情報屋「でも彼等は、確か赤髪狩りだったか……」

情報屋「それによって、ただでさえ小さくなった領土を奪われまいと必死に抵抗し、今や滅んだとか……」

盗賊「それそれ。そんで俺は、赤髪の子だ」

情報屋「ブッ…ゲホッ…ゲホッ…」

盗賊「どう? びっくりした?」ニコッ

情報屋「ゲホッ…当たり前だ。だが、言われてみれば合致する点はある」

盗賊「何が? 頭は黒に染めてるぜ?」

情報屋「彼等は狩りには用意周到、部族外とは交流せず、外部の人間には敵意を剥き出しにする」

情報屋「明るく陽気だが凶暴で、部族への愛は尋常ではない」

情報屋「それは赤髪狩りの戦で証明され、広く認知されているところだ」


情報屋「ちなみに、赤髪狩り以前は赤髪に染めるご婦人方もいたらしい」

情報屋「だが赤髪狩りの影響を受け、赤髪は敵を連想させるという理由から染髪禁止となっている」

盗賊「……詳しいんだな」

情報屋「これは常識だ。お前が知らないのが不思議でならないよ」グビッ

盗賊「まあ、俺は部族のことなんてどうでもいいからな」

盗賊「じゃっ、もう行くわ。明日から軍に入る」

情報屋「待て待て!!」

盗賊「近い内、また会うことになるさ。楽しみに待っててくれよ」ヒラヒラ


スタスタ…


情報屋「……せっかく面白い男に会えたと思ったんだがな」グビッ

情報屋「あぁ、一つ忘れてた。彼等は時折衝動的で、交渉には応じない。まあ、我が儘と言えばそれまでだが」


>>>>

2週間後 闇酒場

ガヤガヤ…

情報屋「……………」グビッ

情報屋「(あの出来事以来、どんな依頼が来ても心が動かない)」

情報屋「(まるで、全てが色褪せたかのように感じる。つまらん)」グビッ

情報屋「(あの男が見せたもの、語ったものは、強烈で鮮烈だった)」

情報屋「(現実的でありながら、子供の頃に読んだ小説のような、胸湧き踊る華麗な犯罪……)」


ガヤガヤ…


情報屋「(あの日以来、客もあいつのことばかり話してる)」

情報屋「(あいつ目当ての女もいるな。否応なく人を惹きつける力、魅力ある奴だった……)」


ーーこれさ、盗賊にもらったんだ
ーーはぁ!? 何あんた、あの後で会ったわけ?

ーー尾行したんだ、すぐにバレたけどね
ーーなーんだ。つか何でそんなのもらえたわけ?

ーー似合うだろうと思って、だってさ……
ーー何その顔、不満なの?

ーーいつも相手してる男共とは違って、顔が本気だったんだ
ーーまさか惚れたの? やめといた方がいいって!!

ーー相手にされてないのは分かってる。でも、ね?
ーー気持ちは分かるけどさぁ、わたしら娼婦だよ

ーーああいう男、他にはいないよな……
ーーいないいない、適当な男騙して金貰えればいいの

ーーそうだね、現実見ないと痛い目見るだけだ……
ーーそうそう、だからほら、今日はとことん飲もう!


情報屋「(待っているのは俺だけではない、ということか……)」

情報屋「(いつも通り賑やかだが、どこか物足りないといった雰囲気だ)」

情報屋「(あいつは今頃何をしているんだろうか、死んでなければいいが……)」

情報屋「(何故あれだけの才能を持ちながら兵士になる?)」

情報屋「クソッ、まったく馬鹿げた奴だ!!」グビッ


ワァァァッ!! キャー!!


情報屋「ちっ、うるさいぞ! 何だ急に……!?」

盗賊「はいはい、どうも今晩は、ちょっと通してくれるかな?」ニコッ


娼婦「な、なあ! あたしを憶えてる?」

盗賊「ん? ああ憶えてるよ」

盗賊「やっぱ似合うな、渡してよかったよ」ウン

娼婦「ねえ、よかったら今度……」

盗賊「あー、それは無理。悪いね」

娼婦「それは……あたしが娼婦だから?」

盗賊「俺がそう思ってると思うなら、今すぐにそれを返せ」

娼婦「…っ!!」ビクッ

盗賊「あんたが綺麗だから渡した。それだけだよ。他に理由はない」

娼婦「……ごめん、意地の悪いことを言ったね。あたしが悪かったよ」クルッ


盗賊「あっ、ちょっと待った!」ガシッ

娼婦「えっ? ちょっ、ちょっと…」

盗賊「いいから、さあさあ此方に……では、お手を拝借」ギュッ

娼婦「あっ…何するのさ」

盗賊「これもやるよ。ほら、ピッタリだろ?」

娼婦「これって……指…輪? 綺麗だね。でも、何でこんなこと……」

盗賊「男ってのは女の涙に弱いのさ。大事にしてくれよ? 指輪も、自分の体も、なっ?」ニコッ


娼婦「……うっ、うん」ドキッ

盗賊「あぁ、そうだった」

盗賊「お友達にはこれ渡しといて? 友達同士が喧嘩すんのは見たくないから」

娼婦「自分に惚れてる女を使って、他の女にプレゼント渡すの?」

娼婦「ほんと、あんたって信じられない男だね」クスッ

盗賊「忘れられない思い出になっただろ?」

娼婦「当たり前だろ? こんなの忘れられっこないよ……」

娼婦「あんたがいれば、きっと毎日が楽しいのに」

盗賊「そんな顔すんな、また会えるさ。ほら、みんな困ってるから席に戻ろうぜ?」


娼婦「また会おうね? 絶対だよ?」チュッ

盗賊「……あ、やられた」

娼婦「ふふっ、じゃあね!」クルッ

シーン……

盗賊「なーに黙ってんだ!? 騒がねえと奢ってやんねえぞ!!」


ドッ! アハハハッ! ワァァァッ!!


盗賊「よし、それで良いんだよ」トコトコ

情報屋「…………」ポカーン

盗賊「ふーっ、いやいや悪いね。お待たせしました」ストン

情報屋「まるで役者だな。それよりどうしてくれる」


盗賊「なにがだよ?」

情報屋「ここのところ、お前の噂で持ち切りだ」

盗賊「何か、そうみたいだな」

情報屋「この2週間、何度お前の居場所を聞かれたことか……」ハァ

盗賊「俺と会えなくて退屈したかい?」ニコッ

情報屋「……ああ、酷く退屈だったよ」グビッ

盗賊「そりゃ悪かったな。でも言っただろ? また会えるってさ」

情報屋「何をしてた? お前、軍に入ったんだろ?」


盗賊「軍? ああ入ったよ? 盗みにね」ニコッ

情報屋「……………」ブルブル

盗賊「大丈夫か? 何か、すっげー震えてっけど」

情報屋「くくっ…はははっ! まったく、まったく…ふざけた奴だよ、お前は……」

情報屋「で、どうだった? 欲しいものは得られたか?」

盗賊「ああ、民には伝えられてない真実をね」

情報屋「真実だと?」

盗賊「知りてえだろ?」ニヤニヤ

情報屋「いいから、勿体振らずに教えてくれ」

盗賊「なら、俺に協力すると約束しろ。何があってもな」


情報屋「……命がけってことだな?」

盗賊「話が早くて助かる。その通りだ。さあ、どうする?」

情報屋「乗ってやる」グビッ

盗賊「よし、じゃあ決まりだ」

情報屋「それで、お前が見た真実とは?」

盗賊「徴兵で店が潰れた。そう言ってたが、そこから間違ってる」

盗賊「潰れたのは鍛冶屋、鉄工場、建設業等々……」

盗賊「そこから問答無用で徴兵されたのは、屈強で職人気質の真面目な奴ばかり」

情報屋「……今のところ疑問はない、それの何がおかしいんだ?」


盗賊「いなかったんだよ、そいつら全員」

情報屋「それは戦に出たからじゃないのか?」

盗賊「いや、名簿にもなかった。徴兵じゃなかったってことだ」

盗賊「しかも、今の軍の奴等は戦ってすらいない。異形種と戦ってるフリをしてる」

情報屋「何だと!? どういうことだ? なら何故、彼等は徴兵された?」

盗賊「降霊術の為だ」

情報屋「……降霊術ね。いきなり怪しくなってきたな」

盗賊「死者を蘇らせたり、新たな魂を吹き込む術だ」

情報屋「……本来なら馬鹿馬鹿しいと言うところだろうが、事実なんだな?」


盗賊「ああ、徴兵された彼等は生贄だったのさ」

盗賊「異形種を生み出す為の、新鮮な生贄さ」

情報屋「なっ…じゃあ奴等は今まで何を」

盗賊「いや、異形種との戦闘は確かにあった。当初は本気で戦っていたらしい」

盗賊「だが、何度倒そうと数は減らなかった」

盗賊「何故か?」

盗賊「それは裏に降霊術を使う奴がいたからだ。勿論、こいつも異形種な」

情報屋「それで軍は、降霊術に目を付けたのか」グビッ


盗賊「ああ、何度挑んでも兵力の無駄」

盗賊「そればかりか、戦うたびに敵が増える一方だ」

盗賊「しかし他国に協力を依頼するなどもってのほか。ならば……」

情報屋「その降霊術使いの異形種を軍に抱え、異形種を生み出し各国を出し抜く」

情報屋「民を犠牲に新たな兵器開発か……」

情報屋「他国は異形種の討伐に力を裂いている。今が絶好の機会だな」

盗賊「大正解、その通り。悪い奴等だよなぁ」

情報屋「信じられん……」グビッ

盗賊「だろうな、でも事実だ。この国、今や棺桶みてえなもんだ」

情報屋「笑えない冗談だな。お前、どうするつもりだ?」


盗賊「国を盗もうかと思ってる。降霊術師は殺す」

情報屋「正気か!? 宝石強盗とはわけが違うんだぞ!!」

盗賊「あいつら、勇者のことを監視してやがるんだ」

盗賊「要するに消そうとしてんだよ。それだけは絶対に許せねえ」

盗賊「外国間とのいざこざだとか、世界の覇権なんざどうでもいい」

盗賊「異形種っていう化け物と手を組んで、何をしようが文句はねえ」

盗賊「だがな、この国は一度滅ぶべきだ」

情報屋「……その後はどうする」

盗賊「知るか。俺は潰すだけだ、後のことは知らねえ」


盗賊「俺は友達を助ける」

盗賊「それに気に入らねえんだよ、ああいう奴等……」

盗賊「勇者を狙ってる時点で許せねえが、殺すなら自分でやりやがれ」

盗賊「安全な場所で卑しくニヤニヤ笑いながら、自分の手を汚さずに殺させる?」

盗賊「ふざけんじゃねえ。やると決めたら他の誰でもない、自分でやるんだよ。馬鹿野郎が…」

情報屋「……俺は何をすればいい」

盗賊「西部に勇者が現れて、異形種を倒したとでも言ってくれ。大勢使ってな」

盗賊「そうすりゃあ、勇者を危険視する奴等がお迎えに来る。後はそこに飛び込むだけだ」


情報屋「勇者? 勇者は今東部にいるんだぞ?」

情報屋「それに勇者は監視されているんだろう? そう言ってたじゃないか」

盗賊「俺が勇者になるんだよ。期間限定で西部の勇者にな」

盗賊「異形種の首の二つでも持ってくれば納得すんだろ? 大体の居場所は分かったからな」

情報屋「まさか一人で行く気か!? 死ぬぞ!?」

盗賊「殺し方なら知ってるから大丈夫だ。だから西部まで来られたんだ」

盗賊「それに、俺と勇者は同じなんだよ。先天的なんとかってやつさ」

情報屋「お前、稀少種…特異体だったのか」

情報屋「赤髪に多いとは聞いたことはあるが、そうだったのか……」

盗賊「いや、赤髪で残ってんのはかなり少ねえんじゃねえのかな」

盗賊「大体が銃弾浴びて死んだか、実験体になるのを拒む為に自決したらしいから」


盗賊「詳しいことは分かんねえけど……」

情報屋「なあ、お前、本当は部族のこと

盗賊「強くても死んだら終わりだ。次はねえ」

盗賊「事実、圧倒的な数の差と、銃弾の雨の前には無力だった」

盗賊「いや、銃弾ぐらいは何とかなるか、俺の場合。まっ、復讐するつもりはねえけどさ」

情報屋「降霊術使いはどうする。そいつを倒さんことには……」

盗賊「大丈夫だって、雑魚は相手にしねえから。それにさっきも言っただろ?」

盗賊「奴等の殺し方なら知ってる。教えてもらったからな」

盗賊「淡く光ってるとこに拳をを突き出して、外皮ぶち破って、核を握り潰せばいいだけだ」

情報屋「………」ゾクッ

盗賊「靴磨きを一ヶ月続けるより簡単な仕事さ、そう思うだろ?」

また明日


>>>>

『国の意向に異議を唱えると言うのかね?』

『大尉、君は実に優秀だ。多くの異形種を討伐したのも記憶に新しい』

『しかしながら、それは計画以前の話だ』

『我が国が現在欲しているのは、平和ではなく他国を圧倒する兵器だ』

『果てのない不毛な戦を止め、次代を見据えている。それのどこに不満がある』

『今現在、各国は異形種討伐に躍起だ。先見のない愚かな連中だ』

『その点、我が国は違う』

『異形種を抑止力として扱うことで、世界を平和に導こうとしている』


『……大尉、いい加減にしたまえ』

『君は軍に、我が国に必要な優秀な人材なのだ』

『少し暇をやろう。久々に羽を伸ばすといい』

『現状。都の有様を見れば、我々が如何に正しい判断をしたか分かるだろう』

『さあ、もう行きたまえ』

『……行ったか。まったく、青臭い思想を聞かされる身にもなって欲しいものだな』

『どうなさいますか?』

『消せ。軍の中に奴を慕う輩は多い、後々に動かれると面倒だ』

『承知しました』

『ああ待て。消すと言っても、あくまで人の手でだ。分かるな?』

『はい、分かっております』


特部隊長「対異特部隊は事実上の解体。俺はもう用済みということか」スタスタ


ーーあ、隊長じゃないですか!
ーーどうしたのです? 顔色が悪いようですが


特部隊長「いや、何でもない」


ーー宜しければ話して下さい。
ーー隊が解体されても、オレ達は対異ですから!!

ーーそうですよ、離れても隊長は隊長です!!
ーーはい。今でも我々の隊長はあなたです。


特部隊長「いや、突然暇を貰ったんだ。何をしたらいいか悩んでいたところだ」


ーー良かったじゃないですか!
ーーああ、最近は異形種もめっきり出ないしな?


『軍内部で兵器開発部門を設立、異形種を兵器とした新たなーー』

『これは極秘事項だ。大尉、分かってくれるな?』


特部隊長「……っ」ギリッ


ーーそうだ。隊長はあの噂、知ってますか?
ーー噂って、あぁ…あれか……


特部隊長「噂? 何かあったのか?」


ーー大型の異形種を二体仕留めた奴がいるらしいです。
ーーしかも一人で、だろ? そればっかだな、お前……

ーーそんなもの、ガセに決まってる。
ーー事実であれば、今頃軍に呼ばれて勲章でも授与されてるはすだからな。


特部隊長「そいつは何者だ」


ーーまさか信じるのですか!?
ーー隊長、いるわけないですって!


特部隊長「質問に答えろ」

ーーはっ! 彼は勇者と呼ばれているようです。
ーー何でも二体の大型異形種の首を獲り、それを民の前で燃やしたとか……


特部隊長「どこから出た情報だ?」


ーー目撃したと言う住民は勿論、商人や酒場の店主等々。
ーー果ては娼婦まで噂しています。

ーー裏社会の連中にまで広く伝播している為、特定は困難かと思われます。
ーー確かめに行くおつもりですか?


特部隊長「ああ、お陰で有意義な休暇になりそうだ」

特部隊長「……それと、お前達にだけは言っておくことがある」


ーー何でしょうか?
ーー大尉の命令であれば、どんな任務も遂行します。


特部隊長「今から俺が話すことは事実だ。これより一切の反応を禁じる。いいな?」


特部隊長「……良し」

特部隊長「現在、我が軍の内部には異形種がいる。我々の仇敵である降霊術師だ」

特部隊長「降霊術師を軍に引き入れたのは上層部。指示を出し、決断を下したのは西王様だ」

特部隊長「現在、秘密裏に異形種を利用した新たな兵器が開発されている」

特部隊長「異形種はいなくなったわけではない、我々の中に潜っているのだ」

特部隊長「対特異は解体されたようなものだが、我々の敵は依然として健在……」

特部隊長「これまで黙っていて済まなかった。俺は、お前達を裏切ってしまった」

特部隊長「散って逝った部下を、彼等の決死の覚悟を、平和を願う想いや信頼を裏切ったんだ」


特部隊長「俺は隊長として、慕ってくれる部下に真実を伝えることが出来なかった」

特部隊長「許してくれとは言わない。この事実を述べた上で、俺は命令を下す」

特部隊長「この事実を対異特部隊の仲間に伝え、兵器開発の動向を探ってくれ」

特部隊長「先ほど異議を申し立てた以上、俺はもう立ち入れないだろう……」

特部隊長「降霊術師にはくれぐれも注意しろ。奴がこのまま協力するなど考えられん」

特部隊長「今や、我が軍は完全に魔に魅入られてしまっている」

特部隊長「だが、我々は人であり兵士だ。奴等が倒すべき敵であることに変わりない」

特部隊長「最後に、裏切り者が言えた口ではないが……何があっても生きろ。以上だ」スタスタ


ーー隊長!!

特部隊長「…………」クルッ


ーーゆっくり休んで下さい!!
ーー雑務は皆でしっかりやっておきます。

ーーどうせ、他の連中も暇だろうしな?
ーーああ、喜んで引き受けるだろうよ。


特部隊長「休み休みでいい。ゆっくり、確実にやれ。ミスはするなよ?」


ーー了解!!
ーーはい、了解しました!!


特部隊長「(……皆、ありがとう。さて、俺は俺の仕事をしよう)」

特部隊長「(勇者か、頼むから噂ではなく事実であってくれ)」


>>>>

裏通り

娼婦「お兄さん、見ない顔だね。軍人さん?」

特部隊長「……ああ、そうだ」

娼婦「やっぱり、私服でも分かるもんだよ。雰囲気でね」

娼婦「それで? あたし達に何か用? 買いに来たわけじゃなさそうだけど」

特部隊長「勇者について教えて欲しい」

娼婦「あんたも盗…勇者を軍に勧誘しに来たの? 悪いけど、あたしは知らないよ」

特部隊長「勧誘? 何の話だ?」

娼婦「とぼけてんのかい?」

娼婦「最近、軍人の奴等が勇者に勲章授与だとか会食に招待したいだとか………」フゥー

娼婦「あいつのこと、しつこく聞いて回ってたじゃないか」


特部隊長「だから何の話だ。勇者は実在するのか?」

娼婦「本当に知らないの? あんた、本当に軍人?」

特部隊長「対異形種特別部隊・隊長。大尉だ」

娼婦「そう、あんたが……会わせてやるよ、ついてきて」

特部隊長「(何だこれは? 罠ではなさそうだが、何故娼婦達が勇者の居場所を知っている?)」

特部隊長「(反社会的、裏社会の人間と繋がりを持つなど……)」

娼婦「どうしたんだい? やっぱり娼婦なんて信じられない?」

特部隊長「いや、そんなことは」

娼婦「別にいいさ、目を見れば分かる」

娼婦「まあ、お世辞にも綺麗な仕事じゃないからね。あんたと違って生まれも育ちも悪い」

娼婦「あたし達のような輩を毛嫌いする気持ちは、よーく分かる」


特部隊長「……………」

娼婦「あんたら軍人は、あたし達を見下してるクセに抱きには来るんだ」

娼婦「いつもは偉そうなのに、コソコソしながら金を持ってね。まったく、馬鹿な男共だよ」

娼婦「まっ、見下してるのはこっちも同じだけどね」

特部隊長「言いたいことは済んだか?」

娼婦「何だって?」イラッ

特部隊長「毛嫌いしてる奴等がいるのは事実だ。しかし全ての軍人がそうとは限らない」

特部隊長「俺はお前達の生き方にとやかく言うつもりもないし、馬鹿にもしていない」

特部隊長「ただ、どう接していいか分からないだけだ。慣れてないからな」


娼婦「あんた、女を買ったことないの?」

娼婦「軍人なんて溜まりまくってるでしょ? 奴等、すぐがっつくし」

特部隊長「買うというのが嫌なんだ。女性を買うだとか、正直反吐が出る」

娼婦「あははっ、随分お綺麗な心を持ってるね。これも育ちの違いか」フゥー

特部隊長「……そろそろ案内してくれるか?」

娼婦「そうだね、行こうか」トコトコ


ザッザッザッ…


特部隊長「勇者とはどんな人物なんだ?」

娼婦「んー、真面目で無口で無愛想。あんたとは気が合うんじゃない?」

娼婦「それに裏表もなく優しくて礼儀正しい。あたしの理想の男だよ」クスッ


特部隊長「そうか、立派な方なのだな……」

娼婦「ふふっ、あまり期待するとがっかりするよ?」

特部隊長「一つ聞きたい、どうやって勇者と知り合った?」

娼婦「気付いたらいたのさ、いつの間にかあいつを中心に皆が笑ってた……」

娼婦「その時には惚れてたよ。娼婦なのにおかしい?」

特部隊長「そんなことはない。誰が誰を好きになろうと、それは自由だ」

特部隊長「その気持ちを馬鹿になんてしない」

娼婦「あんたって優等生だね。疲れない?」

特部隊長「……疲れるよ。正しいことが何なのかさえ、分からなくなってきてる」


娼婦「大丈夫さ」

特部隊長「?」

娼婦「あいつに会えば、あんたも少しは楽になる」

特部隊長「それは、どういう

娼婦「ほら、着いたよ。この階段を下りれば勇者がいる」

特部隊長「……分かった。案内してくれてありがとう」

娼婦「いいよ。じゃあ、あたしは仕事があるから」

娼婦「あっ、これ渡しといてくれない? 直接渡すのは何だか照れくさくてね」

特部隊長「えっ? ああ、分かった」

娼婦「頼んだよ?」

トコトコ…

特部隊長「……勇者か、何だか緊張してきたな。さて、行くか」

カツン…カツン…カツン…


ギィィィッ…

特部隊長「……思ったより人が少ないな」

特部隊長「悪人の溜まり場のような所を想像してたんだが」

店主「………」ギロッ

特部隊長「あぁ、その……申し訳ない」ペコッ

店主「勇者なら奥の席にいる」

特部隊長「助かるよ、ありがとう」

店主「おい小僧」

特部隊長「(小僧か、入隊したばかりの頃を思い出すな)」


店主「飲むか」

特部隊長「いや、酒は飲まないんだ」

店主「なら、これを持っていけ。酒は入ってない」コトッ

特部隊長「ああ、どうもありがとう」スッ


トコトコ…


盗賊「…………」

特部隊長「君が勇者……なのか?」

盗賊「ああ、そうだ。何を驚いている」

特部隊長「もっと年配の男を想像していたからな。こんなに若いとは思わなかった」

盗賊「単刀直入に訊く、大尉、あんたは今の軍をどう思う」


特部隊長「……………」

盗賊「どうした。答えられないのか」

特部隊長「待て、先に質問がある。何故、俺が大尉だと知っている」

盗賊「俺の問いが先だ。その後でなら何でも答えてやる」

特部隊長「……いいだろう」

特部隊長「深い理由は言えないが、今の軍の在り方は間違っていると思う」

特部隊長「このまま道を進めば、国……いや、人すらも滅びかねない」

特部隊長「自由と平和の為に戦い、その中で多く部下と戦友が死んだ」

特部隊長「それなのに、何故あんな選択をしたんだ。俺には理解出来ない」

特部隊長「人々を守るべき存在が、国家そのものが悪の道に走るなど……」


盗賊「では、どうする」

特部隊長「俺は止めたい。暴走した軍と、誤った選択をした国家を……」

特部隊長「だが、国家を正すということは、国家の敵になるということだ」

特部隊長「……俺は敵になってでも、止めるしかないと思っている」

盗賊「へーっ、お前って思ったよりいい男なんだな。ちょっと見直したよ」

盗賊「つーか俺達、考えが似てるのかもしれねえな」ウン

特部隊長「…………」

盗賊「何だ? 変なこと言ったか?」

特部隊長「今までのは演技だな。お前、本当に勇者なのか?」


盗賊「ああ、今までのは演技。ちょっとからかいたくてさ」ニコッ

特部隊長「(……読めない奴だ。何を考えてる)」

盗賊「訳あって今は勇者の盗賊だ。よろしくな」

盗賊「まあ、降霊術師を殺して、国を潰すまでの間だけだけどな」

特部隊長「潰すだと!?」

特部隊長「いや待て、俺ことならまだ分かるが、何故降霊術師のことを」

盗賊「調べたんだよ、軍に忍び込んで」

盗賊「だから、あんたが対なんとか部隊の隊長だってことも、大尉だってことも知ってる」

盗賊「本当は招かれた席で西王含め、降霊術師も殺そうかと思ってたんだけどさ……」

盗賊「ふと、あんたを思い出した。で、その計画は止めることにしたんだ」


特部隊長「俺を? 見ていたのか?」

盗賊「ああ、あんたは軍に疑問を持ち、苦悩してたからな。出来れば引き入れたかった」

盗賊「特に印象的だったのは兵器開発部での顔だ。よーく憶えてる」

盗賊「あの時、頭の中では全部ぶっ壊したいと思ってただろ?」

特部隊長「……何度も思ったよ」

盗賊「俺だってそう思った。けど、流石にあの数は骨が折れる」

盗賊「元々は人間だったわけだしさ、やり切れねえよなぁ」

盗賊「そこで、あんたに賭けた」

盗賊「あんたが俺を、勇者を探し求めてくることに賭けたのさ」

盗賊「あんたは部下に信頼されてるし腕も立つ、協力すれば仕事がぐっと楽になる」ニコッ


特部隊長「娼婦の情報とは正反対だな」

特部隊長「何が真面目で無口だ。かなりの喋り好きじゃないか」

特部隊長「それより、自分が何を言ったのか分かってるのか?」

盗賊「はぁ? そんなの当たり前だろ?」

特部隊長「ふざけるな」

特部隊長「お前は今、自分の犯した犯罪を自白したんだぞ?」

特部隊長「軍に侵入し、機密情報まで盗み出した。この罪がどれだけ重いか理解してるのか?」

盗賊「へー、じゃあ国が国民を騙すのは犯罪じゃないんだ?」

盗賊「善良な民を生贄にするのは大罪じゃないのか? どうした、何か言ってみろよ」


特部隊長「……っ…」ギリッ

盗賊「生きる為の犯罪はダメ、だけど国の為なら何をしても正義だってか?」

盗賊「ふざけんな馬鹿野郎、こんな腐った国と俺の生き方を一緒にすんな」

盗賊「さっきから綺麗事ばっか言いやがって……」

盗賊「いいか? 汚れを落として綺麗にするには、汚れに手を突っ込まなけりゃ駄目なんだ」

盗賊「あんた、さっき言ったよな」

盗賊「国家を正す為なら、国家の敵になろうと構わないって」


特部隊長「……ああ、確かに言った」

盗賊「じゃあ、全ての物事を綺麗に済ませようとするのは止めろよ」

盗賊「あんたが目指すものには、そう簡単に辿り着けない」

盗賊「どんなに上手くやっても犠牲は出る。戦場にいたなら分かるだろ?」

特部隊長「お前は本当に妙な奴だな……」

特部隊長「罪を犯して開き直った挙げ句、堂々と人の道を説くなんて普通じゃない」

盗賊「それくらいじゃないと、生き残れなかったからなぁ」

盗賊「あー、ついでに言っとくけど、俺は赤髪だ」


特部隊長「赤髪だと!?」

盗賊「そう、赤髪。今は黒に染めてるだけ」

盗賊「それでもいいって言うなら協力してくれ」

特部隊長「不利になることまで話したのは何故だ」

盗賊「後で騙してたとか何とか、とにかく色々言われるのが嫌だから」

盗賊「それに、あんたは髪の色で人を判断するような人間じゃねえ。そうだろ?」ニコッ

特部隊長「……それは」

盗賊「ほらな、じゃあ何の問題もない」ウン

特部隊長「協力する前に、お前の戦う理由を教えてくれ。手短にな」


盗賊「東部にいる友達、勇者を助ける為だ」

特部隊長「……とてもじゃないが、勇者の友人には見えないな」

盗賊「ああ、よく言われるよ」ニコッ

特部隊長「俺はお前に協力する。だから、お前も俺に力を貸してくれ」

盗賊「任せとけって、最後の最後まで付き合ってやる」

特部隊長「ありがとう、最後までよろしく頼む」スッ

盗賊「…………」

特部隊長「どうした? 赤髪には握手しない決まりでもあるのか?」

盗賊「いや、ちょっと昔を思い出しただけだ。俺の方こそ、最後までよろしく」スッ

ガシッ…


特部隊長「もし良かったら…」

盗賊「ん?」

特部隊長「お前がどうやって生きて来たのか、教えてくれないか?」

特部隊長「これから共に戦うんだ。どういう奴か知っておきたい」

盗賊「…………」

特部隊長「何か変なこと言ったか?」

盗賊「俺に変わってるって言ったが、あんたも十分に変わってるよ」

特部隊長「そうか? 当たり前のことだと思うが……」


盗賊「かなり長くなるけど、いいのか?」ニヤニヤ

特部隊長「いや、手短に頼む。そうしないと日を跨ぎそうだ」


盗賊「仕方ねえなぁ、分かったよ」

盗賊「生まれたのは赤髪狩りの半ばだ、憶えてるのは銃声、悲鳴、雄叫び…」

盗賊「朝も夜も、それが常に傍にあった。今でも思い出す」

盗賊「敗色が濃厚になった時、部族の一人が俺を逃がした。髪を黒に染め、衣服を変えてな」

盗賊「両親も部族の連中もそれに同意した……」

盗賊「彼は言った。いつか同胞達の仇を討ってくれ、南部を取り戻せと」

盗賊「それからは一人だ。南部のとある街に一人置き去りにされた」

盗賊「最初はゴミを漁ってたけど、足りなかった。だから盗みを始めた」


盗賊「この一歩踏み出してからは真っ逆さまだ」

盗賊「部族への愛なんてどこにもない、あったのは孤独と不安……」

盗賊「一番つらいのは夜だったよ」

盗賊「いつ寝首を掻かれるか分からないって恐怖だけが、頭を支配する」

盗賊「……ある夜、大柄な男に襲われた。とても敵いそうになくて諦めたよ」

盗賊「でも、生きてた。男の首はねじ切れて、俺の手に握られてた」

盗賊「これが、生まれて初めての殺しだ」

盗賊「その時だ、何で部族連中が俺だけを逃がしたのか理解したのは……」


盗賊「何故俺だったのか」

盗賊「それは先天性強化……長えから稀少種でいいや」

盗賊「俺は赤髪の稀少種だったんだ。それも、稀少種の中でも特別なやつらしい」

盗賊「何の足しにもならねえ、クソッタレな力だと思ったよ」

盗賊「この力さえなければ、両親と一緒に死ねてたんだからな」

盗賊「その方がよっぽどマシだった。でも、俺は生きてる。だから生きようとした」

盗賊「誰から何を奪い、人を何人殺そうが、生きようとしたよ」

盗賊「南部の街を転々としながらな。多分、あの時はヤケになってたんだと思う」

盗賊「自分に降りかかった理不尽を、誰かにぶつけたかった……」


盗賊「そんで十四の頃、ある人と出会った。勇者とも、そこで出会った」

盗賊「その二人と出会ったから俺の人生は変わったんだ」

盗賊「その人は襲い掛かった俺を軽々と受け止めた。初めての経験だったよ」

盗賊「そんで俺を抱き締めながら、こう言ったんだ」


盗賊「この場だけ親切にするのは簡単だけど、それをしたら君は怒るだろう」

盗賊「だから、君の生きたいように生きればいい。我が侭でいいんだ」

盗賊「盗んでも殺してもいい。ただ、その行いは必ず自分に返ってくる」

盗賊「それを分かった上で人を殺すと言うなら、それでいい」

盗賊「正しい道なんて、どこにもない。時には悪が人を救うことさえあるんだ」


盗賊「人を救う為に人を殺す、人を助ける為に力を振るう」

盗賊「これは悪だと思うかい?」

盗賊「そっか分からないか。そうだね、僕にも分からないよ」

盗賊「やってることは同じなのに、良いことしてるみたいに聞こえるだろう?」

盗賊「正義か悪か、どう受け取るかは君次第だ……そう言ってた」


盗賊「勇者とはその後に出会った」

盗賊「道に迷ってるところを、街のガキ共に寄って集って虐められてたんだ」

盗賊「でも、あいつは一人で立ち向かってた。小せえ体で、泣くのを堪えてさ」

盗賊「で、さっきの言葉を思い出して、助けてみた」

盗賊「人を助かる為に暴力を振るってみようと思ったんだ」

盗賊「勇者に礼を言われた時、人助けも悪くねえなと思ったよ」


特部隊長「それで友達に?」

盗賊「いや? ガキ共の中に銃持ってる奴がいてさ、あいつは俺を庇って撃たれた」

盗賊「しかも早く逃げて、なんて言いやがった。俺はもう訳が分からなくて、その場で泣いた」

盗賊「誰かと連むことは何度かあったが……」

盗賊「裏切られたことはあっても、救われたことは一度もない」

盗賊「俺を初めて救ってくれたのが、あいつなんだ……」

盗賊「その後、俺は旅に出た。あの憎きドラゴンを倒すための旅に!!」

特部隊長「………台無しだ」

特部隊長「まさか、全部作り話だなんてことはないだろうな?」

盗賊「さーて、それはどうでしょうね? 嘘か誠か、それを決めるのは君次第さ」ニコッ

また後で

勇者編より長くなりそうです。


>>>>

同日深夜 闇酒場


盗賊「あれ、今日はいないのか?」

ーー後で来るって言ってたけど、遅いわね。


情報屋「なあ隊長、本当にいいのか?」

特部隊長「ああ、もう決めてしまったからな」

情報屋「相手が悪党とはいえ、奴は強盗殺人犯だぞ?」

特部隊長「不謹慎だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない」

特部隊長「盗賊はそれを分かっているから、俺に全てを話したんだろう」


情報屋「終わったら、捕らえるのか?」

特部隊長「……どうなんだろうな。まだ分からない」

特部隊長「本来ならそうすべきなんだろうが、何故だかその気が起きない」

特部隊長「こうして見ていると、そんな奴には見えないんだ」

情報屋「確かにな、だが危険な奴には変わりないぞ?」

特部隊長「まあいいさ、その時は俺が止めるよ」

情報屋「止めるって、あいつは赤髪の稀少種だぞ?」

特部隊長「さっきから何なんだ? お前達は友達なんだろ?」


情報屋「友達じゃない、仕事上のパートナーみたいなもんだ」

情報屋「それに、俺はあんたの為を思って言ってるんだ。何をするか分からんぞ?」

特部隊長「軍にも問題児はいた。今更どうということはない」

情報屋「……まさか、あんたも稀少種なんてことはないよな?」

特部隊長「安心しろ、俺は稀少種じゃない」

情報屋「それは良かった……」

情報屋「あんな奴は一人でいい、見てる分には面白いしな」

特部隊長「あんなに危険だと言っていたのに、おかしな奴だな」


情報屋「なにも否定してるわけじゃない、危険性を述べただけだ」

情報屋「俺はあいつの人間性に強く惹かれた。あんな男はそうはいない」

情報屋「だから間近で見ていたいのさ、次に何をするのか気になるだろ?」

特部隊長「分からなくはないな、確かに面白い奴だ」

特部隊長「一体何を経験すればあんな風に成長するのか……不思議な奴だよ」

情報屋「あんたも十分変わり者だよ。あいつと仲良くなったんだからな」

特部隊長「あっ、しまった……」

情報屋「どうした? 何か落としたのか?」

特部隊長「いや、頼まれていた物を渡し忘れていたんだ」


特部隊長「盗賊、ちょっと来てくれ!!」

盗賊「ん? 何だ?」

特部隊長「案内してくれた娼婦に、これを渡すように言われ


ガシャンッ…ゴトンッ…ドサッ…


盗賊「何だ、今の音……」

情報屋「入り口からだ。酔っ払いでも落ちたのか?」

盗賊「……見てくる」

特部隊長「待て、俺も行こう」


ザッザッザ…


特部隊長「……開けるぞ」

盗賊「ああ」


ガチャッ…


特部隊長「!?」

盗賊「おい、しっかりしろ!!」ガバッ

娼婦「……ごめん、後を付けられてたみたい」

盗賊「謝るな、相手は見えたか?」

娼婦「見えなかった……急に、刺されて…」

盗賊「そうか。今から縛るからな、少し痛むぞ」ギュッ

娼婦「無駄だよ、あちこち刺されたから……」


盗賊「……死ぬな、死んじゃ駄目だ」

娼婦「あ…れ? 付けてないの? 気に…入らなかった?」

特部隊長「盗賊、これだ。彼女に渡すよう頼まれた」スッ

娼婦「ほら、早く…開けてみて?」

盗賊「…………」ガチッ

娼婦「ふふっ…腕…輪、似合ってるよ。気に入…った?」

盗賊「ああ、気に入った。こういうの貰ったのは初めてだ」ニコッ

娼婦「嘘じゃない? あたしが、初めて…」

盗賊「本当さ、嘘じゃない。なぁ、ここには何て彫ってあるんだ?」


娼婦「……ハァ…ハァ…」

盗賊「なあ頼む、教えてくれ。これじゃあ気になって眠れねえよ」

娼婦「フフッ…あな…たに…救いが…あります…ように…って…」

盗賊「…っ!!」

娼婦「あんた…笑っ…てる時も…どこか…泣いてる…みたい…だっ…たからさ」

娼婦「あたしね…あんたが…好き…愛し…てる……」ニコッ

盗賊「分かってる……」

娼婦「………」

盗賊「…………………」ギュッ


ヒュン…コロコロ…

特部隊長「手榴弾!? 彼女を囮……くっ!!」ガシッ

ブンッ…ドガンッ!

特部隊長「此処にいたら危険だ。階段を上がろう」

盗賊「……ああ、そうだな」ユラッ

特部隊長「盗賊、お前……」

盗賊「お前等、酒場の中に彼女を運べ。その後は隠れてろ、いいな」


ーーはいっ!!
ーー急げ!早く中に!!


ーー彼女は中に入れた。もういいぞ!
ーーよしっ、扉閉めるぞ!


ガチャン!!


盗賊「おーい、さっさと出て来いよ」

ダンッ! ダンッ!

特部隊長「狙撃手が二人か、屋根の上だな」

盗賊「…………」カチッ

ダダンッ…ドサドサッ…

特部隊長「(この暗闇の中、しかも発砲音一発の速度で二人を仕留めたのか!? 何て奴だ……)」

盗賊「刺した奴、殺してやるから早く来い」

ザッザッ…

暗殺者「お前に用はない。用があるのは

ダダンッ!ダダンッ!

盗賊「……どうせ中に何か着込んでんだろ? さっさと起きろよ」


暗殺者「お前の相手をしている暇はない」ダッ

ガキンッ! ギャリッ…

特部隊長「軍の命令か、流石に決断が早いな」

暗殺者「ああ、貴様には死んで貰う」ガシッ

特部隊長「自爆するつもりか? 線を切ったから無駄だと思うが……」

暗殺者「馬鹿なっ!?」

特部隊長「心配するな、嘘だ。あぁ、目は開いているんだな」スッ

ズブッ…

暗殺者「ギャッ!?」ドサッ


ザッザッザ…


盗賊「……………」ジャリッ

特部隊長「盗賊、お前は戻って彼女の傍にいてやれ。その方が…」


ダダンッ!ダダンッ!ダダンッ!


盗賊「……さあ、戻ろうか。彼女が待ってる」ニコッ

特部隊長「無理して笑うな、泣きたい時は泣け」


ポタッ……ポタポタッ…ザァァァッ…


盗賊「……雨だ」

特部隊長「ああ、雨だな……」

盗賊「なぁ、もう少しいいか?」

特部隊長「ああ、止むまで待つよ。しばらく降りそうだからな」

盗賊「何か悪いな、付き合わせちまってさ」

特部隊長「いいさ、傘はいらないだろ?」

盗賊「……雨が止むまで傘はいらねえや。どうせ傘差しても濡れるし」

特部隊長「そうだな……」


ザァァァッ…ザァァァッ………

寝るまた明日書く


>>>>

盗賊「なあ店主、自分のやったことは必ず返ってくるんだってよ。知ってた?」

盗賊「それさ、本当だったみてえだ。あの夜、確かに返ってきたよ」

盗賊「しかも俺に直接じゃなく、間接的に」

盗賊「あいつの苦しむ姿が、俺にとってどれだけの痛みを与えるか分かってたんだ」

盗賊「まるで、命を失う苦しみを見せつけるみたいに……」

盗賊「自分のやったことに後悔はねえ、自分の痛みなら耐えられる」

盗賊「でも大事な奴が死ぬのはつらいな。俺、散々人殺してきたけどさ……」

盗賊「殺した奴等の家族とか友達とか、こんな気持ちだったのかなぁ」


盗賊「悪いことしちまったなぁ……」

店主「なら盗み殺しはすっぱりやめて、真っ当に生きればいい」

盗賊「だよなぁ、その通りだ」

店主「一つ教えてやる」

盗賊「ん、なんだ?」

店主「過去はお前を絶対に逃がさない、どこまでも追いかけてくる」

店主「遠くまで逃げて、姿が見えなくなったと思っても、いつの間にか背中に張り付いてる」

盗賊「過去って怖ぇんだな」

店主「ここに来る奴等の人生なんて、大体がそんなもんだ」


盗賊「店主は違うのかい?」

店主「同じだ、俺も毎日来てるだろ」

盗賊「あー、なるほどな……」

店主「盗賊、お前は輝ける悪だ」

店主「華々しく生を駆け抜け、華々しく死ねる男だ」

盗賊「……輝ける悪?」

店主「ああ、お前はそういう男なんだよ」

店主「だからこそ、ここの野郎共はお前を慕ってる。娼婦達もな」


盗賊「そうなのかなぁ」

店主「死に際、彼女は笑ったんだろ」

盗賊「そりゃあもう、これでもかってくらいにな。いい笑顔だったよ」

店主「なら、お前も笑え」

盗賊「…………」

店主「人生の最期に愛する男に会えた」

店主「だから、彼女は笑ったんじゃないのか」

店主「生きている限り、彼女の求める男であり続けろ。それが男としての責任だ」

盗賊「男としての、責任……」

店主「そうだ。自分を愛して死んで逝った女に、愛想を尽かされるような男になるな」


盗賊「…そっか、そうだよな」ギュッ

店主「答えが出たなら、さっさと退け。仕事の邪魔だ」

盗賊「おう、ありがとな!!」ニコッ


情報屋「彼女を埋葬してから三日間、殆ど口も利かなかったってのに……」

情報屋「流石は店主、やはり只者じゃないな」

情報屋「まさか、こんなにも早く立ち直らせるとは……」

特部隊長「あの店主、普段もあんな風に喋る人なのか?」

情報屋「いや、あんな店主の姿は見たことがない。正直、驚いた」

情報屋「俺にとっては無口でおっかない、親父みたいな人だからな」


情報屋「だが、さっきの店主はまるで……」

特部隊長「息子の相談に乗る父親か?」

情報屋「正に、そんな感じだ」

情報屋「何よりも意外だったのは、あいつもあんな顔するってことだ」

情報屋「あいつはそういう感情とは縁遠い奴かと思ったんだがな」

特部隊長「やめろ。あいつは死を悼み、涙を流した。当たり前の感情を持った人間なんだ」

情報屋「おい、急にどうしたんだ?」

特部隊長「どうした、だと?」

特部隊長「目の前で自分に好意を抱く女性が亡くなったんだぞ!? 何とも思わない奴がいるか!!」


情報屋「お、おいおい! そんなに怒るなよ」

情報屋「心無い人間だって言ってるわけじゃない。自分が思い違いしてたって気付いたんだ」

特部隊長「……思い違い?」

情報屋「初めて出逢った時の印象がかなり強烈でな、少し受け入れがたいんだ」

情報屋「雲の上というのか、どこか現実味のない、小説の中の犯罪王のような……」

情報屋「そんな、俺達とはまるで違う存在だと思ってた」

特部隊長「……話も聞かず怒鳴って悪かった。済まない」

情報屋「いや、言い方が悪かった。謝ることはない」


特部隊長「今はどうなんだ? まるで違う存在か?」

情報屋「俺は、助けになってやりたい」

情報屋「あいつが俺をどう思っているか分からんが……」

情報屋「俺は友人だと思っている」

特部隊長「仕事上のパートナーじゃなかったのか?」

情報屋「ああ、情報屋としてはな。俺個人の考えは違う」

情報屋「なあ隊長、あいつは彼女のことをどう思っていたんだろうな」

特部隊長「……さあな、聞いたところで話はしない。あの二人にしか分からないことだ」


情報屋「隊長には、そういう相手はいないのか?」

特部隊長「そんな情報を得てどうする。誰に売り捌く気だ?」

情報屋「はぐらかすなよ。個人的に聞いてるんだ」

特部隊長「いるにはいたが、もういない。異形種と懸命に戦って、戦死したんだ」

特部隊長「気が強く負けず嫌いで、とても魅力的な女性だった」

特部隊長「彼女の死に際に傍にいてやれなかったことを、今でも悔やんでる」

情報屋「……そうか、だからさっき……済まないな」

特部隊長「いや、いいんだ。話せてすっきりしたよ」

特部隊長「それより盗賊、いつまで聞いてるつもりだ?」


盗賊「あれ、バレてた?」

特部隊長「当たり前だ。それより、もういいのか?」

盗賊「ああ、心配かけちまったな」

盗賊「いやー、なんせ人生初の出来事だったもんでね。ガラにもなく悩んじまった」

情報屋「本当に、もう大丈夫なのか」

盗賊「みっともねえ姿は見せられねえからな、やるべきをやるさ」

情報屋「(……いつも通りだが、どこか変わった。俺も、最後まで見届けさせてもらうぜ)」

盗賊「それで、部下からの報告はあったのか?」

特部隊長「ああ、事態は最悪だ。兵器は完成し、近々他国に差し向けるらしい」


盗賊「対象は」

特部隊長「東部だ。都は勿論、勇者も対象になっている」

特部隊長「この兵器の最大の利点は、疑われないことだ」

特部隊長「暗殺だろうが何だろうが、全ては異形種の仕業として片付けられる」

特部隊長「そうなる前に、全て壊す」

特部隊長「兵器開発部に大量の爆薬を仕掛け、異形種兵を殲滅する」

情報屋「それはいいが、降霊術使いはどうする?」

情報屋「奴は国がどうなろうと関係ない、使えなければ簡単に見捨てるだろう」

特部隊長「ああ、逃げられたらお終いだ。奴は奴の兵隊を持っているからな」

特部隊長「奴が守りに入れば、ほぼ勝ち目はないと言っていい」


盗賊「居場所が絞れてねえんだよなぁ」

特部隊長「ああ、それが問題だ」

特部隊長「だから、まずは部下に居場所を探らせ、発見の報告を受け次第、襲撃する」

特部隊長「出来れば爆破前に暗殺するのが好ましい」

特部隊長「降霊術師の討伐、暗殺は、俺と盗賊の二人でやる」

情報屋「二人だけか!?」

特部隊長「爆破の他にもやるべきことは多々ある。敵対する兵士の鎮圧、諸々だ」

特部隊長「降霊術師には並の兵士では太刀打ち出来ない。無駄に死者を増やすのは避けたい」

特部隊長「だから俺達二人で奴を追い詰め、殺す。絶対に、何としてでもだ」


盗賊「大丈夫さ、任せとけって」

特部隊長「頼りにしてる。必ずやり遂げよう」

盗賊「よし、なら今夜だな。早い方がいい」

情報屋「……………」

盗賊「どうした?」

情報屋「いや、俺も出来ることをしようと思ってな」

盗賊「無茶すんな、十分に助けられてる」

盗賊「俺に変装した奴を配置する案を出したのはあんただ」

盗賊「それを買って出てくれた奴等にも感謝してる。でもな、それ以上は止めとけ」


情報屋「分かってる」

情報屋「俺はただの情報屋だ、戦うのが仕事じゃあない」

情報屋「終わるまで、ここで待ってるさ。祝勝会の準備でもしながらな」

盗賊「そりゃいいな、頼んだぜ?」

特部隊長「夜までは時間がある。各自準備に取り掛かろう」

盗賊「だな、俺はその辺歩いてくるよ」スタスタ

特部隊長「俺は部下と連絡を取る。また夜に会おう」スタスタ

情報屋「ああ、またな」


ガチャッ…パタンッ……


店主「何か飲むか」

情報屋「……いや、今日は飲まない。やることがあるからな」


>>>>

深夜 軍内部

ーー皆、大変だ!!
ーーお前等も早く起きろ!!

ーー何があった?まさか異形種か!?
ーーいや、都で暴動が起きてるんだ。

ーー何が起きてるんだ?
ーー俺にも詳しいことは分からん。

ーー暴徒化した奴等が火を放ってるらしい。
ーーそれはマズいな、早く行こう。

ーー暴動? しかし何故?
ーー理由は分からん、とにかく急ぐぞ!


盗賊「おー、すげえすげえ。結構減ったぜ?」

特部隊長「あいつ、思ったより派手にやってるようだな」

盗賊「ああ、正直助かった。これで楽に入れるな」


カサカサッ…

部下「お二人とも、こっちです」

特部隊長「爆薬の設置は?」

部下「はい、完了しました。いつでも行けます」

特部隊長「降霊術師の居場所は特定出来たか?」

部下「いえ、それがまだ……」

特部隊長「仕方ない、作戦変更だ。まずは兵器開発部を爆破する」

特部隊長「捜している時間はない、降霊術師を炙り出す。さあ、行こう」

盗賊「待て、爆破はあんたに任せる。二人行く必要はないだろ?」


特部隊長「お前はどうする?」

盗賊「俺は降霊術師を捜す」

盗賊「兵器開発部に到着したら、構わず爆破してくれ」

特部隊長「……分かった。無茶はするなよ」

盗賊「どうせ無茶しなきゃ勝てねえよ」

盗賊「じゃあ、後であの見張り塔の下で合流しよう」


特部隊長「分かった」

盗賊「じゃあな、俺は先に行く」タタッ

部下「隊長、あの人大丈夫ですか?」

特部隊長「心配するな、腕は確かだ。おそらく、奴の居場所の目星も付いてるんだろう」


ーーお前、何もっムグッ…
ーーん? 侵入者だ! 捕らえろ!!


部下「腕は確かですね、早速見付かってますけど……」

特部隊長「注意を引いてくれたんだと信じたい、さあ行くぞ」

部下「はいっ!」

タタタッ…


特部隊長「待て、誰かいる……!!」

部下「隊長、あの人は」

特部隊長「ここは俺に任せろ」

特部隊長「お前は迂回して行け、起爆は任せる」

部下「………了解」タタッ

特部隊長「……………」


ザッザッザッ…


女兵士「待て、そこで止まれ」チャキッ

特部隊長「今更ながら本当に悪趣味な奴だ。まあ、こうなるとは思ったよ。捻りのない奴だ」


女兵士「何を言っている」

特部隊長「俺を憶えているか?」ザッ

女兵士「大尉か?」

特部隊長「ああ、そうだ」

女兵士「貴様は要注意人物だ、降霊術師様の邪魔になる。消さねばならん」

特部隊長「……そうか、なら容赦はしない」ダッ

女兵士「愚かな」カチッ


ダンッ!


特部隊長「……腕が鈍ったな、以前なら確実に当てていた」


女兵士「以前?」

特部隊長「いや、生前と言うべきか。お前は一度死んでる」

女兵士「何を馬鹿な、私は降霊術師様の部下だ」

特部隊長「記憶まで弄くり回されたか、どこまでも下劣な奴だ」

特部隊長「お前があんな奴に仕えてると思うと……」

女兵士「黙れ」ダッ

ガキンッ!

特部隊長「目を覚ませとは言わない、安らかに眠ってくれ」ガシッ


グルンッ…ドサッ…

女兵士「ぐあッ!?」

特部隊長「これで、終わりだ」

女兵士「……大尉、助けてっ…」

特部隊長「寒い芝居は止せ。少尉はそんなことを言う女性じゃなかった」

特部隊長「最後まで諦めず戦うのが兵士だと、常々言っていたよ」

女兵士「がアアアアッ!!」

特部隊長「……………」カチッ

ダンッ!

女兵士「……ぐっ…私を殺そうと、結果は同じだ」ピッ

特部隊長「何だ、それは」

女兵士「くくっ、ははははっ!!」

特部隊長「答えろ!!」

女兵士「遠隔操作、兵器起動。もう間に合わん」


特部隊長「くっ…」ダッ

女兵士「………………」



部下「よし、これで最後だ」

プシュー…ガコンッ!ガコンッ!ガコンッ!

オーガ「…………」パチッ

部下「嘘だろ。何で……」サッ

オーガ「……任務を遂行する」

ズンッ…

部下「(マズいぞ、これじゃ脱出出来ない。かと言って奴等を外に出せば……っ!!)」

部下「(この爆弾を一分に設定、後は連鎖爆発で全て吹き飛ぶ)」カチッ

部下「(……隊長、ごめんなさい。先に逝きます)」


ガチャッ!

特部隊長「おい! 中にいるのか!!」

部下「ダメです隊長!! 異形種が!」

オーガ「………」ブンッ


ズドンッ…パラパラッ…


特部隊長「くっ、これだけいるんだ! 異形種なのは見れば分かる!!」

特部隊長「それより爆弾は起動させたのか!?」

特部隊長「いや、答えなくても良い! 起動させたのなら早く来るんだ!!」

部下「はいっ!」ダッ

特部隊長「急げ!! 早くしろ!」ザンッ

オーガ「…任務を遂行。勇者を抹殺する」ジャキッ


特部隊長「それは鉈か? えげつない武器だな」

オーガ「任務を遂行する。障害は排除」ヒュッ

ガキンッ! ドガッ…

特部隊長「がっはっ…」ガクンッ

部下「隊長!!」

特部隊長「構うな、行け!! 盗賊と合流しろ!!」

部下「っ!!」ダッ


ピピッ…ピピッ…


特部隊長「どうやらウチの部下がやってくれたようだ。残念だったな」

オーガ「任務を遂行する。任務は、勇者の抹

特部隊長「その任務は諦めた方がいい、時間切れだ」


ドガンッ!! ドンッ!ドンッ!ドンッ!

ここまで、また明日


ドガンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

降霊術師「おやおや、爆破されてしまいましたか。流石は大尉、見事な活躍です」

降霊術師「しかし、この国の人間は実に愚かですねえ、戦って滅びた方が潔いというのに……」

降霊術師「まさか擦り寄ってくるとは、この私も少々驚きましたよ」

降霊術師「ですが、そのお陰で滅ぼす手間が省けました。実は私、戦はあまり好きではないのです」

降霊術師「こうやって、裏でこそこそ悪戯をする方が性に合っていますからね」

降霊術師「今や西王も軍も、私の傀儡。西王に至っては正に傀儡です」

降霊術師「ここだけの話、実はあの方、もう死んでいるんですよ」ニコニコ

降霊術師「当初は生かしておこうかと思ったのですが……」

降霊術師「あまりに横暴で見ていられなかったので、私の人形になって貰いました」


降霊術師「今頃は、王座で腐り果てていることでしょうねぇ」

降霊術師「どうです? 手間が省けて良かったでしょう?」

降霊術師「いやはや、しかし我々を利用しようなどと、よくもまあ考えられたものですよ」

降霊術師「対等だとでも思ったのでしょうかねえ? 本当に本当に……」

降霊術師「傲慢で、分を弁えない、無能で愚かな人間だったよ」

降霊術師「ああ、別に人間全体の評価ではありませんよ? 気を悪くしないで下さい」

降霊術師「我々と真っ向から対立し、立派に戦っておられる方々には敬意を払っています」

降霊術師「その最たる人間こそ、貴方の御友人である勇者です」


降霊術師「彼は素晴らしい方だ」

降霊術師「共に戦うのなら、ああいった誠実な方が好ましい」

降霊術師「ああ、それと一つ。我々を異形種などとは呼ばないでいただきたい」

降霊術師「起源は人間より遙かに古く、この通り魔術の扱いにも長けている」

降霊術師「せめて古代種とでも呼んでいただきたい。異形種など蔑称ではありませんか」

降霊術師「あまり、こんなことは言いたくはありませんが……」

降霊術師「ただが人間の分際で、思い上がるのも大概にしろ」

降霊術師「それは貴様にも言えたことだ。西部の勇者……いや、盗賊」


盗賊「あぁ悪い、全然聞いてなかった」ニコッ

盗賊「あんまり長々と話すから退屈でさ。それに、ちょっと遠いんだ」

盗賊「ちなみに俺は、お喋りな奴が嫌いなんだよ」カチッ

ダンッ!ダンッ!ダンッ!

盗賊「でもなぁ、逃げるとは思ったが、まさか待ち構えてるとは思いもしなかったよ」

盗賊「貧弱で気が弱くて、男らしさの欠片もない、卑怯で陰険な臆病者だと思ってたからな」

降霊術師「安い挑発ですねえ、まあ否定はしませんよ。私は後ろで見ているのが好きなので」

降霊術師「大体、貴様ごときに背中を見せるはずないだろうが……」

降霊術師「数多の死人に埋もれて死ぬがいい」カッ

ゾゾゾゾゾッ…

盗賊「おいおい、まーだ出てくんのか? 気が遠くなるな」

盗賊「これじゃあ弾が幾つあっても足りねえな。うっし、やるか」スッ

降霊術師「おや? 武器を納めて何をするつもりです? 投降するようにも見えませんが」

盗賊「いやぁ実は私、あまり銃は好きではないのです。いい思い出がありませんからねえ」

盗賊「私には、素手でぶち殺すのが一番性に合っていますから。でも、手が汚れるでしょう?」

降霊術師「……………」

盗賊「ですから、銃を使うようになったんですよ。血を浴びずに済みますからねえ」

盗賊「と言うわけで、核を抉り取ってやる」フッ

……シーン…

降霊術師「…消えた…この静けさは…何だ……」


……ゴッッ!

降霊術師「何事だ!? まさか爆薬を使ったのか?」

降霊術師「いや、その程度で死人の隊列が崩れるわけが……」

盗賊「よお、やっと近くで話せるな」ニコッ

降霊術師「くッ!?」タンッ


ゾゾゾゾゾッ!!


盗賊「おいおい、そんなに飛び退くことねえだろ?」

盗賊「つーか逃げるなよ、臆病者」

降霊術師「そうか、貴様も……」ボソッ

盗賊「は? なんだって?」

降霊術師「貴様も勇者と同じ、我々に仇なす者か……」

降霊術師「憎き敵対者であり、輪廻に束縛する者。我々にとっての終末の使い」

降霊術師「魔を持たぬ悪しき血脈、異端の者共め……」


盗賊「はぁ? 何ブツブツ言ってんだ、お前」

降霊術師「貴様等ほど罪な存在はいない!!」

降霊術師「異形種だと!? それは貴様等の方だ!!」

降霊術師「貴様等がいる限り、我々に救いは訪れない!!」

盗賊「だーかーら、何の話だって聞いてんだよ。随分とお怒りのようですけども」

降霊術師「殺してやる。刺し違えようと、ここで息の根を止めてやる」

盗賊「あのさぁ、何があったか知らねーが、悪いことするからじゃねえの?」

降霊術師「悪…悪だと?」

降霊術師「くくっ…笑わせるな。悪は貴様等だ。貴様等こそが、悪なのだッ!!」カッ


ズズズズズッ…

盗賊「うーわ、気持ち悪っ! 死体取り込んで何する気だよ」

降霊術師「力の違いを教えてやる。私は個であり、私こそが軍勢だ」

盗賊「ちょっと何言ってるか分かんないんだけど、アタマ大丈夫か?」

降霊術師「地を這い、生者を掴め。死者は死者を求め、新たな死を生むのだ」

ガシッ!

盗賊「うおっ!?」

降霊術師「沈め」

ズズズ…

盗賊「クソッ、離れねえ!!」

降霊術師「土牢で眠れ、悪しき者よ」


盗賊「ちく…しょう…なんつって」

ザンッ! ボトボトッ…

盗賊「何だよ、余裕じゃねえか」ヒラヒラ

盗賊「地面から手を生やしたただけで勝てると思ったのか?」


ボコッ!ボコッ!ボコッ!ボコッ!ボコッ!ボコッ…


盗賊「ずるくねえ?」

降霊術師「戦とはそういうものでは?」

盗賊「こういうのは数の暴力って言うんだよ!」

降霊術師「核、心臓を抉り取ると息巻いていたのに、この程度で屈するのですか?」ニヤッ


盗賊「嘗めんな」ダッ

ザンッ! ガキンッ!

