―――――事務所―――――　


藤居朋「あれー？　ほたるちゃん、遅いね……？」

緒方智絵里「はい……。せっかく、ユニットとしての初レッスンの日なのに……」

朋「うーん……、何かあったのかな？」

智絵里「昨日、夜道を襲った時は元気だったんですけど……」

朋「またやったの！？」

智絵里「まだ芳しい成果は得られてなくて……。ごめんなさいっ」

朋「謝る内容も相手も的外れなんだけど」

智絵里「電話、してみましょうか？」

朋「前日襲った相手に普通に電話するってメンタルエグイわね」

ｶﾞﾁｬ
白菊ほたる「おはよう……ござい……ます……」ﾌﾗｯ

朋「あ！　ウワサをすれば……って、だ、大丈夫！？」

智絵里「週末の楓さんみたいな顔の赤さと足取りの怪しさだねっ」

朋「例え方」

ほたる「遅れて……すみません……さあ、レッスンに……」

朋「いやいやいやいや！　ダメでしょ！」

智絵里「ちょっとおでこ……あ、熱い……！」

朋「た、体温計！」ｻｯ

ほたる「……」

ﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟ

朋「、58度！？」

智絵里「あ、昨日、ダッシュ後の茜ちゃんが使ってたので、それで壊れたのかもしれません」

朋「茜ちゃん！！！」

朋「べ、別のやつ！」

ほたる「……」

ﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟ

朋「42度……！」

智絵里「人間のたんぱく質の限界って聞いたことがあります……」

朋「ほたるちゃん！　今日は帰ろう！　トレーナーさんには言っておくから！」

ほたる「だ、大丈夫……です……YO……」

朋「そういうのいいから！」

智絵里「お前はガス欠！　それゆえ発熱！」

智絵里「今すぐ布団へ　絶対安静！」

智絵里「家まで送るぜ　責任持って！」

朋「ほらなんかDJが目覚めちゃった！！！」

朋「っていうか病院行った方がいいわよね！？」

ほたる「いえ……、だいたい、翌日には……治るので……」

朋「外傷にだけでなく免疫も強いの！？」

ほたる「『（病気に）罹りやすく（ウイルスを）殺しやすい』体質らしいです……」

朋「世紀末みたいな体内じゃない……」

朋「はい……、ほたるちゃんが体調を……、はい……では中止で……。わかりました」
ﾋﾟｯ

朋「レッスン、中止にしてもらったから！　じゃあ寮まで送るね？　肩貸すよ！」

ほたる「ご迷惑を……おかけしまむら」

朋「大丈夫！？」

智絵里「熱で頭がやられたのかな？」

朋「智絵里ちゃん！！」

―――――寮への道―――――


ほたる「40度までなら……悟られずに……レッスンできるんですけど……」

朋「それはさすがに言わなきゃ……」

朋（って、ほたるちゃんに肩を貸してるってことは、あたしにも植木鉢が落ちてきて当たるかも……！？）

朋（嗚呼……あたしも遂に植木鉢デビュー！）

朋（……）

朋（……なんて、ちょっと失礼だったかな）

智絵里「その時、空から不思議な植木鉢が落ちてきたのです」

朋「心を読んだ上でユーモアあふれるコメント出すのやめて！！！」

智絵里「（落としたのは）ダレダー、（当たるのは）ダレナンダー！」

朋「智絵里ちゃん！！」

ほたる「」ｶﾞｼｬｧｧｧｧｧｧｧﾝ!!!!!!!!!!!!!

朋「ほたるちゃん！！！！！」

ほたる「ちょっと……すっきり……したかも……」

朋「植木鉢は治療法か何かなの！？」

智絵里「あと5発くらい当たれば治るかな？」

朋「故意に当てるものではないから！」

―――――寮・ほたるの部屋―――――


ほたる「どうぞ……」

朋「お邪魔します」

智絵里「邪魔するなら帰ってや～」

朋「来客側のセリフではないから！」

ほたる「ほな……さいなら……」ｶﾞﾁｬ

朋「なんでほたるちゃんも乗っちゃうの！」

智絵里「（この世から）ほなさいなら？」

朋「緒方ァ！！！！！」

朋「はい！　横になって！」

ほたる「はい……」

朋「買い物行くけど、何か食べたいものとかある？」

ほたる「ビックマックで」

朋「ちょっとは病人らしさ出して！！」

智絵里「ご一緒にポテトはいかがですか？」

朋「抱き合わせないで！！！」

朋「何かあったら電話してね！　すぐ戻るから」

智絵里「あれ？　ほたるちゃんのスマホ、前に爆発してたような……」

朋「あ！　そうだった！」

ほたる「いえ……、つい最近、修理が終わったので……」

朋「よかった……」

ほたる「これがそのス」ﾄﾞｶﾞｧｧｧｧｧｰｰｰｰｰｰｰｰﾝ!!!!!!!!!!!!!