死人「ハァァァァァ…」

盗賊「……兵士も出すの? そりゃないだろ?」

降霊術師「ひひっ、ははははっ!」ブンッ


ガリッ!


盗賊「いってええ!? 何だぁ!?」

降霊術師「私も素手で殺すのが得意でしてね。手というより、爪ですが」

盗賊「ただ引っ掻いただけだろうが。こんなもん、風呂入る時にちょっと痛いだけだ」

降霊術師「いや? 貴方は、その引っ掻き傷で死ぬんです」

降霊術師「死者の爪、死そのものが塗り込まれた爪です」

降霊術師「私が死ねば助かりますが、殺されるわけにはいかないので……」スッ


ゾゾゾゾゾッ!

降霊術師「後は兵士に任せて、貴方が死ぬのをゆっくり待ちますよ。後ろでね」スゥ

盗賊「……こりゃあ参ったな。流石に遠いぜ?」ダッ

降霊術師「撃て、あの場から動かすな」

死人「……………」ガシャッ

盗賊「あー、この光景、何だか見覚えあるな」


ダダダッ!ダダダッ!ダダッ…


盗賊「(死ぬことはねえだろうが、視界を遮られちまった。無闇に走っても辿り着けねえ。

盗賊「(弾が尽きる気配もねえ。撃ってる奴の後ろで、弾倉を交換してる奴がいるんだろう)」

盗賊「(で、俺が死ぬまで撃ち続けるわけだ)」

盗賊「(どうにかして奴の姿が見えればいいが、この軍勢を抜けるのはキツい)」

盗賊「(赤髪狩りの時と同じだな、これじゃあ勝てねえわけだ)」


盗賊「(あー、瞼も体も重い。体の熱が引いていく、眠い、寒くなってきたな)」

盗賊「(ちくしょう、手足もでねえ。死、死か……そんなに悪いもんでもねえのかな)」

盗賊「(……駄目だ、頭が回らねえや)」


ドガンッ! ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!


盗賊「なんだ……?」

兵士「皆、ありったけの手榴弾を投げろ!! 銃撃を止めるぞ!!」

兵士「勇者さん! さあ、今のうちに奴を!」

盗賊「……勇者? そっか、今は勇者だったな。なら、やるしか…」フラッ

バタンッ…

兵士「勇者さん!? 勇者さん、しっかりして下さい!! くっ!!」ダッ

兵士「俺は勇者さんを救出する! 皆、援護を頼む!!」


ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!

特部隊長「……うっ…何だ? 俺は…生きているのか」

女兵士「目が覚めたか」

特部隊長「なっ!? くっ…」ズキッ

女兵士「まだ動かない方がいい」

特部隊長「何故お前がいる。何故、俺は生きてる?」

女兵士「私が助けた。瓦礫から引き摺り出したんだ、感謝しろ」

女兵士「生きている理由については、運が良かったとしか言えん」

女兵士「複数体のオーガが爆風と熱の盾になっていたこと、吹き飛ばされた場所、瓦礫が落ちた場所、埋もれていた場所……」

女兵士「最後に、私が貴様を見つけたこと……」

女兵士「これら全ての偶然が奇跡的に絡み合った結果、お前は生き延び、此処にいる」


特部隊長「……何故、助けた」

女兵士「分からん。私自身、何故貴様を助けたのか理解出来ない」

女兵士「そうせずにはいられなかった。頭ではなく、体が命じているようだった」

女兵士「得たいの知れない何かに、突き動かされたような……」

特部隊長「……そうか」

女兵士「貴様は私を知っているのか?」

女兵士「先程、貴様は生前と言っていた。一度死んでいるとも言ったな?」


特部隊長「…………」

女兵士「答えろ」カチッ

特部隊長「対異形種特別部隊の隊員……」

特部隊長「大型異形種との戦闘中、仲間を救出しようとして、亡くなった」

特部隊長「俺はその場にはいなかった。君は………」

女兵士「何だ。全て話せ」


特部隊長「……君は、俺の恋人だった女性だ」

特部隊長「女性初の対異形種特別部隊員で、当時は誰もが驚いた」

特部隊長「馬鹿にする者もいたが、君は戦場で力を証明し、皆に認められた」

特部隊長「何がきっかけだったのか、射撃で勝負することになり、俺が勝った」


特部隊長「それから頻繁に話すようになった」

特部隊長「互いに意識してはいたが、軍人だからな、言い出せなかった……」

特部隊長「長らく気持ちを伝えることは出来なかった。だが、ある日突然、君から告白してきた」

特部隊長「後悔はしたくないと、真っ直ぐに、俺の目を見つめながら」

特部隊長「関係に劇的な変化などなかったが、互いに想う気持ちは本物だった」

特部隊長「俺は、彼女を心から愛していた」

女兵士「…………」

特部隊長「以上だ。俺は行く、先程から連続した爆発音がする。盗賊達が戦っているんだろう」

特部隊長「加勢に行かなければならない。君は……自由にしろ」ザッ


女兵士「待て」

特部隊長「何だ? まだ質問があるのか?」

女兵士「……私を、撃て…」

特部隊長「何だと?」

女兵士「貴様の話を聞いてから、様子がおかしい。記憶が、混濁している」ガクンッ

女兵士「……大尉、貴方の手で終わらせて欲しい。次の射撃訓練では、負けないからな?」

女兵士「大尉、私は貴方を愛してる。貴方は、私を愛しているか?」

特部隊長「…………」カチッ

女兵士「何をしている…早く殺せ」

女兵士「大尉、最期にもう一度だけ、聞かせてくれないか」

特部隊長「……俺は、君を愛してる。恥ずかしい話、一目惚れだったんだ」ニコッ

女兵士「大尉、それは私もだ……ありがとう」ニコッ

ドンッ!

特部隊長「……………………」

ザッザッザ…


兵士「勇者さん! 勇者さん、しっかりして!!」ユサユサ

盗賊「あぁ、悪りぃ悪りぃ…逝っちまうとこだった」

兵士「どうにかして隊列を崩さないと、奴に近付くことも出来ません……隊長!?」

特部隊長「両翼から爆弾を投擲、爆発と同時、俺が突っ込んで囮になる」

特部隊長「お前は見張り塔に上り、降霊術師の位置を掴み、盗賊に指示を出せ」

特部隊長「盗賊、何があったかは分からないが、行けるな?」スッ

盗賊「……ああ、やってやる。勇者だからな」スッ


ガシッ…


特部隊長「なら、さっさと立て」グイッ

盗賊「ありがとよ。つーか、ぼろぼろだな」

特部隊長「それはお前もだ。さあ、行くぞ」


降霊術師「そろそろ死んだ頃合いでしょうが、油断は出来ませんねえ」

降霊術師「何だか周囲の兵士もちょこまか動いて邪魔ですし……」

降霊術師「皆殺しにしたその後で、生死を確認するとしましょうか」


ドガンッ! ドガンッ!ドガンッ!ドガンッ!


降霊術師「また爆弾ですか、芸のない。おや?」

降霊術師「あれは大尉ではないですか、まだ生きていたとは……」

特部隊長「ハァ…ハァ…ハァ…」ダッ

ザンッ!ドンッ!ドンッ!

特部隊長「……まだか、まだ見つからないのか」



兵士「勇者さん、発見しました!! 11時の方向です!」ブンブンッ


盗賊「あっちか!?」

兵士「違います!俺から見て11時です!!」

盗賊「分かんねえよ!!」

兵士「あの人は馬鹿なのかな……えーっと、そこから左斜め! かなり上です!!」

盗賊「最初からそう言え馬鹿野郎!!」ダッ



特部隊長「…痛ッ…ハァ…生きてるってのは大変だな」フラッ

降霊術師「そろそろ大尉を楽にしてあげなさい。これ以上は虚しいだけです」

盗賊「見ぃーつけた」ニコッ

降霊術師「ヒッ!!?」

盗賊「おっと、せっかく見付けたんだ。逃げんなよ」ガシッ

降霊術師「こっ、この死に損ないめ! 死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」


ガリッ! ガリッガリッガリッガリッ

盗賊「うるせえよ、お前」

ズドンッ! ゴキャ…ズブッ…

降霊術師「ごはッ!」

盗賊「ほら見ろよ? これが、お前の心臓、お前の核だ……」

降霊術師「ヒュッ…ヒュッ…ヒュー…化け物め…」

盗賊「いやいや、人間です。つーかお前、俺を悪だと言ったな。そりゃ間違いだ」

盗賊「俺は間違いなく悪だ。でもさ、店主曰く、輝ける悪なんだってよ」

盗賊「悪者だって時には輝けるのさ、お前みたいな奴は悪者ですらねえ」

盗賊「命を弄ぶ下劣な異形種が、人間を嘗めんな」ググッ


グシャッ!


降霊術師「」

盗賊「殺人犯に言われたくないって? 確かにその通りだな」ウン

盗賊「でも、今は勇者だからさ。大目に見てくれよ。なっ?」ニコッ

ちょっと休憩。もうちょっと貼りたい


>>>>

情報屋「で、盗賊は消えたわけだ」

特部隊長「ああ、奴を倒した後、別れも告げず忽然と消えてしまった」

特部隊長「まったく、好き勝手にやって本当にいなくなるとはな……」

特部隊長「あいつらしいと言えば、そうなんだが」

情報屋「あの後も祝勝会どころじゃなかったな。色々と忙しくて」

情報屋「東王には伝えたんだろう? 返事は来たのか?」

特部隊長「ああ、西部は東部に任せることになった。東王は信用に足る人物だからな」

情報屋「そう言えば、今は結構な地位に就いてるらしいな? 国家間を繋ぐとか何とか」

情報屋「次期西王じゃないかと、巷で噂になってるぜ?」


特部隊長「馬鹿馬鹿しい」

特部隊長「どうせなら東西合併して欲しいくらいだ。無駄な争いも減るしな」

特部隊長「第一、何故兵士である俺が政治的なことをしなければならないんだ」ハァ

情報屋「それは信頼されてるからだろ? 国を救った英雄なんだからな」ニヤニヤ

特部隊長「やめてくれ、また隊長をやる羽目になったんだ」

特部隊長「東王に、その経験を生かして我が軍に指導願いたい……と言われてな」

特部隊長「もう、あんなのは懲り懲りなんだ。命が幾つあっても足りはしない」

情報屋「まあいいじゃないか、万事上手く行ってるんだから」

情報屋「初めの内は反発や衝突もあるだろうが、あんたならやれる」

情報屋「きっと、良い方向に進んで行くさ。いずれは西部も立ち直る日が来る」


特部隊長「そうだな、そう願いたいものだ……」

情報屋「……もう、平気なのか?」

特部隊長「ああ、最悪の体験だったが気持ちの整理がついたような気がする。きちんと伝えられたしな」

特部隊長「出来ることなら、この手で降霊術師を殺したかった……」

特部隊長「そんなことをしても、決して気は晴れなかっただろうがな」

特部隊長「勇者様がやってくれて良かったよ。あいつは、やるべきをやって去ったんだ」

情報屋「捕らえなくて良かったのか?」ニヤ

特部隊長「勇者を捕らえでもしたら国中から批難される。特に、この酒場の連中にな」

特部隊長「奴は間違いなく罪人だが、確かに西部の勇者だったよ」


情報屋「あいつ、今頃何してるんだろうな……」

特部隊長「東部に向かってるんじゃないか? 勇者に会いたいと言っていたからな」

情報屋「いや、あいつのことだから真っ直ぐ行くとは思えない。何をしているのか想像出来ん」

特部隊長「いつかまた会える。此処か戦場か、それは分からないが……」

情報屋「きっとその頃には、戦場には二人の勇者がいるんだろうな」

情報屋「東部の勇者と、西部の勇者が……」

特部隊長「そうかもな……取り敢えず、俺達は俺達の出来ることをしよう」

情報屋「ああ、そうだな。さて、そろそろ行くか」





少年「ねえねえ」

盗賊「何だよ迷子か? 大変だな、あっち行け」

少年「迷子じゃないよ。僕、あそこの教会に住んでるんだ」

盗賊「孤児か……まあ、あれだ。頑張れ、じゃあな」


少年「ちょっと待ってよ」グイッ

盗賊「金ならねーぞ、あってもやんねーからな」

少年「そんなんじゃないよ?」

盗賊「なら何だよ、面倒くさいガキだな」

少年「それ、なんて書いてあるの?」

盗賊「呪いの言葉なんだ。言ったら死にます」

少年「どうせ嘘でしょ? いいから教えてよー」グイグイ

盗賊「あなたに救いがありますように……と、書いてあるらしい」

少年「お兄ちゃんには似合わない言葉だね」

盗賊「うるせえ、つーか腹減ったから何か食わせろ」

盗賊「神父様なら、迷える子羊にはそんくらいしてくれんだろ?」ニコッ

少年「教会に行ってご飯たかる気なの? うわー、救いようがない人だね」

盗賊「知ってる。だから、この腕輪してんだよ」



盗賊編#1 終

寝るここまでまた明日

>>294から登場した兵士は部下です。
名前間違えました。誤字脱字申し訳ない。


魔導師「弟子よ。また、いらぬことをしたな」カツンッ

魔女「申し訳ありません」

魔女「ですが師よ、私がしたことは決して無駄なことではありません」

魔女「あれは裁きです。罪を犯しながら捕らわれることなく…」

魔導師「黙れ」

魔女「…………」

魔導師「お前の行った此度の裁きとやらには、私怨があった。違うか」


魔女「私怨などありません」

魔導師「ふむ、そうか」カツンッ

魔女「はい。私は彼女達の無念、苦しみ嘆く御霊を救うべく行動しました」

魔導師「……嫁入り前の女や少女を狙った連続強姦殺人。確かに許し難い、裁きは受けるべきであろう」

魔導師「だがな、私に言わせてみれば襲われた女共が愚かだとしか言えんよ」

魔導師「強姦殺人犯が捕らえていないというのに、無警戒に出歩くからそうなるのだ」

魔導師「大方、自分は狙われないとでも考えていたのだろうな。全く、愚かな連中だ」

魔女「…ッ! それは力ある者の言葉です!!」

魔女「神出鬼没の殺人鬼にどう対処しろと言うのです! 無力な彼女達に何が出来たと!?」


魔導師「フン、それが本音か」

魔導師「自身の境遇と重ね、彼女達に同情し、殺害したな」

魔女「それは違います! 私は…私はただ!!」

魔導師「黙れッ! この愚か者めが!!」

魔導師「お前は彼女達の怨みを晴らし、救ったつもりなのだろうが、それは大きな間違いだ」

魔導師「一度救えば再び求められる。お前は全ての罪人を裁けるか? 否、出来るはずがない!!」

魔導師「それが出来ぬのなら、救うべきではない。あまりに浅慮、短慮な行いだ」

魔導師「まして、一時の怒りや憎しみに支配されるなど以ての外だ」


魔女「……申し訳…ありません」

魔導師「お前は優秀な弟子だ。しかし感情を抑える術を知らん」

魔導師「以前教えた通り、力とは個人の物ではない。知識も然り……」

魔導師「他者の為に力を行使し、苦しむ者を救うという行いは美しいだろう」

魔導師「そこに私情が入っていなければな……」

魔女「……はい」

魔導師「過去を捨てよとは言わん」

魔導師「お前の行動に共感出来ないと言えば嘘になる」


魔導師「但し、師としてではなく、あくまで同性として、女子としてだ」

魔女「ケッ、なーにが女子だ。本当はお婆ちゃんのクセに」ボソッ

魔導師「あぁ? 今なんつった? 口を縫合するか?」

魔女「ごめんなさい、許して下さい、もう二度と言いません、誓います」

魔導師「ハァ…随分と安い誓いだな。まあよい、大目に見てやる」

魔導師「美しく寛大な師を持ったことに感謝するんだな」フフン

魔女「はーい」

魔導師「ただ、これだけは肝に銘じておけ。軽率な行動はするな」

魔導師「思慮深く、常に冷静であらねば魔術を行使することは出来ん」

魔導師「我が魔術はそこらの三流魔術師とは違うのだ。一歩間違えば命を落とす」

魔導師「今のお前のような自称魔女、なんちゃって魔女ではいかんのだ」


魔女「(頑張ってるのになぁ、ちっとも褒めてくれないや)」

魔導師「馬鹿者、その程度で努力しているなど片腹痛いわ」

魔女「何も言ってません」

魔導師「顔に出ている。少しは表情を隠せ、如何なる時も…」

魔女「平常心ですよね。分かってます」

魔導師「ハァ…もうよい、部屋に戻れ。先日渡した本を暗記しろ」

魔女「分かりました。では、失礼します」ペコッ

トコトコ…

魔導師「……素質はあるが気質に難がある。弟子を育てるとは難儀なものだな」

魔導師「褒めれば自惚れ、諭せばふて腐れ……まあ、悪くはないがな」フフッ


魔女「えーっと……」ペラッ

魔女「彼等は魔術の祖であり、人が地を踏む以前にあった存在であるとされる」

魔女「これが事実であれば、この世界は元々、彼等のものであったと言えよう」

魔女「本来なら彼等こそが純然たる人間であり、我々は彼等の欠陥品のようなもの」

魔女「彼等は陣や詠唱を一切必要とせず、己が体内の膨大な魔力を自在に放出し、操ることが出来る」

魔女「但し、突出した能力を持つ者は、それしか扱うことが出来ない」

魔女「その点、我々は様々な魔術を行使することが可能である」

魔女「欠点は、陣や詠唱が必要なこと……ん?」

魔女「追記、陣を直接体に彫り込むことで、それは解決した。この偉大なる魔導師にかかれば容易いことだがな……」


魔女「うわぁ、延々と自画自賛が続いてるよ……とばそ」ペラッ

魔女「彼等はその強大な力故に、数百年の長きに渡り、争い続けた」

魔女「争いの果てに、遂に世は統一され、王が誕生した」

魔女「かくして平和は訪れた。が、そこに現れたのが人間(現在の)である」

魔女「何が変異したのかは未だ不明だが、魔術を使えぬ異端の種が誕生したのだ」

魔女「魔を扱うのが常識であった魔神族(当時の魔術師に神格化されたとされる)にすれば、正に忌むべき存在であった」

魔女「程なくして人間は排他すべき対象となり、大規模な虐殺が行われた」

魔女「しかし、人間(今で言う人間の定義には当てはまらない)には特殊な力があった」


魔女「それは祖とは異なる力、相容れぬ力。魔を滅ぼす力」

魔女「正に、祖に終焉をもたらすべく生まれた存在と言えよう」

魔女「魔を察知する能力、皮膚を覆う魔力を打ち破る力……」

魔女「中でも身体能力は凄まじく、耐久性は祖のそれを遙かに超えていた(魔力に耐性があるものと思われる)」

魔女「余談ではあるが、彼等に討たれた者は例外なく無明の牢獄に封印されたと言われている」

魔女「因みに、彼等のような人間こそが完全なる人間であり、現在ではその力は失われている」

魔女「何故、その力が失われたのか。諸説あるが定かではない」

魔女「祖を封じた後、力を行使する必要がなくなったという説……」

魔女「または長い年月を経て、力そのものが風化したという説がある」


魔女「追記。馬鹿共め、小難しい議論など必要ないわ」

魔女「世代を重ねて血が薄まったと考えるのが妥当だ。少し頭を捻れば分かるだろうが、年寄り共め………ハァ…」


ペラッペラッ


魔女「……彼等人間によって王は封印され、世は人のものとなった」

魔女「そして、彼らを支えた存在こそ魔術師(我々の祖)である」

魔女「彼等は人間(完全な)とは違い、今の人間と差して変わりないが、何とか彼等の役に立ちたいが為に必死に魔術を学んだ」

魔女「例として医療・回復術など……」

魔女「魔術師という存在は自らの為に生まれたのでなく、他者の為に生まれたと言える」

魔女「例外的に、利己的な魔術師は進んで魔神族に下り、彼等の力を授かったとされる」

魔女「だが、彼等も魔神族同様に封印され、無明の牢獄へと堕ちた」

魔女「真の魔術師とは人の為に力を行使し、人々の傷を癒やし、御霊を救うのだ」


パタンッ…

魔女「……ハァ、アタマ痛くなってきた。もう寝よ……」ボフッ

魔女「自称魔女か……」

魔女「腹立つけど確かにそうだよね。まだまだ師匠には遠いし、背中も見えない」

魔女「生きてる内に超えようとか、無理なのかなぁ……まっ、しょげてても仕方ないし頑張ろ」ガバッ

ペラッ

魔女「えっと、魔術には医療術だけでなく様々な術が存在しており、例として……」フムフム

魔女「………スー…スー……ンー…」



魔女「んーっ、ふがッ!?」ガバッ

魔導師「朝だ。さっさと起きろ。下に来い」

魔女「師よ、私の鼻を摘まみながら話さないでくれますか。早く離して下さい」

魔導師「今日は、お前の大好きな模擬戦闘だ。待っているから早く来い」


魔女「えーっ、嫌だ…」

魔導師「ふざけるな、お前に拒否権などない」

魔女「っ!!」ビクッ

魔導師「いつ何時でも師弟であることを忘れるな。お前など、いつでも殺せる」

魔導師「これからも師弟でいたいなら、生きたいのなら、我の命に従え」

魔女「……はい、承知しました。申し訳ありません」

魔導師「ならよい、ではな」


カツンッ…カツンッ…


魔女「……そうだよね。お母さんだと思っちゃ駄目なんだよね」

魔女「あの人は魔術の師匠、私は弟子、師匠は主なんだから」

魔女「よーしっ、今日も頑張ろう!!」バチッ


魔導師「さて、準備は出来たか」

魔女「はい。いつでも行けます」

魔導師「そうか、ならば来い。命を取るつもりでな」

魔女「……行きます」ダッ

魔女「炎よ、柱となりて我に仇なす敵を討て」

ゴゥッ!

魔導師「(動作の中で詠唱出来るようになったか、以前よりも遙かに安定しているな)」ブンッ

フッ…

魔女「(……やっぱり、あの杖の一振りで掻き消される。でも!!)」


魔女「水よ凍てつき弾丸となれ」カッ

ドガガガガッ…

魔導師「これも、以前より増えたな……」ブンッ

フッ…

魔導師「這え」カツンッ

ゴオォォォォッ!!

魔女「…熱ッ、風、翼、私を飛ばせッ!!」グオッ

魔導師「ほう、迷わず突っ込んでくるか」

魔女「ふっ!」ブンッ

ガキンッ…

魔導師「成る程、魔術だけではない。というわけか」

魔女「魔術師だからこそ魔術に頼ってはならない。そう教えてくれたのは師です!!」ググッ


魔導師「フフッ、そうだったな」フワッ

トッ…

魔女「よっしゃ!もらった!!」カッ

パキンッ…

魔導師「ほう、結界か。いつの間に彫った」

魔女「へへっ…昨晩、師が眠ってからです」

魔導師「そうであったか」カツンッ

ガチャンッ!

魔女「へっ? 何で私に結界…!!」

魔導師「ああそうだ。お前の想像通り、我も昨日の夜に彫ってみた」パリンッ

魔導師「これで立場が逆転したな。さて、どうしてやろうか……」

魔女「ちょっと待って下さい!これは流石に大人げないですよ!?」


魔導師「わたし、まだ子供だもんっ」チョコン

魔女「体を子供に変えただけでしょ!」

魔女「ていうか、なにキラキラしてんですか!そういうタイプは女に嫌われますよ!!」

魔導師「最近の男は幼い女児にまで欲情するそうじゃないか。どうだ、アリだろ?」クルッ

魔女「色んな意味でナシです!!」

魔導師「なら、これで……どうかな?」スラリ

魔導師「貴女が弱いから負けるのよ。あらあら、無様だこと」ファサッ

魔女「腹立つけど綺麗です。満足ですか」

魔導師「ふざけるのもこの辺にして、今日の課題は、その結界からの脱出だ」


魔導師「私はちょっと出掛けてくる」カツンッ

魔女「えっ…ちょっと、師の造った結界を破壊するなんて無理ですよ!!」

魔導師「……なら、一生そのままだな」

カツンッ…カツンッ…

魔女「こっ、これはマズイぞぉ…とりあえず、ふんっ!」ゴンッ

魔女「そうですよね。素手で割れるわけがないですよね、ハハッ…」

魔女「ハァ…やるだけやってみよう」



魔女「……スー…スー…スー…ンガッ…」

魔導師『おい小娘、何があった』

魔導師『そうか、両親を亡くしたか。その血は……まさかお前…ッ!!』


魔導師『こんな女児の純潔を奪うなど、許せん』

魔導師『私に付いてこい、全てをなくした者ほど力に貪欲になる』

魔導師『まずは傷を癒やせ。そうすれば、女であることすら忘れさせてやる』

魔導師『空いた穴は力で塞げ、過去は力で塗り潰せ』

魔導師『それでも足りぬなら知恵を付けろ。知識もまた、力だ』


魔女「……………」ムクッ

魔女「……知恵、知識」

魔導師『今日の課題は結界からの脱出だ』

魔女「脱出…脱出…だから無理ですよ…あっ! 壊せ、なんて一言も言ってないや」ハァ

魔女「私、自分で思ってるより馬鹿なのかもしれない……まあいいや、岩よ崩れよ」


ゴゴンッ!

魔女「後は下から抜ければ出られる。土に埋もれないように操作しないと……」

ズリッ…ズリッ…ズリッ…ズボッ…

魔女「はぁー、やっと出た。フッ…呆気ないぜ。やることなくなっちゃったよ」

魔導師『ほら、食え。食わねば死ぬぞ』

魔女「………晩御飯の支度でもしよう」トコトコ



夜 魔導師の洞窟

魔導師「うむ、中々美味いな」モグモグ

魔女「師よ、今日は何をしに行ったんですか?」

魔導師「ああ、最近勇者の話題を耳にしてな。情報収集に行ってきた」


魔女「術具使えばいいじゃないですか、わざわざ離れた街に行かなくても……」

魔導師「便利だからといって術具に頼ってばかりでは体が錆び付く」

魔導師「それに、あの術具はあくまで断片的にしか見せない」

魔導師「第一、魔術師は勤勉でなければならんと言っただろう。堕落しては終わりだ」

魔女「そんな大袈裟な」

魔導師「ぶくぶく太って、醜い魔女などとは言われたくないだろう」

魔導師「私は、太ったね、と言われるのが大嫌いなんだ。あと、デブと言われるのもな」

魔導師「そう思うだろう、おでぶ魔女」

魔女「いやいや、太ってませんから!やめて下さいよ!」


魔導師「お前、腹の肉が出て…」

魔女「出てないですから!何なら今すぐ脱ぎますか!?」

魔導師「ほら、嫌なものだろう?」

魔女「そりゃ嫌ですよ。それより勇者の情報はどうだったんですか?」

魔導師「うむ、それが色々と複雑でな。様々な情報が混ざり合っているのだ」

魔女「どういうことです?」

魔導師「勇者が東部にいることは以前に話したな」

魔女「はい、何でも上位のゴーレムを一人で倒したとか……」


魔導師「ああ、そうだ」

魔導師「その後は目立った動きはなかったはずなんだが……」

魔導師「街の噂によると、勇者は西部を滅ぼそうとしていた降霊術師を倒したらしい」

魔導師「勇者は一人だ。よって、何者かが名を騙ったと思われる」

魔導師「しかし、降霊術師を倒したとなれば勇者以外に考えられん」

魔導師「降霊術師は、お前に渡した本にも記載されている高位の魔神族だ」

魔女「確か……個でありながら軍勢である者」

魔導師「そうだ。容易に倒せる奴ではない、勇者ならば倒せるだろうがな」


魔導師「しかし、倒したのは勇者ではない」

魔女「何で言い切れるんですか?」

魔導師「一つ、風貌の違い。二つ、そいつは犯罪を犯している」

魔導師「三つ、南部からの逃亡者。四つ、赤髪の一族」

魔導師「これらの情報を組み合わせた結果、一人の人物が浮かび上がった」

魔導師「つい最近まで南部で畏れられていた男、盗賊の存在だ」

魔導師「彼には、赤髪の一族ではないか、という噂もある」


魔女「恐れられたって、何をしたんですか?」

魔導師「強盗、殺人、窃盗、傷害、器物破損、詐欺、恐喝、賭博、偽証通貨、逃走、賄賂……」

魔導師「まあ、余罪はもっとあるだろう」

魔女「……最低な男ですね」

魔導師「そいつが南部から突然姿を消した。その時期と同じくして、西部に勇者が現れた」

魔女「まさか、そんな男が勇者だと言うんですか!?あり得ません!!」

魔導師「そうであれば私も嬉しい。が、残念なことに似ているんだ……」

魔導師「以前に見た手配書の人相と、西部に現れたという勇者の風貌、合致する点が非常に多い」

魔導師「どういう形で民衆の心を掴んだのか知らんが、対異形種特別部隊と共に降霊術師を倒したらしい」

魔導師「現在は、隊長である大尉が民衆の指示を得ている。彼は東王に西部を任せたようだがな……」


魔女「間違ってる……」

魔女「そんな最低な奴が英雄扱いされるなんて、絶対に間違ってる!!」

魔導師「落ち着け、まだそうと決まったわけではない」

魔女「師の考えはどうなんですか? 盗賊が西部の勇者だと思いますか?」

魔導師「……おそらく、間違いない」

魔女「ッ!! ごめんなさい、もう寝ます」

魔導師「……そうか、分かった」

魔女「絶対に許せない、そんな奴が…そんな奴が勇者だなんて……」トコトコ


魔女「……………………」ガクガク


ーーなあ、良くなってきただろ?

ーーキミは小さくて可愛いなぁ、あぁー、気持ちいいー!

ーーほら、気持ちいいですーって言えよ。

ーー言えよ!笑えよ!おらっ、おらっ!

ーー言わねーと殺す!ほら、言ってごらん?

ーーいい子だね、偉いぞー。ほーら、気持ちいい気持ちいい!

ーー金はなかったけど、こんな子を抱けるなんて最高だ。ひひっ!

ーーあぁ、最高、最高だよ。こんなに小さいのに、気持ちいいもんだなぁ。


魔女「……ハァ…ハァ…ハァ…ッ!!」ガバッ

ガチャッ…パタンッ…

魔女「犯罪者が英雄? ふざけるな……」

魔女「絶対に殺してやる。誰よりも強くなって、必ず見つけ出して、殺してやる」ギリッ


>>>>>

魔女「……………」

魔導師「(あれから1ヶ月、ずっとあの調子だ。集中するのは結構だが、あの状態は危うい……)」

魔導師「(憎しみによって得る力は強大だが、力に溺れてしまう。それでは意味がない)」

魔導師「(どんな言葉をかけたところで、あいつの憎しみが消えることはないだろう)」

魔導師「(過去が過去なだけに下手に刺激すると余計に深みに嵌まる)」

魔導師「(私では無理だ。荒療治、一か八かの賭けに出るしかないな)」

魔導師「(このままでは、いつか必ず壊れる)」


魔女「師よ、瞑想は終了しました。次は何をすればよいのですか」

魔導師「今のお前に教えることはない、出て行け」


魔女「えっ…」

魔導師「憤怒、殺意、憎悪、渇望。お前の中はそれで満たされている」

魔導師「魔術は救うためにある。今のお前に教えるわけにはいかん」

魔導師「堕ちるなら堕ちろ。私はそれで構わん」

魔導師「道を踏み外した時は、私直々に殺してやるから安心しろ」

魔導師「さあ、何処にでも行くがいい。盗賊を殺したいのなら、そうするがいい」

魔導師「出て行け。憎しみに歪んだ顔は見るに堪えん」

魔女「あっ…えっ? 冗談…ですよね」

魔導師「私が冗談でこんなことを言うと思うか、出て行けと言っている」


魔導師「憎しみを捨てぬ内は教えられん」

魔女「ッ!!憎んで何が悪いんですか!!」

魔女「あんな奴が英雄扱いされて、怒らないわけないでしょう!!」

魔導師「お前の言う『あいつ』とは誰だ。それは盗賊か?」

魔導師「それとも、お前の両親を殺害し、お前を犯した男か?」

魔女「…………」ギュッ

魔導師「盗賊は教会にいる」

魔女「……」ピクッ

魔導師「殺意が増したな? そんなに知りたいなら詳細を教えてやる」


魔導師「盗賊は西部国境の近く、最も西部に近い街の教会にいる」

魔導師「わざわざ魔具を使って調べてやったんだ。ほら、早く行け」

魔女「……嫌です。私にはここしか居場所はありません」

魔導師「師の命令だ。出て行け」ガシッ


グイッ…ズリッ…ズリッ…


魔女「やめて下さい!私には先生しかいないんです!!」

魔女「気持ちは抑えます。だから、だからここにいさせて下さい!!」

魔導師「……………」グイッ

魔女「ぐすっ…先生、お願いします。見捨てないで下さい…うっ…うぅっ…」ギュゥッ

魔導師「…………………」バシッ


魔女「あっ…」

ドサッ…

魔導師「行け」

魔女「ぐすっ…嫌です。先生…お願い…します…どうか…助け…て…下さいっ…ひぐっ…」

魔導師「黙れッ!命令だと言ったはずだ!! 今すぐに出て行け!!」

魔女「ひっ…」ビクッ

タタタタッ…

魔導師「……………………」




魔女「…ハァ…ハァ…ハァ…」ドサッ

魔女「せんせえ、こわいよ、たすけて、こわいよ。せんせえ、おねがい、たすけてよ…」ガクガク

魔導師『憎しみを捨てぬ内はーー』

魔導師『盗賊は西部国境に近い教会にいる』

魔女「……憎しみを…捨てる……?」

魔女「なら、盗賊を殺せば消える…盗賊を殺せば、戻れるんだ」ユラッ


フラフラ…ザッ…ザッ…ザッ…

ちょっと休憩。


>>>>>

盗賊「北部は被害が少ないんだな」ダラーン

神父「ええ、魔導師様がいらっしゃるので」

盗賊「魔導師?」

神父「とても強力な魔術を使える方で、最近は異形種の討伐を行っているようです」

盗賊「軍には属してないのか?」

神父「はい。あくまで個人的に、です。住んでいる場所も定かではないですし」

盗賊「魔導師っていう集団じゃねえの?」

神父「いえいえ、一人です。ですが今は違いますね。随分昔になりますが、幼子を弟子にしたとか……」


盗賊「ふーん」

神父「どうですか?」

神父「もう二ヶ月ほど滞在していますが、心境に変化はありましたか?」

盗賊「んー、それが俺にも分からねえんだ」

盗賊「あれ以来、何だか動く気になんなんくてさ。仕事終わって落ち着いたからかなぁ……」

神父「よければ話を聞きますよ? 子供達も世話になっていますから」

盗賊「あんたがいつもやってる、懺悔ってやつか?」

神父「相談でも懺悔でも、どちらでも」ニコッ

盗賊「あんた、いいやつだな。俺のこと、本当は知ってんだろ?」


神父「それは、まあ…有名ですから」

盗賊「……そっか。じゃあ、聞いてくれるか?」

神父「勿論、では此方に来て下さい」スッ

トコトコ…ガチャッ…パタンッ……

盗賊「あー、仕切りがあんのか。初めて入った……もういいのか?」

神父「ええ、話して下さい」

盗賊「えっと。盗んで、殴って、沢山の人を殺した。行いは自分に返ってくるって言うだろ?」

盗賊「でも、俺には返ってこなくて、別の奴がいなくなっちまった……」

神父「その方は、あなたにとって大事な人だったのですね」

盗賊「ああ、大事な奴だった。きっと、俺の罰があいつに下ったんだ」


盗賊「その時、初めて後悔した」

盗賊「大事な奴が死ぬくらいなら、やらなきゃよかったって」

盗賊「向こうで異形種殺した後も動けないのは、きっとすっきりしねえからだ」

盗賊「あいつが死んで、俺が生きてる。それが納得出来ねえ」

盗賊「あいつは何もしてねえのにな……何が何だか、俺には分かんなくなった」

盗賊「盗み、殺し。全ては生きるために始めたことだ。だから余計に分からねえ」

神父「分からないとは、具体的に何がです?」

盗賊「俺がやったことは悪事だ。それは分かる。罪だってことも分かる」

盗賊「店主に言われた通り、あいつに愛想を尽かされない男でありたい。それは変わらない」

盗賊「ただ、この先の俺がどうあるべきか、それがどうにも分からねえ。体が動かねえんだ」


盗賊「これが解決しないうちは、勇…友達に合わせる顔がない」

神父「おそらく、あなたは変わったのです」

神父「失ったことで、自分の行いを悔いているのがその証拠でしょう」

神父「問題は、あなたがどうありたいか」

盗賊「どうありたいか、か」

神父「そうです。以前と同じような暮らしを続けるのか……」

神父「それとも過去の行いを受け入れた上で、変化を求めるのか」

盗賊「変化って? 盗み殺しをやめるとか?」

神父「あなたがそれを望むなら、そうすればよいのですよ」

神父「あなたの心、魂はどうしたいと言っていますか?」


盗賊「……駄目だ、見えてこねえ」

コンコンッ…

神父「お話の途中で申し訳ない。どうやら、また兵士の方が来たようです」

神父「勇者など知らないと、何度言っても来るんですがね」

盗賊「あー、いつも悪いな」

神父「すぐ戻ります。少し待っていて下さい」

盗賊「おう、頼むわ」


ガチャッ…パタンッ……


盗賊「(俺がどうしたいか、どうありたいか)」

盗賊「(過去を受け入れて前を見る?前に何がある? 何もねえよ)」

盗賊「(戻る場所も進む場所も、最初からねえ。んなことは分かってる)」


盗賊「(クソッ、もやもやする)」

盗賊「(あいつなら何て言う? そんな顔してないで笑ってよ。笑えるかな……)」

盗賊「(店主なら何て言う? 男がウジウジするな。確かにその通り)」

盗賊「(情報屋なら何て言う? お前も悩んだりするんだな。ああ、俺も意外だよ)」

盗賊「(隊長さんなら何て言う? 人は悩みながら成長する。確かにそうかもな)」

盗賊「(じゃあ、俺なら何て言う?)」

盗賊「(何も言わずにやりてえことをやる。邪魔する奴は殺す。そんだけだ)」

盗賊「(質問、やりてえことって何だよ? 腹減ったら食い逃げ、金なけりゃ強盗)」

盗賊「(いや、それは必要なことだろ。そうじゃねえよ。他には?)」

盗賊「(勇者の助けになりてえ。あいつ、今も頑張ってんだろ? 今度は俺が助ける番だ)」


盗賊「(なら、そうしろよ)」

盗賊「あら、案外簡単に答え出た……」

盗賊「要は、人の役に立ちてえってことだ。何だよ何だよ、簡単じゃねえか」

盗賊「悪党殺せば何とかなるか。金も手に入るしな……」

盗賊「家族がいたら……いやいや、家族がいようが悪い奴は悪いしな」ウン

盗賊「……なんつーか、あんま変わんねえな。まあ、すっきりしたしいいか」


ーーあの、神父様はいますか?
ーー神父様? さっきはその中に入ったけど

ーーそうですか、ありがとう
ーーうん、じゃあね


コンコンッ…


魔女「神父様、よろしいですか?」

盗賊「ほう…いい具合じゃねえか。早速、誰かの役に立てるぜ」


魔女「神父様?」

盗賊「まあ、入りなさい。あ、そっちからな?」

魔女「あ、はい」


ガチャッ…パタンッ


魔女「あのっ、何で場所が逆なのですか?」

盗賊「俺が懺悔してたからだよ。俺だって悩むんだ」

魔女「フフッ、何ですかそれ。それに、何だか荒っぽい話し方ですね」

魔女「初めてです、こんな神父様……」

盗賊「神父じゃねえよ。今は悩める罪人だ」

魔女「えっ? 神父様も罪を犯すのですか?」


盗賊「お前さぁ、大事な奴いるか?」

魔女「えっ…あ、はい。います」

盗賊「生きてるか?」

魔女「はい」

盗賊「じゃあ、傍にいてやれよ。死んじまったら終わりだからな」

魔女「(傍にいた恋人が亡くなったとか? いや、詮索はやめよえ)」

魔女「……追い出されたんです」

盗賊「そいつに? なんで?」

魔女「私、魔術を学んでるんですけど、憎しみを捨てろって言われて……」

魔女「でも出来なくて……あのっ、私…その…」


盗賊「なんだよ、気になるから言えよ」

魔女「子供の頃に両親を殺されて、私、乱暴されたんです」

魔女「そのことが、ずっとずっと消えなくて、心が……濁っていくみたいな感じがするんです」

盗賊「つらかったか」

魔女「はい」

盗賊「そいつが憎いか」

魔女「……はい」

盗賊「親は悪人で金持ちだったか?」

魔女「そんなっ、両親は普通に働いてました!」

盗賊「そっか、なら殺しちまえよ。そんな奴、死んだ方がいいに決まってる」


盗賊「悪党から盗むならまだしも、女を犯すなんて男じゃねえ」

盗賊「嬲り殺しにして、生きてるのが嫌になるくらい徹底的にな」

盗賊「その後で晒し者にしてやりゃあいいんだ」

盗賊「あー、胸糞悪りぃな。そいつ、今も生きてんのか?」

魔女「いえ、先…師が殺したと聞きました」

盗賊「師匠はいいやつだな」

魔女「えっ?」

盗賊「お前に殺させたくなかったんじゃねえの? だから自分の手を汚したんだろ、多分」

盗賊「大事な奴が手を汚すくらいなら、自分の手を汚した方がいいだろ? 普通は」

魔女「……大事な人だから自分が……そっか、魔術と同じなんだ」


盗賊「あ? なんか言ったか?」

魔女「いえ、それより先程から随分過激な発言してますけど、大丈夫なんですか?」

盗賊「いいんだよ。今は罪人なんだから」

魔女「フフッ、そう言えばそうでしたね」

盗賊「なあ、俺からもいいか?」

魔女「えっ!? わ、私なんかでいいんですか!?」

盗賊「あんただから話すんだ」

魔女「……じゃあ、どうぞ。話して下さい」


盗賊「生き延びる為に人を殺す」

盗賊「これは悪いことか? いや、人殺しが悪いのは分かってんだけどさ」

盗賊「あんたはどう思う?」

魔女「もしあの時、乱暴されている時、そばにナイフがあれば刺していたかもしれません」

魔女「それで相手が死んだとしても、私は後悔しません。今の私なら、ですけど……」

盗賊「次の質問。その行い、過去の罪によって大事な奴が死んだらどうする?」

魔女「間違いなく後悔するでしょうね。なんて罪なことをしたんだろうって……」

魔女「でも、それをしなければ乱暴されていたわけですから……私にも分かりません」

盗賊「だよな、分からねえよな。あっ、話してくれてありがとな?」


魔女「いえ、そんなっ…お礼なんて……」

盗賊「実はさ、さっき答えが出たんだ。聞きたい?」ニコッ

魔女「は、はい。是非」

盗賊「どんな悪事も、他人を想ってやれば善行になるんじゃねえかって思ったんだよ!」

魔女「むっ、それは……何だか犯罪者の言い訳みたいですね」

盗賊「いやぁ、なんつーか、困ってる人がいて、悪い奴がいて……」

盗賊「悪い奴から金盗んで、そいつに渡せば、良いことになるなんじゃねーかな?」

盗賊「犯罪の正当化と言われればそれまでだけどさ、どうかな?」

盗賊「悪い奴は不幸に、いい奴は幸せに、それが一番なんじゃねえか?」

魔女「………はい、とは言えません。私は不幸になった方なので……」


盗賊「じゃあ、そうだな……」

盗賊「手始めに、あんたを幸せにしてやるよ!」

盗賊「さぁ、願いを言いたまえ」

魔女「フフッ、本当に変な神父様ですね? 願い、願いかぁ……」

魔女「大事な人の下に帰りたいです。でも……」

盗賊「憎しみを捨てる。だっけ? 無理じゃねえの?」

盗賊「小さい頃にそんなことがあったら誰でも荒むし、道踏み外したりすんだろ。普通」

盗賊「だから、そのままでいいんじゃねーかな」

盗賊「怒ったり泣いたり、喜んだり笑ったり……大事な人が傍にいるなら一緒に笑えばいいさ」


魔女「……先生と、一緒に…」

盗賊「なあ、そいつ男か?」

魔女「いえ、女性です。男性はちょっと怖くて……」

盗賊「そっか。じゃあ友達だな、いいよなー、友達」ウン

魔女「友達っていうか先生ですけどね。神父様にも大事な友達が?」

盗賊「ああ、俺を初めて救ってくれた奴だ。本当にすげえ奴だよ」

魔女「救ってくれた? 神父様も昔なにか…」

盗賊「まっ、色々さ。それよりどうだ? 帰れそうか?」


魔女「うーん…どうでしょう……」

盗賊「先生のために頑張りゃあいいじゃん。これなら憎しみなんていらねーだろ?」

盗賊「この人がいるから、自分は頑張れる。この人がいたから、自分は生きてる」

盗賊「……この人がいたから、俺は進める」ギュッ

盗賊「俺は、友達とあいつのこと考えるとそう思うよ。他のもんなんざ全部吹っ飛ぶさ」

魔女「そうなんだ、そっか、簡単なことだったんだ」

盗賊「うん?」

魔女「私、想いを向ける先を間違ってました。憎い相手ばかりを見てばかりで……」

魔女「大好きで大事な人を見てなかった……」


盗賊「どうだ? 今ならそいつが見えるかい?」

魔女「はい、見えます。神父様、ありがとうございました」

盗賊「いやいや、こちらこそ。聞いてくれてありがとよ」

魔女「じゃあ、私帰ります! 先生のところに!」

盗賊「……帰る、か。そっか、じゃあな」

魔女「はい、さようなら」ガチャッ

盗賊「あっ、ちょっと待った!」

魔女「えっ、はい…何ですか?」

盗賊「えーっと……あなたに、救いがありますように」

魔女「……神父様…ありがとうございます。あのっ、また来もいいですか?」

盗賊「おう、次は金持って来いよ?」

魔女「アハハッ、はいっ!分かりました!!」

パタンッ…タタタッ…

盗賊「神父ってのも案外悪くねえかもな。検討の余地ありだ」ウン

寝るここまでまた明日


>>>>

勇者「初めまして魔導師さん」

魔導師「お前が勇者か、まだ子供だな」

精霊「当たり前よ、まだまだお子様だもの」

勇者「年齢は関係ないだろ。まったく、誰も彼もすぐに子供だ子供って……」

勇者「年寄りはみんなそうなのかな?」ニコッ

魔導師「可愛げのない小僧だな。だが、見てくれは合格だ。どうだ、私と一晩寝てみるか? ん?」

魔導師「姿ならいじれる、こんな風にな」スラリ

勇者「うっ…いや、あの…好きなが人いるから駄目だよ……」

勇者「それに、女の子があんまりそういうこと言わない方がいいよ?」

魔導師「………………」キュン

精霊「(さっきまでの余裕はどうした。もっとしっかりしなさいよ、年配女性)」ハァ

予告のようなものです。多分、こんな感じになるはず。
感想ありがとうございます。また明日。


番外編

【怪盗】
【輝ける悪】
【魅了する者】
【華麗なる犯罪者】
【西部の救世主】

勇者「何だこれ、身に覚えがないな」

精霊「西部に勇者を名乗る者が現れて、奴等から救ったらしいわ」

精霊「あなたは修行中で世間に疎いから仕方ないわよ」

勇者「へーっ、じゃあ僕も負けてられないな。でも、どんな人なんだろう」

精霊「ふふっ、さぁ…どんな人かしらね。早く会えるといいわね?」

勇者「悪い人じゃないといいけど……輝ける悪か、どういう意味なんだろう」

精霊「会えば分かるわよ。楽しみにしていなさい」

勇者「?」

剣聖「おーい勇者、昼飯作ってくれ。俺は腹が減ったぞ」

勇者「あっ、はいっ、分かりました!」タタッ

寝つきが悪いので番外編。
邪魔にならない程度に、こういうの書くと思います。
王女様とか大尉とか、そっちで書いた方が良さそうなので。


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勇者「初めまして、勇者です」

魔導師「ようこそ。うーむ、お前が勇者か、まだ子供だな」

精霊「勇者様は十二歳の思春期真っ盛り。子供も子供よ」

勇者「年齢は関係ないだろ。まったく、勇者だって自己紹介するたびにこれだよ」

勇者「みんなして、子供子供って」

魔導師「そういうところが子供なのだ。一番歳を気にしているのは、お前だろう」

勇者「そうかな、一番歳を気にしているのは魔導師様じゃないの?」

勇者「お年寄りは、すぐに人のこと子供だって言うし」


魔導師「可愛げのない小僧だな」

魔導師「まあ、容姿は合格だ。どうだ? 一晩寝てみるか?」

魔導師「忘れられない思い出にしてやる。私の体が忘れられぬよう、じっくりな……」

勇者「いや、そういう目的で来たわけじゃないから」

魔導師「この姿で気にいらんのなら、これでどうだ?」チョコン

勇者「……は?」

魔導師「やはり同い年くらいにがよいか? いや、少し年上だな?」ニコニコ


勇者「…………」ポカーン

魔導師「ねえ、勇者は私のことが嫌いなの?」

魔導師「よかったら、今夜私の部屋で話さない? お願い、寂しいの……」クイッ

勇者「ハッ! いやっ…それは…」

魔導師「ううん、答えなくていい」

魔導師「私、ずっと待ってる。あなたのこと、知りたいから」

勇者「……僕、好きな人がいるんだ」

勇者「だから、君の部屋には行かない。それに、あんまりそういうの良くないよ」

勇者「女の子が自分の部屋に男の人を呼ぶなんて……その、色々と危ないから」フイッ


魔導師「……まずい。これは…かなりイイな。図らずも疼いてしまった」

魔導師「勇者、お前に悦びを教えてやる。いや、教えてやりたい」グイッ

勇者「えっ…ちょっ…」チラッ

精霊「自分でなんとかしない。こういう時に他の女に頼るなんて最低よ」

精霊「そんなザマじゃ、お姫様に嫌われるわよ?」

魔導師「勇者…一晩だけでよい、私の物になってくれないか」

勇者「……駄目だよ。そういうのは、大事にしなきゃ」ソッ

勇者「僕は、好きな人に嘘吐くような人になりたくない。だから、ごめん」

魔導師「なる程、この純な感じが母性をくすぐるのか、私にも母性があったとは驚きだな」


勇者「……からかったの?」

魔導師「いや? 半分以上は本気だった。気持ちを切り替えただけだ」ニヤッ

勇者「気持ちの、切り替え……」

勇者「(何か、ちょっと怖い。やっぱり王妃様の言う通り、女の子は怪物です)」

精霊「さあ、そろそろ茶番は終わりにしましょう」

魔導師「うむ、そうだな。精霊よ、久方振りだな」

魔導師「剣士のことは残念だった。訃報を聞いたときは信じられなかった」

魔導師「あの男が、逝ってしまうなど……」

勇者「お兄ち…剣士さんを知ってるの?」

魔導師「以前、来たことがある。その剣を造るためにな」


勇者「そうだったんだ。お兄ちゃんが……」ボソッ

精霊「魔導師、先程から気になっていたのだけど、弟子の姿が見えないわね」

魔導師「……色々あって追い出した。まあ、そろそろ帰ってくるだろう」

魔導師「神父のやつが、上手くやってくれたようだからな」

勇者「?」

魔導師「して、この私になんの用だ。勇者よ」

勇者「僕の体を変えて下さい。この体のままじゃ奴等には勝てない」

勇者「いつか必ず、窮地に陥る時が来る。成長など待ってくれるはずがない」

魔導師「……ふむ、確かにそうであろうな。その体躯では力を生かしきれぬ」

魔導師「だが、覚悟はあるのか? 想い人には話したか?」


勇者「話しました」

勇者「これは僕個人の希望ではなく、勇者としてやるべきことだと」

勇者「王様にも王妃様にも、勿論お師匠様にも……」

魔導師「なんと言っておられた」

勇者「大きくなって、帰って来い。それだけです」

魔導師「フッ、なる程なる程……精霊」

精霊「何です?」

魔導師「お前は危険性を分かっているはずだ? それでもよいのか?」


魔導師「理解した上で、此処に来たのか?」

精霊「諸手を挙げては賛成出来ない……でも、勇者が自ら望んだ。なら仕方ないじゃない」

精霊「それに、勇者不在だなんて知れたら大変なのよ? お忍びで来たんだから」ハァ

精霊「まあ、これも西部の勇者のお陰ね」

精霊「降霊術師の監視も今や消えた。随分と動きやすくなったわ」

精霊「けれど……」

魔導師「そう長くはいられんのだろう? 分かっておる。早速準備に取り掛かろう」

魔導師「勇者よ、先に言っておくが、お前は凄まじい痛みを体感することになる」

魔導師「皮肉にも、魔に耐性を持つが故にな……」


勇者「分かっています」

魔導師「精霊から聞いているだろうが、本来の寿命が削られる」

魔導師「そして、この陣は精神にも影響を与える。本来時間を掛けるべき成長過程……」

魔導師「それを強引に捻曲げるのだ。当然、生じる問題は多い」

魔導師「最悪の場合、記憶や経験を少なからず……いや、大幅に失うことになるかもしれん」

魔導師「何者であるかも分からない状態に陥る場合もある。治療法はあるが、相応の時間を要する」

魔導師「お前の決断が、完全に裏目に出るかもしれんのだ」

魔導師「それでもよいのだな?」

勇者「構いません」

勇者「僕は失うために来たのではなく、得るために来たのです」

勇者「僕は、僕の意志を信じます。決して、間違いではないと」


魔導師「(誠実、頑固、愚直、清廉……)」

魔導師「(剣士よ、よくぞ育てた。お主の目指した姿、理想が、今此処にいる)」

勇者「魔導師様……どうか、お願いします」

魔導師「いいだろう。あぁ、替えの服はあるか?」

勇者「はい、着替えなら持って来ました」

魔導師「その体の着替えではなく、施術を終えた後の着替えだ」

魔導師「……その様子だと失念していたようだな。精霊、敢えて黙っていたな?」

精霊「それくらい自分で用意しなきゃ駄目よ。私はこの子の母親じゃないのだから」

精霊「私に頼るのを前提として考えているなら、さっさと考えを改めなさい」


勇者「頼りにはしてる。それは認めるよ」

勇者「戦闘の時は助かってるし、悩んだ時は色々教えてくれてる。ありがとう」

勇者「ただ、着替えについては僕が忘れていただけだ」

勇者「第一、君が着替えのことを言わなかったことに対して一切批難する気はない」

勇者「最後に、君を母親だなんて思ってない。これでいい?」

精霊「そうね、素直にお礼を言えるようになったことは褒めてあげるわ」

勇者「君に褒められると鳥肌が立つからやめてくれる?」

勇者「あぁ…何だか嫌な予感がしてきた」


精霊「ハァ…はいはい、これだから子供は……」

勇者「お年寄りは気苦労が多くて大変らしいね。大丈夫?」

精霊「飴玉でも買ってくる? それとも哺乳瓶がいいかしら?」

勇者「そうだね」

勇者「ああ、ついでに君のおむつも買ってきたらどうかな?」

魔導師「……お前達は、いつもそんな感じなのか?」

勇者「昔から意地悪なんだ」

精霊「昔はこの子も可愛かったわ」

魔導師「ハァ…もうよい、着替えは用意してやる。少し待っていろ」カツンッ

トコトコ…


勇者「……精霊、皆を説得してくれてありがとう。僕だけじゃ無理だった」

精霊「皆、あなたを心配しているのよ。反対されても仕方がないわ」

精霊「私はあなたの気持ちを伝えただけ、お礼なんていいのよ」

勇者「それでもだよ。本当にありがとう」ニコッ

精霊「……勇者、あなたは今から魔術によって成長を無理矢理に促進させる」

精霊「激痛を伴うのは間違いないわ。一分が数時間に感じるほどの激痛に……」

精霊「あなたの人格にすら影響を及ぼす可能性も大いにあり得る」

精霊「でも、あなたなら出来る。どうか、無事に戻ってきて」


勇者「……精霊、今の僕を忘れないでくれ」

精霊「ええ、忘れないわ。忘れたくても無理よ」フフッ

魔導師「陣の準備は出来た。さあ、付いてこい」

精霊「私は、ここで待ってるわ」

勇者「ああ、分かった。じゃあ、行ってくるよ」


ザッ…ザッ…ザッ…


精霊「勇者、ごめんなさい」

精霊「私、あなたの苦しむ姿なんて見ていられない。きっと陣を止めてしまう」

精霊「まだ子供だというのに、あなたは我が儘より先に……」

精霊「自分を犠牲にすることを、先に覚えてしまった……」

ポタッ…ポタッ…

精霊「勇者の言う通り、年を取ったのかしら」

精霊「こんなもの、とうの昔に涸れ果てたと思っていたのに……」


魔導師「着替えも済んだ。陣・拘束共に準備完了」

勇者「服が、ぶかぶかだ」

魔導師「終わる頃には馴染んでいるさ。用意はいいか?」

勇者「はい、お願いします」

魔導師「では、陣を起動する。耐えろよ」スッ

バヂッ!

勇者「うっ…ぅ…」


バヂンッ…カッ! ガヂヂヂヂヂヂ!


勇者「がああああああああああああッ!!! ガッ!ごァァァァァァッ!!!」

勇者「ぐッガッああああアアアアア!!! オアアアアアッ!!!」

魔導師「予想以上に魔力への耐性が強い!これ以上は……!!」


勇者「ト…めルな」

魔導師「この大馬鹿者めが!!」

魔導師「勇者!先を見ろ!! 施術は諦めるんだ!こんなところで終わる気か!?」

勇者「大…丈夫ダ…コノまま、つづ…け…ルんだ……」

勇者「ぼくハ、ボくは…僕は……勇者だ」

魔導師「…っ!! 分かった、いいだろう。私はお前の意志を尊重する」

魔導師「私が、最後まで見届けてやる」


バヂンッ…バヂンッ!バヂヂヂヂヂヂヂッ…


勇者「ウアアアアアアオアアァァ!!!ガアアアウアアアアア!!!」

魔導師「(何という精神力、何という信念。まるで煮え滾るような魂の熱を感じる……)」

魔導師「(まだ十二の、こんな小僧が、命を賭している。これが、勇者か……)」


勇者「(死んでたまるか死んでたまるか死んでたまるか死んでたまるか)」

勇者「(生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる)

勇者「(僕は俺は僕は……)」



ガッアアアアアアアアア!!! ギャアアアアアア!!!




精霊「……………」ギュッ

精霊「お願いします、どうか彼を……」


魔導師「陣・拘束、解除…」

勇者「」ドサッ

魔導師「勇者、起きろ……」

魔導師「くっ…精霊!今すぐこっちに来い!!」

精霊「終わったの!?」ヒュン

魔導師「ああ、終了した。後は目を覚ますか否か……」

精霊「勇者、起きて!起きなさい!!」

勇者「……」ズリッ

精霊「勇者…!?」


勇者「ハッ…アァァ…?」

精霊「……そんな、こんなこと…」

魔導師「死の危険すらあった」

魔導師「だが勇者が続行を望んだ。激痛に耐えながら訴えのだ」

魔導師「恨むなら恨め、私は恨まれて当然のことをした」

精霊「……恨みはしないわ」

精霊「だって勇者が望んだことだもの……とにかく、早く治療しないと」

魔導師「ああ、今すぐ治療を開始する」スッ


精霊「望みは」

魔導師「助かる。だが記憶や思考能力、諸々を回復するとなると、数年はかかるだろう」

精霊「どれだけ時間が掛かっても構わないわ。勇者が助かるなら、それでいい」

魔導師「取り敢えず応急処置は済ませて眠らせた」

魔女が「精霊、ここに書いてある薬草を頼む。辺りの森林にある」

魔導師「私は街へ行き、薬品を補充してくる。今ある分では到底足りん」

精霊「分かったわ」ヒュン

魔導師「死なせてたまるか」

魔導師「勇者……私は、お前が示した意志を死なせはしない」

魔導師「何年掛かろうと………」カツンッ

ザッ…ザッ…ザッ……


夕方 魔導師の洞窟

魔女「…ふーっ…よしっ。せんせー!!」

シーン…

魔女「あれ? どうしたんだろう? いないのかな?」トコトコ

魔女「誰かが来た形跡がある。今まで誰も入れたことないのに……?」

勇者「…スー…スー…スー…」

魔女「男? まさか死んで…あっ、寝てるだけか。なーんだ……ほっとこ」

魔女「まさか先生が連れ込んだとか? いやいや、ないない」

魔女「んー、先生はどこに行ったんだろう?」トコトコ


ヒタヒタ…ヒタヒタ…


魔女「ヒッ…先生…?」クルッ

淫魔「今晩はお嬢ちゃん。こんな洞窟で一人ぼっちかい?」


淫魔「可哀想にねえ、俺が慰めてやるよ」スッ

魔女「くっ…うぅっ…なっ…」グラッ

淫魔「またまたぁ、分かってるクセに……どうだ、疼くだろ?」

淫魔「さあ、素直になりなよ」ニコッ

魔女「(こいつ、淫魔だ。何で、よりによって一番嫌いな……まだなの、早くっ…)」クラッ

淫魔「あら? 体が変わらない、これじゃ醜いままじゃないか」

淫魔「好きな男とかいないのかな? ん? あー、なる程ね」

魔女「…ハァ…ハァ…ハァ…?」

淫魔「君、小さい頃に犯されたんだ。それは、こんな男かな?」ズズ


淫魔「あら、俺と負けず劣らず醜い姿だね」

魔女「ヒッ…やめ…て」

淫魔「君は今から犯される。また、同じ男にね」

淫魔「でも、それだけ火照っていれば同意の上の行為だよ。違う?」ザッ

魔女「やめて…来ないで……たすけて」

淫魔「やめないよ。こんないい女を抱かなきゃ失礼ってもんだろう?」ガシッ

淫魔「それに、もうこんなに感じてる。おや、お漏らしかい?」

魔女「ヒッ…イヤだよ、おとうさん、おかあさん…いや、いやだ」


淫魔「うるさいなぁ」ビリッ

淫魔「へー、着痩せするタイプなのか」

淫魔「ますますいいね。好みの体、好みの女だ」

魔女「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ…」

淫魔「いいねー、その怯えてる感じ」

淫魔「頭は過去にぶっ飛んでるけど、楽しめればいいや」

淫魔「ほら、こんなに濡れてるよ。ぬちゃぬちゃしてるの分かるかな?」

魔女「わかんない、やめて…こわい……」


淫魔「ほーら、怖くないよ?」スッ

魔女「あっ…はっ…ンッ…」ビクッ

淫魔「ようやく効いてきたね。さあ、一緒に気持ち良くなろう」

魔女「……ぅん…きもちよく、して?」

魔女「いっぱい、いっぱい…きもちよくして…おねがい…はやく……」

淫魔「犯された女が自分から誘ってくるなんて最高だよ。君は可愛いね」

淫魔「ほら、どうだい? 痛くない?」

魔女「ゆび、きもちいい…ねぇ…もっとして…もっとぉ…」

淫魔「元々、淫乱な女だったのかな? 自分から腰振っちゃって」

淫魔「こっちは随分溜まってるから、ゆっくりじっくり……楽しもうね?」


淫魔「さて、そろそろ……」

魔女「…うん…」

魔女「………なんて言うわけあるか下衆が!! 炎、穢れを焼き尽くせ!!」カッ


ボウッ! ジュッ!


淫魔「ヒギャアアアア!! 燃えた!俺の、俺のモノがァァァ!!」

淫魔「何で? 何故、魅了にかかってない!?」

淫魔「いや、そんなはずは……まさか、術を破ったのか!?」

淫魔「お前みたいな女が!! お前みたいな脆い魔術師が!何故破れる!!」

魔女「黙れ。私は魔女、偉大なる魔導師の弟子だ」

魔女「本で見た瞬間から、あんたが大嫌いだった。殺したいくらいに……」

魔女「だから、淫魔に襲われた時の対策だけはしっかりとってた」

魔女「発動するまで時間が掛かったけど、間に合って良かったよ。これで、心置きなく殺せる」


淫魔「ヒッ!?」

魔女「私が脆いって言ったよね?」

魔女「そんなの、言われるまでもなく知ってるよ」

魔女「この変態野郎、私の体を汚い手で触りやがって……風、切り刻め」カッ


ザシュザシュッ!


淫魔「はぎゃあああ!!」

魔女「人の過去を覗いて、散々弄った挙げ句に犯すって?」 

魔女「濡れる? 同意の上? 一緒に気持ち良くなろう? 気持ちいいか?」

魔女「なわけあるか!ふざけんな!!」


淫魔「ハァ…ヒッ…ヒィィッ!!!」ズリズリ

魔女「氷、牢獄」カッ

ビキッ…ビキッビキッ!

淫魔「ヒッ…足が…待って、やめろっ!たすけ

魔女「そう言った女を助けたの!? お前は女に何をしたッ!!!」

淫魔「もうしない!この通りのザマだ!」

淫魔「焼け落ちて何も出来やしない! だから頼む!頼むから見逃してくれ!!」

淫魔「俺なんて下級の下級なんだ!手柄にはならない!!あの方に…」


魔女「もういいよ」

淫魔「え…」

魔女「もういいって言ったんだ!」

魔女「お前の見苦しい言い訳なんか、命乞いなんか聞きたくない!!」

魔女「見逃す!? お前みたいな女の敵を生かしておけるか!!」

魔女「一切合切!塵も欠片も残さないッ!! 私の前から砕けて消えろッ!!」カッ


バギンッ!


魔女「…ハァ…ハァ…ハァ…」ブルッ

魔女「あっ…そういえば全裸だった。早く服着なきゃ……クシュッ…ズビー…」


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魔女「まだ帰ってこない……」チラッ

勇者「…スー…スー…スー…」

魔女「同い年くらいかな? 男なんて皆寝てればいいのに」ハァ

魔女「……怪我してる。火傷…じゃあないよね。魔術による怪我みたいだけど、何だろ?」

魔女「一応、治してあげよう。先生が入れたなら悪い人じゃないだろうし」

魔女「まずは状態確認、だったよね」サッ

魔女「な、何これ、こんな魔力を浴びて生きてるなんてあり得ない」

魔女「取り敢えず残存した魔力を取り除かなきゃ、このままじゃ危険過ぎる!」スッ


勇者「…スー…スー…」ドクンッ

ドクンッ…ドクンッ…スッ…

魔女「えっ…えっ!? なんで? 小っちゃ…」

勇者「…んっ? あっ…痛っ…」

魔女「だ、大丈夫?」

勇者「僕は大丈夫。あの、魔導師さんは?」

魔女「先生なら出かけたみたい。君は誰?」

勇者「僕は勇者、君は?」

魔女「……あんたが盗賊?」

勇者「えっ? なんで盗賊が出てくるの?」

魔女「じゃあ本物の勇者なの!? こんなちびっ子が!?」


勇者「ちびっ子? 僕は小さいままなの?」

魔女「えっ? うーん、ちょっと違うかな。さっきまでは私と同い年くらいだった」

魔女「けど、死にかけてたから魔力を取り除いたんだ。そしたら……」

勇者「小さくなってたの?」

魔女「そう、本当に危険な状態だったんだから感謝しなさい」フフン

勇者「あ、うん。ありがとう……」

魔女「どうしたの?」

勇者「僕は魔術で成長を早めるために、魔導師さんを尋ねて来たんだ」

勇者「この体のままじゃ、奴等とは渡り合えないから……」


魔女「(だから、あんなに多量の魔力を……でも、確か勇者には魔力に耐性があったはず)」

魔女「(私みたいな人間と違って、凄まじい痛みが生じる。それを、この子は耐えた?)」

魔女「(まだ十歳くらいなのに、そこまでして……)」

勇者「君、魔導師さんの弟子なんでしょ?」

魔女「へっ!? あ、うん。そうだよ?」

勇者「追い出されたみたいだけど、何で? 喧嘩でもしたの?」

魔女「憎しみを捨てろって……」

魔女「あっ、君みたいなちびっ子に話しても分からないよね。ごめん」

勇者「憎しみを捨てるのは無理だ。捨てるんじゃなくて、場所を移すんだ」

勇者「君は馬鹿にしてるわけじゃなく、本気で子供扱いしたからね。特別に怒らないであげる」


魔女「………へっ?」

勇者「沢山の箱には、沢山の想いが入ってる。憎しみが入ってる箱だけを別の場所に移すんだ」

勇者「僕はそうしてる。憎しみは焦りに、焦りは隙を生む、お師匠様の言葉さ」

魔女「はぁー、なるほど」

勇者「いつも優しい気持ちでいられたら、誰にも負けない」

勇者「強さとは、人とは?」

魔女「わ、分かりません」

勇者「ははっ、答えは自由だよ」

勇者「自分、他人、愛、世界、破壊、地位、名声……どれを選ぶも自由なんだ」


勇者「強さの質、人間の質は、それで決まる」

魔女「……自由」

勇者「力を求める人は考えすぎる。もっと楽に、自由に……」

魔女「へーっ、ちびっ子なのに凄いね。本当に勇者なんだ?」

勇者「うん、嘘はつかないか…ぐっ…」

魔女「大丈夫!?」

勇者「体が、おかしい…戻ったはずじゃ…」バヂッ

魔女「えっ!? そんなっ、まだ魔力が残ってる!?」


勇者「離れろ!!」

魔女「え…でも…」

勇者「いいから離れろ!早く!! ぐっ…がっ…」

勇者「ウアアアアアアオアアァァ!!!ガアアアウアアアアア!!!」

魔女「そんなっ…無理だよ、こんなの耐えられるはずない!!」

魔女「私のせいだ。私が、余計なことしたからだ……」

勇者「がああああああああああああッ!!!ガッ!ごァァァァァァッ!!!」

魔女「でも、魔力の供給はどこから……!! あの陣が起動してるんだ」

魔女「……先生が作った陣。私に破壊するのは無理だ。だったら……」

魔女「私が魔力を横取りすれば痛みは弱まる。それしか方法は……ないっ!!」ギュッ


バヂンッ!バヂヂヂヂヂッ!

魔女「くっ…キツい」

魔女「これ以上の圧に、耐え…てるの? 凄いね君…は…」

魔女「こんなの…一人じゃ無理…だよ……勇者だか何だか知らないけど……」

魔女「子供は、大人に、頼るもんでしょうが……?」


僕は勇者だから。

お兄ちゃんに会いたい。

強くなるんだ。僕は怪物なの?

誰か、僕を見てよ。

勇者じゃない、僕自身を見てよ。

誰か、助けて。

一人ぼっちは嫌だ。

優しい人になりたい。

僕は何? ねえ、誰か教えてよ。

お母さん、僕、お父さんに会いたい。

勇者だから、お父さんもお兄ちゃんも、いなくなったのかな……


魔女「……ッ!!」

魔女「頑張れ!君は一人なんかじゃない!! 怪物でも勇者でもない!!」ギュッ

魔女「どこにでもいる、ただのちびっ子なんだ!! だから、だから頑張れ!!」

勇者「がああああああああああああッ!!!ガッ!ごァァァァァァッ!!!」

魔女「お願い!生きて! 死んじゃダメだよ!!」

魔女「……弱い気持ちに! 弱い自分に負けるな!!!」

勇者「ぐッガッああああアアアアア!!!オアアアアアッ!!!」

魔女「もっと魔力をこっちに……もっと、もっともっともっと!!」ゴッ

バヂッ!

勇者「…ハッ…ハッ…ハァ…ハァ……」

魔女「がきんちょが、格好付けんな。体だけ大きくなっても、ダメでしょ」

魔女「でも、生きてて良かった。背、伸びてるよ?」


勇者「……………」

魔女「どうしたの?」

勇者「いや、記憶も何もかも無事だから。正直、驚いてるんだ」

勇者「記憶や経験、自分が何者であるのかさえ、全て失うかもしれない。そう言われてたから」

魔女「(この子、馬鹿なのかな? 普通する?しないよね?)」

勇者「ありがとう。声、聞こえてたよ」ニコッ

魔女「気にしないでいいよ。半分は自分に言ってたようなものだから」


勇者「そっか、体は大丈夫?」

魔女「…………」

勇者「えっ、なに?」

魔女「私、子供は平気だけど男は大嫌いなんだよね。絶滅すべきだと思ってる」

魔女「急に同い年みたいな男が出てきたから、嫌悪感が半端じゃない。去勢したら?」

勇者「去勢……」

魔女「なんか声も変わってるし、ちびっ子の方が百倍良かったよ」

勇者「あー、君って……そうなんだね」


魔女「なに、その顔。腹立つなぁ」

勇者「子供にしか欲情しないんでしょ? もしかして痴女?」

魔女「なわけあるか!! ふざけんな!!」

勇者「ははっ、元気そうで良かった」

勇者「……もう行っていいよ? 嫌われるのは慣れてるから」

魔女「……本当は寂しいくせに」ボソッ

勇者「?」

魔女「私、疲れてるから部屋に戻る。じゃあね」クルッ

勇者「ありがとう。魔導師さんと仲直り出来るといいね」


魔女「うっさい、ちびっ子は黙って寝ろ」

勇者「そうだね……うん、そうするよ。お休みなさい」

魔女「……………お休み」

トコトコ…

勇者「ありがとう、助けてくれて……」ボソッ

魔女「何かあったら叫べ、先生のお客だから助けてやらんでもない」

勇者「無理しなくていいよ。男嫌いが本当なのは分かるから」

魔女「人の厚意は素直に受け取れ!がきんちょが無理するな!!」

魔女「分かったなら返事しなさい!!」

勇者「……はい、分かりました」

魔女「最初からそう言えばいいの!じゃあね!!」

勇者「優しい女の人もいるんだ……王女様以外で初めて会ったかもしれない」

勇者「あっ…ペンダント……」パカッ

勇者「はぁー、無事で良かった……お休みなさい」

寝ます、また明日。

必要だっとはいえ、淫魔みたいなやつは書きたくなかった。
不快に感じた方、申し訳ありません。


翌朝

勇者「魔神族の魔力と人間の魔力。名称は同じだが性質は大きく異なる」

勇者「第一に挙げられるのは濃度の違い」

勇者「次に挙げられるのは体内魔力の仕組みである」

勇者「魔神族は体内だけでなく、体外にも常に一定の魔力を放出している。いわば魔力の集合体なのだ」

勇者「人間と同じく内臓はあるが、それらを機能させているものも魔力である」

勇者「人間にとっての血液に近い、生存に必須なものではないかと考えられる」

勇者「心臓(核と呼称される)が魔力を生み出す限り、魔神族は不死であると言ってよいだろう」

勇者「対して、人間は己の魔力だけでなく、自然界を漂う膨大な魔力(元素とも呼ばれる)を使用する」


勇者「己の魔力と自然界の魔力」

勇者「この二つを組み合わせなければ魔術は使用出来ない」

勇者「これが、人間の生み出す魔力・魔術の基本的な仕組みである」

勇者「魔神族は魔力を自己生成するが、人間は自己だけでは生成出来ないのだ」

勇者「また、自然界の魔力であれば魔力に耐性のある人間(完全)にも難なく馴染む」

勇者「そのため、魔術師は人間(完全)にとても役立ったとされる」

勇者「治癒力が高いとはいえ、彼等も人間には違いない、傷を負えば血を流す」

勇者「その場合、魔術師による早急な処置が必要である……」ペラッ

勇者「自然界の魔力が耐性を貫通するものと推測されるが、未だ解明されていない部分も……?」


勇者「追記?」

勇者「原液では飲めないが、水で割れば飲める。魔力とは酒のようなもなのだ」

勇者「自然界の魔力を水だと考えればよい。洗浄や中和とも言える」

勇者「或いは絵画。人間は紙であり、元素は絵の具といった具合だ……なるほど」ペラッ

魔女「……あのさ、読書するのは勝手だけど、なんで私の部屋にいるわけ?」

勇者「魔導師さんに頼まれたんだ。弟子の様子を見てくれないかって」

勇者「陣の魔力を取り込み過ぎたのが原因だから、僕にも責任がある」

勇者「この本に書いていたように、あの陣は原液に限りなく近いらしいんだ」

勇者「人間でもかなりの痛みを伴う」

魔女「それより、先生は淫魔のことについて何か言ってなかった?」

魔女「あいつは何の気配もなく、急に背後に現れた。前兆もなかったし……」


勇者「君が倒した淫魔は、何者かに使役されていた可能性がある」

勇者「使役者は召喚術士じゃないかって、魔導師さんは推測してる」

勇者「場所を指定して、下位の魔神族を偵察に向かわせたのではないか、とも言ってた」

勇者「それと、僕の術後経過も見たいらしい」

魔女「ふーん。聞きたいことは聞いたし、もう出てってよ。気持ち悪い」

勇者「なんで?」

魔女「イライラするから聞かないで、男なんてどうせ

勇者「体ばかり見てると思ってるなら間違いだ」

勇者「それと、誰もが君を性的な目で見ていると思ってるなら、自意識過剰だよ」


勇者「君をどうこうする気は一切ない。これっぽっちも、微塵もない」

勇者「君より魅力的な女性を知ってる。だから安心していいよ?」ニコッ

魔女「……腹が立つ言い方するね」

勇者「僕を嫌いな人には嫌われる。僕を好きな人には好かれたい」

勇者「君は僕が嫌い。じゃあ、僕が何を言ってもいいだろ? 君は僕が嫌いなんだから」

魔女「……あのさ」

勇者「悪口の言い合いならしない。そういうの嫌いだから」

勇者「黙れって言うなら黙ってる。ああ、この場から離れる気はないから。じゃあ、お休み」ペラッ


魔女「…っ!! 違うよ!そんなこと言ってないでしょ!?」

勇者「じゃあ、なに?」パタンッ

魔女「昨日の夜、部屋に戻る途中で私が倒れたでしょ?」

魔女「だから…その、運んでくれてありがと……借り作るの嫌だから、一応お礼だけ言っとく」

勇者「君は僕を助けてくれた恩人だから、お礼なんていいよ」

勇者「……それよりさ、魔導師さんが君を褒めてたよ?」

魔女「へっ? 先生が!本当に!?」

勇者「うん。自分の身を顧みず、他人を救った。こやつも成長したのだな、だってさ」


勇者「あと、帰ってきて安心したって……」

勇者「言うなって言われたけど、約束したわけじゃないから言ってみた」

魔女「フフッ、なにそれ?」

勇者「君には少しでも早く元気になって欲しいんだ。だから言っただけ」

魔女「……………」

勇者「あのさ、もう一つ頼まれてることがあるんたけど、断った」

魔女「なに頼まれたの?」

勇者「男嫌いを治せとは言わんが、男性に対する態度を軟化させて欲しい……だって」


魔女「そんなの……」

勇者「そんなの無理ですって言っといた。人には好き嫌いがあるから」

魔女「そうだね。でも、私は男嫌いっていうか、その……怖いんだよね」

勇者「知ってる。聞いたから」

魔女「……………」ギュッ

勇者「ごめん。知らない振りをして話すのは大嫌いなんだ」

魔女「そこら辺が、がきんちょだね。少しは気を遣ってよ」

勇者「嘘吐きながら優しくするの? 無理無理、そんな器用なこと出来ない」

魔女「あのさ、真っ直ぐなのが、つらい時ってない?」

勇者「ない。ぶつかるなら、ぶつかるべきだ。誠実に、真剣にぶつかるべきなんだ」

魔女「(真面目過ぎでしょ、いい子ちゃんか、お前は……でも、まあ、確かにそうかも)」


勇者「それで? 今も怖いの?」

魔女「えっ…うん、そりゃ怖いよ」

魔女「受けた傷は消えない、心からも体からもね」

魔女「情けない話し、淫魔があの男に化けた時、震えが止まらなかった」

魔女「過去の出来事が流れ込んできたんだ。まるで、その瞬間に戻ったみたいに……」

魔女「今なら怖れず戦えると思ってたのに、やっぱり震えた」

魔女「何とか倒せたし、少しは前に進めたと思う。でも、そう簡単には消えないみたい」

勇者「あのさ、男の僕が言えたことじゃないけど、今は大丈夫だよ」

魔女「口では何とでも言えるよね。あんただって、魔が差すかもよ?」


勇者「やめろよ」

勇者「乱暴なんて、そんな酷いことは絶対にしない。そんな奴は男じゃない」

勇者「君が言った通り、去勢すべきなんだ。なんだか苛々してきたな」

魔女「えっ…?」

勇者「想像してみなよ、自分の大好きな人が乱暴されるんだ」

勇者「冷静でいられるか?」

勇者「馬鹿な、我慢出来るわけがない。正直、何をするか分からない」

魔女「高潔で誠実な勇者様なのに?」

勇者「関係ないね。そんな奴は絶対に許さない、誰に何を言われようと構わない」

勇者「悪を裁いたことで悪に堕ちるというなら、それでもいい。僕は僕だ」


勇者「あのさ、人を救うために人を殺す。これは悪だと思う?」


魔女「!?」

勇者「もし、君が乱暴されてる現場を目撃したら、僕はそうするかもしれない」

勇者「救いを求める人が目の前にいるなら、喜んで手を下す」

勇者「この手がどれだけ汚れようと、そんなのは構わない。僕が罪を背負うだけだから」

勇者「それに、そうしなければ救えない時もあるはずだ。綺麗事だけじゃ、悪は裁けない」

魔女「……西部国境付近の街の神父様も、同じようなこと言ってた。もしかして知り合い?」

勇者「いや、会ったことないと思う」

勇者「でも、そんなこと言う神父さんがいるんだ」

勇者「なんか盗賊…僕の友達みたい考え方をする人だね」


魔女「えっ?」

勇者「盗賊は、僕が小さい頃に南部で友達になった男の子なんだ」

勇者「犯罪に手を染めなければ生活出来ない、酷く貧しい暮らしをしてた」

勇者「盗賊は赤髪なんだ……迫害されて、街に置き去りにされたんだって」

勇者「悪いことしてるって分かってて、悪いことするんだ。生きるために」

勇者「本当に、そうするしかないんだ。この目で直接見たから分かる」

勇者「盗賊が言ってた」

勇者「これでしか生きていけねえんだから、やるしかねえだろ」


勇者「殺してでも生き延びる」

勇者「殺されてたまるか。殺されそうになった時、正義とか悪とか考えるか?」

勇者「そこには正義も悪もねえんだ。生きるか、死ぬかだ」

勇者「悪人殺して何が悪い、悪人から奪って何が悪い。奴等なんざ、不幸になって当然なんだ」

勇者「死んで喜ばれるような奴は大勢いる。俺も、その一人だけどさ……」

勇者「これを聞いた時は衝撃的だった」

勇者「こんな生き方してる人がいるなんて、知らなかったから」

魔女「……で、盗賊の考えが正しいって言いたいわけ?」

魔女「迫害されたから可哀想? 貧しいなら殺人も仕方ない? ふざけんな!!」

魔女「被害者が、残された人間がどんな気持ちかも知らないくせに!!」


勇者「……殺人は紛れもない悪だ」

勇者「君の立場になれば許し難い犯罪者だろうね」

勇者「でも盗賊の立場になって考えると、そうは言えない」

勇者「答えなんてない」

勇者「善悪の区別なんて、その時々で簡単に変わる。だから、自分で正しい道を探すしかない」

魔女「……………」ジー

勇者「なに? 怒らせちゃった?」

魔女「納得はしてないけど、理解は出来なくもない」

勇者「じゃあ、なに? すっごい見てるけど」


魔女「なんかさ……昨日と雰囲気違うよね」

魔女「体が変わったとか、そんなんじゃなくて、もっとこう……全体的な印象?」

勇者「そうかもね、あの施術は精神や人格にまで作用するみたいだから」

勇者「ちょっとは中身も変わったのかもしれない」

魔女「(怖くないのかな、自分が違う人間になる可能性もあるのに……)」

勇者「あのさ、今から意地悪な言い方するけど、君が自分を守るために犯罪者を殺したとする」

勇者「君が殺した人の家族が、仇だと言って襲い掛かって来たら?」

魔女「………それは…」

勇者「ほら、結局どう考えたって答えは出ない、回り回るだけだ」

勇者「想いは巡る……憎しみも怒りも、愛や友情も、全て同じように」


勇者「だから、僕は好きな人には好きだと分かるようにする」

勇者「包み隠さず、言葉だけじゃなく行動に移して、好きだと伝える」

勇者「嫌いな人は隅っこに置いて、好きな人だけを考えるんだ」

勇者「どうしたら喜ぶか、どうしたら笑ってくれるか、とかね」

勇者「だからさ、嫌な奴考えるのはやめようよ。せっかく、好きな人と一緒に住んでるんだからさ」

魔女「……本当に盗賊と友達なんだね。似てるよ、凄く」

勇者「そうかな?」

魔女「私、あいつに救われたのか。悔しいな……」

勇者「?」

魔女「ねえ勇者、西部の勇者の正体は盗賊だって、先生に聞いた?」


勇者「うん、さっき魔導師さんに聞いたよ。それがどうかしたの?」

魔女「私、犯罪者が勇者だなんて呼ばれてるのが許せなくて、盗賊を殺しに行ったんだ」

魔女「でも、何処にもいなくてさ……」

魔女「溜まってた苛々とか、もやもやした気持ちを吐き出したいから、神父様に懺悔したの」

魔女「その神父様は、あんたと同じようなこと言ってた。それで、今になって気付いた」

魔女「あの時の神父様が盗賊だったんだって……」

勇者「そっか……神父さんは、どういう人だった?」

魔女「面白くて、過激なことも平気で言う、優しい人だった」

勇者「盗賊もそんな感じだよ? きっといつも通りに会話してたはずだ」

魔女「だろうね。あんた達、裏表あるような人間じゃなさそうだから」


勇者「……ちょっとだけ、盗賊のこと分かってくれた?」

魔女「ちょっと、ほんのちょっと、ね」

勇者「本当!? なら良かったよ!!」

勇者「命の恩人が友達を分かってくれて、本当に良かった」ウン

魔女「フフッ、やっぱり変わってないかもね。まだまだ、がきんちょだ……」

勇者「なんでもいいよ。少しでも魔女が楽になれたなら、それでいい」

魔女「……急に名前呼んで、優しくして、もしかして口説いてる?」

勇者「いや、そんなつもりないけど……」

魔女「どうする?どうする? あんたに惚れちゃうかもよ?」


勇者「どうせ嘘でしょ?」

勇者「魔導師さんにも、一晩どうだとか、からかわれるし……」

勇者「僕はそういうの苦手なんだ。だから、あんまりからかわないでくれるかな」

魔女「ほー、そうなんだ。勇者ってだけで得してる奴かと思ってた」

勇者「勇者だから嫌われたことならある。でも、僕が好きだって言ってくれる人もいる」

魔女「へー、がきんちょなのに恋人いるんだ。生意気だねえ」

勇者「好きだけど恋人じゃない。がきんちょにだって、色々あるんだ」

勇者「僕といると危険だから、離れないと彼女まで奴等に狙われる」

勇者「離れるだけで彼女が無事なら、僕はそれでいい。大切な人がいなくなるのは、もう沢山だ」


魔女「分かるよ……」

魔女「いや、ちょっと違うか。それは知ってる」

魔女「お父さんと、お兄さんでしょ?」

勇者「えっ!?」

魔女「昨日、魔力で繋がった時に少し見えた」

勇者「……そうなんだ」

魔女「あんたは、勇者は優しいよ。今だって、嫌いな相手と一緒にいるんだから」

勇者「嫌いだなんて言ってないよ」

勇者「さっきみたいに、男だからって言われるのが嫌なだけで、嫌いじゃない」

魔女「何でもかんでも、馬鹿みたいにはっきり言っちゃって……」

魔女「取り敢えず、男とかは置いといて、そういうとこは気に入ったよ」ニコッ


勇者「あ、もしかして口説いてる?」

魔女「あははっ!確かにそうかもね! そう、見えるかもね……」

魔女「勇者様に、一つ質問があります」

勇者「はい、どうぞ?」

魔女「愛する人が過去に乱暴されてるのを知ったら、勇者様は逃げますか?」

勇者「受け入れる」

勇者「痛みも悲しみも、言い出せなかった苦しさも全部受け入れて、全部抱き締めてみせる」

勇者「愛する人から背を向けて逃げるなんて出来ない。どんな傷を負っていても……」

勇者「痛み苦しみを忘れさせることは出来なくても、一緒に幸せになることは出来る」


魔女「そういう男の人、いる?」

勇者「いる。絶対いる」

勇者「嫌な思い出なんか、この先に待ってる沢山の幸せで包めばいい」

勇者「魔女だって幸せになれる。いや、ならなきゃ駄目だよ」ウン

魔女「先にある、沢山の、幸せ……」

勇者「あっ…そろそろ昼だね。お昼ご飯持ってくるから、ちょっと待ってて」


ガチャッ…パタンッ


魔女「幸せか、考えたことないや」

魔女「家族とか友達……恋人…とか? 普通のこと、なんだよね」


魔女「(あんな奴ともっと早く出逢えてたら、私も今と違ってて、男と普通に会話したりしてたのかな?)」

魔女「(あくまで、かもしれないの話しだけど……異性を想うって、どんな気持ちなんだろう)」

魔女「(わくわくしたり、どきどきしたり? 好きだよ、愛してるよ、とか?)」

魔女「(うわっ、気持ち悪っ…やっぱり言葉じゃなく行動に移すべきだよね。男も、女も……)」

魔女「(いつか、そんな時が来るのかな? 想像出来ないや)」



精霊「ふふっ、随分呆気ないわね」

精霊「これが、今の勇者の実力。あの程度の小娘なんて余裕よ」

魔導師「我が弟子が、よもやあんな顔を見せる日が来るとは、信じられん……」

精霊「あのね、洞窟から滅多に出さず、異性からずっと遠ざけてたらああなるわよ」

精霊「だから、あの娘は男の嫌な部分だけしか見ない、偏った考えを持ったんじゃないかしら?」


魔導師「私に責任があるのは認めるが、そちらの勇者はどうなんだ?」

魔導師「あのような、歯の浮くような台詞を次々と口にして……あれでは女誑しではないか」

魔導師「あんな風では、同性に嫌われるぞ?」

精霊「関係ないんじゃないかしら?」

精霊「男だろうが女だろうが、好きな人と仲良くなれるなら何でもいいのよ」

精霊「おたくのお弟子さん。魔女は、勇者の命の恩人」

精霊「だけど、それがなくても友達になりたいと思ったんじゃないかしら」

精霊「嫌われてもいいなんて言っているけれど、あの子は寂しがり屋だから」

魔導師「そうだな。成長したとはいえ、中身は十二の小僧だ……」


魔導師「ああ、そうだった。もうじき剣の調整が終わるぞ」

魔導師「以前より精錬された、勇者の為だけの剣だ。必ず役に立つ」

精霊「おかしな機能とか付けてないでしょうね?」

魔導師「フフン、任意で二刀を一刀にする術式を施しておいた」

魔導師「一対多の戦闘で求められる速さだけでなく、一対一の戦闘、力を重視した型だ」

魔導師「今の体躯ならば容易に扱えるだろう」

精霊「……他には?」

魔導師「それは内緒だ。だが安心しろ、必ず役に立つ」ニヤッ


精霊「使い方くらい教えなさいよ」

魔導師「力を求めよ、さすれば援軍がやって来るであろう。それだけだ」

精霊「……………」

魔導師「おい、そんな目で私を見るな、魔術ではないし、痛みも伴わない便利なものだ」

魔導師「あの剣の術式に使ったのは勇者の血だ」

魔導師「よって、発動出来るのは勇者のみ。悪用される心配はない」

魔導師「何より、剣と勇者は血によって以前より強く繋がった。仕上がりは完璧と言える」ウム

精霊「ハァ…まあいいわ」

精霊「あの子に害がないなら、それで良しとしましょう」


勇者「はい、どうぞ」コトッ

魔女「なにこれ、あんたが作ったの?」

勇者「そうだよ? 二人は作業してるみたいだったから」

勇者「味は保障するよ。毎日毎日、お師匠様に作ってるから」

魔女「……じゃあ、いただきます」パクッ

魔女「少し、しょっぱいけど……うん、美味しい」

勇者「ごめん、お師匠様は味が濃いのが好きなんだ。もう少し抑えればよかったなぁ…」

魔女「その…ングッ…お師匠様って、どんな人?」モグモグ


勇者「……空に浮かぶ雲みたいな人、かな」

勇者「捉え所がなくて、ふわふわしてて、柔らかいんだけど、凄く強い」

勇者「剣を握った時も普段と変わらないんだ。ただ、そこにいるみたいな」

勇者「まるで風景に溶け込んでるような……」

魔女「化け物みたいな人だね。普通じゃないよ」

勇者「えっ?」

魔女「人を殺す武器を手にしていながら、風景に溶け込むような人間なんていない」

魔女「きっと、その人にはそれが当たり前なんだよ。つまり、いつでも人を殺す準備が出来てる人間」

魔女「殺気漲るような人が可愛く見えるほどに、その人は強いんだろうね」

魔女「私は、あんたのお師匠様は異常だと思う。だって普通は、やるぞ!ってなるでしょ?」


勇者「……まあ、確かにそうかも」

勇者「でも、悪い人じゃないよ? それに、本気出したところなんて見たことないし」

勇者「本気になったら、凄く怖くなるかもしれないだろ?」

魔女「私はそうあって欲しいね。私があんたなら、いつ殺されるかビクビクしてると思う」

魔女「私の先生は、戦う時はそういう感じになる。その方がよくない?」

勇者「……唇についてる。食べながら話すからだよ」

魔女「はぁー、美味しかった!」グイッ

勇者「袖で拭うなよ、だらしないなぁ」

魔女「だらしなくても下品でも結構、私は魔術師だからね」


勇者「魔術にも常識くらいあるだろ」

魔女「うっさいな、私がいいんだからいいの!」

勇者「はいはい、好きにしたらいいよ」

魔女「……あのさ」

勇者「なに?」

魔女「拭うときとかって、ハンカチ使うの?」

勇者「まあ、人前ではそうするかな」

魔女「ふーん、じゃあハンカチ買ってよ」


勇者「は?」

魔女「だって、用が済んだら帰るんでしょ?」

勇者「……誤解を招くような言い方しないでくれる?」

魔女「いいじゃん、ハンカチくらい。せっかく来たんだから、思い出くらい置いてけ」

勇者「僕にはくれないんだ」

魔女「体大きくなったからいいでしょ?」

勇者「まあ、目的は果たしたからいいけどさ」

魔女「それに、ちょっと実験したいんだよね」


勇者「実験? なんの?」

魔女「男と街を歩いたら、どんな気持ちになるのか実験」

魔女「嗚呼、愛しの貴方と歩くと、この街並みも輝いて見えるわ……」

魔女「とか言う馬鹿女いるでしょ? だから、どんなもんかと思ってさ」

勇者「あのさ、成功するわけないよね? そもそも成功させる気ないでしょ?」

勇者「そんな実験やめた方がいいって、僕が行って買ってくる」

勇者「大体、体弱ってるんだから外出なんて許され

魔導師「別に構わんぞ?」

魔導師「それで少しでも異性への恐れや不信がなくなるなら、是非行くべきだ」

魔導師「勇者、剣の調整は完成した。ほら、受け取るがいい」


勇者「えっ…えっ? あ、はい」

魔女「……えっ、先生? いつから」

魔導師「その剣の使用については、この紙に書いてある。きちんと読め」

魔導師「弟子よ、楽しんでこい。男といっても中身は十二の小僧だ。怖がることはない」

魔導師「気に入った物を買ってもらえ、ハンカチでなくともよい、宝石だろうが何だろうがな」

魔導師「精霊曰く、金ならある…とのことだ。安心して高額なものを頼め」

魔導師「さあ、行くなら早くしろ。夕暮れまでには戻れ」

魔導師「勇者、気を付けろ……ではな」


ガチャッ…パタンッ……

魔女「転移術でも使ったのかな」

魔女「いや、でも話の流れを知ってたから姿を消してたとか?」

魔女「一体どうやって……」

勇者「何でこういう時は真面目なんだよ。で? 本当に行くの?」

勇者「十二歳の小僧でよければ行くけど」

魔女「……じゃあ、行く」

勇者「凄く嫌そうだけど、無理してない?」

魔女「男に怯えて魔術が使えない、なんて魔術師じゃないでしょ」

魔女「これは特訓であり、実験なのだよ」


勇者「はぁ、そうですか」

魔女「では、私に付いてこい、少年」

勇者「具合悪くなったら言ってよ? すぐに戻るから」

魔女「はいはい分かりました……うっさいなぁ」

勇者「(我が侭で面倒くさいんだな、女の人って……年上なのに、こうも違うのか)」

勇者「(財布預けた方が遙かに理にかなってるけど、まだ体調万全じゃないからなぁ)」

勇者「(やっぱり年上で、ちょっと控え目だけど意志の強い、お淑やかな人がいい)」

魔女「ほら行くよ! がきんちょ!」スタスタ

勇者「はい、あまり無理しないでね」トコトコ

勇者「(苦手じゃあないけど、もう少し言葉遣いとかさぁ、女性らしい行動をだね……)」

勇者「(あー、今はそういうの言わない方がいいんだっけ)」

勇者「(自分達は男らしくとか言うのに、女の人って難しい生き物だなぁ)」


>>>>

魔女「えーっと、次は…」

勇者「(もう五軒以上見て回ったのに、まだ決まらないのか)」

勇者「(女の人の買い物は長いぞって聞いたけど、本当だったんだ)」

勇者「(精霊以外と買い物したことないし、一人で出掛けるのも久しぶりだな)」

勇者「(実際には二人なんだけど、精霊がいないのは変な感じだ)」

魔女「…………」

勇者「(それにしても、入った店は見事なまでに女性店員が多い店ばかりだった)」

勇者「(疑ってたわけじゃないけど、本当に苦手なんだ。どうしようかな)」チラッ


魔女「………………」ジッ

勇者「なに? あの店に入りたいの?」

魔女「へっ? いやっ、別に?」

勇者「あれは……時計屋さんか、気になるなら行こうよ」

魔女「嫌だ」

勇者「あぁ、そっか…でも、行こう」

魔女「だから嫌だって…」

勇者「まず、店の前まで行ったら僕が店内を見る」

勇者「その後で店内の様子を伝えるから、大丈夫だと判断したら入ればいい」


勇者「これならどう?」

魔女「………うん、それならいい」

勇者「よし、じゃあ行こう」

トコトコ…

勇者「じゃあ、ちょっと見てくるから待ってて」

魔女「あっ…うん」


ガチャッ…パタンッ…


魔女「(時計屋なのは分かるけど、中の様子が見えないから入れなかった)」

魔女「(評判は良い店みたいだけど……)」

魔女「(店主兼店員は男って聞いたし、本当は入りたいけど、入りたくない)」


ガチャッ…

魔女「勇者、見てきてくれてなんだけど、やっぱりいいよ……」

勇者「えっ? でも、中にいるのは気難しいお爺ちゃん一人だけだよ?」

勇者「それでも行かない?」

魔女「…………」

勇者「特訓相手には丁度良いと思うけど、諦めるの?」

魔女「ッ!! 入る!やってやる……」

勇者「いや、見るだけだから。何もしないでくれる?」

魔女「ほら、先に入ってよ」グイッ

勇者「はぁ、分かりました。さ、行こう」


パタンッ…

魔女「うわぁ、凄い……時計が沢山ある」

勇者「僕はお爺ちゃんを見張ってるから、見てきていいよ?」

魔女「うん、ありがと」

勇者「時計か、こんなに種類があるんだ」

時計屋「おい、若いの」

勇者「はい、何ですか?」

時計屋「見張りどうこう言っていたな。万引するつもりなら、指を貰うぞ」

勇者「しませんよ。だから、ペンチを出すのはやめて下さい」


時計屋「……ふん、妙なことはするなよ」

勇者「だから、しませんってば……」

勇者「あの、お爺さんは、どんな時計が好きですか?」

時計屋「妙なことを聞く小僧だな……」

時計屋「儂が好きなのは懐中時計だ。蓋に細かい装飾をするのが楽しくてな」

時計屋「夢中になって細工している内に、一日が終わることもある」

勇者「へーっ、見せてもらってもいいですか?」

時計屋「……ほら、これだ」コトッ

勇者「こんな複雑な装飾を一人で? 凄い、小さな芸術作品みたいだ……」

勇者「こんな綺麗な時計、僕なら怖くて持ち歩けないですよ」


時計屋「……それでは意味がないな」

勇者「大丈夫ですよ、部屋の壁に掛けますから」

時計屋「ふっ、なら置き時計を買えばいいだろう」

勇者「あ、そっか……」

勇者「あの、良ければ他にも見せてくれませんか?」

時計屋「……買うなら見せてやる」

勇者「はい、買います」

時計屋「高いぞ、金はあるんだろうな」

勇者「大丈夫です。お金なら、ありますから」


時計屋「よし、なら見せてやる」ゴソゴソ

時計屋「お前、金持ちの子供か。羨ましいことだ」

勇者「生まれは普通ですけど、とある人がくれるお小遣いの額が半端じゃないんです」

時計屋「……小遣い。お前、幾つだ」

勇者「12歳です」

時計屋「それは冗談のつもりか?」

勇者「冗談じゃなくて本当に……あっ、そうだった」

勇者「間違いました。今は18歳?くらい、かな」

時計屋「なら小遣いは貰うな、働け。その歳で親に甘えるのはいかんだろう」


勇者「は、はい。その通りです、ごめんなさい」

時計屋「……まあいい、見せてやる」ゴトッ

勇者「うわー、綺麗だなぁ…これ全部お爺さんが? 凄いですね!」

勇者「あっ! これ、まるで宝石みたいだ!!」

勇者「なる程、小さいのが沢山敷き詰められてるのか……」

勇者「いつか僕も作ってみたいなぁ…」

時計屋「(この小僧、本当に十八か?)」

時計屋「(頭は大丈夫みたいだが、はしゃぐ様は正に子供だ)」


勇者「こっちのも…いやっ、それより……」

魔女「ちょっと何してんの?」

勇者「ほら、これ見てよ!凄いよ!?」

魔女「大きな声ださないでよ……!!」

勇者「どう?凄いでしょ?」

魔女「懐中時計、先生が持ってる時計だ」

勇者「そうなんだ。同じのある?」

魔女「ちょっと待って、沢山あるから分かんない……」


魔女「えーっと? んーっ、ない……あっ!」

勇者「どうしたの?」

魔女「これ綺麗だね。この中で一番好きかも」

勇者「へーっ、蓋の上からでも時間が見られるんだ。両端に人がいるね」

勇者「3時と9時か……二人共、手を伸ばしてるけど、これじゃあ届かないね」

時計屋「……いや、二人の手は届く」スッ

時計屋「特定の時間にのみ、二人は重なる」カチカチ

時計屋「……ほら、見てみろ」スッ

魔女「これ、短針と長針が腕みたいに…あっ、そっか……」

魔女「この二人、片手を伸ばしてるんじゃなくて、両手を伸ばしてたんだ」

魔女「ほら、長針と短針が平行になった時、手が重なる仕組みになってる」


勇者「えっ、針にまで装飾してたの?全然気付かなかった」

勇者「二人は2時45分に手が触れる。なんか、感動的な時計だなぁ……」

勇者「あのさ、ちょっと外で待っててくれる?」

魔女「はぁ? なん…」


ーーどうだ、凄いだろ?
ーーああ、綺麗な時計ばっかりだ。


魔女「うん、分かった」

勇者「待ってて、すぐ行くから」

魔女「早くしてよ? 待たされるの嫌いだから」トコトコ


ガチャッ…パタンッ

勇者「これ下さい、お願いします」

時計屋「……あの娘は恋人か」

勇者「いえ、命の恩人です」

勇者「僕はもうすぐ帰らなきゃならなくて、魔…彼女は何か思い出が欲しいって……」

勇者「だから、彼女が一番気に入ったものを渡したいんです」

勇者「これを見てた時の目は、凄く優しかったから、だから」

時計屋「……分かった。もういい、それ以上言わなくても気持ちは伝わる」

時計屋「ただ、小遣いで買うのはこれで最後にしろ」

時計屋「次は自分の金を持って買いに来い。いいな?」


勇者「はいっ、ありがとうございます!」

時計屋「小僧、有り金を全部出せ。早くしろ」

勇者「……分かりました」スッ

時計屋「ちょっと待ってろ」


…チャリン…チャリン…チャリン…チャリン……


時計屋「……これでい。残りは釣りだ」

勇者「そんなっ、それじゃ少な

時計屋「黙れ、あの客に聞かれたらどうする。これ以上、儂に損させるな」

時計屋「ほら、さっさと持って出て行け。女を待たせるな」

勇者「お爺さん、ありがとう。今度は、自分のお金で買いに来ます」


時計屋「……お前、名前は」

勇者「勇者です、冗談じゃないですからね?」

時計屋「ああ、分かる。死ぬなよ、小僧」

勇者「はい……それじゃ、またいつか」ニコッ

ガチャッ…パタンッ……

時計屋「……あれが勇者か、変な小僧だったな。売るつもりはなかったんだが、まあいい……」



勇者「ごめん、待った?」

魔女「そんなに待ってない。あーあ、出来れば、もっと見たかったよ」


魔女「もう大体見たし、そろそろ帰ろ?」

勇者「あのさ、これなんだけど」

魔女「なにそれ…えっ?」

勇者「なにって、思い出だよ。欲しかったんでしょ?」

勇者「受け取ってくれる?」

魔女「……本当に?本当にいいの?」

勇者「魔女に買ったんだ。受け取ってくれないと僕が困る」

魔女「じゃあ、ありがたく頂戴します」

勇者「ははっ、どうぞどうぞ。大事にしてよ?」

魔女「あっ…はい、大事にする」

勇者「じゃあ、気に入ったの見つかったし帰ろうか。もうじき日が暮れる」

勇者「ほら、早くしないと魔導師さんに怒られるよ?」


魔女「……うん、そうだね。帰ろ」

トコトコ…

勇者「どう考えても、どういう風に見ても、景色は違って見えないね」

魔女「やはり馬鹿女の妄言であったか。まっ、それでもいいけどねー」ニコニコ

魔女「ふふーんっ、早く時間にならないかなぁ」

魔女「(きっと、男だとか関係ない。一緒に買い物するのって楽しいんだ)」

魔女「(なんかいいな、こういうの……)」チラッ

勇者「?」

魔女「十二歳のがきんちょにしては良くやったよ。褒めて使わす」

勇者「がきんちょに渡された懐中時計ではしゃいでるクセに、よく言うよ」ハァ

魔女「うっさいなぁ、気に入ったんだから別にいいでしょ!」


ズズンッ…


魔女「なに今の? まさか!?」

勇者「魔導師さんが言ってた気を付けろって、こういうことだったのか………」

ここまで寝ます
感想ありがとうございます。


魔女「向こうから強い魔力を感じる!早く行かないと!!」

勇者「今の体で戦うのは無茶だ。僕が行く、君は魔導師さんに伝えてくれ」

魔女「多分、相手は先生が言ってたっていう召喚士。だから、私が行かなきゃ…」

勇者「意地張ってる場合か!死ぬかもしれないんだぞ!!」

魔女「意地なんて張ってない!」

魔女「これは私が、魔術師が行かなきゃ駄目なんだ!!」

魔女「この魔力、さっきは魔神族かと思った。でも、似てるだけで質が違う」

魔女「この先にいる召喚士は魔神族じゃない、おそらく、魔術師……」

魔女「力を欲し、魔に魅入られ、堕ちた魔術師。つまり、人間の仕業……」


魔女「だから、人間の私が行く」

魔女「魔術は己のものではなく、他者を救い、癒す力」

魔女「こんなことをするために、破壊するために生まれた力じゃない」

魔女「だから、私も行く」

勇者「……分かった。なら、一緒に行こう」

勇者「君は僕より遙かに魔術に詳しい。何か分かれば指示を出してくれ」

勇者「それと、危険だと判断したら迷わず逃げるんだ。分かった?」

魔女「……うん、分かったよ」

勇者「魔女、敵の詳細な居場所は分かる?」

魔女「あそこに見える塔の近く、確かお花屋さんがあった辺り」


勇者「魔女、僕の背中に掴まって」

勇者「その状態で魔術を使いながら移動するのは危険だ」

勇者「急がないと街が破壊される。早く」

魔女「分かってる」ギュッ

勇者「行くよ、しっかり掴まって」ダッ

魔女「(速い。これが本来の、完全なる人間の力……魔を滅ぼし、終焉をもたらす者)」


召喚士「早速こちらに向かって来ているな? 若い魔術師の力も感じる……」

召喚士「奴の師、確か魔導師とか言ったか。奴め、俺には子供二人で充分だと判断したようだな」

召喚士「それで弟子を失うことになっても、後悔するなよ」


召喚士「……そろそろ、来るか」

ザッ…

勇者「お前が召喚士か」

召喚士「そんなことを聞かずとも、この有り様を見れば分かるだろう」

召喚士「急がなくていいのか?」

召喚士「この間にも、瓦礫に埋もれた連中が死んでいくぞ?」

勇者「……お前ッ!!」ダッ

召喚士「魔の獣よ、嬲り殺せ」カッ


ズズンッ…


勇者「(何だ……牛頭の怪物?異様な雰囲気だな)」

牛頭「何だ、相手は男か」

召喚士「殺せ。俺は若き魔術師を捜す」


牛頭「女はいないのか、早く犯したい」

召喚士「この街の女は好きにしろ、そいつを殺した後でな」ザッ

勇者「……………」ピクッ

牛頭「そういうわけだ。早くやりたいから死ね」ドッ

ガシッ!

牛頭「!?」

勇者「………もう無理だ」スッ

牛頭「あ?」

ドズンッ! ズブッ…

牛頭「ハッ…ひゅっ…何だ…お前?」


勇者「前に戦った相手は、まだ理解出来る部分があった」

勇者「お前には、それが一切ない。信念も思想も、何も感じない」

勇者「あるのは嫌悪だけだ。名乗る気にもならない、この世界から消えろ」

牛頭「ヒッ!?」

勇者「煩いんだよ、お前」


グシャッ!


勇者「……体が軽い、動きにも支障はなかった」

勇者「いつも通りに動けたし、身体能力も向上してる」

勇者「あの痛みに耐えた甲斐があった。魔導師さんと魔女に感謝しないと……」


勇者「魔女を襲った淫魔といい、牛頭といい……ろくな奴を召喚しないな」

勇者「こんなに気分の悪い戦いは初めてだ。早く魔女のところに行かないと……」ダッ



召喚士「捜したぞ、若き魔術師」

魔女「狙いは私? 堕ちた魔導師」

召喚士「……俺がいた頃より進歩したな。人間の魔術は弱く、頼りなかった」

魔女「だから魔神族の力を求めたわけ? 情けない男だね」

魔女「本来あるべき魔術師の姿を捨ててまで、その力を得たかったの?」

魔女「だとしたら頭悪いよ、あんた」

召喚士「俺の力を見れば気が変わる。人間の魔術には限界がある」


召喚士「数百年前の戦で、俺はそう悟った……」

魔女「……召喚術は使わないの? あんた、何がしたいわけ?」

召喚士「召喚士など名前だけだ。下位の魔神族、魔の獣しか使役出来ん」

召喚士「俺は召喚士などではなく、純粋な魔術師だ。昔も今もな……」

召喚士「さあ、魔術師同士、魔術で戦おうじゃないか」

魔女「一緒にするな、腐れ外道が」

召喚士「……岩、飛礫、穿て」カッ

魔女「炎!凝固を崩せ!!」

召喚士「ほう、想像していたより素早い対応だ」

召喚士「やるじゃないか、しかし炎を使いこなすとは……憎しみが強いらしいな」


魔女「…ッ!?」

召喚士「そうだ、燃やせ……憎しみとは秘めるものではない」

魔女「黙れ」

召喚士「求めろ、憎しみは毒ではない、受け入れ、己が力とするがいい」

魔女「黙れッ!! 風、翼!!」

召喚士「魔術は武術まで取り込んだか。まあ、想像に難くないがな」スッ


ガキンッ!


魔女「杖が剣に変わった!? 形状変化まで使えるのか」ググッ

召喚士「当たり前だ。俺は堕ちたが、俺の魔術は堕ちてなどいない」


召喚士「これこそが、本来あるべき魔術の姿。闘争こそが魔術の本質だ」

魔女「それが間違いだと何故分からない!!」

魔女「人間は、魔術師は、闘争を止めるために魔術を学び、人を救うべく歩んできた!!」

召喚士「違うな。魔術は更なる闘争を招く、現に、魔術師同士で争っている」

召喚士「魔力は本能で扱うべきだ。下らん教義に染まるな」

魔女「私は、先人が積み上げたものを壊してまで力を欲する愚か者じゃない!!」

魔女「あんたが本当の魔術師なら……そんな選択はしなかった!!」

ギャリリリ…

召喚士「視野の狭い奴だ。常識や過去に縛られている」

召喚士「お前は優秀な魔術師だ。俺が師として正しい魔術を教えてやる」


魔女「嫌だね、男は嫌いなんだ。それに、私には既に偉大な師がいる」

魔女「お前に求めるものなんてない」

召喚士「……適性があると思ったが、見込み違いだったか」

召喚士「淫魔を殺した時の気分はどうだった。魔力が高まるのを感じただろう?」

魔女「…っ…氷、槍、貫け!!」カッ

召喚士「飲み込め」カッ


ゴォォォォッ!


魔女「詠唱無し、その威力、まさか……」

召喚士「ふむ、どうやら見覚えがあるようだな。そうか、俺に追い付いた奴がいるのか……」

召喚士「体に陣を刻み込んだことで、最早詠唱は必要なくなった。後は元素を選ぶだけだ」


召喚士「こちらに来る気がないのなら、下らん詠唱になど付き合う必要もない」

召喚士「大成する前に、消すだけだ……」

召喚士「素質を無駄にしたな。若き魔術師よ……岩の棺で眠るがいい」カッ

ゴゴゴッ…

魔女「(もう駄目だ。悔しいけど、今から詠唱しても間に合わない……)」ギュッ

勇者「ゴーレム!彼女を包め!!」バシュッ


ガコンッ!ガコンッ!ガコンッ!


召喚士「……ゴーレムを模した鎧か、中々面白い発想をするな」

勇者「魔女、大丈夫!?」

魔女「あっ…うん、私は平気。ていうか、なにこれ?」

勇者「魔導師さんが造ったっていうか、再構築して戻したっていうか……」

勇者「ごめん、上手く説明出来ない。帰ったら聞いて?」


魔女「ははっ、うん。分かったよ」

勇者「ふーっ、さて、始めようか」

召喚士「ふざけているのか?」

勇者「いや? これまでにないくらい本気だよ」ダッ

召喚士「ぬっ!?」


ガキンッ!


勇者「へー、剣も使えるんだ。受け止められるなんて思わなかった」ググッ

勇者「あのさ、他人を巻き込むなよ。小賢しい真似しないで、お前が自分で戦え」

勇者「女の子を乱暴するような、最低な奴ばかり使役してることにも腹が立つ」

勇者「魔女が、どれだけ傷付いたか分かるか? どれだけ苦しんでるか分かるか?」


勇者「分かるわけないよな?」

勇者「分かってたら、淫魔を使って魔女の傷を広げたりしないだろ?」

召喚士「(こいつ、異常だ。完全種の人間だとは知っていたが、この力は何だ?)」

召喚士「お前、本当に勇者か」

勇者「今は勇者じゃない、勇者である必要がない。破壊者、悪魔の子でいい……」

勇者「人の想いは俺の力になる。この意味、分かるか?」

召喚士「何を言っている。お前、狂っているのか」

勇者「そう、今はそれでいい。お前のそれが、俺の力になるんだから」ゴッ


勇者「俺を怖れてるな?」

勇者「言わなくても分かる。だって、こんなに力が湧いてくる」ニコッ

召喚士「ッ!!」タンッ

勇者「………可変二刀・一刀型」ガヂッ

召喚士「っ、燃え尽きろッ!!」カッ


ゴォォォォッ!


魔女「勇者!!」

勇者「大丈夫、魔女はそこにいて? 危ないからさ」

魔女「大丈夫って、あんた、体が燃えて……」

勇者「あの時に比べれば大したことないよ。こんな痛み……」


召喚士「馬鹿な! こんなこと、ありえない!!」

勇者「あぁ、こんな小者だから、魔導師さんも放っといたのか。なんか納得した」

勇者「元魔術師と戦えば、確かに今の自分が正しいって確信するだろう」

勇者「でも、魔女は魔力を取り込み過ぎて苦しいんだ。戦わせたら駄目ですよ」

召喚士「なんなんだ、なんなんだお前!! こんな奴、昔はいなかったぞ!!」

勇者「お前には魔術師の誇りとかないのか? 魔神族の奴等に力を貰って満足か?」

勇者「魔術は他者の為、癒す為にある」

勇者「魔女は葛藤して、苦しんで、それでも前に進もうと頑張ってるのに……」

勇者「お前には、なにもない。色々考えたけど、俺はお前を救えそうにないよ」

勇者「だからもう、魔女の前から消えてくれ。これ以上、苦しめないでくれ」ダッ


召喚士「消えッ…!?」

勇者「消えてないよ。消えるのは、お前だ」

ザンッ! ブシャァァァ…

勇者「……………」トコトコ

魔女「な、なに? 勇者?」

勇者「大丈夫、演技だから」

魔女「は?」

勇者「だから、今までのは全部演技。びっくりした?」


ドズンッ!