朋「また！！！？？？」

智絵里「じゃあ、行きましょうかっ！」

朋「目の前の惨事にはノータッチで！？」

―――――ドラッグストア―――――


朋「ほたるちゃん、大丈夫かな……」

智絵里「あれくらいでは倒せませんよっ」

朋「なんであれで普通に意識があるんだろうね」

智絵里「でも白菊あふろちゃんになってましたね」

朋「字にするとちょっとカワイイけども」

朋「とりあえずは飲み物よね」

智絵里「とりあえず生でっ」

朋「買えないし買えたとしてもだし！」


朋「ポカリを……」

智絵里「8ダース」

朋「業者か！！」

朋「あとは、風邪薬と、ゼリーと……」

智絵里「最悪の場合に備えてお線香を……」

朋「最悪なのは智絵里ちゃんの発想だからね！？」

智絵里「えへへ……」

朋「照れる要素は皆無だったと思うんだけど？」

―――――寮・ほたるの部屋―――――


朋「戻ったわよー」

ほたる「あ……おかえりなさい……」

朋「ほたるちゃん、辛かったら寝ててもよかったのに」

ほたる「アフロだと寝にくくて……」

朋「そういう理由！？」

智絵里「あふろちゃん！！！」ﾋﾞｼｯ

朋「智絵里ちゃんはなんなの！？」

ほたる「……」

朋「ど、どうかした？　やっぱり病院行く？」

ほたる「いえ……」

朋「？」

ほたる「看病してもらえるって、幸せだな……って……」

朋「ほたるちゃん……」

ほたる「私、……よく体調を崩して、……すぐ治るんですけど、やっぱり、病気の間は寂しかったりして……」

ほたる「でも、こうして……朋さんと智絵里さんが看病してくれて……」

ほたる「病気も……悪くないかな……、なんて……えへへ……」

朋（か、かわいい……！）

朋（というか42度の熱が出て植木鉢が降ってきてスマホが爆発しても幸せって言えるメンタル……）

朋「えっと……、そろそろ帰るけど、ほんとに大丈夫？」

ほたる「はい……！　心なしか、元気になってきた気がします……！」

智絵里「万全のほたるちゃんを倒さないと意味がないからねっ。早く元気になってね！」

朋「目的」

ほたる「42度ならちょうどいいハンデですけどね……」

朋「ほたるちゃんはこの話の時だけ好戦的すぎない！？」

朋「お、お邪魔しました……」

智絵里「邪魔するなら」

朋「それはもういいから！」

ほたる「ほな……」ｶﾞﾁｬ

朋「寝てて！！！」

智絵里「今のが“天丼”ですねっ！」

朋「コントじゃないんだからそういうのいらない！」

智絵里「『結局わたしも朋さんも風邪がうつっちゃって、ほたるちゃんが“私のせいで……”って言って終わり』というオチは見えてますけどね！」

朋「締め方にハードルを求めないで！！！」

―――――翌日・事務所―――――


朋（結局、風邪、もらわなかったな……）

ｶﾞﾁｬ
智絵里「おはようございますっ！」

朋「あ、智絵里ちゃん。体調は大丈夫？」

智絵里「はいっ！　ここ1か月で最高と言われた昨日にも劣らない体調です！」

朋「ワインか」

朋「ほたるちゃん……、まだ来ないわね……」

智絵里「まだ時間はありますから、寮まで迎えに行きましょうか？」

朋「そうね、そうしよっか」


―――――寮への道―――――


朋「さて……、って、あ！　横断歩道の向こうにいるの、ほたるちゃんじゃない？」

智絵里「あ！　本当ですね！　よかった……」

朋「あ、手降ってる、かわいいなぁ」ﾌﾘﾌﾘ

智絵里「あ、青になった瞬間、走って来てますね」

朋「ふふっ、あんなに急がなくても」

ｷｬｰ　ﾄﾗｯｸｶﾞｰ!!!!!!!!
ｼﾝｺﾞｳﾑｼﾀﾞｰ!!!!!!!

朋「……え？」

ｽﾞｶﾞｧｧｧｧｧｧｧｧｧﾝ!!!!!!!!!!!!!

朋「ほたるちゃん！！！！！」



おわり