勇者「がっはっ…それ着ながら殴るのは、駄目だって」ガクンッ


魔女「馬鹿ッ!!心配したんだよ!?」

魔女「本当にどうかしちゃったのかと思ったんだよ!? そういうのやめてよッ!!」

魔女「私のこと助けてくれたし、私のことを考えてくれてたのは嬉しかった!!」

魔女「けど、もうやめて……」

勇者「分かったよ、ごめん」

魔女「それに……なんか、怖かったし」フルフル

勇者「ははっ、それ着ながら震えてると面白いね」

魔女「あ?」スッ

勇者「嘘、嘘です。あっ、戻せばいいのか」バシュッ


魔女「へっ? 消えた……」

勇者「魔女、本当にごめん」

勇者「淫魔とか嫌な奴ばっかり見てたら、凄く頭にきてさ……」

勇者「ここに来る前に戦った奴も、僕を殺した後で女の子を襲うとか言うし」

勇者「そしたらもう、我慢できなくなったんだ。何で、こんな奴がいるんだろうって」

勇者「人の気持ちを弄んで、笑って、見下してさ。なにが楽しいんだろうね……」

魔女「……勇者」

勇者「ごめんね、一番やっちゃ駄目なことをした。君が怖がるようなことを」

勇者「街に来て、懐中時計を買って、せっかく優しい顔になってくれたのに……」


魔女「優しい顔?」

勇者「警戒とか敵意とかない、普通の顔。笑ってなくても優しい感じ」

魔女「…………」フイッ

勇者「まだ怒ってる?」

魔女「ううん、怒ってない。帰ろ?」

勇者「そうだね。遅くなったけど、話せば分かってくれるよ」


トコトコ…


魔女「(あれは演技なんかじゃない、勇者は本当に怒ってた)」

魔女「(やっぱり、小さい頃に何かがあったんだ。先生なら知ってるかな)」

魔女「(帰ったら、勇者のお父さん、お兄さんのことを聞いてみよう)」

魔女「(何がしたいわけでもないけど、知らなきゃ駄目な気がする)」

眠くて駄目です、短いけどここまで。また明日。


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夜 魔導師の洞窟

勇者「魔導師さん、あなたのやり方は間違ってます」

勇者「あなたは、召喚士が魔女の素質を見抜き、狙っているのを知りながら敢えて放置した」

勇者「街に行かせたのは、召喚士を誘き寄せる為ですね?」

勇者「確かに成長する絶好の機会、手頃な敵、傍には僕もいる」

勇者「こんな機会は二度と訪れないかもしれない。あなたはそう考えた」

勇者「負ける可能性は限りなく零に近い。ただ、危険が伴うことに変わりはないんです」

勇者「弟子の精神的成長を促し、魔術師としての自覚を持たせる。この意図は分かります」

勇者「確かに魔女は成長した。ただ、魔術師としては、です」

勇者「過去の傷は今も彼女を苦しめてる」

勇者「それを少しでも取り除くのが先だと、僕は思います」


勇者「魔導師さん、僕の体を成長させてくれて、ありがとうございます」

勇者「新たに調整された剣も、とても役立ちました。それじゃ、僕は街に戻ります」

勇者「魔導師さんのお陰で怪我人の治療は終わったけど、残った作業はまだまだありますから……」

勇者「精霊、話は済んだ。早く行こう」

精霊「……ええ、そうね」

勇者「後は二人で話して合って下さい。気持ちは、ちゃんと伝えなきゃ駄目です」

勇者「……偉そうなことを言って、ごめんなさい」


ザッ…ザッ…ザッ…


魔導師「…ハァ…滅多斬りだな。しかも、弟子の前で叱責されるとは、情けない……」


魔女「先生、勇者の言ってたことは…」

魔導師「事実だ。お前に自覚を持ってもらい、更なる成長を促すべく、召喚士を利用した」

魔導師「……勇者さえもな」

魔導師「師としてではなく、魔術師としての考えが先行したのだ」

魔導師「勇者の言っていた通りだ。ぐうの音も出なかったよ……」

魔導師「焦っていたのは、お前ではなく、私の方かもしれない」

魔女「……先生…」

魔導師「ふっ…あの子は、聡い子だな。そこまで見抜かれているなど、思いもしなかった」

魔導師「弟子よ、済まなかった。隠し立てせず、きちんと意思を伝えるべきであった」


魔導師「許してくれ」

魔女「謝らないで下さい。やり方は間違っていたかもしれない。だけど……」

魔女「それは私を想ってのことなんですよね。なら、謝らないで下さい」

魔女「どんな先生だって、間違う時はありますよ。私なんて、いつも間違ってるし」

魔女「だから、この話はもうやめましょう? 先生の気持ちは分かりましたから」ニコッ

魔導師「……ありがとう。何だか、少し変わったな」

魔導師「勇者と外出させた判断だけは、間違っていなかったようだ」

魔導師「いい顔になった。あぁ、勇者に何を買ってもらったんだ?」

魔女「今はまだ内緒です。それより先に聞きたいことがあります」


魔導師「ふむ、申してみよ」

魔女「勇者の出自、勇者の力について、先生が知っていることを教えて下さい」

魔導師「いいだろう。少しばかり長くなるが、よいか?」

魔女「はい」

魔導師「勇者は純粋な人間の子供だ。両親共に、完全な人間なのだ」

魔導師「純血種と言ってもよいだろう。完全種の人間の中でも、突出した力を持っている」

魔導師「そして、それとは別にもう一つ。人々の想い、評価といってもいいか……」

魔導師「勇者は、それを我が物に出来る。勿論、魔術ではない、不可思議な力だ」


魔女「それは、どんな?」

魔導師「ふむ、そうだな……」

魔導師「一人の男が森にいるとしよう」

魔導師「夜になり、男は焚き火を消し、そろそろ眠ろうかと目を閉じた」

魔導師「森は静寂に包まれていたが、突如、みしみしと枝の折れる音が響き渡った……」

魔導師「見えないが、確かに何かがいる」

魔導師「不安や恐怖が男を支配する。何か恐ろしいものが、そこにいるのではないか……」

魔導師「男の妄想は膨らみ続け、存在するはずのない怪物を生み出した」

魔導師「きっと、力が強く好戦的な生き物に違いない。私は容易く引き裂かれ、無惨に殺されるのだろう」

魔導師「勿論、そんなものはいない。全ては男の妄想、怪物など最初から存在しない」


魔導師「ただ、狐や兎…まあ、どんな動物でもいいが……」

魔導師「それが枯れ枝を踏み、音を鳴らしただけに過ぎなかったのだ」

魔女「今の話からすると……勇者は、男の妄想によって怪物にされたウサギ、ですか」

魔導師「まあ、そんなところだ」

魔導師「様々な状況によって、可愛らしいはずのウサギの印象は、がらりと変わる」

魔導師「戦えば怖れられ、救えば愛され、まあ、人によって様々だろう」

魔導師「勇者はそれを視認し、任意で選ぶことが出来る」

魔導師「鎧や剣のようなものだ。目に見えぬ、着脱可能な力」

魔導師「当然、その想いが強ければ強いほど、もたらす効果は大きい」


魔女「破壊者、悪魔の子」

魔導師「……それは?」

魔女「勇者が、そう言っていました」

魔女「今は勇者じゃない、勇者である必要もない。破壊者、悪魔の子でいい……」

魔女「その直後、勇者は別の人間になったかのように、猛然と戦い始めた」

魔女「口調も声質も違っていて、敵意を剥き出しに声を荒げ、目の色は深く、暗いものだった……」

魔女「余裕を見せていた召喚士も、その様子に竦み上がり、恐怖していました」

魔女「それから数分と掛からず、勇者は一刀のもとに召喚士を斬り伏せたんです」

魔導師「……そうであったか。勇者にも後で謝罪せねばなるまい」


魔女「先生、あの時の勇者は……」

魔導師「分かっている。お前が見た勇者は、勇者を怖れる者が作り出した姿だ」

魔導師「勇者はそれを利用し、力としたのだろう。あらぬ妄想、或いは、悪意か……」

魔導師「弟子よ、お前から見て、勇者は怒っていたか?」

魔女「はい。私を襲った淫魔の件で、かなり憤りを感じているようでした」

魔導師「ならば、自ら利用したわけでないな」

魔導師「おそらく怒りと悪意が呼応し、勇者は一時的に支配されたのだろう」


魔女「勇者を怖れる者達の想いに、ですか」

魔導師「そうだ。ウサギは、男にとって悪魔に違いなかった」

魔導師「人々は、可愛らしいウサギが必死に怪物と戦う様を見たのだろうな」

魔導師「人々を守る為に命を賭して、小さな体躯で懸命に戦ったというのに……」

魔導師「ウサギは悪魔と呼ばれ、破壊者と怖れられた」

魔女「……何で、そんな力が生まれたのかな。苦しいだけだよ、そんなの」

魔導師「いや、そうとも言えん」

魔導師「現段階では、勇者対する恐怖の方が多いだろうが……」

魔導師「人々が勇者に希望を見た時、全ては反転する。救世主としてな」


魔女「ッ、そんなの勝手過ぎる!」

魔女「都合の良い時だけ勇者だ救世主だなんて!!」

魔女「勇者の想いは!勇者の心はどうなるんです!!」

魔導師「……人とは、いつの世もそういうものだ。我々も、その中にいる」

魔導師「怪しげな儀式を行い、妖術を使う異端者、そう呼ぶ者もいるであろう?」

魔導師「だが大いなる危機が迫り、人々が救いを求める時、我々魔術師もまた、希望となるのだ」

魔導師「人は弱い、だから我々…魔術師なる存在が生まれた」

魔女「……分かってます。でも、悲しいです」

魔導師「私はな、勇者について、一つの仮説を立ててみたんだ」


魔女「えっ…仮説、ですか?」

魔導師「ああ、勇者は魔神族を討つためではなく、救うために現れた存在ではないか、とな」

魔女「先生、それはどういう……」

魔導師「以前、勇者が東部の都でゴーレムを倒したと言っただろう?」

魔女「はい、それが何か関係してるんですか?倒したなら、救いには…」

魔導師「生きていたのだ。剣の中でな」

魔女「そんな……完全な人間に討たれた者は、無明の牢獄に堕とされるはずじゃ」

魔導師「ああ、死ぬことも出来ず、闇の中で永遠とも呼べる時間に囚われる」

魔導師「光も音もない、静寂と闇の中に、彼等は囚われ続けた」

魔導師「だが、勇者に討たれたゴーレムは、剣の中で安らかに眠っていたよ」


魔導師「私は剣内部にあった微細な核を抽出し調べた」

魔導師「確かに生きていたよ、安定した状態でな」

魔導師「だがな、私はそんな術法を施した覚えはない、あれは勇者の力だ」

魔女「じゃあ、私を守ったゴーレムの鎧は……」

魔導師「勇者が使用したものだ。既に使いこなしているとは……」

魔女「勇者が言ってました。先生が再構築したとか何とか」

魔導師「ああ、私が起こしたんだ。砕かれた核は、剣に吸い寄せられたのだ」

魔導師「ゴーレム自身が、そう語っていた。内部は安息と温もりに包まれていたらしい」

魔導師「言わば封印されている状態なのだが、不思議と閉塞感などはないようだ」

魔導師「その後、核をそのままに、内部から体を現出させ、操作出来るか実験した」

魔導師「結果はお前が見た通り。見事、実験は成功した」


魔女「………そんな実験してたんですか」

魔導師「いや、まあ……取り敢えず、それは置いておこう」

魔導師「実験後、私はゴーレムに勇者の力になるよう言ったのだ」

魔導師「するとどうだ!」

魔導師「他の何者でもなく、勇者にならば力を貸すと言って快諾したのだ!!」

魔女「興奮し過ぎですって……それで、先生は勇者の力の本質は何だと考えているんです?」

魔導師「慈愛か憐れみか……人だけでなく、魔神族にすら安らぎを与える」

魔導師「その力が、全ての魔神族に通用するかは分からんがな……」

魔女「あの、もう一つ質問があります」


魔導師「なんだ?」

魔女「勇者のお父さんと、お兄さんって、どうなったんですか?」

魔女「魔力で繋がった時、勇者の声が聞こえたんです。もう失いたくないとか、色々……」

魔女「召喚士と戦っている時の勇者は、怒ってたけど怖れているようにも見えました」

魔導師「……そうか。父については知らんが、兄と呼ばれる者は知っている」

魔導師「その者は、勇者と共に世界を巡り、剣術や勉学を教えた」

魔導師「名は剣士、実直で誠実、清らかな心を持った良い男だった」

魔導師「勇者が所持している剣、あれの元々の所持者は剣士だ」

魔導師「当時はまだ魔神族も少なく、危険視する者もいなかった中で、剣士だけは危惧していた」

魔導師「そこで私を頼りにやって来た。魔神族の核を破壊する剣を造って欲しい、とな」


魔導師「だが四年前、東部に現れた魔神族に敗れ、この世を去った」

魔導師「失いたくないという怖れが芽生えたのは、その時であろうな」

魔導師「精霊によると、勇者は、剣士には非常に懐いていたそうだ」

魔導師「剣士が亡くなったのは、確か……勇者が七つの頃だったな」

魔女「えっ…」

魔導師「それからは他人と距離を取るようになり、付かず離れずを保っていたようだ」

魔導師「傍にいる者が狙われ、再び失ってしまうのではないか、そう思い至ったのだろうな」

魔導師「今でも怖れている節がある。怖れを塗り潰す為に怒りを放つ……」

魔導師「お前が見た勇者の異変は、正にそこから来ていると言えるだろう」


魔女「失うのことの恐怖……あの、お母さんは…」

魔導師「勇者の母なら生きている」

魔女「勇者のお母さんは、何で知らない人に預けたんですかね……」

魔導師「さあな、詳しいことは知らん。私が知っているのはこれだけだ」

魔女「ありがとうございました」

魔導師「で?」

魔女「はい?」

魔導師「何を買ってもらったんだ?」

魔女「あー、えっと……懐中時計を…」

魔導師「ほう、どんな品だ。見せてくれ」


魔女「そろそろ、いいかな……」チラッ

魔導師「?」

魔女「……よしっ、これです」スッ

魔導師「ほう、これは素晴らしい。中々良いではないか、針にも細工とは芸が細かいな」

魔導師「……成る程、この時この瞬間のみ、二人は手を重ねるというわけか」

魔導師「して、この二人は誰だ?誰を想った?まさか勇者か?」ニヤニヤ

魔女「……違います!先生と私です!!」

魔女「あの時、手を差し伸べてくれなかったら……今の私はいませんから」

魔女「その時を思い出して、これを選びました。買ったのは勇者だけど……」


魔導師「そうか……おいで」スッ

ギュッ…

魔導師「お前には厳しく接してきたが、守りたいという気持ちは変わらん」

魔導師「これは師としてでなく、私の気持ちだ。いつの日からか、娘のように想っていたよ」

魔女「せんせい…」ギュッ

魔導師「さあ、今日はもう休め」

魔女「…グスッ…はい、お休みなさい」

トコトコ…

魔導師「……そろそろ、全てを授ける時かもしれんな」




精霊「勇者、お疲れさま」

勇者「何とか終わって良かったよ。体が変わったからか、前より動ける」


勇者「そろそろ戻ろうか、あまり長居すると…」

コツンッ!

勇者「はぁ、ほらね?」

精霊「分かってるなら避けなさいよ」

勇者「いいんだ。おい、闇に乗じて石を投げつけるなんて、小さい奴だな」

勇者「それでも人間か? そんなんじゃ、この街を襲った奴と変わらないぞ?」

勇者「今の行為が、正しい行いだと誇れるのなら、堂々を顔を見せろ」

勇者「家族友人恋人に胸を張って言えるか?言えるなら出て来い」


シーン…

勇者「さあ、行こう」

精霊「馬鹿に構うことないのに……」

勇者「言いたいことは言わないと、気が済まない性格んだ」

精霊「知ってる」クスッ

勇者「ああいうのは慣れてるけどさ、やっぱり嫌なものは嫌だよ」

勇者「別に褒められたくて手伝ったわけじゃない。勇者だからでもない」

勇者「やるべきだと思うから、やってるだけ。でもさ、投石はないだろ?」

勇者「僕だから平気なだけで、お爺さん、お婆さんだったら怪我じゃ済まないんだ」


精霊「ほら、イライラしないの。早く行きましょう?」

精霊「さっさと出ないと、また石投げられるわよ?」

勇者「ははっ、うん、そうだね……行こう」


スタスタ…


花屋「ちょっと待って下さーい!!」ダダダッ

勇者「びっくりしたぁ…何ですか?」 

花屋「さっきは、家の息子が石を投げたようで、申し訳ありません!!」

勇者「いいですよ、慣れてますから」

花屋「えっ? 勇者さんが何で?」

勇者「戦ってる時に家を壊したり、向こうが壊したのに、勇者がいたからだ。とか……」

勇者「さっきの戦いか、召喚士の仕業か分からないけど、お店が壊れたんじゃないですか?」


花屋「幸いにも大した被害はなかったんですが、娘が怪我をしまして……」

勇者「ああ、それで……なら仕方ないですよ。まだ子供なんですから」

精霊「(あなたも子供でしょうが、とは言えない雰囲気ね)」

勇者「でも、息子さん、よく自分から言えましたね。偉いですよ」

花屋「へっ?」

勇者「だって、自分が悪いことをしたって言うのは、凄く勇気のいることですよ?」

勇者「普通は隠します。だって、怒られたくないからね」ニコッ

花屋「そんな風に笑うのですね……普通の人と同じように…」


勇者「あのっ、そんなに怖かったですか?」

花屋「それはもう、牛の頭をした怪物と戦ってる最中でしたからね。顔、怖かったですよ?」

勇者「いやぁ、やっぱり見てるものなんですね。次からは笑おうかな」

花屋「ははっ、それはそれで怖いですよ。剣を持ちながら笑ってるんですから」

勇者「あ、そっか…じゃあ、やめときます」

花屋「その方がいいですよ。ええ」

勇者「あの、何でですか?」

花屋「?」

勇者「僕に息子さんのことで謝りたいだけなら、それでいいじゃないですか……」


花屋「勇者さん、皆はあまり近付くなと言います。でも、近付かなければ理解出来ない」

花屋「たった一度、しかも遠くから見ただけでは、何も分かりゃしませんよ」

花屋「大の大人が、たった一人の青年に怯えて、裏で言いたい放題……頭にきますよ」

花屋「悪口を言うなら面と向かって言え、と言ったら皆黙りました」

花屋「情けない話です。こうして話せば、ごく普通の好青年だと分かるのに……」

勇者「好青年、ですかね?」

花屋「それはそうでしょう?」

花屋「怪物と戦って、街を守って、それに片付けやら何やら手伝って……」

花屋「それを、勇者だからの一言で片付けるのは、何が何でも酷すぎる」

花屋「そこらの子供なら、街中の噂になるくらい褒められますよ」

精霊「(あなたが話してるのは、正にそこらの子供よ。まあ、いいけれど……)」


花屋「いや、長々と申し訳ない。お詫びと言っちゃなんですが、これを…」スッ

精霊「なんの種かしら?」

花屋「それは植えてからのお楽しみですよ。簡単に育ちますから大丈夫です」

花屋「先程来られた魔導師さんは、花が好きですから。是非受け取って下さい」

勇者「あー、魔導師さんは綺麗ですからね。まさか、だから僕に…」

花屋「いやいや、そんなことはないですよ。妻子だっているんですから」

精霊「別に気があるとは言ってないわよ? 分かりやすい男ね」

花屋「いや、本当に違いますから!! 憧れみたいものですよ!!」

花屋「私が子供の頃から、いらっしゃる方なんで……」


勇者「あ、そっか…あの人は魔術で…」

精霊「女の秘密をバラしちゃダメよ」

勇者「はいはい、じゃあ、僕達はこれで……」クルッ


スタスタ…


花屋「また来て下さい!歓迎します!! たとえ、私一人でも!!」

勇者「……最後の一言はいらないよね?」

精霊「ふふっ、面白いからいいじゃない」

勇者「まあ、誰にも歓迎されないよりは良いかな。一人でも、僕は嬉しいよ」

精霊「帰ったら、お風呂に入りなさいよ? もう子供の体じゃないんだから」


勇者「まさか臭い? えっ、嘘だよね?」

精霊「大丈夫よ、臭くないわ。ただ、前みたいに面倒臭がっては駄目よ」

精霊「そのうち髭も生えてくるだろうから、手入れはしっかりしなさい」

勇者「髭かぁ、楽しみだな」

精霊「ハァ…お酒は飲まないでね」

勇者「お酒も楽しみだなぁ……帰ったら魔導師さんから

精霊「止めておきなさい、何されるか分からないわよ」

精霊「人生一度きりの体験を、あの女に捧げる気があるなら止めないけれど」

勇者「………やめとくよ」

精霊「性欲に負けて破滅した男なんて腐るほどいるんだから。気を付けなさい?」

勇者「僕は魔導師さんをそんな目で見てないから。魔女も同じくね」

精霊「あなたには、まだ早…フッ…フフッ…」

勇者「何で笑うんだよ。大体、そんな気ないって言ってるだろ?」


スタスタ…


【心優しき普通の青年】

ちょっと休憩。もう少し貼ります。


>>>>

翌日 昼

魔導師「もっと強く念じろ。戦った時の姿を思い出せ」

勇者「……………」ガヂッ

ズンッ…

魔導師「問題はそこからだ。動かしてみろ」

勇者「はい」スッ

ドスッ…ドスッ…ドッ…ガラッ…

魔導師「馬鹿者!意識を逸らすな! 歩かせることすら出来ないのか!!」

勇者「いや、だって…」チラッ



魔女「へー、勇者ってそんなだったんだ」

精霊「そうよ、私がいないと眠れなかったんだから」

精霊「お願い、一緒に寝て? なんて言ってくるのよ。ハァ、あの頃はまだ…」


勇者「うるさいな!集中出来ないだろ!!」

魔女「この程度で集中出来ないなら、戦闘中に動かすなんて到底無理だね」

魔女「あーあ、せっかく先生が使えるようにしてくれたのになぁ……」

勇者「バラバラに飛ばすのとは訳が違うんだ。ちょっと黙っててくれ」

魔導師「無駄口を叩くな、もう一度だ」

勇者「……はい」ガヂッ

ズズッ…ドスッ…ドスッ…ドスッ…

魔導師「よし、止めろ」

勇者「!!」


ドスッ…ドスッ…ピタッ…


魔導師「次は戦闘訓練だ。まず、ゆっくりと動かせ」


勇者「蹴り、突き、掴む、しゃがむ、跳ぶ……」

魔導師「中々いいぞ。どうだ?感覚は掴めてきたか?」

勇者「ゆっくりとは動かせますけど、まだ素早く動かすのは難しいです」

魔導師「では、自分の動きと連動させてみろ。座っているよりは楽に出来るはずだ」

勇者「分かりました。ふッ!」ダンッ

勇者「あっ、同時に蹴った。これで慣らしていけば、何とかなりそうな気がする」

魔導師「よし、では一時中断だ」

勇者「はぁっ、やっと出来た……?」

魔導師「そのまま維持していろ、行くぞ」ダッ

勇者「えっ、ちょっ…!!」ガシッ

魔導師「……うむ、ゴーレムは維持したままだな。よく止めた、褒めてやろう」


勇者「ありがとうございます」ペコッ

魔女「チッ…調子に乗るなよ!」

勇者「先生、先輩が僕を虐めます」

魔導師「後で叱っておく、すまないな」

勇者「先生は悪くありません。先輩だって、本当はいい人なんです」ニコッ

魔女「おい!やめろっ!! 腹立つ顔すんな!」

魔導師「よさないか、みっともないぞ」ハァ

魔女「何で!? 先生は勇者に甘いですって!」

魔導師「真面目で素直、個人的に気に入っている可愛い生徒。ふふっ、いいな、これは実に良い」

魔導師「個人授業とかであれば、そういうことになっても、おかしくはないだろう」


魔導師「今の勇者なら、ぎりぎりな感じでアリじゃないか?」

魔女「ナシですよ!犯罪ですからね!?」

魔導師「弟子よ、私だって魔術師である前に女なんだ。仕方ないだろう……な?」

魔女「いやいやいや!それは駄目でしょ!?」

勇者「はぁ……先輩、あんまり騒がないで下さいよ。先生が困ってますから」ニヤ

魔女「うざっ!? さっさと帰れ!二度と来んな!!」

精霊「何で高齢者にばかり好かれるのかしら?」

精霊「というか、体は成長しても相変わらず同年代にはさっぱりなのね」

精霊「特別な物質でも出ているなら、抽出して売り捌けば儲かりそうだわ」


精霊「需要はかなり少ないでしょうけど……」

魔女「お婆ちゃんにしかモテない体質なの? 可哀想な奴だね」ニヤニヤ

勇者「……お前は東部の王妃様を敵に回した。そのことを忘れるな」

魔女「はぁ?」

精霊「あの子、ヒステリック王妃に異常なほど可愛がられてるのよ……」

精霊「王妃を馬鹿にするならまだしも、王妃の前で勇者を馬鹿にするのはやめた方が良いわ」

魔女「えっ、なに? まさか王妃と不倫でもしてるわけ? うわぁ…」

勇者「いや、してないから。そんな目で見ないでくれる?」

魔女「流石に今のは冗談だけど、何でそんなにモテるわけ?」

精霊「異性に好かれると言っても、かなり幅があるのよ?」


魔女「幅? 年齢の幅ってこと?」

精霊「ええ、三歳から十歳間近の女児、四十代から棺桶間近の女性」

精霊「それが、勇者が魅了する女性の範囲よ」

魔女「なんて限定的な……どっちを選んでも犯罪の匂いしかしない」

精霊「前者は性犯罪、後者は結婚詐欺、もしくは遺産目当て、最低な男だわ」

勇者「勝手に犯罪者にするな。子供とお年寄りに好かれやすいだけだ」

勇者「それに、皆が皆好きになるわけないだろ。精霊の言うことを真に受けるなよ」

魔女「いや、大体合ってるじゃん。先生もあんたのこと気に入ってるし」

魔女「弟子になる前のことは知らないけど、私、先生がそんな風になるの初めて見たよ」


魔導師「黙って聞いていれば、随分と好き勝手に言ってくれるな」

魔導師「お前は、先程から私を年寄りだと言っていることに気付いているのか?」

魔女「いやいやいや、そんなつもりじゃないですよ!?」

魔女「ただ、先生が男を気に入るのを見るのは、これが初めてだって言っただけです」

魔導師「そうだな……何故だか知らんが、見ていると可愛がりたくなるんだ」

魔導師「先程まではふざけていたが、何と言うか愛玩動物のような……」

魔導師「この感覚は、歳を重ねた女性でなければ分からないだろうな」

魔女「私には分からないですね。そんな頼りないウサギのどこがいいんだか」


勇者「えっ? ウサギ?」

魔女「こっちの話し、気にしなくていいから」

精霊「あ、ウサギと言えば性欲が

勇者「ちょっと待て。そういうのは僕がいないところで話してくれ」

精霊「せっかく教えてあげようかと思ったのに……あ、魔女の好みは年上? 年下?」

魔女「えっ、そんなの、まだ分から

勇者「魔女は小さい子にしか興味がない変態なんだよね」

魔女「おい、ふざけんなコラ」

勇者「(よし、からかわれるのも大分慣れてきた。いずれは適当に躱せるようになる。はずだ)」

勇者「(もう四日くらい経ったかな、ゴーレムの操作も慣れてきたし、そろそろ帰らないと)」

勇者「(何だか、四人でいる雰囲気が好きになってきてる。帰るのは、ちょっと寂しいな……)」

ここまで、寝ます。また明日。
設定とかの色々な説明が足りてないかもしれない。

感想ありがとうございます。


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数日後

勇者「今日が最後の夜か。明日でこの場所と……魔導師さん、魔女ともお別れだ」

勇者「楽しい時間が過ぎるのは本当に早いね」

勇者「……もう少しだけ、ここにいたかったな。嫌なこともあったけど、本当に楽しかった」

精霊「あら、寂しさを口にするなんて珍しいわね。陣の影響で心も変わったのからしら」

勇者「そうかもね。あんな風に人と触れ合うのは久し振りだから……」

精霊「それは良かったじゃない、良い友人が出来たのだから」

精霊「異性の友人なんて初めてじゃない?」

勇者「そうだね、向こうはどうか知らないけど、僕は楽しかったよ」


勇者「それに、魔女と接して分かったんだ」

勇者「誰もが痛みを抱えて生きてるんだなって」

勇者「私に比べれば、なんて言う人もいるだろうけど、悩みや苦しみは他人と比べるものじゃない」

勇者「人それぞれ、何かしらの痛みや苦しみを抱えながら生きてる」

勇者「それは、その人だけにしか分からない苦しみなんだよ。きっと……」

精霊「……そうね。当人にしか分からない痛みは必ずあるわ」

精霊「あの子、魔女の場合は特に……」

勇者「そうだね……でも、彼女は強い女性だよ」


勇者「過去に囚われても、それに負けない為に必死に努力する。前に進みたい、自分を変えたい」

勇者「そんな彼女を、僕は尊敬してるんだ。乗り越えようとする意志の強さを……」

勇者「まあ、ふざけてたり、からかってきたりするけどさ、それほど悪くない」

勇者「軽口言い合ったりとかね……だから、離れるのが寂しいんだ」

勇者「僕にとっては、本当に特別な数日間だったよ」

精霊「それは、きっと魔女も同じよ。魔導師も、そう言ってたもの」

精霊「自分が与えられなかったものを、勇者が与えてくれた」

精霊「期待してはいたけれど、あそこまで表情が柔らかくなるとは思わなかった」

精霊「きっかけは与えたが、勇者によるところが大きい。感謝している……ってね」


勇者「初めて話した時は小さかったから、そこまで警戒してなかったんじゃないかな」

勇者「最初からこの体だったら、話すことさえ出来なかったかもしれない」

勇者「あの時の僕が子供で良かったよ」

精霊「まったく、あなたは、まだ子供でしょうが……」

勇者「中身だって、いずれ体に追い付くさ」

精霊「ハァ…そうだと良いけど」

勇者「あのさ……」

精霊「なにかしら?」

勇者「これから先、苛酷な戦いが起きても、僕はこのままでありたいんだ」

勇者「自分に満足してるわけじゃないよ? ただ、貫くべき時は貫き通す。何があっても……」


精霊「それは信念を曲げないということかしら?」

勇者「そんな堅苦しいものじゃないよ」

勇者「正しさや公平さ……他にも色々あるけど、教えてくれたことを忘れないってだけ」

勇者「常に、そういう人間でいたいんだ」

勇者「あくまで僕個人だけど、それが間違っていると判断したら、どんな形であれ戦う」

勇者「以前、王様が言っていた。剣を使わない戦いもあるんだって……」

勇者「今、こうしてる間にも、国家間では様々な思惑が複雑に動いているだろう」

精霊「………………」

勇者「何ものにも惑わされず、自分の目で真実を見極め、その上で正しき行動をする」


勇者「君と、お兄ちゃんが教えてくれたことだ」

精霊「(発する言葉、その一つ一つに強い意志がある)」』

精霊「(街でも感じたけれど、やはり以前とは違う。変化、成長したのは肉体だけじゃない)」

精霊「(本来なら教えを受け、それを自己解釈し、間違いを繰り返しながら少しずつ学んでいく)

精霊「(時間を掛けて辿るはずだった過程。それを一気に経験したかのように、勇者の精神は急激に成長している)」

勇者「どうかした? 眠れないなら薬貰ってくるけど?」

精霊「(いえ、やっぱり子供ね。いきなり成長されては、私が困るもの)」クスッ


ガチャッ…


勇者「魔導師さん? どうしたんですか急に?」

魔導師「…………」

精霊「魔導師、何があったの?」

魔導師「勇者、精霊。話したい……いや、頼みたいことがある」


勇者「……頼み?」

魔導師「ああそうだ。私と、魔女の未来のことでな」

勇者「……話して下さい。僕に出来ることなら、やりますから」

精霊「安請け合いして後悔しても知らないわよ」

勇者「後悔しないために頼みを聞くんだ」

精霊「ハァ…だそうよ? 話したら?」

魔導師「有難い……」

魔導師「だが、そこまで複雑な話しではない、いたって単純な話しだ」

魔導師「私は、早ければ明日にでも捕らえられ、都にて公開処刑されるだろう」


勇者「………えっ?」

精霊「……術具で未来が見えたのね」

魔導師「ああ、私が辿るであろう未来、その結末だ」

魔導師「それ自体は、以前から知っていたんだが……」

魔導師「最近、術具から見える映像や内容が、急激に鮮明になってきたのだ」

魔導師「おそらく、時が迫っているからだろう」

勇者「……処刑される…理由は?」

魔導師「過去の戦を知らぬ人間による、魔神族と魔術師の混同が原因だ」

魔導師「文献もなく、一般的には紡がれていない歴史だ。仕方なかろう」

魔導師「決め手となったのは、召喚士の一件だと思われる」


魔導師「召喚士は、元は人間であった魔術師だ」

魔導師「これが原因で、魔術師に対する不信感は更に増した」

勇者「……更に?」

魔導師「魔神族が現れる以前、私のように公に出ないような魔術師は忌み嫌われる存在だった」

魔導師「表に出られない理由があるばすだ。奴等には、何か良からぬ企みがあるのやもしれん」

魔導師「人は我々のような魔術師を、黒魔術師と呼称している。いや、蔑称か……」

魔導師「広く知られる魔術、特に治癒術などは医療として用いられ、認知されている」

魔導師「そういった場で活動し、公になっている魔術師を、彼等は白魔術師と言う」

魔導師「黒魔術師と呼ばれる我々は、来るべき時の為、独自に魔術を研究してきた者だ」


魔導師「どうやら、それが仇になったようだ」

魔導師「元々魔術師に対して疑念反感を持っていた者が、先の一件で加速度的に暴走し始めたのだ」

魔導師「北王の判断は迅速だ、今や大多数の魔術師が捕縛されていることだろう」

魔導師「全ては民衆の混乱を鎮める為だ。そして、見せしめに選ばれたのが私なのだよ」

魔導師「同胞の中の誰が口を割ったかなど、この際はどうでもよい」

魔導師「調べる必要もない」

魔導師「これは、既に決まったのだ。最早、覆すことなど不可能だ」

魔導師「黒魔術師の長とも呼べる悪しき魔術師を処刑し、以降黒魔術の使用の一切を禁ずる」


魔導師「それが、民衆の望みなのだ……」

魔導師「今や魔神族だけでなく、街にいる魔術師までもが怖れられているからな」

魔導師「疑念は疑念を呼び、最悪の事態を招く、その前に消し去るつもりなのだ」

魔導師「私を、黒魔術師を処刑することでな……」

魔導師「そうしなければ、暴走する民衆の心が鎮まることはないだろう」

魔導師「北王にしてみれば楽なものだ。一人の犠牲で民衆を救えるのだから」

魔導師「おそらく、私が抵抗しないことも分かっての決断だろう」

魔導師「私が抵抗し、兵士を殺害すれば、魔術師全体が処刑の対象となる」

魔導師「やはり、魔術師は危険極まりない存在である。一刻も早く排除すべきなのだ……とな」

魔導師「ただでさえ化け物共に怯えながら暮らしている者には、我々は脅威でしかない」


魔導師「これより先も魔神族は現れる」

魔導師「だからこそ、魔術師の全滅、或いは人間同士の戦。それだけは絶対に避けなければならない」

魔導師「まして、今の私には弟子がいる」

魔導師「あの子が衆目に晒されながら処刑されるなど、私には耐えられん」

魔導師「抵抗出来るはずがない……」

勇者「………頼みとは、魔女のことですね」

魔導師「そうだ。あの子を、東部へ連れて行って欲しい」

魔導師「私が処刑された後にも、民衆による大規模な魔術師狩りが行われる可能性もある」

魔導師「魔術師というだけで手当たり次第にな」

魔導師「彼等から見た魔術師は、忌むべき魔神族の手下、裏切り者だ……」

魔導師「だから頼む、あの子を連れて行ってくれ」


勇者「出来ません。僕は、あなたを助けます」

精霊「勇者!? あなた、自分が何を言っているのか分かってるの!?」

精霊「今まで積み上げた信頼を、想いを全て失う可能性だってあるのよ!?」

精霊「民衆の敵を庇い、他国で問題を起こせば、当然東王にも批難の声が上がる!」

精霊「勇者は東部に属している。それが各国の認識なの!あなただって分かっているはずよ!」

精霊「分かっているのなら、他国の問題に首を突っ込むのはやめなさい」

精霊「これは、あなた一人で決断を下していい問題じゃないわ」

勇者「……信頼って言ったけど、それは誰から得た信頼だ?」


精霊「それは…あなたを見た人々

勇者「そんなもの、僕の目には見えない」

勇者「期待や妄想によって作られた偶像なんて、どうなろうが知ったことじゃない」

勇者「第一、信頼されたいから戦ってるわけじゃない。人々の命、平和の為だ」

勇者「これから僕が行うことは、この国の人々に強く批難されるだろう」

勇者「僕自身の立場も危険になる。君の言うように、おそらく東王様も……」

勇者「それでも、僕は自分の出来ることをやる」

勇者「魔術師狩りなんていう行為が正当化され、推奨されでもしたら、とんでもないことになる」

勇者「いずれ、その行為は国境を越え、各国に多大な影響を及ぼすだろう」


勇者「そうなる前に、終わらせなければならない」

勇者「先の理由から、現在、魔術師達は抵抗出来ない状態にある」

勇者「なら、他の誰かがやるしかない。魔術師ではない、別の人間が……」

勇者「言葉での説得は不可能だ」

勇者「今の状態で魔術師の必要性を唱えても、聞く耳は持たないだろう」

勇者「なら戦うしかない」

勇者「これは、あくまで僕個人の行動であり、東王様の命令でも何でもない」

勇者「僕は国に仕えている騎士でもなければ、兵士でもない。何をしようと、全て僕の責任だ」

勇者「君の言う通り、民衆の敵を庇う行為は間違ってる。でも、それは今だけだ」

勇者「今行われようとしている正義は、後に大きな過ちとして人々の心に刻まれる」

勇者「多くの死者を出した悲惨な出来事として、後世に語り継がれるだろう」

勇者「それを防ぐためなら、これから起こす行動が間違いだと糾弾されても構わない」


精霊「勇者、駄目よ。あなたが、それをしてしまったら……」

勇者「精霊、間違ってからじゃ遅いんだ!君にだって分かるだろう!!」

勇者「今やらなければ、被害は魔術師だけに留まらない!!」

勇者「最悪の場合、一般人が嫌疑を掛けられ処刑されることだって起こり得るんだ!!」

勇者「そうなれば東部北部の問題じゃない、世界が大混乱に陥る。魔神族と戦う依然の問題だ……」

勇者「魔導師さんの言っていた通り、人間同士の戦いは絶対に避けなければならない」

勇者「それに、この一件は誰かが扇動してるとしか思えないんだ。魔術師の存在を邪魔に思う誰かが……」

勇者「あまりにも流れが早過ぎる。作為的で、用意されていたかのように感じる」


勇者「召喚士の一件が北部全体に伝わり」

勇者「魔術師に対する人々の疑念反感が増え、民衆は暴動寸前……」

勇者「北王は次々と魔術師を捕らえ、一人の魔術師を犠牲にして、民衆の不安を取り除く」

勇者「情報の伝達、民衆の心の動き、北王の対応、全てが早過ぎる」

勇者「召喚士を倒してから、まだ数日と経っていないんだ。これは明らかに異常だ」

勇者「魔導師さんだって、本当は違和感を覚えたはずです。あなたが気付かないはずがない」

魔導師「………………」

勇者「残された時間は少ない、僕はこれから都にへ向かう」

勇者「都は街を過ぎればすぐそこだ。僕の脚なら、今夜中に着く」ザッ


精霊「勇者!待ちなさい!!」

勇者「魔導師さんの話しが全て事実なら、一刻も早く都の現状を把握しなければ手遅れになる」

勇者「大事な人を失い嘆き苦しむ人を、これ以上増やすわけにはいかない」

勇者「これは世界を左右する事態だ。後々になって、あれは間違っていた、では済まない」

勇者「そんなこと、させてたまるか。何があっても止めてみせる」ガチャッ


バタンッ!


精霊「……魔導師、これも見えていたの」

魔導師「先程、話した通りだ。次々と捕らわれる魔術師達、監獄、処刑場、熱狂する民衆……」

魔導師「私の最期、死の瞬間、泣き叫ぶあの子の姿、それだけだ……」

魔導師「他には何も見えなかった」

魔導師「……勇者がどんな行動を起こそうと、結末は変わらない」


精霊「なら何故、勇者に話したの?私にだけ伝えておけば済むじゃない」

精霊「魔女が狙われているから、しばらく東部に匿って欲しい……とかね」

精霊「勇者がどんな行動を起こそうと結末は変わらない? 本気で言っているの?」

精霊「あなたは勇者に期待してる。あの子なら、未来を変えられるかもしれないと……」

精霊「違うかしら?」

魔導師「私が抵抗し、囚われの魔術師達を解放するのは容易い」

魔導師「だが、人間と魔術師は別たれ、人間同士で争うことになるだろう」

魔導師「逃亡すれば、他の魔導師が処刑され続ける。抵抗しようがしまいが、結果は同じだ」

魔導師「お前の言う通りだ。私は、勇者なら変えてくれるのではないかと考えた」


魔導師「先程も言ったが、近頃、術具による未来の断片映像が鮮明になっていた」

魔導師「私は死期を悟り、覚悟を決めたつもりでいた」

魔導師「そんな折だ、お前と勇者が突然現れたのは……」

魔導師「覚悟が揺らいだよ。あの子だけでも逃がすつもりが、共に生きたいなどと……」

精霊「なら最初からそう言えば良かったじゃない、勇者が動かないはずがないもの」

精霊「魔導師に対する急激な周囲の変化。その裏に誰がいるのか分からないの?」

魔導師「何度も調べたが何も掴めない、何度探ろうと無駄だった……」

精霊「何か見落としがあるはずよ、何もないなんて有り得ない」

精霊「魔導師、もう一度、術具を見ましょう。必ず何かあるはずよ」


魔導師「……精霊よ、済まない」

精霊「勇者のことを謝っているのなら、気にしなくていいわ」

精霊「ああなったら、誰が何を言おうと止められはしないもの……」

精霊「………彼女はどうしてるの?」

魔導師「既に眠らせてある。起こした方がよいか?」

精霊「ええ、彼女の力も借りたいわ」

精霊「それに、今のうちに全て話しておいた方がいいでしょ?」

魔導師「……そうだな。今話さなければ、機会を失うかもしれん」


>>>>>

勇者「深夜とはいえ、何だか妙な静けさだ……ここが収容所か……!!」バッ


ーー今日だけでも数百人だろ?
ーーああ、今の収容所は魔術師だらけだ。

ーーふあぁ…眠い。あの人、まだやってるのか?
ーーああ、あれは最早拷問だよ、酷いもんだ。

ーー神聖術師様だろ?あの人、綺麗だよなぁ。
ーー確かにな、やってることは相当えげつないが

ーーお前等、きちんと見張りをしろ。
ーーいつ黒魔術師が来るかも分からんからな。


勇者「……ゴーレム、バラバラになって、確認出来る見張りを全員気絶させてくれ」ガヂッ


バシュッ…ゴッ! ドサッ…

勇者「ありがとう、助かったよ」ガヂッ

勇者「魔術師が囚われているのは魔導師さんの情報通り、間違いないな」

勇者「でも神聖術師は聞いたことがない。神聖術なんて、本にも書いてなかったはずだ……」

勇者「魔力も感じない、魔術師じゃないのか?」

勇者「……とにかく、内部を探ってみるしかなさそうだな」タッ


ーー見張りがやられてる!侵入者だ!
ーー姿は見たか!?

ーーちらっとしか見てないが、おそらく一人だ
ーーまさか、例の魔術師か?

ーーいや、背格好からして、あれは女じゃない。
ーー捕らえた奴等の仲間か?

ーー違うな、魔術を使った形跡はない。
ーーやられた見張りも殴られたと証言してる。

ーーとにかく捜すぞ!神聖術師様に何を言われるかわからん。
ーーまだ内部には侵入してないらしい、収容所近辺を捜索する。


勇者「そのまま動き続けてくれ。鉢合わせたら気絶させるだけでいい」

勇者「僕は今から収容所に入る。出来るだけ派手に頼む」ガヂッ

勇者「……これは…凄い数だ。この人達、みんな魔術師なのか……!!」ダッ


ーーかはッ…
ーーおい、どうし…うぐぁッ…


勇者「ふぅ…陽動に気付かれる前に、皆を解放しないとな」

勇者「でも、短期間でこれだけの人数を捕らえるなんて……」

ザシュッ!

勇者「ぐッ!?」

勇者「(何だ、この威力は……魔力に耐性があるのはずなのに、容易く切り裂かれた)」

神聖術師「これはこれは、勇者様じゃないですか。駄目ですよ、悪戯は」

勇者「(何故、僕だと分かる。体が変わってからは、誰とも…)」


神聖術師「何故分かるのか疑問に思っているでしょうが、答えは実に単純なこと」

神聖術師「君が召喚士から救った街の住民、彼等から風貌を聞いただけですよ」

勇者「……さっきの風は魔術じゃないな」

勇者「お前は一体何者だ。北王は何が目的で魔術師達を捕らえてる」

神聖術師「目的などありません、ただの保身です。東王と違い、北王は無能ですから」ニコッ

神聖術師「それに魔術など、魔神族の模倣に過ぎない。言うなれば邪悪な力……」

神聖術師「それを扱う者もまた、邪悪な人間。だからこそ人々は怖れ、忌み嫌う」

勇者「魔術によって救われた人もいる。魔術は、人の為にある力だ」

神聖術師「私は救われなかった。寧ろその逆、私は魔術に全てを奪われた」


神聖術師「魔術は滅びる」

神聖術師「魔導師の死によって滅びが始まり、魔術師は世界から消え去る」

神聖術師「ただ、魔術から神聖術に移り変わるだけです」

勇者「魔導師さんを知っているなら分かるだろう。あの人は必要な人だ」

神聖術師「確かに必要です。魔術師の頂点に位置するような方ですから」

神聖術師「ですが、これから先に必要なのは彼女ではなく、私だ」

神聖術師「魔神族を討つのも、あなた方のような完全種を補助するのも、この私」

神聖術師「魔術は最早必要ない」

勇者「それによって何が起こるか分かってるのか?」


神聖術師「はい?」

勇者「お前の行動が、世界にどれほどの混乱を招くか理解しているのか!?」

勇者「世界中で大勢の人間が死ぬ!魔術師と人間の争いも起きる!!」

勇者「魔術師というだけで、善良な人々が殺されるんだぞ!!」

神聖術師「別に構わないさ。そもそも、それが私の望みなのだから」

神聖術師「魔術師であること……殺される理由など、それだけで充分だ」

勇者「……お前、本気で言ってるのか」

神聖術師「私がふざけているように見えるか?これは冗談でも何でもないぞ?」

神聖術師「だがまあ、魔導師が君を気に入った理由は分かる気がする」


勇者「……何を言ってる。何故魔導師さんが出てくるんだ」

神聖術師「いや、可愛らしいと思ってね。気を悪くしないで欲しいな」

神聖術師「それに、排斥すべきは魔術師のみ。完全種に敵意はないよ」

神聖術師「勇者、私と共に魔神族を倒そうじゃないか」

勇者「意味が分からない。何なんだ、何故そこまで魔術を、魔導師さんに固執する」

神聖術師「フフッ、まだ分からない? ほら、私の顔をよく見てごらん?」

神聖術師「どうかな? 誠に遺憾だが、似ているだろう」

勇者「お前…!? だったら何で…」

神聖術師「兵士が来た。済まないが眠ってくれ」カッ


ドズンッ…


勇者「…がっ…ぅ…」ドサッ

神聖術師「ごめんよ、もう話している時間はないみたいだ」

神聖術師「私の仕事が終わったら、今後についてゆっくり話そう」


神聖術師「……さあ、部隊を召集しろ」

神聖術師「魔導師が希望の象徴である勇者様を誑かし、収容所を襲撃させた」

神聖術師「場所は既に把握している。今すぐに、魔導師が住む洞窟へ向かう」

勇者「…やめろ」ザッ

神聖術師「何をしている。貴様等は早く行け」

神聖術師「どうやら勇者様は、まだ魔術によって操られているようだ」

勇者「悲しむ人がいる。それくらい分かるだろ? 今からでも遅くない、やめるんだ」フラッ

ガシッ…

神聖術師「大丈夫かい? しかし、立ち上がれるとは驚いたな」

勇者「……こんなことをして何になる?」

勇者「余計な混乱や恐怖を招くだけだ、魔神族どころじゃなくなる」

勇者「一体、過去に何があったんだ? 教えてくれ、話さなければ分からないだろ……」ガクンッ

神聖術師「はぁ…なんて愛おしい子だ」

神聖術師「君とは、もっと早く会いたかったな。妹が羨ましいよ。憎いほどにね……」

ここまで、また明日。
感想ありがとうございます。


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魔導師「外部から魔力で操作されている様子もない。術具は正常に起動している」

魔導師「映し出される映像にも、特に変わりはないな」

精霊「断片的とはいえ、ちょっと変よ。何故、結末が二通りあるの?」

精霊「一つは処刑場にいるあなた。もう一つは地面に倒れ伏すあなた」

精霊「二つ目の場所は……分からないわね」

精霊「でも、この二つは明らかに別の場所だわ。これは何故?」

魔導師「だから言ったのだ。結末は変わらんと……」

魔導師「前者は捕らえられた私の姿、後者は逃げた場合の私の姿だろう。おそらくな」

魔女「先生、もう一度見せて下さい。お願いします」


魔導師「……いいだろう」

ジジッ…ザッ…ザザザ…

魔女「……違う」

精霊「何が違うの?どこにも異常は…」

魔女「精霊もさっき言ってたでしょ、二通りあるのは変じゃないかって」

精霊「ええ、確かに言ったけれど」

魔女「いい?処刑場の場面は遠目から、先生が倒れている場面は、とても近くから見える」

魔女「断片的とはいえ、ここまで映像に差異があるのはおかしい」

魔女「これは、二通りの未来を映しているんじゃなくて、違う人物を映してるんじゃないの?」

魔女「服装だって先生が着てるようなものじゃない、こんな服は見たことないし」


魔導師「いや、仮に私に変装していようと、魔力も何もかもが違う」

魔導師「映し出されたのは私以外の何ものでもない。それこそ私が二人…」

魔女「……先生?」

魔導師「いや待て、二人だと……いや、そんなことは有り得るはずがない」

精霊「何か心当たりでもあるの?」

魔導師「随分昔に亡くなったが、私には姉がいたんだ。双子の姉がな」

精霊「……亡くなったのはいつ?」

魔導師「正確には分からん」

魔導師「十年二十年の単位ではない。何せ、私の師が存命していた頃だからな」


魔導師「亡くなったのは、二人共に修業していた辺りだったか?何せこの私が、まだ子供の頃だ」

精霊「……それは…随分前ね。何故亡くなったの?」

魔導師「姉は強い魔力を持ち、素質もずば抜けていた。将来を期待された優れた人物……」

魔導師「魔術に関して言えば、十代でありながら既に師を超えていた。正に逸材だ」

魔導師「だが、姉には驕りがあった。己の力だけを信じ、更なる力を求めた」

魔導師「姉は、魔術師に最も必要なものを捨てたのだ」

魔女「他者を想うこと、癒すことを、ですか」

魔導師「そうだ。あろうことか自己を満たす為だけに、魔術に没頭し始めたのだ」


魔導師「姉によって新たに生み出された魔術は、確かに素晴らしかった」

魔導師「当時で言えば、斬新且つ革新的、正に天才と呼ぶに相応しい業績だ」

魔導師「それを他者の為に行っていたのなら、魔術師を束ねる偉大な導師となっていただろう……」

魔女「じゃあ、お姉さんは……」

魔導師「魔術師としては殺された。師が、姉の魔力を奪ったのだ」

魔導師「しかし、奪った魔力は師の容量を大幅に超えていた。姉の魔力は、それ程に桁外れだった」

魔導師「姉は抵抗した。私の魔力すら奪い、師を殺害しようと……」

魔導師「だが、その抵抗は無駄に終わった」

魔導師「死を覚悟した者の前には、全くの無意味だったよ」


魔導師「その後、師は許容量を超える大量の魔力をその身に取り込んだが為に、亡くなった」

魔導師「姉は呪詛とも言うべき言葉を散々喚き散らし、姿を眩ませた」

魔導師「百年以上は経っているはすだ。生きているはずがない、魔力を全て失ったのだからな」

精霊「そうね。確かに自分の魔力は全て失った。けれど、あなたの魔力は?」

魔導師「馬鹿な、あんな微量な魔力で何が出来るというんだ。魔術は勿論、不老など施せるわけがない」

魔導師「普通の人間として生きていく以外に道はないはずだ。如何なる天才でも、そう悟るさ」

魔導師「姉にとって、それは屈辱以外の何ものでもないだろうがな」

精霊「そんな才気に溢れ、力を求め続けた人物が、簡単に諦めると思う?」


魔女「じゃあ、お姉さんは一体どうやって生き延びたの? 失った魔力を取り戻したとか?」

精霊「それは無理よ。全てを奪われ、奪った人物も既に亡くなっているのだから」

精霊「けれど、方法ならある。強大な魔力がなくとも、魔術を使う方法が……」

魔導師「まさか姉は元素を…だが何故、それはあまりに危険過ぎる」

精霊「凄まじい執念ね。力を失いながら生きるより、僅かな可能性に賭けて死んだ方がマシ」

精霊「彼女はそう思ったはずよ」

魔導師「成功したというのか? お前でも無理だったことを、姉は成し遂げたのか?」

精霊「……彼女の中には、あなたの魔力が僅かながら残ってる。そして、あなた達は双子」

精霊「成功したと見て間違いないでしょう。だから、術具は二つの未来を映し出した」

精霊「一人はあなた、もう一人は姉。術具は、あなた達双子を一つとして認識している」


魔女「でも、どっちが先生かなんて分からない。服装が違うだけで、他には何も……」

精霊「どちらが姉か、どちらが魔導師か。それを考えるのは後よ」

精霊「魔導師、彼女の目的は?」

魔導師「……おそらく復讐だ」

魔導師「己の力を奪った魔術に対する憎悪、私には殺意を抱いている」

魔導師「私を処刑に選んだのは、優れた魔導師だからではない」

魔導師「姉は許せなかったのだ。自分と同じ姿をした存在が、今や魔術師の頂点にいることを」

魔導師「私が立っている場所は、本来なら姉が立つべき場所だった」

魔導師「功績や賞賛。それら全ては姉が手にするはずだったものだ……」


魔導師「それを同じ姿をした妹が奪った」

魔導師「その想いは、怒りや嫉妬などという言葉で片付けられるものではないだろう」

精霊「なら、彼女は魔術そのものを完全に滅ぼすつもりね。自分が唯一の存在になる為に……」

精霊「でも、マズいわね。そうなると勇者が心配だわ」

魔女「えっ? 確かに人間の魔術なら効果絶大とはいかないまでも、ある程度は通用する……」

魔女「あれだけ耐性が高いんだから、大丈夫なんじゃないの?」

魔導師「いや、我々にとってはそうかもしれんが、勇者……完全種には絶大なる威力を発揮する」

魔女「だけど、耐性を完全に無効化するには、魔力を極度に薄めなきゃならないんですよ?」

魔女「それには尋常じゃない量の元素を使わなければならない」

魔女「そんなことをしたら、何が起こるか……」


精霊「薄める必要はないのよ」

精霊「だって、そもそも魔力が薄いのだから」

精霊「今の彼女には、通常の人間以下の微量な魔力しかないはずよ」

魔女「それでも危険です。元素を多量に取り込めば、自分まで元素に……!!」

精霊「……そうね、自分まで元素と同じようになってしまうわ。失敗すればね」

精霊「成功すれば絶大な力が手に入る。彼女は成功し、元素を主とした魔術を手に入れた」

精霊「魔力7・元素3。通常、魔術を使う場合は魔力の割合の方が多い」

精霊「極度まで魔力を薄めたところで、4割くらいが限界なのよ」

魔導師「しかし今の姉の場合、凄まじい量の元素を行使出来る」


魔導師「それ程の量であれば、本来無害である元素も劇薬に変貌する」

魔導師「1割だろうが何割だろうが、魔力さえあれば魔術は使用できるからな」

魔導師「極度に薄い魔力だ」 

魔導師「勇者の魔力耐性をすり抜け、元素が容易く貫くだろう」

魔導師「魔に耐性を持つ人間、完全種を癒すべく生まれたのが魔術だというのに……」


神聖術師「その力を、私は神聖術と名付けた。魔術と対をなすものとしてな」ザッ


魔女「!?」

精霊「……………」

神聖術師「初めまして、偉大にして高名なる魔術師であった者よ。お目にかかれて光栄だ」


神聖術師「まあ、あなたは失敗し、そのような様になっているようだが、尊敬している」

神聖術師「古き時代において、あなた程に研究熱心な魔術師はいなかっただろう」

神聖術師「自分をも実験に使うなど、当時で言えば異端者、狂人だ」

精霊「いいえ、それはあなたも同じ。私と同じ、魔術に取り憑かれた哀れな女よ」

神聖術師「私は成功した。あなたとは違う。人間として確かに存在しているのだから」

魔導師「……姉上」

神聖術師「黙れ。私を見捨てたのは師だけではない、お前も同じだ」

神聖術師「お前も魔術も、報いを……裁きを受けるべきだ」

神聖術師「魔術によって全てを奪われた、この私の手によってな」スッ


魔女「が、ッ!?ガッ…ハッ…ハッ…ゲホッ…」ガクンッ

魔女「(体の中を元素が駆け巡ってる。一種類じゃない、ぐちゃぐちゃだ)」

魔女「(こんなの、魔術に変換出来ない。でも、何とか排出しなきゃ…)」

神聖術師「これ以上苦しめたくないなら、大人しく付いてこい」

神聖術師「あなたは、くれぐれも余計なことをしないでくれ。動けば、その娘を殺す」

精霊「…………」

魔女「ハッ…ハッ…ハァ…」

魔導師「もう止せ!抵抗はしない!!」

神聖術師「そうか、ならば杖を足下に置き、こちらに来い。早くしろ」


魔導師「分かった」コトッ

コツ…コツ…コツ…

魔女「ハァ…ハァ…ッ!!」カッ


ゴオォォォォッ!


神聖術師「なにッ!?」

魔女「あの程度でやられてたまるか!私だって魔術師なんだ!!」

魔女「先生は渡さない!双子の姉さんだろうと、処刑だなんて絶対にさせない!!」

神聖術師「(体内元素を全て炎に変換、排出。多量の元素を排出するには同量の魔力が必要だ)」

神聖術師「(類い稀なる才、機転の良さ、持って生まれた強大な魔力……)」

神聖術師「……お前を見ていると、腹が立つ」

魔女「それは私もだよ。先生と同じ顔なのに、どこも似てない」


魔女「あんたさ、自分が一番だと思ってるんじゃないの?」

魔女「昔から一番じゃないと気が済まない質なんでしょ?」

神聖術師「……力の差が分からないようだな、実に傲慢だ」ズオッ

魔導師「やめろっ!!!」カッ


バヂッ! ドガンッ!


魔女「ッ!!」

神聖術師「……弟子を溺愛しているようだな。反吐が出る」

魔導師「何とでも言え……」

魔導師「私には何をしても構わない。ただ、その子には手を出すな」」

神聖術師「あの時のお前に聞かせてやりたいよ。血を分けた姉を見捨てた人物とは思えんな」


神聖術師「その子が大事か?」

魔導師「当たり前だ」

神聖術師「なら、今すぐ弟子に魔力を譲渡しろ。全てだ」

精霊「……あなた、一体何を企んでいるの?」

神聖術師「企んでなどいない。さあ、早くしろ」

魔女「そんなことしたら先生が…」

神聖術師「嫌なら私と戦え、確実に弟子は巻き添えを食うだろうがな」

魔導師「分かった。いずれは、そうするつもりだった。早まっただけだ」


魔導師「……魔女、手を握れ」

魔女「こんなの嫌です!だって、死んじゃうんですよ!!」

魔女「言いなりになるくらいなら、戦った方が…」

魔導師「洞窟近辺を兵士が囲んでいる」

魔導師「戦えば、魔術師に対する心象を更に悪化させるだけだ」

魔導師「私達が軽率な行動を取れば、全魔術師が危険に晒される」

魔導師「分かるな?」

魔女「分かりませんよ!逃げればいいじゃないですか!?」


魔女「他の魔術師なんて

バチンッ!

魔女「…あっ…」

魔導師「馬鹿者!お前は何を学んできた!?」

魔導師「それを口にすることが、どれほど罪なことか分かっているのか!!」

魔女「なら、先生はそれでいいんですか!?自分が死んで解決なんて……」

魔女「こんなの、嫌です…」

神聖術師「茶番はいい、さっさとしろ」

魔導師「…………」ギュッ

魔女「先生、やめて下さい。手を、離して下さい……」

魔導師「師として、上手く出来ていたか分からん。ただ、私はお前を愛している」


魔女「嫌です…先生……あんな奴に、何で…」

魔導師「どうやら、ここが私の死に場所らしいな。まさか自分の家だとは思わなかった」

魔導師「良く見れば、私が倒れていた地面と同じだな……まったく気付かなかったよ」

魔女「……先生…手を…離し

魔導師「魔女、楽しかったぞ」ニコッ


ズズズズ…


魔女「嫌だ!先生!先生!?ねえ、もうやめてよ!!」

魔導師「……ハッ…ハァッ…」ガクンッ

魔女「せんせえ…いやだよ」ギュッ

魔導師「…くっ…ハァ…ぅぐっ…」グイッ

魔女「せん…せえ?」

魔導師「……魔女…生きろ」

ドサッ…

魔女「あっ…うっ…うぅっ…いやああああああッ!!」


神聖術師「これでいい、これで準備は整った」

精霊「…………」

神聖術師「ああ、いたんですね。何もしないものだから忘れていましたよ」

神聖術師「いや……何も、出来ない、でしたね」

精霊「あなは、何を……」

神聖術師「考えても見て下さい。これから処刑する黒魔術師と私の顔が瓜二つ」

神聖術師「そんなこと、あってはならないでしょう? 私は神聖術師なんですから」

神聖術師「まあ、これで疑いを掛けられる心配もない。それに……」チラッ


魔女「…先生……先生…?…」

神聖術師「全ての力を受け継いだ者が、あの有り様ですからね。抵抗される心配もないわけです」

精霊「あなたは、最初からそれを狙って」

神聖術師「いいえ?最初からではありません」

神聖術師「彼女が、魔導師に強く依存しているのが分かったからです」

神聖術師「これなら、無力化した状態で、何の懸念もなく連行出来る」

神聖術師「魔導師も始末し、力を受け継いだ者は黒魔導師として処刑。いい考えでしょう?」

精霊「……救いようのない人ね」

神聖術師「救いなど求めていない。それより、私を哀れな女だと言ったな」


神聖術師「哀れなのはお前だ」

神聖術師「倒れ逝く者を目の前にしながら何も出来ず、見ているだけ……」

神聖術師「お前には悲しむ資格すらない、これを哀れと言わず何と言う」

神聖術師「人間でも魔術師ですらない、元素の集合体如きが……」ザッ

ガシッ…

魔女「ぁう…」

神聖術師「脆いな、実に脆い。まるで欠陥だらけの粗悪品だ」グイッ

神聖術師「目的は果たした。私はこれを連れて都へ帰還する」

精霊「…………」

神聖術師「あなたは、どうします?まあ、何をしようと構いませんが……」

神聖術師「ああ、勇者は無事です。何の心配もありませんよ」

神聖術師「では、私は急ぐので、失礼します」


ザッ…ザッ…ザッ…

魔導師「…………」

精霊「……あなたとも、これでお別れなのね。寂しくなるわ」



神聖術師「哀れなのはお前だ」

神聖術師「倒れ逝く者を目の前にしながら何も出来ず、見ているだけ……」

神聖術師「お前には悲しむ資格すらない、これを哀れと言わず何と言う」

神聖術師「人間でも魔術師ですらない、元素の集合体如きが……」ザッ

ガシッ…

魔女「ぁう…」

神聖術師「脆いな、実に脆い。まるで欠陥だらけの粗悪品だ」グイッ

神聖術師「目的は果たした。私はこれを連れて都へ帰還する」

精霊「…………」

神聖術師「あなたは、どうします?まあ、何をしようと構いませんが……」

神聖術師「ああ、勇者は無事です。何の心配もありませんよ」

神聖術師「では、私は急ぐので、失礼します」


ザッ…ザッ…ザッ…


魔導師「…………」

精霊「……あなたとも、これでお別れなのね。寂しくなるわ」

眠くて駄目だ。寝ます、また明日にします。
ありがとうございました。


完全種

魔神族の魔力に強い耐性がある。

並の魔神族であれば大した傷を負うこともない。

彼等は身体能力に特化され、治癒力も高く、魔神族を討つ力を持つ。

人間の魔術が通用するのは、魔力だけでなく、元素が含まれているため。

元素は耐性を無効化、貫通する。



完全種対魔神族

耐性10 魔力50
この場合、耐性を超えた魔力40のダメージ。


完全種対魔術師

耐性10 魔力1 元素40
耐性のない元素40のダメージ。
魔力は耐性を超えていないのでダメージはない。

耐性10 魔力20  元素20 の場合
耐性を超えた魔力10と元素20の計30のダメージ。


魔術師対神聖術師 どちらも限界100

魔力60 元素40   魔力10 元素90

魔術師は神聖術師に魔力50のダメージ
神聖術師は魔術師に元素50のダメージ


何だか頭がごちゃごちゃしてきたので、覚えやすいように簡単に書いておきます。
そんなに重要じゃないと思うけど、忘れるとあれなので書いておきます。お休みなさい。

余計わかりにくかったり、おかしいなと思う部分があったら、目を瞑って勘弁して下さい。お願いします。

ここおかしいなと思ったら言って下さい。
自分でも気付いてないかもしれないので……
度々すいません。


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北王「昨日の晩、魔術師に操られていたとはえ、君は大変なことをしでかした」

北王「見張りの兵士を昏倒させ、監獄に侵入。罪人である魔術師を解放しようとしたのだ」

北王「然るべき処罰を与えねばならないだろう。本来であればな」

勇者「……………」

北王「だが、君は勇者だ」

北王「異形種共に怯える民衆にとって、正に希望と呼ぶに相応しい存在」

北王「君がこれより我が国に所属し、神聖術師と共に異形種を討つと言うのなら………」

北王「此度の行いに目を瞑り、不問とすることも検討しよう」

北王「…ふぅ……この前、西部の軍が東王に泣きついたのは存じているな?」

北王「臨時ではあるが、いずれ西部は東部の支配下となるだろう」


北王「この事態は好ましくない」

北王「異形種の出現がなければ、絶対に有り得ない事態だった」

北王「もしかすると、東王は異形種騒動に乗じ、統一を目論んでいるのではないか」

北王「とまあ、こんな風に邪推してしまうよ」

勇者「東王は、そんな方ではありません」

北王「あくまで想像に過ぎない。そう険しい顔をするな……」

北王「だが、その最悪を想定した上で、君には我が国に所属して欲しい」

北王「自分の属しているのは北部だと、自らの言葉で民衆に宣言するのだ」


北王「いつまでも曖昧なままでは信頼は得られない。いずれ民衆の不安を招く」

北王「東王は、勇者は自由であるべきだ…などと言っていたが、それは大きな間違いだ」

北王「君のような力を持つ者は、国に尽くし、責任ある立場に就かなければならない」

北王「いつまでも所属不明の狩人では、色々と問題が生じるだろう」

北王「……今回のようにな」

勇者「北王様、何が言いたいのですか。はっきりと言って下さい」

北王「そう急くな。君自身の生まれは東部、それは知っている」

北王「だが、一個人としてではなく、勇者として所属している国はどこだ?」


北王「世間一般では、勇者は東部に属している者と考えられ、今や定着している」

北王「で、あれば……東王にも何らかの責任を取って貰わなければならない」

北王「これは至極当然のことだ。国を治める者として当然の義務」

北王「そうでなくては民衆が納得しない」

北王「王であれば尚のこと、納得のいく説明が求められる」

北王「武器とは管理するべきものであり、その所持者には責任があるのだ」

北王「ああ、武器というのは、あくまで例え話だ。気を悪くしたのなら謝罪する」


勇者「いえ、構いません。続けて下さい」

北王「……武器、兵器とは、どこにあり何を守るのか明確にすべきなのだ」

北王「勝手に動き回り、他国にまで被害を及ぼされては困る。違うか?」

勇者「要するに北部に在籍し、北部を守る存在となれ……そういうことですね」

勇者「だとしたら、お断りします。どんな処罰であろうと、甘んじて受けるつもりです」

北王「……何だと?」

勇者「私はどこにも属さない。ただ、人命と平和の為に尽くすだけです」

勇者「現在は東部に留まっています」

勇者「しかし、それは単に修業の為であり、東部に属しているわけではありません」

勇者「無論、東王に討伐命令を受けたことなど一度たりともない」


勇者「私は、個人で判断、行動しているだけです」

北王「……言いたいことは、それだけか?」

北王「お前が幾ら個人的な行動だと主張しても、我々は東部所属だと認識している」

北王「東王が、勇者は自由であり東部に所属している者ではない。我が国に責任はないと主張しても……」

北王「東王は責任を取らざるを得ない立場にいるのだ!それが分からんのか!!」

北王「王である私の許可もなく国へ入り!挙げ句監獄を襲撃した罪は重い!!」

北王「いいか!? 東部の兵器が、北部に被害と損害をもたらしたのだ!責任は東王にある!!」

北王「この事実に対し異論を唱える者など、誰一人としていない!!」

北王「東部に軍を差し向けても良い!勇者を使い領土を侵害したのだからな!!」


北王「これは、東王による明らかな侵略行為だ!!」

勇者「随分と歪な解釈だ。行き過ぎている。最早、妄想の域にあると言っていい」

北王「……黙れ。お前の起こす全ての行動には、それだけの影響、責任があるのだ」

北王「さあ、答えを聞かせてもらおうか」

勇者「何を言われようと断る。この力は支配するものでも、支配されるものでもない」

勇者「どの国にも属さないからこそ、多くの人々を救うことが出来る」

勇者「異形種が蔓延る中、国境や領土などと言ってられるか。これは世界が抱える問題」

勇者「入国審査などしてる場合じゃない、その間に苦しむのは我々ではなく民衆なんだ」

勇者「勇者がどうだ東王がどうだのと言ってる場合でもない、目を向ける場所を間違えている」


勇者「魔術師の件もそうだ」

勇者「彼等は人々の為に魔術を学び、人々の為に力を振るう」

勇者「彼等は異形種から人々を守っていた。魔術師狩りなど、愚かだとしか言いようがない」

北王「貴様……」

勇者「魔術師達は必死に耐え忍んでいるはずだ。この不当な行為、不当な処罰をな……」

勇者「何よりも待ち望むのは、疑惑が晴れること、人々が目を覚ますことだ」

勇者「彼等が抵抗しないのは、これ以上、民衆を不安にさせないためだ」

勇者「あなたなら止められた。真に民衆を想う王であれば、阻止したはずだ」

勇者「どんな口車に乗せられたか知らないが、あなたは道を誤った」

勇者「己の地位が脅かされるのを怖れているだけで、現実から目を逸らしたんだ」


勇者「大体、こんな脅しとも取れる要求をせずとも、言ってくれれば協力した」

勇者「あなたは民衆のことなど考えていない」

勇者「欲するのは平和ではなく、武器と権力、そして他国の領地を奪う理由だろう」

勇者「今は疑うのではなく、信頼を築く為に歩み寄るべきなんだ」

勇者「他国と争うことが、どれだけの被害をもたらすか考えていないのか」

勇者「これは民衆の為だ……などと何度も言ってるが、その言葉には何の色もない」

勇者「こんな事態になるまで放置しておきながら何を言う。笑わせるな……」

勇者「これは間違いなく、世界を混乱に陥れる犯罪行為だ」

勇者「お前は王として、その責任を取る覚悟があるんだろうな?」


北王「演説は、それで終いか?」

勇者「……目を凝らし、お前を見る者達の瞳をよく見てみろ」

北王「もうよい、話にならん。そいつを監獄に、独房に戻せ」

シーン…

北王「声が小さくて聞こえなかったか? 早くしろッ!!」

ガシッ…グイッ…ザッ…ザッ

勇者「……北部も、まだ捨てたものじゃないな。どうやら僕の声は、まだ届くらしい」

勇者「北王、僕は決して諦めない。何があろうと、必ず止めてみせる」

ガチャ…バタンッ…

北王「……ッ…東王は勇者を使い、国家転覆を図った。東部に軍を出す」

ザワザワ…

北王「よく聞けッ!! これは正統な報復、正義だ!直ちに戦の準備に掛かれッ!!」




近衛兵「………勇者さん、もう大丈夫です」ボソッ

勇者「はぁ、ああいうのは苦手なんだ。やっと力が抜ける」


近衛兵「(まるで雰囲気が違う。大人びた青年かと思えば、時折子供のような表情を見せる)」

近衛兵「(……恐れるべき存在なのに、本当に不思議な人だ)」

勇者「あの、昨晩は監獄で僕の言葉を信じてくれて、ありがとうございました」

近衛兵「いえ、いいんですよ。先程の北王との会話で、私は確信しました」

近衛兵「勇者さん、あなたの行動は、やはり正しかった」

近衛兵「我々は誤った情報を鵜呑みにして、魔術師を拘束してしまった。情けない限りです」

勇者「誤りに気付いたのなら、これから正すことが出来る。悲観しないで下さい」

近衛兵「手枷をしているのは勇者さんの方なのに、何だか罪人のような気分です」

勇者「じゃあ、手枷外しましょうか?」ニコッ

近衛兵「やめて下さい……我々では手も足も出ませんから」


勇者「ははっ、冗談ですよ」

勇者「このまま何もやらずに逃げたりしない。それこそ罪だから」

近衛兵「……勇者さん?」

勇者「……魔術師達を解放した上で、僕の犯行だと自白、投降するのが一番良かった」

勇者「僕は犯罪者になるが、勇者という人物が魔術師を解放した事実は波紋を呼ぶ」

勇者「民衆が、この現状に疑問を持つきっかけを作りたかった……失敗に終わったけど」

近衛兵「地位や名誉にまるで関心がないんですね。益々不思議です」

勇者「そんなものに拘ってたら何も出来ないですよ。そんなものは、いつか自分を束縛するだけだ……」

勇者「あの、処刑執行の日は決まったんですか」

近衛兵「処刑は明日の正午。勇者さん、我々にも手伝わせて下さい」


勇者「それは有難いです」

勇者「でも、あなた達まで黒魔導師の手先だと揶揄され民衆に……」

近衛兵「構いません。この一件は、我々兵士が命を賭けてでも阻止しなければならない」

近衛兵「この国の兵士として、民を守る存在として当然のことです。協力します」

勇者「……兵士さん…ありがとうございます」

近衛兵「第一、あんな子供を公開処刑して何になるというんだ」

勇者「子供?」

近衛兵「はい。子供と言っても、勇者さんと同じ年頃の……確か名前は、魔女…だったかな」

近衛兵「勇者さんが独房に移された後に、彼女が連行されて来たんです」

近衛兵「神聖術師の命令で、彼女は別棟に収容されています」


勇者「何故魔女が……彼女の様子は」

近衛兵「酷く憔悴しているようで、何を言われても、ぴくりとも反応しないんです」

近衛兵「時折叫んで、黙ったかと思うと、先生、先生とだけ呟いて……」

近衛兵「あの子が黒魔術師だなんて、私にはとても信じられない」

近衛兵「全てを失い、生きる目的さえも見失っているようでした」

勇者「何があったか分かりますか」

近衛兵「いえ、何せ一言も話さないので……」

近衛兵「それに、彼女を捕縛したのは神聖術師本人ですから」

勇者「(魔女の様子からして、何があったのかは想像出来る。魔導師さんが、亡くなったんだ)」

勇者「(おそらく、魔女は全てを諦めている。生きることすら……)」

勇者「(何が嘆き苦しむ人を増やさないだ。僕は、相変わらず口先だけの男だな)」

勇者「(ろくに調べもせず収容所に……挙げ句、この有り様。あの人なら、上手くやっただろうな……)」


近衛兵「でも、何故です?」

勇者「……えっ、何がですか?」

近衛兵「あなたの力なら、今すぐに拘束を解いて逃げられる」

近衛兵「実は昨晩から気になってたんです。何故そこまで? これは他国の問題なのに……」

勇者「他国だとか関係ないですよ」

勇者「助けを求める人がいるなら助けたい。助けられる力があるのなら、喜んで使います」

近衛兵「……本当に、あなたが勇者なんですね」

勇者「ははっ、疑ってたんですか?」

近衛兵「いえ、そんなことは……」

近衛兵「ただ、本当にこんな人がいるなんて思いもしませんでした」


勇者「?」

近衛兵「その、何というか想像上の生物、みたいなものだと思ってましたから」

勇者「そんなことないですよ。僕にだって苦手なものはあります。人と何も変わらない」

近衛兵「そういうところが変わっているんです」

近衛兵「敵兵とも呼べる人間を真剣に説得し、王に対して毅然とした態度で立ち向かう」

近衛兵「私には、とても……」

勇者「僕の言葉を信じて、監獄の兵士達を一生懸命説得してくれたじゃないですか」

勇者「魔術師狩りを疑問に思いながら、行動することの出来ない人の心に訴えかけた」

勇者「それだって、とても勇気のいる行動です」

近衛兵「しかし、賛同してくれる兵士がいるとはいえ、民衆を静められるかどうか……」


勇者「魔女を救うことは出来ても、民衆が鎮まらなければ問題解決にはならない」

勇者「召喚士の一件が疑念を加速させた。もしかしたら、街にいるあの魔術師もそうなのではないかと」

勇者「更に加速させたのが神聖術師の存在です。あれは新たな魔術、魔術を滅ぼす魔術……」

勇者「対峙したとして、無力化出来るか分からない……」

近衛兵「それでも、やるのでしょう?」

勇者「はい、僕がやらないと意味がないですから。今日一日、じっくり考えてみます」

勇者「明日の正午までは、独房で大人しくしてますから」

近衛兵「頼みますよ? 我々では止められそうになはいので……」

近衛兵「何かあれば監視に伝えて下さい。話しは通してあります」


勇者「分かりました」

勇者「それと、北王の性格なら怒りに任せて軍を動かすかもしれない」

近衛兵「その件について一つ。関連してるかどうか、まだ憶測の域ですが…」

近衛兵「魔術師狩り以前は、北王に民衆の不満が募っていました」

勇者「何があったんです?」

近衛兵「先代北王の時より、側近として長らく仕えていた方が亡くなったのです」

近衛兵「現北王にすれば、もう一人の父であり良き理解者」

近衛兵「先代が亡くなられた後、北王を傍らで支えてきたのは、あの方でした」

近衛兵「以前は思慮深く、異形種が初めて出現した時は、自らの声で民衆に事実を伝えました」

近衛兵「様々な憶測や不安を招かぬ為の配慮だったのでしょう」


近衛兵「支えである存在を失いながらも耐えていたのでしょうが、北王はまだお若い」

近衛兵「時が経つにつれ、北王は徐々に変わっていきました……」

勇者「変わった、とは?」

近衛兵「異形種の増加により、自国を守るという重責は増すばかり」

近衛兵「先程申し上げた通り、北王はまだお若い」

近衛兵「先代存命中の頃は友好的だった諸侯貴族が、徐々に反発の意を唱え始めたのです」

近衛兵「それからです、王権を振りかざして黙らせるような、強行姿勢をとるようになられたのは……」

勇者「今だからこそ結束が必要だというのに、内部で揉めるなんて……」

近衛兵「ええ、ですので民衆は勿論、陰ながら北王を支えてきた方々は……」

勇者「助力しようにも北王は耳を貸さない。彼等は、内乱を企てた」


近衛兵「…はい、つい先日の魔術師狩りが行われるまでは……」

勇者「言いたくはないですけど、ぼろぼろですね。神聖術師がいなければ今頃は……」

近衛兵「内乱が起きていたでしょうね。ですが、神聖術師に救われたわけではない」

近衛兵「ただの先延ばし、以前より悪化したと言ってもいいでしょう」

近衛兵「昨晩、勇者さんが言ったように、神聖術師は魔術師根絶のきっかけが欲しかっただけでしょう」

近衛兵「このまま進めば北部は更に混乱し、内部から崩れていくことになる」

近衛兵「今の民衆は魔術師を見ていますが、いずれは王にも……」

勇者「何とかして目を覚まして貰わなければ、西部と同じ結果を生む」

勇者「僅かでも王で在るべき者の責任…良心があるなら望みはあるはずです」


勇者「その為には…

近衛兵「分かっています。事実を知る者、我々が行動しなければならない」

勇者「………でもそれは

近衛兵「勇者さん、そろそろ収容所です。我々は我々で、やれることをやっておきます」

勇者「………っ…はい、分かりました」

近衛兵「勇者さん、質問があります。我々の今後を大きく左右する重要な質問です」

近衛兵「どうか、正直にお答え下さい」

勇者「はい、何を聞かれても構いません」

勇者「でも、どうしたんですか? 急に険しい顔をして……」


近衛兵「勇者さん、あなたは盗賊という人物をご存知ですか」


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監獄 別棟独房

魔女「………あ…ここ…そっ…か」

魔女「(そうだった……もう、先生はいないんだ。あの声も聞けない、怒られることもない)」

魔女「(生きろって…何の為に? 分かんないや。もう、どうでもいいし)」

魔女「(でも、こんなこと言ってたら先生は怒るよね。復讐とか駄目だって言うよね)」

魔女「(……少しだけ、落ち着いてきたかな。なんか、体が温かい気がする)」

魔女「(きっと先生の魔力、優しい気持ちだ。先生、私はどうしたらいいですか?)」

魔女「(戦っても駄目、死んじゃ駄目。じゃあ、どうする?いっそやけっぱちになって、とか?)」

魔女「(それじゃ駄目だ。先生の死、先生の生き様に泥…いや、唾を吐くぐらい酷いことだ)」

魔女「(……魔術師を助けるにしても、魔術師である私が行動したらマズい)」


魔女「(八方ふさがりだ)」

魔女「(あれ、何で八方なんだろ、百方ふさがりの方が絶望感半端じゃないのに)」

魔女「(…ハァ…こんな状況じゃ望みなしかな。あっ、勇者はどうしてるんだろう?)」

魔女「(まさか殺され…いや、やめよう。あいつが死ぬわけない、あの痛みに耐えたんだから)」

魔女「(勇者は必ず動くはずだ。なら、私も何か考えないと……)」

魔女「(問題は神聖術師だ。勇者が私を助けようとした場合、必ず出てくる)」

魔女「(勇者は、あの魔術に耐性はない。かといって私にも限界がある。高濃度の元素、体内魔力の乱れ)」

魔女「(あいつの体内魔力は少量、だからこそ多量の元素が必要になる。対抗手段は……魔力)」

魔女「(それしかない。多量の元素の流れを読み、魔術発動の瞬間に魔力を叩き込む)」

魔女「(魔術じゃ駄目だ。魔力そのものを体内に流し込めばいい。あの時、私がやられたように)」


魔女「(でも、自分の弱点くらいは分かってるはず、対策してるに違いない)」

魔女「(けど、それしかないなら、やるしかない)」

魔女「(先生の魂は、私の中にある。なら、魔術師としてやるべきをやる)」

魔女「(でも、他の魔術師はどうしよう。皆、魔術師を怖がってるし、何とか誤解を……)」


ーー交代の時間だ。
ーーんっ、ああ…だが、まだ早い。

ーー寝てないんだろ?早く行け、皆心配してるんだ。
ーーいや、いい。これは自分の職務だ。時間まで見張る。

ーーいいから行け。俺達だけじゃなく家族にまで心配掛ける気か?
ーー……そうだな、助かる。

ーー彼女はかなり憔悴してる。こまめに様子を見てやってくれ。
ーーああ、了解した。


兵士「ふーっ、どうだ? 少しは落ち着いたか」

魔女「……………」

兵士「落ち着くわけねえよな、大事な奴が死んじまったんだから」


兵士「さっきの奴、いい奴だろ? お前のこと本気で心配してたんだ」

兵士「娘がいるんだってさ。何も出来ない自分が情けないとか言ってたな」

兵士「間違ってるって分かっても、兵士は従うしかないんだってよ」

兵士「明日は、お前の処刑だ。今の内に食えるだけ食え」

魔女「神父様の次は兵士?何しに来たわけ」

兵士「変な女に、勇者が捕まったって聞いたんだよ。だから走ってきた」

魔女「変な女? そんなのは別にいいよ。だから、何で私のところに来たわけ?」

兵士「いや、勇者と仲が良いって聞いたからさ。お前が死んだら、あいつが悲しむだろ」

兵士「まあ、あれだ。友達の友達だから、俺達も友達みたいなもんだろ」ウン

魔女「ふざけんな、犯罪者なんかと友達になるわけない。で?なに?」


兵士「まずは現状がどうなってるか知っとけ。まず始まりからだ」

兵士「魔術師は異形種の仲間かなんかだと思われてて、お前を処刑することで、情報に踊らされた馬鹿共を黙らせる」

兵士「勇者は魔術師弾圧が拡大すんのを止めようとした。魔術師を助けようとしたわけだ」

兵士「そしたら神聖術師って奴が出てきて、今や勇者は囚われの身。こことは別の監獄の独房にいる」

兵士「北王は監獄襲撃を不問にすると言って話を持ち掛け、勇者を飼おうとした」

兵士「兵隊さんが言うには、他にも東王にも責任があるとか言ってたらしい」

兵士「勇者は当然拒否した。で、北王は怒り狂い、東部に軍を出すらしい。以上だな」

魔女「……ねえ、それ本当なの? それに確か、東部には勇者の……」

兵士「ああ、母ちゃんがいる。まったく、面倒くせえことに首突っ込むからこうなるんだ」


兵士「馬鹿共なんざ見捨てて、さっさと逃げれば良かったんだ……」

兵士「まあ、そんな奴なら俺を助けたりしねえか。本当に、いい奴だよ」

魔女「……そうだね、勇者が優しい奴だってことは分かる。極悪人を救ったくらいだし」

魔女「ていうかさ、あんたは何でそんなに詳しいわけ? 来たばかりなんでしょ?」

兵士「あー、勇者に説得された奴がいて、色んな奴が勇者に協力しようとしてる」

兵士「そこに颯爽と現れ、協力するって言ったら見事に断られた」

魔女「素性も分からない馬鹿がやって来て、急にそんなこと言い出したら誰でも断るに決まってんでしょ。馬鹿じゃないの」

兵士「だから、俺は勇者の友達だって言ったんだ。しかし、返ってきたのは心無い言葉ばかり……」

魔女「当たり前でしょ、信じる方がどうかしてるし」


兵士「で、凄え腹立ったから、疑うなら勇者に直接聞いてみろって言ったら……」

兵士「ふん、そこまで言うなら確認しよう。お前のような極悪人が友人など有り得んだろうがな」

兵士「と、吐き捨てて仲間に伝えに行った。周りの奴等も、にやにやしやがってよ……」

兵士「まあいいや…そんで大人しく待ってたら、先程は失礼致しましたと言われ、今に至るわけだよ」

魔女「こんな状況で・を吐かずに、僕は極悪人と友達です。なんて、よく言えたね」

魔女「あんたもだけど、あいつもかなり馬鹿なんだ」

兵士「あいつは・は吐かねえ、誰に対しても。だから兵隊の奴等も勇者を信じてる」

兵士「お前も勇者を信じてる、そうだろ?」

魔女「そうだね。あんたを信じる気はさらさらないけど、事実は信じる」


魔女「……これから何する気」

兵士「ごちゃごちゃしてんだろ? だから迷ってんだよなぁ」

兵士「神聖術師を殺しても終わらねえ、北王を殺しても終わらねえ。なら、どうするか」

兵士「そうだ、魔術師殺せばいいんじゃねえの? って言ったら兵隊さんに叱られた」

兵士「皆殺しにしちまえば馬鹿共も黙るだろ。後で痛い目見ても知らねえけどな」

兵士「大体、自分の目で確かめようともしねえ奴等を助ける必要ねえだろ」

兵士「何人死のうが、それはてめえらが招いた結果だ。異形種に殺されようが文句は言わせねえ」

兵士「と、俺なら思う。けど勇者が助けてえらしいから、難しくてさ」

魔女「(こいつ、本気で言ってる。勇者を助けられれば、他はどうでもいいってわけか)」

魔女「(でも、部分的には勇者と似てるかもしれない。自分の手を汚そうと構わないってところとか……)」


兵士「で、凄え腹立ったから、疑うなら勇者に直接聞いてみろって言ったら……」

兵士「ふん、そこまで言うなら確認しよう。お前のような極悪人が友人など有り得んだろうがな」

兵士「と、吐き捨てて仲間に伝えに行った。周りの奴等も、にやにやしやがってよ……」

兵士「まあいいや、大人しく待ってたら、先程は失礼致しましたと言われ、今に至るわけだよ」

魔女「こんな状況で嘘を吐かずに、僕は極悪人と友達です。なんて、よく言えたね」

魔女「あんたもだけど、あいつもかなり馬鹿なんだ」

兵士「あいつは嘘は吐かねえ、誰に対しても。だから、兵隊の奴等も勇者を信じてる」

兵士「お前も勇者を信じてる、そうだろ?」

魔女「そうだね。あんたを信じる気はさらさらないけど、事実は信じる」


魔女「……これから何する気」

兵士「ごちゃごちゃしてんだろ? だから迷ってんだよなぁ」

兵士「神聖術師を殺しても終わらねえ、北王を殺しても終わらねえ。なら、どうするか」

兵士「そうだ、魔術師殺せばいいんじゃねえの? って言ったら兵隊さんに叱られた」

兵士「皆殺しにしちまえば馬鹿共も黙るだろ。後で痛い目見ても知らねえけどな」

兵士「大体、自分の目で確かめようともしねえ奴等を助ける必要ねえだろ」

兵士「何人死のうが、それはてめえらが招いた結果だ。異形種に殺されようが文句は言わせねえ」

兵士「と、俺なら思う。けど勇者が助けてえらしいから、難しくてさ」

魔女「(こいつ、本気で言ってる。勇者を助けられれば、他はどうでもいいってわけか)」

魔女「(でも、部分的には勇者と似てるかもしれない。自分の手を汚そうと構わないってとこは……)」


兵士「そこで俺は考えた。そうだ、まずは北王が戦を起こすことを伝えようと」

魔女「はぁ? あんたが? どうやって?」

兵士「西部の軍人とは友達なんだ。そいつが東王に伝えれば対処出来んだろ」

魔女「一介の軍人の言葉を、東王が信じると思う?」

兵士「信じるさ。そいつは西部の英雄、勇者と一緒に降霊術師を倒した男だからな」

魔女「(そう言えば、こいつは西部じゃ勇者扱いなんだっけ。世も末だよ、本当に)」

兵士「大尉だったのが、今は何だったかな、西部軍の司令官だか何だか……」

兵士「確か東西軍部特別異形種部隊顧問兼西部……そいつに報せは出したし、何とか間に合うだろ」

魔女「それで? 西部の勇者は他に何するの」

兵士「そりゃあ勇者と一緒に処刑を防いで……後はそうだな………勇者に任せるわ」ウン


魔女「ハァ…民衆のことは私が何とかする。もう行っていいよ」

兵士「そっか、じゃあ頼むわ」

兵士「後、これだな。えーっと、あぁ、食器窓からの方がいいか」スッ

チャリン…

魔女「あっ…」

兵士「それ、大事なんだろ?綺麗な時計だな」

魔女「……ねえ」

兵士「あ、なんだ?」

魔女「……勇者、大丈夫だよね。あいつ、無茶しないよね?」ギュッ


兵士「いや、友達が処刑されんの防ぐ為なら無茶すんだろ。普通」

魔女「普通じゃないっつーの。あんた達だけだよ、そんなの……」

兵士「世界中のみんなは無理だけど、目の前の人なら助けられる。こんなの、痛くない」

兵士「君が僕を助けたことと、何も変わらないよ」

魔女「……それ、勇者が言ったの?」

兵士「ああ、俺と友達になってくれた後に言った言葉だ。腹撃たれたのに、笑ってた」

兵士「稀少種でも、体が出来上がってねえガキなら弾は通る。相当痛かったはずだ……」

兵士「俺はただの気紛れで、虐められてる勇者を助けただけ。けど、あいつは違う」

兵士「俺は心を救われた。あいつは、生まれて初めて出来た本当の友達だ」

兵士「あいつは、必ずお前を助ける。それが痛みを伴っても、必ずな」


魔女「………………」

兵士「少しは楽になったろ?明日の処刑が楽しみだ」

魔女「さっさと出て行け犯罪者、次に会ったら燃やすからな」

兵士「嫌でも明日に会うさ」

兵士「俺を燃やす気なら力溜めとけ。じゃあな」


ザッ…ザッ…ザッ


魔女「……2時…45分…」


勇者『二人は2時45分に手が触れる。なんか、感動的な時計だなぁ…』

勇者『魔女に買ったんだ。受け取ってくれないと僕が困る』


魔女「そう言えば、まだ十二歳だっけ……子供に頼るなんて馬鹿か、私は……」

魔女「がきんちょにばかり任せてちゃ駄目だよね。先生、私は私の出来ることをやってみます」

>>639>>640はミス。申し訳ない。
ちょっと休憩、もう少し貼ります。


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夜 独房

監視「……と、いうわけでして」

勇者「そっか、盗賊は元気そうでしたか?」ニコニコ

監視「元気ですが、本当に友人だったのですね。そんなに喜ばれるとは……」

勇者「六年くらい経つからなぁ…変わってるのかなぁ……あのっ、どんな感じでした?」

監視「うぅむ、世の女性は放っとかないでしょうな」

監視「(絵に描いたようなチンピラ、とは言えん。どこか影があるような男だったが……)」

勇者「誰か来ます」

監視「!!」ビシッ


コツ…コツ…コツ…


勇者「魔力が小さい…神聖術師か」

神聖術師「監視、貴様は下がれ。私一人でいい」


監視「はっ!」ザッ

勇者「……随分、遅かったな」

神聖術師「おや、待っていてくれたのかい?」

勇者「顔を見れば分かるだろう。こんな、壁一面透けた独房に入れて……」

神聖術師「拗ねた顔だろうと、見られて嬉しいよ。君は特別だから」

勇者「言っておくけど、僕には好きな人がいる」

勇者「お前の言葉が冗談じゃなく本気なら、申し訳ないけど諦めてくれ」

神聖術師「君に愛されるなんて、東部の王女が羨ましいよ」

勇者「…………」

神聖術師「僅かだけど反応したね。勇者、私がこれから何をするか分かるかい?」


勇者「悪いけど、知りたくもない」

神聖術師「君が申し出を断ったことで、北王は東部に軍を差し向ける意志を表明した」

神聖術師「西部と東部は同盟という形になっている。だが、まだ日は浅い」

神聖術師「軍の練度も違う。統率は取れているのか否か、それは分からない」

神聖術師「だが、私も共に行けばどうなる? 彼等は大量の元素に耐えられるだろうか……」

勇者「……何がしたいんだ、お前は」

神聖術師「君にはね、何かがあるよ」

神聖術師「これまで生きてきた中で、こんなにも男性に興味を持ったのは初めてかもしれない」

神聖術師「魔力を失った直後は色々なことがあったから、処女ではないけれど……」

神聖術師「あれから百年、まだ二百年にはならないかな? 君は長い長い時の中の唯一だ」


神聖術師「これが愛や恋だと言うのなら、そうなのかもしれないね」

神聖術師「人生の大半は術開発に捧げたから。中々難しくて、まだ理解出来ていないんだ」

神聖術師「……その、少し照れくさいが、私だけの勇者になってくれないか」

神聖術師「魔術師が滅びた後、二人で世界を救う旅に出よう」

勇者「無理だ。僕一人ではこの有り様なんだ。自分の力を過信するな」

神聖術師「いや、過信すべきだ。君に限界などない、そんな考えに囚われては駄目だ」

神聖術師「君は完全種、魔神族を討ち滅ぼす者。内にある力はそんなものではない」

神聖術師「その気になれば、私のことなど瞬きの間に殺せるはずだ」

神聖術師「そうしないのは、人間を見下していないからに過ぎない」


神聖術師「君は遙かな高みにいる」

神聖術師「超越した存在であれば、見下して当然だ。これは自然なことだ」

神聖術師「人が獣を見る様は、憐れみ慈しみながら、どこか見下しているだろう?」

神聖術師「君も、そうあるべ……済まない、少々熱が入ってしまった」

勇者「……自分で限界を決めない、そこまではいい。他には一切賛同出来ない」

神聖術師「まあいいさ、言いたいことは一つだけだ」

神聖術師「私はね、一度求めたものは手に入れるまで諦めない」

神聖術師「だからこそ、この力を得た。君も同様、必ず手に入れる」

神聖術師「障害というか恋敵というか、王女には消えてもらう」


神聖術師「君が肌身離さず身に着けていたペンダント。この中の写真も、いずれ私になる」

勇者「……僕を好きだとかいいながら、僕の大事な人の命を奪うのか」

神聖術師「私は君の愛を手に入れる為ならば、誰の命をも奪える」

勇者「何でだ?お前のような人間が何故、僕に興味を持つ!?」

神聖術師「それはきっと、君なら救ってくれると感じるからさ」

神聖術師「私や精霊……魔導師、決して拭い去れぬ屈辱や痛み、苦しみを持つ者達だ」

神聖術師「長い時を生きているが、未だ救われない。だから君が欲しくなる」

神聖術師「癒し、というものかもしれない。魔術や神聖術でも癒えぬ傷を、君は癒す」

勇者「僕に、そんな力はない」

神聖術師「……自覚していないだけだ。精霊が、それを証明している」


神聖術師「あれが、あの狂った魔術師が、子供と旅をして、ましてや寝食を共にするなど考えられない」

神聖術師「君は彼女を何も知らない。だが、いつか分かる。彼女もまた、救いを求める者だと」

神聖術師「ああ、言い忘れていたが私は軍とは別行動。単独で東部へ向かう」

神聖術師「対魔神族の為に施された魔力感知に類する陣などは私には無効だ」

神聖術師「城内にも容易く侵入出来る。ちなみに、軍は明日の明朝に出陣する」

神聖術師「だが先程言った通り私は別行動だ……」

勇者「……なにが言いたい」

神聖術師「私は個人的理由で、これから東部へ向かい、個人的感情で王女を殺害する」

勇者「お前ッ!!」

神聖術師「その行動は王女の名が出た時点ですべきだった。大量の元素が、満ちる前に……」スッ

勇者「…やめろっ…あの人…王女様に…ガハッ…あ…ゲホッ…ゲホッ…ハァ…ぁ…ぅ…」


ドシャッ…

神聖術師「やはり君は特別だ」

神聖術師「完全種でも、これ程まで耐えられる者は誰一人いなかった……」

神聖術師「これまで実験した完全種であれば、十数回は死を体験しているはずだ」

勇者「……ガフッ…ゲホッ…ハァ……」

神聖術師「傷付けて済まない、少しの辛抱だ。私が帰ったら、すぐに綺麗にしてあげるから」

神聖術師「君の体は既に私の物なのに、何故こんなにも虚しいんだ……」

神聖術師「やはり心がなくては駄目だ。痛みで支配するなど、愛とは呼べない」

神聖術師「大丈夫。想い人を失い傷付いた君の心は、時間を掛けて私が癒してみせる」

神聖術師「そうなれば、最早戦う必要もない」

神聖術師「君は私と共に生きるだけでいいんだ。何も心配することはない……」

神聖術師「名残惜しいけれど、もう行かなくてはならない……すぐに戻るよ、私を待っていてくれ」

眠い、ここまで、また明日。
魔女編が長すぎる。


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同夜 東部

特部隊長「和平!?」

東王「ああ、そうする以外に道はない」

特部隊長「しかし、この文面からするに北王は本気です!!」

特部隊長「戦わずして解決出来るとは到底思えません!勇者も囚われているのですよ!?」

東王「分かっている。戦は避けられんだろう」

東王「私が止めたいのは、此度の戦ではない。世界の崩壊だ」

東王「このままでは秩序なき世界、今以上の混沌が訪れるだろう」

東王「何より怖れるべきは異形種の存在。それを忘れてはならない」

東王「西部司令官、我々が守るべきは何だ? 人間ではないのか?」

東王「本格的な戦が始まれば民はどうなる」

東王「人間同士の争いが、彼等に何を与えるというのだ」


特部隊長「…!! 申し訳ありません。冷静さを欠いた発言、お許し下さい」

東王「謝らずともよい」

東王「一つに囚われず、広い視野を持つことを心掛けなさい」

東王「君は若い。この状況下だ、熱くなる気持ちは分かる」

東王「だが、それでは駄目だ。時には耐えなければならない。分かるね」

特部隊長「はい」

東王「……おそらく、北王は追い詰められている。正常な判断力を失っているのだ」

東王「以前の彼ならば、こんな決断はしなかった。彼は聡明な人物だ」

特部隊長「何か心当たりが?」

東王「彼と彼の父上。二代にわたって側近を務めた人物の死が原因だろう」


東王「現北王は幼い頃、爺やと呼んで彼を慕っていた。今でも、しっかりと憶えている」

東王「……彼は、異形種出現から程なくして息を引き取った」

東王「何せ高齢だった。老いた体では激務に耐えられなかったのだ……」

東王「異形種出現前。先代が急死、現北王が即位してから諸侯貴族の反発が強まった」

東王「そんな中で一番親身になって彼を支えたのが、側近なのだ。柔和で穏やかな方だったよ」

東王「側近の他にも陰で支えていた者達がいた。その甲斐あって、彼は徐々に成長した」

東王「その後も小さな衝突はあっただろうが、彼は王として着実に成長した」

東王「これには、様々な口実を見つけては口出ししていた諸侯貴族も黙らざるを得なかったようだ」


特部隊長「……しかし、そこに異形種が現れた」

東王「そうだ。彼は民衆の不安を取り除くべく、自らの足で民の下へ行き、励ましたという」

東王「それを聞いた時は、その行動力に驚いたよ。あの若さで素晴らしいとも思った」

東王「先代もそういう気質を持つ人物だった。彼は常々、こう語っていた」

東王「王とは、あらゆる人と真摯に向かい合い、意見に耳を傾け、国を愛する者だと……」

東王「その意志を継ぎ、彼もまた、民に愛される王になるはずだった」

東王「……そんな中、彼の支えであった側近が亡くなった」

東王「喪失感は凄まじいものだったろうが、彼は耐えた。王として、国を守る為にな」

東王「だが、長くは保たなかった。四年前、異形種の王と呼ばれる存在が現れたのだ……」

東王「知っての通り、それ以降、異形種は増加、各国の軍の対応は遅れた」


東王「軍人、民間人を問わず死傷者が続出……」

東王「あの頃は混乱の真っ直中、民衆の不満は募るばかりだ」

特部隊長「それは各国共に同じでは?」

東王「いいや、不満を抱いていたのは民衆だけではない。北部には潜んでいる者がいた」

特部隊長「……北王に反発していた諸侯貴族。まさか彼等が?」

東王「ああ、異形種への対応の遅れや、民衆の不満を持ち出し、彼を糾弾し始めた」

東王「それまで異形種に怯え、隠れていた者が、ここぞとばかりに彼を責め立てた」

特部隊長「……愚かな」

東王「彼は耐えきれなかった……反発する諸侯貴族を、次々に粛清していったのだ」

東王「だが、それも時には必要なことだ。国家を混乱に陥れる者には、権力を行使する」


東王「しかし、彼はやり過ぎた」

東王「言葉や行動ではなく、権力によってのみ従わせるようになったのだ」

東王「……今の彼は、最早暴君と言っていい」

特部隊長「なら何故、和平を?」

東王「私はね、時折思うことがある」

東王「あの時、自国が危うい状況とはいえ、手を差し延べるべきだったのではないか?」

東王「あの時こそ、諸国の王が結束するべき時だったのではないかと……」

東王「何せ彼は若い。手を差し延べ支えていれば、このようなことにはならなかった」

東王「……厳しかったかもしれないが、西王も説得出来たかもしれん」

特部隊長「(やはり、この方を頼ったことは間違いではなかった。この方ならば、きっと……)」


東王「この文面によれば、勇者に賛同する兵士達が反乱を起こすとある」

東王「勇者の解放、処刑の阻止、魔術師の解放……それに伴う民衆の暴動鎮圧……」

東王「我々は少数であるから、軍が出撃した後に行動することになるだろう。とも書いてある」

東王「明朝、北軍は侵攻を開始する。我が軍は、これを防ぐ。あくまで時間を稼ぐのだ」

東王「足止めすることを第一に考え、保たないとなれば打って出て構わん」

特部隊長「……東王は、何をなさるのですか」

東王「その間、私は西部経由で北部へ向かう。到着する頃は、内乱の最中だろう」

特部隊長「!!?」

東王「彼を止めるには、直接対話するしかない」


特部隊長「軍の人員はこれ以上割けない、それはご存知のはずです!!」

特部隊長「西軍の建て直しには依然時間が必要です!それもご存知でしょう!?」

特部隊長「それ以上に危険を通り越して無謀な策……あなたを行かせるわけには…」

東王「少し落ち着きたまえ。北部には外部の協力が必要だ。それは分かるだろう」

特部隊長「落ち着いていられますか!あなたを失えば、それこそ世界が変わってしまう!!」

特部隊長「あなたは我が国に手を差し延べ、救ってくれた!!」

特部隊長「長らく独裁国家として他国と距離を取っていたにも拘わらず!!」

特部隊長「……あなたの行動が最悪の結果を招いた時、その損害は計り知れない」


特部隊長「私は、断固として反対します」

東王「心配する気持ちは分かるが安心していい。こんな時だからこそ……いや…」

東王「こんな時にだけ、協力してくれる者がいる。私が死地に赴くとなれば、彼は喜んで引き受けるだろう」

特部隊長「……彼? まさか一人ですか?」

東王「ああ、一人だ。一人だが、彼は一度たりとも失敗したことはない」

東王「勇者の師であり、切り札とも呼べる男だ……」

特部隊長「剣聖ですか!? あのような男に任せるなど…」

剣聖「まぁ、正気ではないよなぁ」

特部隊長「!?」ビクッ

剣聖「なんだ、怒鳴ったり黙ったり驚いたり、お前は忙しい奴だな」


剣聖「お前の考える通り、確かに正気ではない」

剣聖「正気であれば、俺になどに頼らんさ」

特部隊長「……煙草を消せ、王の前だぞ。いつから、そこにいた」

剣聖「いつからでも構わんだろう。自由にしてよいと、東王陛下には言われているからな」

特部隊長「貴様…」

剣聖「そう怒るな。第一、これは東王陛下がお決めになったことだ」

剣聖「お前の言葉など求めていない。俺にも東王にも、何の意味も持たない」

剣聖「王の決断に逆らうなど言語道断、いいから黙っていろ」

特部隊長「くっ…」

剣聖「まあ、安心しろ。多少の傷は負うかもしれんが、それは王の責任だ」

剣聖「戦地に赴き、生きて帰ってこれるだけ有り難いと思え」


特部隊長「ふざけるな。貴様一人に、何が出来る……」

剣聖「ん?何と言われてもなぁ……これを使って、向かって来る兵士共を斬るだけだ」

特部隊長「勇者や盗賊のような稀少種ならまだしも、貴様はただの人間だろう」

剣聖「人間ではないぞ?お前達が言うところの……」トコトコ

特部隊長「なんだ急に…」

剣聖「俺は異形種だ」ボソッ

剣聖「この剣を抜けば分かる。大騒ぎになるが、確かめてみるか?」

特部隊長「ッ!?」カチッ

剣聖「よせよせ、お前とやり合う気はない。大体、そんな物騒な物を東王陛下の前で抜くな」

剣聖「西部司令官殿ともあろう方が、礼儀がなってないな」


特部隊長「この者が言っていることは事実なのですか?」ボソッ

東王「……事実だが、話している暇はない。私は剣聖と共に北部へ向かう」

東王「異論は認めん」

特部隊長「……一つだけ聞かせて下さい。この男は、東王の信用に足る者なのですね?」

東王「ああ、命を預けるに足る男だ」

特部隊長「……分かりました」

剣聖「最初からそう言っているだろうが、これだから軍人は……頭が堅くて嫌になる」

特部隊長「貴様には何も聞いていない。私は東王に聞いたのだ」

剣聖「そう睨むな。それより明日は戦、策はあるんだろうな」

剣聖「帰ってきたら全滅していたなど、笑い話にもならんぞ?」


特部隊長「魔術師による陣、結界による後方支援、高台に狙撃兵を配置、手榴弾、煙幕弾の投擲」

特部隊長「騎馬隊による撹乱と誘導、待機した歩兵が、それを迎え撃つ」

特部隊長「無論、前方にも魔術師を配置、初撃を与えた後は即座に後退する」

特部隊長「とにかく隊列を崩す。勝つのが目的ではない、これで時間は稼げるはずだ」

特部隊長「大まかな進路は盗賊の書状で分かっているからな、後は偵察に向かわせた兵が確認する」

特部隊長「懸念すべきは異形種の出現だが、今のところ魔力の動きは感知されていない」

剣聖「西部はどうする?」

特部隊長「民は北部に亡命、西部では東軍と西軍が内部分裂、紛争状態だ」

特部隊長「命からがら生き延びた彼等は、北軍に助けを求める」

特部隊長「既に何名かは亡命。今頃、事の次第を泣きながら話しているはずだ」


特部隊長「奴等は情報確認の為、街へ入る」

剣聖「市街戦か」

特部隊長「人員はそれほど割けないからな、犠牲は出るだろうが、西部は必ず守る」

剣聖「敵を引き付けるわけか、中々頼もしいな」

東王「だから西部司令官に抜擢した。こちらの軍も、彼には敬意を払っている」

東王「……後は、勇者がどう動くか」

剣聖「……………」

特部隊長「やはり勇者、弟子のことが心配なのか?」

剣聖「……いや、何でもない。あいつに任せる」


特部隊長「?」

東王「我が軍と連携し、何とか防衛してくれ。宜しく頼む」

特部隊長「はっ、了解しました」

東王「さあ、我々も準備を始めよう」

剣聖「遺書はしっかり書いておけ、息子はいないんだ。後で揉めるぞ?」

東王「それは妻がやってくれるよ。なんの心配はいらない」

ザッ…ザッ…ザッ…ガチャ…パタン…

特部隊長「……行ってしまった。しかし盗賊の奴、文字は意外と綺麗なんだな」カサッ

特部隊長「頼むぞ、西部の勇者……」




盗賊「はぁ? 勇者が血塗れ?」

監視「何が起きたか分からんが、手当てしても全く効果がないのだ」

監視「おそらく、あれは魔術によるものだろう。しかし魔術師を出すわけには……」


神聖術師「魔女の仕業だ」

神聖術師「今すぐに魔女を呼び出せ、あの呪術は奴にしか治せん」

盗賊「あんた…あの時の…」

監視「神聖術師様!? 先程出て行かれたはずでは…」

神聖術師「早くしろと言っている。それと、監獄にいる全兵士に警戒するよう伝えろ」

監視「はっ!了解しました!!」ダッ

盗賊「……あんた、何者なんだ?」

盗賊「顔は瓜二つだけど別人だろ?あの女とは魔力の量が違う」

神聖術師「双子なの、中身は大分違うけど」

盗賊「ふーん、まあいいや。そんで? あんたは何をする気なんだ」

神聖術師「魔力が足りないのよ。このままじゃ、体が崩れるわ」

神聖術師「だから、魔術師全員から魔力を借りるの……魔女に協力して貰ってね」

盗賊「なあ、あんたさ……もしかしなくても死んでねえか?」


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城内庭園

王女「………………」

王宮騎士「(勇者様の報せを聞いてから、ずっと祈っていらっしゃる)」

王宮騎士「(此処は、お二人の思い出の場所、お二人が初めて出逢った場所……)」

王宮騎士「(何故だか背中が小さく見える)」

王宮騎士「(いつも凛然とした王女様からは想像出来ない程に、弱々しく見える)」

王女様「(口には出さずとも、やはり勇者様を心配していらっしゃるのだ)」

王宮騎士「(作戦は決まったらしいが、勇者様は囚われの身。どうか、ご無事でいて下さい)」

王宮騎士「(だが、そろそろ止めなければ……あのままでは王女様のお身体に……)」


カサッ…

王宮騎士「!!」バッ

神聖術師「邪魔だ。寝ていろ」スッ

王宮騎士「がっ…っ……王女様…逃げ…」


ドサッ…


王女「騎士さん!?」

神聖術師「大丈夫です。殺してはいませんから」

王女「……あなたは誰です」

神聖術師「名乗るのを忘れていました。初めまして王女様、神聖術師と申します」

神聖術師「少し、お話しませんか。あなたが死ぬまでの僅かな間ですが……」


王女「他の騎士は無事なのですか」

神聖術師「我が身より騎士の心配ですか?」

王女「答えなさい」

神聖術師「……生きていますよ? 私になど気付いていませんから」

神聖術師「あなたは此処で何を?」

王女「あなたには関係ありません」

神聖術師「勇者、ですか?」ニコッ

王女「……それは、勇者のペンダント…あなた、勇者に何を…」


神聖術師「……私は勇者を愛している」

神聖術師「けれど、悔しいことに勇者はあなたを愛しているようだ」

神聖術師「だから、あなたを殺して、勇者の傷付いた心を癒すことにした」

神聖術師「心も体も全て私の物にする。お前という存在は、邪魔でしかない」

王女「はぁ…そんなことをしても、勇者はあなたを愛したりはしませんよ」

王女「あなたの想いは勇者を苦しめるだけ。本当の愛は、愛する人を苦しめたりしない」

王女「それは、ただの支配欲です。あなただけを満たす欲望に過ぎない」

王女「それにしても、相変わらず一風変わった方に好かれているようですね」

神聖術師「随分と余裕があるな。自分が愛されていると、そう言いたいのかい?」


王女「愛されているかなど分かりません」

王女「それを渡してから、会っていませんから……」

王女「けれど、あなたがそれを持っているということは、勇者は大事にしていたのでしょう?」

王女「だから、あなたはそれを奪った。違いますか?」

神聖術師「……………」

王女「答えなくとも、その表情だけで十分です」

王女「あなたのお陰で、勇者がわたくしを想っていることが分かりました」

王女「ですが、それを渡すべきではありませんでしたね。軽率でした……」

王女「勇者は、わたくしの身を案じて離れたというのに、こうなっては意味がないですから」


神聖術師「黙れ」

王女「お話に来たのに黙れとは、おかしな方ですね。それとも、嫉妬ですか?」

王女「そんな顔をしていたら、美しいお顔が台無しですよ?」

神聖術師「黙れと、言っている」


バチンッ…


王女「痛っ…ふっ…ふふっ、このようなやり取りを、わたくしが体験するなんて……」

神聖術師「何がおかしい」

王女「いえ、一人の男性を巡って二人の女性が争うなど、お母様の本でしか見たことがないので……」

王女「はぁ…勇者も罪な男性ですね」

王女「もう少し、まともな思考を持った女性が相手なら、良かったのに」スッ


バチンッ!

神聖術師「ッ!?」

王女「痛いでしょう? あなたは、勇者に何をしたのですか?」

王女「答えなさい。愛しているなどと言いながら、勇者に何をしたのです」

王女「……あなたが此処に来たということは、勇者は動けない状況にあるということ」

王女「あなたがペンダントを持っている時点で、それは証明されている」

王女「勇者は、抵抗しましたか?」

神聖術師「抵抗など出来るわ

王女「いえ、しなかったのでしょうね……」

王女「如何なる女性であろうと、暴力を振るような人ではありませんから」


王女「あなたは何も理解していない、人の気持ちを理解しようとすらしない」

王女「……わたくしも、あなたのことを理解していません。する気にもなりません」

王女「ただ、あなたの愛が如何に醜いか、ということは理解しました」

神聖術師「私の想いに口を出すな」スッ

王女「…っ…やるなら…やり…なさい…」

神聖術師「言われるまでもない、そうさせてもらうよ」

王女「(勇者、わたくしは、あなたを恨みなどしません)」

王女「(だから、わたくしが死んでも、決して自分を責めないで下さい)」

王女「(勇者、どうか、どうか無事でいて下さい……)」


バヂッ!

魔導師「危なかったわね。王女様、大丈夫?」スッ

神聖術師「………何故、お前が此処にいる」

王女「けほっ…どなたか存じませんが、ありがとうございます」

魔導師「間に合って良かったわ。もう立てる?」

王女「ええ、なんとか…えっ…同じ…」

魔導師「色々気になるとは思うけれど、早く逃げなさい。ほら、あなたもよ」スッ

王宮騎士「うっ…あれっ…二人!?」

王女「騎士さん、考えるのは後です。早く逃げましょう」

王宮騎士「は、はいっ!」

タタタッ…

神聖術師「答えろ。何故、お前が此処にいる」


魔導師「さあ、何故かしら?」

神聖術師「何故だと聞いている!答えろッ!精霊!!」カッ

魔導師「何をしても無駄よ。私は体を得た、得てしまった」

神聖術師「術相殺………」

魔導師「あなた、言ったわよね。私は失敗したと、確かにあれは失敗だったわ」

神聖術師「……何を、言っている」

魔導師「魔力も元素も手に入れて、陣も詠唱もなく、高位の魔術を容易く使用出来る」

魔導師「最初は楽しくて堪らなかったわ。だって、何でも出来るのだから」

魔導師「ふふっ…人の心、世界の何もかもが、私のものに思えた」


神聖術師「!!?」ゾクッ

魔導師「でもね? 成功までの苦労が楽しいのであって、成功した後なんて何も残らないわ」

魔導師「だから、全てを捨てた」

魔導師「私を縛る重苦しい体も、練り上げた魔力も、作り出した魔術も、全て捨てたのよ」

魔導師「元素と一つになった時、これが魔術師の目指す究極だと思ったわ」

魔導師「色とりどりの元素の流れに身を任せて、何ものにも縛られない完全な姿」

魔導師「空腹も睡眠も性欲もない、あるべき欲求にすら縛られずにいたのに……」

魔導師「あなたが、私を肉体に戻した」スッ

ボギャッ…

神聖術師「ぐっ…」

魔導師「ほら、体って邪魔でしょう?」

魔導師「一部欠損しただけで痛みに支配される。不自由極まりないわ」スッ


グジャッ…

神聖術師「がッ…」ドサッ

魔導師「無様で哀れな女ね。勇者に癒されたいなんて考えるからよ」

魔導師「勇者は人間の女性と幸せになるの、私達のような女じゃ幸せには出来ないわ」

神聖術師「…ハァッ…ハァッ…お前…どうやって…」

魔導師「器はあなたが用意したんじゃない。魔力も何もない、真っさらな肉体を……」

魔導師「この私を受け入れられる。最適とも呼べる肉体」

魔導師「元素は私、足りないのは魔力。あの後、陣を描いて、そこら中の動物から集めたのよ?」

魔導師「いつか戻りたい日が来ると思って、あらかじめ陣は発明しておいたの」

魔導師「術前術後の陣を考えるのは、魔術師なら当然よね?」


魔導師「……でも、動かすまでは予想以上に時間が掛かったわ」

魔導師「陣を発案発明したのは随分昔だったけど、使うのは初めてのことだったから」

魔導師「けれど後は楽だった」

魔導師「あなたが魔術師を大勢捕らえてくれたから、魔力は充分に得られた」

魔導師「ハァ…他人の肉体とはいえ、体を動かすのは何百年振りかしら? 凄く疲れるわ……」

魔導師「あなたを殺す為だとしても、魔導師の体を使うなんて……魔女には悪いことをしたわね」

神聖術師「………………」

魔導師「何か聞きたいことあるかしら? 今なら全部、教えてあげるわ」

魔導師「まあ、何を教えたところで、お前程度の魔術師が理解出来るはずはないだろうが」


神聖術師「…ハァッ…ハァッ…この、化け物め」

魔導師「そうよ? 全能になりたいなんて、普通の魔術師は考えないもの」

魔導師「魔術を学ばなければ、幸せに死ねたのかしら。私も、あなたもね……」

魔導師「大体、こんな場所まで登って来るから私に潰されるのよ」

魔導師「その程度で粋がって、妹まで殺して、挙げ句の果てに勇者が欲しい?」

魔導師「ふふっ…勇者は私が……ハァ…まるでダメね。体があると、どうも調子が狂うわ」ポツリ

神聖術師「?」

魔導師「さて、どうしようかしら」

魔導師「全てを奪った上で生かしましょうか。不老だけを残して……」

魔導師「あなたには、その方が苦しいでしょう?」


神聖術師「……殺せ」

魔導師「嫌よ。私にこんな窮屈な思いをさせて、自分は楽に死にたいなんて……」

魔導師「また、体を売る?」

神聖術師「!!」

魔導師「……やっぱりね。あなたは魔力を失った自分と、魔女を重ねていた」

魔導師「才能に溢れ、やや傲慢……全てを失う以前、在りし日の自分にでも見えた?」

神聖術師「…………」

魔導師「でもね、あなたと魔女は違う。あの子は魔術師であろうとしている」

魔導師「きっと、あなたより素晴らしい魔術師になるでしょうね」

魔導師「……話が逸れたわね。結論から言って、あなたは殺さない」


神聖術師「何故だ。実験でもする気か?」

魔導師「今更何を実験するのよ。そうじゃない、あなたの力を貸して欲しいの」

魔導師「いつの日か、私の力が必要になった時の為に……」

神聖術師「……なる程、そうか…分かった」

魔導師「生に未練はないの」

神聖術師「何を今更、これだけ格の違いを思い知らされたんだ。もういい……」

神聖術師「伝説の魔術師と対面出来ただけで、力の片鱗を見られただけで、魔術師として満足だ」

神聖術師「……ただ…」

魔導師「何かしら」

神聖術師「勇者に対する気持ちだけは……私が、私自身の力で得た、本物の想いだ」

神聖術師「魔力でも元素でもない、魔術でも神聖術でもない、私自身の力だ」


魔導師「……そうね」

魔導師「形がどうであれ、人の気持ちは否定しないわ」

神聖術師「意外な返答だな。けれど、あなたにそう言ってもらえれると嬉しいよ……」

神聖術師「いつか、魔術がなくなる日がくるだろうか?」

神聖術師「魔術などなくとも、人は幸せになれるだろうか?」

神聖術師「……答えなくていい。あなたが一番理解しているだろうから」

神聖術師「もう、終わらせてくれ。私を、魔術から解放してくれ」

魔導師「……ええ、分かったわ。しばしのお別れね。それまで、ゆっくり眠りなさい」スッ

神聖術師「ありがとう……」


サァァァァ…


魔導師「人は魔術などなくても幸せになれる」

魔導師「その気持ちを見つけた時、あなたは確かに幸せだった。そうでしょう?」

ちょっと休憩


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深夜 監獄独房

勇者「…んっ…うっ…」

盗賊「よぉ、久しぶりだな」ニコッ

勇者「……盗賊? 盗賊なの!?」

盗賊「おう、お前の友達の盗賊で間違いねえよ」

勇者「うわー、懐かしいなぁ……」

盗賊「お前、デカくなったな。まだ十二だろ?成長期って凄えな」バシバシッ

勇者「はははっ、違うよ」

勇者「小さいままだと戦えないから、成長を早めてもらったんだ」

盗賊「へー、便利なもんがあるんだな。あれか、魔術か?」

勇者「そう、魔導師さんって人に頼んだんだ。痛かったけど、やって良かったよ」


盗賊「そっか、なら良かったな!!」ニコッ

勇者「ははっ、うん!」ニコニコ

魔女「……おい馬鹿共。いくら何でも、浮かれるには早過ぎるだろ」

魔女「先…精霊はすぐに行っちゃうし」

勇者「精霊? っ、そうだ、王女様が神聖術師に!!」

魔女「大丈夫だよ、精霊が助けに行ったから」

勇者「精霊が? 何で?どういうこと?」

盗賊「精霊ってやつが

魔女「うっさいな、あんたは黙っててよ」


盗賊「なあ勇者、こいつ、さっきまで泣いてたんだぜ?馬鹿みてえに鼻水垂らし

魔女「精霊は私が捕らえられた後、先生の体…死体に入ったの」

魔女「それから陣を描いて魔力を集め、そこの馬鹿に勇者が囚われてることを伝えた」

魔女「その後も魔力を集めながら此処へ来て、魔術師達から魔力を借りた」

勇者「……それで、精霊は?」

魔女「何て言うか、凄かった。詠唱、陣、補助なしで転移術を使って東部に行ったみたい」

魔女「あれだけの力があれば、神聖術師なんて一瞬で倒せると思う」

魔女「帰ってこない内は分からないけど……きっと大丈夫だよ」

勇者「……魔女は大丈夫? 魔導師さんの体が、その…使われて……」

魔女「必要なことだったから大丈夫。終わったら埋葬するって、ちゃんと約束したから」


勇者「そっか…ありがとう……盗賊、軍は?」

盗賊「明朝に軍が出発した後で、反乱を起こす。北王を監獄にぶち込むんだとさ」

盗賊「処刑は俺とお前で止める。大勢の手練れが警備するらしいが、余裕だな」

盗賊「作戦は明日…つーか、もう今日か。ほれ、これが必要だろ」スッ

勇者「……剣、取り返してくれたんだ。ありがとう」ガシッ

盗賊「今更眠れそうにねえし、監獄の奴等は殆ど味方だ。だからさ…」

勇者「?」

盗賊「今まで何してたか話さねえか? 悩んでるよりいいだろ?」

勇者「……うん、そうだね。ちょっと狭いけど」


盗賊「……………」

魔女「なに」

盗賊「お嬢さんもお話しに混ざります?」ニコッ

魔女「……戻る気になれないし、眠れそうにないから、話してるの聞いてるよ」

盗賊「えぇ-、出てけよー」

魔女「あんたさ、勇者がいると別人みたいだね。割と気持ち悪いわ」

盗賊「友達と久しぶりに会ったら嬉しいだろうが、馬鹿じゃねえの?」

魔女「犯罪者、勇者が友達で良かったな。でなきゃ、今頃軍人さんに殺されてるよ」

魔女「あんたが処刑されれば、みんな喜ぶだろうね。勇者以外は」

盗賊「いやいや、悲しむ奴等の方が多いって、友達多いから。お前と違って」


魔女「うざっ」

盗賊「言い返せないのですか?あらあらぁ、お可哀想な方だこと……」

魔女「ふんっ!」カッ

ジュッ…

盗賊「熱ッ!?」

盗賊「おい!殴るならまだしも、独房で火ぃ出すとかねえだろ!! 馬鹿じゃねえの!?」

魔女「ゴメン、魔力上がってるの忘れてた」

盗賊「この服気に入ってんだから止めろよ」パタパタ

魔女「おい、どこから盗んだ」

盗賊「あー、西部の高いとこだよ。俺が行った時はタダだったんだ」


魔女「ただの窃盗だろうが……あんたさ、前科何犯なわけ?」

盗賊「前科なんてねえよ、だって捕まってねえし」

魔女「……自覚はしてんじゃん」

勇者「はははっ! 二人共、面白いなぁ」

魔女「あんたさぁ、こんな犯罪者と友達でいいわけ? 勇者でしょ?」

勇者「うーん、真面目な話し、盗賊は僕が出来ないことしてるから」

勇者「僕が極悪人を裁い…殺したら、きっと凄い騒ぎになるだろ?」

魔女「まあ、そうなるだろうね」

勇者「だから、何て言うか……盗賊は、悪人の世界の勇者みたいな感じじゃないのかな」


勇者「僕だって、そっち側にいたらそうしてたかもしれない」

勇者「盗賊がしてることは犯罪だけど……前に言った通り、完全な正義なんてないからさ」

勇者「傷付いた人も沢山いるし、救われた人も沢山いる…だから……」

魔女「……………」

勇者「ごめん。もう止めよう、この話はぐるぐる回るだけだ」

勇者「魔女、仲良くしてとは言わない。ただ、盗賊を完全な悪だとは思わないで欲しい」

勇者「ごめん……」

魔女「別にいいよ。あんたは悪くないし」

盗賊「なあ勇者」

勇者「なに?」


盗賊「お前さ、好きな女とかいるか?」

勇者「うん、いるよ。いるけど、あえないんだ」

盗賊「何でだよ。好きなら会えばいいじゃねえか」

勇者「奴等、僕を狙ってるだろ?一緒にいると危ないから」

盗賊「ああ、そうだったな。でもさ、キツくねえか? 会いてえのに会えねえのは」

勇者「写真があるから大丈夫。見てると、明日も頑張ろうって思えるんだ」

盗賊「ちょっと見せろよ。どんな感じの女?」

勇者「……今はないんだ。神聖術師が持ってる」

盗賊「は? なんでだよ?」

勇者「なんか分からないけど、僕が好きなんだって」


魔女「ゲホッ…は、はぁ!?」

勇者「僕だってびっくりしたよ!急に愛してるとか言われて……」

勇者「目が怖かったし、王女様を殺すとか言うし……」

魔女「うわぁ…あんたって本当に変な女に好かれるんだね。怖いわ」

魔女「大体、百歳超えに好かれるのがおかしい」

盗賊「あの女、百歳超えてんのか。魔術か?」

勇者「うん、不老なんだって」

盗賊「……なあ、お前も百歳いってんの? ババア?」

魔女「なわけないでしょ、つーか百歳で十代の男に惚れるとかないし」


勇者「……でも、子供好きだよね。魔女って」

魔女「好きとかじゃなくて、苦手じゃないだけだってば……」

盗賊「性犯罪とか最低な女だな。裁かれろ。あ、明日処刑だっけ、これで犯罪者が減るな」

魔女「あんたが性犯罪者だったら燃やしてるよ」

盗賊「お前さ傷害とかの前科あんだろ? 犯罪者の香りが…」

魔女「あんたさ、いい加減にしないと本当に燃やすよ?」

勇者「あっ、魔女」

魔女「なに?」

勇者「腕とかに刺青? みたいなのがあるよ」

魔女「あぁ、これは先生から魔力を継承した時に出来たんだ」


勇者「じゃあ、腕だけじゃないの?」

魔女「多分ね。確認してないから分かんないけど」

勇者「へー、刺青って怖い人って感じだけど、魔女のは違うね」

勇者「人とか動物じゃなくて、紋様みたいだ」

魔女「実際、そんな感じだよ。これがあると詠唱なしで魔術が使えるんだ」

魔女「腕のは土だったかな? 意識するだけで、魔術を使う時に元素を集めてくれる」

勇者「なる程、だからさっき火が出たんだ」

魔女「取り込みすぎると、さっきの勇者みたいになるから気を付けないと駄目だけどね」


盗賊「刺青か、可愛らしい女の子なのに世も末だな……」ハァ

魔女「うっさいな、これは先生からの贈り物なんだからいいの」

勇者「……盗賊は?」

盗賊「俺? 刺青はしてねえよ? 特徴あったらバレるから」

勇者「違うよ。好きな人いる?」

盗賊「好きだったのか分かんねえけど、大事な奴ならいたよ」

勇者「死んじゃったの?」

盗賊「ああ、俺に当たる罰を被ったみてえに、死んじまった……いい奴だったよ」

勇者「……どんな人?」

盗賊「娼婦だった……お前には嫌な話だろうな」


魔女「ううん、大丈夫。話してよ」

盗賊「……体売って生活しててさ。でも、本当に綺麗な女だった」

盗賊「心までは売ってねえ、自分を持ってる女。胸張って生きてたよ」

盗賊「けどさ、降霊術師を殺す前に、俺を狙ってた奴に殺されちまったんだ」

勇者「……そっか」

盗賊「これは、そいつから貰ったんだ。生まれて初めて、他人からプレゼントされた」

勇者「綺麗だね……これ、なんて書いてあるの?」

魔女「あなたに、救いがありますように……」

盗賊「お前、読めんの?」

魔女「古代…昔の文字だから。先生に教えて貰ったんだ」


魔女「いい言葉だね……」

勇者「そうだね、文字も綺麗だよ」

盗賊「救いか、んなもんあんのかな?」

勇者「ある。誰にだってあるはずだ。それが小さくても、大きくても、救いはあるよ」

魔女「……………」

盗賊「どうした?」

魔女「……二人共…頼むよ」

勇者「分かってる。守るよ、二人で」

盗賊「これ終わったら旅にでも出るか? 異形種始末しながら金稼ぐんだ」


勇者「三人で?」

盗賊「それは分かんねえけど、好きな奴とか大事な奴が死ぬのは見たくねえ」

盗賊「だから、何とか出来ねえかと思ってさ」

勇者「そうだね、僕達なら何か出来るかもしれない」

魔女「それ、私も入ってる?」

勇者「魔女さえ良ければね。色々な国の魔神族を倒せば……いずれは王にも辿り着く」

盗賊「王サマか、そいつをぶっ殺せば終んの?」

魔女「かもね。ねえ、勇者は王を見…」

勇者「……スー…スー…スー…」コテン

魔女「いやいや、寝んの早過ぎるでしょ……」


ファサ…

魔女「……お休み、勇者」

盗賊「なあ」

魔女「ん?」

盗賊「お前、勇者をどう思ってんだ?」

魔女「……さあ、どうだろ。いつかは好きになるんじゃない?」

魔女「恋とか愛とかじゃないかもしれないけど、好きにはなるでしょ」

盗賊「好きなら好きって言っといた方がいい。早めにな」

盗賊「つーか相手は王女様か、相手が相手だからな。盗み甲斐あるだろ?」

魔女「何でもかんでも盗みに例えんな」

盗賊「王女様の好きな奴を盗むなんて、中々出来ねえ体験だろ? やっとけやっとけ」

魔女「なにそれ、完全に面白がってんでしょ」

魔女「でも、そうだね……面白そうかも。一度会ってみたいよ、王女様に」

ここまで、寝ます。昨日は申し訳ない。
何だか急に修学旅行みたいな雰囲気になったけど、また明日。


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部下「元帥、西部司令官、ご報告があります」

元帥「話せ」

部下「は、はいっ」ビクッ

部下「(東部元帥、相変わらずの貫禄だ。あの目、まるで視線で射るような……)」

部下「(確か、六十歳くらいだったか。一体何を見たら、あんな風になるんだろうか)」

特部隊長「おい、どうした? 何かあったのか?」

部下「い、いえ、申し訳ありません。報告します」

部下「それが、未だに北軍の姿が見えないのです。東部は勿論、西部でも確認されていません」

部下「我々に情報が洩れたのを察知したのか不明ですが、一切の動きがないのです」


元帥「引き続き偵察隊による情報を待て、警戒は解くな」

部下「はっ!了解しました!!」

ガチャ…パタンッ……

元帥「…………」

特部隊長「元帥、どう思われますか」

元帥「起きるであろう戦は一つではない。それは貴様も分かっているだろう」

特部隊長「…………」

元帥「現在の北部の状況は?」

特部隊長「それは元帥もご存知では…」

元帥「いいから言え」


特部隊長「……諸侯貴族による反発、北王の王権行使、王権行使に対する民衆の不満」

特部隊長「民衆の不満を取り除く為、情報操作によって生まれた魔術師狩り」

特部隊長「現在分かっているだけでも、北部が抱える問題は多いと言えます」

元帥「軍はどうなっている」

特部隊長「はい、一部兵士は囚われの身にある勇者に協力、内乱を画策してる模様」

特部隊長「軍の中にも、北王のやり方に不満のある者がいるのは事実……」

元帥「一兵卒がそうであるなら、将軍の不満はそれどころではないだろうな」

元帥「もしそうであれば、不満を持つのは軍の一部ではない。軍そのものだ」

特部隊長「……やはり、将軍が軍を率いて国家に反逆したと、そうお考えですか」


元帥「推測だ。今は部下の報告が全て、まだ確かなことなど分からん」

元帥「だが、魔術師狩りや北王の暴走、民衆の不満、裏付ける理由は幾らでもある」

元帥「今、この瞬間に異形種が現れる可能性は十二分に有り得る」

元帥「自国ですら手一杯だというのに、北王は無意味とも言える侵略行為を指示した」

元帥「北王は一体何を考えている。もう、北王には任せてはおけん」

元帥「第一に、異形種出現後、軍の重要性は日に日に増している」

元帥「血を流し、国を守護しているのは王ではない。軍人である我々だ」

元帥「今や王の存在など不要。我々軍部が国を治めた方がよい……」

元帥「これは、あくまで憶測だ」

元帥「他にも様々な理由、思惑はあるだろうが、反逆の意志が芽生えるに十分なものが揃っている」


特部隊長「確かに……民衆の不満は爆発寸前。行動に移すのであれば、今が絶好の機会です」

特部隊長「如何なる圧力があったにせよ、王は屈してはならない」

特部隊長「しかし、北王は屈してしまった……」

元帥「国の中枢を担う、最も重要な人物が崩れてしまった場合、何が起きるかなど考えるまでもない」

元帥「寧ろ、今まで行動に移さなかったのが不思議に思えてならない」

特部隊長「では、将軍はこの時を待っていたと?」

元帥「儂には、そう思えてならん」

元帥「ところで、西部から難民として入った貴様の友人、情報屋から連絡はないのか」

特部隊長「いえ、まだ連絡はありません」

元帥「そうか、ならば待っていても仕方がない。来ないと言うなら此方から出るまでだ」


特部隊長「…北部を、落とすつもりですか」

元帥「北部は既に落ちている。我々は奴等が縋る最後の糸を切り、引導を渡す」

元帥「内乱が起きていれば、鎮圧するまでだ」

元帥「正義や大義の為……如何なる戦であろうと、犠牲になるのは国民だ」

特部隊長「…………」

元帥「だが、今の我々が最も優先すべきは陛下の命。あの方にもしものことがあれば、東部までが終わる」

元帥「陛下は独断で北部へ向かった。剣聖と共にいるとはいえ、無事でいられるとは限らない」

特部隊長「では、現在配置している兵士を北部へ?」

元帥「その必要はない、部隊は既に編成してある」


特部隊長「(常に最悪の事態を想定し、最善の行動をせよ)」

特部隊長「(初めて部隊を任された時、そう教えられた。元帥は正にその通りの行動、準備をしていたのか……)」

特部隊長「(疑っていたわけではないが、東部の兵士が絶対の信頼を寄せる理由が分かった気がする)」

特部隊長「(軍人の模範、理想的な姿だ。俺も見習わなければならないな)」

元帥「大尉、指揮は貴様に任せる。儂は此処を離れるわけにはいかん」

特部隊長「ですが私は…」

元帥「東軍と西軍の間で多少のいざこざがあるのは知っている」

元帥「西部崩壊から数ヶ月足らずだ、西部出身の貴様を快く想わない者もいるだろう」


特部隊長「…はい」

元帥「儂が説得したところで効果はない。寧ろ、何故庇うのかと言われるのが落ちだ」

元帥「……今以上に異形種が増加する可能性もある。軍内部で揉めている暇などない」

元帥「現段階で解決しなければ、いずれ大きな問題となるだろう」

元帥「だからこそ貴様に行かせる。大尉、信頼は戦場で勝ち取れ」

特部隊長「ッ! 了解しました!!」






北王「……何のつもりだ。私は東部へ攻めろと命令したはずだが」

将軍「ただでさえ民は異形種に怯え、苦しんでいるというのに、無意味な戦を行うわけにはいきません」

将軍「北王……今日この日を以て、長らく続いた王政は終わる」

将軍「これより我々軍部が北部を統治し、異形種の脅威から民を守護する」


将軍「北王、魔術師狩りの真意は分かっている」

将軍「自身に対する批判や不満、民衆の目を逸らす為の情報操作、でっち上げだ」

将軍「私はこの事実を白日の下に晒し、あなたを処刑する」

将軍「北部全体を混乱に陥れた行為は、決して許されるものではない」

北王「……まるで以前から用意していたかのような台詞だな。上手く言えたか?」

将軍「何だと?」

北王「父上が亡くなった後、諸侯貴族の私に対する妨害の数々……」

北王「その首謀者、裏で糸を引いていた存在……それが今になって、やっと分かったよ」

北王「お前だったんだな。父上亡き後、王座を狙っていたのは……」

北王「そして側近を……爺やを殺すよう指示したのは!!」ダッ


ガシッ…

北王「っ! 離せ!!」

将軍「あの方は激務に耐えきれず、病で亡くなった。その死を皆が悼んだのはご存知でしょう」

北王「違う!爺やは魔術によって殺された!高濃度の魔

ドガッ!

将軍「狂った王の、下らない被害妄想に付き合っている暇はない」

北王「貴様は、貴様だけは…」

将軍「何をしている。さっさと連れて行け、そいつは最早、王などではない」

将軍「守るべき国家を混乱に陥れた大罪人であり、許されざる反逆者だ。早く行け」


ザッザッザッ…


将軍「今すぐに民衆を集めろ」

将軍「私は、この事実を一刻も早く民衆に伝え、魔術師に対する疑念を取り除かなければならない」


>>>>

監獄 独房

勇者「北王が、捕らえられた?」

監視「ええ、我々にも何が起きたのか……情報が錯綜していて状況を飲み込めていないのです」

勇者「監視さんは、北王捕縛の件について何も知らされていなかったんですか?」

監視「いえ…私は何も……」

監視「ですが、北王捕縛までの動きは早かった。おそらく、これは以前から練られていた計画……」

監視「将軍に極めて近しい、限られた兵士達にのみ知らされていたと考えられますな」

勇者「他に何か分かっていることはありますか」

監視「将軍は処刑場に民衆を集めるように指示した。それだけです」

勇者「……そうですか」

勇者「(現状で判断するには情報が乏しい。今は無闇に動かない方がいいだろう)」


監視「しかし、何故将軍が……」

監視「将軍は先代の頃から忠誠を貫き、幾多の異形種を倒した英雄とも言えるお方です」

監視「あの方が北王を捕らえるなど、まして計画していたなど……俄には信じられません」

ゴンゴンッ…

監視「!?」

将軍「監視、私だ。勇者様に話さなければならないことがある。開けてくれ」

監視「はっ、了解しました!」

将軍「……ご苦労、少しの間でいい、外してくれるか?」

監視「いや…しかし勇者様が」チラッ

勇者「僕なら大丈夫です。怪我は治ったし、心配いりませんよ」ニコッ

監視「承知しました。では、失礼します。私は外で待っていますので……」

ザッザッザッ…


勇者「将軍、僕に何の用です? 随分と兵士達が騒がしいですけど…」

将軍「その前にお詫びしなければなりません」

将軍「勇者様を捕らえ、このような場所に監禁するなど……誠に申し訳ありません」

勇者「襲撃したのは事実ですから、これは当然の処置です。この判断に誤りはありませんよ」

勇者「ですから、謝罪は結構です……将軍、何があったんですか?」

将軍「つい先程、北王を国家反逆罪で捕らえました」

将軍「北王の前での貴方の発言、その事実調査をしたところ、魔術師狩りの真意が分かったのです」

将軍「何せ緊急事態だったので、信頼出来る部下以外には事実を伏せて行動しました」

将軍「他の兵士達が取り乱すのも無理はないでしょう……」


勇者「……そうでしたか。しかし、それを民が知れば更なる混乱が起こります」

将軍「確かにその通りです。ですから、私はこれより、民に真実を伝えようと考えています」

将軍「魔術師狩りによって生まれた疑念や混乱を晴らさねば、北部は内部から崩壊してしまう」

勇者「それは絶対に避けなければなりませんね……僕は何をすれば?」

将軍「貴方も民の前に立って欲しいのです。おそらく、私の言葉だけでは納得しないでしょう」

勇者「……分かりました。僕に出来る限りのことはします」

将軍「それは有難い……ご協力、心より感謝します」

勇者「いえ、当然のことです」

勇者「将軍、一つ聞きたいのですが、北王の処遇はどうなさるつもりですか?」

将軍「これだけの混乱を招いたのです……処刑せざるを得ないでしょう」


将軍「何より民が納得しない」

将軍「この騒動は、血を流さずして解決するのは不可能です」

将軍「懸念があるとすれば、魔術師狩りを主導していた神聖術師の存在……」

将軍「昨晩からの足取りが全く分からない。一体何処へ行ったのか、見当も付きません」

勇者「…………」

将軍「勇者様、誠に申し訳ありませんが、準備が整うまで此処で待っていて下さいますか」

勇者「はい、今出ても余計な混乱を招くだけですから」

将軍「ご理解、有り難う御座います」

勇者「あの、魔女や魔術師については後に釈放を?」


将軍「勿論です」

将軍「彼等には、謝罪しなければならない。許しを得られるかは別ですが……」

将軍「しかし、もう少し気付くのが遅ければ、罪のない魔術師を処刑してしまうところだった」

将軍「過ちを未然に防ぐことが出来て良かった……」

勇者「軍と魔術師……互いに国を守り、民を守る者。協力出来ると良いですね」

将軍「私も、そう願うばかりです……では、そろそろ失礼します」ザッ

勇者「将軍、この先、北部には新しい指導者が必要になるでしょうね」

勇者「国と民を、正しく導ける者が……」

将軍「私はそうありたいと思っています。では、失礼」


ザッザッザッ…ギィィ…ガシャン…


勇者「そうありたい、か……自分が指導者だと宣言したって気付いてるのか?」

勇者「……将軍が何を考えていのるか大体分かった。盗賊と魔女にも伝えないとな」


勇者「えーっと、剣は…確か、この下に……」

バゴッ…

勇者「結局、戦うことは避けられない。平和の為の戦争、戦争を終わらせる為の戦争……」

勇者「争いは、争いでしか解決出来ないのか」ガシッ

ガシャン…

勇者「あ、監視さん」

監視「良かった……ご無事で何よりです。何か情報は得られましたか?」

勇者「はい。将軍が民衆の前で何を語るのか分かりませんが……」

勇者「北王に代わって新しい指導者になろうとしているのは分かりました」

勇者「何て言うか、お芝居みたいな話し方で……まるで台本を読んでるみたいだった」

勇者「北王を処刑すると言った時、顔は悲しそうでしたけど、あれは本心じゃない」


監視「北王を処刑!? 馬鹿な!!」

勇者「微塵の躊躇いも感じませんでした。至って冷静な、抑揚のない声……」

勇者「魔術師を釈放するとも言ってたけど、それも本当かどうか分からない……」

勇者「監視さんの言う通り、以前から計画されていたのかもしれません」

監視「……勇者さん」

勇者「はい?」

監視「我々は誰を信じたら良いのでしょうか。情けないですが、私には分からなくなってきました……」

勇者「これから僕達が行うことを信じて下さい」

監視「何をするつもりなのです? 北王は将軍の手によって捕らえられたのですよ?」


監視「最早、我々に出来ることなど……」

勇者「ありますよ」

監視「え?」

勇者「作られた偽りの真実を暴き、その奥にある本当の真実を民衆に伝える」

勇者「それが、どれだけ受け入れ難く、つらいものでも、彼等は知らなければならない」


ザザ…ザザザザ…

勇者『それが、どれだけ受け入れ難く、つらいものでも、彼等は知らなければならない』


魔導師「…なんて言ってるけど、どうするの?」

魔女「いいんじゃない?」

魔女「何も解決しないまま、北王に全てを押っ被せて別の指導者が生まれるよりはね」

魔女「将軍だっけ、あいつ明らかに怪しいでしょ。北王を捕らえる時期も狙ってたみたいだし」


魔導師「そうね、後は北王の首を刎ねるだけ」

魔導師「国民の鬱憤を晴らし、あらぬ疑いを掛けられた魔術師を救う……」

魔導師「正に救世主、新たな指導者の誕生ね」

魔女「端から見れば英雄的な感じだけど、巻き込まれた身としては、かなりもやもやする」

魔女「将軍は何が狙いなわけ? 王様の椅子?」

魔導師「そうね、今回の騒動すら利用しているから、随分と前から狙っていたんじゃないかしら?」

魔導師「おそらく、彼が指導者になった後は軍事国家まっしぐらでしょうね」

魔導師「囚われの魔術師のことなんて、気にも掛けてないようだったわ」

魔導師「敢えて魔術師狩りを放置していたのは間違いないわ」


魔女「見て見ぬ振りしてたクセに、手柄になるものが揃ったから出てきたわけ?」

魔女「疑いもせず魔術師弾圧してた奴なら、喜んで将軍を支持しそうだけど、なんか腹立つ」

魔導師「混乱の最中だもの、小さな悪事なんて彼等には見えないわよ」

魔女「…ハァ…北部の皆も、もう少し自分の頭で考えれば、こんな大事にならなかったのに……」

魔女「……あのさ、勇者に会わなくていいの?」

魔導師「いいのよ。これは私が出る場面じゃない、あなた達が協力して解決するの」

魔導師「私のような妙な存在ではなく、あなた達のような、今を生きる人間がね……」

魔女「やっぱり年寄りは言うことが違うわ。言葉の重みも半端じゃないし」

魔導師「うるさいわね。私は私でやることがあるのよ」


魔導師「だから、これはあなたが勇者に渡してちょうだい」スッ

魔女「ペンダント…分かった。ちゃんと渡しておくよ」

魔導師「そろそろ東部に戻るわ。この体、もう少しだけ貸してちょうだい」

魔女「……うん。あっ、魔術師達から借りた魔力もちゃんと返してよ?」

魔導師「ふふっ、大丈夫よ。逃げたりしないわ」

魔女「……じゃあ、またね」

魔導師「ええ、次はゆっくり話しましょう」スッ

魔女「…………」

魔導師「魔女」

魔女「ん、どうかしたの?」

魔導師「無責任な物言いになるけれど……頑張りなさい」


魔女「言われなくても頑張るってば」ニコッ

魔導師「ふふっ…魔導師は、そういうところが好きだったのかもしれないわね」


ナデナデ…


魔女「ちょっ…もうっ…」

魔導師「感情に支配されては駄目よ? 過去を憎んでも駄目、未来を想像しなさい」

魔女「分かってる。勇者も同じようなこと言ってたし」

魔導師「あら、そうなの? あの子、口だけは大人になったのね」

魔導師「……まあ、それはいいわ。それより……」

魔女「なに?」

魔導師「いつか必ず、あなただけの王子様が現れる。顔は可愛いのだから、自信を持ちなさい」


魔女「……あのさ、私がそんなの信じると思う? ていうか『顔は』とか言わないでよ」

魔導師「あら、あなたが持ってるペンダント、その中にいる女性は信じてるわよ?」

魔女「王子様を? うわぁー、王女様って馬鹿なんだ。少しは現実を見なさいよ……」

魔導師「少し夢見るくらいでいいのよ? あなただって女の子なんだから、ね?」ニコッ

魔女「……ちょっとだけ、やや前向き気味に検討しとく」

魔導師「ふふっ、今はそれで十分よ。じゃあ、また会いましょう」

魔女「先生の体なんだから無茶しないでよ?」

魔導師「この体には傷一つ付けさせはしないわ、安心しなさい」

魔女「……先生をよろしくね」

魔導師「ええ、任せなさい」スッ


バシュッ!

魔女「はぁ…行っちゃった。もう少しだけ話したかったな……」

魔導師『師として、上手く出来ていたか分からん。ただ、私はお前を愛している』

魔女「さて、いっちょ頑張りますか!!」





盗賊「……何であんたがこっちにいるんだよ」

情報屋「それはこっちの台詞だ」

情報屋「寄り道しているとは思ったが、まさか北部で勇者と一緒にいるとは思わなかったよ」

盗賊「で? 何しに来たんだ?」

情報屋「難民を装った情報撹乱だ。西部司令官殿から直々に頼まれてな……」

盗賊「ふーん、あんたがそういうことするなんて意外だな」


情報屋「それは、何だ…その、隊長は一緒に戦った友人でもあるからな」

情報屋「お前が消えたあの日から、出来る限りのことは協力しようと決めたんだ」

盗賊「……そっか、友達の頼みなら断れねえな」

盗賊「そんで、こっちに来たら捕まって、監獄行きになったわけだ」ニヤニヤ

情報屋「笑うな、予想外だったんだよ。まさか、お前達より先に将軍が北王に反旗を翻すなんてな」

情報屋「将軍は今まで忠実だったってのに……」

盗賊「そうなのか?」

情報屋「ああ、先代が晩年の頃、若くして将軍となり、現在まで支えてきた人物だ」

情報屋「武芸にも秀で、数多くの異形種を倒したらしい。こっちの軍でも有名だ」


盗賊「へー、我慢強い野郎だな」

情報屋「……どういう意味だ?」

盗賊「いや、俺には周到に練られた作戦にしか見えなかったからさ」

盗賊「なんつーか、この日を待ってたってくらいだ。いくら何でも手際が良すぎんだろ?」

情報屋「なら、将軍は以前から王座を狙っていたってのか?」

盗賊「そうなんじゃねえの? 北部の連中は北王に不満たらたらだ」

盗賊「西部の奴等…あんたや隊長みてえな、国をどうにかしようとする奴なんざいやしねえ」

盗賊「どいつもこいつも情報に踊らされて、文句言うだけの馬鹿ばっかりだ」

盗賊「脳味噌が溶けてんのか、元からねえのか知らねえけど……」

盗賊「今なら誰にも疑われず、簡単に盗れんじゃねえの?」


情報屋「国と民衆の大混乱に便乗したわけか、何だってこんな時に……」

盗賊「こんな時だからこそ盗るのさ、あんたも分かるだろ?」

情報屋「確かに狙いやすい時期なのは分かるが、将軍が何を考えてるのか、それが見えん」

盗賊「目的が分かっても、どうせろくでもねえことだろ。崩れかけの国を盗るような奴だぜ?」

情報屋「……お前も盗っただろうが、すぐに捨てたがな」

盗賊「盗ったもんをどうしようが勝手だろ?俺のもんなんだから」

情報屋「まったく……変わらないな、お前は」

盗賊「人はそう簡単に変われねえんだよ……」

情報屋「……お前等がやるはずだったことは、全て将軍が掻っ攫った」

情報屋「なあ盗賊よ、これからどうするつもりだ?」


盗賊「取り敢えず、勇者と放火魔女と話してみるわ。状況が変わっちまったからな」

盗賊「後は、将軍が馬鹿な民衆の前で、どんな演説をするのか聴いてからだな」

盗賊「待ちに待った大舞台。期待に胸躍らせる奴等の前だ、嘘は吐かねえ」

情報屋「そうか……出来れば勇者とも会いたかったが、俺にも仕事がある」

情報屋「早いとこ戻って、北部の現状を伝えないとな。監獄から出してくれて助かったよ」

盗賊「いいっていいって、友達だろ? あ、酒いるか?」ニヤニヤ

情報屋「いや、いらない。酒は止めたんだ」

盗賊「へー、人って意外と簡単に変わるんだな」

情報屋「……お前も少し変わったよ。どこがと聞かれても答えられんが、どこか変わった」

盗賊「あんたや隊長……それに、あいつが変えたんだろ」


情報屋「……その腕輪、大事にしろよ?」

情報屋「手放したら最後、お前でも二度と取り戻せない、世界に一つの宝だ」

盗賊「ああ、分かってるさ……じゃあな、死ぬんじゃねえぞ」

情報屋「終わったら西部に来い。いつもの酒場で土産話を聞かせろ」

盗賊「なんだ、酒はやめたんじゃねえのかよ」

情報屋「酒はやめたが、店主が持ってくる変わった色の水は飲む。あれはやめられそうにない」

盗賊「琥珀色の綺麗な水か?」

情報屋「ああ、酒でもないのに頭がくらくらするんだ。不思議なもんだろ?」

盗賊「……あのさ、店主によろしく言っといてくれねえか? あんたには世話になったってさ」


情報屋「自分で言え、店主は近頃元気がないんだ。野郎も、娼婦も……」

情報屋「都の連中も……皆、西部の勇者が恋しいんだ」

盗賊「これ片付けたら行くさ。東部の勇者も西部の勇者も、今は忙しいんだ」

情報屋「皆、お前を待ってる。いつか帰って来い。じゃあな……」バシッ


ガラララララ…


盗賊「帰って来いか……」

盗賊「ただいまとか言ったことあったっけ? 憶えてねえや…」

盗賊「うっし、面倒事はさっさと終わらせて、煙たくて薄汚え酒場に帰るか」


>>>>>

魔導師「大尉、ちょっと来てくれるかしら」

特部隊長「あなたは、確か精霊だったか。済まない、今は忙しいんだ。後にしてくれ」

魔導師「この私が来いと言っているんだ。拒否する権利など、お前にはない」

特部隊長「!!?」ゾクッ

魔導師「…ごめんなさい、少し調子が悪いのよ」

魔導師「今すぐに渡したい物があるの、時間は取らせないわ」

特部隊長「……ああ、分かった」


ザッザッザッ…ガチャ…パタンッ…


特部隊長「渡したい物とは、あれか?」

魔導師「ええ、あなたの為に作ったものよ。まだ起動していないけれど、性能は保障するわ」

特部隊長「装甲が薄い、見たところ鎧のようだが……しかし、何故こんなものを?」


魔導師「東王の発見及び護衛。戦闘になった場合、必要なるのは武器ではなく盾だ」

魔導師「剣聖では陛下の盾にはなれない。あの男は剣でしかない」

特部隊長「それは元帥が?」

魔導師「そうよ?何せ急な依頼だったから、それしか作れなかったの」

特部隊長「この鎧の機能は?」

魔導師「ある程度の魔術なら相殺、完全種と同等とは行かないまでも、機動力、反応速度も高い」

魔導師「但し、体に反動や負担が掛かる」

魔導師「調整して幾らか軽減したけれど、長時間の着用はお勧め出来ないわ」

魔導師「更に言えば、日頃から訓練された者でなければ、鎧の反応速度や機動力に対応出来ない」

魔導師「ぶっつけ本番になるけれど、動いて慣れてもらう他に方法はないわ」


特部隊長「了解した」

特部隊長「しかし、北部から帰還して僅かな時間でこんな代物を作るとは驚いたな……」

特部隊長「魔術を施した武具は数多くあるが、実戦に使用されている物は少ない」

特部隊長「この鎧が配備されれば、少人数での異形種討伐も可能になる」

魔導師「……残念だけど、私の手で作るのはそれだけ。量産は他の魔術師に任せる」

魔導師「それと同じ性能の鎧を作れるとは思えないけれど、技術は提供するわ」

特部隊長「それでも有難い。戦死者の数が減るのであれば、それに越したことはない」

魔導師「そうね、喜んでくれたみたいで良かったわ」

特部隊長「……一つ、訊かせてくれないか」

魔導師「何かしら?」

特部隊長「先程、あなたが発した魔力…のようなものは凄まじかった」

特部隊長「背筋が凍るとは、あのことだろう。あなたは一体何者なんだ?」


特部隊長「精霊とは勇者と共にいる存在。そう知らされていたが、魔術師だとは知らなかった」

魔導師「そう聞かれると、自分でも何と答えればいいのか分からないわね……」

魔導師「既に聞いていると思うけれど、この体は借りているだけなの」

魔導師「これは私の本来の姿じゃない……さっきの尊大な態度は許してちょうだい」

特部隊長「詮索するようで悪いが、昔はあんな感じだったのか?」

魔導師「そうね、自分は万物の頂点にいるとでも勘違いしていたんじゃないかしら……」

魔導師「まったく…救いようのない、驕り高ぶった、傲慢で尊大で愚かな魔術師だったわ」

魔導師「ハァ…魔術師の私は死んだと思っていたけれど、そうでもないみたい」

特部隊長「一度でも力を自覚した者は、中々抜け出せないからな。仕方ないさ」

特部隊長「こんな若僧が何を言っても、あなたには煩いだけだろうが……」


魔導師「そんなことはないわよ? 私、若者の意見は聞くようにしているの」

特部隊長「そうか、年長者らしい言葉だな。さて、この鎧を移動…っ…重いな…」

魔導師「起動にはあなたの血が必要なのよ。所持者としての登録みたいのものね」

特部隊長「……なる程、それなら悪用されずに済むな」ガリッ

ポタポタッ…

特部隊長「この陣に血を?」

魔導師「ええ、それが済めば、次の起動からは血液は必要ないわ。鎧が勝手に認識するから」

特部隊長「……魔術というのは便利だな」スッ


ポタポタッ…ギシッ…


特部隊長「鎧が自分で動いている、のか?」

魔導師「ええ、動作確認及び所持者認証…」

魔導師「着なくても動かせるようにしてある。その鎧は、所持者にのみ従う」


特部隊長「どうなっているか是非知りたいが、聞いたところで到底理解出来ないだろうな……」

魔導師「そろそろ良い時間ね。早めに着て、慣れておきなさい」

特部隊長「密閉されているようだが、どうやって着れ


バシュッ…


特部隊長「開いた…最早何でもありだな…」ガシュッ

魔導師「どうかしら?」

特部隊長「視界良好、間接部位の駆動も問題ない。太股の側面部に収納されているのは?」

魔導師「短刀、それにも私の魔術が施してあるわ。人間には極力使わないように」

特部隊長「了解した」

魔導師「後はこれを」スッ

特部隊長「ただの護符、ではないんだろうな」


魔導師「それがあれば、遠方にいる仲間と連絡が取れる。元帥にも渡してあるわ」

魔導師「鎧には既に備わっているから、あなたが持つ必要はない」

特部隊長「この術具は声を届けるもの、でいいのか?」

魔導師「そんなところね。同じ陣が描かれている符に所持者の声のみを転移転送させる術具」

魔導師「体は転送しないから安心して?」

特部隊長「誤作動や事故が起きる可能性は?」

魔導師「下手に弄らなければ絶対に起きないわ。下手に弄らなければね」ニコッ

特部隊長「……分かった。皆にも伝えておく」

魔導師「向こうに着いたら勇者のことも助けてあげて……きっと、無茶をするだろうから」


特部隊長「……行けない理由があるんだな」

魔導師「察しが良くて助かるわ。魔女っていう女の子もよろしくね?」

特部隊長「出来る限りのことはする」

特部隊長「この鎧を着たからには、これまで以上の働きをしなければならない……」

特部隊長「ご協力に感謝する。では、失礼」カシュッ

ザッザッザッ…

魔導師「…ハァ…やっぱり疲れるわ。そろそろ、体を返した方が良さそうね」






情報屋「あいつのお陰で、何とか北部から出られたな…ん?あれは荷馬車か?」

情報屋「おーい!ちょっと止まってくれ!!」


剣聖「……何だ?」

情報屋「あんた、今から北部に行く気か?」

剣聖「そうだが、北部で何かあったのか?」

情報屋「信じられないとは思うが、将軍が北王を拘束した。今は行かない方がいい」

情報屋「他にも色々あるんだが、大規模な戦闘が起きる可能性もあり得る」

剣聖「最悪の予想が当たったな、どうする」

東王「此処まで来て引き返すわけにはいかん。このまま進む」

情報屋「……その声、まさか東王陛下ですか!?」

東王「…君は、就任式で会った。確か西部司令官…大尉の友人…」


情報屋「はい、西部司令官からの依頼を受け、北部へ難民を装って侵入しました」

情報屋「北軍を撹乱させるはずだったのですが、到着して間もなく、将軍が北王を拘束」

情報屋「協力者の手助けがあり、何とか脱出に成功しました」

情報屋「しかし、陛下が何故此処に?」

剣聖「東王陛下が直々に、北王の性根を叩き直すはずだったんだがな……」

剣聖「これは少々、厄介かもしれん」

情報屋「……対談…いや、和平交渉ですか?」

剣聖「中々頭が切れるな、何故分かった」

情報屋「西部に続き北部まで崩壊すれば、異形種の襲撃を待たずして、世界は混沌となる」

情報屋「人と人が争っている場合じゃあない。となれば方法は一つ、和平しかない」


情報屋「しかし陛下、北王が拘束された以上、北部に行くのは無意味です」

東王「いや、逆だ。こうなった以上、絶対に行かねばならない」

東王「将軍の評価は誰もが知っているだろうが、彼には掴めない部分が多い」

東王「先代存命中から、彼の周りで妙な動きがあったことは度々耳にしていた」

東王「現北王も手を尽くして探ったようだが、結局は何も掴めなかった……」

情報屋「この反乱は以前から計画されていたと……そう、お考えですか?」

東王「私にはそうとしか思ない」

東王「この混乱の中、狙い撃ったかのような反逆行為……いや、最早革命か」

東王「将軍の最終目的が何なのか分からないが、彼が指導者となれば、間違いなく軍国家となる」

東王「それ以前に、改革を進めるとなれば相応の時間が掛かる。それまで北部が保つかどうか……」


東王「異形種の脅威は去っていない。革命を起こしたとしても、北部の未来には不安しかない」

東王「人間が異形種に立ち向かうには、各国の結束が必要なのだ」

東王「もし、ここで北王が倒れるようなことになれば、南部にも緊張が走る」

東王「北部同様の事態が起きるかもしれん。これ以上、国が崩れるわけにはいかん」

東王「君は帰還次第、軍に伝えてくれ」

剣聖「元帥の奴は気付いているだろうなぁ…」

剣聖「奴のことだ、東王陛下の危機を察知したのなら行動に移しているはずだ」

東王「仮にそうだとしても、君の見聞きした事実を伝えるのだ」

東王「憶測で行動しては迷いが生まれる。確固たる事実があれば、彼等も迷いなく動ける」


東王「どうか、宜しく頼む」

情報屋「はい、すぐに伝えます。陛下、お気を付けて」


ガラララ…


剣聖「人材に恵まれているな」

東王「ああ、大尉も彼も惜しみなく協力してくれる。頼もしい限りだ」

東王「今は東部だ西部だと言っている場合ではない、人間同士で争っている場合でもない」

東王「それは崩壊を目の当たりにした彼等が、一番分かっているだろう」

東王「だからこそ、危険を犯してまで北部へ行った。覚悟、意志の強さは並大抵のものではない」

剣聖「意志の強さが災いして、自国に多大な迷惑を掛けている王もいる」

剣聖「家族…嫁子供はもとより、城の連中、元帥はさぞかし心配しているだろう」

元帥「奴も歳だからなぁ、何があってもおかしくはないぞ?」


東王「嫌なことを言うな。それは私自身理解しているよ」

東王「しかし、私が行かなくては意味がないのだ。それは元帥も承知している」

東王「今後の世を考えれば、この行動は間違いではない。王だからこそ、動かねばならん」

剣聖「王が命を晒して戦場を歩くなど、正気の沙汰ではない。そうならない為に軍がある」

東王「時には命を晒してでも、やらねばならないことがある」

剣聖「そうは言うが、既に革命は成功している。将軍に任せてよいとは思わんのか?」

東王「彼が魔術師狩りを止めていれば、それでも良かったかもしれん」

東王「だが、軍の指導者たる彼が、それを見過ごしたのは何故だ?」

東王「神聖術師の妨害があろうと、魔術師狩り以前に手は打てたはずだ」


剣聖「北王の信用を失墜させる為、敢えて放置したとしか考えられんな」

剣聖「支えもせず、かと言って意を唱えるわけでもなし、傍観するのみだ」

剣聖「将軍は混乱拡大を望んでいたのだろう」

剣聖「俺には、北王に対する私怨のようなものを感じる」

東王「私怨……」

剣聖「何か思い当たる節でもあるのか」

東王「断定は出来ないが材料ならある。北部到着まで、暫し考えさせてくれ」


>>>>>

魔女「勇者、これ……」スッ

勇者「ありがとう。よかった、王女様は無事だったんだね……精霊は?」

魔女「向こうでやることあるんだって、先生のお葬式はまだ先になりそうだよ」

勇者「そっか…」

魔女「……ちょっと見せてよ」

勇者「えっ? うん、別に構わないけど」パカッ

魔女「うわっ…えぇ…」

勇者「ちょっと待って、なにその反応。王女様に失礼だよ」

魔女「いや、思ったより綺麗だからびっくりしただけ。顔いじってんじゃないの?」

勇者「……いじってないから、王女様は昔から綺麗なんだ。王女様のお母さんも綺麗だよ?」

魔女「いやいや、王女様のクセに綺麗なんて、天が二物を与えちゃいかんだろう」


魔女「不細工でも、王女様ってだけで巨額のお釣りが出るよ?」

勇者「不細工とか言わない。ほら、もういいだろ」

魔女「王女様も変わってるわけ? ほら、鎖骨を噛むとか…」

勇者「……王女様はそんなことしないよ」

魔女「ちょっと待って、今の間はなに?」

勇者「王妃様が、ちょっとあれだから…それを思い出しただけ」

勇者「あっ、噛まれたのは僕じゃなくて王様だからね」

魔女「そんな情報は知りたくなかったよ……あぁ、王女様も結構危ないらしいよ」

勇者「えっ、なにが?」

魔女「神聖術師を相手に怖じ気付くことなく、ビンタをかましたらしい」

勇者「あぁ…なんか分かるな。王女様は気が強いし、駄目なものは駄目だって言う人だから」


勇者「変わってなくて安心した」ウン

魔女「……あんたも大概、変わってるよね」

勇者「そうかな? 強い女の人って憧れない? 魔導師さんだってそうでしょ?」

魔女「まあ、確かに……」


ガシャン…


魔女「あ、犯罪者」

盗賊「あ、放火魔、お前もいたのか。何してたんだ?」

勇者「ペンダント。昨見せられなかったけど、魔女が持ってきてくれたんだ」

盗賊「そりゃ良かったな! で? どんな女だ? 見せてくれ」

勇者「うん、いいよ」スッ

盗賊「……ほぅ、綺麗だけど気の強そうな女だな。根は優しくて気が利くだろ?」


勇者「えっ、何で分かるの?」

盗賊「昨日話した奴と顔の系統が似てるんだ。生まれも育ちも違うけどな」

勇者「盗賊はこういう顔の人が好きなの?」

盗賊「いや、俺を好きになった奴がそういう顔だったんだ」

勇者「なるほど…」

盗賊「なあ、勇者」

勇者「ん?」

盗賊「もう二度と盗られんじゃねえぞ? 何があっても守れ」


勇者「……分かってる」

盗賊「あっ、お前にも男の好みとかあんの?」

魔女「はぁ?」

盗賊「小さな男の子が好きなんだっけ?」

魔女「それ、やめろって言ったよな? 燃やすぞ」

勇者「魔女も、やっぱり強い人の方がいい?」

魔女「んー、分からん。男を好きになったとか、そういうのないから」

勇者「あ、そっか……」

盗賊「つまんねーな」

魔女「うっさいな。じゃあ、あんたはどうなの」

盗賊「俺? 凄え可愛い、もしくは凄え綺麗…そんで、話してて楽で、気が利く女かな」


盗賊「まあ、それほど多くは望まねえよ」

魔女「馬鹿みたいに理想が高いな」

盗賊「何事にも妥協しねえんだよ。女なら何でもいいとか最悪だろ?」

魔女「言い方でしょ…優しい人なら誰でも、とかじゃないわけ?」

盗賊「優しさだけじゃ生きてけねえよ。現実は厳しいですからね……」

魔女「なにそれ、腹立つ顔だな」

盗賊「ましてや刺青女子なんて、いくら可愛くても、いくら綺麗でも、怖くて近付けねえよ」

盗賊「………並の男ならな」

勇者「そっか……じゃあ、魔女の理想も高くなるね。確かに並の人じゃ駄目だ」


魔女「は?」

勇者「まず、刺青があるからといって魔女を見かけで判断しない人」

勇者「後は、優しくて辛抱強くて、魔女が心を開くまで待てる一途な人」

盗賊「出来れば顔も優しい奴がいい……あ、最初の内は会話が続かねえだろうな」

勇者「確かに、共通の話題が欲しいところだね……」

盗賊「なら、魔術師で決まりだな」

勇者「そうだね」

勇者「実力は同じくらいがいいよ。あんまり差があると、お互い気を遣うから」

魔女「やたら細かいな!何なんだお前等!!」


勇者「口の悪さ、ある程度の暴言を許せる人」

盗賊「いきなり燃やされても怒らねえ奴」

勇者「じゃあ、見かけで判断しない、優しくて辛抱強くて一途、顔の優しい男の人」

盗賊「そんで、キツい口調、暴言、魔術による暴力を笑って許せる魔術師だな」

盗賊「………いねえよ」

勇者「いるよ……多分」

魔女「あんたらが仲良いのは分かったよ。で? 何するか決まってるわけ?」

勇者「僕は将軍に頼まれたから、演説中は隣に立ってなきゃならない。何かあれば動く」


勇者「……僕には、将軍が危険な人物に見えてならないんだ。少し様子を見る」

勇者「盗賊は北王を捜して救出、場合によっては、北王の協力が必要になる可能性もある」

勇者「混乱のどさくさの中で、全ての罪を北王に負わせるのは間違ってる」

勇者「魔女は待機、動きがあれば近衛兵さん、もしくは他の兵士が伝えに来るだろう」

勇者「戦闘になった場合、かなり長引くと思う」

魔女「数で負けてるから?」

勇者「それもあるけど、将軍を含め、直属の部隊である兵士は完全種だ」

勇者「異形種出現後、その部隊だけ死者が出たことはない。少数部隊らしいけど、正確な人数は分からない」

勇者「それに、いくら優秀でも四年間で死者が一人も出ないのはおかしい」

勇者「彼等は完全種であることを否定も肯定もしていない。でも、周りの兵士達は気付いてる」


盗賊「ふーん、北王があっけなく捕らえられたのは、そいつらがいたからか」

盗賊「にしても稀少種だけの部隊か……将軍の奴は、そいつらをどこから掻き集めたんだ?」

盗賊「暴れ回る奴もいるが、普通に暮らしてる奴等の方が圧倒的に多いんだ」

盗賊「何の不自由もないのに、わざわざ軍に志願する馬鹿はいねえだろ」

魔女「……確かに妙だね」

魔女「身体能力に目が行きがちだけど、思考は人間と一切変わらない」

魔女「命の危険があるなら避けるし、異形種出現後に軍に入るなんて、かなりの覚悟がいる」

魔女「部隊設立から少なくとも四年は経ってるわけでしょ?」

魔女「それを考えると、将軍に無理矢理従わされてるわけでもなさそうだね」

勇者「それについて色々聞いたんだけど………」


盗賊「赤髪か?」

勇者「うん、僕はその説が一番納得出来た」

魔女「……でも、何で北部に赤髪が?」

盗賊「俺みたいに逃がされた奴、もしくは逃げた奴がいたんじゃねえか?」

盗賊「大人は勇猛果敢に立ち向かって蜂の巣にされたけど、ガキは違う」

盗賊「部族に対する愛着とか、そういうのが出来上がる前だからな」

盗賊「部族の戦士だとか言われて、戦わされてる奴はいたが、自分の意志で戦ってた奴は少ない」

盗賊「生き延びる為に逃げたガキは多いはずだ。他にも、親を殺されたとかな」

魔女「あんたは大丈夫なの? 子供の頃の友達とか、見知った顔がいるかも……」


盗賊「そんな顔すんな、相手が赤髪だろうが俺には関係ねえよ。あんま憶えてねえし」

盗賊「そいつらはそいつら、俺は俺だ。生き方も考え方も全く違う」

盗賊「……とは言ってみたものの、やっぱり気になるから先に行くわ」


魔女「は?」


勇者「分かった。気を付けてね」

盗賊「おう、じゃあな」

魔女「ちょっと勇者!行かせていいわけ!?」

勇者「僕達はどちらか一方が従うような間柄じゃないよ」

勇者「僕を助けに来たのは盗賊自身の意志だ。精霊に言われたから来たわけじゃない」


勇者「友達が困ってるのを知った」

勇者「だったら俺が助けに行こう。理由なんて、それだけだ」

勇者「盗賊にとって、北部の問題とか北王とか、そんなことはどうでもいいんだと思う」

魔女「…まあ、そうだろうね……勇者がいたから協力してただけだし」

魔女「でも、北王はどうするの?」

勇者「大丈夫、盗賊は途中で投げ出すような人じゃないから」ウン

魔女「(いやー、それは勇者の頼み限定なんじゃないかな?)」

魔女「(他の人の頼み…まして、こんな面倒事なんて、煙に巻いて姿を消しそうな感じがする)」


勇者「それに、あんな風に言ってたけど、盗賊にも想うところはあるはずだ」

勇者「会った後どうなるとかは置いといて、純粋に会いたいだけなんだと思う」

魔女「……会いたいだけか、戦闘になったらどうするつもりなんだ。まったく……」

勇者「それでもいいんだと思うよ?」

魔女「…ハァ…まあいいよ。誰かに従ったり、集団で行動するような奴じゃないのは分かるし」

勇者「心配?」

魔女「それは心配するよ。勇者がいない時、あいつが何するか分からんし」

勇者「そんなに悪いことしないよ。話した感じで分かるだろ?」

魔女「あんたの前だからでしょ…今は犯罪に手を染めるヒマがないってだけで……」


魔女「あっ…そろそろだよ」

勇者「分かった、僕は先に出て将軍を待つ。演説場所は公開処刑の為に作られた舞台だ」

勇者「さっきも言ったけど、何か動きがあったら兵士さんから報せがある」

勇者「魔女、魔術師達を頼む……」

勇者「魔導師さんはもういないけど、その力を受け継いだ君がいる。彼等を導いて、守ってくれ」

魔女「うん、任せてよ」

勇者「じゃあ、行ってくるよ」


ザッザッザッ…


魔女「さっきまで子供みたいだったのに、いきなり大人みたいな顔しちゃって……」

魔女「……ウサギさんウサギさん、あんたの顔は幾つある? ホントの顔は何処にある?」

魔女「優しいウサギの怖い顔、あんたの仮面は幾つある? 仮面の奥で泣いてるの? ウサギの涙を忘れたの?」


魔女「あっ…そろそろだよ」

勇者「分かった、僕は先に出て将軍を待つ。演説場所は公開処刑の為に作られた舞台だ」

勇者「さっきも言ったけど、何か動きがあったら兵士さんから報せがある」

勇者「魔女、魔術師達を頼む……」

勇者「魔導師さんはもういないけど、その力を受け継いだ君がいる。彼等を導いて、守ってくれ」

魔女「うん、任せてよ」

勇者「じゃあ、行ってくるよ」


ザッザッザッ…


魔女「さっきまで子供みたいだったのに、いきなり大人みたいな顔しちゃって……」

魔女「……ウサギさんウサギさん、あんたの顔は幾つある? ホントの顔は何処にある?」

魔女「優しいウサギの怖い顔、あんたの仮面は幾つある? 仮面の奥で泣いてるの? 皆は涙を忘れたの?」


魔女「…ハァ…呑気に歌っとる場合か、戻ろ……」

凄く眠いので寝ます。
魔女編まだまだ続きそうな気がします。


>>>>>

将軍「急遽集まっていただき申し訳ないが、皆に話さねばならないことがある」

将軍「こんな場所だが、ご容赦願いたい」

将軍「これから私が口にするのは衝撃的な事実だが、どうか静粛に」

将軍「今朝、我々は、北王を国家反逆の罪で拘束した」


ザワザワザワ…


将軍「まず、事の詳細について」

将軍「先日現れた異形種。召喚士が人型であったこと、魔術を使用したことは、皆も存じていることだろう」

将軍「北王はそれを利用し、神聖術師なる者を使い、魔術師への疑念を煽った」

将軍「北王は民衆が抱く不満を解消するため、魔術師を利用、一人の魔術師を処刑しようとしたのだ」

将軍「あろうことか、真実を知り、魔術師狩りを止めるよう訴えた勇者様を監獄へ収監した」

将軍「誠に情けないが、我々が真実を知ったのは、その後である」


将軍「勇者様の発言があったからこそ、北王の嘘を暴き、真実に辿り着けたのだ」

将軍「主君の命だからと、疑うことをしなかった我々にも罪がある……」

将軍「しかし、これだけは確かだ」

将軍「魔術師が異形種と手を組んでいるなど、全くのでたらめ、でっち上げだ」

将軍「北王は魔術師を不当に拘束、情報操作によって国を混乱に陥れたのだ」

将軍「彼等に罪はない、彼等は北王によって罪人に仕立て上げられた被害者と言える」

将軍「しかし、一度流れた情報、疑念は易々と消え去るものではない」

将軍「皆は大いに混乱したことだろう。だが、もう心配する必要はない」

将軍「我々軍部は、彼等を軍に招き、共に戦おうと考えている」

将軍「無論、強制ではない。彼等の了承が得られればの話だ」


勇者「(言い換えれば管理だ。監獄と何ら変わりない、彼等の自由は失われることになる)」

勇者「(民が納得すれば問題はない、これで平和になるのら、それでもいいのかもしれない)」

勇者「(偽りがあろうと、国が平和になるのであれば、僕が口出しすべきじゃない)」

勇者「(新たな混乱を生むだけで、人々が国そのものを信用しなくなる可能性がある)」

勇者「(僕がやろうとしているのは、本当に正しいことなのか……)」

将軍「医療において、魔術は欠かせないものだ」

将軍「それが都であろうと村であろうと、如何なる場所にも魔術師は必要だ」

将軍「ここ最近の騒動で、満足に治療を受けられず死亡した者もいると聞く」

将軍「魔術師狩りなどなければ、失われるとこがなかった命だ……残念でならない」

将軍「医療に従事していた魔術師は、集会後、直ちに釈放する」


将軍「それ以外の魔術師は、先に話した通りだ」

将軍「次に処罰についてだが、神聖術師は行方を眩ましている。理由は不明だ」

将軍「現在、軍が総力を挙げて捜索中だ。捕縛次第、厳正なる処分を言い渡す」

将軍「北王の処遇については現在検討している」

将軍「……最後まで私の言葉に耳を傾けてくれたこと、心より礼を言う」

将軍「出来れば勇者様の言葉も賜りたい、お願い出来ますか?」

勇者「分かりました」ザッ

勇者「(このまま何もせずに北部を去れば、誰も血を流さずに済む。正に平和的解決だ)」

勇者「(だが、それでいいのか? どんな混乱を招こうと、真実を知らせるべきじゃないのか)」

勇者「(恨まれ憎まれても、ここまで関わったのなら、最後まで責任を持つべきだ)」

勇者「(何の罪もない魔術師達……彼等の犠牲の上に成り立つ平和)」

勇者「(そんなの、どう考えても間違ってる。覚悟を決めるんだ………)」


勇者「真実は、時に非情だ」

勇者「知らない方がいいと、知らない方が良かったと、そう思うこともあるだろう」

勇者「真実を知ったことで傷付くことさえある」

勇者「しかし、真実から目を逸らした先にあるのは更なる苦痛と、消える事なき悔恨の念だ」

勇者「……確かに北王は許されざる罪を犯し、国家を混乱に陥れた」

勇者「だが、間違いだと知りながら、敢えて容認していた者がいる」

勇者「罪を見逃し、混乱を拡大させた後に北王を拘束する為だ」

勇者「自身の見逃し行為を有耶無耶にして、北王に全ての責任を取らせる」

勇者「全てはこの時の為、北王に代わり、国家の指導者となる為だ」

勇者「ただ、これは反逆ではない。成功した以上、革命と言うべきだろう」


将軍「今すぐに奴等を捕らえろ!一人たりとも外に出すな!!」

将軍「勇者、貴様…何のつもりだ。もう少しで北部は平和になるはずだった」

将軍「あのまま北王に任せていては国は滅んでいた。自分が何をしたのか、分かっているのか」

勇者「なら何故、こんなまどろっこしい真似をした。他にもやり方はあったはずだ」

勇者「答えろ」

将軍「答えたところで結末は変わらない。この国は私が導く、やれ……」

黒衣「承知しました」

勇者「(気配を感じなかった。隠密術、暗殺の類か? まさか、この黒衣の集団が……)」

黒衣「…………」ズッ

勇者「!?(予備動作がない、地面を滑るように距離を…)」


ズドンッ!

勇者「ぐっ…やはり、彼等が例の部隊か……」

将軍「私はもとより、彼等全員が完全種だ。お前が如何に優れた完全種であろうと……」

将軍「私の部隊を一人で相手するのは不可能だ」

魔女「勇者!!」

勇者「来るな!君は兵士と協力して民衆の避難誘導をするんだ!!」

魔女「私がいれば、すぐに倒せる!!」ダッ

勇者「戻れ!君が戦ったら意味がない!分かるだろ!!」

黒衣「囲め、あの女を裂くぞ」


ザザザザッ…


魔女「焼き払

勇者「魔女、駄目だ!よせッ!!」ダッ


ガバッ…ザシュッ!ザシュッ!

魔女「…勇者?なんで…」

勇者「君は魔術師だ!魔導師さんは戦わせる為に力を託したわけじゃない!!」

魔女「!!」

勇者「……君が今すべきなのは、戦うことじゃない。皆を導くことだ」

勇者「魔術師とは、他者を救うために生まれた存在である」

勇者「そうだろ?」

魔女「……うん。そうだね、ごめん」

勇者「傷は君にしか癒やせない、早く行くんだ」

魔女「……あのさ、負けたら許さないからね? これだけ格好付けたんだからさ」

勇者「負けないよ。女の子の前で、これだけ格好付けたんだから」

魔女「バカ、がきんちょのクセに生意気なんだよ……ほら、治すからじっとして」スッ


パァッ…シュゥゥ…

勇者「……ありがとう」

魔女「頑丈だからって無茶しないこと、普通ならさっきので胸を貫かれて死んでる……」

魔女「他人を守る前に、まずは自分を大事にしなさい。分かった?」

勇者「……分かったよ」

魔女「よし。じゃっ、また後でね!」ダッ

勇者「うん、また後で……」

黒衣「将軍、あの女を逃がして宜しいのですか?」

将軍「今は勇者だ……」

将軍「あれは後で始末しろ、従わない魔術師など必要ないからな」



黒衣「承知しました」

勇者「……魔女を、人を物のように言うな」

将軍「私からすれば、我々完全種も、魔術師も、力ある者は全て道具だ」

勇者「それは随分と悲観的な考えだな、友達いないだろ」

将軍「対等な立場に立つ存在など邪魔でしかない。勇者、貴様も邪魔な存在だ……やれ」スッ

黒衣「…………」ザッ

勇者「……袖口から刃、暗器か」

黒衣「切って裂く、散って刻むぞ」

勇者「(前方四人、後方五人。一人一人、僅かに動き出しがずれてる。絞らせないつもりか)」


ザシュッ!ザシュッ!ガギッ…ザシュッ!


勇者「痛っ…流石に全て防ぐのは無理か。このままじゃマズいな……」


黒衣「(全員で攻撃しても、あの程度の傷しか与えられないとは……)」

黒衣「(分かってはいたが、同じ完全種とはいえ、我々と勇者では質が違いすぎる)」

黒衣「(耐久性、俊敏性……あらゆる面で勇者の方が優れている。ならば、数で押すまで)」ユラ

勇者「僕が倒れるまで続けるつもりか?」

黒衣「…………」ズッ


ザシュッ!ザシュッザシュッ!


勇者「(神聖術師に比べれば大したことないけど、受け続ければ確実にやられる)」

勇者「(別々に飛び出して来る相手に、どうやって攻撃を合わせればいい)」

勇者「(向かって行けば背後から、退けば前から、どちらにせよ、隙が生まれて斬られて終わる)」


黒衣「まだ立つか……」ダッ

勇者「(お兄ちゃんなら、どうする……)」

剣士『出ても退いても結果は同じ。その場合、敢えて動かず、的を絞らせ、そこを打つ』

勇者「……可変一刀・二刀型」ガヂッ

黒衣「構えが変わっ…いや、二刀? 駄目だ!止まれッ!!!」

勇者「遅い」


ザンッ! ドサッドサッ…


勇者「魔女に診せれば、まだ間に合う……僕は、殺し合いがしたいわけじゃない」

勇者「……将軍、僕を葬るつもりなら、お前が来い。指導者だろう」

将軍「勇者、その剣は何の為にある? 平和と自由の為か?」

勇者「………………」


勇者「……ああ、そうだ」

将軍「偽善者が、平和を望むなら何故戦う必要がある? 私が生み出した平和が気に入らないか?」

将軍「人を斬るのはどんな気分だ。異形種ではなく、人を斬る気分は?」

勇者「……満足のいく回答が欲しいなら、お前が掛かって来いよ」

勇者「それに、さっきも言ったはずだ。犠牲の上に成り立つ平和など、すぐに崩れ去る」

将軍「犠牲のない平和など存在しない。自国を守る為ならば、犠牲を出してでも作り上げる」

将軍「お前の言葉など、現実から目を逸らした理想主義者の戯言に過ぎない」

勇者「常に理想を求め、理想を実現させる為に最善の行動をするのが人間だ」

勇者「お前は罪のない魔術師を軍に縛り、物事を武力で解決する冷酷な現実主義者だ」


将軍「他国の問題に口を出すな、お前の行動が我々に何を与えた? 平和とは程遠い混乱だ」

勇者「自国で解決出来ないのなら、他国を頼るべきだ。お前が生み出したのは偽りの平和だ」

将軍「……何を言っても無駄のようだ。勇者、民を混乱させた代償は高く付くぞ」

勇者「発端は北王だが、ここまで放置したのはお前だ。関わった以上、退くわけにはいかない」

将軍「まだやれるか?」

黒衣「はい、二人倒れましたが問題ありません」

勇者「!?」

黒衣「この命はあなたに与えられた……将軍の為ならば本望です」

勇者「見殺しにするのか!仲間なんだろ!?」

黒衣「黙れ、貴様に我々の痛みなど分かるはずがない。それに、斬ったのは貴様だ」

黒衣「我々は将軍の作り上げた平和を守る。命尽きようと、貴様を討つ」ズッ

グサッ!ポタッ…ポタポタッ…

勇者「……っ…何故だ?何故そこまで……」


>>>>

検問兵「現在、都の出入り制限されている。制限解除されるまで、近くの街で待機して頂きたい」

剣聖「我等は北王陛下の命で極秘にやって来た。通してくれんか」

検問兵「……我等? 他に誰が

バサッ…

検問兵「なっ!!?」

東王「済まないが、詳しい話しをしている時間はない。通してくれ」

検問兵「東王陛下…し、しかし現在は…」

剣聖「国家の一大事であることは、既に存じている」

剣聖「通さぬと言うのなら、それでも構わんが……その場合、どうなるだろうなぁ」

検問兵「なっ…」

剣聖「東王陛下自ら出向いた意味、事の重大さが分からぬわけではあるまい」

剣聖「ここは何も訊かず、素直に通した方がよいと、俺は思うが?」


検問兵「一つだけ御確認させて頂きたい。あなたの他に護衛や部隊は?」

剣聖「極秘に来たと言っただろう? 此処に来たのは陛下と俺だけだ」

検問兵「……申し訳ありませんが、此処を任された以上、通すわけにはいきません」

東王「頼む、通してくれ」

検問兵「!!?」

東王「これ以上、国が壊れるさまを見たくはない。民が苦しむ姿も見たくはない」

東王「平和的解決など、今となっては不可能に近い……しかし、まだ道はある」

東王「その為には北王が必要なのだ。彼と話さねばならない」

東王「我ながら遅すぎるとは思う。何を今更と……そう言われても仕方がない、返す言葉もない」

東王「だが、頼む……どうか、君達の力にならせてくれ……」


検問兵「……皆、道を空けろ。早くするんだ」

ザッザッザッ!

検問兵「……頭を上げて下さい。東王陛下、今からでも間に合うでしょうか……」

検問兵「この国…北部の民は救われるでしょうか……」

東王「その役は、将軍でも私でもない。この国の長である北王にしか出来ない」

東王「彼は過ちを犯したが、その過ちを正すのは彼自身だ」

検問兵「しかし、今や北王は…」

東王「分かっている。どんな形であれ、償わなければならない。他ならぬ、民の前で……」







盗賊「なあ、北王は此処にいんだろ? つーか、見張りはあんた一人なんだな」

騎士「……………」

盗賊「将軍が作った特殊部隊の奴なんだろ? 本当に赤髪なのか?」


騎士「……………」

盗賊「仮面付けてるから表情が分かんねえんだ。何か言ってくんねえかな?」

盗賊「俺も赤髪なんだけどさ……ほら、付け根の辺り赤いだろ? 黒に染めてんだ」

盗賊「俺は逃がされたけど、お前はどうやって北部に来たんだ?」

騎士「……………」

騎士「逃がされた…貴様が…そうか」

盗賊「あ?」

騎士「一族に選ばれし者、一族の総意により逃がされた赤髪の稀少種…」

騎士「未来を切り拓き、一族の復讐を命じられた者」

盗賊「そんなつもりはさらさらねえけど、部族の奴等はそう考えてたみたいだな」


騎士「貴様は我々とは違う。去れ」

盗賊「そういうわけにもいかねえよ。だって、俺は北王を攫いに来たんだからな」ニコッ

騎士「…………」スッ

盗賊「まあ、こうなるわな。どんな風に生きてきたのか色々話したかっ

ヒュッ…

盗賊「あっぶねえ…足癖が悪いって言われません? 爪先に刃付いてるし、爪切り要ります?」

騎士「必要ない」カシュッ

盗賊「腕にもあんのか、口から爆弾出したりとかしねえよな?」

騎士「(軽口叩いてるけど……こいつ、かなり早い。だったら……)」フッ


ザシュッ…


盗賊「……はえーな、流石は稀少種」


騎士「戦う気がないのなら失せろ」

盗賊「同族…赤髪を殺すのは気が引けるか?」

騎士「……………」

盗賊「俺は違う」

盗賊「赤髪だろうが何だろうが、邪魔する奴には容赦しねえ」

盗賊「お前だって、人殺したことくらいあんだろ? 赤髪だから見逃すとか最低だな」

盗賊「人殺しなら、差別せず、平等に殺せよ」

騎士「ッ!?」バッ


ヒュオッ!


盗賊「避けんなよ。つーか俺もあんな感じで動いてんのか、凄えな」


騎士「(今のは危なかった)」

騎士「(これが真の稀少種……でも、対処出来る範囲。大丈夫)」

盗賊「やっぱり、顔が見えねえとやりにくいな」フッ


コツン…


騎士「!!?」バッ

盗賊「何だ、見えなかったのか」

騎士「(面を小突かれた? 反撃はおろか反応すら出来なかった)」

騎士「(さっきの攻撃は本気じゃなかったんだ。殺せたはずなのに、何のつもりだ……)」

盗賊「俺は手癖が悪りぃんだ。まだやるか?」

騎士「逃げない、逃げたりしない……?」

パキッ…パラパラッ…


騎士「ちっ…」ファサッ

盗賊「ほらな、やっぱり女だもの……何で顔隠してんだ?」

騎士「…………」ダッ

盗賊「おっかねえ顔して、まだ分かんねえのか」

トンッ…

騎士「うっ…な…に…!?」クラッ

ドサッ…

盗賊「ガキは寝てろ」

騎士「……待て…最後まで戦え」

盗賊「嫌だね、俺は女子供は殺さねぇ」

騎士「人殺しが差別するなと…貴様が」

盗賊「うるせえ、俺は良いんだよ。俺が決めてんだから文句言うな」


盗賊「つーか、他人の言うことを一々真に受けてたらこの先苦労するぞ、クソガキ」

騎士「(何なんだ、こいつ……言ってることがめちゃくちゃだ)」

盗賊「あー、見つかるとマズいな。おぶるから動くなよ」グイッ

騎士「動けないのは分かっているだろう」

盗賊「そりゃあ動けなくしたからな。しっかし軽いなお前、ちゃんと食ってるか?」

騎士「……………」


トコトコ…トスン…


盗賊「この辺なら大丈夫だな」ウン

騎士「貴様は、どうやって生きてきた」

盗賊「俺だけ答えんの? お前は答えなかったのに?」


騎士「…………」

盗賊「黙秘ですか……」

盗賊「俺はゴミ漁って、盗んで殺して奪って生きてきた」

騎士「っ!? そんなのウソだ!お前だけが逃がされて!お前だけが保護されたんだ!!」

盗賊「はぁ? 誰から聞いたのか知らねえが、保護されてたら盗みなんてするかよ」

盗賊「つーかさ、赤髪を保護する奴なんていると思うか? いねえだろ、普通」

盗賊「で、お前は?」

騎士「……………」

盗賊「うわー、聞くだけ聞いといて黙りかよ。じゃあ名前は? 名前くらい言えんだろ」


騎士「……巫女」

盗賊「巫女…巫女……そんな婆さんいたな。小せえ頃、腹壊した時に連れてかれたっけ」

盗賊「なんか、凄え苦いやつ飲まされたのは憶えてる」

騎士「(こいつ、お婆ちゃんを知ってる? でも、わたしはこいつを知らない……)」

騎士「……貴様の名は」

盗賊「俺? 俺は盗賊、または西部の勇者。時間ねえし、そろそろ行くわ」

騎士「(盗賊……南部生まれの凶悪犯、義賊…赤髪の疑いあり。じゃあ…こいつ……)」


トコトコ…ピタッ…


騎士「…………何だ」


盗賊「赤髪のことなんざ忘れちまえ」

盗賊「お前の好きなように、自由に生きればいいんだよ」

盗賊「だからさっさと軍なんか辞めて、化粧して良い服着て、いい男を見つけて結婚しろ」

盗賊「いや、まだガキだから化粧と結婚は早いか……じゃあな」ヒラヒラ

トコトコ…

騎士「(わたしに、自由なんてない……)」






特部隊長「くっ…」

ダダダッ! タタンッ…タタタタッ!

部下『隊長!!』

特部隊長「俺は無事だ。こいつらは俺が引き付ける。皆は散開、西側に迎え」

部下『一人では無理です!今から向かいます!!』


特部隊長「来るな!陛下の捜索を優先しろ!!」

タタンッ…タタタタッ!

特部隊長「ちッ!! それに、お前が来たところで戦況は変わらない」

特部隊長「俺は鎧で守られているが、お前は生身だ!来れば無傷では済まない!!」

特部隊長「いいか!そちらに兵士が向かう前に西側へ向かえ!これは命令だ!!」

部下『っ…了解しました』ザザッ

特部隊長「……とは言ったが、煙幕で敵が見えない」

特部隊長「これだけの銃撃を受けて、無傷でいられるだけで御の字だ。このまま時間を……!?」

特部隊長「何だこれは…赤い人影が……」ヂヂッ

魔導鎧『魔力探査から熱探査へ変更』

特部隊長「……喋るのか、こんなのは聞いてないぞ」


魔導鎧『狙撃手は10時方向に2名。家屋三階の窓から狙撃しています』

魔導鎧『敵総数…32…27…徐々に減っています』

特部隊長「大体検討は付くが、理由は分かるのか?」

魔導鎧『はい、分かります。大尉の予想通り、数名の部下が追われているようです』

魔導鎧『早急に殲滅しなければ、部隊全滅の可能性があります』

特部隊長「……了解。もう何が起きても驚かないからな」ダッ


ーー鎧野郎が出て来やがった!!
ーーまだ壊れてなかったのか!?

ーー撃て、撃て撃て撃てッ!!
ーー畜生!的が絞れねえ!!


ーー足を止はぎゃっ!?
ーーくそっ!一人やられた!!

ーー野郎!どこに行きやがった!?
ーーお前…手榴弾抜かれ


ドガンッ…ドンッ…ドンッドンッ…


魔導鎧『殲滅完了』

特部隊長「……いや、まだ狙撃手が残ってる。此処から三階まで跳べるのか?」

魔導鎧『可能です。視界を通常に戻します』

特部隊長「さっさと済ませよう」ダンッ

ガシャンッ!

特部隊長「動くな、速やかに武器を下ろせ」


ーーヒッ!飛んで来やがった!
ーー来るなら来い、この距離なら…


特部隊長「止せ、地上の部隊は殲滅した。これ以上の抵抗は無意味だ」

…シーン………ガチャ…ガチャガチャッ…

特部隊長「悪い、少し眠ってくれ」

ズドッ…

特部隊長「ところで、狙撃銃等の武器は鎧を着たまま扱えるのか?」ガシッ


魔導鎧『問題有りません。対象の体内魔力を基に照準を合わせることも可能です』

魔導鎧『銃弾を元素で強化すれば、魔神族と完全種も殺害可能です』

魔導鎧『ですが、短刀にも同様の魔術が施されているので、今は必要ないかと』

特部隊長「……量産しない意味が分かった気がする。これは今あるべき武器じゃない、数世代先の武器だ」

魔導鎧『武器ではなく鎧です。扱い方によって変わりますが、鎧とは防具です』

特部隊長「知ってる。君は…いや、いい。どうせ理解出来ないからな」

魔導鎧『はい。説明したところで、大尉には到底理解出来ないでしょうね』

特部隊長「思考の基になった人物は分かった気がするよ……?」ザザッ


元帥『新たな情報が入った』

元帥『将軍が北王に反逆、北王は既に拘束された。将軍は処刑場で演説を行うようだ』

元帥『そこには勇者もいる。陛下は剣聖と共に都の西側から潜入した。予定通り、西側へ迎え』

特部隊長「了解しました。部下、そっちはどうだ?」

部下『今、ちょうどその近辺にいます。勇者さんが何か話しているようですね』

部下『……大尉、大変です! 魔術師と思われる集団が現れました!!』

部下『女性が処刑場に…集まっていた民衆も大混乱に陥っています!!』

特部隊長「どうなっている?」

部下『現在、勇者さんと黒衣の兵士が戦闘中。女性は退避、魔術師達の先頭に立っています』

部下『どうやら東側…そちらに向かっているようです。将軍側の兵士が追っています』


特部隊長「先頭にいる女性は?」

部下『……魔女、魔女と呼ばれています』

特部隊長「精霊が言っていた名だ……」

部下『我々も協力を?』

特部隊長「いや、お前は陛下を捜索しろ。此方に向かって来る兵士は、俺が何とかする」

特部隊長「魔術師の周りに護衛はいるか? 民衆は?」

部下『いますが、追っ手に較べると少数です。民衆も東側に向かっています』

部下『訳が分からないから取り敢えず目の前の人間に付いて行っている。そのような感じです』

部下『大尉、無茶しないで下さいよ? 盗賊さんじゃないんですから』

特部隊長「分かっている。では、引き続き陛下を捜索しろ」


部下『了解。どうか、ご無事で』ザザッ

特部隊長「元帥、私は魔術師を追っている兵士を迎え撃ちます」

元帥『構わん。そのまま西側に向かえば、どの道鉢合わせになる。まずは民間人を保護しろ』

元帥『無論、魔術師もだ。血を流すのは兵士だけでいい。大尉、油断するなよ』

特部隊長「はい、了解しました」

元帥『お前は盾だ。それを忘れるな』ザザッ

特部隊長「盾か…精霊、あなたは随分と物騒な盾を作ったな。頼もしいが、同時に怖ろしく感じる」

魔導鎧『使うのは貴方です。剣とするも盾とするも、全ては貴方次第です、大尉』

特部隊長「……分かってる」






魔女「大丈夫?」スッ

パァッ…シュゥゥ……

少女「ありがとう、お姉ちゃん」


ーーおい、こっちにもいるんだ!早くしろ!
ーー私が先よ!あなたがどきなさい!

ーー魔術師、こっちはお前のせいで迷惑してんだ!早く傷治せよ!!
ーー何でこんな目に…魔術師なんて処刑されるはずだったんでしょ?

魔女「(あの人達は、あんた達の為に……なのに、なんで…)」




魔女『そろそろ変装に気付かれる』

近衛兵『でしょうね。我々に高度な魔術は扱えないですから』

近衛兵『ですが、魔力のない彼等を監獄から出すわけにはいかない。これでいい』


魔女『罪滅ぼしのつもり?』

近衛兵『いえ、これが兵士である我々の本来の義務です』

近衛兵『……追っ手との距離が詰まっています。先に行って下さい。我々が抑えます』

魔女『死ぬ気?』

近衛兵『死ぬ気で戦わなければ、立ち上がった意味がない……』

近衛兵『傷を負った者もいます。距離を稼いだら何処かに身を潜め、彼等の治療をお願いします』クルッ

近衛兵『では、我々は此処で……』タタタッ




魔女「(……なのに、なんで……)」

ーー何ぼけっとしてんだ!早くしろよ!
ーーあなたのせいで怪我したのよ!!

魔女「……あんたら、いい加減にし

花屋「いい加減にしろ!大の大人が寄ってたかって恥ずかしくないのか!!」


花屋「召喚士が現れた後、この子に傷を治してもらった者もいるだろう!!」

花屋「彼女や兵士達は、私達を守る為に必死になっているんだぞ!!」

花屋「手伝いもせず喚くな!治療の邪魔をするなら出て行け!!!」

ゴツンッ!

花屋「ぐあっ!」

少女「お父さん!!」タタッ

花屋「大丈夫だ、大丈夫だよ……」

少女「でも…グスッ…おでこから、たくさん血が出てる…」


ーー大の大人が、その程度で喚くなよ。
ーーたかが額が割れただけだろ、こっちは目をやられてんだぞ?


魔女「……大丈夫?」スッ

花屋「済まないね…」

魔女「石を投げる奴がどうかしてる。謝ることないよ」


ーー自分だけ治してもらいやがって……
ーーあんなの、怪我のうちに入らんだろ。

少年「黙れよ」

少女「……お兄ちゃん?」

花屋「よしなさい。彼等には、何を言っても無駄だ」

少年「……おまえら、それでも人間か? そんなんじゃ、異形種と変わらないぞ?」

少年「その行為が正しいと誇れるのなら、堂々を顔を見せろ」

少年「今の自分が正しいって、家族友人恋人に胸を張って言えるか? 言えるなら出て来いよ」


……シーン……


花屋「…お前………」

少年「あの夜、勇者に同じようなこと言われたんだ………」

少年「すっげー嫌だな、こういうのってさ……父ちゃんがやられて、よく分かったよ」


少女「お兄ちゃん、ゆうしゃにちゃんとごめんなさい言った?」

少年「まだ言ってないんだ、駄目だよな?」

少女「ゆうしゃにあやまって」グイグイ

少年「今はいないだろ? 今度謝るから、な?」

少女「ダメ!いま、いますぐあやまって!!」

魔女「あのさ、私が言っておくから、お兄ちゃんを許してあげてよ」

少女「なに、お姉ちゃん、ゆうしゃのしりあいなの?」ジー

魔女「まあ、そうかな(若干の敵意を感じる。あっ…まさか……)」

少女「いれずみ…ふりょうだ。ゆうしゃの知り合いなわけがない」


魔女「はぁ!?」

少女「それに、しょうこがないから信じられない。ゆうしゃはウソつきがきらい」ウン

魔女「嘘じゃないから、ちゃんと言っておくから大丈夫だよ」

少女「こんきょがない」

魔女「こいつ…」イラッ

花屋「こら、やめなさい。いやー、申し訳ありませんね」

花屋「まだ4才なのに、勇者のお嫁さんになるとか言っちゃって、困ったもんですよ。ハハッ」

魔女「(やはりそうであったか!精霊の言っていたことは事実だったんだ……)」


クスッ…クスクス…アハハッ…


ーー姉ちゃん、すまん。悪かった……
ーーあの人の言う通りね、私達も何か手伝いましょう。

ーーまずは怪我人が横になれる場所を……
ーーなら、俺は毛布がないか探してくるよ。


魔女「えっ…笑ってる」

花屋「子供って凄いでしょう? あれだけ緊張してたのに、皆が笑ってる」

魔女「うん、そうだね……」

花屋嫁「あんた、怪我治ったんでしょ?自分の子供を自慢してないで手伝いなさい」

花屋「はいはい、分かったよ」

花屋嫁「……もう無茶な真似はしないでよ? こっちの身にもなりなさい」

花屋「ああ、済まなかったな」

魔女「……家族、家庭か…悪くないかもね」

少女「ねえねえ」グイグイ

魔女「まだいたのか…なにかな?」

少女「けっこんとか、いれずみお姉ちゃんにはムリだよ?」

魔女「うっさないなぁ……考えるだけなら勝手でしょ? はい!次の方どうぞ!!」






部下「……あれ…もしかして盗賊さん!?」

盗賊「よぉ、久し振りだな。何してんだ?」


部下「東王陛下を捜索している最中です。盗賊さんは何を?というか髪の色が…」

盗賊「東王なら、この建物の中にいるぜ? 勇者のお師匠と北王の三人で話してる」

盗賊「ついさっき、ばったり出会してさ、もう少しで斬られるとこだっ

部下「本当ですか!?」

盗賊「嘘じゃねえよ。何なら、そこの窓から見てみろ」

部下「…………」コソッ

盗賊「な、本当だろ?」

部下「はい、確かに……ですが、三人で何を?」


盗賊「何だっけ…将軍は先代北王の腹違いの弟だとか何とか言ってたな」

盗賊「俺は別に興味ねえし、すっげえ退屈だから出て来た」

部下「では、将軍は北王の叔父ということに……誰も知らなかったということは隠し子…」

盗賊「知らねえけど、終わった後は東王が何とかすんじゃねえの?」

部下「……あの、先程から気になっていたのですが、その子は一体」チラッ

盗賊「俺と同じ赤髪で、将軍の異形種討伐部隊の一人みてえだ。まだガキだけどな」

盗賊「寂しい寂しいって言うから、仕方なく一緒にいてやってるんだよ」ウン

騎士「そんなことは一言も言っていない、殺すぞ」

盗賊「出来もしねえことを言うんじゃねえよ、クソガキ。言う前に殺せ、殺す前に言うな」


盗賊「口だけなら誰でも言えんだよ」

騎士「………………」

部下「赤髪……そうだ!盗賊さん!!」カッ

盗賊「なんだよ!? びっくりさせんじゃねえ!ぶっ殺すぞ!!」

騎士「(こいつ、やっぱりめちゃくちゃだ。でも、なんか……変な感じ)」

部下「勇者さんが黒衣の集団と戦っているんです!将軍もそこに!!」

盗賊「それを早く言えバカ!悪りぃけど、そいつ頼むわ!!」

部下「えっ!?」

盗賊「何かあったら勇者のお師匠を呼べ!じゃあな!!」ダッ


騎士「……………」

部下「あの、何故盗賊さんの髪の色が変わっているんですかね? あなたと関係が?」

騎士「……さっき、本当に赤髪なら、色を落として地毛を見せろと言ったんだ」

騎士「そしたら、あいつはすぐに染料を落とした……それで…」

部下「……それで、どうしたんですか?」

騎士「これで本当に信じるかと言って、笑っていた。あいつは、変な奴だ」

部下「気まぐれで国を救うような人ですからね。急にいなくなるし……」

部下「我々からすれば、西部を救った勇者……ですが、許されざる悪人でもある」


部下「確かに、変な人ですよ」

騎士「お前は、赤髪を怖れていないないのか」

部下「史料の中の赤髪は残忍で野蛮、あたかも怪物のように記されていますが……」

部下「あの人を見てからだと、そんな気にはなれませんね。赤髪も稀少種も人ですよ」

部下「まあ、あんなに自由な人は見たことないですけどね」

騎士「(あいつは自由だけど、私は違う。同じ赤髪なのに……なんで…)」

部下「何ものにも囚われず、執着しない。まるで、背中に羽が生えてるようだ」

騎士「!!」

部下「普通に生きていたら、あんな風にはならない。いや、なれないでしょうね……」


>>790>>791の間が抜けていました。


勇者「しかし、この先の平和に魔術師の自由はない。軍に管理され、戦闘に駆り出されるだろう」

勇者「何の罪もない人々、彼等の犠牲の上に成り立つ平和を、皆は享受出来るか」

勇者「……僕からは以上だ」

ザワザワザワ…

勇者「将軍、最後まで聞いて下さり、ありがとうございます」

将軍「いや、気にすることはない。貴様が何を言おうと、北部の民は変わらない」

将軍「役目を終えたのなら、さっさと出て行け。この国の行く末は、私が決める」

勇者「ああ、出て行く。ただ、一人じゃない」

将軍「なんだ、あれは……!!?」

魔女「おーい、準備出来たよ!!」

勇者「ご覧の通り、大勢の魔術師も一緒です」

勇者「あれが、あなたの言葉に対する彼等の返答です。どうやら、東部に亡命するようだ」

場面があっちに行ったりこっちに行ったりで申し訳ない。
更に一つ飛ばして貼ってしまいました。

これからはきちんと確認します。寝ます。
感想ありがとうございます。


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タタンッ!ダダダダッ!

近衛兵「(こちらは精々が小隊規模、向こうは小隊以上中隊以下といったところか)」

近衛兵「(軍所属の魔術師もいる。我々は歩兵のみ、打開策はない)」

近衛兵「(これが、過ちに気付かず思惑に躍らされた報いか)」

近衛兵「(監獄……魔術師達は無事だろうか。魔力がない状態で攻められれば、彼等に為す術はない)」

近衛兵「(精霊様は魔力を返すと言っていたが、まだなのか? 彼等に魔力さえ戻れば……)」

近衛兵「(……戻れば、などと……こんな時に彼等を頼ろうとする自分が恥ずかしい)」

近衛兵「相手は歩兵!魔術師!狙撃手!完全種!!」

近衛兵「此方は歩兵、武器は剣と銃だけだ!!」

近衛兵「だが、正義は我等にある!誇りを持って逝ける!今こそ命を賭ける時だ!!」


ーーウオォォォォッ!!

中隊長「何が誇りだ馬鹿共、国を裏切った反逆者が吠えるな」ダッ

近衛兵「奴に構うな!総員!前に出ろ!!」

中隊長「どうせ死ぬんだ。士気を上げるなよ、目障りなんだよ!!」グオッ


ブンッ!


近衛兵「ッ!!(相変わらずの力任せ、だが破壊力は本物。当たれば頭が吹っ飛んでいた)」

中隊長「屑野郎が……てめえが裏切ったせいで、こっちは迷惑してんだ」

近衛兵「この際だから言わせて貰います。私は、あなたを隊長だと思ったことはない」

近衛兵「単独行動、部下を捨てるのは当たり前、完全種であることを鼻に掛けた振る舞い」

近衛兵「将軍から拾われたか何だが知りませんが、あなたの部下であることを誇りと思ったことはない」


中隊長「言いたいことは、それだけか?」

近衛兵「まだまだありますが、あなたは最低だ。この一言に尽きる」

中隊長「そうか、言葉尽きたなら……死ね」グンッ

ガシッ…

近衛兵「ぐあッ!」

中隊長「一本ずつ引き千切ってやる。まずは右腕からだ」


ぶちっ…


近衛兵「がッ…ぐああああっ!!」

中隊長「腱が切れる音が聞こえるか? 頭に響くだろ?」

近衛兵「…ハァッ…ハァッ…その…変態的な加虐性が、以前から気持ち悪くて仕方がなかった」

中隊長「強い奴は、弱い者虐めが大好きなんだ」


ぶちっ…グシャッ…

近衛兵「ぐああああっ!」

中隊長「お前の泣き叫ぶ顔が見られて嬉しいよ。お前は、それだけのことをしたんだ」

中隊長「次は左腕だ。まだ死ぬなよ?」

近衛兵「…ハァッ…ハァッ…腕の一本、くれてやる……但し…ッ!」

グサッ…

中隊長「かッ…はギャアアアア!!」

近衛兵「……貴様の右眼と交換だ」

中隊長「やりやがったな…このグズがアアアアアア!!!」


ゴシャッ…


近衛兵「ガハッ…」

中隊長「腐れ下等種の人間が、含み針なんぞ使いやがって…」ズルッ

近衛兵「(腹を貫かれた……もう、駄目だ。皆、済まない。私は先に逝く)」

近衛兵「(勇者様と出逢えて良かった。間違いに…気付けて……良かっ…た…)」


中隊長「何を笑ってやがる……」

中隊長「クソが、最後の最後まで、気に入らない野郎だ……」

中隊長「お前が最後に見るのは、俺の靴の裏だ。負け犬に相応しい人生だったな」スッ

近衛兵「(何をされようと、私は正義の中で死ねる……満足だ)」

グチャッ!

中隊長「屑が……人間の分際でオレに、完全種に逆らうからこうなるんだ。あー、靴が汚れちまったな」


ドスンッ…ガシュッ…ガシュッ…


中隊長「あ? なんだ?」

特部隊長「………遺体を特定」

魔導鎧『衣服は魔術師の物ですが、魔力からして魔術師ではありません』

魔導鎧『おそらく変装していたものと思われます』

魔導鎧『右腕断裂、腹部貫通、頭部損壊……損傷が激しい為、誰であるかは判別出来ません』


特部隊長「(魔術師に変装……では、本物の魔術師は監獄にいる?)」

特部隊長「(此処にいる魔術師は、全て兵士の変装。彼は、限られた武装で挑んだ)」

特部隊長「(彼は初めから死を覚悟していたのか。それを、この男は…)」

中隊長「テメエは異形種じゃあないな。動力はあるが、それは核じゃない……その鎧、術具か」

中隊長「その殺気、誰かは知らないが、敵だってことは確かなようだな」

特部隊長「今すぐ、彼の遺体から足を退けろ」

中隊長「これのどこが遺体だ? 頭も腕もない。最早、人かどうかも分からない」

中隊長「これで!どうだ!? あぁ!!?」


グシャッ!グシャッ!


中隊長「これが遺体だぁ? ただの肉の塊だろうが。何処からどう見てもな」


特部隊長「敵総数は」

魔導鎧『126名、敵は中隊規模です。彼等と敵対しているのは52…46名……』

特部隊長「殲滅する」

魔導鎧『大尉、その男は完全種です。相手にしている間に彼等は全滅します』

特部隊長「違う、彼等を助けるのは君だ。この男は俺がやる」

魔導鎧『無謀です。良くて数名は救えますが、大尉が死亡する可能性が…』

特部隊長「話している時間はない。彼等の援護に迎え」

バシュッ…

中隊長「何だ、出て来たのか。どんな術具か楽しみだったんだが、面白くない」


特部隊長「行け」

魔導鎧『…………』ダンッ

特部隊長「頭のネジが緩んだ奴なら見たことはあるが、全てのネジが外れた奴を見るのは初めてだ」

中隊長「……てめえ、兵士だな。どこの隊だ」

特部隊長「旧西部・対異形種特別部隊。これより任務を遂行する」

中隊長「西部だと? まあいい……てめえは下等種、人間だ。オレに勝てるとでも?」

特部隊長「卑しく笑うな。犬畜生以下の外道種が……」

特部隊長「お前は完全種などではない、人間ですらない、まして兵士などでは決してない」

中隊長「どいつもこいつも口ばかり達者だな。てめえも、こいつと同じように、笑いながら死ぬか!!?」

ブンッ!

中隊長「人間にしては良い反応じゃないか。大口叩いていた割に静かだが、どうした?」


特部隊長「……………」カチッ

ダンッ!ダンッ!ダンッ!

中隊長「精密な射撃だな、オレが人間なら死んでた。人間ならな……」

ヒュッ!ブンッ!

中隊長「これで三度目だ…てめえは三度避けた。何者だ、てめえは……」

特部隊長「対異形種特別部隊の隊長だ。二度も言わせるな」

特部隊長「俺が知っている赤髪の完全種は、お前のような馬鹿ではなかったよ」

中隊長「そうかい、完全種に向かってくる人間の方が馬鹿だと思うがな!!」

特部隊長「……………」カチッ


ダンッ!ダンッ!ダダンッ!


中隊長「その程度で怯むかよ!!」

ガシッ!

中隊長「ほーら、ようやく捕まえた。どうした? 他に策はないのか?」


特部隊長「ぐっ…かはっ……」

中隊長「このまま首を捻れば、お前は死ぬ。だがな、楽に死ねると思うなよ……」

特部隊長「人を殺すのが、愉しいようだな」

中隊長「ああ、愉しいね。戦場ではやりたい放題だ。殺せば認められ、オレも満たされる」

中隊長「特に、てめえのような虫けらを殺すのは最高に愉しい!!」


ゴギッ!


特部隊長「ぐッ…背後で部下が倒れているのに、俺に構ってばかりでいいのか」

中隊長「此処は戦場だ。やられる奴が間抜けなのさ、てめえだって分かるはずだ」

中隊長「動きと目付きで分かるぜ、てめえは戦場の空気に慣れてる。そうだろ?」

特部隊長「……………」

中隊長「なあ、てめえは何人殺した? 異形種が出る前、相当な数をやっただろ?」


特部隊長「憶えていない」

中隊長「あ?」

特部隊長「戦場で何人殺したかなど、誇るものでも自慢するものでもない」

特部隊長「彼等にも思想や信念、意志があった」

特部隊長「俺自身、卑怯だと罵られようと、目的の為なら何でもやった」

特部隊長「だが、お前のような奴を殺すのは、これが初めてだ」グイッ


ダンッッ!


中隊長「かッ…かひゅ…」ドサッ

特部隊長「敵を殺すなら躊躇うな、照準が合ったのなら引き金を引け」

特部隊長「優位に立ったのなら、一分の隙も与えず、その瞬間に終わらせろ」

中隊長「ばがな…ぞ、狙撃だと…なでだ!どこがらッ……!?」


ドスンッ…

魔導鎧『敵中隊、殲滅完了』

中隊長「ばがな…ごの短時間で…でめえは一体…」

魔導鎧『対完全種対魔神族断在刀を使用します』ガシュッ


ガシッ…


特部隊長「……………」

中隊長「ヒッ…ぞの眼はなんだ…おばえは…」

ザンッ! ゴロッ…ブシャッ…

特部隊長「討伐完了」


バシュッ…ガシュッ……


特部隊長「元帥、敵中隊殲滅完了しました。生存者を確認後、魔術師の下へ移動します」

元帥『ご苦労。つい先程、精霊が監獄へ向かった。魔術師と共に其処に向かうだろう』

元帥『東王陛下は貴様の部下が発見した。一先ず待機、精霊の到着を待て』


特部隊長「了解しました」

元帥『大尉、まだ終わりではない。警戒を怠るな』ザザッ

特部隊長「……彼の肉体を生前の状態に戻すことは可能か?」

特部隊長「戦死者の遺体は、出来るだけ綺麗にしてやりたい」

魔導鎧『精霊であれば、彼を蘇生させることも可能かと思われます』

特部隊長「肉体を元に戻すだけでいい、彼は戦場で死んだ。死の瞬間の記憶、経験など必要ない」

特部隊長「蘇生したとして、彼が生きていけるとは思えない」

魔導鎧「何故ですか?」

特部隊長「彼は彼の人生を全うした。彼は意志を貫き、覚悟の上で死んだからだ」


魔導鎧「理解出来ません。大尉は何故分かるのですか」

特部隊長「あの完全種は、笑って死んだと、そう言った。憎々しげにな」

特部隊長「……彼は満足したんだ。だからもう、この先の人生など必要ない」

特部隊長「仮に精霊が命を与えたところで、彼は生きる意味を見出せないだろう」

特部隊長「それがどんなに残酷なことなのか、俺は知っている」

魔導鎧『私には、分かりません……』

特部隊長「まあ、そうだろうな。説明したところで君には到底理解出来ない」

魔導鎧『仕返しですか? 案外、子供っぽいのですね』

特部隊長「悪いな、言われたことは根に持つんだ。痛っ…」


魔導鎧『左腕骨折』

魔導鎧『痛みが走ったのは、興奮状態から冷めた為ですね』

特部隊長「言わなくても分かる。外が頑丈でも中身は人間だからな、仕方ない」

魔導鎧『そろそろ精霊が此方に到着します』

特部隊長「……小隊で生き残ったのは何名だ」

魔導鎧『21名です。敵総数を考えれば、生き残っているだけでも奇跡と言わるでしょう』

魔導鎧『勿論、全滅も有り得ました。あの中隊長が大尉に夢中だったのが幸いしましたね』

特部隊長「あの男の部下だった者には、心の底から同情する。死ななくて済んだだろうに……」

魔導鎧『一つ訊きたいのですが、私が狙撃すると、いつから気付いていたのですか?』


特部隊長「狙撃銃は携帯していたし、俺の思考をある程度理解していると判断したからだ」

特部隊長「俺からも質問がある。俺が死亡した場合、君はどうなる?」

魔導鎧『大尉の為に造られたので、誰にも使用されることなく、時が過ぎるのを眺めるだけでしょうね』

魔導鎧『……正直、あまり想像したくはありません』

特部隊長「そんな声も出すんだな、とてもじゃないが造られたとは思えない」

魔導鎧『徐々にではありますが、大尉と会話、行動することで、思考が変化しているようです』

特部隊長「そうか。頼むから、精霊には似ないでくれよ」


ザッ…


魔導師「失礼ね」

特部隊長「早かったな。あれから調子はどうだ?」


魔導師「変わらないわ。その前に……」スッ

特部隊長「……ある程度の魔術なら相殺するんじゃなかったのか?」

魔導鎧『残念ですが、彼女の魔術を相殺するのは不可能です』

魔導鎧『魔力防御壁を展開しましたが、容易く突破されてしまいました』

魔導鎧『今のが攻撃的な魔術であれば、大尉は即死しています』

特部隊長「……そうか、治療術で助かったな。精霊、ありがとう」

魔導師「捻くれたお礼の仕方ね……それよりどう? 魔導鎧には慣れたかしら?」

特部隊長「ああ、大分慣れたよ。早速で悪いが、彼等の回復と遺体の修復を頼みたい」

魔導師「兵士の回復なら済んでる。後は、遺体の修復だけよ」スッ


パァッ…シュゥゥ…

魔導師「……彼、笑って逝ったのね」

特部隊長「今、死に際の顔を見て確信した。彼に未練はない」

特部隊長「……小隊の生存者と共に、彼の遺体を安全な場所に運んでくれ」

魔導師「分かったわ。今からあの子のところへ向かうから、彼等も一緒に連れて行く」

特部隊長「確か、魔女だったか?」

魔導師「ええ、私が魔力を返還する時、魔女がいないと色々と厄介だから」

魔導師「その後で、私達も勇者と合流するわ」

特部隊長「そうか。では、俺は勇者の下へ向かう。彼等と魔術師を頼む」


特部隊長「何か動きはあったか?」ザザッ

部下『盗賊さんが処刑場に向かいました。黒衣の正体は、赤髪で編成された部隊です』

部下『東王陛下は、先程から北王と会話を続けています。隊長は無事ですか?』

特部隊長「ああ、戦闘は終わった。負傷はしたが精霊に治してもらった」

特部隊長「俺もこれから処刑場に向かう」

部下『了解しました。隊長、お気を付けて』ザザッ

魔導師「私達もそろそろ行くわ。勇者をよろしくね」

特部隊長「軽々しく任せろなどとは言えないが、最善を尽くす。あなたも、早めに力を手放せ」

特部隊長「お世辞にも顔色が良いとは言えない。それに、気圧されるのは一度で十分だ」


魔導師「あら、私が怖いの?」

特部隊長「あなたの本当の顔が分からない。体が戻ったら…いや、体に戻ってはいるのか」

魔導師「ふふっ、面倒な存在で申し訳ないわね」

特部隊長「終わったら、魔術の初歩的なことを教えて欲しい。この鎧のことも理解したい」

魔導師「あなたに教えるとなると、かなり長くなりそうね。でも、いい暇潰しにはなるわ」

魔導鎧『大尉、無駄な努力は止めた方が良いかと思います』

特部隊長「努力が無駄になることはない、否定から始まるものなどないんだ。そんなことを言うな」

魔導鎧『はい、申し訳ありません』

特部隊長「そろそろ処刑場に向かう。精霊、皆を頼む」



魔導師「否定から始まるものなどない。以前、似たようなことを誰かが言っていたわね」

魔導師「……さあ、私達も行きましょう」


>>>>>

勇者「何故だ? 何故そこまで……」

黒衣「知る必要はない。貴様は此処で死ぬ」

盗賊「よっこいしょ……」

黒衣「!?」

盗賊「そいつらは将軍に拾われたのさ、赤髪狩りから逃げたところを都合良くな」ザッ

盗賊「だろ? 望まれぬ君よ」

将軍「……………」

勇者「えっ…?」

黒衣「(赤髪? あの足運び、まさか……)」


勇者「盗賊? 盗賊だよね?」

盗賊「おう、さっき地毛に戻したんだ。赤ってのも中々いいだろ?」ニコッ

勇者「うん、凄く格好いいよ。そっちの方が似合ってる」

盗賊「そうだろ? でもなぁ、これだと女が

黒衣「貴様は何者だ。我々と同じ、一族の生き残りのようだが」

盗賊「うっせーな…お前等、生きながら死んでるみてえな目してるな」

盗賊「つーか、お前等なんかと一緒にすんじゃねえよ。頭のめでたい馬鹿共」

盗賊「立派なお方に拾われて、美味い飯食ってたお前等と一緒にすんな」

黒衣「……貴様に、何が分かる」

盗賊「知りたくもねえな、こっちはゴミ食って何とか生きてきたんだ」

盗賊「将軍に飼われて満足してんのか? エサに釣られた犬っころが」


黒衣「貴様ッ!!」ダッ

盗賊「……お前だろ、勇者を刺したのは」

ドゴッ!

黒衣「がっ…ハッ…」ガクンッ

盗賊「俺が何者か知りてえなら、特別に教えてやる」

黒衣「ちッ!!」ヒュッ

パシッ…

黒衣「くっ…」

盗賊「あぶねえな、人の話は黙って聞ききなさい。頭が高えんだよ」

黒衣「(一瞥もせず受け止めた。しかも、柄の部分を……毒が塗布されていることを知っていたのか)」

黒衣「(やはり間違いない、一族の者だ。だが、この違和感は何だ? この男は一体…)」

盗賊「一族を救い、栄光へ導く者。予言者によって選ばれた偉大なる赤髪の王……」

盗賊「今こそ我等が聖域を取り戻し、穢れし者共に裁きを下す。我こそが王、選ばれし者なり」


黒衣「!!?」

盗賊「赤髪なら、今の文言知ってんだろ?」

盗賊「まあ、そういうわけだから。死にてえなら、お前等全員、昇天させてやるよ」

盗賊「お前等の、赤髪の王様としてな」

勇者「本当!? 盗賊って赤髪の王様だったの!?」

盗賊「うん。たった今、王様宣言してやった」

勇者「へー、何かあれだね!響きが格好いいね!!」

盗賊「そうかぁ? こんな腑抜けた奴等の王様なんて、俺はなりたくねえけどなぁ」

黒衣「我々も、貴様を王などとは認めない」


ザザザザザッ…


盗賊「そういや、一緒に戦うのは初めてだな。何かいいな、友達と一緒に戦ってのはさ」

盗賊「何かこう、上手く言えねえけど……自分がいい奴になった気分だ」


勇者「僕も、自分のやってることが正しいと思える」

勇者「沢山迷惑掛けたし、やり方は間違ってると思う……でも、やっぱり間違ってない」

勇者「言ってることぐちゃぐちゃだけど、そんな感じ」

黒衣「間違いではない? これだけの混乱を招いて、良く言えるな」ダッ

盗賊「ははっ!皆悪者でいいじゃねえか。真っ白な奴なんていねーよ」

盗賊「そんな怖い顔すんな。さあ、こんな時こそ笑いましょう」ジャキッ

ザシュッ!グサッ!

盗賊「俺はしっかりかっちり殺します、来るなら死ぬ気で来なさい」


勇者「(手甲から刃…同じ武器なのか?いや、今考えるのは止そう)」

勇者「(やっぱり盗賊は凄いな、お師匠様みたいに力が抜けてる。今ので、陣が乱れた)」スッ


ガギッ!ザシュッザシュッ…

盗賊「勇者がやった奴も入れて、計六人か。なぁ、お前等は何で戦ってんだ?」

勇者「……盗賊?」

盗賊「一族の再興とか本気か? 巫女はそう言ってたけど、嘘だろ?」

盗賊「本気なら、とっくに南部に戻ってるはずだ。それとも何か、将軍が北部を治めてからか?」

黒衣「……貴様には関係ない」

盗賊「いつかは再興させるってか? いつかっていつだよ?」

盗賊「いつか必ずなんて言ってる奴に、そんな日は絶対に来ねえ」

盗賊「まだガキの巫女を騙す為か、自分に言い訳して今から目を逸らす為か」

盗賊「どっちだよ、答えろ馬鹿共」


黒衣「分かった風な口を利くなッ!!」

グサッ…

勇者「盗賊!?」

盗賊「……大丈夫だ。なあ、引き返すなら今の内だ。倒れた奴等と巫女連れてどっか行け」

黒衣「何故……」

盗賊「利用されてることくらい分かってんだろ。赤髪狩りに将軍が協力してたことも知ってんだろ」

黒衣「……………」

盗賊「やり直すなら今しかねえぞ。これ以上やるつもりなら、一切容赦しねえ」

盗賊「生きたいなら、何がなんでも生きろ」

黒衣「ッ!!?」グイッ

ズンッ…ポタッ…ポタポタッ……


黒衣「ゴフッ…」

盗賊「……おい、何してんだ…お前…」

将軍「思った以上に、部族の繋がりというものは強いらしいな」

将軍「如何に優れていようと、使えない物なら必要ない。廃棄するまでだ」

勇者「……………」ダッ

ガギャッ…

将軍「何だ? 自分が斬った事実は棚上げして、私が刺し殺すのは許せないのか?」

将軍「貴様は勇者などではない、その場の感情で支配されるだけの子供だ」

勇者「斬ったのは認めるさ、この手で殺めたことを否定したりしない」

勇者「単純に、お前の行為が許せないんだ。お前は、命を賭けてまで守ろうとした人を刺した」

将軍「私の部隊、私の道具だ。どうしようが問題ない。折れた剣に価値はないだろう?」

勇者「……人は道具じゃない。人を道具のように扱う奴に、国は治められない」

勇者「自分を慕い、信頼している人間を殺すような奴が……人を導けるはずがない」

寝ます。
やっと終わりが見えてきた気がする。

よみこみちゅう と表示されて、最初の50レスと最後の50レスしか見られません。

表示されるまでの間も長い為、更新するにもかなりの時間が掛かりそうです。
表示画面も一昨日と違うし、困った。

書き込む分には問題ないみたいです。
でも、書き込めたのか確認するのに時間が掛かりそう。

200レスくらいのスレは比較的早く表示されるので、新しいスレ建てて書いた方が良いかもしれません。

試しに少しだけ更新してみます。


>>>>>>

魔導鎧『大尉、前方から完全種の集団が向かって来ます』

魔導鎧『先程の報告から推測するに、赤髪で構成された部隊でしょう』

魔導鎧『迂回して戦闘を回避、精霊に任せるのが最善かと思われます』

特部隊長「いや、完全種の魔力探知、索敵能力は高い。おそらく既に気付かれているはずだ」

特部隊長「だが何故だ? 処刑場で戦闘中だというのに、彼等は何故、将軍から離れた?」

魔導鎧『別部隊である可能性も十分に考えられます。大尉、このままでは危険です』

魔導鎧『前頭を走る完全種の速度は、先程の中隊長とは比較になりません』

魔導鎧『大尉、速やかに退避することを…』


ヒュンッ…

特部隊長「くッ!!」バッ

ドンッ…

魔導鎧『完全種による投石のようですね』

特部隊長「……地面が抉れ土煙が上がる威力を持った投石か。最早、砲撃だな」

魔導鎧『砲撃ほどの威力ではないですが、着弾していれば吹き飛んでいたでしょうね』

特部隊長「充分な威力だ。音や魔力も感知出来ない分、余計に質が悪い」

魔導鎧『熱探査に切り替えます』

特部隊長「了解……やはり此方の存在には既に気付いていたか、厄介だな」

魔導鎧『先頭の完全種が跳躍、頭上から来ます』

特部隊長「魔力で位置を把握したのか。視界が遮られた中で躊躇いなく突っ込んで来るとは……」ジャキッ

特部隊長「まったく、身を守るはずの鎧が仇となってしまうとは皮肉なものだな」ズッ


…ガギィッ! ギャリッ…

特部隊長「(くっ…魔導鎧を装着していても、腕が軋むのが分かる。侮っていたわけではないが、マズいな)

特部隊長「……お前達は、処刑場にいる部隊とは別部隊か?」

盗賊「ん? あんた…その声、隊長さんか?」

特部隊長「……盗賊? 盗賊なのか!?」

盗賊「おう、久しぶりだな。それより、精霊はこの先にいるんだよな?」

特部隊長「ああ、それほど離れていない。お前ならすぐに追い付けるはずだ」

特部隊長「ところで勇者はどうした? 処刑場で何があった?」

魔導鎧『大尉、彼等は負傷者を運んでいるようです。重軽傷者数名、意識不明が1名です』

魔導鎧『既に治癒し始めている者もいますが、意識不明者に治癒の兆候は見られません』

盗賊「悪りぃけど話してる時間はねえ……急がねえと死んじまう」


特部隊長「いや、状況は理解した」

特部隊長「早く行け、精霊は魔女と合流次第、魔術師に魔力を返還する」

盗賊「そうか、なら急がねえとな…お前等、行くぞ」

特部隊長「俺は処刑場へ向かう。彼等の他に赤髪の部隊はいるのか?」

盗賊「いや、こいつらだけだ……あいつを、勇者を頼む」

タタタッ…

特部隊長「……無二の友人である勇者を置いて、敵である彼等の救命を優先したのか?」

特部隊長「決して勇者を見捨てたわけではないだろうが、一体どんな心境の変化が……」

魔導鎧『大尉、急ぎましょう』

特部隊長「ああ、済まない…考えるのは後にしよう。いずれ、直接訊けば済む話だ」ダッ





将軍「使える武器を二度も手放すとは、つくづく愚かな奴だ」

将軍「あの時、魔女を行かせなければ……先程、盗賊を行かせなければ……」


勇者「…ハァ…ハァ…」グラッ

ドサッ…

将軍「そこに倒れていたのは、私かもしれなかった」

勇者「(熱い…体の内側から燃やされてるみたいだ。あの槍、元素……)」

勇者「(駄目だ。頭が回らない、僕は倒れたのか? 視界が歪む、自分がどうなってるか分からない)」

将軍「力を持つが故に望まれぬ者、赤髪も完全種も…異形種も同じだ」

将軍「我々が必要とされているのは、異形種の存在があるからに過ぎない」

将軍「奴等がなければ、赤髪と同じように、人間に狩られていたかもしれない」

将軍「圧倒的な数を前に、為す術なく死んで逝くだけだ」

勇者「(何を言ってる? 頭に入って来ない、理解出来ない…此処はどこだ? 吐きそうだ)」

将軍「死ね、勇者……苦しみながら生きるより、苦しみながら死んだ方が良い」


将軍「如何に強大な力を持った者であろうと、いずれは死ぬ。いずれは終わる」ザッ

勇者「?」

将軍「貴様の場合、それが少しばかり早まるだけだ」スッ

ズンッ…

勇者「ガハッ…」

将軍「人として生きたことが間違いだったな。完全種として生きていれば、違っていただろう」

将軍「人を超えた身でありながら、人と同じ場所に立つことを選んだこと…それ自体が間違いだ」

将軍「気付かぬまま死んで逝け、人に踊らされた愚か者、偽善者よ」グイッ

ブシャッ…

勇者「(何か聞こえるけど…もういいや…凄く眠いし……つかれた…)」

将軍「平等に訪れるものなど、それだけだ」


ガシャッ…


将軍「貴様が誰かは知らないが、見ての通り勇者は死んだ。一足遅かったな」


特部隊長「……確認しろ」

魔導鎧『残念ながら事実です。死因は槍に供給されている元素…』

魔導鎧『胸部に空いた穴以外にも、数ヶ所の刺し傷を確認出来ます』

魔導鎧『人間で言うなら、猛毒を塗布した剣で何度も刺し貫かれたようなものです』

特部隊長「……合わせる顔がないな」ジャキッ

魔導鎧『大尉、無茶です。私は耐えられますが、あなたの体が保ちません』

特部隊長「逃げてどうなるものでもない。事態を終わらせるには、将軍を捕らえるか…」ダッ


ガギャッ!


将軍「首を獲る、か?」

特部隊長「……ああ、そうだ」

将軍「勇者ですら無理だった。貴様に私の首が獲れるとは、到底思えん」

特部隊長「(十字の槍、間合いが遠い。躱しざまに柄を掴み、一気に潜り込む)」ダッ


将軍「…………」ズオッ

ガシッ…

将軍「そうだな、その判断は正しい。誰もが、そうする」パッ

特部隊長「槍から手を…ッ!?」

将軍「人は眼前の脅威に目を取られ、中々全体を見ようとしない」ダンッ

特部隊長「くッ!!」バッ


ズドンッ!


特部隊長「ッ…ガハッ…掌…打か……」

将軍「間合いを詰められたのなら、此方も間合いを詰めれば良い」

将軍「敵の足を止め、槍で止めを刺す」ズオッ

特部隊長「俺はこのまま突っ込む、槍は頼む」バシュッ


魔導鎧『大尉、待って下さ…ッ!!』ガシッ

ガギャッ! グググッ…

魔導鎧『大尉……』

将軍「鎧が独立して動くとは、中々面白いことをする魔術師がいるようだ」

将軍「だが、鎧から出たのは間違いだったな」グオッ

特部隊長「悪いな、俺は本命じゃないんだ」

魔導鎧『断在刀を使用します』ダンッ

将軍「!!?」ゾクッ

魔導鎧『避けましたか、勘が良いですね』

将軍「(あの短刀は何だ? 凄まじい威圧感、殺意なんてものじゃない。まるで、死そのもの…)」

魔導鎧『大尉、作戦失敗です。今の内に戻って下さい』バシュッ

ガシュッ…

特部隊長「もう、手はないのか? 他に機能があるなら言ってくれ」

魔導鎧『……負荷制限を解除すれば、魔導鎧そのものの力を発揮出来ます。しかし、お勧め出来ません。』


>>>>>

勇者『本物の王様は、誰よりも優しくなくてはならない』

勇者『だから将軍、お前のような奴が王様になれるわけがない』

勇者『なれたところで誰も付いてこない。お前は最後まで、一人のままだ』

勇者『盗賊、今の精霊なら傷を治せる。急いで彼を、彼等を精霊のところへ……』

勇者『僕なら大丈夫、何とかする。彼等を助けるのは他の誰でもない、君の役目だ』

勇者『だって盗賊は、赤髪の王様なんだから』


盗賊「……優しい王様か」

魔導師「どうかしたの?」

盗賊「いや、軽々しく王を名乗るもんじゃねえな…と思ってさ」

盗賊「言葉ってもんは、一度でも口にしたら戻らねえだろ?」


魔導師「……そうね」

魔導師「どんな言葉だろうと、言ったら最後、消すことは出来ないわ」

魔導師「勇者を置いてきたこと、後悔しているの?」

盗賊「後悔っつーか、何だろうな。俺は勇者を助ける為に来たってのに……」

黒衣「・・・・・・」

盗賊「俺は全く別の奴を助けた。それが何とも妙な感じでさ」

魔導師「自分の取った行動が意外?」

盗賊「ああ、自分でも何で助けたのか分かんねえ。最初は殺すつもりだった」

魔導師「あら、そうなの? その割には綺麗に急所を外していたようだけど」


盗賊「……何でだろうな、分かんねえや」

黒衣「うっ……」

魔導師「目が覚めたようね……」

魔導師「私はもう行かないと…後のことは、あなたに任せるわ」

魔導師「……ッ…勇者…」

盗賊「どうした?」

魔導師「……いえ、何でもないわ。彼等の問題はあなたが解決しなさい」

魔導師「王を名乗った以上、投げ出すことは出来ないのだから」ザッ


盗賊「……ああ、分かってる。ありがとな」

魔導師「(この時代の問題は、この時代を生きる人間が解決する)

魔導師「(私のような亡霊は、時代を狂わせ歪まませ捻曲げるだけ……)」

魔導師「(何があっても、起こり得る未来を変えてはならない。あの子の未来も…)」




騎士「未来は選択の数だけある。どれが最良の選択であるのか、それを教えるのが巫女の役目」

騎士「しかし、最良の選択とは彼にとっての最良であるから、多くの人を不幸にする場合もある」

部下「……人によって求める幸せは違う。彼の幸せ、成功が、誰かを苦しめるわけですか」

騎士「そうだ。それが権力者あれば影響も大きい。王ともなれば、その影響は計り知れない」


部下「あなたにも、予知のような力が?」

騎士「ない。あったとしても使わない。自分で選び取ったものこそ、本来歩むべき道だから」

騎士「それに……」

部下「どうしました?」

騎士「王とは、なるべくしてなるもの。運命、宿命を背負って生まれきた存在」

騎士「それが、名君だろうと暴君だろうと……」

部下「……………」

剣聖「ほう、中々面白い話をしているな」

部下「うわっ!? 中にいたはずでは…」

剣聖「陛下に外を見張れと仰せ付かったのでな、仕方なく出て来たのだ」

剣聖「小僧に説教するところなど全く面白くない。出るのは欠伸と吸い殻くらいなものだ……」


部下「……邪魔だから出て行けと言われたのですか?」

剣聖「なあ小娘、個人の選択が世界を変えると思うか」

部下「(言われたんだろうな……)」

騎士「……分からない」

剣聖「そうか、なら一つ、面白い話を聞かせてやろう」

剣聖「嘗て、一人の男の選択によって世界が変わり、一つの種が世界から消えた」

剣聖「その男は王だった。種族を守る為に戦ったが、長き戦いの末、遂に王は敗れた」

剣聖「王が敗れてから間もなく、その種族も滅んだ」

部下「……滅びた種族とは?」

剣聖「お前等が異形種と呼ぶ存在、人が生まれる以前に世界にいた種族だ」


部下「そんな馬鹿な!冗談でしょう!?」

剣聖「まあ、それが当然の反応だ。お前等の中では人間を脅かす存在、正に異形の種族」

剣聖「書物にも一切記されることなく、歴史から徹底的に抹消されたのだから無理もないがな」

剣聖「なんにせよ、人間は先に立つ者を滅ぼし、彼の者達から世界を奪った」

剣聖「人は神に選ばれた…などと言っている輩には到底受け入れ難い真実だろう」

剣聖「下らぬ戯言と受け取るか否か、それはお前次第だ」

部下「……………」

剣聖「まあ、俺が何が言いたいのかというとだな……」

剣聖「数多の中の一つを選び取ったのなら、その先にある結果、未来を受け入れろということだ」


剣聖「……それが、どんな未来であろうとな」

騎士「未来はおろか、帰る場所さえ奪われた者はどうなる……」

騎士「家族も奪われた!それすら結果として受け入れろと言うのか!!」

部下「(そうだった。この子は赤髪の……)」

剣聖「喧しい、俺に訊くな……と言うか、お前のことなど知ったことではない」

騎士「ッ!!」

剣聖「それとも励ましの一つ、同情の言葉の一つでも欲しかったか?」

騎士「違う!そんなんじゃない!!」

剣聖「いいか小娘、詭弁だ何だと言われようと、命ある限り未来はある」

騎士「……るさい」

剣聖「見たところ手枷足枷があるわけでもなし、お前の好きにすれば良いだろう」


騎士「うるさいっ!」ダッ

部下「あっ!ちょっと!!」

剣聖「構わん、行かせてやれ。行き先など一つしかない」

部下「……あなたは、最初から動けることを分かっていて…」

剣聖「さあ、どうだろうなぁ」

部下「…ッ…結果や責任などと言っていたのは何なんです。あの子は…」

剣聖「哀れな赤髪か?」

部下「そうではありません!あの子は幼い、他にやり方、伝え方があったはずです!!」

部下「激情させ戦場に放り出すなど、どうかしています!」

剣聖「待て待て、そう怒るな。幼いからこそ、親の元へ行かせたまでだ」


部下「親…将軍…処刑場ですか!?」

剣聖「ああそうだ。血の繋がりがなくとも、拾われ利用されただけだとしても、親は親……」

剣聖「どの道死ぬのだ。死に際くらい、傍にいさせてやれ」

部下「死に際!?それは彼女の

剣聖「悪いが用事が出来た…少し歩いてくる。お前は此処にいろ」


ザッザッザッ…


部下「…っ! 何なんだ、何がしたいんだ、あの人は……」




黒衣「……将軍は認められたいのだ」

黒衣「先々代…父の愛を受けられず、母も早くに亡くしたらしい」

黒衣「あの方は完全種であるが故に、実子と認められなかったのだ」

黒衣「消されることはなかったが、王家から母と共に追い出され、事実は伏せられた」


黒衣「誰にも必要とされず、認められもせず、捨てられたのだ……」

黒衣「その痛みは、貴様も分かるはずだ」

盗賊「……………」

黒衣「認められたいから、他者を蹴落としてでも上に立とうとする」

黒衣「必要とされたいから、誰よりも鍛練し、勉学に励んだのだろう」

黒衣「……将軍が赤髪狩りに協力したのも、その為なのかもしれない」

黒衣「だが、拾われたことに違いはない」

黒衣「我々はあの方に救われ、新しい居場所を与えられた」

黒衣「如何なる思惑があったとしても、それだけは変えようのない事実だ」


盗賊「なら、助けに行くか?」

黒衣「……行かせる気など微塵もないのに、何を言う」

盗賊「言ってみただけだ。それに、あの場を離れた以上、俺は戻れねえ」

黒衣「何故だ? 勇者は貴様の友人なのだろう」

盗賊「……唯一無二の友…親友だな。言葉にすると安っぽくなるから嫌だけど、それしか言葉がねえ」

盗賊「その友達が、何とかすると言った。お前等を助けるのは俺の役目だとも言った……」

黒衣「何だそれは、王にでもなったつもりか?」

盗賊「まあ、つもりも何も最初から王様だからな」ウン

黒衣「……あの時の違和感…貴様と会った記憶がないのはその為か」


盗賊「あ?」

黒衣「貴様は生まれて間もなく、我等とは別の場所で育ったのだろう?」

黒衣「そして、王となるべく教育されていた。違うか?」

盗賊「まあ、大体そんな感じだ。何度か里に下りたことはあるんだけどな」

黒衣「……当時、よく聞かされたよ」

黒衣「王は必ず現れる。我々を勝利へ導く、偉大なる赤髪の王が……とな」

盗賊「それ、赤髪狩りの末期だろ? 王様が間に合うわけねえんだよ」

盗賊「敗戦濃厚と見るや逃がされて、復讐しろとか言われて、街に捨てられて終わりだ」

盗賊「まあ、今となっちゃどうでも良いけどな」

黒衣「……こんな男が、一族の待ち望んだ赤髪の王だとはな」


盗賊「文句言うんじゃねえよ。こんな王様でも現れただけマシだと思え」

黒衣「滅びた一族の王を名乗っても、名声も何も得られんぞ」

盗賊「何かが欲しけりゃ盗ってるさ。つーか滅んでねえだろ、お前等は生きてんだから」

黒衣「…………」

盗賊「勇者が言うには、王様は優しくなけりゃ駄目なんだとさ」

盗賊「将軍にも言ってたぜ? そんなんじゃ、王様になっても一人のままだってな」

黒衣「……………」ピクッ

盗賊「行きてえんだろ?」

黒衣「ああ…戦わずとも、あの方の傍にいたい」


盗賊「そっか、なら行けよ」

盗賊「勇者に斬られても、隊長さんに殴られても、また将軍に刺されても文句は言うなよ?」

黒衣「……もう少し、自分の発言に責任を持ったらどうだ? 言っていることが滅茶苦茶だ」

盗賊「そうやって生きてきたからな、少しくらい大目に見てくれよ。ほら、王様だし」ニコッ

黒衣「ふっ…貴様のような王が傍にいたら、気苦労が絶えないだろうな」



魔女「あぁーっ、すっごく疲れた……」グッタリ

魔女「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなって良かった。皆協力してくれたし」

魔女「後で花屋さん一家にはきちんとお礼言わないと……」


少女「…………」チョコン

魔女「(ただし、この子は除く)」

少女「お姉ちゃん、ゆうしゃは何してるの? こっちには来ないの?」

魔女「忙しくて来られないんだと思う。きっと、今も頑張ってるんだよ……」

少女「ふーん、お姉ちゃんは? 行かなくていいの?」

魔女「何があるか分からないからね。皆と一緒にいないと……」

魔女「勇者に頼まれたんだ。戦うんじゃなくて、皆を助けてあげて…ってね」

少女「ともだち?」

魔女「さぁ、友達とはちょっと違うかもね」

少女「じゃあ、こいびと?」

魔女「ないない、恋人は絶対にない。だから安心していいよ」


少女「でも、お母さんみたいなかおしてたよ?」

魔女「はぁ?」

少女「さっき、お父さんをおこったときの、お母さんみたいな…そんなかお」

魔女「(なんか、子供って凄いな。言わんとしてることは分からんでもない)」

魔女「まあ、心配してるからね。あいつ、平気な顔して無茶するからさ」

少女「すきじゃないの?」

魔女「うーん、好きになる前…かな? どんな好きになるかは分からん」

魔女「(優しい男…だとは思うけどさ……)」

少女「じゃあ、こいがたきだ」

魔女「いやいや、そういうのじゃないから。ていうか、そんなに好きなの?」

少女「うん、やさしくてかっこよくて、わらったかおもすき」


少女「お父さんがね、言ってたんだ」

魔女「何て言ってたの?」

少女「えーっとね……」

花屋『彼……勇者はね、ただただ、太陽に向かって真っ直ぐ伸びていくような人物だ』

花屋『花を咲かせるわけでもない、美しくあろうとするわけでもない……』

花屋『だけどね、それこそが美しいんだ。何と言うか、欲がないんだよ』

花屋『彼のような人は、何度踏み潰されようと必ず立ち上がる。不屈の魂を持っている』

花屋『誰が何をしようと決して枯れないし、決して枯らしてはならない存在なんだ』

少女「……って、言ってた。ゆうしゃは、かれちゃダメなんだって」

少女「だれかが水をやらなくちゃ、すぐにかれちゃう」


魔女「……うん、そうだね」

少女「わたしは、ゆうしゃのおよめさんになって、ごはんを作る」

魔女「うん…って、あれ? 何でお嫁さんが出てきた?」

少女「水だけじゃ生きていけないでしょ! えいようはだいじ!」

魔女「(あながち飛躍してるとも言えない、子供って、単純に見えて、そうでもない……)」

魔女「(核心を突いてるような、そうでもないような……見え方が違うのかな)」

少女「だから今は、りょうりのべんきょうをしている」ウン

魔女「料理か…(先生、美味しいって褒めてくれたっけ)」

少女「できなさそうだね」

魔女「……出来るから。自分で言うのもなんだけど中々のもんだよ?」


少女「ヤモリとかヘビつかうの?」

魔女「酷い偏見だな、そんなんじゃないよ。普通だよ、普通に

少女「トリ肉はコウモリをつかう」

魔女「どんな料理だ。そんなの使わないから……あっ、来た!!」

少女「だれ? お姉ちゃんのお母さん?」

魔女「うん、まあ…そんな感じかな。中身は違うけどね」

少女「?」

魔女「(そうだった、魔術師に魔力を返すんだ。返したら、本当の本当にお別れか……)」

魔女「(……勇者、あんたなら大丈夫だよね? 無茶してないよね?)」


>>>>>

特部隊長「…ガフッ…ゴホッ…」

魔導鎧『大尉、これ以上は耐えられません。継続するのは危険です』

特部隊長「それを決めるのは君じゃない。俺はまだ…やれる……」ダッ

ガギッ!

将軍「何度やっても同じだ。動きは完全種と較べても遜色はないが……」

ズドッ…

特部隊長「……(やはり見切られている。剣は槍先で弾かれ、横っ腹を柄で叩かれる)」

特部隊長「(速度に緩急を付けようと確実に合わせてくる。完全種だからではない、これは…)」

将軍「完全種になった人間と、初めから完全種であった者の差……つまり経験の差だ」

将軍「色々と試行錯誤しているのは分かるが、全てがぎこちない。手に取るように…」ズオッ


特部隊長「くッ!」ガシッ

将軍「……動きが分かる」グンッ

特部隊長「(槍ごと俺を…駄目だ速過ぎる。間に合わない)」


ズドンッ!


特部隊長「がっ…」ドサッ

魔導鎧『大尉、しっかりして下さい。大尉…』

将軍「一時的であろうと、人間の力を完全種に引き上げる鎧か……」

将軍「発想も技術も素晴らしいが、扱う人間の体が保たないのが難点だな」

将軍「訓練された者でも数十分程度が限界か。筋肉や靱帯…関節、神経…」

特部隊長「…ハァッ…ハァッ…」

将軍「それらが、常人では耐え切れぬ機動力によって、擦り切れ焼き切れているはずだ」


魔導鎧『大尉、後は私がやります。今すぐ魔導鎧を脱いで下さい』

特部隊長「駄目だ。戦闘経験のない君が太刀打ち出来る相手じゃない」

特部隊長「仮に君に任せたとしても、今の俺は君の補助なしでは動けないだろう」

魔導鎧『では、離脱しましょう。それ以外に方法はありません』

特部隊長「……負荷制限解除」

魔導鎧『既にやっています』

特部隊長「全てだ。肉体に掛かる負荷を一切軽減せず、魔導鎧の力を引き出せ」

特部隊長「この鎧は高い性能を誇るが、鎧そのものに戦闘技術はない」

特部隊長「舵は俺が取る。力押しで勝てる相手じゃない、君では無理だ」

特部隊長「それは、君自身が一番良く分かっているはずだ」


魔導鎧『では、救援を……ッ!?』

ギャリィッ! ブンッ…ガギッ!

特部隊長「……そんな時間を与えてくれるような相手じゃない」

特部隊長「一度は勇者を連れて離脱しようと考えたが、奴は勇者すら餌にしている」

特部隊長「勇者に近付けたとしても迎撃されるだけだ。それこそ、奴にとって望ましい展開」

魔導鎧『……………』

将軍「それ程まで動けるとは、優れているのは鎧だけではないようだ」

将軍「貴様の所属は」

特部隊長「言うと思うか?」

将軍「そうか、まあいい」

将軍「……知っているか? 西部には、人間のみで構成された討伐部隊があったそうだ」


特部隊長「…………」

将軍「彼等の任務は異形種の偵察が主であり、言わば捨て駒。完全種到着までの生贄……」

将軍「しかし、数ある部隊で最も多くの異形種を討伐したのは、生贄であるはずの彼等だった」

将軍「その部隊は功績を認められ、正式に異形種討伐部隊となった……」

特部隊長「……随分詳しいんだな」

将軍「有名な話だ。軍に属す者であれば誰もが知っている」

将軍「部隊長である大尉自身が囮となり、攻撃を一手に引き受ける」

将軍「元素を施した弾丸、部下による狙撃。それが、彼等の最大の武器だった」

将軍「大尉が引き寄せ、狙撃の名手である女性兵士…少尉が撃つ」


特部隊長「………………」

将軍「一見、理に適っているが……」

将軍「人間の身で異形種の攻撃を避け続けるなど、容易なことではない」

将軍「何故そんな危険を冒すのかと問われ、彼はこう答えたそうだ……」

将軍「部下の死亡確率を下げるには、自分の死亡確率を上げる他に方法が見つからなかったと」

将軍「これを初めて聞いた時、この世には優れた人間がいるものだと驚いたよ」

将軍「我が軍でも、彼の言葉に触発されて戦死した愚か者が数名出た……」

特部隊長「……真似しろなどとは言っていない、それしか方法がなかっただけだ」

将軍「会えて光栄だ。旧西部・対異形種特別部隊長、大尉殿……」

特部隊長「知られたところで、やるべきことは何一つ変わらない」


将軍「……自国が滅びようと戦場を求めるとは、あの日に見た元帥を思わせるな」

将軍「赤髪狩りで一度対峙したが、人間に恐怖したのはあれが初めてだ」

特部隊長「(対峙……赤髪狩り初期、元帥が赤髪族と共に戦ったという話は事実だったのか)」

将軍「此方に付く気は…」

特部隊長「お喋りは終わりだ。負荷制限解除」

魔導鎧『…はい、了解しました』


ガシュッ…ギシッ!


特部隊長「……行くぞ」ダッ

将軍「此方に付く気はないか。それでは仕方ない」

特部隊長「(一歩踏み出す度に体が…骨が軋む。これは…筋繊維の切れる音か……)」

特部隊長「(魔導鎧が止めた理由が分かる。姿勢を保つだけでも意識が飛びそうだ)」

将軍「先程より、速いな」ズオッ

特部隊長「(槍を弾け、この速度なら反撃させる間も与えず飛び込める)」


ガギャッ…

将軍「更に速度が上がった? ちっ…」

特部隊長「(今だ、ここで決め…)」ガクンッ

魔導鎧『大尉、戦闘技術はありませんが補助します』

特部隊長「こんな時に…子供はどっちだ……うおおおおおおッ!!」

ドンッ…

将軍「!!?」

騎士「将軍は殺させない」バッ

特部隊長「なッ!!? 止ま…れッ!!」ギシッ

ドガッ!

騎士「うあっ!!」ドサッ

特部隊長「…ハァッ…ハァッ…何故、子供が…」

将軍「巫女か、北王の監視を命じたはずだが……まあいい、助かった」

特部隊長「お前、赤髪の子供まで…」

将軍「使えないと思っていたが、案外役に立つものだな。巫女、貴様を拾っておいて良かった」


騎士「…えっ…?…将…軍…?」

特部隊長「子供を…子供を戦争の道具にするなッ!!」

魔導鎧『……大尉、もう動くのは無理です。既に限界を超えています』

騎士「あっ…うぅ…」

将軍「それは自ら此処へ来た。私が指示したわけではない。大尉、もう終わりだ」

特部隊長「…外道が………!!?」

魔導鎧『そんな、有り得ません。彼は確かに……』

将軍「馬鹿な……何故だ? 何故生きている?」

勇者「何度踏み潰されても立ち上がる…不屈の魂を持ってるからさ」フラッ

将軍「貴様は完全種のはずだ……」

将軍「この槍に貫かれ、元素に焼かれ、生きていられるわけがない、立てるわけが…

勇者「僕は完全種なんかじゃない……」スッ


【不屈の魂】
【正義の味方】【だいすきなひと】
【唯一無二の親友】【優しい心を持ってる男】


勇者「僕は、皆がいないと何にも出来ないから……」

勇者「支えられなければ一人で立つことも出来ない、不完全な存在だ」

寝ます。
きちんと書き込めてるか確かめてから寝ます。
書き込むには問題ないです。
スレというか、文字が表示されるまで五分くらい読み込み中ってなるだけで……

誤字脱字はあるけど全て書き込めてて良かった。
感想ありがとうございます。寝ます。


将軍「死者が蘇るなど、あってはならない……貴様は、死をも冒涜するか」

将軍「死は唯一平等に訪れ、安息を与えるものだ!! それすら拒むか!勇者ッ!!!」ズオッ

ガギッ! ギャリッ!

勇者「息も荒いし突きも鈍い、さっきまで冷静だったのに何を怒ってる?」

将軍「死者が口を利くな」

勇者「死者? 何を言ってる? 僕は気を失ってただけだ」

将軍「いいや違う。貴様は胸を貫かれ、確かに死んだ」

勇者「服は破けてるけど傷はない、死んだのなら治癒しないはずだ」

勇者「あちこち痛むけど、僕は確かに生きてる。死んでるように見えるか?」

特部隊長「(魔導鎧を通して見た時、勇者は確かに死亡していた。倒れていた場所には血痕もある)」

特部隊長「(しかし、勇者は気を失っていたと思い込んでいる。刺された記憶がないのか?)」

特部隊長「(彼の体に何が起きたのか想像も出来ないが、蘇ったのは事実。彼は一体……)」


将軍「……ならば、もう一度、死ね」グッ

グググ…ギリリ…

勇者「ぐっ…またこれか」

勇者「(十字槍を二刀で挟んでも、押し込まれた時、両端の刃までは防げない)」

勇者「(さっきは躱しきれずに肩を裂かれ、元素で動きが鈍った。絶対に当たっちゃ駄目だ)」

勇者「(刃は挟んでるんだ。このまま先端、槍先を逸らす……無理に突っ込むことはない)」


グイッ! ガギッ!


勇者「さっきは無理に間合いを詰めようとして失敗した。軌道を逸らせば問題ない」

将軍「だから何だ、無意味に長引かせるだけか? 近付かなければ私は斬れんぞ」

勇者「分かってる。そう遠くないんだ、今すぐ行くから待ってろ」ダッ

将軍「貴様の動きには慣れた。この先の結果も、先程と何も変わらない」ズオッ


ガギャッ! ギャリィッ!

勇者「(受け止め、弾き、距離を詰める。奴は槍を素早く引き戻し、僕の脇腹を十字の刃で裂く)」

勇者「(或いは手首を返し、手元の柄で打撃を加える。判断は難しい。刃を見るな、全体を見ろ)」ダッ

将軍「……………」クンッ

勇者「くッ!!」バッ

ガギッ!

将軍「背後に迫る刃を受けたか。死者が学習するとは……忌々しい」

勇者「死んでないって何度言ったら分かるんだ? お前がそう思いたかっただけじゃないのか?」

将軍「貴様がそう思うのなら、それでも構わない。だが……」ガシッ


騎士「…う…あっ…?」

勇者「……やめろ。その子を離せ…」

将軍「背に迫る刃を止めたな? ならば、これも受け止めて見せろ」グイッ

勇者「やめろッ!!」

将軍「貴様が受け止めれば助かる」

将軍「何をしている。早く剣を手放せ、そのまま受け止める気か?」

勇者「……………」パッ


ガシャッ……


将軍「犠牲なくして平和はない。戦も同じだ……犠牲なくして、勝利はない」


ブンッ!

勇者「……………」ダッ

ガシッ…ギュッ…

勇者「大丈夫?」

騎士「…ぉまえ…は…?」

将軍「生者を抱いて冥府へ戻れ」ズオッ


ガシィッ!


特部隊長「済まない、動くのに時間が掛かった」

将軍「……………」

勇者「あなたは…」

特部隊長「東西軍所属・大尉、君の味方だ。元帥の命で北部にやって来た」

特部隊長「勇者、これ以上話している時間はない。その子は精霊の下へ連れて行く」


魔導鎧『大尉、急ぎましょう。彼女の意識は混濁しています』

魔導鎧『衰弱しているのは精神的なものかと思われますが、原因は不明です』

騎士「…ぉ…ばぁ…ゃ…」

勇者「……この子を、お願いします」スッ

特部隊長「ああ、任せてくれ」

魔導鎧『大尉、あなたも早く治療しなければなりません。後遺症が…』

特部隊長「待て。その前にこれを、武器がなければ戦えないだろう」ガシュッ

勇者「短刀…これは?」ガシッ

特部隊長「この鎧もその短刀も、全て精霊が作ったものだ。彼女の魔術が施されている」

勇者「精霊の……ッ!!」


ガギンッ!

勇者「大尉さん、今の内に此処を離れて下さい。その子を頼みます」

特部隊長「了解した」ダンッ

将軍「行ったか……これで、互いの駒はなくなったな」

勇者「黙れ。あんな小さな子を犠牲にしてまで、僕に勝ちたいのか」

勇者「お前が何を求めようと、決して手に入らない。人でなしが、王になどなれない……」ダッ

将軍「何とでも言うがいい」


ズドッ!


勇者「……お前と神聖術師には、礼を言わなきゃならないみたいだな」

勇者「目覚めてから、槍を見ても恐怖を感じなかったんだ。何て言うのかな……」

勇者「僕は怖かったんだけど、体が大丈夫だって言ってるみたいな感じ」



ずるり…

将軍「!!?」

勇者「お陰で、魔力だけじゃなく、元素にまで耐性が出来たみたいだ」

勇者「多量の元素を受け続けたのが原因なのか? さっきまで、治癒も出来ず藻掻いていたのに……」

勇者「それにほら、傷の治りも早くなった。生きる為に、体が変わったのかもしれない」

勇者「でも…こんなの見られたら、気味悪がられて嫌われるだろうな」

将軍「……(これで確信した。奴は完全種などではない、何か…もっと別の……)」

勇者「もし今、此処に民衆がいたら……お前を殺せと、あらん限りの声で叫ぶはずだ」

勇者「死とは、唯一平等に訪れ、安息を与えるもの……だっけ?」

将軍「(……奴は、何としても殺さなければならない。今やらなければ、次はない)」

ズドッ!

勇者「……僕には、訪れそうにないな」ガシッ


将軍「化け物め、貴様はいずれ人類の敵となる存在だ。此処で死ね」

勇者「何を言ってる。僕をこんな風にしたのは、お前だ」

ググッ…パキンッ…

勇者「人を道具扱いして、あんな子供まで利用して……化け物はどっちだ」ヒュッ

グサッ!

将軍「ぐっ…」

勇者「元素、苦しいだろ? まさか自分の槍で傷付けられると思わなかった?」

勇者「魔導師さんなら、万が一を考えて対策してただろうな」

勇者「……優しい人だったのに、もう会えない。いつだって、優しい人が先に死ぬんだ」

勇者「そんなの間違ってると思わないか?」

将軍「優しい人間だと? 生まれてから今まで、一度も出逢ったことはないな」

勇者「いや、既に出逢ってる。赤髪の部隊は、お前を敬愛してた」


勇者「彼等は人間だ。お前が道具扱いしてただけで……」ザッ

将軍「………………」

勇者「彼等は、お前を必要としてたんだ。それは僕にも分かるくらい、強い想いだった」

将軍「……その力は、人を滅ぼすぞ」

勇者「何を今更……急に人間みたいなこと言うな」

勇者「お前は人じゃない。自分は完全種だと、そう言ってたろ」

勇者「……神聖術師も言ってたな、人を超越しているなら見下して当然だとか」

勇者「人が獣を見る様は、憐れみ慈しみながら、どこか見下している。君もそうあるべきだ」

勇者「……とか。人を見下す気にはなれないけど、お前のような奴は大嫌いだ」


勇者「でも、お前を殺すつもりはない」

ガシャ…

将軍「……何のつもりだ」

勇者「生きて償うんだ。お前を殺して解決する問題じゃない」

勇者「北王も、きっと民の前で

将軍「愚かだな」ガシッ


グサッ!


将軍「…ガフッ…」

勇者「……それが、あなたの答えか」

将軍「為せぬなら、潔く消えるまでだ。初めから、私の命に価値などない」

将軍「……貴様には、分からないだろうがな」


黒衣「将軍!!」

ザッ…

将軍「!?」

黒衣「将軍!しっかりして下さい!!」

将軍「……何故だ…何故お前達が…」

勇者「あなたには価値がなくても、彼等には価値がある。きっと自分の命よりも……」

勇者「人として接していれば違っていたはずだ。あなたも、彼等も……」

将軍「………………」

黒衣「将軍!死なないで下さい!!今すぐ魔術師に

将軍「もう良い…何もかも終わった。私が求めたものは…」

ドサッ…

将軍「私が求めたものは……」

黒衣「……生きて下さい…私達には、あなたが必要なんです」

黒衣「どうか…お願いです、目を開けて下さい。私達と共に…何処か…別の場所に……」

将軍「(私が求めたもの、本当に欲しかったものは……)」スッ

黒衣「…………………」ギュッ


ズズンッ!

勇者「今の音、そうか……悪いけど、君達に一つ頼みがある」

黒衣「………何だ」

勇者「僕は今から魔神族を討伐しなければならない。君達は将軍を拘束し、速やかにこの場から離れろ」

勇者「彼は完全種だ。拘束を解き、逃げ出す怖れもある。決して目を離すな、決して逃がすな」

勇者「隔離した後も警備は怠るな。彼のことは、君達に任せる」

黒衣「……ああ、確かに引き受けた」

勇者「ありがとう、助かるよ。じゃあ、僕は行くから……」ザッ

黒衣「勇者」

勇者「……なに?」

黒衣「この恩は忘れない……ありがとう」ダッ


勇者「僕も早く行かないと、えーっと、剣は……あった」ガシッ

勇者「精霊の剣も持って行かないとな。しかし、何とも異様な剣だな、怖いくらいだ」

勇者「魔神族か、召喚士みたいな魔神族じゃないといいけど、厄介な奴でも嫌だな」

勇者「ふーっ、よしっ…気を引き締めて行かないと」







剣聖「ふーっ…どんな奴かと思って楽しみに待っていたんだが、とんだ小物だったな……」

剣聖「……そろそろ戻るか、東王陛下の説教も終わった頃だろう」ザッ

剣聖「……ん?」

勇者「お師匠様!!」

剣聖「お前、勇者か? ほう、大きくなったなぁ!!」

ワシワシ…

勇者「(大きくなってから初めて喜ばれた気がする。扱いは変わらないけど……)」


剣聖「それで? 終わったのか?」

勇者「えっ? あ…はい、終わりました」

勇者「あの、魔神族はお師匠様が? じゃあ、さっきのは地響きはやっぱり……」

剣聖「ああ、済まん。一瞬とはいえ剣を抜いたからなぁ…その影響だろう」

剣聖「……終わったと言ったが将軍はどうした? 部下の者共も斬ったのか?」

勇者「部下は消え、将軍は自害しました」

剣聖「そうか、まあよい。あぁ、小娘を見なかったか?」

勇者「小娘…赤髪の子なら大尉さんが運びました。今頃治療を受けていると思います」

剣聖「何だ、生きているのか。あの小娘、運がよいのか悪いのか分からんな……」


勇者「えっ?」

剣聖「いや、気にするな。俺は今から東王陛下の下へ戻る。お前はどうする?」

勇者「東王様が来てるんですか!? 無茶するなぁ……王妃様、大丈夫かな…」

剣聖「なんだ、盗賊の小僧から聞いていないのか?」

勇者「これから精霊、盗賊、魔女と合流しようと思っているので、合流した後で訊いてみます」

剣聖「ふむ、そうか……将軍の遺体は? 処刑場に残したままか?」

勇者「いえ、兵士に移送させました」

剣聖「……分かった。では、行ってよし」

勇者「お師匠様」

剣聖「ん? なんだ?」

勇者「好意…想いの形が歪んでいても、当人達が良ければ幸せなんでしょうか」

剣聖「愛や恋など、歪み狂ってなければ本物ではない。そもそも正しい形…あるべき愛の形などない」

剣聖「他人に向ける感情ほど歪んだものはないからな。時に、それが己を狂わせる」


勇者「何か、嫌ですね」ギュッ

剣聖「端から見れば美しいかもしれんが、中を覗けばそんなものだ」

剣聖「勇者、お前は姫君を愛しているか」

勇者「はい」

剣聖「相変わらず馬鹿正直な奴だ……あの娘もお前を好いている。気を付けろよ」

剣聖「何せ、王妃様の娘だ。愛で殺されるかもしれんぞ?」

勇者「王女様は優しいから大丈夫です」

剣聖「睨むな睨むな、もう質問は終わりか? ならば、さっさと行け」

勇者「はい、ありがとうございました」ダッ

剣聖「……兵士に移送させた、か。聞いた限りでは、最後に残ったのは勇者と将軍のみ」

剣聖「兵士が移送したというのは嘘ではないのだろうが、何処の誰が移送したのやら……」

剣聖「まったく…面倒なことをする奴だ。父に似たのか、剣士に似たのか…」

剣聖「どちらにせよ、まだまだ鍛える必要があるな」

短いけどここまでです。
次くらいで魔女編は終わると思います。
感想ありがとうございます。寝ます。


>>>>>

盗賊「そうか、勇者が……行き先は決まってねえんだろ?」

黒衣「いや、逝く場所なら決めてある。将軍亡き今、この世界に我等の居場所などないからな」

盗賊「……お前等が決めたんなら止めはしねえさ、好きなとこに行けばいい」

盗賊「でも、あいつはどうすんだよ? 巫女は置いていくのか?」

黒衣「……あの子はまだ幼い、我等とは違う道を歩めるはずだ」

盗賊「あいつの拠り所はお前等と将軍だ。そう簡単に行くとは思えねえ」

盗賊「まだガキだからこそ、お前等が消えたと知った時、何をするか分かんねえ」

黒衣「……巫女は我等と将軍にしか心を開かない。他の人間を信じられんのだ」

黒衣「あの子も赤髪狩りを体験したのだから、そうなるのも当然と言えば当然だがな」


盗賊「俺はそんなことねえけどな」

盗賊「一族一筋みてえな、そんな頭が出来上がる前に捨てられて良かった」ウン

黒衣「……急な申し出、勝手な願いだが、貴様に巫女を頼みたい」

盗賊「はぁ!? 本気で言ってんのか!? お前、馬鹿じゃねえの!?」

黒衣「何にも染まることなく生きる貴様なら、あの子を変えられる」

黒衣「貴様と共にいれば、己を縛る過去から抜け出し、自由になれるだろう」

盗賊「何でそんなに自信満々なんだよ。俺にガキの世話なんか出来ねえからな?」

黒衣「貴様は赤髪の王なのだろう? 民を守るのは義務だ」

盗賊「うわー、認めねえとか言ってたのに、こんな時だけ王様かよ」


盗賊「つーか、それが王様に対する態度か?」

盗賊「ろくに税金も納めてねえクセに、面倒だけ押し付けやがって」

黒衣「一族を救い、栄光へ導く者。予言者によって選ばれた偉大なる赤髪の王……」

盗賊「分かった、分かったから止めろ。一族は知らんけど、巫女は何とかする」

盗賊「赤髪ってのは本当にろくな奴がいねえな……我が儘で自己中心的…」

黒衣「ふっ…それは貴様もだ。我々の誰よりも我が儘で自己中心的……そして、自由だ」

盗賊「………………」

黒衣「……そろそろ行かねば、巫女を頼む」

盗賊「分かったよ。ほら、さっさと行け、後は何とかする」

黒衣「盗賊、世話になったな……では、さらばだ」ダッ

盗賊「……行っちまった。あーあ、大して戦ってもねえのに妙に疲れたな……」


ザッ…ザッ…

勇者「……盗賊、彼等は

盗賊「なあ勇者、俺は王様やれてたか?」

勇者「……うん。きっと、何を言っても彼等の意志は変わらなかったと思う」

勇者「依存とか、そういうことなのかもしれないけど、あれが将軍と彼等の繋がり、形なんだよ」

盗賊「あいつ等、逝っちまうってよ。この世界に居場所はないんだとさ……」

盗賊「将軍に与えられた居場所が、あいつ等の全てだったんだろうな」

勇者「盗賊が彼等を処刑場に行かせたのは、それが分かってたから?」

盗賊「止めようが何しようが、這ってでも将軍のとこに行ったずだ」

盗賊「槍でぶっ刺されても傍にいたいなんて言わねえだろ、普通……」


盗賊「……そんだけ強く想ってんなら、行かせた方がいいと思ったんだよ」

盗賊「大事な奴の傍にいたいって気持ちだけは、よく分かるからさ」ギュッ

勇者「……腕輪をくれた人の最期を、思い出したの?」

盗賊「ああ、あいつは俺の腕の中で逝ったんだ。最期まで笑ってたよ」

盗賊「……なあ勇者、将軍はどうだった?」

勇者「死に際、微かにだけど…確かに笑ってた。彼等に看取られて満足そうに……」

盗賊「そっか、なら行かせて良かったな。王様にはなれなかったけどさ、奴は一人じゃなかった」

勇者「でも、何だか虚しいよ。こんな風になるなんて、思わなかったから……」

盗賊「あいつ等が望んだことだ。俺達にはどうしようもねえさ」

盗賊「まっ、何を言っても終わったもんは終わったんだ。俺達も行こうぜ?」


勇者「……そうだね」

盗賊「そんな顔すんな、俺達には待たせてる奴がいる。口の悪りぃ放火魔女だけどな」ニコッ

勇者「はははっ! うん、そうだね。待たせると怖いし、早く行こう」ニコッ

ザッザッザッ…

盗賊「(巫女を頼む、か。今も向こうにいんのか? 逃げてたら……捜すしかねえな)」




騎士「…スゥ…スゥ…スゥ……」

精霊「傷は癒えたけれど、精神の消耗が激しいわ。彼女自身、生きようとしていない」

精霊「本人に生きる意志がないのなら、治癒したところで意味はない」

魔女「……捨てられたって、そう思ってるのかな」

精霊「おそらくそうでしょうね。大尉の報告通り、原因は将軍の言動と見て間違いないわ」

魔女「……信じてた人に道具だとか言われて、投げ飛ばされたりしたら仕方ないよ」


精霊「彼女、余程慕っていたのね。将軍を親だと思っていたのかもしれないわ」

魔女「赤髪狩りから必死に逃げて、自分を救ってくれた親代わりの人に……はぁ…」

魔女「この子、勇者と同い年か、ちょっと下でしょ? 赤髪狩りって、こんな子供まで?」

精霊「歳など関係ないのよ。赤髪であること、それ自体が殺す理由になるの」

精霊「盗賊や彼女が生まれる前から、それは繰り返されてきた」

精霊「以前は差別を訴えた者もいた。休戦になったことは何度もある」

精霊「けれど、今や彼等の居場所はない」

魔女「……この子は、そんな中で手を差し延べ、自分を救ってくれた存在にさえ捨てられた…」

魔女「ねえ、この子は生きていけると思う? 多分、私達じゃ助けられない」


精霊「大丈夫よ」

魔女「えっ?」

精霊「きっと、自由気ままな赤髪の王様が何とかしてくれるわ」

魔女「犯罪の王様の間違いでしょ? あいつが勇者意外の人間に親身になるとは思えない」

精霊「彼はあなたが思うような分かり易い人間じゃないわよ?」

精霊「分かり易く見えるだけで、内面はそうでもない。あなたも救われたのでしょう?」

魔女「……まあ、そうだけどさ」

精霊「ふふっ…納得出来ないみたいね」

魔女「だってさ、あいつがこんな小さい子の面倒を見られると思う?」

魔女「正直、全然想像出来ないんだよね。女の人の方がいいんじゃないかな……」


精霊「そんなに心配なら、あなたが育ててればいいじゃない」

魔女「いやいやいや!私には無理だよ!」

精霊「なら、盗賊と二人で育ててれば

魔女「からかってるでしょ?」

精霊「だってあなた、自分のことのように落ち込んでいるんだもの」

精霊「重なる部分は多いから仕方がないかもしれないけれど、思い詰めない方がいいわ」

魔女「……うん、分かってる」

精霊「魔女、人にはそれぞれ役割がある。自分のすべきことを考えなさい」

魔女「……精霊は魔力も先生の体も返したし、皆の治療は魔術師達が手伝ってくれたから終わった」

魔女「隊長さんもこの子の治療も終わった。後は…先生のお葬式だけ……」


魔女「私が出来ることなんて他には

ーー盗賊、魔女は向こうだって
ーーうーわ、なあ、人多すぎねえか?

ーー他の建物にも沢山いるみたいだよ?
ーーあいつが怪我人を治したのか?信じらんねえな……

ーーそんなこと言ってると、またやられるよ?
ーーいくら馬鹿でもこんな場所で火出さねえだろ。


魔女「……聞こえてるんだよ、バカ共め」ニヤ

精霊「ふふっ…ほら、出来ることならあるじゃない」

魔女「なに? バカ二人を燃やせって?」

精霊「…ハァ…違うわよ。戦いに疲れ果て、傷付いた仲間と再会した時はどうするの?」

魔女「どうって言われても、そんなの分かんないよ」

精霊「何も特別なことじゃないわ。笑って出迎えるだけでいいのよ」


ーーあ、大尉さん! 大丈夫ですか?
ーーああ、問題ない。此処に来たということは…

ーーはい、僕が出来ることは終わりました。
ーー済まなかったな、任せてしまって…

ーーいえ、そんなことは…あの時、槍を止めてくれなかったら…


ーー勇者様!御無事でしたか!!


ーー監視さん、その脚…
ーー命があるだけで十分です。しかし近衛兵が…

ーー亡くなったんですね……
ーーええ、精霊様と駆け付けた時には、もう…

ーーよっ、隊長。元気そうでなによりだ。
ーーお前ほどじゃない、叩くな。

ーーこの鎧は?
ーーそれか? それは

ーー私は魔導鎧です。大尉専用に造られた…


ワイワイ…ガヤガヤ……


魔女「………おい」イラッ

ーーあっ、いた。ほらっ、あそこだよ!
ーー何か怒ってねえか、行きたくねえんだけど…

魔女「さっさと来いバカ共!こっちはずっと待ってたんだからね!!」


勇者「そんなに怒らなくても…」

魔女「うっさい!」

盗賊「そんなに怒鳴らないで下さいよぉ…患者さんが怯えていますからぁ…」

魔女「その顔やめろ、すっごい腹立つから」

勇者「魔女、大変だったね。疲れたなら休んだ方が

盗賊「俺も疲れたから少し寝るわ…!!? このガキ、何でこんなとこに……」

勇者「その子と知り合いなの?」

魔女「……勇者!盗賊!!」

勇者・盗賊「「 ? 」」

魔女「何て言うか、その…お疲れさま…だと、何か変かな……」

魔女「あ、そうだ…コホンッ…おかえりなさい!」ニコッ


勇者「えっ、うん…ただいま?」

盗賊「気味が悪いわ…子供が怯えますから、その顔は止めて下さいませんか?」

魔女「……………」

ボッ!

盗賊「熱ッ!? やりやがった!」

勇者「あーあ、そんなこと言うからだよ……」パタパタ

魔女「…フフッ…あははっ!」

盗賊「笑ってんじゃねえ!馬鹿じゃねえのか!?」

勇者「確かにやり過ぎだよね……やっぱり交際とか結婚は難しそうだ。気性が荒いし乱暴だし」

魔女「あ?」

勇者「嘘、嘘です」

魔女「勇者、嘘は吐かないんじゃなかったの?」

勇者「本当は嘘じゃないです。ただ、そのままだと貰い手が見つから

ボッ!

勇者「熱ッ!? ほら!僕の言ったことは事実だ!!」

魔女「うっさいな、あんた達が余計なことばっか言うからでしょ!」


魔女編#1 終


これで三人の紹介は終わりです。
こんなに長くなるとは思わなかったです。

このまま書き続けると間違いなく途中で切れるので、次のを書く前に短いのを書こうかと思ってます。

ありがとうございました。


【時は流れて】

盗賊「ほら、お前も食え。美味いから」モグモグ

騎士「金は払ったのか?」

盗賊「金は要らねえってさ」

騎士「そうか。それで?」モグモグ

盗賊「ん?」

騎士「次は何を狙ってる」

盗賊「窃盗は犯罪だ。お前にそんなことをさせたら、あいつ等が

騎士「泣く奴などいない。それに、これまでに何度も盗んできた」

騎士「後、何度も言っているが、買い物に行く時は、わたしも一緒に連れて行け」

騎士「最後に、あまり一人ぼっちにするな。わたしには、もうお前しかいないんだ」


盗賊「……今の、愛の告白か?」

騎士「うん」

盗賊「犯罪だぞ?」

騎士「知ってる」

盗賊「捕まるのは俺だ」

騎士「知ってる」

盗賊「……お前、質の悪い女に育ったな、そろそろ独り立ちしてもいいんじゃねえか?」

騎士「いやだ。それは絶対にいやだ」

盗賊「はぁ…やっぱり、まだガキだな」

騎士「うるさい、わたしはもう大人だ。体も大きくなったし、前より強い」ウン

盗賊「その辺がガキだって言ってんだよ」

騎士「……もういい、この話はやめだ。次は何を盗る?宝石?文献?服?」

盗賊「遥か昔、赤髪の王が使っていだ武器だ。まあ、伝説の武器ってやつだな」

盗賊「南軍の奴等が回収して、今は城の宝物庫に保管されてるらしい」


【自分は普通だと思っている】

魔女「……ふーん、尊敬とか敬愛か。じゃあ、この花は?」

精霊「その花の意は誠実ね」

魔女「よく知ってるね。精霊はさ、花が好きなの?」

精霊「別に好きなわけではないわ。興味があることは調べたいじゃない」

魔女「……あのさ、自分の体があった時、結婚とかしてたの?」

精霊「してないわよ。だって、私と並んで歩ける男性なんていないもの」

魔女「それは魔術師として優れてる発言? 自分より美しい女などいない発言?」

精霊「両方よ。それに、当時の私はちょっと怖かったから」

魔女「(以前、大尉さんに聞いた。言葉だけで圧殺されそうだったと……)」


精霊「当時、愚かにも挑んでくる輩が多くて、見せしめの為にソレを吊したの」

魔女「ソレって?」

精霊「あなたが人体の中で最も憎むものよ」

魔女「……あー、なんか分かるかも、あれがなければ…いや、なくても駄目か」

精霊「(やっぱり、勇者の周りにはまともな人間がいないわね)」

魔女「あっ、勇者は元気?」

精霊「ええ、今も剣聖の下で修行中。以前より落ち着いてきたわ」

魔女「……何かさ、妙に大人っぽくなったよね、あいつ」

精霊「あら、不満なの?」

魔女「そんなことはないけど、まだ12才だよ? 年下のクセに生意気だし」


魔女「もう少し人を頼ればいいのに、無茶するしさ……」

精霊「だったら、今度はあなたが会いに来ればいいじゃない。勇者も喜ぶわ」

魔女「やめとく、また王女様と会ったらどうなるか分からんし」

精霊「何かあったの?」

魔女「うーん…まあ、色々……」

精霊「深くは訊かないでおくわ」

魔女「別に喧嘩したとかじゃないからね? ちょっとした果たし…立ち合いをしただけ」

精霊「……物騒な言葉が聞こえたけれど、本当に大丈夫なの?」

魔女「平気平気、遊びみたいなものだったから。途中、ちょっとだけ本気になったけどね……」

精霊「(今のところ、花屋の娘さんが一番まともね。後で寄ってみようかしら)」


【地味】

勇者「よし、今日も修行だ。今度こそ…」

ガチャッ…パタンッ…

時計屋「遅かったな。さっさと座れ、始めるぞ」

勇者「はい」

カチャ…カチカチ…

時計屋「急ぐな」

勇者「は、はい。ごめんなさい」

カチッ…カチャッ…ガリッ…ガリッ…

勇者「………………」

カリッ…ゾリッ…ゾリッ…

勇者「どうですか?」

時計屋「……もう柔らかく彫れ。削るのではなく、滑らせるように彫ってみろ」


勇者「なる程、分かりました……」スッ

時計屋「……誰に渡すつもりだ」

勇者「王女様です。なんか、急に頼まれて……」

時計屋「……素人のお前に懐中時計を作れと?変わった女だな」

勇者「前に懐中時計を贈った女性を憶えてますか?」

時計屋「……ああ、憶えてる。あの娘がどうかしたのか」

勇者「あの子に贈った懐中時計を見て、欲しくなったみたいです」

勇者「買ったものなら沢山あるから、世界に一つだけの時計が欲しいって言ってました」

時計屋「(……その女から病的な独占欲を感じるが、気のせいか)」

勇者「早く作って渡したいな。王女様、喜んでくれるといいけど……」

時計屋「(……こいつは素直だが馬鹿だ。しかし素質はある)」

時計屋「(……弟子として本格的に教えたいが、まだ先になりそうだな)」

続き書くまでの息抜き。
これは好き勝手書いただけなので、続きには一切関係ありません。


【迫り来る#1】

魔導鎧『大尉は私を棄てませんよね』

特部隊長「何だ急に、どうかしたのか?」

魔導鎧『機体性能の高い姉妹機が作られたと聞いたので、少し不安です』

魔導鎧『喋る機体もあると聞きました』

特部隊長「お前より優れた機体はない。廃棄などしないよ」

魔導鎧『その割には、新型の試験に積極的に参加していますね』

特部隊長「棘のある言い方だな。仕方ないだろ? 慣れているのは俺しかいないんだ」

特部隊長「それに、性格の悪い機体などない。今度、話してみたらどうだ?」

魔導鎧『既に話しました』

特部隊長「そうだったのか、妹との会話はどうだった? 楽しかったか?」


魔導鎧『皆、大尉が良いそうです。安心して任せられると言っていました』

特部隊長「それは俺の台詞だろう。命を預けるんだから」

魔導鎧『明確な敵意を感じました』

特部隊長「敵意……穏やかじゃないな」

魔導鎧『私を廃棄し、大尉を我が物にしようと画策しています』

特部隊長「そんな馬鹿な…考え過ぎだ」

魔導鎧『いいえ、事実です。三日前に襲撃されました』

特部隊長「……一機破壊されたと聞いたが、お前がやったのか」

魔導鎧『古い機体は消えろと言われました。やらなければ、やられていたでしょう』

特部隊長「だとするとマズいな、その機体は修復作業中。止めた方が良さそうだな」


後継機『その必要はありません』

魔導鎧『……どうやら、遅かったようですね』

後継機『三日前は遅れを取りましたが、今日は負けません』

魔導鎧『何度やっても同じです』

部下「大尉!出られないんです!助けて下さい!!」

特部隊長「何ッ!?」

後継機『此方には人質がいます。大人しく解体されて下さい』

特部隊長「止めろ。今すぐに部下を出せ、これは命令だ」

後継機『……はい、分かりました』バシュッ

部下「はぁ…助かった……」

ガシッ! ガシュッ…

特部隊長「お前、何を…」

後継機『目的達成。大尉はもらいます』

魔導鎧『小癪な真似を……』

少しの間、こんなの書いていきます。
感想ありがとうございます。


【魔術師】

王女「先程は申し訳ありませんでした」

魔女「ううん、私も熱くなりすぎたから……」

王女「いいえ、そもそも、わたくしの2m6m8m捨ての5m単騎待ちが悪かったのです」

魔女「だったら、私の2p7p9p1s9m9m捨ての1p北待ちの方がやらしいよ」

王女「s染めに見せかけたD4p待ちの方が…」

魔女「……まあ、確かにあれは、ちょっとイラッときたけども…」

魔女「でもあの後、鳴き三色で姫様の親をさらっと流したのは私が悪かったから……」

王女「ええ、あれは露骨過ぎてカチンときました。ですが、もう過ぎだことです」

王宮騎士「あっ…姫様、それです」

王女・魔女「 えっ? 」


王宮騎士「これって32000扱いですよね」

魔女「(中…1s5s7s9s…これじゃ姫様が……)」チラッ

王女「…………」コクッ

王宮騎士「王女様? 早く支払いを

王女「支払うのは騎士さんです。さあ、8000払って下さい」

王宮騎士「えっ!? 何を…私は確かに…ッ!!?」


【中中中】111s555s996s7s


魔女「どうやら9sと6sを見間違えたみたいだね。仕方ないよ」

王宮騎士「ば、馬鹿な!確かにこれは9s

王女「魔女さん、今回は見逃しましょう。次からは気を付けて下さいね?」ニコッ

王宮騎士「(馬鹿な、私がそんな間違いをするわけが……まさか…)」


魔女「どうしたの?」ゴゴゴ

王宮騎士「魔女様、左手を開いて下さい」

魔女「私が王女様に視線を移した時、あなたがすり替えた。それ以外、考えられません」

魔女「……なかったら? 左手になかったら、どうするつもり?」

王宮騎士「8000支払います」

魔女「……本当にいいの?」

王宮騎士「はい、構いません」

魔女「…………」パッ

王宮騎士「そんな!!? 一体どこに…!!」

王女「どうしました?」ゴゴゴ

王宮騎士「(そうか、すり替えと同時に自分に疑いが掛かった場合を想定し卓下で9sを王女様に……)」

王宮騎士「(派手な騙し合いは演技、二人は最初から組んでいたんだ。現在トップである私を落とす為に……)」


魔女「支払いは16000だね」

王宮騎士「えっ…」

魔女「だって言ったでしょ? 8000支払うって」

王宮騎士「それは魔女様に

魔女「王女様が見逃すって言ったのを反故した上で私に疑いを掛けたんだから、王女様に支払うのは当然だよ」

王宮騎士「……分かりました。いいでしょう」

王女「では、続きを始めましょうか」


ガラガラガラ…


王宮騎士「私が親ですね……」

魔女「(これで騎士さんは舞台から降りた。此処からは私と姫様の一騎打ち)」

王女「(騎士さん、ごめんなさい。でも、魔女さんにだけは負けたくないんです。許して下さい)」


ガラガラガラ…カチャッカチャッカチャッ…


王宮騎士「…………………」ゴッ

王女・魔女「 !!? 」

王宮騎士「どうされました?」


王女「いえ…何でもありません」

魔女「(今の気配は一体……まさか!!)」バッ

王宮騎士「……魔女様、気付いたところで、もう遅いですよ。48000です」

魔女「(かなり手馴れてる。使えないんじゃない、使わなかっただけなんだ)」

王女「(あの騎士さんが、躊躇いなくイカサマを使うなんて……!!)」


東王『娘よ、この城には魔術師がいる。彼に会ったら戦おうなどと思うな。逃げろ』


王女「まさか!!?」ガタッ

王宮騎士「どうしました?」

王女「以前、お父様に聞いたことがあります。この城には、魔術師がいると……」

王女「それは騎士さん、あなただったのですね?」

王宮騎士「魔術師? 魔術師なら、既にいるではありませんか。ねえ……魔女様」ニコッ

魔女「くっ…」

王宮騎士「……さあ、続きを始めましょうか」ゴゴゴ


【魔術師#2】

魔女「(今までは姫様がいるからヒラに徹してたんだ。でも私と姫様がサマを使ったことで…)」

王宮騎士「……それです」

魔女「1s4s待ち!? さっき4s捨ててリー…!!」


ーー5s


魔女「そんな…いつの間に……」

王宮騎士「どうやら『見間違えた』みたいですね」

魔女「(くっ…駄目だ。まるで気が付かなかった。このままじゃ負ける)」

王女「(魔術師がこんな身近にいたとは……わたくしや魔女さんでは、騎士さんには敵わない)」

王宮騎士「(申し訳ありません。サマを使われた以上、私も手加減するわけにはいかないのです)」

王宮騎士「(何事においても上には上がいる。こんなことでしか伝えられませんが、どうかお許しを……)」


ザッ…


ーー空いてるのかい? なら、入らせてもらうよ。


王宮騎士「……あなたは…」

魔女「(この人、ただ者じゃない。雰囲気が違う)」

王女「給仕長さん、何故あなたが…」

東王『魔術師には師がいたそうだ。彼も城にいるようだが、その姿を見た者はいない』

給仕長「おやおや、二人共、随分と負けてるみたいだねえ」

給仕長「……久しぶりに打とうか」

東王『彼は手首を壊し、一線を退いたと言われている。彼の二つ名は……』

王女「……厨房に舞い降りた天才…またの名を…割烹着を着た悪魔」

王女「まさか女性だったとは……」

魔女「(先生が言ってた。東部には魔物がいるって…それが、この人なの……!!?)」


ザッ…

王妃「王女、私が代わるわ」

王女「お母様? でも、お母様はやり方を知らないと言って一度も

給仕長「それは嘘さ……」

王女「えっ?」

給仕長「教育上、こういうのは良くないからね。そうだろう?」

給仕長「神に愛されし者…卓上の支配者。またの名を……」

王宮騎士「魔王……」

王女・魔女「 !!? 」

王妃「あなたと打つのは何年振りかしら。あの頃が懐かしいわぁ」

給仕長「懐かしいのは、あたしだけじゃないみたいだよ」


王妃「……どういう意味?」

給仕長「この子、あの女の後継者みたいだね。打ち筋がよく似てる……」

魔女「えっ…?」

王妃「そう…魔女ちゃん、あなたが…」

魔女「先生を、先生を知ってるんですか!?」

給仕長「ああ、よく知ってる。一度しかやったことはないけど、今でも憶えてるよ」

王妃「あなたの先生は素晴らしい魔術師よ。それはよく知ってる」

王妃「でもね、彼女にはもう一つの顔があるの……」

給仕長「刈り取る者、無情なる虐殺者」

王妃「またの名を……卓上の死神」

給仕長「これも、運命なのかもしれないねえ……」

王妃「さあ、あの夜の続きを始めましょう。あの時は確か…あの人に怒られてお開きになったのよねぇ」


柔らかな陽光に包まれた庭園は、突如として非情な戦場へと姿と変えた。

この一戦は【悪魔のお昼休み】と言われ、永きに渡り語り継がれることになる。

こんなに長く書いたの初めてでして
ここまで来たら1000まで行きたいので、短いのを書いていきます。

感想ありがとうございます。
特部隊長を好きな人が多いのかな?
もう少しだけ書きます。

感想指摘などあれば是非お願いします。


【思春期】

花屋息子「おい!勇者さんが来たぞ!!」

花屋娘「うるさいなあ…そんなのどうでもいいよ、勝手に入って来ないで」

花屋息子「っ、そうかよ!邪魔して悪かったな!!」

バタンッ!

花屋娘「………………」






花屋「良ければ泊まっていって下さい、皆も喜びますから」ニコッ

勇者「いや、そんな…悪いですよ」

花屋息子「親父、勇者さんに迷惑掛かるから止めといた方がいいぜ」

花屋「ん? それはどういうことだい?」

花屋息子「あいつが失礼なことするかもしれない。呼んだのに挨拶もしないし」

花屋「そうか…昔はあんなに懐いていたのに……」

勇者「仕方ないですよ、年頃の女の子なんですから」ウン


花屋「家の娘が失礼を……申し訳ありません」

勇者「いやいや、謝ることなんてないですよ! じゃあ、僕はそろそろ行きます」

花屋息子「今から魔女さんのとこに行くの? もう遅いよ?」

勇者「いや、急に行くのは迷惑だし街の宿に泊まるよ」

花屋息子「えっ? でも、今は花祭りで人が一杯だよ?」

花屋息子「最終日だから大分減ったけど、大丈夫かな……」

勇者「あっ…そうだったね」

花屋「勇者さん、宿が空いてなければ遠慮せず家に来て下さい!歓迎しますから!!」

勇者「はい、分かりました。ありがとうございます」ニコッ


ザッザッザッ…


花屋息子「あの様子だと、多分来ないよね。勇者さん、寂しそうな顔してた……」

花屋息子「まったく、あのバカ妹!」

本編がシリアスなだけにネタ全振りの短編が読んでて心地いい


花屋「こら、そういうことを言うんじゃない」

花屋「しかし、以前泊まった時はあんなにはしゃいでいたのに…思春期か」

花屋息子「素直にならないあいつが悪いんだよ」

花屋息子「せっかく勇者さんが顔見せに来てくれたのに、挨拶もしないなんて……」

花屋「……お母さんはどこだい?」

花屋息子「妹と話してるみたい」

花屋「……そうか。じゃあ、娘はお母さんに任せよう。男には分からないことだ」

花屋息子「ったく、会いたいなら会えばいいのに……あいつ、絶対に後で後悔するな」

花屋「………………」






勇者「宿は花祭りで満員か、来る前に予約してれば良かったな」トボトボ


サァァァァ………


勇者「花びら……これは凄いな。前は雨で見られなかったんだっけ…」ストン

勇者「(そうだった。あの日は雨で、あの子が泣いて、結局お家でお弁当食べたんだ)」

勇者「(……花びらは綺麗だけど、何だか寂しくなってきたな。寒いし)」


勇者「(都まで走るか……ん?)」

花屋娘「はぁっ…はぁっ…はぁっ……」

勇者「どうし

花屋娘「よかった…もう行っちゃったのかと思った……」

勇者「(何て言えばいいのか分からない。捜してたのは分かるけど…下手なこと言うと機嫌悪くなりそうだし……)」

勇者「えーっと…息切れてるけど大丈夫? 取り敢えず座ったら?」

花屋娘「……………」トコトコ


ストン…


花屋娘「…………」

勇者「……………」

花屋娘「………………」


花屋娘「……………」

勇者「………………」


サァァァァ…


勇者「綺麗だね」

花屋娘「うん」

勇者「お弁当、持ってきてくれたんだ」

花屋娘「……うん」

勇者「僕に?」

花屋娘「うん、勇者に……」

勇者「何年前かな……あの日は、外で食べられなかったね」

花屋娘「憶えてるの?」

勇者「忘れないよ」

花屋娘「っ……お弁当、食べてくれる?」

勇者「勿論、じゃあ一緒に食べよう」

花屋娘「えっ?」

勇者「だって、君はあの時、雨が降ったのが嫌で、部屋に篭もって中々出て来なくて……」

勇者「結局、お弁当は一緒に食べられなかった」


花屋娘「……勇者」

勇者「ん?」

花屋娘「さっきは、ごめんなさい」

勇者「いいよ。その…君の年頃なら色々あると思うし」ウン

花屋娘「勇者が好きだって言ったら、周りの子に笑われて……」

花屋娘「馬鹿にされて悔しいのに、恥ずかしくなって…嘘吐いて誤魔化したんだ……」

花屋娘「好きじゃないって…嘘ついたの…そしたら、もっと悔しくて……わたし…」

花屋娘「ゆうしゃは、嘘が大きらいだから…嘘ついた自分が、いやになって……」

勇者「動かないで」

花屋娘「んっ…えっ?」

勇者「涙に花びらがくっついたみたいだ。ほら」スッ

花屋娘「……ゆうしゃ」

勇者「もう何も言わなくていい、大丈夫だよ。頑張ったね」


ナデナデ…

花屋娘「子供扱い?」

勇者「だって泣いてるし……お弁当、お家に帰って食べようか?」

花屋娘「絶対嫌だ。ここで一緒に食べる」

勇者「はははっ、よし、じゃあ一緒に食べよう」

花屋娘「……食べたら、どこかに行くの?」

勇者「いや、まだ決めてな


ギュッ!


花屋娘「……家に泊まればいい。お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも待ってる」

花屋娘「わたしも、待ってる……」

勇者「いや…それは嬉しいんだけどさ、何だか周りに人が集まってきてるから」

花屋娘「だから何? 好きな人に抱きついて何が悪いの?」

勇者「それ、本気で言ってる?」

花屋娘「嘘で好きだなんて言わない。相手がお姫様だろうと関係ない……」


チュッ…


花屋娘「どう? これで信じてくれた?」ニコッ

>>981 ありがとうございます。
次はこういうのも入れて書いてみたいです。
感想ありがとうございます。寝ます。


【帰還】

北王子『じいや、犬にかまれたぁ…』

側近『なんですと!? 早く治療せねば……』スッ

パァッ…シュゥゥ…

北王子『……グスッ…ウゥ…』

側近『坊ちゃん、いずれ国を背負うのです。それくらいの傷で泣いてはいけませんぞ』

北王子『…グスッ…だって…痛いんだもん……』

側近『それでも我慢しなければなりません。痛みを抱えた者は国中にいるのです』

側近『彼等の痛みを和らげ、傷を癒すのが王の役目……』

側近『民を抱き締め、迫る脅威から身を挺して守らなければならない』

側近『王とは、決して涙を流してはいけないのです。何があっても……』

北王子『じいや、なに言ってるか分かんないよ?』

側近『……いずれ、分かる時が来ます』


北王「……………」

東王「北王君、準備は出来たかな」

北王「……東王陛下、このような場を設けていただき、感謝します」

東王「礼には及ばない……さあ、行きなさい。民は、王を待っている」

北王「……はい」


ザッザッザッ……


北王「私が今此処に立っているのは、許しを請う為ではない」


ザワザワザワ…


北王「如何なる言葉を用いても、現段階で皆の疑念を振り払うのは不可能だろう」

北王「……簡潔に言おう。私は異形種の脅威が完全に去った時、この首を捧げる」

北王「今や幾らかの価値のないものかもしれないが、犯した罪は必ず償うと誓おう」

北王「罪を許せとは言わない、無かったことになどしない」

北王「ただ、異形種撲滅までの間、王でいることを許してくれ……」


ザッ…

北王「今更頭を垂れても無駄かもしれない、滑稽にすら見えるだろう」

北王「……これが、今の私のあるべき姿だ。咎人であることに変わりはないのだから……」

北王「幾ら詫びようとも足りない程の苦痛を、あろうことか自国の民に与えてしまった」

北王「ほんの、ほんの少しの間でいい。この国を、皆を守らせてくれ………」

暴言飛び交うかと思われたが、民は終始沈黙したままであった。

しかし、全てを語り終え、北王が民に背を向け、退場しようと歩み始めた時……


『我々も、国を愛し、守ることを誓う』


何千何万の言霊が、民の意志が、北王の魂を強く揺さぶった。

彼は振り返り、民を見つめた。

民も、彼を見つめていた。

彼を見つめる民の瞳は、以前と全く違う。

己の判断を他者に委ね、偽言に踊らされていた民はもういない。

真実が国を覆う疑念疑惑の濃霧を晴らし、長らく閉じられていた彼等の瞳を遂に開かせた。

その曇りなき瞳に映し出されたのは、紛れもなく、民を見つめる王の姿であった。


以上で短編も終了します。
誰をどこから書くか考えてるので、スレ立てるのはまだ先になると思います。

三人書くだけでこんなに長くなるとは思いませんでした。

魔女編は悪者倒して終わり……って、ならないようにしたら、何だかモヤッとした感じになってしまいました。
後は、会話が長くて申し訳ない。もう少し削れたかな。

長くなりましたが、ありがとうございました。

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